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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137756
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240927BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240927BHJP
   H01M 10/633 20140101ALI20240927BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/613
H01M10/633
H01M10/42 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028692
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】202310299332.3
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小関 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】板東 真史
【テーマコード(参考)】
5H030
5H031
【Fターム(参考)】
5H030AA09
5H030AS08
5H030FF22
5H031CC09
(57)【要約】
【課題】バッテリからの電力を変換する電力変換器の温度制御を、バッテリの劣化状態を反映して効率的に行うことができる制御装置を提供すること。
【解決手段】制御装置10は、電力変換器としてのPCU14を冷却する冷媒の温度に応じて出力制限を実施し、出力制限を行う基準となる温度をバッテリ11の劣化状態に応じて変更する。また、制御装置10は、バッテリ11の劣化が進んでいるほど、出力制限を行う基準となる温度を低下させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換器を冷却する冷媒の温度に応じて出力制限を実施し、
前記出力制限を行う基準となる温度を、バッテリの劣化状態に応じて変更する、制御装置。
【請求項2】
前記バッテリの劣化が進んでいるほど、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリにパワーセーブが行われているか否かに基づいて、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、請求項1記載の制御装置。
【請求項4】
前記バッテリの前記劣化状態は、前記バッテリの内部抵抗に基づいて判断する、請求項1または2記載の制御装置。
【請求項5】
前記内部抵抗は、前記バッテリに入出力される電圧及び電流に基づいて算出する、請求項4記載の制御装置。
【請求項6】
車両に搭載されるグリルシャッターが閉状態の場合には、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、請求項1から3の何れかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記電力変換器の前記冷媒が流れる冷却回路には、駆動装置の冷媒と熱交換を行う熱交換装置が配置され、
前記熱交換装置による熱交換が行われている場合には、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、請求項1から3の何れかに記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷却水の温度に基づいてバッテリの電力を制御する技術が知られている。この種の技術が記載されるものとして特許文献1がある。
【0003】
特許文献1には、冷却水温度を取得し、冷却水温が過度に上昇したとき、その温度に応じてコンバータとインバータの合計電力を減少して発熱を抑えることが記載されている。特許文献1では、電力の制限をコンバータから行うことについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-274509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力変換を行う電力変換器としてのPCU(Power Control Unit)の入口水温がある値以上になるとVCU(Voltage Control Unit)にパワーセーブをかけて発熱を抑制することができる。しかしながら、バッテリが劣化している場合、パワーセーブ後の要求出力を出すことになるため、新品時よりも大きな電流を流し、VCUの熱成立性がより厳しくなる。この場合、更なるパワーセーブをかける必要があり、PCUやVCUのチップサイズの大型化を招くおそれもある。バッテリの劣化を考慮した温度制御という点で従来技術には改善の余地があった。
【0006】
本発明は、バッテリからの電力を変換する電力変換器の温度制御をバッテリの劣化状態を反映して効率的に行うことができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 本発明は、電力変換器を冷却する冷媒の温度に応じて出力制限を実施し、前記出力制限を行う基準となる温度をバッテリの劣化状態に応じて変更する、制御装置に関する。
【0008】
(1)の発明によれば、劣化状態に応じて出力制限を行う基準となる温度が設定されるので、パワーセーブ時にバッテリが劣化して大きな電流が流れていたとしても、電力変換器が適切な温度に冷却される。
【0009】
(2) 前記バッテリの劣化が進んでいるほど、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、(1)に記載の制御装置。
【0010】
(2)の発明によれば、劣化の程度を反映して出力制限を行う温度が設定されることになるので、より適切な温度制御を実現できる。
【0011】
(3) 前記バッテリにパワーセーブが行われているか否かに基づいて前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、(1)に記載の制御装置。
【0012】
(3)の発明によれば、出力の供給基になるバッテリでパワーセーブが行われている場合は、電力変換器側で出力制限を行う必要性も少なくなるので、状況に応じたより効率的な温度制御を実現することができる。
【0013】
(4) 前記バッテリの前記劣化状態は前記バッテリの内部抵抗に基づいて判断する、(1)又は(2)に記載の制御装置。
【0014】
(4)の発明によれば、熱成立性の問題となる電流の増大の原因となる内部抵抗に基づいて出力制限を行うべき温度を正確に設定できる。
【0015】
(5) 前記内部抵抗は、前記バッテリに入出力される電圧及び電流に基づいて算出する、(4)に記載の制御装置。
【0016】
(5)の発明によれば、複雑な制御や構成を追加することなく、内部抵抗を算出できる。
【0017】
(6) 車両に搭載されるグリルシャッターが閉状態の場合には、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、(1)から(3)の何れかに記載の制御装置。
【0018】
(6)の発明によれば、グリルシャッターの開閉状態に応じて変化する冷媒温度の過渡応答性を反映したより精密な温度制御を実現できる。
【0019】
(7) 前記電力変換器の前記冷媒が流れる冷却回路には、駆動装置の冷媒と熱交換を行う熱交換装置が配置され、前記熱交換装置による熱交換が行われている場合には、前記出力制限を行う基準となる温度を低下させる、(1)から(3)の何れかに記載の制御装置。
【0020】
(7)の発明によれば、熱交換装置との熱交換の有無によって変動する冷媒温度の変化を反映したより精密な温度制御を実現できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バッテリからの電力を変換する電力変換器の温度制御をバッテリの劣化状態を反映して効率的に行うことができる制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されるバッテリシステムの構成を示す機能ブロック図である。
図2】バッテリの劣化に伴って変化する出力(電力)を説明するグラフである。
図3】バッテリの一般的なモデルを示す図である。
図4】バッテリの劣化に伴って変化する抵抗と電流の関係を説明するグラフである。
図5】本実施形態における劣化状態とVCUの制限開始温度の関係を示すグラフである。
図6】本実施形態の制御装置による第1VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図7】本実施形態の制御装置による第2VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図8】本実施形態の制御装置による第3VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図9】第3VCU制御における劣化状態に基づいてVCUの制限開始温度を決定するマップの例を示すグラフである。
図10】第4VCU制御における劣化状態に基づいてVCUの制限開始温度を決定するマップの例を示すグラフである。
図11】本実施形態の制御装置による第4VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。
図12】変形例の制御装置が適用されるバッテリシステムの構成を示す機能ブロック図である。
図13】グリルシャッターの開閉状態を示す図である。
図14】変形例における劣化状態に基づいてVCUの制限開始温度を決定するマップの例を示すグラフである。
図15】変形例の制御装置が適用されるバッテリシステムの構成を示す機能ブロック図である。
図16】フローシャットバルブの開閉状態と冷却水量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の各実施形態について、図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置10が適用されるバッテリシステム1の構成を示す機能ブロック図である。図1に示すバッテリシステム1は、車両100に適用されるものである。本実施形態の車両100は、走行用モータ21と発電用モータ22とを備える2モータ駆動システムのハイブリッド電気自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)である。なお、バッテリシステム1が適用される車両100は、2モータ駆動システムのハイブリッド電気自動車に限定される訳ではなく、走行用モータのみを備える電気自動車等の他の方式の車両やバッテリを用いる設備に適用することができる。
【0025】
図1に示すように、バッテリシステム1は、バッテリ11と、バッテリセンサ12と、VCU(Voltage Control Unit)13と、PCU(Power Control Unit)14と、制御装置10と、を備える。
【0026】
バッテリ11は、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池である。バッテリ11の電池の方式は特に限定される訳ではない。
【0027】
バッテリセンサ12は、バッテリ11の入出力の電流及び電圧を検出する検出部である。バッテリセンサ12によって検出された電流及び電圧を示す情報は、制御装置10に送信される。
【0028】
VCU13は、PCU14に供給される電力を制御する電圧制御部である。VCU13は、例えば、バッテリ11から供給される電力を昇圧して出力するDC-DCコンバータである。
【0029】
PCU14は、例えば、AC-DC変換を行う電力変換器である。PCU14は、VCU13を介してバッテリ11に接続される。PCU14は、VCU13を介してバッテリ11から供給される直流を交流に変換して走行用モータ21に供給したり、走行用モータ21により発電された交流を直流に変換してバッテリ11側に送ったりする。また、PCU14は、発電用モータ22により発電された交流を直流に変換してバッテリ11側に送ったり、VCU13を介してバッテリ11から供給される直流を交流に変換して発電用モータ22に供給したりする。
【0030】
本実施形態のPCU14には、PCU14を冷却するための冷却回路15が接続される。この冷却回路15を通じて冷媒(例えば、冷却水)がPCU14に供給される。PCU14に供給された冷媒は、PCU14と熱交換を行った後、冷却回路15を循環する。冷却回路15には、PCU14の入口水温を検出するための温度センサ16が配置される。温度センサ16によって検出されるPCU14の入口水温は、制御装置10に送信される。温度センサ16は、PCU14の入口水温を検出できればよく、その配置場所は適宜変更できる。
【0031】
制御装置10は、バッテリシステム1の各種制御を実行するコンピュータである。制御装置10は、例えば、プロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置、ストレージ等の補助記憶装置等によって構成される。なお、制御装置10は、単独のコンピュータで構成されてもよいし、複数のコンピュータによって構成されてもよい。制御装置10の配置場所は、特に限定される訳ではない。
【0032】
本実施形態の制御装置10は、PCU14の入口水温が予め設定される値以上になると、VCU13にパワーセーブをかけて出力制限し、バッテリ11の劣化状態に応じてVCU13のパワーセーブを行う判断基準となる水温閾値を変更する制御を行う。
【0033】
ここで、バッテリ11の劣化について説明する。図2は、バッテリ11の劣化に伴って変化する出力(電力)を説明するグラフである。図2の例では、バッテリ11のある一定の出力を保証する期間がバッテリ劣化状態1に設定されており、出力は低下するもののバッテリとして使用可能な期間がバッテリ劣化状態2に設定されている。図2に示すように、一般的にバッテリ実力電圧は、初期状態(BOL:Begin Of Life)から時間の経過とともに低下していくことになる。制御誤差に対するマージンと出力を保証する期間に基づいて設定されるマップによって出力の上限値が設定され、この上限値に基づいてVCU13のパワーセーブが行われる。
【0034】
図3は、バッテリの一般的なモデルを示す図である。下記の式(1)は、電力計算式である。式(1)中のOCV(Open Circuit Voltage)は開回路電圧を示す。図3及び式(1)に示すように、Cell抵抗Rが大きくなると出力Pを維持するためには電流を多く流す必要がある。
【0035】
【数1】
【0036】
図4は、バッテリ11の劣化に伴って変化する抵抗と電流の関係を説明するグラフである。図4に示すように、初期状態から時間が経過して劣化が進むにつれて内部抵抗が高くなる。そのため、バッテリ11の劣化が進んでいる状態でパワーセーブ後の要求出力を出すためには、初期状態のときよりも大きな電流を流す必要がある。大きな電流が流れると、それだけVCU13で発生する熱の温度も高くなり、VCU13が適切に機能するための熱成立性がより厳しくなってしまう。
【0037】
そこで、本実施形態の制御装置10は、PCU11を冷却する冷媒の温度(水温)が設定される制限開始温度(閾値)に達すると、VCU13の出力制限を開始する処理を行う。VCU13の出力制限を開始するトリガとなる制限開始温度は、バッテリ11の劣化状態に基づいて変更される。この制御例を示すものが図5である。図5は、本実施形態における劣化状態とVCUの制限開始温度の関係を示すグラフである。
【0038】
図5の例では、初期状態における制限開始温度が所定温度に設定されている。図5に示されるように、制御装置10は、初期状態から時間が経過して劣化が進むにつれてVCUの制限開始温度を低下させる処理を実行する。
【0039】
次に、制御装置10によるVCU制御の例について説明する。図6は、本実施形態の制御装置10による第1VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下に説明する第1VCU制御の処理において、制限開始温度aと制限開始温度bの間には、a℃<b℃の関係が成立するものとする。
【0040】
ステップS11において、制御装置10は、バッテリ11の内部抵抗を推定する。制御装置10は、例えば、バッテリ11の入出力の電流及び電圧に基づいて内部抵抗を推定する。なお、バッテリ11の入出力の電流及び電圧は、バッテリセンサ12によって検出されたものを利用してもよいし、他の方法で取得したものを利用してもよい。ステップS11の処理の後、ステップS12に処理が移行する。
【0041】
ステップS12において、制御装置10は、劣化判断を行う。劣化判断は、例えば、内部抵抗が設定値σよりも高いか否かに基づいて行われる。設定値σは、理論的又は実証的に設定される値である。制御装置10は、内部抵抗値が設定値σを越える場合は処理をステップS13に進める(ステップS12;Yes)。制御装置10は、内部抵抗値が設定値σを越えていない場合は処理をステップS14に進める(ステップS12;No)。
【0042】
ステップS13において、制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度aを越えるか否かを判定する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度aを越える場合は処理をステップS15に進め(ステップS13;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度aを越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS11に戻す(ステップS13;No)。
【0043】
ステップS14において、制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度bを越えるか否かを判定する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度bを越える場合は処理をステップS15に進め(ステップS14;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度bを越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS11に戻す(ステップS14;No)。
【0044】
上述の通り、a℃<b℃の関係が成立しているので、第1VCU制御では、劣化している場合の方が、劣化していない場合に比べて制限開始温度は低く設定されることになる。
【0045】
以下、第1VCU制御とは異なる複数の制御例について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、第1VCU制御と共通又は同様の処理については、その説明を省略する場合がある。
【0046】
図7は、本実施形態の制御装置10による第2VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下に説明する第2VCU制御の処理において、制限開始温度aと制限開始温度bと制限開始温度dとの間には、a℃<b℃<d℃又はa℃<d℃<b℃が成立するものとする。
【0047】
ステップS21において、制御装置10は、バッテリ11の内部抵抗を推定する。ステップS21の処理の後、ステップS22では、制御装置10は、劣化判断を行う。制御装置10は、劣化していると判断した場合は処理をステップS23に進め(ステップS22;Yes)、劣化していないと判断した場合は処理をステップS26に進める(ステップS22;No)。
【0048】
ステップS23において、制御装置10は、バッテリ11にパワーセーブがかかっているか否かを判断する。バッテリ11にパワーセーブが行われている場合は出力が絞られるので、バッテリ11が劣化していたとしてもVCU11の制限開始温度(水温閾値)を下げる必要がないためである。制御装置10は、バッテリ11にパワーセーブがかかっていない場合は処理をステップS24に進め(ステップS23;No)、バッテリ11にパワーセーブがかかっている場合は処理をステップS25に進める(ステップS23;Yes)。
【0049】
ステップS24において、制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度aを越える場合は処理をステップS27に進め(ステップS24;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度aを越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS21に戻す(ステップS24;No)。
【0050】
ステップS25において、制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度dを越える場合は処理をステップS27に進め(ステップS25;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度dを越えていない場合は処理をステップS23に戻し(ステップS24;No)、ステップS23以降の処理が順次実行される。
【0051】
ステップS26において、制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度bを越える場合は処理をステップS27に進め(ステップS26;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がVCU11の制限開始温度bを越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS21に戻す(ステップS26;No)。
【0052】
上述の通り、a℃<b℃<d℃又はa℃<d℃<b℃の関係が成立しているので、第2VCU制御でも、劣化している場合の方が、劣化していない場合に比べて制限開始温度は低く設定されることになる。
【0053】
図8は、本実施形態の制御装置10による第3VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。図9は、第3VCU制御における劣化状態に基づいてVCUの制限開始温度を決定するマップの例を示すグラフである。
【0054】
ステップS31において、制御装置10は、バッテリ11の内部抵抗を推定する。ステップS31の処理の後、ステップS32では、制御装置10は、マップ検索を実行する。図9に示すように、制御装置10には、予め内部抵抗に基づいて制限開始温度を決定するためのマップが設定されている。制御装置10は、マップに内部抵抗を入力することにより、制限開始温度を決定する。この例では、マップは、劣化が進んで内部抵抗が高くなる程、制限開始温度を下げる数式として表現されている。なお、図9に示す一次直線に限定される訳ではなく、マップに他の方式を用いてもよい。ステップS32の処理で制限開始温度を設定した後、処理はステップS33に進む。
【0055】
ステップS33において、制御装置10は、PCU入口水温がステップS32のマップ検索で決定したマップ検索温度(VCU11の制限開始温度)を越える場合は処理をステップS34に進め(ステップS33;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がステップS33でマップ検索温度を越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS31に戻す(ステップS33;No)。
【0056】
第3VCU制御では、1つのマップに基づいて制限開始温度を決定する例を説明したが、制御装置10は、制限開始温度を決定するためにマップを複数用いてもよい。複数のマップを用いる第4VCU制御について説明する。図10は、第4VCU制御における劣化状態に基づいてVCUの制限開始温度を決定するマップの例を示すグラフである。図10に示すように、第4VCU制御では、マップAとマップBの複数のマップが用いられる。この例では、マップAとマップBは、同じ劣化状態であっても、マップAを用いた場合の方がマップBを用いた場合よりも高い制限開始温度が設定される関係となっている。
【0057】
図11を参照して第4VCU制御の処理の流れについて説明する。図11は、本実施形態の制御装置10による第4VCU制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0058】
ステップS41において、制御装置10は、バッテリ11の内部抵抗を推定する。ステップS41の処理の後、ステップS42では、制御装置10は、バッテリ11にパワーセーブがかかっている場合は処理をマップAが用いられるステップS43に進め(ステップS42;Yes)、パワーセーブがかかっていない場合は処理をマップBが用いられるステップS45に進める(ステップS42;No)。
【0059】
ステップS43において、制御装置10は、マップAを検索して制限開始温度を決定する。ステップS44では、制御装置10は、PCU入口水温がマップAの検索結果に基づくマップ検索温度を越えている場合は処理をステップS47に進め(ステップS44;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がマップ検索温度を越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS41に戻す(ステップS44;No)。
【0060】
ステップS45において、制御装置10は、マップBを検索して制限開始温度を決定する。ステップS46では、制御装置10は、PCU入口水温がマップBの検索結果に基づくマップ検索温度を越えている場合は処理をステップS47に進め(ステップS46;Yes)、VCUパワーセーブを実行する。制御装置10は、PCU入口水温がマップ検索温度を越えていない場合はVCUパワーセーブを実行することなく処理をステップS41に戻す(ステップS46;No)。
【0061】
以上、VCU制御の例について説明した。制御装置10は、例えば、第1VCU制御~第4VCU制御の何れかを実行する。制御装置10は第1VCU制御~第4VCU制御の何れかのみを実行する構成であってもよいし、実行するVCU制御を選択できる構成であてもよい。なお、VCU制御の処理は、説明した例に限定される訳ではなく、適宜変更することができる。
【0062】
以上説明した本実施形態の制御装置10は、電力変換器としてのPCU14を冷却する冷媒の温度に応じて出力制限を実施し、出力制限を行う基準となる温度をバッテリ11の劣化状態に応じて変更する。これにより、劣化状態に応じて出力制限を行う基準となる温度が設定されるので、パワーセーブ時にバッテリが劣化して大きな電流が流れていたとしても、VCU13やPCU14が適切な温度に冷却される。劣化状態を見込んでパワーセーブ閾値のマージンを大きくとらなくてもよくなるので、チップサイズの大型化も回避できる。
【0063】
また、本実施形態では、バッテリ11の劣化が進んでいるほど、出力制限を行う基準となる温度を低下させる。これにより、劣化の程度を反映して出力制限を行う温度が設定されることになるので、より適切な温度制御を実現できる。
【0064】
また、本実施形態では、バッテリ11にパワーセーブが行われているか否かに基づいて出力制限を行う基準となる温度を低下させる。これにより、出力の供給基になるバッテリ11でパワーセーブが行われている場合は、PCU14側で出力制限を行う必要性も少なくなるので、状況に応じたより効率的な温度制御を実現することができる。
【0065】
また、本実施形態では、バッテリ11の劣化状態はバッテリ11の内部抵抗に基づいて判断する。これにより、熱成立性の問題となる電流の増大の原因となる内部抵抗に基づいて出力制限を行うべき温度を正確に設定できる。
【0066】
また、本実施形態では、内部抵抗は、バッテリ11に入出力される電圧及び電流に基づいて算出する。これにより、複雑な制御や構成を追加することなく、内部抵抗を算出できる。
【0067】
次に、VCU制御の更なる変形例について説明する。なお、以下の説明において、上記実施形態で説明した構成と共通又は同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する場合がある。
【0068】
図12は、変形例の制御装置10が適用されるバッテリシステム1の構成を示す機能ブロック図である。図12には、車両100に搭載されるラジエータ31及びグリルシャッター32が図示されている。
【0069】
ラジエータ31は、冷却回路15に配置されており、冷媒と熱交換を行う熱交換装置である。グリルシャッター32は、車両100のボディに設けられる通気口を開閉するアクティブグリルシャッター(AGS)である。グリルシャッター32は、1つであってもよいし、複数配置されていてもよい。
【0070】
図13は、グリルシャッター32の開閉状態を示す図である。図13に示すように、グリルシャッター32は、例えば、ルーバー等によって開状態と閉状態を切替可能に構成される。グリルシャッター32が開状態の場合、通気口を介して空気が導入され、ラジエータ31が冷却される。グリルシャッター32が閉状態の場合、通気口が閉じられるので開状態に比べて冷却回路15を流れる冷媒の温度上昇が想定される。
【0071】
そこで、変形例の制御装置10は、グリルシャッター32の開閉状態に応じて変化する冷媒温度の過渡応答性を反映した制御を行う。変形例の制御装置10は、グリルシャッター32が閉状態の場合、制限量が大きくなるように制限開始温度を設定する。制限開始温度の設定は、例えば、予めグリルシャッター32が閉状態で用いるマップを用意しておく方法を採用することができる。
【0072】
図14は、変形例における劣化状態に基づいてVCU11の制限開始温度を決定するマップの例を示すグラフである。図14には、マップA、マップBの他、マップCが示されている。マップAとマップBとマップCは、同じ劣化状態であっても制限開始温度が異なるマップになっている。マップAとマップBの関係では、同じ劣化状態であってもマップAを用いた場合の方がマップBを用いた場合よりも高い制限開始温度が設定される関係となっている。マップBとマップCの関係では、同じ劣化状態であってもマップBを用いた場合の方がマップCを用いた場合よりも高い制限開始温度が設定される関係となっている。即ち、同じ劣化状態の場合、制限開始温度は、マップA>マップB>マップCとなる。
【0073】
本変形例では、制御装置10は、グリルシャッター32が閉状態の場合は、マップCを選択し、当該マップCの検索結果に基づいて制限開始温度を特定する。グリルシャッター32が開状態の場合は、マップAやマップBを用いる。これによって、グリルシャッター32が閉状態の場合は、開状態の場合に比べて制限開始温度が低い設定となる。なお、マップA及びマップBのうち、何れを選択するかは、例えば、上述の第4VCU制御の方法を採用してもよい。
【0074】
以上説明した変形例の制御装置10は、上記実施形態の構成に加え、車両100に搭載されるグリルシャッター32が閉状態の場合には、出力制限を行う基準となる温度を低下させる。これにより、グリルシャッター32の開閉状態に応じて変化する冷媒温度の過渡応答性を反映したより精密な温度制御を実現できる。
【0075】
次に、グリルシャッター32とは異なる要素を考慮した別の変形例について説明する。図15は、変形例の制御装置10が適用されるバッテリシステム1の構成を示す機能ブロック図である。図15には、車両100に搭載されるラジエータ31の他、冷却回路15から分岐する第2冷却回路40が図示されている。
【0076】
冷却回路15と第2冷却回路40の接続部分には、フローシャットバルブ(FSV)43が配置される。フローシャットバルブ43は、例えば、常開式(ノーマルオープン)の電磁弁であり、非通電時には冷却回路15と第2冷却回路40を接続し、通電時には冷却回路15に対して第2冷却回路40を閉塞する。
【0077】
第2冷却回路40には、熱交換装置41が配置される。熱交換装置41には、第2冷却回路40が接続されるとともに駆動側の機器と熱交換を行うATF回路42が接続される。ATF回路42には、ATF(Automatic Transmission Fluid、自動変速機油)が媒体として循環する。ATF回路42には、車両100に駆動力を提供する駆動装置としての走行用モータ21と発電用モータ22が配置されており、走行用モータ21と発電用モータ22はATFによって温度調節される。
【0078】
図16は、フローシャットバルブ43の開閉状態と冷却水量の関係を示す図である。図16には、フローシャットバルブ43の閉状態での冷却回路15を流通する冷却水量と、フローシャットバルブ43の開状態での冷却回路15を流通する冷却水量と、の関係が示されている。開状態では、冷却回路15と第2冷却回路40が接続されてPCU14だけではなく、熱交換装置41とも熱交換が行われる。一方、閉状態では、第2冷却回路40が冷却回路15に対して閉じられるので、冷却回路15を流れる冷媒は、第2冷却回路40に流れない。従って、フローシャットバルブ43が開状態の場合、熱交換装置41との熱交換のため、閉状態の場合に比べて冷媒温度の上昇及び冷媒の流量の低下が想定される。
【0079】
そこで、変形例の制御装置10は、フローシャットバルブ43の開閉状態に応じて生じる水温の変動を反映した制御を行う。変形例の制御装置10は、フローシャットバルブ43の開状態の場合は熱交換装置41による熱交換が行われているため、制限量が大きくなるように制限開始温度を設定する。制限開始温度の設定は、例えば、図14で説明したマップを用いる方法を採用できる。
【0080】
制御装置10は、フローシャットバルブ43が開状態の場合は、マップCを選択し、当該マップCの検索結果に基づいて制限開始温度を特定する。フローシャットバルブ43が閉状態の場合は、マップAやマップBを用いる。これによって、フローシャットバルブ43が開状態の場合は、閉状態の場合に比べて制限開始温度が低い設定となる。なお、マップA及びマップBのうち、何れを選択するかは、例えば、上述の第4VCU制御の方法を採用してもよい。
【0081】
以上説明した変形例の制御装置10は、上記実施形態の構成に加え、PCU14の冷媒が流れる第2冷却回路40には、駆動装置としての走行用モータ21や発電用モータ22の冷媒と熱交換を行う熱交換装置41が配置され、熱交換装置41による熱交換が行われている場合には、出力制限を行う基準となる温度を低下させる。これにより、熱交換装置41との熱交換の有無によって変動する冷媒温度の変化を反映したより精密な温度制御を実現できる。
【0082】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、上述した実施形態及び変形例に限るものではない。また、各実施形態及び変形例に記載された効果は、好適な効果を列挙したに過ぎず、上記実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0083】
10 制御装置
11 バッテリ
13 VCU
14 PCU
15 冷却回路
32 グリルシャッター
40 冷却回路
41 熱交換装置
43 フローシャットバルブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16