(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137734
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/00 20060101AFI20240927BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240927BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240927BHJP
B22F 9/04 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C22C19/00 F
B22F1/00 M
H01M4/38 A
B22F9/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024020078
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2023048801の分割
【原出願日】2023-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】大塚 亮
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5H050
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA03
4K017BB01
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB12
4K017BB13
4K017BB18
4K017CA07
4K017DA09
4K017EA03
4K017FA03
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD07
4K018KA38
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA14
5H050CB17
5H050HA00
5H050HA02
5H050HA03
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】ニッケル水素電池の負極として用いられるCo含有CaCu5型水素吸蔵合金について、Co含有量低減による原料コスト抑制と、負極の寿命特性とを両立させることを課題とする。
【解決手段】
一般式MmNi
aMn
bAl
cCo
d(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.50、0.25≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表されるCaCu
5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、前記一般式で表される構成原子の一部が他の置換元素Xで置換されており、該水素吸蔵合金の結晶格子体積に占める各構成原子の体積を差し引いたものを結晶格子体積で除して求めた格子内空隙率が23.20%以上23.70%以下であることを特徴とする水素吸蔵合金である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.50、0.25≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表されるCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、前記一般式で表される構成原子の一部が他の置換元素Xで置換されており、下記の式で表される格子内空隙率が23.20%以上23.70%以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。
格子内空隙率=(結晶格子体積-構成原子の総体積)/結晶格子体積×100
【請求項2】
前記一般式で表される構成原子のうち、Ni、Mn及びAlからなる群から選ばれた1つ以上の対象元素Y2が前記置換元素Xで置換されて、組成式MmNia-a1Mnb-b1Alc-c1XeCod(式中、e=a1+b1+c1、5.20≦a+b+c+d+e≦5.55)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記X原子は、置換される対象の原子よりも金属結合半径が大きいものであることを特徴とする請求項2記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
MmがCeよりも原子半径の小さい希土類金属を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項5】
該水素吸蔵合金の微粉化難度が、0.55以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金を負極活物質としたことを特徴とする負極。
【請求項7】
請求項6に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素電池の負極として用いられるCaCu5型の結晶構造を有する水素吸蔵合金に関する。更に本発明は、この水素吸蔵合金を用いた負極およびこの負極を使用した電池に関する。
【背景技術】
【0002】
負極に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素電池は、1990年代前半に商品化され、その後、広く普及している。
【0003】
ニッケル水素電池は、商品化当初は携帯電話やノートパソコンの電源として活躍していたが、その後は、徐々に小型で軽量なリチウムイオン電池へと置き換えられ、現在では、低廉さと安全性の高さ、及び、体積当りのエネルギー密度とのバランスの良さなどから、玩具、小型機器、更にはハイブリッド自動車などに用いられている。
【0004】
このようなニッケル水素電池に用いられる水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金である。この水素吸蔵合金は、室温付近で多量の水素を可逆的に吸蔵・放出することができる。
【0005】
水素吸蔵合金としては、LaNi5に代表されるAB5型合金、ZrV0.4Ni1.5に代表されるAB2型合金のほか、AB型、A2B型、AB3型などの様々なタイプの合金が知られている。これらの合金は、水素との親和性が高く水素吸蔵量を高める役割を果たす元素グループ(希土類元素,Ca,Mg,Ti,Zr,V,Nb,Pt,Pd等)と、水素との親和性が比較的低く吸蔵量は少ないが、水素化反応が促進して反応温度を低くする役割を果たす元素グループ(Ni,Mn,Co,Al等)との組合せで構成されている。
【0006】
これらの中で、CaCu5型結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金、例えば、Aサイトに希土類系の混合物であるミッシュメタル(以下「Mm」という。)を用い、BサイトにNi,Mn,Co,Al等の元素を用いた合金は、他の組成の合金に比べて、比較的安価な材料で負極を形成することができる。
【0007】
AB5型水素吸蔵合金では、Aサイト原子量に対するBサイト原子量の割合(AB比)、及びNiの一部をCo、Mn、Al等の置換量を調整することにより、それを用いた負極の充放電容量、入出力特性、サイクル寿命などの様々な特性を調整することができる。そのような特徴をもつAB5型水素吸蔵合金は、様々な用途に応じたニッケル水素蓄電池を造り分けすることを可能としている。
【0008】
ハイブリッド自動車を普及拡大させるためには、ニッケル水素電池の製造コストを低く抑え、負極の寿命特性および入出力特性をさらに向上させる必要がある。そのひとつに、高価であるCoの使用量を可能な限り低減したAB5型水素吸蔵合金にて、寿命特性の維持向上を目的として、合金中の「偏析相」に着目した検討がある。
【0009】
例えば、特許文献1において、水素吸蔵合金電極の活物質として、CaCu5型の結晶構造を有し、MmMgNiCoMnAlからなる水素吸蔵合金粉末であって、少なくとも水素吸蔵合金粉末の内部にMgNiCoMnAl合金相からなる微細な偏析相が分散して存在している水素吸蔵合金粉末を適用する。また、好ましくは、前記水素吸蔵合金粉末の表面に、NiとCoの合金からなる表面層を備えた水素吸蔵合金粉末を適用することが提案されている。このようにすることで、水素吸蔵合金粉末の微細化が抑制されるとしている。
【0010】
また、特許文献2において、La量が60~90wt%のミッシュメタル、Mg、Ni、Co、Mn及びAlを含み、ミッシュメタルとMgの合計量を基準として、Mg量が2~6原子%である水素吸蔵合金であって、母相中に少なくとも一相の偏析相が存在し、該偏析相中のMg濃度が母相中のMg濃度より高いことを特徴とする希土類系水素吸蔵合金が提案されている。このようにすることで、電池活性化時に合金中の偏析相が選択的に腐食されて、偏析相付近から表面積が増大し、早期に合金が活性化されるとしている。
【0011】
また、特許文献3において、負極活物質として、Mm(Mmは30重量%以上のLaを含む2種類以上の希土類元素の混合物を表す)と、少なくともNi、Co、Mn及びAlを構成元素とする水素吸蔵合金であって、上記水素吸蔵合金中にNiを主体とする偏析相を有し、かつ合金断面の任意の15μm平方の領域に露出する偏析相の数(ただし、偏析相に最小直径で外接する円の直径が0.05μm以上の偏析相の数)が1~40である水素吸蔵合金を用いることが提案されている。このようにすることによって、高容量で、低温での高率放電が可能であり、かつ高温貯蔵特性が優れるとしている。
【0012】
そして、特許文献4において、CaCu5型結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)で点分析した時の母相のFeピーク強度に対する、偏析相のFeピーク強度の比率であるFeピーク強度比[{(偏析のFeピーク強度)/(母相のFeピーク強度)}×100(%)]と、母相のMnピーク強度に対する、偏析相のMnピーク強度の比率であるMnピーク強度比[{(偏析相のMnピーク強度)/(母相のMnピーク強度)}×100(%)]との比率であるFe/Mnピーク比[Fe/Mn比]が、0.12<[Fe/Mn比]<0.37であることを特徴とする水素吸蔵合金が提案されている。これは、Feを含有することで微粉化特性(寿命特性)が良好になることが知られていることから、Niの一部をFeで置換することで、優れたサイクル特性を得るとしている。詳しくは、該偏析相が、母相の水素吸蔵・放出に伴う格子の膨張・収縮による歪みを緩和する役割(クッションの役割)を果たしているとしている。
【0013】
さらに、特許文献5において、一般式MmNix My(Mmはミッシュメタルまたは希土類元素の混合物、MはAl、Mn、Co、Cu、Fe、Cr、TiおよびVよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、5.0≦x+y≦5.5)で表され、その合金組織が、CaCu5型の結晶構造を有し水素を可逆的に吸蔵放出する相と、Mm以外の元素を主成分とし水素を吸蔵しない1種または複数の相からなり、後者の相が前者の相中に島状に分散している水素吸蔵合金が提案されている。そのようにすることで、多量のCoを含まなくとも長寿命と優れた高率放電特性を兼ね備えるとしている。すなわち、これらにおいてNiの一部をFeやCrが置換した組成を有するものが挙げられており、その結果、水素を吸蔵しない相が、水素を吸蔵する相自体を応力に強い構造にするとしている。
【0014】
さらに、特許文献6において、LaとCeからなるMm(ミッシュメタル)がAサイトを占め、Ni、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlがBサイトを占めるAB5型の水素吸蔵合金で、Co含有量をCo/Mmモル比で0.11以下に低減し、Al/Mnモル比を0.35~1.10、該結晶のc軸長/a軸長が0.8092以上にすると、Co量を低下させつつ、ニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合に電池の寿命特性の低下を防ぐことができるとしている。上記の記述通りだと、AサイトはLaとCeのみが占めることになっているが、ABxのモル比xが5.0以上の組成においてはCaCu5型の結晶構造を形成させるのは極めて困難である。なぜなら、AサイトをLaとCeのみにしてABxモル比が5+αである場合には、結晶構造を[A5/(5+α)VA
1-5/(5+α)]B5としてAサイトに1-5/(5+α)だけAサイト空孔を形成させる必要があるが、実際には、一部のB原子がAサイトの一部を占めることになるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005-93297号公報
【特許文献2】特開2004-269929号公報
【特許文献3】特開2000-353542号公報
【特許文献4】特開2009-30158号公報
【特許文献5】特開平7-286225号公報
【特許文献6】WO2021-220824
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記の通り、寿命特性の維持向上の検討がなされているが、近年Coの取引価格が高騰するなか、Coを含有するAB5型水素吸蔵合金の原料コストを維持あるいは低減するためには、Coの含有率を更に低減する、又はゼロにすることが望まれている。
【0017】
しかしながら、AB5型水素吸蔵合金のCo含有率を低減すると、水素の吸蔵放出が繰り返されることによる合金の微粉化が促進し、負極の寿命特性が低下する傾向がある。先の特許文献1~6の例では偏析相に着目し、一部の構成原子を他の元素で置換するなどして寿命特性の維持を図っているものの、実際には、ある程度のCoが含有されており、Co含有量の低減と、負極の寿命特性を両立させるためには、更なる検討が必要である。
【0018】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金について、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制することができる水素吸蔵合金および水素吸蔵合金を用いた負極、電池を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究し、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金において、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、Coによる微粉化抑制効果を代替する方法を検討した結果、水素吸蔵合金を構成する原子の充填によって形成される結晶格子内の格子内空隙率を十分確保して水素原子が入っても体積変化が小さくなるようにすれば、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制することができるという考えに至った。その上で、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金の構成原子の一部をある元素Xで置換して、格子内空隙率を所定の範囲で確保するようにすることで、Co含有量の低減と微粉化抑制を両立することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0021】
(1)一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.50、0.25≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表されるCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、前記一般式で表される構成原子の一部が他の置換元素Xで置換されており、下記の式で表される格子内空隙率が23.20%以上23.70%以下であることを特徴とする水素吸蔵合金。
格子内空隙率=(結晶格子体積-構成原子の総体積)/結晶格子体積×100
(2)前記一般式で表される構成原子のうち、Ni、Mn及びAlからなる群から選ばれた1つ以上の対象元素Y2が前記置換元素Xで置換されて、組成式MmNia-a1Mnb-b1Alc-c1XeCod(式中、e=a1+b1+c1、5.20≦a+b+c+d+e≦5.55)を満たすことを特徴とする(1)に記載の水素吸蔵合金。
(3)前記X原子は、置換される対象の原子よりも金属結合半径が大きいものであることを特徴とする(2)に記載の水素吸蔵合金。
(4)MmがCeよりも原子半径の小さい希土類金属を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の水素吸蔵合金。
(5)該水素吸蔵合金の微粉化難度が、0.55以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の水素吸蔵合金。
(6)(1)又は(2)に記載の水素吸蔵合金を負極活物質としたことを特徴とする負極。
(7)(6)に記載の負極を用いたことを特徴とする電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Co含有量の低減により原料コストを抑制したうえで、水素の繰返し吸蔵放出による合金の微粉化を抑制した水素吸蔵合金を提供することができ、負極や電池に有効に用いることができる。本発明の水素吸蔵合金を電池の負極活物質に用いたときの寿命特性を維持又は向上させて、Co使用量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1はAB
5型合金の結晶構造を示す模式図であり、(a)はAとBの化学量論比5.0の場合を示し、(b)はAサイト原子の一部が欠落した化学量論比5.0超の場合を示す。
【
図2】
図2は、
図1に示した結晶構造のAサイトに2つのB原子がダンベル型で置換した様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明者らは、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金において、水素吸蔵・放出に伴う微粉化とその抑制に関し、Coによる微粉化抑制効果を考えてその代替方法について詳細に検討した。
先ず、Coによる微粉化抑制の効果として、CaCu5型結晶構造の水素吸蔵合金にCoを添加すると(Coで置換すると)、Coの金属結合半径が置換するLaNi5結晶格子のNiの原子半径とほぼ同じであるので(藤原鎭男監訳「サンダーソン 無機化学 上」廣川書店 1969年発行 p.87;非特許文献1参照)、Co原子でNi原子を置換しても結晶格子サイズ(結晶格子体積)は殆ど変化しない。ところが、Coを添加した水素吸蔵合金の結晶では、水素化(水素吸蔵)時の体積変化が小さくなって微粉化し難くなる。
【0026】
ここで、水素化(水素吸蔵)による水素吸蔵合金の割れ発生は、合金結晶内に水素原子Hが侵入型で入って結晶が膨張するので、水素化する過程では、水素化で膨張している部分とまだ水素化していない部分との界面でまだ入っていない結晶部との間に応力が発生すると考えられる。水素化の逆反応(水素放出)でも同様に応力が発生することによるものである。つまり、上記で発生する応力が合金結晶の強度を超えると割れるため、水素化による合金結晶の変形量(膨張)が小さければ、発生する応力も小さくなるので合金結晶が割れ難くなる、即ち、微粉化し難くなる。
【0027】
次に、Ni原子とほぼ同じ金属結合半径を有するCo原子を添加した場合に、水素吸蔵合金が水素化してもその体積変化が小さくなることを考える。前述のように、水素原子Hが合金結晶を構成する原子間に入る侵入型で水素吸蔵合金が水素化するので、通常、合金結晶は大きく膨張する。ところが、Co原子の電子雲が水素原子の電子雲と重なった共有結合を形成し易いために、合金結晶の膨張が抑えられているという考えに至った。CoとNiのd電子配置を比較すると、それぞれ3d74s2と3d84s2であるため、Co原子の方が水素原子とd電子を介して共有結合次数が多くなって電子雲の重なりが大きい。即ち、水素原子Hが合金結晶格子内に入っても小さな膨張になる。
【0028】
以上を踏まえて、Coの代替を考えると、共有結合できるd電子配置を有する元素ということになる。しかしながら、鉄FeやマンガンMnは共有結合次数が更に多くなるd電子配置を有するが、金属結合半径が大きく(先の非特許文献1参照)、水素Hとの共有結合で合金結晶の膨張を小さくする効果は少ない。
【0029】
ところで、その他にも、合金結晶の格子を予め拡大しておくという発想ができる。合金結晶の格子を予め大きくしておけば、水素化しても膨張が小さくなるという単純な発想である。合金結晶格子を拡大するには、ニッケルNiよりも金属結合半径の大きな原子でNiサイト(Bサイト)を置換する(例えば、J.-M. Jouberta, et.al., Journal of Alloys and Compounds 330-332 (2002) 208-214;非特許文献2参照)、AサイトとBサイトのB/Aモル比(ABxのx値)を5.0以上の非化学量論にする(例えば、M. Latroche, et.al., Journal of Solid State Chemistry 146, 343-321(1999);非特許文献3参照)というような方法がある。
【0030】
後者のABx組成のxを5.0以上の非化学量論にすると、上述の特許文献6とは異なって、結晶構造が[AB
2/7×α]B
5+(5/7)αとしてAサイトの一部をB原子が占有する。B原子がAサイトを占有する際には、Aサイトに2つのB原子がダンベル型で置換する。
図1は、AB
5型合金の結晶構造を模式的に示したものであり、(a)はAとBの化学量論比が5.0の場合、(b)はAサイト原子の一部が欠落した化学量論比5.0超の場合である。
図2は、Aサイトに2つのB原子がダンベル型で置換した状態を表している。このように合金結晶の格子拡張、特にc軸方向に拡張すると水素吸蔵放出による合金結晶の割れ(微粉化)が抑制できると本発明者らは各種合金設計を試みてきた。
【0031】
本発明者らが更に詳細に検討を重ねたところ、結晶格子を拡張した合金が必ずしも微粉化し難くなるわけでなく、特に、Co含有量が少ない又はゼロの場合は結晶格子を拡張しただけでは微粉化抑制が困難になることを突き止めた。
【0032】
そこで、本発明者らは、上記原因の究明を行った結果、水素吸蔵合金の結晶格子を拡張しても水素原子Hの入る空間が確保できていなければ、大きな結晶格子の合金でも微粉化は抑制できないということも見出し、本発明を導いた。即ち、合金の結晶格子内により大きな空間を形成して、水素原子Hが侵入しても変化の少ないようにすることが重要である。具体的には、下記の式で表される格子内空隙率を23.20%以上にすることで微粉化を抑制できることを見出した。
格子内空隙率=(結晶格子体積-構成原子の総体積)/結晶格子体積×100
また、格子内空隙率とともに、水素吸蔵合金を構成する原子の電子密度(=電子数/原子体積)が小さくなると、水素原子が侵入した際の変化が小さくなることも見出した。なお、上記の格子内空隙率は、水素吸蔵合金の結晶格子体積に占める各構成原子の体積を除いて求めたものである。
【0033】
ここで、前記格子空隙率を大きくするには、金属結合半径の大きな原子で単に置換したり、上記のようなAサイトにダンベル型置換をして結晶格子を広げるだけでは駄目であり、置換される対象の原子と実際に置換する原子(置換元素)を選択する必要があり、特に、金属結合半径の小さな原子で適宜置換して空間を確保するとよいことを本発明者らは見出した。
【0034】
よって、本発明は、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.50、0.25≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表され、CaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であり、前記一般式で表される構成原子の一部が当該構成原子より金属結合半径の小さな原子で置換され、若しくは当該構成原子より金属結合半径の大きな原子で置換され、又は当該記構成原子より金属結合半径の小さな原子と当該構成原子より金属結合半径の大きな原子との両方で置換されており、下記の式で表される格子内空隙率が23.20%以上23.70%以下の水素吸蔵合金である。
格子内空隙率=(結晶格子体積-構成原子の総体積)/結晶格子体積×100
【0035】
本発明のCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金、即ちAB5型水素吸蔵合金において、先ず、Aサイトを構成する金属(原子)について説明する。本発明では、Aサイトを構成する金属として、LaまたはLaの一部もしくは全部が希土類金属混合物であるミッシュメタル(Mm)を用いる。Mmでは、LaおよびCeが、Mm全質量に対して80質量%以上100質量%以下の範囲内の割合を占めているのがよく、なかでもLaが70~99質量%、Ceが1~30質量%の範囲であり、好ましくは、Laが74~97質量%、Ceが3~26質量%の範囲であるのがよい。
【0036】
次に、Bサイトを構成する金属(原子)について説明する。本発明では、Bサイトを構成する金属として、Ni、Mn、Al、及びCoを用いる。前記一般式におけるこれら金属のモル比は、以下の条件を満たすものである。
Niモル比(a) 4.30≦a≦4.75
Mnモル比(b) 0.25≦b≦0.50
Alモル比(c) 0.25≦c≦0.45
Coモル比(d) 0≦d≦0.12
AB比 5.20≦(a+b+c+d)≦5.55
好ましい条件は、次の通りである。
Niモル比(a) 4.40≦a≦4.70
Mnモル比(b) 0.35≦b≦0.43
Alモル比(c) 0.38≦c≦0.42
Coモル比(d) 0≦d≦0.05
AB比 5.25≦(a+b+c+d)≦5.46
【0037】
Coのモル比dは、原料コスト低減のため、なるべく少ない方が好ましく、0≦d≦0.12としている。dを0より大きく、0.12以下とすることにより、即ち、Co置換することにより、水素の吸蔵放出が繰り返されても微粉化し難くなり、置換量が増加するとその傾向が著しくなる。但し、d=0、即ち、Co置換しなくても、本発明のAB5型水素吸蔵合金にすることにより、水素の吸蔵放出が繰り返されても微粉化し難くさせることができる。そのため、Coモル比(d)は0≦d≦0.12であり、好ましくは0≦d≦0.05である。なお、dが0.12を超えると、原料コスト低減につながらない。
【0038】
MmのLa、Ceの比率、Ni、Mn、Alのモル比を上記の通りに設定した理由としては、AB5型水素吸蔵合金の水素吸蔵量(H/M)が、0.85~1.00とすることにより充放電容量を確保すること、平衡圧を0.04~0.07MPaとして初期活性化しやすくすること、PCT曲線におけるプラトー域をなるべく広くすることを考慮したためである。
Mmでは、LaおよびCeが、MmのMm全質量に対して80質量%以上100質量%以下の範囲内とすることで、水素吸蔵量(H/M)を0.85~1.00として充放電容量を確保することができるためである。Niの割合(a)は、上述の通り、4.30以上4.75以下の範囲内であるが、水素吸蔵合金粉末を活物質として負極を作製した際、その出力特性を維持し易く、しかもその寿命特性を格別に悪化させることもない。Mnの割合(b)は、上述の通り、0.25以上0.50以下の範囲内であるが、この範囲内であれば、水素吸蔵合金粉末の微粉化難度を維持し易くすることができる。Alの割合(c)は、上述の通り、0.25以上0.45以下の範囲内であるが、この範囲内であれば、PCT特性におけるヒステリシスが小さく水素吸蔵合金粉末の充放電効率の悪化を抑えることでき、かつ水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵量の低下を抑えることができる。
【0039】
以上が、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、4.30≦a≦4.75、0.25≦b≦0.50、0.25≦c≦0.45、0≦d≦0.12、5.20≦a+b+c+d≦5.55)で表されるCaCu5型結晶構造を有する合金の基本的な説明である。
【0040】
本発明では、前記一般式で表される構成原子の一部をこれら以外の他の置換元素Xで置換する。その際、前記構成原子より金属結合半径の小さな原子で置換してもよい。例えば、上述した一般式で表される構成原子のうち、Mmを置換する対象の元素(対象元素Y1)とした場合、詳しくはLa又はCe等を対象元素Y1とした場合に、これらよりも金属結合半径の小さな原子(置換元素X)でAサイトを置換してもよい。また、Ni、Mn、Al、及びCoからなる群から選ばれた1つ以上の対象元素Y2よりも金属結合原子半径の小さな原子でBサイトを置換してもよい。これらについて、より具体的に例示すると、La又はCeよりも金属結合半径の小さな原子は、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Y、Sc等が挙げられる。一方、Ni、Mn、Al、又はCoよりも金属結合原子半径の小さな原子は、例えば、Be、B、C、N等が挙げられる。
【0041】
また、前記構成原子より金属結合半径の大きな原子で置換してもよい。例えば、上述した一般式で表される構成原子のうち、対象元素Y1を置換する場合は、これらよりも金属結合半径の大きな原子でAサイトを置換してもよく、また、同じく対象元素Y2を置換する場合は、これらよりも金属結合半径の大きな原子でBサイトを置換してもよい。これらについて、より具体的に例示すると、La又はCeよりも金属結合半径の大きな原子は、Eu、Yb、Ba、Ca等が挙げられる。一方、Ni、Mn、Al、Coよりも金属結合原子半径の大きな原子は、例えば、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Cr、V、Ti、Zr、Nb、Mo、Mg等が挙げられる。
【0042】
或いは、前記構成原子より金属結合半径の小さな原子と大きな原子とを組み合わせて、Aサイトを置換したり、Bサイトを置換したり、両者を置換するようにしてもよい。なかでも、上述したように、金属結合半径の大きな原子での置換やAサイトにダンベル型置換をして結晶格子を広げて、金属結合半径の小さな原子で適宜置換すると、格子内空隙率を23.20%以上にすることができ、これによって微粉化を抑制することができる。特に、Co含有量が少ない又はゼロの際には有効である。
【0043】
特に、置換する対象が対象元素Y2であって、置換元素Xが、Ni、Mn、又はAlの1つ以上を置換した組成式MmNia-a1Mnb―b1Alc―c1XeCod(式中、e=a1+b1+c1、5.20≦a+b+c+d+e≦5.55)を満たす水素吸蔵合金にするのがより好ましい。
【0044】
本発明の結晶格子体積は、次のようにして求める。すなわち、X線回折法によって測定したX線回折パターンから算出した格子定数(a軸、c軸)から結晶格子体積を求めることができる(P. H. L. Notten, et.al., Journal of The Electrochemical Society 146(9), 3181-3189(1999);非特許文献4と同様である)。
【0045】
一方、前記結晶格子体積を占める原子の総体積は、結晶格子を構成する各原子の金属結合半径から球モデルで計算する。その上で、本発明の格子内空隙率は、下記の式から算出される。
格子内空隙率=(結晶格子体積-構成原子の総体積)/結晶格子体積×100
尚、本発明の金属結合半径は、日本化学会編「化学便覧 基礎編」1984年発行に記載の値を用いる。また、典型元素の場合、原子間隔の代表値に記載されている同種原子間の結合距離の2分の1を用いる。
【0046】
格子内空隙率は、上述のように23.20%以上にすれば、水素の吸蔵に伴う微粉化を抑制でき、大きくすればするほど微粉化抑制効果が大きくなる。よって、格子内空隙率の上限はないが、CaCu5型結晶構造の安定性という観点から23.70%以下とした。
【0047】
本発明の水素吸蔵合金において、微粉化難度が0.55~0.70であることで、水素吸蔵合金粉末を負極としたときに、寿命特性が長く、及び初期活性化がしやすい負極となる。
ここで、微粉化難度とは、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度」で除した値である。また、プラトー圧力は、測定温度45℃水素放出側のH/M=0.5における平衡水素圧力(MPa)のことである。詳しくは、本発明における微粉化難度の測定方法について、以下で説明する。また、後述の実施例では、下記の方法に従って得られた水素吸蔵合金の微粉化難度を測定した。
【0048】
すなわち、PCT(水素圧-組成-等温線図)特性評価装置を用いて、「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度」を「水素吸蔵合金粉末の初期粒度」で除した値を、微粉化難度として指標化した。すなわち、微粉化難度は、1に近いほど水素吸蔵合金粉末が微粉化しにくいことを示し、0に近いほど水素吸蔵合金粉末が微粉化しやすいことを示す。微粉化難度を求めるに当たり、「水素吸蔵合金粉末の初期粒度」とは、リーズアンドノースラップ社製の粒度分布測定装置7997SRAを用いて測定した平均粒径D50のことである。「保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下における水素の吸蔵放出サイクル10回後の水素吸蔵合金粉末の粒度」とは、株式会社鈴木商館製の全自動PCT測定装置(1/2インチ直管サンプルセル,試料量3g)を用いて保持温度45℃および水素圧力調整1.82MPaの環境下で水素の吸蔵放出サイクルを10回行った後に、リーズアンドノースラップ社製の粒度分布測定装置7997SRAを用いて測定した平均粒径D50のことである。なお、全自動PCT測定装置における水素吸蔵合金粉末の活性化処理は、活性化温度80℃および水素圧力1.82MPaの環境下で行ない、同装置における水素吸蔵合金粉末の水素吸蔵放出サイクルは、保持温度45℃、水素吸蔵圧力1.82MPaおよび水素放出圧力0MPaの環境下で行った。
【0049】
微粉化難度を0.55~0.70とした理由は、高すぎると初期活性化し難く、かつ、電池の入出力特性が低下するためであり、反対に低すぎると、電池の寿命特性が確保されないためである。
【0050】
本発明の水素吸蔵合金は、上述した本発明の要件を満たすものであればよく、それを得る方法については特に制限はない。以下に、本発明の水素吸蔵合金の製造方法として採用できる1つの例を示す。
【0051】
水素吸蔵合金は、秤量工程、混合工程、鋳造工程、熱処理工程で製造できる。電池に使用するには、このようにして製造した水素吸蔵合金を粉砕して使用される(粉砕工程を経て使用される)。秤量工程では、所望の合金組成となるように水素吸蔵合金の各原料が秤量される。その際、本発明に係る水素吸蔵合金が得られるように、置換元素Xを含めた各原料を秤量する。混合工程では、秤量された複数種類の原料が混合される。鋳造工程において、高周波加熱溶解炉に混合原料を投入し、混合原料を溶解させて溶湯となし、この溶湯を例えば鋳型に流し込んで1150℃~1550℃の範囲の温度(鋳造温度=鋳造開始時の坩堝内溶湯温度)で鋳造する。
【0052】
鋳造後の合金は、熱処理工程において非酸化雰囲気下で950℃~1250℃の温度で熱処理される。また、熱処理時間は、鋳造後のインゴット(水素吸蔵合金片)の大きさにもよるが、例えば、5時間以上から18時間以下である。インゴットの中心部まで所定温度になって、所望の結晶サイズに粒成長するように時間設定すればよい。
電池に使用するには、このようにして製造した水素吸蔵合金を粉砕して使用される。この粉砕工程では、粗粉砕、微粉砕により必要な粒度の水素吸蔵合金粉末にする。例えば、インゴットを500μmの篩目を通過するサイズまで粉砕して水素吸蔵合金粉末とする。
【0053】
このようにして得られた水素吸蔵合金粉末は、公知の方法により、電池用負極を調整することができる。すなわち、公知の方法により結着剤、導電助剤などを混合、成形することにより水素吸蔵合金負極を構成することができる。そして、好適には、ニッケル水素電池を構成する負極として用いられる。
【実施例0054】
以下、本発明の実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものはない。
【0055】
[実施例1~8、比較例1~7]
Ni、Mn、Al、Co、MmとしてLaとCe、及び置換元素Xの各金属原料を、表1、表2に示した合金組成となるように秤量した。これらの表中ではMmとしてのLa、CeをAサイトの元素とし、その他原料をBサイトの元素として、モル比で示した。それらの原料を溶解炉内のルツボに入れて真空排気した後、アルゴンガス雰囲気とした。次いで、高周波加熱装置で加熱溶解し、1540℃まで加熱した溶湯を10分保持後、1250℃まで降温し、鋳造温度1230℃で鋳型に流し込んで鋳造を行った。鋳造した合金インゴットは、アルゴン雰囲気下で1080℃×12時間の熱処理を行って合金インゴットを得た。得られた合金インゴットは、不活性雰囲気下でクラッシャーにより粗粉砕し、続いて、不活性雰囲気下でカッティングミル(フリュッチュ社製)を用いて粉砕し、続いて篩目500μmを通過する粒子サイズ(500μm以下)の水素吸蔵合金粉末とした。
【0056】
<評価方法>
実施例・比較例で得た水素吸蔵合金粉末(サンプル)について、次のようにして各種評価を行った。
【0057】
(微粉化難度の測定)
粒度分布測定装置及びPCT特性評価装置を用いて、前述の方法で微粉化難度を測定した。
【0058】
(格子内空隙率)
格子内空隙率の定義は前述の通り、下記の式
格子内空隙率=(結晶格子体積-構成原子の総体積)/結晶格子体積×100
で算出されるが、結晶格子体積はX線回折装置(株式会社リガク製 SmartLab)を使用して測定を行い、リートベルト解析により得られたa軸長、c軸長より計算した。具体的には、20μm以下に粉砕された水素吸蔵合金を、粉末X線回析装置(リガク社製、SmartLab)を用い、ゴニオ半径300mm、X線源CuKα線、管電圧45kV、管電流200mAで測定した。その際、回析角は2θ=15.0~85.0°の範囲とし、スキャンスピードは4.000°/min、スキャンステップは0.020°とした。得られたX線回析結果に基づいて、リートベルト法(解析ソフト SmartLab StudioII、PowderXRDプラグイン)により結晶構造の解析を行った。
【0059】
一方、構成原子の総体積も前述の通り、結晶格子を構成する各原子の金属結合半径から球モデルで計算した。その際、金属結合半径は、日本化学会編「化学便覧 基礎編」1984年発行に記載の値を用いた。また、典型元素の場合には、原子間隔の代表値の同種原子間の結合距離の2分の1を用いるようにした。更には、結晶構造を表すABxの組成がABx>5となった場合(即ち、AB比>5の場合)、前述の通りBサイトの元素がAサイトにダンベル状に置換するため、ABx=5+αのとき、総体積は表1、表2に示した各元素のモル比を(1+1/7α)で除したものに金属結合半径から求めた各元素の原子体積をそれぞれ乗じたものの総和が構成原子の総体積となる。なお、表1、表2における「置換元素」の欄では、置換元素とその置換元素が置換する対象元素のサイトと表している。また、「半径の関係」では、置換対象元素と置換元素との金属結合半径の関係を表している。
【0060】
【0061】
【0062】
上記実施例に加えて、これまでの本発明者が行ってきた試験結果などから、Mm-Ni-Mn-Al-Co合金系のAB5型水素吸蔵合金において、微粉化難度を0.55以上にするためには、構成原子の一部を所定の置換元素で置換して、格子内空隙率を23.30%以上23.70%以下にすることが好ましいことが分かった。比較例1~7では、組成は実施例とほぼ同じでありながら、格子内空隙率が23.20%以下であったため、実施例1~8に匹敵する微粉化難度を得ることができなかった。このことから、本発明によれば、Co含有量が少なく、原料コストが低く、寿命特性に優れ、ニッケル水素電池用負極に好適な合金が得られることが確認できた。