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  • 特開-多孔性フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137619
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】多孔性フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20240927BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240927BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240927BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240927BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240927BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240927BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/446
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/426
H01M50/42
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023169360
(22)【出願日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2023047832
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 茂治
(72)【発明者】
【氏名】今津 直樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓也
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE03
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐ブロッキング性、及び接着性に優れた多孔性フィルムを提供すること。
【解決手段】多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の面に、無機粒子とフッ素含有重合体粒子を含有する多孔質層とを有し、前記フッ素含有重合体粒子はフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)を、単量体100質量%中、5質量%以上30質量%未満、および(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を含み、構造単位(X)が下記一般式(1)で表され、構造単位(Y-1)がシクロヘキシルアクリレート等、構造単位(Y-2)がイソボルニルアクリレート等である、多孔性フィルム。

(式中、Rは水素またはメチル基、Rはフッ素を含む炭素数1~10の炭化水素基)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の面に、無機粒子とフッ素含有重合体粒子を含有する多孔質層とを有し、前記フッ素含有重合体粒子はフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)を、単量体100質量%中、5質量%以上30質量%未満、および(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を含み、前記フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)が下記一般式(1)、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)および(Y-2)が下記一般式(2)で表される多孔性フィルム。
【化1】
【化2】
(式(1)(2)中、R1は水素またはメチル基、R2はフッ素を含む炭素数1~10の炭化水素基、R3は炭素数5~10の脂環式炭化水素基からなる群から選ばれる基、a,bは重合度を表す。)
【請求項2】
前記多孔質層の表面のフッ素含有重合体粒子の占有率が60%以上95%未満であり、前記多孔質層を厚さ方向に3等分し、前記多孔質基材に接する領域を領域Aとし、領域Aに接する領域を領域B、領域Bに接する領域を領域Cとするとき、下記(a)から(c)を満たす請求項1に記載の多孔性フィルム。
(a)前記領域Cのフッ素含有重合体粒子の含有率αが、前記多孔性フィルム中の全フッ素含有重合体粒子含有量の60%以上90%以下であること。
(b)前記領域Bのフッ素含有重合体粒子の含有率βが、前記多孔性フィルム中の全フッ素含有重合体粒子含有量の10%以上40%以下であること。
(c)前記領域Aのフッ素含有重合体粒子の含有率γが、前記多孔性フィルム中の全フッ素含有重合体粒子含有量の10%以下であること。
【請求項3】
バーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法で1mN/minの負荷速度で30秒間圧入した後、0.5mNまで除荷した際の、次式で示す押込み深さ率h(0)が20以上30以下である請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
h(0)=Pd(0)/d×100
・Pd(0):1mN/minの負荷速度で30秒間圧入した後、0.5mNまで除荷した際の押込み深さ(μm)
・d:多孔質層の初期厚み(μm)
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)がシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレートのうち少なくとも1つを含み、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)がイソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートのうち少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
前記フッ素含有重合体粒子が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)と前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を合計60質量%以上90質量%以下含む、請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項6】
前記フッ素含有重合体粒子の目付量が、0.01g/m2以上1.00g/m2以下である請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項7】
前記フッ素含有重合体粒子の、ガラス転移温度(Tg)が55~100℃である請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項8】
前記フッ素含有重合体粒子の、体積平均粒子径が10nm以上500nm以下である請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項9】
前記多孔質層の膜厚が、0.10μm以上5.0μm以下である請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートパソコンなどのポータブルデジタル機器用途、および電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの自動車用途など、幅広く使用されている。これに搭載するセパレータには用途に応じて様々な特性が要求されており、電極とセパレータである多孔性フィルムの接着要求を満足すべく様々な提案がなされている(例えば特許文献1~4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第7094968号公報
【特許文献2】特許第6659081号公報
【特許文献3】特許第6051731号公報
【特許文献4】特許第6105816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極との接着機能を有する多孔性フィルムには、多孔性フィルムを製造する過程において、製造したロール状の多孔性フィルムの内部において、多孔性フィルム同士の表面が相互に密着して剥がしにくい状態が発生しやすくなる課題がある。この状態をブロッキングという。耐ブロッキング性を損なわず、優れた電極との接着機能を有する多孔性フィルムは、未だ確立されていなかった。
【0005】
本発明は、耐ブロッキング性、及び接着性に優れた多孔性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多孔性フィルムは以下の構成を有する。
(1)多孔質基材と、該多孔質基材の少なくとも一方の面に、無機粒子とフッ素含有重合体粒子を含有する多孔質層とを有し、前記フッ素含有重合体粒子はフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)を、単量体100質量%中、5質量%以上30質量%未満、および(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)、(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を含み、前記フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)が下記一般式(1)、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)および(Y-2)が下記一般式(2)で表される多孔性フィルム。
【0007】
【化1】
【0008】
【化2】
【0009】
(式(1)(2)中、R1は水素またはメチル基、R2はフッ素を含む炭素数1~10の炭化水素基、R3は炭素数5~10の脂環式炭化水素基からなる群から選ばれる基、a,bは重合度を表す。)
(2)前記多孔質層の表面のフッ素含有重合体粒子の占有率が60%以上95%未満であり、前記多孔質層を厚さ方向に3等分し、前記多孔質基材に接する領域を領域Aとし、領域Aに接する領域を領域B、領域Bに接する領域を領域Cとするとき、下記(a)から(c)を満たす(1)に記載の多孔性フィルム。
(a)前記領域Cのフッ素含有重合体粒子の含有率αが、前記多孔性フィルム中の全フッ素含有重合体粒子含有量の60%以上90%以下であること。
(b)前記領域Bのフッ素含有重合体粒子の含有率βが、前記多孔性フィルム中の全フッ素含有重合体粒子含有量の10%以上40%以下であること。
(c)前記領域Aのフッ素含有重合体粒子の含有率γが、前記多孔性フィルム中の全フッ素含有重合体粒子含有量の10%以下であること。
(3)バーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法で1mN/minの負荷速度で30秒間圧入した後、0.5mNまで除荷した際の、次式で示す押込み深さ率h(0)が20以上30以下である(1)または(2)に記載の多孔性フィルム。
h(0)=Pd(0)/d×100
・Pd(0):1mN/minの負荷速度で30秒間圧入した後、0.5mNまで除荷した際の押込み深さ(μm)
・d:多孔質層の初期厚み(μm)
(4)前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)がシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレートのうち少なくとも1つを含み、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)がイソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートのうち少なくとも1つを含む、(1)から(3)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(5)前記フッ素含有重合体粒子が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)と前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を合計60質量%以上90質量%以下含む、(1)から(4)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(6)前記フッ素含有重合体粒子の目付量が、0.01g/m2以上1.00g/m2以下である(1)から(5)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(7)前記フッ素含有重合体粒子の、ガラス転移温度(Tg)が55~100℃である(1)から(6)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(8)前記フッ素含有重合体粒子の、体積平均粒子径が10nm以上500nm以下である(1)から(7)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
(9)前記多孔質層の膜厚が、0.10μm以上5.0μm以下である(1)から(8)のいずれかに記載の多孔性フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、耐ブロッキング性および接着性に優れた多孔性フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】押込み試験に用いられる測定装置の全体構造を模式的に示す図である。
図2】押込み試験の時間と荷重の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
(多孔質基材)
本発明において、多孔質基材としては、内部に空孔を有する多孔膜、不織布、または繊維状物からなる多孔膜シートなどが挙げられる。多孔質基材を構成する樹脂としては、電気絶縁性であり、電気的に安定で、電解液にも安定である樹脂から構成されていることが好ましい。
【0013】
また、シャットダウン機能を付与する観点から、用いる樹脂は熱可塑性樹脂が好ましく、融点が200℃以下の熱可塑性樹脂がより好ましい。ここでのシャットダウン機能とは、リチウムイオン電池が異常発熱した場合に、熱で溶融することで多孔構造を閉鎖し、イオン移動を停止させて、発電を停止させる機能のことである。
【0014】
熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィンが挙げられ、多孔質基材はポリオレフィンを含むポリオレフィン製多孔質基材であることが好ましい。また、ポリオレフィン製多孔質基材は、融点が200℃以下であるポリオレフィンを含むことがより好ましい。
【0015】
ポリオレフィンとしては、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、これらの共重合体、およびこれらを組み合わせた混合物などが挙げられる。ポリオレフィン製多孔質基材としては、例えばポリエチレンを90質量%以上含有する単層のポリオレフィン製多孔質基材、ポリエチレンとポリプロピレンからなる多層のポリオレフィン製多孔質膜基材などが挙げられる。
【0016】
これら多孔質基材の製造方法としては、例えばポリオレフィン系樹脂をシートにした後に延伸することで多孔質化する方法やポリオレフィン系樹脂を流動パラフィンなどの溶剤に溶解させてシートにした後に溶剤を抽出することで多孔質化する方法が挙げられる。
【0017】
上記方法で得られたポリオレフィン製多孔質基材には、ポリオレフィン製多孔質基材と多孔質層との密着性の観点から表面処理を行ってもよい。
【0018】
多孔質基材の厚みは、3μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上30μm以下である。多孔質基材の厚みを50μm以下とすることで多孔質基材の内部抵抗が高くなることを防止し、好適となる。また、多孔質基材の厚みを3μm以上とすることで製造が容易となり、また十分な力学特性が得られ、好適となる。
【0019】
多孔質基材に存在する細孔のサイズは0.01~50μmが好ましく、多孔質基材の空孔率は10~95%であることが好ましい。このような厚み、細孔のサイズ、空孔率を有することにより、十分なイオン電導性を得ることが得られ、また十分な機械的強度と絶縁性を得ることが出来る。
(多孔質層)
本発明の多孔性フィルムは、多孔質基材の少なくとも片面に無機粒子とフッ素含有重合体粒子を含んだ多孔質層を有する。多孔質層は、多孔質層を厚さ方向に3等分し、多孔質基材に接する領域を領域Aとし、領域Aに接する領域を領域B、領域Bに接する領域を領域Cとするとき、領域C、および領域Bにフッ素含有重合体粒子が浸透している構造を形成している。この構造を得るための方法は後述するが、無機粒子を含んだ塗工液と、フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液をそれぞれ調製し、無機粒子とフッ素含有重合体粒子を含んだ多孔質層を形成する。
【0020】
多孔質層は、アクリル酸共重合樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリアクリルアミド共重合樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ(メタ)アラミド樹脂の群より少なくとも1つの有機樹脂を使用することができ、多孔質層の強度を担保するため、多孔質層中に無機粒子を含むことが好ましい。多孔質層に含まれるアクリル系樹脂としては、具体的には、東亜合成(株)製“ジュリマー”(登録商標)AT-210,ET-410,“アロン”(登録商標)A-104、AS-2000、NW-7060、トーヨーケム(株)製“LIOACCUM”(登録商標)シリーズ、JSR(株)製TRD202A、TRD102A 、荒川化学(株)製“ポリストロン”(登録商標)117、705、1280、昭和電工(株)製“コーガム”(登録商標)シリーズ、大成ファインケミカル(株)製WEM-200U、及びWEM-3000等が挙げられる。
【0021】
無機粒子の分散安定性を向上させる目的の分散剤を含んでもよく、例えば、ポリアクリル酸共重合樹脂、カルボキシメチルセルロース樹脂の群より少なくとも1つを使用することができる。ポリアクリル酸共重合樹脂の代表例としては、具体的には、日本触媒(株)製DL-40、TL-37、東亜合成(株)製“アロン”(登録商標)A-6012、及びA-6114等が挙げられる。セルロース系樹脂の代表例としては、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体が挙げられ、具体的には、ダイセルファインケム(株)製1120、1220、SP200、SE400、DN-100L、日本製紙(株)製“サンローズ”(登録商標)FJ08HC、A04SH、第一工業製薬(株)製“セロゲン”(登録商標)7A、及びWS-C等である。
【0022】
無機粒子としては、酸化アルミニウム、ベーマイト、シリカ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウムなどの無機酸化物粒子、窒化アルミニウム、窒化硅素などの無機窒化物粒子、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶粒子などが挙げられる。これらの粒子を1種類で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0023】
用いる無機粒子の形状としては、球状、板状、針状、棒状、楕円状などが挙げられ、いずれの形状であってもよい。その中でも、表面修飾性、分散性、塗工性の観点から球状であることが好ましい。
【0024】
無機粒子の含有量の下限は、アクリル酸共重合樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリアクリルアミド共重合樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ(メタ)アラミド樹脂の群より選ばれる少なくとも1つの有機樹脂と無機粒子との合計に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%未満が好ましい。無機粒子の含有量がこの範囲であると、多孔質層の強度が適度に保たれる。
【0025】
無機粒子の含有量は次に示す方法にて算出が可能である。10cm×10cmの多孔性フィルム上から水40gを用いて、多孔質基材に設けた無機粒子を含有する多孔質層を脱離させ、水およびアルコールなどの有機溶媒を十分に乾燥させて多孔質層に含まれる構成成分を得る。得られた構成成分全量の質量を測定した後、構成成分を有機樹脂成分が溶融・分解する程度の高温で燃焼し、無機粒子のみの質量を測定する。次いで、(無機粒子の質量/構成成分全量の質量)×100の式より、多孔質層における無機粒子の含有量を質量%で算出する。
【0026】
無機粒子の1次平均粒径は、多孔質層の強度、空隙率の観点から0.10μm以上5.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.10μm以上2.5μm以下である。1次平均粒径の下限を0.10μm以上とすることで、多孔質層が緻密になり、多孔質基材の孔を閉孔させてしまうことで透気度が高くなり電池特性が悪化することを防止できる。また、1次平均粒径の上限を5.0μm以下とすることで、多孔質層が不均一な構造となり十分な熱収縮率が得られなくなることを防ぎ、また多孔質層の膜厚が増大し、電池特性が低下することを防止できる。なお、1次平均粒径は後述する手法にて算出された体積基準積算率が50%のときの粒子径である。
【0027】
多孔質層を形成するための無機粒子を含んだ塗工液を調製する順序としては特に限定されないが、無機粒子を均一分散し、無機粒子を含んだ塗工液中の無機粒子の1次平均粒径を均一にする観点から、溶媒に分散剤を添加後、さらに無機粒子を添加して分散させた分散液に、必要に応じて有機樹脂、添加剤等を添加し、無機粒子を含んだ塗工液を調製することが好ましい。
【0028】
無機粒子を分散させる溶媒としては、水、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びメタノール等の極性溶媒を用いることができる。
【0029】
無機粒子を含んだ塗工液の分散方法としては、特に限定はされないが、多孔質層の表面形状を平たん均一化する観点から、無機粒子を含んだ塗工液中の無機粒子が均一分散し、無機粒子の1次平均粒径が均一であることが重要であり、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミルなどを用いることが好ましい。特に、ビーズミルを用いて分散することが好ましく、ビーズミルに用いるビーズ径は0.1~1mmが好ましく、使用するビーズの材質は、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、ジルコニア強化アルミナなどを用いることが好ましい。
【0030】
無機粒子を含んだ塗工液の粘度は、3cP以上、200cP以下であることが好ましく、5cP以上、150cP以下であることがより好ましく、10cP以上、100cP以下であることがさらに好ましい。無機粒子を含んだ塗工液の粘度が200cP以下であると、高速塗工が可能であり良好な生産性が得られる。塗工液が低粘度であれば高速塗工に適するため好ましいが、例えば安定な塗膜形成の観点から3cP以上が好ましい。無機粒子を含んだ塗工液の粘度は、無機粒子を含んだ塗工液の固形分濃度、有機樹脂と無機粒子の混合比率、有機樹脂の分子量によって制御することができる。
【0031】
多孔質層はフッ素含有重合体粒子を含む。フッ素含有重合体粒子は、電解液接液存在下において、電極の活性物質間の隙間に入り込み、アンカー効果を発現することで電極と接着する機能を有する。
【0032】
この様なフッ素含有重合体粒子を用いることで、電極と接着する多孔性フィルムを得ることができるが、電極との接着機能を有する多孔性フィルムであることは、多孔性フィルムを製造する過程において、製造したロール状の多孔性フィルムの内部において、多孔性フィルム同士の表面が相互に密着して剥がしにくい状態が発生しやすくなる課題がある。この状態をブロッキングという。
【0033】
このブロッキングが発生したロール状の多孔性フィルムを次工程である電池製造工程に用いると、多孔性フィルムの機能が損なわれたり、多孔性フィルムが破れる現象につながる。これを防止する機能を耐ブロッキング性という。
【0034】
ブロッキングは、ロール状で保管する多孔性フィルム内部において接着機能が発現し、多孔性フィルム同士が接着する現象である。接着機能の発現には、重合体粒子が接着性機能を有しており、かつ、粒子形状が崩れ接着面積が大きくなる必要がある。粒子形状が崩れる要素としては、圧力、もしくは温度がある。多孔性フィルムロール内部の圧力は、フィルムをロール状に巻き上げる際の巻取り張力に従う。つまりは、巻取り張力が大きくなるとロール内部の圧力は上昇する。ただし、セパレータの多孔質基材は薄く、そして内部に空孔を有しているため、伸縮性があることから、多孔性フィルムの製造工程では伸縮による寸法変化を防止するために極低張力にて搬送、および巻き上げる。一方、温度は輸送環境、および輸送ルートによっては室温を超過するほどに高温となる。よって、粒子形状が崩れる要素としては、温度が支配的である。この温度による粒子形状の変化は、任意の温度下における粒子径の変化率を測定する後述の粘着抑制性の評価方法にて計測が可能である。以上の様に、耐ブロッキング性は重合体粒子の粘着抑制性に沿う特性であり、粘着抑制性に優れた重合体粒子を用いることで、耐ブロッキング性に優れた多孔性フィルムを得ることができる。
【0035】
以下に示す重合体粒子を適用することにより、多孔性フィルムの製造工程および、多孔性フィルムを用いた電池製造工程におけるブロッキングを抑制しながら、接着性に優れた多孔性フィルムが得られる。
【0036】
本発明の重合体粒子は、構造単位(X)および構造単位(Y-1)および構造単位(Y-2)からなる共重合体で形成される。本明細書において、構造単位(X)、構造単位(Y-1)および構造単位(Y-2)を、「重合体粒子単位」ということがある。
【0037】
構造単位(X)は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の繰り返し単位であり、下記一般式(1)で表される。
【0038】
【化3】
【0039】
(式(1)中、Rは水素またはメチル基、Rはフッ素を含む炭素数1~10の炭化水素基、aは重合度を表す。)
式(1)において、Rは互いに独立した水素またはメチル基である。Rが水素の単量体はアクリレート、Rがメチル基の単量体はメタクリレートを表す。
【0040】
はフッ素を含む炭素数1~10の炭化水素基であり、好ましくはフッ素を含む炭素数2~10の炭化水素基である。炭化水素基は、不飽和結合を有してもよく、また直鎖状炭化水素基、分岐鎖状炭化水素基のいずれでもよい。Rは炭化水素基の少なくとも1部の水素がフッ素に置換されている。Rは炭化水素基のすべての水素がフッ素に置換されていてもよい。
【0041】
として、例えば、-CH2CF3、-CH2CF2CF2H、-CH2CF2CF3、-CH2CF2CFHCF3、-CH2(CF23CF2H、-CH2CH2(CF23CF3、-CH2(CF25CF2H、-CH2CH2(CF25CF3、-CH2CH2(CF2CF3、-CH(CF32、-CH2CCH3(CF32等が挙げられる。
【0042】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)は、そのエステル部分がフッ素を含む炭素数1~10の炭化水素基(R)である。
【0043】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)として、
CH2=CHCOOCH2CF3(3FA)、
CH2=CHCOOCH2CF2CF2H(4FA)、
CH2=CHCOOCH2CF2CF3(5FA)、
CH2=CHCOOCH2CF2CFHCF3(6FA)、
CH2=CHCOOCH2(CF23CF2H(8FA)、
CH2=CHCOOCH2CH2(CF23CF3(9FA)、
CH2=CHCOOCH2(CF25CF2H(12FA)、
CH2=CHCOOCH2CH2(CF25CF3(13FA)、
CH2=CHCOOCH2CH2(CF2CF3(17FA)、
CH2=CHCOOCH(CF32(HFIP-A)、
CH2=CHCOOCH2CCH3(CF32(6FNP-A)、
CH2=C(CH3)COOCH2CF3(3FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CF2CF2H(4FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CF2CF3(5FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CF2CFHCF3(6FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2(CF23CF2H(8FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CH2(CF23CF3(9FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2(CF25CF2H(12FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CH2(CF25CF3(13FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CH2(CF2CF3(17FMA)、
CH2=C(CH3)COOCH(CF32(HFIP-MA)、
CH2=C(CH3)COOCH2CCH3(CF32(6FNP-MA)
等の化合物が例示される。
【0044】
構造単位(Y-1)及び(Y-2)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の繰り返し単位であり、下記一般式(2)で表される。
【0045】
【化4】
【0046】
(式(2)中、R3は炭素数5~10の脂環式炭化水素基からなる群から選ばれる基、a,bは重合度を表す。)
式(2)において、Rは水素またはメチル基を表す。
【0047】
は炭素数5~10の脂環式炭化水素基からなる群から選ばれる基である。Rを有する構造単位(Y-1)及び(Y-2)は、互いに異なる構造単位を有する。なお、異なる構造単位とは、Rが互いに相違するもの、および/または、アクリレートとメタクリレートとで相違するものとする。
【0048】
炭素数5~10の脂環式炭化水素基として、飽和の単環基、多環基、橋かけ環基を例示することができる。炭素数5~10の環状炭化水素基として、例えば、シクロヘキシル基、トリメチルシクロヘキシル基、t-ブチルシクロヘキシル基、ジシクロペンタニル基、イソボニル基、等を挙げることができる。
【0049】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)は、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t-ブチルシクロヘキシルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレートのうち少なくとも1つを含むとよい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)は、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレートのうち少なくとも1つを含むとよい。
【0050】
フッ素含有重合体粒子を形成する共重合体は、その単量体単位を100質量%とするとき、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)を、単量体100質量%中、5質量%以上30質量%未満含み、(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)および(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を含む。
【0051】
フッ素含有重合体粒子は、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)を、単量体100質量%中、25質量%以上55質量%以下、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)を、単量体100質量%中、25質量%以上55質量%以下を含むのが好ましい。前記一般式(1),(2)のa,bは、各繰り返し単位の重合度であり、上記の質量割合に整合する実数である。
【0052】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは5質量%超、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは28質量%以下、より好ましくは26質量%以下、さらに好ましくは24質量%以下である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)を上記の範囲で含有することにより、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)を上記の範囲で含有することにより、接着性及び粘着抑制性に優れた重合体粒子を得ることができる。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは25質量%超、より好ましくは28質量%以上、さらに好ましくは31質量%以上、一層好ましくは34質量%以上である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-1)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは55質量%未満、より好ましくは52質量%以下である。構造単位(Y-1)を上記の範囲で含有することにより、接着性、粘着抑制性に優れた重合体粒子を得ることができる。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは25質量%超、より好ましくは28質量%以上である。(メタ)アクリル酸エステル単量体(B)由来の構造単位(Y-2)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは55質量%未満、より好ましくは52質量%以下、さらに好ましくは49質量%以下、一層好ましくは46質量%以下である。構造単位(Y-2)を上記の範囲で含有することにより、膨潤度を損なうことなくガラス転移温度(Tg)が向上する効果が得られることで粘着抑制性、接着性に優れた重合体粒子を得ることができる。
【0055】
構造単位(Y-1)および構造単位(Y-2)の合計は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。構造単位(Y-1)および構造単位(Y-2)の合計は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%未満、さらに好ましくは80質量%以下である。構造単位(Y-1)および構造単位(Y-2)の合計を上記の範囲で含有することにより、接着性、粘着抑制性に優れた重合体粒子を得ることができる。
【0056】
本発明のフッ素含有重合体粒子のガラス転移温度(Tg)は、60℃以上100℃以下であることが好ましい。フッ素含有重合体粒子のガラス転移温度(Tg)を上記範囲とすることにより、接着性、耐ブロッキング性に優れた重合体粒子を得ることができる。フッ素含有重合体粒子のガラス転移温度(Tg)の上限値は、好ましくは100℃未満、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、特に好ましくは70℃以下であるとよい。フッ素含有重合体粒子のガラス転移温度(Tg)の下限値は、好ましくは60℃超、より好ましくは62℃以上であるとよい。フッ素含有重合体粒子のガラス転移温度(Tg)は、単量体の種類および組成比を変更することにより調節することができる。
【0057】
なお、本明細書において、「フッ素含有重合体粒子のガラス転移温度(Tg)」は、以下の方法で測定する。
【0058】
重合体粒子の水分散液を凍結乾燥した粒子粉末10mg程度を用いて、JIS K7121:2012に従って、示差走査熱量測定装置(DSC Pyris1 DSC、Perkin Elmer社製)により測定する。
【0059】
重合体粒子を構成する重合体は、例えば複数種類の(メタ)アクリル酸エステル単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体以外のラジカル重合性化合物からなる単量体混合物を水性媒体中で乳化重合することにより得ることができる。
【0060】
分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体(C)は、接着性の観点より、多官能性単量体(C)からなるホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-50℃以上0℃以下であることが好ましい。
【0061】
1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体(C)は、重合体粒子単位100質量%中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上含むのがよい。1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体(C)は、単量体単位100質量%中、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下含むのがよい。1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体(C)を上記の範囲で含有することにより、接着性、耐ブロッキング性に優れた重合体粒子を得ることができる。
【0062】
重合体粒子の体積平均粒子径は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。重合体粒子の体積平均粒子径は、好ましくは100nm超、より好ましくは120nm以上、さらに好ましくは150nm以上であるとよい。重合体粒子の体積平均粒子径は、好ましくは500nm未満、より好ましくは450nm以下、さらに好ましくは400nm以下であるとよい。体積平均粒子径を前述の下限以上とすることで、重合体粒子を分散させた分散液の粘度が上昇するのを抑制し、高固形分の水性分散液が得られやすくなる。また体積平均粒子径を前述の上限以下とすることで、重合体粒子の分散液の貯蔵安定性を良好にでき、さらに形成される塗膜の均一性を良好にすることができる。重合体粒子の体積平均粒子径は、重合体粒子の重合時に乳化剤の種類および単量体組成比を変更することにより調節することができる。
【0063】
重合体粒子の粒度分布(体積平均粒子径/数平均粒子径)は、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、さらに好ましくは1.3以下、一層好ましくは1.2以下、なお好ましくは1.1以下であるとよい。粒度分布を1.5以下にすることで、重合体粒子を含む塗膜の均一性を担保でき、好適となる。重合体粒子の粒度分布は、重合体粒子の重合時に、乳化剤の種類、単量体組成比および重合条件を変更することにより調節することができる。
【0064】
なお、重合体粒子の平均粒子径および粒度分布は、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて、測定することができる。このような粒度分布測定装置としては、例えば、HORIBA LB-550、SZ-100シリーズ(以上、(株)堀場製作所製)、FPAR-1000(大塚電子(株)製)等が挙げられる。
【0065】
フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液に用いる溶媒として、水、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、エチレンカーボネート、フルフリルアルコール、及びメタノール等の極性溶媒を用いることができる。
【0066】
フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液には、必要に応じてフッ素樹脂、アクリル樹脂およびオレフィン樹脂を添加しても良く、電池特性の観点から、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
【0067】
多孔質層表面のフッ素含有重合体粒子の占有率は95%未満であることが好ましく、90%以下であるとより好ましく、85%以下であると特に好ましい。また、この占有率は、60%以上であると好ましく、65%以上であるとより好ましく、70%以上であると特に好ましい。この占有率を95%未満とすることは、イオン透過性を高め、サイクル特性を向上させる観点から好ましい。これにより電池の寿命を確保することができる。占有率を85%以下とすることは、多孔性フィルム生産捲回時に、フッ素含有重合体粒子が存在せず無機粒子層が露出している部分と、多孔質層の裏面である基材、もしくは裏面に設けた多孔質層表面を占有するフッ素含有重合体粒子と接触する面積を大きくすることで、耐ブロッキング性を確保する観点から好ましい。また、フッ素含有重合体粒子による無機粒子表面の孔の閉塞を抑制し、イオン透過性を一層向上する観点からも好ましい。なお、充放電中には電極活性物質が大きく膨張収縮し、それに伴う応力が電池内部で発生する。この応力により電極とセパレータとの間に隙間が形成される場合があり、サイクル特性が悪化する技術的課題がある。この隙間を生じさせないために、多孔質表面に接着機能を有するフッ素含有重合体粒子を設け、電極とセパレータを接着させることができる。この接着性をセパレータの多孔質表面に設ける観点から、多孔質層表面のフッ素含有重合体粒子の占有率を60%以上とすることが好ましく、70%以上であると特に好ましい。
【0068】
多孔質層表面のフッ素含有重合体粒子の占有率は、得られる多孔性フィルムにおいて、多孔質層表面をSEM-EDX観察することにより測定され、詳細には実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0069】
フッ素含有重合体粒子の占有率は、重合体粒子単位100質量%中に含まれるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)の含有量、およびフッ素含有重合体粒子の目付量を変更することにより調整することができる。
【0070】
多孔質層を厚さ方向に3等分し、多孔質基材に接する領域を領域Aとし、領域Aに接する領域を領域B、領域Bに接する領域を領域Cとするとき、領域Cのフッ素含有重合体粒子の含有率αは90%以下であることが好ましく、85%以下であるとより好ましく、80%以下であると特に好ましい。また、この領域Cの含有率は60%以上であると好ましく、65%以上がより好ましい。この含有率を90%以下とすることは、イオン透過性を高め、サイクル特性を向上させる観点から好ましい。充放電中に電極活物質の膨張収縮による応力が電池内部で発生する。なお、高容量化に必要な材料は充放電に伴う膨張収縮率が大きいことが知られており、これにより電極とセパレータ間に隙間が形成され、サイクル特性が低下する場合がある。この膨張収縮の応力を領域Cのフッ素含有重合体粒子が吸収し、サイクル特性が低下することを抑制する。この観点から、電極活性物質に接する領域Cにおけるフッ素含有重合体粒子の含有率を60%以上とすることが好ましく、65%以上とすることがより好ましい。また、電極とセパレータを接着させる接着性を設ける観点からフッ素含有重合体粒子の含有率を60%以上とすることが好ましく、接着性が向上する観点から65%以上とすることがより好ましい。
【0071】
領域Bのフッ素含有重合体粒子の含有率βは40%以下であることが好ましく、35%以下であるとより好ましく、30%以下であると特に好ましい。また、含有率は10%以上であると好ましく、15%以上がより好ましい。この含有率を40%以下とすることは、イオン透過性を高め、サイクル特性を向上させる観点から好ましい。一方、含有率を10%以上とすることは、充放電に伴う膨張収縮による応力を吸収し、サイクル特性が低下することを抑制する観点から好ましい。
【0072】
領域Aのフッ素含有重合体粒子の含有率γは10%以下であることが好ましく、5%以下であると特に好ましい。含有率を10%以下とすることで、フッ素含有重合体粒子によって多孔質基材の孔が閉塞し、イオン透過性が損なわれ、サイクル特性が低下することを抑制する観点から好ましい。
【0073】
150℃熱収縮率においては、約130℃付近から多孔質基材の熱収縮が開始され、約140℃まで急激な収縮が発生する。無機粒子を含んだ多孔質層は、この多孔質基材の収縮を抑える機能を有している。多孔質層に含まれる有機樹脂成分に150℃領域までの耐収縮機能が期待されない場合は、多孔質基材の収縮を抑える機能を付与する観点から多孔質層に含有される有機樹脂成分は少ない方が好ましい。特に、多孔質層と多孔質基材の界面に存在する有機樹脂成分を少なくすることで、130~140℃領域における多孔質基材の急激な収縮を抑制することができる。この効果が得られる理由は明らかになっているわけではないが、多孔質層内部における収縮に耐える応力が多孔質基材に接している領域Aが最も大きく、この領域の有機樹脂成分が少ないことにより、多孔質層の耐収縮力が高く保たれることによるものと推定している。この耐収縮力付与の観点から、領域Aのフッ素含有重合体粒子の含有率は10%以下であることが好ましく、5%以下であると特に好ましい。
【0074】
領域A、B、Cのフッ素含有重合体粒子の含有率を最適化することで、優れた電極との接着力と150℃熱収縮率とサイクル特性を共立することができる。
【0075】
多孔質層の厚さ方向におけるフッ素含有重合体粒子の含有率は、得られる多孔性フィルムにおいて、多孔質層の断面をSEM-EDX観察することにより測定され、詳細には実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0076】
領域A、Bのフッ素含有重合体粒子の含有率は、重合体粒子単位100質量%中に含まれるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)由来の構造単位(X)の含有量を変更することにより調整することができる。領域Cのフッ素含有重合体粒子の含有率は後述の多孔性フィルムの製造方法において、無機粒子を含んだ塗工液を多孔質基材上に塗工し、この無機粒子を含んだ塗工液が乾燥する前(溶媒を含んだ状態)に、フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工し、これらの溶媒を同時に乾燥させることにより調整することができる。
【0077】
多孔質層表面の押込み深さ率h(0)は20以上であることが好ましく、21以上であるとより好ましく、22以上であると特に好ましい。この押込み深さ率h(0)20以上とすることは、放電中に電極活物質の膨張収縮による応力を多孔質層に吸収させる観点から好ましい。一方、押込み深さ率h(0)が30以下とすることは、絶縁不良を抑制する観点から好ましい。絶縁不良は、二次電池の生産工程において、正極および負極材料とセパレータを捲回時する際、工程中での異物、脱落物などの微小な固形物が混入し、真空封止時の圧力、または真空封止後アルミラミネート工程の成型圧力によって混入した固形物が多孔質層に押し込まれ、セパレータが損傷することで発生する。この観点から、押込み深さ率h(0)は、30以下であると好ましく、28以下であるとより好ましく、25以下であると特に好ましい。
【0078】
多孔質層表面の押込み深さ率h(0)は、得られる多孔性フィルムにおいて、多孔質層の表面をバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法により測定され、詳細には実施例に記載の方法に準じて測定される。
【0079】
多孔質層表面の押込み深さ率h(0)は、後述の多孔性フィルムの製造方法において、無機粒子を含んだ塗工液とフッ素含有接着粒子を含む塗工液を事前に混合させた後に多孔質基材に塗工し乾燥させる方法、および、無機粒子を含んだ塗工液を多孔質基材上に塗工し、この無機粒子を含んだ塗工液が乾燥する前(溶媒を含んだ状態)に、フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工し、これらの溶媒を同時に乾燥させることにより調整することができる。(多孔性フィルムの製造)
多孔質層を厚さ方向に3等分し、多孔質基材に接する領域を領域Aとし、領域Aに接する領域を領域B、領域Bに接する領域を領域Cとするとき、領域C、および領域Bに選択的にフッ素含有重合体粒子が浸透している構造を形成する方法として、無機粒子を含んだ塗工液とフッ素含有接着粒子を含んだ塗工液を事前に混合させた後に多孔質基材に塗工し、乾燥させる方法、もしくは、無機粒子を含んだ塗工液を多孔質基材に塗工し、乾燥させて無機粒子を含んだ層を形成した後に、無機粒子を含んだ層の上にフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工し、乾燥させる方法、もしくは、無機粒子を含んだ塗工液を多孔質基材上に塗工し、この無機粒子を含んだ塗工液が乾燥する前、つまりは溶媒を含んだ状態の無機粒子を含んだ塗工液の上にフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工し、これらの塗工液の溶媒を同時に乾燥させる方法がある。
【0080】
溶媒を乾燥する方法は熱ロールによる乾燥法、送風による乾燥法、乾燥炉による乾燥法等が挙げられ、特に限定されないが、乾燥温度は25℃以上100℃以下であることが好ましい。乾燥温度が25℃を下回ると溶媒の乾燥に時間を要し、生産性が悪化する場合がある。乾燥温度が100℃を上回ると、多孔質基材が過度に収縮してしまう場合がある。
【0081】
無機粒子を含んだ塗工液の塗工方法としては、公知の方法を用いればよい。例えば、ディップコーティング、グラビアコーティング、チャンバーグラビア、スリットダイコーティング、ナイフコーティング、コンマコーティング、キスコーティング、DMコーター方式、バーコーティング、スクリーン印刷などの方式が挙げられる。この中でも、生産性の観点から、グラビヤコート、チャンバーグラビア、DMコーターが特に好ましい。
【0082】
フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液の塗工方法としては、無機粒子を含んだ塗工液を多孔質基材に塗工し、乾燥させて無機粒子を含んだ層を形成した後に、無機粒子を含んだ層の上にフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工する方法を選択した場合においても、無機粒子を含んだ塗工液を多孔質基材上に塗工し、この無機粒子を含んだ塗工液が乾燥する前に、溶媒を含んだ状態の無機粒子を含んだ層の上にフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工する方法を選択した場合においても、無機粒子を含んだ層の膜構造を破壊する懸念があることから、無機粒子を含んだ層とフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液の塗工部の間に数十μm以上の距離を任意に設けて塗工する方式が好ましい。例えば、ダイコート、カーテンコート、インクジェット、スプレーコート、ローターダンプニングなどの方式が挙げられる。これらの中でも、無機粒子を含んだ層とフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液の塗工部の間に形成される数十μmのメニスカスを利用したスリットダイ塗工方式であると、無機粒子を含んだ膜構造を少なからず破壊する。よって、メニスカスを利用しない、インクジェット、スプレーコート、ローターダンプニング方式が好ましい。インクジェット、スプレーコート、ローターダンプニング方式は、無機粒子を含んだ層とフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液の塗工部の間が数mm以上離れており、メニスカスを利用した塗工方式でないことから、塗工速度上昇に伴いメニスカスが不安定化する要素が無いため高速塗工性に優れる。塗工速度上昇に伴いフィルム近傍で発生する随伴気流が、インクジェット、スプレーコート、ローターダンプニングから吐出されたフッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液の液滴が無機粒子を含んだ層に着滴することを阻害するため、吐出された液滴の飛翔速度が高い、スプレーコート、およびローターダンプニングがより好ましい。
【0083】
前記の塗工方法、および乾燥にて形成されたフッ素含有重合体粒子の目付量は、0.2~1.5g/mが好ましい。フッ素含有重合体粒子を上記範囲とすることにより、透気度を損なうことなく接着性に優れた多孔質層を形成することができる。フッ素含有重合体粒子の目付量の上限値は、好ましくは1.2g/m未満、より好ましくは1.0g/m以下であるとよい。
【0084】
また、前記の塗工方法、および乾燥にて形成された多孔性フィルムの透気抵抗度は、150秒/100cc以下であることが好ましく、より好ましくは140秒/100cc以下である。多孔質層の透気抵抗度をこの範囲とすることで、十分なイオン移動性が得られ、電池特性低下を抑制し、好適となる。
【0085】
本願の多孔性フィルムはリチウムイオン二次電池のバッテリーセパレータフィルムとして好適に用いることができる。リチウムイオン二次電池は、正極と負極との間に、バッテリーセパレータフィルムと電解液が介在した構成となっている。
【0086】
正極は、活物質、バインダー樹脂、および導電助剤からなる正極材が集電体上に積層されたものである。活物質としては、LiCoO、LiNiO、Li(NiCoMn)O、などの層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnなどのスピネル型マンガン酸化物、およびLiFePOなどの鉄系化合物などが挙げられる。バインダー樹脂としては、耐酸化性が高い樹脂を使用すればよい。具体的にはフッ素樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが挙げられる。導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料が用いられている。集電体としては、金属箔が好適であり、特にアルミニウム箔が用いられることが多い。
【0087】
負極は、活物質およびバインダー樹脂からなる負極材が集電体上に積層されたものである。活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料、スズやシリコンなどのリチウム合金系材料、Liなどの金属材料、およびチタン酸リチウム(LiTi12)などが挙げられる。バインダー樹脂としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが用いられる。集電体としては、金属箔が好適であり、特に銅箔が用いられることが多い。
【0088】
電解液は、二次電池の中で正極と負極との間でイオンを移動させる場となっており、電解質を有機溶媒に溶解させた構成をしている。電解質としては、LiPF、LiBF、LiClOおよびLiTFSIなどが挙げられるが、有機溶媒への溶解性、イオン電導度の観点からLiPFが好適に用いられている。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられ、これらの有機溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
【実施例0089】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これにより本発明が制限されるものではない。なお、以下の記載において「%」および「部」は、「質量%」および「質量部」を表わす。本実施例で用いた測定法を以下に示す。
【0090】
(1)重合体粒子の体積平均粒子径、数平均粒子径および粒度分布
重合体粒子を固形分濃度が0.2質量%となるように水に分散させた分散液を、ELSZ(大塚電子株式会社製)を用いて動的光散乱法で測定し、Marquardt Methodで解析し、体積平均粒子径および数平均粒子径を算出した。また、得られた値から粒度分布(体積平均粒子径/数平均粒子径)を求めた。
【0091】
(2)重合体粒子のガラス転移温度
重合体粒子のガラス転移温度(Tg)として、「JIS K7121:2012 プラスチックの転移温度測定方法」の規定に準じた示差走査熱量測定(DSC)において、初めに昇温、冷却した後の2回目の昇温時の低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になる点で引いた接線との交点を測定した。
【0092】
(3)重合体粒子からなる粒子膜の溶媒に対する膨潤度S
重合体粒子からなる粒子膜は、重合体粒子を加熱プレスにより厚さ1~2mm程度の厚みのシート状に成型したものである。重合体粒子からなる粒子膜を試料として溶媒に浸漬し、試料の膨潤による重量増分から膨潤度を求めた。
【0093】
重合体粒子からなる粒子膜を数mm角に切り出した試料片を3~6枚(約0.15g)秤量し、その重量をWとした。その後、該試料片を約3mLのエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に浸漬し、室温下で20日程度静置した。
【0094】
試料片を溶媒から引き上げ、各試料片の表面に付着した試験溶媒をワイプなどで拭き取った後、試料片の重量Wを秤量した。
【0095】
次式より、膨潤度Sを求めた。
【0096】
【数1】
【0097】
ここでVおよびVはそれぞれ溶媒浸漬前および後の試料片の体積であり、次式より求めた。
【0098】
【数2】
【0099】
ρは、試料片を構成するポリマーの密度、ρは、試験に用いた溶媒の密度である。
【0100】
膨潤度Sが1.0以上2.5未満であれば「優」、膨潤度Sが2.5以上3.0未満であれば「良」、膨潤度Sが3.0以上4.0未満であれば「やや劣」、膨潤度Sが4.0以上(粒子が溶媒に溶解し粒子径を測定不可な場合を含む)であれば「劣」と評価し、膨潤度Sが3.0未満のとき良好な膨潤抑制性と判定した。
【0101】
(4)接着性
幅17mm×長さ110mmに切り出し、接着性評価用の多孔性フィルムを得る。
【0102】
活物質として黒鉛、バインダー樹脂としてフッ化ビニリデン樹脂、および導電助剤としてカーボンブラックを用いて、幅15mm×長さ100mmの電極を得た。この電極は、リチウムイオン二次電池の負極として用いられるものである。以下の評価サンプル作成、およびサンプル測定は測定精度向上のために、露点50℃以下のドライルームにて行う。前記多孔性フィルムおよび前記電極を、電極と多孔性フィルムの長さ方向の端部が下揃えで重なるように、かつ、電極の活物質と多孔性フィルムの多孔質膜が接触するように配置して、2つ折りにしたアルミラミネートフィルム内に設置し、電解液250μlを試験片の多孔性フィルム側から染み込ませた後、3片を閉じて袋状にし、真空シーラーを用いてアルミラミネートフィルムの残り1辺を閉じて、試験片を真空封入した。これを約25℃の環境下にて60分間静置条件にて保存した。次に、80℃、3MPa、120秒の条件で熱プレスを行い、電極と多孔性フィルムを接着させて試験片を作製した。その後、アルミラミネートフィルムから試験片を取り出し、試験片の端部を10mmほど剥離させ、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2-500N(製品名)の上チャック部に電極、下チャック部にセパレータを把持固定させ、剥離確度が180度となる剥離方式によって、剥離速度300mm/分にて剥離試験を行い、剥離強度を調べた。このとき、上記の条件で行った長さ60mm分の剥離試験における剥離強度の平均値を剥離強度とした。電極との接着性を下記3段階にて評価を行った。ここで、電解液はエチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=3:7(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させたものを用いた。剥離強度が1.0N/m以上であれば十分な接着性を有しており、剥離強度が0.5N/m以上1.0N/m未満であれば接着性を有しているとし、剥離強度が0.5N/m未満であれば接着性を有してないと判定する。表2記載の「接着性」は、これらの測定値と、判定基準である。
【0103】
(判定基準)
A :1.0N/m以上
B :0.5N/m以上、1.0N/m未満
C :0.5N/m未満。
【0104】
(5)重合体を構成する構造単位中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)及び(B)由来の構造単位の含有率
重合体を構成する構造単位中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)及び(B)由来の構造単位の含有率は、以下の方法を用いて測定することができる。
【0105】
(a)例えばコートフィルムから測定する場合、まず水またはアルコールなどの有機溶媒を用いて、支持体からコート層を脱離させ、水およびアルコールなどの有機溶媒を十分に乾燥させてコート層を得る。得られたコート層に有機樹脂成分を溶解する有機溶媒を添加して有機樹脂成分のみを溶解する。続いて、有機樹脂成分が溶解した溶液から有機溶媒を乾燥させ、有機樹脂成分のみを抽出する。
【0106】
(b)得られた有機樹脂成分を用いて、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析(熱分解Gas-Chromatography(GC)/Mass-Spectrometry(MS))により、(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の存在有無を確認する。
【0107】
(c)核磁気共鳴法(13C-NMR)を用いる。固体NMR試料管に前記有機樹脂成分と適当量の溶媒(重クロロホルム)を充填し、一晩静置後にDipolar-Decoupling(DD)/Magic-angle-spinning(MAS)法を用いて13C-NMRにて測定することによって、重合体を構成する構造単位中の(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)及び(B)由来の構造単位の含有率を求める。
【0108】
(6)多孔性フィルムの透気抵抗度
100mm×100mmサイズの多孔性フィルム試料3枚からそれぞれ無作為に抽出した一箇所を選び、王研式透気度測定装置(旭精工(株)社製EG01-5-1MR)を用いて、JIS P 8117(2009)に準拠して測定し、その平均値を多孔性フィルムの透気抵抗度(秒/100cm)とした。
【0109】
(7)多孔質層の厚み
100mm×100mmサイズの多孔性フィルム試料を、接触式膜厚計((株)ミツトヨ製“ライトマチック”(登録商標)series318)を使用して5点の測定値を平均することによって厚さを求めた。超硬球面測定子φ9.5mmを用い、加重0.01Nの条件で測定した。さらに、多孔質層の厚みは、多孔性フィルムを無機粒子を含んだ塗料、およびフッ素含有重合体粒子を含んだ塗料に含まれる溶媒と同じ液で洗浄し、多孔質層を除去した多孔質基材を前記接触式膜厚計にて測定し、下記計算式にて得た。
【0110】
多孔質層の厚み(μm)=多孔性フィルムの厚み(μm)-多孔質基材の厚み(μm)。
【0111】
(8)重合体粒子の目付量
ポリエチレン多孔質基材に無機粒子を含んだ塗工液のみを塗工、乾燥した多孔性フィルム試料から50mm×50mm角の正方形に切り出し、室温25℃における質量(g)を測定し、1m当たりの重量に換算して、ポリエチレン多孔質基材と無機粒子を含んだ層の目付を算出する。次に、ポリエチレン多孔質基材に無機粒子を含んだ塗工液および、フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を塗工、乾燥した多孔性フィルム試料から50mm×50mm角の正方形に切り出し、室温25℃における質量(g)を測定し、1m当たりの目付に換算して、ポリエチレン多孔質基材と無機粒子を含んだ層とフッ素含有重合体粒子を含んだ層の目付を算出する。下記計算式にて、重合体粒子の目付量を得た。
【0112】
重合体粒子の目付量(g/m)=ポリエチレン多孔質基材と無機粒子を含んだ層とフッ素含有重合体粒子を含んだ層の目付(g/m)-ポリエチレン多孔質基材と無機粒子を含んだ層の目付(g/m
(9)粘着抑制性
重合体粒子を水にて濃度0.01質量%に希釈した分散液をアルミホイル上に滴下し、室温乾燥させた試料と、60℃で乾燥させた試料を調製した。その後、走査型電子顕微鏡(Hitachi,SU8220)を用いて、加速電圧2.0kV,50,000倍で2視野観察した。無作為に100個の粒子個数平均粒子径を測定した。室温乾燥させた試料の個数平均粒子径に対する、60℃で乾燥させた試料の個数平均粒子径の変化率[変化率=60℃で乾燥させた試料の個数平均粒子径/室温乾燥させた試料の個数平均粒子径]を分析した。変化率が1.5未満であれば「優」、変化率が1.5以上2.0未満であれば「良」、変化率が2.0以上3.0未満であれば「やや劣」、変化率が3.0以上であれば「劣」と評価し、変化率が2.0未満のとき良好な粘着抑制性と判定する。表2記載の「粘着抑制性」は、上記変化率の値である。
【0113】
(10)耐ブロッキング性
幅50mm×長さ50mmに2枚切り出し、多孔質膜同士が接触するように重ねて配置して、耐ブロッキング性評価の多孔性フィルムを得る。これを、幅60mm×長さ60mm、厚さ100μmのPETフィルム2枚で挟み、試験片を作成する。この試験片を0.5MPaの条件でプレスを行いながら、恒温恒湿器(エスペック株式会社、LHU-113)を用い、温度60℃、相対湿度75%で48時間の熱処理を行う。その後、試験片を取り出し、重ねた2枚の多孔性フィルムのそれぞれの端部に補助紙(幅50mm×長さ50mm)を取り付ける。この2枚の補助紙を(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2-500N(製品名)の上下チャック部に把持固定させ、剥離確度が180度となる剥離方式によって、剥離速度300mm/分にて剥離試験を行い、剥離強度を調べた。このとき、上記の条件で行った長さ30mm分の剥離試験における剥離強度の平均値を剥離強度とした。耐ブロッキング性を下記3段階にて評価を行った。剥離強度が0.5N/m以下であれば十分な耐ブロッキング性を有しており、剥離強度が0.5N/m以上1.0N/m未満であれば耐ブロッキング性を有しているとし、剥離強度が1.0N/m以上であれば耐ブロッキング性を有してないと判定する。表2記載の「耐ブロッキング性」は、これらの測定値と、判定基準である。
【0114】
(判定基準)
A :0.5N/m以下
B :0.5N/m以上、1.0N/m未満
C :1.0N/m以上
(11)多孔質層表面のフッ素含有重合体粒子の占有率
表面SEM-EDX画像を画像処理することにより測定した。詳細を以下に記載する。
【0115】
〈多孔質層表面SEM-EDX測定〉
多孔性フィルムから0.5cm×0.5cmの小片を切り出し、以下に示す条件にて、大気暴露下でセパレータ表面SEM-EDXを、場所を変えて5視野測定した。
【0116】
〈SEM-EDX測定条件〉
・測定装置SEM:日立ハイテクノロジー製電解放出型走査型電子顕微鏡 FE-SEM S-4800、EDX:Bruker AXS製 QUANTAX FLAT QUAD System Xflash 5060FQ
・SEM観察加速電圧:1.5kV
・EDX観察加速電圧:3.5kV
・エミッション電流:10μA
・測定倍率:300倍
・電子線入射角度:0°
・X線取出角度:35°~
・デッドタイム:1%
・マッピング元素:Al
・測定画素数:600×450ピクセル
・測定時間:600sec.
・明るさ:最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%~60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整
〈画像処理〉
上記で得られたSEM-EDX画像について、画像解析ソフトHALCON(Ver.13.0,MVtec社製)にて読み込みを行い、輪郭強調(微分フィルタ(emphasize、ローパスマスクの幅:3/ローパスマスクの高さ:3/コントラストの強調の強度:0.3)、エッジ強調フィルタ(shock_filter、時間ステップ長:0.5/繰り返し回数:1/エッジ検出のタイプ:canny/エッジ検出の平滑化:1)
の順で処理)を行った後、2値化した。
【0117】
なお、輪郭強調に用いる微分フィルタの「emphasize」、エッジ強調フィルタの「shock_filter」はHALCONに含まれる画像処理フィルタである。
【0118】
2値化について、グレイ値に対する閾値の下限を180、上限を255に設定し、180以上の部分はフッ素含有重合体が存在する部分とした。さらに、それらフッ素含有重合体が存在している領域のグレイ値を255、その他の領域のグレイ値を0に置き換え、グレイ値255を持つ連続したピクセル同士を連結し、フッ素含有重合体が存在する領域の面積を抽出後積算し、元画像の合計ピクセル数で除算することによって、当該SEM-EDX画像におけるフッ素含有重合体の占有率を算出した。
【0119】
上記の処理を得られたSEM-EDX画像5枚すべてについて行うことで、フッ素含有重合体の占有率を各々5個得た。これらの平均値をとったものを測定した多孔質層表面全体に対するフッ素含有重合体の占有率とした。
【0120】
(12)多孔質層断面におけるフッ素含有重合体粒子の占有率
ミクロトームにて多孔性フィルムからサンプル断面を切り出し、その断面を以下に示す条件にて、大気暴露下でセパレータ断面SEM-EDXを、場所を変えて5視野測定した。
【0121】
〈SEM-EDX測定条件〉
・測定装置SEM:日立ハイテクノロジー製電解放出型走査型電子顕微鏡 FE-SEM S-4800、EDX:Bruker AXS製 QUANTAX FLAT QUAD System Xflash 5060FQ
・SEM観察加速電圧:1.5kV
・EDX観察加速電圧:3.5kV
・エミッション電流:10μA
・測定倍率:10000倍
・電子線入射角度:0°
・X線取出角度:35°~
・デッドタイム:1%
・マッピング元素:Al
・測定画素数:600×450ピクセル
・測定時間:600sec.
・明るさ:最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%~60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整
〈画像処理〉
上記で得られた断面SEM-EDX画像について、画像解析ソフトHALCON(Ver.13.0,MVtec社製)にて読み込みを行い、輪郭強調(微分フィルタ(emphasize、ローパスマスクの幅:3/ローパスマスクの高さ:3/コントラストの強調の強度:0.3)、エッジ強調フィルタ(shock_filter、時間ステップ長:0.5/繰り返し回数:1/エッジ検出のタイプ:canny/エッジ検出の平滑化:1)
の順で処理)を行った後、2値化した。
【0122】
なお、輪郭強調に用いる微分フィルタの「emphasize」、エッジ強調フィルタの「shock_filter」はHALCONに含まれる画像処理フィルタである。
【0123】
2値化について、グレイ値に対する閾値の下限を180、上限を255に設定し、180以上の部分はフッ素含有重合体が存在する部分とした。さらに、それらフッ素含有重合体が存在している領域のグレイ値を255、その他の領域のグレイ値を0に置き換え、グレイ値255を持つ連続したピクセル同士を連結し、フッ素含有重合体が存在する領域を抽出した。得られたフッ素含有重合体が存在する領域を断面SEM画像と重ね合わせて、断面SEM画像上におけるフッ素含有重合体をマッピングした。
【0124】
フッ素含有重合体領域をマッピングした断面SEM画像を行方向に50分割し、各分割行領域におけるフッ素含有重合体面積を積算し、各行方向分割断面SEM画像領域におけるフッ素含有重合体の含有量を算出した。
【0125】
多孔質層の多孔質基材側である底面を表す行領域は、フッ素含有重合体をマッピングした断面SEM画像から決定し、多孔質層の上面を表す行領域は、行方向50列に分割した各分割行領域におけるフッ素含有重合体の含有率が30%未満である最も高い行を多孔質層の上面と決定する。
【0126】
得られた多孔質層の底面から上面までの行領域を3分割し、多孔質基材に接する領域を領域Aとし、領域Aに接する領域を領域B、領域Bに接する領域を領域Cと決定した。各領域におけるフッ素含有重合体面積を算出し、3領域の合計ピクセル数で除することによって、各領域におけるフッ素含有重合体の含有率を算出した。
【0127】
上記の処理を、得られたSEM-EDX画像、およびSEM画像5枚すべてについて行い、これらの平均値をとったものを、領域A、B、Cそれぞれのフッ素含有重合体の含有率とした。
【0128】
(13)押込み深さ率
ISO14577に準拠したナノインデンテーション法で測定した。図1に示す測定の模式図を用いて説明する。まず多孔性フィルム1に皺が入らないように、MD方向の両端部を把持部2および把持部3で固定した。次いで、把持部2と把持部3までの多孔性フィルム1の長さが1%伸張するように、スクリューねじ5を廻し、曲率半径300mmの鏡面仕上げのSUS台座4に多孔性フィルム1を固定した。次いで、SUS台座4に固定した多孔性フィルム1にバーコビッチ型ダイヤモンド圧子6を接触させ、負荷速度1mN/分で30秒間負荷を増加させ、負荷が0.5mNまで達した後(図2(A))、60秒間、負荷0.5mNで保持し(図2(B))、次いで、1mN/分の除荷速度で負荷0mNまで除荷した(図2(C))。この際、バーコビッチ型ダイヤモンド圧子6多孔性フィルム1に押し込まれた押込み深さをアントンパール社製UNHT3を用いて計測した。TD方向に50μm間隔で5点、そこからMD方向に50μm間隔で5点の合計25点の押込み試験を実施し、25点の測定の平均カーブより、Pd(0)を求めた。求めたPd(0)と、多孔質層の厚みからh(0)を算出した。
h(0)=Pd(0)/d×100
・Pd(0):1mN/minの負荷速度で30秒間圧入した後、0.5mNまで除荷した際の押込み深さ(μm)
・d:多孔質層の初期厚み(μm)
A(良):h(0)が20以上、B(不可):h(0)が5以上20未満で判断した。
【0129】
(14)150℃熱収縮率
多孔性フィルム捲回体から測定に必要な量を切り出し、負荷のかからない状態にて24時間放置した後、95mm×95mmの正方形に切り出し、中央から正方形の各辺に平行になるよう50mmの十字線を設け、ガラススケール(測定精度0.1mm)を用いて設けた50mmの十字線2辺の寸法を測定し(α)、クリーンペーパー((株)桜井株式会社、NEWSTACLEAN)に挟み、送風低温恒温器((株)ヤマト科学株式会社、DKN602)を用い、150℃×1時間の熱処理を行う。なお、熱処理中に試験サンプル片にかかる荷重および負荷は、クリーンペーパーで重ねたことによる軽微な荷重以外は無きこととする。送風低温恒温器から評価サンプルを取出し冷却した後、熱処理後の50mmの十字線2辺の寸法を、ガラススケールを用いて測定し(β)、以下の式(8)により熱収縮率を算出し、サンプル3枚の平均値を150℃熱収縮率とした。
150℃熱収縮率(%)=(α-β)/α×100・・・(8)
A(良):150℃熱収縮率が5%未満、B(可):150℃熱収縮率が5%以上、10%未満、C(不可):150℃熱収縮率が10%以上で判断した。
【0130】
(15)サイクル特性
(電池作製)
正極シートは、正極活物質としてLi(Ni5/10Mn2/10Co3/10)Oを92質量部、正極導電助剤としてアセチレンブラックとグラファイトを2.5質量部ずつ、正極結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部を、プラネタリーミキサーを用いてN-メチル-2-ピロリドン中に分散させた正極スラリーを、アルミ箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した(塗布目付:9.5mg/cm)。
【0131】
この正極シートを40mm×40mmに切り出した。このとき、活物質層の付いていない集電用のタブ接着部が、前記活物質面の外側に5mm×5mmの大きさになるように切り出した。幅5mm、厚み0.1mmのアルミ製のタブをタブ接着部に超音波溶接した。
【0132】
負極シートは、負極活物質として天然黒鉛98質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを1質量部、負極結着剤としてスチレン-ブタジエン共重合体1質量部を、プラネタリーミキサーを用いて水中に分散させた負極スラリーを、銅箔上に塗布、乾燥、圧延して作製した(塗布目付:5.5mg/cm)。
【0133】
この負極シートを45mm×45mmに切り出した。この時、活物質層の付いていない集電用のタブ接着部が、前記活物質面の外側に5mm×5mmの大きさになるように切り出した。正極タブと同サイズの銅製のタブをタブ接着部に超音波溶接した。
【0134】
次に、多孔性フィルムを55mm×55mmに切り出し、多孔性フィルムの両面に上記正極と負極を活物質層が多孔性フィルムを隔てるように重ね、正極塗布部が全て負極塗布部と対向するように配置して電極群を得た。1枚の90mm×200mmのアルミラミネートフィルムに上記正極・負極・多孔性フィルムを挟み込み、アルミラミネートフィルムの長辺を折り、アルミラミネートフィルムの長辺2辺を熱融着し、袋状とした。
【0135】
ジエチルカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPFを濃度1モル/リットルとなるように溶解させ、電解液を作製した。袋状にしたアルミラミネートフィルムに電解液1.5gを注入し、減圧含浸させながらアルミラミネートフィルムの短辺部を熱融着させてラミネート型電池とした。
【0136】
作製したラミネート型電池の放電レート特性を下記手順にて試験を行い、放電容量維持率にて評価した。
【0137】
充電条件が3C、4.25Vの定電流充電、放電条件が3C、2.7Vの定電流放電を500回行った。
【0138】
〈放電容量維持率の算出〉
(500回後の放電容量)/(1回目の放電容量)×100で放電容量維持率を算出した。上記ラミネート型電池を5個作製し、その平均値を放電容量維持率とした。
【0139】
A(良):放電容量維持率が80%以上、B(可):放電容量維持率が60%以上80%未満、C(不可):放電容量維持率が60%未満で判断した。
【0140】
(実施例1)
無機粒子を含んだ塗工液は、硫酸バリウム(平均粒径=1.2μm)100重量部に対し、0.5重量部(有効成分)のポリアクリル酸系分散剤(東亜合成(株)製“アロン”(登録商標)A-6114)を用意し、水に加える。次いで、ディスパー型の羽根を取り付けたスリーワンモーター(東機産業(株)製)を用いて撹拌しながら、硫酸バリウムを全量加える。次いで、1000rpmで60分攪拌し、固形分率が60重量%の混合液を得た。
【0141】
得られた混合液を、ビーズミル分散機(淺田鉄工(株)製ピコミルPCM-LR)、及びビーズ粒径が0.5mmのジルコニアビーズ(東レ(株)製トレセラムφ0.5mm)を用い、ビーズ充填率55体積%、周速6m/sec、流速16kg/hrの条件で1回行い、マスターバッチ液を得た。
【0142】
得られたマスターバッチ液に、バインダーとして、アクリルエマルジョン(昭和電工(株)製、ポリゾールAP-4735)3.5重量部(有効成分)、及び水を加えた。次いで、濡れ剤(サンノプコ(株)製SNウェット366)0.5重量部を加え、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーター(東機産業(株)製)にて500rpmで10分撹拌し、固形分率55重量%の無機粒子を含んだ塗工液を製造した。
【0143】
フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液は、以下の手順にて製造した。イオン交換水120部およびアデカリアソーブSR-1025(アデカ(株)製乳化剤)1部を反応器に仕込み、撹拌を開始した。反応器を窒素雰囲気下にして2,2’-アゾビス(2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)(和光純薬工業(株)製)0.4部を添加した。2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(3FMA)26部、シクロヘキシルアクリレート(CHA)41部、イソボルニルメタクリレート(IBOMA)30部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)2部、ポリアルキレングリコールジメタクリレート(ブレンマー(登録商標)PDE-600(日油(株)製))1部、アデカリアソーブSR-1025(アデカ(株)製乳化剤)9部およびイオン交換水115部からなる混合物を60℃で2時間かけて連続的に滴下し、滴下終了後60℃で4時間重合を行い、重合体粒子を得た。この重合体粒子を、3質量%となるように純水を用いて混合し、攪拌機で分散して、フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を製造した。
【0144】
ポリエチレン多孔質基材(厚み9μm、透気度100秒/100cc)の片面に無機粒子を含んだ塗工液をチャンバーグラビアにて塗工し、溶媒が揮発するまで50℃の熱風オーブンにて乾燥し、無機粒子を含んだ層を得た。この無機粒子を含んだ層に、2フッ素含有重合体粒子を含んだ塗工液を外部混合方式の2流体スプレーノズル(ノズル径:0.1mm)を使用して、エア圧力0.04MPaの条件にて、重合体粒子の目付量が1.0g/mとなるよう塗工した。その後、純水が揮発するまで50℃の熱風オーブンにて乾燥することで多孔質層を形成した多孔性フィルムを得た。
【0145】
得られた重合体粒子および、多孔性フィルムの評価結果は表1および表2に示す通りであった。
【0146】
(実施例2~7、比較例1~4)
表1に示す内容に変更したこと以外は、実施例1と同様にして多孔性フィルムを得た。得られた評価結果等は表2に示す通りであった。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
なお、表1に示した単量体の組成比は単量体成分の総量を100質量部とした場合の各成分の割合である。また、表1における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
・3FMA:2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(式(1)中、R:-CH、R:-CHCF、aは重合度)
・CHA:シクロヘキシルアクリレート(式(2)中、R:-H、R:シクロヘキシル基、bは重合度)
・IBOMA:イソボルニルメタクリレート(式(2)中、R:-CH、R:イソボルニル基、bは重合度)
・IBOA:イソボルニルアクリレート(式(2)中、R:-H、R:イソボルニル基、bは重合度)
・4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
・MMA:メタクリル酸メチル
【0150】
【化5】
【0151】
【化6】
【符号の説明】
【0152】
1:セパレータ
2、3:把持部
4:SUS台座
5:スクリューねじ
6:バーコビッチ型ダイヤモンド圧子












図1
図2