(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137690
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20240927BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240927BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240927BHJP
B22F 1/08 20220101ALI20240927BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240927BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240927BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240927BHJP
C22C 45/02 20060101ALN20240927BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/08
B22F1/05
B22F1/102 100
B22F3/00 B
C22C45/02 A
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220619
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2023046396
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】若林 桃子
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA14
4K018BB04
4K018BB07
4K018BC29
4K018BD01
4K018KA44
4K018KA61
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA05
5E041AA07
5E041AA11
5E041BC05
5E041BD12
5E041CA02
5E041NN01
5E041NN05
5E041NN06
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】軟磁性粉末の比表面積が大きい場合でも、圧粉体の磁気特性および機械的強度を両立させ得る絶縁物被覆軟磁性粉末、かかる絶縁物被覆軟磁性粉末を含む圧粉磁心および磁性素子、ならびに、前記磁性素子を備える電子機器を提供すること。
【解決手段】軟磁性粉末と、前記軟磁性粉末の粒子表面を被覆し、疎水性官能基をカップリング剤に由来する化合物を含む絶縁被膜と、を備え、前記軟磁性粉末の平均粒径が2.0μm以上25.0μm以下であり、前記軟磁性粉末の比表面積が0.05m
2/g以上0.60m
2/g以下であり、前記比表面積をS[m
2/g]とし、前記軟磁性粉末における酸素含有率をA[ppm]とするとき、比A/Sが3000以上20000以下であることを特徴とする絶縁物被覆軟磁性粉末。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の粒子表面を被覆し、疎水性官能基をカップリング剤に由来する化合物を含む絶縁被膜と、
を備え、
前記軟磁性粉末の平均粒径が2.0μm以上25.0μm以下であり、
前記軟磁性粉末の比表面積が0.05m2/g以上0.60m2/g以下であり、
前記比表面積をS[m2/g]とし、前記軟磁性粉末における酸素含有率をA[ppm]とするとき、比A/Sが3000以上20000以下であることを特徴とする絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項2】
前記軟磁性粉末における前記酸素含有率Aは、200ppm以上5000ppm以下である請求項1に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項3】
前記疎水性官能基は、炭化水素基である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項4】
前記炭化水素基は、炭素数が1以上6以下の直鎖状アルキル基である請求項3に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項5】
前記疎水性官能基は、環状構造含有基である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項6】
前記絶縁被膜の被覆率は、20%以上120%以下である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項7】
2質量%のエポキシ樹脂と混合され、得られた混合物を294.2MPaの圧力でプレス成形した後、150℃で30分間加熱され、前記エポキシ樹脂を硬化させてなる成形体の圧環強度は、10MPa以上である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項8】
カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、30ppm以上500ppm以下である請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末。
【請求項9】
請求項1または2に記載の絶縁物被覆軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項10】
請求項9に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項11】
請求項10に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の軟磁性粒子と、それよりも平均粒径が大きい第2の軟磁性粒子と、を含み、第1の軟磁性粒子として、無極性の炭化水素基または炭素数が6以上の直鎖部を有する炭化水素基を表面に有する粒子を用いる軟磁性材料が開示されている。無極性の炭化水素基としては、アリール基およびフェニル基等の環式炭化水素基が例示されている。このような軟磁性材料では、第1の軟磁性粒子と、軟磁性材料を結着させる結着剤と、の相互作用を小さくすることができ、加圧成形の際に軟磁性粒子の流動性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の軟磁性粒子では、無極性の炭化水素基または炭素数が6以上の直鎖部を有する炭化水素基を導入することにより、結着剤との相互作用を小さくし、加圧成形の際の流動性を高めている。軟磁性粉末を用いた磁性素子では、低鉄損化が求められており、その一環で、軟磁性粒子の小径化が進んでいる。軟磁性粒子を小径化した場合、比表面積が大きくなるため、加圧成形時の結着剤の使用量を増やす必要がある。ところが、結着剤の使用量が増えると、相対的に軟磁性粒子の占積率が低下する。その結果、圧粉体の密度が低下するとともに磁気特性が低下する。一方、結着材の使用量を減らすと、圧粉体の機械的強度が低下する。
【0005】
そこで、軟磁性粉末の比表面積が大きい場合でも、圧粉体の密度および機械的強度を両立させ得る絶縁物被覆軟磁性粉末の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係る絶縁物被覆軟磁性粉末は、
軟磁性粉末と、
前記軟磁性粉末の粒子表面を被覆し、疎水性官能基をカップリング剤に由来する化合物を含む絶縁被膜と、
を備え、
前記軟磁性粉末の平均粒径が2.0μm以上25.0μm以下であり、
前記軟磁性粉末の比表面積が0.05m2/g以上0.60m2/g以下であり、
前記比表面積をS[m2/g]とし、前記軟磁性粉末における酸素含有率をA[ppm]とするとき、比A/Sが3000以上20000以下である。
【0007】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係る絶縁物被覆軟磁性粉末を含む。
【0008】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備える。
【0009】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末の一粒子を模式的に示す断面図である。
【
図2】絶縁物被覆軟磁性粉末を製造する方法を説明するための工程図である。
【
図3】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【
図4】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
【
図6】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
【
図7】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.絶縁物被覆軟磁性粉末
まず、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末について説明する。
図1は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末1の一粒子を模式的に示す断面図である。なお、以下の説明では、絶縁物被覆軟磁性粉末1の一粒子を「絶縁物被覆軟磁性粒子4」ともいう。
【0013】
図1に示す絶縁物被覆軟磁性粒子4は、軟磁性粒子2と、軟磁性粒子2の表面に設けられた絶縁被膜3と、を有する。このうち、軟磁性粒子2は、後述する軟磁性材料を含んでいる。絶縁被膜3は、軟磁性粒子2の表面を被覆するように設けられ、絶縁性を有する。なお、本明細書における被覆とは、軟磁性粒子2の表面全体を覆う状態の他、表面の一部を覆う状態も含む概念である。また、以下の説明では、軟磁性粒子2の集合物を、「軟磁性粉末」ともいう。
【0014】
後述するように、絶縁物被覆軟磁性粒子4は、耐湿性に優れ、吸湿に伴う絶縁性や流動性の低下が抑制されている。このため、絶縁物被覆軟磁性粉末1を圧粉してなる圧粉体では、吸湿した場合でも絶縁物被覆軟磁性粒子4間の絶縁性が良好であるとともに、高い充填性が得られるために圧粉密度が高くなる。これにより、耐電圧および磁気特性が良好な圧粉磁心が得られる。
【0015】
1.1.軟磁性粒子
1.1.1.軟磁性材料の組成
軟磁性粒子2は、軟磁性材料で構成される。軟磁性材料としては、例えば、Fe、NiおよびCoのうちの少なくとも1種を主成分とする、つまり、原子数比でこれらの元素を50%以上含む材料が挙げられる。また、軟磁性材料は、これらの主成分となる元素の他、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。また、軟磁性材料には、本実施形態の効果を損なわない範囲で、不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物とは、原料や製造時に意図せずに混入する不純物である。不可避的不純物には、上述した元素以外のあらゆる元素が含まれるが、一例として、O、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0016】
軟磁性材料の具体例としては、ケイ素鋼のようなFe-Si系合金、センダストのようなFe-Si-Al系合金の他、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Ni-Co系、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Cr系、Fe-Cr-Al系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金等の各種合金が挙げられる。
【0017】
このような組成の軟磁性材料を用いることにより、透磁率や磁束密度等の磁気特性が高く、また、保磁力が低い絶縁物被覆軟磁性粒子4が得られる。
【0018】
軟磁性材料において前述した主成分の含有率は、原子数比で50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましい。これにより、絶縁物被覆軟磁性粒子4の透磁率や磁束密度等の磁気特性を特に高めることができる。
【0019】
軟磁性材料を構成する組織は、特に限定されず、結晶組織、非晶質(アモルファス)組織、または、微結晶質(ナノ結晶質)組織のいずれであってもよい。このうち、軟磁性材料は、非晶質または微結晶質を含むことが好ましい。これらを含むことにより、保磁力が小さくなり、磁性素子のヒステリシス損失の低減に寄与する。なお、軟磁性材料では、結晶性が異なる組織が混在していてもよい。
【0020】
非晶質材料および微結晶質材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金等が挙げられる。
【0021】
軟磁性材料の組成は、以下のような分析手法により特定される。
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
【0022】
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
【0023】
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、JIS G 1211:2 011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
【0024】
また、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、JIS G 1228:1997に規定された鉄および鋼の窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300が挙げられる。
【0025】
1.1.2.粒度分布
軟磁性粉末の体積基準での粒度分布において、頻度の累積が50%である粒子径を平均粒径とするとき、軟磁性粉末の平均粒径は2.0μm以上25.0μm以下であるのが好ましく、3.0μm以上15.0μm以下であるのがより好ましく、4.0μm以上10.0μm以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
軟磁性粉末の平均粒径が前記範囲内であると、軟磁性粒子2の粒子内渦電流の経路が短くなるため、高周波域における磁性素子の渦電流損失を十分に低減することができる。また、軟磁性粉末の平均粒径が前記範囲内であると、圧粉時の充填性が高くなるため、圧粉体の密度、機械的強度の他、透磁率、飽和磁束密度等の磁気特性を高めることができる。
【0027】
なお、軟磁性粉末の平均粒径が前記下限値を下回ると、凝集が発生しやすくなり、絶縁被膜3の形成が困難になるとともに、圧粉時の充填性が低下して、圧粉体の密度や機械的強度、磁気特性等が低下する。一方、軟磁性粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、粒子内渦電流の経路が長くなるため、粒子内渦電流に由来する渦電流損失が増大する。また、圧粉体の密度や機械的強度が低下しやすくなる。
【0028】
軟磁性粉末の体積基準での粒度分布は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得可能である。
【0029】
1.1.3.比表面積
軟磁性粉末の比表面積は、0.05[m2/g]以上0.60[m2/g]以下とされ、好ましくは0.10[m2/g]以上0.50[m2/g]以下とされ、より好ましくは0.15[m2/g]以上0.40[m2/g]以下とされる。比表面積が前記範囲内であれば、軟磁性粉末の圧粉時の充填性が高くなるとともに、圧粉体における絶縁被膜3の占有率を最適化することができる。その結果、圧粉体の密度および機械的強度を高めるとともに、圧粉体の透磁率を高めることができる。
【0030】
なお、比表面積が前記下限値を下回ると、軟磁性粉末と結着材との接触面積が減少し、圧粉体の機械的強度が低下する。一方、比表面積が前記上限値を上回ると、圧粉時の充填性が低下し、圧粉体の密度や機械的強度、磁気特性等が低下する。
【0031】
軟磁性粉末の比表面積は、BET法により取得される。比表面積の測定装置としては、例えば、株式会社マウンテック社製のBET式比表面積測定装置HM1201-010が挙げられ、検体の量は5gとされる。
【0032】
1.1.4.平均円形度
軟磁性粉末の平均円形度は、0.75以上1以下であるのが好ましく、0.80以上1以下であるのがより好ましく、0.85以上1以下であるのがさらに好ましい。これにより、軟磁性粉末の粒径が小さくても、粒子が転動しやすくなり、かつ、充填状態を最密充填に近づけることができる。また、絶縁被膜3の使用量を減らしても圧粉体の機械的強度を確保できるため、圧粉体の密度および透磁率を高めやすくなる。
【0033】
なお、平均円形度が前記下限値を下回ると、軟磁性粉末の流動性が低下するとともに、充填率が低下する。
【0034】
軟磁性粉末の平均円形度は、次のようにして測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で軟磁性粉末の画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
【0035】
次に、ソフトウェアを用いて、300個以上の粒子像の円形度を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、軟磁性粉末の平均円形度となる。なお、円形度をeとし、粒子像の面積をsとし、粒子像の周囲長をLとするとき、円形度eは、次式で求められる。
e=4πs/L2
【0036】
1.1.5.酸素含有率
軟磁性粉末の酸素含有率は、質量比で200ppm以上5000ppm以下であるのが好ましく、400ppm以上4000ppm以下であるのがより好ましく、800ppm以上3500ppm以下であるのがさらに好ましい。酸素含有率が前記範囲内であれば、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との密着性を高めることができる。絶縁被膜3は、カップリング剤に由来する化合物を含んでいるため、軟磁性粒子2の酸素含有率が前記範囲内であれば、カップリング剤と軟磁性粒子2の表面との結合性を高められる。これにより、絶縁被膜3の被覆率が低くても、絶縁物被覆軟磁性粉末1と結着材との親和性を高めることができ、圧粉体の機械的強度を高めることができる。
【0037】
なお、酸素含有率が前記下限値を下回ると、軟磁性粒子2の表面に存在する酸化膜が薄くなるため、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との結合が弱くなり、圧粉体の機械的強度が低下するおそれがある。一方、酸素含有率が前記上限値を上回ると、酸化膜が厚くなるため、圧粉体における軟磁性粒子2の占有率が低下して、透磁率等の磁気特性が低下するおそれがある。
【0038】
軟磁性粉末の酸素含有率は、例えば、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則に準じて測定される。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300、LECO社製酸素・窒素・水素分析装置、ONH836等を用いて測定することができる。
【0039】
1.1.6.比表面積Sに対する酸素含有率A
軟磁性粉末の酸素含有率をAとし、比表面積をSとする。軟磁性粉末の比表面積Sに対する酸素含有率Aの比A/Sは、3000以上20000以下とされ、好ましくは4000以上15000以下とされ、より好ましくは5000以上13000以下とされる。比A/Sが前記範囲内であれば、圧粉体の密度、機械的強度および透磁率を最適化することができる。特に、軟磁性粉末の比表面積Sが大きい場合でも、圧粉体の機械的強度を高めることができる。これは、比表面積Sに対して酸素含有率Aが最適化され、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との結合力を確保できていることが起因している。
【0040】
なお、比A/Sが前記下限値を下回ると、比表面積Sに対する酸素含有率Aが低すぎるため、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との結合が弱くなり、圧粉体の機械的強度が低下する。一方、比A/Sが前記上限値を上回ると、比表面積Sに対する酸素含有率Aが高すぎるため、圧粉体における軟磁性粉末の占有率が低下することにより、密度および透磁率が低下する。
【0041】
1.2.絶縁被膜
絶縁被膜3は、軟磁性粒子2の表面を被覆している。
図1に示す絶縁被膜3は、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含む。
【0042】
1.2.1.構成材料
絶縁被膜3は、疎水性官能基を持つカップリング剤を軟磁性粒子2の表面に反応させることによって造膜されたものである。したがって、絶縁被膜3は、疎水性官能基を持つカップリング剤に由来する化合物を含み、疎水性官能基に由来する性質を示す。
【0043】
疎水性官能基としては、例えば、飽和炭化水素基、環状構造含有基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基、ニトロ基、アシル基、シアノ基等を含有するものが挙げられる。これらは、絶縁被膜3に対して良好な疎水性を付与する。
【0044】
このうち、疎水性官能基は、炭化水素基であるのが好ましく、飽和炭化水素基であるのがより好ましく、炭素数が1以上6以下の直鎖状アルキル基であるのがさらに好ましい。これにより、絶縁被膜3に対して特に高い疎水性を付与することができる。その結果、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。なお、炭素数が前記上限値を上回ると、隣り合う長鎖状アルキル基同士が規則正しく配列する状態を形成しにくくなる。つまり、隣り合う長鎖状アルキル基の配列が乱れるおそれがある。そうなると、絶縁被膜3の疎水性が低下するおそれがある。
【0045】
また、疎水性官能基は、環状構造含有基であってもよい。環状構造含有基は、環状構造を有し、絶縁被膜3に対して特に高い疎水性を付与する。また、環状構造は、安定性が高いため、加熱された後でも、良好な疎水性を維持できる。このため、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0046】
環状構造含有基としては、例えば、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、環状エーテル基等が挙げられる。
【0047】
芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、6以上20以下であるのが好ましい。芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アルキルアリール基、アミノアリール基、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、インデニル基等が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基等が挙げられる。なお、芳香族炭化水素基は、例えば炭素数1~3のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0048】
脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、3以上20以下であるのが好ましい。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキルアルキル基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。脂環式炭化水素基は、例えば炭素数1~3のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0049】
環状エーテル基としては、例えば、エポキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、オキセタニル基等が挙げられる。環状エーテル基は、例えば炭素数1~3のアルキル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0050】
炭化水素基および環状構造含有基は、圧粉時に使用される結着材との親和性が良好である。このため、絶縁物被覆軟磁性粉末1と結着材との結合力が高くなり、圧粉体の機械的強度を高めることができる。また、圧粉体の機械的強度を維持しながら、結着材の使用量を削減することができ、圧粉体における軟磁性粉末の占有率を高めることができる。
【0051】
また、疎水性官能基は、フルオロアルキル基またはフルオロアリール基であってもよい。これらは、絶縁被膜3に対して特に高い疎水性を付与する。フッ素原子を有するフルオロアルキル基やフルオロアリール基は、フッ素原子に起因して表面張力が低いため、特に疎水性に優れる。このため、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0052】
フルオロアルキル基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数1以上16以下のアルキル基または炭素数3以上16以下のシクロアルキル基である。特にフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるのが好ましい。
【0053】
フルオロアリール基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数6以上20以下のアリール基である。特にフルオロアリール基は、パーフルオロアリール基であるのが好ましい。
【0054】
1.2.2.平均厚さ
絶縁被膜3の平均厚さは、特に限定されないが、0.1nm以上50nm以下であるのが好ましく、0.5nm以上30nm以下であるのがより好ましく、1nm以上20nm以下であるのがさらに好ましい。これにより、絶縁被膜3を維持するのに必要な膜厚を確保して、上記の効果を十分に得ることができるとともに、絶縁物被覆軟磁性粉末1における絶縁被膜3の占有率が高くなるのを抑制することができる。
【0055】
絶縁被膜3の平均厚さは、例えば、X線光電子分光法とイオンスパッタリングとを併用した、深さ方向の定性定量分析によって特定することができる。具体的には、カップリング剤に由来する成分の濃度を深さ方向に沿って調べる。そして、カップリング剤に由来する成分の濃度が相対的に高くなっている領域を、絶縁被膜3の平均厚さとする。具体的には、絶縁被膜3と軟磁性粒子2との境界近傍で濃度が変化しているとき、濃度の変化量の半分、つまり、絶縁被膜3側の濃度と軟磁性粒子2側の濃度との中間点に対応する位置を境界とみなし、その境界よりも表面側の厚さを、絶縁被膜3の平均厚さとすればよい。
【0056】
1.2.3.被覆率
絶縁被膜3の被覆率は、軟磁性粒子2の表面全体のうち、絶縁被膜3が被覆している面積の比率である。絶縁被膜3の被覆率は、20%以上120%以下であるのが好ましく、30%以上110%以下であるのがより好ましく、40%以上100%以下であるのがさらに好ましい。これにより、絶縁被膜3による軟磁性粒子2同士の絶縁を十分に確保し、圧粉体の鉄損を小さくすることができる。また、絶縁物被覆軟磁性粉末1と結着材との親和性をより高めることができ、圧粉体の機械的強度を高めたり、圧粉体の機械的強度を維持しながら、結着材の使用量を削減したりすることができる。なお、被覆率が100%超である状態とは、軟磁性粒子2の表面の一部で、カップリング剤に由来する化合物の分子が2分子以上重なっている状態である。
【0057】
なお、絶縁被膜3の被覆率が前記下限値を下回ると、圧粉体の機械的強度が低下するおそれがある。一方、絶縁被膜3の被覆率が前記上限値を上回ると、カップリング剤に由来する化合物が余剰になり、圧粉体の密度および透磁率が低下するおそれがある。
【0058】
絶縁被膜3の被覆率は、絶縁物被覆軟磁性粉末1が含む化合物の量、軟磁性粉末の量、カップリング剤の最小被覆面積、および、軟磁性粉末の比表面積から算出できる。
【0059】
1.3.水分量
絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量は、特に限定されないが、30ppm以上500ppm以下であるのが好ましく、40ppm以上300ppm以下であるのがより好ましく、50ppm以上200ppm以下であるのがさらに好ましい。絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量が前記範囲内であれば、水分の吸着に伴う流動性の低下が抑えられる。このため、流動性に優れた絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。また、水分量が前記範囲内であれば、絶縁物被覆軟磁性粉末1の帯電しやすさを適切な範囲に制御することができ、帯電に伴う流動性の低下を抑制することができる。さらに、水分量が前記範囲内であれば、水分による軟磁性粒子2の発錆を抑制することもできるので、圧粉体の磁気特性の低下も抑制できる。
【0060】
なお、水分量が前記下限値を下回ると、絶縁物被覆軟磁性粉末1が帯電しやすくなり、流動性が低下するおそれがある。一方、水分量が前記上限値を上回ると、絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量が多くなりすぎて、流動性が低下するとともに、軟磁性粒子2の発錆を招くおそれがある。
【0061】
絶縁物被覆軟磁性粉末1の水分量は、測定対象の絶縁物被覆軟磁性粉末1を、温度25℃、相対湿度50%の環境に、1時間以上放置した後、カールフィッシャー法により250℃で測定される。測定には、例えば、日東精工アナリテック株式会社製、水分測定装置CA-310等が用いられる。
【0062】
1.4.圧環強度
絶縁物被覆軟磁性粉末1は、2質量%のエポキシ樹脂と混合され、50℃で1時間乾燥させて、造粒粉末を得た後、得られた造粒粉末を圧力294.2MPa(3t/cm2)でプレス成形した後、150℃で30分間加熱され、エポキシ樹脂を硬化させてなる成形体の圧環強度は、10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることがより好ましく、30MPa以上であることがさらに好ましい。これにより、機械的強度が高く、信頼性の高い磁性素子を実現することができる。なお、上限値は、特に設定されなくてもよいが、製造バラつきを少なくするという観点から、60MPa以下であるのが好ましく、50MPa以下であるのがより好ましい。
【0063】
なお、成形体の形状は、外径14mm、内径8mm、厚さ3mmの環状とする。また、圧環強度の測定方法は、JIS Z 2507:2000に規定されている圧環強さ試験方法に準じた方法とする。具体的には、圧環強度をKとし、外径をDとし、半径方向の肉厚(外径と内径の差の半分)をtとし、厚さをLとし、破壊荷重をFとするとき、圧環強度Kは、K=F(D-t)/(Lt2)で求められる。
【0064】
2.絶縁物被覆軟磁性粉末の製造方法
次に、絶縁物被覆軟磁性粉末1を製造する方法について説明する。
図2は、絶縁物被覆軟磁性粉末1を製造する方法を説明するための工程図である。
【0065】
図2に示す絶縁物被覆軟磁性粉末の製造方法は、準備工程S102と、絶縁被膜形成工程S104と、を有する。
【0066】
2.1.準備工程
準備工程S102では、軟磁性粉末を用意する。軟磁性粉末は、いかなる方法で製造された粉末であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、還元法、カルボニル法、粉砕法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法が好ましく用いられる。つまり、軟磁性粉末は、アトマイズ粉末であるのが好ましい。アトマイズ粉末は、微小で真球度が高く、製造効率も高い。また、特に、水アトマイズ粉末または回転水流アトマイズ粉末は、溶融金属と水との接触によって製造されることから、表面に薄い酸化膜を有する。この酸化膜が、絶縁被膜3の下地となり得る。このため、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との密着性に優れ、最終的に、粒子間の絶縁性が特に高い絶縁物被覆軟磁性粒子4が得られる。また、冷却速度が速いため、非晶質組織や微結晶質組織を含む軟磁性粉末の製造も可能である。
【0067】
2.2.絶縁被膜形成工程
絶縁被膜形成工程S104では、疎水性官能基を持つカップリング剤を軟磁性粒子2に反応させる。これにより、軟磁性粒子2の表面にカップリング剤を付着させる。
【0068】
この操作としては、例えば、以下の3つの操作が挙げられる。
第1の操作としては、軟磁性粒子2とカップリング剤の双方をチャンバー内に投入した後、チャンバー内を加熱する操作が挙げられる。
【0069】
第2の操作としては、軟磁性粒子2をチャンバー内に投入した後、軟磁性粒子2を撹拌しながらチャンバー内にカップリング剤を噴霧する操作が挙げられる。
【0070】
第3の操作としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の第1級アルコールに、水、カップリング剤、アンモニアや水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液および軟磁性粒子2を入れて撹拌し、ろ過後乾燥させる操作が挙げられる。
【0071】
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられる。
次の化学式は、シランカップリング剤の分子構造の一例である。
【0072】
【0073】
上記式のXは官能基、Yはスペーサー、ORは加水分解性基である。なお、Rは、例えばメチル基、エチル基等である。
【0074】
スペーサーとしては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基、アルキレンエーテル基等が挙げられる。
【0075】
加水分解性基は、例えばアルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、アセトキシ基、イソシアネート基等であり、このうち、アルコキシ基の場合、加水分解によってシラノールが生じる。このシラノールと軟磁性粒子2の表面に生じた水酸基とが反応し、カップリング剤が軟磁性粒子2の表面に付着する。
【0076】
このような加水分解性基は、カップリング剤に少なくとも1つ含まれていればよいが、2つ以上含まれているのが好ましく、上記式のように3つの加水分解性基が含まれているのがより好ましい。例えば加水分解性基がアルコキシ基であるカップリング剤は、ジアルコキシ基を含有するのが好ましく、トリアルコキシ基を含有するのがより好ましい。トリアルコキシ基を含有するカップリング剤は、軟磁性粒子2の表面に生じた3つの水酸基と反応する。このため、軟磁性粒子2に対して良好な密着性を有する。また、トリアルコキシ基を含有するカップリング剤は、造膜性にも優れるため、連続性に優れた絶縁被膜3を得ることができる。このような絶縁被膜3は、絶縁物被覆軟磁性粉末1の流動性をより高めるのに寄与する。
【0077】
また、トリアルコキシ基を含有するカップリング剤では、絶縁被膜3を形成後、疎水性官能基が熱分解しても、残部によって軟磁性粒子2の表面を覆い続けることができる。このため、疎水性の低下を抑えることができる。
【0078】
ここで、疎水性官能基を持つカップリング剤について例示する。芳香族炭化水素基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(A-1)で表されるフェニルトリメトキシシラン、
【0079】
【0080】
下記式(A-2)で表されるフェニルトリエトキシシラン、
【0081】
【0082】
下記式(A-3)で表されるジメトキシジフェニルシラン、
【0083】
【0084】
下記式(A-4)で表される2,2-ジメトキシ-1-フェニル-1-アザ-2-シラシクロペンタン、
【0085】
【0086】
下記式(A-11)で表される3-フェノキシプロピルトリクロロシラン、
【0087】
【0088】
下記式(A-12)で表されるフェニルトリアセトキシシラン、
【0089】
【0090】
下記式(A-13)で表されるトリエトキシ(p-トリル)シラン、
【0091】
【0092】
下記式(A-14)で表されるp-アミノフェニルトリメトキシシラン、
【0093】
【0094】
下記式(A-15)で表されるm-アミノフェニルトリメトキシシラン、
【0095】
【0096】
下記式(A-16)で表される((クロロメチル)フェニルエチル)トリメトキシシラン、
【0097】
【0098】
環状エーテル基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(A-5)で表される3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、
【0099】
【0100】
下記式(A-6)で表される3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
【0101】
【0102】
下記式(A-7)で表される3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、
【0103】
【0104】
下記式(A-8)で表される3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、
【0105】
【0106】
フルオロアルキル基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(B-1)で表されるトリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン、
【0107】
【0108】
下記式(B-2)で表されるトリメトキシ(1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチル)シラン、
【0109】
【0110】
下記式(B-3)で表されるトリメトキシ(1H,1H,2H,2H-ノナフルオロヘキシル)シラン、
【0111】
【0112】
フルオロアリール基を持つカップリング剤としては、例えば、
下記式(C-1)で表されるトリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン、
【0113】
【0114】
下記式(C-2)で表されるペンタフルオロフェニルジメチルクロロシラン、
【0115】
【0116】
カップリング剤の投入量は、特に限定されないが、軟磁性粒子2に対して0.01質量%以上1.00質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以上0.50質量%以下であるのがより好ましい。
【0117】
また、カップリング剤は、チャンバー内に静置、チャンバー内に噴霧といった方法で供給される。
【0118】
その後、カップリング剤が付着した軟磁性粒子2を加熱する。これにより、軟磁性粒子2の表面に絶縁被膜3が形成され、絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。また、加熱により、未反応のカップリング剤を除去することができる。
【0119】
カップリング剤が付着した軟磁性粒子2の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上300℃以下であるのが好ましく、100℃以上250℃以下であるのがより好ましい。加熱時間は、10分以上24時間以下であるのが好ましく、30分以上10時間以下であるのがより好ましい。加熱処理の雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。
【0120】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
【0121】
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0122】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子の一例であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
図3は、トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
【0123】
図3に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12と、を有する。このようなコイル部品10は、一般に、トロイダルコイルと称される。
【0124】
圧粉磁心11は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末と結着材とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧、成形して得られる。圧粉磁心11は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末を含む圧粉体であるため、磁気特性および機械的強度を両立させるコイル部品10を実現できる。このため、コイル部品10を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。
【0125】
圧粉磁心11の作製に用いられる結着材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられるが、特に、熱硬化性ポリイミドまたはエポキシ系樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。したがって、圧粉磁心11の製造容易性および耐熱性を高めることができる。
【0126】
絶縁物被覆軟磁性粉末に対する結着材の割合は、作製する圧粉磁心11の目的とする磁気特性や機械的特性、許容される渦電流損失等に応じて若干異なるが、0.3質量%以上5.0質量%以下程度であるのが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下程度であるのがより好ましく、0.7質量%以上2.0質量%以下程度であるのがさらに好ましい。これにより、絶縁物被覆軟磁性粉末の粒子同士を十分に結着させつつ、磁気特性に優れたコイル部品10を得ることができる。
混合物中には、必要に応じて、任意の目的で各種添加剤を添加するようにしてもよい。
【0127】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられていてもよい。
【0128】
圧粉磁心11の形状は、
図3に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよく、シート状、フィルム状等であってもよい。
【0129】
圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0130】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子の一例である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図4は、閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【0131】
以下、閉磁路タイプのコイル部品について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0132】
本実施形態に係るコイル部品20は、
図4に示すように、コイル状に成形された導線22を、圧粉磁心21の内部に埋設してなるものである。すなわち、磁性素子であるコイル部品20は、前述した絶縁物被覆軟磁性粉末を含む圧粉磁心21を備え、導線22を圧粉磁心21でモールドしてなる。この圧粉磁心21は、前述した圧粉磁心11と同様の構成を有する。これにより、磁気特性および機械的強度が高いコイル部品20を実現することができる。
【0133】
また、このような形態のコイル部品20では、比較的小型化が容易である。このため、コイル部品20を電子機器等に搭載したとき、電子機器等の高性能化および小型化を図ることができる。
【0134】
また、導線22が圧粉磁心21の内部に埋設されているため、導線22と圧粉磁心21との間に隙間が生じ難い。このため、圧粉磁心21の磁歪による振動を抑制し、この振動に伴う騒音の発生を抑制することもできる。
【0135】
なお、圧粉磁心21の形状は、
図4に示す形状に限定されず、シート状、フィルム状等であってもよい。
【0136】
また、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0137】
4.電子機器
次に、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、
図5~
図7に基づいて説明する。
【0138】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
図5に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0139】
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
図6に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0140】
図7は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0141】
図7に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0142】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0143】
実施形態に係る電子機器としては、
図5のパーソナルコンピューター、
図6のスマートフォン、
図7のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0144】
このような電子機器は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、磁気特性および機械的強度を両立するという実施形態に係る磁性素子の効果を享受し、電子機器の高性能化および小型化を図ることができる。
【0145】
5.前記実施形態が奏する効果
以上のように、本実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末1は、軟磁性粉末と、絶縁被膜3と、を備える。絶縁被膜3は、軟磁性粒子2の表面(軟磁性粉末の粒子表面)を被覆し、疎水性官能基をカップリング剤に由来する化合物を含む。そして、軟磁性粉末の平均粒径は、2.0μm以上25.0μm以下であり、軟磁性粉末の比表面積が0.05m2/g以上0.60m2/g以下である。また、軟磁性粉末の比表面積をS[m2/g]とし、軟磁性粉末における酸素含有率をA[ppm]とするとき、比A/Sが3000以上20000以下である。
【0146】
このような構成によれば、軟磁性粉末の比表面積が大きい場合でも、圧粉体の密度および機械的強度を両立させ得る絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0147】
また、軟磁性粉末における酸素含有率Aは、200ppm以上5000ppm以下であることが好ましい。
【0148】
このような構成によれば、軟磁性粒子2と絶縁被膜3との密着性を高めることができる。これにより、絶縁物被覆軟磁性粉末1と結着材との親和性を高めることができ、圧粉体の機械的強度を高めることができる。
【0149】
また、疎水性官能基は、炭化水素基であることが好ましい。
このような構成によれば、絶縁被膜3に対して特に高い疎水性を付与することができる。その結果、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0150】
また、炭化水素基は、炭素数が1以上6以下の直鎖状アルキル基であることが好ましい。
【0151】
このような構成によれば、絶縁被膜3に対して特に高い疎水性を付与することができる。その結果、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0152】
また、疎水性官能基は、環状構造含有基であってもよい。
環状構造含有基は、環状構造を有し、絶縁被膜3に対して特に高い疎水性を付与する。
また、環状構造は、安定性が高いため、加熱された後でも、良好な疎水性を維持できる。このため、多湿環境下でも、流動性に優れ、圧粉時の充填性が良好な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0153】
また、絶縁被膜3の被覆率は、20%以上120%以下であることが好ましい。
このような構成によれば、絶縁被膜3による軟磁性粒子2同士の絶縁を十分に確保し、圧粉体の鉄損を小さくすることができる。また、絶縁物被覆軟磁性粉末1と結着材との親和性をより高めることができ、圧粉体の機械的強度を高めたり、圧粉体の機械的強度を維持しながら、結着材の使用量を削減したりすることができる。
【0154】
また、2質量%のエポキシ樹脂と混合され、得られた混合物を294.2MPaの圧力でプレス成形した後、150℃で30分間加熱され、エポキシ樹脂を硬化させてなる成形体の圧環強度は、10MPa以上であることが好ましい。
【0155】
このような構成によれば、機械的強度が高く、信頼性の高い磁性素子を実現可能な絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。
【0156】
また、カールフィッシャー法により250℃で測定された水分量が、30ppm以上500ppm以下であることが好ましい。
【0157】
このような構成によれば、水分の吸着に伴う流動性の低下が抑えられ、流動性に優れた絶縁物被覆軟磁性粉末1が得られる。また、絶縁物被覆軟磁性粉末1の帯電しやすさを適切な範囲に制御することができ、帯電に伴う流動性の低下を抑制することができる。
【0158】
また、実施形態に係る圧粉磁心は、実施形態に係る絶縁物被覆軟磁性粉末を含む。これにより、磁気特性および機械的強度を両立させる磁性素子を実現可能な圧粉磁心が得られる。
【0159】
また、実施形態に係る磁性素子は、実施形態に係る圧粉磁心を備える。これにより、磁気特性および機械的強度を両立させる磁性素子が得られる。
【0160】
また、実施形態に係る電子機器は、実施形態に係る磁性素子を備える。これにより、高性能化および小型化が図られた電子機器が得られる。
【0161】
以上、本発明の絶縁物被覆軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0162】
例えば、前記実施形態では、本発明の絶縁物被覆軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気ヘッド、磁気遮蔽シート等の磁性デバイスであってもよい。また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【0163】
また、本発明に係る圧粉磁心および磁性素子は、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【実施例0164】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.絶縁物被覆軟磁性粉末の作製
6.1.サンプルNo.1
まず、アトマイズ法により、表1に示す軟磁性材料で構成された軟磁性粉末を作製した。軟磁性材料の組成は、表1に示すとおりである。また、軟磁性粉末の平均粒径、比表面積、酸素含有率、平均円形度等は、表2に示すとおりである。
【0165】
次に、軟磁性粉末の粒子表面に絶縁被膜を形成した。絶縁被膜の形成に使用したカップリング剤が持つ疎水性官能基、疎水性官能基がアルキル基である場合の炭素数、および、絶縁被膜の被覆率は、表2に示すとおりである。
【0166】
以上のようにして、サンプルNo.1の絶縁物被覆軟磁性粉末を得た。その後、得られた絶縁物被覆軟磁性粉末の水分量を測定した。測定結果を表2に示す。
【0167】
6.2.サンプルNo.2~26
絶縁物被覆軟磁性粉末の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、サンプルNo.1の場合と同様にしてサンプルNo.2~26の絶縁物被覆軟磁性粉末を得た。
【0168】
【0169】
なお、後に示す表2においては、各サンプルNo.の絶縁物被覆軟磁性粉末のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」とした。
【0170】
また、表2に示す化学式の記号は、以下の化合物に対応している。
A-1:フェニルトリメトキシシラン
A-6:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
B-1:トリメトキシ(3,3,3-トリフルオロプロピル)シラン
C-1:トリメトキシ(11-ペンタフルオロフェノキシウンデシル)シラン
D-1:メチルトリメトキシシラン
D-2:プロピルトリメトキシシラン
D-3:ヘキシルトリメトキシシラン
D-4:オクチルトリメトキシシラン
【0171】
7.絶縁物被覆軟磁性粉末の評価
7.1.成形体の相対密度
まず、各絶縁物被覆軟磁性粉末と、結着材であるエポキシ樹脂および有機溶媒であるトルエンと、を混合して、混合物を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、絶縁物被覆軟磁性粉末100質量部に対して2質量部とした。
【0172】
次に、得られた混合物を撹拌したのち、大気雰囲気下、50℃で1時間乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き400μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。
【0173】
次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件に基づいて圧粉体を得た。
【0174】
・成形方法:プレス成形
・成形体の形状:環状
・成形体の寸法:外径14mm、内径8mm、厚さ3mm
・成形圧力:3t/cm2(294.2MPa)
【0175】
次に、圧粉体を、大気雰囲気下、150℃で30分間加熱して、結着材を硬化させた。これにより、環状の成形体を得た。
【0176】
次に、圧粉体の密度を測定した。次に、圧粉体の密度を軟磁性粉末の真密度で除して、相対密度を算出した。そして、算出した相対密度を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0177】
A:相対密度が67%以上である
B:相対密度が66%以上67%未満である
C:相対密度が65%以上66%未満である
D:相対密度が64%以上65%未満である
E:相対密度が63%以上64%未満である
F:相対密度が63%未満である
【0178】
7.2.成形体の圧環強度
7.1.と同様にして作製した成形体について、JIS Z 2507:2000に規定されている圧環強さ試験方法に準じ、圧環強度を測定した。そして、得られた圧環強度を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0179】
A:圧環強度が50MPa以上である
B:圧環強度が45MPa以上50MPa未満である
C:圧環強度が40MPa以上45MPa未満である
D:圧環強度が35MPa以上40MPa未満である
E:圧環強度が30MPa以上35MPa未満である
F:圧環強度が30MPa未満である
【0180】
7.3.成形体の透磁率
7.1.と同様にして作製した成形体の透磁率を測定した。成形体の透磁率とは、前述した成形体に閉磁路磁心コイルを作製し、その自己インダクタンスから求められる比透磁率、すなわち実効透磁率のことである。透磁率の測定には、インピーダンスアナライザーを用い、測定周波数は100kHzとした。また、巻線の巻き数は7回、巻線の線径は0.6mmとした。
【0181】
そして、測定した透磁率を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。なお、以下の評価基準における基準値は、軟磁性材料ごとに設定された値であって、結晶質材料ではサンプルNo.21の軟磁性粉末、非晶質材料1ではサンプルNo.25の軟磁性粉末、非晶質材料2ではサンプルNo.26の軟磁性粉末を用いて作製された成形体の透磁率である。
【0182】
A:透磁率の測定値が基準値の115%以上である
B:透磁率の測定値が基準値の110%以上115%未満である
C:透磁率の測定値が基準値の105%以上110%未満である
D:透磁率の測定値が基準値の100%以上105%未満である
E:透磁率の測定値が基準値の95%以上100%未満である
F:透磁率の測定値が基準値の95%未満である
【0183】
7.4.成形体の鉄損
7.1.と同様にして作製した成形体の鉄損を測定した。鉄損の測定条件は、以下に示すとおりである。
【0184】
・測定装置:BHアナライザー、岩崎通信機株式会社製 SY-8258
・測定周波数:900kHz
・巻線の巻き数:1次側36回、2次側36回
・巻線の線径:0.5mm
・最大磁束密度:50mT
【0185】
次に、測定した鉄損を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。なお、以下の評価基準における基準値は、軟磁性材料ごとに設定された値であって、結晶質材料ではサンプルNo.21の軟磁性粉末、非晶質材料1ではサンプルNo.25の軟磁性粉末、非晶質材料2ではサンプルNo.26の軟磁性粉末を用いて作製された成形体の鉄損である。
【0186】
A:鉄損の測定値が基準値の85%未満である
B:鉄損の測定値が基準値の85%以上90%未満である
C:鉄損の測定値が基準値の90%以上95%未満である
D:鉄損の測定値が基準値の95%以上100%未満である
E:鉄損の測定値が基準値の100%以上105%未満である
F:鉄損の測定値が基準値の105%以上である
【0187】
【0188】
表2に示すように、各実施例の絶縁物被覆軟磁性粉末は、比較例の絶縁物被覆軟磁性粉末と比べて、密度、圧環強度および透磁率が高い成形体を製造可能であることがわかった。特に、比表面積Sが大きい場合でも、比表面積Sに対する酸素含有率Aの比を最適化することで、圧環強度を高められることがわかった。また、各実施例の絶縁物被覆軟磁性粉末を用いることにより、鉄損の低い成形体を製造可能であることもわかった。
1…絶縁物被覆軟磁性粉末、2…軟磁性粒子、3…絶縁被膜、4…絶縁物被覆軟磁性粒子、10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー、S102…準備工程、S104…無機絶縁膜形成工程。