IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特開-電気化学セル 図1
  • 特開-電気化学セル 図2
  • 特開-電気化学セル 図3
  • 特開-電気化学セル 図4
  • 特開-電気化学セル 図5
  • 特開-電気化学セル 図6
  • 特開-電気化学セル 図7
  • 特開-電気化学セル 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137687
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20240927BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20240927BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D53/32 ZAB
B01D53/92 240
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219310
(22)【出願日】2023-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2023046829
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンイノベーション基金事業/CO2の分離回収等技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 剛
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 淳一
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 恭平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 瑛一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美帆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐樹
【テーマコード(参考)】
4D002
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA08
4D002CA20
4D002EA07
4D002FA01
4D002HA03
4G146JA02
4G146JC22
4G146JC34
(57)【要約】
【課題】COを吸着する電気化学セルにおいて、電流効率の低下を抑制する。
【解決手段】電気化学反応によってCO含有ガスからCOを分離する電気化学セルにおいて、作用極102と、対極103と、電解質108と、を備える。作用極と対極との間に第1電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、作用極はCOを吸着し、作用極と対極との間に第2電圧が印加されることで、作用極から対極に電子が供給され、作用極からCOが脱離される。作用極には、CO含有ガスに接する面に酸化被膜が形成された金属が用いられている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応によってCO含有ガスからCOを分離する電気化学セルであって、
作用極(102)と、対極(103)と、前記作用極および前記対極を覆う電解質(108)と、を備え、
前記作用極と前記対極との間に第1電圧が印加されることで、前記対極から前記作用極に電子が供給され、前記作用極はCOを吸着し、前記作用極と前記対極との間に第2電圧が印加されることで、前記作用極から前記対極に電子が供給され、前記作用極からCOが脱離され、
前記作用極には、前記CO含有ガスに接する面に酸化被膜が形成された金属が用いられている電気化学セル。
【請求項2】
前記金属は、鉄元素の含有率が50~100%の鉄系材料である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記金属は、複数種類の金属を含んだ合金である請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記金属は、ステンレス鋼である請求項3に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記ステンレス鋼は、SUS316L、SUS316、SUS304L、SUS304、SUS310S、SUS430、SUS434、SUS444の少なくともいずれかである請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記電解質は、非プロトン性電解質である請求項1ないし5のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記非プロトン性電解質は、[BMIM][TFSI]、[TMPA][TFSI]、[Pyrro][TFSI]、[BMIM][Tfb]、[EMIM][TFSI]、[N4441][TFSI]の少なくともいずれかのイオン液体である請求項6に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を吸着する電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学反応によってCOを含む混合ガスからCOを回収する電気化学セルが知られている。特許文献1において、本出願人は、レドックス活性有機物(例えばアントラキノン)を用いずに電極表面に電界集中させることで、COに対し電荷移動させずにCOそのままの状態で吸着させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-177883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大気などのOの存在下で電気化学セルを作動させると、Oに対して電荷移動が生じ、活性酸素の一種であるスーパーオキシドO が生成する。このO の生成によって1電子あたりのCO吸着量を示す電流効率が低下する。さらに反応活性が高いO によって電解液やバインダ等といった電気化学セル内の有機材料が分解する。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、COを吸着する電気化学セルにおいて、電流効率の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、電気化学反応によってCO含有ガスからCOを分離する電気化学セルであって、作用極(102)と、対極(103)と、電解質(108)と、を備える。作用極と対極との間に第1電圧が印加されることで、対極から作用極に電子が供給され、作用極はCOを吸着し、作用極と対極との間に第2電圧が印加されることで、作用極から対極に電子が供給され、作用極からCOが脱離される。作用極には、CO含有ガスに接する面に酸化被膜が形成された金属が用いられている。
【0007】
本発明によれば、作用極に酸化被膜を有する金属電極を用いることで、CO含有ガスに含まれるOから活性酸素が生成することを抑制でき、作用極にCOが吸着する際の電流効率が低下することを抑制できる。
【0008】
なお、上記各構成要素の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の二酸化炭素回収システムを示す図である。
図2】二酸化炭素回収装置を示す図である。
図3】電気化学セルの断面図である。
図4】二酸化炭素回収装置のCO回収モードとCO放出モードでの作動を説明するための図である。
図5】実施例における電気化学セルの電流効率を示す図表である。
図6】実施例における電気化学セルの電流効率を示す図表である。
図7】実施例における電気化学セルの電流効率を示す図表である。
図8】実施例および比較例における電気化学セルの電流効率を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態について図面を用いて説明する。図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム10は、圧縮機11、二酸化炭素回収装置100、流路切替弁12、二酸化炭素利用装置13、制御装置14が設けられている。
【0011】
圧縮機11は、CO含有ガスを二酸化炭素回収装置100に圧送する。CO含有ガスは、COとCO以外のガスを含有する混合ガスであり、例えば大気や内燃機関の排気ガス等を用いることができる。
【0012】
二酸化炭素回収装置100は、CO含有ガスからCOを分離して回収する装置である。二酸化炭素回収装置100は、CO含有ガスからCOが回収された後のCO除去ガス、あるいはCO含有ガスから回収したCOを排出する。二酸化炭素回収装置100の構成については、後で詳細に説明する。
【0013】
流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100の排出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100からCO除去ガスが排出される場合は、排出ガスの流路を大気側に切り替え、二酸化炭素回収装置100からCOが排出される場合は、排出ガスの流路を二酸化炭素利用装置13側に切り替える。
【0014】
二酸化炭素利用装置13は、COを利用する装置である。二酸化炭素利用装置13としては、例えばCOを貯蔵する貯蔵タンクやCOを燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、COをメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0015】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御装置14は、圧縮機11の作動制御、二酸化炭素回収装置100の作動制御、流路切替弁12の流路切替制御等を行う。
【0016】
次に、二酸化炭素回収装置100について図2を用いて説明する。図2に示すように、二酸化炭素回収装置100は、電気化学反応によってCOの吸着および脱離する電界吸脱着式の電気化学セル101が設けられている。電気化学セル101は、作用極102、対極103、絶縁層106を有している。図2に示す例では、作用極102、対極103、絶縁層106をそれぞれ板状に構成している。なお、図2では、作用極102、対極103、絶縁層106はそれぞれの間に隙間が設けられた状態で図示されているが、実際はこれらの構成要素は接するように配置されている。
【0017】
電気化学セル101は、図示しない容器内に収容されるようにしてもよい。容器には、CO含有ガスを容器内に流入させるガス流入口と、CO除去ガスやCOを容器内から流出させるガス流出口を設けることができる。
【0018】
二酸化炭素回収装置100は、電気化学セル101の電気化学反応によってCOの吸着および脱離を行い、CO含有ガスからCOを分離して回収する。二酸化炭素回収装置100は、作用極102と対極103に所定の電圧を印加する電源107が設けられており、作用極102と対極103の電位差を変化させることができる。作用極102は負極であり、対極103は正極である。
【0019】
電気化学セル101は、作用極102と対極103の電位差を変化させることで、作用極102でCOを回収するCO回収モードと、作用極102からCOを放出するCO放出モードを切り替えて作動することができる。CO回収モードは電気化学セル101を充電する充電モードであり、CO放出モードは電気化学セル101を放電する放電モードである。
【0020】
CO回収モードでは、作用極102と対極103の間に第1電圧V1が印加され、対極103から作用極102に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0021】
CO放出モードでは、作用極102と対極103の間に第2電圧V2が印加され、作用極102から対極103に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1と異なる電圧である。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、CO放出モードでは、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0022】
本実施形態の電気化学セル101は、作用極102と対極103との間に電圧が印加されることで、電子と電解質108に含まれるイオンによって電気二重層が形成される。CO回収モードでは、作用極102の近傍に電解質108のカチオンが移動し、対極103の近傍に電解質108のアニオンが移動すると、それぞれの表面近傍で電位差が形成され、対極103から作用極102に電子が供給される。CO放出モードでは、作用極102の近傍に電解質108のアニオンが移動し、対極103の近傍に電解質108のカチオンが移動し、作用極102から対極103に電子が供給される。
【0023】
本実施形態では、作用極102として金属電極を用いている。本実施形態の金属電極は金属多孔質体であり、CO含有ガスが通過可能な多数の空孔を有している。金属多孔質体として、発泡金属、焼結金属、金属不織布、金属織布などの形態を有する金属構造体を用いることができる。
【0024】
発泡金属は、ガスによる小さな気孔が多数形成された金属構造体である。焼結金属は、金属粉末を融点より低い温度で焼き固めた金属構造体である。金属不織布は、金属繊維をニードルパンチ加工等で無配向に交絡した金属構造体であり、金属フェルト、金属ウール等を例示できる。金属織布は、金属繊維を縦横に組み合わせて編んで織物状にした金属構造体である。金属織布は、縦横に広がるクロス状でも細長い帯状でもよい。
【0025】
作用極102を構成する金属電極がCO吸着材として機能する。このため、作用極102にはレドックス活性有機物のようなCO吸着材は設けられてはいない。つまり、作用極102には、酸化還元反応によって電子を授受する活物質は設けられていない。
【0026】
本実施形態では、作用極102として、表面に酸化被膜102aが形成された金属電極を用いている。つまり、作用極102のCO含有ガスに接する面に酸化被膜102aが形成されている。作用極102のCO含有ガスに接する面には、作用極102を構成する金属多孔体の空孔の内表面が含まれている。
【0027】
金属電極を構成する金属として、単一の金属元素、あるいは複数種類の金属を含んでいる合金を用いることができる。金属電極を構成する金属として、例えば鉄元素(Fe)の含有率が50~100%である鉄系材料を用いることができる。このような鉄を主成分とする鉄系材料には、純鉄、鋼鉄、鋳鉄等が含まれる。鋼鉄には、炭素鋼、合金鋼が含まれており、合金鋼としてはステンレス鋼(SUS)を例示できる。以下の説明では、炭素鋼を単に鉄とも称する。
【0028】
ステンレス鋼は複数種類の金属を含んでいる合金である。ステンレス鋼は、鉄を主成分とし、炭素を1.2%以下、クロムを10.5%以上含んでいる合金鋼である。作用極102として、オーステナイト系、フェライト系を含む任意の種類のステンレス鋼を用いることができる。本実施形態では、SUS316L、SUS316、SUS304L、SUS304、SUS310S、SUS430、SUS434、SUS444の少なくともいずれかのステンレス鋼を用いている。
【0029】
鉄の表面には、鉄の酸化物からなる酸化被膜102aが形成されている。ステンレス鋼の表面には、クロムや鉄等の酸化物からなる酸化被膜102aが形成されている。このような酸化被膜102aはOに対して不活性であり、Oに対して反応性が著しく低い。このため、作用極102にCO含有ガスに含まれるOが接触しても、Oに対する電荷移動が抑制され、O の生成を抑制できる。仮に作用極102でO が生成したとしても、O はCOと効率よく反応し、Oへの過剰な電荷移動を抑制できる。この結果、Oの存在下においても高い電流効率で作用極102におけるCOの吸脱着を行うことが可能となる。電流効率は、CO吸着時に対極103から作用極102に流れた電子数に対するCO吸着個数の割合を百分率で示している。
【0030】
酸化被膜102aを有する金属は、酸化被膜102aの導電性が他の部位よりも低くなる。このため、作用極102として用いる金属電極の酸化被膜102aは、導電性を向上させるためにできるだけ薄い方が望ましい。本実施形態では、ステンレス鋼の酸化被膜102aの厚みを10nm以下としている。このため、ステンレス鋼からなる金属電極は、ほぼ酸化被膜以外の金属部分で構成されるため、充分な導電性を確保できる。また、ステンレス鋼の酸化被膜の厚みは1nm以上することが望ましい。
【0031】
図3に示すように、対極103には、対極側基材104、対極活物質105が設けられている。
【0032】
対極側基材104は、導電性材料である。対極側基材104としては、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。対極側基材104を構成する炭素質材料としては、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。
【0033】
対極活物質105は、作用極102との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。対極活物質105としては、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。これらの金属錯体は、ポリマーでもモノマーでもよい。本実施形態では、対極活物質105として、ポリビニルフェロセンを用いている。フェロセンは、Feの価数が2価と3価に変化することで、電子の授受を行う。
【0034】
対極活物質105には、導電性物質およびバインダが添加されている。導電性物質は、対極活物質105への導電路を形成する。導電性物質は、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。バインダは、対極活物質105を対極側基材104に保持させることができ、かつ、導電性を有する材料であればよい。バインダとしては、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等の導電性樹脂を用いることができる。
【0035】
絶縁層106は、作用極102と対極103の間に配置されており、作用極102と対極103を分離している。絶縁層106は、作用極102と対極103の物理的な接触を防いで電気的短絡を抑制するとともに、イオンを透過させる絶縁性イオン透過膜である。
【0036】
絶縁層106としては、セパレータ、あるいは空気等の気体層を用いることができる。本実施形態では、絶縁層106として多孔質体のセパレータを用いている。セパレータの材料は、セルロース膜やポリマー、ポリマーとセラミックの複合材料等からなるセパレータを用いることができる。
【0037】
作用極102と対極103の間には、イオン伝導性を有する電解質108が設けられている。電解質108は、絶縁層106を介して作用極102と対極103との間に設けられている。電解質108は、作用極102、対極103および絶縁層106を覆うように設けられている。
【0038】
本実施形態では、非プロトン性の電解質108を用いている。非プロトン性の電解質108は、プロトン(H)を供与しない電解質である。このため、プロトン生成のために電解質108に電荷が移動することがなく、CO吸着時における電流効率の低下を抑制できる。
【0039】
非プロトン性の電解質108としてはイオン液体を用いることができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。電解質108としてイオン液体を用いる場合には、電気化学セル101からの溶出を防ぐために、イオン液体をゲル化してもよい。非プロトン性のイオン液体としては、[BMIM][TFSI]、[TMPA][TFSI]、[Pyrro][TFSI]、[BMIM][Tfb]、[EMIM][TFSI]、[N4441][TFSI]等を用いることができる。
【0040】
次に、本実施形態の二酸化炭素回収システム10の作動について説明する。図4に示すように、二酸化炭素回収システム10は、CO回収モードとCO放出モードを交互に切り替えて作動する。二酸化炭素回収システム10の作動は、制御装置14によって制御される。
【0041】
まず、CO回収モードについて説明する。CO回収モードでは、圧縮機11が作動して二酸化炭素回収装置100にCO含有ガスが供給される。二酸化炭素回収装置100では、作用極102と対極103の間に印加される電圧を第1電圧V1とする。これにより、対極103の対極活物質105の電子供与と、作用極102の電子求引を同時に実現できる。対極103の対極活物質105は電子を放出して酸化状態となり、対極103から作用極102に電子が供給される。
【0042】
電子を受け取った作用極102では、CO含有ガスに含まれるCOが吸着される。これにより、二酸化炭素回収装置100は、CO含有ガスからCOを回収することができる。作用極102の金属電極表面に形成された酸化被膜はOに対して不活性であるため、CO吸着ガスが作用極102に接触しても、CO吸着ガスに含まれるOに電荷が移動して活性酸素であるO の生成を抑制できる。
【0043】
CO含有ガスは、二酸化炭素回収装置100でCOを回収された後、COを含まないCO除去ガスとして二酸化炭素回収装置100から排出される。流路切替弁12は、ガス流路を大気側に切り替えており、二酸化炭素回収装置100から排出されたCO除去ガスは大気に排出される。
【0044】
次に、CO放出モードについて説明する。CO放出モードでは、圧縮機11が作動停止し、二酸化炭素回収装置100へのCO含有ガスの供給が停止する。二酸化炭素回収装置100では、作用極102と対極103の間に印加される電圧を第2電圧V2とする。これにより、作用極102の電子供与と、対極103の対極活物質105の電子求引を同時に実現できる。対極103の対極活物質105は、電子を受け取って還元状態となる。
【0045】
作用極102は電子を放出し、COを脱離する。作用極102から放出されたCOは、二酸化炭素回収装置100から排出される。流路切替弁12は、ガス流路を二酸化炭素利用装置13側に切り替えており、二酸化炭素回収装置100から排出されたCOは二酸化炭素利用装置13に供給される。
【0046】
次に、本実施形態の電気化学セル101でCOを吸着した場合の電流効率を図5図8に示す実施例1~94および比較例1~5を用いて説明する。
【0047】
実施例1~9の作用極102は、膜厚を2.0mm、空隙率90%のステンレス発泡体を用いた。実施例1~5は、作用極102としてSUS316Lを用い、電解質108として[TMPA][TFSI]、[BMIM][TFSI]、[Pyrro][TFSI]、[BMIM][Tfb]、[EMIM][TFSI]のいずれかを用いた。実施例6は作用極102としてSUS316を用い、実施例7は作用極102としてSUS304を用い、実施例8は作用極102としてSUS304Lを用い、実施例9は作用極102としてSUS310Sを用いた。実施例6~9は、電解質108として[TMPA][TFSI]を用いた。
【0048】
実施例10~50は、作用極102としてSUS316Lを用い、電解質108として[TMPA][TFSI]、[N4441][TFSI]のいずれかを用いた。実施例10~50の作用極102は、線径が1.5μm、30μm、50μm、85μmのいずれか、膜厚が0.2mm、0.4mm、1.0mmのいずれか、空隙率が62%、81%のいずれかのステンレス焼結体を用いた。
【0049】
実施例51~58は、作用極102としてSUS316Lを用い、電解質108として[TMPA][TFSI]、[N4441][TFSI]のいずれかを用いた。実施例51~56は、線径が20μm、8μmのいずれか、膜厚が1mm、2mm、3mmのいずれかのステンレスフェルトを用いた。実施例57、58は、線径が8μm、膜厚が0.76mmの帯状(つまりテープ状)のステンレス織布を用いた。
【0050】
実施例59~88は、作用極102としてSUS304、SUS316、SUS430、SUS444、SUS434のいずれかを用い、電解質108として[TMPA][TFSI]、[N4441][TFSI]のいずれかを用いた。実施例59~68は、線径が20μm、膜厚が1mmのステンレスフェルトを用いた。実施例69~78は、線径が20μm、膜厚が0.5mmのステンレス焼結体を用いた。実施例79~88は、線径が20μm、膜厚が0.5mmのステンレス織布を用いた。
【0051】
実施例89~94は、作用極102として鉄またはSUS434のいずれかを用い、電解質108として[TMPA][TFSI]、[N4441][TFSI]のいずれかを用いた。実施例89、90は、線径が0.05μmのスチールウールを用いた。実施例90~94は、線径が0.04μm、0.06μmのいずれかのステンレスウールを用いた。
【0052】
比較例1~5は、作用極102としてアントラキノン、フルオレノン、Zu、Cu、Agのいずれかを用い、電解質108として[TMPA][TFSI]を用いた。
【0053】
図5図8に示すように、作用極102に鉄あるいはステンレス鋼を用いた実施例1~94では電流効率が78~93%であった。作用極102は、発泡体、焼結体、フェルト状、織布状、ウール状のいずれの形態の多孔体でも高い電流効率を得ることができた。これに対し、作用極102にアントラキノン、フルオレノン、Zu、Cu、Agのいずれかを用いた比較例1~5では電流効率が5~35%であった。このように、作用極102に鉄や各種SUSを用いた実施例1~94では、比較例1~5に対して高い電流効率を得ることができた。
【0054】
以上説明した本実施形態によれば、作用極102に酸化被膜を有する金属電極を用いることで、CO含有ガスに含まれるOから活性酸素が生成することを抑制でき、作用極102にCOが吸着する際の電流効率が低下することを抑制できる。さらに活性酸素の生成を抑制することで、電気化学セル101内の有機材料の分解を抑制することができる。
【0055】
また、本実施形態では、作用極102に有機材料からなる活物質を設けておらず、作用極102で活性酸素が生成しても活物質が酸化分解することがない。このため、作用極102の活物質が酸化分解することによる電気化学セル101のCO吸着量の低下を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態では、電解質108として非プロトン性電解質を用いている。このため、プロトン生成のために電解質108に電荷が移動することがなく、CO吸着時における電流効率の低下を抑制できる。
【0057】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々変形可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、作用極102に用いられる酸化被膜が形成された金属としてステンレス鋼を用いた例について説明したが、ステンレス鋼以外の酸化被膜が形成された金属を用いてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、作用極102に用いられるステンレス鋼としてSUS316L等を列挙したが、列挙された種類の以外のステンレス鋼を用いてもよい。
【符号の説明】
【0060】
101 電気化学セル
102 作用極
103 対極
108 電解質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8