(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137605
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】フルクローズドループスマート細胞培養システム
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240927BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/34 Z
C12M1/34 D
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134044
(22)【出願日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】112110962
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】519104765
【氏名又は名称】揚朋科技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】楊 宏智
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB01
4B029FA10
4B029FA12
4B029FA15
4B029HA05
4B029HA09
(57)【要約】
【課題】自動化されたフルクローズドループスマート細胞培養システムの提供。
【解決手段】フルクローズドループスマート細胞培養システム1は、細胞培養装置2と統合制御手段4を備える。細胞培養装置2は、培養手段6と検知手段7を有する。培養手段6は、培地を貯蔵する培地貯蔵部61と、培養対象の細胞が混入された培養液を収容する細胞培養部64と、培地貯蔵部61からの培地を細胞培養部64に提供するように構成された第1のポンプ62と、を有する。検知手段7は、検測モジュール72と、細胞培養部64から培養液を検測モジュール72に供給する第2のポンプ71とを有し、検測モジュール72の培養液に対する検測結果を出力する。統合制御手段4は、細胞培養装置2に電気的に接続し、検知手段7からの検知信号を受信して検知信号に基づいて制御パラメータを生成して細胞培養装置2に送信する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養装置と統合制御手段とを備えたフルクローズドループスマート細胞培養システムであって、
少なくとも一つの前記細胞培養装置は培養手段と検知手段とを有し、
前記培養手段は、培養対象の細胞が混入されていない液状の培地を貯蔵する培地貯蔵部と、加熱部と、液状の培地に培養対象の細胞が混入された培養液を収容する細胞培養部と、前記培地貯蔵部から前記培地を前記加熱部に提供して加熱した後、前記細胞培養部に提供するように構成された第1のポンプと、を有し、
前記検知手段は、検測モジュールと、前記細胞培養部から前記培養液を前記検測モジュールに供給する第2のポンプとを有し、前記検測モジュールの前記培養液に対する検測結果を出力するように構成されており、
前記統合制御手段は、前記細胞培養装置に電気的に接続し、前記検知手段からの検知信号を受信する上、前記検知信号に基づいて制御パラメータを生成して前記細胞培養装置に送信し、
前記細胞培養装置は、前記統合制御手段から受信した前記制御パラメータに基づいて、前記第1のポンプにより前記加熱部を経由して前記細胞培養部に提供する前記培地の提供量を制御することを特徴とするフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項2】
前記統合制御手段に電気的に接続されるマイクロ注射手段を更に備え、
前記細胞培養装置の前記検測モジュールは、前記培養液が通過できるマイクロ通路を有するマイクロ流体チップと、前記マイクロ通路を通過する前記培養液に対して観察を行うことで、前記培養液の中の前記細胞の数を計算する光学部材とを有し、
前記第2のポンプは、前記細胞培養部から前記培養液を前記マイクロ流体チップに提供し、
前記マイクロ注射手段は、前記マイクロ通路に連通し、前記培養液を前記マイクロ通路内に送り込む第1のマイクロ注射器を有することを特徴とする請求項1に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項3】
前記マイクロ注射手段は、染色剤を収容する染色剤収容槽と、前記染色剤収容槽及び前記マイクロ通路に連通すると共に、前記染色剤収容槽からの染色剤を前記マイクロ通路に提供することにより、前記マイクロ通路内における前記培養液を染色する第2のマイクロ注射器と、を有することを特徴とする請求項2に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項4】
前記細胞培養装置の前記検知手段は、
緩衝液を収容し、且つ前記第2のポンプと連通する緩衝液貯蔵部と、前記緩衝液貯蔵部と前記第2のポンプとの連通状態及び前記第2のポンプと前記マイクロ流体チップとの連通状態を制御する検測バルブモジュールとを更に有し、
前記統合制御手段は、前記緩衝液貯蔵部から前記検測バルブモジュールを経由して前記緩衝液を前記マイクロ流体チップに提供する前記第2のポンプの作動を制御し、
前記緩衝液を前記マイクロ通路の中に送り込んで、前記検測バルブモジュールと前記マイクロ流体チップの前記マイクロ通路とを洗浄することを特徴とする請求項2に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項5】
前記細胞培養装置の前記培養手段は、前記統合制御手段に電気的に接続し、前記培地貯蔵部の周囲の温度と、前記細胞培養部の周囲の温度及びCO2濃度と、前記培養液のpH値との検知及び制御を行う環境管理モジュールを更に有することを特徴とする請求項1に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項6】
前記細胞培養装置の前記細胞培養部は、前記培養液を収容する細胞培養容器と、前記細胞培養容器を揺さぶることにより、前記細胞培養容器に収容される前記培養液の中の前記細胞の分布を均一にする振とうモジュールと、を有することを特徴とする請求項1に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項7】
前記細胞培養装置の前記培地貯蔵部は、前記培地を収容する第1の容器を有し、前記加熱部は前記第1の容器から提供される前記培地を収容して加熱する加熱容器を有することを特徴とする請求項1に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【請求項8】
前記第1のポンプと前記第2のポンプはいずれもチューブポンプであることを特徴とする請求項1に記載のフルクローズドループスマート細胞培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物学の装置に関し、特に、フルクローズドループスマート細胞培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の細胞培養技術では、細胞培養装置から細胞を人手により抽出してその状況や数量を確認し、確認した情報に基づいて培地の追加や更新を行う。しかしこの人手による作業は何回も繰り返して行う必要があるため手間がかかる上、細胞を培養する環境が汚染される恐れもある。
【0003】
この問題点を改善すべく、例えば特許文献1には、培地供給手段からの液体培地が収容される培養手段と、細胞の増殖に必要な空気を提供する空気提供手段と、培養手段に必要な圧力環境を提供する圧力制御手段と、培養手段における健康な生細胞の数量を検知する細胞数検知手段と、を有するように構成された細胞培養装置が開示される。
【0004】
しかし、この従来の技術では、細胞数検知手段により生細胞の数量を検知した後に、検知結果に基づいて液体培地を自動的に補給するといった仕組みはなく、利便性に欠ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明は自動化されたフルクローズドループスマート細胞培養システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点に鑑みて、本発明は、細胞培養装置と統合制御手段とを備えたフルクローズドループスマート細胞培養システムであって、
少なくとも一つの前記細胞培養装置は培養手段と検知手段とを有し、
前記培養手段は、培養対象の細胞が混入されていない液状の培地を貯蔵する培地貯蔵部と、加熱部と、液状の培地に培養対象の細胞が混入された培養液を収容する細胞培養部と、前記培地貯蔵部からの前記培地を前記加熱部に提供して加熱した後、前記細胞培養部に提供するように構成された第1のポンプと、を有し、
前記検知手段は、検測モジュールと、前記細胞培養部から前記培養液を前記検測モジュールに供給する第2のポンプとを有し、前記検測モジュールの前記培養液に対する検測結果を出力するように構成されており、
前記統合制御手段は、前記細胞培養装置に電気的に接続し、前記検知手段からの前記検知信号を受信する上、前記検知信号に基づいて制御パラメータを生成して前記細胞培養装置に送信し、
前記細胞培養装置は、前記統合制御手段から受信した前記制御パラメータに基づいて、前記第1のポンプにより前記加熱部を経由して前記細胞培養部に提供する前記培地の提供量を制御することを特徴とするフルクローズドループスマート細胞培養システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、検知手段が検知した細胞の数量などの状態に基づいて、第1のポンプを駆動して培地貯蔵部から培地を細胞培養部に供給するので、外部からの細胞培養装置に対する介入を減らして自動化されたフルクローズドループスマート細胞培養システムの提供を実現し、人力によるコスト増加及び汚染のリスクを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のフルクローズドループスマート細胞培養システムの実施例を示す斜視図である。
【
図3】同実施例の構成が示されるブロック図である。
【
図4】同実施例の細胞培養装置におけるマイクロ流体チップの接続関係が示される説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1~
図3に本発明の実施例が示されており、図示のように、本発明のフルクローズドループスマート細胞培養システム1は、3つの細胞培養装置2と、マイクロ注射手段3と、統合制御手段4と、タッチパネル5とを備える。各細胞培養装置2はいずれも1種類の細胞を培養できるように構成されており、そして本発明のフルクローズドループスマート細胞培養システム1が培養できる細胞としては、例えばNK(ナチュラルキラー)細胞やT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
各細胞培養装置2はいずれも培養手段6と、検知手段7とを備える。培養手段6は、統合制御手段4に電気的に接続されていると共に、培地貯蔵部61と、第1のポンプ62と、加熱部63と、細胞培養部64と、環境管理モジュール65とを有する。培地貯蔵部61は培養対象の細胞が混入されていない液状の培地(図示せず)を収容する第1の容器611を有する。加熱部63は第1の容器611に連通すると共に、第1の容器611から供給される未加熱の培地を一時的に収容する加熱容器631と、加熱容器631の例えば両側にそれぞれ配置される2つの加熱モジュール(図示せず)とを有する。細胞培養部64は、加熱容器631に連通して加熱容器631から供給される加熱済みの培地及び培養対象の細胞を収容する細胞培養容器641と、細胞培養容器641を保持しながら揺さぶることによって、細胞培養容器641に収容される培養対象の細胞の分布を均一にする振とうモジュール642と、を有する。なお、以下では、細胞培養容器641において液状の培地に培養対象の細胞が混入された液体を培養液と呼称する。
【0012】
環境管理モジュール65は、培地貯蔵部61に配置されて培地貯蔵部61の周囲の温度を検知する温度センサー(図示せず)と、培地貯蔵部61の周囲の温度を調節する温度制御部(図示せず)と、細胞培養部64に配置されて細胞培養部64の周囲の温度を検知するもう1つの温度センサー(図示せず)と、細胞培養部64の周囲の温度を調節するもう1つの温度制御部(図示せず)と、細胞培養部64に配置されて細胞培養部64の周囲の二酸化炭素や他の気体の濃度を検知する気体センサー(図示せず)と、細胞培養容器641内に配置されて培養液のpH値を検知するpH計(図示せず)と、を有する。環境管理モジュール65はこのように、培養環境が培養対象の細胞に適するように培地貯蔵部61の周囲の温度と、細胞培養部64の周囲の温度と気体成分と、培養液のpH値を監視、調整する。
【0013】
具体的に説明すると、例えば培地貯蔵部61の環境温度としては4℃±2℃が好ましく、細胞培養部64の環境温度としては37℃±1℃が好ましく、細胞培養部64の周りのCO2の濃度は5%±1%が好ましく、そして培養液のpH値としてはpH7.0~pH7.6に設定することが好ましい。また、環境管理モジュール65は検出した培地貯蔵部61及び細胞培養部64の温度と気体成分とpH値などのデータを統合制御手段4に送信し、統合制御手段4はこの検知結果に基づいて環境管理モジュール65及び他に必要な装置の作動を制御する。
【0014】
この実施例において、第1のポンプ62としてチューブポンプを採用し、第1の容器611から培地を加熱容器631に供給し、加熱モジュールで加熱容器631内に収容される培地を加熱してから、第1のポンプ62で加熱済みの培地を加熱容器631から細胞培養部64の細胞培養容器641に供給する。そして振とうモジュール642で細胞培養容器641を揺らして新しく供給される培地と細胞培養容器641内にあった検体細胞を均一に混合させると共に、細胞培養容器641に収容される培養対象の細胞の分布を均一にする。
【0015】
図2~
図4に示されるように、検知手段7は、統合制御手段4に電気的に接続すると共に、第2のポンプ71と、検測モジュール72と、緩衝液貯蔵部73と、検測バルブモジュール74と、廃液貯蔵槽75と、を有する。
【0016】
この実施例において、第2のポンプ71としてチューブポンプが採用され、細胞培養容器641から培養液を検測モジュール72に供給する。検測モジュール72は、マイクロ流体チップ76と光学部材77とを有する。マイクロ流体チップ76は、培養液が通過できるマイクロ通路764を囲み、そしてマイクロ通路764は、第1の入口761を経由して第2のポンプ71に連通し、第2の入口762及び第3の入口763を経由してマイクロ注射手段3に連通し、排出口765を経由して廃液貯蔵槽75に連通する。
【0017】
光学部材77はマイクロスコープ771と、カメラ772と、カメラ772に電気的に接続するイメージプロセッサ773と、を有する。
【0018】
緩衝液貯蔵部73は、第2のポンプ71に連通し、且つ、緩衝液(図示せず)が収容される緩衝液容器731を有する。
【0019】
検測バルブモジュール74は、緩衝液容器731と第2のポンプ71との連通状態、及び第2のポンプ71とマイクロ流体チップ76との連通状態を制御するように構成される。
【0020】
ちなみに、この実施形態において、各細胞培養装置2が有する第1の容器611と加熱容器631と細胞培養容器641と緩衝液容器731とに関しては、袋状もしくはケース状、皿状に構成することが可能であり、すなわち、収容対象の液体を適切に収容出来れば、その形状については限定されない。
【0021】
マイクロ注射手段3は統合制御手段4に電気的に接続すると共に、各細胞培養装置2のマイクロ流体チップ76の第2の入口762に連通する第1のマイクロ注射器31と、第1のマイクロ注射器31に連通すると共に、緩衝液(図示せず)が収容される緩衝液槽32と、各細胞培養装置2のマイクロ流体チップ76の第3の入口763に連通する第2のマイクロ注射器33と、第2のマイクロ注射器33に連通すると共に、染色剤(図示せず)が収容される染色剤収容槽34と、統合制御手段4に電気的に接続する駆動モータ35と、を有する。駆動モータ35はねじ機構を利用して第1のマイクロ注射器31及び第2のマイクロ注射器33を同時に駆動することにより、第1のマイクロ注射器31と第2のマイクロ注射器33は緩衝液槽32からの緩衝液と染色剤収容槽34からの染色剤をそれぞれ同時にマイクロ通路764内に供給する。
【0022】
各細胞培養装置2に対し、統合制御手段4は第2のポンプ71を起動し、マイクロ流体チップ76の第1の入口761を経由して細胞培養容器641から一部の培養液をマイクロ通路764内に供給してから、駆動モータ35を利用して第1のマイクロ注射器31を駆動し、第2の入口762を経由して緩衝液槽32からの緩衝液をマイクロ通路764に供給する上、マイクロ通路764内の培養液を送り込む。また、駆動モータ35により同時に駆動される第2のマイクロ注射器33は第3の入口763を経由して染色剤収容槽34の中の染色剤をマイクロ通路764内に供給することで、培養液の中に含まれる培養対象である細胞を染色して観察しやすい状態にする。
【0023】
カメラ772はマイクロスコープ771を介してマイクロ通路764内の培養液を撮影して細胞イメージデータをいくつか生成してイメージプロセッサ773に出力する。イメージプロセッサ773はこれらの細胞イメージデータに対してイメージ認識を行うことで検知結果を生成し、この検知結果を反映する検知信号を統合制御手段4に出力する。ここで、イメージプロセッサ773がこれらの細胞イメージデータに対して実行するイメージ認識とは、マイクロ通路764の中の培養液に含まれる培養対象の細胞の状態及び数量を観察することで、培養対象の細胞の生存率と、密度と、生細胞の数量などが含まれる検知結果を生成することである。
【0024】
それから、統合制御手段4は引き続き駆動モータ35を制御して第1のマイクロ注射器31及び第2のマイクロ注射器33を駆動し、緩衝液及び染色剤をそれぞれ同時にマイクロ通路764内に供給し、培養液が排出口765から廃液貯蔵槽75に入るまで培養液をマイクロ通路764内に更に送り込む。
【0025】
ここで、駆動モータ35からの駆動力を調整して第1のマイクロ注射器31及び第2のマイクロ注射器33が緩衝液及び染色剤をマイクロ通路764内に提供するスピードを調整することにより、培養液のマイクロ通路764内における進行速度を制御することができるので、カメラ772のマイクロ通路764に対する撮影が行いやすくなる。
【0026】
統合制御手段4は細胞培養装置2からの検知信号を受信し、検知信号に含まれる検知結果及びあらかじめに設定された処理ルールに基づいて制御パラメータを生成し、この制御パラメータが含まれる制御信号を対応する細胞培養装置2に送信し、細胞培養装置2はこの制御パラメータに基づいて第1のポンプ62を駆動し、第1の容器611から加熱容器631を経由して細胞培養容器641に供給される培地の追加量を調整する。
【0027】
ここでの処理ルールに関しては、いくつかの制御モードが選択可能になっており、例えば、予めに設定される対策テーブルに基づいて細胞培養容器641に追加される培地の追加量を算出するか、あるいはユーザーの判断に従って設定する等が可能である。対策テーブルの例としては、例えば以下の表1を参考することができる。すなわち、細胞培養容器641の中の培養液の体積が10ml、培養する対象の細胞の数が未知数である場合、第2のポンプ71により細胞培養容器641から一部の培養液を検測モジュール72に供給して検測を行ったところ、細胞培養容器641の中の培養液に2000000個の培養対象の細胞が含まれるとの検知結果が得られると、統合制御手段4はこの検知結果に基づいて、細胞培養容器641内の培養液の量を20mlに戻すためには、培地貯蔵部61から細胞培養容器641に追加すべき培地の追加量として10mlを算出し、従って第1のポンプ62を制御して第1の容器611から10mlの培地を細胞培養容器641に提供して混合させる。
【0028】
【0029】
統合制御手段4は細胞培養装置2からの検知信号を受信すると、対応する細胞培養装置2の第2のポンプ71を駆動して緩衝液容器731から検測バルブモジュール74を経由して緩衝液をマイクロ流体チップ76の第1の入口761に注入し、緩衝液を排出口765から廃液貯蔵槽75に放出するまでマイクロ通路764内に流し込む。従って、各細胞培養装置2は緩衝液容器731からの緩衝液をマイクロ通路764の中に送り込んで、検測バルブモジュール74及びマイクロ通路764の中に残った培養液を共に排出することでこれらの洗浄することができるので、次の検知に影響を与えることを防ぐことが出来る。
【0030】
細胞培養装置2から検知信号を受信した後、統合制御手段4は細胞培養装置2に対して培地を自動的に追加すると共に、検測バルブモジュール74及びマイクロ通路764の洗浄作業を同時に実行することができる。
【0031】
この実施例において、フルクローズドループスマート細胞培養システム1が有する3つの細胞培養装置2は同じ筐体の中に整合されており、そしてこれらの細胞培養装置2がそれぞれ有する培地貯蔵部61と細胞培養部64は、同じ場所にまとめられている。
【0032】
また、フルクローズドループスマート細胞培養システム1における3つの細胞培養装置2がそれぞれ培養する細胞は、種類が同じであってもよいし、異なっていてもよい。そして種類が同じ細胞に対しても、異なる培養条件で培養することも可能である。また、各細胞培養装置2に対する制御状況も同じである必要はなく、例えば、1つの細胞培養装置2に対して細胞の数の検出を行う際において、ほかの細胞培養装置2に対しては培地の追加と検測バルブモジュール74及びマイクロ通路764の洗浄を実行することも可能である。
【0033】
タッチパネル5は統合制御手段4に電気的に接続し、各細胞培養装置2における培地貯蔵部61の環境温度や、細胞培養部64の環境温度、CO2や他の気体の濃度、そして細胞培養容器641に収容される培養液のpH値などの情報、またはカメラ772により撮影されるマイクロ通路764における培養液のイメージデータなどを表示する。これにより使用者は細胞の培養状況を監視することが可能となる。また、使用者はタッチパネル5を介して統合制御手段4に対し、各細胞培養装置2に対応する処理ルールや、培養環境のパラメータを設定することができる。この他、統合制御手段4はインターネットなどの通信手段を通じて、リモート制御に対応することも可能である。これにより使用者がタッチパネル5にアクセスできない場合であっても、例えばスマートフォンなどのモバイルデバイスを通じて適切な対応を行うことができる。
【0034】
以上をまとめると、本発明のフルクローズドループスマート細胞培養システム1は、各細胞培養装置2を用いることにより培養手段6と検知手段7とを整合することで、培養手段6の細胞培養容器641の中で細胞を培養することが可能となると共に、検知手段7の第2のポンプ71で細胞培養容器641の中の一部の培養液をマイクロ流体チップ76に提供し、第1のマイクロ注射器31と第2のマイクロ注射器33で培養液のマイクロ通路764における移動を制御する上、カメラ772で培養液に対して撮影し、イメージプロセッサ773で培養液に含まれる細胞のデータに対応する検知結果を生成し、さらに、統合制御手段4を利用して検知結果を判断して処理ルールに基づいて制御パラメータを生成するので、この制御パラメータに基づいて第1のポンプ62を制御して第1の容器611から細胞培養容器641に追加される追加量を調整することができる。したがって、本発明のフルクローズドループスマート細胞培養システム1は外部からの細胞培養装置に対する介入を減らして自動化されたフルクローズドループスマート細胞培養システムの提供を実現し、人力によるコスト増加及び汚染のリスクを抑えることができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 フルクローズドループスマート細胞培養システム
2 細胞培養装置
3 マイクロ注射手段
31 第1のマイクロ注射器
32 緩衝液槽
33 第2のマイクロ注射器
34 染色剤収容槽
35 駆動モータ
4 統合制御手段
5 タッチパネル
6 培養手段
61 培地貯蔵部
611 第1の容器
62 第1のポンプ
63 加熱部
631 加熱容器
64 細胞培養部
641 細胞培養容器
642 振とうモジュール
65 環境管理モジュール
7 検知手段
71 第2のポンプ
72 検測モジュール
73 緩衝液貯蔵部
731 緩衝液容器
74 検測バルブモジュール
75 廃液貯蔵槽
76 マイクロ流体チップ
761 第1の入口
762 第2の入口
763 第3の入口
764 マイクロ通路
765 排出口
77 光学部材
771 マイクロスコープ
772 カメラ
773 イメージプロセッサ