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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137607
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】プーリ構造体
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16H55/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135661
(22)【出願日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2023045992
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】森本 隆史
【テーマコード(参考)】
3J031
【Fターム(参考)】
3J031BA08
3J031CA03
(57)【要約】
【課題】一端側に位置する補機の駆動軸に連結された状態で、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリがハブに対して一端側に位置ずれするのを防止することができるプーリ構造体を提供する。
【解決手段】ベルトYが巻き掛けられる筒状のプーリ2と、オルタネータ101の駆動軸Sに固定されるハブ3と、外輪71、内輪72、及び、外輪71と内輪72との間に分離保持された玉73を有し、プーリ2の一端部の内周面2fとハブ3の一端部の外周面との間で圧入された転がり軸受7とを備え、プーリ2がハブ3に対して相対回転可能なプーリ構造体1であって、プーリ2は、転がり軸受7の外輪71の他端面71aに当接する第1当接面Bを有し、ハブ3は、内輪72の他端面72aに当接する第2当接面Aを有する第1ハブ31、及び、内輪72の一端面72dに当接する第3当接面Cを有する第2ハブ32を有している。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトが巻き掛けられる筒状のプーリと、
前記プーリの内周側に設けられ、一端側に位置する補機の駆動軸に固定されるハブと、
前記プーリの一端部の内周面に当接する外輪、前記ハブの一端部の外周面に当接する内輪、及び、前記外輪と前記内輪との間に分離保持された転動体を有し、前記プーリの一端部の内周面と前記ハブの一端部の外周面との間で圧入された転がり軸受と、を備え、前記プーリが前記ハブに対して相対回転可能なプーリ構造体であって、
前記プーリは、前記転がり軸受の前記外輪の他端面に当接する第1当接面を有し、
前記ハブは、前記内輪の他端面に当接する第2当接面を有する第1ハブ、及び、前記内輪の一端面に当接する第3当接面を有する第2ハブを有することを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記第1ハブは、前記内輪の他端部の内周面に当接する第1ハブ外周面を有し、
前記第2ハブは、前記内輪の一端部の内周面に当接する第2ハブ外周面を有することを特徴とする、請求項1に記載のプーリ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンのオルタネータ等補機の駆動軸に連結されるプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、自動車エンジンのオルタネータ(補機)の駆動軸に連結されるプーリ構造体(補機プーリ)は、通常、下記構成にすることにより、プーリの回転軸方向(以下、軸方向)の位置決めを図っている。
【0003】
(A)プーリ構造体とオルタネータ(補機)
プーリ構造体(補機プーリ)は、図1に示すように、ベルトが巻き掛けられる筒状のプーリと、プーリの内側に、プーリに対して相対回転可能に設けられ、補機の駆動軸に固定されるハブと、プーリの一端部とハブの一端部との間に介設された転がり軸受を備えている。
【0004】
オルタネータは、図2に示すように、上記プーリ構造体の一端側に位置しており、ハウジングと、ハウジングの他端側に位置する軸受B(駆動軸用の転がり軸受)を介して回転自在に支持され、ハウジングから他端側の外部に突出する駆動軸Sとを備えている。この軸受Bは、内輪の一端面に当接する駆動軸Sの段部と外輪の他端面に当接するハウジングの内向き縁部とに軸方向両側から挟持される態様で、軸方向に位置決めされている。
【0005】
ハブは、内周面に形成されている雌ねじ部を、駆動軸Sの先端部の外周面に形成されている雄ねじ部に螺合されることで、駆動軸Sに固定される。このとき、ハブの一端面をオルタネータの軸受Bの内輪の他端面に突き当てることにより、ハブ(ひいてはプーリ)は、オルタネータ(駆動軸S)に対して軸方向に位置決めされる(図2参照)。
【0006】
(B)プーリ構造体の要部(プーリ、転がり軸受、ハブ)
転がり軸受は、図1、3に示すように、プーリの一端部とハブの一端部との間に圧入される態様で介設されている。
ハブは、転がり軸受を軸方向に位置決めし易くするため、図3に示すように、転がり軸受の内輪の他端面に当接する当接面(以下、当接面A)を有するように構成する(図1の例では、外向きに突出する段部をハブ(筒本体)に形成することにより、当接面Aを形成している)。
プーリは、転がり軸受によって軸方向に位置決めされ易くするため、図3に示すように、転がり軸受の外輪の他端面に当接する当接面(以下、当接面B)を有するように構成する(図1の例では、内向きに突出する円環板部をプーリに形成することにより、当接面Bを形成している)。
転がり軸受を圧入する際に、転がり軸受を当接面A及び当接面Bに突き当てることにより、プーリとハブとを軸方向に位置決めし易くしている(図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/077422号
【特許文献2】特開2008-528906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、オルタネータ(補機)の製造元等では、例えば、エンドキャップの装着等を除き、組み付けが一旦終了した時点での上記プーリ構造体を、オルタネータの駆動軸に接続した態様(図2の態様)で実施する、オルタネータの完成検査を行うことがある。この完成検査工程において、図4に示すように、プーリの他端面をぶつけた時や、プーリの他端面を真下にして、プーリ構造体付きオルタネータを床等に置いた時など、プーリに対して他端側から一端側の方向に衝撃力が加わると、プーリ構造体の構成により以下のa)やb)のようにして、オルタネータ(補機)に干渉する場合がある。
【0009】
a)図1に示す、転がり軸受の外輪の他端面に当接する当接面(当接面B)をプーリに有する構成のプーリ構造体では、衝撃によりハブと転がり軸受との間の圧入面が抜けて(当該圧入面が摺動面となり)、プーリと転がり軸受の組立体がハブに対して一端側に位置ずれ(相対移動)し、オルタネータ(補機)に干渉する虞がある(図4参照)。
b)図示しないが、当接面Bをプーリに有しない構成のプーリ構造体では、衝撃によりプーリと転がり軸受との間の圧入面が抜けて(当該圧入面が摺動面となり)、プーリのみがハブに対して一端側に位置ずれ(相対移動)し、オルタネータ(補機)に干渉する虞もある。
【0010】
いずれにしても、干渉していることに気づかずに動作し続けると、異音や回転不良、転がり軸受の破損などの故障に繋がる場合がある。
そのため、プーリの他端側への衝撃力でプーリがハブに対して一端側に位置ずれし補機に干渉してしまうという課題に対応する必要がある。
【0011】
この点、特許文献1~2には、単に異なる車種間でプーリ構造体の本体部分を共用できるように、ハブの一端側にスペーサ部材(第2ハブに相当)をあてがうことで、ハブの軸方向長さを調整する(プーリの軸方向の位置決めを行う)ことが開示されている(下記表1参照)。
【0012】
【表1】
【0013】
しかし、そもそも特許文献1~2の構成では、プーリに当接面Bを有さない構成のためプーリが軸方向にずれる懸念があり、本発明の課題(プーリの他端側への衝撃力でプーリがハブに対して一端側に位置ずれしてしまうこと)を認識しておらず、プーリ、転がり軸受、ハブ間での軸方向における構成(当接面)の関係性については言及していない。
【0014】
そこで、本発明の目的は、一端側に位置する補機の駆動軸に連結された状態で、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリがハブに対して一端側に位置ずれするのを防止することができるプーリ構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、
ベルトが巻き掛けられる筒状のプーリと、
前記プーリの内周側に設けられ、一端側に位置する補機の駆動軸に固定されるハブと、
前記プーリの一端部の内周面に当接する外輪、前記ハブの一端部の外周面に当接する内輪、及び、前記外輪と前記内輪との間に分離保持された転動体を有し、前記プーリの一端部の内周面と前記ハブの一端部の外周面との間で圧入された転がり軸受と、を備え、前記プーリが前記ハブに対して相対回転可能なプーリ構造体であって、
前記プーリは、前記転がり軸受の前記外輪の他端面に当接する第1当接面を有し、
前記ハブは、前記内輪の他端面に当接する第2当接面を有する第1ハブ、及び、前記内輪の一端面に当接する第3当接面を有する第2ハブを有することを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、転がり軸受が、プーリの一端部の内周面とハブの一端部の外周面との間で圧入された態様で、第1ハブの第2当接面と第2ハブの第3当接面とで転がり軸受を軸方向両側から挟持することで、転がり軸受を軸方向に位置決めしつつ、プーリの第1当接面と第2ハブの第3当接面とで転がり軸受を軸方向両側から挟持することができる。
これにより、プーリ構造体のハブが、オルタネータ等の補機の駆動軸に接続された状態で、プーリの他端面に一端側方向への衝撃力が加わっても、該衝撃力(外力)は、軸方向に互いに当接し合う、プーリ、転がり軸受、第2ハブを介して、第2ハブに固定された、補機の駆動軸側に直接的に作用することになる。
つまり、上記構成によれば、プーリ構造体が、その一端側に位置する補機の駆動軸に連結された状態で、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリがハブに対して一端側に位置ずれするのを防止することができる。
【0017】
また、本発明は、上記プーリ構造体において、
前記第1ハブが、前記内輪の他端部の内周面に当接する第1ハブ外周面を有し、
前記第2ハブが、前記内輪の一端部の内周面に当接する第2ハブ外周面を有することを特徴としてもよい。
【0018】
上記構成によれば、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用した場合に、第1ハブと第2ハブの両方に衝撃力を分散させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一端側に位置する補機の駆動軸に連結された状態で、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリがハブに対して一端側に位置ずれするのを防止することができるプーリ構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】従来(比較例1)に係るプーリ構造体を示す、プーリ構造体の回転軸を通り且つ当該回転軸と平行な方向に沿った断面図である。
図2】従来(比較例1)に係るプーリ構造体をオルタネータに接続した状態を示す、プーリ構造体の回転軸を通り且つ当該回転軸と平行な方向に沿った断面図である。
図3図1のA部の拡大図である。
図4】プーリと転がり軸受の組立体がハブに対して一端側に位置ずれ(相対移動)し、オルタネータに干渉する態様の説明図である。
図5】本実施形態(実施例1)に係るプーリ構造体を示す、プーリ構造体の回転軸を通り且つ当該回転軸と平行な方向に沿った断面図である。
図6図5のA部の拡大図であり、第1ハブの一端面と第2ハブの他端面とを軸方向に接触させた状態で対向させたハブの説明図である。
図7】本実施形態(実施例1)に係るプーリ構造体をオルタネータに接続した状態を示す、プーリ構造体の回転軸を通り且つ当該回転軸と平行な方向に沿った断面図である。
図8】第1ハブの一端面と第2ハブの他端面とを軸方向に隔離した状態で対向させたハブの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(プーリ構造体1の構造)
図5に示す、本発明の実施形態に係るプーリ構造体1は、例えば、自動車の補機駆動システムにおいて、オルタネータ101の駆動軸Sに取り付けられる(図7参照)。補機駆動システムは、エンジンのクランク軸に取り付けられた駆動プーリと、オルタネータ等の補機を駆動するプーリ構造体1を含む従動プーリと、これらに巻回されたベルトYとを含む構成をしている。クランク軸の回転がベルトYを介してプーリ構造体1を含む従動プーリに伝達されることで、オルタネータ等の補機が駆動される。クランク軸の回転速度がエンジンの燃焼に応じて変動するのに伴い、ベルトYの走行速度も変動する。
【0022】
図5及び図6に示すように、プーリ構造体1は、プーリ2と、ハブ3と、ねじりコイルばね4(以下、単に「ばね4」という)と、プーリ2及びハブ3の他端に配置されたエンドキャップ5と、滑り軸受6及び転がり軸受7からなる一対の軸受6、7とを含んだ構成をしている。
【0023】
プーリ2及びハブ3は、共に略円筒状であり、同一の回転軸X(プーリ構造体1の回転軸であり、以下、単に「回転軸X」という)を有する。回転軸Xは、図5の左右方向(軸方向)に沿って延在する。また、以下では、図5の右側を軸方向の一端側、図5の左側を軸方向の他端側という。
【0024】
(プーリ2)
プーリ2は、ハブ3の外周側に設けられ、ハブ3に対して相対回転可能である。
プーリ2の外周面には、ベルトYが巻き掛けられる。
【0025】
プーリ2の内径は、一端側から他端側に向かって3段階で大きくなっている。具体的には、最も小さい内径部分におけるプーリ2の内周面を圧接面2a、2番目に小さい内径部分におけるプーリ2の内周面を環状面2bという。また、最も大きい内径部分のプーリ2の内周面は、滑り軸受6と径方向に対向し、軸方向に延びる内周面2cという。圧接面2aにおけるプーリ2の内径は、ハブ3(第1ハブ31)の外筒部31bの内径よりも小さい。環状面2bにおけるプーリ2の内径は、ハブ3の外筒部31bの内径と同じか、それよりも大きい。
【0026】
プーリ2の他端側の側面2dは、図5に示すように、ハブ3(第1ハブ31)の他端面31dより他端側に突出している。
【0027】
また、プーリ2の圧接面2aには、径方向内側に向かって突出した円環板部2eが形成されている。この円環板部2eの一端側の側面は、転がり軸受7の外輪71の他端面71aに当接する第1当接面Bとなる。
【0028】
(ハブ3)
ハブ3は、プーリ2の内周側に設けられ、プーリ2に対して相対回転可能である。
ハブ3は、図5図7に示すように、軸方向の、他端側に配置される第1ハブ31と一端側に配置される第2ハブ32とを有している。第1ハブ31は、一端側に位置するオルタネータ101の駆動軸Sに螺合により固定される(詳細は後述)。
【0029】
(第1ハブ31)
第1ハブ31は、オルタネータの駆動軸Sが螺合されるネジ溝が内周面に形成された筒本体31aと、筒本体31aの他端の外側に配置された外筒部31bと、筒本体31aの他端と外筒部31bの他端とを連結する円環板部31cと、筒本体31aの外周面に形成された段部31eとを有する。また、第1ハブ31の筒本体31aの一端側の外周面は、内輪72の他端部の内周面72bに当接する第1ハブ外周面31fという。
【0030】
第1ハブ31の段部31eの一端側の側面は、転がり軸受7の内輪72の他端面72aに軸方向で当接する第2当接面Aとなる。
【0031】
(第2ハブ32)
第2ハブ32は、その外径が、他端側から一端側に向かって2段階で大きくなる段付円筒状(小径部分321と大径部分322とに軸方向に分かれた形状)をしている。
【0032】
小径部分321は、外径が転がり軸受7(内輪72)の内径よりも僅かに大きく形成されており、転がり軸受7(内輪72)の一端部の内周面72cに圧入される部分である(第2ハブ32の小径部分321を転がり軸受7に圧入することにより、第2ハブ32をプーリ構造体1の一部として扱っている)。また、小径部分321における外周面は、内輪72の一端部の内周面72cに当接する第2ハブ外周面32aという。
【0033】
大径部分322の他端側の側面(小径部分321際に露出し、径方向に延びる環状面)は、転がり軸受7の内輪72の一端面72dに軸方向で当接する第3当接面Cとなる。
【0034】
(第1ハブ31と第2ハブ32との関係性)
第1ハブ31と第2ハブ32とは、第2ハブ32(小径部分321)を転がり軸受7に圧入した状態で、第1ハブ31の一端面31gと第2ハブ32の他端面32bとは軸方向で対向している。
ここで、図6に示すように、第2ハブ32(小径部分321)を転がり軸受7に圧入した状態で、第1ハブ31の一端面31gと第2ハブ32の他端面32bとは軸方向に接触(当接)した状態で対向している。
【0035】
なお、本実施形態では、第1ハブ31の一端面31gと第2ハブ32の他端面32bとは軸方向に接触(当接)した状態で対向させているが(図6参照)、図8に示すように、ハブ3´の第2ハブ32´(小径部分321´)を転がり軸受7に圧入した状態で、ハブ3´の第1ハブ31´の一端面31g´と第2ハブ32´の他端面32b´とは軸方向に隔離した状態で対向させてもよい。この場合、ハブ3´の第1ハブ31´の一端面31g´と第2ハブ32´の他端面32b´との間には隙間33が形成されることになる。
【0036】
(ばね4)
ばね4は、プーリ2とハブ3との間に配置されている。具体的には、ばね4は、プーリ2の内周面及びハブ3の外筒部31bの内周面と、ハブ3の第1ハブ31の筒本体31aの外周面と、第1ハブ31の円環板部31cとによって画定された、転がり軸受7よりも他端側にある空間Uに収容されている。ばね4は、断面が正方形状の線材(例えば、ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠)等)で構成されており、左巻き(ばね4の他端から一端に向かって反時計回り)である。
【0037】
空間Uには、グリース等の潤滑剤が封入されている。潤滑剤は、プーリ構造体1の組み付け時に、ペースト状の塊の状態で、空間Uに投入される。投入量は、例えば0.2g程度である。プーリ構造体1を動作させると、空間Uの温度上昇やせん断発熱(摩擦熱)によって、潤滑剤の粘度が下がり、潤滑剤が空間U全体に拡散する。
【0038】
(一対の軸受6、7)
一対の軸受6、7は、一端側及び他端側のそれぞれにおいて、プーリ2及びハブ3の間に介在している。具体的には、プーリ2の他端部の内周面と第1ハブ31の外筒部31bの外周面との間の隙間(以下「筒状隙間」という)に、滑り軸受6が介在している。プーリ2の一端部の内周面2fとハブ3の一端部の外周面との間に、転がり軸受7が介在している。詳細には、転がり軸受7は、プーリ2の一端部の内周面2fと第1ハブ31の第1ハブ外周面31fとの間、及び、プーリ2の一端部の内周面2fと第2ハブ32の第2ハブ外周面32aとの間に、圧入されている。
この一対の軸受6、7によって、プーリ2及びハブ3が相対回転可能に連結されている。プーリ2及びハブ3は、他端から一端に向かう方向から見て時計回り(以下、「正方向」という)に回転する。
【0039】
滑り軸受6は、有端環状の部材であり、滑り軸受6の周方向の両端部の間に隙間(不図示)が存在している。滑り軸受6は、ロックウェルRスケール(JIS K7202-2:2001に準拠)が80~130である硬質の熱可塑性樹脂で形成されている。具体的には、滑り軸受6は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、非晶ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン類、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド類、シンジオ型ポリスチレン、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、スチレン系樹脂(ABS樹脂、ポリスチレン等)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン系樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、スチレン系ブロックコポリマー樹脂などによって形成されている。ただし、低摩擦摺動性や耐摩耗性等の観点から、滑り軸受6は、これらの材料のうち、ポリアセタール樹脂及びポリアミド樹脂で形成されたものとすることがより好ましい。また、滑り軸受6のロックウェルRスケールによる硬さは、85~125程度がより好ましい。
【0040】
また、滑り軸受6は、1種の樹脂組成物によって形成された1層のものであってもよいし、2種以上の樹脂組成物によって形成される2層以上のものでもよい。ただし、製造コストの観点から、滑り軸受6は1種の樹脂組成物によって形成された1層のものとすることがより好ましい。また、滑り軸受6は、射出成形機及び金型(射出成形金型)を用いて射出成形法によって製造される。
【0041】
転がり軸受7は、図5図6に示すように、接触シール式の深溝玉軸受であって、プーリ2の一端部の内周面2fに当接する外輪71と、ハブ3の一端部の外周面に当接する内輪72と、外輪71と内輪72との間に分離保持され、転動自在に配置された複数の玉73(転動体)と、複数の玉73の軸方向両側に配置された環状の接触シール部材74とを有する。転がり軸受7の内部にグリース等の潤滑剤(例えば、空間Uに封入された潤滑剤と同じ潤滑剤)が封入されることで、転がり軸受7の摩擦面(玉73における外輪71及び/又は内輪72との接触面)の摩耗が抑制される。
【0042】
(ばね4)
ばね4は、一端側でプーリ2に接触する一端側領域と、他端側でハブ3の第1ハブ31に接触する他端側領域と、一端側領域及び他端側領域の間においてプーリ2及びハブ3の第1ハブ31のいずれにも接触しない中領域とを有する。
【0043】
ばね4は、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定であり、このときのばね4の外径は、環状面2bにおけるプーリ2の内径よりも小さく、圧接面2aにおけるプーリ2の内径よりも大きい。ばね4は、一端側領域が縮径された状態で、空間Uに収容されている。
【0044】
ばね4は、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されている。このとき、ばね4の一端側領域の外周面はばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって圧接面2aに押し付けられ、ばね4の他端側領域は若干拡径された状態で筒本体31aの外周面と接触している。つまり、ばね4の他端側領域の内周面は、ばね4の縮径方向の自己弾性復元力によって、筒本体31aの外周面に押し付けられている。
【0045】
(オルタネータ101)
オルタネータ101は、図7のように、プーリ構造体1の一端側に位置しており、ハウジング102と、ハウジング102の他端側に位置する転がり軸受103を介して回転自在に支持され、ハウジング102から他端側の外部に突出する駆動軸Sとを備えている。この転がり軸受103は、内輪105の一端面105aに当接する駆動軸Sの端部S1と外輪104の他端面104aに当接するハウジング102の内向き縁部102aとに軸方向両側から挟持される態様で、軸方向に位置決めされている。
プーリ構造体1は、第1ハブ31の内周面に形成されている雌ねじ部に、駆動軸Sの先端部の外周面に形成されている雄ねじ部が螺合されることで、駆動軸Sに固定されている。このとき、第2ハブ32の一端面32cをオルタネータ101の転がり軸受103の内輪105の他端面105bに突き当てることにより、ハブ3(ひいてはプーリ2)は、オルタネータ101(駆動軸S)に対して軸方向に位置決めされる。
【0046】
(プーリ構造体1の動作)
次に、プーリ構造体1の動作について説明する。
【0047】
先ず、プーリ2の回転速度がハブ3の回転速度よりも大きくなった場合(即ち、プーリ2が加速する場合)について説明する。
【0048】
この場合、プーリ2は、ハブ3に対して正方向に相対回転する。プーリ2の相対回転に伴って、ばね4の一端側領域が、圧接面2aと共に移動し、ハブ3に対して相対回転する。これにより、ばね4が拡径方向にねじれる。ばね4の一端側領域の圧接面2aに対する圧接力は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大する。ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなってばね4の他端側領域に作用するねじり応力が増加すると、ばね4の他端側領域は、筒本体31aの外周面に対する圧接力に抗して、筒本体31aの外周面に対してプーリ2の周方向に摺動する。そして、ばね4の他端側領域が摺動すると、ばね4の他端側領域がハブ3(第1ハブ31)に形成された当接面(不図示)に当接し、ハブ3(第1ハブ31)を押圧することにより、プーリ2とハブ3との間でトルクを伝達する。
【0049】
なお、ばね4の拡径方向のねじり角度が限界に達すると、ばね4の中領域の外周面が環状面2bに当接することにより、ばね4のそれ以上の拡径方向の変形が規制され、プーリ2及びハブ3が一体的に回転する。これにより、ばね4の拡径方向の変形による破損を防止できる。
【0050】
次に、プーリ2の回転速度がハブ3の回転速度よりも小さくなった場合(即ち、プーリ2が減速する場合)について説明する。
【0051】
この場合、プーリ2は、ハブ3に対して逆方向(他端から一端に向かう方向から見て反時計回り)に相対回転する。プーリ2の相対回転に伴って、ばね4の一端側領域が、圧接面2aと共に移動し、ハブ3に対して相対回転する。これにより、ばね4が縮径方向にねじれる。ばね4が縮径方向にねじれると、ばね4の一端側領域の圧接面2aに対する圧接力は略ゼロとなり、ばね4の一端側領域は圧接面2aに対してプーリ2の周方向に摺動する。したがって、プーリ2とハブ3との間でトルクは伝達されない。
【0052】
このように、ばね4は、ハブ3がプーリ2に対して正方向に相対回転するときプーリ2及びハブ3のそれぞれと係合してプーリ2とハブ3との間でトルクを伝達する一方、ハブ3がプーリ2に対して逆方向に相対回転するときプーリ2及びハブ3の少なくとも一方(本実施形態では、圧接面2a)に対して摺動(本実施形態では、プーリ2の周方向に摺動)してプーリ2とハブ3との間でトルクを伝達しない。また、プーリ構造体1は、ばね4の拡径又は縮径によりプーリ2及びハブ3の間でトルクを伝達又は遮断するように構成されている。
【0053】
(プーリ構造体1の製造方法)
次に、プーリ構造体1の製造方法について説明する。
【0054】
まず、第1ハブ31に、ばね4を一端側から圧入して装着する。
次に、第1ハブ31の外筒部31bに滑り軸受6を装着する。
さらに、第1ハブ31にプーリ2を一端側から装着する。
この状態で、ばね4の内周面に対向する、第1ハブ31の外周面にグリースを塗布する。
【0055】
次に、プーリ2の一端部の内周面2fと第1ハブ31の第1ハブ外周面31fとの間に、転がり軸受7を圧入する。
続いて、転がり軸受7の内輪72の内周面72cに第2ハブ32を圧入する。
この時点で、エンドキャップ5の装着等を除き、プーリ構造体1の組み付けが一旦終了する。
【0056】
次に、オルタネータ101の製造元等において、オルタネータ101の駆動軸Sにプーリ構造体1を接続する(図7参照)。
次に、オルタネータ101の完成検査を実施する。このとき、ハブ3の回転による遠心力で、プーリ2及び第1ハブ31の空間Uを形成する面へグリースが拡散される。
【0057】
最後に、プーリ2の他端部にエンドキャップ5を装着する。これにより、プーリ構造体1が完成する(図5参照)。
【0058】
(上記構成による効果)
上記構成のプーリ構造体1によれば、転がり軸受7が、プーリ2の一端部の内周面2fとハブ3の一端部の外周面(第1ハブ外周面31f及び第2ハブ外周面32a)との間で圧入された態様で、第1ハブ31の第2当接面Aと第2ハブ32の第3当接面Cとで転がり軸受7を軸方向両側から挟持することで、転がり軸受7を軸方向に位置決めしつつ、プーリ2の円環板部2eの第1当接面Bと第2ハブ32の第3当接面Cとで転がり軸受7を軸方向両側から挟持することができる。
これにより、プーリ構造体1のハブ3が、オルタネータ101の駆動軸Sに接続された状態で、プーリ2の他端側の側面2dに、他端側から一端側への衝撃力が加わっても、該衝撃力(外力)は、軸方向に互いに当接し合う、プーリ2、転がり軸受7、第2ハブ32を介して、第2ハブ32に固定された、オルタネータ101の駆動軸S側に直接的に作用することになる。
つまり、上記構成によれば、プーリ構造体1が、その一端側に位置するオルタネータ101の駆動軸Sに連結された状態で、プーリ2に他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリ2がハブ3に対して一端側に位置ずれするのを防止することができる。
【0059】
また、第1ハブ31は、転がり軸受7の内輪72の他端部の内周面72bに当接する第1ハブ外周面31fを有し、第2ハブ32は、内輪72の一端部の内周面72cに当接する第2ハブ外周面32aを有している。これにより、プーリ2に他端側から一端側への衝撃力が作用した場合に、第1ハブ31と第2ハブ32の両方に衝撃力を分散させることができる。
【実施例0060】
本発明においては、プーリ構造体が補機の駆動軸に連結された状態で、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリがハブに対して一端側に位置ずれするのを防止する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例1および比較例1~2に係るプーリ構造体(以下、各供試体)を作製し、衝撃試験および分解検査を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0061】
[プーリ構造体の製造]
上記実施形態に記載の方法に準じ、エンドキャップの装着等を除き、組み付けが終了したプーリ構造体(各供試体)を作製した。
この状態で、各供試体は、いずれも、プーリ(開口部)の他端面は、ハブの他端面よりも他端側に所定量(約2mm)突出している。
次に、プーリ構造体(各供試体)をオルタネータの駆動軸に接続(蝶合)して、プーリ構造体付きオルタネータを得た。この状態で、第2ハブの一端面は、オルタネータの転がり軸受(103)の内輪の他端面に当接している。
オルタネータは、補修用として流通している汎用品(重量:約7kg)を流用した。
【0062】
[プーリ構造体の評価:項目、方法、基準]
各供試体(表2参照:実施例1は図5、比較例1は図1、比較例2は不図示)について、本願課題を解決し得るプーリ構造体が得られたかどうかを見極めるために、耐衝撃性(プーリの位置ずれの有無)、及び製造品質(実際に製造された製品の各部の異常の有無)を検証した。
【0063】
[衝撃試験]
(試験方法)
上記プーリ構造体付きオルタネータをプーリの他端面が真下(オルタネータが真上)となる態様で、定盤上10cmの高さまで人の手で持ち上げる。
そして、手を離し、プーリ構造体付きオルタネータを定盤上に自由落下させた。
これにより、プーリ(他端面)に他端側から一端側への衝撃力が作用することになる。
プーリのハブに対する一端側への位置ずれ量(相対移動量)を供試体毎に測定し、記録した。
【0064】
(判定基準)
プーリのハブに対する一端側への位置ずれが認められない場合(組付け精度を考慮し、位置ずれ量が0.2mm未満の場合)は、プーリ構造体の耐衝撃性を確保できると評価し、a判定とした。
プーリのハブに対する一端側への位置ずれが認められた場合(組付け精度を考慮し、位置ずれ量が0.2mm以上の場合)は、プーリ構造体の耐衝撃性を確保できないと評価し、b判定とした。
本用途での実使用に対する適正(プーリ構造体の耐衝撃性)の観点から、a判定のプーリ構造体を合格レベルとした。
【0065】
[分解検査]
(試験方法)
実際にオルタネータの完成検査工程において、万一人為的なミス(手が滑って落下等)等により、上記のような衝撃をプーリ構造体に作用させた場合は、完成検査の実施有無に関係なく出荷対象から除外(不良品に格付け)される。本評価では、信頼性の観点から、上記衝撃試験でa判定(合格レベル)であったプーリ構造体について、プーリ構造体を分解し、各部(転がり軸受等)の異常の有無を目視等にて確認することとした。
【0066】
(判定基準)
各部品に損傷等の異常(転がり軸受の動作時の異音や回転不良など)が認められなかった場合は、プーリ構造体の製造品質を確保できると評価し、a判定とした。
各部品に損傷等の異常(転がり軸受の動作時の異音や回転不良など)が認められた場合は、プーリ構造体の製造品質を確保できないと評価し、b判定とした。
本用途での実使用に対する適正(プーリ構造体の製造品質の確保)の観点から、a判定のプーリ構造体を合格レベルとした。
【0067】
(総合判定)
本課題を解決し得るプーリ構造体としての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記2つの試験項目(耐衝撃性、製造品質)における判定の結果から、以下の通りとした。
ランクA:上記の試験項目で、すべてa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:上記の試験項目で、1つでもb判定があった場合は、本課題の解決策として不充分なランク(不合格)とした。
【0068】
(検証結果および考察)
検証結果を表2に示す。
【表2】
【0069】
(実施例1、比較例1~2)
第1ハブに第2当接面Aを有するプーリ構造体において、第1当接面Bの有無または第3当接面Cの有無を変更し、比較した。
当接面A~Cを全て有する場合(実施例1)は、プーリに対する他端側から一端側への衝撃力でプーリがハブに対して一端側に位置ずれするとは認められず、耐衝撃性がa判定で、かつ、各部に異常も認められず、製造品質もa判定(総合評価でもランクA)であった。
【0070】
第2当接面A、及び、第1当接面Bは有するが、第3当接面Cを有しない場合(比較例1)、ならびに、第2当接面A、及び、第3当接面Cは有するが、第1当接面Bを有しない場合(比較例2)は、プーリに対する他端側から一端側への衝撃力でプーリがハブに対して一端側に位置ずれ(オルタネータに干渉)してしまい、耐衝撃性がb判定(総合評価でもランクB)であった。
【0071】
(得られた効果)
表2から、実施例1のプーリ構造体は、課題に対応し、当接面A~Cを全て有する構成、即ち、プーリ、転がり軸受、ハブ間が軸方向に互いに当接し合う構成とすることで、一端側に位置する補機の駆動軸に連結された状態で、プーリに他端側から一端側への衝撃力が作用しても、プーリがハブに対して一端側に位置ずれするのを防止し易くすることができた。
【符号の説明】
【0072】
1 プーリ構造体
2 プーリ
2d プーリの他端側の側面
2e 円環板部
3 ハブ
31 第1ハブ
32 第2ハブ
6 滑り軸受
7 転がり軸受
71 外輪
72 内輪
73 玉
101 オルタネータ(補機)
A 第2当接面
B 第1当接面
C 第3当接面
S 駆動軸
Y ベルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8