(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137772
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】燃料電池用撥水層の製造方法、燃料電池用撥水層及びそれを用いた燃料電池用ガス拡散層
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240927BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240927BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/88 H
H01M4/96 H
H01M4/96 B
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/96 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032124
(22)【出願日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2023047192
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023178788
(32)【優先日】2023-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 哲賜
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩
(72)【発明者】
【氏名】神谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】工藤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘高
(72)【発明者】
【氏名】秋元 裕介
(72)【発明者】
【氏名】牧野 総一郎
【テーマコード(参考)】
5H018
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB03
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE06
5H018EE17
5H018HH01
5H018HH05
5H018HH08
5H018HH09
(57)【要約】
【課題】高いエネルギー効率で燃料電池用撥水層を効率よく製造することが可能であるとともに、ガス拡散層用の多孔質基材の表面上に撥水層を形成した場合に、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層の製造方法を提供すること。
【解決手段】 特定の親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる特定の樹脂原料粒子の粉末(B)とを含みかつ粉末(B)の含有量が特定の割合にある混合粉末を、乾式成膜法により成膜して混合粉末層を形成する工程と;前記混合粉末層を特定の条件で加圧して圧密化する工程と;前記圧密化後の前記混合粉末層を、特定の条件で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る工程と;を含むことを特徴とする燃料電池用撥水層の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末を、乾式成膜法により成膜することにより混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を0.2~50MPaの条件で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密工程後の前記混合粉末層を、前記熱硬化性樹脂の分解温度よりも10~130℃低い温度で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含むことを特徴とする燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、及び、アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂がメラミン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項4】
前記成膜工程において、被成膜基材として、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材を用いて、前記被成膜基材の表面上に前記混合粉末を成膜することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【請求項5】
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末の焼成物からなる層であり、
前記層は、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる層であり、かつ、
前記混合接合体中の前記耐水性樹脂(C)の含有量が前記粉末(A)及び前記耐水性樹脂(C)の総量に対して13~57質量%であることを特徴とする燃料電池用撥水層。
【請求項6】
多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された請求項5に記載の燃料電池用撥水層とを備えることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
前記多孔質基材が、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材であることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用撥水層の製造方法、燃料電池用撥水層、並びに、それを用いた燃料電池用ガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、通常、電解質膜の両面に触媒層を含む電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位として備える。ここにおいて、電極は、一般に、ガス拡散層と触媒層の二層構造をとる。このようなガス拡散層は、電極反応の反応場である触媒層に対して、反応ガス及び電子を供給するために利用されることから、従来より、ガス透過性と、水の管理が可能となるような特性(例えば撥水性)とを有することが求められている。そのため、ガス拡散層には、一般に、カーボンペーパー、カーボンクロス等の多孔質基材と、かかる多孔質基材の表面に積層された撥水層とを備えるものが利用されている。そして、このような燃料電池用の撥水層の製造方法として、例えば、特開2021-2444号公報(特許文献1)には、球形化黒鉛からなる第1粒子と、前記第1粒子よりも粒径が小さい微粒状のカーボンを含む第2粒子と、撥水性高分子とを備え、かつ、前記第1粒子の表面に、前記撥水性高分子を介して前記第2粒子が結合している造粒体を調製する工程と、粉体塗装装置を用いて基材表面に前記造粒体を塗工する工程と、得られた塗膜を熱処理する工程とを備える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載されているような従来の撥水層の製造方法を採用した場合には、撥水層と多孔質基材との接合強度を必ずしも十分なものとすることができなかった。なお、前記特許文献1には、撥水層に利用する高分子として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂(熱可塑性樹脂)を利用することは具体的に開示されているものの、それ以外の樹脂(例えば熱硬化性樹脂等)を原料として利用することまでは特に記載されていない。また、前記特許文献1の実施例においては、撥水層に利用する高分子としてPTFEを利用して造粒体を製造した後、基材表面に造粒体を塗工し、1.0MPa、1分、室温の条件下でプレスを行った後に、350℃といった高温での熱処理(焼成)を行った例が具体的に開示されているものの、他の温度で熱処理を行った具体例までは特に開示されていない。前記特許文献1の実施例で実際に採用されているような従来の方法は、その樹脂の種類等から製造時に比較的高温の加熱を行う方法であり、エネルギー効率の点において改良の余地があった。
【0005】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高いエネルギー効率で燃料電池用撥水層を効率よく製造することが可能であるとともに、ガス拡散層用の多孔質基材の表面上に撥水層を形成した場合に、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層の製造方法;その製造方法を採用して効率よく製造することが可能であり、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層;及びその燃料電池用撥水層を備える燃料電池用ガス拡散層;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、燃料電池用撥水層の製造方法を、平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%となるようにして含む混合粉末を利用して、前記混合粉末を乾式成膜法により成膜し、得られた混合粉末層を0.2~50MPaの条件で加圧して圧密化し、圧密化後の前記混合粉末層を、前記熱硬化性樹脂(前記原料の重縮合物である熱硬化性樹脂:耐水性を有する樹脂)の分解温度よりも10~130℃低い温度(より好ましくは50~110℃低い温度)で焼成して、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る方法とすることにより、高いエネルギー効率で撥水層を効率よく製造することが可能となるとともに、ガス拡散層用の多孔質基材の表面上に撥水層を形成した場合に、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0008】
[1]平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末を、乾式成膜法により成膜することにより混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を0.2~50MPaの条件で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密工程後の前記混合粉末層を、前記熱硬化性樹脂の分解温度よりも10~130℃低い温度で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含む、燃料電池用撥水層の製造方法。
【0009】
[2]前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、及び、アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂である、[1]に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【0010】
[3]前記熱硬化性樹脂がメラミン樹脂である、[1]又は[2]に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【0011】
[4]前記成膜工程において、被成膜基材として、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料(前記熱硬化性樹脂の原料の少なくとも1種)および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材を用いて、前記被成膜基材の表面上に前記混合粉末を成膜する、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の燃料電池用撥水層の製造方法。
【0012】
[5]平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末の焼成物からなる層であり、
前記層は、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる層であり、かつ、
前記混合接合体中の前記耐水性樹脂(C)の含有量が前記粉末(A)及び前記耐水性樹脂(C)の総量に対して13~57質量%である、燃料電池用撥水層。
【0013】
[6]多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された[5]に記載の燃料電池用撥水層とを備える、燃料電池用ガス拡散層。
【0014】
[7]前記多孔質基材が、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材である、[6]に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いエネルギー効率で燃料電池用撥水層を効率よく製造することが可能であるとともに、ガス拡散層用の多孔質基材の表面上に撥水層を形成した場合に、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層の製造方法;その製造方法を採用して効率よく製造することが可能であり、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層;及びその燃料電池用撥水層を備える燃料電池用ガス拡散層;を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例及び比較例で利用した親水性カーボン粒子と疎水性カーボン粒子をそれぞれ水(メタノール濃度:0質量%)に加えた際の分散状態を示す写真である。
【
図2】実施例1~11及び比較例1~3で製造された撥水層のカーボンペーパーに対する接合強度を示すグラフである。
【
図4】実施例で用いたメラミン樹脂の樹脂原料粒子の粉末のTG曲線及びDTA曲線を示すグラフである。
【
図5】実施例7で製造された撥水層の電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【
図6】実施例7で製造された撥水層の電子顕微鏡写真(SEM-EDS像)である。
【
図7】実施例7において撥水層の製造に利用した混合粉末の電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【
図8】実施例7において撥水層の製造に利用した混合粉末の電子顕微鏡写真(SEM-EDS像)である。
【
図9】90度剥離強度試験後の実施例8で得られた積層体の剥離面の写真である。
【
図10】90度剥離強度試験後の実施例13で得られた積層体の剥離面の写真である。
【
図11】実施例16で撥水層の製造に利用した樹脂原料粒子の粉末と同一の粉末のTG曲線及びDTA曲線を示すグラフである。
【
図12】実施例12~15、実施例16~22及び比較例5で製造された撥水層のカーボンペーパーに対する接合強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
〔燃料電池用撥水層の製造方法〕
本発明の燃料電池用撥水層の製造方法は、
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末を、乾式成膜法により成膜することにより混合粉末層を形成する成膜工程と、
前記混合粉末層を0.2~50MPaの条件で加圧して圧密化する圧密工程と、
前記圧密工程後の前記混合粉末層を、前記熱硬化性樹脂の分解温度よりも10~130℃低い温度(より好ましくは50~110℃低い温度)で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る撥水層形成工程と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、各工程を分けて説明する。
【0019】
〈成膜工程〉
本発明にかかる成膜工程は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末を乾式成膜法により成膜することにより混合粉末層を形成する工程である。
【0020】
前記粉末(A)は平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末である。このように、前記粉末(A)は親水性カーボン粒子により構成されてなるものである。このようなカーボン粒子に関して「親水性」や「疎水性」等の特性は、いわゆるMethanol Wettability法(落合満、エアロゾル研究、1990年発行、vol.5、P.32-P.43参照)により評価することができ、具体的には、水及びメタノール濃度の異なるメタノール水溶液を準備し、水及び各水溶液にカーボン粒子を静かに加えた場合に、メタノール水溶液中にカーボン粒子が分散する際のメタノール濃度(カーボン粒子が分散する水溶液のうち、メタノール濃度が最も低いものにおけるメタノールの濃度:水の場合は0となる)を求めて、そのようなメタノール濃度が2質量%未満である場合には、そのカーボン粒子は「親水性」であると評価し、他方、前記メタノール濃度が2質量%以上である場合には(メタノール濃度が2質量%以上のメタノール水溶液に対してカーボン粒子を加えた場合に、メタノール水溶液中にカーボン粒子が分散する場合)には、そのカーボン粒子は「疎水性」であると評価する。このような親水性カーボン粒子は、例えば、カーボン粒子に公知の親水性処理(オープンコロナ放電処理、水蒸気酸化処理、酸処理等)を施すことにより得ることができる。
【0021】
前記粉末(A)は、前記親水性カーボン粒子よりなる粉末であって、平均粒子径が0.002~50μm(より好ましくは0.002~30μm、更に好ましくは0.002~10μm、特に好ましくは0.002~1μm)のものである。このような平均粒子径を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、ガス拡散性の向上を図ることができ、発電性能を向上させることが可能となり、他方、前記平均粒子径を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して電子抵抗の低減を図ることができ、発電性能を向上させることが可能となる。なお、このような平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)としては、市販品を利用してもよい。また、このような粉末(A)の平均粒子径は粒度分布測定装置や、電子顕微鏡により無作為に選択した500個の粒子の粒子径の大きさを測定し、その平均を求めることで測定できる。また、このような粉末(A)の平均粒子径としては、その一次粒子の平均粒子径を採用する。
【0022】
また、前記粉末(B)は、前記熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末である。すなわち、前記粉末(B)は、熱硬化性樹脂の原料の粒子(樹脂原料粒子)により構成されてなるものである。このように、本発明では、高価でかつ溶融温度等が高温なPTFEのようなフッ素系樹脂(熱可塑性樹脂)の粉末を利用することなく、撥水層の製造時に利用する材料として熱硬化性樹脂の原料の粒子からなる粉末を利用するため、熱処理時の焼成温度の低温化を図ることができ、これによりエネルギー効率よく撥水層を形成することを可能とし、製造コストの低減を図ることも可能とする。
【0023】
このような粉末(B)を構成する樹脂原料粒子を形成する熱硬化性樹脂の原料は、少なくとも、その原料を重縮合(熱処理により硬化)させた後に得られる熱硬化性樹脂に、耐水性を発現させることが可能なものであればよく(言い換えれば、耐水性を有する熱硬化性樹脂の原料となるものであればよく)、特に制限されず、焼成後に形成させる耐水性を有する熱硬化性樹脂(耐水性樹脂)のモノマー又はそのモノマーの低縮合物等、耐水性を有する熱硬化性樹脂の原料となる成分(熱硬化性樹脂の前駆体)を適宜利用できる。なお、熱硬化性樹脂の原料は、最終的に撥水層を形成した際に熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)を形成できるものであればよく、その原料自体が縮合体の状態となっているものであっても利用できる(その縮合体を更に重縮合(熱処理により硬化)させて、耐水性樹脂(C)とすることが可能なものであれば利用できる)。このように、「熱硬化性樹脂の原料」は、最終的に形成させる耐水性樹脂(C)を構成する熱硬化性樹脂の原材料として利用できるものであれば、その形態は特に制限されず、モノマーや、そのモノマーの(低)縮合物等を適宜利用できる。すなわち、「熱硬化性樹脂の原料」は、いわゆるモノマーに限定されるものではなく、縮合体(重合体:樹脂)の状態のものであっても、官能基等を有し、更に重縮合して耐水性樹脂(C)を形成することが可能なものであれば、適宜利用できる。このような熱硬化性樹脂の原料(熱硬化性樹脂の前駆体)としては、重合温度を比較的低温とすることができかつカーボン粒子との親和性が高いといった観点から、フェノール樹脂の原料、シリコーン樹脂の原料、ポリウレタン樹脂の原料、尿素樹脂の原料、メラミン樹脂の原料、アクリル樹脂の原料が好ましい。すなわち、熱硬化性樹脂の原料は、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、及び、アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂の原料であることが好ましい。なお、このような熱硬化性樹脂の原料としては、重縮合(熱硬化)させた後に耐水性を発現させることが可能となるような公知のもの(各樹脂のモノマー又はその低縮合物:市販品であってもよい)を適宜利用できる。このような熱硬化性樹脂の原料からなる樹脂原料粒子は1種を単独で利用してもよく、あるいは、2種以上を組み合わせて利用してもよい。
【0024】
また、前記熱硬化性樹脂の原料としては、重合温度が低温であっても十分に重合を進行させることができかつカーボン粒子との親和性が高いことに加えて、コスト面でも高い効果が得られるといった観点から、メラミン樹脂の原料(モノマー又はその低縮合物)を利用することが好ましい。また、このようなメラミン樹脂の原料としては、重合温度の低温化、カーボン粒子との高い親和性、コスト面、並びに、作業性の点でより高い効果が得られるといった観点から、メチロールメラミン、メチロールメラミンの低縮合物(メラミンとホルムアルデヒドの初期縮合物)、メチル化メラミンを利用することが好ましく、メチロールメラミンの低縮合物(メラミンとホルムアルデヒドの初期縮合物)がより好ましい。また、このようなメチロールメラミンの低縮合物としては、エーテル化工程等を適宜施して得られるものを利用してもよく、中でも、アミノ基、イミノ基、メチロール基、および、アルキルエーテル基を有するメチロールメラミンの低縮合物を好適に利用できる。このようなメチロールメラミンの低縮合物(メラミン樹脂)としては、市販品(例えば、日本カーバイド工業株式会社製の商品名「ニカレジン S260」等)を利用してもよい。なお、このようなメチロールメラミンの低縮合物よりなる樹脂原料粒子を重縮合することにより、メチロールメラミンの重縮合体であるメラミン樹脂からなる耐水性の樹脂を形成することが可能である。また、前記メチル化メラミン(メラミン樹脂)としては、アミノ基、イミノ基、メチロール基、および、アルキルエーテル基を有するメチル化メラミン(メラミン樹脂)を好適に利用できる。このようなアミノ基、イミノ基、メチロール基等の官能基を有する熱硬化性樹脂の原料を利用することで、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等を有する他の成分(アミノ基、アミド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等と反応する官能基を有する他の熱硬化性樹脂の材料)と容易に反応させて硬化させることが可能である。また、このようなメチル化メラミンとしては、市販品(例えば、日本カーバイド工業株式会社製の商品名「ニカラック MX035」等)を利用してもよい。なお、市販品を利用する場合において、市販品が液状のものである場合、乾燥させた後に粉砕する等することにより粒子状として利用してもよい。また、前記熱硬化性樹脂の原料は、利用する原料(市販品等)が液状である場合に、例えば、前記粉末(A)を構成する親水性カーボン粒子の表面に前記原料を担持(付着)させて乾燥し、カーボン粒子の表面を前記熱硬化性樹脂の原料で被覆(複合化)することにより得られた、樹脂原料被覆カーボン粒子(カーボン及び樹脂原料の複合化粒子)を前記樹脂原料粒子として利用してもよい(なお、本明細書中、「樹脂原料被覆カーボン粒子」に関して、「被覆」という表現は、粒子の全体を前記原料で覆いかぶせた状態の他、便宜上、表面の一部のみを前記原料で覆う状態(担持した状態)、すなわち、表面の一部に前記原料を担持(付着)させた状態も含む文言として利用する)。ここにおいて、樹脂原料被覆カーボン粒子中に存在するカーボン粒子(樹脂原料で被覆されている被被覆物)は、本発明においては、前記粉末(A)を構成するカーボン粒子とみなす。
【0025】
また、前記熱硬化性樹脂の原料を2種以上を混合して利用する場合、耐候性、耐食性、耐汚染性、耐薬品性などの耐久性向上の観点から、メラミン樹脂の原料(モノマー又はその低縮合物の他、メチル化メラミン等)と、アクリル樹脂の原料(更に重縮合可能なもの)とを組み合わせて利用することが好ましい。このように、前記熱硬化性樹脂の原料としては、メラミン樹脂の原料を含むものがより好ましく、メラミン樹脂の原料のみからなるもの、または、メラミン樹脂の原料とアクリル樹脂の原料とを組み合わせたものを好適に利用できる。なお、前記熱硬化性樹脂の原料を2種以上混合して利用する場合、一方の樹脂原料をその樹脂原料単独の粒子からなる粉末とし、もう一方の樹脂原料を前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末として、これらを混合することにより利用してもよい。
【0026】
前記粉末(B)は、前記樹脂原料粒子よりなる粉末であって、平均粒子径が0.01~50μm(より好ましくは0.01~40μm、更に好ましくは0.01~30μm)のものである。前記平均粒子径を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、前記混合粉末中の樹脂の分散性がより高くなり、最終的に得られる撥水層において、耐水性樹脂とカーボン粒子とをより均一に分散混合された状態とすることができ、これにより燃料電池の発電性能を向上させることが可能となる。なお、このような粉末(B)の平均粒子径は粒度分布測定装置や、電子顕微鏡により無作為に選択した500個の粒子の粒子径の大きさを測定し、その平均を求めることで測定できる。なお、このような粉末(B)の平均粒子径としては、その粉末を構成する前記樹脂原料粒子の一次粒子の平均粒子径を採用する。また、前記樹脂原料被覆カーボン粒子(前記粉末(A)を構成する親水性カーボン粒子の表面に前記熱硬化性樹脂の原料を担持して乾燥し、カーボン粒子の表面を前記熱硬化性樹脂の原料で被覆することにより得られる粒子)の粉末を利用する場合には、その樹脂原料被覆カーボン粒子の平均粒子径を、その樹脂原料の一次粒子の平均粒子径であるものと擬制する。このように、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末を利用する場合、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の平均粒子径を、親水性カーボン粒子の表面に被覆した前記熱硬化性樹脂の原料の粒子の平均一次粒子径として採用する。なお、その樹脂原料被覆カーボン粒子中に含まれるカーボン粒子の平均粒子径は、そのまま粉末(A)を構成する親水性カーボン粒子の粉末の平均粒子径として採用できる。
【0027】
また、前記成膜工程に利用する前記混合粉末は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とを含むものである。なお、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末を利用する場合には、その樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末を含むことによって、結果的に、カーボン粒子の粉末(樹脂原料被覆カーボン粒子中に存在するカーボン粒子の粉末)と、前記熱硬化性樹脂の原料の粉末とを系中に含むこととなるため、本発明において、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末を含む場合には、それにより粉末(A)と、粉末(B)とを含むものとみなす。すなわち、本発明においては、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末を利用する場合、その樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末自体を、粉末(A)と粉末(B)とを含む混合粉末であるものとみなして、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末が、粉末(A)と粉末(B)とを含むという条件を満たすもの(混合粉末)であると判断する。
【0028】
このような混合粉末において、前記粉末(B)の含有量は、前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%(より好ましくは15~50質量%、更に好ましくは25~35質量%)である。このような粉末(B)の含有量を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、多孔質基材に対する撥水層の接合強度を向上させることが可能となり、他方、前記粉末(B)の含有量を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、接合強度をより高いものとすることが可能となるとともに、撥水層の電子抵抗が燃料電池用途への利用が困難となるほど増大することがなく、より利便性の高い撥水層を形成することが可能となる。なお、前記粉末(B)の含有量は、粉末(B)が、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末と、他の種類の樹脂原料粒子とからなる場合、前記樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末中の樹脂のみの質量と、他の種類の樹脂原料粒子の粉末の質量との合計量を、粉末(B)の質量とみなして算出する。
【0029】
また、前記混合粉末は、必要に応じて、前記粉末(A)及び前記粉末(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、焼成後に形成される撥水層の機能を阻害しないものであればよく、特に制限されないが、例えば、前記粉末(B)中の粒子を構成する前記熱硬化性樹脂の硬化を促進させるための成分等を挙げることができる。
【0030】
さらに、前記混合粉末に含有させる前記粉末(A)と前記粉末(B)に関して、前記粉末(A)の平均粒子径に対する前記粉末(B)の平均粒子径の比率([前記粉末(B)の平均粒子径]/[前記粉末(A)の平均粒子径])は、0.01/0.002~50/50であることが好ましく、0.01/0.002~40/30であることがより好ましい。このような比率を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、多孔質基材に対する撥水層の接合強度がより向上する傾向にあり、他方、前記比率を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、多孔質基材に対する撥水層の接合強度がより向上する傾向にある。
【0031】
また、このような混合粉末は、前記粉末(A)と前記粉末(B)とを、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%となるように混合(撹拌)することにより得ることが可能である。なお、このような混合(撹拌)の方法は特に制限されず、例えば、市販の撹拌機を利用し、撹拌条件を適宜設定して混合する等、前記粉末(A)と前記粉末(B)とを十分に均一に混合することが可能となるような、公知の方法を適宜採用できる。また、混合粉末に、必要に応じて他の成分を含有させる場合には、その成分を前記混合時に併せて混合すればよい。なお、このような混合粉末を製造するための他の方法としては、特に制限されず、例えば、前記粉末(A)と、粒子状ではない前記熱硬化性樹脂の原料(例えば、塊状、膜状等)とを、粉砕機としても利用可能な市販の撹拌機等で、前記混合粉末の条件を満たすように、混合(撹拌)、粉砕して形成する方法を採用してもよい。また、このような混合粉末を製造するための他の方法としては、例えば、前記粉末(A)を、液状の前記熱硬化性樹脂の原料中に添加して分散させた後に乾燥させて、粉末(A)を構成するカーボン粒子の表面を前記原料で被覆して、樹脂原料被覆カーボン粒子を得た後、そこに、前記原料の種類とは異なる他の種類の熱硬化性樹脂の原料からなる樹脂原料粒子を添加し、混合することにより混合粉末を製造する方法を採用してもよい。
【0032】
また、前記成膜工程においては、前記混合粉末を乾式成膜法により成膜して、混合粉末からなる層(混合粉末層)を形成する。このように、本発明においては、乾式成膜法により前記混合粉末を成膜する。このような乾式成膜法としては特に制限されず、公知の方法(例えば、静電スクリーン印刷、静電塗装法等)を適宜利用することができる。また、このような乾式成膜法としては、静電スクリーン印刷による製膜方法を採用することが好ましく、中でも、所望の粒径を有する混合粉末をより容易に塗工(成膜)でき、しかも塗工後に得られる混合粉末層の厚みを所望の厚みに、より容易に調整できることから、塗膜を形成する被成膜基材(ガス拡散層用の多孔質基材等)の上方にスクリーンを配置し、前記スクリーン上に前記混合粉末を配置した後、押圧部材(スキージ等)を用いて前記混合粉末を前記スクリーンに擦り込むことにより、前記混合粉末を塗工して成膜する静電スクリーン印刷法を採用することが望ましい。なお、前記乾式成膜法として前記静電スクリーン印刷を採用する場合、スクリーン(メッシュ)の種類や電圧の大きさ等の各種の成膜条件は、製造する撥水層の設計等に応じて適宜設定すればよく、公知の静電スクリーン印刷の方法で採用している条件を適宜採用することができる。
【0033】
また、このような成膜工程において、前記混合粉末を成膜する被成膜基材としては、目的とする用途に応じて適宜選択でき、特に制限されないが、最終的に撥水層を形成した後に、得られる基材と撥水層との積層体をガス拡散層として利用する場合には、その基材の種類をガス拡散層用の多孔質基材とすることが好ましい。また、このような多孔質基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等を挙げることができる。
【0034】
また、このような成膜工程においては、前記混合粉末を成膜する前記被成膜基材として、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料(前記熱硬化性樹脂の原料の少なくとも1種)および/または前記熱硬化性樹脂(前記原料の重縮合体)を構成する樹脂の少なくとも1種を、表面に有する多孔質基材を用いることが好ましい。このように、成膜工程において、被成膜基材として「前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材」を用いて、前記被成膜基材の表面上に前記混合粉末を成膜することで、最終的に得られる撥水層と、多孔質基材(少なくとも表面に前記熱硬化性樹脂を有する基材)との間の接合強度を飛躍的に向上させることが可能となる。このような多孔質基材が表面に有する「前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料(前記熱硬化性樹脂の原料の少なくとも1種)」としては、前記粉末(B)を構成する樹脂原料粒子を形成する「熱硬化性樹脂の原料」として説明したものと同じものを適宜利用でき、例えば、多孔質基材と撥水層との間の接合強度をより高くすることが可能であるため、前記粉末(B)として利用する熱硬化性樹脂の原料のうちの少なくとも1種の種類と、多孔質基材が有する熱硬化性樹脂の原料の少なくとも1種の種類を同じものとすることを好適な例として挙げることができる。また、前記被成膜基材が前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料(熱硬化性樹里の原料)を表面に有する多孔質基材である場合、その熱硬化性樹脂の原料は、メチロールメラミン、メチロールメラミンの低縮合物(メラミンとホルムアルデヒドの初期縮合物)であることが好ましく、メチロールメラミンの低縮合物(メラミンとホルムアルデヒドの初期縮合物)であることがより好ましい。また、前記多孔質基材が表面に有する「熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種」としては、前記原料の重縮合体である熱硬化樹脂(後述の「耐水性樹脂(C)」として説明する熱硬化性樹脂)と同じもの又は前記原料の重縮合体が複合樹脂である場合にはその複合樹脂を構成する樹脂のうちの少なくとも1種と同じものを適宜利用でき、例えば、多孔質基材と撥水層との間の接合強度をより高くすることが可能であるため、撥水層中の耐水性樹脂(C)を構成する熱硬化性樹脂の少なくとも1種の樹脂の種類と、多孔質基材が有する熱硬化性樹脂の少なくとも1種の樹脂の種類とを同じものとすることを好適な例として挙げることができる(例えば、撥水層中の耐水性樹脂(C)がメラミン樹脂からなる場合や、撥水層中の耐水性樹脂(C)がメラミン樹脂とアクリル樹脂の複合物からなる場合、多孔質基材が表面に有する熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種をメラミン樹脂とすること(多孔質基材が表面に有する熱硬化性樹脂をメラミン樹脂とすること)を好適な例として挙げることができる)。また、前記被成膜基材が前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材である場合、その表面に有する前記熱硬化性樹脂は、メラミン樹脂であることが特に好ましい。
【0035】
また、前記被成膜基材が、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材(例えばカーボンペーパー)である場合、後述の撥水層形成工程における焼成により、前記原料も同時に重縮合されて前記熱硬化性樹脂となるため、最終的に得られる基材(焼成後の被成膜基材)は、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種(例えば、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料の重縮合物)を表面に有する多孔質基材となる。また、前記被成膜基材が前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材(例えばカーボンペーパー)である場合、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の含有量(合計量)は、前記焼成後の被成膜基材(焼成後に得られる「前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材」)中の前記熱硬化性樹脂の量が13~23質量%(より好ましくは13~21質量%)となるような量とすることが好ましい。このような熱硬化性樹脂の原料および前記熱硬化性樹脂の含有量(合計量)が前記下限未満では撥水層と多孔性基材との界面における接合強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると電子抵抗が高くなる傾向にある。
【0036】
また、このような前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材を製造するための方法は特に制限されず、多孔質基材の少なくとも表面に、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料(前記熱硬化性樹脂の原料の少なくとも1種)および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を付着させることが可能な方法を適宜利用でき、例えば、前記熱硬化性樹脂の原料を付着させて多孔質基材を得る場合には、前記粉末(B)において説明した「熱硬化性樹脂の原料」と同じ種類の原料を含む水溶液を準備し、そこに多孔質基材を浸漬した後、真空乾燥することにより、多孔質基材の少なくとも表面に前記熱硬化性樹脂の原料を付着させて、前記熱硬化性樹脂の原料を少なくとも表面に有する多孔質基材を製造する方法等を採用することができる。このように水溶液を利用して、そこに多孔質基材を浸漬する工程を施して多孔質基材に原料をコート(塗布)した場合には、多孔質基材に原料の塗膜を形成することができる。また、このようにして、前記熱硬化性樹脂の原料を少なくとも表面に有する多孔性基材を製造した場合において、その多孔質基材に対して、混合粉末層をドライ成膜した後、後述の撥水層形成工程を施して混合粉末層を焼成することで、前記多孔性基材が表面に有する原料も同時に焼成(重縮合)され、これにより撥水層と多孔質基材との界面における接合強度を更に向上させることが可能となるものと推察される。なお、被成膜基材として、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材を製造する場合、前記熱硬化性樹脂の原料の少なくとも1種を付着させた後に、前記原料が重縮合するように焼成すればよく、この場合の焼成温度としては、特に制限されるものではないが、後述の撥水層形成工程で説明する焼成温度と同様の温度を採用できる。また、最終的に得られる基材(焼成後の被成膜基材)中の前記熱硬化性樹脂の含有量が13~23質量%となるようにして多孔質基材を製造する場合には、例えば、縮合等により蒸散する成分の量等も考慮して、多孔質基材に付着させる重縮合前の原料の量を15~25質量%とすることが好ましい。
【0037】
また、前記成膜工程においては、得られる混合粉末層の膜厚は5~100μm(より好ましくは5~50μm)であることが好ましい。このような混合粉末層の膜厚を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、最終的に形成される撥水層の排水性がより向上し、燃料電池の発電性能がより向上する傾向にあり、他方、前記膜厚を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、最終的に形成される撥水層の電子抵抗の低減の点でより高い効果が得られ、これにより燃料電池の発電性能がより向上する傾向にある。
【0038】
〈圧密工程〉
本発明にかかる圧密工程は、前記混合粉末層を0.2~50MPaの条件で加圧して圧密化する工程である。
【0039】
このような圧密工程において、前記混合粉末層を加圧する際の圧力条件は0.2~50MPaとする必要がある。このような加圧時の圧力を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、より効率よく圧密化を図ることが可能となるとともにカーボン粒子同士の接触性を向上させて電子抵抗をより低くすることが可能となり、所望の設計の構造体を製造することが可能となり、他方、前記圧力を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、多孔質基材を構成するカーボン繊維の破壊を十分に防止でき、圧密工程中に構造体の特性を十分に維持させることができるため、撥水層と多孔質基材との間の接合強度および燃料電池の発電性能を共により向上させることが可能となる。また、同様の観点でより高い効果が得られることから、前記混合粉末層を加圧する際の圧力条件は0.3~30MPaであることがより好ましく、0.4~10MPaであることが更に好ましく、1.5~10MPaであることが特に好ましい。
【0040】
また、前記混合粉末層を加圧する際の加圧時間は10~600秒間(より好ましくは20~300秒間)とすることが好ましい。このような加圧時間を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較してカーボン粒子同士の接触性がより向上し、電子抵抗をより低くすることが可能となり、撥水層と多孔質基材との間の接合強度および燃料電池の発電性能が共により向上する傾向にあり、他方、前記加圧時間を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、多孔質基材を構成するカーボン繊維の破壊を十分に防止でき、圧密工程中に構造体の特性を十分に維持させることができるため、撥水層と多孔質基材との間の接合強度および燃料電池の発電性能が共により向上する傾向にある。
【0041】
また、前記混合粉末層を加圧する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、平板プレス、ロールプレス等の加圧方法(プレス方法)を採用してもよい。また、前記混合粉末層を加圧する際の温度条件は特に制限されるものではないが、エネルギー効率の観点から、常温(室温)とすることが好ましい。なお、前記混合粉末層を加圧する方法として、加熱しながら加圧(プレス)を行う、ホットプレスを採用してもよい。
【0042】
また、圧密工程においては、前述のような加圧により前記混合粉末層を圧密化するが、圧密化後の混合粉末層の厚みや空隙率等の条件は、最終的に得られる撥水層の特性が所望のものとなるように(例えば、BET比表面積が5m2/g~50m2/gとなるようにする等、所望の特性が得られるように)、目的の設計や粉末(A)及び(B)の種類等に応じて適宜調整すればよい。そのため、所望の設計に応じて、加圧条件を0.2~50MPaの範囲内から選択し、加圧時間等を適宜調整して、圧密工程を施せばよい。
【0043】
〈撥水層形成工程〉
本発明にかかる撥水層形成工程は、前記圧密工程後の前記混合粉末層を、前記熱硬化性樹脂(前記原料の重縮合体:前記粉末(B)中の樹脂原料粒子を構成する原料(熱硬化性樹脂の原料)を重縮合して得られる熱硬化性樹脂)の分解温度よりも10~130℃低い温度(好ましくは20~130℃、より好ましくは30~130℃低い温度)で焼成することにより、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる燃料電池用の撥水層を得る工程である。
【0044】
このように、本発明においては、前記圧密工程後の前記混合粉末層を、前記耐水性樹脂(C)の分解温度(前記原料の重縮合体である前記熱硬化性樹脂の分解温度)よりも10~130℃低い温度(好ましくは20~130℃、より好ましくは30~130℃低い温度)で焼成する(このような混合粉末層を焼成する工程を、以下、場合により単に「焼成工程」と称する)。なお、このような焼成温度は、前記粉末(B)中の樹脂原料粒子を構成する原料の種類や、被成膜基材を利用する場合には、その基材の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、前記被成膜基材が、少なくとも表面に熱硬化性樹脂の原料および/または前記熱硬化性樹脂を有する多孔質基材である場合(より好ましくは、少なくとも表面に熱硬化性樹脂の原料を有する多孔質基材である場合)には、前記温度範囲内の比較的高温の温度域(例えば、前記分解温度よりも10~70℃低い温度域)において、より接合強度を高くすることができる傾向にあることから、前記多孔質基材が、少なくとも表面に熱硬化性樹脂の原料および/または前記熱硬化性樹脂を有する多孔質基材である場合であって、用途に応じて接合強度をより高度なものとして利用する必要がある場合等には、比較的高温の温度域を選択すればよい。また、ある一定の接合強度を確保すればよい場合には、比較的低温の温度域を選択することで、焼成工程にかかるエネルギーを低減することができ、エネルギー効率をより向上させることができる。一方、接合強度の向上とエネルギー効率の向上をよりバランスよく達成できるといった観点からは、前記耐水性樹脂(C)の分解温度よりも20~130℃(より好ましくは30~130℃)低い温度を焼成温度として採用することが好ましい。このような焼成温度を前記下限(前記熱硬化性樹脂の分解温度よりも130℃低い温度)以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して重縮合反応が十分に進行して接合強度が向上する。他方、前記焼成温度を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、得られる撥水層に基材に対する高度な接合強度を付与することが可能となる。また、前記焼成温度の前記上限を熱硬化性樹脂の分解温度よりも50℃低い温度以下とした場合には、前記上限を超えた場合と比較して、カーボン粒子や樹脂の揮発、分解等による撥水層の重量減少を伴う構造崩壊をより確実に防止でき、得られる撥水層に基材に対するより高度な接合強度を付与すること(構造崩壊に伴う接合強度の低下を防止して、高度な水準の接合強度を維持すること)ができる。また、同様の観点で更に高い効果が得られることから、焼成温度は、熱硬化性樹脂の分解温度よりも50~110℃(更に好ましくは50~90℃、特に好ましくは50~70℃)低い温度とすることがより好ましい。
【0045】
なお、ここにいう「耐水性樹脂(C)の分解温度」に関して、耐水性樹脂(C)が1種の樹脂のみを利用している場合においては、公知の熱分析装置(例えば、株式会社リガク製の商品名「Thermoplus TG8120」等)を用いて、昇温速度:1℃/minの条件にて、熱重量変化の測定を行ってTG曲線を求め、その後、得られたTG曲線から、樹脂原料が十分に重縮合(反応)したであろう温度以上(例えば、後述の
図4(実施例で用いたメラミン樹脂の樹脂原料粒子の粉末のTG曲線及びDTA曲線を示すグラフ)を参照すると、
図4においては、重縮合に関与する水分子に相当する約12.5%の重量減少が起こった温度以上)の温度領域において、急激な重量減少の後に緩やかな重量減少に変化する変曲点の温度を分解温度として採用し、また、耐水性樹脂(C)が2種以上の樹脂の複合物(複合樹脂)又は2種以上の樹脂の共重合物である場合(複数種の樹脂の原料の混合粉末を利用して得られたものである場合)には、耐水性樹脂(C)を構成する複数種の樹脂の原料の混合粉末に対して、公知の熱分析装置(例えば、株式会社リガク製の商品名「Thermoplus TG8120」等)を用いて、昇温速度:1℃/minの条件にて、熱重量変化の測定を行ってTG曲線を求め、その後、得られたTG曲線から、前記原料の混合物が十分に重縮合(反応)したであろう温度以上の温度領域において、急激な重量減少の後に緩やかな重量減少に変化する変曲点を求めて、その変曲点における温度を分解温度として採用する。
【0046】
また、前記焼成工程において、被成膜基材の表面上に成膜された前記混合粉末層を焼成する場合において、被成膜基材が「熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材」である場合には、幅広い温度域において、撥水層と多孔質基材との間の接合強度をより高度なものとすることができることから、焼成温度を耐水性樹脂(C)の分解温度よりも10~130℃(より好ましくは40~120℃、更に好ましくは50~110℃)とすることが好ましく、他方、被成膜基材が「熱硬化性樹脂の原料および/または熱硬化性樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材」以外の多孔質基材(より好ましくは、少なくとも表面に熱可塑性樹脂(PTFE等)を有する多孔質基材)である場合には、焼成温度を、耐水性樹脂(C)の分解温度よりも50~110℃(より好ましくは50~90℃、更に好ましくは50~70℃)低い温度とすることが好ましい。
【0047】
なお、このような焼成により得られる前記原料の重縮合体である熱硬化樹脂(耐水性樹脂(C))としては、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、及び、アクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、メラミン樹脂、または、メラミン樹脂とアクリル樹脂との複合樹脂がより好ましく、中でも、製造時のエネルギー効率の点でより高い効果が得られるといった観点からは、メラミン樹脂が特に好ましく、接合強度の点でより高い効果が得られるといった観点からは、メラミン樹脂とアクリル樹脂との複合樹脂が特に好ましい。また、前記焼成工程において、室温から前記焼成温度まで加熱する際の昇温速度は、特に制限されるものではないが、前記粉末(B)を構成する樹脂原料粒子の形状をより十分に維持することが可能となるといった観点からは、1~100℃/分(より好ましくは1~50℃/分)であることが好ましい。すなわち、このような昇温速度で焼成温度まで昇温した場合、原料が一度溶融するものであっても焼成時に反応をより効率よく進行させて固化することができ、これにより前記粉末(B)中の粒子の形状をより十分に維持しながら、重縮合体を形成できる傾向にある。
【0048】
また、前記焼成工程における焼成時間は、前記混合粉末層中の前記原料の重縮合反応を十分に進行させて、得られる重縮合体に耐水性を付与することが可能となるように、焼成後に形成する熱硬化性樹脂の種類や、設定された焼成温度等に応じて適宜調整すればよく、特に制限されないが、1~120分間とすることが好ましく、1~60分間とすることがより好ましい。このような焼成時間を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して重縮合反応が十分に進行するため接合強度がより向上する傾向にあり、他方、前記焼成時間を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して撥水層製造時のエネルギー効率をより向上させることが可能となる。
【0049】
また、このような焼成工程において、焼成時のガス雰囲気は特に制限されず、酸素を含んだ酸化性ガス雰囲気であっても、窒素等の不活性ガス雰囲気であってもよいが、コストの低減や作業性の向上の観点からは、空気とすることがより好ましい。また、このような焼成工程において、焼成時の圧力条件は特に制限されないが、コストの低減や作業性の向上の観点からは、大気圧(常圧)とすることが好ましい。なお、このような焼成に利用する加熱手段としては、特に制限されず、公知の加熱手段を適宜利用でき、例えば、熱風炉、電気炉等の加熱炉を利用してもよい。
【0050】
このような焼成工程を施すことで、前記圧密工程後の前記混合粉末層が焼成され、前記混合粉末層中の前記樹脂原料粒子中の熱硬化性樹脂の原料が重縮合されて、前記粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体よりなる層(耐水性が付与された層)を形成することが可能となる。また、前記樹脂原料被覆カーボン粒子を利用した場合、そもそも前記混合粉末層の状態でカーボン粒子と樹脂原料とが複合化されているものと言えることから、前記焼成工程を程して得られる撥水層は、前記粉末(A)と前記耐水性樹脂(C)とが互いに接合された混合接合体からなる層となることは明らかである。なお、このようにして形成される混合接合体からなる層は、耐水性樹脂を含むため、その層には耐水性が付与される。
【0051】
このように、前記焼成工程を施して得られる撥水層は、前記粉末(A)と前記耐水性樹脂(C)との混合接合体より形成されてなる層である。ここにおいて、撥水層中の前記粉末(A)の構成粒子の平均粒子径は、材料として利用した混合粉末中の粉末(A)と同様のものとなる。また、前記耐水性樹脂(C)は、その製造に利用する前記粉末(B)を構成する各粒子中の前記原料(熱硬化性樹脂原料)を焼成して重縮合することにより得られる熱硬化性樹脂からなるものであり、原料の種類によっては、その重縮合工程において一度溶融してから再度固化する場合においても、圧密化後の前記混合接合体中の前記粉末(A)の分散状態を維持したまま重縮合させることで、その重縮合前後で基本的に前記粉末(A)と粉末(B)の分散状態に大きな変化を与えることなく重合させた状態とすることも可能である。このように樹脂の分散状態に大きな変化を与えることなく重合させた場合には、一部の粒子が近接する粒子と結着等しても、その分散状態や、平均粒子径の大きさに大きな変化はなく、基本的にその形状が維持される傾向にある。このように、撥水層中の前記耐水性樹脂(C)が原料の粒子形状や分散状態を十分に維持している場合には、その平均粒子径は、前記混合粉末中の前記粉末(B)の平均粒子径とほぼ同等の大きさとすることができる。そのため、撥水層中の前記耐水性樹脂(C)が原料の粒子形状や分散状態を十分に維持している場合(粒子状のものである場合)には、前記粉末(C)の平均粒子径は、0.01~50μm(より好ましくは0.01~40μm、更に好ましくは0.01~30μm)であることが好ましい。前記平均粒子径を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して前記粉末(C)の分散性がより向上して、得られる撥水層を用いた燃料電池の発電性能をより向上させることが可能となる。なお、このような粉末(C)の平均粒子径は、粒度分布測定装置や、電子顕微鏡により無作為に選択した500個の粒子の粒子径の大きさを測定し、その平均を求めることで測定できる。
【0052】
このようにして、焼成工程を施して得られる撥水層は、前記粉末(A)と前記耐水性樹脂(C)とが互いに接合された混合接合体により形成されたものとなる。なお、このようにして撥水層を形成するため、本発明は、粉末(B)を構成する熱硬化性樹脂の原料を、結着性樹脂の原料として利用して撥水層を形成する方法であるとも言える。
【0053】
このようにして撥水層を形成することで、例えば、成膜時に基材としてガス拡散層用の多孔質基材を利用した場合(基材上に混合粉末層を形成して、最終的に基材上に撥水層を形成せしめた場合)には、得られた基材と撥水層との積層体を、そのまま燃料電池用のガス拡散層として利用できる。なお、前記成膜工程において被成膜基材を利用している場合において、その被成膜基材が「熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料を表面に有する多孔質基材」である場合、前記焼成工程において、その被成膜基材が表面に有する原料も同時に重縮合されて、焼成後の基材が、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材となる。そのため、被成膜基材として「前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の原料および/または前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材」を用いている場合には、焼成後に得られる積層体(基材と撥水層との積層体)中の基材は「熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材(例えば、表面上の樹脂を1種のものとした場合には、その1種の熱硬化性樹脂(例えばメラミン樹脂)を少なくとも表面に有する多孔質基材)」となることとなる。
【0054】
また、得られる撥水層の膜厚は特に制限されないが、5~100μm(より好ましくは5~50μm)とすることが好ましい。このような撥水層の膜厚を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して、触媒層と基材の間に撥水層をより確実に挟ませることができるため撥水層の接合強度がより向上する傾向にあるとともに、電子抵抗が低減することにより発電性能がより向上する傾向にある。他方、前記膜厚を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して電子抵抗がより低減されることにより発電性能がより向上する傾向にある。
【0055】
また、本発明の燃料電池用撥水層の製造方法においては、得られる撥水層を、後述の本発明の燃料電池用撥水層と同様のものとすることができ、前記混合粉末の焼成物からなる層である、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と前記耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる層であり、かつ、前記混合接合体中の前記耐水性樹脂(C)の含有量が前記粉末(A)及び(C)の総量に対して13~57質量%である燃料電池用撥水層とすることが可能である。そのため、本発明の燃料電池用撥水層の製造方法は、以下に説明する本発明の燃料電池用撥水層を製造するための方法として好適に採用することができる。
【0056】
〔燃料電池用撥水層〕
本発明の燃料電池用撥水層は、
平均粒子径が0.002~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)とを含み、かつ、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%である混合粉末の焼成物からなる層であり、
前記層は、前記親水性カーボン粒子の粉末(A)と、前記原料の重縮合体である熱硬化性樹脂からなる耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる層であり、かつ、
前記混合接合体中の前記耐水性樹脂(C)の含有量が前記粉末(A)及び前記耐水性樹脂(C)の総量に対して13~57質量%であることを特徴とするものである。
【0057】
本発明において燃料電池用撥水層を構成する混合接合体中の成分である「平均粒子径が0.02~50μmの親水性カーボン粒子の粉末(A)」、「熱硬化性樹脂の原料からなる平均粒子径が0.01~50μmの樹脂原料粒子の粉末(B)」、「混合粉末」、「耐水性樹脂(C)」、及び、「混合接合体」は、それぞれ前述の「本発明の燃料電池用撥水層の製造方法」において説明したものと同様のものである(その好適な条件等も同様である)。
【0058】
また、本発明においては、燃料電池用撥水層が前記混合粉末の焼成物からなる層である。そのため、結果的に、前記混合接合体からなる層となる。また、かかる混合接合体中において、前記粉末(A)及び前記耐水性樹脂(C)は互いに接合された状態となっている。なお、このような混合粉末の焼成物や、前記混合接合体における成分の接合状態は、上記「本発明の燃料電池用撥水層の製造方法」を採用することで効率よく形成できる。そのため、本発明の燃料電池用撥水層は、上記「本発明の燃料電池用撥水層の製造方法」により得られるものであることが好ましい(例えば、混合粉末の焼成物は、上記「本発明の燃料電池用撥水層の製造方法」において説明した焼成工程を施して得られるものであることが好ましい)。
【0059】
また、本発明にかかる燃料電池用撥水層(混合接合体の層)において、前記混合接合体中の前記耐水性樹脂(C)の含有量は前記粉末(A)及び前記耐水性樹脂(C)の総量に対して13~57質量%(より好ましくは13~47質量%、更に好ましくは22~31質量%)である。このような耐水性樹脂(C)の含有量を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較して撥水層の各種基材等への接合強度を向上させることが可能となり、他方、前記耐水性樹脂(C)の含有量を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して接合強度をより高いものとすることが可能となるとともに、撥水層の電子抵抗が燃料電池用途への利用が困難となるほど増大することがなく、より利便性の高い撥水層を形成することが可能となる。なお、前記「本発明の燃料電池用撥水層の製造方法」を採用した場合、その撥水層の材料となる混合粉末として、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%のものを利用するが、このような混合粉末を利用することで前記焼成工程において前記熱硬化性樹脂を重縮合して硬化する際に、縮合反応により水などの化合物の脱離を伴いながら反応が進行するため、前記熱硬化性樹脂の種類に応じて、その焼成工程により得られる撥水層において、前記混合接合体中の前記粉末(C)の含有量を容易に13~57質量%に調整することが可能である。
【0060】
このような燃料電池用撥水層の膜厚は、特に制限されないが、前述の「本発明の燃料電池用撥水層の製造方法」において説明した撥水層の膜厚と同様の膜厚とすることが好ましい。また、このような燃料電池用撥水層は、BET比表面積が5m2/g~100m2/g(より好ましくは10~50m2/g)のものであることが好ましい。このようなBET比表面積を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較してガス拡散性が向上し、発電性能をより向上させることが可能となり、他方、前記BET比表面積を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して、構造体の強度が上がり接合強度をより向上させることが可能となる。
【0061】
また、このような燃料電池用撥水層は、細孔容量が0.01~0.2cm2/g(より好ましくは0.01~0.1cm2/g)のものが好ましい。このような細孔容量を前記下限以上とすることで、前記下限未満の場合と比較してガス拡散性が向上し発電性能をより向上させることが可能となり、他方、前記細孔容量を前記上限以下とすることで、前記上限を超えた場合と比較して構造体の強度がより高くなり接合強度をより向上させることが可能となる。
【0062】
なお、燃料電池用撥水層のBET比表面積及び細孔容量は以下の方法により求めることができる。すなわち、先ず、測定対象である燃料電池用撥水層を液体窒素温度(-196℃)に冷却して窒素ガスを所定の圧力で導入し、定容量式ガス吸着法又は重量法によりその平衡圧における窒素吸着量を求める。次に、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧における窒素吸着量を求める。次いで、得られた窒素吸着量を平衡圧に対してプロットすることにより窒素吸着等温線を得る。その後、得られた窒素吸着等温線からBET等温吸着式により燃料電池用ガス拡散層の比表面積を求める。また、前記窒素吸着等温線のP(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.95における窒素吸着量から算出することで、燃料電池用ガス拡散層の細孔容量を求める。なお、測定対象である燃料電池用撥水層が、多孔質基材等に積層させた状態である場合には、その積層体から撥水層を削り出して測定試料として用い、BET比表面積及び細孔容量を測定してもよい。
【0063】
以上、本発明の燃料電池用撥水層について説明したが、以下、そのような本発明の燃料電池用撥水層を備える本発明の燃料電池用ガス拡散層について説明する。
【0064】
〔燃料電池用ガス拡散層〕
本発明の燃料電池用ガス拡散層は、多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された前記本発明の燃料電池用撥水層とを備えることを特徴とするものである。
【0065】
このような多孔質基材としては、燃料電池用ガス拡散層に利用することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等を挙げることができる。このような多孔質基材としては、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能であることから、前記熱硬化性樹脂(前記本発明の燃料電池用撥水層において説明した熱硬化性樹脂と同様のもの)を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材(例えば、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有するカーボンペーパー等)であることが好ましい。このような熱硬化性樹脂としては、前記耐水性樹脂(C)として説明した「熱硬化性樹脂」と同じものを適宜利用でき、例えば、多孔質基材と撥水層との間の接合強度をより高くすることが可能であるため、前記撥水層を構成する耐水性樹脂(C)の熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種の種類と、多孔質基材が有する熱硬化性樹脂の少なくとも1種の種類を同じものとすることが好適な例として挙げられる(例えば、耐水性樹脂(C)がメラミン樹脂からなる場合や、撥水層中の耐水性樹脂(C)がメラミン樹脂とアクリル樹脂の複合物からなる場合、多孔質基材が表面に有する熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種をメラミン樹脂とすること(多孔質基材が表面に有する熱硬化性樹脂をメラミン樹脂とすること)を好適な例として挙げることができる)。また、前記多孔質基材が、前記熱硬化性樹脂構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材である場合、前記熱硬化性樹脂は、メラミン樹脂であることが特に好ましい。すなわち、前記多孔質基材としては、メラミン樹脂を表面に有する多孔質基材が特に好ましい。また、前記被成膜基材が前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材(例えば、前記撥水層を構成する耐水性樹脂(C)の熱硬化性樹脂がメラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂である場合に、その複合樹脂を構成する樹脂のうちの1種である、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパー等)である場合、前記熱硬化性樹脂の含有量は、前記熱硬化性樹脂を構成する樹脂の少なくとも1種を表面に有する多孔質基材の総量(基材の全量)に対して、13~23質量%(より好ましくは12~21質量%)であることが好ましい。
【0066】
このような多孔質基材の厚み等は特に制限されず、燃料電池において採用することが可能な範囲でその厚みを適宜変更すればよく、例えば、100~300μmとしてもよい。また、前記多孔質基材の表面上に積層させる「燃料電池用撥水層」は、前記本発明の燃料電池用撥水層である(その好適な条件(例えば膜厚等の条件)等も同様のものである)。このような多孔質基材の表面上に積層させる「燃料電池用撥水層」は、前述の本発明の燃料電池用撥水層の製造方法を採用して、前記多孔質基材上に前記成膜工程を施すことで容易に形成することができる。
【0067】
また、本発明の燃料電池用ガス拡散層は、多孔質基材と、前記多孔質基材の表面上に積層された前記本発明の燃料電池用撥水層とを備えるものであればよく、それ以外の構成(例えば、BET比表面積の条件等)は特に制限されない。このような本発明の燃料電池用ガス拡散層は、例えば、燃料電池の電極に利用するガス拡散層に好適に応用できる。
【実施例0068】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
〔各実施例等で利用した成分について〕
以下、各実施例で利用した、カーボン粒子(以下、場合により単に「CB粒子」と表記する)の種類及び原料樹脂の種類について説明する。なお、各実施例で利用したCB粒子の種類等を表1に示す。
【0070】
〈CB粒子について〉
・親水性カーボン粒子(西村黒鉛株式会社製、商品名:親水性黒鉛 MC2、平均一次粒子径:46nm(0.046μm)、表1~2及び表4~7では、かかるCB粒子の種類を単に「親水性」と表記する)
・疎水性カーボン粒子(デンカ社製、商品名:デンカブラック Li400、平均一次粒子径:48nm(0.048μm)、表1~2及び表4~7では、かかるCB粒子の種類を単に「疎水性」と表記する)。
【0071】
なお、前記CB粒子の「親水性」又は「疎水性」といった特性は、いわゆるMethanol Wettability法(落合満、エアロゾル研究、1990年発行、vol.5、P.32-P.43参照)により評価した。具体的には、メタノール濃度の異なるメタノール水溶液又は水(メタノール濃度:0質量%)を準備し、その水又は各水溶液に各実施例で用いるCB粒子を静かに加えた場合のCB粒子の分散の有無を確認して、CB粒子が分散する際のメタノール濃度を求めること(水又は水溶液に対する分散性を確認すること)により評価した(水面又は溶液面に浮いているCB粒子を完全に濡らすのに必要なメタノール濃度(質量%)を尺度として用いて、親水性又は疎水性といった特性を評価した。なお、CB粒子が分散する際のメタノール濃度の数値が低いほど親水性が高いものと判断できる)。評価に際しては、CB粒子が分散した水溶液中のメタノール濃度が、2質量%未満である場合(Methanol Wettability:<2)に、そのCB粒子を「親水性」の粒子と評価し、他方、メタノール濃度が2質量%未満のメタノール水溶液に対してCB粒子が分散せず、2質量%以上のメタノール水溶液に対してCB粒子が分散する場合(Methanol Wettability:2≦)には、そのCB粒子は「疎水性」の粒子と評価した。このような評価方法を採用したところ、前述の「親水性カーボン粒子」はメタノール濃度が0質量%の水に分散した。他方、前述の「疎水性カーボン粒子」はメタノール濃度が2質量%未満のメタノール水溶液には分散せず、メタノール濃度が2質量%のメタノール水溶液に分散した。かかる評価の結果として、前記親水性カーボン粒子と前記疎水性カーボン粒子をそれぞれ水(メタノール濃度:0質量%)に加えた際の状態を示す写真を
図1に示す。
図1の写真の左側が親水性カーボン粒子を水に加えた場合の写真であり、これにより親水性カーボン粒子が水に分散した状態となっていることが確認できる。これに対して、
図1の写真の右側が疎水性カーボン粒子を水に加えた場合の写真であり、この場合には、粒子が水に浮いて水中に全く分散していないことが確認できる。
【0072】
〈樹脂原料粒子について〉
・メチロールメラミンの低縮合物(メラミン樹脂の原料(アミノ基、イミノ基、メチロール基、および、アルキルエーテル基を有するメラミン樹脂)、日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニカレジン S260」、平均一次粒子径:20μm、重縮合後の樹脂(メラミン樹脂)の分解温度:280℃)
・PTFE(喜多村社製、商品名:KTL-500F、平均一次粒子径:0.2μm、分解温度:500~600℃)
・メチル化メラミン(撥水層を構成させる熱硬化性樹脂の原料(アミノ基、イミノ基、メチロール基、および、アルキルエーテル基を有するメラミン樹脂)、日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニカラック MX035」、実施例16~22においては前記商品(水溶液)にCB粒子(親水性)を分散させた後、乾燥させて、CB粒子にメチル化メラミンを被覆した粒子(樹脂原料被覆カーボン粒子)を利用。)
・アクリル樹脂(撥水層を構成させる熱硬化性樹脂の原料、日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニカゾール RX1033」、実施例16~22においては前記商品の乾燥物(一次粒子の集合体)を撹拌機にて粉砕して利用、各実施例において得られたアクリル樹脂の平均一次粒子径:0.1μm、平均二次粒子径:30μm以下)。
【0073】
〔ガス拡散層用の積層体の多孔質基材として「PTFEを表面に有するカーボンペーパー」を用いた場合の実施例及びその比較例について〕
(実施例1~11及び比較例1~2)
表1に示す種類のCB粒子と、表1に示す種類の樹脂原料粒子(メチロールメラミンの低縮合物)とを、表1に示す配合比(質量基準の配合比)にて、撹拌機(テスコム電機株式会社製、商品名:OML-2)で20,000回転、5分の条件で混合して、混合粉末を得た。次いで、得られた混合粉末を、多孔質基材であるカーボンペーパー(PTFEを表面に有するカーボンペーパー(以下、便宜上、場合により「PTFE処理品」と称する)、ケミックス製、商品名:TGP-H-060H、PTFE:5質量%、膜厚:約200μm程度)の表面上に、静電スクリーン印刷法(乾式成膜法)により塗工して成膜し、混合粉末の層を形成した。なお、このような静電スクリーン印刷法としては、静電スクリーン印刷装置(ベルク工業製、商品名:T-1)と、スクリーンメッシュ(ベルク工業社製、商品名:静電スクリーン版)とを利用し、カーボンペーパーとスクリーンメッシュとの間に16kVの電圧を印加させた状態で、スクリーンメッシュ上に混合粉末を載せてスキージで擦ることでメッシュからカーボンペーパー上に前記混合粉末を落下させて成膜する方法を採用した。
【0074】
次いで、前記カーボンペーパー(PTFEを表面に有するカーボンペーパー)の表面上に積層させた前記混合粉末の層を、平板プレス機を利用して3MPa、1分間の条件で加圧して圧密化した。次いで、このような圧密化後の混合粉末の層を、電気炉を利用して、圧力:常圧、加熱温度:表1に示す温度、時間:30分間の条件で加熱して焼成(なお、加熱温度までは、室温から毎分10℃の昇温速度で昇温した)することにより、カーボンペーパー上にCB粒子と、樹脂原料粒子を構成する樹脂原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合体である熱硬化性樹脂(メラミン樹脂)とからなる撥水層を形成し、カーボンペーパーと撥水層との積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)を得た。なお、撥水層中のカーボン粒子と、樹脂原料粒子の焼成物(樹脂原料の重縮合体よりなる樹脂)の質量基準の含有比を表2に示す(なお、表2において、焼成後の樹脂の含有量としては、後述の熱重量測定の結果を利用して、CB粒子及び原料樹脂の仕込比(配合比)から算出して求められる含有比を採用した)。また、形成された撥水層はいずれも、前述の焼成条件(加熱温度及び加熱時間)から、樹脂原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合反応が十分に進行して得られた、メラミン樹脂(耐水性の樹脂)を含有してなるものであることが明らかであることから、耐水性を有する層となっていることは明白である。
【0075】
(比較例3)
前述の混合粉末の代わりに、表1に示す種類のカーボン粒子(CB粒子)と、表1に示す種類の樹脂原料粒子(PTFE)とを、撥水層中のカーボン粒子と焼成後の樹脂(PTFEの焼成物)との含有比(カーボン粒子/焼成後の樹脂粒子)が85/15となるようにして、撹拌機(テスコム電機株式会社製、商品名:OML-2)を用いて、20,000回転、5分の条件にて混合して準備した混合粉末を利用した以外は、前述の「実施例1~11及び比較例1~2」に記載している方法と同様の方法を採用して、カーボンペーパー上に撥水層を形成し、カーボンペーパー(PTFEを表面に有するカーボンペーパー)と撥水層との積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)を得た。
【0076】
【0077】
[実施例1~11及び比較例1~3で得られた積層体の特性の評価]
<接合強度試験:カーボンペーパーと撥水層との間の接合強度の測定>
測定試料として各実施例で得られたカーボンペーパーと撥水層との積層体を使用し、電動計測スタンド(株式会社イマダ製、商品名:MX2-500N-L-FA)を用いて、撥水層の90度剥離強度試験を行い、カーボンペーパーに対する撥水層の接合強度(単位:N/m)を測定した。得られた結果を表2及び
図2に示す。
【0078】
【0079】
表1~2及び
図2に示す結果からも明らかなように、PTFEを表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として用いた実施例1~11で得られた積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)においては、焼成時の加熱温度(焼成温度)が210℃以下と比較的低温の温度でありながら、多孔質基材に対する撥水層の接合強度がいずれも1.38N/m以上となっていた。これに対して、前記特許文献1でも利用している樹脂原料粒子であるPTFEを利用した比較例3では、前記特許文献1の実施例で採用しているような焼成温度である350℃といった高温の焼成温度を利用しているにもかかわらず、多孔質基材に対する撥水層の接合強度が0.62N/mとなっていた。このように、PTFEを表面に有するカーボンペーパーを用いた系において結果を対比すると、表1及び表2等に示す結果から、各実施例で採用した条件で撥水層を製造した場合には、PTFEを利用して350℃といった高温の焼成温度で焼成して撥水層を製造した場合(比較例3)と対比して、少なくとも2倍以上(例えば、実施例3と対比すると約6倍)の接合強度が得られることが確認された。このような結果から、本発明によれば、焼成工程において加熱温度として比較的低温を採用でき、焼成温度(熱処理温度)の低温化を図ることが可能であることから(例えば、実施例3と比較例3との対比では150℃も低温化することが可能となっている)、より高いエネルギー効率で撥水層を効率よく製造することが可能であることが分かるとともに、ガス拡散層用の多孔質基材(PTFEを表面に有するカーボンペーパー)の表面上に撥水層を形成した場合に、前記特許文献1に記載されているような従来技術と比較して、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能であることが分かった。
【0080】
また、PTFEを表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として用いた実施例1~11の中で結果を比較すると、原料の仕込量(仕込比)が同じ実施例同士を対比した場合に、焼成温度によって接合強度が変化していることが確認でき、樹脂原料粒子としてメチロールメラミンの低縮合物(メラミン樹脂の原料)を採用した場合には、実施例3及び7のように、焼成温度として200℃を採用した時に接合強度が最大となることも分かった。なお、表1~2及び
図2に示す結果から焼成温度と接合温度の関係を考慮すれば、多孔質基材としてPTFEを表面に有するカーボンペーパー(ケミックス製、商品名:TGP-H-060H)を用いた系(実施例1~11)において、焼成温度を、メラミン樹脂の分解温度(280℃)よりも50~110℃低い温度の範囲内にした場合には、十分に高い接合強度がより確実に得られるものと理解できる。
【0081】
また、表1~2及び
図2に示す結果からも明らかなように、実施例1~11と比較例1とを対比すると樹脂原料粒子の含有量が、CB粒子と樹脂原料粒子の合計量に対して15~60質量%の範囲にある場合に、十分に高度な水準の接合強度が得られることも分かる。なお、焼成温度が200℃である実施例同士(実施例3、7及び9~11)の比較から、樹脂原料粒子の含有量が、CB粒子と樹脂原料粒子の合計量に対して30質量%となっている場合(実施例7)に、接合強度の値が極めて高い値となっており、混合粉末中の樹脂原料粒子の含有量を30質量%近傍とした場合に、より高い効果が得られることも分かった。
【0082】
また、表1~2及び
図2に示す結果から、カーボン粒子の種類に着目すると、疎水性カーボン粒子を利用した場合(比較例2)には、接合強度が0となっていることから、親水性カーボン粒子を利用することで、得られる撥水層の接合強度がより向上することも分かった。
【0083】
<撥水層のBET比表面積および細孔容量の測定>
実施例3で得られたカーボンペーパーと撥水層との積層体から撥水層のみを削り出して測定試料とし、その測定試料に対して、比表面積・細孔分布測定装置(カンタクローム製、商品名:Autosorb-1)を用いて、液体窒素温度(-196℃)にて、定容量式ガス吸着法により平衡圧における窒素吸着量を求めて、窒素吸着等温線を得た後、その窒素吸着等温線からBET等温吸着式により比表面積を算出するとともに、その窒素吸着等温線のP(吸着平衡圧)/P0(飽和蒸気圧)=0.95における窒素吸着量から細孔容量を算出した。得られた結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
表3に示す結果から、撥水層中のCB粒子間の隙間にある細孔が、原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合体(熱硬化性樹脂:メラミン樹脂)により閉塞していないこと(重縮合体の結着によって閉塞していないこと)が分かった。
【0086】
<樹脂原料粒子に対する考察>
〈樹脂原料粒子の加熱温度による状態変化の観察〉
実施例1で撥水層の製造に利用したメラミン樹脂の樹脂原料粒子と同一の樹脂原料粒子の粉末を用いて、かかる樹脂原料粒子を室温~400℃まで毎分1℃の昇温速度で昇温させながら加熱し、加熱を開始する際(室温)及び100℃、200℃、300℃、400℃の各熱温度(焼成温度)に達した際の粉末の外観を写真に撮影し、形状、色について観察を行った、得られた写真を
図3に示す。
【0087】
〈樹脂原料粒子の熱重量測定(TG)及び示差熱分析(DTA)〉
実施例1で撥水層の製造に利用した樹脂原料粒子(メラミン樹脂の原料)と同一の樹脂原料粒子を用いて、かかる樹脂原料粒子を構成するメラミン樹脂の原料の熱重量変化の測定を、昇温速度:1℃/minの条件にて熱分析装置(株式会社リガク製、商品名:Thermoplus TG8120)により行い、TG曲線を求めた。また、前記熱分析装置を利用して、同様の条件で前記メラミン樹脂の原料の示差熱分析(DTA)を行い、DTA曲線を求めた。熱重量変化の測定結果(TG曲線)及び示差熱分析の結果(DTA曲線)を併せて
図4に示す。
【0088】
〈樹脂原料粒子の測定結果について〉
図3に示す結果から、上記実施例において撥水層が高度な接合強度を示した焼成温度である200℃と同じ温度で焼成した場合に、樹脂原料粒子の外観写真から発泡した痕跡が確認でき、重縮合により脱水が起きているものと考えられる。なお、
図3に示すように、用いた樹脂原料粒子は100℃で一度溶融していることも分かる。
【0089】
また、
図4に示す結果から、TG曲線(
図4)において約250℃から急激な減量が生じていることが確認できるが、昇温速度:1℃/minの条件にて加熱した場合には、約250℃以上の領域において熱分解が生じているものと理解できる。一方で、昇温速度:1℃/minの条件にて加熱した場合、試料となる樹脂原料粒子の粉末の急激な減量が生じる約250℃の温度までの加熱により、十分に重縮合反応が進行したものと考えることができる。そこで、TG曲線(
図4)において、縮合反応が進行し始める温度(100℃)の位置から急激な減量が生じる温度(250℃)より前の位置の間の質量の減少量から、反応により減少する質量の割合(減量率)を求めたところ、反応による減量率は約12.5質量%となっていた。このような樹脂原料(メチロールメラミンの低縮合物)の質量の減少は、
図3及び
図4に示す結果を併せ考慮すると、重縮合により生じる水分子に由来するものと考えられ、重縮合により生じる水2分子分に相当するものであると思料される。このような観点から、上述の減量率が、各実施例における焼成工程において樹脂原料粒子から減少する質量の割合と等価になるものとみなして計算することで、各実施例等で製造した撥水層中に含まれる焼成後の樹脂の含有量を求めることができる。そして、前記実施例においては、樹脂原料粒子の仕込み量(15~60質量%)と、
図4に示すTG曲線から求められる前記減量率とに基いて、表2に記載した焼成後の樹脂の含有量(13~57質量%)を求めている。なお、
図4に示すTG曲線では、縮合反応が進行し始める温度(100℃)よりも低い温度領域においても質量の減少が確認されているが、これは大気中にて吸湿した水分に由来するものであると考えられ、縮合反応に関与しない水分子の脱離分であると考えられることから、その量は焼成後の樹脂の質量の算出のために考慮しなくても焼成前後の質量の変化に大きな影響はないものと考えられるため、前記減量率を利用して焼成後の樹脂の量を求めている。
【0090】
また、表2を参照すると、多孔質基材としてPTFEを表面に有するカーボンペーパーを用いた系においては、200℃で焼成することにより撥水層を製造した場合(実施例3)と比較して、210℃や220℃で焼成することにより撥水層を製造した場合(実施例4、5)に、撥水層の接合強度が低下しているが、これは、後述の実施例12~15の結果等も併せ勘案すると、多孔質基材の種類と、撥水層の一部においてメラミン樹脂構造の熱分解が生じたことと、に起因するものと推察される。なお、
図4に示すTG曲線では210℃や220℃の温度において熱分解に由来するような質量変化は認められないが、これは、かかるTG曲線が昇温速度が1℃/分で加熱した場合のものとして求められたものであることに起因するものと考えられる。このような熱分解と温度との関係について検討すると、表2に記載している実施例4及び5の撥水層は、昇温速度が10℃/分でかつ保持温度を210~220℃として30分間加熱するような条件で焼成し形成されたものであり、
図4に示すTG曲線を求めた際の実験とは加熱条件(熱履歴)が異なるため、
図4では約250℃の位置において熱分解に由来するであろう質量の減少が確認されているが、実際の焼成条件では長時間の加熱等により、210℃や220℃の温度においても一部に熱分解が生じるものと考えられる。一方で、焼成温度を220℃としている場合(実施例5)であっても、PTFEを利用して350℃といった高温の焼成温度で焼成して撥水層を製造した場合(比較例3)と対比して、少なくとも2倍以上の接合強度が得られている。このような点を考慮すると、多孔質基材としてPTFEを表面に有するカーボンペーパーを用いた系において、焼成時の加熱温度の上限は、比較例1~3等とも比較して、多孔質基材と撥水層との間により確実により高度な接合強度が得られるであろうという観点と、前記特許文献1の実施例で実際に採用されているような350℃といった高温を採用して焼成した場合と対比して十分にエネルギー効率の向上が図れるという観点とを併せ勘案すれば、原料樹脂(熱硬化性樹脂:メラミン樹脂)の分解温度(280℃)よりも50℃低い温度が好ましい温度であると考えられる。
【0091】
<撥水層のSEMによる測定>
撥水層中の焼成後の樹脂(メラミン樹脂)の分散状態を確認するために、実施例7で得られた積層体の撥水層の表面の状態を、走査電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテク製、商品名:Regulus8230)を用いて測定した。すなわち、測定装置として前記SEMを用いて、加速電圧3kVの条件で、前記撥水層(実施例7)の表面のSEM像を求めるとともに、元素検出器(EDS、Bruker製、商品名:QUANTAXFlatQUAD)を用いて、前記SEM像を求めた箇所についてSEM-EDS像(元素マッピング像)を求めた。また、参照のために、実施例7で準備した混合粉末(成膜前の状態のもの)のSEM像及びSEM-EDS像を同様の条件で併せて求めた。撥水層(実施例7)の表面のSEM像を
図5に示し、撥水層(実施例7)の表面のSEM-EDS像を
図6に示す。また、混合粉末(成膜前のもの:実施例7)のSEM像を
図7に示し、SEM-EDS像を
図8に示す。
【0092】
図5に示すSEM像と、
図6に示すEDSマッピングの結果から、
図5に示すSEM像において白く見える箇所が、メラミン樹脂(熱硬化性樹脂:樹脂原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合体)により構成されていることが確認された(これは前記樹脂原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合体に含まれるN元素のマップを重ね合わせた像(
図6)において、N元素の存在する部位(カラー図面ではメラミン樹脂(熱硬化性樹脂)に含まれるN元素に相当する部位がオレンジ色となる)と、
図5に示すSEM像において白く見える箇所とが重なることから確認された)。このような
図5及び
図6に示す結果から、実施例7で製造された撥水層において、前記熱硬化性樹脂の原料の重縮合体がその層の全体に分散していることが分かった。なお、
図5及び
図6において、メラミン樹脂(熱硬化性樹脂)が塊状となっているところも存在していることが確認されるが、そのような撥水層中のメラミン樹脂(熱硬化性樹脂)の分散状態は、
図7及び
図8に示す結果から、成膜前の混合粉末の状態において既に塊状で存在する樹脂原料粒子が確認できるため、混合粉末中の樹脂原料粒子の分散状態に起因して形成されたものであることが分かった。このような結果から、撥水層が、CB粒子と、樹脂原料粒子の焼成後に得られるメラミン樹脂とが十分に分散した状態で接合した接合体により形成されていることが確認された。なお、
図5~8に示す結果(図に示す混合粉末中の樹脂原料粒子とメラミン樹脂(熱硬化性樹脂)の分散状態)から、焼成後の樹脂は粒子形状を有し、その粒径は基本的に混合粉末中の樹脂原料粒子の粒径と同等であるものと認識でき、焼成前後で形状や平均粒子径に大きな変化がないことが分かる。
【0093】
このような実施例1~11及び比較例1~3で得られた積層体の特性の評価結果(積層体中の撥水層の特性の評価結果)等から、多孔質基材としてPTFEを表面に有するカーボンペーパーを用いた場合に、親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる樹脂原料粒子の粉末(B)とを、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%となるようにして含む混合粉末を、前記多孔質基材に乾式成膜法により成膜した後、圧密化し、次いで、前記熱硬化性樹脂原料の重縮合体(焼成後に形成する熱硬化性樹脂)の分解温度よりも50~110℃低い温度で焼成することにより、親水性カーボン粒子の粉末(A)と耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる撥水層を効率よく形成できることが確認された。また、そのようにしてPTFEを表面に有するカーボンペーパーからなる多孔質基材の表面上に撥水層を形成した場合には、得られた撥水層が多孔質基材に対する接合強度に優れたものとなることも確認された。このように、PTFEを表面に有するカーボンペーパーからなる多孔質基材を用いる各実施例で採用しているような方法では、200℃近傍(180~220℃)の比較的低温の焼成温度で撥水層が形成されていることから、本発明によれば、撥水層の製造時のエネルギー効率を十分に高いものとすることが可能であることが分かった。
【0094】
〔ガス拡散層用の積層体の多孔質基材として「メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパー」を用いた場合の実施例及びその比較例について〕
(実施例12~15)
〈メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー(多孔質基材)の調製工程〉
先ず、メチロールメラミンの低縮合物(メラミン樹脂の原料、日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニカレジン S260」、平均粒子径:20μm、分解温度:280℃)を水に溶解せしめて、メチロールメラミンの含有量が30質量%となる水溶液を得た。次いで、前記水溶液中にカーボンペーパー(ケミックス製、商品名:TGP-H-060、PTFE等の樹脂による処理がなされていない製品)を5分間浸漬した後に取り出し、数時間風乾し、真空条件(10Pa以下の圧力)下、25℃の温度条件で12時間静置することにより真空乾燥させて、メラミン樹脂の原料(メチロールメラミンの低縮合物)を表面に有するカーボンペーパー(メラミン樹脂の原料による表面処理品:多孔質基材の総量に対するメラミン樹脂の原料の含有量20質量%)を得た。
【0095】
〈燃料電池のガス拡散層用の積層体の調製工程〉
被成膜基材としての多孔質基材であるカーボンペーパーの種類を、PTFEを表面に有するカーボンペーパー(PTFE処理品、ケミックス製、商品名:TGP-H-060H)から、前記調製工程により得られた「メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー(メラミン樹脂の原料による表面処理品)」に変更し、CB粒子及び樹脂原料粒子の種類及び配合比を表4に示すように変更し、かつ、焼成温度として表4に示す温度を採用した以外は、実施例1と同様にして、カーボンペーパー(メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパー)と撥水層との積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)を得た。
【0096】
なお、実施例12~15で形成された撥水層はいずれも、採用している焼成条件(加熱温度及び加熱時間)から、樹脂原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合反応が十分に進行して得られた、メラミン樹脂(耐水性の樹脂)を含有してなるものであることが明らかであることから、耐水性を有する層となっていることは明白である。また、メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー(被成膜基材)も、前述の焼成条件(加熱温度及び加熱時間)を考慮すれば、その表面に存在するメラミン樹脂の原料(メチロールメラミンの低縮合物)の重縮合反応が十分に進行して、焼成後の多孔質基材(積層体が有する多孔質基材)は、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーとなっていることも明白である。
【0097】
(比較例4)
表4に示す種類の樹脂原料粒子(PTFE)を利用し、かつ、撥水層中のカーボン粒子と焼成後の樹脂(PTFEの焼成物)との含有比(カーボン粒子/焼成後の樹脂粒子)が70/30となるように、CB粒子及び樹脂原料粒子の使用量を変更した以外は、実施例12と同様にして、カーボンペーパー(メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパー)と撥水層との積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)を得た。
【0098】
(比較例5)
撥水層中のカーボン粒子と焼成後の樹脂(PTFEの焼成物)との含有比(カーボン粒子/焼成後の樹脂粒子)が70/30となるように、CB粒子及び樹脂原料粒子の使用量を変更した以外は、比較例3と同様にして、カーボンペーパー(PTFEを表面に有するカーボンペーパー)と撥水層の積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)を得た。
【0099】
【0100】
[実施例12~15及び比較例4~5で得られた積層体の特性の評価]
<接合強度試験:カーボンペーパーと撥水層との間の接合強度の測定>
実施例1~11及び比較例1~3で得られた積層体の特性の評価のために行った「接合強度試験」と同じ試験(90度剥離強度試験)を行い、カーボンペーパーに対する撥水層の接合強度(単位:N/m)を測定した。得られた結果を表5に示す。
【0101】
なお、表5には、参照のために、CB粒子及び樹脂原料粒子の種類及び配合量がいずれも実施例12~15と同じである実施例6~8で得られた積層体の特性も併せて示す。また、表5に各実施例等の「CB粒子/焼成後の樹脂」の値(質量比)を記載しているが、かかる値(質量比)としては、実施例12~13については、その焼成温度を考慮して、便宜上、表2の記載と同様に
図4を参照して反応による樹脂の減量率が実施例12では11.0質量%、実施例13では12.5質量%であるものとみなしてCB粒子及び原料樹脂の仕込比(配合比)から求めた値を採用し、焼成温度が比較的高温(240℃又は260℃)となっている実施例14~15についても、焼成時の熱分解の進行等も考慮して、実施例14では20.0質量%、実施例15では21.0質量%であるものとみなしてCB粒子及び原料樹脂の仕込比(配合比)から求めた値を採用した。なお、
図4に示す焼成温度と樹脂の質量の減少量との関係、表5に示す結果、並びに、CB粒子及び原料樹脂の仕込比(配合比)を考慮すれば、実施例12~15において得られた撥水層は、その層中のCB粒子と焼成後の樹脂の総量に対する焼成後の樹脂の含有量はいずれも13~57質量%の範囲内にあることは明らかである。
【0102】
【0103】
表5に示す結果からも明らかなように、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備える実施例12~15で得られた積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)は、接合強度が17.9N/m以上となっているのに対して、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備えていても、撥水層中の樹脂の種類を従来利用されていたPTFE(熱可塑性樹脂)とした比較例4で得られた積層体では接合強度が1.1N/mとなっていること、更には、従来の製造方法と同様にして焼成温度を350℃とした比較例5で得られた積層体では接合強度が0.62N/mとなっていること、等から、撥水層に利用する樹脂(構成成分としての樹脂)を熱硬化性樹脂であるメラミン樹脂とすることで、接合強度を向上させることが可能となることが分かった。なお、PTFEを表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備える実施例6~8で得られた積層体と比較した場合においても、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備える実施例12~15で得られた積層体により、多孔質基材に対する撥水層の接合強度が飛躍的に向上していることも確認された。このような実施例6~8と、実施例12~15との対比(特に焼成温度が同じ温度である実施例12と実施例6との対比、または、焼成温度が同じ温度である実施例13と実施例8との対比)から、積層体が備える多孔質基材を、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーとすることで、撥水層との間の接合強度を極めて高度なものとすることが可能となることが分かった。なお、PTFEを表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備える実施例6~8においては、焼成温度を220℃とした場合に接合強度が最大となっているのに対して、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備える実施例12~15においては、焼成温度を240℃とした場合に接合強度が最大となっていたことから、製造方法の面では、多孔質基材の種類の違いにより、接合強度が最大となる焼成温度が異なるものとなることも分かった。なお、
図4に示すTG曲線の結果を勘案した場合に250℃以上でメラミン樹脂の分解が進むようにも見受けられるが、被成膜基材としてメラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパーを用いた場合(焼成後の多孔質基材がメラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーとなる場合)には、焼成温度が260℃である場合(実施例15)においても接合強度が30.3N/mとなっており、焼成温度260℃でも非常に高い接合強度が達成されていることから、焼成温度をメラミン樹脂の分解温度(280℃)よりも10℃低い温度とした場合にも、十分に高度な接合強度が得られることは明らかである。なお、メラミン樹脂の分解温度(280℃)よりも10℃低い温度(270℃程度)であっても、従来の製造方法と同様にして焼成温度を350℃とした場合と比較して、80℃も低温化できることから、本発明によれば、製造時のエネルギー効率が十分に向上することが分かる。また、焼成温度が220℃である実施例13においても接合強度が33.7N/mとなっていることを考慮すると、被成膜基材としての多孔質基材として、メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパーを用いた系では、熱硬化性樹脂の分解温度よりも50℃低い温度においても十分に高い水準の接合強度が得られることは明らかである。また、実施例13~14の接合強度の値と、表2に示す結果を併せ考慮すると、エネルギー効率の更なる向上と接合強度の向上をよりバランスよく達成するといった観点からは、焼成温度がより低い温度となるほどエネルギー効率が向上するため、焼成温度を熱硬化性樹脂の分解温度よりも40℃(更に好ましくは50℃)以上低い温度とすることがより好ましいと言える。
【0104】
また、焼成温度が180℃である実施例12においても接合強度が17.9N/mであり、かつ、従来の製法で製造した積層体(比較例3、比較例5)の接合強度が0.62N/m以下であることを考慮すると、焼成温度の下限をメラミン樹脂の分解温度(280℃)よりも130℃(より好ましくは110℃)低い温度とした場合においても、十分に高度な接合強度が得られることは明らかである。
【0105】
<剥離面の確認>
実施例8で得られた積層体及び実施例13で得られた積層体に関して、前述の「90度剥離強度試験」で撥水層を剥離した後に、その剥離面の表面観察を目視にて行い、剥離面の状態を評価した。90度剥離強度試験後の実施例8で得られた積層体の剥離面の写真を
図9に示し、90度剥離強度試験後の実施例13で得られた積層体の剥離面の写真を
図10に示す。
【0106】
図9~10に示す結果からも明らかなように、多孔質基材がPTFEを表面に有するものである場合(実施例8)、その剥離面は主に撥水層と基材の界面となり、剥離が界面で起きていることが分かった。これに対して、被成膜用基材としての多孔質基材の表面に、撥水層に利用した熱硬化性樹脂の原料と同じ原料(メチロールメラミンの低縮合物)を付着させていた場合(実施例13)、得られた積層体の剥離が主に凝集破壊により生じることが剥離面の観察により明らかとなった。このような結果から、被成膜基材として、PTFEを表面に有する多孔質基材の代わりに、撥水層に使用した熱硬化性樹脂の原料と同じ原料(メチロールメラミンの低縮合物)を表面に有する多孔質基材を利用することで、焼成後の多孔質基材の表面に存在する樹脂と撥水層中の樹脂とが溶融する温度が近くなって、撥水層と基材との界面での接合強度をより向上させることができ、これにより剥離強度を更に向上させることができたものと本発明者らは推察する。
【0107】
(実施例16~22)
〈メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー(多孔質基材)の調製工程〉
実施例12~15で採用した「メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー(多孔質基材)の調製工程」と同様の工程を採用して、メラミン樹脂の原料(メチロールメラミンの低縮合物)を表面に有するカーボンペーパー(メラミン樹脂の原料による表面処理品:多孔質基材の総量に対するメラミン樹脂の原料の含有量20質量%:以下、場合により「メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー」と称する)を得た。
【0108】
〈燃料電池のガス拡散層用の積層体の調製工程〉
表6に示す種類のCB粒子(親水性)を、メチル化メラミン(日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニカラック MX035」、無色透明液体、溶媒:水)中に、CB粒子とメチル化メラミンとの固形分換算の質量比(CB粒子/メチル化メラミン)が83/17となるようにして分散させた後、乾燥させることにより、CB粒子の表面にメチル化メラミンを付着(被覆)させて、樹脂原料被覆カーボン粒子(メチル化メラミンでCB粒子を被覆した粒子:メチル化メラミン/CB複合粒子)の粉末を得た。
【0109】
また、別途、市販のアクリル樹脂(日本カーバイド工業株式会社製、商品名「ニカゾール RX1033)を準備し、これを乾燥させて、アクリル樹脂の乾燥物を得た。なお、このようなアクリル樹脂の乾燥物を走査型電子顕微鏡により測定することによりアクリル樹脂の粒子の平均一次粒子径を求めたところ、かかるアクリル樹脂の平均一次粒子径は0.1μmであった。また、アクリル樹脂の乾燥物は、アクリル樹脂の粒子(一次粒子)の集合体としてプラスティック片のような形状となっていた。
【0110】
次いで、前述のようにして得られた樹脂原料被覆カーボン粒子(メチル化メラミン/CB複合粒子)、及び、アクリル樹脂の乾燥物を、CB粒子とメチル化メラミンとアクリル樹脂との固形分換算の質量比(CB粒子/メチル化メラミン/アクリル樹脂)が70/7.5/22.5となるようにして、撹拌機(テスコム電機株式会社製、商品名:OML-2)内に導入し、20,000回転、5分の条件で撹拌することにより、アクリル樹脂の乾燥物を粉砕しながら、樹脂原料被覆カーボン粒子(メチル化メラミン/CB複合粒子)とアクリル樹脂とを混合して、樹脂原料被覆カーボン粒子とアクリル樹脂の粒子との混合粉末(なお、樹脂原料被覆カーボン粒子を、混合粉末が含むメチル化メラミンの粒子であるとみなし、さらに、そこに包含されたCB粒子を、混合粉末が含むCB粒子とみなす。そのため、前記混合粉末は、CB粒子と、メチル化メラミンの粒子と、アクリル樹脂の粒子とを含む混合粉末であるといえる)を得た。すなわち、このような工程により、CB粒子(樹脂原料被覆カーボン粒子中の粒子)と、メチル化メラミンの粒子(被覆状態の粒子)と、アクリル樹脂の粒子とを含む混合粉末を調製した。なお、撹拌後に得られた混合粉末中の樹脂原料被覆カーボン粒子(メチル化メラミン/被覆CB粒子)及びアクリル樹脂の粒子について、後述の静電スクリーン印刷において、目開き:30μmのスクリーンメッシュにて印刷(成膜)できていることから、これらの平均粒子径(アクリル樹脂の粒子については二次粒子径)はそれぞれ30μm以下であることは明らかである。また、樹脂原料被覆カーボン粒子(メチル化メラミン/被覆CB粒子)の平均粒子径は、CB粒子(親水性)の平均一次粒子径が46nmであることを考慮すれば、10nm以上であることも明らかである。そのため、混合粉末中の樹脂原料被覆カーボン粒子の粉末は、平均粒子径が0.01~30μmの粉末となっていることは明らかである(なお、かかる樹脂原料被覆カーボン粒子(複合粒子)の平均粒子径をメチル化メラミン粒子の平均一次粒子径であるものとみなす)。
【0111】
次いで、得られた混合粉末を、メラミン樹脂の原料を表面に有するカーボンペーパー(メラミン樹脂の原料による表面処理品)の表面上に、静電スクリーン印刷法(乾式成膜法)により塗工して成膜し、混合粉末の層を形成した。なお、このような静電スクリーン印刷法としては、静電スクリーン印刷装置(ベルク工業製、商品名:T-1)と、スクリーンメッシュ(ベルク工業社製、商品名:静電スクリーン版、目開き:30μm)とを利用し、カーボンペーパーとスクリーンメッシュとの間に1.75kVの電圧を印加させた状態で、スクリーンメッシュ上に混合粉末を載せてスキージで擦ることでメッシュからカーボンペーパー上に前記混合粉末を落下させて成膜する方法を採用した。
【0112】
次いで、積層させた前記混合粉末の層を、平板プレス機を利用して3MPa、1分間の条件で加圧して圧密化した。次いで、このような圧密化後の混合粉末の層を、電気炉を利用して、圧力:常圧、加熱温度:表6に示す温度、時間:30分間の条件で加熱して焼成(なお、加熱温度までは、室温から毎分10℃の昇温速度で昇温した)することにより、カーボンペーパー上にCB粒子と、樹脂原料粒子を構成する樹脂原料(メチル化メラミン及びアクリル樹脂)の重縮合体である熱硬化性樹脂(メラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂)とを含む撥水層を形成し、カーボンペーパーと撥水層との積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)を得た。なお、形成された撥水層はいずれも、前述の焼成条件(加熱温度及び加熱時間)から、樹脂原料(メチル化メラミンとアクリル樹脂)の重縮合反応が十分に進行して得られた、メラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂(耐水性の樹脂)を含有してなるものであることが明らかであることから、耐水性を有する層となっていることは明白である。なお、実施例20で得られた積層体の撥水層の焼成前後において、その撥水層(及びその前駆体)にSEM-EDS分析を行い、SEM-EDS像(元素マッピング像)を求めて、焼成前後の元素マッピング像において、それぞれC元素(カーボン粒子の構成元素)、O元素(アクリル樹脂の構成元素)、N元素(メラミン樹脂の構成元素)の存在位置を確認したところ、焼成後も焼成前と同様に全体的に各元素が均一に分散していることが分かった。このようなSEM-EDS分析の結果から、形成された撥水層中において、各粒子が均一に分散した状態にあるものと理解できる。
【0113】
【0114】
[実施例16~22で得られた積層体の特性の評価]
〈樹脂原料粒子の熱重量測定(TG)及び示差熱分析(DTA):熱硬化性樹脂の分解温度の測定〉
実施例16で撥水層の製造に利用した樹脂原料粒子(樹脂原料被覆カーボン粒子(メチル化メラミンの粒子であるものと擬制する)及びアクリル樹脂の粒子の混合粒子)と同一の樹脂原料粒子を用いて、かかる樹脂原料粒子を構成する熱硬化性樹脂の原料の熱重量変化の測定を、昇温速度:1℃/minの条件にて熱分析装置(株式会社リガク製、商品名:Thermoplus TG8120)により行い、TG曲線を求めた。また、前記熱分析装置を利用して、同様の条件で樹脂原料粒子の示差熱分析(DTA)を行い、DTA曲線を求めた。熱重量変化の測定結果(TG曲線)及び示差熱分析の結果(DTA曲線)を併せて
図11に示す。
【0115】
図11に示す結果から、TG曲線(
図11)において、290℃の位置に変曲点があることが確認されたことから、メチル化メラミンの粒子(樹脂原料被覆カーボン粒子)及びアクリル樹脂の粒子の混合粒子の焼成物として形成される樹脂(メラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂)の分解温度は290℃であることが分かった。なお、昇温速度:1℃/minの条件にて加熱した場合、290℃となるまでの加熱により、十分に重縮合反応が進行したものと考えることができる。
【0116】
なお、実施例16~22に関して、樹脂原料の仕込み量(30質量%)と、
図11に示すTG曲線から求められる加熱温度と減量率(%)との関係から、焼成後の樹脂の質量を求めて、表7に各実施例等の「CB粒子/焼成後の樹脂」の値(質量比)を示す。ここにおいて、かかる値(質量比)としては、各実施例の焼成温度を考慮して、便宜上、
図11に基いて、反応による樹脂の減量率が、実施例16では2.8質量%、実施例17では3.1質量%、実施例18では3.4質量%、実施例19では3.8質量%、実施例20では4.7質量%、実施例21では5.5質量%、実施例22では7.9質量%であるものとみなして、CB粒子及び原料樹脂の仕込比(配合比)から求めた値を採用した。なお、
図11に示す焼成温度と樹脂の質量の減少量との関係、表7に示す結果、並びに、CB粒子及び原料樹脂の仕込比(配合比)を考慮すれば、実施例16~22において得られた撥水層は、その層中のCB粒子と焼成後の樹脂の総量に対する焼成後の樹脂の含有量はいずれも13~57質量%の範囲内にあることは明らかである。
【0117】
<接合強度試験:カーボンペーパーと撥水層との間の接合強度の測定>
実施例16~22で得られた積層体について、実施例1~11及び比較例1~3で得られた積層体の特性の評価のために行った「接合強度試験」と同じ試験(90度剥離強度試験)を行い、カーボンペーパーに対する撥水層の接合強度(単位:N/m)を測定した。得られた結果を表7及び
図12に示す。なお、表7及び
図12には、参照のために、実施例12~15及び比較例5の結果も併せて示す。
【0118】
【0119】
表7に示す結果からも明らかなように、メラミン樹脂を表面に有するカーボンペーパーを多孔質基材として備え、かつ、撥水層を構成する樹脂の種類がメラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂である実施例16~22で得られた積層体(燃料電池のガス拡散層用の積層体)は、接合強度が17.8N/m以上となっているのに対して、従来の製造方法と同様にして焼成温度を350℃とした比較例5で得られた積層体では接合強度が0.62N/mとなっていること、等から、撥水層に利用する樹脂(構成成分としての樹脂)を熱硬化性樹脂であるメラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂とすることで、接合強度を非常に向上させることが可能となることが分かった。また、表7及び
図12に示す結果から、焼成温度280℃とした場合においても36.5N/mという非常に高い接合強度が達成されていることから、焼成温度をメラミン樹脂とアクリル樹脂の複合樹脂の分解温度(290℃)よりも10℃低い温度とした場合にも、十分に高度な接合強度が得られることは明らかである。なお、前記複合樹脂の分解温度(290℃)よりも10℃低い温度(280℃程度)であっても、従来の製造方法と同様にして焼成温度を350℃とした場合と比較して、60℃も低温化できることから、本発明によれば、製造時のエネルギー効率が十分に向上することが分かる。また、焼成温度が220℃~260℃とした場合(実施例19~21)においては、接合強度が76.9N/m以上となっており、非常に高度な接合強度を達成できることも確認された。さらに、前記複合樹脂の分解温度(290℃)よりも130℃低い温度(160℃)にした場合(実施例16)においても、撥水層の接合強度が17.8N/mとなっており、十分に高い水準の接合強度が得られることが分かった。
【0120】
以上説明したように、表2、表5及び表7に示す積層体の特性の評価結果(積層体中の撥水層の特性の評価結果)から、親水性カーボン粒子の粉末(A)と、熱硬化性樹脂の原料からなる樹脂原料粒子の粉末(B)とを、前記粉末(B)の含有量が前記粉末(A)及び(B)の総量に対して15~60質量%となるようにして含む混合粉末を、前記多孔質基材に乾式成膜法により成膜した後、圧密化し、次いで、前記熱硬化性樹脂原料の重縮合体(焼成後に形成する熱硬化性樹脂)の分解温度よりも10~130℃(好ましくは40~120℃、より好ましくは50~110℃)低い温度で焼成することにより、親水性カーボン粒子の粉末(A)と耐水性樹脂(C)との混合接合体からなる撥水層をエネルギー効率よく形成できることが明らかとなった。また、そのようにして撥水層を形成した場合には、得られた撥水層が多孔質基材に対する接合強度に優れたものとなることも明らかとなった。また、表2及び表5に示す積層体の特性の評価結果(積層体中の撥水層の特性の評価結果)や
図9~10に示す結果から、焼成後の多孔質基材が熱硬化性樹脂を少なくとも表面に有する多孔質基材となるような場合(実施例13等)には、撥水層と多孔質基材との間の接合強度を更に向上させることが可能となることも分かった。
以上説明したように、本発明によれば、高いエネルギー効率で燃料電池用撥水層を効率よく製造することが可能であるとともに、ガス拡散層用の多孔質基材の表面上に撥水層を形成した場合に、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層の製造方法;その製造方法を採用して効率よく製造することが可能であり、撥水層と多孔質基材との接合強度をより高いものとすることが可能な燃料電池用撥水層;及びその燃料電池用撥水層を備える燃料電池用ガス拡散層;を提供することが可能となる。したがって、本発明の燃料電位用撥水層の製造方法は、燃料電池用ガス拡散層に利用する撥水層を製造するための方法等として好適に利用できる。