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特開2024-137763流体分離膜モジュール、流体分離膜プラント、及び精製流体
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  • 特開-流体分離膜モジュール、流体分離膜プラント、及び精製流体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137763
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】流体分離膜モジュール、流体分離膜プラント、及び精製流体
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/02 20060101AFI20240927BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D63/02
B01D69/02
B01D69/00
B01D71/02
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024030952
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023046262
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柿山 創
(72)【発明者】
【氏名】田中 慧
(72)【発明者】
【氏名】三原 崇晃
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA02
4D006JA13C
4D006JA25C
4D006JA25Z
4D006JB06
4D006KA01
4D006KA71
4D006KB12
4D006KB18
4D006KE01R
4D006KE12R
4D006MA01
4D006MA09
4D006MA33
4D006MA40
4D006MB06
4D006MB16
4D006MB20
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC05X
4D006MC07
4D006MC09
4D006MC11
4D006MC16
4D006MC18
4D006MC21
4D006MC22
4D006MC24
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC37
4D006MC39
4D006MC40
4D006MC46
4D006MC47
4D006MC48
4D006MC49
4D006MC52
4D006MC53
4D006MC54
4D006MC55
4D006MC58X
4D006MC59
4D006MC61
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006MC68
4D006MC69
4D006NA46
4D006NA50
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB18
4D006PB19
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB68
(57)【要約】
【課題】
本発明は、スペーサー等を配置することなく、剛直な流体分離膜が収納された流体分離膜モジュールの膜利用効率を向上させることを目的とする。
【解決手段】
中空糸状の流体分離膜が複数本収納された流体分離膜モジュールであって、
前記流体分離膜の両端が固定され、
前記流体分離膜の引張弾性率が1.0GPa以上100GPa以下であり、
前記流体分離膜が以下の式1を満たす、流体分離膜モジュール。
1.005 ≦ L25℃80RH%/L25℃0RH% ≦ 1.200 ・・・式1
[式中、L25℃0RH%は25℃0RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さ、L25℃80RH%は25℃80RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さを表す。]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸状の流体分離膜が複数本収納された流体分離膜モジュールであって、
前記流体分離膜の両端が固定され、
前記流体分離膜が以下の式1を満たす、流体分離膜モジュール。
1.005 ≦ L25℃80RH%/L25℃0RH% ≦ 1.200 ・・・式1
[式中、L25℃0RH%は25℃0RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さ、L25℃80RH%は25℃80RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さを表す。]
【請求項2】
前記流体分離膜が以下の式2を満たす、請求項1記載の流体分離膜モジュール。
0.980 ≦ L25℃0RH%/L ≦ 1.020 ・・・式2
[式中、L25℃0RH%は25℃0RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さを表し、Lは25℃0RH%で24時間静置後に前記流体分離膜が配置される流体分離膜モジュールの長手方向の長さを表す。]
【請求項3】
前記流体分離膜の引張弾性率が1.0GPa以上100GPa以下である、請求項1記載の流体分離膜モジュール。
【請求項4】
前記流体分離膜の曲げ半径が0.1cm以上100cm以下である、請求項1記載の流体分離膜モジュール。
【請求項5】
前記流体分離膜の外径が50μm以上500μm以下である、請求項1記載の流体分離膜モジュール。
【請求項6】
前記流体分離膜が、多孔質炭素支持体をその一部として含み、
前記多孔質炭素支持体のラマンスペクトルが以下の式3を満たす、請求項1記載の流体分離膜モジュール。
1.1 ≦ I/I ≦ 3.0 ・・・式3
[式中、Iは前記多孔質炭素支持体のラマンスペクトルの1360cm-1におけるピーク強度を表し、Iは前記多孔質炭素支持体のラマンスペクトルの1580cm-1におけるピーク強度を表す。]
【請求項7】
前記流体分離膜が、多孔質炭素支持体と炭素膜からなる、請求項6記載の流体分離膜モジュール。
【請求項8】
前記流体分離膜のCO透過度が0.1nmol/(m・s・Pa)以上100nmol/(m・s・Pa)以下である、請求項1記載の流体分離膜モジュール。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の流体分離膜モジュールを含む流体分離膜プラントであって、
前記流体分離膜に水蒸気量が5g/m以上5000g/m以下の分離対象ガスが供給される、流体分離膜プラント。
【請求項10】
前記流体分離膜モジュールの下流側に脱水装置を備える、請求項9記載の流体分離膜プラント。
【請求項11】
前記流体分離膜モジュール内における分離対象流体のノルマル流速が0.1mm/秒以上1000mm/秒以下である、請求項9記載の流体分離膜プラント。
【請求項12】
請求項9に記載の流体分離膜プラントで精製された精製流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体分離膜モジュール、流体分離膜プラント、及び精製流体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のガス成分を含んだ混合物から特定のガス成分を選択的に分離・精製する方法として、膜分離法が知られている。膜分離法は圧力差を利用するため、他の分離・精製法と比較してエネルギー消費量が少ない利点がある。
【0003】
膜分離法で用いられるガス分離膜は、特定のガス成分(透過ガス)のガス透過性が他のガス成分(非透過ガス)のガス透過性に対して高いことを特徴としている。ガス分離膜としては、高分子膜や無機膜が知られているが、耐熱性や耐薬品性が要求される用途においては、無機膜が好適に用いられる。
【0004】
中空糸状のガス分離膜は、単位体積当たりの膜面積を大きくするため、区画された空間の中に複数本の中空糸膜が収納された中空糸膜モジュールの形態で使用される。中空糸状の無機膜が収納された流体分離膜モジュールにおいて、除去成分を効率よく分離膜へ供給する方法として、モジュール内にスペーサーを配置する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-34025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、セラミックキャピラリー(9)の少なくとも1つの束及び束を囲んでいるハウジングを少なくとも有しており、前記キャピラリーが、その(両)末端部で多孔板により結合されており、かつ前記ハウジングが、第一の物質流のためのキャピラリーの内部に接続された入口管及び/又は出口管を有しており、かつ第二の物質流のためのキャピラリー間の隙間に接続されている入口管及び/又は出口管を有している、分離モジュールにおいて、キャピラリー間の距離が、スペーサー(6)により一定に保持されていることを特徴とする、分離モジュールが開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、分離モジュール内にスペーサーが専有する領域が発生するため、分離モジュール内のセラミックキャピラリーの充填率を損なう課題があった。さらに、ハウジング内に収納するセラミックキャピラリーの本数を増やす場合、キャピラリー間が狭くなることでスペーサーの配置が難しくなり、生産性や収率の低下が懸念される。
【0007】
そこで、本発明は、スペーサー等を配置することなく、剛直な流体分離膜が収納された流体分離膜モジュールの膜利用効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
中空糸状の流体分離膜が複数本収納された流体分離膜モジュールであって、前記流体分離膜の両端が固定され、前記流体分離膜の引張弾性率が1GPa以上100GPa以下であり、前記流体分離膜が以下の式1を満たす、流体分離膜モジュール。
【0010】
1.005 ≦ L25℃80RH%/L25℃0RH% ≦ 1.200 ・・・式1
[式中、L25℃0RH%は25℃0RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さ、L25℃80RH%は25℃80RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さを表す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明の流体分離膜モジュールは、高湿度下で伸長する流体分離膜の両端が固定されており、水蒸気を含む分離対象流体が供給された際に、流体分離膜同士が互いを排するように伸長してモジュール内で分散するため、流体分離膜自体が分離対象流体の拡散を促進して膜利用効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の流体分離膜モジュールの一態様であり、分離対象流体の流出入口を含む断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面を参照して本発明について例をあげて説明する。しかし本発明は、この例に限定して解釈されるものではない。
【0014】
本発明の流体分離膜モジュール(以下、単に「モジュール」と記載する場合がある)は、中空糸状の流体分離膜が複数本収納された流体分離膜モジュールであって、前記流体分離膜の両端が固定され、前記流体分離膜が以下の式1を満たすことを特徴とする。
【0015】
1.005 ≦ L25℃80RH%/L25℃0RH% ≦ 1.200 ・・・式1
[式中、L25℃0RH%は25℃0RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さ、L25℃80RH%は25℃80RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さを表す。]
前述のとおり、従来技術では、分離対象流体の拡散を促進するスペーサーを剛直な流体分離膜間に配置することで膜利用効率を向上させているが、モジュール内にスペーサーが存在することで単位体積当たりの膜面積を損なう課題があった。本発明のモジュールは、引張弾性率が高いにもかかわらず高湿度下で伸長する流体分離膜の両端がモジュール内に固定されているため、水蒸気を含む分離対象流体が供給された際に流体分離膜が伸長、互いを排するようにモジュール内で分散し、流体分離膜自体が分離対象流体のモジュール内での拡散を促進して膜利用効率を向上させることができる。
【0016】
図1に、本発明の流体分離膜モジュールの一態様の断面模式図を示す。図1は、中空糸状の流体分離膜が収納され、流体分離膜の外表面側から分離対象流体が供給されるモジュールの、分離対象流体の流出入口を含む断面の模式図である。
【0017】
本発明の流体分離膜モジュール1は、分離対象流体の流出入口3を有するベッセル5内に、中空糸状の流体分離膜2が複数本収納されている。流体分離膜2の両端は、ポッティング部6で固定されていると同時にポッティング部6を貫通しており、図示されない流体分離膜の中空部がポッティング部の透過側で開口している。流体分離膜2を透過した流体は、透過流体の流出口4より回収され、図示しない外部流路(流体分離膜を透過した流体を回収するための流路等)に接続される。
【0018】
流体分離膜は、分離対象流体に含まれる特定の成分(透過成分)の透過性が他の成分(非透過成分)に対して高い膜である。
【0019】
本発明の流体分離膜は、引張弾性率が1.0GPa以上100GPa以下であることが好ましい。流体分離膜の引張弾性率が1.0GPa以上であることで、流体分離膜の変形が抑制されるため、分離対象流体の供給圧力が高い場合であっても流体分離膜の中空潰れを抑制することができる。流体分離膜の引張弾性率は、2.0GPa以上がより好ましく、3.0GPa以上がさらに好ましい。一方で、流体分離膜の引張弾性率は、100GPa以下が好ましく、100GPa以下であることで、運搬時やモジュール運転時の衝撃による流体分離膜の破損を抑制できる。引張弾性率は、30GPa以下であることがより好ましく、10GPa以下であることがさらに好ましい。
【0020】
流体分離膜の引張弾性率は、引張試験によって測定することができる。また、流体分離膜が支持体やコーティング層を有する場合は、支持体やコーティング層を含む流体分離膜の引張弾性率を流体分離膜の引張弾性率とみなす。
【0021】
本発明の流体分離膜は、上記の式1を満たすことを特徴とする。L25℃80RH%/L25℃0RH%が1.005以上であることで、モジュールへ水蒸気を含む分離対象流体が供給された際に、流体分離膜が伸長し、互いを排するようにモジュール内で分散できるため、流体分離膜自体が分離対象流体のモジュール内での拡散を促進して膜利用効率を向上させる効果を奏する。L25℃80RH%/L25℃0RH%は、1.010以上であることがより好ましく、1.020以上であることがより好ましい。一方で、L25℃80RH%/L25℃0RH%が1.200以下であることで、流体分離膜が伸長した際の流体分離膜同士の干渉が抑制され、流体分離膜の損傷を抑制することができる。L25℃80RH%/L25℃0RH%は、1.100以下であることがより好ましく、1.050以下であることがさらに好ましい。
【0022】
25℃0RH%及びL25℃80RH%は、モジュールからサンプリングした流体分離膜の基準となる2点間の距離を測定することで得られる。図1において、A点とB点を基準点とする場合の測定方法を下記する。まず、A点とB点の間を含む流体分離膜をサンプリングする。L25℃0RH%は、サンプリングした流体分離膜を25℃0RH%で24時間静置後に25℃0RH%の環境下で測定したA点とB点の間の距離を表す。L25℃80RH%は、サンプリングした流体分離膜を25℃80RH%で24時間静置後に25℃80RH%の環境下で測定したA点とB点の間の距離を表す。なお、A点とB点の間の距離を測定する際は、流体分離膜が伸長せずにまっすぐになる程度の荷重をかけて測定する。また、A点とB点はL25℃0RH%が10cm以上になるように設定し、モジュール内の異なる10本以上の流体分離膜で測定した平均値をL25℃80RH%及びL25℃0RH%とする。また、流体分離膜が支持体やコーティング層を有する場合は、支持体やコーティング層を含む流体分離膜のL25℃0RH%及びL25℃80RH%を流体分離膜のL25℃0RH%及びL25℃80RH%とみなす。
【0023】
なお、L25℃0RH%及びL25℃80RH%の測定時に流体分離膜が伸縮に耐えられず損傷する場合、当該分離膜は式1を満たさないものとする。一例として、支持体と分離機能層からなる分離膜であって、支持体と分離機能層の湿度に対する応答性が大きく異なる分離膜は、L25℃80RH%測定時に破断するため式1を満たさない。
【0024】
本発明の一つの態様において、流体分離膜は以下の式2を満たすことが好ましい。
【0025】
0.980 ≦ L25℃0RH%/L ≦ 1.020 ・・・式2
[式中、L25℃0RH%は25℃0RH%で24時間静置後の前記流体分離膜の長手方向の長さを表し、Lは25℃0RH%で24時間静置後に前記流体分離膜が配置される流体分離膜モジュールの長手方向の長さを表す。]
ここで、L25℃0RH%が流体分離膜自体の長さを示すのに対して、Lは流体分離膜が配置される流体分離膜モジュールの長手方向の長さを表す。即ち、流体分離膜がモジュールの長手方向に対して斜めに配置されていたり、25℃0RH%で24時間静置後に流体分離膜がたるんでいたりする場合に、L25℃0RH%がLに対して大きくなる。逆に、モジュールの長手方向に対して平行に配置された流体分離膜が、25℃0RH%で24時間静置後に張っている場合には、L25℃0RH%がLに対して小さくなる。
【0026】
25℃0RH%/Lが0.980以上であることで、流体分離膜が収縮した際の流体分離膜の破断を抑制することができる。L25℃0RH%/Lは、0.990以上であることがより好ましく、1.000以上であることがさらに好ましい。一方で、L25℃0RH%/Lが1.020以下であることで、流体分離膜が収縮した際に、流体分離膜同士が引き揃った状態に近くなるため、流体分離膜の洗浄を含むモジュールメンテナンスが容易になる。L25℃0RH%/Lは、1.010以下であることがより好ましい。
【0027】
25℃0RH%は上記の方法で測定することができる。一方で、Lは、上記の流体分離膜の基準点をベッセルの長手方向に投影し、投影した基準点間の距離を測定することで得られる。図1において、A点とB点を基準点とする場合のLの測定方法を下記する。流体分離膜の透過側及び非透過側が25℃0RH%となる条件で24時間静置後にベッセルの長手方向に平行な軸10に対して、点Aと点Bのそれぞれから垂線を引き、交点を点A´と点B´とする。点A´と点B´の間の距離11がLとなる。A点とB点はL25℃0RH%が10cm以上になるように設定し、モジュール内の異なる10本以上の流体分離膜で測定した平均値をL25℃0RH%及びLとする。また、流体分離膜が支持体やコーティング層を有する場合は、支持体やコーティング層を含む流体分離膜のL25℃0RH%及びLを流体分離膜のL25℃0RH%及びLとみなす。
【0028】
本発明のモジュールにおいて、流体分離膜の曲げ半径は、0.1cm以上100cm以下であることが好ましい。流体分離膜の曲げ半径が0.1cm以上であることで流体分離膜を束として扱った際の形態安定性が向上し、モジュール作製効率が向上する。曲げ半径は、0.2cm以上であることがより好ましく、0.5cm以上であることがさらに好ましい。一方で、流体分離膜の曲げ半径が100cm以下であることで、加湿環境下でモジュール内の流体分離膜が伸長した際に、モジュール内で流体分離膜が湾曲することで流体分離膜の破断を抑制することができる。曲げ半径は、10cm以下であることがより好ましく、5cm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
流体分離膜の曲げ半径は、モジュールから流体分離膜を10cm以上サンプリングし、サンプリングした流体分離膜を円柱の法線方向に沿って360°以上巻き付けた時に流体分離膜が破断しない円柱の半径より求めることができる。流体分離膜の曲げ半径が1.5cm以上である場合、サンプリングした流体分離膜を円柱の法線方向に沿って巻き付ける角度を適宜小さくして評価を行い、流体分離膜が破断しない円柱の半径を、流体分離膜の曲げ半径とみなすことができる。また、流体分離膜が支持体やコーティング層を有する場合は、支持体やコーティング層を含む流体分離膜の曲げ半径を流体分離膜の曲げ半径とみなす。
【0030】
本発明のモジュールにおいて、流体分離膜の外径は、50μm以上500μm以下であることが好ましい。流体分離膜の外径を50μm以上とすることで、中空部の内径を確保でき、流体の通過性を向上させることができる。流体分離膜の外径は、100μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましい。一方、流体分離膜の外径を500μm以下とすることにより、流体分離膜モジュールとした場合の単位体積あたりの流体分離膜の膜面積を増加させることができる。流体分離膜の外径は400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。
【0031】
流体分離膜としては、例えば、ゼオライト膜、金属有機構造体(MOF)膜、炭素膜等の無機膜や高分子膜等が挙げられる。流体分離膜モジュールが高温や酸性塩基性等の過酷な環境下で使用される場合、流体分離膜は耐熱性や耐薬品性に優れる無機膜が好ましく、ゼオライト膜、または、炭素膜であることが好ましい。中でも炭素膜であることがより好ましい。
【0032】
流体分離膜として好適なゼオライト膜としては、アルミノケイ酸塩、例えば、NaX型(FAU)、ZSM-5、MOR、シリカライト、及びA型等からなる膜が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。ゼオライト種は、水熱合成反応によって2次成長させるものと同程度のSi/Al比を有するものが好ましい。
【0033】
流体分離膜として好適なMOF膜としては、例えば、Cu-BTC、MOF-5、IRMOF-3、MIL-47、MIL-53、MIL-96、MMOF、SIM-1、ZIF-7、ZIF-8、ZIF-22、ZIF-69、ZIF-90等からなる膜が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0034】
流体分離膜として好適な炭素膜としては、例えば、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂等を炭化した膜が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0035】
流体分離膜として好適な高分子膜としては、例えば、芳香族ポリイミド、酢酸セルロース、ポリスルホン、芳香族ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(1-トリメチルシリルプロピン)、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルトリメチルシラン、ポリ(4-メチルペンテン)、エチルセルロース、天然ゴム、ポリ(2,6-ジメチル酸化フェニレン)、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、スチレン、ポリエチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニルアルコール、シリコーン等からなる膜が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0036】
流体分離膜は、透過成分の透過性を向上させるため、ナノ粒子等を添加することができる。ナノ粒子としては、例えば、シリカ、チタニア、ゼオライト、金属酸化物、MOF、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。
【0037】
本発明の流体分離膜は、支持体を含んでいてもよい。本発明の流体分離膜が支持体を含む場合、支持体は流体分離膜の一方の表面のみに配置されることがより好ましい。
【0038】
支持体としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、及びポリフェニレンオキシドなどのホモポリマー並びにコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含有する多孔質有機支持体、炭化可能樹脂からなる多孔質有機支持体を炭化した多孔質炭素支持体等が挙げられる。炭化可能樹脂としては、例えば、ポリフェニレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、全芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、リグニン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0039】
流体分離膜が無機膜と支持体とからなる場合、無機膜の耐熱性や耐薬品性を損なわない観点から支持体は多孔質炭素支持体であることが好ましい。無機膜である流体分離膜が多孔質炭素支持体を有する態様とは、多孔質炭素支持体の少なくとも一方の表面に分離機能層である無機膜が存在する態様を表す。この様な態様は、多孔質炭素支持体上に無機膜を製膜する方法で製造することができる。無機膜としては、多孔質炭素支持体と物性が近い炭素膜を用いることがより好ましく、このような態様は、多孔質炭素支持体上に分離機能炭素層の前駆体をコーティングして再度炭化する方法や、表面に分離機能炭素層の前駆体の層を有する多孔質有機支持体を炭化して支持体と分離機能層を一度に炭化する方法で製造することができる。
【0040】
流体分離膜が高分子膜と支持体とからなる場合、流体分離膜の強度を担保する観点から支持体は多孔質炭素支持体であることが好ましい。高分子膜である流体分離膜が多孔質炭素支持体を有する態様とは、多孔質炭素支持体の少なくとも一方の表面に分離機能層である高分子層が存在する態様を表す。この様な態様は、多孔質炭素支持体上に高分子膜の層をコーティングする方法などで製造することができる。
【0041】
流体分離膜が多孔質炭素支持体を有する態様において、当該多孔質炭素支持体のラマンスペクトルは、下記の式3を満たすことが好ましい。
【0042】
1.1 ≦ I/I ≦ 3.0 ・・・式3
[式中、Iは前記多孔質炭素支持体のラマンスペクトルの1360cm-1におけるピーク強度を表し、Iは前記多孔質炭素支持体のラマンスペクトルの1580cm-1におけるピーク強度を表す。]
/Iは炭素材料の炭化度を表す指標であり、I/Iが1.1以上であることで多孔質炭素支持体の炭化度が高すぎず、高湿度下で流体分離膜が伸長することができる。I/Iは1.6以上であることがより好ましい。一方で、I/Iが3.0以下であることで多孔質炭素支持体の炭化が低すぎず、多孔質炭素支持体の耐熱性や耐薬品性が向上する。I/Iは2.4以下であることがより好ましい。
【0043】
/Iは、多孔質炭素支持体及び炭素膜を製造する際の焼成条件によって制御することができる。焼成条件としては、例えば、最高到達温度、昇温速度、保持時間、雰囲気組成などが挙げられる。本発明の一つの態様において、多孔質炭素支持体及び炭素膜は、高分子支持体や炭素膜前駆体を不活性雰囲気下、400℃以上750℃以下で炭化処理することで製造できる。また、炭化処理の前に不融化処理を追加することで、炭化処理時の形態変化を抑制することができる。不融化処理とは、活性雰囲気下、200℃以上400℃以下で加熱することで、高分子支持体や炭素膜前駆体に酸化架橋を形成する工程を表す。
【0044】
及びIは、上記多孔質炭素支持体をラマン分光測定することで得られる。流体分離膜を割断し、露出した多孔質炭素支持体へレーザーを照射して700から2,000cm-1の範囲でラマンスペクトルを取得する。ベースラインに対するGバンド(1,580cm-1付近)及びDバンド(1,360cm-1付近)のバンド強度をそれぞれI、Iとする。ここで、バンド強度は最小二乗法による二次関数フィッティングの極大値から読み取る。
【0045】
本発明の一つの態様において、流体分離膜のCO透過度(以下、単に「CO透過度」と記載する)は、0.1nmol/(m・s・Pa)以上100nmol/(m・s・Pa)以下であることが好ましい。CO透過度が0.1nmol/(m・s・Pa)以上であることで、分離対象流体からCOを除去することができる。CO透過度は0.5nmol/(m・s・Pa)以上であることがより好ましく、1.0nmol/(m・s・Pa)であることがさらに好ましい。一方で、CO透過度が100nmol/(m・s・Pa)以下であることで、分離対象流体の流速が抑制され、運転中の流体分離膜の負荷が低減する。CO透過度は50nmol/(m・s・Pa)以下がより好ましい。本発明の流体分離膜モジュールは、水蒸気を含む分離対象流体が供給された際に流体分離膜が伸長、互いを排するようにモジュール内で分散し、流体分離膜自体が分離対象流体のモジュール内での拡散を促進して膜利用効率を向上させるため、CO透過度が低く分離対象流体の流量が小さくなる流体分離膜であっても好適に用いることができる。
【0046】
CO透過度は、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法で測定することができる。
【0047】
本発明のモジュールにおいて、ベッセルの断面形状は、ベッセルの耐圧性を向上させる観点から、楕円形や円形などが好ましく、円形がより好ましい。ここで、ベッセルの断面とは、ベッセルの、流体分離膜の長さ方向に垂直な断面を言う。ベッセルの材質としては、例えば、金属、樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられ、設置場所の環境や使用される状況に応じて、適宜選択することができる。耐圧性や耐熱性が要求される用途においては、強度と成形加工性を兼ね備えた金属が好ましく、ステンレス等がより好ましい。
【0048】
ベッセルに配置される分離対象流体の流出入口は、流体分離膜へ分離対象流体を導く機能を有する。流体分離膜が全量ろ過方式で用いられる場合には、分離対象流体の流出入口を1箇所有していればよく、クロスフローろ過方式で用いられる場合には、分離対象流体の流出入口を合わせて2箇所以上有することが好ましい。ベッセルの機械的強度を保つ範囲において、分離対象流体の流出入口を複数有してもよい。この場合、流出入口と流体分離膜との間に、流体の通過を妨げない範囲でメッシュやフェルト等の布帛を配置することが好ましく、流体の拡散や流体分離膜の保護の効果を奏する。
【0049】
流体分離膜をベッセルに固定する方法としては、流体分離膜をポッティング材で直接ベッセルの内面に固定する方法や、複数の流体分離膜がポッティング材で固定された分離膜エレメントを液密性あるいは気密性を確保できるアダプター等(一例として、Oリング等)を介してベッセル内に固定する方法などが挙げられる。分離膜エレメントの性能が経時劣化した際に、分離膜エレメントのみを交換することができることから、アダプター等を介してベッセル内に固定することが好ましい。
【0050】
本発明の分離膜エレメントは、ベッセル内に収納されるケーシング(以下、「エレメントケーシング」と記載)をさらに有してもよい。エレメントケーシングは、分離対象流体の流出入口を有することが好ましい。エレメントケーシングの形状は、ベッセル内への収納を妨げない限り、特に限定されない。エレメントケーシングの素材としては、例えば、金属、樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられ、使用される状況に応じて適宜選択することができる。ポッティング材の硬化収縮に対する追従性が高いことから、樹脂が好ましく、成型性と耐薬品性を兼ね備えることから、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホンがより好ましい。
【0051】
ポッティング材としては、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。さらに、他の添加剤を含有してもよい。
【0052】
ポッティング材として用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、成形性、硬化時間や接着性、硬度等のバランスの観点から、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂が好ましい。
【0053】
本発明のモジュールの分離対象流体は特に限定されるものではないが、水蒸気を含む分離対象流体であることが好ましく、例えば、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、バイオガスや天然ガスの精製、水蒸気メタン改質後の精製ガスの精製等が挙げられる。つまり本発明のモジュールにおいて、流体分離膜はガス分離膜であることが好ましい。
【0054】
本発明の流体分離膜プラント(以下、単に「プラント」と記載する場合がある)は、本発明の流体分離膜モジュールを含む、プラントである。プラントは、モジュールに加え、前処理設備、精製流体回収設備、副生流体回収設備等を含むことが好ましい。前処理設備は、分離前の分離対象流体からあらかじめ不純物を除去したり分離前の分離対象流体の組成を調整したりするための設備である。精製流体回収設備は、分離前の分離対象流体から不要な成分を除去した精製流体を回収し、必要に応じてさらに精製したりパイプライン等に供給したりするための設備である。副生流体回収設備は、分離前の分離対象流体から除去された副生流体を回収し、一例として、追加の精製後に無害化して排出する設備である。本発明のプラントにおいて、モジュールと前処理設備、精製流体回収設備、副生流体回収設備は配管等で接続され、分離前の分離対象流体が連続的に精製流体と副生流体に分離されることが好ましい。
【0055】
本発明のプラントは、水蒸気量が5g/m以上5000g/m以下の分離対象ガスが流体分離膜に供給されることを特徴とする。分離対象ガスの水蒸気量が5g/m以上であることで、流体分離膜が伸長、互いを排するようにモジュール内で分散し、流体分離膜自体が分離対象流体のモジュール内での拡散を促進して膜利用効率を向上させることができる。分離対象ガスの水蒸気量は、10g/m以上がより好ましく、20g/m以上がさらに好ましい。一方で、分離対象ガスの水蒸気量は、水蒸気量が大きくなると凝縮を防ぐための高温加熱が必要となるため、5000g/m以下であることが好ましい。分離対象ガスの水蒸気量は、1500g/m以下がより好ましく、600g/m以下がさらに好ましく、300g/m以下がさらにより好ましい。
【0056】
本発明の一つの態様において、プラントは、流体分離膜モジュールの下流側に脱水装置を備えることが好ましい。流体分離膜モジュールの下流側とは、上記の精製流体回収設備や副生流体回収設備を含む。流体分離膜下流の精製流体回収設備が脱水装置を含むことで、分子サイズが小さく流体分離膜を透過しやすい水蒸気は流体分離膜モジュールで粗取りされるため、脱水負荷を低減することができる。一方で、流体分離膜下流の副生流体回収設備が脱水装置を含むことで、副生流体の用途に応じた脱水が可能となる。
【0057】
本発明の一つの態様において、プラントは、流体分離膜モジュール内における分離対象流体のノルマル流速が0.1mm/秒以上1000mm/秒以下であることが好ましい。モジュール内における分離対象流体のノルマル流速が1000mm/秒以下であることでモジュール内の分離対象流体の流れが層流になりやすいため、流体分離膜自体が分離対象流体の拡散を促進する本発明の流体分離膜を好適に用いることができる。モジュール内における分離対象流体のノルマル流速は、100mm/秒以下であることがより好ましく、10mm/秒以上であることがさらに好ましい。一方で、分離対象流体の処理量を稼ぐ観点から0.1mm/秒以上であることが好ましい。
【0058】
モジュール内における分離対象流体のノルマル流速は、分離対象流体のノルマル流量をモジュール断面における分離対象流体が通過する部分の面積で割ることで算出できる。モジュール断面における分離対象流体が通過する部分とは、モジュールの長手方向に直交する断面において、分離対象流体が通過できない部分(流体分離膜の中空部やスペーサー等の部材)を除いた部分の面積を表す。
【0059】
プラントは、分離対象流体の処理量に応じて、モジュールを複数含むことが好ましい。複数のモジュールは、分離対象流体に対して直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよい。モジュールの長手方向の長さを短縮化できて作製効率を向上できる観点からは、モジュールは直列に接続されることが好ましく、モジュールを部分的に交換できる観点からは、モジュールは並列に接続されることが好ましい。本発明のプラントの好ましい一態様として、モジュールが直列に接続され、直列に接続されたモジュールがさらに並列に接続された態様が挙げられる。このようにすることで、モジュールを直列に接続するメリットと並列に接続するメリットを両立させることができる。
【0060】
本発明のプラントの分離対象流体は特に限定されるものではないが、水蒸気を含む分離対象流体であることが好ましく、例えば、発電所や高炉等の排気ガスからの二酸化炭素分離・貯蔵システム、バイオガスや天然ガスの精製、水蒸気メタン改質後の精製ガスの精製等が挙げられる。つまり本発明のプラントにおいて、流体分離膜はガス分離膜であることが好ましい。
【0061】
本発明の精製流体は、本発明の流体分離膜モジュールで精製された流体である。精製流体は、本発明のモジュールにおける精製工程の前後に別の精製工程や追加工程を含んで精製されていてもよく、異なる精製工程で精製された精製流体と混合して用いられてもよい。別の精製工程や異なる精製工程としては、例えば、蒸留、吸着、吸収等が挙げられる。また、追加工程としては、例えば、別の流体と混合する成分調整等が挙げられる。
【0062】
次に、本発明のモジュールの製造方法の一例を説明する。本発明のモジュールは、複数本の流体分離膜をエレメントケーシングまたはベッセルへ挿入し、流体分離膜の両端をポッティング材によってポッティングすることで製造できる。水蒸気を含む分離対象流体が供給された際に流体分離膜が伸長できるように、ポッティング前やポッティング時の雰囲気を制御し、流体分離膜が収縮した状態で流体分離膜の両端をエレメントケーシングまたはベッセルへ固定することが重要である。ポッティング方法としては、例えば、遠心力を利用して流体分離膜間に浸透させる遠心ポッティング法、流動状態のポッティング材を定量ポンプやヘッドにより送液し流体分離用炭素膜に浸透させる静置ポッティング法等が挙げられる。
【0063】
ポッティングした流体分離膜を、ポッティング部位において切断し、流体分離膜を開口させることが好ましい。流体分離膜モジュールの切断面には、管継手部材としてのキャップを装着し、外部流路(流体分離膜を透過した流体を回収するための流路等)に接続可能とすることが好ましい。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施例及び比較例における評価は、以下の方法により行った。
【0065】
(流体分離膜の引張弾性率)
モジュールから100mmの流体分離膜をサンプリングし、断面SEM観察によって、断面積を算出した。続いて、サンプリングした流体分離膜の両端を1cmずつ接着剤で補強し、補強部位を引張試験機(TENSILON(登録商標)/RTM-100、株式会社東洋ボールドウィン製)のチャックに固定し、試料長80mm、引張速度10mm/minの条件にて引張弾性率(GPa)を測定した。10回ずつ測定し、平均値を有効数字2桁で示した値を流体分離膜の引張弾性率とした。
【0066】
(流体分離膜の曲げ半径)
作製したモジュールから10cm以上の流体分離膜を切り出し、切り出した流体分離膜を円柱の法線方向に沿って360°以上巻き付けた時に流体分離膜が破断しない円柱の半径を求めた。流体分離膜を5本以上切り出し、得られた円柱の半径の平均値を有効数字1桁で表した値を流体分離膜の曲げ半径とした。
【0067】
(流体分離膜の外径)
作製したモジュールから1cm以上の流体分離膜を切り出し、切り出した流体分離膜の断面をVHX-7000(キーエンス社製)で観察した。流体分離膜は長手方向と直交する面で切り出し、観察時は流体分離膜の外表面がなるべく映り込まないように観察角度を調整し、流体分離膜断面の外接円の直径を測定した。流体分離膜を5本以上切り出し、得られた流体分離膜断面の外接円の直径の平均値を有効数字2桁で表した値を流体分離膜の外径とした。
【0068】
(CO透過度)
作製したモジュールから10cm以上の流体分離膜を切り出し、片端を封止、片端を開口した状態で配管に固定し、JIS K7126-1(2006)の圧力センサ法に準拠して、CO透過度を測定した。温度25℃、流体分離膜の供給側と透過側の差圧0.1MPaGの条件で、モジュール内の任意の3本の流体分離膜についてCO透過度を測定し、N=3の平均値をモジュールのCO透過度とした。
【0069】
(L2580RH%/L25℃0RH%及びL25℃0RH%/L
作製したモジュールについて、測定対象とする流体分離膜の2つの基準点にマーキングした。流体分離膜の透過側及び非透過側が25℃0RH%となる条件で24時間静置後に基準点の位置をエレメント筒の長手方向に平行な軸上に投影し、投影した基準点間の距離をLとした。続いて2つの基準点が含まれるように流体分離膜をサンプリングし、25℃0RH%で24時間静置後あるいは25℃80RH%で24時間静置後にそれぞれの雰囲気下で基準点間の距離を測定し、L25℃0RH%及びL25℃80RH%とした。基準点はL25℃0RH%が10cm以上となるように設定し、10本の流体分離膜についてL、L25℃80RH%、L25℃0RH%を測定し、L25℃80RH%/L25℃0RH%及びL25℃0RH%/Lを算出した。N=10の平均値を流体分離膜のL25℃80RH%/L25℃0RH%及びL25℃0RH%/Lとした。
【0070】
(多孔質炭素支持体のI/I
作製したモジュールからサンプリングした流体分離膜を割断し、露出した多孔質炭素支持体のラマンスペクトルをRAMANtouch(ナノフォトン社製)で測定した。700から2,000cm-1の範囲でラマンスペクトルを取得し、ベースラインに対するGバンド(1,580cm-1付近)及びDバンド(1,360cm-1付近)のバンド強度をそれぞれI、Iとし、両者の比を算出した。モジュール内の任意の10本の流体分離膜についてIとIを測定し、N=10の平均値を各実施例及び比較例のI/Iとした。
【0071】
(モジュールの膜利用効率)
作製したモジュールへ25℃80RH%のCO/CH混合ガス(CO/CH=40vol%/60vol%)を供給圧力0.4MPaで供給し、透過側を真空引きしながら精製ガスを一定の流量でフローし、精製ガスの組成を定期的にGC―2014(島津製作所製)でガスクロマトグラフ分析した。上記の供給ガスの水蒸気量は、18.4g/m、流体分離膜を除いたモジュール内断面積から算出されるノルマル流速は、0.5mm/秒であった。平衡に達した時点の精製ガス中のCH濃度が、流体分離膜のガス透過性能と完全混合モデルを用いたシミュレーション結果に対して95%以上である場合に「優」、90%以上95%未満である場合に「良」、90%未満である場合に「可」とした。
【0072】
(モジュールの耐圧性)
作製したモジュールの透過側をドラフト内で開放、非透過側下流を密封し、非透過側上流からNガスを1L/minで供給した。非透過側の圧力を3MPa以上まで昇圧できる場合に耐圧性「可」、昇圧できない場合に耐圧性「不可」とした。
【0073】
(製造例1)
ポリサイエンス社製ポリアクリロニトリル(PAN)(MW15万)10重量部と、シグマ・アルドリッチ社製ポリビニルピロリドン(PVP)(MW4万)10重量部、そして和光純薬製ジメチルスルホキシド(DMSO)80重量部を混合し、100℃で攪拌して紡糸原液を調製した。
【0074】
得られた紡糸原液を25℃まで冷却した後、同心円状の三重口金の口金を用いて、内管からDMSO80重量%水溶液を、中管から前記紡糸原液を、外管からDMSO90重量%水溶液をそれぞれ同時に吐出した後、25℃の純水からなる凝固浴へ導き、ローラーに巻き取ることで原糸を得た。得られた原糸は水洗した後、循環式乾燥機にて25℃で24時間乾燥して中空糸の多孔質炭素支持体の前駆体を作製した。
【0075】
続いて多孔質炭素支持体の前駆体を250℃の電気炉中に通し、空気雰囲気下で1時間加熱して不融化処理を行った。続いて、不融化糸を不活性雰囲気下500℃で炭化処理し、外径280μm、内径90μmの中空糸状である、製造例1の多孔質炭素支持体を作製した。
【0076】
(製造例2)
不融化糸の炭化処理温度を500℃から650℃に代えた以外は、製造例1と同様にして、外径240μm、内径80μmの中空糸状である、製造例2の多孔質炭素支持体を作製した。
【0077】
(製造例3)
不融化糸の炭化処理温度を500℃から800℃に代えた以外は、製造例1と同様にして、外径225μm、内径70μmの中空糸状である、製造例3の多孔質炭素支持体を作製した。
【0078】
(製造例4)
不融化糸の炭化処理温度を500℃から900℃に代えた以外は、製造例1と同様にして、外径210μm、内径65μmの中空糸状である、製造例4の多孔質炭素支持体を作製した。
【0079】
(製造例5)
芳香族ポリイミド(以下、芳香族PI)“Matrimid(登録商標)”5218をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させて、10.0重量%の芳香族ポリイミド溶液(以下、芳香族PI溶液)を調整した。ここで、“Matrimid(登録商標)”5218は、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、5(6)-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3’-トリメチルインダン)の縮合生成物である。
【0080】
製造例1の多孔質炭素支持体を上記PI溶液へ浸漬後に、10mm/分の速度で引き上げ、続いて、水中に浸漬して溶媒を除去し、循環式熱風乾燥機内で乾燥させることで、多孔質炭素支持体表面に芳香族PIがコーティングされたコーティング糸を得た。続いて、コーティング糸を不活性雰囲気下550℃で炭化処理し、製造例5の流体分離膜を作製した。
【0081】
(製造例6)
製造例1の多孔質炭素支持体に代えて製造例2の多孔質炭素支持体を用いた以外は、製造例5と同様にして、製造例6の流体分離膜を作製した。
【0082】
(製造例7)
製造例1の多孔質炭素支持体に代えて製造例3の多孔質炭素支持体を用いた以外は、製造例5と同様にして、製造例7の流体分離膜を作製した。
【0083】
(製造例8)
製造例1の多孔質炭素支持体に代えて製造例4の多孔質炭素支持体を用いた以外は、製造例5と同様にして、製造例8の流体分離膜を作製した。
【0084】
(製造例9)
コーティング糸の炭化処理温度を550℃から1000℃に代えた以外は、製造例5と同様にして、製造例9の流体分離膜を作製した。
【0085】
(製造例10)
不融化糸を炭化処理しなかった以外は、製造例1と同様にして、外径360μm、内径120μmの中空糸状である、製造例10の多孔質支持体を作製した。
【0086】
(製造例11)
製造例1の多孔質炭素支持体に代えて製造例10の多孔質支持体を用いた点と、コーティング糸の炭化処理温度を550℃から300℃に代えた以外は、製造例5と同様にして、製造例11の流体分離膜を作製した。
【0087】
(製造例12)
製造例1の多孔質炭素支持体に代えて製造例10の多孔質支持体を用いた点と、コーティング糸の炭化処理時間を短くした点以外は、製造例5と同様にして、製造例12の流体分離膜を作製した。
【0088】
(実施例1)
製造例5の流体分離膜を100本束ね、分離対象流体の流出入口を有するアクリルパイプ(内径5mm)内に収納し、エポキシ樹脂を用いてアクリルパイプの両端を一方ずつ静置ポッティングした。エポキシ樹脂硬化後に一端のポッティング部位を回転鋸で切断して流体分離膜を開口させ、実施例1の流体分離膜モジュールを得た。
【0089】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は2.5GPa、L25℃80RH%/L25℃0RH%は1.016、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は280μm、I/Iは1.9、CO透過度は5.8nmol/(msPa)、モジュールの膜利用効率は優、耐圧性は可であった。評価結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2)
製造例5の流体分離膜に代えて製造例6の流体分離膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2のモジュールを作製した。
【0091】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は3.2GPa、L25℃80RH%/L25℃0RH%は1.013、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は240μm、I/Iは1.7、CO透過度は5.4nmol/(msPa)、モジュールの膜利用効率は優、耐圧性は可であった。評価結果を表1に示す。
【0092】
(実施例3)
製造例5の流体分離膜に代えて製造例7の流体分離膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2のモジュールを作製した。
【0093】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は3.7GPa、L25℃80RH%/L25℃0RH%は1.006、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は230μm、I/Iは1.3、CO透過度は4.8nmol/(msPa)、モジュールの膜利用効率は良、耐圧性は可であった。評価結果を表1に示す。
【0094】
(実施例4)
製造例5の流体分離膜に代えて製造例11の流体分離膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4のモジュールを作製した。
【0095】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は0.5GPa、L25℃80RH%/L25℃0RH%は1.025、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は340μm、I/Iは1.0以下、CO透過度は0.3nmol/(msPa)、モジュールの膜利用効率は優、耐圧性は不可であった。評価結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
製造例5の流体分離膜に代えて製造例8の流体分離膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1のモジュールを作製した。
【0097】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は3.9GPa、L25℃80RH%/L25℃0RH%は1.002、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は210μm、I/Iは1.1、CO透過度は4.8nmol/(msPa)、モジュールの膜利用効率は可、耐圧性は可であった。評価結果を表1に示す。
【0098】
(比較例2)
製造例5の流体分離膜に代えて製造例9の流体分離膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2のモジュールを作製した。
【0099】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は4.0GPa、L25℃80RH%/L25℃0RH%は1.003、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は200μm、I/Iは1.1、CO透過度は1.8nmol/(msPa)、モジュールの膜利用効率は可、耐圧性は可であった。評価結果を表1に示す。
【0100】
(比較例3)
製造例5の流体分離膜に代えて製造例12の流体分離膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3のモジュールを作製した。
【0101】
前述の方法により評価した結果、流体分離膜の引張弾性率は0.8GPa、L25℃0RH%/Lは1.002、曲げ半径は10cm以下、外径は350μm、I/Iは1.0以下、CO透過度は3.4nmol/(msPa)、耐圧性は不可であり、25℃80RH%で24時間静置した際に流体分離膜が破断し、L25℃80RH%やモジュールの膜利用効率は測定不可であった。評価結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【符号の説明】
【0103】
1:流体分離膜モジュール
2:流体分離膜
3:分離対象流体の流出入口
4:透過流体の流出口
5:ベッセル
6:ポッティング部
10:ベッセルの長手方向に平行な軸
11:点A´と点B´の間の距離(L
点A、点B:流体分離膜の長さを測定する基準点
点A´、点B´:点A、点Bをベッセルの長手方向に平行な軸に投影した基準点
図1