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特開2024-137706ポリエステル系エラストマー組成物、成形体及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137706
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ポリエステル系エラストマー組成物、成形体及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240927BHJP
   C08L 25/08 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L25/08
C08L53/02
B32B27/36
B32B25/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005478
(22)【出願日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2023045581
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】小座間 洋子
(72)【発明者】
【氏名】山岸 美結
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真由
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK12
4F100AK12A
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AL09
4F100AL09A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA03
4F100CA03A
4F100GB31
4F100GB41
4F100GB71
4F100JA07
4F100JA07A
4F100JK12
4F100JK12B
4J002AE05Y
4J002BP01X
4J002CF09W
4J002FD010
4J002FD02Y
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】極性を有する硬質樹脂との熱融着性に優れると共に、軟質な触感を有し、ゴム弾性に優れ、軽量化を図ることができ、更に成形時の発煙性の低いポリエステル系エラストマー組成物およびその成形体と積層体を提供する。
【解決手段】下記成分(A)、(B)および(C)を含有するポリエステル系エラストマー組成物。このポリエステル系エラストマー組成物からなる成形体。このポリエステル系エラストマー組成物からなる層と極性を有する硬質樹脂からなる層とを有する積層体。
成分(A):ポリエステル系エラストマー
成分(B):スチレン系エラストマー
成分(C):ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量(Mw)が800~1,200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.10未満であるゴム用軟化剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)および(C)を含有するポリエステル系エラストマー組成物。
成分(A):ポリエステル系エラストマー
成分(B):スチレン系エラストマー
成分(C):ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量(Mw)が800~1,200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.10未満であるゴム用軟化剤
【請求項2】
前記成分(C)のゴム用軟化剤がイソアルカン混合物である、請求項1に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(A)の含有量を100質量部とした場合に、成分(B)および成分(C)の含有量がそれぞれ100質量部未満である、請求項1又は2に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(A)がハードセグメントとソフトセグメントを有し、該ソフトセグメントがポリアルキレングリコールである、請求項1又は2に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(A)におけるソフトセグメントの含有率が10質量%以上95質量%以下である、請求項4に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項6】
前記ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレングリコールである、請求項4に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項7】
ISO7619-1によるデュロA硬度が40以上90以下である、請求項1又は2に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項8】
前記成分(C)がバイオマス材料由来である、請求項1又は2に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【請求項9】
ASTM D6866-22に準拠するバイオマス度が1%以上100%以下である、請求項8に記載のポリエステル系エラストマー組成物
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリエステル系エラストマー組成物からなる成形体。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のポリエステル系エラストマー組成物からなる層と極性を有する硬質樹脂からなる層とを有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系エラストマー組成物に関する。詳細には、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂に対する熱融着性に優れ、射出・押出成形時の発煙が少なく、ゴム弾性(圧縮永久歪)に優れると共に軟質な質感を有し、軽量化を図ることができるポリエステル系エラストマー組成物と、このポリエステル系エラストマー組成物を用いた成形体および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系エラストマーは、強度、耐衝撃性、ゴム弾性、柔軟性、耐油性、耐摩耗性などの機械的性質や、低温・高温特性に優れ、加えてポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)などの硬質樹脂に対して熱融着成形が可能であることから、自動車、電気・電子部品、各種消費材などの分野に広く使用されている。
【0003】
近年、ポリエステル系エラストマーをゴム質重合体と可塑剤で柔軟化したものが、その柔らかな触感、ゴム弾性、低密度、耐油性、耐摩耗性から、カメラ、電動工具、自転車等のグリップ又はパッキン等へ適用することが検討され、実用化されている。
【0004】
特許文献1には、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、炭化水素系ゴム用軟化剤からなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、耐油性、ゴム弾性(圧縮永久歪)、耐熱性に優れ、柔軟性、機械強度、耐衝撃性が良好で、かつ射出成形する場合にもデラミ等の不具合がなく、射出成形外観に優れるとされている。
【0005】
特許文献2には、熱可塑性スチレン系エラストマー、軟化剤、及び熱可塑性ポリエステル系エラストマーを含有してなる、柔軟性と極性樹脂への融着性に優れ、表面のベタツキが抑制され、耐摩耗性にも優れた成形体を提供し得る熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-7878号公報
【特許文献2】特開2019-218561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、射出成形体のデラミ抑制など成形外観に関しての記載はあるものの、成形時の発煙性については言及がなされていない。
特許文献2には、極性樹脂への融着性に関する記載はあるものの、ゴム弾性、軽量化および成形時の発煙性については言及されていない。
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、極性を有する硬質樹脂との熱融着性に優れると共に、軟質な触感を有し、ゴム弾性に優れ、軽量化を図ることができ、更に成形時の発煙性の低いポリエステル系エラストマー組成物およびその成形体と積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリエステル系エラストマーとスチレン系エラストマーに、特定のゴム用軟化剤を配合することで、極性を有する硬質樹脂との熱融着性に優れると共に、柔軟性、ゴム弾性(圧縮永久歪)に優れ、軽量化を図れると共に、更に成形時に発煙性の低いポリエステル系エラストマー組成物を得ることができることを知見した。
即ち、本発明の要旨は以下に存する。
【0010】
[1] 下記成分(A)、(B)および(C)を含有するポリエステル系エラストマー組成物。
成分(A):ポリエステル系エラストマー
成分(B):スチレン系エラストマー
成分(C):ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量(Mw)が800~1,200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.10未満であるゴム用軟化剤
【0011】
[2] 前記成分(C)のゴム用軟化剤がイソアルカン混合物である、[1]に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0012】
[3] 前記成分(A)の含有量を100質量部とした場合に、成分(B)および成分(C)の含有量がそれぞれ100質量部未満である、[1]又は[2]に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0013】
[4] 前記成分(A)がハードセグメントとソフトセグメントを有し、該ソフトセグメントがポリアルキレングリコールである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0014】
[5] 前記成分(A)におけるソフトセグメントの含有率が10質量%以上95質量%以下である、[4]に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0015】
[6] 前記ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレングリコールである、[4]又は[5]に記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0016】
[7] ISO7619-1によるデュロA硬度が40以上90以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0017】
[8] 前記成分(C)がバイオマス材料由来である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系エラストマー組成物。
【0018】
[9] ASTM D6866-22に準拠するバイオマス度が1%以上100%以下である、[8]に記載のポリエステル系エラストマー組成物
【0019】
[10] [1]~[9]のいずれかに記載のポリエステル系エラストマー組成物からなる成形体。
【0020】
[11] [1]~[9]のいずれかに記載のポリエステル系エラストマー組成物からなる層と極性を有する硬質樹脂からなる層とを有する積層体。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、極性を有する硬質樹脂に対して高い熱融着性を有すると共に、軟質な触感を有し、柔軟性、ゴム弾性に優れ、軽量化を図ることができ、更に成形時の発煙性の低いポリエステル系エラストマー組成物と、このポリエステル系エラストマー組成物を用いた成形体及び積層体が提供される。
このような優れた特性から、本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、カメラ、電動工具、自転車、文房具等のグリップ又はパッキン等の用途に好適に使用できることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0023】
[ポリエステル系エラストマー組成物]
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、成分(A):ポリエステル系エラストマー、成分(B):スチレン系エラストマー、成分(C):特定のゴム用軟化剤を含むことを特徴とする。
【0024】
[メカニズム]
本発明のポリエステル系エラストマー組成物によれば、極性を有する硬質樹脂に対して高い熱融着性を有すると共に、軟質な触感を有し、柔軟性、ゴム弾性に優れ、軽量化を図ることができ、更に成形時の発煙性の低い成形体を得ることができる。本発明のポリエステル系エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、以下のように推察される。
【0025】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、成分(C)として、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量(Mw)が800~1,200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.10未満であるゴム用軟化剤を含有することで、該ゴム用軟化剤の分子量分布がシャープであり、低分子成分が少ないことから、極性を有する硬質樹脂に対して高い熱融着性および成形時の発煙性の低い成形体を得ることができると推察される。
低分子成分が少ないことは、すなわちGPC測定において低分子側で検出される最低分子量が大きいことを意味し、極性を有する硬質樹脂に対して高い熱融着性と成形時の低発煙性を発現させるものと推察される。
更に、成分(C)のゴム用軟化剤が、イソアルカン混合物の場合、成分(A)及び成分(B)のエラストマーと成分(C)のイソアルカンとの絡み合いにより、エラストマーとイソアルカンの親和性が上がると推測される。そのため、成分(A)及び成分(B)のエラストマーの可塑化が促進され、極性を有する硬質樹脂に対して高い熱融着性、軟質な触感、柔軟性、ゴム弾性を有すると共に、成形時の発煙性の低い成形体を得ることができると推測される。
また、成分(C)のイソアルカン混合物は、アルカン類なので、比重が軽く、ポリエステル系エラストマー組成物の軽量化も可能となる。
【0026】
[成分(A)]
成分(A)のポリエステル系エラストマーは、通常、結晶性を有するハードセグメントと、柔軟性を有するソフトセグメントとを有するブロック共重合体である。
【0027】
(1.ハードセグメント)
前記ハードセグメントとしては、環状ポリエスエルからなるハードセグメント(以下、「環状ポリエステルユニット」と称することがある。)等を挙げることができる。なお、本発明において「環状ポリエステル」とは、原料であるジカルボン酸又はそのアルキルエステルが主鎖又は側鎖に環状構造を有するジカルボン酸又はそのアルキルエステルを含むものを意味する。
【0028】
前記環状ポリエステルユニットの例としては、芳香族ポリエステルからなるハードセグメント(以下、「芳香族ポリエステルユニット」と称する場合がある。)、脂環族ポリエステルからなるハードセグメント(以下、「脂環族ポリエステルユニット」と称することがある。)等が挙げられる。
【0029】
(1.1 芳香族ポリエステルユニット)
前記芳香族ポリエステルユニットとしては、芳香族ジカルボン酸と、脂環族ジオールやポリアルキレングリコールを原料として得られる芳香族ポリエステルを挙げることができる。
【0030】
芳香族ポリエステルユニットに用いられる芳香族ジカルボン酸の原料としては、芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを挙げることができる。この芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとしては、テレフタル酸及びその低級(本明細書において「低級」は炭素数4以下を意味する。)アルキルエステル、並びにイソフタル酸、フタル酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸及びそれらの低級アルキルエステル等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中では、テレフタル酸及びイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0031】
前記脂環族ジオールやポリアルキレングリコールとしては、1,4-シクロヘキセングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。これらの脂環族ジオールやポリアルキレングリコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
これらの中でも、前記芳香族ポリエステルユニットとしては、ポリブチレンテレフタレートを含むことが好ましい。
【0033】
(1.2 脂環族ポリエステルユニット)
前記脂環族ポリエステルユニットとしては、脂環族ジカルボン酸と、脂環族ジオール及びポリアルキレングリコールを原料として得られる脂環族ポリエステルを挙げることができる。なお、本明細書において「脂環族ジカルボン酸」とは環状脂肪族炭化水素に2つのカルボキシル基が直接結合した化合物を意味する。
【0034】
前記脂環族ポリエステルユニットに用いられる脂環族ジカルボン酸の原料としては、脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを挙げることができる。この脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとしては、ポリエステルの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸及びその低級アルキルエステル、シクロペンタンジカルボン酸及びその低級アルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、シクロヘキサンジカルボン酸及びその低級アルキルエステルが好ましく、特にシクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。これらの脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記脂環族ジオールとしては、1,4-シクロヘキセングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。これらの脂環族ジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
これらの中でも、前記脂環族ポリエステルユニットとしては、シクロヘキサンジカルボン酸と1,4-シクロヘキサンジメタノールを原料として得られる脂環族ポリエステルユニットを含むことが好ましい。
【0037】
(2.ソフトセグメント)
前記ソフトセグメントとしては、ポリアルキレングリコールからなるソフトセグメント(以下、「ポリアルキレングリコールユニット」と称することがある。)、鎖状脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメント(以下、「鎖状脂肪族ポリエステルユニット」と称することがある。)等を挙げることができる。なお、本発明において「鎖状脂肪族ポリエステル」とは、原料であるジカルボン酸又はそのアルキルエステルが鎖状構造のみを有するジカルボン酸又はそのアルキルエステルであるものを意味する。
【0038】
(2.1 ポリアルキレングリコールユニット)
ポリアルキレンエーテルグリコールユニットは、柔軟性を有するソフトセグメントとして好ましく用いられる。このポリアルキレンエーテルグリコールユニットを構成するポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリテトラメチレングリコール、及びポリヘキサメチレングリコール等、並びにこれらの直鎖状及び分岐状の脂肪族エーテルの他、シクロヘキサンジオールの縮合体及びシクロヘキサンジメタノールの縮合体等の脂環状エーテルの単一重合体又は共重合体が挙げられる。
また、これらのエーテルユニット内でのランダム共重合体でもよい。また、ポリアルキレングリコールユニットを有するブロック共重合体も用いることができる。また、これらエーテルユニット内でのランダム共重合体でもよい。
これらの中でも好ましいのはポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びポリヘキサメチレングリコール等の直鎖状及び分岐状の脂肪族エーテルグリコールであり、より好ましいのはポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコールであり、特に好ましいのはポリテトラメチレングリコールである。
【0039】
このポリアルキレングリコールユニットは、例えば、ポリエステル系エラストマーが環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体の場合、この環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体に1種のみが含まれていてもよく、数平均分子量又は構成成分が異なるものが2種以上含まれていてもよい。
【0040】
このポリアルキレングリコールユニットは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等のポリテトラメチレングリコールを原料とするソフトセグメント(以下、「ポリテトラメチレングリコールユニット」と称することがある。)を含むことが好ましい。
【0041】
(2.2 鎖状脂肪族ポリエステルユニット)
鎖状脂肪族ポリエステルユニットを構成する鎖状脂肪族ポリエステルとしては、セバシン酸及びアジピン酸に代表される炭素数4~10の鎖状脂肪族ジカルボン酸と鎖状脂肪族ジオールとから得られるポリエステルを挙げることができる。
【0042】
前記鎖状脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール及び1,6-ヘキセングリコール等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。鎖状脂肪族ジオールとしては、中でも1,4-ブチレングリコールが好ましい。
【0043】
(3.ブロック共重合体)
上記のハードセグメントとソフトセグメントとの組み合わせ、すなわち、前記ポリエステル系エラストマーの例としては、環状ポリエステルユニットとポリアルキレングリコールユニットとを有するブロック共重合体(以下、「環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体」と称することがある。)、環状ポリエステルユニットと鎖状脂肪族ポリエステルユニットとを有するブロック共重合体(以下、「環状ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体」と称することがある。)等を挙げることができる。これらの中でも好ましいのは、入手しやすいという点で、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体である。
【0044】
(3.1 環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体)
前記環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体の例としては、芳香族ポリエステルユニットとポリアルキレングリコールユニットを有する共重合体(以下、「芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体」と称することがある。)、脂環族ポリエステルユニットとポリアルキレングリコールユニットとを有するブロック共重合体(以下、「脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体」と称することがある。)等が挙げられる。これらの中でも耐熱性の点で、芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体が好ましい。
【0045】
また、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体に含まれるポリアルキレングリコールユニットの数平均分子量は600~4,000であることが好ましく、800~2,500であることがより好ましく、900~2,100であることが更に好ましい。なお、ここでポリアルキレングリコールユニットの数平均分子量とは、GPCで測定されたポリスチレン換算した値を言う。
【0046】
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体中の環状ポリエスエルユニット及びポリアルキレングリコールユニットのそれぞれの含有量は限定されないが、ハードセグメントの結晶性とソフトセグメントの柔軟性のバランスから、通常以下のような範囲となる。
【0047】
即ち、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体中の環状ポリエステルユニットの含有量の下限値は、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上である。また、環状ポリエステルユニットの含有量の上限値は、通常95質量%以下、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0048】
また、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体中のポリアルキレングリコールユニットの含有量の下限値は、通常5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。また、ポリアルキレングリコールユニットの含有量の上限値は、通常90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
【0049】
なお、環状ポリエステルユニットを有するブロック共重合体中の環状ポリエステルユニットの含有量は、核磁気共鳴スペクトル法(以下、NMRと略記する場合がある)を使用し、その水素原子の化学シフトとその含有量に基づいて算出することができる。同様に、ポリアルキレングリコールユニットを有するブロック共重合体中のポリアルキレングリコールユニットの含有量は、NMRを使用し、その水素原子の化学シフト及びその含有量に基づいて算出することができる。
【0050】
上記の環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体は、市販品としても入手することができる。このような市販品としては例えば、「KEYFLEX(登録商標)」(LG化学(株)製)、「テファブロック(登録商標)」(三菱ケミカル(株)製)、「ペルプレン(登録商標)」(東洋紡(株)製)、「ハイトレル(登録商標)」(東レ・セラニーズ(株)製)及び「ヘトロフレックス(登録商標)」(ヘトロン社製)等が挙げられる。
【0051】
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体等のポリエステル系熱可塑性エラストマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
(3.1.1 芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体)
前記芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体は、特開平10-130451号公報等に記載されているように公知の熱可塑性エラストマーであり、ポリアルキレングリコールユニットを含有する重合体であれば、各々のブロックは単一重合体であっても共重合体であってもよい。
【0053】
芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体としては、特に結晶化速度が速く、成形性に優れることから、ポリブチレンテレフタレート-ポリアルキレングリコールブロック共重合体が好ましく、ここで、ポリアルキレングリコールユニットのアルキレン基の炭素数は、2~12が好ましく、2~8がより好ましく、2~5が更に好ましく、4が特に好ましい。
【0054】
尚、本発明に係る芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体に代表される、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体には、上記成分以外に3官能のアルコールやトリカルボン酸及び/又はそのエステルの1種又は2種以上を少量共重合させてもよく、更に、アジピン酸等の鎖状脂肪族ジカルボン酸又はそのジアルキルエステルを共重合成分として導入してもよい。
【0055】
(3.1.2 脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体)
脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体としては、例えば、脂環族ポリエステルユニットとして、前記脂環族ジカルボン酸と、脂環族ジオール及びポリアルキレングリコールを用いた脂環族ポリエステルと、ポリアルキレングリコールユニットとからなるブロック共重合体が代表的なものとして挙げられる。なお、本発明に係るポリエステル系エラストマーにおいて、ポリアルキレングリコールユニットを含有する場合、構成される各々のブロックは、単一重合体であっても共重合体であってもよい。
【0056】
(3.2 環状ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体)
環状ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体としては、例えば、芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと鎖状脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントを有するブロック共重合体(以下、「芳香族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体」と称することがある。)、及び脂環族ポリエステルからなるハードセグメントと鎖状脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントを有するブロック共重合体(以下、「脂環族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体」と称することがある。)が挙げられる。これらの中でも芳香族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体が好ましい。前記芳香族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体としては、芳香族ポリエステルユニットがポリブチレンテレフタレートからなる、ポリブチレンテレフタレート-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体がより好ましい。
【0057】
(3.3 好ましいポリエステル系エラストマー)
本発明に用いるポリエステル系エラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレート-ポリアルキレングリコールブロック共重合体が好ましく、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体が特に好ましい。
【0058】
(4. ポリエステル系エラストマーの製造方法)
ポリエステル系エラストマーの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体のうち、芳香族ポリエステルとポリアルキレンエーテルグリコールを用いた芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体であれば、炭素数2~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、ポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを縮合させて得ることができる。
【0059】
前記の炭素数2~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料として通常用いられるものを使用することができる。鎖状脂肪族ジオールや脂環族ジオールの例としては、前記の化合物を用いることができる。これらの炭素数2~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物を用いてもよい。前記の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとしては、ポリエステルの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えば、前記の化合物を使用することができる。これらの芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルについても1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記のポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、前記の化合物を使用することができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
また、脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体を製造する場合には、上記の芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体を製造する場合の原料として用いる芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルに代えて脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを用いればよい。すなわち、脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体は、炭素数2~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、ポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させて得ることができる。
【0061】
(5. ポリエステル系エラストマーのメルトフローレート)
本発明で用いる成分(A)のポリエステル系エラストマーのメルトフローレート(MFR)は、ISO 1133に準拠して230℃、荷重2.16kgfの条件で測定した値で、1~50g/10分が好ましく、10~30g/10分がより好ましい。成分(A)のポリエステル系エラストマーのMFRが上記範囲であると、溶融混練した際に原料を均一に混ぜやすい傾向があり、性能のばらつきを抑制することができる。
【0062】
成分(A)のポリエステル系エラストマーは、1種のみを用いてもよく、ハードセグメントやソフトセグメントの種類や組成、物性等の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
成分(A)のポリエステル系エラストマーは、原料の少なくとも一部に植物由来原料を用いたバイオポリエステル系エラストマーを用いてもよい。
【0063】
<成分(B)>
本発明のポリエステル系エラストマー組成物に含まれる成分(B):スチレン系エラストマーとしては、耐熱性および柔軟性の点から、以下の式(1)および/又は式(2)で表されるスチレン(スチレンの誘導体であってもよい。)と共役ジエンブロックとの共重合体の水素添加物が好ましい。
【0064】
S-(D-S)m …(1)
(S-D)n …(2)
(式中、Sはスチレン単位からなる重合体ブロックを表し、Dは共役ジエン単位からなる重合体ブロックを表し、mおよびnは1~5の整数を表す。)
【0065】
上述のブロック共重合体は、直鎖状、分岐状および/又は放射状の何れでもよい。
【0066】
Sの重合体ブロックを構成する単量体としては、スチレン又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が挙げられる。
Dの重合体ブロックを構成する共役ジエン単量体としては、ブタジエンおよび/又はイソプレンが好ましい。
【0067】
mおよびnは、秩序-無秩序転移温度を下げるという意味では大きい方がよいが、製造しやすさおよびコストの点では小さい方がよい。ゴム弾性に優れることから、スチレン・共役ジエンブロック共重合体の水素添加物としては式(2)で表されるブロック共重合体よりも式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が更に好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が特に好ましい。
【0068】
また、式(1)および/又は式(2)で表されるブロック共重合体中の「Sの重合体ブロック」の割合は、得られるポリエステル系エラストマー組成物の機械的強度および熱融着強度の点から多い方が好ましく、一方、柔軟性、成形性、ブリードアウトのし難さの点から少ない方が好ましい。式(1)および/又は式(2)で表されるブロック共重合体中の「Sの重合体ブロック」の割合は、具体的には、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
【0069】
本発明で用いるスチレン系エラストマーの重量平均分子量は、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、成形外観および流動性の点では小さい方が好ましい。具体的には、スチレン系エラストマーの重量平均分子量は、1万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、一方、45万以下であることが好ましく、40万以下であることがより好ましく、25万以下であることが特に好ましい。ここで、重量平均分子量は、GPCにより、以下の条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0070】
(測定条件)
機器:日本ミリポア社製「150C ALC/GPC」
カラム:昭和電工社製「AD80M/S」3本
検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」測定
波長:3.42μm
温度:140℃
流速:1cm/分
注入量:200マイクロリットル
濃度:2mg/cm
酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%添加
【0071】
また、スチレン系エラストマーのスチレン重合体ブロックの含有量は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度の点から多い方が好ましく、一方、柔軟性、射出成形性、ブリードアウトのしにくさの点から少ない方が好ましい。スチレン重合体ブロックの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、一方、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0072】
上述のスチレン系エラストマーの製造方法としては、上述の構造と物性が得られればどのような方法でも良く、公知の製造方法を用いることができる。
【0073】
このようなスチレン系エラストマーとしては、市販品を用いることもできる。市販品としては、具体的には、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、(株)クラレ製「セプトン(登録商標)」「セプトン(登録商標)バイオ」、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)」、「S.O.E(登録商標)」、TSRC社製「TAIPOL(登録商標)」、LCY社製「GLOBALPRENE」が挙げられる。
【0074】
成分(B)のスチレン系エラストマーは1種を単独で用いてもよく、ブロック構造や共役ジエンの種類、物性などが異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0075】
<成分(C)>
本発明のポリエステル系エラストマー組成物に含まれる成分(C):ゴム用軟化剤は、本発明のポリエステル系エラストマー組成物におけるポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の硬質樹脂に対する熱融着性を向上させ、柔軟性、ゴム弾性に優れ、成形時の発煙性を低減させることに対して有効である。
【0076】
成分(C):ゴム用軟化剤は、GPC測定において、重量平均分子量(Mw)が800~1,200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.10未満であることを特徴とする。このような成分(C):ゴム用軟化剤を含むことで、本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の硬質樹脂に対して熱融着性に優れ、柔軟性およびゴム弾性を有し、成形時の低発煙性能が発現される。このような観点から、成分(C):ゴム用軟化剤は、GPC測定において、重量平均分子量(Mw)が1000~1200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.07以下であることが好ましい。なお、分散度(PDI)の下限は1.00である。
また、本発明で用いる成分(C):ゴム用軟化剤は、上記分散度(PDI)を満たす観点から、GPC測定において検出される最低分子量が200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。
【0077】
ここで、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)はGPCにより、以下の条件で測定したポリスチレン換算の値である。
【0078】
(測定条件)
機器:日本ミリポア社製「TosohHLC-8220/GPC」
カラム:昭和電工社製「PL3μmMixed-E(7.8mmI.D.×30cmL)」2本
検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「RI(内蔵)」測定
カラム温度:40℃
流速:0.7cm/分
注入量:100マイクロリットル
【0079】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、成分(C)として、イソアルカン混合物を含むことが好ましい。
イソアルカンは、末端にイソメチル基を有するアルカンを意味し、二重結合や環状の置換基を含まない。
「イソアルカン混合物」とは、イソアルカンとイソアルカン構造を有さない炭化水素との混合物を意味する。
本発明に係る「イソアルカン」は、末端にイソメチル基を有するアルカンであればよく、末端イソメチル基以外に側鎖の存在しないイソアルカンであっても、アルカンの主鎖に末端イソメチル基以外の側鎖としてのアルキル基(本発明においては、このアルキル基を「側鎖アルキル基」と称す。)を有するものであってもよい。前述の通り、成分(A)及び成分(B)のエラストマーとイソアルカンの絡み合い効果の観点から、側鎖アルキル基を有するイソアルカンが好ましい。
イソアルカンは、一般的にイソアルカン混合物として市販されているものが多いため、本発明においては、「イソアルカン混合物」と称すが、成分(C)はイソアルカンの単一物質であってもよい。
【0080】
成分(C):ゴム用軟化剤としてのイソアルカン混合物が有する側鎖アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。これらの中でも炭素数1~18のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
【0081】
成分(C):ゴム用軟化剤としてのイソアルカン混合物の側鎖アルキル基とは、最も長い直鎖状のアルキル鎖を主鎖とし、この主鎖から分岐するアルキル鎖であり、1分子中に側鎖アルキル基は1つに限らず、2つ以上であってもよい。イソアルカンが有する側鎖アルキル基の数は、2~16が好ましく、4~12がより好ましく、4~8が更に好ましい。
【0082】
成分(C):ゴム用軟化剤としてのイソアルカン混合物は、分子中に1~80%の含有率で側鎖アルキル基を有することが好ましく、側鎖アルキル基の含有率は5~70%であることがより好ましく、10~60%であることが更に好ましく、15~50%であることが特に好ましい。側鎖アルキル基の含有率は、耐ブリードアウト性、ゴム弾性の観点では大きい方が好ましく、成形性の観点では、小さい方が好ましい。
ここで、側鎖アルキル基の含有率とは、イソアルカン全体の分子量に対する側鎖アルキル基の分子量(複数の側鎖アルキル基を有する場合はその合計の分子量)の割合(百分率)である。
【0083】
成分(C):ゴム用軟化剤としてのイソアルカン混合物は、以下に示す測定条件でのガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)測定において、250℃、10分間の熱抽出条件で測定される加熱ガス発生量のうち、標準試料として分子量が既知のn-アルカン混合標準溶液(炭素数16~34)を用いた保持時間の比較おいて、炭素数26以下に相当する加熱ガスの発生量がn-エイコサン換算で500ppm以下である。なお、炭素数26以下の成分量は、標準試薬として分子量が既知のn-エイコサンを用いて、GC/MS測定のピーク面積の比較において、その発生量を算出して求められる。
一方で、一般的な炭化水素系オイルは、同測定で炭素数26以下に相当する加熱ガスの発生量が2,000ppm以上であり、イソアルカン混合物は、一般的な炭化水素系オイルに比べて、加熱時に発生する低分子成分が明らかに少ないことが分かる。
【0084】
(測定条件)
熱抽出装置:ゲステル社製「TDU2」
機器:アジレント・テクノロジー社製「Agilent7890GC/Agilent5977AMSD」
カラム:アジレント・テクノロジー社製「DB-5MSUI30mL×250μm×0.25μm」
サンプル量:0.1mg
熱抽出温度:250℃×10分
GCオーブン温度:40℃・5分→10℃/分→300℃(20分)
キャリアガス:ヘリウム
ガス流量:1.0mL/分
【0085】
イソアルカン混合物等の成分(C)のゴム用軟化剤は、40℃における動粘度が20cSt以上8,000cSt以下が好ましく、耐ブリードアウト性及びゴム弾性の観点から20cSt以上であることが好ましく、25cSt以上であることがより好ましい。一方、加工性及び成形性の観点から8000cSt以下であることが好ましく、3000cSt以下であることがより好ましく、1000cSt以下であることが更に好ましい。
ここで、動粘度は、JIS K2283に準拠した方法によって測定した40℃における動粘度である。
【0086】
イソアルカン混合物等の成分(C)のゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、加工時の安全性の観点から、成分(A)及び成分(B)のエラストマーの加工温度以上であることが好ましく、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更に好ましく、250℃以上であることが特に好ましい。
【0087】
イソアルカン混合物等の成分(C)のゴム用軟化剤の流動点(ASTM D97で測定される)は、低いほど分子運動性が高く、耐ブリードアウト性が劣るため、-60℃以上であることが好ましく、-50℃以上であることがより好ましく、-40℃以上であることが更に好ましい。一方で、加工時のハンドリング性の観点から、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましく、-20℃以下であることが更に好ましく、-25℃以下であることが特に好ましい。
【0088】
イソアルカン混合物等の成分(C)のゴム用軟化剤は、環分析によるナフテン炭素の割合(%CN)は通常20%以下であり、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、更に好ましくは5%以下である。また、環分析による芳香族炭素の割合(%CA)が5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
ここで、上記環分析は具体的にはASTM D2140またはASTM D3238に規定されるn-d-M法により実施することができる。
ナフテン炭素の割合及び芳香族炭素の割合を上記範囲とすることで、耐熱及び耐光変色に優れたものとなる。
【0089】
イソアルカン混合物等の成分(C)のゴム用軟化剤は、バイオマス材料由来或いはバイオマス由来のものを含んでもよい。
成分(C)のバイオマス度は14C含有量をもとにASTM D6866-22により算出される。環境負荷低減の観点から、成分(C)のバイオマス度は1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましく、30%以上が特に好ましい。成分(C)のバイオマス度の上限は特に限定されず、100%以下である。
【0090】
成分(C)として用いるイソアルカン混合物は市販品を用いることもできる。イソアルカン混合物の市販品としては、例えば、H&R社製「VIVA-B-FIX」シリーズが挙げられ、これらの中から適宜選択して使用することができる。
【0091】
成分(C):ゴム用軟化剤は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。また、上記の重量平均分子量(Mw)と分散度(PID)を満たさない一般的な炭化水素系ゴム用軟化剤と併用することもできる。
【0092】
一般的な炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられ、特に鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中でも、パラフィン系オイルが好ましい。
【0093】
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度(JIS K2283)は、20cSt以上であることが好ましく、50cSt以上であることがより好ましい。一方、800cSt以下であることが好ましく、600cSt以下であることがより好ましい。また、炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0094】
炭化水素系ゴム用軟化剤は市販のものを用いてもよい。市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から適宜選択して使用することができる。
【0095】
炭化水素系ゴム用軟化剤は1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0096】
<成分(A)~(C)の含有率>
本発明のポリエステル系エラストマー組成物の成分(A)の含有率は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。一方、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。ポリエステル系エラストマー組成物中の成分(A)の含有率が上記下限以上であれば、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の硬質樹脂に対しての熱融着性、耐衝撃性、耐油性、耐摩耗性、低温・高温特性に優れたものとなる。成分(A)の含有量が上記上限以下であると、成分(B)及び成分(C)の必要量を確保して柔軟性や軟質感、ゴム弾性および軽量化、成形時の低発煙性に優れたものとすることができる。
【0097】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物の成分(B)の含有率は、5質量%以上、特に20質量%以上で、50質量%以下、特に40質量%以下であることが好ましい。ポリエステル系エラストマー組成物中の成分(B)の含有率が上記下限以上であれば、成分(B)による柔軟性や軟質感、ゴム弾性に優れたものとなる。成分(B)の含有率が上記上限以下であると、成分(A)及び成分(C)の必要量を確保して、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の硬質樹脂に対しての熱融着性、耐衝撃性、耐油性、耐摩耗性、低温・高温特性および軽量化、成形時の低発煙性に優れたものとすることができる。
【0098】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物の成分(C)の含有率は、1質量%以上、特に10質量%以上で、50質量%以下、特に40質量%以下であることが好ましい。ポリエステル系エラストマー組成物中の成分(C)の含有率が上記下限以上であれば、成分(C)による柔軟性や軟質感、ゴム弾性および軽量化、成形時の低発煙性に優れたものとなる。成分(C)の含有量が上記上限以下であると、成分(A)及び成分(B)の必要量を確保して、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の硬質樹脂に対しての熱融着性、耐衝撃性、耐油性、耐摩耗性、低温・高温特性および柔軟性や軟質感、ゴム弾性に優れたものとすることができる。
【0099】
また、本発明のポリエステル系エラストマー組成物において、成分(B)及び成分(C)の含有量は、成分(A)の含有量100質量部に対して、それぞれ100質量部未満であることが好ましい。成分(B)と成分(C)の含有量が上記上限未満であれば、成分(A)によるポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の硬質樹脂に対する熱融着性の効果を十分に得ることができる。この観点から、成分(B)の含有量は、成分(A)の含有量100質量部に対して90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることが好ましい。一方で、成分(B)を含むことによる柔軟化等の効果を有効に得る上で、成分(B)の含有量は、成分(A)の100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることが更に好ましい。
同様の観点から、成分(C)の含有量は、成分(A)の含有量100質量部に対して90質量部以下であることがより好ましく、80質量部以下であることが好ましい。一方で、成分(C)を含むことによる柔軟性や軟質感の効果を有効に得る上で、成分(C)の含有量は、成分(A)の100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましい。
【0100】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物が、成分(C)と共に、前述の炭化水素系ゴム用軟化剤を含有する場合、炭化水素系ゴム用軟化剤の含有量は、軽量化及び成形時の低発煙性、良好な成形性の観点から、成分(A)100質量部に対し、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましい。また、成分(C)と炭化水素系ゴム用軟化剤との合計の含有量として、上記成分(C)の含有量範囲となるように用いることが好ましい。
【0101】
この場合において、成分(C)と炭化水素系ゴム用軟化剤との合計量に対する成分(C)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。成分(C)と炭化水素系ゴム用軟化剤との合計量に対する成分(C)の含有率が上記下限以上であれば、成分(C)を用いることによる前述の効果を有効に得ることができる。
【0102】
<その他の成分>
本発明のポリエステル系エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分、例えば、各種の添加剤、充填材等を適宜配合することができる。
【0103】
添加剤としては、酸化防止剤、酸性化合物およびその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、耐衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物等が挙げられる。これらは1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、金属粉、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等の無機充填材;澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等の有機充填材等が挙げられる。これらは1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物に充填材を配合する場合、その配合量は、通常全成分の50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0106】
<ポリエステル系エラストマー組成物の製造方法>
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、成分(A)~(C)と必要に応じて用いられるその他の添加剤や充填材等を公知の方法、例えば、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、タンブラーブレンダー等で機械的に混合した後、公知の方法で機械的に溶融混練することにより製造することができる。機械的溶融混練には、バンバリーミキサー、各種ニーダー、単軸又は二軸押出機等の一般的な溶融混練機を用いることができる。
【0107】
<ポリエステル系エラストマー組成物の物性>
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、その用途において、通常、射出成形等の成形性に優れることが求められるため、ISO 1133に従って、230℃、荷重2.16kgfで測定されたメルトフローレート(MFR)が30g/10分以下であることが好ましく、20g/10分以下であることがより好ましく、10g/10分以下であることが更に好ましい。MFRが上記上限を超えると射出成形時にバリが発生しやすくなり、外観が良好な成形体を得ることができないおそれがある。なお、本発明のポリエステル系エラストマー組成物のMFRの下限は、溶融混練による製造安定性の観点から通常1g/10分以上である。
【0108】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、その用途において、柔らかな触感が求められるため、ISO7619-1によるデュロA硬度が90以下であることが好ましく、80以下であることがより好ましい。一方、実用的な材料強度の観点から、30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。
【0109】
なお、上記のMFR、デュロA硬度の評価方法については実施例の項に具体的に記載する。
【0110】
[ポリエステル系エラストマー組成物の成形体]
本発明の成形体は、本発明のポリエステル系エラストマー組成物を用いて成形されたものである。
【0111】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形などの様々な成形方法で成形することが可能であり、射出成形とブロー成形を合わせたインジェクションブロー成形などの複数の成形加工技術を合わせた成形方法にも適用することができる。
【0112】
本発明のポリエステル系エラストマー組成物により製造された成形体は、軟質な質感を有し、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂および植物由来原料からなるバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂に対して熱融着性に優れたものとなる。このため、文房具;玩具;スポーツ用品;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;建装材等の部材等の各種用途に好適に用いることができる。特に以下に説明する本発明のポリエステル系エラストマー組成物からなる層と、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂からなる層とを含む本発明の積層体に好適に用いることができる。
【0113】
[積層体]
本発明の積層体は、本発明のポリエステル系エラストマー組成物からなる層と、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂からなる層とが積層されたものであり、耐薬品性、耐熱性に優れるPC樹脂やABS樹脂からなる硬質樹脂層と本発明のポリエステル系エラストマー組成物からなる軟質樹脂層とを熱融着により積層一体化することで、剛性と軟質感とを兼備する製品とすることができる。
【0114】
極性を有する硬質樹脂の好ましい例としては、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリプロピレンオキサイド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、LCP(液晶ポリマー)、アイオノマー等の極性樹脂、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
これらのうち、ポリエステル系エラストマーとの融着強度が高く、成形性・経済性の観点から、PC樹脂およびバイオPC樹脂、ABS樹脂が好ましい。
【0115】
このような極性を有する硬質樹脂の市販品としては、PC樹脂およびバイオPC樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロン(登録商標)」、バイオPC樹脂として三菱ケミカル株式会社製「デュラビオ(登録商標)」、ABS樹脂として「東レ株式会社社製「トヨラック(登録商標)」が挙げられる。
【0116】
本発明のポリエステル系熱エラストマー組成物よりなる層と極性を有する硬質樹脂からなる層とを有する本発明の積層体の製造方法としては特に制限はなく、予め作製したポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂のシート等の成形体に対して、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を射出成形するインサート射出成形や、共押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法等により、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂
)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂からなる層と本発明のポリエステル系エラストマー組成物とを熱融着して一体化することで、本発明の積層体とすることができる。
【実施例0117】
以下、実施例および比較例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0118】
〔原料〕
<成分(A):ポリエステル系エラストマー>
A-1:ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体
ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:1,700
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:27質量%
ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:73質量%
MFR(230℃、荷重2.16kgf):20g/10分
A-2:ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体
ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:1,800
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:29質量%
ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:71質量%
MFR(230℃、荷重2.16kgf):16g/10分
A-3:ポリブチレンテレフタレート-ポリトリメチレングリコールブロック共重合体
ポリトリメチレングリコールユニットの数平均分子量:1,800
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:35質量%
ポリトリメチレングリコールユニットの含有量:65質量%
MFR(230℃、荷重2.16kgf):30g/10分
バイオマス度:65%
【0119】
<成分(B):スチレン系エラストマー>
B-1:クレイトンポリマー社製 クレイトン(登録商標) G1641HU
スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体
スチレン重合体ブロックの含有量:32質量%
重量平均分子量:2.2×10
MFR(230℃、荷重2.16kgf): 1g/10分
【0120】
<成分(C):ゴム用軟化剤>
C-1:イソアルカン混合物
H&R社製「VIVASPES 10227」
40℃の動粘度:56cSt
引火点:280℃
流動点:-27℃
Mw:1,110
Mn:1,070
分子量分散度(PDI):1.04
GPC測定で検出される最低分子量:390
バイオマス度:100%
C-2:炭化水素系オイル
出光興産株式会社製ダイアナ(登録商標)「プロセスオイルPW-90」
40℃の動粘度:95cSt
引火点:272℃
流動点:-17℃
Mw:730
Mn;630
分子量分散度(PDI):1.16
GPC測定で検出される最低分子量:60
バイオマス度:0%
C-3:炭化水素系オイル
出光興産株式会社製ダイアナ(登録商標)「プロセスオイルPW-380」
40℃の動粘度:409cSt
引火点:300℃
流動点:-15℃
Mw:1,230
Mn:1,090
分子量分散度(PDI):1.13
GPC測定で検出される最低分子量:160
バイオマス度:0%
【0121】
〔実施例1~4、比較例1~4〕
<ポリエステル系エラストマー組成物の製造>
表-1の配合組成に記載の各成分を二軸混練機により溶融混練(シリンダー温度220℃)し、ポリエステル系エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0122】
<物性評価用成形体の作成>
上記のポリエステル系エラストマー組成物のペレットを、射出成形機(日本製鋼所社製「J110AD」、型締め力110T)を用いて、金型温度40℃、シリンダー温度200~230℃にて射出成形を行い、100mm×100mm×2mm(厚み)の成形体を得た。以下、それぞれ「物性評価用成形体」と称す。
【0123】
<熱融着性評価用成形体の作成>
上記のポリエステル系エラストマー組成物のペレットを、射出成形機(日本製鋼所社製「J110AD」、型締め力110T)を用いて、予め金型内にインサートしたポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製「ユーピロン(登録商標)H3000」、PC樹脂I)製シート(厚み2mm)、ポリカーボネート樹脂(三菱ケミカル株式会社製「デュラビオ(登録商標)D6350R」、植物由来のイソソルバイド(イソソルビド)を主原料として得られるバイオPC樹脂II)製シート(厚み2mm)、又はアクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(東レ株式会社社製「トヨラック(登録商標)920-555」、ABS樹脂)製シート(厚み2mm)に対し、金型温度80℃、シリンダー温度220℃にて射出成形を行い、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂I)、バイオポリカーボネート樹脂(バイオPC樹脂II)又はアクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)が基材層、ポリエステル系エラストマー組成物が表面層の100mm×100mm×4mm(厚み)の積層成形体を得た。以下、それぞれ「熱融着性評価用成形体」と称す。
【0124】
〔評価方法〕
表-1に示す実施例1~4および比較例1~4のポリエステル系熱エラストマー組成物のペレット、物性評価用成形体および熱融着性評価用成形体を以下方法により評価した。結果を表-1に示す。
【0125】
<MFR>
ポリエステル系エラストマー組成物のペレットについて、MFR(ISO 1133(230℃、荷重2.16kgf)に準拠)を測定した。
【0126】
<デュロA硬度>
上記で作成した物性評価用成形体について、ISO 7619-1に準拠してデュロA硬度を測定した。
【0127】
<密度>
上記で作成した物性評価用成形体について、ISO 1183に準拠して密度を測定した。この密度は、軽量性の観点から好ましくは1.00g/cm未満であり、通常その下限は0.90g/cmである。
【0128】
<圧縮永久歪(CS)>
上記で作成した物性評価用成形体について、ISO 815に準拠して圧縮永久歪(CS)を測定した。この圧縮永久歪(CS)は、小さいほどゴム弾性に優れる。
【0129】
<熱融着性>
上記で作成した熱融着性評価用成形体から幅25mm、長さ100mmの短冊状試験片を切り出し、基材層に対し、表面層を90度方向に引張速度200mm/分で引っ張ることにより両層間の剥離強度を測定した。剥離強度が大きいほど熱融着性に優れる。
【0130】
<成形時発煙性>
ポリエステル系エラストマー組成物のペレットを、射出成形機(日本製鋼所社製「J110AD」、型締め力110T)を用いて、シリンダー温度240℃にて射出成形でパージしたサンプル(パージ塊)の発煙性を目視で確認した。発煙性は目視で「+」、「++」、「+++」で相対的に評価した。「+」が多いほど発煙が少なく好ましい。
【0131】
<バイオマス度>
実施例及び比較例で得られたポリエステル系エラストマー組成物のペレットについて、タンデム加速器をベースとしたC-AMS専用装置(NEC社製)を使用し、14C濃度の測定を行った後、ASTM D6866-22に従いバイオマス度を算出した。後掲の表-1において、バイオマス度の欄に「-」とあるのは、バイオマス度の測定を行っていないことを示す。
【0132】
【表1】
【0133】
[考察]
表-1から、以下のことが分かる。
なお、実施例と比較例の評価は、成分(A)の種類に応じて、実施例1,3と比較例1,2、実施例2,4と比較例3,4をそれぞれ対比して行う。
実施例1~4は比較例1~4と比べて、220℃におけるポリカーボネート樹脂(PC樹脂IおよびバイオPC樹脂II)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)との熱融着性に優れていることが分かった。
実施例1~2は比較例1~4と比べて、密度が低下しており軽量化を図れることが分かった。
実施例1~4は比較例1~4と比べて、圧縮永久歪(CS)が小さく、ゴム弾性が向上していることが分かった。
実施例1~4は比較例1~4と比べて、成形時の発煙性が低減しており、成形時に発煙が少ないという効果があることが分かった。
【0134】
以上の通り、本発明によれば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定において、重量平均分子量(Mw)が800~1,200であり、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で表される分散度(PDI)が1.10未満であることを特徴とするゴム用軟化剤を用いることで、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂に対して優れた熱融着性を有するポリエステル系エラストマー組成物を提供できることが分かる。更に、ゴム弾性が向上し、軽量化が図れると共に、成形時に発煙が少ないという効果を得ることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂およびバイオPC樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等の極性を有する硬質樹脂に熱融着し、更に、ゴム弾性が向上し、軽量化が図れると共に、成形時の発煙性が低い軟質な質感を有する成形体および積層体を提供することができる。
本発明により製造された成形体及び積層体は、文房具;玩具;スポーツ用品;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;建装材等の部材等の用途に好適に用いることができる。