(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137721
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】硬化促進剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
C08F 22/32 20060101AFI20240927BHJP
C09J 4/04 20060101ALI20240927BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08F22/32
C09J4/04
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015416
(22)【出願日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2023047434
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川本 一平
(72)【発明者】
【氏名】本木 督和
【テーマコード(参考)】
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J040FA121
4J040HA162
4J040HB09
4J040HB19
4J040JB05
4J040KA17
4J040KA23
4J040MB09
4J100AM05P
4J100FA02
4J100FA03
4J100FA06
4J100JA03
(57)【要約】
【課題】白化を抑制しつつ硬化促進性が確保され、低刺激性である硬化促進剤を提供する。
【解決手段】下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない硬化促進剤:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない硬化促進剤:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水。
【請求項2】
前記(A)成分および前記(B)成分のみからなる、請求項1に記載の硬化促進剤。
【請求項3】
前記(A)成分が、アルコール、ケトン化合物およびエステル化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、請求項1または2に記載の硬化促進剤。
【請求項4】
前記(A)成分が、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノールまたはアセトンを含む、請求項3に記載の硬化促進剤。
【請求項5】
前記(A)成分と前記(B)成分との質量比が10:90~50:50である、請求項1または2に記載の硬化促進剤。
【請求項6】
前記(B)成分のpHが7より高い、請求項1または2に記載の硬化促進剤。
【請求項7】
シアノアクリレート化合物をモノマーとして含有するシアノアクリレート組成物を硬化させるのに使用される、請求項1または2に記載の硬化促進剤。
【請求項8】
人体に適用される用途に使用される、請求項1または2に記載の硬化促進剤。
【請求項9】
前記用途が、人のまつ毛に適用されるまつ毛エクステンションである、請求項8に記載の硬化促進剤。
【請求項10】
請求項1または2に記載の硬化促進剤と、
モノマーを含有する組成物と、
を含む、瞬間接着剤キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシアノアクリレート組成物と組み合わせて使用される硬化促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、接着剤にも人体や環境に配慮したものが求められている。シアノアクリレート組成物は手術でも使用されるが、近年では人体のまつ毛に対して人工まつ毛などの人工繊維を接着するまつ毛エクステンションを施術する人が多いことが知られている。まつ毛エクステンションでは目の近くで施術されるため、特許文献1のように刺激性が低い接着剤が求められている。しかしながら、シアノアクリレート組成物の特性として、成分が揮発して白化することが知られているように、塗布領域の周辺に成分が揮発して硬化する現象が知られている。元来反応性が高いシアノアクリレート組成物であっても、施術の短時間化への要請から硬化の短時間化が求められている。ただし、硬化を短時間化するとシアノアクリレート組成物の保存安定性が極端に低下するという問題がある。一方で、刺激性が高い硬化促進剤を減らすと硬化性が低下するというトレードオフの状態になる。
【0003】
これらの解決手法として、シアノアクリレート組成物の硬化促進成分を、硬化促進剤として機能する別の組成物として構成し、シアノアクリレート組成物と併用することが知られている。しかしながら、このような技術によっても、白化と刺激性の問題は残ると共に、エンジニアリングプラスチックなどを被着体として用いた場合には、浸食が生じて最悪の場合はクラックが発生するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、シアノアクリレート組成物の硬化促進剤としては、人体に影響が出る刺激性が高い成分が含まれており、白化を抑制しつつ硬化促進性を確保し、さらに低刺激性を達成することは困難であった。
【0006】
そこで本発明は、白化を抑制しつつ硬化促進性が確保され、低刺激性である硬化促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、人体に影響が出ない硬化促進剤に関する手法を発見し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨を次に説明する。
【0009】
[1]下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない硬化促進剤:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水;
[2]前記(A)成分および前記(B)成分のみからなる、[1]に記載の硬化促進剤;
[3]前記(A)成分が、アルコール、ケトン化合物およびエステル化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、[1]または[2]に記載の硬化促進剤;
[4]前記(A)成分が、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノールまたはアセトンを含む、[3]に記載の硬化促進剤;
[5]前記(A)成分と前記(B)成分との質量比が10:90~50:50である、[1]~[4]のいずれかに記載の硬化促進剤;
[6]前記(B)成分のpHが7より高い、[1]~[5]のいずれかに記載の硬化促進剤;
[7]シアノアクリレート化合物をモノマーとして含有するシアノアクリレート組成物を硬化させるのに使用される、[1]~[6]のいずれかに記載の硬化促進剤;
[8]人体に適用される用途に使用される、[1]~[7]のいずれかに記載の硬化促進剤;
[9]前記用途が、人のまつ毛に適用されるまつ毛エクステンションである、[8]に記載の硬化促進剤;
[10][1]~[9]のいずれかに記載の硬化促進剤と、
モノマーを含有する組成物と、
を含む、瞬間接着剤キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、白化を抑制しつつ硬化促進性が確保され、低刺激性である硬化促進剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、「~」で数値範囲を表記することがあるが、当該表記の場合は上限値と下限値を含む数値範囲を示す。
【0012】
本発明の詳細を次に説明する。本発明の一形態は、下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない硬化促進剤である:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水。
【0013】
本発明に係る硬化促進剤において使用される(A)成分は、1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤である。(A)成分を使用することで適度にウェットな状態を維持するため、硬化対象物(例えば、シアノアクリレート組成物)が触れた際に後記(B)成分が当該硬化対象物に入り込み、硬化を促進させるものと考えられる。なお、(A)成分の溶剤の1分子内の炭素数の上限値は特に制限されないが、通常は10以下であり、好ましくは6以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは4以下である。よって、(A)成分の溶剤の1分子内の炭素数は、好ましくは2~6であり、より好ましくは2~5であり、さらに好ましくは2~4である。また、1分子内の炭素数が1である溶剤(例えば、メタノール)は必須ではなく、むしろ白化を抑制するという観点からは、本発明に係る硬化促進剤はメタノール等の1分子内の炭素数が1である溶剤を含まないことが好ましい。
【0014】
(A)成分としては、アルコール、ケトン化合物、エステル化合物などの溶剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃であれば単独や複数種類を併用して使用することができる。
【0015】
アルコールの具体例としては、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。ケトン化合物の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。エステル化合物の具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチルなど挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、本発明の作用効果を特に発現させるという観点から、(A)成分は、エタノール、n-プロパノール、n-ブタノールまたはアセトンを含むことが好ましい。
【0016】
ここで、本発明に係る硬化促進剤は、沸点が120℃より高い溶剤を含まない点にも特徴がある。これは、このような溶剤を含むと、硬化物が形成される被着体を浸食し、被着体に対してダメージを与える場合があるためである。
【0017】
本発明に係る硬化促進剤において使用される(B)成分は、水である。特に、(B)成分のpHは6以上であることが好ましく、7より高いことがより好ましく、8以上であることがさらに好ましい。一方、(B)成分のpHの上限値について特に制限はないが、12以下であることが好ましい。pHがアルカリ側であると硬化がさらに促進されるという利点がある。
【0018】
具体的な(B)成分としては、イオン交換水やアルカリ電解水などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。硬化促進性が向上するため、pHが7より高いという点で、(B)成分はアルカリ電解水であることが最も好ましい。一般的には、アルカリ電解水とは、塩化ナトリウム水溶液や炭酸カルシウム水溶液を二室型あるいは三室型の電解槽内で電気分解することで、陰極側に生成される水として製造されるが、当該製造方法に限定されない。
【0019】
白化を抑制しつつ硬化促進性を発現するためには、(A)成分と(B)成分の質量比は10:90~90:10が好ましく、15:85~50:50がより好ましく、20:80~40:60がさらに好ましく、25:75~30:70が最も好ましい。
【0020】
(A)成分および(B)成分以外に、本発明の特性が低下しない範囲で、硬化を促進させるその他の促進成分を添加してもよいが、添加しなくともよい。最も好ましいのは、(A)成分および(B)成分のみからなる硬化促進剤である。
【0021】
その他の促進成分としては、シランカップリング剤、メルカプタン化合物、カルボン酸、アミン化合物、クラウンエーテル、ポリエチレングリコール誘導体、カリックスアレーン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
シランカップリング剤の具体例としては、アミノメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチルアミノメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3-(2-アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3-(2-アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、2-(2-アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、ジメトキシメチル-2-ピリジノエチルシラン、3-モルフォリノプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシメチル-3-ピペラジノプロピルシラン、3-ピペラジノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)尿素、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、2-(2-アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチルアミノメチルベンジロキシジメチルシラン、N-(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)サクシンイミド、3-シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-シクロヘキシルアミノプロピルトリエトキシシラン、ベンジリデン-3-エトキシジメチルシリルプロピルアミン、ジメトキシフェニル-2-ピペリジノエトキシシラン、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-p-ニトロベンズアミド、3-(ビニルベンジルアミノプロピル)トリエトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのシランカップリング剤は、1種または2種以上が硬化促進剤に含まれうるが、含まれなくともよく、含まれないことが好ましい。
【0023】
メルカプタン化合物の具体例としては、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、メルカプトリンゴ酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリセロール、ポリエチレングリコールジメルカプトアセテート、2,2′-ジメチルメルカプトジエチルエーテル、チオグリセロール、ポリエチレングリコールジ-3-メルカプトプロピオネート、ポリエチレングリコールジメルカプトアセテート、ドデシルチオグリコレート、メチルチオグリコレート、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジイソプロピルベンゾチアジル-2-スルフォンアミド、2-チオ-ヒダントイン、2-メルカプト-6-ニトロベンゾチアゾール、チオフェノール、2-ベンゾイミダゾールチオール、3,3-チオプロピオン酸、チオグリコール酸ナトリウム、ポリエチレンジメルカプトアセテート、イソデシルチオグリコレート、メルカプトシラン、ドデカンチオール、メルカプトメチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメチルシラン、ジメトキシ-3-メルカプトプロピルメチルシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、1,3-ビス(3-メルカプトプロピル)テトラメチルジシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのメルカプタン化合物は、1種または2種以上が硬化促進剤に含まれうるが、含まれなくともよく、含まれないことが好ましい。
【0024】
カルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロ酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、トルイル酸、クロロ安息香酸、ブロモ安息香酸、ニトロ安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、サリチル酸、アントラニル酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのカルボン酸は、1種または2種以上が硬化促進剤に含まれうるが、含まれなくともよく、含まれないことが好ましい。
【0025】
アミン化合物の具体例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ジメチルアミノプロピルジエトキシメチルシラン、2-(2-アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、3-[2-(2-アミノエチルアミノエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチルアミノメチルベンジロキシジメチルシラン、N-(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)サクシンイミド、3-シクロヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-シクロヘキシルアミノプロピルトリエトキシシラン、ベンジリデン-3-エトキシジメチルシリルプロピルアミン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシリシン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、チオロキシン、トリプトファン、チロシン、バリンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらのアミン化合物は、1種または2種以上が硬化促進剤に含まれうるが、含まれなくともよく、含まれないことが好ましい。
【0026】
上記その他の促進成分の添加量は、(A)成分と(B)成分との合計の100質量部に対して、例えば0.001~10質量部であり、0.001~1.0質量部であってもよい。その他の促進成分の添加量が10質量部以下であれば臭気が低い。
【0027】
本発明に係る硬化促進剤は、それ自体は硬化しない。本発明に係る硬化促進剤は、あくまで、シアノアクリレート組成物といった硬化対象物の硬化を促進させるのみである。上述したように、本発明に係る硬化促進剤は、シアノアクリレート化合物をモノマー(重合性のモノマー)として含有するシアノアクリレート組成物を硬化させるのに使用されることが好ましい。以下、シアノアクリレート組成物について説明するが、その他の硬化対象物も用いられうる。
【0028】
シアノアクリレート組成物の主成分(重合性のモノマー)であるシアノアクリレート化合物は、下記一般式1で示されるものである。ここで、式中のRは有機基であり、具体的的にはアルキル基、アルケニル基、シクロヘキシル基、アリール基、アルコキシアルキル基などが挙げられ、より具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ベンチル基、アリル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、メトキシプロピル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。シアノアクリレート化合物は単体で使用しても複数種類を混合して使用してもよい。白化を抑制する観点から、Rはアルコキシアルキル基であることが好ましい。
【0029】
【0030】
シアノアクリレート組成物には、特性を損なわない範囲において、カップリング剤、無機充填剤や有機充填剤、顔料、染料などの着色剤、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合してもよいし、配合しなくともよい。これらの添加により樹脂強度、作業性、保存安定性などに優れた組成物またはその硬化物が得られる。
【0031】
本発明に係る硬化促進剤は人体や環境に対する悪影響が低減されるように配慮した硬化促進剤であり、人体に適用される用途に使用されることが好ましい。なかでも、人体に適用される用途としては、人のまつ毛に適用されるまつ毛エクステンションが好ましく例示される。ただし、シアノアクリレート組成物からなる接着剤を使用した手術といった他の用途にも好適に使用することが可能である。
【0032】
本発明に係る硬化促進剤およびシアノアクリレート組成物を用いたまつ毛エクステンションは、一般的に以下の工程1~5で施術される:
工程1:目をつぶった状態で、下まつ毛をほぼ全部を隠すように粘着テープを用いて固定する。
【0033】
工程2:上まつ毛に付着している汚れを、綿棒などに付けた洗剤や溶剤で落とす。
【0034】
工程3:綿棒などを用いて硬化促進剤を上まつ毛に軽くこすりつけて塗布する。
【0035】
工程4:まつ毛エクステンション専用のピンセットであるツイザーを用いて人工毛を挟み、皮膚から1~1.5mm摘まみ上げた上まつ毛にシアノアクリレート組成物により接着する。
【0036】
工程5:送風などを行い、シアノアクリレート組成物をしっかりと硬化させる。
【0037】
なお、本発明の他の実施形態としては、以下のようなものが挙げられる。
【0038】
(1)下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない硬化促進剤を用いてモノマーを硬化させることを含む、モノマーの硬化を促進する方法:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水。
【0039】
(2)下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない組成物の、モノマーの硬化を促進することにおける使用:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水。
【0040】
(3)下記の(A)成分および(B)成分を含み、沸点が120℃より高い溶剤を含まない組成物(すなわち、硬化促進剤)と、
モノマーを含有する組成物と、
を含む、瞬間接着剤キット:
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
(B)成分:水。
【実施例0041】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0042】
[実施例1~6、比較例1~9]
実施例1~6、比較例1~9を調製するために下記成分を準備した。
(A)成分:1分子内の炭素数が2以上で沸点が25~120℃の溶剤
・n-ブタノール(沸点:118℃)(試薬)
・n-プロパノール(沸点:97℃)(試薬)
・アセトン(沸点:56℃)(試薬)
・エタノール(沸点:78℃)(試薬)
(A’)成分:(A)成分以外の溶剤
・メタノール(沸点:64℃)(試薬)
・4-ヒドロキシ-4-メチル-2ーペンタノン(沸点:168℃)(試薬)
・ヒドロキシアセトン(沸点:145℃)(試薬)
(B)成分:水
・炭酸カリウムで処理された水(アルカリ電解水)(pH:12)(株式会社スリーボンド製 ThreeBond6658)
・精製水(pH:7)(共栄製薬株式会社製 精製水)。
【0043】
ビーカーに(A)成分(または(A’)成分)および(B)成分を秤量して、5分間撹拌した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【0044】
【0045】
実施例1~6、比較例1~9を硬化促進剤として、シアノアクリレート組成物と組み合わせて、以下に示す方法を用いて、瞬間接着剤の外観1、瞬間接着剤の外観2、被着体の外観、セットタイム測定を実施した。また、参考例1としてシアノアクリレート組成物のみを使用して同様の試験を行った。その結果を表2にまとめる。
【0046】
[シアノアクリレート組成物の硬化物の外観]
厚さ2.0mm×幅25mm×長さ100mmの鋼板の上に、シアノアクリレート組成物として株式会社スリーボンド製のThreeBond7737を7mg滴下して、すぐに約10mgの硬化促進剤をシアノアクリレート組成物の滴下範囲の内側に滴下する。25℃で55%RH雰囲気下の環境における外観を下記の評価基準に従って判断して「硬化物の外観1」とする。一方、40℃で95%RH雰囲気下の恒温試験器に投入した場合を下記の評価基準に従って判断して「硬化物の外観2」とする。ここで、評価基準の白化とは、シアノアクリレート組成物が硬化する際に組成物の液滴周辺が白くなることを言う。シアノアクリレート組成物の硬化物の外観としては「○」であることが好ましい。
【0047】
評価基準
○・・・問題無し
△・・・シアノアクリレート組成物の滴下範囲の内側に白化を確認
×・・・シアノアクリレート組成物の滴下範囲の外側まで白化を確認。
【0048】
[被着体の外観]
25℃で55%RH雰囲気下にて試験を行う。厚さ2.0mm×幅25mm×長さ100mmのABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)製の試験片に硬化促進剤を15mg滴下して24時間放置して、下記の評価基準に従い滴下した領域の被着体の状態を確認して「被着体の外観」とした。被着体の外観としては「○」であることが好ましい。
【0049】
評価基準
○・・・変化無し
△・・・少し被着体が歪んで溶解している
×・・・被着体に浸食してクラックが入る。
【0050】
[セットタイム]
25℃で55%RH雰囲気下にて試験を行う。厚さ2.0mm×幅25mm×長さ100mmのNBR(アクリロニトリル-ブタジエン共重合体)、鋼板(SPCC-SD)、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)およびPBT(ポリブチレンテレフタレート)の4種類の材質からなる試験片を被着体として使用した。2枚の被着体を使用するが、一方の被着体に硬化促進剤を滴下して綿棒で広げ、その後、硬化促進剤が塗布された領域にシアノアクリレート組成物として株式会社スリーボンド製のThreeBond1786を滴下し、もう一方の被着体を重ね合わせて、25mm×10mmの接着面積を確保して手で押さえる。開始~10秒は1秒毎に、11秒以降は10秒毎に、一方の被着体を手で固定し、もう一方の被着体をせん断方向に軽く引っ張って固定されているか否かの確認を行い、動かなくなった時間を「セットタイム(秒)」とする。NBR、鋼板およびABSに関しては、セットタイムは5秒以内であることが好ましい。また、PBTは難接着材料であることから、セットタイムは200秒以内であることが好ましい。
【0051】
【0052】
実施例1~6と比較例1~3、6~8とを比較すると、明確な理由は明らかではないが、(A)成分に加えて(A’)成分を含む比較例では、硬化物の外観2において白化することが確認された。さらに、実施例1~6と比較例4、5とを比較すると、明確な理由は明らかではないが、(A)成分を含まずに(A’)成分のみを含む比較例では、硬化物の外観2において白化することが確認された。一方、(A’)成分を含まず(A)成分を含む実施例では、硬化物の外観2においても白化が確認されなかった。硬化物の外観1では実施例1~6および比較例1~7において全て「○」であるが、高温多湿の環境下でも使用できるためには、硬化物の外観2でも「○」であることが必要である。
【0053】
また、比較例4~6、8、9では、組成物全体に対して相対的にメタノールや4-ヒドロキシ-4-メチル-2ーペンタノンの割合が高くなると、被着体の外観において「△」や「×」が発生することから被着体へのダメージが大きいことが確認された。
例えばシアノアクリレート組成物等の硬化対象物向けの硬化促進剤はアミン化合物と有機溶剤との組み合わせが主流である。しかしながら、本発明のように、特にpHが7より高いアルカリ電解水と特定の有機溶剤を組み合わせることでアミン化合物を含まない硬化促進剤を実現することが可能となった。よって、本発明に係る技術は、近年様々な業界や分野で取り組まれているVOCや環境対策の一つになる可能性がある。さらには、本発明に係る硬化促進剤は、被着体へのダメージを低下させることができるため様々な被着体に使用することができる。
この出願は、2023年3月24日に出願された、日本国特許出願第2023-047434号の優先権を主張するものであり、その内容は全体として参照により本明細書に組み入れられる。