(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137720
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】管状留置具および留置装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20240927BHJP
【FI】
A61F2/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015406
(22)【出願日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2023046204
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】下條 光
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097BB04
4C097CC01
4C097CC12
4C097DD10
4C097EE06
4C097EE08
4C097MM09
(57)【要約】
【課題】留置後の不具合が生じにくいフックを有する管状留置具を提供する。
【解決手段】長尺の留置装置20により生体管腔2内に導入され、留置装置20から遠位側に放出されて生体管腔2に留置される管状留置具1は、径方向に拡縮可能な環状骨格部11と、環状骨格部11を管状に被覆する皮膜部12と、管状留置具1の遠位端に設けられ、留置装置20に設けられた係合部と係合するフック部13と、留置装置20の近位側から留置装置20の軸方向に沿って配設され、一端側がフック部13と接続される線状部材15と、を備える。フック部13は、管状留置具1と分離可能に構成され、線状部材15の牽引により留置装置20の近位側に回収可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の留置装置により生体管腔内に導入され、前記留置装置から遠位側に放出されて前記生体管腔に留置される管状留置具であって、
径方向に拡縮可能な環状骨格部と、
前記環状骨格部を管状に被覆する皮膜部と、
前記管状留置具の遠位端に設けられ、前記留置装置に設けられた係合部と係合するフック部と、
前記留置装置の近位側から前記留置装置の軸方向に沿って配設され、一端側が前記フック部と接続される線状部材と、を備え、
前記フック部は、前記管状留置具と分離可能に構成され、前記線状部材の牽引により前記留置装置の近位側に回収可能である
管状留置具。
【請求項2】
前記フック部は、前記管状留置具の遠位端に保持された前記線状部材を遠位側に屈曲させて形成され、
前記線状部材の牽引により、前記フック部が前記係合部から引き抜かれて当該フック部の屈曲させた部分との係合が解除される
請求項1に記載の管状留置具。
【請求項3】
前記管状留置具は、前記管状留置具の遠位端に周方向に間隔をあけて配置された複数の保持リングを有し、
前記線状部材は、複数の前記保持リングに挿通されて前記管状留置具の遠位端に保持される
請求項2に記載の管状留置具。
【請求項4】
前記線状部材のうち、2つの前記保持リングで両端が保持された部位で前記フック部が形成されている
請求項3に記載の管状留置具。
【請求項5】
前記管状留置具の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤをさらに備え、
前記線状部材は、前記調整ワイヤと独立して操作可能である
請求項2に記載の管状留置具。
【請求項6】
前記線状部材は、前記管状留置具の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤを兼ねる
請求項2に記載の管状留置具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の管状留置具を着脱可能に保持し、前記管状留置具を生体管腔に留置する留置装置であって、
前記管状留置具を収容可能なシースと、
前記シースの内側でシースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、
前記軸状部材の遠位側に設けられ、前記管状留置具のフック部と係合する係合部を有するチップ部材と、を備え、
前記係合部は、軸方向と交差する方向に前記フック部を挿通させる穴である
留置装置。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の管状留置具を着脱可能に保持し、前記管状留置具を生体管腔に留置する留置装置であって、
前記管状留置具を収容可能なシースと、
前記シースの内側でシースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、
前記軸状部材の遠位側に設けられ、前記管状留置具のフック部と係合する係合部を有するチップ部材と、を備え、
前記係合部は、前記フック部を掛け止め可能な切り欠きであり、前記フック部が掛けられる部分よりも近位側に凹んで前記フック部と接触しない非接触部を有する
留置装置。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の管状留置具を着脱可能に保持し、前記管状留置具を生体管腔に留置する留置装置であって、
前記管状留置具を収容可能なシースと、
前記シースの内側でシースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、
前記軸状部材の遠位側に設けられ、前記管状留置具のフック部と係合する係合部を有するチップ部材と、を備え、
前記軸状部材は、軸方向に沿って線状部材を摺動可能に保持する案内部を有する
留置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状留置具および留置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管などの生体管腔に生じた病変部位に留置され、病変部位への体液の流入を遮断させる管状留置具が知られている。
この種の管状留置具は、カテーテルなどの留置装置を用いて生体管腔内に導入される。また、留置装置の先端チップに係止するために、管状留置具の遠位側に金属線材でフックが設けられることもある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のフックは、留置後において、生体管腔の内壁との接触などで生体管腔にダメージを与える可能性がある。また、後日の別手術で管状留置具内にカテーテル等を通すときに、カテーテルがフックに引っ掛かる可能性もある。
【0005】
そこで、本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、留置後の不具合が生じにくいフックを有する管状留置具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、長尺の留置装置により生体管腔内に導入され、留置装置から遠位側に放出されて生体管腔に留置される管状留置具である。管状留置具は、径方向に拡縮可能な環状骨格部と、環状骨格部を管状に被覆する皮膜部と、管状留置具の遠位端に設けられ、留置装置に設けられた係合部と係合するフック部と、留置装置の近位側から留置装置の軸方向に沿って配設され、一端側がフック部と接続される線状部材と、を備える。フック部は、管状留置具と分離可能に構成され、線状部材の牽引により留置装置の近位側に回収可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、留置後の不具合が生じにくいフックを有する管状留置具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の管状留置具の構成例を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の管状留置具が生体管腔に留置された使用状態を模式的に示す図である。
【
図3】管状留置具の遠位端を周方向に展開して内周側からみた状態の一例を示す図である。
【
図4】管状留置具の遠位側での線状部材の配置例を示す図である。
【
図5】(a)は本実施形態の留置装置の分解図であり、(b)は本実施形態の留置装置の組立状態を示す図であり、(c)は留置装置のシャフトの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、実施形態に係る管状留置具の構成例について説明する。なお、図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。
【0010】
また、図面では、管状留置具および留置装置の軸方向Axを適宜矢印で示す。また、軸方向Axに略直交する方向を径方向と定義し、軸方向Axを中心とする回転方向を周方向と定義する。また、図面において管状留置具および留置装置の遠位側を符号Dで示し、管状留置具および留置装置の近位側を符号Pで示す。
【0011】
図1は、本実施形態の管状留置具の構成例を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の管状留置具が生体管腔に留置された使用状態を模式的に示す図である。
【0012】
本実施形態の管状留置具1は、生体管腔の一例である血管2の病変部位3(例えば、血管2で瘤が生じている部位)に留置され、これらの病変部位3への血流を遮断させるために適用されるステントグラフトである。管状留置具1は、拡張状態の形状が記憶されたいわゆる自己拡張型の構成であって、径方向内側に収縮した収縮状態から径方向外側に拡張する拡張状態へと拡縮可能である。
【0013】
管状留置具1は、後述する長尺の留置装置20を用いて、径方向内側に収縮された状態(不図示)で血管2内に導入される。管状留置具1は、血管2内の病変部位3に運ばれた後に留置装置20のシース21から遠位側に放出され、径方向外側に拡張することで、
図2に示すように血管2の内壁と密着した状態で留置される。
【0014】
図1、
図2に示す管状留置具1は、軸方向Axの両端部に設けられた開口が連通しており、血管2内を流れる体液等が通過可能な管状流路4を内部に形成する。管状留置具1の寸法などの仕様は、例えば、管状留置具1を留置する血管2の太さや、管状留置具1の留置範囲の長さなどに応じて適宜設定される。また、本実施形態では、一例として全体形状が直管形状である管状留置具1を示すが、管状留置具1は、例えば弓状に湾曲した形状や捻れを有する形状に賦形(プリシェイプ)されていてもよい。
【0015】
図1、
図2に示すように、管状留置具1は、全体形状が管状をなす環状骨格部11と、環状骨格部11に取り付けられた皮膜部12と、管状留置具1の遠位端に設けられるフック部13とを備えている。
【0016】
環状骨格部11は、例えば、山部14aと谷部14bとが交互に形成されるように線材(金属細線)14を軸方向にジグザグ状に折り返しながら周方向に環状をなすように形成された骨格片を用い、当該骨格片を軸方向に複数並べて構成されている。なお、隣り合う骨格片同士は、連結部材(不図示)で軸方向に連結されていてもよい。また、環状骨格部11は、径方向内側に収縮した収縮状態から、径方向外側に拡張した拡張状態へと自己拡張するように変形可能に構成されている。
【0017】
環状骨格部11の線材の材料としては、例えば、Ni-Ti合金(ニチノール)、コバルト-クロム合金、チタン合金、及びステンレス鋼等に代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。環状骨格部11の材料としてNi-Ti合金を用いる場合、環状骨格部11を拡張状態の形状に整えた後に所定の熱処理を施すことにより、拡張状態の形状を環状骨格部11に記憶させることができる。
【0018】
なお、環状骨格部11の構成は上記に限定されるものではない。例えば、1本の金属細線をジグザグ状に折り返しながら螺旋状に巻回して管状をなす環状骨格部11を構成してもよく、あるいは、金属細線を格子状に編み込んで管状をなす環状骨格部11を構成してもよい。また、環状骨格部11は、例えば、1本の金属パイプ(例えば、Ni-Ti合金からなるパイプ等)をレーザー加工(レーザーカット)することで形成されてもよい。また、環状骨格部11は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
【0019】
皮膜部12は、管状の可撓性膜体であって、環状骨格部11の隙間部分を閉塞して管状に被覆するように環状骨格部11に取り付けられている。皮膜部12の材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の皮膜部12は、一例として、環状骨格部11の外周側に取り付けられている。つまり、管状留置具1において、山部14aと谷部14bとが交互に形成されるようにジグザグ状に折り返した線材14(環状骨格部11)の外周側に皮膜部12が取り付けられている。皮膜部12は、環状骨格部11に対し、例えば、糸での縫い付けや、接着、溶着、テープによる貼着などで取り付けられている。
【0021】
なお、皮膜部12は、環状骨格部11の内周側および外周側の両方に取り付けられていてもよい。また、管状留置具1の軸方向Axの端部において、環状骨格部11を挟んで皮膜部12を軸方向に折り返した折り返し部(不図示)が形成されていてもよい。
【0022】
フック部13は、円弧状に屈曲して遠位側に突出するように管状留置具1に取り付けられており、後述する先端チップ23と係合して留置装置20に保持される。フック部13は、管状留置具1の遠位端に配設された線状部材15により形成され、留置後に管状留置具1から分離して回収可能に構成されている。
【0023】
図3は、管状留置具1の遠位端を周方向に展開して内周側からみた状態の一例を示す図である。
図4は、管状留置具1の遠位側での線状部材の配置例を示す図である。
【0024】
管状留置具1の遠位端近傍には、周方向に間隔をあけてリング状のワイヤ保持部16が複数設けられている。ワイヤ保持部16は、保持リングの一例であって、例えば、環状骨格部11における線材14の遠位側折り返しの頂点(山部14a)の近傍にそれぞれ配置されている。
【0025】
各々のワイヤ保持部16は、例えば、線材14と皮膜部12を縫着する糸を用いて形成されてもよく、線材14に接着や溶接で固定されたリング部材などで形成されてもよい。ワイヤ保持部16は、線状部材等に対する平滑性を高めるために、例えば、モノフィラメントの高分子材料や生体適合性を有する金属材料で形成されてもよい。
【0026】
管状留置具1のワイヤ保持部16には、管状留置具1の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤ17と、フック部13を形成する線状部材15が挿通される。線状部材15および調整ワイヤ17には、一例として、絹糸などの天然素材や、PE(ポリエチレン)、ポリアミド、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの樹脂材料などのひも部材を用いることができる。
【0027】
調整ワイヤ17は、管状留置具1の遠位端において周方向に沿って複数のワイヤ保持部16に配設され、その一端は留置装置20の近位側に接続されている。そのため、調整ワイヤ17は近位側での牽引による引き抜き操作が可能である。なお、調整ワイヤ17が挿通されるワイヤ保持部16は、管状留置具1の遠位端で調整ワイヤ17を案内する機能と、調整ワイヤ17の張力を管状留置具1側に伝える機能を担う。
【0028】
調整ワイヤ17は、適宜張力をかけた状態で管状留置具1に配設され、管状留置具1の遠位端を縮径状態で拘束して径方向への拡張を規制する。管状留置具1の留置時にオペレータの操作で調整ワイヤ17が近位側に牽引されて引き抜かれると、管状留置具1において調整ワイヤ17による遠位端の拘束が解除される。これにより、管状留置具1の遠位端が径方向に拡張可能となる。
【0029】
線状部材15は、管状留置具1の遠位端において複数のワイヤ保持部16に配設されている。本実施形態のフック部13は、2つのワイヤ保持部16に円弧状に屈曲した形状で掛け渡されてワイヤ保持部16で両端が保持された線状部材15により形成されている。そのため、フック部13は、線状部材15と同様に柔軟に屈曲して変形できる。
【0030】
線状部材15が挿通されるワイヤ保持部16は、管状留置具1の遠位端で線状部材15を案内する機能と、フック部13が受ける力に対して線状部材15を支持することでフック部13に反力を生じさせる機能を担う。なお、線状部材15は、
図3に示すように調整ワイヤ17と共通のワイヤ保持部16に保持されてもよく、調整ワイヤ17と線状部材15がそれぞれ別のワイヤ保持部16に挿通されて配設されてもよい。
【0031】
また、線状部材15の一端は留置装置20の近位側に接続されている。そして、線状部材15は調整ワイヤ17とは独立して近位側での牽引による引き抜き操作が可能である。線状部材15がオペレータの操作で近位側に牽引されて引き抜かれると、フック部13を形成する線状部材15は管状留置具1から分離して留置装置20の近位側に回収される。
【0032】
線状部材15は、
図3、
図4に示すように、フック部13の両端と、その外側で隣り合う合計4つのワイヤ保持部16にそれぞれ挿通される。フック部13の両端と両隣のワイヤ保持部16に線状部材15を挿通することで、管状留置具1はフック部13の両側でフック部13からの力を均等に受けることができ、またフック部13からの力をフック部13の両端に集中させずに複数箇所に分散して受けることができる。これにより、フック部13の耐荷重を向上させることができる。その一方で、線状部材15を保持する箇所が比較的少なくなるため、先端チップ23との係合を容易に解除しやすくなる。
【0033】
次に、本実施形態における留置装置20の構成例について説明する。
図5(a)は本実施形態の留置装置20の分解図であり、
図5(b)は本実施形態の留置装置20の組立状態を示す図であり、
図5(c)は留置装置20のシャフト22の部分拡大図である。
【0034】
留置装置20は、管状のシース21と、シース21の内側に配置される管状のシャフト22と、を備えている。
【0035】
シース21は、収縮状態の管状留置具1をその内側に収容可能である。シース21は、シース本体部21aと、シース本体部21aの他方側の端部に設けられるハブ21bとを有している。ハブ21bは、シャフト22に対してシース21を固定するためのナット(不図示)や、上記の線状部材への操作を行う操作部21cを有している。
【0036】
シース本体部21aは、可撓性を有する材料で形成された管体である。シース本体部21aの材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、及び、ポリ塩化ビニル系樹脂等から選択された生体適合性を有する合成樹脂(エラストマー)、これら樹脂に他の材料が混合された樹脂コンパウンド、これらの合成樹脂による多層構造体、並びに、これら合成樹脂と金属線との複合体などが挙げられる。
【0037】
シャフト22は、シース21よりも長尺の軸状部材であって、軸方向Axに沿って進退可能に構成されている。シャフト22は、シャフト本体部22aと、シャフト本体部22aの遠位側に形成されるシャフト小径部22bとを有している。シャフト22の材料としては、例えば、樹脂(プラスチック及びエラストマー等)並びに金属など、適度な硬度及び柔軟性を有する種々の材料が挙げられる。
【0038】
シャフト小径部22bは、シャフト本体部22aと同軸であり、シャフト本体部22aよりも小径である。留置装置20においては、シャフト小径部22bの外周とシース本体部21aの内周の間に形成される空間に管状留置具1が収容される。また、シャフト22のシャフト本体部22aおよびシャフト小径部22bには、血管2内に留置装置20を導入するガイドワイヤ(不図示)を挿通させる穴が軸方向Axに沿って形成されている。
【0039】
シャフト本体部22aには、軸方向Axに沿って平行に延在し、調整ワイヤ17または線状部材15を収容する2本の貫通孔22dが内部に形成されている。調整ワイヤ17および線状部材15は、近位側からシャフト本体部22aの貫通孔22dに挿通されて軸方向Axに配設され、遠位側のシャフト小径部22bに導かれる。
【0040】
シャフト小径部22bは、シャフト小径部22bの軸方向Axに沿って線状部材15を保持するリング状の案内部24を有している。案内部24は、軸方向に貫通した開口を有し、線状部材15を開口内で摺動可能に保持する。線状部材15を案内部24で保持することで、線状部材15がシャフト22などに絡まって動作不良が生じる可能性が低減する。なお、案内部24に保持された線状部材15はシャフト小径部22bに沿って管状留置具1の遠位端に導かれ、その後に管状留置具1のワイヤ保持部16に挿通される。
【0041】
案内部24は、シャフト小径部22bの軸方向に1以上設けられ、軸方向に間隔をあけてシャフト小径部22bに複数設けられていてもよい。案内部24の材料は、例えば金属や樹脂材料のいずれでもよい。
図5(c)では線状部材15を保持する案内部24を示すが、シャフト小径部22bに調整ワイヤ17を保持する案内部24をさらに設けてもよい。
なお、線状部材15や調整ワイヤ17を保持する案内部24は必ずしも設けられている必要はなく、何れか一方のみを設けるようにしてもよいし、何れも設けられていなくてもよい。
【0042】
また、シャフト小径部22bの遠位端には、シース21の遠位側の端部開口を塞ぐ先端チップ23が取り付けられている。先端チップ23は、チップ部材の一例であり、遠位側が先細に形成された円筒形状の本体部23aに、管状留置具1のフック部13を受ける係合部が形成されている。
【0043】
図6(a)、(b)は、先端チップ23の一例を示す図である。
図6の例では、先端チップ23の本体部23aに係合部として穴25を設けている。穴25は、フック部13の線状部材15の径に対応する寸法であり、軸方向と直交方向に本体部23aを貫通している。
【0044】
図6の例では、先端チップ23の穴25に線状部材15を通してから管状留置具1のフック部13が形成され、これにより先端チップ23と管状留置具1のフック部13が係合される。そして、線状部材15を引き抜く操作によりフック部13が回収されると、先端チップ23と管状留置具1の係合が解除される。
図6の例によれば、先端チップ23の軸方向の移動を伴わずに先端チップ23から管状留置具1を容易に離脱させることができるので、留置装置20の操作性を向上させることができる。
【0045】
図7(a)、(b)は、それぞれ先端チップ23の他の例を示す図である。
図7の例では、先端チップ23の本体部23aにフック部13を掛け止め可能な切り欠き26を係合部として設けている。切り欠き26は、本体部23aの表面から近位側に向けて斜めに傾くように径方向内側に延びており、切り欠き26の入口がU字状をなすように本体部23aに形成される。また、切り欠き26の開口幅は、フック部13の線状部材15の径に対応する寸法である。
【0046】
切り欠き26の内側には、切り欠き26に掛け渡されたフック部13を支持する支持部が形成されている。支持部は、フック部13が掛けられて線状部材15に接触する第1部位27aと、第1部位27aよりも近位側に凹んで線状部材15と接触しない第2部位27bとを有する。第2部位27bは非接触部の一例である。
【0047】
例えば、
図7(a)に破線で示すように、支持部は、接線方向に並ぶ2つの円弧状の第1部位27aの間にくぼみ状の第2部位27bが形成された形状であってもよい。あるいは、
図7(b)に破線で示すように、支持部は、階段状に配置された第1部位27aと、第1部位27aの間に配置されてくぼんだ第2部位27bを有する形状であってもよい。
図7(a)、(b)の支持部の構成では、支持部の第2部位27bは線状部材15と接触しないため、切り欠き26内で線状部材15と支持部の接触面積が小さくなり、線状部材15の引き抜きが容易となる。なお、先端チップ23を切り欠き27とすることで、上記の支持部の形成は比較的容易な加工で行うことができる。
【0048】
図7の例では、管状留置具1のフック部13を切り欠き26に掛け渡すことで、先端チップ23と管状留置具1のフック部13を容易に係合させることができる。一方で、
図7の例においても、線状部材15を引き抜く操作によりフック部13が回収されると、先端チップ23と管状留置具1の係合が解除される。したがって、
図7の例でも、先端チップ23の軸方向の移動を伴わずに先端チップ23から管状留置具1を容易に離脱させることができ、留置装置20の操作性を向上させることができる。なお、
図7の例では、フック部13が維持されている状態でも、先端チップ23の軸方向の移動でフック部13を切り欠き26の入口から外して管状留置具1を離脱させることもできる。
【0049】
管状留置具1を留置装置20に充填する際には、先端チップ23とフック部13を係合させた後、径方向内側に収縮させた状態で管状留置具1がシャフト22に保持される。そして、径方向内側に収縮した管状留置具1をシャフト22とともにシース21内に収容することで、管状留置具1がシース21に充填される。なお、線状部材15は屈曲して変形可能であるため、管状留置具1を留置装置20に充填する際にフック部13は変形し、シース21の充填率を低減できる。
【0050】
また、管状留置具1を血管2に留置するときには、まず血管2内に留置装置20を導入する。そして、病変部位3において、管状留置具1が拘束されているシャフト22の位置を保持しつつ、シース21を近位側に向けて引き抜くように移動させる。すると、留置装置20のシース21から管状留置具1が放出される。
【0051】
その後、管状留置具1が所望の位置にあるときに調整ワイヤ17が引き抜かれ、管状留置具1の遠位端の拘束が解除される。これにより、管状留置具1が径方向外側に自己拡張して血管2と密着して留置される(
図2(a)参照)。
【0052】
その後、管状留置具1が血管2内に留置された状態で、線状部材15を近位側に引き抜いて先端チップ23とフック部13の係合を解除する。引き抜かれた線状部材15は、シャフト本体部22aの貫通孔22dから近位側に回収される。これにより、フック部13を体内に残さずに管状留置具1を血管2内に留置できる(
図2(b)参照)。
【0053】
以下、本実施形態の管状留置具1の効果を述べる。
本実施形態において、長尺の留置装置20により血管2(生体管腔)内に導入され、留置装置20から遠位側に放出されて血管2に留置される管状留置具1は、径方向に拡縮可能な環状骨格部11と、環状骨格部11を管状に被覆する皮膜部12と、管状留置具1の遠位端に設けられ、留置装置20に設けられた係合部と係合するフック部13と、留置装置20の近位側から留置装置20の軸方向に沿って配設され、一端側がフック部13と接続される線状部材15と、を備える。フック部13は、管状留置具1と分離可能に構成され、線状部材15の牽引により留置装置20の近位側に回収可能である。
本実施形態の管状留置具1では、線状部材15の牽引によりフック部13を留置装置20の近位側に回収でき、フック部13のない管状留置具1を血管2の病変部位3に留置できる。そのため、本実施形態によれば、管状留置具1の留置後にフック部13が血管2を傷つけることや、別の手術の際にカテーテルがフック部13に引っ掛かるなどの不具合をいずれも抑制できる。
【0054】
また、フック部13は、管状留置具1の遠位端に保持された線状部材15を遠位側に屈曲させて形成され、線状部材15の牽引により、フック部13が係合部から引き抜かれて当該フック部13の屈曲させた部分との係合が解除される。
これにより、先端チップ23の軸方向の移動を伴わずに先端チップ23とフック部13の係合を解除して管状留置具1を容易に離脱させることができ、留置装置20の操作性を向上させることができる。
【0055】
また、管状留置具1は、管状留置具1の遠位端に周方向に間隔をあけて配置された複数のワイヤ保持部16(保持リング)を有し、線状部材15は、複数のワイヤ保持部16に挿通されて管状留置具1の遠位端に保持される。
これにより、管状留置具1の遠位端に線状部材15を安定して保持することができ、管状留置具1のフック部13の強度を高めることができる。
【0056】
また、線状部材15のうち、2つのワイヤ保持部16で両端が保持された部位でフック部13が形成されている。
これにより、フック部13の両端がワイヤ保持部16で保持されるので、管状留置具1のフック部13の強度を高めることができる。
【0057】
また、管状留置具1は、管状留置具1の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤ17をさらに備え、線状部材15は、調整ワイヤ17と独立して操作可能である。
これにより、調整ワイヤ17による管状留置具1の遠位端の拘束の解除と、線状部材15によるフック部13の回収とを独立して行うことができ、管状留置具1を留置する際にオペレータによる精密な操作が可能となる。
【0058】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0059】
上記実施形態では、線状部材15を屈曲させてフック部13を形成する例を説明したが、フック部13は必ずしも線状部材15自体で形成されていなくてもよい。例えば、屈曲形状を有するフック部13を線状部材15とは別の部材で形成し、管状留置具1の遠位端に当該フック部13を離脱可能に取り付けるとともに、フック部13に線状部材15を連結してもよい。かかる構成によっても、線状部材15の牽引により管状留置具1からフック部13を回収することが可能である。
【0060】
また、上記実施形態では、管状留置具1の遠位端に線状部材15と調整ワイヤ17をそれぞれ配設する例を説明した。しかし、上記実施形態において、線状部材15が管状留置具1の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤ17を兼ねるようにしてもよい。かかる構成の場合には、留置装置20内で軸方向に配設されるワイヤの本数が抑制されるので、シース21の充填率を低下させることができる。
【0061】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0062】
なお、上記の実施形態の開示は以下の技術的思想を包含する。
(1)長尺の留置装置により生体管腔内に導入され、前記留置装置から遠位側に放出されて前記生体管腔に留置される管状留置具であって、径方向に拡縮可能な環状骨格部と、前記環状骨格部を管状に被覆する皮膜部と、前記管状留置具の遠位端に設けられ、前記留置装置に設けられた係合部と係合するフック部と、前記留置装置の近位側から前記留置装置の軸方向に沿って配設され、一端側が前記フック部と接続される線状部材と、を備え、前記フック部は、前記管状留置具と分離可能に構成され、前記線状部材の牽引により前記留置装置の近位側に回収可能である管状留置具。
(2)前記フック部は、前記管状留置具の遠位端に保持された前記線状部材を遠位側に屈曲させて形成され、前記線状部材の牽引により、前記フック部が前記係合部から引き抜かれて当該フック部の屈曲させた部分との係合が解除される上記(1)に記載の管状留置具。
(3)前記管状留置具は、前記管状留置具の遠位端に周方向に間隔をあけて配置された複数の保持リングを有し、前記線状部材は、複数の前記保持リングに挿通されて前記管状留置具の遠位端に保持される上記(2)に記載の管状留置具。
(4)前記線状部材のうち、2つの前記保持リングで両端が保持された部位で前記フック部が形成されている上記(3)に記載の管状留置具。
(5)前記管状留置具の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤをさらに備え、前記線状部材は、前記調整ワイヤと独立して操作可能である上記(2)から上記(4)のいずれか一項に記載の管状留置具。
(6)前記線状部材は、前記管状留置具の遠位端の拡張状態を制御する調整ワイヤを兼ねる上記(2)から上記(4)のいずれか一項に記載の管状留置具。
(7)上記(1)から上記(6)のいずれか1項に記載の管状留置具を着脱可能に保持し、前記管状留置具を生体管腔に留置する留置装置であって、前記管状留置具を収容可能なシースと、前記シースの内側でシースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、前記軸状部材の遠位側に設けられ、前記管状留置具のフック部と係合する係合部を有するチップ部材と、を備え、前記係合部は、軸方向と交差する方向に前記フック部を挿通させる穴である留置装置。
(8)上記(1)から上記(6)のいずれか1項に記載の管状留置具を着脱可能に保持し、前記管状留置具を生体管腔に留置する留置装置であって、前記管状留置具を収容可能なシースと、前記シースの内側でシースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、前記軸状部材の遠位側に設けられ、前記管状留置具のフック部と係合する係合部を有するチップ部材と、を備え、前記係合部は、前記フック部を掛け止め可能な切り欠きであり、前記フック部が掛けられる部分よりも近位側に凹んで前記フック部と接触しない非接触部を有する留置装置。
(9)上記(1)から上記(6)のいずれか1項に記載の管状留置具を着脱可能に保持し、前記管状留置具を生体管腔に留置する留置装置であって、前記管状留置具を収容可能なシースと、前記シースの内側でシースの軸方向に沿って進退可能に構成された長尺の軸状部材と、前記軸状部材の遠位側に設けられ、前記管状留置具のフック部と係合する係合部を有するチップ部材と、を備え、前記軸状部材は、軸方向に沿って線状部材を摺動可能に保持する案内部を有する留置装置。
【符号の説明】
【0063】
1…管状留置具、2…血管(生体管腔)、3…病変部位、4…管状流路、11…環状骨格部、12…皮膜部、13…フック部、14…線材、14a…山部、14b…谷部、15…線状部材、16…ワイヤ保持部(保持リング)、17…調整ワイヤ、20…留置装置、21…シース、22…シャフト(軸状部材)、23…先端チップ(チップ部材)、23a…本体部、24…案内部、25…穴(係合部)、26…切り欠き(係合部)、27a…第1部位、27b…第2部位(非接触部)