IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-R-T-B系永久磁石 図1
  • 特開-R-T-B系永久磁石 図2
  • 特開-R-T-B系永久磁石 図3
  • 特開-R-T-B系永久磁石 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137722
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20240927BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240927BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20240927BHJP
   C22C 33/02 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
C22C33/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015723
(22)【出願日】2024-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2023047171
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早川 拓馬
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA04
4K018CA11
4K018DA31
4K018FA08
4K018FA11
4K018KA45
4K018KA58
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN01
(57)【要約】
【課題】 重希土類元素の含有量が少なくても耐食性および磁気特性(特に室温での保磁力および高温での保磁力)が優れたR-T-B系永久磁石を提供する。
【解決手段】 重希土類元素の含有量が0.30質量%以下(0質量%を含まない)であるR-T-B系永久磁石である。少なくとも希土類元素、Fe、Co、Al、Zr、Ga、BおよびCを含み各元素の含有量が所定の範囲内であるR-T-B系永久磁石であるか、R214B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子、および、隣り合う2つ以上の主相粒子によって形成される粒界を有し、粒界中に、R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を有するR-T-B系永久磁石である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも希土類元素、Fe、Co、Al、Zr、Ga、BおよびCを含み、
希土類元素として重希土類元素を含み、
希土類元素の含有量が28.50質量%以上31.50質量%以下、
重希土類元素の含有量が0.30質量%以下(0質量%を含まない)、
Coの含有量が0.20質量%以上0.80質量%以下、
Alの含有量が0.40質量%以上0.85質量%以下、
Zrの含有量が0.21質量%以上0.85質量%以下、
Gaの含有量が0.04質量%以上0.40質量%以下、
Bの含有量が0.90質量%以上1.02質量%以下、
Cの含有量が0.05質量%以上0.11質量%以下、
Oの含有量が0質量%以上0.12質量%以下であるR-T-B系永久磁石。
【請求項2】
質量基準でGaの含有量をAlの含有量で割った値が0.04以上0.59以下である請求項1に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項3】
質量基準でCの含有量をZrおよびBの合計含有量で割った値が0.026以上0.095以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項4】
磁石表面から内部に向かって低下する重希土類元素の濃度分布を有する請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項5】
214B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子、および、隣り合う2つ以上の前記主相粒子によって形成される粒界を有するR-T-B系永久磁石であって、
前記粒界中に、R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を有し、
前記R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部は、Feを含有し、希土類元素の濃度が主相粒子における希土類元素の平均濃度よりも高く、Coの濃度が主相粒子におけるCoの平均濃度よりも高く、Gaの濃度が主相粒子におけるGaの平均濃度よりも高く、かつ、Alの濃度が主相粒子におけるAlの平均濃度よりも高い部分であり、
重希土類元素の含有量が0.30質量%以下(0質量%を含まない)であるR-T-B系永久磁石。
【請求項6】
前記R-T-B系永久磁石の中心付近にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を有する請求項5に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項7】
少なくとも希土類元素、Fe、Co、Al、Zr、Ga、BおよびCを含み、
希土類元素の含有量が28.50質量%以上31.50質量%以下、
Coの含有量が0.20質量%以上0.80質量%以下、
Alの含有量が0.40質量%以上0.85質量%以下、
Zrの含有量が0.21質量%以上0.85質量%以下、
Gaの含有量が0.04質量%以上0.40質量%以下、
Bの含有量が0.90質量%以上1.02質量%以下、
Cの含有量が0.05質量%以上0.11質量%以下、
Oの含有量が0質量%以上0.12質量%以下である請求項5または6に記載のR-T-B系永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Coの含有量が少なく磁気特性および耐食性が優れたR-T-B系永久磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-161812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一側面の目的は、重希土類元素の含有量が少なくても耐食性および磁気特性(特に室温での保磁力および高温での保磁力)が優れたR-T-B系永久磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本開示の一側面に係るR-T-B系永久磁石は、少なくとも希土類元素、Fe、Co、Al、Zr、Ga、BおよびCを含み、
希土類元素として重希土類元素を含み、
希土類元素の含有量が28.50質量%以上31.50質量%以下、
重希土類元素の含有量が0.30質量%以下(0質量%を含まない)、
Coの含有量が0.20質量%以上0.80質量%以下、
Alの含有量が0.40質量%以上0.85質量%以下、
Zrの含有量が0.21質量%以上0.85質量%以下、
Gaの含有量が0.04質量%以上0.40質量%以下、
Bの含有量が0.90質量%以上1.02質量%以下、
Cの含有量が0.05質量%以上0.11質量%以下、
Oの含有量が0質量%以上0.12質量%以下である。
【0006】
質量基準でGaの含有量をAlの含有量で割った値が0.04以上0.59以下であってもよい。
【0007】
質量基準でCの含有量をZrおよびBの合計含有量で割った値が0.026以上0.095以下であってもよい。
【0008】
磁石表面から内部に向かって低下する重希土類元素の濃度分布を有してもよい。
【0009】
上記の目的を達成するため、本開示の他の一側面に係るR-T-B系永久磁石は、R214B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子、および、隣り合う2つ以上の前記主相粒子によって形成される粒界を有するR-T-B系永久磁石であって、
前記粒界中に、R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を有し、
前記R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部は、Feを含有し、希土類元素の濃度が主相粒子における希土類元素の平均濃度よりも高く、Coの濃度が主相粒子におけるCoの平均濃度よりも高く、Gaの濃度が主相粒子におけるGaの平均濃度よりも高く、かつ、Alの濃度が主相粒子におけるAlの平均濃度よりも高い部分であり、
重希土類元素の含有量が0.30質量%以下(0質量%を含まない)である。
【0010】
前記R-T-B系永久磁石の中心付近にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を有してもよい。
【0011】
少なくとも希土類元素、Fe、Co、Al、Zr、Ga、BおよびCを含んでもよく、
希土類元素の含有量が28.50質量%以上31.50質量%以下、
Coの含有量が0.20質量%以上0.80質量%以下、
Alの含有量が0.40質量%以上0.85質量%以下、
Zrの含有量が0.21質量%以上0.85質量%以下、
Gaの含有量が0.04質量%以上0.40質量%以下、
Bの含有量が0.90質量%以上1.02質量%以下、
Cの含有量が0.05質量%以上0.11質量%以下、
Oの含有量が0質量%以上0.12質量%以下であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の模式図である。
図2】試料No.4の磁石の中心付近における元素マッピングである。
図3】試料No.4の磁石の表面近傍における元素マッピングである。
図4】試料No.15の磁石の中心付近における元素マッピングである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0014】
<R-T-B系永久磁石>
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R214B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子を有する。さらに、隣り合う2つ以上の主相粒子によって形成される粒界を有する。特に、2つの隣り合う主相粒子によって形成される粒界を二粒子粒界、3つ以上の主相粒子によって形成される粒界を粒界三重点と呼ぶ。
【0015】
R-T-B系永久磁石およびR214B型結晶構造において、Rは希土類元素、Tは遷移金属元素、Bはホウ素を表す。
【0016】
R-T-B系永久磁石およびR214B型結晶構造にRとして含まれる希土類元素はSc、Yおよびランタノイドであってもよく、Yおよびランタノイドであってもよい。Tとして含まれる遷移金属元素には希土類元素が含まれない。Tとして含まれる遷移金属元素が鉄族元素であってもよい。Bとして含まれるホウ素の一部が炭素に置換されていてもよい。
【0017】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の形状には特に制限はない。
【0018】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、複数の特定の元素を特定の範囲の含有量で含有させることで、残留磁束密度Br、保磁力HcJ、角形比Hk/HcJおよび耐食性を向上させることができる。さらに、室温でのHcJと高温でのHcJとの両方を向上させることができる。なお、Br、Hk/HcJはいずれも室温でのBr、Hk/HcJとする。
【0019】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、重希土類元素の濃度が、前記R-T-B系永久磁石1の外側から内側に向かって低下する濃度分布を有してもよい。重希土類元素の種類には特に制限はない。例えばDyまたはTbであってもよく、Tbであってもよい。
【0020】
具体的には、図1で示すように、本実施形態に係る直方体形状のR-T-B系永久磁石1は表面部および中心部を有し、表面部における重希土類元素の含有量を、中心部における重希土類元素の含有量よりも質量基準で2%以上高くしてもよく、5%以上高くしてもよく、10%以上高くしてもよい。なお、前記表面部とは、R-T-B系永久磁石1の表面をいう。例えば、図1のPOINT C、C´(図1の互いに向かい合う表面の重心)は表面部である。前記中心部とは、R-T-B系永久磁石1の中心をいう。例えば、R-T-B系永久磁石1の厚みの半分の部分をいう。例えば、図1のPOINT M(POINT CとPOINT C´との中点)は中心部である。なお、図1のPOINT C、C´は、R-T-B系永久磁石1の表面のうち最も面積が広い表面の重心、および当該表面に向かい合う表面の重心であってもよい。
【0021】
一般に希土類元素は軽希土類元素と重希土類元素とに分類される。本実施形態に係るR-T-B系永久磁石における軽希土類元素はSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Euであり、重希土類元素はGd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luである。
【0022】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石に前述の重希土類元素の濃度分布を形成させる方法に特に制限はない。例えば、後述する重希土類元素の粒界拡散によりR-T-B系永久磁石内に重希土類元素の濃度分布を形成させることができる。
【0023】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の主相粒子は、コアと、コアを被覆するシェルとからなるコアシェル粒子であってもよい。そして、少なくともシェルには重希土類元素が存在してもよく、DyまたはTbが存在してもよく、Tbが存在していてもよい。
【0024】
重希土類元素をシェルに存在させることで、効率的にR-T-B系永久磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0025】
本実施形態においては、軽希土類元素に対する重希土類元素の割合(重希土類元素/軽希土類元素(モル比))が、主相粒子中心部における前記割合の2倍以上となっている部分をシェルと規定する。なお、主相粒子中心部における前記割合は、例えば、主相粒子の粒子表面からの深さが粒径の30%以上である部分における前記割合としてもよい。
【0026】
シェルの厚みには特に制限はないが、平均で500nm以下であってもよい。また、主相粒子の粒径にも特に制限はないが、平均で1.0μm以上6.5μm以下であってもよい。なお、上記の平均を算出する際には、SEMを用いてR-T-B系永久磁石の断面を観察してもよい。そして、コアシェル粒子が50個以上入る大きさの観察範囲を設定してもよい。そして、観察範囲内の全てのコアシェル粒子についてシェルの厚みを測定し、平均してもよい。また、観察範囲内の全ての主相粒子について粒径を測定し、平均してもよい。なお、観察範囲は例えば100μm×100μmであってもよい。
【0027】
主相粒子を上記のコアシェル粒子とする方法には特に制限はない。例えば、後述する粒界拡散による方法がある。重希土類元素が粒界に拡散し、当該重希土類元素が主相粒子の表面の希土類元素と置換することで重希土類元素の割合が高いシェルが形成され、前記のコアシェル粒子となる。
【0028】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、軽希土類元素として少なくともNdおよびPrから選択される1種以上を含んでもよく、重希土類元素としてDyおよびTbから選択される1種以上を含んでもよい。また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、少なくともNdおよびTbを含むことが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、Nd、Pr、DyおよびTb以外の希土類元素の含有量が合計で0.3質量%以下であってもよく、Nd、PrおよびTb以外の希土類元素の含有量が合計で0.3質量%以下であってもよい。
【0030】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石における希土類元素の合計含有量(TRE)は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、28.50質量%以上31.50質量%以下である。29.50質量%以上31.10質量%以下であってもよい。TREが少ない場合には室温(23±1℃)でのHcJ、高温(100℃以上200℃以下)でのHcJおよびHk/HcJが低下しやすい。TREが多い場合にはBrおよび耐食性が低下しやすい。
【0031】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石における軽希土類元素の合計含有量には特に制限はないが、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、28.25質量%以上31.25質量%以下であってもよく、29.25質量%以上30.85質量%以下であってもよい。
【0032】
R-T-B系永久磁石がNdおよびPrから選択される1種以上を含む場合において、Prの含有量は0.0質量%以上10.0質量%以下であってもよく、0.0質量%以上7.6質量%以下であってもよい。
【0033】
質量基準でPrの含有量をNdとPrとの合計含有量で割った値が0以上0.35以下であってもよい。
【0034】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石はPrを意図的に含まなくてもよい。Prを意図的に含まない場合には高温でのHcJが高くなりやすい。なお、Prを意図的に含まない場合には、不純物としてPrを0.2質量%未満含んでもよく、0.1質量%以下含んでもよい。
【0035】
また、本実施形態のR-T-B系永久磁石は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、重希土類元素の含有量(HRE)が合計で0.30質量%以下(0質量%を含まない)である。重希土類元素が多すぎると原料コストが増大する。さらに、Brが低下しやすくなる。重希土類元素の含有量が合計で0.10質量%以上0.30質量%以下であってもよく、0.15質量%以上0.25質量%以下であってもよい。
【0036】
Coの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.20質量%以上0.80質量%以下である。0.40質量%以上0.70質量%以下であってもよい。Coが多い場合には原料コストが増大しやすい。Coが少ない場合には耐食性が低下しやすい。
【0037】
Feの含有量はR-T-B系永久磁石の実質的な残部である。Feの含有量がR-T-B系永久磁石の実質的な残部であるとは、R-T-B系永久磁石において、前述の希土類元素およびCoと、後述のB、Al、Zr、Ga、Cu、CおよびOと、を除いた残部が実質的にFeのみであるという意味である。例えば、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、希土類元素、Fe、Co、B、Al、Zr、Ga、Cu、CおよびO以外の元素の含有量が合計で1.0質量%以下であってもよい。
【0038】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石におけるBの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.90質量%以上1.02質量%以下である。0.90質量%以上0.98質量%以下であってもよい。Bが少ない場合にはHk/HcJおよび高温でのHcJが低下しやすくなる。Bが多い場合には、HcJおよび高温でのHcJが低下しやすくなる。
【0039】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにAlを含む。Alの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.40質量%以上0.85質量%以下である。0.48質量%以上0.80質量%以下であってもよい。Alが少ない場合には、室温でのHcJおよび高温でのHcJが低下しやすい。Alが多い場合には、Brおよび高温でのHcJが低下しやすい。
【0040】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにZrを含む。Zrの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.21質量%以上0.85質量%以下である。0.32質量%以上0.68質量%以下であってもよい。Zrが少ない場合には、室温でのHcJ、高温でのHcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。Zrが多い場合にはBrが低下しやすくなる。
【0041】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにGaを含む。Gaの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.04質量%以上0.40質量%以下である。0.08質量%以上0.36質量%以下であってもよい。Gaが少ない場合には、室温でのHcJおよび高温でのHcJが低下しやすくなる。Gaが多い場合にはBrが低下しやすくなる。
【0042】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにCuを含んでもよい。Cuの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.03質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0.04質量%以上0.45質量%以下であってもよく、0.05質量%以上0.40質量%以下であってもよい。
【0043】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにCを含む。Cの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.05質量%以上0.11質量%以下である。0.07質量%以上0.09質量%以下であってもよい。Cが少ない場合には、Brが低下しやすくなる。Cが多い場合には室温でのHcJ、高温でのHcJおよびHk/HcJが低下しやすくなる。
【0044】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、さらにOを含んでもよい。Oの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0質量%以上0.12質量%以下である。0.06質量%以上0.11質量%以下であってもよい。Oが少ないR-T-B系永久磁石を製造するためには製造時の雰囲気中の酸素濃度を低下させる必要があるため、Oが少ない場合にはR-T-B系永久磁石の製造コストが上昇しやすい。Oが多い場合にはBr、室温でのHcJおよび高温でのHcJが低下しやすくなる。
【0045】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、質量基準でGaの含有量をAlの含有量で割った値(以下、単にGa/Alと記載することがある)が0.04以上0.59以下であってもよく、0.10以上0.53以下であってもよい。Ga/Alが上記の範囲内であることにより、Br、室温でのHcJ、高温でのHcJ、Hk/HcJおよび耐食性が全て良好なR-T-B系永久磁石が得られやすくなる。
【0046】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、質量基準でCの含有量をZrおよびBの合計含有量で割った値(以下、単にC/(Zr+B)と記載することがある)が0.026以上0.095以下であってもよく、0.031以上0.090以下であってもよい。C/(Zr+B)が上記の範囲内であることにより、Br、室温でのHcJ、高温でのHcJ、Hk/HcJおよび耐食性が全て良好なR-T-B系永久磁石が得られやすくなる。
【0047】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、上記した希土類元素、Fe、Co、Al、Zr、Ga、Cu、B、CおよびO以外の元素を他元素として含んでもよい。他元素の含有量には特に制限はなく、R-T-B系永久磁石の磁気特性や耐食性に大きな影響を与えない量であればよい。例えば、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、それぞれ0.10質量%以下、合計で1.0質量%以下であってもよい。
【0048】
なお、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石中に含まれる各種成分の測定法は、従来から一般的に知られている方法を用いることができる。各種元素量については、例えば、蛍光X線分析および誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP分析)等により測定される。Oの含有量は、例えば、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定される。Cの含有量は、例えば、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定される。
【0049】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の形状には特に制限はない。例えば、直方体、C型などの形状が挙げられる。
【0050】
以下、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の製造方法の一例として、R-T-B系焼結磁石の製造方法について詳しく説明していくが、R-T-B系永久磁石の製造方法はこれに制限されず、その他の公知の方法を用いてもよい。
【0051】
[原料粉末の準備工程]
原料粉末は、公知の方法により作製することができる。本実施形態では、単独の合金を使用する1合金法の場合について説明するが、組成の異なる2種類以上の合金を混合して原料粉末を作製するいわゆる2合金法でもよい。
【0052】
まず、R-T-B系永久磁石の原料合金を準備する(合金準備工程)。合金準備工程では、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の組成に対応する原料金属を公知の方法で溶解した後、鋳造することによって所望の組成を有する原料合金を作製する。
【0053】
原料金属としては、例えば、希土類元素の単体、Fe、Co、Al等の金属元素の単体、複数種類の金属からなる合金(例えばFe-Co合金)、または複数種類の元素からなる化合物(例えばフェロボロン)を適宜、使用することができる。原料金属から原料合金を鋳造する鋳造方法には特に制限はない。磁気特性の高いR-T-B系永久磁石を得るためにストリップキャスト法を用いてもよい。得られた原料合金は、必要に応じて既知の方法で均質化処理を行ってもよい。
【0054】
前記原料合金を作製した後、粉砕する(粉砕工程)。なお、粉砕工程から焼結工程までの各工程の雰囲気は、高い磁気特性を得る観点から、低酸素濃度とすることができる。例えば、各工程での雰囲気中の酸素濃度を200ppm以下としてもよい。各工程の雰囲気中の酸素濃度を制御することで、R-T-B系永久磁石におけるOの含有量を制御することができる。
【0055】
以下、前記粉砕工程として、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粉砕する粗粉砕工程と、粒径が数μm程度になるまで微粉砕する微粉砕工程の2段階で実施する場合を以下に記述するが、微粉砕工程のみの1段階で実施してもよい。
【0056】
粗粉砕工程では、粒径が数百μm~数mm程度になるまで粗粉砕する。これにより、粗粉砕粉末を得る。粗粉砕の方法には特に限定はなく、水素吸蔵粉砕を行う方法や粗粉砕機を用いる方法など、公知の方法で行うことができる。
【0057】
次に、得られた粗粉砕粉末を平均粒子径が数μm程度になるまで微粉砕する(微粉砕工程)。これにより、微粉砕粉末(原料粉末)を得る。前記微粉砕粉末の平均粒径は、1μm以上10μm以下、2μm以上6μm以下、または2μm以上4μm以下であってもよい。
【0058】
微粉砕の方法には特に制限はない。例えば、各種微粉砕機を用いる方法で実施される。
【0059】
前記粗粉砕粉末を微粉砕する際、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド等の各種粉砕助剤を添加することにより、磁場中で加圧して成形する際に結晶粒子が特定の方向に配向しやすい微粉砕粉末を得ることができる。また、粉砕助剤の添加量を変化させることにより、R-T-B系永久磁石におけるCの含有量を制御することができる。
【0060】
[成形工程]
成形工程では、上記微粉砕粉末を目的の形状に成形する。成形方法には特に制限はない。本実施形態では、上記微粉砕粉末を金型内に充填し、磁場中で加圧する。これにより得られた成形体は、結晶粒子が特定方向に配向しているので、よりBrの高いR-T-B系永久磁石が得られる。
【0061】
成形時の加圧は、20MPa以上300MPa以下で行うことができる。印加する磁場は、950kA/m以上とすることができ、950kA/m以上1600kA/m以下とすることもできる。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場とを併用することもできる。
【0062】
なお、成形方法としては、上記のように微粉砕粉末をそのまま成形する乾式成形の他、微粉砕粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形を適用することもできる。
【0063】
微粉砕粉末を成形して得られる成形体の形状には特に制限はない。また、この時点での成形体の密度は4.0Mg/m3~4.3Mg/m3とすることができる。
【0064】
[焼結工程]
焼結工程は、成形体を真空中または不活性ガス雰囲気中で焼結し、焼結体を得る工程である。焼結条件は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要がある。例えば、成形体に対して、例えば、真空中または不活性ガス雰囲気中、1000℃以上1200℃以下、1時間以上20時間以下で加熱する処理を行うことにより焼結する。上記の焼結条件で焼結することにより、高密度の焼結体が得られる。本実施形態では、少なくとも7.45Mg/m3以上の密度の焼結体を得る。焼結体の密度は7.50Mg/m3以上であってもよい。
【0065】
[時効処理工程]
時効処理工程は、焼結体を焼結温度より低温で熱処理(時効処理)する工程である。時効処理を行うか否かには特に制限はなく、時効処理の回数にも特に制限はない。以下、時効処理を2回行う実施形態について説明する。
【0066】
1回目の時効工程を第一時効工程、2回目の時効工程を第二時効工程とし、第一時効工程の時効温度をT1、第二時効工程の時効温度をT2とする。
【0067】
第一時効工程におけるT1および時効時間には、特に制限はない。T1は700℃以上950℃以下とすることができる。時効時間は1時間以上10時間以下とすることができる。
【0068】
第二時効工程におけるT2および時効時間には、特に制限はない。T2は450℃以上700℃以下とすることができる。時効時間は1時間以上10時間以下とすることができる。
【0069】
[加工工程(粒界拡散前)]
必要に応じて、本実施形態に係る焼結体を所望の形状に加工する工程を有してもよい。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0070】
[粒界拡散工程]
粒界拡散工程は、焼結体の表面に、拡散材を付着させ、拡散材が付着した焼結体を加熱することにより、実施できる。そして、R-T-B系永久磁石が得られる。本実施形態では、拡散材の種類には特に制限はない。拡散材が重希土類元素(例えばTb)の水素化物を含んでもよく、拡散材が重希土類元素とCuとを含んでもよい。
【0071】
粒界拡散工程では、温度上昇に伴い、磁石基材(焼結体)の粒界に存在する希土類元素の濃度が高い粒界相が液相となり、その液相へ拡散材が溶解することにより、拡散材の成分が磁石基材の表面から磁石基材の内部へと拡散する。
【0072】
本実施形態に係る磁石基材はAlの含有量が所定の範囲内であるなどの特徴を有する。本実施形態に係る拡散材は上記の特徴を有する。
【0073】
そのため、本実施形態では加熱時に生じる液相がAlを所定の範囲内で含む。そして、磁石基材がAlを含まない場合と比較すると、Alを含有する磁石基材では拡散材の成分と液相との反応速度が低下する。また、重希土類元素の主相粒子への体積拡散が抑制されるため、重希土類元素が磁石基材の中心部まで拡散されやすくなる。このため、比較的小さい重希土類元素の拡散量で良好な特性が得られる。
【0074】
また、粒界拡散前の磁石基材では、主相粒子と粒界相とでAlの濃度が同程度である。したがって、粒界拡散時において主相粒子近傍の界面整合性が高い微細組織となる。そのため、時効処理の有無に関わらず十分に高い特性、特に十分に高い保磁力が得られると考えられる。時効処理を行わない場合には製造コストが低減できる。
【0075】
拡散材は、上記の重希土類元素の水素化物等に加えて溶媒を含むスラリーであってもよい。スラリーに含まれる溶媒は、水以外の溶媒であってもよい。例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン等の有機溶媒であってもよい。さらに、拡散材は、バインダを含んでもよい。バインダの種類には特に制限はない。例えば、アクリル樹脂等の樹脂をバインダとして含んでもよい。バインダを含むことにより、拡散材が焼結体の表面に付着しやすくなる。
【0076】
拡散材は、上記の重希土類元素の水素化物等に加えて溶媒およびバインダを含むペーストであってもよい。ペーストは、流動性および高い粘性を有する。ペーストの粘性は、スラリーの粘性よりも高い。
【0077】
後述する拡散処理前にスラリーまたはペーストを付着させた焼結体を乾燥させて溶媒およびバインダを除去してもよい。
【0078】
乾燥時の保持温度は200℃以上800℃以下であってもよく、保持時間は10分以上10時間以下であってもよい。乾燥時の雰囲気は不活性ガス中とする。スラリーまたはペーストを付着させた焼結体を乾燥させることにより、磁石基材の表面に形成される重希土類元素の炭化物の生成を抑制することができ、重希土類元素の使用量をさらに低減することができる。
【0079】
本実施形態に係る粒界拡散工程における拡散処理は、上記の乾燥から連続して実施してもよい。また、上記の乾燥後に一度、室温に冷却してから改めて加熱して実施してもよい。拡散処理時の保持温度は、700℃以上1000℃以下であってもよい。粒界拡散工程では、拡散処理温度よりも低い温度から拡散処理温度に至るまで、磁石基材の温度を徐々に上昇させてよい。
【0080】
基材の温度が拡散処理温度で維持される時間(拡散処理時間)は、例えば、1時間以上50時間以下であってよい。拡散処理工程における基材周囲の雰囲気は、非酸化的雰囲気であってよい。非酸化的雰囲気は、例えば、アルゴン等の希ガスであってよい。拡散工程における磁石基材周囲の雰囲気の圧力は、1kPa以下であってよい。このような減圧雰囲気とすることで、水素化物の脱水素反応が促進され、液相への拡散材の溶解が進行しやすい。
【0081】
[加工工程(粒界拡散後)]
粒界拡散工程の後には、R-T-B系永久磁石の表面に残存する拡散材を除去するために研磨を行ってもよい。また、R-T-B系永久磁石に対してその他の加工を行ってもよい。例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などの表面加工を行ってもよい。
【0082】
なお、本実施形態では、粒界拡散前および粒界拡散後の加工工程を行っているが、これらの工程は、必ずしも行う必要はない。
【0083】
特に、粒界拡散を行った後のR-T-B系永久磁石は、重希土類元素の濃度が、R-T-B系永久磁石の外側から内側に向かって低下する濃度分布を有しやすい。また、粒界拡散を行った後のR-T-B系永久磁石に含まれる主相粒子は上記のコアシェル構造を有しやすい。
【0084】
このようにして得られる本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、所望の特性を有する。具体的には、Br、室温でのHcJ、高温でのHcJおよびHk/HcJが高く、耐食性も優れている。
【0085】
以上の方法により得られた本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、着磁することにより、磁気を帯びたR-T-B系永久磁石となる。
【0086】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、モーター、発電機等の用途に好適に用いられる。
【0087】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明するが、特に記載のない事項については第1実施形態と同様である。
【0088】
<R-T-B系永久磁石>
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R214B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子を有する。さらに、隣り合う2つ以上の主相粒子によって形成される粒界を有する。特に、2つの隣り合う主相粒子によって形成される粒界を二粒子粒界、3つ以上の主相粒子によって形成される粒界を粒界三重点と呼ぶ。
【0089】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部が形成されていても良い。R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部は、Feを含有し、希土類元素の濃度が主相粒子における希土類元素の平均濃度よりも高く、Coの濃度が主相粒子におけるCoの平均濃度よりも高く、Gaの濃度が主相粒子におけるGaの平均濃度よりも高く、かつ、Alの濃度が主相粒子におけるAlの平均濃度よりも高い部分である。
【0090】
R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部は磁石の中心付近に形成されていても良い。磁石が直方体などの形状を有する場合には、磁石と重心の位置が同一であり、磁石と略相似形状を有し、かつ、体積が磁石の50%である領域を磁石の中心付近としても良い。また、磁石の断面を観察する場合には、当該磁石の断面において、磁石と重心の位置が同一であり、磁石と略相似形状を有し、かつ、面積が磁石の50%である領域を磁石の中心付近としても良い。磁石がC型などの形状を有する場合には、磁石の全ての表面から磁石厚みの10%以上内側の領域を磁石の中心付近としても良い。磁石がC型形状を有する場合には、磁石の内弧から外弧へ略垂線を引く場合に最も長い距離を磁石厚みとしてもよい。磁石の中心付近以外の部分を磁石の表面近傍としてもよい。粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部が形成されることで高い耐食性およびHcJを得ることができる。
【0091】
磁石の粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部が形成されることにより比較的耐食性が低いR-O相の比率が低下するために、磁石の耐食性が向上すると考えられる。なお、R-O相とは、Rの濃度が主相におけるRの平均濃度よりも高く、かつ、Oの濃度が主相におけるOの平均濃度よりも高い相を指す。R-O相がさらにR、O以外の元素、例えばC、N等を含んでもよい。
【0092】
磁石の粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部が形成される場合には後述する粒界拡散によりHcJが高い磁石が得られる。Tbを粒界拡散させる場合においてR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部がR-O相と比較してTbを含有しにくいため、R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を粒界に分散させることでTbが効率よく磁石内部まで拡散し、磁石のHcJが向上すると考えられる。
【0093】
本実施形態においては、上記の第1実施形態とは異なり、R-T-B系永久磁石の組成については、重希土類元素の含有量以外には特に制限はない。R-T-B系永久磁石の粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部が形成されることを考慮すれば、少なくともR、Fe、Co、GaおよびAlを含む。さらに、重希土類元素を含む。重希土類元素の含有量は第1実施形態と同様である。
【0094】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石における希土類元素の合計含有量(TRE)は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、28.50質量%以上31.50質量%以下であってもよく、29.50質量%以上31.10質量%であってもよい。
【0095】
Coの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.20質量%以上0.80質量%以下であってもよく、0.40質量%以上0.70質量%以下であってもよい。
【0096】
Feの含有量はR-T-B系永久磁石の実質的な残部であってもよい。
【0097】
Bの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.90質量%以上1.02質量%以下であってもよく、0.90質量%以上0.98質量%以下であってもよい。Bの含有量が0.90質量%以上であることにより、二粒子粒界の平均厚みが30nm以下になりやすい。
【0098】
Alの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.40質量%以上0.85質量%以下であってもよく、0.48質量%以上0.80質量%以下であってもよい。
【0099】
Zrの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.21質量%以上0.85質量%以下であってもよく、0.32質量%以上0.68質量%以下であってもよい。
【0100】
Gaの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.04質量%以上0.40質量%以下であってもよく、0.08質量%以上0.36質量%以下であってもよい。
【0101】
Cuの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.03質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0.04質量%以上0.45質量%以下であってもよく、0.05質量%以上0.40質量%以下であってもよい。
【0102】
Cの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0.05質量%以上0.11質量%以下であってもよく、0.07質量%以上0.09質量%以下であってもよい。
【0103】
Oの含有量は、R-T-B系永久磁石全体の質量を100質量%として、0質量%以上0.12質量%以下であってもよく、0.06質量%以上0.11質量%以下であってもよい。
【0104】
以下、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の製造方法の一例として、R-T-B系焼結磁石の製造方法について説明する。本実施形態に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法は、下記の点を除いて第1実施形態に係るR-T-B系焼結磁石の製造方法と同様である。
【0105】
2合金法を採用する場合において、粒界相合金のAl量を3質量%以上とすることで粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を形成しやすい。
【0106】
第二時効工程における時効時間を5時間以下としてもよい。時効時間を5時間以下とすることによりR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部を磁石の中心付近に形成しやすい。
【0107】
なお、本開示は、上述した実施形態に制限されるものではなく、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【0108】
R-T-B系永久磁石の製造方法は上記の方法に制限されず、適宜変更してもよい。例えば、上記のR-T-B系永久磁石の製造方法は焼結による製造方法であるが、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は熱間加工によって製造されていてもよい。熱間加工によってR-T-B系永久磁石を製造する方法は、以下の工程を有する。
(a)原料金属を溶解し、得られた浴湯を急冷して薄帯を得る溶解急冷工程
(b)薄帯を粉砕してフレーク状の原料粉末を得る粉砕工程
(c)粉砕した原料粉末を冷間成形する冷間成形工程
(d)冷間成形体を予備加熱する予備加熱工程
(e)予備加熱した冷間成形体を熱間成形する熱間成形工程
(f)熱間成形体を所定の形状に塑性変形させる熱間塑性加工工程
(g)R-T-B系永久磁石を時効処理する時効処理工程
時効処理工程は省略してもよい。時効処理工程以降の工程は焼結により製造する場合と同様である。
【実施例0109】
以下、本開示を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示は、これら実施例に限定されない。
【0110】
(R-T-B系永久磁石の作製)
ストリップキャスト法により、最終的に得られるR-T-B系永久磁石の組成が表1~表3に示す各試料の組成となるように原料合金を作製した。Prの含有量は0質量%以上12質量%以下であった。Tbは原料合金には含ませず、後述する拡散材ペーストのみに含ませた。表1~表3に記載していない他元素としてN、H、Si、Ca、La、Ce、Cr等が検出される場合がある。Siは主にフェロボロン原料および合金溶解時のるつぼから混入する可能性がある。Ca、La、Ceは希土類の原料から混入する可能性がある。また、Crは電解鉄から混入する可能性がある。表1~表3においてFeの含有量をbal.と記載しているのは、Feの含有量がこれらの他元素を含むR-T-B系永久磁石全体を100質量%とした場合の実質的な残部であることを示すためである。
【0111】
次いで、前記原料合金に対して室温で1時間、水素ガスをフローさせて水素を吸蔵させた。次いで雰囲気をArガスに切り替え、500℃で1時間、脱水素処理を行い、原料合金を水素吸蔵粉砕した。
【0112】
次いで、原料合金の粉末に対し、質量比で0.1%のオレイン酸アミドを粉砕助剤として添加し、ナウタミキサを用いて混合した。
【0113】
次いで、衝突板式のジェットミル装置を用いて窒素気流中で微粉砕し、平均粒径が3.0μm程度である微粉(原料粉末)を得た。なお、前記平均粒径は、レーザ回折式の粒度分布計で測定した平均粒径D50である。
【0114】
得られた微粉を磁界中で成形して成形体を作製した。このときの印加磁場は1200kA/mの静磁界である。また、成形時の加圧力は120MPaとした。なお、磁界印加方向と加圧方向とを直交させるようにした。
【0115】
次に、前記成形体を焼結し、焼結体を得た。焼結条件は、組成等により最適条件が異なるが、1030℃~1070℃の範囲内で4時間保持とした。焼結雰囲気は真空中とした。このとき焼結密度は7.51Mg/m3~7.55Mg/m3の範囲にあった。以上より、粒界拡散により表1~表3に示す各試料が得られる焼結体を作製した。
【0116】
(拡散材ペーストの作製)
次に、粒界拡散に用いる拡散材ペーストを作製した。
【0117】
まず、純度99.9%の金属Tbに対して室温で水素ガスをフローさせて水素を吸蔵させた。次いで雰囲気をArガスに切り替え、500℃で1時間、脱水素処理を行い、金属Tbを水素吸蔵粉砕した。次に、粉砕助剤として、ステアリン酸亜鉛を金属Tb100質量%に対して0.05質量%を添加し、ナウタミキサを用いて混合した。その後、酸素3000ppmを含んだ雰囲気中、ジェットミルを用いて微粉砕を行い、平均粒径が10.0μm程度であるTb水素化物の微粉砕粉末を得た。
【0118】
Tb水素化物の微粉砕粉末60質量部と、金属Cu粉末10質量部と、アルコール25質量部と、アクリル樹脂5質量部と、を混練し、拡散材ペーストを作製した。なお、アルコールは溶媒であり、アクリル樹脂はバインダである。
【0119】
(拡散材ペーストの塗布および熱処理)
上記の焼結体を、縦11mm×横11mm×厚み4.2mm(磁化容易軸方向厚み4.2mm)に加工した。そして、エタノール100質量%に対し硝酸3質量%とした硝酸とエタノールとの混合溶液に3分間浸漬させた後にエタノールに1分間浸漬するエッチング処理を行った。混合溶液に3分間浸漬させた後にエタノールに1分間浸漬させるエッチング処理は2回行った。
【0120】
次いで、エッチング処理後の焼結体の全面に対し、上記の拡散材ペーストを塗布した。拡散材ペーストの塗布量は、最終的に得られるR-T-B系永久磁石におけるTbの含有量が表1~表3に記載の値となるようにした。
【0121】
次に、焼結体を乾燥した。具体的には、拡散材ペーストを塗布した焼結体をArガス雰囲気中、400℃のオーブン中に3時間、放置し、拡散材ペースト中の溶媒およびバインダを除去した。そして、大気圧(1atm)でArをフローしながら900℃で30時間、加熱した。さらに、大気圧(1atm)でArをフローしながら500℃で1時間加熱することで時効処理を行った。以上より、表1~表3に示す各試料のR-T-B系永久磁石を得た。
【0122】
R-T-B系永久磁石の表面を各面あたり0.1mm削り落とした後に、組成、微細組織、元素分布、磁気特性および耐食性を評価した。
【0123】
R-T-B系永久磁石をバーチカルにより縦11mm×横11mm×厚さ4.2mm(磁化容易軸方向が4.2mm)に加工し、BHトレーサーで室温での磁気特性の評価を行った。なお、磁気特性の測定前に4000kA/mのパルス磁場によりR-T-B系永久磁石を着磁した。また、R-T-B系永久磁石の厚みが薄いため、磁石を3枚重ねて磁気特性を評価した。なお、本実施例ではHk/HcJは磁化J-磁場H曲線の第2象限(J-H減磁曲線)において、磁化がBrの90%となったときの磁場をHk(kA/m)として、Hk/HcJ×100(%)で計算した。また、高温でのHcJ、すなわち150℃に加熱した場合のHcJも測定した。
【0124】
本実施例では、R-T-B系永久磁石のBrは1400mT以上を良好とし、1410mT以上をさらに良好とした。R-T-B系永久磁石の室温でのHcJは1850kA/m以上を良好とし、1900kA/m以上をさらに良好とした。R-T-B系永久磁石の高温HcJは700kA/m以上を良好とし、715kA/m以上をさらに良好とした。R-T-B系永久磁石のHk/HcJは93.0%以上を良好とし、95.0%以上をさらに良好とした。
【0125】
R-T-B系永久磁石の微細組織および元素分布を確認した。具体的には、日本電子株式会社製のフィールドエミッション型のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、微細組織の観察および元素マッピングを行った。観察サンプルは、磁石の中心付近を含み一辺10mm以下の立方体に収まるように磁石を切断し、切断後の磁石に対して樹脂包埋後に鏡面研磨することにより作製した。測定条件は加速電圧15kV、照射電流100nAとし、倍率2000倍で51.2μm×51.2μmの視野を観察対象とした。
【0126】
R-T-B系永久磁石に対し、耐食性試験を行った。耐食性試験は、飽和蒸気圧下におけるPCT試験(プレッシャークッカー試験:Pressure Cooker Test)により実施した。具体的には、R-T-B系永久磁石を2気圧、100%RHの環境下に1000時間おいて、試験前後での質量変化を測定した。R-T-B系永久磁石の表面積あたりの質量変化の絶対値が0.3mg/cm2以下である場合に耐食性が良好であるとし、0.1mg/cm2以下である場合に耐食性がさらに良好であるとした。なお、R-T-B系永久磁石自体が粉々に崩壊した場合については、耐食性の欄に崩壊と記載した。
【0127】
表1~表3の各試料について総合評価を行った。Br、室温でのHcJ、高温でのHcJ、Hk/HcJおよび耐食性が全てさらに良好である場合をAとした。Br、室温でのHcJ、高温でのHcJ、Hk/HcJまたは耐食性が良好ではない場合をCとした。上記のいずれでもない場合をBとした。結果を表1~表3に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
【表2】
【0130】
【表3】
【0131】
表1~表3より、全ての組成が特定の範囲内である各実施例は良好な磁気特性および耐食性が得られた。
【0132】
表1より、Alの含有量が少なすぎる試料No.14、15は室温でのHcJおよび高温でのHcJが低下した。Coの含有量が少なすぎる試料No.20は耐食性が低下した。
【0133】
表2より、Gaの含有量が少なすぎる試料No.33は室温でのHcJおよび高温でのHcJが低下した。
【0134】
表3より、HREが多すぎる試料No.53はBrが低下した。
【0135】
なお、全ての実施例および比較例のR-T-B系永久磁石について、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いてTb濃度分布を分析し、Tbの濃度分布が、外側から内側に向かって低下する濃度分布であることを確認した。
【0136】
全ての実施例のR-T-B系永久磁石について、二粒子粒界の平均厚みが30nm以下であることを確認した。
【0137】
図2には試料No.4の磁石の中心付近として磁石表面から2mmの部分の、図3には試料No.4の磁石の表面近傍として磁石表面から100μmの部分の、図4には試料No.15の磁石の中心付近として磁石表面から2mmの部分の、EPMAによる元素マッピングの結果をそれぞれ示す。各図面は、左からNdマッピング画像、Tbマッピング画像、Feマッピング画像、Coマッピング画像、Gaマッピング画像、Alマッピング画像の順番に並べている。Alマッピング画像にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11の位置を示す。図2図3の元素マッピングの結果より、試料No.4の磁石においては粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11が存在することがわかる。なお、図2から図4の元素マッピングにおいてR、Fe、Co、GaおよびAlの濃度が高い部分が一致している領域がR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11である。特に、磁石の表面近傍と比較して磁石の中心付近の粒界にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11が多く存在している。一方で、試料No.15においては粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11が見られなかった。
【0138】
また、全ての実施例の磁石においては、試料No.4の磁石と同様に粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11が存在し、特に、磁石の表面近傍と比較して磁石の中心付近の粒界にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11が多く存在していることが確認された。一方、試料No.14、20、33においては試料No.15と同様に粒界中にR-Fe-Co-Ga-Al濃縮部11が見られないことが確認された。
【符号の説明】
【0139】
1…R-T-B系永久磁石
11…R-Fe-Co-Ga-Al濃縮部
図1
図2
図3
図4