(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137681
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法、それにより選定された白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒とを含有する固体高分子型燃料電池用触媒インク及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240927BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240927BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240927BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M8/10 101
H01M4/92
H01M4/90 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216054
(22)【出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2023047338
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 修平
(72)【発明者】
【氏名】原田 雅史
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】平出 篤志
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB12
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE10
5H018EE16
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH00
5H018HH02
5H126BB06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子の種類が異なる場合であっても、前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散するアイオノマーの吸着量又は吸着率を算出することができ、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることが可能な前記Pt/C粒子と溶媒との組合せの選定方法を提供する。
【解決手段】アイオノマーのPt/C粒子への吸着量が所定の式で表されるカーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)で0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa0.5以下となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定することを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクにおいて、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せを選定する方法であって、
前記アイオノマーの前記Pt/C粒子への吸着量が、下記式(1):
【数1】
〔前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa
0.5]を表し、A
m
Effは、下記式(2):
【数2】
(前記式中、A
mは、メソ孔(細孔径≦5nm)の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積[単位:m
2/g]を表し、D
fは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表し、R
aggは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子凝集体の半径[単位:nm]を表し、θは、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率を表し、c
0及びkは係数を表し、c
0=58.5、k=26.8である。)
により求められ、C
1~C
4は係数を表し、C
1=3.12×10
-6、C
2=0.42、C
3=18.1、C
4=-5.32である。〕
で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)で0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa
0.5以下となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定することを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【請求項2】
白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクにおいて、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せを選定する方法であって、
下記式(3):
【数3】
(前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa
0.5]を表し、SSAは、前記Pt/C粒子のBET比表面積[単位:m
2/g]を表し、D
fは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表す。)
で表される前記アイオノマーの吸着率が22~45質量%となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定することを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【請求項3】
前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【請求項4】
前記溶媒が、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【請求項5】
白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法であって、
請求項1又は2に記載の選定方法により前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定し、
選定された前記Pt/C粒子と、前記アイオノマーと、選定された前記溶媒とを混合する、
ことを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法。
【請求項6】
白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクであり、
前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せが、
前記アイオノマーの前記Pt/C粒子への吸着量が、下記式(1):
【数4】
〔前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa
0.5]を表し、A
m
Effは、下記式(2):
【数5】
(前記式中、A
mは、メソ孔(細孔径≦5nm)の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積[単位:m
2/g]を表し、D
fは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表し、R
aggは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子凝集体の半径[単位:nm]を表し、θは、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率を表し、c
0及びkは係数を表し、c
0=58.5、k=26.8である。)
により求められ、C
1~C
4は係数を表し、C
1=3.12×10
-6、C
2=0.42、C
3=18.1、C
4=-5.32である。〕
で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)で0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa
0.5以下となるように選定された組合せであることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒インク。
【請求項7】
白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクであり、
前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せが、
下記式(3):
【数6】
(前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa
0.5]を表し、SSAは、前記Pt/C粒子のBET比表面積[単位:m
2/g]を表し、D
fは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表す。)
で表される前記アイオノマーの吸着率が22~45質量%となるように選定された組合せであることを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法、それにより選定された白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒とを含有する固体高分子型燃料電池用触媒インク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とするものである。このような固体高分子型燃料電池の触媒層は、テフロン(登録商標)製シート等の基材又は固体高分子電解質膜の表面に触媒インクを塗布、乾燥させることによって形成される。このとき使用される触媒インクは、一般的には、白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子とプロトン伝導体であるアイオノマーとを溶媒に分散させたものであり、前記Pt/C粒子の分散性が触媒インクの貯蔵安定性や燃料電池の生産性及びその発電性能に影響を及ぼすことから、触媒インクにおける前記Pt/C粒子の分散性の向上が重要となる。
【0003】
前記Pt/C粒子とアイオノマーとを含有する触媒インクにおいては、アイオノマーが前記Pt/C粒子に吸着することによって、これらが溶媒中に分散する。したがって、アイオノマーの吸着率が低くなると、前記Pt/C粒子が凝集するため、前記Pt/C粒子の分散性が低下し、前記Pt/C粒子と溶媒が分離し、触媒インクの貯蔵安定性が低下する。また、前記Pt/C粒子の分散性が低下すると、触媒インクの粘度も高くなり、塗工性が低下する。さらに、前記Pt/C粒子の分散性が低い触媒インクを塗工、乾燥させると、形成される触媒層が不均一となる。
【0004】
また、アイオノマーは、前記Pt/C粒子とアイオノマーとの疎水性相互作用により、前記Pt/C粒子に吸着すると考えられている。このため、溶媒として親水性の高い溶媒を使用すると、アイオノマーの吸着率が向上する。しかしながら、溶媒の親水性が高くなりすぎると、溶媒の表面張力が高くなるため、気泡が発生しやすくなったり、発生した気泡が消泡しにくくなったりする。このため、親水性の高い溶媒を用いた触媒インクを塗工、乾燥させると、形成される触媒層にボイドが生成する。
【0005】
そこで、特開2018-139203号公報(特許文献1)には、水と一緒に混合溶媒を形成することができ、前記Pt/C粒子等の触媒担持粒子にアイオノマーを吸着させて、これらを良好に分散させることができる溶媒の選定方法として、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP値)とアイオノマーの疎水部のHSP値との差及び溶媒のHSP値と水のHSP値との差がそれぞれ特定の条件を満たす溶媒を選定する方法が提案されている。しかしながら、この選定方法では、触媒担持粒子の種類(特に、担体粒子の種類)が異なると、溶媒のHSP値とアイオノマーの疎水部のHSP値との差及び溶媒のHSP値と水のHSP値との差がそれぞれ満たす条件を再度設定する必要があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子の種類が異なる場合であっても、前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散するアイオノマーの吸着量又は吸着率を算出することができ、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることが可能な前記Pt/C粒子と溶媒との組合せの選定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子へのアイオノマーの吸着に対して、溶媒の違いだけでなく、前記Pt/C粒子の違いによる影響を考慮して、アイオノマーの吸着量又は吸着率を算出することによって、前記Pt/C粒子の種類や溶媒の種類が異なる場合であっても、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることが可能な前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0010】
[1]白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクにおいて、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せを選定する方法であって、
前記アイオノマーの前記Pt/C粒子への吸着量が、下記式(1):
【0011】
【0012】
〔前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa0.5]を表し、Am
Effは、下記式(2):
【0013】
【0014】
(前記式中、Amは、メソ孔(細孔径≦5nm)の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積[単位:m2/g]を表し、Dfは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表し、Raggは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子凝集体の半径[単位:nm]を表し、θは、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率を表し、c0及びkは係数を表し、c0=58.5、k=26.8である。)
により求められ、C1~C4は係数を表し、C1=3.12×10-6、C2=0.42、C3=18.1、C4=-5.32である。〕
で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)で0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa0.5以下となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定する、固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【0015】
[2]白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクにおいて、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せを選定する方法であって、
下記式(3):
【0016】
【0017】
(前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa0.5]を表し、SSAは、前記Pt/C粒子のBET比表面積[単位:m2/g]を表し、Dfは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表す。)
で表される前記アイオノマーの吸着率が22~45質量%となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定する、固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【0018】
[3]前記アイオノマーが、パーフルオロスルホン酸ポリマーである、[1]又は[2]に記載の固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【0019】
[4]前記溶媒が、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒である、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法。
【0020】
[5]白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法であって、
[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の選定方法により前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定し、
選定された前記Pt/C粒子と、前記アイオノマーと、選定された前記溶媒とを混合する、
固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法。
【0021】
[6]白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクであり、
前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せが、
前記アイオノマーの前記Pt/C粒子への吸着量が、下記式(1):
【0022】
【0023】
〔前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa0.5]を表し、Am
Effは、下記式(2):
【0024】
【0025】
(前記式中、Amは、メソ孔(細孔径≦5nm)の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積[単位:m2/g]を表し、Dfは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表し、Raggは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子凝集体の半径[単位:nm]を表し、θは、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率を表し、c0及びkは係数を表し、c0=58.5、k=26.8である。)
により求められ、C1~C4は係数を表し、C1=3.12×10-6、C2=0.42、C3=18.1、C4=-5.32である。〕
で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)で0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa0.5以下となるように選定された組合せである、固体高分子型燃料電池用触媒インク。
【0026】
[7]白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクであり、
前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せが、
下記式(3):
【0027】
【0028】
(前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa0.5]を表し、SSAは、前記Pt/C粒子のBET比表面積[単位:m2/g]を表し、Dfは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表す。)
で表される前記アイオノマーの吸着率が22~45質量%となるように選定された組合せである、固体高分子型燃料電池用触媒インク。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子の種類が異なる場合であっても、前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散するアイオノマーの吸着量又は吸着率を算出することができ、その結果、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】白金担持カーボン粒子の表面酸性官能基密度とアイオノマー吸着率Γとの関係を示すグラフである。
【
図2】各種Pt/C粒子におけるカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)の実験値と式(11)での予測値との関係を示すグラフである。
【
図3】溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項(HSPδh)とカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との関係を示すグラフである。
【
図4】溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項(HSPδh)とカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との関係を示すグラフである。
【
図5】各種Pt/C粒子におけるカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)の実験値と式(1)での予測値との関係を示すグラフである。
【
図6】溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項(HSPδh)とアイオノマーの吸着率Γとの関係を示すグラフである。
【
図7】本発明に用いられる白金担持カーボン粒子BETの比表面積/フラクタル次元とアイオノマー吸着率Γとの関係を示すグラフである。
【
図8】本発明に用いられる白金担持カーボン粒子のBET比表面積/フラクタル次元と溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項(HSPδh)とアイオノマー吸着率Γとの関係を示すグラフである。
【
図9】
図8中の曲面を2次元的に表したグラフである。
【
図10】カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)と触媒インクの粘度との関係を示すグラフである。
【
図11】アイオノマー吸着率と触媒インクの粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0032】
〔固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法〕
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用する白金又は白金合金担持カーボン粒子と溶媒との選定方法は、白金又は白金合金担持カーボン(Pt/C)粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクにおいて、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せを選定する方法である。
【0033】
本発明に用いられる前記Pt/C粒子としては、カーボン粒子に白金又は白金合金が担持されたものであって、固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用できるものであれば特に制限はなく、従来公知の白金又は白金合金担持カーボン粒子を使用することができる。白金合金としては、例えば、白金-コバルト合金、白金-ニッケル合金、白金-パラジウム合金、白金-ルテニウム合金、白金-鉄合金、白金-金合金、白金-イリジウム合金等が挙げられる。
【0034】
アイオノマーについても、固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用できるものであれば特に制限はなく、例えば、リン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸性官能基を側鎖に有する炭化水素系樹脂等が挙げられ、中でも、パーフルオロスルホン酸ポリマー(例えば、Nafion(デュポン社製、登録商標)、Flemion(AGC株式会社製、登録商標)、Aciplex(旭化成株式会社製、登録商標))が好ましい。
【0035】
溶媒についても、アイオノマーを溶解できるものであって、固体高分子型燃料電池用触媒インクに使用できるものであれば特に制限はなく、例えば、水、水溶性有機溶媒、及びこれらの混合溶媒が挙げられ、中でも、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒が好ましい。前記水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
【0036】
本発明の前記Pt/C粒子と溶媒との選定方法においては、前記アイオノマーの前記Pt/C粒子への吸着量が、下記式(1):
【0037】
【0038】
〔前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa0.5]を表し、Am
Effは、下記式(2):
【0039】
【0040】
(前記式中、Amは、メソ孔(細孔径≦5nm)の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積[単位:m2/g]を表し、Dfは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表し、Raggは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子凝集体の半径[単位:nm]を表し、θは、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率を表し、c0及びkは係数を表し、c0=58.5、k=26.8である。)
により求められ、C1~C4は係数を表し、C1=3.12×10-6、C2=0.42、C3=18.1、C4=-5.32である。〕
で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)で0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa0.5以下となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定する。
【0041】
また、本発明の前記Pt/C粒子と溶媒との選定方法においては、下記式(3):
【0042】
【0043】
(前記式中、HSPδhは、前記溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項[単位:MPa0.5]を表し、SSAは、前記Pt/C粒子のBET比表面積[単位:m2/g]を表し、Dfは、超小角X線散乱法(USAXS)により求められる前記Pt/C粒子のフラクタル次元を表す。)
で表される前記アイオノマーの吸着率が22~45質量%となるように、前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定することもできる。
【0044】
前記式(3)を用いた前記Pt/C粒子と前記溶媒との選定方法は、前記Pt/C粒子と前記アイオノマーとの混合比を前記カーボンに対する前記アイオノマーの質量比で0.8~1.2に設定した場合に特に有効である。なお、前記式(3)を用いて選定された前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せは、前記式(1)で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)及び溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が前記条件も満たす。
【0045】
以下、前記式(1)~(3)に用いられる各パラメータについて説明する。
【0046】
(溶媒のハンセン溶解度パラメータ)
ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、物質の溶解性を示す物性値であり、分散力項(δd)、双極子モーメント項(δp)及び水素結合項(δh)を用いて、3次元空間の点(δd、δp、δh)で表される。物質のハンセン溶解度パラメータにおける分散力項(δd)、双極子モーメント項(δp)及び水素結合項(δh)は、その物質に固有のものである。
【0047】
本発明においては、溶媒のHSP(δd、δp、δh)として、例えば、HSPiP(実践ハンセン溶解度パラメータ)ソフトウエアに記載の値を使用する。表1には、溶媒のHSP(δd、δp、δh)の例として、ジアセトンアルコール(DAA)、エタノール(EtOH)、及び超純水の分散力項(δd)、双極子モーメント項(δp)及び水素結合項(δh)の値を示す。
【0048】
【0049】
また、本発明において、溶媒が混合溶媒の場合には、混合溶媒を構成する各溶媒のHSP(δd、δp、δh)を各溶媒の体積分率で加重平均した値を、混合溶媒のHSP(δd、δp、δh)として使用する。したがって、混合溶媒のHSP(δd、δp、δh)は、混合溶媒を構成する各溶媒の体積比率を変化させることによって、調整することができる。
【0050】
(前記Pt/C粒子のBET比表面積及びメソ孔の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積)
本発明においては、前記Pt/C粒子のBET比表面積(SSA)として、前記Pt/C粒子の窒素吸着等温線を測定し、得られた窒素吸着等温線に基づいて、BET法により算出される値を使用する。また、メソ孔(細孔径≦5nm)の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積(Am)としては、前記Pt/C粒子の窒素吸着等温線に基づいて細孔径が5nm以下のメソ孔の比表面積を求め、このメソ孔の比表面積をPt/C粒子のBET比表面積から減算した値を使用する。
【0051】
(前記Pt/C粒子のフラクタル次元及び凝集体の半径)
粒子のフラクタル次元は、粒子の凝集の度合いを表す指標であり、0~3の範囲内の値となる。フラクタル次元が0に近いほど、低密度に凝集していることを示す。完全な棒状に凝集している場合のフラクタル次元は1となり、樹状に凝集している場合のフラクタル次元は2程度となり、球状に高密度に凝集している場合のフラクタル次元は3となる。
【0052】
本発明においては、前記Pt/C粒子のフラクタル次元(Df)として、超小角X線散乱(USAXS)スペクトルに基づいて求められる値を使用する。前記Pt/C粒子のUSAXSスペクトルは、例えば、Spring-8のビームラインBL24XU(兵庫県ID)に配置されているBonse-Hart型X線カメラを用いて測定することができる。
【0053】
触媒インクのUSXASスペクトルは、2つの変曲点とそれらをつなぐ直線により構成されていることが知られている(Hasegawa,N.ら、Colloids and Surfaces A:Physicochemical and Engineering Aspects、2021年、第628巻、127153頁)。このようなスペクトルの場合、2つの変曲点がそれぞれ1次及び2次の凝集体の回転半径を示し、各変曲点よりも波数qが小さい領域の傾きがそれぞれ1次及び2次の凝集体のフラクタル次元を示していると考えられている(Eggersdorfer,M.L.ら、Aerosol Science and Technology、2012年、第46巻、第3号、347~353頁)。これらの特徴を表すモデルとして、下記式(4):
【0054】
【0055】
(前記式中、I(q)は波数qにおけるX線の散乱強度を表し、R1及びR2はそれぞれ1次及び2次の凝集体の回転半径を表し、R1>R2であり、D1及びD2はそれぞれ1次及び2次の凝集体の質量又は表面のフラクタルを表し、D1は触媒インク中の前記Pt/C粒子の1次凝集体のフラクタル次元Dfであり、B0、B1、G1及びG2は比例定数を表し、触媒インク中の前記Pt/C粒子及びアイオノマーの体積分率や溶媒の密度によって変化する値である。)
で表されるunifiedモデルが知られている(Beaucage,G.ら、J.Applied Crystallography、2004年、第37巻、第4号、523~535頁)。
【0056】
本発明においては、測定した前記Pt/C粒子のUSXASスペクトルに、前記式(4)をあてはめてフィッティングを行うことによって、前記式(4)中のパラメータR1、R2、D1、D2、B0、B1、G1及びG2を求め、得られたD1を前記Pt/C粒子の1次凝集体のフラクタル次元Dfとする。また、1次凝集体の回転半径が前記Pt/C粒子凝集体の半径に対応していることから、得られたR1を前記Pt/C粒子凝集体の半径Raggとする。
【0057】
(前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率)
本発明において、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率(θ)は、前記Pt/C粒子の表面酸性官能基密度とアイオノマーの吸着率とから実験的に求めることができる。
【0058】
先ず、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基密度を以下の方法により測定する。前記Pt/C粒子0.1gを1NのNaOH水溶液3mlに浸漬して48時間攪拌し、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基をすべてNaOHで中和する。中和後の前記Pt/C粒子の分散液をシリンジフィルターを用いてろ過した後、ろ液を中和滴定して、ろ液中のNaOH濃度を求める。中和前後のNaOH濃度の差から、前記Pt/C粒子1g当たりに含まれる酸性官能基量を求め、前記Pt/C粒子のPt担持率及び前記Pt/C粒子のBET比表面積を用いて、Pt/C粒子表面の酸性官能基密度を算出する。
【0059】
次に、前記Pt/C粒子へのアイオノマーの吸着率を測定する。具体的には、例えば、前記Pt/C粒子及びアイオノマーを所定の濃度で含有する触媒インクを調製し、この触媒インクをシリンジフィルターでろ過して、ろ液の質量を測定する。次に、ろ液を十分に乾燥させ、得られる固形分の質量を測定して、ろ液中の固形分の質量分率Cfiltを算出する。この固形分の質量分率Cfiltと仕込み量から算出されるアイオノマーの質量分率C0とを用いて、下記式(5):
【0060】
【0061】
により、アイオノマーの吸着率Γ(単位:質量%)を算出する。
【0062】
図1には、前記Pt/C粒子へのアイオノマーの吸着率を前記Pt/C粒子の表面酸性官能基密度に対してプロットした結果を示す。なお、
図1に示したアイオノマーの吸着率の実測値は、前記Pt/C粒子(田中貴金属工業株式会社製白金担持カーボン粒子(商品名「TEC10V30E」、担体:キャボット社製カーボン粒子(商品名「VULCAN XC72」)、Pt担持量:30質量%))、アイオノマー(ケマーズ社製パーフルオロスルホン酸ポリマー(「Nafion(登録商標)-DE2020」))、及び溶媒(水とエタノールとの混合溶媒(体積比:75/25))を、超音波ホモジナイザーを用いて混合して調製した、前記Pt/C粒子を濃度6.5質量%で、アイオノマーを濃度3.5質量%で含有する触媒インクについて、ろ液を80℃で24時間真空乾燥させて算出される値である。
【0063】
図1に示したように、前記Pt/C粒子の表面酸性官能基密度とアイオノマーの吸着率は、シグモイド型の関数で近似される関係となり、前記Pt/C粒子の表面酸性官能基密度が7μM/m
2付近でアイオノマーの吸着率が0%となる。このとき、前記Pt/C粒子表面における官能基の被覆量が最大となると考えられることから、表面酸性官能基密度7μM/m
2を基準として、下記式(6):
【0064】
【0065】
により、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率を求めることができる。
【0066】
(前記式(1)の導出)
前記式(1)は以下のようにして実験的に導き出すことができる。
【0067】
前記Pt/C粒子においては、表面積が大きいほど、アイオノマーの吸着サイトが大きくなり、また、メソ孔(細孔径≦5nm)にはアイオノマーが侵入しにくくなると考えられる。そこで、本発明においては、メソ孔の比表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積(Am)とカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との間に、下記式(7):
【0068】
【0069】
で表される関係式が成立すると仮定する。
【0070】
また、前記Pt/C粒子においては、凝集体の半径が小さくなるほど、アイオノマー吸着に有効な面積が相対的に大きくなると考えられる。そこで、本発明においては、前記Pt/C粒子凝集体の半径(Ragg)とカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との間に、下記式(8):
【0071】
【0072】
で表される関係式が成立すると仮定する。
【0073】
さらに、前記Pt/C粒子では、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率(θ)カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との間においても、シグモイド型の関数で近似される関係が成立すると考えられる。そこで、本発明においては、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率(θ)とカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との間に、下記式(9):
【0074】
【0075】
(前記式中、c0及びkは係数を表す。)
で表される関係式が成立すると仮定する。
【0076】
また、前記Pt/C粒子においては、前記Pt/C粒子のフラクタル次元が小さいほど、すなわち、凝集構造が複雑で隙間の多い構造となるほど、アイオノマー吸着に有効な表面積が広くなると考えられる。そこで、本発明においては、前記Pt/C粒子のフラクタル次元(Df)とカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)との間に、下記式(10):
【0077】
【0078】
で表される関係式が成立すると仮定する。
【0079】
前記式(7)~(10)をまとめると、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)は下記式(11):
【0080】
【0081】
(前記式中、βは比例定数を表す。)
で表される。
【0082】
図2には、各種Pt/C粒子におけるカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)の実験値と、前記式(11)においてβ=18.1、c
0=58.5、k=26.8としたときの予測値との関係を示す。
図2に示したように、決定係数は0.95であり、前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)の予測値と実験値は良好に一致することがわかる。
【0083】
アイオノマーは、カーボンとアイオノマーとの間の疎水性相互作用を駆動力として、前記Pt/C粒子表面に吸着すると考えられることから、溶媒の親水性が高いほど、アイオノマーとカーボンとが溶媒から弾き出されることにより、これらの吸着が促進されると考えられる。そこで、各種Pt/C粒子、各種溶媒、及びアイオノマーを含有する触媒インクにおいて、前記Pt/C粒子へのアイオノマーの吸着率を前記方法に従って測定し、これを前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)に換算する。
【0084】
図3~
図4には、前記Pt/C粒子と溶媒との種々の組合せにおける、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)を溶媒のHSPδh値に対してプロットした結果を示す。なお、
図3~
図4に示したカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)の実測値は、種々の前記Pt/C粒子(
図3では、田中貴金属工業株式会社製白金担持カーボン粒子(商品名「TEC10V30E」、担体:キャボット社製カーボン粒子(商品名「VULCAN XC72」)、Pt担持量:30質量%)を使用)、アイオノマー(ケマーズ社製パーフルオロスルホン酸ポリマー(「Nafion(登録商標)-DE2020」))、及び種々の溶媒(種々の混合比の水と各種アルコールとの混合溶媒)を、超音波ホモジナイザーを用いて混合して調製した、前記Pt/C粒子を濃度6.5質量%で、アイオノマーを濃度3.5質量%で含有する触媒インクについて、ろ液を80℃で24時間真空乾燥させて算出される値である。
【0085】
図3に示したように、前記Pt/C粒子が同一の場合、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)は、溶媒のHSPδh値の増加に対して指数関数的に増加し、親水的な溶媒ほど大きくなる。また、
図4に示したように、前記Pt/C粒子の種類にかかわらず、溶媒のHSPδh値が大きいほど、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)は大きくなる。
【0086】
そこで、本発明においては、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)と溶媒のHSPδh値との間に、下記式(12):
【0087】
【0088】
(前記式中、γは係数を表す。)
で表される関係式が成立すると仮定する。
【0089】
ここで、溶媒の種類及び前記Pt/C粒子の種類が異なる場合に、アイオノマーの吸着に対して、溶媒のHSPδh値と前記Pt/C粒子の比表面積に基づくパラメータ(Am
Eff)とがそれぞれ独立に寄与すると仮定すると、前記式(11)と前記式(12)とは線形結合することができ、前記Pt/C粒子において、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)は、下記式(1):
【0090】
【0091】
〔前記式中、Am
Effは、下記式(2):
【0092】
【0093】
(前記式中、c0及びkは係数を表す)
より求められ、C1~C4は係数を表す。〕
で表される。
【0094】
図5には、各種Pt/C粒子におけるカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)の実験値と、前記式(1)及び(2)においてC
1=3.12×10
-6、C
2=0.42、C
3=18.1、C
4=-5.32、c
0=58.5、k=26.8としたときの予測値との関係を示す。
図5に示したように、前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)の予測値と実験値は良好に一致することがわかる。
【0095】
(前記式(3)の導出)
前記式(3)は以下のようにして実験的に導き出すことができる。
【0096】
図6には、前記Pt/C粒子と溶媒との種々の組合せにおいて、前記方法に従って測定したアイオノマーの吸着率Γを溶媒のHSPδh値に対してプロットした結果を示す。
図6に示したように、前記Pt/C粒子が同一の場合、アイオノマーの吸着率Γは、溶媒のHSPδh値の増加に対して指数関数的に増加する。そこで、本発明においては、アイオノマーの吸着率と溶媒のHSPδh値との関係を下記式(13):
【0097】
【0098】
(前記式中、A及びBは、定数を表す。)
で表す。
【0099】
また、
図7には、前記Pt/C粒子と溶媒との種々の組合せにおけるアイオノマーの吸着率Γを前記Pt/C粒子のSSA/Df値に対してプロットした結果を示す。なお、
図7に示したアイオノマーの吸着率Γの実測値は、種々の前記Pt/C粒子、アイオノマー(ケマーズ社製パーフルオロスルホン酸ポリマー(「Nafion(登録商標)-DE2020」))、及び種々の溶媒(種々の混合比の水と各種アルコールとの混合溶媒)を、超音波ホモジナイザーを用いて混合して調製した、前記Pt/C粒子を濃度6.5質量%で、アイオノマーを濃度3.5質量%で含有する触媒インクについて、ろ液を80℃で24時間真空乾燥させて算出される値である。
【0100】
図7に示したように、溶媒が同一の場合、アイオノマーの吸着率Γは、前記Pt/C粒子のSSA/D
f値の増加に対して対数関数的に増加する。そこで、本発明においては、アイオノマーの吸着率と前記Pt/C粒子のSSA/D
f値との関係を下記式(14):
【0101】
【0102】
(前記式中、C及びDは、定数を表す。)
で表す。なお、前記Pt/C粒子のSSA/Df値は、前記Pt/C粒子のBET比表面積(SSA)が増加する場合だけでなく、前記Pt/C粒子のフラクタル次数(Df)が減少する場合も、増加する。このことから、アイオノマーの吸着には、前記Pt/C粒子の比表面積だけでなく、前記Pt/C粒子の凝集状態も寄与していると考えられる。
【0103】
図8は、
図6及び
図7に示す結果に基づいて、アイオノマーの吸着率Γと溶媒のHSPδh値と前記Pt/C粒子のSSA/D
f値との関係を3次元的に表したグラフである。ここで、溶媒の種類及び前記Pt/C粒子の種類が異なる場合に、アイオノマーの吸着に対して、溶媒のHSPδh値と前記Pt/C粒子のSSA/D
f値とがそれぞれ独立に寄与すると仮定すると、前記式(13)と前記式(14)とは線形結合することができ、下記式(15)が得られる。
【0104】
【0105】
(前記式中、A、B、C及びDは、定数を表す。)
この式(15)を
図8に示した結果にあてはめて最小二乗法によりフィッティングすると、A=2.1、B=0.09、C=18.5、D=126.7となり、前記式(3)が導き出される。
図8中の曲面は、前記式(3)により算出される値を示しており、アイオノマーの吸着率の実測値と溶媒のHSPδh値と前記Pt/C粒子のSSA/D
f値との関係を良好に表している(平均二乗誤差の平方根(RMSE)=±7.9%)。
【0106】
(前記Pt/C粒子と溶媒との選定方法)
本発明の前記Pt/C粒子と溶媒との選定方法においては、上記のようにして、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項(HSPδh)、メソ孔の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積(Am)、前記Pt/C粒子のフラクタル次元(Df)、前記Pt/C粒子凝集体の半径(Ragg)、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率(θ)を求め、これらのパラメータを用いて、前記式(1)及び(2)により、前記アイオノマーの前記Pt/C粒子への吸着量として、前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)を算出し、この質量比(I/C)が0.22~0.50となり、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が40.0MPa0.5以下となる、前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定する。
【0107】
また、本発明の前記Pt/C粒子と溶媒との選定方法においては、上記のようにして、溶媒のハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項(HSPδh)、前記Pt/C粒子のBET比表面積(SSA)及び前記Pt/C粒子のフラクタル次元(Df)を求め、これらのパラメータを用いて、前記式(3)により、前記Pt/C粒子へのアイオノマーの吸着率を算出し、このアイオノマーの吸着率が22~45質量%となる、前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定することもできる。この選定方法は、前記Pt/C粒子と前記アイオノマーとの混合比を前記カーボンに対する前記アイオノマーの質量比で0.8~1.2に設定した場合に特に有効である。なお、この方法で選定された前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せは、前記式(1)で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)及び溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が前記条件も満たす。
【0108】
図9は、
図8中の曲面を2次元的に示したグラフである。図中の線で囲われた領域がアイオノマーの吸着率が22~45質量%となる領域であり、前記Pt/C粒子のSSA/D
f値と溶媒のHSPδh値とがこの領域内となるように、前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定する。
【0109】
カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)やアイオノマーの吸着率が前記範囲内となるように前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定することによって、アイオノマーが吸着した前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散し、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることができる。また、前記Pt/C粒子の分散性が良好な触媒インクは、塗工性にも優れている。さらに、気泡が発生しにくく、前記Pt/C粒子の分散性が良好な触媒インクを用いて形成された触媒層は、機械的な耐久性に優れているため、接触抵抗が小さく、また、密度が均一であるため、酸素拡散抵抗が小さくなり、さらに、ピンホールが生成しにくく、クロスリークが発生しにくくなる。
【0110】
一方、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)やアイオノマーの吸着率が前記下限未満になる前記Pt/C粒子と溶媒との組合せの場合、前記Pt/C粒子が凝集するため、前記Pt/C粒子の分散性が低下し、前記Pt/C粒子と溶媒が分離し、得られる触媒インクの貯蔵安定性が低下する。また、前記Pt/C粒子の分散性が低下すると、得られる触媒インクの粘度が高くなり、塗工性が低下する。さらに、前記Pt/C粒子の分散性が低い触媒インクを用いて形成された触媒層においては、ひび割れが発生して機械的な耐久性が低くなるため、接触抵抗が増大したり、或いは、密度が不均一となるため、高密度な部分で酸素拡散抵抗が大きくなったりする。
【0111】
他方、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)やアイオノマーの吸着率が前記上限を超える前記Pt/C粒子と溶媒との組合せの場合、得られる触媒インクにおいて、気泡が発生しやすくなったり、発生した気泡が消泡しにくくなったりするため、形成される触媒層においては、ピンホールが生成してクロスリークが発生し、性能が低下する。
【0112】
本発明においては、得られる触媒インクの粘度が低くなるという観点から、前記式(1)により算出される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)としては、0.24以上が好ましく、0.26以上がより好ましく、0.28以上が更に好ましい。また、得られる触媒インクにおいて気泡が発生しにくくなるという観点から、前記式(1)により算出される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)の上限としては、0.48以下が好ましく、0.44以下がより好ましく、0.40以下が更に好ましい。
【0113】
また、本発明においては、得られる触媒インクの粘度が低くなるという観点から、前記式(3)により算出されるアイオノマーの吸着率としては、24質量%以上が好ましく、26質量%以上がより好ましく、28質量%以上が更に好ましい。さらに、得られる触媒インクにおいて気泡が発生しにくくなるという観点から、前記式(3)により算出されるアイオノマーの吸着率の上限としては、42質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、38質量%以下が更に好ましい。
【0114】
さらに、前記式(1)を用いて前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定する場合、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が前記範囲内となるように、前記Pt/C粒子と溶媒との組合せを選定する。これにより、気泡が発生しにくくなる。また、得られる触媒インクにおいて、気泡が発生しにくくなるという観点から、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項としては、38.6MPa0.5以下が好ましく、38.0MPa0.5以下がより好ましく、37.0MPa0.5以下が更に好ましい。さらに、溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項の下限としては、適切な量のアイオノマーを吸着させてPt/C粒子の不均一な凝集を回避するという観点から、35.0MPa0.5以上が好ましく、35.5MPa0.5以上がより好ましく、36.0MPa0.5以上が更に好ましい。
【0115】
〔固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法〕
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法は、前記Pt/C粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法であって、前記式(1)又は(2)を用いた前記本発明の選定方法によって前記Pt/C粒子と前記溶媒とを選定し、選定された前記Pt/C粒子と、前記アイオノマーと、選定された前記溶媒とを混合する方法である。
【0116】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクの製造方法においては、前記本発明の選定方法によって選定された前記Pt/C粒子と前記溶媒とを使用するため、アイオノマーが吸着した前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散し、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることができる。
【0117】
〔固体高分子型燃料電池用触媒インク〕
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクは、前記Pt/C粒子、アイオノマー、及び溶媒を含有する固体高分子型燃料電池用触媒インクであり、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せは、前記式(1)で表されるカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)が所定の範囲内となるように選定された組合せである。
【0118】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクにおいては、前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せを、前記式(3)で表される前記アイオノマーの吸着率が所定の範囲内となるように選定することもできる。このような選定した前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せは、前記Pt/C粒子と前記アイオノマーとの混合比を前記カーボンに対する前記アイオノマーの質量比で0.8~1.2に設定した場合に特に有効である。なお、前記式(3)を用いて選定された前記Pt/C粒子と前記溶媒との組合せは、前記式(1)で表される前記カーボンに対する吸着した前記アイオノマーの質量比(I/C)及び溶媒のハンセン溶解度パラメータの水素結合項が前記条件も満たす。
【0119】
このような本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクは、前記式(1)で表されるカーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)や前記式(3)で表される前記アイオノマーの吸着率が所定の範囲内となるように選定された前記Pt/C粒子と溶媒とを含有するため、アイオノマーが吸着した前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散し、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有するものとなる。
【実施例0120】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
(実施例A1~A17、実施例B1~B13、比較例A1~A13、比較例B1~B12及び参考例A1)
〔触媒インクの調製〕
表2~表5に示す種類のアルコールと超純水とを混合し、表2~表5に示す水分量の混合溶媒(水+アルコール)を調製した。この混合溶媒に、表2~表5に示す種類の前記Pt/C粒子を濃度が6.5質量%となるように、また、パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液(ケマーズ社製「Nafion-DE2020」、ポリマー含量:20質量%)をパーフルオロスルホン酸ポリマーの濃度が3.5質量%となるように添加した後、超音波ホモジナイザーを用いて均一に混合して、触媒インクを調製した。
【0122】
なお、使用した前記Pt/C粒子を以下に示す。
・TEC10V30E:田中貴金属工業株式会社製白金担持カーボン粒子(商品名「TEC10V30E」、担体:キャボット社製カーボン粒子(商品名「VULCAN XC72」)、Pt担持量:30質量%)。
・TEC10V30E(官能基量減):前記TEC10V30Eを、Arガス通気中、700℃で2時間熱処理したもの。
・TEC10V30E(官能基量増):前記TEC10V30Eを、3NのHNO3水溶液中、100℃で1時間加熱したもの。
・Pt/Li-435:デンカ株式会社製カーボン粒子(商品名「デンカブラックLi-435」)に白金を担持したもの(Pt担持量:40質量%)。
・Pt/Li-435(官能基量減):前記Pt/Li-435を、Arガス通気中、700℃で2時間熱処理したもの。
・Pt/Li-435(官能基量増):前記Pt/Li-435を、3NのHNO3水溶液中、100℃で1時間加熱したもの。
・Pt/OSAB:デンカ株式会社製カーボン粒子(商品名「OSAB」)に白金を担持したもの(Pt担持量:50質量%)。
・TEC10E40E:田中貴金属工業株式会社製白金担持カーボン粒子(商品名「TEC10E40E」、担体:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製カーボン粒子(商品名「Ketjen black」)、Pt担持量:40質量%)。
・Pt/多孔質カーボン:多孔質カーボンに白金を担持したもの(Pt担持量:50質量%)。
・Pt/多孔質カーボン(官能基量減):前記Pt/多孔質カーボンを、Arガス通気中、700℃で2時間熱処理したもの。
【0123】
また、実施例A14~A16及び実施例B11~B13においては、アルコール種として、ジアセトンアルコール(DAA)とエタノール(EtOH)との混合アルコール(混合比は、DAA/EtOH(質量比)=17/27(実施例A14及び実施例B11)、10/34(実施例A15及び実施例B11)、5/39(実施例A16及び実施例B12))を使用した。
【0124】
〔溶媒のHSPδh値の算出〕
表1に示した超純水及び各種アルコールのハンセン溶解度パラメータの水素結合項(HSPδh)の値を用いて、使用した混合溶媒を構成する各溶媒のHSPδh値を各溶媒の体積分率で加重平均して、混合溶媒のHSPδh値を算出した。その結果を表2~表6に示す。
【0125】
〔前記Pt/C粒子のAm値、Df値、Ragg値、SSA/Df値の算出〕
使用した前記Pt/C粒子の窒素吸着等温線を測定し、得られた窒素吸着等温線に基づいて、BET法により、前記Pt/C粒子のBET比表面積(SSA)を算出した。また、得られた窒素吸着等温線に基づいて、メソ孔(細孔径≦5nm)の比表面積を求め、このメソ孔の比表面積を前記Pt/C粒子のBET比表面積から減算して、メソ孔の表面積を除いた前記Pt/C粒子の比表面積(Am)を算出した。さらに、使用した前記Pt/C粒子のUSXASスペクトルをSpring-8のビームラインBL24XU(兵庫県ID)に配置されているBonse-Hart型X線カメラを用いて測定し、得られたUSXASスペクトルに、前記式(4)をあてはめてフィッティングを行い、前記式(4)中のD1及びR1を求め、これを前記Pt/C粒子のフラクタル次数(Df)及び凝集体の半径(Ragg)とした。また、これらの結果に基づいて、前記Pt/C粒子のSSA/Df値を算出した。これらの結果を表2~表6に示す。
【0126】
〔前記Pt/C粒子表面のθ値の算出〕
前記方法に従って、前記Pt/C粒子表面の酸性官能基密度を測定し、前記式(6)により前記Pt/C粒子表面の酸性官能基被覆率(θ)を算出した。その結果を表2~表4及び表6に示す。
【0127】
〔カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)又はアイオノマー吸着率の算出〕
表2~表6に示した溶媒のHSPδh値及び前記Pt/C粒子のAm値、Df値、Ragg値、θ値、SSA/Df値を用い、前記式(1)又は前記式(3)により、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)又はアイオノマーの吸着率を算出した。その結果を表2~表6に示す。
【0128】
〔触媒インクの粘度測定〕
得られた触媒インクに対して、レオメータ(Anton Paar GmbH製「MCR301」)とコーンプレート(コーン半径:50mm、コーン角度:1°)を用い、25℃の温度下で、剪断速度を0.01s
-1から1000s
-1まで掃引した(予備剪断)。その後、剪断速度を1000s
-1から0.01s
-1まで掃引し、この間の定常流粘度ηを測定した。表2~表6及び
図10~
図11には、剪断速度が0.1s
-1の場合の定常流粘度(剪断粘度)を示す。
【0129】
〔触媒インクの目視観察〕
得られた触媒インクを室温で静置し、目視により観察した。このとき、気泡混入の有無を確認し、また、静置開始から、触媒インクの分離(前記Pt/C粒子の沈殿)が発生するまでの時間を測定した。それらの結果を表2~表6に示す。なお、触媒インクの分離が発生するまでの時間が長いほど、貯蔵安定性に優れていることを意味する。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
表2~表4及び
図10に示したように、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)及び溶媒のHSPδh値が所定の範囲内になる触媒インク(実施例A1~A17)は、気泡の混入がなく、良好な粘度を有し、貯蔵安定性に優れた触媒インクであることが確認された。特に、
図10に示したように、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)が所定の範囲内で大きくなるほど、触媒インクの粘度が小さくなる傾向にあることがわかった。
【0136】
一方、表2~表4及び
図10に示したように、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)が所定の範囲よりも小さい触媒インク(比較例A1~A10、A12)は、気泡の混入がないものの、貯蔵安定性に劣ることがわかった。特に、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)が0.13以下になると、触媒インクの貯蔵安定性が著しく低下することがわかった(比較例A1、A6、A7)。他方、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)が所定の範囲よりも大きい触媒インク(比較例A11、A13)は、良好な粘度を有し、貯蔵安定性に優れているものの、気泡が混入することがわかった。
【0137】
さらに、表5及び
図11に示したように、アイオノマーの吸着率が所定の範囲内になる触媒インク(実施例B1~B13)は、気泡の混入がなく、良好な粘度を有し、貯蔵安定性に優れた触媒インクであることが確認された。特に、
図11に示したように、アイオノマーの吸着率が所定の範囲内で大きくなるほど、触媒インクの粘度が小さくなる傾向にあることがわかった。また、表5~表6に示したように、アイオノマーの吸着率が所定の範囲内になる触媒インク(実施例B1~B13)は、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)も所定の範囲内にあることが確認された。
【0138】
一方、表5及び
図11に示したように、アイオノマーの吸着率が所定の範囲よりも小さい触媒インク(比較例B1~B9、B11)は、気泡の混入はないものの、粘度が高く、貯蔵安定性に劣ることがわかった。特に、アイオノマーの吸着率が13質量%以下になると、触媒インクの貯蔵安定性が著しく低下することがわかった(比較例B1、B6、B7)。他方、アイオノマーの吸着率が所定の範囲よりも大きい触媒インク(比較例B10、B12)は、良好な粘度を有し、貯蔵安定性に優れているものの、気泡が混入することがわかった。また、表5~表6に示したように、アイオノマーの吸着率が所定の範囲よりも小さい触媒インク(比較例B1~B9、B11)は、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)も所定の範囲内よりも小さくなり、アイオノマーの吸着率が所定の範囲よりも大きい触媒インク(比較例B10、B12)は、カーボンに対する吸着したアイオノマーの質量比(I/C)も所定の範囲内よりも大きくなることが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、前記Pt/C粒子の種類が異なる場合であっても、前記Pt/C粒子が溶媒中に良好に分散するアイオノマーの吸着量又は吸着率を算出することができ、その結果、気泡が発生しにくく、貯蔵安定性に優れ、良好な粘度を有する触媒インクを得ることが可能となる。
したがって、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒インクは、塗工性にも優れており、さらに、機械的な耐久性に優れ、接触抵抗が小さく、かつ、密度が均一であり、酸素拡散抵抗が小さく、クロスリークが発生しにくい触媒層を形成することができることから、固体高分子型燃料電池の触媒層を高品質かつ安定して製造するための触媒インクとして有用である。