(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137635
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定化方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240927BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240927BHJP
C01B 32/60 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D61/58
B01D69/02
C01B32/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023181414
(22)【出願日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2023048995
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】平田 一弘
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006KA33
4D006KA52
4D006KA54
4D006KA56
4D006KD30
4D006KE15Q
4D006MA21
4D006MB06
4D006PA02
4D006PB03
4D006PB04
4D006PB06
4D006PB08
4D006PC80
(57)【要約】 (修正有)
【課題】膜ろ過を利用して二酸化炭素を固定化する炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定化方法において、膜の表面にアルカリ土類金属の炭酸塩がスケールとして付着することを抑制し、被処理水の処理性能の低下を抑制する装置及び方法を提供する。
【解決手段】本発明の炭酸塩固定化装置は、塩化カルシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成することを特徴とする。塩化カルシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を使用することで、被処理水を濃縮した際に生じた一部のアルカリ土類金属の炭酸塩が膜を通過することから、膜の表面にスケールと呼ばれる炭酸塩が付着して被処理水の処理性能が低下することを抑制でき、効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化カルシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成する、炭酸塩固定化装置。
【請求項2】
塩化カルシウムの阻止率95.0%以下の膜を用いることを特徴とする、請求項1に記載の炭酸塩固定化装置。
【請求項3】
塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成することを特徴とする炭酸塩固定化装置。
【請求項4】
塩化マグネシウムの阻止率95.0%以下の膜を用いることを特徴とする、請求項3に記載の炭酸塩固定化装置。
【請求項5】
前記膜は、塩化ナトリウムの阻止率1.0~99.0%であり、被処理水はナトリウムイオンを含むことを特徴とする、請求項1から請求項4の一に記載の炭酸塩固定化装置。
【請求項6】
塩化ナトリウムの阻止率95.0%以下の膜を用いることを特徴とする、請求項5に記載の炭酸塩固定化装置。
【請求項7】
塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成する炭酸塩生成工程を含むことを特徴とする、炭酸塩固定方法。
【請求項8】
塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を備える第1半透膜装置と、
前記膜を備える第2半透膜装置と、
大気供給部と、からなる炭酸塩固定化装置であって、
アルカリ土類金属イオンを含む被処理水は前記第一半透膜装置に導入され、前記第1半透膜装置からの濃縮液には前記大気供給部から大気が供給された後に前記第2半透膜装置に導入されることにより被処理水をさらに濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成する、炭酸塩固定化装置。
【請求項9】
前記膜は、塩化ナトリウムの阻止率が、1.0%~99.0%であり、被処理水はナトリウムイオンを含むことを特徴とする、請求項8に記載の炭酸塩固定化装置。
【請求項10】
塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮する第1半透膜処理工程と、
第1半透膜処理工程を経た前記被処理水の濃縮液に大気を吹き込む大気供給工程と、
前記大気供給工程を経て大気を吹き込まれた前記被処理水の濃縮液をさらに濃縮する第2半透膜処理工程を含むことを特徴とする、炭酸塩固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水(例えば、海水)を濃縮して炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウムを生成し二酸化炭素を固定化する装置及びその炭酸塩の固定化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の問題に関しては、地球温暖化の大きな原因とされ、全世界的に二酸化炭素の環境への排出を抑制することが早急に対応すべき課題となっている。そこで、大気中の二酸化炭素量を減少させるため、炭酸塩にして二酸化炭素を固定化することが検討されている。
【0003】
特許文献1には、通常、海水を蒸発させると、炭酸塩である炭酸カルシウムが沈殿することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炭酸塩を生成する方法として、特許文献1に記載されるように、海水のような二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンを含む溶液を加熱により蒸発させ、濃縮させることにより炭酸塩を得ようとすると、溶液を蒸発させるための大きなエネルギーが必要になるため、当該方法は採用しがたい実情がある。
【0006】
その他の濃縮手段として、逆浸透膜(RO膜)を利用して海水のような二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンを含む溶液を濃縮する手段がある。RO膜を用いて海水などを濃縮することにより、加熱蒸発のような大きなエネルギーを必要とすることなく、アルカリ土類金属の炭酸塩を得ることができる。しかしながら、RO膜を用いた濃縮方法では、RO膜の表面にアルカリ土類金属の炭酸塩がスケールとして付着して被処理水の処理性能が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、膜ろ過を利用して二酸化炭素を固定化する炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定化方法において、膜の表面にアルカリ土類金属の炭酸塩がスケールとして付着することを抑制し、被処理水の処理性能の低下を抑制する炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、塩化カルシウム又は塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオン(主にカルシウムイオン)を含む被処理水を濃縮しアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸カルシウム及び/又は炭酸マグネシウム)を生成することで二酸化炭素を固定化できることを見出して本発明を完成させた。
ずなわち、本発明は、以下の炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の炭酸塩固定化装置は、塩化カルシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の炭酸塩固定化装置によれば、半透膜を使用した濃縮を行うことから、被処理水を加熱蒸発させて濃縮する場合に比べ、少ないエネルギーで被処理水を濃縮でき、炭酸塩として二酸化炭素を固定化できる効果がある。
また、塩化カルシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を使用することで、被処理水を濃縮した際に生じた一部のアルカリ土類金属の炭酸塩が膜を通過することから、膜の表面にスケールと呼ばれる炭酸塩が付着して被処理水の処理性能が低下することを抑制でき、効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる。
【0011】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、塩化カルシウムの阻止率95.0%以下の膜を用いることを特徴とする。
この炭酸塩固定化装置によれば、より少ないエネルギー(圧力)で効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる。
【0012】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成することを特徴とする。
本発明の炭酸塩固定化装置によれば、半透膜を使用した濃縮を行うことから、被処理水を加熱蒸発させて濃縮する場合に比べ、少ないエネルギーで被処理水を濃縮でき、炭酸塩として二酸化炭素を固定化できる効果がある。
また、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を使用することで、被処理水を濃縮した際に生じた一部のアルカリ土類金属の炭酸塩が膜を通過することから、膜の表面にスケールと呼ばれる炭酸塩が付着して被処理水の処理性能が低下することを抑制でき、効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる。
【0013】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、塩化マグネシウムの阻止率95.0%以下の膜を用いることを特徴とする。
この炭酸塩固定化装置によれば、より少ないエネルギー(圧力)で効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる。
【0014】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、膜は、塩化ナトリウムの阻止率1.0~99.0%であり、被処理水はナトリウムイオンを含むことを特徴とする。
この炭酸塩固定化装置によれば、被処理水はナトリウムイオンを含む場合であっても、より効率的に二酸化炭素の固定化を行うことができる。
【0015】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、塩化ナトリウムの阻止率95.0%以下の膜を用いることを特徴とする。
この炭酸塩固定化装置によれば、より少ないエネルギー(圧力)で効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる。供給することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の炭酸塩固定方法は、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成する炭酸塩生成工程を含むことを特徴とする。
本発明の炭酸塩固定方法によれば、半透膜を使用した濃縮を行うことから、被処理水を加熱蒸発させて濃縮する場合に比べ、少ないエネルギーで被処理水を濃縮でき、炭酸塩として二酸化炭素を固定化できる効果がある。
また、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を使用することで、被処理水を濃縮した際に生じた一部のアルカリ土類金属の炭酸塩が膜を通過することから、膜の表面にスケールと呼ばれる炭酸塩が付着して被処理水の処理性能が低下すること抑制でき、効率的に二酸化炭素の固定化をすることができる
【0017】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を備える第1半透膜装置と、膜を備える第2半透膜装置と、大気供給部と、からなる炭酸塩固定化装置であって、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水は第一半透膜装置に導入され、第1半透膜装置からの濃縮液には大気供給部から大気が供給された後に前記第2半透膜装置に導入されることにより被処理水をさらに濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成することを特徴とする。
本発明の炭酸塩固定化装置によれば、半透膜を使用した濃縮を行うことから、被処理水を加熱蒸発させて濃縮する場合に比べ、少ないエネルギーで被処理水を濃縮でき、炭酸塩として二酸化炭素を固定化できる効果がある。また、二酸化炭素源として大気を導入することにより、大気中の二酸化炭素の固定も行うことが出来る。
【0018】
また、本発明の炭酸塩固定化装置の一実施態様としては、膜は、塩化ナトリウムの阻止率が、1.0%~99.0%であり、被処理水はナトリウムイオンを含むことを特徴とする。
この炭酸塩固定化装置によれば、被処理水はナトリウムイオンを含む場合であっても、より効率的に二酸化炭素の固定化を行うことができる。
【0019】
また、上記課題を解決するための本発明の炭酸塩固定方法は、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮する第1半透膜処理工程と、第1半透膜処理工程を経た被処理水の濃縮液に大気を吹き込む大気供給工程と、大気供給工程を経て大気を吹き込まれた前記被処理水の濃縮液をさらに濃縮する第2半透膜処理工程を含むことを特徴とする。
本発明の炭酸塩固定方法によれば、半透膜を使用した濃縮を行うことから、被処理水を加熱蒸発させて濃縮する場合に比べ、少ないエネルギーで被処理水を濃縮でき、炭酸塩として二酸化炭素を固定化できる効果がある。
また、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下の膜を使用することで、被処理水を濃縮した際に生じた一部のアルカリ土類金属の炭酸塩が膜を通過することから、膜の表面にスケールと呼ばれる炭酸塩が付着して被処理水の処理性能が低下すること抑制でき、効率的に二酸化炭素の固定化をすることができるまた、二酸化炭素源として大気を導入することにより、大気中の二酸化炭素の固定も行うことが出来る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、膜ろ過を利用して二酸化炭素を固定化する炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定化方法において、膜の表面にアルカリ土類金属の炭酸塩がスケールとして付着することを抑制し、被処理水の処理性能の低下を抑制する炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施態様に係る炭酸塩固定化装置の態様の一例を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の第2の実施態様に係る炭酸塩固定化装置の態様の他の一例を示す概略説明図である。
【
図3】A図は、本発明の第3の実施態様であり、炭酸塩固定化装置を備えた船舶の船首からみた例を示す概略説明図である。B図は、炭酸塩固定化装置を備えた船舶を側面からみた一例を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の第3の実施態様における炭酸塩固定化装置で、膜の外側から内側への浸透が生じる態様例を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の第3の実施態様における炭酸塩固定化装置で、膜の内側から外側への浸透が生じる態様例を示す概略説明図である。
【
図6】本発明の第4の実施態様に係る炭酸塩固定化装置の態様の一例を示す概略説明図である。
【
図7】膜近傍における溶質の濃度分極現象についての概略説明図である。
【
図8】本発明における、淡水のpH変化に伴う炭酸物質の存在比を示す概略説明図である。
【
図9】本発明における、淡水と海水のpH変化に伴う炭酸物質の存在比の差を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、一部のアルカリ土類金属イオンを透過させにくい半透膜を使用する。被処理水の中の溶解した二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンを含む被処理水を半透膜で濃縮することで、水分子を透過させて減少させつつ、アルカリ土類金属イオン(特にカルシウムイオン)の濃度及び炭酸イオン濃度を上昇させる。これにより、アルカリ土類金属イオンと炭酸イオンが反応し、アルカリ土類金属の炭酸塩を生成させて二酸化炭素を固定化するものである。
さらに、pHが7を超える被処理水を半透膜で濃縮する場合、半透膜により濃縮された濃縮液は、水分子が減少し、水酸化物イオンの濃度が上昇する。よって、濃縮液のpHが上昇することにより、炭酸イオンが生成しやすくなり、アルカリ土類金属の炭酸塩がより生成しやすくなる効果を有する。
【0023】
ここで、濃縮液のpHが上昇することにより、炭酸イオンが生成しやすくなることについて説明すると、二酸化炭素の溶解した炭酸水では、一般的には式1に示すような化学平衡式が成り立っている。
【数1】
【0024】
式1に示すように、炭酸水では、炭酸(H2CO3)の一部が水素イオン(H+)と炭酸水素イオン(HCO3-)に電離する。そして、炭酸水素イオンから水素イオンがさらに電離することで、炭酸イオン(CO3
2-)が発生する。
【0025】
ここで、純水中に二酸化炭素が溶解した液(炭酸水)中の炭酸(H
2CO
3)や炭酸水素イオン(HCO
3
-)から炭酸イオン(CO
3
2-)の存在比が多い状態にするには、
図6に示されるように、pHを上昇させることで、炭酸水中の炭酸イオン(CO
3
2-)の存在比を上昇させることができることが知られている。
【0026】
したがって、上記の現象を利用し、特にpHが7を超える被処理水を半透膜で濃縮することで、pHを上昇させることができ、炭酸イオン(CO3
2-)の存在比を増加させることで、アルカリ土類金属の炭酸塩をより効率よく生成することができる。
【0027】
上記のように半透膜を利用し、被処理水を濃縮することで、従来の海水等の被処理水を蒸発(単蒸留法と呼ばれる方法等)させて濃縮する場合と比較して、少ないエネルギーで被処理水を濃縮し、炭酸塩を得ることができる効果がある。
具体的に説明すると、被処理水である海水中の水分を蒸発させて濃縮し、炭酸塩を得ようとする場合、水分を蒸発させるためのエネルギーは、約626kWh/m3であるのに対し、半透膜を使用して海水から純水を製造する場合のエネルギーは、約0.69kWh/m3である。
【0028】
本発明では、一般的に海水から淡水を製造する際に使用される半透膜ではなく、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0~99.0%かつ塩化ナトリウムの阻止率95.0%以下の半透膜(NF膜等)を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成する。阻止率とは、特記なき限り、見かけの阻止率をいう。
海水から淡水を製造する際に使用される半透膜では、ナトリウムイオンやアルカリ土類金属イオンをできるだけ透過させなくすることで、逆浸透膜を透過した透過液に塩化ナトリウム等が含有しないようにすることが求められている。しかし、その要求を満たす半透膜を使用して海水から淡水を生成する場合、海水に含まれるアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等)や硫酸塩(硫酸カルシウムや硫酸マグネシウム等)が逆浸透膜の表面に付着し(スケール)、被処理水の処理能力が徐々に低下する状態となる。そのため、海水から淡水を生成する逆浸透膜を使用した装置では、スケールの発生を抑制することが求められている。
スケールは、膜により透過を阻止された溶質が、濃度分極又は濃縮効果によって膜面において濃度が上昇し、それらの一部が過飽和濃度となって膜面に析出することにより生じる。スケールは、膜の透過流束の減少を引き起こすため膜の性能を低下させる。
【0029】
濃度分極とは、濃縮水側の膜面において膜により透過を阻止された溶質が蓄積することにより、膜面の溶質濃度が大きくなることをいう。
図5は、膜近傍における溶質の濃度分極現象についての概略説明図である。被処理水10の溶質が、半透膜41a又は42aに到達すると、膜を透過できない溶質である塩やイオンは膜面に蓄積する。その結果膜面の溶質濃度は上昇し、被処理水10の溶質濃度よりも高くなる。膜面での溶質濃度が上昇すると、膜表面近傍に濃度分布が生じるので、その濃度勾配に従って膜面に溜まった溶質は拡散により膜面から離れる方向に戻っていく。定常状態では被処理水10の流れにより運ばれてくる溶質量、拡散で戻る溶質量、膜を透過していく溶質量が釣り合う結果、
図5に示すように、濃縮液溶質濃度51は半透膜13に近づくに従って上昇し、膜面において最大値をとる。また、半透膜13を透過した透過液溶質濃度52は、被処理水10の溶質濃度より低くなる。
海水中の炭酸イオン及びカルシウムイオンは過飽和状態にある。濃度分極も炭酸カルシウムを生成する契機となる。
【0030】
本発明では、溶解した塩化ナトリウム等の一部を通過させる半透膜を使用することで、海水から淡水にする場合の逆浸透膜を使用するよりも少ない圧力で濃縮することができる。さらに、本発明の膜を使用することで、濃縮する際に生成した微細な炭酸塩の一部が半透膜を通過する。よって、濃縮により生じた炭酸塩のうちの一部(微結晶炭酸塩)を透過液側に移動させることができることから、一部の炭酸塩を透過液側に排出でき、半透膜がスケールで処理できなくなることを抑制しつつ、二酸化炭素を効率よく炭酸塩として固定化できる炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法とすることができる。
【0031】
なお、濃縮側に塩濃度を有する被処理水を導入し、透過側にも塩濃度を有する液を導入することが好ましい。また、透過側の液の塩濃度は、濃縮側の被処理水の塩濃度と同じであることがより好ましい。さらに、透過側の液の塩濃度は、濃縮側の被処理水の塩濃度よりも高いことがさらにより好ましい。
透過側の液の塩濃度を有することにより、濃縮側の被処理水の塩濃度と透過側の液の塩濃度との濃度差が小さくなり、少ないエネルギーで被処理水を濃縮することができ、二酸化炭素の固定化をすることができる。また、希釈側の液の塩濃度を濃縮側の被処理水の塩濃度よりも高くすることで、浸透圧(正浸透)を生じさせ、濃縮側の被処理水をより少ないエネルギーで濃縮するようにしてもよい。
【0032】
以下、本発明に係る炭酸塩固定化装置の実施態様を詳細に説明する。また、本発明に係る炭酸塩固定方法の説明については、本発明に係る炭酸塩固定化装置の動作に係る説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法については、本発明に係る炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法を説明するために例示したに過ぎず、これに限定されるものではない。
【0033】
〔第1の実施態様〕
図1を参照し、本発明の第1の実施態様について説明する。本発明の第1の実施態様の炭酸塩固定化装置100は、半透膜13を有し、半透膜13は、被処理水10を濃縮することで炭酸塩として二酸化炭素を固定化するものである。
【0034】
[被処理水]
被処理水10は、二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンを含む水溶液であり、半透膜13で濃縮された際に、アルカリ土類金属のイオン濃度(特にカルシウムイオン)が上昇し、その炭酸塩が生じやすくなる水溶液であれば、特に限定されない。
本実施態様において利用できる好ましい被処理水10としては、二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンが存在する水溶液であれば、その由来については特に限定されない。人為的に二酸化炭素を溶解させたり、人為的にアルカリ土類金属イオンとなる物質を溶解させたりしたものであってもよいし、初めから二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンが溶解した水溶液を用いてもよい。例えば、海水、河川水、水道水、純水、工場からの排水・廃水、埋立地の浸出水等が挙げられる。
【0035】
また、被処理水10は、二酸化炭素とアルカリ土類金属イオンを含む水溶液であることに加え、pHが7.0を超える水溶液が好適に使用される。被処理水10のpHは、好ましくは、pH7.5以上、さらに好ましくは、pH8.0以上である。
被処理水10のpHが7を超える場合、被処理水10が濃縮された際、水分子が半透膜13を透過して減少する一方、水酸化物イオンが透過せずにその濃度が上昇することから、濃縮された被処理水10は、pHが高くなり、炭酸イオンが生成しやすくなる効果がある。
【0036】
さらに、被処理水10は、アルカリ土類金属イオンとしてカルシウムイオンを多く(主成分として)含有することが好ましく、また、炭酸イオンの塩及びアルカリ土類金属イオンの塩を除く、その他の塩類を含有する水溶液であってもよい。その他の塩類を含有する被処理水10としては、海水が例示できる。
図7は、海水中とその他の塩類を含まない純水中とにおける、pH変化を伴う炭酸物質の存在比を示した図である。
海水中の炭酸イオンは、pHが約6.5付近から炭酸イオンが生成され始める一方、その他の塩類を含まない純水中の炭酸イオンは、pHが約8付近で生成され始めることがわかる。
つまり、その他の塩類を含有する場合の水溶液のpHと、その他の塩類を含有しない場合の水溶液のpHとが同じ場合、その他の塩類を含有する水溶液の方が、多くの炭酸イオンを生成しやすい状態であることから、被処理水10が、その他の塩類を含有する場合、pHを高くしなくても、炭酸イオンを効率よく生成させることができる効果がある。
なお、炭酸イオンが生成され始めるpHは、その他の塩類の含有量が多くなるほど、低いpHで炭酸イオンが生成し始める傾向がある。
【0037】
以上の観点から、被処理水10は、アルカリ土類金属イオンを十分に含有し、pHが8.0以上である海水が好適な水溶液として例示できる。
【0038】
[処理槽]
処理槽12は、被処理水10を流す流路を確保できればよく、特に素材や形状、大きさは問わない。処理槽12は、後述する半透膜13で隔てられるように、第1流路12aと第2流路12bとに分けられている。また、第1流路12a及び第2流路12bは、各々に被処理水10が供給される。また、本実施の態様では、第1流路12aの被処理水10と第2流路12bの被処理水10とが互いに混ざり合わない状態となっている。
【0039】
[半透膜]
半透膜13は、被処理水10の水分子を透過させかつ被処理水10を濃縮した際に生成されたアルカリ土類金属の炭酸塩17の一部(微結晶炭酸塩17a)が透過液側に通過し、微結晶炭酸塩17aよりも大きく半透膜を透過できない不透過炭酸塩17bが濃縮液側に残る(透過液側に通過させることのない)膜が使用される。
また、アルカリ土類金属の炭酸塩17を生成させるためには、濃縮液側にアルカリ土類金属イオンが存在していることが必要であることから、半透膜13は、水和した一部のアルカリ土類金属イオンが透過液側に通過し、残りの水和した一部のアルカリ土類金属イオンが濃縮側に残る(透過液側に通過させない)膜であることが好ましい。なお、半透膜13としては、被処理水10を濃縮した際に透過液側のアルカリ土類金属イオンの濃度よりも濃縮液側のアルカリ土類金属イオン濃度が高くなるようにすることが好ましい。このようにすることで、濃縮液側で効率よくアルカリ土類金属の炭酸塩17を生成しつつ、一部のアルカリ土類金属の炭酸塩(微結晶炭酸塩17a)を透過液側に排出することができ、スケールにより濃縮ができなくなることを抑制しつつ炭酸塩化をすることができる。
【0040】
半透膜13に設けられた孔の径の大きさは、アルカリ土類金属の炭酸塩の一分子の直径の大きさを越えかつアルカリ土類金属の炭酸塩が2分子並んだ状態で通過できない大きさ(アルカリ土類金属の炭酸塩の一分子の直径の2倍)未満であることが好ましい。
アルカリ土類金属の炭酸塩の一分子の直径以下の場合、透過液側に炭酸塩が排出されにくくなる虞があり、半透膜13に設けられた孔の径が大きすぎると、水和したアルカリ土類金属イオンも通過しやすくなることから、濃縮液側でアルカリ土類金属の炭酸塩17の生成効率が低下する虞がある。
なお、被処理水10の濃縮は、圧力をかけて行われることから、膜に設けられた孔の径の大きさは、アルカリ土類金属の炭酸塩の一分子の直径以下でも、その圧力により膜の孔の径が押し広げられて通過できる径の大きさであってもよい。
【0041】
半透膜13に設けられた孔の径の具体的な大きさとしては、0.2nm以上5.0nm以下の膜が適用できる。
半透膜13に設けられた孔の径の下限値は、0.3nm以上が好ましく、より好ましくは0.4nm以上であり、さらにより好ましくは0.5nm以上である。
また、半透膜13に設けられた孔の径の上限値は、4nm以下が好ましく、より好ましくは3nm以下であり、さらにより好ましくは2nm以下である。
【0042】
また、本実施の態様で使用可能な半透膜13としては、一価イオン(ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオン)を多く透過させ、二価イオン(カルシウムイオンやマグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン)が透過しにくい膜が好ましい。半透膜13の具体例としては、アルカリ土類金属を含む2価イオンの阻止率の指標として用いられる塩化マグネシウムの阻止率が、1.0以上~99.0%以下の膜が使用でき、より好ましくは、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0以上~99.0%以下かつ塩化ナトリウムの阻止率95.0%以下の膜を使用することができる。
【0043】
塩化マグネシウムの阻止率の下限値としては、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、さらにより好ましくは60%以上である。
また、塩化マグネシウムの阻止率の上限値は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは70%以下である。
【0044】
塩化マグネシウムの阻止率が下限値よりも小さい場合、濃縮液側のアルカリ土類金属イオンの濃度が小さくなりすぎて炭酸塩が生成しにくく、二酸化炭素の固定化の効率が低下する虞がある。また、塩化マグネシウムの阻止率が上限値よりも大きい場合、マグネシウムイオンが半透膜13を透過しにくくなることから、濃縮に一定の圧力が必要となり、炭酸塩の生成に必要なエネルギーが大きくなる。
【0045】
また、塩化ナトリウムの阻止率の下限値としては、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、さらにより好ましくは60%以上である。
また、塩化ナトリウムの阻止率の上限値は、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以上、さらにより好ましくは70%以下である。
【0046】
塩化ナトリウムの阻止率が上限値よりも大きい場合、ナトリウムイオンを透過液側に透過させる圧力が必要になり、圧力を加えるエネルギーが多く必要になる。
【0047】
半透膜13の塩化マグネシウムの阻止率と塩化ナトリウムの阻止率は、を0.15~0.20重量%の塩化ナトリウム水溶液及び塩化マグネシウム水溶液を被処理水として使用し、1.0~1.5MPaの圧力で濃縮した場合に、濃縮前(圧力をかける前)の状態から圧力を掛けて濃縮した後の濃縮液側に残った塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムの量から割り出した数値である。
表1には、半透膜13として、日東電工社製のNTR-7410、NTR-7450、NTR-7250、NTR-729HF、NTR-729HRの場合の測定結果を示す。
【0048】
【0049】
NTR-729HRでは、一価イオン及び二価イオンの多くを阻止してしまうため、高い圧力が必要になり、また、膜にスケールが付着しやすくなる虞がある。
一方、NTR-729HFの場合、10%の二価イオンが透過しているため、濃縮液の側で炭酸塩が生じやすく、一定の量の炭酸塩が透過液側に排出されている点から好ましい。
また、NTR-7250の場合、10%の二価イオンが透過しておりかつ一価イオンも40%透過していることから小さい圧力で濃縮がしやすく、炭酸塩化も効率的に行える点でより好ましい。
【0050】
本発明の発明者は、被処理水10として海水を用い、半透膜13としてNTR-7250を使用して濃縮する試験を行った。その結果、圧力を掛け濃縮した濃縮液のカルシウムイオン濃度と透過液のカルシウムイオン濃度の合計が、圧力を掛ける前の被処理水10のカルシウムイオンの合計量よりも少なくなっていることを確認した。以上のことから、NF膜と呼ばれる膜を使用することで、アルカリ土類金属の炭酸塩17が生成され、その一部が、微結晶炭酸塩17aとして膜を透過して透過液側に移動していることが推察される。
【0051】
また、表2には、半透膜13として使用しうる、Dow Filmtec社製のNF270、及び、Hydranautics社製のESNA1-LF2ESNA3の場合の、カルシウムイオンの阻止率の測定結果を示す。
【0052】
【0053】
本発明の実施態様においては、一定程度のアルカリ土類金属の炭酸塩17が半透膜を透過することを許容しつつ、膜近傍における濃度分極によるアルカリ土類金属の炭酸塩17の生成を促進するものである。したがって、例えばアルカリ土類金属イオンであれば、高い阻止率である必要はない。
【0054】
[加圧手段]
加圧手段14は、被処理水10を半透膜23に加圧する手段であれば、特に限定されない。加圧手段14は、被処理水10に水流を与える手段が例示できる。水流を与えられた被処理水10が、半透膜23に衝突するように第1流路12aに供給されることで、被処理水10を半透膜23に加圧する。具体的には、被処理水10に水流を与えるポンプや海洋の波で被処理水10を半透膜13に衝突(加圧)させたり、炭酸塩固定化装置100を船舶に取り付け、船の推進力により半透膜13に海水のような被処理水10を衝突させて加圧したりする方法を用いることができる。
加圧手段14が被処理水10を半透膜13に加圧することで、第1流路12aから第2流路12bへ水分子の浸透が生じ、第1流路12aの被処理水10が濃縮され、炭酸塩17が生成される。なお、第1流路12aの被処理水10は、濃縮液15となり、第2流路12bの被処理水10は、透過液16となる。
【0055】
[炭酸塩固定化装置の動作]
図1を参照し、炭酸塩固定化装置100の動作について説明する。なお、以下の説明では、カルシウムイオン、マグネシウムイオン及びナトリウムイオンを含有する被処理水10(海水)を使用し、半透膜13は、日東電工社製のNTR-7250を使用した場合で説明する。
まず、
図1に示すように、被処理水10が、第1流路12a(濃縮液側)に供給され、半透膜13に圧力が掛かるように加圧手段14で流れる(
図1の場合、上側から下側に向かって)ように供給される。
また、透過液側の第2流路12bに被処理水10が供給される。このとき、透過液側の被処理水10は、濃縮液側とは反対の側に流れるように(
図1の場合、下側から上側に向かって)ように供給される。なお、透過液側の被処理水10の流れは、半透膜13に圧力を与えない流量又は濃縮液側の圧力よりも小さい圧力である。
【0056】
以上の動作状況とすることで、濃縮液側の被処理水10が濃縮され、アルカリ土類金属の炭酸塩17が生成される。この工程を、塩化マグネシウムの阻止率が、1.0%以上~99.0%以下かつ塩化ナトリウムの阻止率95.0%以下の膜を用いて、アルカリ土類金属イオンを含む被処理水を濃縮してアルカリ土類金属の炭酸塩を生成する、炭酸塩生成工程とする。
生成されたアルカリ土類金属の炭酸塩17は、一部(微結晶炭酸塩17a)が透過液側に移動し、残部(透過側に移動していない微結晶炭酸塩17a含む残りの炭酸塩)が濃縮液側に残る状態となる。
その後、第1流路12aの被処理水10(濃縮液15)の流れに乗って、アルカリ土類金属の炭酸塩17が下流側に流れたり、半透膜13の表面に付着したりする。また、第2流路12bの被処理水10(透過液16)の流れに乗って、アルカリ土類金属の炭酸塩17が排出される。
【0057】
[第2の実施態様〕
図2を参照し、本発明の第2の実施態様について説明する。本発明の第2の実施態様の炭酸塩固定化装置200は、半透膜13を介して区画された第1流路12a及び第2流路12bを備え、第1流路12a及び第2流路12bは、被処理水10が、第1流路12aを通過した後に、第2流路12bを通過するように連結され、第1流路12aの被処理水10を濃縮することを特徴とする炭酸塩固定化装置200である。
なお、本発明の第2の実施態様において、第1の実施態様の炭酸塩固定化装置100と同じ機能、構造のものは、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0058】
[処理槽]
処理槽22は、被処理水10を貯留可能であればよく、特に素材や形状、大きさは問わない。処理槽22は、半透膜13で隔てられるように、第1流路12aと第2流路12bとに分けられている。また、処理槽22には、第1流路12aと第2流路12bを連結する連結流路12cが存在する。第1流路12aと連結流路12cと第2流路12bは連結されており、被処理水10は、第1流路12aを通過した後、連結流路12cを通過して第2流路12bを通過するという順序で流れるようになっている。なお、第1流路12aと第2流路12bと連結流路12cをあわせて、流路と表現する。
【0059】
[半透膜]
半透膜13は、第1流路12aと第2流路12bを区画するように配置される。第1流路12aの上流側から被処理水10が第1流路12aの下流側に向けて流れるに従って、第1流路12aの被処理水10の水分子が第2流路12bの側へ浸透し、濃縮が行われる。第1流路12aの下流側は濃縮液25となる。また、第2流路12bを流れる被処理水10は透過液26となる。
【0060】
[炭酸塩固定化装置の動作]
次に
図2を参照し、炭酸塩固定化装置200の動作について説明する。
まず、被処理水10が、第1流路12a及び第2流路12bに供給される。なお、流路には被処理水10が連続的に供給され続ける状態である。
また、第1流路12aに被処理水10が供給される際に、加圧手段14により半透膜13に衝突するように被処理水10が供給される。
【0061】
次に、第1流路12aの上流側の被処理水10が半透膜13に加圧されることにより、被処理水10が濃縮される。その際、炭酸塩17が生成され、その一部(微結晶炭酸塩17a)が半透膜13を通過し、透過液16は一部の炭酸塩とともに、第2流路12bの下流側に浸透移動し、透過液16と共に炭酸塩の一部が排出される。
また、透過しなかった炭酸塩の残部(透過していない微結晶炭酸塩17aを含む残りの炭酸塩)は、第1流路12aに残ったままの状態となり、下流側に流れたり、半透膜13に付着したりする。
【0062】
その後、濃縮液15は、連結流路12cを通過して押し出されるように第2流路12bに流れる。濃縮液15が押し出されるように第2流路12bに供給されることになることから、半透膜13を透過しなかった炭酸塩17の残部(透過側に透過していない微結晶炭酸塩17aを含む残りの炭酸塩)は、第2流路12bの上流側から供給されることになり下流側に流れ、残部の炭酸塩17が排出される。
なお、本実施の態様では、第2流路12bにおいて、濃縮液15と透過液16とが混合された状態となることから、微結晶炭酸塩17aと未透過炭酸塩17bとが混合した状態で炭酸塩固定化装置200から排出される。
以上により、生成された炭酸塩17の多くが被処理水10の流れに乗って炭酸塩固定化装置200の外部に排出され、連続的に炭酸塩生成による二酸化炭素の固定化が実現される。
【0063】
〔第3の実施態様〕
図3を参照し、本発明の実施形態3について説明する。本発明の第3の実施態様の炭酸塩固定化装置300は、船舶30の両舷且つ喫水下に取り付けられたことを特徴とする。
具体的には、本発明の第3の実施態様の炭酸塩固定化装置300は、一又は二以上の半透膜モジュール31を、直列に連結配置し、半透膜モジュール31を外部からの衝撃から保護するケーシング32に収め、ケーシング32は、船舶30の例えば両舷に支持部材32により、固定して取り付けられている。
図3においては、二の炭酸塩固定化装置300を、船舶30の両舷且つ喫水下に取り付けた例を示している。船舶30の喫水下に炭酸塩固定化装置300を取り付ける態様としては、一又は二以上の炭酸塩固定化装置300を、船底に取り付ける態様もある。また、二以上の炭酸塩固定化装置300を、船舶30の両舷且つ喫水下及び船底に、それぞれ取り付ける態様も考えられる。
なお、本発明の第3の実施態様において、第1の実施態様の炭酸塩固定化装置100及び第2の実施態様の炭酸塩固定化装置200と同じ機能、構造のものは、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0064】
[支持部材]
支持部材32は、炭酸塩固定化装置300を船舶30の両舷且つ喫水下の位置に保持する役割を果たす部材である。
支持部材の材質は、特に限定されず、船舶30が航行する際の水流の圧力及水流に耐え、炭酸塩固定化装置300の位置を保持し続けることができる構造であれば特に限定されない。
【0065】
[炭酸塩固定化装置の動作]
炭酸塩固定化装置300の動作について説明する。
図4は本発明の第3の実施態様における炭酸塩固定化装置で、膜の外側から内側への浸透が生じる態様例を示す概略説明図である。
船舶30が前方に航行すると、船舶30の全面側に配置された炭酸塩固定化装置300の海水導入口33より、船舶30の速度に相当する流速で被処理水10が炭酸塩固定化装置300内に流入する。炭酸塩固定化装置300を構成する半透膜モジュール31の、中心部に設けられた不図示の半透膜エレメントの外側に被処理水10の流速に応じた静圧が生じる。半透膜エレメントの外側を流れる被処理水10の一部は、半透膜エレメントの内側へ浸透し、その残余は濃縮水15として、配管を通じて、下流側に位置する半透膜モジュールの半透膜エレメントの外側に導入される。最下流の半透膜モジュールの半透膜エレメントの外側を通過した被処理水10の濃縮水15は、制限オリフィス34を通過して、炭酸塩固定化装置300の外部である海水中に排出される。
本実施の形態では、船舶30の速度に相当する流速で被処理水10が炭酸塩固定化装置300内に流入し、最終的には制限オリフィス34を通過することにより生ずる静圧が加圧手段34に該当する。
【0066】
半透膜エレメントの内側へと浸透した透過液16は、配管を通じて、下流側に位置する半透膜モジュールの半透膜エレメントの内側に導入される。最下流の半透膜モジュールの半透膜エレメントの内側を通過した被処理水10の透過液16は、炭酸塩固定化装置300の外部である海水中に排出される。
【0067】
濃縮水15においては、アルカリ土類金属の炭酸塩17の生成により、溶存する炭酸イオンが減少する。減少した炭酸イオンを補う目的で、大気供給部43から配管を通じて大気を導入し、濃縮水15に二酸化炭素が溶存することを促進してもよい。
大気供給部43は、船舶30の内部に設け、配管で炭酸塩固定化装置300へ大気を供給する。
【0068】
したがって、船舶30と半透膜エレメントの内側空間が第2流路12bに相当することになり、半透膜エレメントの外側空間が第1流路12aに相当する。よって、船舶30の航行時に、船舶30の周囲の海水が半透膜13に圧力を掛けられた状態で供給される状態となることで、海水(被処理水10)が濃縮され、炭酸塩17が生成される。生成された一部の炭酸塩(微結晶炭酸塩17a)及び、残部の炭酸塩(透過側に移動していない微結晶炭酸塩17aを含む炭酸塩)が濃縮液15として海洋に放出され二酸化炭素の固定化が実現される。
【0069】
図5は、本発明の第3の実施態様における炭酸塩固定化装置で、膜の内側から外側への浸透が生じる態様例を示す概略説明図である。
船舶30が前方に航行すると、船舶30の全面側に配置された炭酸塩固定化装置300の海水導入口33より、船舶30の速度に相当する流速で被処理水10が炭酸塩固定化装置300内に流入する。炭酸塩固定化装置300を構成する半透膜モジュール31の、中心部に設けられた不図示の半透膜エレメントの内側に被処理水10の流速に応じた静圧が生じる。半透膜エレメントの外側を流れる被処理水10の一部は、半透膜エレメントの外側へ浸透し、その残余は濃縮水15として、配管を通じて、下流側に位置する半透膜モジュールの半透膜エレメントの内側に導入される。最下流の半透膜モジュールの半透膜エレメントの外側を通過した被処理水10の濃縮水15は、炭酸塩固定化装置300の外部である海水中に排出される。
【0070】
半透膜エレメントの外側へ浸透した被処理水10の透過水16は、ケーシング32を貫通する配管などにより炭酸塩固定化装置300の外部である海水中に排出される。
本実施の形態では、船舶30の速度に相当する流速で被処理水10が炭酸塩固定化装置300内へ海水導入口10から半透膜エレメントの内側に流入する際に、海水導入口10の口径から半透膜エレメントの口径まで流路を絞ることにより生ずる静圧を加圧手段34としている。必要な圧力を得るために、半透膜エレメントの上流側にポンプを設けてもよい。
【0071】
濃縮水15においては、アルカリ土類金属の炭酸塩17の生成により、溶存する炭酸イオンが減少する。減少した炭酸イオンを補う目的で、大気供給部43から配管を通じて大気を導入し、濃縮水15に二酸化炭素が溶存することを促進してもよいし、炭酸含有ガスを導入し、濃縮水15に二酸化炭素が溶存することを促進してもよい。
大気供給部43は、船舶30の内部に設け、配管で炭酸塩固定化装置300へ大気を供給する。
【0072】
船舶30と半透膜エレメントの内側空間が第2流路12bに相当することになり、海洋側半透膜エレメントの外側空間が第1流路12aに相当する。よって、船舶30の航行時に、船舶30の周囲の海水が半透膜13に圧力を掛けられた状態で供給される状態となることで、海水(被処理水10)が濃縮され、炭酸塩17が生成される。生成された一部の炭酸塩(微結晶炭酸塩17a)及び、残部の炭酸塩(透過側に移動していない微結晶炭酸塩17aを含む炭酸塩)が濃縮液15として海洋に放出され二酸化炭素の固定化が実現される。
【0073】
〔第4の実施態様〕
図4を参照し、本発明の実施形態4について説明する。本発明の第4の実施態様の炭酸塩固定化装置400は、第1半透膜装置41と第2半透膜装置42が直列に連結され、第1半透膜装置41の出口と第2半透膜装置42の入口との間に大気供給部43を備えていることを特徴とする。
なお、本発明の第4の実施態様において、第1の実施態様の炭酸塩固定化装置100及び第2の実施態様の炭酸塩固定化装置200と同じ機能、構造のものは、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0074】
[炭酸塩固定化装置]
被処理水10は、ポンプ51により、第1半透膜装置41へ流入する。第1半透膜装置41に流入した被処理水10は、第1半透膜装置41において半透膜41aを透過しない成分と透過する成分とに分離される。半透膜41aを透過しない成分は濃縮液15となり、半透膜41aを透過する成分は透過液16となる。半透膜41aを透過しない成分である濃縮液15は、第2半透膜装置42に流入する。半透膜41aを透過する成分である透過液16は第1半透膜装置41の外へ流出する。
第2半透膜装置42に流入した濃縮液15は、さらに、第2半透膜装置42において半透膜42aを透過しない成分と透過する成分とに分離される。半透膜42aを透過しない成分は濃縮液15として第2半透膜装置42内に残り、半透膜42aを透過する成分は透過液16として第2半透膜装置42の外へ流出する。
第1半透膜装置41及び第2半透膜装置42は、半透膜装置外殻45に覆われている。半透膜装置外殻45は水密性のある容器であり、その内部において第1半透膜装置41及び第2半透膜装置42の外へ流出した透過液16を保持する。
なお、使用されている半透膜は、第1の実施態様に記載のものと同様である。
【0075】
第1半透膜装置41の出口と第2半透膜装置42の入口との間には、大気供給部43が備えられている。大気供給部43により、第1半透膜装置41からの濃縮液15に大気が吹き込まれる。大気供給部43による大気の吹込みは、ブロワによってでもよいが、アスピレータによるものであれば、動力源が不要となり省エネルギーとなるのでなおよい。
大気供給部43がマイクロバブル又はファインバブル発生機能を有していてもよい。マイクロバブル化又はファインバブル化した大気であればより濃縮液15に対しより効果的に溶存するからである。
【0076】
[炭酸塩固定化装置の作用]
たとえば、被処理水10が海水の場合であれば、数種類のアルカリ土類金属イオンの他に炭酸水素イオンを含有している。海水の表層部のpHは8.1とされているので、
図7で示す通り、海水中における二酸化炭素は炭酸水素イオン又は炭酸イオンとして存在する。海水中においては、カルシウムイオンと炭酸水素イオン又は炭酸イオンは豊富にある。海水中において溶存した二酸化炭素は既に過飽和状態にある。
【0077】
第1半透膜装置41に流入した被処理水10のうち、半透膜41aを透過しない溶質は濃縮液15側に残る。濃縮液15側に残った被処理水10の含有する溶質は、膜近傍における濃度分極によりカルシウムイオン等の膜面濃度が上昇する。これにより、例えば、カルシウムイオンは炭酸イオンと結合して炭酸カルシウムを生成する。アルカリ性の環境においては、炭酸カルシウムの溶解度は、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム等と比べかなり低い。
第1半透膜装置41を通過した濃縮水15に対しては、第2半透膜装置42へ流入する前に、大気供給部43により空気が吹き込まれる。吹き込まれた空気は濃縮水15に溶存する。吹き込まれる空気がマイクロバブル又はファインバブルであれば、溶存をコントロールできるため、効果的に空気を溶存させることができる。空気中の二酸化炭素分圧に相当する二酸化炭素も濃縮水15に溶存する。これにより、第1半透膜装置41内における炭酸カルシウムの生成により、消費された炭酸イオンが補給される。
【0078】
炭酸イオンの補給を受けた濃縮水15は、第2半透膜装置42へ流入する。このときの濃縮液15は、第1半透膜装置41においてアルカリ土類金属の炭酸塩となった量に相当するアルカリ土類金属イオン含有量が低減している。第2半透膜装置42において半透膜42aを透過しない溶質は濃縮液15側に残ることにより、濃縮液15側に残った溶質は再び濃縮される。そして膜近傍における濃度分極によりカルシウムイオン等の膜面濃度は上昇する。これにより、第2半透膜装置42においても、カルシウムイオンは炭酸イオンと結合して炭酸カルシウムを生成する。
【0079】
本発明の実施形態4の炭酸塩固定化装置400は、第1半透膜装置41及び第2半透膜装置42を直列に連結し、第1半透膜装置41から流出してきた濃縮液15が、第2半透膜装置42へと流入する前に濃縮液15に対し空気を吹き込む大気供給部43を備える構成となっている。
一の1半透膜装置41及び一の第2半透膜装置42と、一の大気供給部43とを備える構成を、複数並列に設ける構成であってもよい。
【0080】
[効果]
第2半透膜装置42から流出する濃縮水15には、析出したアルカリ土類金属の炭酸塩が混合している。特に炭酸カルシウムの炭酸カルシウムの溶解度は低いので、そのまま海水中に環流しても、二酸化炭素を固定した安定な化合物として残る。
炭酸カルシウムその他のアルカリ土類金属の炭酸塩は安定な化合物であり、単に海洋に投入しても海水の物性を変化させることにはならない。しかし、加圧条件下でpHの低い水溶液を用いると、炭酸塩の溶解が生じることが知られている。ここで、海洋はその深度に応じて、大気圧よりも加圧される状態となる。また、海洋表層はpH8.1程度であるが、海洋表層よりも深度の深いところでは海洋酸性度(pH)が低下する領域が存在する。したがって、海洋酸性度の低い領域に炭酸塩を滞留させると、その場所では炭酸塩は溶解し、海水のアルカリ度を高め、二酸化炭素の吸収効率を高めるというアルカリポンプ効果の促進につながるものとなる。
【0081】
本発明の海洋酸性化抑制方法によれば、炭酸塩を海洋に投入するに当たり、海洋酸性度を基にして炭酸塩を滞留させる場所を決め、その場所に炭酸塩を供給(搬送)し、滞留させることで、効果的にアルカリポンプ効果を促進することができる。これにより、炭酸塩の安全・安定的な処理(溶解)と、海洋酸性度の高い領域における海水の中和(海洋酸性化の抑制)及び二酸化炭素の吸収効率の向上といった海洋環境の改善とを併せて行うことが可能となる。
【0082】
本発明の第4の実施態様においては、大気供給部43により空気を濃縮水15に吹きこみ、大気から問い入れた二酸化炭素の成分を濃縮水15に溶存させ、濃縮水15中のカルシウムイオンと結合させて、安定な化合物である炭酸カルシウムを生成させている。
また、大気供給部43による大気の供給をアスピレータにより行うことにより、このことにより、第4の実施態様における炭酸塩固定化装置の運転に要する動力は、ポンプ51のみとなる。
炭酸カルシウムの生成により二酸化炭素を固定するに際し、二酸化炭素源を大気に求めている点において、本発明の第4の実施態様は、省エネルギーのDAC(Direct Air Capture)を簡易に実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の炭酸塩固定化装置及び炭酸塩固定方法は、アルカリ土類金属イオンを含む溶液から加熱蒸発による濃縮よりも少ないエネルギーで炭酸塩を生成することに利用することができる。さらに、NF膜を使用することで、膜の表面にスケールと呼ばれる炭酸塩が付着して被処理水の処理性能が低下すること抑制しつつ、大気中の二酸化炭素量を固定化することに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0084】
100、200、300、400 炭酸塩固定化装置、10 被処理水、11 欠番、12 処理槽、12a 第1流路、12b 第2流路、13 半透膜、14 加圧手段、15 濃縮液、16 透過液、17 炭酸塩、30 船舶、31 半透膜モジュール、32 支持部材、33 海水導入口、34 制限オリフィス、35 ケーシング、41 第1半透膜装置、41a 半透膜、42 第2半透膜装置、42a 半透膜、43 大気供給部、45 半透膜装置外殻、51 ポンプ、52 フィルター。