(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137678
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】回り止めピン付アイジョイントの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16L 27/093 20060101AFI20240927BHJP
F16L 41/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16L27/093
F16L41/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214546
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2023046842
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000233619
【氏名又は名称】株式会社ニチリン
(71)【出願人】
【識別番号】390020606
【氏名又は名称】名古屋技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】桝野 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】林 健次
【テーマコード(参考)】
3H019
3H104
【Fターム(参考)】
3H019BA48
3H019BB10
3H019BD05
3H104KA01
3H104KB15
3H104KC03
3H104KC09
(57)【要約】
【課題】製造コストを低下させることが可能な回り止めピン付アイジョイントの製造方法を提供する。
【解決手段】ソケット11を端部に有するとともに円環部12を有するアイジョイント1と、回り止めピン2とが結合してなる回り止めピン付アイジョイントの製造方法であって、回り止めピン2の素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用い、円環部12の外周面に回り止めピン2をスポット溶接する溶接工程と、回り止めピン2がスポット溶接されたアイジョイント1を焼鈍処理する焼鈍工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部またはパイプ接続部を端部に有するとともに円環部を有するアイジョイントと、回り止めピンとが結合してなる回り止めピン付アイジョイントの製造方法であって、
前記回り止めピンの素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用い、
前記円環部の外周面に前記回り止めピンをスポット溶接する溶接工程と、
前記回り止めピンがスポット溶接された前記アイジョイントを焼鈍処理する焼鈍工程と、
を備える、
回り止めピン付アイジョイントの製造方法。
【請求項2】
前記焼鈍工程において、前記回り止めピンがスポット溶接された前記アイジョイントを900℃以上1150℃以下の温度で加熱する、
請求項1に記載の回り止めピン付アイジョイントの製造方法。
【請求項3】
前記溶接工程は、
溶接治具本体の第1空洞部に前記円環部を配置する第1工程と、
前記溶接治具本体の第2空洞部であって、前記第1空洞部と連通する第2空洞部に絶縁材料で形成されたピン用治具を嵌め込むとともに、前記ピン用治具の筒孔に前記回り止めピンを配置する第2工程と、
前記第1空洞部に配置された前記円環部の外周面に、前記筒孔に配置された前記回り止めピンをスポット溶接する第3工程と、
を有し、
前記ピン用治具の前記筒孔に、前記回り止めピンの端部が溶融した溶融物が、前記筒孔の外部へ漏出するのを抑制する逃げ空洞部であって、前記円環部の厚みよりも小径の逃げ空洞部が設けられている、
請求項1または2に記載の回り止めピン付アイジョイントの製造方法。
【請求項4】
前記溶接治具本体に、前記第1空洞部における前記円環部が配置される部分と交差する第3空洞部であって、電極棒が挿入される第3空洞部が形成されており、
前記第3工程において、前記第1空洞部に配置された前記円環部に前記電極棒を挿入してスポット溶接する、
請求項3に記載の回り止めピン付アイジョイントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回り止めピン付アイジョイントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等のブレーキは、ペダル踏力が液圧へと変換され、液圧を伝達するブレーキオイルが、ブレーキホース内を通ってブレーキキャリパーに送られることで作用する。このようなブレーキホース等には、一般的に先端にアイジョイントが取り付けられており、アイジョイントを介してブレーキキャリパーに接続される。
【0003】
アイジョイントは、その円環部に挿通されたボルトで固定されるのが一般的である。このボルトによる固定時にアイジョイントが回転してしまうのを防止するために、アイジョイントの円環部に回り止めピンを設けることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回り止めピンをアイジョイントの円環部に結合するために、当該円環部の側面に凹部を形成して、回り止めピンを凹部に圧入してロウ付けすることが一般的である。また、例えば、特許文献1のアイジョイントでは、凹部を形成してはいないが、回り止めピンの溶接強度を向上させるために、回り止め用のピンに対して、アイジョイントとの接合部を湾曲させた状態に加工し、さらに、その湾曲面に突起を設けて溶接を行っている。しかしながら、上記従来の方法では、手間がかかり、製造コストが高くなる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、製造コストを低下させることが可能な回り止めピン付アイジョイントの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の回り止めピン付アイジョイントの製造方法は、筒状部を端部に有するとともに円環部を有するアイジョイントと、回り止めピンとが結合してなる回り止めピン付アイジョイントの製造方法であって、
前記回り止めピンの素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用い、
前記円環部の外周面に前記回り止めピンをスポット溶接する溶接工程と、
前記回り止めピンがスポット溶接された前記アイジョイントを焼鈍処理する焼鈍工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アイジョイントに対して、回り止めピンをスポット溶接する。このとき、回り止めピンがスポット溶接の熱により硬化および脆化し、溶接部の強度が低下したとしても、回り止めピンの素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用いていること、および、その後に焼鈍処理を行うことによって溶接部の靭性が上がり、溶接部の強度を向上させることが可能となる。その結果、アイジョイントへの回り止めピンの結合に簡易な方法を採用することが可能となり、製造コストを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】回り止めピン付アイジョイント100の一例を示す斜視図である。
【
図2】回り止めピン付アイジョイント100の一例を示す縦断側面図である。
【
図3】アイジョイント1に回り止めピン2をスポット溶接する際の概略図である。
【
図4】回り止めピンの強度を計測する際の回り止めピン付アイジョイント100の治具3への設置状態を示す図である。
【
図5】アイジョイント1の他の例を示す説明図である。
【
図6】溶接治具の分解斜視図と、溶接工程におけるアイジョイント10および回り止めピン2の溶接治具に対する配置位置を示す説明図である。
【
図7】溶接治具本体40における第1空洞部61、第2空洞部62、および、第3空洞部63の位置関係を示す溶接治具本体40の断面図である。
【
図8】ピン用治具50によるアイジョイント10に対する回り止めピン2の位置決めを説明する概略図である。
【
図9】溶接時における溶接治具と、アイジョイント10および回り止めピン2と、溶接用の電極と、の位置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
(回り止めピン付アイジョイント100の構成)
図1に示すように、本実施形態の回り止めピン付アイジョイント100は、アイジョイント1と、回り止めピン2とが結合してなる。
【0012】
(アイジョイント1)
アイジョイント1は、
図1および
図2に示すように、筒状部としてのソケット11と、円環部12と、首部13と、ニップル14とを有する。
【0013】
ソケット11は、アイジョイント1の一端部に設けられる。ソケット11は、内部に挿入部11aが設けられている(
図2参照)。内部に設けられる挿入部11aは、管形状をなす。ソケット11と挿入部11aとは、軸心が一致する。
【0014】
円環部12は、アイジョイント1の他端部に設けられる。円環部12は、固定のためのボルトが挿通される貫通孔12bを有した円環状の部材である。円環部12には、その上面と下面との略中央部に、円環部12の側壁面を貫く打込孔12a(
図2参照)が設けられている。打込孔12aには、首部13の先端が打ち込まれ、銅ロウ付けにより当該箇所が接合される。
【0015】
首部13は、ソケット11と一体的に形成されたソケット11よりも細い筒型形状であり、内部に連通孔13a(
図2参照)が設けられている。上述のように、首部13の先端が、円環部12の打込孔12aに打ち込まれることで、ソケット11と円環部12とが接続される。
【0016】
ニップル14は、外径が、連通孔13aに合わせて形成された筒型部材であり、内部に流体孔14aが形成されている。ニップル14の先端部は、連通孔13aに打ち込まれ、銅ロウ付けにより当該箇所が接合される。これにより、ニップル14の流体孔14aは、円環部12に形成された貫通孔12bに、連通孔13aを介して連通される。また、ソケット11は、ニップル14の接合によりソケット型に構成されるので、例えば、ブレーキホース等を挿入部11aに挿入して接続することが可能となる。
【0017】
ソケット11と円環部12と首部13とニップル14とは、ソケット11に設けられた挿入部11aの軸心と、円環部12に設けられた打込孔12aおよび首部13に設けられた連通孔13aの軸心と、ニップル14に設けられた流体孔14aの軸心とが、一致するように構成されている。
【0018】
アイジョイント1の形状は、液圧ブレーキ系の実用上に問題のないものであれば、この限りではない。また、アイジョイント1の材質は、液圧ブレーキ系の実用上に問題のないものであれば、いかなるものでも構わない。
【0019】
また、本実施形態において、アイジョイント1の材質は、例えば、炭素鋼を用いる。具体的に、アイジョイント1の材質は、カーボン量として、0.10重量%以上0.15重量%以下を含む炭素鋼を用いる。より具体的に、アイジョイント1の材質は、冷間圧造用炭素鋼のSWCH12AまたはSWCH12Rを用いる。
【0020】
(回り止めピン2)
回り止めピン2は、円環部12の外周面に設けられる。本実施形態では、ソケット11と対向する位置に設けられるが、これに限定されない。円環部12の外周面における他のいずれの位置であってもよいし、複数個所に設けられていてもよい。また、本実施形態の回り止めピン2の形状は円柱形状であるが、これに限定されず、L字形状等であってもよい。
【0021】
また、本実施形態において、回り止めピン2の材質は、カーボン量として、0.42重量%以上0.48重量%以下を含む炭素鋼を用いる。より具体的に、回り止めピン2の材質は、冷間圧造用炭素鋼のSWCH45Kを用いる。このように、回り止めピン2には、アイジョイント1よりも多くのカーボン量を含む炭素鋼を用いる。
【0022】
(回り止めピン付アイジョイント100の製造方法:溶接工程)
まず、回り止めピン2をアイジョイント1にスポット溶接する溶接工程が行われる。
図3に示すように、回り止めピン2は、スポット溶接される側の端部において、先細りのテーパ形状に加工されたテーパ部2aを有していることが好ましい。これにより、回り止めピン2における電気抵抗が高くなるため、テーパ部2aにスポット溶接による発熱を、より集中させて溶融させることができる。このように、本実施形態では、溶接材は用いず、回り止めピン2のテーパ部2aを溶融させて、アイジョイント1に接合させる。
【0023】
このように、回り止めピン2をスポット溶接してアイジョイント1に接合される。回り止めピン2はカーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼であるため、スポット溶接の熱により、回り止めピン2の機械的性質として、硬化および脆化の変化が生じると考えられる。
【0024】
上述したアイジョイント1は、ブレーキホース(不図示)の端部に装着されるものである。例えば、ソケット11にブレーキホースの端部を差し込み、ソケット11の内部に設けられたニップル14によってブレーキホースを保持しつつ、ソケット11を加締めて、縮径させることによって、アイジョイント1がブレーキホースの端部に装着される。
【0025】
上述のようなブレーキホースを装着するアイジョイント1に限定されず、例えば、パイプ接続用のアイジョイント10であってもよい。具体的には、
図5に示すパイプ接続用のアイジョイント10を用いた回り止めピン付アイジョイント100の製造方法に、本発明を適用してもよい。
図5に示すように、アイジョイント10は、円環部12と、円筒状のパイプ接続部15と、を有している。パイプ接続部15は、一端部が円環部12と一体に形成され、他端部がパイプ16に接続される。パイプ接続部15とパイプ16との接続態様については、例えば、ロウ付けが用いられる。パイプ16には、例えば、二重巻鋼管が用いられる。また、パイプ16の端部にソケットを接続する場合には、例えば、特許第6906230に記載の方法を用いることができる。
【0026】
次に説明する溶接工程の具体例では、
図5の例に示した、アイジョイント10を用いて説明する。
【0027】
(溶接工程の具体例)
例えば、溶接治具を用いて、円環部12に回り止めピン2をスポット溶接する溶接工程が行われる。
図6に示すように、溶接治具は、溶接治具本体40と、ピン用治具50と、から構成される。溶接治具本体40は、溶接工程において、円環部12およびパイプ接続部15を固定するために用いられる。ピン用治具50は、溶接工程において、円環部12に対して、回り止めピン2を位置決めするために用いられる。
【0028】
(溶接工程の具体例:溶接治具本体40)
溶接治具本体40は、内部に、第1空洞部61、第2空洞部62、および、第3空洞部63を有する。第1空洞部61は、円環部12およびパイプ接続部15を配置するための空間である。第2空洞部62は、ピン用治具50を配置するための空間である。また、第3空洞部63(
図7参照)は、スポット溶接を行うための電極(例えば、
図9を参照して説明する円環部側電極棒70)を配置するための空間である。
【0029】
図6に示すように、溶接治具本体40は、割型状の治具であって、第1溶接治具本体41と、第2溶接治具本体42と、を備える。第1溶接治具本体41と、第2溶接治具本体42と、は互いに当接される当接面40aのそれぞれに、対称形状の嵌め込み穴が形成されている。第1溶接治具本体41と、第2溶接治具本体42とが当接されたときに、この対称形状の嵌め込み穴によって、第1空洞部61、および、第2空洞部62が形成される。なお、本実施形態では、溶接治具本体40は、第1溶接治具本体41および第2溶接治具本体42を有した割型状に形成されているが、円環部12およびパイプ接続部15が配置される形状であればよく、これに限定されない。
【0030】
第1溶接治具本体41、および、第2溶接治具本体42は、互いに当接される当接面40aを有している。円環部12およびパイプ接続部15は、この当接面40aに形成される第1空洞部61に配置される。円環部12およびパイプ接続部15は、円環部12における貫通孔12bの軸方向が、第1溶接治具本体41、および、第2溶接治具本体42が当接される方向と一致するように、第1空洞部61に配置される。
【0031】
以下、第1溶接治具本体41、および、第2溶接治具本体42が当接される方向を前後方向Xとする。前後方向Xにおいて、第1溶接治具本体41がある側を前側X1とし、第2溶接治具本体42がある側を後側X2とする。また、アイジョイント10の筒型形状であるパイプ接続部15の軸方向を上下方向Zとする。上下方向Zにおいて、上下方向Zのパイプ接続部15から円環部12へ向かう方向を上側Z1とし、その逆側を下側Z2とする。また、前後方向Xおよび上下方向Zのそれぞれに直交する方向を横方向Yとする。
【0032】
図6中の左上部に示すように、溶接治具本体40の嵌め込み穴は、第1空洞部61、および、第1空洞部61の上側Z1に連通する第2空洞部62を形成する。第1空洞部61には、円環部12およびパイプ接続部15が嵌め込まれる。円環部12およびパイプ接続部15を第1空洞部61に嵌め込んだとき、円環部12の上側Z1の一部が、第2空洞部62に突出した状態となる。第2空洞部62には、ピン用治具50が配置される。ピン用治具50が、溶接治具本体40の上側Z1から配置できるように、第2空洞部62は、溶接治具本体40の上側Z1に貫通している。なお、
図6中の左上部や
図7などには、対称形状の一対の嵌め込み穴のうち、一方の穴(第1溶接治具本体41の嵌め込み穴)のみを示している。
【0033】
当接面40aには、第1溶接治具本体41にピン穴412が設けられており、第2溶接治具本体42の対向する位置に位置決めピン422が設けられている。ピン穴412に位置決めピン422が挿入されることで、第1溶接治具本体41と第2溶接治具本体42とを容易に合体させることができる。
【0034】
また、
図7に示すように、溶接治具本体40には、溶接治具本体40を前後方向Xに貫通する第3空洞部63が形成されている。第3空洞部63は、第1空洞部61に円環部12が配置された際に、円環部12が配置される部分と交差するように形成される。本実施形態では、第3空洞部63の断面形状は、円環部12の貫通孔12bの断面形状と略一致するように形成されるが、これに限定されない。第3空洞部63には、円環部側電極棒70(後述)が挿入される。
【0035】
(溶接工程の具体例:ピン用治具50)
上述したように、ピン用治具50は、溶接工程において、円環部12に対して、回り止めピン2を位置決めするために用いられる。ピン用治具50は、絶縁材料で形成されており、例えば、セラミックで形成されている。
図8に示すように、ピン用治具50は、円環部用嵌合穴51と、筒孔52とを有している。円環部用嵌合穴51は、ピン用治具50の下側Z2に形成される。円環部用嵌合穴51は、円環部12の第2空洞部62に突出する部分が嵌め込まれる嵌合穴である。すなわち、円環部用嵌合穴51は、第2空洞部62に突出する円環部12の形状に合致する。筒孔52は、円環部用嵌合穴51と連通し、円環部用嵌合穴51の上側Z1に位置する。筒孔52に回り止めピン2が配置されることで、回り止めピン2の下側Z2の先端部分が、円環部12の外周面に当接される。
【0036】
また、
図8に示すように、筒孔52には、逃げ空洞部52aが形成されている。逃げ空洞部52aは、筒孔52の下側Z2の先端部分において、径が拡大された拡大部分である。これにより、回り止めピン2の下側Z2の端部が溶融した溶融物を逃げ空洞部52aに逃がすことができるので、回り止めピン2の溶融物が筒孔52の外部へ漏出するのを抑制することが可能となる。また、逃げ空洞部52aは、前後方向Xにおいて、円環部12の厚みよりも小径に形成されている。これにより、回り止めピン2の端部が溶融した溶融物が、逃げ空洞部52aを介して円環部12へ漏出するのを抑制することが可能となる。
【0037】
(溶接工程の具体的な一例)
溶接工程は、以下の第1工程~第3工程を有している。
図9に示すように、第1工程では、第1空洞部61に円環部12およびパイプ接続部15が配置される。例えば、円環部12およびパイプ接続部15は、第1溶接治具本体41に嵌め込まれる。そして、円環部12およびパイプ接続部15が嵌め込まれた第1溶接治具本体41に、第2溶接治具本体42が、ピン穴412および位置決めピン422によって位置決めされながら当接される。
【0038】
第2工程では、ピン用治具50が第2空洞部62に嵌め込まれる。そして、
図8に示すように、回り止めピン2がピン用治具50の筒孔52に配置される。
【0039】
第3工程では、第1空洞部61に配置された円環部12の外周面に、筒孔52に配置された回り止めピン2がスポット溶接される。まず、例えば、
図9に示すように、前側X1から、第3空洞部63に、スポット溶接を行うための電極である円環部側電極棒70が挿入される。これにより、円環部側電極棒70は、円環部12の貫通孔12bに挿入され、円環部12と電気的に接続されることになる。
【0040】
そして、ピン用治具50に配置されている回り止めピン2に、ピン側電極棒71を接触させる。そして、ピン側電極棒71で、回り止めピン2に対して下側Z2へ圧力を掛けながら、図示しないバッテリーから電流を流してスポット溶接が行われる。スポット溶接が行われると、回り止めピン2は、下側Z2のテーパ状に形成された先端部分から溶融され、円環部12の外周面と接合される。このとき、回り止めピン2の溶融物は、逃げ空洞部52aへ広がるので、溶融物が筒孔の外部へ漏出するのが抑制される。
【0041】
(回り止めピン付アイジョイント100の製造方法:焼鈍工程)
次に、回り止めピン2がスポット溶接されたアイジョイント1を焼鈍処理する焼鈍工程が行われる。焼鈍工程は、例えば、連続炉を用いた、加熱処理および冷却処理を含む。具体的に、焼鈍工程において、回り止めピン付アイジョイント100は、ベルトコンベアで毎分数十mmの速度で運搬され、加熱炉と冷却設備とを通過することにより焼鈍が行われる。
【0042】
加熱炉は、例えば、900℃以上1150℃以下、好ましくは、950℃以上1120℃以下の温度に設定され、酸化を防止するために、メタンやプロパン等のガス雰囲気にされることが好ましい。冷却設備は、例えば、内部のガスを外側から水で冷却する構成にされている。なお、連続炉における、加熱炉および冷却設備は、それぞれ複数であってもよい。
【0043】
このように、硬化および脆化により、強度が低下した回り止めピン2に対して、焼鈍を行うことにより、回り止めピン2の溶接部における靭性を向上させることが可能となる。
【0044】
なお、この焼鈍工程において、上述した打込孔12aへの首部13の打ち込み箇所や、連通孔13aへのニップル14の打ち込み箇所についての銅ロウ付けを同時に行ってもよい。この場合、首部13およびニップル14に、銅線をリング状に成形した銅リング(不図示)を、上記打ち込み箇所近傍に配置した状態にしておくことで、焼鈍工程における熱処理によって銅リングが溶融し、銅の溶湯が毛細管現象により打込孔12aに首部13を打ち込んだ隙間や、連通孔13aにニップル14を打ち込んだ隙間に侵入してロウ付けされる。これにより、首部13が円環部12に接合され、ニップル14がソケット11に接合される。
【0045】
上記のような銅ロウ付けを行う場合等において、例えば、加熱炉を二層構成としてもよい。具体的には、一層目として、銅の融点(1083℃)よりも低い温度(例えば、900℃等)まで加熱する加熱炉を設ける。そして、二層目として、銅の融点(1083℃)よりも高い温度(例えば、1150℃等)まで加熱する加熱炉を設ける。これにより、一層目で、回り止めピン付アイジョイント100全体を均等に加熱し、二層目で銅の融点を超える温度まで加熱することで、溶融した銅の浸透性を向上させることが可能となる。
【0046】
このように、ロウ付けの工程が必要なアイジョイント1の場合には、回り止めピン付アイジョイント100を焼鈍する工程で、同時にロウ付けの工程も行うことができる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態に係る回り止めピン付アイジョイント100の製造方法について説明した。前記の記載により、回り止めピン付アイジョイント100の製造方法について、以下の技術的特徴が開示された。
【0048】
本実施形態の回り止めピン付アイジョイント100の製造方法は、ソケット11を端部に有するとともに円環部12を有するアイジョイント1と、回り止めピン2とが結合してなる回り止めピン付アイジョイントの製造方法であって、回り止めピン2の素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用い、円環部12の外周面に回り止めピン2をスポット溶接する溶接工程と、回り止めピン2がスポット溶接されたアイジョイント1を焼鈍処理する焼鈍工程と、を備える。
【0049】
上記構成によれば、アイジョイント1に対して、回り止めピン2をスポット溶接する。このとき、回り止めピン2がスポット溶接の熱により硬化および脆化し、溶接部の強度が低下したとしても、回り止めピン2の素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用いていること、および、その後に焼鈍処理を行うことによって溶接部の靭性が上がり、溶接部の強度を向上させることが可能となる。その結果、アイジョイント1への回り止めピン2の結合に簡易な方法を採用することが可能となり、製造コストを低下させることができる。
【0050】
また、本実施形態の回り止めピン付アイジョイント100の製造方法において、溶接工程は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を有する。第1工程は、溶接治具本体40の第1空洞部61に円環部12およびパイプ接続部15を配置する。第2工程は、溶接治具本体40の第2空洞部62であって、第1空洞部61と連通する第2空洞部62に絶縁材料で形成されたピン用治具50を嵌め込むとともに、ピン用治具50の筒孔52に回り止めピン2を配置する。第3工程は、第1空洞部61に配置された円環部12の外周面に、筒孔52に配置された回り止めピン2をスポット溶接する。ピン用治具50の筒孔52には、逃げ空洞部52aが設けられている。逃げ空洞部52aは、回り止めピン2の端部が溶融した溶融物が、筒孔の外部へ漏出するのを抑制する。逃げ空洞部52aは、円環部12の厚みよりも小径である。
【0051】
上記構成によれば、円環部12およびパイプ接続部15は、溶接治具本体40によって配置され、回り止めピン2は、ピン用治具50によって、円環部12に対して配置される。また、回り止めピン2が配置されるピン用治具50の筒孔52には、逃げ空洞部52aが設けられている。これにより、円環部12および回り止めピン2の配置を、溶接治具本体40およびピン用治具50によって行うことができ、さらに、スポット溶接時の溶融物の外部への漏出を抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態の回り止めピン付アイジョイント100の製造方法において、溶接治具本体40に、第1空洞部61における円環部12が配置される部分と交差する第3空洞部63が形成されている。第3空洞部63には、円環部側電極棒70が挿入される。第3工程において、第1空洞部61に配置された円環部12の貫通孔12bに、円環部側電極棒70を挿入してスポット溶接する。
【0053】
上記構成によれば、円環部側電極棒70は、溶接治具本体40の第3空洞部63に挿入されるとともに、円環部12の貫通孔12bに挿入される。これにより、円環部側電極棒70は、円環部12との電気的接続を行うことを実現するとともに、溶接治具本体40と円環部12との位置ずれをも抑制することが可能となる。
【0054】
以上、本発明の実施例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施形態に記載された、作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例0055】
(焼鈍後の回り止めピン2のピン強度)
次に、本実施形態に係る回り止めピン付アイジョイント100の比較例と実施例とを用いて、回り止めピン付アイジョイント100における回り止めピン2のピン強度について、具体的に説明する。
【0056】
表1に示すように、比較例1~6は、回り止めピン2の材質として、JIS規格のカーボン量が、0.10重量%以上0.15重量%以下であるSWCH12Aを用いた。これに対し、実施例1~3および比較例7~9は、回り止めピン2の材質として、JIS規格のカーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下であるSWCH45Kを用いた。なお、回り止めピン2のピン径としては、いずれも5mmのものを用いた。また、アイジョイント1の材質としては、いずれもSWCH12Aを用いた。
【0057】
【0058】
また、それぞれ上記の回り止めピン2をスポット溶接した回り止めピン付アイジョイント100を以下の条件で焼鈍した。具体的に、焼鈍工程では、長さ約20mの連続炉において、回り止めピン付アイジョイント100を、速さ35mm/分のベルトコンベアで移動させて加熱および冷却を行った。加熱炉内の温度は、約950℃~1100℃に設定され、約4mの距離を上記速度で回り止めピン付アイジョイント100を移動させた。冷却設備は、冷却塔による冷却水循環で室内が冷却されるものであり、約9mの距離を移動させて回り止めピン付アイジョイント100を冷却した。冷却設備を冷却した排水温度は、約25℃~50℃であった。
【0059】
また、回り止めピン2のピン強度の測定には、
図4に示すような治具3を用いた。具体的に、治具3は、回り止めピン付アイジョイント100を設置する設置台33と、設置台33において、回り止めピン付アイジョイント100の円環部12の貫通孔に嵌合する嵌合部31と、回り止めピン付アイジョイント100の回動を制止する制止部32と、を有している。嵌合部31に嵌合させた回り止めピン付アイジョイント100は、回動可能にされる。回動される回り止めピン付アイジョイント100は、所定位置で制止部32と回り止めピン2とが接触し、回動が制止される。このような状態で、比較例および実施例の回り止めピン付アイジョイント100の制止部32による制止方向へトルクを掛け、ピンの状態に変化が生じたときの強度を計測した。なお、実施例および比較例ごとに3個の試料を作製した(実施例1~3、比較例1~9)。比較例7~9および比較例1~3については、焼鈍工程前の段階(回り止めピン2をアイジョイント1にスポット溶接した段階)で上記計測を行った。なお、比較例7~9および比較例1~3について、円環部12への首部13のロウ付け、および、ソケット11へのニップル14のロウ付けは、まだ行われていない。また、実施例1~3、および、比較例4~6については、焼鈍工程後の段階で上記計測を行った。
【0060】
【0061】
その結果、表2に示すように、焼鈍前の回り止めピン2のピン強度は、比較例7~9でそれぞれ20、25、28N・mの強度であり、比較例1~3でそれぞれ38、45、50N・mの強度であった。一方、焼鈍後の回り止めピン2のピン強度は、実施例1~3でそれぞれ61、64、66N・mの強度であり、比較例4~6でそれぞれ34、35、36N・mの強度であった。このように、実施例の回り止めピン2のピン強度が、焼鈍により大きく向上していることが分かった。また、比較例では、焼鈍後、回り止めピン2が変形しており、ピン自体が軟化していることが分かった。
【0062】
このように、回り止めピンをスポット溶接で簡易に接合したとしても、回り止めピン2の素材として、カーボン量が、0.42重量%以上0.48重量%以下の炭素鋼を用い、スポット溶接後に焼鈍を行うことにより、回り止めピン2のピン強度を向上させることができる。