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特開2024-137708熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137708
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 3/10 20060101AFI20240927BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20240927BHJP
   F28D 9/02 20060101ALI20240927BHJP
   F28F 21/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F28F3/10
F16J15/10 G
F28D9/02
F28F21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024006774
(22)【出願日】2024-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2023046644
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 真則
(72)【発明者】
【氏名】深川 謙一
【テーマコード(参考)】
3J040
3L103
【Fターム(参考)】
3J040AA15
3J040BA04
3J040CA01
3J040EA48
3J040FA06
3J040FA20
3J040HA15
3J040HA30
3L103AA11
3L103AA31
3L103AA32
3L103BB04
(57)【要約】
【課題】伝熱プレートの破損を抑えつつ、ガスケットの膨潤を抑制することができる熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法を提供すること。
【解決手段】本発明の熱交換器は、複数枚の伝熱プレートが隣り合う伝熱プレート間にゴム製のガスケットを介して積層され、隣り合う伝熱プレート間に芳香族炭化水素を含む液体が流通する空間が形成されたプレート式の熱交換器であって、ガスケットの表面に、弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装膜が形成されており、ガスケットを圧縮率25.0[%]~27.0[%]で圧縮するように複数枚の伝熱プレートを締結する締結部材を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の伝熱プレートが隣り合う前記伝熱プレート間にゴム製のガスケットを介して積層され、隣り合う前記伝熱プレート間に芳香族炭化水素を含む液体が流通する空間が形成されたプレート式の熱交換器であって、
前記ガスケットの表面に、弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装膜が形成されており、
前記ガスケットを圧縮率25.0[%]~27.0[%]で圧縮するように複数枚の前記伝熱プレートを締結する締結部材を備えることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
コークス炉とタールデカンタとの間で循環する循環安水の低温廃熱回収用のプレート式の熱交換器であって、
余剰安水蒸留用の減圧式のアンモニアストリッパーの底部に接続されたボトム熱交換器であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
複数枚の伝熱プレートが隣り合う前記伝熱プレート間にゴム製のガスケットを介して積層され、隣り合う前記伝熱プレート間に芳香族炭化水素を含む液体が流通する空間が形成されたプレート式の熱交換器におけるガスケットの膨潤抑制方法であって、
弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装を前記ガスケットの表面に施し、
複数枚の前記伝熱プレートを締結部材によって締結して、前記ガスケットを圧縮率25.0[%]~27.0[%]で圧縮することを特徴とするガスケットの膨潤抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数枚の伝熱プレートを積層したプレート式の熱交換器に芳香族炭化水素を含む液体を導入すると、隣り合う伝熱プレート間に設けたガスケットが芳香族炭化水素を吸収して体積膨張することが知られている。このガスケットの体積膨張は、一般に膨潤と呼ばれており、ガスケットを軟化させたり劣化させたりする。このようにガスケットが膨潤すると、シーリング性が悪化するだけではなく、熱交換器の構成部品、特にプレートが圧迫される。ガスケットの膨潤が継続すると伝熱プレートが塑性変形して、熱交換器から液体の漏洩が発生する。特許文献1に開示された技術では、ガスケットの材質の変更が試みられている。また、特許文献2には、ガスケットを事前に油分に浸漬させることによって、ガスケットの過大な膨潤を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-132754号公報
【特許文献2】特開平7-292140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、費用対効果は示されておらず、その観点から実用上、適するかどうかは不明である。また、特許文献2に開示された技術では、ガスケットの膨潤に至る時間を短縮したり、平衡状態における体積膨張率を低減させたりすることはできなかった。
【0005】
また、熱交換器の前段で安水に、水分(アンモニア水)と油分(タールなど芳香族炭化水素)との分離用薬剤であるエマルジョンブレーカー(界面活性剤)を投入し、芳香族炭化水素を分離しようとしても完全に分離するのは困難でありガスケットの膨潤は発生する。
【0006】
従来の熱交換器では、圧縮率23.1[%]~24.0[%]でガスケットは圧縮されていたが、ガスケットの膨潤は発生した。ガスケットの圧縮率を上昇させれば膨潤は抑制可能であるが、24.0[%]を超える圧縮率ではガスケットからの反発力によってプレートが変形してプレートが破損する虞があるため、従来は24.0[%]以下でガスケットが圧縮されている。このため、従来は、ガスケットの膨潤は起こり得るものとして、安価なガスケットを使用し、一定期間経過後に熱交換器を分解して、ガスケットを新品と交換していた。実績として半年に1回のガスケットの交換が必要であり、熱交換器は、石炭化学プラントにおいて多数配置されているため、ガスケットの交換費用や設備停止影響(熱ロス)が問題視されていた。よって、ガスケットの膨潤を抑制することができれば、ガスケットの交換費用の圧縮や設備停止影響(熱ロス)の低減に繋げることができる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、伝熱プレートの破損を抑えつつ、ガスケットの膨潤を抑制することができる熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る熱交換器は、複数枚の伝熱プレートが隣り合う前記伝熱プレート間にゴム製のガスケットを介して積層され、隣り合う前記伝熱プレート間に芳香族炭化水素を含む液体が流通する空間が形成されたプレート式の熱交換器であって、前記ガスケットの表面に、弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装膜が形成されており、前記ガスケットを圧縮率25.0[%]~27.0[%]で圧縮するように複数枚の前記伝熱プレートを締結する締結部材を備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る熱交換器は、上記の発明において、コークス炉とタールデカンタとの間で循環する循環安水の低温廃熱回収用のプレート式の熱交換器であって、余剰安水蒸留用の減圧式のアンモニアストリッパーの底部に接続されたボトム熱交換器であることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るガスケットの膨潤抑制方法は、複数枚の伝熱プレートが隣り合う前記伝熱プレート間にゴム製のガスケットを介して積層され、隣り合う前記伝熱プレート間に芳香族炭化水素を含む液体が流通する空間が形成されたプレート式の熱交換器におけるガスケットの膨潤抑制方法であって、弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装を前記ガスケットの表面に施し、複数枚の前記伝熱プレートを締結部材によって締結して、前記ガスケットを圧縮率25.0[%]~27.0[%]で圧縮することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法は、伝熱プレートの破損を抑えつつ、ガスケットの膨潤を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係る安水処理システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態に係る熱交換器を模式的に示した斜視図である。
図3図3は、実施形態に係る熱交換器を分解状態で模式的に示した斜視図である。
図4図4は、実施形態に係る熱交換器を分解状態で模式的に示した側面図である。
図5図5は、ガスケットの表面に形成された塗装膜の構造の一例を示す図である。
図6図6は、実施例1で用いるガスケット試験片の圧縮機構を示した図である。
図7図7は、ガスケット試験片の質量変化率の時間推移を示したグラフである。
図8図8は、ガスケット試験片の硬さ変化の時間推移を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る熱交換器及びガスケットの膨潤抑制方法の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は、実施形態に係る熱交換器を用いる安水処理システムの一例を示す模式図である。
【0015】
実施形態に係る安水処理システムでは、コークス炉2で発生した余剰安水の一部を、余剰安水蒸留用の減圧式のアンモニアストリッパー4に供給する。アンモニアストリッパー4に供給された余剰安水は、アンモニアストリッパー4の底部から熱交換器1に送られ、熱交換器1での熱交換により加熱された後、アンモニアストリッパー4の底部に戻される。これにより、加熱された余剰安水は減圧下でアンモニアを含有する蒸気となり、アンモニアストリッパー4の頂部に至る。その結果、余剰安水からアンモニアが除去される。アンモニアが除去された余剰安水である脱安水は、アンモニアストリッパー4の底部から排出される。熱交換器1の熱源としては、コークス炉2とタールデカンタ3との間を循環する循環安水を熱交換器1に導入して利用している。
【0016】
図2は、実施形態に係る熱交換器を模式的に示した斜視図である。図3は、実施形態に係る熱交換器を分解状態で模式的に示した斜視図である。図4は、実施形態に係る熱交換器を分解状態で模式的に示した側面図である。
【0017】
実施形態に係る熱交換器1は、コークス炉2とタールデカンタ3との間で循環する循環安水の低温廃熱回収用のプレート式の熱交換器であって、余剰安水蒸留用の減圧式のアンモニアストリッパー4の底部に接続されたボトム熱交換器である。実施形態に係る熱交換器1は、一対の銘板11a,11b、銘板11a,11b間に配置された複数の伝熱プレート12、隣り合う伝熱プレート12間に配置された複数のガスケット13、複数のボルト14、及び、複数のナット15などによって構成されている。
【0018】
熱交換器1は、複数枚の伝熱プレート12を横並び状態で積層し、隣り合う伝熱プレート12間に、高温媒体流通用の流通経路を形成する第1空間と、低温媒体流通用の流通経路を形成する第2空間とを形成して、第1空間と第2空間とに高温媒体と低温媒体とを相互に流通させることにより熱交換を行う。隣り合う伝熱プレート12間には、液密性を保持するシール部材であるガスケット13を配置して液密状態を維持している。
【0019】
複数の伝熱プレート12は、一対の銘板11a,11bによって挟持することにより一体化されている。また、一対の銘板11a,11bによって複数の伝熱プレート12を挟持するには、一対の銘板11a,11bのそれぞれの周囲に所定間隔で設けられた複数の締結部材である複数のボルト14及び複数のナット15が用いられる。なお、図2及び3では、ボルト14及びナット15の図示を省略している。
【0020】
また、図3中、符号111は高温媒体である循環安水を熱交換器1へ供給する供給管、符号112は循環安水を熱交換器1から排出する排出管、符号113は低温媒体である余剰安水を熱交換器1へ供給する供給管、符号114は余剰安水を熱交換器1から排出する排出管である。かかる構成からなる熱交換器1においては、供給管111から供給された循環安水が、熱交換器1の高温媒体流通用の流通経路121や第1空間や流通経路122などを通って排出管112より排出される。一方、供給管113から供給された余剰安水は、熱交換器1の低温媒体流通用の流通経路123や第2空間や流通経路124などを通って排出管114より排出される。これにより、複数の伝熱プレート12を介して循環安水(高温媒体)と余剰安水(低温媒体)とで熱交換が行われる。
【0021】
実施形態に係る熱交換器1は、伝熱プレート12とガスケット13が交互に並んで挟み込まれた構造となっている。熱交換器1は、伝熱プレート12の溝の中のガスケット13を密着させるように圧縮することで、熱交換器導入液体の漏れを防止する。ただし、従来、圧縮はあくまでシールのためであって、膨潤防止目的ではなく、24.0[%]以下で圧縮される。
【0022】
実施形態に係る熱交換器1では、ガスケット13の膨潤防止目的のためにガスケット13の圧縮率を高めている。例えば、一対の銘板11a,11b間の距離L=1817[mm]、伝熱プレート12の幅Lp=4.16[mm]、及び、伝熱プレート12の枚数N=395枚としたとき、ガスケット13の幅の合計はL-N×Lpで表される。ガスケット13の圧縮率を23.1[%]から25.0[%]に増加することによって、一対の銘板11a,11b間の距離Lは2.1[mm]小さくなる。また、ガスケット13の圧縮率を23.1[%]から27.0[%]へ増加することによって、一対の銘板11a,11b間の距離Lは5.0[mm]小さくなる。さらに、ガスケット13の圧縮率を23.1[%]から30.0[%]に増加することによって、一対の銘板11a,11b間の距離Lは7.5[mm]小さくなる。
【0023】
上記のように、ガスケット13を伝熱プレート12で挟み込み、圧縮力を増強することによって、ガスケット13の膨潤抑制効果は容易に得られる。ただし、圧縮力を増強し過ぎると、ガスケット13の反発力が大きくなり過ぎて伝熱プレート12の変形を早めてしまう懸念がある点に、注意が必要である。
【0024】
実施形態に係る熱交換器1においてガスケット13(後述するゴム基材131)の材質としては、例えば、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、IIR(ブチル)ゴム、及び、フッ素ゴムなどが適用可能である。
【0025】
ここで、ガスケット13の圧縮率を24.0[%]~33.0[%]とすることは、熱交換器1の構造上実施可能である。一方で、ガスケット13の圧縮率が24.0[%]以上であると、ガスケット13の膨潤に起因した伝熱プレート12の変形ひいては伝熱プレート12の破損を引き起こすことが懸念される。そのため、実施形態に係る熱交換器1においては、ガスケット13の表面に膨潤抑制用の塗装を施している。
【0026】
図5は、ガスケット13の表面に形成された塗装膜の構造の一例を示す図である。
【0027】
図5に示すように、ガスケット13は、ゴム基材131上に鱗片状フィラー132を含有するバインダー133からなる塗料が塗装されて、ガスケット13の表面に塗装膜が形成されている。この塗装膜は、成膜後はフレキシブルで透明な薄膜を形成し、ゴム基材131への密着性や弾性変形追随性を有している。さらに、前記塗装膜は、シリカ系の鱗片状フィラーまたは金属系の鱗片状上フィラーなどの高バリア性を有する鱗片状フィラー132を、充填剤としてバインダー133が含有することによって、耐ベンゼン性などの薬品へのバリア性を有している。前記塗装膜の厚さとしては、90[μm]以上110[μm]以下とするのが好ましく、100[μm]が好適である。
【0028】
鱗片状フィラー132には、例えば、鱗片状のシリカ粉末または鱗片状の金属粉末などが用いられる。
【0029】
バインダー133としては、例えば、フッ素含有樹脂を用いるのが好ましい。フッ素含有樹脂としては、例えば、TFE(Tetrafluoroethylene:テトラフルオロエチレン)とイソブチレンとヒドロキシブチルビニルエーテルとの共重合体からなる溶剤系塗料が挙げられる。また、フッ素含有樹脂としては、例えば、TFEとバーサチック酸ビニルとヒドロキシブチルビニルエーテルとの共重合体からなる溶剤系塗料が挙げられる。また、フッ素含有樹脂としては、例えば、CTFE(Chloro Tri Furuoro Ethylene:クロロトリフルオロエチレン)とヒドロキシブチルビニルエーテルとの共重合体からなる溶剤系塗料が挙げられる。また、フッ素含有樹脂としては、例えば、TFEとフッ化ビニリデンとヒドロキシブチルビニルエーテルとの共重合体からなる溶剤系塗料が挙げられる。
【0030】
なお、バインダー133には、フッ素含有樹脂の官能基に応じた硬化剤を適宜選択して添加可能である。例えば、バインダー133に水酸基を有するフッ素含有樹脂を用いる場合には、多価イソシアネート化合物、メラミン硬化剤、尿素樹脂硬化剤、シリケート化合物、イソシアネート基含有シラン化合物、及び、多基塩基酸硬化剤などを用いることができる。これらの中でも、多価イソシアネート化合物は、硬化皮膜の物性バランスが優れる点で好ましい。
【0031】
ゴム基材131の表面への塗料(鱗片状フィラー132を含有するバインダー133)の塗布方法は特に限定されず、例えば、エアスプレー塗装などの公知の塗布装置を用いて塗布することができる。塗料(鱗片状フィラー132を含有するバインダー133)をゴム基材131上に塗布した後、乾燥処理を行うことによって、ゴム基材131の表面上に塗膜層が形成される。この際の乾燥条件としては特に限定されず、例えば、架橋反応の促進及びウレタン層の保護の観点から60[℃]~150[℃]であることが好ましい。また、乾燥時間は、塗料(バインダー133)の硬化が完了する時間まで適宜設定すればよい。
【0032】
本実施形態では、芳香族炭化水素を含む液体(安水)を導入する熱交換器1において、ガスケット13に塗装を行い、ガスケット13の表面に、弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装膜を形成する。さらに、実施形態に係る熱交換器1においては、25.0[%]~27.0[%]の圧縮率でガスケット13を圧縮するように複数枚の伝熱プレート12を締結部材である複数のボルト14及び複数のナット15で締結する。これにより、実施形態に係る熱交換器1においては、ガスケット13の著しい膨潤抑制効果が得られている。すなわち、締付力の増強によるガスケット13の反発力の増大によって伝熱プレート12の変形が懸念される。しかしながら、実施形態に係る熱交換器1においては、ガスケット13の塗装による膨潤抑制効果によって、圧縮率27.0[%]まで伝熱プレート12の変形を抑制しつつガスケット13の圧縮率を増加させることが可能となった。そして、ガスケット13の圧縮と塗装による膨潤抑制効果とにより、熱交換器1に導入する液体(安水)の漏洩に至るまでの期間が、ガスケット13の圧縮率が25.0[%]~27.0[%]では圧縮率が23.1[%]の場合と比較して半年間延長できた。これにより、実施形態に係る熱交換器1では、ガスケット13の交換周期の延長による補修費の削減や設備停止の影響(熱ロス)の低減を図ることができる。以上説明したように、圧縮による伝熱プレート12の変形を抑制しつつ十分な膨潤抑制効果を得るため、ガスケット13の圧縮率は、25[%]以上27[%]以下とし、より好ましくは、25.1[%]以上26.9[%]以下とする。
【0033】
(実施例1)
以下、本発明の構成をプレート式の熱交換器用のEPDM(エチレンプロピレンゴム)製のガスケット試験片に適用した実施例に基づいて詳細に説明する。
【0034】
図6は、実施例1で用いるガスケット試験片201の圧縮機構を示した図である。
【0035】
実施例1では、プレート式の熱交換器の構造を模擬し、EPDM製のガスケット試験片201を挟み込んだ鋼製の一対のプレート202a,202bを、複数のボルト203及び複数のナット204を用いて締結した。ガスケット試験片201の圧縮率は、実機設定値と同等の23.1[%]、24.0[%]、及び、実機設定値を超える25.0[%]、27.0[%]、30.0[%]、33.0[%]とした。
【0036】
実施例1では、一対のプレート202a,202bに挟み込んで圧縮した状態のガスケット試験片201を、熱交換器1に導入する液体(安水)と同等の組成を持つ液体に浸漬させた。そして、浸漬開始から7日後、浸漬開始から14日後、及び、浸漬開始から21日後に、ガスケット試験片201の質量変化率と硬さ変化とを計測した。ガスケット試験片201の圧縮率は、圧縮前後でのガスケット試験片201の厚み変化量を、圧縮前のガスケット試験片の厚みで除して求めた。質量変化率は、浸漬試験前後でのガスケット試験片201の質量変化量を、浸漬前のガスケット試験片201の質量で除して求めた。ガスケット試験片201の硬さとしては、JIS K 6253に準拠した測定方法での測定値で、浸漬試験前後での硬さ変化を求めた。
【0037】
ガスケット試験片201を浸漬させる浸漬用液体は、アンモニアを1000[ppm]~4000[ppm]、及び、ベンゼンを0[ppm]~1500[ppm]含み、熱交換器1の導入液体である安水を模擬している。ガスケット試験片201はEPDMからなるガスケットを5[mm]程度切断し、図6に示す圧縮機構で挟み込んで圧縮した。圧縮も伝熱プレート12での挟み込みも行わない場合、7日間程度でガスケット試験片201の質量増加率と硬さ変化とは平衡状態に達する。
【0038】
図7は、ガスケット試験片201の質量変化率の時間推移を示したグラフである。図8は、ガスケット試験片201の硬さ変化の時間推移を示したグラフである。なお、図7及び図8中、「コーティング有り」は、上記の実施形態で説明した塗料を用いてガスケット試験片201の表面に塗装を施して、弾性変形追随性及び耐ベンゼン性を有する塗装膜をガスケット試験片20の表面に形成していることを示している。なお、前記塗装膜の厚さは100[μm]とした。また、図7及び図8中、「コーティング無し」は、ガスケット試験片201の表面に塗装膜が無いことを示している。
【0039】
図7及び図8に示すように、ガスケット試験片201の圧縮率を増加させることによって、ガスケット試験片201の質量変化率と硬さ変化ともに低減することが確認された。
【0040】
(実施例2)
実施例2では、実施例1の結果を受けて、圧縮率24.0[%]、25.0[%]、27.0[%]、30.0[%]、33.0[%]の5通りで、塗装有りのガスケットと塗装無しのガスケットとをそれぞれ熱交換器の実機に適用した。なお、ガスケットの表面に施す塗装に用いる塗料としては、上記の実施形態で説明した塗料を用いている。そして、これら熱交換器を用いて芳香族炭化水素などを含む液体同士の熱交換を2年間行い、伝熱プレートの変形と導入液体漏洩の有無とを観察した。表1に、2年経過時の観察結果を示す。なお、表1中、「〇」は漏洩無し、「△」は漏洩ありだが伝熱プレートの損傷無し、「×」は漏洩有り且つ伝熱プレートの破損あり、を示している。
【0041】
【表1】
【0042】
表1からわかるように、塗装無しのガスケットを用いた熱交換器では、すべての圧縮率で伝熱プレートの破損と漏洩が発生した。一方で、塗装有りのガスケットを用いた熱交換器では、圧縮率が24.0[%]で伝熱プレートが変形し、液体が漏洩した。また、塗装有りのガスケットを用いた熱交換器では、圧縮率が25.0[%]及び27.0[%]で漏洩は発生しなかった。また、塗装有りのガスケットを用いた熱交換器では、圧縮率が30.0[%]で伝熱プレートが変形し、液体が漏洩した。また、塗装有りのガスケットを用いた熱交換器では、圧縮率が33.0[%]で伝熱プレートが破損し、漏洩した。
【0043】
このように、塗装無しのガスケットでは、圧縮率を24.0[%]以上に増加させると伝熱プレートが破損し、膨潤抑制効果は得られない。一方、塗装有りのガスケットでは、圧縮率が25.0[%]~27.0[%]の範囲で伝熱プレートを破損させずに漏洩を抑制することができた。これにより、塗装を施したガスケットを圧縮率25.0[%]~27.0[%]で圧縮することによって、著しい膨潤抑制効果が得られ、半年間のガスケット長寿命化を実現することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 熱交換器
2 コークス炉
3 タールデカンタ
4 アンモニアストリッパー
11a,11b 銘板
12 伝熱プレート
13 ガスケット
14 ボルト
15 ナット
111,113 供給管
112,114 排出管
121,122,123,124 流通経路
131 ゴム基材
132 鱗片状フィラー
133 バインダー
201 ガスケット試験片
202a,202b プレート
203 ボルト
204 ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8