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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137745
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】厚鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240927BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240927BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C22C38/00 301M
C22C38/60
C21D8/02 A
C22C38/00 301N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024776
(22)【出願日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2023047615
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】室田 康宏
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA37
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CC02
4K032CC03
4K032CC04
(57)【要約】
【課題】レーザ切断性に優れ、かつ被削性に優れる厚鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03%超0.20%以下、Sb:0.003~0.050%、Si:0.60%以下、Mn:0.10~2.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.150%以下、N:0.02%以下、および、B:0.0030%超0.0100%以下またはCa:0.0030%超0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15μm以上60μm以下の表面酸化層を有する、厚鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03%超0.20%以下、
Sb:0.003~0.050%、
Si:0.60%以下、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.150%以下、
N:0.02%以下、および
B:0.0030%超0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
厚さ15μm以上60μm以下の表面酸化層を有する、厚鋼板。
【請求項2】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
W:0.01~1.00%、
V:0.003~0.100%、
Nb:0.003~0.030%、
Ti:0.003~0.050%、
REM:0.0001~0.0030%、
Ca:0.0001~0.0030%、
Mg:0.0001~0.0030%、および
Sn:0.001~0.030%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の厚鋼板。
【請求項3】
質量%で、
C:0.03%超0.20%以下、
Sb:0.003~0.050%、
Si:0.60%以下、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.150%以下、
N:0.02%以下、および
Ca:0.0030%超0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
厚さ15μm以上60μm以下の表面酸化層を有する、厚鋼板。
【請求項4】
前記成分組成は、さらに、質量%で、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
W:0.01~1.00%、
V:0.003~0.100%、
Nb:0.003~0.030%、
Ti:0.003~0.050%、
REM:0.0001~0.0030%、
B:0.0001~0.0030%、
Mg:0.0001~0.0030%、および
Sn:0.001~0.030%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項3に記載の厚鋼板。
【請求項5】
表面酸化層の厚さの標準偏差が5.0μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の厚鋼板。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を1000~1200℃に加熱後、圧延終了温度:700~1000℃である熱間圧延を施すにあたり、(圧延終了温度+100℃)~圧延終了温度の温度領域の圧延パス中において、鋼板の少なくとも一方の面に水を噴射してデスケーリングを5回以上実施する、厚鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚鋼板およびその製造方法に関し、特に、レーザ切断性に優れ、かつ被削性に優れる厚鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金型や機械部品などの部材に板厚の厚い熱間圧延鋼板が用いられる際、熱間圧延鋼板を所望の形状に切断し、あるいは切削した後、組み立てるのが一般的である。鋼構造物の工作工程における切断作業および切削作業の割合は高く、作業の高能率化や低コスト化への要求は高い。また、意匠性などの観点から鋼構造物の形状が複雑化するとともに、切断以降の工程省略のため、切断面形状が複雑化しており、切断面に対して高い精度が要求される。また、切削工程においては、指定された被削材から指定された形状・精度・粗さを持つ部品を、切削工具の取替寿命、人件費なども含めてできるだけ安く加工することが要求される。
【0003】
従来、厚鋼板の切断方法として、ガス切断やプラズマ切断が用いられている。ガス切断は、設備の導入費用が最も安く、また非常に板厚が厚い厚鋼板まで切断可能なことから最も広く利用されている。しかしながら、ガス炎の制御や監視など自動化が難しく、切断速度も遅いため作業性に劣る。
【0004】
プラズマ切断は、最大厚50mmt程度まで高速切断が可能であるが、トーチ寿命が数時間しかなく、頻繁な交換作業のため作業性が低く、自動化は困難である。
【0005】
一方、レーザ切断は、レーザ発振器の高出力化、低廉化に伴い板厚の厚い厚鋼板の切断にも適用されている。レーザ切断の利点は、完全自動化が容易、切断入熱が少なく熱影響が小さい、切断面の品質が良好であることである。
【0006】
しかしながら、現状のレーザ出力では、板厚が20mm以上になると、切断の安定性が急激に低下する。レーザ切断機の更なる高出力化による切断性向上も図られているが、鋼板自体のレーザ切断性、すなわち切断不良を生じさせないことの検討がされてきた。
【0007】
特許文献1では、特定の化学成分を有し、スケール層の平均厚さが10μm以下であり、スケール層中にマグネタイトが60mass%以上含まれる、レーザー切断性に優れた鋼板が記載されている。
【0008】
特許文献2では、Al、Cu、Ni、Crなどの合金元素量を規制し、表面のスケール層が地鉄との界面にAl含有層を有する、レーザー切断性に優れた厚鋼板が記載されている。
【0009】
特許文献3では、圧延開始時にデスケーリングによりスケールを排除し、圧延終了温度を制御することにより、スケール中の空孔率とスケールと地鉄界面の剥離割合の合計を15%以下とする、レーザ切断性が優れた厚鋼板の製造方法が記載されている。
【0010】
特許文献4では、Sbを所定量含有し、厚さ15μm以上50μm以下の表面酸化層を有する、レーザー切断性に優れる厚鋼板が記載されている。
【0011】
また、被削性に優れる鋼材の事例として、MnS快削鋼が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2012-87339号公報
【特許文献2】特開平11-323478号公報
【特許文献3】特開2004-169093号公報
【特許文献4】特開2022-054486号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】中部鋼鈑株式会社のホームページ、「被削性改良鋼板」、2023年2月1日検索、インターネット、<URL:https://www.chubukohan.co.jp/product/standard/info/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1では、マグネタイトを60mass%以上含む薄いスケールを得るためには、圧延中の厳密な温度管理が必要であり、安定製造に欠ける。特許文献2では、レーザ切断性を改善するために合金元素量の調整が必要である。特許文献3では、板厚25mm以上のレーザ切断ではドロスが付着するなどの問題が生じている。また、特許文献1~3では、被削性は考慮されていない。また、特許文献4でも、レーザ切断性の改善のみ述べられており、被削性は考慮されていない。また、非特許文献1では、被削性向上は述べられているものの、レーザ切断性に欠ける。
【0015】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたもので、レーザ切断性に優れ、かつ被削性に優れる厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を達成するため、厚鋼板を対象に優れたレーザ切断性を確保するため、鋼板の成分組成、製造方法、表面酸化層(以下、単に、スケールと称することもある。)の厚さや密着性などがレーザ切断に及ぼす影響について鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
【0017】
(1)レーザ照射で厚鋼板に高密度エネルギーを与えた際に発生する熱応力により、表層のスケールが破壊され、切断不良が発生しやすくなる。これを防ぐためにはスケールの密着性向上が必要である。
【0018】
(2)スケールの密着性を向上させるために、Sbを所定量含有させると、Sbは、スケールと地鉄との界面に濃化される。スケールの密着性向上にはSi、Cu、Niの含有が有効とされるが、これらはスケールの均一性にとってはむしろ好ましくない元素である。Si、Cu、Niは結晶粒界等の特定の位置に局所的に濃化してスケールの成長速度に差を生じさせるため、Si、Cu、Niを過剰に含有させるとスケールが不均一となる。本発明において、Si、Cu、Niの含有量を所定量以下とし、かつ所定量のSbを含有させることで、スケールと地鉄界面にSbが濃化し、密着性、均一性に優れるスケールを生成させることができる。
【0019】
(3)スケールの厚さを15μm以上60μm以下とすることにより、レーザ切断時の切断不良を抑制して、切断面を平滑にすることができ、さらにドロスの付着も抑制することができる。
【0020】
さらに、本発明者らは、厚鋼板を対象に優れた被削性を確保するため、鋼板の成分組成、製造方法などが被削性に及ぼす影響について鋭意検討を行い、以下の知見を得た。なお被削性とは、工具摩耗、切りくず処理性、切削抵抗、切削温度、凝着性の総合評価で得られるものであるが、個々の評価項目が優れている場合も、当然に、被削性がよいといえる。
【0021】
(4)工具と切りくずの摩擦を減少させるには潤滑油を工具と切りくずの接触面に供給できればよいが、両者の接触面は高温高圧であるため潤滑油は供給できない。高温高圧の条件下でも工具と切りくず裏面を直接接触させない固体膜として作用するよう、鋼板にBとN、またはCaとNを複合添加すると、工具摩耗を抑え被削性を向上させることができる。
【0022】
本発明は、上記の知見にさらに検討を加えてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0023】
[1]質量%で、
C:0.03%超0.20%以下、
Sb:0.003~0.050%、
Si:0.60%以下、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.150%以下、
N:0.02%以下、および
B:0.0030%超0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
厚さ15μm以上60μm以下の表面酸化層を有する、厚鋼板。
[2]前記成分組成は、さらに、質量%で、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
W:0.01~1.00%、
V:0.003~0.100%、
Nb:0.003~0.030%、
Ti:0.003~0.050%、
REM:0.0001~0.0030%、
Ca:0.0001~0.0030%、
Mg:0.0001~0.0030%、および
Sn:0.001~0.030%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[1]に記載の厚鋼板。
[3]質量%で、
C:0.03%超0.20%以下、
Sb:0.003~0.050%、
Si:0.60%以下、
Mn:0.10~2.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.150%以下、
N:0.02%以下、および
Ca:0.0030%超0.0100%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
厚さ15μm以上60μm以下の表面酸化層を有する、厚鋼板。
[4]前記成分組成は、さらに、質量%で、
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Cr:0.01~1.00%、
Mo:0.01~1.00%、
W:0.01~1.00%、
V:0.003~0.100%、
Nb:0.003~0.030%、
Ti:0.003~0.050%、
REM:0.0001~0.0030%、
B:0.0001~0.0030%、
Mg:0.0001~0.0030%、および
Sn:0.001~0.030%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、[3]に記載の厚鋼板。
[5]表面酸化層の厚さの標準偏差が5.0μm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の厚鋼板。
[6]前記[1]~[4]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材を1000~1200℃に加熱後、圧延終了温度:700~1000℃である熱間圧延を施すにあたり、(圧延終了温度+100℃)~圧延終了温度の温度領域の圧延パス中において、鋼板の少なくとも一方の面に水を噴射してデスケーリングを5回以上実施する、厚鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、レーザ切断性に優れ、かつ被削性に優れる厚鋼板を提供できる。
【0025】
本発明の厚鋼板は、レーザ切断時において、優れた作業性と切断品質が得られる。さらに、切削加工において、被削性に優れ、工具寿命に優れる。
具体的には、レーザ切断後の鋼板断面にノッチなどの切断不良がなく、鋼板裏面にドロス付着がないといった優れた切断性と、切削加工時に、被削材(厚鋼板)が削りやすく、切削工具が摩耗しにくく、切りくずが処理しやすいといった優れた被削性を有する。
本発明の厚鋼板を用いることで、鋼構造物作製時の製造効率の向上に大きく寄与し、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態の例を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
【0027】
本発明の厚鋼板(厚鋼板の地鉄)は、以下に示す第一実施形態または第二実施形態の成分組成を有する。以下、それぞれの成分組成について、その限定理由を説明する。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0028】
[第一実施形態の成分組成]
本発明の第一実施形態にかかる厚鋼板は、質量%で、C:0.03%超0.20%以下、Sb:0.003~0.050%、Si:0.60%以下、Mn:0.10~2.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.150%以下、N:0.02%以下、およびB:0.0030%超0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。
【0029】
前記成分組成は、さらに、質量%で、Cu:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、W:0.01~1.00%、V:0.003~0.100%、Nb:0.003~0.030%、Ti:0.003~0.050%、REM:0.0001~0.0030%、Ca:0.0001~0.0030%、Mg:0.0001~0.0030%、およびSn:0.001~0.030%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
【0030】
C:0.03%超0.20%以下
Cは、鋼の強度を増加させ、厚鋼板として必要な強度を確保するために必要な元素である。この効果を得るためには、Cを0.03%超含有させる必要がある。C含有量は、好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは、0.10%以上である。一方、C含有量が0.20%を超えると、靭性を劣化させるとともに、溶接性が低下する。このため、C含有量は、0.20%以下とする。C含有量は、好ましくは、0.18%以下である。
【0031】
Sb:0.003~0.050%
Sbは、スケール密着性を向上させるために必要な元素である。Sbは、鋼素材加熱~熱間圧延中までに表面に拡散し、スケール(表面酸化層)と地鉄の界面に均一に濃化する。この濃化層によってスケールが剥離しにくくなる。また、均一に濃化することにより、スケール成長速度に局所的な違いが生じず、スケールの均一性も阻害しない。その結果、所望のレーザ切断性が得られる。この効果を得るためには、Sbを0.003%以上含有させる必要がある。Sb含有量は、好ましくは0.005%以上とする。一方、Sb含有量が0.050%を超えると、厚鋼板表面に疵が発生しやすくなり、レーザ切断性を劣化させる。そのため、Sb含有量は、0.050%以下とする。Sb含有量は、好ましくは0.030%未満であり、さらに好ましくは0.020%以下である。
【0032】
Si:0.60%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素である。しかしながら、Si含有量が0.60%を超えると、母材の靭性、溶接部の低温割れ性が著しく劣化することがある。このため、Si含有量は、0.60%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.40%以下とする。なお、Si含有量の下限は特に限定されないが、Si含有量は、0.01%以上が好ましい。
【0033】
Mn:0.10~2.50%
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる効果を有し、母材の強度を確保するために0.10%以上含有させる。Mn含有量は、好ましくは0.20%以上であり、より好ましくは1.30%以上とする。一方、Mn含有量が2.50%を超えると、母材の靭性、延性および溶接性が著しく劣化することがある。このため、Mn含有量は、2.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは2.00%以下とする。
【0034】
P:0.030%以下
Pは、不純物として鋼中に存在し、粒界に偏析することによって、母材の低温靭性や延性を劣化させるなど悪影響を及ぼすおそれがある。このため、できる限りP含有量を低くすることが望ましいが、0.030%以下であれば許容できる。そのため、P含有量は、0.030%以下とする。なお、P含有量の下限は特に限定されないが、0.001%未満に低減することは工業的規模の製造では難しい。このため、生産性の観点からは、P含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0035】
S:0.030%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、母材の低温靭性や延性を劣化させるなど、悪影響を及ぼすおそれがあるため、できる限りS含有量を低くすることが望ましい。一方、Sを所定量含有させると、鋼中に存在するMnSは高温下で母材よりも柔らかく、せん断領域での変形の際に引き伸ばされ応力集中点として作用し、工具刃先と被削材のせん断変形領域で変形抵抗を減少させ被削性を向上することができる。ただし、C方向の靭性はS含有量の増加で低下する。以上の点を考慮し、S含有量は0.030%以下とする。なお、S含有量の下限は特に限定されないが、0.001%未満に低減することは工業的規模の製造では難しい。このため、生産性の観点からは、S含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0036】
Al:0.150%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中のNをAlNとして固定し、母材および溶接部の靭性向上に寄与する元素である。また、切削加工においては、被削材中において工具と切りくず裏面との間の拡散や溶着を阻止する働きをもつと同時に、切削中に工具表面に強固に膜として付着するという性質を持つ。しかし、0.150%を超えてAlを含有すると、母材の靭性が低下することがある。よって、Al含有量は、0.150%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.110%以下とする。なお、Al含有量の下限は特に限定されないが、Al含有量は、0.015%以上が好ましい。
【0037】
N:0.02%以下
Nは、不純物として鋼中に存在する元素である。N含有量が0.02%を超えると、母材靭性が著しく低下するおそれがある。一方で、鋼中のNはAlによりAlNとして固定され、被削性向上に寄与するため適量含むことが好ましい。このため、N含有量は、0.02%以下とする。また、N含有量は、0.001%以上が好ましい。
【0038】
B:0.0030%超0.0100%以下
切削加工中のような高温下において鋼中のAlとBNよりAlNが生成し、AlNの膜が工具摩耗面に存在することで、工具と被削材間の拡散反応が抑制され、工具摩耗が減少する。この効果はB含有量が大きいほど大きい。また、Bは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。これらの効果を得るために、B含有量は、0.0030%超とする。好ましくは、B含有量は、0.0050%超とし、より好ましくは、0.0055%以上とする。一方、B含有量が0.0100%を超えると、焼入れ性を著しく増加させ、母材の靭性、延性を劣化させる。また、Bが0.0100%を超え、B含有量に対するN含有量の比(N/B比)が小さくなると、鋼中にフリーで存在するBが残存し、被削性が悪化する。このため、B含有量は、0.0100%以下とする。B含有量は、好ましくは0.0080%以下とする。
【0039】
本発明の第一実施形態にかかる厚鋼板は、上記成分を基本成分とすることができる。また、残部はFeおよび不可避的不純物とすることができる。
【0040】
本発明の第一実施形態にかかる厚鋼板の成分組成は、上記成分組成に加えて、さらに、Cu、Ni、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、REM、Ca、MgおよびSnの1種または2種以上を、それぞれ下記の含有量の範囲で含有することができる。
【0041】
Cu:1.00%以下
Cuは、厚鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るために、Cuを含有する場合は、Cu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が1.00%を超えると、熱間脆性を生じて鋼板の表面性状が著しく劣化するおそれがある。このため、Cuを含有する場合は、Cu含有量を1.00%以下とすることが好ましい。
【0042】
Ni:1.00%以下
Niは、厚鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るために、Niを含有する場合は、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が1.00%を超えると、スケール厚さが著しく不均一となり、レーザ切断性が劣化する。このため、Niを含有する場合は、Ni含有量を1.00%以下とすることが好ましい。
【0043】
Cr:0.01~1.00%
Crは、厚鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るために、Crを含有する場合は、Cr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Crを1.00%を超えて含有すると、母材靭性、延性および溶接性が著しく劣化するおそれがある。このため、Crを含有する場合は、Cr含有量を1.00%以下とすることが好ましい。
【0044】
Mo:0.01~1.00%
Moは、厚鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るために、Moを含有する場合は、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が1.00%を超えると、母材靭性、延性および耐溶接割れ性に悪影響を及ぼすことがある。このため、Moを含有する場合は、Mo含有量を1.00%以下とすることが好ましい。
【0045】
W:0.01~1.00%
Wは、厚鋼板の強度向上に寄与する元素である。この効果を得るために、Wを含有する場合は、W含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が1.00%を超えると、母材靭性、延性および耐溶接割れ性に悪影響を及ぼすことがある。このため、Wを含有する場合は、W含有量を1.00%以下とすることが好ましい。
【0046】
V:0.003~0.100%
Vは、厚鋼板の強度向上に大きく寄与する元素である。この効果を得るために、Vを含有する場合は、V含有量を0.003%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が0.100%を超えると、母材靭性および延性を劣化させるおそれがある。このため、Vを含有する場合は、V含有量を0.100%以下とすることが好ましい。
【0047】
Nb:0.003~0.030%
Nbは、厚鋼板の強度向上に大きく寄与する元素である。この効果を得るために、Nbを含有する場合は、Nb含有量を0.003%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、好ましくは0.005%以上である。一方、Nb含有量が0.030%を超えると、母材靭性および延性を劣化させる。このため、Nbを含有する場合は、Nb含有量を0.030%以下とすることが好ましい。
【0048】
Ti:0.003~0.050%
Tiは、Nとの親和力が強く凝固時にTiNとして析出し、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制して高靭化に寄与する元素である。この効果を得るために、Tiを含有する場合は、Ti含有量を0.003%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、TiN粒子が粗大化して、母材および溶接部靭性を劣化させるおそれがある。このため、Tiを含有する場合は、Ti含有量を0.050%以下とすることが好ましい。
【0049】
REM:0.0001~0.0030%、Mg:0.0001~0.0030%
REM、Mgは、いずれもSと結合し硫化物の形態制御を行うことにより、鋼の靭性向上に寄与する。この効果を得るために、これらの元素を含有する場合は、それぞれ0.0001%以上とすることが好ましい。一方、これらの元素をそれぞれ0.0030%超含有しても効果が飽和する。このため、これらの元素を含有する場合は、それぞれの含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。なお、ここで、REM(希土類金属)は、Sc、Y、およびランタノイド元素の合計17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼に含有させることができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0050】
Ca:0.0001~0.0030%
Caは、Sと結合し硫化物の形態制御を行うことにより、鋼の靭性向上に寄与する。この効果を得るために、Caを含有する場合は、Ca含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、Caを0.0030%を超えて含有しても効果が飽和する。このため、Caを含有する場合は、Ca含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。
【0051】
Sn:0.001~0.030%
Snは、耐食性向上に寄与する。この効果を得るために、Snを含有する場合は、Sn含有量は0.001%以上が好ましい。一方、Sn含有量が0.030%を超えると、靭性を劣化させるおそれがある。そのため、Snを含有する場合は、Sn含有量を0.030%以下とすることが好ましい。
【0052】
なお、上記任意成分として説明したCu、Ni、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、REM、Ca、Mg、Snの含有量が下限値未満の場合(ただし、Cu、Niについては、それぞれ含有量が0.01%未満の場合)、その成分は不可避的不純物として含まれるものとする。
【0053】
[第二実施形態の成分組成]
本発明の第二実施形態にかかる厚鋼板は、質量%で、C:0.03%超0.20%以下、Sb:0.003~0.050%、Si:0.60%以下、Mn:0.10~2.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.150%以下、N:0.02%以下、およびCa:0.0030%超0.0100%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。
【0054】
前記成分組成は、さらに、質量%で、Cu:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、W:0.01~1.00%、V:0.003~0.100%、Nb:0.003~0.030%、Ti:0.003~0.050%、REM:0.0001~0.0030%、B:0.0001~0.0030%、Mg:0.0001~0.0030%、およびSn:0.001~0.030%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
【0055】
本発明の第二実施形態にかかる厚鋼板の成分組成において、C:0.03%超0.20%以下、Sb:0.003~0.050%、Si:0.60%以下、Mn:0.10~2.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Al:0.150%以下、N:0.02%以下に限定する理由は、上述の第一実施形態の理由と同様である。
【0056】
Ca:0.0030%超0.0100%以下
Caは、Sと結合し硫化物の形態制御を行うことにより、鋼の靭性向上に寄与する。また、脱酸剤として作用し、Ca含有量が0.0020%以上、Al含有量が0.150%以下で工具面に保護膜(ベラーグ)が生成し、工具摩耗が減少する。一方、Caを0.0100%を超えて含有しても、工具摩耗量の減少効果は飽和する傾向にあるため、Ca含有量の上限を0.0100%とする。さらに、Ca含有量が0.0100%を超えると、MnSよりも融点の高いCaSの割合が増えてしまい被削性が低下する。そのため、Ca含有量は、0.0100%以下とする。また、Ca含有量は少なすぎても工具摩耗の減少効果は低いため、Ca含有量は0.0030%超とする。
【0057】
本発明の第二実施形態にかかる厚鋼板は、上記成分を基本成分とすることができる。また、残部はFeおよび不可避的不純物とすることができる。
【0058】
本発明の第二実施形態にかかる厚鋼板の成分組成は、上記成分組成に加えて、さらに、Cu、Ni、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、REM、B、MgおよびSnの1種または2種以上を、それぞれ下記の含有量の範囲で含有することができる。
【0059】
本発明の第二実施形態にかかる厚鋼板の成分組成において、Cu:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Cr:0.01~1.00%、Mo:0.01~1.00%、W:0.01~1.00%、V:0.003~0.100%、Nb:0.003~0.030%、Ti:0.003~0.050%、REM:0.0001~0.0030%、Mg:0.0001~0.0030%、およびSn:0.001~0.030%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する場合について、前記各成分の含有量を限定する理由は、上述の第一実施形態の理由と同様である。
【0060】
B:0.0001~0.0030%
Bは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させる作用を有する元素である。この効果を得るために、Bを含有する場合は、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。一方、Bを0.0030%を超えて含有しても効果が飽和する。このため、Bを含有する場合は、B含有量を0.0030%以下とすることが好ましい。
【0061】
なお、上記任意成分として説明したCu、Ni、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、REM、B、Mg、Snの含有量が下限値未満の場合(ただし、Cu、Niについては、それぞれ含有量が0.01%未満の場合)、その成分は不可避的不純物として含まれるものとする。
【0062】
[Si、Cu、Niの好適範囲]
本発明に係る厚鋼板は、Si、Cu、Niの含有量をそれぞれ、Si:0.10%以下、Cu:0.03%以下、Ni:0.03%以下とすることが好ましい。Sb添加効果に加えて、Si、Cu、Ni含有量を所定量以下となるように厳格に管理することにより、Si、Cu、Niを適切に制御することで、後述するように、表面酸化層の厚さの標準偏差を5.0μm以下とすることができる。これにより、より一層の表面酸化層の厚さの均一化をはかることができる。その結果、レーザ切断性をさらに向上させることができる。
【0063】
Si:0.10%以下(好適範囲)
Siは、易酸化元素でありスケールに取込まれやすいため、スケールの均一化にとってはできる限りSi含有量を低くすることが望ましい。かかる観点からは、Si含有量は0.10%以下であれば許容できる。なお、脱酸の点から、Si含有量は0.01%以上が好ましい。また、Siが酸化したSiO(酸化シリコン)の融点(1700℃前後)は、鉄の融点(1536℃)よりも高く、SiOが生成することで、レーザ切断時の溶融金属の流動性が悪くなり、切断面粗度が大きくなり、バーニングに発展する一因と考えられている。かかる点を考慮すると、Si含有量は低い方が好ましい。
【0064】
Cu:0.03%以下(好適範囲)、Ni:0.03%以下(好適範囲)
CuおよびNiは、Siと同様、スケールの均一化にとっては、できる限りCuおよびNiの含有量を低くすることが望ましい。かかる観点からは、Cu、Niを含有する場合は、Cu、Ni含有量は、それぞれ0.03%以下であれば許容できる。かかる観点からは、Cu、Niの含有量は0%であってもよい。
【0065】
[表面酸化層]
本発明の厚鋼板の有する表面酸化層(スケール)は、厚鋼板の製造時に厚鋼板の表面が酸化されて形成された酸化物層である。表面酸化層は、素地(地鉄)のFeに比べてレーザ光の吸収率が高く、切断時に必要な酸素源ともなるため、レーザ切断に際し必要な層である。レーザ光の吸収エネルギーを増加させて切断効率を向上させるために、表面酸化層の厚さは15μm以上とする。表面酸化層の厚さが厚くなるほど、レーザ吸収エネルギーが高くなる。しかしながら、表面酸化層の厚さが過剰となると、表面酸化層と地鉄の界面で剥離しやすくなり、表面酸化層の厚さも不均一になりやすくなり、レーザ切断性が劣化する。このため、表面酸化層の厚さは60μm以下とする。
【0066】
なお、安定してレーザ切断性を確保するためには、表面酸化層の厚さの均一化をはかるべく、表面酸化層の厚さの標準偏差を5.0μm以下とすることが好ましい。表面酸化層の厚さの標準偏差を5.0μm以下とするには、上述したように、Si、CuおよびNiを所定の含有量に制御する。ここで、安定してレーザ切断性を確保するとは、例えば、切断面にノッチ、ドロスの付着がないこと、レーザ切断速度が速い場合でも切断できることをいう。
【0067】
表面酸化層の厚さとその標準偏差は、実施例に示した方法により測定することができる。
【0068】
[板厚]
本発明の厚鋼板の板厚は、特に限定されず、任意の板厚とすることができる。一例として、本発明の厚鋼板の板厚は4.5mm以上である。また、一例として、本発明の厚鋼板の板厚は32mm以下である。本発明では、板厚が4.5~32mmの厚鋼板について、特にレーザ切断時に優れた切断品質が得られることから、厚鋼板の板厚を4.5~32mmとすることが好ましい。
【0069】
[製造方法]
次に、本発明の厚鋼板の製造方法について説明する。本発明の厚鋼板は、上述した第一実施形態または第二実施形態の成分組成を有する鋼素材を加熱し、熱間圧延中に生成する表面酸化層に対し、所定の条件でデスケーリングを実施することによって製造することができる。具体的に、本発明の厚鋼板の一実施形態にかかる製造方法は、上記成分組成を有する鋼素材を1000~1200℃に加熱後、圧延終了温度:700~1000℃である熱間圧延を施すにあたり、(圧延終了温度+100℃)~圧延終了温度の温度領域の圧延パス中において、鋼板の少なくとも一方の面に水を噴射してデスケーリングを5回以上実施するものである。なお、以下の説明における温度に関する「℃」表示は、厚鋼板表層の温度を意味するものとする。前記温度は、表面温度計等で測定することができる。
【0070】
鋼素材の加熱温度:1000~1200℃
鋼素材の加熱温度が1000℃未満では、熱間圧延での変形抵抗が高く、1パス当たりの圧下量が大きく取れなくなる。その結果、圧延パス数が増加し、圧延能率の低下を招くとともに、鋼素材(スラブ)中の鋳造欠陥を圧着することができない場合が生じる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、加熱時に生成する過度の高温スケールによって表面疵が生じやすく、圧延後の手入れ負荷が増大するとともに、結晶粒が粗大化して母材の脆性、延性を劣化させる。このため、鋼素材の加熱温度は1000~1200℃の範囲とする。なお、本発明では、鋼素材を製造した後、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法を採用できる。また、これに加えて、鋼素材を、室温まで冷却しないで温片のままで加熱炉に装入する、あるいは、わずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延も適用できる。
【0071】
圧延終了温度:700~1000℃
熱間圧延の圧延終了温度が1000℃を超えると、表面酸化層にブリスターが発生するだけでなく、圧延終了後の冷却過程で表面酸化層が過度に成長する。このため、所望の厚さの表面酸化層が得られない。また、組織が粗大化するため靭性が劣化する。一方、圧延終了温度が700℃より低いと、変形抵抗が高くなりすぎて、圧延荷重が増大し、圧延機への負担が大きくなる。また、圧延温度を低下させるためには、圧延途中で待機する必要があり、生産性を大きく阻害するだけでなく、鋼板温度が低いため表面酸化層が成長せずに薄くなり、所望の厚さの表面酸化層が得られない。さらには、厚鋼板中に蓄積される歪が大きくなるため、レーザ切断中に厚鋼板が変形し、切断精度の低下を招いたり、切断が途中で停止するなどの問題が生じる。このため、圧延終了温度を700~1000℃の範囲とする。
【0072】
(圧延終了温度+100℃)~圧延終了温度の温度領域の圧延パス中におけるデスケーリング:5回以上
所望の厚さの表面酸化層を安定して生成させるために、本発明では、圧延中のデスケーリングの回数を厳格に管理することが重要である。本発明では、(圧延終了温度+100℃)~圧延終了温度の温度領域の圧延パス中において、デスケーリングの回数を5回以上とする。前記温度領域におけるデスケーリングの回数が5回より少ないと、圧延中に生成、成長する表面酸化層の剥離が不十分となり、表面酸化層が過度に成長する。さらに、表面酸化層が局所的にはがれるため、表面酸化層の厚さのばらつきが大きくなる。
【0073】
なお、デスケーリングは厚鋼板の少なくとも一方の面に水を噴射すればよい。デスケーリングを行う場合には、通常、1パスの圧延の前後または圧延中に、1回のデスケーリングを行う。また、デスケーリングは、水の噴射圧力を10MPa以上として行うことが好ましい。
【実施例0074】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0075】
転炉-取鍋精錬-連続鋳造法で、表1、表2に示す種々の成分組成に調製した鋼素材(鋼スラブ)を、表3~5に示す種々の熱間圧延条件により板厚25mmの厚鋼板とした。デスケーリングは、水の噴射圧力15MPaで、厚鋼板の両面に対して行った。なお、表1、表2中の空欄は、意図的にその元素を添加しないことを表しており、元素を含有しない(0%)場合だけでなく、元素を不可避的に含有する場合も含む。
【0076】
得られた厚鋼板の長手方向の先端部から500mm、中心、および尾端部から500mmの位置から、それぞれ板幅方向1/4位置、1/2位置から、20mm×20mm×板厚のサンプルを1鋼種あたり各1個ずつ合計6個採取した。各サンプルについて、圧延方向に平行な断面が観察面となるようにカーボン樹脂に埋め込み、鏡面になるまで研磨した。地鉄および表面酸化層を含む領域の倍率400倍の光学顕微鏡写真を5枚撮影し、各写真の任意の10ヶ所で画像解析装置を用いて表面酸化層の厚さ(スケール厚)を測定した。サンプル6個すべての測定値の平均値を、表面酸化層の厚さとした。また、サンプル6個すべての測定値の標準偏差を、表面酸化層の厚さの標準偏差とした。Sbの濃化層の有無については、上記の断面試料を、表面酸化層と地鉄との界面を含めた、20μm×30μmの領域を電子線マイクロアナライザー(加速電圧15kV)でSbのマッピング分析を行い、評価した。具体的には、前記界面にSbの存在が確認できることをSbの濃化層が有ると判断した。
【0077】
引張特性については、JIS Z2241:2022に準拠して、試験片JIS1A号を厚鋼板のC方向(圧延方向と直角方向)より1本採取し、引張試験を実施し、降伏強さおよび引張強さを求めた。引張強さは、400MPa以上が好ましい。
【0078】
靭性については、JIS Z 2242:2018に準拠して、板厚(t)の1/4位置から、ノッチ方向がL方向(圧延方向と平行)となるように試験片を3本採取し(試験片:2mmVノッチ、サイズ:10mm×10mm)、シャルピー衝撃試験を実施した。試験温度:0℃における吸収エネルギーvE0℃を求め、衝撃特性を評価した。vE0℃は、27J以上が好ましい。なお、吸収エネルギー値は、試験片3本の平均値とした。
【0079】
レーザ切断性は、6kWの炭酸ガスレーザーを用いて厚鋼板を切断し、切断後の厚鋼板断面におけるノッチの有無、および厚鋼板裏面でのドロスの付着有無を目視で評価した。切断試験の条件は、酸素圧力0.3kgf/cm、切断長500mmとし、切断速度は750mm/minと900mm/minで評価した。切断可とは、切断面の状態によらず分離できるかどうかで判断した。具体的には、切断が途中で停止するなどの理由から分離できなかったものを切断不可とした。表3~5に結果を示す。この試験で、切断速度750mm/minで切断可で、かつ、切断後の厚鋼板断面にノッチが無く、厚鋼板裏面にドロス付着の無いものを、レーザ切断性に優れる(良好)と評価し、合格とした。
【0080】
被削性は、切削(外周旋削)試験を実施して評価した。工具材質は、超硬工具P20、切削条件は、送り0.20mm/rev、切り込み2.0mm、切削速度は150m/min、潤滑無しとした。逃げ面摩耗巾VB=0.2mmとなる切削時間を工具寿命として工具寿命を評価した。この試験で、工具寿命20min以上を、被削性に優れる(良好)と評価し、合格とした。結果を表3~5に示す。
【0081】
本発明例はいずれも、レーザ切断性および被削性に優れていた。さらに、本発明例はいずれも、引張強さ400MPa以上の優れた強度と、vE0℃が27J以上の優れた靭性を備えていた。さらにスケール厚の標準偏差が5.0μm以下のものは、切断速度900mm/minの条件においても切断可で、安定してレーザ切断性を確保でき、かつ、切断後の厚鋼板断面にノッチが無く、厚鋼板裏面にドロス付着がなく、レーザ切断性に特に優れていた。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】