IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2024-137743リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物
<>
  • -リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物 図1
  • -リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物 図2
  • -リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物 図3
  • -リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物 図4
  • -リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物 図5
  • -リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137743
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/36 B
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024023166
(22)【出願日】2024-02-19
(31)【優先権主張番号】18/189,640
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513048335
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ セントラル フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF CENTRAL FLORIDA RESEARCH FOUNDATION, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】久島 祥嘉
(72)【発明者】
【氏名】計 賢
(72)【発明者】
【氏名】森田 善幸
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良也
(72)【発明者】
【氏名】田中 覚久
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 一匡
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050GA02
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウム電池用の、ニッケル及びコバルトを含まないカソードを提供する。
【解決手段】リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物材料は、3V~4Vの間で傾斜放電電圧プロファイルを有する。この材料は、R3-m、C2/m、及びPmnmの空間群を有する複数の結晶構造を含み、これらの相が特定の比率にある場合に高い容量を維持することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物(LiMnO)であって、
Pmnm空間群のLiMnO系結晶と、
C2/m空間群のLiMnO系結晶と、
R-3m空間群のLiAlO結晶と、
C2/m空間群のLiMnO結晶と
を含む、リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項2】
前記リチウムマンガン複合酸化物のX線回折ピークは、ピーク強度Aで前記Pmnm空間群のLiMnO系結晶に由来して15.5°に観測され、ピーク強度Bで前記C2/m空間群のLiMnO系結晶に由来して18.3°に観測され、ピーク強度Cで前記R-3m空間群のLiAlO結晶及び前記C2/m空間群のLiMnO結晶に由来して18.65°に観測される、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項3】
ピーク強度比(A+B)/Cの範囲は0.74<(A+B)/C<2.26である、請求項2に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項4】
マンガン(Mn)部位のうちの1つ以上が、Al、Ti、V、Cr、Fe、Li、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Mo及びSnのうちの1種以上で置換されている、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項5】
リチウム(Li)部位のうちの1つ以上が、Na、Mg、Ca、Zn、Cu、Ga及びMnのうちの1種以上で置換されている、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項6】
前記リチウムマンガン複合酸化物は、約3V~約4Vの間で傾斜放電電圧プロファイルを有する、請求項1に記載のリチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物。
【請求項7】
前記マンガン酸リチウム材料は、水酸化マンガン及びリチウム複合体の混合物を焼結することにより形成される、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項8】
前記リチウム複合体は、無機酸塩及び水酸化物のうちの1種以上を含む、請求項7に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項9】
前記リチウムマンガン複合酸化物の一次粒子は約0.01μm~50μmにある、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項10】
前記リチウムマンガン複合酸化物の一次粒子は約0.02μm~30μmにある、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項11】
前記リチウムマンガン複合酸化物の二次粒子は約0.1μm~約100μmにある、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項12】
前記リチウムマンガン複合酸化物の二次粒子は約0.2μm~約60μmにある、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項13】
前記リチウムマンガン複合酸化物の比表面積は約0.05m/g~約100m/gにある、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項14】
前記リチウムマンガン複合酸化物の比表面積は約0.1m/g~約50m/gにある、請求項1に記載のリチウムマンガン複合酸化物。
【請求項15】
リチウム二次電池用リチウムマンガン複合酸化物カソード電極であって、
カソード集電体層と、
前記カソード集電体層上に位置するカソード層と
を含み、前記カソード層はリチウムマンガン複合酸化物材料を含み、前記リチウムマンガン複合酸化物材料は、
Pmnm空間群のLiMnO系結晶、
C2/m空間群のLiMnO系結晶、
R-3m空間群のLiAlO結晶、及び
C2/m空間群のLiMnO結晶
を含む、リチウムマンガン複合酸化物カソード電極。
【請求項16】
前記カソード層は、バインダポリマー及び導電助剤のうちの1種以上をさらに含む、請求項15に記載のリチウムマンガン複合酸化物カソード。
【請求項17】
前記カソード層中の前記リチウムマンガン複合酸化物の割合は約50重量%~約90重量%であり、前記カソード層中の前記バインダポリマーの割合は約1重量%~約20重量%であり、前記カソード層中の前記導電助剤の割合は約1重量%~約20重量%である、請求項16に記載のリチウムマンガン複合酸化物カソード。
【請求項18】
リチウム二次電池であって、
カソード集電体及び前記カソード集電体層上に位置するカソード層を含むカソード電極であって、前記カソード層はリチウムマンガン複合酸化物材料を含み、前記リチウムマンガン複合酸化物材料は、
Pmnm空間群のLiMnO系結晶、
C2/m空間群のLiMnO系結晶、
R-3m空間群のLiAlO結晶、
C2/m空間群のLiMnO結晶
を含むカソード電極と、
アノード電極と、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に位置する電解質と
を含む、リチウム二次電池。
【請求項19】
前記リチウムマンガン複合酸化物のX線回折ピークは、ピーク強度Aで前記Pmnm空間群のLiMnO系結晶に由来して15.5°に観測され、ピーク強度Bで前記C2/m空間群のLiMnO系結晶に由来して18.3°に観測され、ピーク強度Cで前記R-3m空間群のLiAlO結晶及び前記C2/m空間群のLiMnO結晶に由来して18.65°に観測される、請求項18に記載のリチウム二次電池。
【請求項20】
ピーク強度比(A+B)/Cの範囲は0.74<(A+B)/C<2.26である、請求項19に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池カソード活物質用リチウムマンガン複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電気自動車(electric vehicle、EV)、携帯用電子機器及び定置電源の開発及び普及により、エネルギー源としての二次電池の需要が高まっている。リチウムイオン二次電池(Li-ion secondary battery、LIB)は、エネルギー密度が高く、作動電圧が高く、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いため、商業用途に広く使用されている。
【0003】
LIBのカソード活物質には、層状岩塩構造を有するリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)やLi(NiMnCo)Oが一般的に用いられている。また、スピネル構造のリチウム含有マンガン酸化物(LiMn)やオリビン構造のLiFePOも市販されている。これらのカソード活物質のうち、LiCoO及びLi(NiMnCo)Oは、サイクル特性及び充放電効率に優れるため、幅広い用途に用いられている。しかしながら、これらの材料のコストは、主要な材料(Ni及びCo)の限られた資源及び供給のために上昇しており、EVで使用される中型から大型の電池については価格競争力が低い。他方で、LiMn及びLiFePOは、Mn及びFeの豊富な供給により低コストで環境に優しいが、低い比容量(約150mAh/g)しか有さない。従って、Ni及びCoを含有せず、同時に、供給の問題を軽減し価格競争力を提供する高容量カソード活物質の開発がますます求められている。
【0004】
単斜晶及び三斜晶構造を有する層状LiMnOは、スピネルLiMnと比較してその高い理論容量のために特に魅力的である。しかしながら、LiMnOは、リチウム抽出下でスピネル構造への相変態を受け、4V付近及び3V未満の2段階の電圧プラトーを示す。一般に、電池容量は、開回路電圧(open circuit voltage、OCV)の変化によって推定され、放電時のフラットな電圧プロファイルを有する活物質を用いた電池の容量を予測することは困難である。加えて、3V未満の容量は低すぎ、実用的な容量は制限される。
【0005】
従って、当該技術分野において必要とされるものは、ニッケル及び/又はコバルトを含有せず、同時に、高いエネルギー密度を達成して、供給問題を回避し費用競争力を保つLiイオン電池である。
【0006】
しかしながら、本発明がなされた時点で全体として考慮される技術に照らして、従来技術の短所をどのように克服することができるかは、本発明の分野の当業者には明らかではなかった。
【0007】
従来の技術のある態様が、本発明の開示を容易にするために議論されているが、出願人は、これらの技術的態様を決して放棄するものではなく、特許請求される発明が、本明細書で議論される従来の技術的態様のうちの1つ以上を包含してもよいことが企図される。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題及び欠陥の1つ以上に対処することができる。しかしながら、本発明は、いくつかの技術分野における他の問題及び欠陥に対処するのに有用である可能性があることが企図される。従って、特許請求される発明は、必ずしも、本明細書で論じられる特定の問題又は欠陥のいずれかに対処することに限定されると解釈されるべきではない。
【0009】
本明細書では、文書、行為、又は知識の項目が参照又は議論されるが、この参照又は議論は、その文書、行為、若しくは知識の項目、又はこれらのいずれかの組み合わせが、優先日において、公的に利用可能であり、公的に知られていた、一般知識の一部であったか、又はそうでないとしても適用可能な法的規定の下で先行技術を構成するか、又は、本明細書が関係する問題を解決しようとする試みに関連することが公知であるということを認めるものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
様々な実施形態では、本発明は、供給の問題のためにニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の限られた使用が考慮される、Liイオン二次電池用のカソード活物質を提供する。本発明のNi及びCoを含まないカソード活物質は、3V~4Vの間で傾斜放電電圧プロファイルを有する。この材料は、R3-m、C2/m、及びPmnm空間群を有する複数の結晶構造を含み、さらに、これらの相が特定の比率にある場合に高い容量を維持する能力を特徴とする。
【0011】
1つの実施形態では、リチウム二次電池カソード活物質用のリチウムマンガン複合酸化物(LiMnO)は、Pmnm空間群のLiMnO系結晶と、C2/m空間群のLiMnO系結晶と、R-3m空間群のLiAlO結晶と、C2/m空間群のLiMnO結晶とを含む。
【0012】
一例では、本発明のリチウムマンガン複合酸化物のX線回折ピークは、ピーク強度AでPmnm空間群のLiMnO系結晶に由来して15.5°に観測され、ピーク強度BでC2/m空間群のLiMnO系結晶に由来して18.3°に観測され、ピーク強度CでR-3m空間群のLiAlO結晶及びC2/m空間群のLiMnO結晶に由来して18.65°に観測される。具体例では、このリチウムマンガン複合酸化物のピーク強度比(A+B)/Cの範囲は、0.74<(A+B)/C<2.26である。
【0013】
本発明のリチウムマンガン複合酸化物は、約3V~約4Vの間で傾斜放電電圧プロファイルを示す。
【0014】
追加の実施形態では、リチウム二次電池用リチウムマンガン複合酸化物カソード電極が提供される。このリチウムマンガン複合酸化物カソード電極は、カソード集電体層と、カソード集電体層上に位置するカソード層とを含む。当該リチウムマンガン複合酸化物カソード電極のカソード層は、リチウムマンガン複合酸化物材料を含み、このリチウムマンガン複合酸化物材料は、Pnm空間群のLiMnO系結晶と、C2/m空間群のLiMnO系結晶と、R-3m空間群のLiAlO結晶と、C2/m空間群のLiMnO結晶とを含む。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、カソード集電体、及びこのカソード集電体層上に位置するカソード層を含むカソード電極と、アノード電極と、このアノード電極と上記カソード電極との間に位置する電解質とを含むリチウム二次電池を提供する。この実施形態では、カソード層は、Pmnm空間群のLiMnO系結晶と、C2/m空間群のLiMnO系結晶と、R-3m空間群のLiAlO結晶と、C2/m空間群のLiMnO結晶とを含むリチウムマンガン複合酸化物材料を含む。
【0016】
本発明の実施形態に係る新規なカソード化学物質は、コバルト供給の問題を排除し、電池のコストを下げる。
【0017】
従って、本発明は、リチウムイオン電池用のコバルトを含まない層状遷移金属酸化物カソードのための新しい化学物質を提供する。提案されたコバルトを含まないカソードは、より低いコストを提供し、コバルト供給不安定性という将来のリスクを排除して、電池の持続可能な製造を提供する。
【0018】
上記実施形態は、再充電可能バッテリを必要とする多数の分野に適用可能であり、この分野には、電気自動車、携帯用電子機器、並びに高容量、長いサイクル寿命、及び低コストが要求される種々の他の用途が含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
従って、本発明は、以下に記載される開示において例示される構成の特徴、要素の組み合わせ、及び部品の配置を含み、本発明の範囲は、特許請求の範囲において示される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明のより完全な理解のために、添付の図面に関連して以下の詳細な説明が参照されるべきである。
【0021】
図1】リチウムマンガン複合酸化物カソード試料1~6の粉末X線回折データを示す。
図2】リチウムマンガン複合酸化物カソードの比較1~3についての粉末X線回折データを示す。
図3】リチウムマンガン複合酸化物カソード試料1~3の放電曲線及びdQ/dVプロットを示す。
図4】リチウムマンガン複合酸化物カソード試料4~6の放電曲線及びdQ/dVプロットを示す。
図5】リチウムマンガン複合酸化物カソード比較1~3の放電曲線及びdQ/dVプロットを示す。
図6】本発明のリチウムマンガン複合酸化物カソード材料の結晶組成比と放電容量との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の好ましい実施形態の詳細な説明では、その一部を形成し、本発明が実施されてもよい特定の実施形態を図示する添付図面を参照する。他の実施形態が利用されてもよく、本発明の範囲から逸脱しない範囲で構造的変更が行われてもよいことを理解されたい。
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、複数の指示対象を含まないと文脈から明らかにわかる場合を除いて、複数の指示対象を含む。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、「又は」という用語は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて、「及び/又は」を含む意味で一般に使用される。
【0024】
様々な実施形態によれば、本発明は、高い放電容量、低コスト、及び容量推定の容易さを有する新規なMn系Liイオン電池(LIB)カソードを提供する。本発明はさらに、この新規なカソードを使用する高エネルギー密度LIBを提供する。
【0025】
本発明のMn系カソード(cathode)活物質は、放電中に約3V~約4Vの傾斜電圧プロファイルを有する。この材料は、斜方晶系又は単斜晶系のLiMnO系層状構造、R-3mのLiAlO、及びC2/mのLiMnOに由来するそれぞれの粉末x線回折ピーク強度の比が特定の範囲にある場合に高い容量を示す。
【0026】
本発明の活物質は、10mA・g-1の充放電電流密度で、定電流充電(Li抽出)から開始し、電圧カットオフ上限が4.3Vであり下限が2.5Vである、小型環境試験室における25℃の温度での放電実験により測定して、3.4V対Li/Liで-0.12mAh・g-1・v-1未満のdQ/dvを有するLi含有複合酸化物である。
【0027】
本発明の材料は、ピーク強度AでPmnm空間群のLiMnO系結晶に由来して15.5°に、ピーク強度BでC2/m空間群のLiMnO系結晶に由来して18.3°に、及びピーク強度CでR-3m空間群のLiAlO結晶及びC2/m空間群のLiMnO結晶に由来して18.65°に観測されるX線回折ピークを示すLi含有複合酸化物である。ピーク強度比(A+B)/Cの範囲は0.74<(A+B)/C<2.26である。これらのピーク強度を特定するための実験条件には、X線回折装置(リガク(Rigaku)、SmartLab)、X線源(CuKa(0.15418nm))、平行スリットアナライザの発散角:5°、入射スリット横方向長さ:5.0mm、受光平行スリット開口角:5.0°、Kβフィルタ刻み幅:0.01°、入射スリット:1/6°、受光スリット1:4.0mm、受光スリット2:13mm、が含まれた。
【0028】
本発明の材料は、上記の特徴を有するリチウム(Li)マンガン(Mn)酸化物であって、Mn部位の1つ以上が以下の金属元素、Al、Ti、V、Cr、Fe、Li、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、の少なくとも1種で置換されたものである。
【0029】
本発明の材料は、上記の特徴を有するリチウム(Li)マンガン(Mn)酸化物であって、Li部位の1つ以上が、以下の金属元素、Na、Mg、Ca、Zn、Cu、Ga、Mn、の少なくとも1種で置換されたものである。
【0030】
様々な実施形態では、本発明の層状リチウムマンガン複合酸化物は、水酸化マンガン及びリチウム複合体の混合物を焼結することにより作製される。
【0031】
特定の実施形態では、水酸化マンガンを作製するために、Mnを含有する少なくとも1種の有機金属塩及びMn以外の元素を含有する少なくとも1種の有機金属塩を溶解することによって前駆体が得られ、共沈のためにOH濃度が高められ、乾燥が行われる。
【0032】
リチウム複合体の例としては、LiCO及びLiNO等の無機酸塩、並びにLiOH、LiOH・HO等の水酸化物が挙げられる。
【0033】
水酸化マンガン及びリチウム複合体の混合物の焼結は、真空及びN、Ar又はHeの雰囲気を含む低酸素分圧で行うことができる。焼結温度の範囲は、350℃以上1200℃以下であってもよく、好ましくは500℃以上1000℃以下である。最高温度に達した後の酸素濃度は、10000ppm未満、好ましくは1000ppm未満に維持される。
【0034】
本発明の材料の一次粒子は、約0.01μm以上約50μm以下、好ましくは約0.02μm以上30μm以下である。この材料がLIBカソードに使用される場合、一次粒子サイズ(粒子径)が小さすぎると、電解質との副反応により固体電解質界面でのイオン輸送抵抗が増加する。一方、一次粒子サイズが大きすぎると、活物質と電解質との界面面積が小さくなるため、活物質中の電子電荷輸送及びLi拡散性の抵抗が大きくなり、これは、高い充放電電流密度の下で大きい過電圧が発生する原因となる。
【0035】
本発明の材料の二次粒子は、0.1μm以上100μm以下、好ましくは0.2μm以上60μm以下である。二次粒子サイズが小さすぎると材料の取り扱いが困難となり、二次粒子サイズが大きすぎると電極スラリーの調製が困難となる。
【0036】
本発明の層状リチウムマンガン複合酸化物の比表面積は、0.05m/g以上100m/g以下であり、好ましくは0.1m/g以上50m/g以下である。この材料の比表面積が大きすぎる場合、電解質との副反応により固体電解質界面でのイオン輸送抵抗が増加する。比表面積が小さすぎると、活物質と電解質との界面面積が小さくなるため、活物質中の電子電荷輸送及びLi拡散性の抵抗が大きくなり、これは、高い充放電電流密度の下で大きい過電圧が発生する原因となる。
【0037】
上記の方法により合成された層状リチウムマンガン複合酸化物は、電池反応の主材料であり、Liイオンの吸蔵及び放出が可能なリチウムイオン二次電池用のカソード活物質として使用することができる。
【0038】
本発明のリチウムイオン二次電池用カソード電極は、上記カソード活物質と、バインダポリマーと、導電助剤と、カソード集電体とからなる。カソード層は、カソード活物質、バインダポリマー(詳細は後述)、導電助剤及び溶媒を用いてスラリー混合物を作製することにより得ることができる。次いで、このスラリー混合物はカソード集電体上に塗り付けられ、乾燥される。
【0039】
カソード層中のカソード活物質の割合は、約50重量%以上、かつ約99重量%以下、好ましくは約90重量%以下である。バインダポリマーの例としては、ポリビニリデンジフルオリド、ポリテトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオリド、スチレンブタジエンゴム、及びポリメチルメタクリレートが挙げられる。カソード層におけるバインダポリマーの割合は、約1重量%以上約20重量%以下である。バインダポリマーの量が不足すると、カソードの機械的強度が低下し、サイクル寿命が悪くなる原因となる。一方、ポリマーバインダの量が過剰になると、電池容量や電力が低下する。
【0040】
カソード層は、導電性を高めるために導電助剤を含有する。導電助剤の例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、及びアセチレンブラック等の非晶質炭素材料が挙げられる。カソード層における導電助剤の割合は、約1重量%以上約20重量%以下である。導電助剤の量が不足すると導電性が悪くなる原因となり、導電助剤の量が過剰になると電池容量が低下する。
【0041】
バインダを溶解又は分散させる有機溶媒が、スラリー混合物を調製するための溶媒として使用される。溶媒の例としては、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドが挙げられる。活物質は、分散剤又は増粘剤を添加することによって、スチレンブタジエンゴム等のラテックスを用いてスラリーにすることができる。
【0042】
カソード層の厚さは一般に約10μm~200μmである。集電体に使用される材料の例としては、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケル被覆鋼が挙げられる。アルミニウムが好ましく使用される。スラリー形成、塗り付け及び乾燥によって調製されたカソード層は、カソード活物質の充填密度を増加させるために、例えば、ロールプレスによって圧縮されることが好ましい。
【0043】
リチウムイオン二次電池は、カソード電極(cathode electrode)とアノード電極(anode electrode)と電解質とからなる。本発明のカソード活物質は、リチウムイオン二次電池に通常用いられるいずれのアノード電極とも組み合わせることができる。例えば、リチウムイオン電池に使用される炭素質材料をアノード電極として使用することができる。また、リチウム金属、及びリチウムとAl、Si、Sn、Pb、In、Bi、Sb、Ag等の他の金属との合金をアノード電極として使用することができる。
【0044】
アノード電極に用いられる炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、石炭/石油系ピッチコークス、フェノール樹脂等の樹脂組成物、高温で焼結した各種セルロースが挙げられてもよい。また、これらの炭素質材料を2種以上組み合わせてアノード電極複合体とすることもできる。アノード集電体の例としては、Cu、Ni、ステンレス鋼、Ni被覆鋼が挙げられ、Cuが好ましく使用される。
【0045】
電解質層は、概して、イオン伝導性電解質及びセパレータからなる。通常、多孔質ポリマーフィルムがセパレータとして使用される。セパレータの例としては、ナイロン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオリド、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリブテン等のポリオレフィン系ポリマーが挙げられる。本発明のリチウムイオン二次電池において、有機溶媒、高分子固体電解質、ゲル電解質、及び無機固体電解質をイオン伝導体として使用することができる。有機溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、ケトン類、スルホラン複合体、ラクトン類、ニトリル類、及び塩素化炭化水素類を使用することができる。例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチル-2-ペンタノン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、1,2-ジクロロエタン、及びこれらの溶媒のうちの複数のものの混合物が挙げられる。これらの溶媒に溶解する塩の例としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF等のリチウム塩、及びこれらの塩のうちの複数のものの混合物が挙げられる。
【実施例0046】
本発明の新規材料の作製のための例示的な実施形態では、溶液B(水100ml中の5gの水酸化リチウム)を溶液A(水200ml中に溶解した17gの硝酸リチウム)中に滴下して、溶液AのpHを約10~11に制御した。溶液C(水100mlに溶解した硝酸マンガン及び硝酸アルミニウム)を、pH10~11の溶液Aに滴下して沈殿物を得た。溶液Cの滴下中、溶液Bを必要に応じて滴下して、溶液AのpHを約10~11に維持した。次いで、得られた沈殿物を乾燥させてマンガン前駆体を得た。
【0047】
X線回折測定条件は、X線回折装置(リガク、SmartLab)、X線源(CuKa(0.15418nm))、平行スリットアナライザの発散角:5°、入射スリット横方向長さ:5.0mm、受光平行スリット開口角:5.0°、Kβフィルタ刻み幅:0.01°、入射スリット:1/6°、受光スリット1:4.0mm、受光スリット2:13mm、が含まれた。ピーク強度比(A+B)/Cは、A、B、Cを、それぞれ15.5°±0.5°、18.3°±0.5°、及び18.65°±0.5°に観測されたピークの強度として求めた。
【0048】
カソード電極は、N-メチルピロリドン、80重量%の活物質、10重量%のアセチレンブラック、及び10重量%のポリビニリデンフルオリドのスラリーを作製することによって調製した。このスラリーをアルミニウム箔上に塗り付け、乾燥し、15トンでプレスし、直径10mmのディスクに打ち抜いてカソード電極を作製した。カソード活物質の総担持量は3.5mgに制御した。
【0049】
コインセルを使用して電池容量を試験した。上記直径10mmのカソード電極をカソードキャップ上に載置し、その上に多孔質ポリエチレンフィルムをセパレータとして載置した。ポリプロピレンフィルムを置いた後、ガスケットを用いてセパレータを保持した。厚さ0.5mmのリチウム金属アノードを上に置き、スペーサを加えて厚さを制御した。次いで、非水電解質(体積分率1:1のエチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合物中の1M LiPF)をセルに加え、アノードキャップで閉じた。
【0050】
このコインセルを用いて、活物質の質量に対して10mA/gの電流密度で電流充放電試験を行った。上限電圧は4.3V、下限電圧は2.5Vとした。本明細書では、容量(単位:mAh/g)は、活物質の単位重量あたりの放電容量として定義した。上記電圧範囲の放電曲線から、縦軸に電圧を示し、横軸に電圧に対する容量の導関数(dQ/dV、mAh・g-1・v-1)を示すグラフを得て、3.4VにおけるdQ/dVを求めた。
【0051】
以下の実施例、試料1~試料6、及び比較例、比較1~比較3を分析した。これらを下記表1に要約する。表1は、合成し、以下に記載するカソード試料のピーク強度、ピーク強度比、微分容量、放電容量を含む。
【0052】
試料1
0.232gのLiOH・HO及び0.531gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0053】
試料2
0.216gのLiOH・HO及び0.547gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0054】
試料3
0.198gのLiOH・HO及び0.565gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0055】
試料4
0.216gのLiOH・HO及び0.547gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で0.5時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0056】
試料5
0.198gのLiOH・HO及び0.565gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で6時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0057】
試料6
0.316gのLiNO・HO及び0.434gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0058】
比較1
0.248gのLiOH・HO及び0.515gの上記前駆体を乳鉢で混合し、950℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0059】
比較2
0.232gのLiOH・HO及び0.531gの上記前駆体を乳鉢で混合し、750℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0060】
比較3
0.248gのLiOH・HO及び0.515gの上記前駆体を乳鉢で混合し、1050℃で2時間焼結して粉末試料を得た。X線ピーク強度比(A+B)/C、放電試験から得た容量、放電曲線から得たdQ/dVを表1に示す。X線回折分析、並びに得た結果を粉末X線回折データベース番号01-075-8605、01-087-1255、01-078-5048、及び01-074-2232と比較することにより、この試料が、単斜晶系LiMnO、三斜晶系LiAlO、及び単斜晶系LiMnOを含むリチウムマンガン酸化物であることを確認した。
【0061】
【表1】
【0062】
図1は、試料1~6の粉末X線回折データを示す。図2は、比較1~3の粉末X線回折データを示す。図3は、試料1~3の放電曲線及びdQ/dVプロットを示す。図4は、試料4~6の放電曲線及びdQ/dVプロットを示す。図5は、比較1~3の放電曲線及びdQ/dVプロットを示す。図6は、本発明のカソード材料の結晶組成比と放電容量との関係を示す。
【0063】
図示し、説明したように、本発明は、リチウムイオン二次電池のカソード材料として利用可能な、初期放電容量が向上した層状リチウムマンガン複合酸化物を提供する。
【0064】
参照された刊行物はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、参照により本明細書に組み込まれる参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書に提供されるその用語の定義と不整合であるか又は反対である場合、本明細書に提供されるその用語の定義が適用され、参考文献におけるその用語の定義は適用されない。
【0065】
上記の利点、及び上述の説明から明らかにされた利点は、効率的に達成される。本発明の範囲から逸脱しない範囲で上記の構成に特定の変更を加えることができるので、上記の説明に含まれるか、又は添付の図面に示されるすべての事項は、限定的な意味ではなく例示的なものとして解釈されるべきであることが意図される。
【0066】
また、添付の請求項は、本明細書に記載される発明の包括的及び特定の特徴のすべて、並びに言語の問題としてそれらの間に入ると言われ得る本発明の範囲のすべての記述を網羅することが意図されることも理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】