(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137694
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】アルミニウム基合金材料、アルミニウム基合金配線およびスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240927BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240927BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20240927BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20240927BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240927BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240927BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C21/00 A
H01L21/285 S
H01L21/28 301R
H01L29/78 617M
C22F1/00 691B
C22F1/00 613
C22F1/00 625
C22F1/00 650A
C22F1/00 661A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 627
C22F1/00 623
C22F1/00 611
C22F1/00 628
C22F1/00 621
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222845
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2023047926
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【弁理士】
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】100187997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】田内 裕基
(72)【発明者】
【氏名】倉 千晴
(72)【発明者】
【氏名】隈本 広美
【テーマコード(参考)】
4K029
4M104
5F110
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】本開示は、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れるアルミニウム基合金材料を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の一態様に係るアルミニウム基合金材料は、表示デバイス用アルミニウム基合金材料であって、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含み、NdAlGeまたはNdAl
2Ge
2を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示デバイス用アルミニウム基合金材料であって、
Ge:0.6at%以上2.0at%以下、
希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下
を含み、
NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含むアルミニウム基合金材料。
【請求項2】
Geの原子数に対する希土類元素の原子数の比が0.5以上1.0以下である請求項1に記載のアルミニウム基合金材料。
【請求項3】
Ta:0.05at%以上0.5at%以下、および
Nb:0.05at%以上0.5at%以下
の少なくともいずれかを含む請求項1に記載のアルミニウム基合金材料。
【請求項4】
Ta:0.05at%以上0.5at%以下、および
Nb:0.05at%以上0.5at%以下
の少なくともいずれかを含む請求項2に記載のアルミニウム基合金材料。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム基合金材料から構成されたアルミニウム基合金配線。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム基合金材料の形成に用いられるスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム基合金材料、アルミニウム基合金配線およびスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)や有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイが、スマートフォン、タブレット、ラップトップコンピュータ、モニタ、テレビなどに幅広く使用されている。フラットパネルディスプレイの各画素の駆動には薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)が用いられている。
【0003】
従来、この薄膜トランジスタを構成する半導体膜としては、アモルファスシリコン(a-Si)が用いられている。一方で、高精細ディスプレイではTFTの動作速度も高速になるため、アモルファスシリコンでは対応し難い。そのため、従来のアモルファスシリコンと比較して、300倍以上のキャリア移動度を有する低温ポリシリコン(LTPS)が普及しつつある。
【0004】
アモルファスシリコン薄膜トランジスタのプロセス温度は400℃以下であるため、ゲート配線としては、耐熱性と電気抵抗率とを両立できるアルミニウム合金配線が主流であった。これに対し、低温ポリシリコン薄膜トランジスタの製造プロセスにおいては、ゲート配線に400℃以上の高温が加えられるため、Mo等の高融点金属材料を用いた配線が使用されている。しかしながら、この配線は、電気抵抗率が12μΩcm以上程度であり、アルミニウム合金配線の電気抵抗率(4μΩcm~5μΩcm程度)と比べて大きいため、高抵抗化の問題を有する。
【0005】
この問題に鑑みて、耐熱性と低電気抵抗率とを両立するための技術が検討されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、Zrを2at%以下、W、Nb、Moのうちの1種以上を2at%以下含有し、かつこれらの総量が0.2~2at%であるAl合金膜が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載されているAl合金膜は、耐熱性と低電気抵抗率とを両立する点で十分であるとはいえない。また、特許文献1に記載されているAl合金膜は、電気抵抗率を低くするとヒロックの数が増加しており、配線表面の平滑性を十分に維持し難い。
【0008】
本開示は、このような事情に基づいてなされたもので、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れるアルミニウム基合金材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アルミニウムに、Geおよび希土類元素を所定の含有量になるように添加するとともに、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含むようにすることにより、表示デバイス用配線材料として求められる耐熱性と低電気抵抗率とを両立しつつ、表面平滑性を維持できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本開示の一態様に係るアルミニウム基合金材料は、表示デバイス用アルミニウム基合金材料であって、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含み、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様に係るアルミニウム基合金材料は、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るトップゲート型のTFT基板の模式的断面図である。
【
図2】
図2は、No.1のサンプルのX線回折スペクトルの解析結果である。
【
図3】
図3は、No.9のサンプルのX線回折スペクトルの解析結果である。
【
図4】
図4は、No.3のサンプルのX線回折スペクトルの解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
(1)本開示の一態様に係るアルミニウム基合金材料は、表示デバイス用アルミニウム基合金材料であって、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含み、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含む。
【0015】
当該アルミニウム基合金材料は、Geおよび希土類元素を上記範囲内の含有量で含むとともに、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含むことで、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる。
【0016】
(2)上記(1)において、Geの原子数に対する希土類元素の原子数の比が0.5以上1.0以下であるとよい。このように、Geの原子数に対する希土類元素の原子数の比が0.5以上1.0以下であることによって、耐熱性をより向上することができる。
【0017】
(3)上記(1)において、Ta:0.05at%以上0.5at%以下、およびNb:0.05at%以上0.5at%以下の少なくともいずれかを含むとよい。このように、Ta:0.05at%以上0.5at%以下、およびNb:0.05at%以上0.5at%以下の少なくともいずれかを含むことによって、低電気抵抗化および表面平滑性をより向上することができる。
【0018】
(4)上記(2)において、Ta:0.05at%以上0.5at%以下、およびNb:0.05at%以上0.5at%以下の少なくともいずれかを含むとよい。このように、Ta:0.05at%以上0.5at%以下、およびNb:0.05at%以上0.5at%以下の少なくともいずれかを含むことによって、低電気抵抗化および表面平滑性をより向上することができる。
【0019】
(5)本開示の別の一態様に係るアルミニウム基合金配線は、上記(1)から(4)のいずれかのアルミニウム基合金材料から構成されている。
【0020】
当該アルミニウム基合金配線は、上述のアルミニウム基合金材料から構成されているので、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる。
【0021】
(6)本開示のさらに別の一態様に係るスパッタリングターゲットは、上記(1)から(4)のいずれかのアルミニウム基合金材料の形成に用いられる。
【0022】
当該スパッタリングターゲットは、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる上述のアルミニウム基合金材料を形成することができる。また、当該スパッタリングターゲットは、上述のアルミニウム基合金配線の形成に用いることもできる。
【0023】
本開示において、「基合金」とは、合金中で原子数換算において最も含有量が大きい金属元素を意味する。すなわち、「アルミニウム基合金材料」とは、原子数換算においてアルミニウムの含有量が最も大きい合金材料を意味し、「アルミニウム基合金配線」とは、原子数換算においてアルミニウムの含有量が最も大きい合金配線を意味する。「at%」とは、原子%を意味する。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載されている数値については、記載された上限値と下限値との一方のみを採用すること、あるいは上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。また、
図1は模式的なものであって、実際の寸法、形状等とは一致しないことがある。
【0025】
<アルミニウム基合金材料>
当該アルミニウム基合金材料は、表示デバイス用アルミニウム基合金材料であって、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含み、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含む。
【0026】
上記表示デバイスとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDディスプレイ等のフラットパネルディスプレイを備えるものが挙げられる。当該アルミニウム基合金材料は、例えば上記表示デバイスに搭載される薄膜トランジスタ用の配線材料として用いられる。なお、当該アルミニウム基合金材料の用途としては、上述の薄膜トランジスタ用の配線材料に限定されない。当該アルミニウム基合金材料は、例えば薄膜トランジスタ用の電極材料として用いることもできる。また、当該アルミニウム基合金材料は、フィールドエミッションディスプレイ(FED)における電極および配線材料、蛍光真空管(VFD)における電極および配線材料、プラズマディスプレイ(PDP)における電極および配線材料、無機ELにおける電極材料として用いられてもよい。
【0027】
当該アルミニウム基合金材料は、GeおよびNdを含んでおり、これによってNdAlGeまたはNdAl2Ge2を含むように構成することができる。NdAlGeまたはNdAl2Ge2は、例えば熱処理によってNdとAlとGeとの金属間化合物として生成される。当該アルミニウム基合金材料は、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含むことで、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる。より詳しくは、当該アルミニウム基合金材料は、上記表示デバイスに搭載される過程で400℃以上、あるいは450℃以上の熱処理が加えられることがある。例えば低温ポリシリコン薄膜トランジスタの製造プロセスにおいては、ゲート配線に400℃以上の高温が加えられる。このような場合においても、当該アルミニウム基合金材料は、耐熱性と低電気抵抗率とを両立するとともに、ヒロックと呼ばれる異常粒成長の発生を抑制しつつ、表面平滑性を維持することができる。
【0028】
当該アルミニウム基合金材料が、耐熱性、低電気抵抗率および表面平滑性を実現できる理由としては以下のように推測される。例えば純Al(アルミニウム)を用いた配線では、150℃以上程度の熱処理が施されると、表面が荒れるとともにヒロックが発生する。このヒロックは、熱処理によって生じた圧縮応力に対し、応力緩和のため、Alが表面に拡散することで生じると考えられる。ヒロックが発生すると、配線表面の平滑性が損なわれ、上下層との短絡を生じるおそれが高くなる。Ndのみの添加では、圧縮応力が加わった際に応力緩和を一定程度抑制することができるものの、250℃以上の温度で加熱されるとヒロックが発生する。これに対し、Ndと併せてGeを添加することによって、Al、NdおよびGeの金属間化合物(NdAlGeまたはNdAl2Ge2)が熱処理中に生成し、この金属間化合物が応力緩和として働く。その結果、表面形態を変化させずに応力を開放できるため、表面平滑性を維持できる。また、GeとNdとが上記金属間化合物として析出することで、熱処理後の電気抵抗率を低下させることができる。
【0029】
〔Al〕
当該アルミニウム基合金材料は、Alを主成分とする。当該アルミニウム基合金材料におけるAlの含有量の下限としては、90at%が好ましく、92at%がより好ましい。一方、当該アルミニウム基合金材料におけるAlの含有量の上限としては、上述のGeおよびNdの含有量、ならびにその他含有され得る元素の含有量に応じて設定可能であり、95at%が好ましい。当該アルミニウム基合金材料は、Al、GeおよびNd以外の元素をさらに含んでいてもよく、Al、Ge、Ndおよび不可避的不純物から構成されていてもよい。
【0030】
〔Ge〕
Geは、耐熱性および表面平滑性を向上させる。より詳しくは、Geは、Ndとともに添加されることによって、熱処理プロセスでAlおよびNdとの金属間化合物を生成することで、ヒロックの発生を抑制する。また、Geは、Ndとの金属間化合物として析出することで、熱処理後の電気抵抗率を低下させる。当該アルミニウム基合金材料におけるGeの含有量の下限としては、熱処理後における表面平滑性および低電気抵抗化を促進する観点から、0.6at%であり、0.8at%が好ましい。一方、Geの含有量の上限としては、Geの含有量が過剰となることで、Ge単体が析出することを抑制する観点から、2.0at%であり、1.6at%が好ましい。
【0031】
〔希土類元素〕
当該アルミニウム基合金材料は、希土類元素を含む。上記希土類元素ととしては、ランタノイド元素(周期表において、原子番号57のLa(ランタン)から原子番号71のLu(ルテチウム)までの合計15元素)に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)とを加えたものが挙げられる。当該アルミニウム基合金材料は、複数の希土類元素を含んでいてもよい。ただし、当該アルミニウム基合金材料は、所望の品質を容易に得られるように、1種類の希土類元素のみを含んでいることが好ましい。当該アルミニウム基合金材料が1種類のみの希土類元素を含む場合、この希土類元素はNdである。上記希土類元素がNdであることで、熱処理によって、AlおよびGeと所望の金属間化合物を容易に生成することができる。
【0032】
上記希土類元素は、耐熱性および表面平滑性を向上させる。より詳しくは、上記希土類元素は、Geとともに添加されることによって、熱処理プロセスでAlおよびGeとの金属間化合物を生成することで、ヒロックの発生を抑制する。また、上記希土類元素は、Geとの金属間化合物として析出することで、熱処理後の電気抵抗率を低下させる。当該アルミニウム基合金材料における上記希土類元素の含有量の下限としては、熱処理後における表面平滑性および低電気抵抗化を促進する観点から、0.3at%であり、0.4at%が好ましい。一方、当該アルミニウム基合金材料における上記希土類元素の含有量の上限としては、粗大な析出物の生成を抑えて表面平滑性を高める観点から、1.0at%であり、0.8at%が好ましい。なお、当該アルミニウム基合金材料が複数種の希土類元素を含む場合、これらの複数種の希土類元素の合計含有量が上記範囲内であってもよい。ただし、当該アルミニウム基合金材料においては、Ndの含有量が上記範囲内であることが好ましい。Ndの含有量が上記範囲内であることで、耐熱性、低電気抵抗化および表面平滑性を容易に向上することができる。
【0033】
Geの原子数に対する希土類元素の原子数の比の下限としては、希土類元素に対してGeが過剰となり、Ge単体が析出することで表面平滑性が低下することを抑制する観点から、0.5が好ましい。一方、上記比としては、Geに対して希土類元素が過剰となり、粗大な析出物(例えばAl4Nd)が析出することで表面平滑性が低下することを抑制する観点から、1.0以下が好ましく、1.0未満がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。当該アルミニウム基合金材料は、Geの原子数に対する希土類元素の原子数の比を上記範囲内とすることで、300℃以上の熱処理によって所望の金属間化合物(例えばNdAlGeまたはNdAl2Ge2)を析出させることができ、耐熱性を容易に高めることができる。
【0034】
(その他の元素)
当該アルミニウム基合金材料は、Ta(タンタル)およびNb(ニオブ)の少なくともいずれかを含んでいてもよい。例えば、当該アルミニウム基合金材料は、Al、GeおよびNdと、TaおよびNbの少なくともいずれかと、不可避的不純物とから構成されていてもよい。
【0035】
〔Ta〕
Taは、圧縮応力が加えられた場合における表面形態の変化を抑制する。当該アルミニウム基合金材料におけるTaの含有量の下限としては、表面形態の変化をより確実に抑制できる観点から、0.05at%が好ましく、0.1at%がより好ましい。一方、当該アルミニウム基合金材料におけるTaの含有量の上限としては、電気抵抗率が高くなることを抑制する観点から、0.5at%が好ましく、0.4at%がより好ましい。
【0036】
[Nb]
Nbは、圧縮応力が加えられた場合における表面形態の変化を抑制する。当該アルミニウム基合金材料におけるNbの含有量の下限としては、表面形態の変化をより確実に抑制できる観点から、0.05at%が好ましく、0.1at%がより好ましい。一方、当該アルミニウム基合金材料におけるNbの含有量の上限としては、電気抵抗率が高くなることを抑制する観点から、0.5at%が好ましく、0.4at%がより好ましい。
【0037】
<アルミニウム基合金配線>
次に、上述した当該アルミニウム基合金材料から構成されたアルミニウム基合金配線について説明する。当該アルミニウム基合金配線は、例えば表示デバイスに搭載される薄膜トランジスタ用の配線として使用することができる。この場合、当該アルミニウム基合金配線は、ゲート配線、ソース配線およびドレイン配線等として使用できる。以下では、
図1を参照して、当該アルミニウム基合金配線の使用例として、トップゲート型薄膜トランジスタ10の配線として用いられる場合について説明する。ただし、当該アルミニウム基合金配線は、ボトムゲート型薄膜トランジスタの配線として用いられてもよい。また、当該アルミニウム基合金配線は、フィールドエミッションディスプレイにおける配線、蛍光真空管における配線、プラズマディスプレイにおける配線等として使用することも可能である。さらに、以下では、当該アルミニウム基合金配線が単体で1つの配線を構成する形態について説明するが、当該アルミニウム基合金配線に、他の層が積層されたものを1つの配線として用いることも可能である。
【0038】
<トップゲート型薄膜トランジスタ>
図1のトップゲート型薄膜トランジスタ10(以下、単に「薄膜トランジスタ10」ともいう。)は、ポリシリコン薄膜トランジスタである。より詳しくは、当該薄膜トランジスタ10は、低温ポリシリコン薄膜トランジスタである。
【0039】
当該薄膜トランジスタ10は、基板1と、基板1上に配置されている半導体膜2と、半導体膜2上に配置されているゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に配置されているゲート電極4と、ゲート絶縁膜3およびゲート電極4上に配置されている第1層間絶縁膜5aと、半導体膜2の導体化された領域に配置されているソース電極6およびドレイン電極7と、ソース電極6およびドレイン電極7上に配置されている第2層間絶縁膜5bと、ドレイン電極7に接続されている画素電極8とを備える。ゲート電極4はゲート配線と一体に形成されている。ソース電極6はソース配線と一体に形成されている。ドレイン電極7はドレイン配線と一体に形成されている。
【0040】
(基板)
基板1としては、特に限定されないが、ガラス基板やシリコン基板等が挙げられる。上記ガラス基板に用いられるガラスとしては、例えば無アルカリガラス、高歪点ガラス、ソーダライムガラス等が挙げられる。また、基板1として、ステンレス薄膜等の金属基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の樹脂基板を用いることもできる。
【0041】
(半導体膜)
半導体膜2は、例えばリンがドープされていない第1ポリシリコン膜(poly-Si)と、リンまたはヒ素がイオン注入された第2ポリシリコン膜(n+poly-Si)とを含む。半導体膜2は、例えば第1ポリシリコン膜の成膜後、ゲート絶縁膜3を成膜し、かつゲート電極4を形成した後に、第1ポリシリコン膜に部分的にイオン注入して第2ポリシリコン膜を形成し、さらに活性化のために450℃以上500℃以下の熱処理を行うことで得られる。
【0042】
(ゲート絶縁膜)
ゲート絶縁膜3としては、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、Al2O3やY2O3等の金属酸化物膜などが挙げられる。ゲート絶縁膜3は、CVD法や、PECVD法等を用いて成膜することができる。ゲート絶縁膜3は、単層体であってもよく、2層以上の多層体であってもよい。ゲート絶縁膜3には、フォトリソグラフィ等によってコンタクトホールが形成される。
【0043】
(ゲート電極)
上述のようにゲート電極4は、ゲート配線と一体に形成されている。このゲート配線は、上述の当該アルミニウム基合金材料から構成されたアルミニウム基合金配線である。つまり、ゲート電極4と上記ゲート配線とは、その全体が当該アルミニウム基合金材料から構成されている。当該アルミニウム基合金配線の組成は、当該アルミニウム基合金材料と等しい。すなわち、当該アルミニウム基合金配線は、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含み、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含んでいる。上記ゲート配線は、当該アルミニウム基合金配線から構成されているので、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる。そのため、半導体膜2の形成プロセスで上述の熱処理が施された場合でも、優れた品質を維持することができる。
【0044】
(層間絶縁膜)
層間絶縁膜5は、第1層間絶縁膜5aおよび第2層間絶縁膜5bを有する。第1層間絶縁膜5aおよび第2層間絶縁膜5bは、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン酸窒化膜、Al2O3やY2O3等の金属酸化物膜等とすることができる。第1層間絶縁膜5aおよび第2層間絶縁膜5bは、CVD法や、PECVD法等を用いて成膜することができる。第1層間絶縁膜5aには、成膜後フォトリソグラフィ等によってコンタクトホールが形成される。ゲート絶縁膜3に形成されているコンタクトホールと、第1層間絶縁膜5aに形成されているコンタクトホールとは連通している。
【0045】
(ソース電極およびドレイン電極)
ソース電極6およびドレイン電極7は、第1層間絶縁膜5aの一部を覆うとともに、上述のコンタクトホールに充填される。このように構成されていることで、ソース電極6およびドレイン電極7は、半導体膜2の第2ポリシリコン膜と電気的に接続される。
【0046】
上述のように、ソース電極6はソース配線と一体に形成され、ドレイン電極7はドレイン配線と一体に形成されている。ソース電極6およびドレイン電極7は、例えば電気抵抗率の低いAl、Cuなどの金属や、耐熱性の高いMo、Cr、Tiなどの高融点金属や、これらの合金から構成されてもよい。また、ソース電極6およびドレイン電極7の一方または両方は、当該アルミニウム基合金材料から構成されていてもよい。つまり、上記ソース配線および上記ドレイン配線の一方または両方は、当該アルミニウム基合金配線であってもよい。上記ソース配線および上記ドレイン配線の一方または両方は、当該アルミニウム基合金配線から構成されることで、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる。
【0047】
(画素電極)
画素電極8は、例えば酸化インジウム錫(ITO)膜などの酸化物導電膜から形成されている。
【0048】
なお、当該薄膜トランジスタ10は、上記以外の構成を含んでいてもよい、例えば当該薄膜トランジスタ10は、上記ゲート配線、上記ソース配線および上記ドレイン配線のいずれかの上に、バリア層、キャップ層等を備えていてもよい。上記バリア層を構成する材料としては、例えばTiN、Mo、Ti、W等が挙げられる。また、当該薄膜トランジスタ10は、基板1と半導体膜2との間にバッファ層を備えていてもよい。
【0049】
<製造方法>
当該アルミニウム基合金材料および当該アルミニウム基合金配線は、インクジェット塗布法、真空蒸着法、スパッタリング法等によって形成することができる。中でも、合金化の容易性、生産性、膜厚均一性等の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0050】
(スパッタリングターゲット)
スパッタリング法によってアルミニウム基合金材料およびアルミニウム基合金配線を形成するためには、アルミニウム基合金材料およびアルミニウム基合金配線と同一組成のスパッタリングターゲットを用いればよい。すなわち、アルミニウム基合金材料またはアルミニウム基合金配線の形成に用いられるスパッタリングターゲットは、Al、Nd、Ge等の元素を、得られるアルミニウム基合金材料およびアルミニウム基合金配線と同一の含有量で含んでいる。すなわち、当該スパッタリングターゲットは、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含んでいる。当該スパッタリングターゲットは、本開示の一態様である。当該スパッタリングターゲットは、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる上記アルミニウム基合金材料および上記アルミニウム基合金配線を形成することができる。
【0051】
当該スパッタリングターゲットにおける各元素の含有量の好ましい範囲は、当該アルミニウム基合金材料において上述した範囲と同じとすることができる。
【0052】
当該スパッタリングターゲットにおけるターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて適宜設定することができる。例えば上記ターゲットの形状としては、角型プレート状、円形プレート状、円筒プレート状等が挙げられる。また、当該スパッタリングターゲットは、当該アルミニウム基合金材料と同一組成のアルミニウム合金ターゲットであってもよく、純アルミニウムターゲット上またはアルミニウム合金ターゲット上に、他の合金元素の純金属が配置された複合ターゲットであってもよい。
【0053】
当該スパッタリングターゲットの作製には、真空溶解法や粉末焼結法等を用いることができる。中でも、ターゲット面内の組成や組織の均一性を向上する観点から、真空溶解法が好ましい。
【0054】
スパッタリング法における基板温度の下限としては、基板上の水分やガスの吸着抑制の観点から、25℃が好ましい。一方、上記温度の上限としては、アルミニウム基合金材料およびアルミニウム基合金配線の表面の平滑性を確保する観点から、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。
【0055】
(スパッタリングターゲット材料)
当該スパッタリングターゲットは、アルミニウム基合金からなる中間体(プリフォーム)の加工や、純アルミニウムターゲット上またはアルミニウム合金ターゲット上に、他の合金元素の純金属からなる金属チップを配置することで形成することができる。上記中間体や、上記純アルミニウムターゲットまたは上記アルミニウム合金ターゲットと上記金属チップとの組み合わせなどは、当該スパッタリングターゲットを形成するためのスパッタリングターゲット材料として構成される。当該スパッタリングターゲット材料は、本開示の一態様である。当該スパッタリングターゲット材料を用いることで、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れる上述のアルミニウム基合金材料およびアルミニウム基合金配線を形成することができる。
【0056】
当該スパッタリングターゲット材料は、Alと、GeおよびNdとを含む。当該スパッタリングターゲット材料に含まれる元素は、上述のスパッタリングターゲットを構成する元素と同じである。当該スパッタリングターゲット材料における各元素の含有量は、上述のスパッタリングターゲットにおける含有量と同じであってもよい。この場合、各元素の含有量の好ましい範囲は、当該アルミニウム基合金材料において上述した範囲と同じとすることができる。
【0057】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。したがって、上記実施形態は、本明細書の記載および技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換または追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【実施例0058】
以下、実施例に基づき本開示を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるものではない。
【0059】
<サンプルの作製>
ガラス基板(コーニング社製の「eagleXG」)上に表1の組成を有する膜厚250nmのアルミニウム基合金層をDCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。表1における各元素の含有量[at%]は、成膜で同時放電して使用したターゲット組成とそれぞれのターゲットの成膜レートから換算して求めた。ターゲットの組成はXRF(蛍光X線分析法)によって求めた。DCマグネトロンスパッタリング法によるスパッタリング条件は以下のとおりである。
雰囲気ガス:アルゴンガス
成膜圧力:0.26Pa
基板温度:室温(加熱なし)
成膜パワー:3W/cm2-12W/cm2
ターゲット:直径4インチの合金ターゲットまたは複合ターゲット
【0060】
【表1】
なお、表1の含有量において、「-」は含有していないことを示す。また、表1において、Ge、Nd、Ta、Nb以外は、Alおよび不可避的不純物である。
【0061】
(電気抵抗率試験)
No.1からNo.13のサンプルについて、赤外ランプ熱処理炉を用い、窒素雰囲気下において450℃で1時間熱処理を行ったのち、4探針法によって電気抵抗率[μΩcm]を求めた。この測定結果を表2に示す。
【0062】
(耐熱性試験)
No.1およびNo.3からNo.13のサンプルについて、赤外ランプ熱処理炉を用い、窒素雰囲気下において450℃で1時間熱処理を行ったのち、サンプルの表面を光学顕微鏡で1000倍の倍率で視認し、以下の基準で耐熱性を評価した。また、No.2については、熱処理温度を500℃とした以外は、上記と同様にして熱処理を行ったのち、サンプルの表面を光学顕微鏡で1000倍の倍率で視認し、以下の基準で耐熱性を評価した。この結果を表2に示す。また、上記熱処理後におけるNo.1のX線回折スペクトルの解析結果を
図2に、上記熱処理後におけるNo.9のX線回折スペクトルの解析結果を
図3に、上記処理後におけるNo.3のX線回折スペクトルの解析結果を
図4に示す。さらに、No.1、No.2、No.3、No.8、No.9およびNo.12について、X線回折スペクトルによる上記熱処理後における結晶相の解析結果を表2に示す。
A:黒点や白点が視認されない。
B:黒点や白点が視認される。
【0063】
(総合評価)
上述の電気抵抗率試験および耐熱性試験に基づいて、以下の基準で総合評価した。この結果を表2に示す。
A:電気抵抗率が6μΩcm以下、かつ耐熱性がA評価である。
B:電気抵抗率が6μΩcm以下および耐熱性がA評価のうち、少なくとも一方を満たしていない。
【0064】
【表2】
なお、表2において、「-」は解析していないことを示す。
【0065】
<評価結果>
表1および表2に示すように、Ge:0.6at%以上2.0at%以下、希土類元素:0.3at%以上1.0at%以下を含み、NdAlGeまたはNdAl2Ge2を含むNo.1からNo.3は、電気抵抗率および耐熱性がいずれも優れている。また、No.4からNo.6については、結晶相を解析していないが、解析するとNdAl2Ge2を含んでいる蓋然性が高いと考えられる。さらに、表2に示すように、No.1、No.3からNo.6は450℃で1時間の熱処理後、No.2は500℃で1時間の熱処理後において、光学顕微鏡で1000倍の倍率で視認した際に、黒点や白点が視認されていない。このことは、No.1からNo.6は、視認可能な突起物が表面に存在していないことを意味しており、直径1μm以上の突起物が存在しないと推測できる。そのため、No.1からNo.6は、熱処理後における表面平滑性に優れている。
以上説明したように、本開示の一態様に係るアルミニウム基合金材料は、耐熱性と低電気抵抗率とを両立できるとともに、表面平滑性に優れるので、表示デバイス用の配線に用いられるのに適している。