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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137748
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240927BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240927BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B27/00 E
E04F13/08 E
E04F13/07 B
E04F13/07 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026013
(22)【出願日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023048522
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 智美
(72)【発明者】
【氏名】良波 梨紗
【テーマコード(参考)】
2E110
4F100
【Fターム(参考)】
2E110AA57
2E110AA64
2E110AB22
2E110AB23
2E110AB46
2E110BA04
2E110BB04
2E110GB02W
2E110GB05W
2E110GB06W
2E110GB13W
2E110GB17W
2E110GB32W
2E110GB43W
2E110GB44W
2E110GB45W
2E110GB46W
2E110GB47W
2E110GB48W
2E110GB49W
2E110GB54W
4F100AK01B
4F100AK07B
4F100AK07D
4F100AK25A
4F100AP03E
4F100AR00A
4F100AR00C
4F100AT00D
4F100AT00E
4F100BA01
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100DD07A
4F100GB08
4F100GB48
4F100HB00C
4F100JB04A
4F100JB14A
4F100JL10B
4F100JN01B
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】本発明は、化粧シートの表面が機能性塗工剤の密着性に優れており、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができる化粧シートを提供する。
【解決手段】最表面に表面保護層を有する化粧シートであって、
前記表面保護層の表面側の水接触角は100°以下であり、
前記表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、算術平均粗さRaが1μm以上であり、十点平均粗さRzjisが10μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以上である、
ことを特徴とする化粧シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面に表面保護層を有する化粧シートであって、
前記表面保護層の表面側の水接触角は100°以下であり、
前記表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、算術平均粗さRaが1μm以上であり、十点平均粗さRzjisが10μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以上である、
ことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記表面保護層の表面側の水接触角は70°以上95°以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記算術平均粗さRaが2μm以上10μm以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記十点平均粗さRzjisが15μm以上80μm以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記粗さ曲線要素の平均長さRSmが500μm以上1200μm以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、855~1325cm-1に現れるピークの高さをAとし、1650~1800cm-1に現れるピークの高さをBとしたときのAとBとのピーク高さ比((A/B)×100(%))が105%以上400%以下であり、3200~3500cm-1に現れるピークの高さをCとしたときのBとCとのピーク高さ比((B/C)×100(%))が1000%以上6000%以下である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項7】
基材シート上に、絵柄模様層、透明性樹脂層及び前記表面保護層をこの順に有する、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項8】
機能性塗工剤の塗工用である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の化粧シートを基材上に有する化粧板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、表面の保護、装飾等を目的として、木質板、プラスチック板等の表面に貼着して用いられている。そして、これによって得られた化粧板は、装飾品、建材、家具等様々な用途に使用されている。
【0003】
上述の用途に用いられる化粧シートは、人が手で触れることがあり、衛生面の観点から、表面に抗菌性を有する組成物を塗布し、抗菌処理を施すことが行われている。
【0004】
抗菌性を有する化粧シートとして、例えば、表面保護層に抗ウイルス添加剤が添加された化粧シートが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
例えば、建材等を新たに施工する場合であれば、特許文献1に提案されている化粧シートを用いることにより、抗ウイルス性を示すことができる。しかしながら、現状において表面保護層が抗ウイルス剤を含有しない場合であっても、抗ウイルススプレー剤のような機能性を付与する機能性塗工剤が用いられ、化粧シートの表面に性能を付与することが可能である。
【0006】
しかしながら、上述の機能性塗工剤は、化粧シートの表面への密着性に優れることが要求されており、すなわち、化粧シートには、表面への機能性塗工剤の密着性が高いことが要求されている。
【0007】
また、化粧シートの表面に、機能性塗工剤により機能を付与しても、当該機能が経時的に低下することがあり、機能性塗工剤は繰り返し塗工して用いられている。特に、化粧シートは、木質板、プラスチック板等の表面に貼着して用いられるため、物がぶつかり、表面が摩擦されることがある。また、化粧シートの表面を清掃により水拭き等で拭き取ることがある。このような場合に、化粧シートの表面の塗工剤が取れてしまうことがあり、化粧シートの表面に、再度機能性を付与するために、機能性塗工剤を繰り返し塗工する必要がある。このため、化粧シートには、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することが要求される。
【0008】
従って、化粧シートの表面が機能性塗工剤の密着性に優れており、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができる化粧シートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6879421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、化粧シートの表面が機能性塗工剤の密着性に優れており、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができる化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、最表面に表面保護層を有する化粧シートであって、表面保護層の表面側の水接触角が100°以下であり、表面保護層の表面側のRa、十点平均粗さRzjis、及び、粗さ曲線要素の平均長さRSmが特定の範囲である化粧シートによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の化粧シート及び化粧板に関する。
1.最表面に表面保護層を有する化粧シートであって、
前記表面保護層の表面側の水接触角は100°以下であり、
前記表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、算術平均粗さRaが1μm以上であり、十点平均粗さRzjisが10μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以上である、
ことを特徴とする化粧シート。
2.前記表面保護層の表面側の水接触角は70°以上95°以下である、項1に記載の化粧シート。
3.前記算術平均粗さRaが2μm以上10μm以下である、項1又は2に記載の化粧シート。
4.前記十点平均粗さRzjisが15μm以上80μm以下である、項1~3のいずれかに記載の化粧シート。
5.前記粗さ曲線要素の平均長さRSmが500μm以上1200μm以下である、項1~4のいずれかに記載の化粧シート。
6.前記表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、855~1325cm-1に現れるピークの高さをAとし、1650~1800cm-1に現れるピークの高さをBとしたときのAとBとのピーク高さ比((A/B)×100(%))が105%以上400%以下であり、3200~3500cm-1に現れるピークの高さをCとしたときのBとCとのピーク高さ比((B/C)×100(%))が1000%以上6000%以下である、項1~5のいずれかに記載の化粧シート。
7.基材シート上に、絵柄模様層、透明性樹脂層及び前記表面保護層をこの順に有する、項1~6のいずれかに記載の化粧シート。
8.機能性塗工剤の塗工用である、項1~7のいずれかに記載の化粧シート。
9.項1~8のいずれかに記載の化粧シートを基材上に有する化粧板。
【発明の効果】
【0013】
本発明の化粧シートは、化粧シートの表面が機能性塗工剤の密着性に優れており、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができる。よって、本発明の化粧シートを積層した化粧板は、各種の建材、家具等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の化粧シートの層構成の一例を示す図である。
図2】本発明の化粧板の層構成の一例を示す図である。
図3】本明細書におけるマルテンス硬さの測定に用いるダイヤモンド圧子(a)、押し込み操作の模式図(b)及び押し込み荷重と変位の一例(c)を示す図である。
図4】本発明の化粧シートの表面保護層の赤外分光スペクトル測定の結果の一例を示す図である。
図5】本発明の化粧シートの表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、ピークの高さを決定する方法を説明する図である。
図6】本発明の化粧シートの表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、ピークの高さを決定する方法を説明する図である。
図7】架橋硬化型樹脂の分子間での水素結合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.化粧シート
本発明の化粧シートは、最表面に表面保護層を有する化粧シートであって、前記表面保護層の表面側の水接触角は100°以下であり、前記表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、算術平均粗さRaが1μm以上であり、十点平均粗さRzjisが10μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以上であることを特徴とする化粧シートである。本発明の化粧シートは、前記表面保護層の表面側の水接触角は100°以下であり、且つ、表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjis、粗さ曲線要素の平均長さRSmが上記範囲であるので、化粧シートの表面が機能性塗工剤の密着性に優れており、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができる。そのため、本発明の化粧シートを積層した化粧板は、各種の建材、家具等の様々な用途に用いることができる。
【0016】
本発明の化粧シートは、上述の構成を有することにより、上記特性を備えるので、機能性塗工剤の塗工用として好適に用いることができる。このような機能性塗工剤としては、例えば、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗アレルゲン剤、ワックス、殺虫剤等が挙げられる。
【0017】
抗ウイルス剤としては、抗ウイルススプレーに用いられている抗ウイルス剤が挙げられ、例えば、銀イオン等の無機金属系やトリアジン系、アニオン系、エーテル系等の有機系に分類される抗ウイルス剤が挙げられる。
【0018】
上述の抗ウイルス剤を用いた抗ウイルススプレーとしては、市販品を用いることができる。このような市販品としては、ナウケア(商品名 積水マテリアルソリューションズ株式会社製)、イータック抗菌化スプレーα(商品名 エーザイ株式会社製)等が挙げられる。
【0019】
上述の抗アレルゲン剤を用いた抗アレルゲンスプレーとしては、市販品を用いることができる。このような市販品としては、アレルGプラスミスト(商品名 有限会社ハイラック製)等が挙げられる。
【0020】
以下、本発明の化粧シートの各層について詳細に説明する。なお、本発明の化粧シートにおいて、表面とは、いわゆる「おもて面」であり、本発明の化粧シートが基材等に積層されて用いられる際に、基材と接触する面とは反対側の面であり、表面保護層が視認される面である。また、本明細書では、本発明の化粧シートについて、上記表面の方向を「おもて」又は「上」と称し、その反対側を「裏」又は「下」と称する場合がある。また、以下の記載において、「~」で表される数値範囲の下限上限は「以上以下」を意味する(例えば、α~βならば、α以上β以下である)。
【0021】
また、本明細書における層厚は、化粧シートにエンボス、微粒子の頭出し等の凹凸形状がない箇所で測定した値である。
【0022】
(本発明の化粧シートの層構成)
本発明の化粧シートは、少なくとも表面保護層を有していればよく、当該表面保護層は、化粧シートの最表面に上記表面保護層を有していることが好ましい。具体的構成については化粧シートの用途等に応じて適宜設定すればよい。例えば、図1に示すように、基材シート11、絵柄模様層12(ベタインキ層及び/又は柄インキ層)、接着剤層(図示せず)、透明性樹脂層13、及び表面保護層14を順に有する層構成が挙げられる。以下、かかる層構成の化粧シートを代表例として具体的に説明する。
【0023】
(表面保護層)
本発明の化粧シートは、少なくとも表面保護層を有する。表面保護層は、化粧シートの最表面の層として設けられる。
【0024】
本発明の化粧シートにおける表面保護層は、表面側の水接触角が100°以下である。水接触角が100°を超えると、化粧シートの表面の機能性塗工剤の密着性が劣り、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができない。水接触角は70°以上95°以下が好ましく、75°以上90°以下がより好ましい。
【0025】
本明細書において、表面保護層の表面保護層側の水接触角の測定は、後述する実施例において説明する測定方法による。
【0026】
本発明の化粧シートは、表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、算術平均粗さRaが1μm以上である。Raが1μmを超えると、化粧シートの表面の機能性塗工剤の密着性が劣り、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができない。Raは、2μm以上10μm以下が好ましく、2.5μm以上8.5μm以下がより好ましい。
【0027】
本発明の化粧シートは、表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、十点平均粗さRzjisが10μm以上である。Rzjisが10μm未満であると、化粧シートの表面の機能性塗工剤の密着性が劣り、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができない。Rzjisは、15μm以上80μm以下が好ましく、20μm以上70μm以下がより好ましい。
【0028】
本発明の化粧シートは、表面保護層の表面側の、JIS B0601:2001に準拠して測定した、粗さ曲線要素の平均長さRSmが300μm以上である。RSmが300μm未満であると、化粧シートの表面の機能性塗工剤の密着性が劣り、且つ、機能性塗工剤を繰り返し塗工した場合に、機能性を発揮することができない。RSmは、500μm以上1200μm以下が好ましく、515μm以上1180μm以下がより好ましい。
【0029】
表面保護層のRa、Rzjis、及び、RSmを上記範囲に調整する手法としては特に限定されず、例えば、1)Ra、Rzjis、及び、RSmが上記範囲であるエンボス版によりエンボス形状を賦形する方法、2)表面保護層に無機フィラーを添加する方法等が挙げられる。
【0030】
表面保護層のマルテンス硬さは特に限定されず、30~200N/mm2が好ましく、50~180 N/mm2がより好ましく、60~170 N/mm2が更に好ましい。表面保護層のマルテンス硬さを調整する方法としては、例えば、1)異なる2種以上のオリゴマーを混合する、2)異なる2種以上のオリゴマーのは配合比を調整する、等によって適宜調整することができる。表面保護層を形成するオリゴマーの種類と配合比によって、硬化後の表面保護層のマルテンス硬さが変わり、当該マルテンス硬さが表面粗さに影響を与える。本発明の化粧シートでは、表面保護層のマルテンス硬さをA、表面保護層の表面保護層側の算術平均粗さRaをB、表面保護層の表面側の粗さ曲線要素の平均長さRSmをCとした際に、A/B<100、且つ、C/B>100であることが好ましい。A/B<100であると、表面保護層が柔らかく、エンボス賦型により凹凸を形成し易くなる。このため、表面保護層の表面に機能性塗工剤が留まり易くなる。また、C/B>100であると、表面保護層の凹凸の間隔が大きくなり、機能性塗工剤が平面部に密着し易くなる。
【0031】
なお、本明細書におけるマルテンス硬さは、表面皮膜物性試験機(PICODENTOR HM-500、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製)を用いて測定される値であり、具体的な測定方法は次の通りである。この測定方法では、図3(a)に示されるダイヤモンド圧子(ビッカーズ圧子)を用いて、図3(b)に示すように測定試料にダイヤモンド圧子を押し込み、表面にできたピラミッド形のくぼみの対角線の長さからその表面積A(mm2)を計算し、試験荷重F(N)を割ることにより硬さを求める。押し込み条件は、室温(実験室環境温度)において、図3(c)に示される通り、先ず0~5mNまでの負荷を10秒間で加え、次に5mNの負荷で5秒間保持し、最後に5~0 mNまでの除荷を10秒間で行う。そして、表面積A、試験荷重Fに基づきF/Aにより求められる硬度が前記マルテンス硬さである。なお、本明細書では、マルテンス硬さを測定したい層以外の層の硬度の影響を回避するために、マルテンス硬さを測定したい層の断面のマルテンス硬さを測定した。これに際し、化粧シートを樹脂(冷間硬化タイプのエポキシ2液硬化樹脂)で埋包し、室温で24時間以上放置して硬化させた後、硬化した埋包サンプルを機械研磨してマルテンス硬さを測定したい層の断面を露出させ、当該断面に(無機充填材等の微粒子が測定対象層中に含まれる場合には当該微粒子を避けた位置に)ダイヤモンド圧子を押し込むことにより測定対象面の断面のマルテンス硬さを測定した。
【0032】
表面保護層を構成する樹脂は、熱硬化型樹脂、電離放射線硬化型樹脂(例えば、電子線硬化型樹脂)の硬化型樹脂が好ましい。特に、高い表面硬度による耐傷性、凸形状保持性、生産性等の観点から、表面保護層は電離放射線硬化型樹脂を含むことが好ましく、表面保護層を構成する樹脂が電離放射線硬化型樹脂であることがより好ましい。
【0033】
熱硬化型樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂(2液硬化型ポリウレタンも含む)、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
【0034】
上記樹脂には、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤等を添加することができる。例えば、硬化剤としてはイソシアネート、有機スルホン酸塩等が不飽和ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等に添加でき、有機アミン等がエポキシ樹脂に添加でき、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物、アゾイソブチルニトリル等のラジカル開始剤が不飽和ポリエステル樹脂に添加できる。
【0035】
熱硬化型樹脂で表面保護層を形成する方法は、例えば、熱硬化型樹脂の溶液をロールコート法、グラビアコート法等の塗布方法で塗布し、乾燥・硬化させる方法が挙げられる。
【0036】
電離放射線硬化型樹脂は、電離放射線の照射により架橋重合反応を生じ、3次元の高分子構造に変化する樹脂であれば限定されない。例えば、電離放射線の照射により架橋可能な重合性不飽和結合又はエポキシ基を分子中に有するプレポリマー、オリゴマー及びモノマーの1種以上が使用できる。例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等のアクリレート樹脂;シロキサン等のケイ素樹脂;ポリエステル樹脂;エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0037】
電離放射線硬化型樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系樹脂を含むことが好ましい。電離放射線硬化型樹脂として、(メタ)アクリロイル基を有するアクリル系樹脂を含むことで、電離放射線硬化型樹脂の分子間で水素結合を生じるため、表面保護層の表面硬度、及び耐擦傷性が、より一層向上する。
【0038】
電離放射線としては、可視光線、紫外線(近紫外線、真空紫外線等)、X線、電子線、イオン線等があるが、この中でも、紫外線及び/又は電子線が望ましい。
【0039】
紫外線源としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯の光源が使用できる。紫外線の波長としては、190~380nm程度である。
【0040】
電子線源としては、例えば、コッククロフトワルト型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器が使用できる。電子線のエネルギーとしては、100~1000keV程度が好ましく、100~300keV程度がより好ましい。電子線の照射量は、2~15Mrad程度が好ましい。
【0041】
電離放射線硬化型樹脂は電子線を照射すれば十分に硬化するが、紫外線を照射して硬化させる場合には、光重合開始剤(増感剤)を添加することが好ましい。
【0042】
ラジカル重合性不飽和基を有する樹脂系の場合の光重合開始剤は、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、チオキサントン類、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、ミヒラーケトン、ジフェニルサルファイド、ジベンジルジサルファイド、ジエチルオキサイド、トリフェニルビイミダゾール、イソプロピル-N,N-ジメチルアミノベンゾエート等の少なくとも1種が使用できる。また、カチオン重合性官能基を有する樹脂系の場合は、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタロセン化合物、ベンゾインスルホン酸エステル、フリールオキシスルホキソニウムジアリルヨードシル塩等の少なくとも1種が使用できる。
【0043】
光重合開始剤の添加量は特に限定されないが、一般に電離放射線硬化型樹脂100質量部に対して0.1~10質量部程度である。
【0044】
表面保護層は、1層であってもよいし、2層以上の複数層であってもよい。本発明では、表面保護層が複数層である場合、最表面の表面保護層側から、水接触角、Ra、Rzjis、及び、RSmを測定する。
【0045】
表面保護層の厚みは、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されないが、1~200μmが好ましく、1~100μmがより好ましく、3~50μmが更に好ましく、4~40μmが特に好ましい。
【0046】
表面保護層は、微粒子を含有していてもよい。微粒子としては、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、炭化珪素、二酸化珪素、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、マグネシウムパイロボレート、酸化亜鉛、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、窒化硼素、ダイヤモンド、金剛砂、ガラス繊維等の無機フィラー;アクリル、架橋アルキル、架橋スチレン、インゾグアナミン樹脂、尿素- ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ナイロン等の有機材料パウダーないしビーズ等が挙げられる。前記微粒子は、1種又は2種以上使用することができる。
【0047】
微粒子の平均粒子径は、表面保護層の厚み以上が好ましく、耐傷性を示すためには「表面保護層の厚み+40μm」未満であることが好ましく、「表面保護層の厚み+30μm」以下であることがより好ましい。
【0048】
微粒子の平均粒子径については、レーザー回折法、コールターカウンター法、沈降法等の公知の方法により測定することができる。なお、前記平均粒子径は、モード径を意味する。
【0049】
表面保護層中における微粒子の含有量は、表面保護層を形成する樹脂成分100質量部に対して、3~50質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。
【0050】
表面保護層には、必要に応じて、溶剤、染料、顔料等の着色剤、無機フィラー等の充填剤、消泡剤、レベリング剤、チクソトロピー性付与剤、難燃剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗アレルゲン剤等の各種添加剤を加えてもよい。
【0051】
無機フィラーとしては、表面保護層の層厚さよりも大きな無機フィラーを表面保護層に含有することにより、表面保護層に所定の表面性状を与える手段として用いることができる。また、無機フィラーは艶消し剤としても用いることができ、表面保護層に無機フィラーを含むことにより表面保護層の硬化収縮を抑制する効果も期待できる。よって、本発明では無機フィラーは表面処理(疎水化処理)されたものであることが好ましい。また、これらの添加剤の中でも特に抗菌剤、抗ウイルス剤及び抗アレルゲン剤からなる群から選択される少なくとも一種は、効果を得易くする点から最表面層である表面保護層に含有することが好ましい。
【0052】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、炭化珪素、二酸化珪素、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、マグネシウムパイロボレート、酸化亜鉛、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、窒化硼素、ダイヤモンド、金剛砂、ガラス繊維等が挙げられる。
【0053】
無機フィラーを表面処理(疎水化処理)する方法は特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、シリコーンオイル系処理剤によって無機フィラーを疎水化処理する方法;アルキルシラザン系処理剤、トリメチルシリル化剤、及び/又は、アルコキシシランで無機フィラーを処理した後に上述のシリコーンオイル系処理剤によって無機フィラーを疎水化処理する方法;シリコーンオイル系処理剤によって無機フィラーを疎水化処理した後に、さらにトリメチルシリル化剤又はアルキルシラザン系処理剤で処理する方法;アルコキシシランによって無機フィラーを疎水化処理する方法;アルコキシシランによって無機フィラーを処理した後に、さらにシリコーンオイル系処理剤、又はシリコーンオイル系処理剤及びアルコキシシランで処理する方法;ダイマージオールシロキサン、及び/又は、トリメチルシラノール若しくは環状シロキサンを用いて無機フィラーを処理する方法などが挙げられる。また、上述の疎水化処理の方法だけでなく、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等の各種カップリング剤;リン酸系、脂肪酸系等の界面活性剤;油脂、ステアリン酸等によって処理する方法も疎水化処理の方法として挙げられる。以下、未処理の無機フィラーを疎水化処理するための上述の各製品(例えば、シリコーンオイル系処理剤等の処理剤、シランカップリング剤、界面活性剤等の全て)を、纏めて疎水化処理剤ともいう。
【0054】
疎水化処理剤で無機フィラーを疎水化処理する方法としては、特に限定されず、公知の方法によって行うことができる。例えば、未処理の無機フィラーに疎水化処理剤の原液、又は疎水化処理剤を水若しくは有機溶剤に希釈したものを添加(例えば噴霧)する方法(乾式処理法);未処理の無機フィラーを疎水化処理剤の原液、疎水化処理剤含有水溶液又は疎水化処理剤含有有機溶剤中で処理(例えば浸漬)し、その後、乾燥させる方法(湿式処理法);などが挙げられる。このような処理により、無機フィラー表面の一部若しくは全部が(a)疎水化処理剤で被覆されるか、(b)疎水化処理剤を吸着するか、又は(c)疎水化処理剤で被覆され、且つ吸着する((a)及び(b)の組み合わせとなる)、等が生じる。その結果、疎水化処理された無機フィラーが得られる。なお、疎水化処理剤は、1種類単独又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
上記抗菌剤としては、無機系抗菌剤、及び有機系抗菌剤がある。特に無機系抗菌剤は有機系抗菌剤に比べ一般に安全性が高く、耐久性、及び耐熱性にも優れているため望ましい。無機系抗菌剤とは、銀をはじめとする銅、亜鉛等の抗菌性金属を各種の無機物担体に担持したものである。表面保護層に含有する場合には、抗菌剤の添加量は表面保護層の樹脂成分100質量部に対して0.1~10質量部が好ましいが、詳細は抗菌剤の種類に応じて適宜調整することができる。
【0056】
上記抗ウイルス剤としては、一般的に有機系と無機系とに大別することができる。有機系の抗ウイルス剤としては、第4級アンモニウム塩系、第4級ホスホニウム塩系、ピリジン系、ピリチオン系、ベンゾイミダゾール系、有機ヨード系、イソチアゾリン系、アニオン系、エーテル系等がある。無機系の抗ウイルス剤としては、銀、銅、亜鉛等の金属イオンをゼオライト、アパタイト、ジルコニア、ガラス、酸化モリブデン等の担体に担持させたものがある。表面保護層に含有する場合には、抗ウイルス剤の添加量は表面保護層の樹脂成分100質量部に対して0.1~10質量部が好ましいが、詳細は抗ウイルス剤の種類に応じて適宜調整することができる。
【0057】
上記有機系の抗ウイルス剤の内、特に粒子形状を保つベンゾイミダゾール系の抗ウイルス剤またはアニオン系の抗ウイルス剤またはエーテル系の抗ウイルス剤が好適に用いられる。ここで、粒子形状を保つとは、表面保護層の硬化型樹脂となる組成物(硬化前のインキ)内で溶解することなく粒子の状態で存在することを意味する。このため、表面保護層を形成する過程において、イミダゾール系化合物の粒子またはアニオン系化合物の粒子またはエーテル系化合物が浮かび上がりやすくなり、表面保護層の最表面側にイミダゾール系化合物の粒子またはアニオン系化合物またはエーテル系化合物の粒子を偏在させやすくすることができる。そして、表面保護層の最表面側にイミダゾール系化合物の粒子をまたはアニオン系化合物の粒子をまたはエーテル系化合物の粒子を偏在させることにより、所定の抗ウイルス性を得るために必要な抗ウイルス剤の添加量を抑制することができるため、表面保護層の耐擦傷性の低下を抑制しやすくできる。
【0058】
上記アニオン系の抗ウイルス剤としては、例えばスチレン樹脂、スチレンポリマー誘導体化合物及び不飽和カルボン酸誘導体化合物を含むものが好ましい。また、上記スチレンポリマー誘導体化合物及び不飽和カルボン酸誘導体化合物はスチレン、スルホン酸Na、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸の構造の内、少なくとも一種の構造を含むことが好ましく、全ての構造を含むことが更に好ましい。これは、ウイルスにはエンベロープ有無の点で大別して2種類が存在し、それぞれに対し効果的に活性阻害し得る抗ウイルス剤の構造が異なると考えられるためである。そのため、例えば、ノンエンベロープウイルスであるインフルエンザウイルスのみに対する効果を期待するのであれば、スチレンポリマー誘導体化合物のみが含まれていればよく、その中でもスチレン樹脂単体のみが含まれていれば十分に効果が得られる場合もある。
【0059】
上記無機系の抗ウイルス剤としては、生体毒性が無く安全性に優れる観点から銀系の抗ウイルス剤が好ましく、中でもリン酸系ガラス銀担持化合物または銀ゼオライト化合物、及び酸化モリブデン銀複塩化合物は、少量でも抗ウイルス性能を発現することから添加量を抑制することができるため、更に好ましい。
【0060】
上記銀系の抗ウイルス剤を表面保護層に含有する場合、表面保護層によっては変色する(添加した塗料の状態で熱・光により変色する場合や、表面保護層形成後に熱・光により変色する場合がある)が、この場合は紫外線防止剤、光安定剤等を適時添加することにより改善することが可能である。例えば、上記酸化モリブデン銀複塩化合物に対しては、ベンゾトリアゾール系化合物を用いると変色改善効果が期待できる。
【0061】
上記抗アレルゲン剤は、無機化合物又は有機化合物のいずれか一方を含むものであり、各々単体で用いても良いし、異なる2種以上を混合させても良い。無機化合物としては金属を担持してなる材料であることが好ましい。第1表面保護層に含有する場合には、抗アレルゲン剤の添加量は表面保護層の樹脂成分100質量部に対して0.1~10質量部が好ましいが、詳細は抗アレルゲン剤の種類に応じて適宜調整することができる。
【0062】
電離放射線硬化型樹脂を含む表面保護層を形成する方法としては、例えば、(1)電離放射線硬化型樹脂等の樹脂、並びに(2)必要に応じて、その他の樹脂、微粒子、紫外線吸収剤、抗菌剤、上記各種添加剤、などを含む溶液(表面保護層形成用樹脂組成物)をグラビアコート法、ロールコート法等の塗工法により塗工した後、電離放射線硬化型樹脂を硬化させることにより表面保護層を形成する方法が挙げられる。
【0063】
上記表面保護層は、赤外分光スペクトル測定において、855~1325cm-1に現れるピークの高さをAとし、1650~1800cm-1に現れるピークの高さをBとしたときのAとBとのピーク高さ比((A/B)×100(%))が105%以上400%以下であり、上記表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、3200~3500cm-1に現れるピークの高さをCとしたときのBとCとのピーク高さ比((B/C)×100(%))が1000%以上6000%以下であることが好ましい。本発明の化粧シートが上記特徴を有することにより、化粧シートの表面保護層が下層への密着性により一層優れ、表面硬度、及び耐擦傷性がより向上し、且つ、加工性がより向上する。そのため、本発明の化粧シートを積層した化粧板は、各種の建材、家具等の様々な用途に、より好適に用いることができる。以下に図を用いて説明する。
【0064】
図4は、本発明の化粧シートの表面保護層の赤外分光スペクトル(以下、「IR」とも示す。)測定の結果の一例を示す図である。図4において、Aはエーテル結合によるピーク、Bはエステル結合によるピーク、Cはウレタン結合によるピークを示す。
【0065】
なお、本明細書において、各ピークの高さは下記のように測定する。すなわち、図5に示すように、各ピークのベースポイントb1及びb2を2点とり、ベースポイント間を直線で結んだベースラインbLを引く。次いで、ピークトップの位置pから、下方向に垂直に線を引き、ベースラインbLとの交点bpを指定する。pとbpとの間の長さhをピークの高さとする。
【0066】
また、図6のように、Aのピークが複数のピークを示す場合は、以下のようにしてピークの高さを測定する。すなわち、図6のように、隣り合う2つのピークが存在する場合、2つのピークの間の谷からピーク頂点までの高さh1-1、h2-1が0.10Abs以上である場合、2つのピーク高さh1及びh2を合計して、ピーク高さとする。なお、図6において、ピークトップがp2であるピークは、隣り合うピークが両側に存在しており、2つのピークの間の谷からピーク頂点までの高さが、h2-1及びh2-2の2つが存在することとなる。この場合は、より短い高さであるh2-1を採用して、0.10Abs以上であるかどうかを判断する。
【0067】
本明細書において、表面保護層の赤外分光スペクトル測定は、市販の赤外分光スペクトル測定の測定機器により測定することができる。
【0068】
本発明の化粧シートは、表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、855~1325cm-1に現れるピークの高さをAとし、1650~1800cm-1に現れるピークの高さをBとしたときのAとBとのピーク高さ比((A/B)×100(%))が105%以上400%以下であることが好ましい。AとBとのピーク高さ比が105%未満であると、表面保護層中のエステル結合が多過ぎ、表面保護層が固くなり過ぎて、化粧シートの加工性が低下するおそれがある。AとBとのピーク高さ比が400%を超えると、エーテル結合が多過ぎ、表面保護層が柔らかくなり過ぎて、化粧シートの表面硬度、及び耐擦傷性が低下するおそれがある。AとBとのピーク高さ比は、110%以上300%以下がより好ましく、150%以上250%以下が更に好ましい。
【0069】
本発明の化粧シートは、表面保護層の赤外分光スペクトル測定において、3200~3500cm-1に現れるピークの高さをCとしたときのBとCとのピーク高さ比((B/C)×100(%))が1000%以上6000%以下であることが好ましい。BとCとのピーク高さ比が1000%未満であると、表面保護層中のウレタン結合が多過ぎ、図7に示すような、ウレタン結合中の-N-H基と-C=O基との水素結合が過剰に増加して表面保護層が固くなり過ぎて、化粧シートの加工性が低下するおそれがある。BとCとのピーク高さ比が6000%を超えると、表面保護層中のウレタン結合が少な過ぎ、表面保護層が柔らかくなり過ぎて、化粧シートの表面硬度、及び耐擦傷性が低下するおそれがある。BとCとのピーク高さ比は、1300%以上5500%以下がより好ましく、1500%以上5200%以下が更に好ましい。
【0070】
AとBとのピーク高さ比、及び、BとCとのピーク高さ比を上記範囲に調整する調整方法としては、表面保護層を形成するために用いる架橋硬化型樹脂の配合を変更する調整方法が挙げられる。架橋硬化型樹脂がエーテル結合を多く含有し、エステル結合を少なく含有する配合である場合、AとBとのピーク高さ比が大きくなる。逆に、架橋硬化型樹脂がエーテル結合を少なく含有し、エステル結合を多く含有する配合である場合、AとBとのピーク高さ比が小さくなる。また、架橋硬化型樹脂がエステル結合を多く含有し、ウレタン結合を少なく含有する配合である場合、BとCとのピーク高さ比が大きくなる。逆に、架橋硬化型樹脂がエステル結合を少なく含有し、ウレタン結合を多く含有する配合である場合、BとCとのピーク高さ比が小さくなる。
【0071】
(基材シート)
基材シートは、その表面(おもて面)に絵柄模様層等が順次積層される層である。
【0072】
基材シートとしては、例えば、熱可塑性樹脂により形成されたシート(フィルム)が好適である。具体的には、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、アイオノマー、アクリル酸エステル系重合体、メタアクリル酸エステル系重合体等が挙げられる。基材シートは、これらの樹脂を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることにより形成される。
【0073】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味し、他の(メタ)と記載された部分についても同様である。
【0074】
基材シートは、着色されていても良い。この場合は、上記のような熱可塑性樹脂に対して着色剤(顔料又は染料)を添加して着色することができる。着色剤としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄等の無機顔料、フタロシアニンブルー等の有機顔料のほか、各種の染料も使用することができる。これらは、公知又は市販のものから1種又は2種以上を選ぶことができる。また、着色剤の添加量も、所望の色合い等に応じて適宜設定すれば良い。
【0075】
基材シートには、必要に応じて、充填剤、艶消し剤、発泡剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種の添加剤が含まれていても良い。
【0076】
基材シートの厚みは、最終製品の用途、使用方法等により適宜設定できるが、一般には20~300μmが好ましい。
【0077】
基材シートは、必要に応じて、絵柄模様層を形成するインキの密着性を高めるために表面(おもて面)にコロナ放電処理を施してもよい。コロナ放電処理の方法・条件は、公知の方法に従って実施すれば良い。また、必要に応じて、基材シートの裏面にコロナ放電処理を施したり、裏面プライマー層を形成したりしてもよい。
【0078】
(絵柄模様層)
本発明の化粧シートは、絵柄模様層を有していてもよい。
【0079】
絵柄模様層は、化粧シートに所望の絵柄(意匠)を付与するものであり、絵柄の種類等は限定的ではない。例えば、木目模様、レザー模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様等が挙げられる。
【0080】
絵柄模様層の形成方法は特に限定されず、例えば、公知の着色剤(染料又は顔料)を結着材樹脂とともに溶剤(又は分散媒)中に溶解(又は分散)して得られるインキを用いた印刷法により、基材シート表面に形成すればよい。インキとしては、化粧シートのVOCを低減する観点からは水性組成物を用いることもできる。
【0081】
着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料;アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料;アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属粉顔料;酸化チタン被覆雲母、酸化塩化ビスマス等の真珠光沢顔料;蛍光顔料;夜光顔料等が挙げられる。これらの着色剤は、単独又は2種以上を混合して使用できる。これらの着色剤は、シリカ等のフィラー、有機ビーズ等の体質顔料、中和剤、界面活性剤等とともに用いてもよい。
【0082】
結着材樹脂としては、親水性処理されたポリエステル系ウレタン樹脂のほか、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリスチレン-アクリレート共重合体、ロジン誘導体、スチレン-無水マレイン酸共重合体のアルコール付加物、セルロース系樹脂なども併用できる。より具体的には、例えば、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリN-ビニルピロリドン系樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂、水溶性アミノ系樹脂、水溶性フェノール系樹脂、その他の水溶性合成樹脂;ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖類等の水溶性天然高分子;等も使用することができる。また、例えば、天然ゴム、合成ゴム、ポリ酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン-ポリアクリル系樹脂等が変性したものないし前記天然ゴム等の混合物、その他の樹脂を使用することもできる。上記結着材樹脂は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0083】
溶剤(又は分散媒)としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水等の無機溶剤等が挙げられる。これらの溶剤(又は分散媒)は、単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0084】
絵柄模様層の形成に用いる印刷法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等が挙げられる。また、全面ベタ状の絵柄模様層を形成する場合には、例えば、ロールコート法、ナイフコート法、エアーナイフコート法、ダイコート法、リップコート法、コンマコート法、キスコート法、フローコート法、ディップコート法等の各種コーティング法が挙げられる。その他、手描き法、墨流し法、写真法、転写法、レーザービーム描画法、電子ビーム描画法、金属等の部分蒸着法、エッチング法等を用いたり、他の形成方法と組み合わせて用いたりしてもよい。
【0085】
絵柄模様層の厚みは特に限定されず、製品特性に応じて適宜設定できるが、層厚は0.1~10μm程度である。
【0086】
(着色隠蔽層)
本発明の化粧シートでは、基材シートと絵柄模様層との間にさらに着色隠蔽層が形成されていてもよい。
【0087】
着色隠蔽層は、化粧シートと被着材とを接合した際に被着材の地色を隠蔽できればよく、通常は基材シートを被覆するように形成すればよい。
【0088】
着色隠蔽層の形成には、上記公知の印刷法を利用できる。また、前記絵柄模様層の形成に用いるインキをそのまま使用できる。
【0089】
塗布量は、2~30g/m2の範囲が望ましい。着色隠蔽層の厚みは、通常0.1~20μm程度、好ましくは1~10μm程度である。
【0090】
(接着剤層)
後述する透明性樹脂層と絵柄模様層との密着性を高めるため、絵柄模様層上に接着剤層を形成してもよい。接着剤層は、透明性接着剤層であることが好ましく、当該透明性接着剤層としては、無色透明、着色透明、半透明等のいずれも含む。
【0091】
接着剤としては特に限定されず、化粧シートの分野で公知の接着剤が使用できる。
【0092】
化粧シートの分野で公知の接着剤としては、例えば、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、ウレタン系樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これら着色剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いる。また、イソシアネートを硬化剤とする二液硬化型ポリウレタン樹脂又はポリエステル樹脂も適用し得る。
【0093】
透明性接着剤層の形成には、上記公知の印刷法を利用できる。
【0094】
透明性接着剤層の厚みは特に限定されないが、乾燥後の厚みが0.1~30μm程度、好ましくは1~20μm程度である。
【0095】
(透明性樹脂層)
本発明の床用化粧シートは、透明性樹脂層を有していてもよい。
【0096】
透明性樹脂層は、透明性のものであれば特に限定されず、無色透明、着色透明、半透明等のいずれも含む。前記透明性樹脂層を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン等のポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、オレフィン系エラストマー等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、アイオノマー、アクリル酸エステル系重合体、メタアクリル酸エステル系重合体、ポリカーボネート、セルローストリアセテート等を挙げることができる。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0097】
透明性樹脂層は、透明性熱可塑性樹脂層であることが好ましく、ポリプロピレン樹脂又はポリエチレン樹脂を代表とするオレフィン系樹脂を含むことがより好ましく、透明性樹脂層を構成する樹脂が上記オレフィン系樹脂又はアイオノマー系樹脂であることが更に好ましい。
【0098】
なお、透明性樹脂層は、透明性を有する限り着色されていても良いが、特に着色剤を配合しない方が望ましい。
【0099】
透明性樹脂層の厚みは、通常は20~200μm程度であるが、床用化粧シートの用途等に応じて上記範囲を超えてもよい。
【0100】
(プライマー層)
透明性樹脂層の上には、プライマー層を設けてもよい。プライマー層は、公知のプライマー剤を透明性樹脂層の表面に塗布することにより形成できる。プライマー剤としては、例えば、アクリル変性ウレタン樹脂(アクリルウレタン系樹脂)等からなるウレタン樹脂系プライマー剤、ウレタン-セルロース系樹脂(例えば、ウレタンと硝化綿との混合物にヘキサメチレンジイソシアネートを添加してなる樹脂)からなるプライマー剤、アクリルとウレタンとのブロック共重合体からなる樹脂系プライマー剤等が挙げられる。プライマー剤には、必要に応じて、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー等の充填剤、水酸化マグネシウム等の難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤などが挙げられる。添加剤の配合量は、製品特性に応じて適宜設定できる。
【0101】
プライマー剤の塗布量は特に限定されないが、通常0.1~100g/m、好ましくは0.1~50g/m程度である。
【0102】
プライマー層の厚みは特に限定されないが、通常0.01~10μm、好ましくは0.1~1μm程度である。
【0103】
(裏面プライマー層)
基材シートの裏面(絵柄模様層が積層される面と反対側の面)には、必要に応じて、裏面プライマー層を設けてもよい。例えば、化粧シートと基材(被着材)とを積層して化粧板を作製する際に効果的である。
【0104】
裏面プライマー層は、公知のプライマー剤を基材シートに塗布することにより形成できる。プライマー剤としては、例えば、アクリル変性ウレタン樹脂(アクリルウレタン系樹脂)等からなるウレタン樹脂系プライマー剤、ウレタン-セルロース系樹脂(例えば、ウレタンと硝化綿の混合物にヘキサメチレンジイソシアネートを添加してなる樹脂)からなるプライマー剤、アクリルとウレタンのブロック共重合体からなる樹脂系プライマー剤等が挙げられる。プライマー剤には、必要に応じて、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー等の充填剤、水酸化マグネシウム等の難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤などが挙げられる。添加剤の配合量は、製品特性に応じて適宜設定できる。
【0105】
プライマー剤の塗布量は特に限定されないが、通常0.1~100g/m、好ましくは0.1~50g/m程度である。
【0106】
裏面プライマー層の厚みは特に限定されないが、通常0.01~10μm、好ましくは0.1~1μm程度である。
【0107】
(合成樹脂製バッカー層)
基材シートの裏面には、合成樹脂製バッカー層(以下、単に「バッカー層」とも示す。耐傷性を高めたり、基材(被着材)の影響を緩和したりするための合成樹脂層である。)を設けてもよい。なお、上記耐傷性は特に部分的に荷重がかかった場合の凹み傷に対する耐性をいう。本発明の化粧シートは、バッカー層を設けなくても十分な耐傷性は有しているが、バッカー層を設けることにより耐傷性などの諸性能をより高めることができる。
【0108】
バッカー層を形成する方法としては、溶融樹脂の押出し成形が好適であり、例えば、Tダイを用いた押出し成形が好適である。
【0109】
基材シートの裏面とバッカー層とを接着させる方法としては、基材シートと溶融樹脂を押出し成形することによって得られるバッカー層とを熱融着によって接着する方法、基材シートとバッカー層との間に接着剤層(更に必要に応じてプライマー層)を設けることによって接着する方法等が挙げられる。
【0110】
バッカー層を構成する樹脂としては限定的ではないが、熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリメチレン、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、アモルファスポリエチレンテレフタレート(A-PET)、耐熱性の高いポリアルキレンテレフタレート〔例えば、エチレングリコールの一部を1,4-シクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコール等で置換したポリエチレンテレフタレートである、いわゆる商品名PET-G(イーストマンケミカルカンパニー製)〕、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート-イソフタレート共重合体、ポリイミド、ポリスチレン、ポリアミド、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)等が挙げられる。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0111】
バッカー層の厚みは、最終製品の用途、使用方法等により適宜設定でき、一般には100~800μmが好ましい。この中でも、100~600μmがより好ましい。
【0112】
バッカー層には、必要に応じ、コロナ放電処理、プラズマ処理、脱脂処理、表面粗面化処理等の公知の易接着処理を接着面に施すこともできる。また、被着材との接着性を考慮して裏面にプライマー層を更に設けてもよい。
【0113】
(化粧シートの各層に含まれる各種添加剤のベシクル化)
本発明の化粧シートの上述の各層に添加される各種添加剤(プライマー層や表面保護層に添加される無機フィラー等)は、当該各種添加剤がベシクル化されていることが好ましい。各種添加剤をベシクル化する方法としては特に限定されず、公知の方法によりベシクル化することができ、中でも超臨界逆相蒸発法が好ましい。
【0114】
ベシクル化処理方法としては、超臨界逆相蒸発法の他に、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、逆相蒸発法、凍結融解法などが挙げられる。このようなベシクル化処理方法について簡単に説明すると、Bangham法は、フラスコなどの容器にクロロホルムまたはクロロホルム/メタノール混合溶媒を入れ、さらにリン脂質を入れて溶解する。その後、エバポレータを用いて溶媒を除去して脂質からなる薄膜を形成し、添加剤の分散液を加えた後、ボルテックスミキサーで水和・分散させることよりベシクルを得る方法である。エクストルージョン法は、薄膜のリン脂質溶液を調液し、Bangham法において外部摂動として用いたミキサーに代わってフィルターを通過させることによりベシクルを得る方法である。水和法は、Bangham法とほぼ同じ調製方法であるが、ミキサーを用いずに、穏やかに攪拌して分散させてベシクルを得る方法である。逆相蒸発法は、リン脂質をジエチルエーテルやクロロホルムに溶解し、添加剤を含んだ溶液を加えてW/Oエマルジョンを作り、当該エマルジョンから減圧下において有機溶媒を除去した後、水を添加することによりベシクルを得る方法である。凍結融解法は、外部摂動として冷却・加熱を用いる方法であり、この冷却・加熱を繰り返すことによってベシクルを得る方法である。
【0115】
以下、超臨界逆相蒸発法について詳細に説明する。超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態又は超臨界点以上の温度若しくは圧力条件下の二酸化炭素にベシクルの外膜を形成する物質を均一に溶解させた混合物中に、水溶性または親水性の封入物質としての各種添加剤を含む水相を加えて、一層の膜で封入物質としての各種添加剤を包含したカプセル状のベシクルを形成する方法である。なお、超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)および臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度若しくは圧力条件下の二酸化炭素とは、臨界温度のみ、又は、臨界圧力のみが臨界条件を超えた条件下の二酸化炭素を意味する。当該方法により、直径50~800nmの単層ラメラベシクルを得ることができる。一般に、ベシクルとは、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞の内部に液相を含むものの総称であり、特に、外膜がリン脂質等の生体脂質から構成されるものをリポソームと称する。
【0116】
上記リン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0117】
外膜を構成する物質としては、また、ノニオン系界面活性剤や、これとコレステロール類若しくはトリアシルグリセロールの混合物等の分散剤を用いることができる。
【0118】
上記ノニオン系界面活性剤としては、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ2-ビニルピリジン、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0119】
上記コレステロール類としては、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5,24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウム、コレカルシフェロール等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0120】
上記リポソームの外膜は、リン脂質と分散剤との混合物から形成されていてもよい。本発明の化粧シートにおいては、外膜をリン脂質から形成したリポソームとすることで、各層の主成分である樹脂組成物と各種添加剤との相溶性を良好なものとすることができる。
【0121】
(化粧シートの製造方法)
本発明の化粧シートは、少なくとも表面保護層を最表面に形成することにより得られる。例えば、基材シート上に、絵柄模様層、透明性接着剤層、透明性樹脂層及びプライマー層を積層した後、最表面に表面保護層を形成することにより得ることができる。
【0122】
また、化粧シートにエンボス加工を施す場合は、表面保護層を形成した後でもよいし、表面保護層を形成する前でもよい。例えば、具体的な態様として、1)基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びプライマー層を順に形成した後、表面保護層を形成し、最後にエンボス加工を施してもよい。また、別の具体的態様として、2)基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層及びプライマー層を順に形成した後、エンボス加工を施し、最後に表面保護層を形成してもよい。また、さらに別の具体的態様として、3)基材シート上に絵柄模様層、透明性樹脂層を順に形成し、次いでエンボス加工を施した後、プライマー層を設け、最後に表面保護層を形成してもよい。エンボス加工により、表面保護層のSm、Rz、表面から30μmの深さまでの部分の面積の割合を調整する場合は、表面保護層を形成した後にエンボス加工を施すことが好ましい。
【0123】
エンボス加工は、例えば、シート温度120℃~160℃、10~40kg/cm2の圧力にて化粧シートの絵柄印刷面側に凹凸パターンを転写すればよい。
【0124】
2.化粧板
本発明の化粧板は、上記化粧シートを基材上に有する化粧板である。化粧シートの表面保護層が最表面層となるように化粧シートが基材上に積層されていればよい。
【0125】
基材(被着材)は限定的でなく、公知の化粧板と同様のものを用いることができる。例えば、木質材、金属、セラミックス、プラスチックス、ガラス等が挙げられる。特に、本発明化粧シートは、木質材に好適に使用することができる。木質材としては、具体的には、杉、檜、欅、松、ラワン、チーク、メラピー等の各種素材から作られた突板、木材単板、木材合板、木質繊維板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等が挙げられる。
【0126】
積層方法は限定的でなく、例えば接着剤により化粧シートを基材に貼着する方法等を採用することができる。接着剤は、基材の種類等に応じて公知の接着剤から適宜選択すれば良い。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、アイオノマー等のほか、ブタジエン・アクリルニトリルゴム、ネオプレンゴム、天然ゴム等が挙げられる。これら接着剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0127】
このようにして製造された化粧板は、例えば、壁、天井、床等の建築物の内装材、窓枠、扉、手すり等の建具の表面化粧板、家具又は弱電、OA機器等のキャビネットの表面化粧板等に用いることができる。特に、本発明の化粧板は、床用化粧材として好適に用いることができる。
【実施例0128】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0129】
実施例1
(化粧シートの作製)
60μm厚さの着色ポリプロピレンフィルムからなる基材シートの裏面にプライマー層(裏面プライマー層)を設けた。次いで、基材シートの表面に絵柄模様層を印刷により形成し、更に当該絵柄模様層上に接着剤層を形成した。当該接着剤層の上に80μm厚さの透明ポリプロピレン系樹脂(透明ランダムポリプロピレン系樹脂)のシートを押出しラミネート方式で積層し、透明性樹脂層を形成した。次いで、透明ランダムポリプロピレン系樹脂シートの表面にコロナ放電処理を施した後、2液硬化型ウレタン樹脂を塗工することによりプライマー層を形成した。
【0130】
上記プライマー層の表面に、ウレタンアクリレートオリゴマーを含む電離放射線硬化型樹脂(表面保護層形成用樹脂:エステル系ウレタン2官能オリゴマー52質量部、及び2官能オリゴマー18質量、多官能ウレタンオリゴマー30部からなる合計100質量部のウレタンアクリレート樹脂(硬化後の架橋硬化型樹脂層のマルテンス硬さが70N/mmとなる))を用いて、グラビアコート方式で全面に塗工量15μmで塗工した後、酸素濃度200ppm以下の環境下、電子照射装置を用いて加速電圧165KeV、5Mradの条件で電子線を照射し表面保護層を形成した。更に、表面保護層側を赤外線非接触方式のヒーターで加熱し、基材シート及び透明性樹脂層を軟らかくした後、熱圧によるエンボス加工を行った。なお、上記オリゴマーの配合により、表面保護層のマルテンス硬さを調整し、当該マルテンス硬さをA、算術平均粗さRaをB、粗さ曲線要素の平均長さRSmをCとした際に、A/B<100、C/B>100となるように調整した。
【0131】
(化粧板の作製)
厚みが2.5mmの中密度木質繊維板(MDF)上に水性エマルジョン接着剤(ジャパンコーティングレジン株式会社製 BA-10L(主剤):BA-11B(硬化剤)=100:2.5(質量比))を80g/mで均一に塗工し、上記で得られた化粧シートの裏面プライマー層側に貼り合わせて、室温で3日間養生することにより、化粧板を作製した。
【0132】
実施例2
表面保護層形成用樹脂として、イソシアヌレート骨格を有するウレタンアクリレート樹脂70質量部と、イソシアヌレート骨格を有さない脂環骨格を有する脂肪族ウレタンアクリレート樹脂30質量部とからなる合計100質量部のウレタンアクリレート樹脂(硬化後の架橋硬化型樹脂層のマルテンス硬さが150N/mmとなる)を用い、表1に示す表面形状となるようにエンボス加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして化粧シート及び化粧板を作製した。
【0133】
実施例3
表面保護層形成用樹脂として、多官能ウレタンオリゴマー20質量部、及び2官能オリゴマー80質量部からなる合計100質量部のウレタンアクリレート樹脂(硬化後の架橋硬化型樹脂層のマルテンス硬さが110N/mmとなる)を用い、表1に示す表面形状となるようにエンボス加工を行ったこと以外は、実施例1と同様にして化粧シート及び化粧板を作製した。
【0134】
比較例1
表面保護層形成用樹脂として、エステル系ウレタン2官能オリゴマー65質量部、及び多官能オリゴマー35質量部とからなる合計100質量部のウレタンアクリレート樹脂(硬化後の架橋硬化型樹脂層のマルテンス硬さが160N/mmとなる)を用い、表面保護層形成用樹脂100質量部に対して反応性シリコーンを1.0質量部添加し、用いるウレタンアクリレートオリゴマーにより、マルテンス硬さをA、算術平均粗さRaをB、粗さ曲線要素の平均長さRSmをCとした時に、A/B>100、C/B<100となるように調整した。それ以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製した。
【0135】
実施例及び比較例で作製した化粧シートを用いて、以下の測定及び評価を行った。
【0136】
[水接触角測定]
実施例及び比較例で作製した化粧シートの水接触角を、全自動接触角計 Drop Masterシリーズ Dmo-702(協和界面化学株式会社製)により、KYOWA interFAce Measurement and Analysis System FAMAS(ソフト名)を用いて測定した。測定は、2μLの液滴(純水)を表面保護層の表面に落とし、1秒後に撮影を行い、撮影した画像から接触角を測定した。測定は10回行い、平均値を水接触角とした。
【0137】
[表面粗さ測定]
実施例及び比較例で作製した化粧シートについて、以下の測定方法により表面形状を測定した。なお、測定は、表面粗さ測定器(東京精密社製 商品名:SURFCOM FLEX-50A)を用いて、測定速度0.6mm/sの条件で行った。具体的には、化粧シートの縦5cm、横5cmの範囲を任意に選択した。なお、化粧シートの縦とは、化粧シートの原反の巻き取り方向(製造装置ではMD方向)であり、化粧シートの横とは、化粧シートの原反の幅方向(製造装置ではTD方向)である。次いで、上記範囲内で、縦方向で任意に5点を選択して、5点それぞれから、横方向にJIS B0601:2001 に準拠した測定方法により算術平均粗さRa、Rzjis、RSmを測定した。5回測定した結果の平均値を測定値とした。
【0138】
[機能性塗工剤の密着性測定用試料の調製(初期抗ウイルス性)]
実施例及び比較例で作製した化粧シートに対し、表面保護層から約10cm離した位置から陰イオン系ナトリウム塩とエタノールとを配合したスプレーを、1~2秒/100cmの条件でスプレーした。5分間乾燥させて、機能性塗工剤の密着性の測定用試料とした。
【0139】
[抗ウイルス性評価]
上述のようにして調製した機能性塗工剤の密着性の測定用試料を用いて、機能性塗工剤の密着性を評価した。具体的には、抗ウイルス試験方法(ISO21702)に準拠した方法で、化粧シートの抗ウイルス性能試験を行い、下記のウイルス種に対する抗ウイルス活性値を下記評価基準に基づいて評価し、初期抗ウイルス性を評価した。
(評価基準)
ウイルス種:エンベロープウイルス(インフルエンザウイルス)
+:活性値2.0以上
-:活性値2.0未満
【0140】
[摩擦後の機能性塗工剤の機能性測定用試料の調製(摩擦後抗ウイルス性)]
5cm×30cmの治具に、4重に重ねたガーゼを被せた。次いで、10g/cmの荷重をかけ、スプレー塗工後乾燥させた試料の表面を50往復摩擦し、摩擦後の機能性塗工剤の機能性測定用試料とした。当該試料を用いて、上記抗ウイルス性評価の評価方法と同一の方法により抗ウイルス性を評価した。次いで、上記機能性塗工剤の密着性測定用試料の調製と同一の方法により再度スプレー塗工を行い、再スプレー後の機能性測定用試料とした。当該試料を用いて、上記抗ウイルス性評価の評価方法と同一の方法により再スプレー後の抗ウイルス性を評価した。
【0141】
[水拭き後の機能性塗工剤の機能性測定用試料の調製(水拭き後抗ウイルス性)]
5cm×30cmの治具に、水で湿らせた、4重に重ねたガーゼを被せた。次いで、10g/cmの荷重をかけ、スプレー塗工後乾燥させた試料の表面を50往復摩擦し、水拭き後の機能性塗工剤の機能性測定用試料とした。当該試料を用いて、上記抗ウイルス性評価の評価方法と同一の方法により抗ウイルス性を評価した。次いで、上記機能性塗工剤の密着性測定用試料の調製と同一の方法により再度スプレー塗工を行い、再スプレー後の機能性測定用試料とした。当該試料を用いて、上記抗ウイルス性評価の評価方法と同一の方法により再スプレー後の抗ウイルス性を評価した。
【0142】
結果を表1に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
比較例2
表面保護層形成用樹脂として、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂組成物「TOMAX FA-3246」(固形分40%、日本化工塗料株式会社製)、及び、ウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂「アートレジン UN-904」(固形分100%、(メタ)アクリロイルオキシ基数10、根上工業株式会社製)を主剤として、TOMAX FA-3246とUN-904との固形分配合比率(質量比)が80/20となるように配合した。イルガキュア184(光重合開始剤、BASF社製)を樹脂組成物の固形分100質量部に対し3質量部となる量で添加した後、酢酸ブチルで表面保護層形成用塗料中の固形分濃度が30質量%となるまで希釈し、十分撹拌して、表面保護層形成用塗料を調製した。プライマー層の表面に、調製した表面保護層形成用塗料をバーコーターを用いて塗工し、80℃の乾燥炉で1分間熱風乾燥させ、塗膜厚み5.0μmの塗工層を形成した。次いで、塗工層の塗工面より60mmの高さにセットされたUV照射装置を用いて、UV照射量250mJ/cmの条件でUV照射を行い、硬化させて表面保護層を形成した。それ以外は実施例1と同様にして、比較例2の化粧シート及び化粧板を作製した。
【0145】
実施例1及び比較例2で作製した化粧シートを用いて、以下の測定を行った。
【0146】
[IRピーク高さ比]
赤外分光光度計(IRAffinity-1A、島津製作所製)を用いて、化粧シートの表面保護層の表面の赤外分光スペクトルを測定した。縦軸を吸光度としたスペクトルチャート上において、855~1325cm-1に現れるピークの高さをA、1650~1800cm-1に現れるピークの高さをB、3200~3500cm-1に現れるピークの高さをCとし、その比(A/B)×100、及び、(B/C)×100をピーク高さ比とした。
【0147】
ピーク高さの測定方法としては、それぞれの波長範囲に対しベースラインを引き、ピークの頂点から縦軸と水平になるようベースラインまで繋いだ際の長さを測定した。なお、それぞれの波長範囲内に複数のピークがある場合は、隣り合うピークの頂点と谷の差が0.010Abs以上あれば「2本のピーク」とし、各ピークの高さの和を「ピーク高さ」とした。
【0148】
[密着性]
JIS-K5600-5-6に準拠した試験方法により、JIS環境下25℃、50%RH環境下の条件で、化粧シートの表面保護層に対して碁盤目剥離試験を行った。具体的には、化粧シートの表面保護層に、カッターナイフを用いて、碁盤目状に1mm間隔で縦11本、横11本の切り込みを入れて合計100マスの正方形の升目を刻み、積水化学工業株式会社製の粘着テープNo.252をその上に貼り付け、ヘラを用いて均一に押し付けた後、60度方向に剥離した。同じ箇所で5回圧着・剥離を行った後、表面保護層の残存個数を計測し、下記評価基準に従って評価した。なお、環境試験後の密着性の評価を行う場合は、化粧シートを60℃90%RHの湿熱環境下に3週間放置した後、25℃環境下で上記密着性の評価を行った。なお、化粧シートの縦とは、化粧シートの原反の巻き取り方向(製造装置ではMD方向)であり、化粧シートの横とは、化粧シートの原反の幅方向(製造装置ではTD方向)である。
(評価基準)
+:100個
-:100個未満
【0149】
結果を表2に示す。
【表2】
【符号の説明】
【0150】
1:化粧シート
11:基材シート
12:絵柄模様層
13:透明性樹脂層
14:表面保護層
2:基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7