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特開2024-137740熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板
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  • 特開-熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137740
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240927BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20240927BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240927BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240927BHJP
   C21D 8/02 20060101ALN20240927BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240927BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C22C38/60
C22C30/00
C21D8/02 D
C22F1/00 623
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 641A
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021654
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023048155
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸寛
(72)【発明者】
【氏名】柘植 信二
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA03
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA09
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA25
4K032AA26
4K032AA27
4K032AA28
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA33
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA38
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA03
4K032CB02
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】熱間加工性とクリープ強度に優れたNb、N含有高合金を提供する。
【解決手段】質量%で、Cr:20~30%、Ni:30~50%、B:0.0002~0.0030%,N:0.12~0.30%、W:0.01~3.0%、Nb:0.30~0.90%、V:0.01~0.50%、Ca:0.0001~0.0050%を含有し、別途定義されるA値≦95、B値≧60、以下で定義されるC値≧350を満足する合金成分および平均結晶粒径であることを特徴とする熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×(W(%)+Mo(%))+850×V(%)+550×Ta(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07|
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.5%、P:0.030%以下、S:0.0015%以下、Cr:20~30%、Ni:30~50%、Al:0.02~0.30%、B:0.0002~0.0030%,N:0.12~0.30%、O:0.006%以下、W:0.01~3.0%、Nb:0.30~0.90%、V:0.01~0.50%、Ca:0.0001~0.0050%を含み、残部がFeおよび不純物よりなり、
以下で定義されるA値、B値、C値がそれぞれ、A値≦95、B値≧60、C値≧350
を満足する合金成分および平均結晶粒径であることを特徴とする熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板。
ただし、
A値=12,000×B(%)+1,000×C(%)+10×Mn(%)-30×Nb(%)
+20×Si(%)+W(%)+10×V(%)
B値=115-35×(C(%)+N(%))-25×Nb(%)-45×V(%)-20×W(%)
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×W(%)+850×V(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07| である。
上記式で「元素記号(%)」は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
前記Feの一部に替えて、さらに質量%で、Mo:0.01~0.80%、Ta:0.001~0.50%、Cu:0.01~0.50%、Co:0.01~1.0%、Ti:0.001~0.10%、Sn:0.001~0.05%、Zn+Pb+Bi:0.0010%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.001~0.10%、Hf:0.001~0.10%、La+Ce+Nd+Pr:0.001~0.050%のうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板。
ただし、この場合のA値、B値、C値はそれぞれ、
A値=12,000×B(%)+1,000×C(%)+10×Mn(%)-30×Nb(%)
+20×Si(%)+W(%)+10×V(%)+12×Mo(%)
B値=115-35×(C(%)+N(%))-25×Nb(%)-45×V(%)-20×W(%)
-45×Mo(%)-40×Ta(%)
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×(W(%)+Mo(%))+850×V(%)+550×Ta(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07| である。
上記式で「元素記号(%)」は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延工程と熱処理を含む工程で製造され、高温クリープ強度が要求される高温用途にて使用される、熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板に係わる。
【背景技術】
【0002】
耐熱用途で用いられる高Ni合金鋼としては、アロイ800H(ASTM N08010、N08011)が代表的な商用合金である。近年、発展途上国での需要の拡大が進み、安価で表面品質および使用特性が良好な商品を供給できるようにするための技術開発が求められている。このために、従来の鋼塊法から連続鋳造法への製造方法の転換が進められており、高Ni合金鋼は鋳造時のスラブ内部割れ,熱間加工時の耳割れ,および製品の表面疵に対する感受性が高いことから、従来より連続鋳造法における製造性改善の観点から合金の化学組成の設計、製錬、鋳造、熱間加工技術の改善、開発が進められてきた。
【0003】
一方で、主な適用用途である化学プラントの高温反応容器では600℃もしくはそれ以上の高温で、さらには化学反応の効率化のため高圧下で用いられることが多い。これらの用途ではクリープ強度が高ければ高いほどより薄肉での使用が可能となるため、近年ASTM N08120のようなNb、Nを添加しNbの炭窒化物系析出物による析出強化を用いた材料を適用するケースが増加している。
【0004】
Nb、N添加による析出強化を活用した高Ni系合金としては、例えば特許文献1、2のような先行技術文献がある。これらはいずれも上述のとおりNb等の炭窒化物系析出物による析出強化とMo添加による固溶強化、B添加による粒界強化を複合的に活用した合金設計がなされている。しかしながら、これらの合金は高Ni合金鋼板の製造時の課題である熱間加工性への配慮がなされていない点が鋼板製造上の課題となる。例えば特許文献1に記載されるとおり熱間圧延は1000℃以上で実施する必要があるが、これはMo添加によるII領域脆化(900~1000℃近傍の延性低下)に対する感受性の増大に起因するものである。さらに特許文献2では熱処理条件の範囲は1180℃~1300℃と高温での熱処理が施される傾向にある。クリープ強度を高めるには特許文献1で示唆されているように1250℃~1300℃といった超高温域で加熱することが望ましいが、1250℃を超える熱処理は炉体に与えるダメージが大きいため炉のメンテナンスコストの増大につながる。またこのような能力を有する設備を標準装備した鋼板製造メーカーは限られており、製造設備の能力に応じた成分設計を行う必要がある。このように、熱間加工性と高温クリープ強度を両立し、かつ熱処理設備の能力に対応した高Ni合金の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6675846号公報
【特許文献2】特許第7174192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、Nb、N複合添加した高Ni合金鋼板を実使用するにあたり、通常のオーステナイト系ステンレス鋼の圧延時の温度範囲である1200℃~900℃にて耳割れ等の不具合が生じずに熱間圧延が可能で、熱間引張時の絞り値RAが60%以上を確保でき、かつ800℃、100MPaの条件で破断時間250時間以上の高温クリープ強度を確保できる合金成分および金属組織を知得することとした。この目標を達成するためには、従来の知見通りMo添加による固溶強化に頼った場合、前述したII領域脆化感受性およびI領域脆化感受性(1200℃近傍における脆化であり、熱間加工性のみでなく溶接時の高温割れ感受性にも影響する)を増大させ、さらにはB添加およびC、Si等の増量がI領域脆化感受性を大幅に増大させるため上記の目標レベルへの到達が困難である。
【0007】
本発明は、熱間加工性と高温クリープ強度を両立し、かつ通常の熱処理設備の能力範囲内で製造することができる、熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題の原因解明と解決を図るために、II領域脆化の主要因である粒界偏析がMoよりも軽微なWを固溶強化元素として選択し、さらには炉体負荷低減のため1200~1220℃で熱処理を行う場合でも窒化物による析出強化の効果を見いだすべくVに加えて必要に応じTaを有効活用することで熱間加工性とクリープ強度の両立を図った。
【0009】
Nb、N複合添加鋼においては、熱処理温度におけるNbとCまたはNの溶解度積を超える量の粗大な炭窒化物が残存し、これらの未固溶炭窒化物は析出強化にほとんど寄与せず、むしろクリープ強度を低下させる方向に働く。1200~1220℃熱処理時のNbとNの固溶限近傍を超えるためには、この温度域で固溶し、使用温度域で時効析出する第三元素を析出強化元素として活用することで更なるクリープ強度の向上が見込まれることを知見し、更にクリープ強度に対する結晶粒の影響および熱間加工性におよぼすSi、B等の影響も考慮することで、熱間加工性と高温クリープ強度を高いレベルで両立する高Ni合金鋼板を得た。
【0010】
すなわち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~1.0%、Mn:0.05~1.5%、P:0.030%以下、S:0.0015%以下、Cr:20~30%、Ni:30~50%、Al:0.02~0.30%、B:0.0002~0.0030%,N:0.12~0.30%、O:0.006%以下、W:0.01~3.0%、Nb:0.30~0.90%、V:0.01~0.50%、Ca:0.0001~0.0050%を含み、残部がFeおよび不純物よりなり、
以下で定義されるA値、B値、C値がそれぞれ、A値≦95、B値≧60、C値≧350
を満足する合金成分および平均結晶粒径であることを特徴とする熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板。
ただし、
A値=12,000×B(%)+1,000×C(%)+10×Mn(%)-30×Nb(%)
+20×Si(%)+W(%)+10×V(%)
B値=115-35×(C(%)+N(%))-25×Nb(%)-45×V(%)-20×W(%)
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×W(%)+850×V(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07| である。
上記式で「元素記号(%)」は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)前記Feの一部に替えて、さらに質量%で、Mo:0.01~0.80%、Ta:0.001~0.50%、Cu:0.01~0.50%、Co:0.01~1.0%、Ti:0.001~0.10%、Sn:0.001~0.05%、Zn+Pb+Bi:0.0010%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.001~0.10%、Hf:0.001~0.10%、La+Ce+Nd+Pr:0.001~0.050%のうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする(1)記載の熱間加工性と高温クリープ強度に優れた高Ni合金鋼板。
ただし、この場合のA値、B値、C値はそれぞれ、
A値=12,000×B(%)+1,000×C(%)+10×Mn(%)-30×Nb(%)
+20×Si(%)+W(%)+10×V(%)+12×Mo(%)
B値=115-35×(C(%)+N(%))-25×Nb(%)-45×V(%)-20×W(%)
-45×Mo(%)-40×Ta(%)
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×(W(%)+Mo(%))+850×V(%)+550×Ta(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07| である。
上記式で「元素記号(%)」は当該元素の含有量(質量%)を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、製造性に難があったNb含有高N系高Ni合金鋼板に関して、クリープ強度を損ねることなく熱間加工性を改善し、かつ炉の能力に応じた成分設計とすることで熱処理炉の能力増強費用やメンテナンスコストを大幅に低減させることができる。Nb含有高N系高合金鋼は多結晶シリコン製造装置等の化学プラントの反応容器など、高いレベルの高温クリープ強度や耐高温腐食性が要求される用途に用いられるため、化学産業や半導体産業の発展に多大な寄与をもたらすことが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】1200℃における絞り値と限定式AのA値との関係を示す図である。
図2】900℃における絞り値と限定式BのB値との関係を示す図である。
図3】800℃、100MPaの条件でのクリープ破断時間と限定式CのC値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、先ず、本発明の必須成分元素含有量の限定理由について説明する。なお、各成分の含有量は質量%を示す。
<成分組成>
【0014】
C:0.15%以下
Cは、高温材料、耐熱合金の常温および高温での強度を確保するために添加される。好ましくは0.015%以上,更に好ましくは0.03%以上添加するが、上限は0.15%以下の含有量に制限する。本合金ではCはCr炭化物またはNb炭化物として合金中に存在するが、0.15%を超えて含有させるとCr炭化物が過剰に生成するようになり、高温特性、溶接高温割れ感受性、熱間加工性、および耐食性が劣化する。好ましくは0.10%以下、更に好ましくは0.085%以下である。
【0015】
Si:0.05~1.0%
Siは、脱酸および耐酸化性向上のため0.05%以上添加する。しかしながら、鋼の融点を低下させる元素でもあるため、1.0%を超えて添加すると1200℃近傍での熱間延性、溶接時の凝固割れ感受性および液化割れ感受性を低下させる。加えて金属間化合物が析出しやすくなり、高温特性が劣化する。そのため、上限を1.0%に限定する。好ましい上限は0.7%,更に好ましい上限は0.5%である。
【0016】
Mn:0.05~1.5%
Mnはオーステナイト相の安定度を増加させ耐熱性を改善する効果を有する。このため、本発明合金では積極的に添加することが好ましい。耐熱特性の改善のため0.05%以上添加する。しかしながら、1.5%を超えて添加すると逆に金属間化合物が析出しやすくなり耐熱特性が劣化するとともに、凝固割れ感受性にも悪影響をおよぼす。そのため、上限を1.5%に規定する。好ましい上限は1.3%、さらに好ましい上限は1.0%である。
【0017】
P:0.030%以下
Pは原料から不可避に混入する元素であり、凝固割れ感受性を高める作用を有するため、0.030%以下に限定する。好ましくは0.025%以下である。
【0018】
S:0.0015%以下
Sは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性、耐酸化性をも劣化させるため、0.0015%以下、好ましくは0.0010%以下に限定する。Sは精錬により含有量を低下させることが可能な元素であるが、極端な含有量の低下はコストアップとなる。このためS含有量の下限を0.0001%とすることが好ましい。
【0019】
Cr:20~30%
Crは、高温用材料としての耐熱合金の耐酸化性、耐高温腐食性をになう必須の元素であり、20%以上、好ましくは22%以上を含有させる。一方で、30%超を含有させると、Niを多く含有させたとしても高温組織安定性が低下し、金属間化合物が析出するようになり、耐熱特性を劣化させることから、上限を30%とする。好ましい上限の値は28%,更に好ましい上限は26%である。
【0020】
Ni:30~50%
Niは、高温でのオーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、靭性をも改善するため、30%以上、好ましくは32%以上、更に好ましくは35%超含有させる。Ni含有量を増加することにより、耐熱特性確保のために必要なCr,W,Alをより多く含有させることが可能になる。一方Niは高価な合金であり、本発明鋼ではコストの観点より50%以下に上限を規定する。
【0021】
Al:0.02~0.30%
Alは、脱酸元素であるとともに高Ni合金中でNiAl規則相を形成し高温強度を高める作用を有する。本発明では脱酸・脱硫を促進して熱間加工性を高めるために、0.02%以上、好ましくは0.03%以上の含有が必要である。一方でAlが0.30%を超えるとAlN析出により製造性や耐熱特性を阻害するようになる。このためその含有量の上限を0.30%と定めた。好ましい上限は0.15%である。
【0022】
B:0.0002~0.0030%
Bは高温クリープ強度を向上させるため特に高温で使用する環境用途においては積極的に添加する。Bのクリープ強度の向上機構は明確ではないが、粒界に偏析することで粒界強度を高めると言われる。B含有による熱間引張の改善効果は0.0002%以上で発現することから、B添加する場合は下限を0.0002%とする。一方で、Bは鋼の融点を低下させる元素でありかつ偏析しやすいため過剰な添加は凝固割れや液化割れを促進し、特にI領域脆化域(1200℃近傍)での熱間加工性に大幅な悪影響をおよぼす。そのため含有量の上限を0.0030%に定めた。好ましい上限は0.0025%である。
【0023】
N:0.12~0.30%
Nは、高温強度向上に大幅に寄与する重要な元素であり、本鋼ではNb、V、Wとともに必要不可欠な元素である。Nは固溶強化に加え、使用温度域において時間の経過とともにCr、Nb、V,Taと微細な窒化物を形成することによる時効析出強化によりクリープ強度を大幅に向上させる元素である。本鋼にて要求されるクリープ強度を確保するには0.12%以上の添加が必要になる。一方で0.30%を超える過剰な添加は精錬時の気泡発生の原因となるため、上限を0.30%とする。好ましい上限は0.25%である。
【0024】
O:0.006%以下
酸素は、本発明合金中でCa,Mg,Al,Tiとの間に酸化物系介在物を形成する。酸素の含有量は酸化物系介在物の総量に対応し、合金の脱酸状態の指標ともなる重要なものである。その含有量が0.006%を超えると所望の脱酸平衡を満足しなくなるとともに、連続鋳造時のノズル閉塞や介在物起因の表面欠陥を発生しやすくなる。そのため、酸素含有量の上限を0.006%と定めた。一方、酸素含有量の低減は酸化物系介在物を低減させることでノズル閉塞および溶接高温割れの抑制に有利に働くものの、合金中に過剰Caや過剰Mgを発生させ熱間加工性低下の要因となる。このため、酸素含有量は0.0002%以上あることが好ましい。
【0025】
W:0.01~3.0%
Wは耐熱合金の高温強度と耐高温腐食性を高める元素であり、特にクリープ強度を大幅に向上させる。また原料コストとしても市況により優劣が逆転する程度の差しかない。その機構及び強化能は固溶強化元素として知られるMoとほぼ同様である。これに加え、Wは鋼の融点低下やI領域脆化、II領域脆化に対する感受性がMoよりも大幅に低いことを見出した。そこで本発明では高温クリープ強度と熱間加工性を高いレベルで確保するためにMoではなくWを必須添加元素とした。Wは0.01%以上の添加でその効果を発揮する。好ましくは0.05%、更に好ましくは0.1%以上添加する。一方で過剰な添加は熱間加工性の低下と合金コストの上昇を招くため、本発明鋼においては上限を3.0%とした。好ましい上限は2.5%、更に好ましい上限は2.0%である。
【0026】
Nb:0.30~0.90%
Nbは本発明においては必須の元素であり、高い固溶強化能に加え使用温度において炭化物、窒化物を微細析出させることで鋼の高温強度、特に高温クリープ強度を向上させる作用を有する。そのため0.30%以上添加する。一方でNbは粒界偏析しやすい元素でもあり、過剰な添加はII領域脆化感受性を増大させ熱間加工性に悪影響をおよぼすため、本成分系においては上限を0.90%とした。
【0027】
V:0.01~0.50%
Vも本発明においては必須の元素である。VはNbと同様、使用温度において炭化物、窒化物を微細析出させることで鋼の高温強度、特に高温クリープ強度を向上させる作用を有する。この時効析出強化は熱処理時に固溶している金属元素と窒素が使用温度で窒化物として時効析出することで効果を発揮するが、Nbの場合、熱処理時に炭窒化物を形成せずに固溶できる固溶限が小さく熱処理温度における固溶度積を超えて添加してもクリープ強度向上効果が得られない点が課題であった。この解決手段としてNb、Vを複合添加することに着眼した。高N鋼にてNbとVを複合添加した場合、熱処理温度においてNb単独での固溶量よりもNb、Vでの固溶量の方が総固溶量が増大し、その結果使用温度域での窒化物の時効析出量が増加する。このためNbを単独で添加するよりもVと複合で添加する方がクリープ寿命が大幅に増大する事を見いだした。なお、VもNbと同様過剰な添加はII領域脆化感受性を増大させ熱間加工性に悪影響をおよぼすため、本成分系においては上限を0.50%とした。好ましい上限は0.40%である。
【0028】
Ca:0.0001~0.0050%
Caは、合金の熱間加工性および溶接高温割れ感受性を改善するための重要な元素であり、合金中のSをCaSとして固定し、熱間加工性を改善するために含有させる。この反応は、以下のようになる。Caは、合金中の酸素と結合してCaO、CaO-Alを生成し、合金中の溶存酸素(Free酸素)をほとんどゼロとしたのちに、残余のCaと合金中のSが反応してCaSを生成する。本発明合金ではその目的のためにCaを0.0001%以上、好ましくは0.0003%以上、更に好ましくは0.0005%以上含有させる。一方で、過剰なCa添加は1100℃付近の熱間延性を低下させる。このため、Caの含有量の上限を0.0050%とした。Caの望ましい含有量の上限は0.0045%である。
【0029】
<限定式A>
A値=12,000×B(%)+1,000×C(%)+10×Mn(%)-30×Nb(%)
+20×Si(%)+W(%)+10×V(%)
A値≦95
限定式Aは、本発明合金の成分範囲において、I領域脆化が生じる温度域(1200℃近傍)における熱間加工性の指標として規定したものである。鋼板の熱間圧延可否を判断する指標としては一般的に熱間引張試験における熱間絞り値(RA)が用いられる。この値が≧60%であれば鋼板の熱間圧延時に端面の耳割れが発生せず良好に圧延できることが知られている。本発明合金の組成範囲においてI領域脆化に影響をおよぼす合金元素はB、C、Mn、Nb、Si、Vである。これらの元素は主に鋼の融点を低下させるか、または最終凝固部への偏析により粒界強度または粒界の延性を低下させることでI領域脆化に対する感受性を増大させていると考えられる。これら複数の合金元素の影響度を検討した結果は限定式Aのとおりとなり、限定式AのA値が95以下となるよう合金元素量を調整することで、1200℃でのRA≧60%を満足し、熱間圧延における最高温度を1200℃もしくはそれ以上とすることができる。特にBの悪影響が顕著であり添加量が制限される。一方でWは他の元素と比較して悪影響が小さく、他の抽出元素よりもより積極的に添加することができる。
【0030】
<限定式B>
B値=115-35×(C(%)+N(%))-25×Nb(%)-45×V(%)-20×W(%)
B値≧60
限定式Bは、本発明合金の成分範囲において、II領域脆化が生じる温度域(900℃近傍)における熱間加工性の指標として規定したものである。限定式Bにおいては900℃におけるRA≧60%が判断基準となる。本発明合金の請求範囲においてII領域脆化に影響をおよぼす合金元素はC、N、Nb、V、Wである。これらの元素は結晶粒の粒内強度を強化するが、一方で粒界強度の強化には寄与しないか、もしくは粒界への偏析等により粒界強度を低下させる。そのため結晶粒内と粒界の強度差が大きくなり、鋼の熱間延性を低下させているものと考えられる。ただし、Wは抽出した他の元素と比較すると悪影響が小さく、より積極的に添加することができる。これら複数の合金元素の影響度を検討した結果は限定式Bのとおりとなり、限定式Bの値が60以上となるよう合金元素量を調整することで900℃でのRA≧60%を満足し、熱間圧延における最低圧延温度を900℃もしくはそれ以下とすることができる。
【0031】
<限定式C>
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×W(%)+850×V(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07|
C値≧350
限定式Cは、本発明合金の成分範囲において、クリープ強度の指標として規定したものである。本発明においてはクリープ強度の指標として、800℃、100MPaの条件で破断までの時間が250時間を超えることを基準とした。クリープ強度向上のためには(1)平均結晶粒径を大きくする、(2)強化に寄与する合金元素を積極的に添加するのが有効であるが、(1)に関しては熱処理条件の制約を受け、(2)に関しては、添加する強化元素のうちNb、Nは添加量が増大するほどクリープ強度が増大するわけではなく、熱処理温度におけるNbとNの溶解度積に対応する量までの添加が有効であり、それ以上の添加はむしろクリープ強度に対して有害であることが明らかになった。これらの因子のクリープ破断寿命への寄与度は限定式Cのようになり、この値が350以上であれば800℃、100MPaの条件におけるクリープ破断寿命が250時間を超えるようになる。0.65×平均結晶粒径(μm)が結晶粒の寄与度に相当し、強化に寄与する合金元素はW、V、Cでありそれぞれ係数に応じて破断寿命の長時間化に寄与する。Nb、Nの寄与度は添加量の積が0.07で極大値をとり、それより小さくても大きくても寄与度が低下する。好ましいC値はC値≧400である。
限定式Cとして下記式を用いることもできる。
C値=0.6×平均結晶粒径(μm)+350×W(%)+550×V(%)
+10,000×(C(%)-0.04)-1,100×|Nb(%)×N(%)-0.09|
【0032】
本発明の高Ni合金の成分組成は、前述の各成分を含有し、残部がFeおよび不純物よりなる。次に、本発明の選択元素の限定理由について述べる。さらに前記Feの一部に替え、選択的に以下に示す成分(質量%)を含有することができる。
【0033】
Mo:0.01~0.80%
MoはWと同じく合金の高温強度と耐高温腐食性を高める元素であり、これらの特性改善のために必要に応じて0.01%以上添加することができる。しかしながらMoは後述するとおりWと比較すると熱間加工性への悪影響が大きいため、添加量の上限はWよりも低値となり、本発明においては0.80%を上限とする。好ましい上限は0.65%、更に好ましい上限は0.45%である。
【0034】
Ta:0.001~0.50%
TaはV、Nbと同様、使用温度において炭化物、窒化物を微細析出させることで鋼の高温強度、特に高温クリープ強度を向上させる作用を有するため、必要に応じて0.001%以上、好ましくは0.01%以上添加することができる。TaもVと同様、Nbと複合添加することで使用温度域での窒化物の時効析出量がNbの単独添加時よりも増大する。なお、TaもVおよびNbと同様に過剰な添加はII領域脆化感受性を増大させ熱間加工性に悪影響をおよぼすため、本成分系においては上限を0.50%とした。好ましい上限は0.40%である。
【0035】
なお、MoまたはTaを添加した場合は、限定式A~Cはそれぞれ、
<限定式A>
A値=12,000×B(%)+1,000×C(%)+10×Mn(%)-30×Nb(%)
+20×Si(%)+W(%)+10×V(%)+12×Mo(%)
A値≦95
<限定式B>
B値=115-35×(C(%)+N(%))-25×Nb(%)-45×V(%)-20×W(%)
-45×Mo(%)-40×Ta(%)
B値≧60
<限定式C>
C値=0.65×平均結晶粒径(μm)+350×(W(%)+Mo(%))+850×V(%)+550×Ta(%)
+5,000×(C(%)-0.03)-1,500×|Nb(%)×N(%)-0.07|
C値≧350
となる。
限定式Cとして下記式を用いることもできる。
C値=0.6×平均結晶粒径(μm)+350×(W(%)+Mo(%))+550×(V(%)+Ta(%))
+10,000×(C(%)-0.04)-1,100×|Nb(%)×N(%)-0.09|
【0036】
Cu:0.01~0.50%
Cuは、合金の酸に対する耐食性および高温機器でしばしば問題となる耐露点腐食性を高める元素であり、かつ高温強度および組織安定性を改善する作用を有する元素であるため、必要に応じ添加することができる。これらの耐熱性・耐食性改善のために0.01%以上、好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.05%以上含有させる。一方、0.50%を超えて含有させると凝固時に脆化を発生するようになるので上限を0.50%とした。
【0037】
Co:0.01~1.0%
Coは合金の高温組織安定性と耐食性を高めるために有効な元素であり、これらの特性改善のために0.01%以上、好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.1%以上含有させる。1.0%を超えて含有させると高価な元素であるためコストに見合った効果が発揮されないようになるため上限を1.0%と定めた。Coの好ましい上限は0.8%、更に好ましい上限は0.50%である。
【0038】
Ti:0.001~0.10%
Nを含有する高合金においてはTiは粗大なTiNを形成し製造性および鋼の表面品質に悪影響をおよぼすため添加は必須ではない。ただし、Tiは脱酸・脱硫能が高い元素でもあるため必要に応じ脱酸・脱硫剤として、下限0.001%から、上限0.10%まで添加することができる。好ましい上限は0.07%、更に好ましい上限は0.05%である。
【0039】
Sn:0.001~0.05%
Snは0.001%以上、好ましくは0.005%以上の添加により鋼の耐食性、高温クリープ強度を向上させる元素であり、必要に応じ添加することができる。ただし、0.05%を超える添加は熱間加工性を低下させるため、上限を0.05%と規定した。
【0040】
Zn+Pb+Bi:0.0010%以下
Zn,Pb,Biもオーステナイト単相系の合金では熱間加工性を著しく低下させるため、上限を厳しく規定する必要がある。好ましくはPb≦0.0010%、Zn≦0.0010%、Bi≦0.0010%であり、Pb,Zn,Biの合計で0.0010%に規定した。
【0041】
Mg:0.0050%以下
Mgは脱硫効果を呈する元素であるため微量であれば合金の熱間加工性の改善の効果が得られる元素であるが、過剰に添加すると900℃近傍における熱間加工性を大幅に低下させる。そのため本発明ではMgを添加する場合、含有量の上限を0.0050%とした。好ましい上限は0.0040%、更に好ましい上限は0,0030%である。
【0042】
Zr:0.001~0.10%
Hf:0.001~0.10%
Zr,Hfはいずれも0.001%以上、好ましくは0.005%以上の添加によりP,Sを固定することで鋼の凝固割れ感受性,熱間加工性、耐高温酸化性を向上させる効果があり、必要に応じて添加することができる。一方で0.10%を超える多量の添加は粗大な窒化物を形成し製造性に悪影響をおよぼす。従い、これらの添加量の上限は0.10%に規定した。
【0043】
La+Ce+Nd+Pr:0.001~0.050%
La,Ce,Nd,Prは合計で0.001%以上、好ましくは0.005%以上添加することでP,Sを固定し鋼の耐酸化性、熱間加工性を改善する元素であるが、その一方で合計で0.050%を超える添加は粗大な酸化物、窒化物を生成し精錬時のノズル詰まり、表面疵の増加など製造性を大幅に損なう。従い、含有量の上限をこれらの元素の総和で0.050%と規定した。なお、これらの元素の添加方法としては、各々の金属もしくは合金での添加、ミッシュメタルでの添加などの方法がある。
【実施例0044】
以下に実施例について記載する。本発明者らは50kg真空溶解炉により高Ni合金をMgOるつぼ中で溶解し、必要に応じAl,Ti,Ca,Mgを添加して25kg角型鋳型に鋳造し、表1-1、表1-2に示す組成の高Ni合金を得た。表1-2に示した成分について空欄は不純物レベルであることを示している。後述の表2を含め、本発明範囲から外れる数値、本発明の好適な品質範囲から外れる数値に下線を付している。
【0045】
【表1-1】
【0046】
【表1-2】
【0047】
溶解材を鋳造した鋳片は約105mm角~約90mm角のテーバー状で高さ約280mmの寸法を呈した。この鋳片表層近傍チル晶部より高さ方向に60mmφ×110mmの丸棒引張試験片を作製し熱間引張試験を実施した。試験条件は1220℃で30秒保持後に1200℃または900℃まで急冷し所定温度で30秒保持した後に20mm/sで破断まで引張り、試験前後の断面積を測定し絞り値(RA)を求めた。
【0048】
熱間引張試験片作製部を除去した約70mm厚の鋳片を1250℃×1時間加熱した後に1200℃~900℃の温度範囲で板厚16mmまで圧延した後に1200℃~1260℃(個別の条件は表に記載)で熱処理を行った熱延焼鈍板より圧延方向と平行に測定部の太さ6mmφ、長さ80mm、固定部12mmφのクリープ試験片を作製した。クリープ試験はJISZ2271に準じ、800℃、100MPaの条件で破断までの時間を測定した。なお、クリープ試験に供した鋼板の一部を切出し800℃×100時間の短時間時効処理を施した後に硝酸セリウム電解液を用いて断面のエッチングおよび光学顕微鏡により金属組織を観察し切片法により平均結晶粒径を算出した。熱処理条件、熱間引張試験の結果、クリープ試験結果をまとめて表2に示す。また、1200℃における絞り値と限定式AのA値との関係を図1に、900℃における絞り値と限定式BのB値との関係を図2に、クリープ破断時間と限定式CのC値との関係を図3にそれぞれ示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2および図1図3に示すとおり、成分範囲、限定式A~CのA値~C値の範囲を全て満足する鋼No1~3、4-3、4-4、5~16は1200℃のRA≧60%、900℃のRA≧60%、800℃、100MPaでのクリープ破断時間≧250時間を全て満足した。一方、C値≧350を満足しなかった鋼No4-1、4-2、24、25はクリープ破断時間が250時間未満となり、B値≧60を満足しなかった鋼No17~鋼No21および鋼No23、26は900℃のRAが60%に満たなかった。さらにA値≦95を満足しなかった鋼No21~23は1200℃のRAが60%に満たなかった。
【0051】
以上の実施例からわかるように、本発明により800℃、100MPaで250時間を超えるクリープ強度を有し、かつ1200℃~900℃で良好な熱間加工性を呈する鋼板の製造条件が明確となった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、高温クリープ強度が要求される用途に適用するNb、N含有高合金が好適に製造することができるようになり、設計上の自由度向上および鋼板製造コストの低減化が見込まれる。また、これらの合金は高温用途のみならず、高耐食用途で用いられる構造物に関しても幅広く使用することができる。
拡大する高Ni合金の需要に対して安定的な品質と製造性を提供することができるようになり、産業の発展に寄与するところは極めて大である。
図1
図2
図3