IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

<>
  • 特開-塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法 図1
  • 特開-塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法 図2
  • 特開-塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法 図3
  • 特開-塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法 図4
  • 特開-塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137650
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/16 20060101AFI20240927BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08J3/16 CEV
C08L27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194665
(22)【出願日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2023045634
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小川 祐生
(72)【発明者】
【氏名】秋山 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 義隆
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA22
4F070AC20
4F070DA36
4F070DA38
4F070DA39
4F070DC07
4J002BD041
4J002BD051
4J002BD061
4J002BD071
4J002BD081
4J002BD091
4J002DD056
4J002DD066
4J002DF036
4J002DG036
4J002DG046
4J002DH026
4J002EF036
4J002EF046
4J002EF066
4J002EG026
4J002EG036
4J002GF00
4J002GH01
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】洗浄等の工程で必要な強度及び大きさを有する塩化ビニル樹脂凝集粒子にしつつ、低ゾル粗粒要件を満たすように該塩化ビニル樹脂凝集粒子を粉砕及び分級する際の負荷も低減可能な塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法であって、塩化ビニル樹脂ラテックスと凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加え、塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む凝集ラテックスを得る工程、及び前記凝集ラテックスを塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、[Tg-20℃]~[Tg+35℃]の温度範囲で熱処理する工程を含み、前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して形成した二次粒子がさらに凝集して形成した三次粒子を含む、塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法であって、
塩化ビニル樹脂ラテックスと凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加え、塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む凝集ラテックスを得る工程、及び
前記凝集ラテックスを塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、[Tg-20℃]~[Tg+35℃]の温度範囲で熱処理する工程を含み、
前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して形成した二次粒子がさらに凝集して形成した三次粒子を含む、塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【請求項2】
前記凝集剤は、無機塩である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【請求項3】
前記二次粒子のメジアン径が2.0~6.5μmである、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【請求項4】
前記二次粒子のD90が10.5μm以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【請求項5】
前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して形成した二次粒子を含む、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理は、塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、Tg~[Tg+35℃]で行う、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【請求項7】
前記塩化ビニル樹脂凝集粒子のメジアン径が10~60μmである、請求項1~6のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属缶の内面をコーティングするのに好適に用いることができる塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、安価であり、加工性及び耐久性に優れることから、金属缶の内面コーティングに広く使用されている。例えば、特許文献1には、体積粒度分布における累積体積百分率が50体積%の粒子径D50が0.5μm以上5.0μm以下であり、且つ体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90が8.0μm以下であり、Na濃度が90ppm以下の塩化ビニル樹脂凝集粒子を用いた金属缶用塗料組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2019/159896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属缶の内面をコーティングするのに用いる樹脂の場合、低ゾル粗粒(例えば、A法粗粒25μm以下)が求められる。また、金属缶の内面をコーティングするのに用いる樹脂の場合、金属濃度及び塩濃度が低いことが求められる。
そこで、特許文献1を含む従来の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法では、一般的に、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子を約100μm以上の凝集体にし、凝集体を洗浄及び脱水することで金属濃度及び塩濃度を低下させた後、粉砕及び分級を行うことで、低ゾル粗粒特徴を満たす塩化ビニル樹脂凝集粒子を作製しており、粉砕及び分級の負荷が高い問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、洗浄等の工程で必要な強度及び大きさを有する塩化ビニル樹脂凝集粒子にしつつ、低ゾル粗粒要件を満たすように該塩化ビニル樹脂凝集粒子を粉砕及び分級する際の負荷も低減可能な塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法であって、塩化ビニル樹脂ラテックスと凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加え、塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む凝集ラテックスを得る工程、及び前記凝集ラテックスを塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、[Tg-20℃]~[Tg+35℃]の温度範囲で熱処理する工程を含み、前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して形成した二次粒子がさらに凝集して形成した三次粒子を含む、塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、洗浄等の工程で必要な強度及び大きさを有する塩化ビニル樹脂凝集粒子が得られ、低ゾル粗粒要件を満たすように該塩化ビニル樹脂凝集粒子を粉砕及び分級する際の負荷も低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して三次粒子構造の塩化ビニル樹脂凝集粒子を形成することを説明する模式図である。
図2】塩化ビニル樹脂凝集粒子の三次粒子が超音波照射により崩壊して二次粒子を形成することを説明する模式図である。
図3】実施例4で得られた凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子)を超音波照射した後に、体積基準で測定した粒子径分布を示すグラフである。
図4】実施例3で得られた凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子)を超音波照射した後に、体積基準で測定した粒子径分布を示すグラフである。
図5】実施例4で得られた凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子)の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像(3000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、上述した課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、驚くことに、凝集工程において、塩化ビニル樹脂ラテックス及び凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加え、塩化ビニル樹脂ラテックスを凝集させた後、さらに所定の温度で熱処理することで、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子(一次粒子)が凝集して形成した二次粒子がさらに凝集して形成した三次粒子を含む塩化ビニル樹脂凝集粒子が得られ、得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子は、20kHzかつ3分間の条件で超音波照射した場合、三次粒子の大半が崩壊して二次粒子となり得ることを見出した。
具体的には、塩化ビニル樹脂ラテックス及び凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加えた凝集工程で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子は、一次粒子が強く結合した二次粒子が緩く結合した三次粒子を含み、凝集工程で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子を熱処理することで、一次粒子同士の結合が強くなり、塩化ビニル樹脂凝集粒子が洗浄工程で必要とされる強度及び大きさを有することが可能である。また、熱処理した後の塩化ビニル樹脂凝集粒子は20kHかつ3分間の超音波照射で三次粒子の大半が崩壊して二次粒子となりやすいことから、低ゾル粗粒要件を満たすように該塩化ビニル樹脂凝集粒子を粉砕及び分級する際の負荷も低減可能である。
【0010】
本明細書において、数値範囲が「~」で示されている場合、該数値範囲は両端値(上限及び下限)を含む。例えば、「X~Y」という数値範囲は、X及びYという両端値を含む範囲であり、「X以上Y以下」と同じ範囲である。また、その範囲内にある任意の数やその範囲内に含まれる任意の範囲が、具体的に開示される。また、本明細書において、数値範囲が複数記載されている場合、異なる数値範囲の上限及び下限を適宜組み合わせた数値範囲を含むものとする。
【0011】
前記塩化ビニル樹脂ラテックスは、特に限定されないが、例えばイオン交換水等の水性媒体中で、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な単量体との混合物に、重合開始剤、及び乳化剤とを加え、乳化重合、シード乳化重合、微細懸濁重合、又はシード微細懸濁重合することにより得ることができる。また、重合においては、必要に応じて、高級アルコール、及び高級脂肪酸等の分散助剤、並びに、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸ナトリウム等のpH調整剤等を用いてもよい。
【0012】
前記塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体は、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、及びブテン等のオレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びステアリン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、及びラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニリデン等のビニリデン類;アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、及びマレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類;スチレン、αーメチルスチレン、及びジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;及びジアリルフタレート等の架橋性モノマー等の塩化ビニルと共重合可能な全ての単量体が使用できる。これらの単量体は、一種を単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。これらの単量体の使用量は、塩化ビニル単量体との単量体混合物中50重量%未満であるのが好ましい。
【0013】
前記乳化剤は特に限定されるものではないが、例えばアニオン性界面活性剤を用いることができる。前記アニオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、α-オレフィンスルホン酸、及びアルキルエーテルリン酸エステル等のカリウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む組成物の粘度安定性の観点から、前記乳化剤は、脂肪酸塩であることが好ましく、脂肪酸のカリウム塩、脂肪酸のナトリウム塩及び脂肪酸のアンモニウム塩からなる群から選ばれる一種以上であることがより好ましく、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム及びミリスチン酸アンモニウムからなる群から選ばれる一種以上であることがさらに好ましい。
【0014】
前記乳化剤は、例えば、単量体合計100重量部当たり0.1~3.0重量部程度用いることができる。得られる塩化ビニル樹脂ラテックスの安定性、缶内面用フィルム及びマーキングフィルム等のフィルムの透明性を高める観点から、前記乳化剤は、単量体100重量部当たり0.2~1.0重量部用いることが好ましく、0.2~0.5重量部用いることがより好ましい。
【0015】
前記重合開始剤としては、油溶性重合開始剤と水溶性重合開始剤が挙げられる。前記油溶性重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ系開始剤が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類;ジラウロイルパーオキサイド、及びジ-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、及びジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類;t-ブチルパーオキシピバレート、及びt-ブチルパーオキシネオデカノエート等のパーオキシエステル類等が挙げられる。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤等を用いることができる。また、前記水溶性重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過酸化水素水等を用いることができる。前記重合開始剤は、一種を単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。前記重合開始剤は、必要に応じて、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(ロンガリットとも称される。)、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム等の還元剤と併用することができる。前記還元剤は、一種を単独又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0016】
前記塩化ビニル樹脂ラテックスにおいて、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径は、特に制限されないが、重合の安定性の観点から、0.1~2.0μmであることが好ましい。塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径が0.1μm以上であると、ラテックス移送時の機械安定性が良好になり、生産性が向上する。塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径が2.0μm以下であると、重合の安定性が高まる。重合の安定性の観点から、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径は1.7μm以下であることがより好ましく、1.4μm以下であることがさらに好ましい。
【0017】
塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む組成物の粘度を低くし、ゲル化を促進する観点から、前記塩化ビニル樹脂ラテックスは、体積平均粒子径が0.5μm以下の塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Fを5~95体積%、及び体積平均粒子径が塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Fより大きくかつ1.7μm以下の塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Rを5~95体積%含むことが好ましく;より好ましくは塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Fを10~90体積%含み、及び塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Rを10~90体積%含み;さらに好ましくは塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Fを15~85体積%含み、及び塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Rを15~85体積%含み;さらにより好ましくは塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Fを20~50体積%含み、及び塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Rを50~80体積%含む。塩化ビニル樹脂の重合の安定性から、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Rの体積平均粒子径は、1.4μm以下であることがより好ましい。低粘度及びゲル化を促進する観点から、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子Fの体積平均粒子径は、0.4μm以下であることがより好ましい。
【0018】
前記塩化ビニル樹脂ラテックスの固形分濃度は、好ましくは22重量%以上であり、より好ましくは25~50重量%、さらに好ましくは30~45重量%である。前記塩化ビニル樹脂ラテックスの固形分濃度が上述した範囲内であると、塩化ビニル樹脂ラテックスが流動性に優れ、コロイドミルへの移送が容易になる。
【0019】
前記凝集剤としては、水溶性凝集剤を用いることができる。水溶性凝集剤としては、例えば、無機塩、無機酸、有機酸、有機塩、及び水溶性高分子等が挙げられる。前記無機塩としては、特に限定されないが、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化アルミニウム等を用いることができる。前記無機酸としては、特に限定されないが、例えば硫酸、塩酸、硝酸、及び燐酸等を用いることができる。前記有機酸としては、特に限定されないが、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、及びグルタコン酸等を用いることができる。前記有機塩としては、例えば酢酸ナトリウム、及び酢酸カルシウム等を用いることができる。
【0020】
前記水溶性高分子としては、例えば合成高分子、天然高分子、及び半合成高分子等を用いることができる。前記合成高分子としては、例えばアクリロイル基含有モノマーの重合体、ビニル重合体、ポリアミジン、ポリエチレンオキサイド及びポリエチレンイミン等が挙げられる。前記天然高分子としては、例えば多糖類及び蛋白質等が挙げられる。前記半合成高分子としては、例えばセルロースエーテル及びデンプン誘導体等が挙げられる。なお、塩化ビニル樹脂凝集粒子の吸湿率を低くするという観点から、水溶性高分子の配合量は凝集剤の全重量に対して25重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
【0021】
塩化ビニル樹脂凝集粒子の吸湿率を低下させ、該塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む組成物の貯蔵時の粘度を安定させる観点から、凝集剤としては、無機塩、無機酸、有機酸及び有機塩からなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましく、無機塩及び無機酸からなる群から選ばれる一種以上を用いることがより好ましく、無機塩を用いることがさらに好ましい。
【0022】
前記凝集剤は、塩化ビニル樹脂ラテックスへ添加する際、固体及び水溶液のいずれの形態であっても良いが、分散性の点から、水溶液の形態が好ましく、流動状態にある塩化ビニル樹脂ラテックス中へ添加することがより好ましい。また、前記凝集剤は、塩化ビニル樹脂の重合終了後に、塩化ビニル樹脂ラテックスへ添加することが好ましい。
【0023】
前記凝集剤の添加量は、塩化ビニル樹脂ラテックスを凝集できればよく特に制限はないが、例えば、凝集ラテックス(スラリー)における凝集剤の濃度が1.0~4.0重量%になるような量を添加してもよい。塩化ビニル樹脂ラテックス粒子(一次粒子)が凝集しやすい観点から、凝集ラテックスにおける凝集剤の濃度が好ましくは1.5重量%以上、より好ましくは2.0重量%以上、特に好ましくは2.5重量%以上になるような量を添加してもよい。また、凝集ラテックスにおける三次粒子構造の凝集粒子が二次粒子には崩壊しやすいが、一次粒子には崩壊しにくい観点から、凝集ラテックスにおける凝集剤の濃度は3.0重量%以上であってもよい。
【0024】
前記塩化ビニル樹脂ラテックスの凝集は、具体的には、塩化ビニル樹脂ラテックス及び無機塩等の凝集剤の水溶液をコロイドミルに送液し、コロイドミルの入口で塩化ビニル樹脂ラテックス及び凝集剤の水溶液を混合させ、該混合物に対し、コロイドミル内部でせん断力を加えることで行う。せん断力を加える条件は、特に限定されず、例えば、一次粒子が強く結合した二次粒子を形成し、該二次粒子が緩く結合して三次粒子構造を形成しやすい観点から、周波数が20~60Hzであり、クリアランスが40~1240μmでもよい。また、周波数は40~60Hzでもよい。また、温度は20~50℃でもよい。また、滞留時間は1.5~10秒でもよい。コロイドミルとしては、特に限定されないが、例えば、PUC社製の「Type-K120」等を適宜用いることができる。
【0025】
凝集工程で得られた凝集ラテックス(スラリー)において、樹脂固形分の濃度は、好ましくは22重量%以上であり、より好ましくは25~50重量%であり、さらに好ましくは30~45重量%である。前記凝集ラテックス中の樹脂固形分の濃度が上述した範囲内であると、凝集ラテックスが流動性に優れ、移送が容易になる。
【0026】
前記凝集ラテックスを、塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、[Tg-20℃]~[Tg+35℃]の温度範囲で熱処理する。これにより、一次粒子同士の結合がより強くなることで、二次粒子及び三次粒子のいずれの強度も強くなり、洗浄工程で必要とされる強度及び大きさを有する塩化ビニル樹脂凝集粒子を得ることができる。なお、熱処理する前に、凝集ラテックスにおける樹脂固形分の濃度を10~50重量%になるように調整してもよい。また、凝集工程を上述した条件で行うことで、熱処理した後の塩化ビニル樹脂凝集粒子は、20kHかつ3分間の超音波照射で三次粒子の大半が崩壊して二次粒子となりやすいことから、低ゾル粗粒要件を満たすように該塩化ビニル樹脂凝集粒子を粉砕及び分級する際の負荷も低減可能である。熱処理は、塩化ビニル樹脂凝集粒子の強度をより高める観点から、塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、[Tg-10℃]~[Tg+35℃]の範囲で行うことが好ましく、Tg~[Tg+35℃]の範囲で行うことがより好ましい。また、熱処理時間は、特に限定されないが、所定の温度に到達後、工業的実施の側面から、30秒~300分保持してもよく、3~120分保持してもよく、5~30分保持してもよい。
【0027】
熱処理後の凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子を含むスラリー)は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子(一次粒子)が凝集して形成した二次粒子がさらに凝集して形成した三次粒子を含む。すなわち、得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子は、図1に示すように、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子(一次粒子)1が凝集して形成した二次粒子2がさらに凝集して形成した三次粒子3を含む。塩化ビニル樹脂凝集粒子において、三次粒子は、一次粒子が強く結合した二次粒子が緩く結合した構造を有し、二次粒子は、一次粒子が強く結合した構造を有する。これは、例えば、凝集ラテックスを20kHzかつ3分間の条件で超音波照射した場合、図2に示すように、三次粒子3は、大半が崩壊して二次粒子2となることで確認することができる。前記凝集ラテックスにおいて、塩化ビニル樹脂凝集粒子は、三次粒子に加えて、二次粒子を含んでもよい。
【0028】
熱処理後の凝集ラテックスにおいて、塩化ビニル樹脂凝集粒子が、一次粒子が強く結合した二次粒子がある程度緩く結合した三次粒子構造、すなわち一次粒子間の結合強度は高く、二次粒子間の結合強度は相対的に低い三次粒子構造を有することで、洗浄等の工程で必要とされる強度及び大きさ(粒子径)を有しながら、低ゾル粗粒要件を満たすように粉砕及び分級する際の負荷が低減される。特に、塩化ビニル樹脂ラテックスと凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加えて凝集させた後に熱処理したことにより、熱処理後の凝集ラテックスにおいて、塩化ビニル樹脂凝集粒子のD50が10μm以上、かつD90が110μm以下になりやすく、並びに塩化ビニル樹脂凝集粒子における二次粒子のD90が10.5μm以下になりやすいことから、洗浄等の工程で必要とされる強度及び大きさ(粒子径)を有しながら、低ゾル粗粒要件を満たすように粉砕及び分級する際の負荷が低減される。
【0029】
前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、(三次粒子)のメジアン径(D50)が10~60μmであり、D90が20~110μmであることが好ましく、メジアン径(D50)が10~50μmであり、D90が20~100μmであることがより好ましく、メジアン径(D50)が30~50μmであり、D90が50~100μmであることがさらに好ましい。前記塩化ビニル樹脂凝集粒子において、二次粒子のメジアン径(D50)は2.0~6.5μmであることが好ましく、2.0~6.0μmであることがより好ましい。また、前記塩化ビニル樹脂凝集粒子において、二次粒子のD90は11μm以下であることが好ましく、10.5μm以下であることがより好ましく、10μm未満であることがさらに好ましく、9μm以下であることがさらにより好ましい。これにより、前記塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む組成物が金属缶の内面をコーティングするのに用いる場合の低ゾル粗粒(例えば、A法粗粒25μm以下)という要件を満たしやすい。前記塩化ビニル樹脂凝集粒子において、二次粒子のD90の上限が上述した範囲であることが好ましく、下限については特に限定されないが、例えば、粉体の取扱い性の観点から、5μm以上でもよい。本明細書において、塩化ビニル樹脂凝集粒子における三次粒子の粒子径は、塩化ビニル樹脂凝集粒子(熱処理後の凝集ラテックス)を試料として用いて測定し、塩化ビニル樹脂凝集粒子における二次粒子の粒子径は、20kHzかつ3分間の条件で超音波照射した後の塩化ビニル樹脂凝集粒子(熱処理後の凝集ラテックス)を試料として用いて測定することができる。本明細書において、D50及びD90は、体積基準によるものであり、具体的には、実施例に記載のとおりに測定する。
【0030】
熱処理後の凝集ラテックスは、必要に応じて、pHを4~11、好ましくは5~10、より好ましくは6~9の範囲になるように調整してもよい。pHが上記の範囲内であることにより、得られる塩化ビニル樹脂凝集粒子の吸湿率が低く、該塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む組成物の貯蔵安定性が良好になる。pH調整には、pHを上述した範囲内に調整することができる化合物を用いればよく、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム等を用いることができる。
【0031】
熱処理後の凝集ラテックス又はpH調整後の凝集ラテックスを脱水した後、水を添加して洗浄することが好ましい。前記脱水は、特に限定されないが、濾過により行うことができる。洗浄により、金属及び塩の濃度を低減することができる。
【0032】
洗浄後の凝集ラテックスを、脱水した後に乾燥することで、塩化ビニル樹脂凝集粒子を得ることができる。また、必要に応じて、洗浄後の凝集ラテックスを脱水及び乾燥後に、粉砕及び/又は分級する。前記脱水は、特に限定されないが、濾過により行うことができる。乾燥温度には特に制限はないが、通常、樹脂温度35~100℃の範囲で行うことができる。前記粉砕機或いは破砕機にも特に制限はなく、例えば、ローラーミル、高速回転粉砕機、ボールミル、ジェットミル等を使用することができる。
【0033】
乾燥後に得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子は、低ゾル粗粒(A法25μm以下)及び低金属・塩濃度(90ppm以下)の特徴を有するものになりやすく、金属缶塗料用組成物に好適に用いることができる。前記金属缶塗料用組成物は、塗膜の加工性、耐レトルト性及び引裂き性の観点から、(A)前記塩化ビニル系樹脂凝集体粒子を20~80重量部、(B)フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂を1~30重量部、(C)ポリエステル系樹脂を1~60重量部、及び(D)有機溶剤を含み、(A)、(B)及び(C)の合計量が100重量部であることが好ましい。前記金属缶塗料用組成物は、金属缶の内面に用いる缶内面塗料用組成物であってもよく、金属缶の外面に用いる缶外面塗料用組成物であってもよい。前記塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む組成物は、マーキングフィルム用組成物として用いてもよい。前記マーキングフィルム用組成物は、マーキングフィルムの透明性、耐水性及び耐候性の観点から、(a)前記塩化ビニル系樹脂凝集体粒子を50~90重量部、(b)可塑剤を10~50重量部、及び(c)有機溶剤を含み、(a)及び(b)の合計量が100重量部であることが好ましい。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
まず、実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法について説明する。
【0036】
(塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径)
塩化ビニル樹脂ラテックスを測定試料とし、JIS Z 8823-2:2016に準拠し、ディスク遠心式粒子径分布測定装置(CPS Instroments.Inc製、「Disk Centrifuge Model DC18000」)を用いて、沈降法に基づく遠心分離により粒子の濃度勾配を作ることで、それぞれの体積基準に基づく重量分布から、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径(ピーク粒子径)を求めた。測定条件としては、ディスクの回転数を12000rpmに設定した後、8重量%スクロース水溶液と、24重量%スクロース水溶液を各8mLずつ注入し、スクロースの濃度勾配を作製した。測定試料は、350メッシュの金網でろ過した塩化ビニル樹脂ラテックスに、0.2μmのフィルターでろ過したイオン交換水を加えて調整したものを用い、0.1mLの試料を入れて、470nmの検出機を用いて測定した。
【0037】
(塩化ビニル樹脂の平均重合度)
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K 7367-2:1999に準拠して測定した。まず、100mlのビーカーに、塩化ビニル樹脂凝集粒子又は乾燥させた塩化ビニル樹脂ラテックス2.5mg、シクロヘキサノン50mL(47.1g)を入れ、25℃の振とう機に入れ1時間溶解させて試料溶液を作製した。次に、試料溶液及びシクロヘキサノンの落下秒数の平均(n=2)をそれぞれ求め、粘度比(VR)=試料溶液の落下秒数/シクロヘキサノンの落下秒数を求めた。次に、JIS K 7367-2:1999の換算表に基づいて、粘度比(VR)に対応するK値を測定した。次に、K値に基づいて平均重合度を算出した。
【0038】
(塩化ビニル樹脂のガラス転移温度)
塩化ビニル樹脂のガラス転移温度Tgの測定方法は、アルミニウム容器に、塩化ビニル樹脂を5mg測り取り、蓋をしてクリンプした後、空のアルミニウム容器を基準物質と併せて、示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、DSC7020)にセットし、窒素ガス雰囲気下、30℃~200℃の範囲で、昇温速度10℃/minにて、示差走査熱量分析を行い、Tgを算出した。なお、塩化ビニル樹脂の試料は、各種製造例で得られた塩化ビニル樹脂ラテックスを、入口温度105℃、出口温度55℃にて、噴霧乾燥した樹脂を用いた。
【0039】
(塩化ビニル樹脂凝集粒子の粒子径分布)
凝集ラテックスを試料とし、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、Partica LA-950)を用いて、凝集ラテックスにおける塩化ビニル樹脂凝集粒子(三次粒子)の粒子径分布を体積基準で測定し、体積粒度分布における累積体積百分率が50体積%の粒子径(メジアン径)D50、及び体積粒度分布における累積体積百分率が90体積%の粒子径D90を求めた。測定条件としては、温度25℃、物質情報は透明で屈折率1.51、球形粒子のチェックはなし、キャリアーは水を用い屈折率は1.33とした。また、セットゼロ(SET ZERO)10秒、計測10秒、ドライカット(DRY CUT)計算なしとした。
また、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、Partica LA-950)の超音波照射機能を使用し、20kHzで3分間照射した後の凝集ラテックスを試料とし、粒子径分布を体積基準で測定した。
20kHzで3分間照射した後の凝集ラテックスの粒子径分布において、ヒストグラムが一つのピークを有する場合は、塩化ビニル樹脂凝集粒子(三次粒子)のすべてが二次粒子へ崩壊し、一次粒子への崩壊がないことを意味し、該ヒストグラムに基づいて、凝集ラテックスにおける二次粒子のD50及びD90を求めた。
20kHzで3分間照射した後の凝集ラテックスの粒子径分布において、ヒストグラムが二つのピークを有する場合は、塩化ビニル樹脂凝集粒子(三次粒子)が二次粒子及び一次粒子へ崩壊したことを意味する。この場合は、得られた粒子径分布に対して対数正規分布を用いてフィッティングを行い、ピーク分離をすることで、ヒストグラムを二次粒子に対応するピーク及び一次粒子に対応するピークに分離し、塩化ビニル樹脂凝集粒子(三次粒子)の二次粒子への崩壊割合及び一次粒子への崩壊割合を求めた。また、二次粒子に対応するヒストグラムに基づいて、二次粒子のD50及びD90を求めた。
【0040】
(塩化ビニル樹脂凝集粒子の形状観察)
凝集ラテックスを試料とし、走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、S-4800)にて塩化ビニル樹脂凝集粒子の形状を観察した。
【0041】
(製造例1)
ジャケット付き300L耐圧容器に塩化ビニル単量体136.4Kg、イオン交換水150Kg、ラウリル硫酸ナトリウム16.7g、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(ロンガリット)127.5g、及び炭酸水素ナトリウム60gを仕込んで50℃に昇温し、攪拌しながら、0.3重量%t-ブチルヒドロペルオキシド水溶液3.2kg、及び4重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液7.9kgを連続的に追加することで、重合を行った。重合圧力が初期圧力(0.7MPa)より0.35MPa低下するまで重合した後、残存単量体を回収して塩化ビニル樹脂ラテックスを得た。最終的に得られた塩化ビニル樹脂ラテックスにおいて、塩化ビニル単量体の総仕込み量に対する重合転化率は90%であった。得られた塩化ビニル樹脂ラテックスにおいて、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径は0.45μmであり、平均重合度は1480であった。また、塩化ビニル樹脂ラテックス中の樹脂固形分の濃度は38重量%であった。
【0042】
(製造例2)
ジャケット付き300L耐圧容器に塩化ビニル単量体150Kg、イオン交換水150Kg、製造例1で得られた塩化ビニル樹脂ラテックス14.6kg、ミリスチン酸カリウム水溶液83.3g(塩化ビニル単量体の総仕込み量100重量部に対して0.06重量部)、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(ロンガリット)127.5g、及びリン酸カリウム15gを仕込んで48℃に昇温し、攪拌しながら、0.4重量%t-ブチルヒドロペルオキシド水溶液5.44kg、及び10重量%ミリスチン酸カリウム水溶液6.8kg(塩化ビニル単量体の総仕込み量100重量部に対して0.45重量部)を連続的に追加することで、重合を行った。重合圧力が初期圧力(0.65MPa)より0.3MPa低下するまで重合した後、残存単量体を回収して塩化ビニル樹脂ラテックスを得た。最終的に得られた塩化ビニル樹脂ラテックスにおいて、塩化ビニル単量体の総仕込み量に対する重合転化率は90%であった。得られた塩化ビニル樹脂ラテックスは、体積平均粒子径が1.24μmの塩化ビニル樹脂ラテックス粒子を80体積%と、体積平均粒子径が0.45μmの塩化ビニル樹脂ラテックス粒子を20体積%含み、塩化ビニル樹脂の平均重合度は1640であった。また、塩化ビニル樹脂ラテックス中の樹脂固形分の濃度は40重量%であり、塩化ビニル樹脂のTgは80℃であった。
【0043】
(実施例1)
製造例2で得られた塩化ビニル樹脂ラテックスを樹脂固形分濃度が36.5重量%になるように純水で希釈した。希釈後の塩化ビニル樹脂ラテックスと、凝集剤として硫酸ナトリウム(20重量%水溶液)をコロイドミル(PUC社製、Type-K120)に送液し、コロイドミルの入口で塩化ビニル樹脂ラテックス及び硫酸ナトリウムを混合させ、該混合物に対し、コロイドミル内部で、温度30℃、周波数60Hz、クリアランス40μm、及び滞留時間6秒の条件でせん断力を加えて塩化ビニル樹脂ラテックスを凝集させた。硫酸ナトリウムは、凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂ラテックス及び硫酸ナトリウムの水溶液の合計量)において2.0重量%になるように添加した。得られた凝集ラテックスを固形分濃度が20重量%となるように純水を加えて希釈し、希釈後の凝集ラテックスを60℃で10分間保持することにより熱処理を行い、塩化ビニル樹脂凝集粒子を作製した。
【0044】
(実施例2~4)
熱処理時の温度を下記表1に示したとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂凝集粒子を作製した。
【0045】
(実施例5~6)
周波数を下記表1に示したとおりに変更した以外は、実施例4と同様にして、塩化ビニル樹脂凝集粒子を作製した。
【0046】
(実施例7~10)
クリアランスを下記表1に示したとおりに変更した以外は、実施例4と同様にして、塩化ビニル樹脂凝集粒子を作製した。
【0047】
(実施例11~12)
凝集剤(硫酸ナトリウム)の濃度を下記表1に示したとおりに変更した以外は、実施例4と同様にして、塩化ビニル樹脂凝集粒子を作製した。
【0048】
(比較例1)
製造例2で得られた塩化ビニル樹脂ラテックスを固形分濃度が36.5重量%になるように純水で希釈し、希釈した塩化ビニル樹脂ラテックスに凝集剤として硫酸ナトリウム(20重量%水溶液)を凝集ラテックスにおいて2.0重量%となるように加えたものを50mLバイアル瓶に仕込み、マグネチックスターラーを使用して10分間撹拌し、塩化ビニル樹脂ラテックスを凝集させた。凝集ラテックスを90℃で10分間保持することにより熱処理を行った。
【0049】
(比較例2)
製造例2で得られた塩化ビニル樹脂ラテックスを固形分濃度が36.5重量%になるように純水で希釈し、希釈した塩化ビニル樹脂ラテックスに凝集剤として硫酸ナトリウム(20重量%水溶液)を凝集ラテックスにおいて2.0重量%となるように加えた。得られた混合物をMULTI STAGE MIXER(クリアランス8500μm)用いて温度30℃、攪拌動力10kW/m3の条件下で滞留時間6秒間撹拌し、塩化ビニル樹脂ラテックスを凝集させた。凝集ラテックスを90℃で10分間保持することにより熱処理を行った。
【0050】
【表1】
【0051】
製造例1及び2で得られた塩化ビニル樹脂ラテックスにおける塩化ビニル樹脂ラテックス粒子の体積平均粒子径、塩化ビニル樹脂の平均重合度及びガラス転移温度を上述したとおりに測定算出したものである。
【0052】
実施例及び比較例で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子の三次粒子及び二次粒子のD50及びD90を上述したとおりに測定算出し、その結果を下記表2に示した。また、実施例及び比較例で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子の超音波照射によって二次粒子に崩壊する二次粒子への崩壊割合、及び一次粒子に崩壊する一次粒子への崩壊割合を上述したとおりに測定算出し、その結果を下記表2に示した。また、実施例及び比較例で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子の形状を上述したおとりにSEM観察した。
【0053】
【表2】
【0054】
図3及び図4には、それぞれ、実施例3及び実施例4で得られた凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子)を超音波照射した後に、体積基準で測定した粒子径分布を例示した。
図3から分かるように、該ヒストグラムは一つのピークを有しており、実施例4で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子(三次粒子)は、超音波照射により、二次粒子へ崩壊するのみで、一次粒子への崩壊がない。図示はないが、実施例5~11で得られた凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子)を超音波照射した後に、体積基準で測定した粒子径分布のヒストグラムは、一つのピークを有していた。
図4から分かるように、該ヒストグラムは二つのピークを有しており、実施例3で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子(三次粒子)は、超音波照射により、大半が二次粒子へ崩壊するが、一部は一次粒子へ崩壊している。図示はないが、実施例1、2、及び12で得られた凝集ラテックス(塩化ビニル樹脂凝集粒子)を超音波照射した後に、体積基準で測定した粒子径分布のヒストグラムは二つのピークを有していた。
【0055】
図5に、実施例4の塩化ビニル樹脂凝集粒子のSEM観察象を示した。図5から、実施例4の塩化ビニル樹脂凝集粒子は、一次粒子(塩化ビニル樹脂ラテックス粒子)が集合した二次粒子がさらに集合して形成した三次粒子を含むことが分かる。実施例1~3、6~12については、図示がないが、実施例4と同様、塩化ビニル樹脂凝集粒子は、一次粒子(塩化ビニル樹脂ラテックス粒子)が集合した二次粒子がさらに集合して形成した三次粒子を含むことを確認した。
【0056】
また、表1及び2から分かるように、凝集剤による塩化ビニル樹脂ラテックスの凝集時にコロイドミルによるせん断力を加えた実施例1~12で得られた塩化ビニル樹脂凝集粒子は、超音波照射により、10~60μmのD50を有する三次粒子の大半が崩壊してD90が10.5μm以下の二次粒子を形成しており、金属缶コーティング用樹脂に求められる低ゾル粗粒(例えば、A法粗粒25μm以下)という特徴を満たしやくなる。また、実施例では、超音波照射により、一次粒子に崩壊する割合が少なく、一次粒子同士は強く結合して二次粒子を形成しているが、二次粒子同士は相対的に緩く結合して三次粒子を形成していることが分かる。そのため、洗浄等の工程に必要な強度や大きさを保ちながら、粉砕・分級の負荷が低い塩化ビニル樹脂凝集粒子を提供することができる。
【0057】
一方、凝集剤による塩化ビニル樹脂ラテックスの凝集時にコロイドミルによるせん断力を加えていない比較例1及び2の場合、塩化ビニル樹脂凝集粒子は、超音波照射した場合でも、崩壊した粒子のD90が20μmを超えており、金属缶コーティング用樹脂に求められる低ゾル粗粒(例えば、A法粗粒25μm以下)という特徴を満たすものを得るための、粉砕及び分級の負荷が高い。
【0058】
本発明は、特に限定されないが、例えば、下記の実施形態を含んでもよい。
[1]塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法であって、
塩化ビニル樹脂ラテックスと凝集剤の混合物に対して、コロイドミルでせん断力を加え、塩化ビニル樹脂凝集粒子を含む凝集ラテックスを得る工程、及び
前記凝集ラテックスを塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、[Tg-20℃]~[Tg+35℃]の温度範囲で熱処理する工程を含み、
前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して形成した二次粒子がさらに凝集して形成した三次粒子を含む、塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
[2]前記凝集剤は、無機塩である、[1]に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
[3]前記二次粒子のメジアン径が2.0~6.5μmである、[1]又は[2]に記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
[4]前記二次粒子のD90が10.5μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
[5]前記塩化ビニル樹脂凝集粒子は、塩化ビニル樹脂ラテックス粒子が凝集して形成した二次粒子を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
[6]前記熱処理は、塩化ビニル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合、Tg~[Tg+35℃]で行う、[1]~[5]のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
[7]前記塩化ビニル樹脂凝集粒子のメジアン径が10~60μmである、[1]~[6]のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂凝集粒子の製造方法。
【符号の説明】
【0059】
1 塩化ビニル樹脂ラテックス粒子
2 二次粒子(塩化ビニル樹脂凝集粒子)
3 三次粒子(塩化ビニル樹脂凝集粒子)
図1
図2
図3
図4
図5