(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137781
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】搬送補助装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240927BHJP
B62B 5/04 20060101ALI20240927BHJP
A61G 1/02 20060101ALI20240927BHJP
A61G 5/04 20130101ALI20240927BHJP
B62B 3/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B60L15/20 Z
B62B5/04 Z
A61G1/02 705
A61G1/02 706
A61G5/04 701
A61G5/04 703
A61G5/04 707
B62B3/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034715
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2023045917
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大江 洋希
【テーマコード(参考)】
3D050
5H125
【Fターム(参考)】
3D050AA11
3D050BB02
3D050DD03
3D050EE18
3D050JJ01
3D050JJ09
3D050KK14
5H125AA20
5H125AB06
5H125BA07
5H125CB02
5H125DD11
5H125EE02
5H125EE53
(57)【要約】
【課題】機械的な専用部品を用いることなく、搬送を自動的に停止又は減速させる。
【解決手段】搬送補助装置1は、ベッド10に取り付けられる第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと駆動連結された第1及び第2モータ22R,22Lと、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転状態に対応した信号を検出する第1及び第2回転センサSW3,SW4と、コントローラ4と、を備える。コントローラ4は、第1及び第2回転センサSW3,SW4の検出信号に基づいて、ベッド10が惰性走行しているか否かを判定し、ベッド10が惰性走行していると判定した場合には、該惰性走行を制動するように第1及び第2モータ22R,22Lの指令回転数を設定する。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力による対象物の移動をアシストするための搬送補助装置において、
前記対象物に取り付けられるホイールと、
前記ホイールに駆動連結されたモータと、
前記ホイールの回転状態に対応した信号を検出する状態センサと、
前記モータを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記状態センサの検出信号に基づいて、前記対象物が惰性走行しているか否かを判定し、
前記対象物が惰性走行していると判定した場合には、該惰性走行を制動するように前記モータの指令回転数を設定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載された搬送補助装置において、
前記状態センサは、前記ホイールの回転数を検出する回転センサによって構成され、
前記コントローラは、
前記回転センサの検出信号に基づいて、前記回転数の時間変化を推定し、
前記時間変化の絶対値が所定の制動基準値以上であって、かつ前記回転数がゼロに向かって変化している場合に、前記対象物が惰性走行していると判定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項3】
請求項2に記載された搬送補助装置において、
前記コントローラは、
前記回転センサの検出信号に基づいて、前記ホイールが前進しているか或いは後退しているかを判定し、
前記ホイールが前進しかつ該前進を減退させるように前記回転数が変化しているか、又は、前記ホイールが後退しかつ該後退を減退させるように前記回転数が変化している場合に、前記時間変化の絶対値が前記制動基準値以上であることを条件として前記対象物が惰性走行していると判定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項4】
請求項1に記載された搬送補助装置において、
前記ホイールの回転に際して前記モータに流れる誘導電流を検出する電流センサを備え、
前記コントローラは、
前記電流センサの検出信号に基づいて、前記対象物の加速度を推定し、
前記加速度に基づいて、前記対象物の移動に追従させるように前記モータの指令回転数を設定する第1制御を実行し、
前記加速度の絶対値が所定値以上の場合には、前記第1制御で設定された前記指令回転数を増加させる第2制御を実行し、
前記加速度の絶対値が前記所定値を下まわった場合には、前記第2制御後の指令回転数を低下させる第3制御を実行し、
前記コントローラは、
前記第3制御において前記対象物が惰性走行していると判定した場合には、該惰性走行していない場合よりも前記指令回転数を急峻に低下させることにより該惰性走行を制動する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項5】
請求項1に記載された搬送補助装置において、
前記コントローラは、前記対象物の惰性走行の制動を開始した後、
前記状態センサの検出信号に基づいて、外力による前記対象物の移動が再開されたか否かを判定し、
外力による前記対象物の移動が再開されたと判定した場合、前記制動を終了するように前記モータの指令回転数を設定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項6】
請求項5に記載された搬送補助装置において、
前記状態センサは、前記ホイールの回転数を検出する回転センサによって構成され、
前記コントローラは、
前記回転センサの検出信号に基づいて、前記回転数の時間変化を推定し、
前記時間変化の絶対値が所定の制動基準値以上であって、かつ前記回転数がゼロに向かって変化している場合に、前記対象物が惰性走行していると判定し、
前記コントローラは、
前記制動中、前記時間変化の絶対値が所定の第1の解除基準値を下回る場合に、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項7】
請求項6に記載された搬送補助装置において、
前記コントローラは、
前記回転センサの検出信号に基づいて、前記ホイールが前進しているか或いは後退しているかを判定し、
前記ホイールが前進しかつ該前進を減退させるように前記回転数が変化しているか、又は、前記ホイールが後退しかつ該後退を減退させるように前記回転数が変化している場合に、前記時間変化の絶対値が前記制動基準値以上であることを条件として、前記対象物が惰性走行していると判定し、
前記ホイールが前進しかつ該前進を減退させるように前記回転数が変化しているか、又は、前記ホイールが後退しかつ該後退を減退させるように前記回転数が変化している場合に、前記時間変化の絶対値が前記第1の解除基準値を下回ることを条件として、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項8】
請求項6に記載された搬送補助装置において、
前記制動基準値は、前記解除基準値よりも大きい
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項9】
請求項6に記載された搬送補助装置において、
前記状態センサは、前記ホイールの回転に際して前記モータに流れる誘導電流を検出する電流センサによって構成され、
前記コントローラは、
前記電流センサの検出信号に基づいて、前記対象物の加速度を推定し、
前記制動中、前記加速度の絶対値が所定の第2の解除基準値を超える場合に、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載された搬送補助装置において、
前記対象物は、キャスタ付きベッドであり、
前記ホイールは、前記キャスタ付きベッドの下部に取り付けられる
ことを特徴とする搬送補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、手押し式運搬車が開示されている。この運搬車は、駆動輪と、駆動輪を回転させる原動機と、ユーザにより把持されるグリップと、このグリップをユーザが把持しているか否かを検出する把持検出部材としてのデッドマンレバーと、機械式ブレーキとしてのデッドマンブレーキと、を備えている。
【0003】
前記特許文献1は、デッドマンレバーによってユーザがグリップを把持していることが検出されない場合には、デッドマンブレーキが駆動輪の回転を制動する。これにより、ユーザがグリップから手を離したときに、手押し式運搬車を自動的に停止させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に係る把持検出部材は、専用のデッドマンレバーによって構成されている。デッドマンレバーのような専用部品による構成は、製造コストの増加を招くため不都合である。
【0006】
本願発明者らは、運搬車等の搬送を補助するための装置一般において、デッドマンレバー、メカニカルブレーキ等の専用部品を不要としつつ、その搬送を自動的に停止・減速させるような構成を検討し、本開示を想到するに至った。
【0007】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機械的な専用部品を用いることなく、搬送を自動的に停止又は減速させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様は、外力による対象物の移動をアシストするための搬送補助装置に係る。この搬送補助装置は、前記対象物に取り付けられるホイールと、前記ホイールに駆動連結されたモータと、前記ホイールの回転状態に対応した信号を検出する状態センサと、前記モータを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記状態センサの検出信号に基づいて、前記対象物が惰性走行しているか否かを判定し、前記対象物が惰性走行していると判定した場合には、該惰性走行を制動するように前記モータの指令回転数を設定する。
【0009】
一般に、搬送補助装置は、ホイールの駆動を制御するために、モータ用のエンコーダ、6軸センサ等の状態センサを用いるのが通例である。
【0010】
そこで、前記第1の態様によると、前記コントローラは、デッドマンレバーのような専用部品を用いる代わりに、そうした状態センサの検出信号に基づいて惰性走行の有無を判定する。そして、惰性走行していると判定された場合は、モータの指令回転数の設定を通じて、その惰性走行を制動する。
【0011】
このように、惰性走行の判定、及び、惰性走行の制動の双方に際し、専用部品は不要となる。これにより、機械的な専用部品を用いることなく、搬送を自動的に停止又は減速させることが可能になる。
【0012】
また、本開示の第2の態様によれば、前記状態センサは、前記ホイールの回転数を検出する回転センサによって構成され、前記コントローラは、前記回転センサの検出信号に基づいて、前記回転数の時間変化を推定し、前記時間変化の絶対値が所定の制動基準値以上であって、かつ前記回転数がゼロに向かって変化している場合に、前記対象物が惰性走行していると判定する、としてもよい。
【0013】
回転数がゼロに向かって収束していて、かつ回転数の時間変化(特に、時間変化の絶対値)が所定以上の場合、搬送者が力を加えておらず、対象物が惰性で走行しているものと考えられる。
【0014】
そこで、前記第2の態様のように、惰性走行の有無ひいては制動の要否を判定することで、より適切なタイミングで惰性走行を制動することが可能になる。
【0015】
また、本開示の第3の態様によれば、前記コントローラは、前記回転センサの検出信号に基づいて、前記ホイールが前進しているか或いは後退しているかを判定し、前記ホイールが前進しかつ該前進を減退させるように前記回転数が変化しているか、又は、前記ホイールが後退しかつ該後退を減退させるように前記回転数が変化している場合に、前記時間変化の絶対値が前記制動基準値以上であることを条件として前記対象物が惰性走行していると判定する、としてもよい。
【0016】
前記第3の態様によると、コントローラは、ホイールが前進している場合に、その回転数が、ホイールの前進を減退させるように変化しているか否かを判定する。この判定は、回転数がゼロに向かって変化しているか否かの判定と等価である。
【0017】
また、前記第3の態様によると、コントローラは、ホイールが後退している場合に、その回転数が、ホイールの後退を減退させるように変化しているか否かを判定する。前進時と同様に、この判定も、回転数がゼロに向かって変化しているか否かの判定と等価である。
【0018】
このように、前記第3の態様によると、回転数と、そのゼロ点との関係を直に監視せずとも、ホイールが前進又は後退しているか否かの判定と、そのときの回転数の変化の判定とを組み合わせることで、惰性走行の有無ひいては制動の要否を判定することができる。
【0019】
また、本開示の第4の態様によれば、前記ホイールの回転に際して前記モータに流れる誘導電流を検出する電流センサを備え、前記コントローラは、前記電流センサの検出信号に基づいて、前記対象物の加速度を推定し、前記加速度に基づいて、前記対象物の移動に追従させるように前記モータの指令回転数を設定する第1制御を実行し、前記加速度の絶対値が所定値以上の場合には、前記第1制御で設定された前記指令回転数を増加させる第2制御を実行し、前記加速度の絶対値が前記所定値を下まわった場合には、前記第2制御後の指令回転数を低下させる第3制御を実行し、前記コントローラは、前記第3制御において前記対象物が惰性走行していると判定した場合には、該惰性走行していない場合よりも前記指令回転数を急峻に低下させることにより該惰性走行を制動する、としてもよい。
【0020】
前記第4の態様によると、誘導電流を検出することで、その誘導電流が生じる起因となったトルク(ホイールを回転させようとするトルク)を推定することができる。このトルクを推定することで、対象物の加速度を推定することができる。この加速度は、操作者が付与した外力に応じて増加するから、加速度の絶対値が所定値以上であるか否かを判定することで、対象物が押されたか否かを判定することができる。
【0021】
そして、第1制御に加えて第2制御を行うことで、単に対象物に追従させるばかりでなく、第2制御を通じて指令回転数を増加させた分だけ、搬送者の負荷を軽減することができる。これにより、対象物の押し心地を軽くし、適度な“アシスト感”を搬送者に与えることができる。
【0022】
さらに、加速度の絶対値が所定以上の場合、つまり対象物が押された場合に第2制御を実行することで、搬送者が対象物を押したタイミングと、対象物の押し心地が軽くなるタイミングとを同期させることができる。これにより、過不足のないアシスト感を搬送者に与えることができる。また、対象物が押されたことを条件に第2制御を実行するように構成することで、押されていないタイミングで第2制御が実行された結果、搬送補助装置が意図せずして自走するような事態に陥るのを避けることができる。
【0023】
そして、前記第4の態様のように、惰性走行の制動に際しては、非惰性走行時と同様に第1制御を実行しつつも、第2制御による指令回転数の増加分を、非惰性走行時よりも急峻に低下させる。これにより、対象物に追従させる程度のアシストと、惰性走行の制動と、を両立させることが可能になる。
【0024】
また、本開示の第5の態様によれば、前記コントローラは、前記対象物の惰性走行の制動を開始した後、前記状態センサの検出信号に基づいて、外力による前記対象物の移動が再開されたか否かを判定し、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定した場合、前記制動を終了するように前記モータの指令回転数を設定する、としてもよい。
【0025】
前記第1の態様の如き制動を開始した後に、搬送者が対象物に再び外力を加えることで、対象物の搬送再開が望まれるようなケースも考えられる。そのようなケースに際し、惰性走行の制動が継続されていては、搬送を再開させるべく外力を加えたときに抵抗となるため不都合である。
【0026】
これに対し、前記第5の態様によると、コントローラは、外力による対象物の移動が再開され次第、前記第1の態様に係る制動を終了する。これにより、対象物の搬送を、スムースに再開させることが可能になる。
【0027】
また、本開示の第6の態様によれば、前記状態センサは、前記ホイールの回転数を検出する回転センサによって構成され、前記コントローラは、前記回転センサの検出信号に基づいて、前記回転数の時間変化を推定し、前記時間変化の絶対値が所定の制動基準値以上であって、かつ前記回転数がゼロに向かって変化している場合に、前記対象物が惰性走行していると判定し、前記コントローラは、前記制動中、前記時間変化の絶対値が所定の第1の解除基準値を下回る場合に、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定する、としてもよい。
【0028】
前記第6の態様によると、回転数がゼロに向かって収束していて、かつ回転数の時間変化(特に、時間変化の絶対値)が所定以上の場合、コントローラは、対象物が惰性で走行しているものと判定し、その惰性走行を制動する。
【0029】
この場合、惰性走行の制動を開始すると、回転数の時間変化の絶対値は、さらに大きくなると考えられる。制動の開始条件を満たす方向に前記絶対値が変化するため、制動を解除して搬送を再開するには不都合となる。
【0030】
ここで、搬送を再開するために、対象物を弱く押した場合を考える。この場合、対象物自体の加速度はさほど変化しなくても、回転数の減少は緩むと考えられる。すなわち、対象物が押されたことに伴って、回転数の時間変化は小さくなると考えられる。
【0031】
そこで、前記第6の態様のように、コントローラは、回転数の時間変化と第1の解除基準値との大小関係を通じて、回転数の減少が緩んだか否かを判定する。これにより、対象物に外力(特に、相対的に弱い外力)が加わったことを判定し、より適切なタイミングで制動を終了することが可能になる。
【0032】
また、本開示の第7の態様によれば、前記コントローラは、前記回転センサの検出信号に基づいて、前記ホイールが前進しているか或いは後退しているかを判定し、前記ホイールが前進しかつ該前進を減退させるように前記回転数が変化しているか、又は、前記ホイールが後退しかつ該後退を減退させるように前記回転数が変化している場合に、前記時間変化の絶対値が前記制動基準値以上であることを条件として、前記対象物が惰性走行していると判定し、前記ホイールが前進しかつ該前進を減退させるように前記回転数が変化しているか、又は、前記ホイールが後退しかつ該後退を減退させるように前記回転数が変化している場合に、前記時間変化の絶対値が前記第1の解除基準値を下回ることを条件として、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定する、としてもよい。
【0033】
前記第7の態様によると、回転数と、そのゼロ点との関係を直に監視せずとも、ホイールが前進又は後退しているか否かの判定と、そのときの回転数の変化の判定とを組み合わせることで、惰性走行の有無ひいては制動の要否を判定することができる。
【0034】
また、同様の判定を、制動の終了に関する判定に用いることで、制動を終了するための判定(外力による移動再開の判定)を、より適切に行うことができる。例えば、前記第7の態様によると、ホイールの前進を減退させるように回転数が変化している最中、すなわち、回転数が減少から増加に転じるよりも早いタイミングで、制動を解除することができる。これにより、制動をより早く終了することができる。
【0035】
また、本開示の第8の態様によれば、前記制動基準値は、前記第1の解除基準値よりも大きい、としてもよい。
【0036】
仮に、制動基準値が第1の解除基準値よりも小さい場合、惰性走行の制動を開始させる条件(制動条件)と、制動を終了させる条件(解除条件)とが、同時に成立する可能性がある。このことは、制動の開始及び終了を制御する上で不都合である。
【0037】
また、制動基準値と第1の解除基準値とが等しい場合、制動条件の成立時には解除条件は不成立となり、制動条件の不成立時には、解除条件は成立することになる。しかしながら、このように設定してしまうと、回転数の変動等に起因して、解除条件が意図せずして満足される可能性がある。
【0038】
前記第8の態様によると、第1の解除基準値は、制動基準値よりも小さい。このように設定することで、制動条件と解除条件とが同時に成立したり、回転数の変動等に起因した、意図しない切り替えを抑制したりすることができる。これにより、制動の開始及び終了を、より適切に切り替えることができる。
【0039】
また、本開示の第9の態様によれば、前記状態センサは、前記ホイールの回転に際して前記モータに流れる誘導電流を検出する電流センサによって構成され、前記コントローラは、前記電流センサの検出信号に基づいて、前記対象物の加速度を推定し、前記制動中、前記加速度の絶対値が所定の第2の解除基準値を超える場合に、外力による前記対象物の移動が再開されたと判定する、としてもよい。
【0040】
前述のように、惰性走行の制動を開始すると、回転数の時間変化の絶対値は、さらに大きくなると考えられる。前記絶対値は、前記制動基準値以上の値を保つように変化することになる。制動を維持する方向に前記絶対値が変化するため、制動を解除して搬送を再開するには不都合となる。
【0041】
ここで、搬送を再開するために、対象物を強く押した場合を考える。この場合、対象物自体の加速度が、相対的に大きく変化するものと考えられる。
【0042】
そこで、前記第9の態様のように、コントローラは、対象物の加速度と第2の解除基準値との大小関係を通じて、対象物が強く押されたか否かを判定する。これにより、対象物に外力(特に、相対的に強い外力)が加わったことを判定し、より適切なタイミングで制動を終了することが可能になる。
【0043】
また、前記第6の態様と第9の態様を組み合わせることで、回転数の時間変化と、対象物の加速度の両面から、制動中に搬送が再開されたか否かを判定することが可能になる。これにより、対象物に加わる力が強いときと弱いときの双方で、より適切なタイミングで制動を終了することが可能になる。
【0044】
また、本開示の第10の開示によれば、前記対象物は、キャスタ付きベッドであり、前記ホイールは、前記キャスタ付きベッドの下部に取り付けられる、としてもよい。
【0045】
前記第10の態様によると、対象物はキャスタ付きベッドとなる。キャスタ付きベッドのような重量物の惰性走行に際し、メカニカルブレーキ等の専用部品を設けずとも、その惰性走行を制動することができる。
【発明の効果】
【0046】
以上説明したように、本開示によれば、機械的な専用部品を用いることなく、搬送を自動的に停止又は減速させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】搬送補助装置及びキャスタ付きベッドの全体構成を例示する側面図である。
【
図2】搬送補助装置及びキャスタ付きベッドの全体構成を例示する底面図である。
【
図3】搬送補助装置の構成を例示する斜視図である。
【
図4】搬送補助装置の構成を例示する平面図である。
【
図5】搬送補助装置の構成を例示する側面図である。
【
図6】搬送補助装置の制御系の構成を例示するブロック図である。
【
図7】第1及び第2メカナムホイールの動作について説明するための図である。
【
図8】6軸センサの検出対象について説明するための図である。
【
図9】コントローラが行う主要な処理を例示するフローチャートである。
【
図10】移動方向の判定に関する処理を例示するフローチャートである。
【
図11】コンプライアンス制御の構成を模式化した制御ブロック図である。
【
図12】コンプライアンス制御の基本概念について説明するための概念図である。
【
図13】回転数に対する速度増加量の変化を例示する図である。
【
図14】速度増加制御によって得られる指令回転数を例示する図である。
【
図15】コンプライアンス制御及び速度増加制御を例示するフローチャートである。
【
図16A】惰性走行に関する処理を例示するフローチャートである。
【
図16B】制動条件の成否判定に関する処理を例示するフローチャートである。
【
図16C】解除条件の成否判定に関する処理を例示するフローチャートである。
【
図17】速度増加制御及び第3制御によって調整される速度増加量の推移を例示した図である。
【
図18】安全制限制御を例示するフローチャートである。
【
図19】制動条件の成否判定に関する処理の別例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0049】
図1は搬送補助装置1及びキャスタ付きベッド10の全体構成を例示する側面図であり、
図2は搬送補助装置1及びキャスタ付きベッド10の全体構成を例示する底面図である。
【0050】
また、
図3は搬送補助装置1の構成を例示する斜視図であり、
図4は搬送補助装置1の構成を例示する平面図であり、
図5は搬送補助装置1の構成を例示する側面図である。
【0051】
また、
図6は、搬送補助装置1の制御系の構成を例示するブロック図であり、
図7は第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの動作について説明するための図である。そして、
図8は、6軸センサSW5の検出対象について説明するための図である。
【0052】
搬送補助装置1は、所定の対象物に取り付けられている。この搬送補助装置1は、外力(例えば、搬送者100が付与する外力)による対象物の移動をアシストするための装置である。
【0053】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る対象物は、キャスタ付きベッド(以下、単に「ベッド」という)10である。このベッド10は、前輪14F及び後輪14Bを含んだ複数のキャスタ14を備えており、例えば医療用ベッドとして用いられるようになっている。
【0054】
以下、ベッド10の長手方向、つまりベッド10上で人が横たわる方向を「前後方向」又は「縦方向」とし、その前後方向に沿って足先に向かう方向を「前」とし、枕元に向かう方向を「後」とする。
【0055】
同様に、ベッド10の短手方向、つまり水平面上で前後方向に直交する方向を「左右方向」又は「横方向」とし、その左右方向に沿って
図1の紙面奥行側に向かう方向を「右」とし、
図1の紙面手前側に向かう方向を「左」とする(詳細は、
図2を参照)。なお、ここでいう「左右方向」とは、後側から前側に向かって見たときの左右方向をいう。以下の記載における「横移動」とは、この左右方向に沿った移動をいう。また、左右方向(横方向)とは、前後方向に直交しかつ搬送面(ベッド10が走行する床面)Fに沿って延びる方向であると定義することもできる。
【0056】
ベッド10は、搬送者100によって支持される。図例では、ベッド10は、その前後方向の一端側(例えば後端側)が支持されるようになっている。搬送補助装置1は、搬送者100によって支持されたベッド10の手押移動をアシストするように動作する。
【0057】
図1に示すように、ベッド10は、不図示のマットレスが載置されるベッド本体11と、ベッド本体11を下方から支持するフレーム12と、フレーム12に対してベッド本体11を昇降させる昇降部13と、ベッド10の下面に配置された複数(図例では4つ)のキャスタ14と、を備えている。医療用ベッドとして用いられる場合、ベッド10は、例えば60kg以上300kg以下となる。
【0058】
ここで、ベッド本体11は、ベッド10の後端側に配置されるヘッドボード11hと、前後方向において前記後端側の反対に位置する前端側に配置されるフットボード11fと、ベッド10の左右両側に配置されるサイドレール11sと、を有している。
【0059】
このうち、ヘッドボード11hは、ベッド10を手押し移動させるべく、搬送者100によって後側から支持される。ヘッドボード11hは、その搬送者100によって力が加えられる支持部として機能する。ハンドル、グリップ等の部材をヘッドボード11hに取り付けたり、ヘッドボード11hと一体化させたりすることで、それらの部材を支持部としてもよい。フットボード11f、サイドレール11s等が支持されてもよい。
【0060】
また、フレーム12は、
図2に示すように矩形枠状に構成されており、前フレーム12F、右フレーム12R、左フレーム12L及び後フレーム12Bによって四辺が構成されている。
【0061】
ここで、前フレーム12Fは、ベッド10の前側に配置されており、左右方向に沿って延びている。右フレーム12Rは、ベッド10の右側に配置されており、前後方向に沿って延びている。左フレーム12Lは、ベッド10の左側に配置されており、前後方向に沿って延びている。後フレーム12Bは、ベッド10の後側に配置されており、左右方向に沿って延びている。
【0062】
また、
図1及び
図2に示すように、複数のキャスタ14を構成する前輪14F及び後輪14Bは、ベッド10の下面の4隅に配置されている。前輪14F及び後輪14Bは、左右方向に沿って2つずつ設けられている。複数のキャスタ14は、搬送面Fに対してフレーム12、昇降部13及びベッド本体11を支持している。
【0063】
各キャスタ14は、いわゆるフリーキャスタであって、ベッド10の下面に固定される取付部14aと、この取付部14aに対して旋回軸Ocまわりに旋回可能なフォーク部14bと、フォーク部14bによって回転可能に支持された車輪14cと、を有している。各フォーク部14bの旋回軸Ocは、上下方向(ベッド10の高さ方向)に沿って延びている。各車輪14cの回転軸は、水平面に沿って延びている。この回転軸は、取付部14aに対してフォーク部14bが旋回することで、左右方向に対して傾斜するようになっている。
【0064】
そして、搬送補助装置1は、前述の右フレーム12Rにおける前後方向の中途の部位と、左フレーム12Lにおける前後方向の中途の部位と、を架け渡すように配置されている。搬送補助装置1は、前後方向においては前輪14Fと後輪14Bとの間に配置され、左右方向においてはベッド10の中央に配置されている。
【0065】
図1~
図6に示すように、搬送補助装置1は、収容ボックス6と、取付具7と、ホイールとしての第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと、第1及び第2モータ22R,22Lと、コントローラ4と、電流センサとしての第1及び第2電流センサSW1,SW2と、状態センサとしての第1及び第2回転センサSW3,SW4と、6軸センサSW5と、を備えている(第1及び第2モータ22R,22L、並びに各センサSW1~SW5は、
図6にのみ図示)。以下、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうち、第1メカナムホイール21Rが右側に位置するものとし、第2メカナムホイール21Lが左側に位置するものとする。
【0066】
これらの要素のうち、コントローラ4及び6軸センサSW5は収容ボックス6に収容されており、取付具7、第1及び第2メカナムホイール21R,21L、第1及び第2モータ22R,22L、第1及び第2電流センサSW1,SW2、並びに第1及び第2回転センサSW3,SW4は、収容ボックス6外に配置されている。
【0067】
収容ボックス6は、前述のようにコントローラ4を収容している。収容ボックス6は、左右方向において、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lの間に配置されている。
【0068】
収容ボックス6は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと共に取付具7に組み付けられており、この取付具7を介してベッド10の下部に取り付けられている。取付具7は、ベッド10の下部に対して着脱可能である。すなわち、本実施形態に係る搬送補助装置1は、ベッド10に対して後付可能であって、必要に応じて取り外し可能とされている。
【0069】
詳しくは、本実施形態に係る取付具7は、
図2~
図5に示すように、前側レール部材71f及び後側レール部材71bと、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lをそれぞれ回転可能に支持する第1及び第2アーム部材72R,72Lと、を有している。
【0070】
ここで、前側レール部材71fと後側レール部材71bは、前後方向に間隔を空けて配置されており、それぞれ、右フレーム12Rの前後方向中央部と、左フレーム12Lの前後方向中央部と、を架け渡している。前側レール部材71fと後側レール部材71bは、右フレーム12R及び左フレーム12Lに対して着脱可能である。第1及び第2メカナムホイール21R,21Lと収容ボックス6は、前後方向において、前側レール部材71fと後側レール部材71bの間に配置されるようになっている。
【0071】
一方、
図3及び
図4において右側に位置する第1アーム部材72Rは、後側レール部材71bによって揺動可能に支持されている。第1アーム部材72Rの前端部は、第1メカナムホイール21Rを回転可能に支持している。また、第1アーム部材72Rは、左右方向において、第1メカナムホイール21Rと収容ボックス6との間に配置されるようになっている。
【0072】
また、第1アーム部材72Rの上端部には、第1引張バネ75Rの一端部が係止されている。この第1引張バネ75Rの他端部は、前側レール部材71fに固定された第1ブラケット76Rに係止されている。
【0073】
そして、
図3及び
図4において左側に位置する第2アーム部材72Lは、第1アーム部材72Rと同様に、後側レール部材71bによって揺動可能に支持されている。第2アーム部材72Lの前端部は、第2メカナムホイール21Lを回転可能に支持している。また、第2アーム部材72Lは、左右方向において、第2メカナムホイール21Lと収容ボックス6との間に配置されるようになっている。
【0074】
また、第2アーム部材72Lの上端部には、第2引張バネ75Lの一端部が係止されている。この第2引張バネ75Lの他端部は、前側レール部材71fに固定された第2ブラケット76Lに係止されている(
図5も参照)。
【0075】
第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、
図1~
図2に示すように、ベッド10の下部(底部)に取り付けられている。第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、ベッド10の搬送面Fに接している。搬送面Fは、
図1にのみ示す。また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、前輪14Fの後側かつ後輪14Bの前側に配置されている。本実施形態の場合、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、
図2に示すように、短手方向としての左右方向に並ぶように配置されている。
【0076】
詳しくは、
図3~
図5に示すように、第1メカナムホイール21Rは、第1回転軸Oy1まわりに回転する第1ホイール本体211Rと、第1ホイール本体211Rの外周に沿って配置され、それぞれ第1回転軸Oy1に対して傾斜した第1傾斜軸Orまわりに回転する複数の第1樽型ローラ212Rと、を有している。
【0077】
一方、第2メカナムホイール21Lは、第2回転軸Oy2まわりに回転する第2ホイール本体211Lと、第2ホイール本体211Lの外周に沿って配置され、それぞれ第2回転軸Oy2に対して第1傾斜軸Orとは異なる方向に傾斜した第2傾斜軸Olまわりに回転する複数の第2樽型ローラ212Lと、を有している。
【0078】
ここで、第1及び第2回転軸Oy1,Oy2は、双方とも、左右方向に延びている。そして、第1傾斜軸Orは、第2傾斜軸Olに対し、前後方向を基準(
図4の対称軸Osを参照)とした線対称となるように傾斜している。言い換えると、第1傾斜軸Orと第2傾斜軸Olは、上下方向及び前後方向に延びる平面を鏡映面とすると、その鏡映面に関して鏡映対称となるように延びている。
【0079】
さらに、
図4のように上方から見た場合(平面視した場合)、第1及び第2傾斜軸Or,Olは、それぞれ、前後方向に沿って後側から前側に向かうに従って、左右方向の内側から外側(左右方向の中央部から右側又は左側)に向かって延びている。
【0080】
さらに詳しくは、第1回転軸Oy1に対する第1傾斜軸Orの傾斜角θrは、平面視で45°に設定されている。同様に、第2回転軸Oy2に対する第2傾斜軸Olの傾斜角θlは、同じく平面視で45°に設定されている。なお、各樽型ローラ212R,212Lの傾斜方向及び傾斜角度は、これらの例には限定されない。例えば、搬送補助装置1全体を、
図2に例示した状態から、上下方向に延びるz軸回りに所定角度回転させた状態に配置変更してもよい。
【0081】
また、前述のように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、
図3等に示した前側レール部材71f及び後側レール部材71bを介して相互に連結されている。したがって、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、前後方向及び左右方向に一体的に移動したり、水平面に垂直な旋回軸まわりに一体的に旋回したりする。
【0082】
第1及び第2モータ22R,22Lは、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのそれぞれに駆動連結されている。具体的に、第1及び第2モータ22R,22Lは、それぞれ、いわゆる3相のDCブラシレスモータとして構成されている。第1及び第2モータ22R,22Lは、双方ともコントローラ4と電気的に接続されており、このコントローラ4によって制御されるようになっている。
【0083】
第1及び第2モータ22R,22Lには、それぞれの回転に際し、トルク負荷に対応したモータ電流が供給される。モータ電流を通じて、第1及び第2モータ22R,22Lの回転数と、正転及び逆転とを切り替えることができる。
【0084】
そして、第1モータ22Rは、第1メカナムホイール21Rに対し、駆動力(トルク)を伝達できるように連結されている。第2モータ22Lは、第2メカナムホイール21Lに対し、駆動力(トルク)を伝達できるように連結されている。
【0085】
第1モータ22Rが回転することで、その駆動力が伝達されて第1メカナムホイール21Rが回転する。同様に、第2モータ22Lが回転することで、その駆動力が伝達されて第2メカナムホイール21Lが回転する。
【0086】
本実施形態では、第1モータ22Rを正転させることで第1メカナムホイール21Rが前転し、第1モータ22Rを逆転させることで第1メカナムホイール21Rが後転するように構成されている。同様に、本実施形態では、第2モータ22Lを正転させることで第2メカナムホイール21Lが前転し、第2モータ22Lを逆転させることで第2メカナムホイール21Lが後転するように構成されている。
【0087】
なお、第1モータ22Rは第1メカナムホイール21Rに内蔵されており、第2モータ22Lは第2メカナムホイール21Lに内蔵されている。このように第1及び第2モータ22R,22Lを内蔵させることで、搬送補助装置1全体の簡素化及びコンパクト化を図ることができる。
【0088】
また、第1電流センサSW1は、第1メカナムホイール21Rの回転に際して第1モータ22Rに流れる誘導電流を検出する。つまり、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが回転すると、第1モータ22Rにおいてロータとステータとが相対的に回転し、誘導電流が発生する。第1電流センサSW1によって検出される誘導電流は、q軸電流に相当する。
【0089】
ここで、誘導電流の大きさは、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが回転したときに、その第1メカナムホイール21Rに作用したトルクに比例する。このトルクの大きさは、ベッド10が受けた外力の大きさ、ひいては、外力に起因したベッド10の速度変化量と関連している。また、誘導電流の符号は、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが回転したときの、第1メカナムホイール21Rの回転方向と関連している。誘導電流の符号は、第1モータ22Rの駆動時に流れることになるモータ電流に対し、逆符号となる。
【0090】
第2電流センサSW2は、第2メカナムホイール21Lの回転に際して第2モータ22Lに流れる誘導電流を検出する。つまり、外力を受けて第2メカナムホイール21Lが回転すると、第2モータ22Lにおいてロータとステータとが相対的に回転し、誘導電流が発生する。第2電流センサSW2によって検出される誘導電流は、q軸電流に相当する。
【0091】
ここで、誘導電流の大きさは、外力を受けて第2メカナムホイール21Lが回転したときに、その第2メカナムホイール21Lに作用したトルクに比例する。このトルクの大きさは、ベッド10が受けた外力の大きさ、ひいては、外力に起因したベッド10の速度変化量と関連している。また、誘導電流の符号は、外力を受けて第2メカナムホイール21Lが回転したときの、第2メカナムホイール21Lの回転方向と関連している。誘導電流の符号は、第2モータ22Lの駆動時に流れることになるモータ電流に対し、逆符号となる。
【0092】
例えば、外力を受けて第1メカナムホイール21Rが前転すると同時に、第2メカナムホイール21Lが後転した場合、第1電流センサSW1は、第1モータ22Rを逆転させるときと同符号の誘導電流を検出することになる。第2電流センサSW2は、第2モータ22Lを正転させるときと同符号の誘導電流を検出することになる。
【0093】
以下に詳述するように、本実施形態に係るコントローラ4は、誘導電流に係るトルクをフィードバックする(より詳細には、トルクに対応した指令回転数で第1及び第2モータ22R,22Lを回転させる)ことで、順方向つまり外力の作用方向へのアシストを実行するように構成されている。
【0094】
また、状態センサとしての第1及び第2回転センサSW3,SW4は、それぞれ、ホイールとしての第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転状態に対応した信号を検出する。
【0095】
詳しくは、本実施形態に係る第1及び第2回転センサSW3,SW4は、それぞれ、第1及び第2モータ22R、22Lの回転数(つまり、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転数)を検出する。具体的に、本実施形態に係る第1及び第2回転センサSW3,SW4は、それぞれエンコーダによって構成されている。エンコーダとしての第1回転センサSW3は、第1モータ22Rの回転数及び回転角度を検出し、同じくエンコーダとしての第2回転センサSW4は、第2モータ22Lの回転数及び回転角度を検出する。
【0096】
また、
図8に示すように、6軸センサSW5は、前後方向に延びるx軸、左右方向に延びるy軸、及び上下方向に延びるz軸それぞれに沿った3方向の加速度と、x軸まわりの回転角(いわゆるロール角φ)の角速度と、y軸まわりの回転角(いわゆるピッチ角θ)の角速度と、z軸まわりの回転角(いわゆるヨー角ψ)の角速度と、を検出することができる。6軸センサSW5の検出信号は、コントローラ4に入力される。
【0097】
コントローラ4は、各種センサSW1~SW5から入力された電気信号に基づいて、第1及び第2モータ22R,22Lを制御する。このコントローラ4は、CPU、メモリ及び入出力バスを有しており、例えば制御基板によって構成されている。
【0098】
具体的に、本実施形態に係るコントローラ4は、各種センサSW1~SW5から入力された検出信号に基づいて、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定する。コントローラ4は、設定された指令回転数に対応したモータ電流を、第1及び第2モータ22R,22Lに入力する。これにより、第1及び第2モータ22R,22Lは、それぞれ、コントローラ4が設定した指令回転数で回転することになる。
【0099】
その際、第1メカナムホイール21Rは、第1モータ22Rと同じ回転数で回転し、第2メカナムホイール21Lは、第2モータ22Lと同じ回転数で回転する。すなわち、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数を設定することは、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの指令回転数を設定することに等しい。
【0100】
また、各指令回転数の符号を変更することで、第1モータ22R及び第2モータ22Lの回転方向を個別に変更することができる。各モータ22R,22Lの回転方向を変更することで、対応するメカナムホイール21R,21Lを前転と後転とに切り替えることができる。
【0101】
本実施形態では、右側に位置する第1メカナムホイール21Rを前転させると、搬送補助装置1及びベッド10に対し、左斜め前方へと推力を付与することができる(
図7の矢印A
11を参照)。一方、左側に位置する第2メカナムホイール21Lを前転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して右斜め前方へと推力を付与することができる(
図7の矢印A
12を参照)。
【0102】
したがって、例えば
図7の左上に示すように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも前転させると、第1メカナムホイール21Rを前転させることで付与される左方への推力と、第2メカナムホイール21Lを前転させることで付与される右方への推力とを相殺し、搬送補助装置1全体では前方へと推力を付与することができる。この推力によって、ベッド10の前方への移動をアシストすることができる。
【0103】
同様に、右側に位置する第1メカナムホイール21Rを後転させると、搬送補助装置1及びベッド10に対し、右斜め後方へと推力を付与することができる(
図7の矢印A
21を参照)。一方、左側に位置する第2メカナムホイール21Lを後転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して左斜め後方へと推力を付与することができる(
図7の矢印A
22を参照)。
【0104】
したがって、例えば
図7の右上に示すように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも後転させると、第1メカナムホイール21Rを後転させることで付与される右方への推力と、第2メカナムホイール21Lを後転させることで付与される左方への推力とを相殺し、搬送補助装置1全体では後方へと推力を付与することができる。この推力によって、ベッド10の後方への移動をアシストすることができる。
【0105】
一方、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方を前転させ、他方を後転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して左右方向への推力を付与する。
【0106】
図7の左下に示す例では、第1メカナムホイール21Rを後転させるとともに第2メカナムホイール21Lを前転させることで、ベッド10には、右方向への推力が付与される。
【0107】
また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方のみを前転又は後転させると、搬送補助装置1は、ベッド10に対して斜め方向への推力を付与する。
【0108】
図7の右下に示す例では、第2メカナムホイール21Lのみを前転させたことで、右斜め前方へとベッド10を推進させることができる。一方、第1メカナムホイール21Rのみを前転させると、左斜め前方へとベッド10の移動をアシストすることができる(図示省略)。
【0109】
そして、搬送補助装置1は、各種センサSW1~SW5の検出信号に基づいて第1及び第2モータ22R,22Lを作動させることで、前述のように付与される推力を通じて、搬送者100によるベッド10の搬送をアシストするように構成されている。
【0110】
そうしたアシストを実現すべく、本実施形態に係るコントローラ4は、各種センサSW1~SW5の検出信号に基づいて、外力が作用する方向(以下、単に「作用方向」ともいう)を判定し、その作用方向に沿って推力を発揮するように第1及び第2モータ22R,22Lを作動させる。
【0111】
例えば、ヘッドボード11hが後方から前方に押された結果、後側から前方に向かって外力が作用していると判定された場合、コントローラ4は、第1及び第2モータ22R,22Lを双方とも正転させることで、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも前転させる。これにより、
図7の左上に例示したようにベッド10の前進をアシストすることが可能になる。
【0112】
また、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lは、対応するモータ22R,22Lを駆動していない場合も前転および後転が許容される。これにより、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを用いない構成と比較して、ベッド10を手押移動する際のふらつきを抑制し、ベッド10の搬送を安定させることができる。
【0113】
以下、コントローラ4によるアシストに関し、
図9等を用いて詳細に説明する。
【0114】
ここで、
図9は、コントローラ4が行う主要な処理を例示するフローチャートである。
図10は、移動方向の判定に関する処理を例示するフローチャートである。
図11は、コンプライアンス制御の構成を模式化した制御ブロック図である。
図12は、コンプライアンス制御の基本概念について説明するための概念図である。
図13は、回転数に対する速度増加量の変化を例示する図である。
図14は、速度増加制御によって得られる指令回転数を例示する図である。
図15は、コンプライアンス制御及び速度増加制御を例示するフローチャートである。
【0115】
また、
図16Aは、惰性走行に関する処理を例示するフローチャートであり、
図16Bは、制動条件の成否判定に関する処理を例示するフローチャートであり、
図16Cは、解除条件の成否判定に関する処理を例示するフローチャートである。さらに、
図17は、速度増加制御及び第3制御によって調整される速度増加量の推移を例示した図である。
図18は、安全制限制御を例示するフローチャートである。
【0116】
まず、
図9のステップS1において、コントローラ4は、前述した5つのセンサSW1~SW5の検出信号を読み込む。
【0117】
続くステップS2において、コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの加速度を個別に推定する。
【0118】
以下、第1メカナムホイール21Rの加速度を「第1加速度」と呼称し、第2メカナムホイール21Lの加速度を「第2加速度」と呼称する。第1及び第2加速度は、双方とも、並進速度の時間微分、つまり、いわゆる接線加速度である。
【0119】
第1及び第2電流センサSW1,SW2それぞれによって検出された誘導電流の大きさは、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転時に、それらのホイールに作用したトルク(特に、反力に起因したトルク)に比例する。コントローラ4は、そうした比例関係に基づいて、第1メカナムホイール21Rに作用した第1トルクと、第2メカナムホイール21Lに作用した第2トルクと、を個別に推定する。その際、誘導電流からトルクに変換するための比例係数は、コントローラ4に事前に記憶させたものを用いることができる。
【0120】
本実施形態に係るコントローラ4は、第1及び第2トルクに対応した反力に逆らうように第1及び第2モータ22R、22Lを駆動することで、ベッド10の移動をアシストする。
【0121】
そうしたアシストを実現するために、コントローラ4は、下式(1)及び(2)に基づいて、第1トルクに対応した第1加速度と、第2トルクに対応した第2加速度とを推定する。
【0122】
ar=(-1)・Tr/(R・m) …(1)
al=(-1)・Tl/(R・m) …(2)
上式(1)及び(2)において、Tr[Nm]は第1トルクであり、Tl[Nm]は第2トルクである。また、ar[m/s2]は、第1トルクに対応した第1加速度であり、al[m/s2]は、第2トルクに対応した第2加速度である。
【0123】
その他、R[m]は第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれのタイヤ半径であり、m[kg]は第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの質量である。本実施形態におけるタイヤ半径及び質量の大きさは、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lとで同一である。
【0124】
続くステップS3において、コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの並進加速度を推定する。
【0125】
詳細には、コントローラ4は、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて推定した第1及び第2加速度ar,alを用いて、前後方向における第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの並進加速度を示す縦加速度と、横方向における第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの並進加速度を示す横加速度と、をそれぞれ推定する。
【0126】
さらに詳しくは、
図3~
図5のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを構成した場合、コントローラ4は、第1加速度a
rと第2加速度a
lとを加算することで縦加速度を推定し、第1加速度a
rと第2加速度a
lとの差分を演算することで横加速度を推定する。これらの演算の詳細は、下式(3)及び(4)に示す通りである。
【0127】
ax=(ar+al)/2 …(3)
ay=(ar-al)/2 …(4)
上式(3)及び(4)において、ax[m/s2]が縦加速度であり、ay[m/s2]が横加速度である。式(3)の符号は、前方を正とし、後方を負とするように規定されている。前方と後方とで符号の正負を反転してもよい。同様に、式(4)の符号は、左方を正とし、右方を負とするように規定されている。左方と右方とで符号の正負を反転してもよい。
【0128】
なお、式(3)及び(4)の如き関係式は、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの回転数(つまり、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lそれぞれの回転数)についても成立する。
【0129】
ここで、rr[rpm]を前後方向における第1モータ22Rの回転数(以下、「第1回転数」ともいう)とし、rl[rpm]を前後方向における第2モータ22Lの回転数(以下、「第2回転数」ともいう)とする。これらの回転数のうち、第1回転数rrは第1回転センサSW3によって検出される回転数であり、第2回転数rlは第2回転センサSW4によって検出される回転数である。
【0130】
そして、rx[rpm]を前後方向における第1及び第2モータ22R,22L全体の回転数(以下、これを「縦回転数」ともいう)とし、ry[rpm]を左右方向における第1及び第2モータ22R,22L全体の回転数(以下、これを「横回転数」ともいう)とする。本実施形態のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを構成及び配置した場合、下式(5)及び(6)が成立する。
【0131】
rx=(rr+rl)/2 …(5)
ry=(rr-rl)/2 …(6)
上式(5)及び(6)は、下式(7)及び(8)のように変形可能である。下式(7)及び(8)に示すように、rxとryを設定することで、rrとrlを一意に決定することができる。
【0132】
rr=rx+ry …(7)
rl=rx-ry …(8)
また、上式(7)及び(8)それぞれの両辺に、タイヤ半径R及び円周率等に依存した定数(=πR/30)を乗算することで、速度について同様の関係式を得ることもできる。つまり、vr[m/s]を前後方向における第1メカナムホイール21Rの速度とし、vl[m/s]を前後方向における第2メカナムホイール21Lの速度とする。そして、vx[m/s]を前後方向における第1及び第2メカナムホイール21R,21L全体の速度(以下、これを「縦速度」ともいう)とし、vy[m/s]を左右方向における第1及び第2メカナムホイール21R,21L全体の速度(以下、これを「横速度」ともいう)とする。そして、本実施形態のように第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを構成及び配置した場合、下式(9)及び(10)が成立する。
【0133】
なお、この場合の「速度」とは、角運動する物体の並進速度(接線速度)を示す。
【0134】
vx=(vr+vl)/2 …(9)
vy=(vr-vl)/2 …(10)
上式(9)及び(10)は、下式(11)及び(12)のように変形可能である。下式(11)及び(12)に示すように、vxとvyを設定することで、vrとvlを一意に設定することができる。
【0135】
vr=vx+vy …(11)
vl=vx-vy …(12)
また、式同士の関係を利用することで、例えば、縦速度vx及び/又は横速度vyの指令値を決定したときに、それら指令値の実現に要する縦回転数rxと横回転数ryを一意に決定したり、縦回転数rx及び/又は横回転数ryに対応した第1回転数rrと第2回転数rlを決定したりすることができる。
【0136】
続いて、コントローラ4は、第1及び第2回転センサSW3,SW4の検出信号に基づいて、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転数が所定(第1閾値)以上になったことを条件に、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの駆動を許容する。
【0137】
具体的に、ステップS3から続くステップS4において、コントローラ4は、以下の関係式(13)及び(14)のいずれか一方が満足されているか否かを判定する。この判定を通じて、実際にベッド10が搬送されているか否か(実際にベッド10が移動しているか否か)を確認することができる。
【0138】
r
x≧T1 …(13)
r
y≧T1 …(14)
上式(13)及び(14)において、T1[1/s]は第1閾値である。第1閾値の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、上式(13)と(14)とで等しくなるように設定されている。なお、上記説明に示すように、
図9のステップS4における「r
x/r
y」とは、「r
yによるr
xの除算値」ではなく、「r
xとr
yのいずれか一方」を意味している。
【0139】
ここで、上式(13)及び(14)が双方とも満足されていない場合、コントローラ4は、ベッド10が搬送されていないと判定し、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの駆動を許容しない(ステップS4:NO)。この場合、制御プロセスはステップS5に進む。このステップS5において、コントローラ4は、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数をゼロにする。
【0140】
ステップS5に進んだ場合、それ以降のステップS7~S9において、第1及び第2モータ22R,22Lの指令回転数(より詳細には、後述のアシスト速度)はゼロのまま維持される(ステップS7~S9の詳細は後述)。この場合、コントローラ4は、第1及び第2モータ22R,22Lを駆動することなく、
図9に示すフローを終了する。
【0141】
一方、上式(13)及び(14)のうちの少なくとも一方が満足されている場合、コントローラ4は、外力によって実際にベッド10が搬送されていると判定し、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの駆動を許容する(ステップS4:YES)。この場合、制御プロセスはステップS6に進む。このステップS6において、コントローラ4は、外力による手押移動をアシストすべく、第1及び第2モータ22R,22Lそれぞれの指令回転数(アシスト回転数)を設定する。このアシスト回転数は、前述の縦回転数rx及び横回転数ryの指令値に相当する。
【0142】
図10のステップS11~S13は、それぞれ、
図9のステップS6で実行される処理を例示している。つまり、制御プロセスがステップS6に進むと、コントローラ4は、
図10のステップS11を開始する。
【0143】
このステップS11において、コントローラ4は、
図9のステップS3で推定した縦加速度a
x及び横加速度a
yに基づいて、ベッド10の移動方向を判定する。詳しくは、本実施形態に係るコントローラ4は、縦加速度a
x及び横加速度a
yに基づいて、ベッド10の移動方向が前後方向であるか(ベッド10が前進又は後退しているか)、或いは、左右方向であるかを判定する。
【0144】
さらに詳しくは、ステップS11において、コントローラ4は、以下の関係式(15)が満足されているか否かを判定する。
【0145】
|ay|<T2 …(15)
上式(15)において、T2[m/s2]は第2閾値である。第2閾値の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0146】
ここで、上式(15)が満足されていない場合、コントローラ4は、ベッド10の移動方向が左右方向であると判定し、制御プロセスをステップS12に進める(ステップS11:NO)。ステップS12に進んだ場合の処理の詳細は、後述する。
【0147】
一方、上式(15)が満足されている場合、コントローラ4は、ベッド10の移動方向が前後方向であると判定し、制御プロセスをステップS13に進める(ステップS11:YES)。
【0148】
以下、ステップS12及びステップS13で行われる処理について説明する。これらのステップに進んだ場合、コントローラ4は、前述のステップS11で判定された移動方向に基づいて、その移動方向に沿ったベッド10の移動をアシストするように、第1及び第2モータ22R,22Lを介して第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを駆動することになる。その途中、本実施形態に係るコントローラ4は、第1制御としてのコンプライアンス制御を実行したり、第2制御としての速度増加制御を実行したり、第3制御を実行したりする。
【0149】
コンプライアンス制御とは、コントローラ4が、前記ステップS3で推定した加速度(つまり、縦加速度ax及び横加速度ayの少なくとも一方)に基づいて実行するものである。このコンプライアンス制御において、コントローラ4は、対象物としてのベッド10の移動に追従させるように、前後方向又は左右方向における速度指令、つまり、縦速度vx及び横速度vyの指令値を設定する。
【0150】
式(9)-(12)に関して説明したように、縦速度vx及び横速度vyの指令値を設定することで、前記第1回転数rr及び第2回転数rlの指令値が一意に定まる。
【0151】
以下、縦速度vx及び横速度vyの指令値をそれぞれ縦速度指令Vx及び横速度指令Vyと呼称する。また、各モータ22R,22Lにおける第1回転数rr及び第2回転数rlの指令値を、それぞれ第1指令回転数Rr及び第2指令回転数Rlと呼称する。
【0152】
本実施形態のようにコンプライアンス制御によって縦速度指令Vx及び横速度指令Vyを設定することは、それぞれ、ベッド10の移動に追従させるように第1指令回転数Rr及び第2指令回転数Rlを設定することに等しい。
【0153】
一方、速度増加制御とは、コントローラ4が、前記ステップS3で推定した加速度と、コンプライアンス制御で設定された指令回転数と、に基づいて実行するものである。この速度増加制御において、コントローラ4は、コンプライアンス制御で参照された加速度の絶対値が所定値(後述の第4閾値T4)以上の場合に、そのコンプライアンス制御で設定した縦速度指令Vx及び横速度指令Vy(特に、各速度指令Vx,Vyの絶対値)を増加させる。
【0154】
本実施形態のように速度増加制御によって縦速度指令Vx及び横速度指令Vyを増加させることは、それぞれ、第1指令回転数Rr及び第2指令回転数Rl(特に、各指令回転数Rr,Rlの絶対値)を増加させることに等しい。
【0155】
ここで、
図15のステップS31~S37は、それぞれ、
図10のステップS12又はS13で実行される処理を例示している。つまり、制御プロセスがステップS12又はS13に進むと、コントローラ4は、
図15のステップS31から順番に各ステップを実行する。
【0156】
例えば、ステップS12から
図15のフローに進んだ場合、つまり、「移動方向=左右方向」と判定された場合、コントローラ4は、横加速度a
yに基づいてコンプライアンス制御を実行するとともに、そのコンプライアンス制御を通じて得られた横速度指令V
yに基づいた速度増加制御を実行する。
【0157】
一方、ステップS13から
図15のフローに進んだ場合、つまり、「移動方向=前後方向」と判定された場合、コントローラ4は、縦加速度a
xに基づいてコンプライアンス制御を実行するとともに、そのコンプライアンス制御を通じて得られた縦速度指令V
xに基づいた速度増加制御を実行する。すなわち、
図15のステップS31における「a
x/a
y」とは、「a
yによるa
xの除算値」ではなく、「a
xとa
yのいずれか一方」を意味している。
【0158】
以下、ステップS13から
図15のフローに進んだ場合について詳細に説明する。
図15のフローにおいて、ステップS31がコンプライアンス制御に関係し、ステップS32~ステップS34が速度増加制御に関係し、ステップS35及びステップS36が第3制御に関係している。
【0159】
まず、ステップS31において、コントローラ4は、
図11に例示した制御ブロックに縦加速度a
xを入力して縦速度v
xの指令値を演算する。入力となる縦加速度a
xは、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて推定されたものであり、縦加速度a
xの推定値(実測値)に相当する。
【0160】
この制御ブロックにおいて、sはラプラス演算子であり、Mはベッド10及び搬送補助装置1の慣性を示している。また、Dは、搬送者100によるベッド10の支持位置(例えばヘッドボード11h)と、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lとの間の減衰係数であり、Kは、前記支持位置と、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lとの間のバネ乗数である。M、D及びKの値は、事前に設定されており、コントローラ4に記憶されている。
【0161】
ところで、仮に、搬送補助装置1、ベッド10及び搬送者100を剛体とみなした場合、外力の付与によって第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが回転したときに生じる縦速度vxは、前後方向におけるベッド10及び搬送者100の移動速度と同期して変化するとともに、その大きさも互いに一致することになる。この場合、縦加速度axの実測値を時間積分することで、ベッド10の手押移動に追従するような縦速度指令Vxが得られることになる。
【0162】
しかし、実際のところ、ベッド10の支持位置と第1及び第2メカナムホイール21R,21Lとの間には、ベッド10のフレーム12、搬送補助装置1の取付具7等が介在している。フレーム12の撓み等に起因して、実際の縦速度vxは、ベッド10及び搬送者100の移動速度から遅れて変化したり、その移動速度との間に値のずれが生じたりすることになる。
【0163】
こうした遅れ、ずれ等の影響をモデル化したものが、
図11に例示した制御ブロックである。この制御ブロックは、力に対応した物理量(縦加速度a
x,横加速度a
y)を入力とし、速度指令(縦速度指令V
x,横速度指令V
y)を出力とするコンプライアンス制御を意味している。
【0164】
図11においては、まず、縦加速度a
xの実測値が、減算器P2を通過した後に第1ブロックB1に入力される。この第1ブロックにおいて、縦加速度a
xの実測値が時間積分される。第1ブロックB1の出力は、縦加速度a
xの大きさに対応した、縦速度指令V
xの修正分(速度指令値の修正量)ΔVを示している。コントローラ4は、現在の縦速度指令V
xにその修正分ΔVを加算したり、その修正分ΔVを積算したりすることで、縦速度指令V
xを設定する。
【0165】
また、ブロックB1からの出力は、第2ブロックB2においてD/Mが乗算された後、加算器P1を介して減算器P2に入力される。減算器P2に入力された乗算値は、縦加速度axの実測値から減算される。このフィードバックは、縦速度指令Vxに比例した減衰(特に、ベッド10の支持位置と第1及び第2メカナムホイール21R,21Lとの間に生じる減衰)を取り入れるためのものである。
【0166】
また、ブロックB1からの出力は、第3ブロックB3にも入力される。この第3ブロックB3において、前記修正分ΔVがさらに時間積分される。第3ブロックB3の出力は、第4ブロックB4においてK/Mが乗算された後、前記加算器P1を介して減算器P2に入力される。減算器P2に入力された乗算値は、第2ブロックB2を介した乗算値と同様に、縦加速度axの実測値から減算される。このフィードバックは、変位量に比例した復元力(特に、ベッド10の支持位置と第1及び第2メカナムホイール21R,21Lとの間の撓みに起因した復元力)を取り入れるためのものである。
【0167】
縦加速度axに2つのフィードバックを反映させることで、撓み、減衰等が考慮されたベッド10の加速度(特に、搬送者100の支持位置での加速度)が推定されることになる。その加速度を第1ブロックB1で時間積分したものが、ベッド10の移動に追従するような速度となる。
【0168】
また、加算器P1から減算器P2に至る途中で、フィードバックに伴う時間のずれを埋め合わせるような信号処理(例えば、遅延演算子を用いた処理)を行ってもよい。
【0169】
例えば、
図12の上図に示すように、搬送補助装置1とベッド10及び搬送者100とが等速で移動している場合、第1及び第2電流センサSW1,SW2で推定される加速度はゼロとなる。この場合、
図10の制御ブロックに入力される縦加速度a
xはゼロとなり、その制御ブロックから出力される修正分ΔVもゼロとなる。この場合、搬送補助装置1は加減速しない。
【0170】
一方、
図12の中央図に示すように、搬送補助装置1よりも搬送者100が速く移動している場合、第1及び第2電流センサSW1,SW2で推定される加速度は正となる。この場合、ベッド10には、これを押し込むような外力が付与されていることになる(矢印F1を参照)。この場合、
図10の制御ブロックに入力される縦加速度a
xは正となり、その制御ブロックから出力される修正分ΔVも正となる。その際、前記第4ブロックB4に係る復元力は、修正分ΔVを増加させる方向に作用する(矢印F3を参照)。これにより、搬送補助装置1は、ベッド10及び搬送者100と等速になるように、外力の付与から遅れて加速することになる。
【0171】
一方、
図12の下図に示すように、搬送補助装置1よりも搬送者100が遅れて移動している場合、第1及び第2電流センサSW1,SW2で推定される加速度は負となる。この場合、ベッド10には、これを引き込むような外力が付与されていることになる(矢印F2を参照)。この場合、
図10の制御ブロックに入力される縦加速度a
xは負となり、その制御ブロックから出力される修正分ΔVも負となる。その際、前記第4ブロックB4に係る復元力は、修正分ΔVを減少させる方向に作用する(矢印F4を参照)。これにより、搬送補助装置1は、ベッド10及び搬送者100と等速になるように、外力の付与から遅れて減速することになる。
【0172】
続くステップS32~ステップS34において、コントローラ4は、前述の速度増加制御を実行する。コントローラ4は、この速度増加制御を実行する場合、第1及び第2回転センサSW3,SW4によって検出された回転数が大きくなる程、速度指令値を大きく増加させる(
図13を参照)。なお、
図13の横軸は、横速度による縦速度の除算値を意味するのではない。
図13に示すグラフは、前後方向(縦方向)の速度指令値の設定に際しては、縦速度v
xが大きくなるほど速度指令値を大きく設定し、左右方向(横方向)の速度指令値の設定に際しては、横速度v
yが大きくなるほど速度指令値を大きく設定することを意味している。
【0173】
具体的に、ステップS32において、コントローラ4は、縦速度vxが大きくなる程大きくなるように、速度増加量voffを設定する。縦速度vxの代わりに、縦回転数rxが大きくなる程大きくなるように、速度増加量voffを設定してもよい。
【0174】
また、ステップS12から
図15のフローに進んだ場合は、縦速度v
xの代わりに横速度v
yが判定対象となる。前述のように、コントローラ4は、横速度v
yが大きくなるほど大きくなるように、速度増加量v
offを設定する。つまり、コントローラ4は、
図10のステップS11で判定された移動方向に基づいて、速度増加量v
offの設定を行うようになっている。
【0175】
続くステップS38において、コントローラ4は、後述の制動フラグがOFFになっているか否かを判定する。この判定がYESの場合(制動フラグがOFFの場合)、コントローラ4は、制御プロセスをステップS33に進める。この判定がNOの場合(制動フラグがONの場合)、コントローラ4は、制御プロセスをステップS35に進める。つまり、制動フラグがONの場合、コントローラ4は、続くステップS33の判定を一時的に無効とし、制御プロセスを強制的にステップS35に進めるようになっている。
【0176】
続くステップS33において、コントローラ4は、以下の関係式(16)が満足されているか否かを判定する。ステップS33は、縦加速度axの絶対値が所定値以上であるか否かを判定するものである。この判定を通じて、移動方向に沿ってベッド10が押されているか否かを検出することができる(押し力を検出)。
【0177】
|ax|≧T4 …(16)
上式(16)において、T4[m/s2]は第4閾値(所定値)である。所定値としての第4閾値T4の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0178】
なお、ステップS12から
図15のフローに進んだ場合は、縦加速度a
xの代わりに横加速度a
yが比較対象となる。つまり、コントローラ4は、
図10のステップS11で判定された移動方向における加速度について、第4閾値T4以上であるか否かの判定を行うようになっている。
【0179】
ここで、上式(16)が満足されている場合(つまり、縦加速度axの絶対値が所定値以上の場合)、コントローラ4は、ベッド10が押されていると判定し、制御プロセスをステップS34に進める(ステップS33:YES)。
【0180】
ステップS34において、コントローラ4は、ステップS31で算出した速度指令(縦速度指令Vx)に速度増加量voffを加算する。コントローラ4は、そうして得られた加算値を、最終的な速度指令(アシスト速度)とする(ステップS37)。前後方向におけるアシスト速度は、前述の縦速度指令Vxである。左右方向におけるアシスト速度は、前述の横速度指令Vyである。
【0181】
なお、速度増加量voffを算出して速度指令に加算する代わりに、第1及び第2回転センサSW3,SW4によって検出された回転数が大きくなるほど大きくなるような増加倍率(>1)を算出し、その増加倍率を速度指令に乗算することで速度増加制御を行ってもよい。
【0182】
一方、上式(16)が満足されていない場合(つまり、縦加速度axの絶対値が所定値を下回った場合)、コントローラ4は、ベッド10が押されていないと判定し、制御プロセスをステップS35に進める(ステップS33:NO)。
【0183】
ステップS35において、コントローラ4は、第2制御後の速度指令(ひいては指令回転数)を低下させる第3制御を実行する。
【0184】
具体的に、ステップS35において、コントローラ4は、前記速度増加量voffの低下量を示す速度変化値Δv2を設定する。それに続くステップS36において、コントローラ4は、速度増加量voffを、その時点の値から速度変化値Δv2だけ減算した上で、制御プロセスをステップS34に進める。
【0185】
なお、速度増加量voffから速度変化値Δv2を減算する代わりに、ステップS35において0以上1未満の減少率を設定するとともに、その減少率をステップS36において速度増加量voffに乗算してもよい。
【0186】
後述のように、速度変化値Δv2の大きさは、ベッド10が惰性走行しているか否かに応じて変化する。少なくともベッド10が惰性走行していない場合、速度変化値Δv2を一定にしてもよい。速度変化値Δv2を一定に設定した場合、ベッド10が押されていない状態が繰り返されると、速度増加量voffは徐々に減少していくことになる。また、この減算に際し、速度増加量voffはゼロ未満にならないように構成されている。これにより、ベッド10の移動に追従させる程度のアシスト速度が確保される。
【0187】
例えば、n回目のループでステップS33からステップS34に進んだ場合、縦速度指令Vxは、縦速度vxに応じた速度増加量voffの分だけ増加することになる。その後、n+1回目のループでステップS33からステップS35に進んだ場合、速度増加量voffは、n回目のループ時の値から減算されることになる。その後、ステップS33からステップS35に進むような状況が繰り返されると、縦速度指令Vxは、ステップS31で算出された値に向かって低下することになる。
【0188】
図14は、コンプライアンス制御を実行し、速度増加制御を未実行とした場合におけるアシスト回転数(破線)と、コンプライアンス制御及び速度増加制御を双方とも実行とした場合におけるアシスト回転数(実線)とを比較した図である。
図14における丸印は、それぞれ、ベッド10が押されたと判定されたタイミング(ステップS33の判定がYESとなったタイミング)を示している。
【0189】
コンプライアンス制御のみを実行した場合、アシスト回転数は、ベッド10の移動から遅れて立ち上がった後、その移動に追従するような値で推移する。
【0190】
一方、コンプライアンス制御と速度増加制御を両方とも実行とした場合、ベッド10が押されたと判定される度に、アシスト回転数が急峻に立ち上がる(例えば、t=t1,t2,t3を参照)。一方、ベッド10が押されていないと判定された期間が続くと、立ち上がった後のアシスト回転数が、時間経過に伴って徐々に減少していくことになる(例えば、t1<t<t2,t2<t<t3を参照)。
【0191】
さらに詳細には、
図14において、コンプライアンス制御で定まるアシスト回転数(アシスト速度)が上昇を開始してから、それが低下に転じるまでの期間(破線が上昇してから、低下に転じるまでの期間)は、
図12のBに示すように、いわゆる「ベッド押し込み時」に相当する。この場合、ステップS33の判定は適宜YESになり、その都度、速度増加量v
offが非ゼロかつ正の値に設定されることになる。例えば、ベッド10が相対的に強く押されたとき(ステップS33の判定がYESになるほど強く押されたとき)には、前述のようにアシスト回転数が急峻に立ち上がる一方、ベッド10が相対的に弱く押されたとき(ステップS33の判定がYESにならないほどの強さで押されたとき)には、アシスト回転数(アシスト速度)は、ベッド10に追従する程度の値に向かって徐々に減少していくことになる。
【0192】
一方、
図14において、コンプライアンス制御で定まるアシスト回転数(アシスト速度)が低下を開始してからの期間(破線が低下に転じてから、ゼロに至るまでの期間)は、
図12のCに示すように、いわゆる「ベッド引き込み時」に相当する。この場合、ステップS33の判定はYESにならないため、速度増加量v
offは、その下限値(ゼロ)のまま推移することになる。その結果、アシスト回転数(アシスト速度)は、コンプライアンス制御で定まる値に維持されつつ、ゼロに向かって減少していくことになる。
【0193】
そして、ステップS37に係る処理が完了すると、制御プロセスは、
図10及び
図15のフローを終了し、
図9のステップS7に進む。
【0194】
ここで、ステップS36の説明に戻り、速度変化値Δv2の設定について
図16A~
図16Cを参照して説明する。
図16AのステップS41~ステップS49は、それぞれ、
図15のステップS35で実行される処理を例示している。つまり、制御プロセスがステップS35に進むと、コントローラ4は、
図16AのステップS41から順番に各ステップを実行する。
【0195】
まず、ステップS41において、コントローラ4は、所定の制動フラグがONになっているか否かを判定する。この制動フラグは、少なくとも搬送補助装置1の電源投入時、つまり搬送補助装置1の停止時には、OFFになっている。
【0196】
ステップS41の判定がYESの場合、コントローラ4は、制御プロセスをステップS48に進める。この判定がYESになる場合とは、後述のステップS46及びステップS47に示す処理が、既に実行されているような状況に相当する。ステップS41の判定がYESの場合については、後述する。
【0197】
一方、ステップS41の判定がNOの場合、コントローラ4は、制御プロセスをステップS42に進める。ステップS42において、コントローラ4は、状態センサとしての第1及び第2回転センサSW3,SW4の検出信号に基づいて、ベッド10が惰性走行しているか否かを判定する。この判定は、所定の制動条件が成立しているか否かの判定に等しい。なお、ここでいう「惰性走行」とは、例えば、搬送者100がベッド10から手を離した状態のように、惰性によるベッド10の走行を意味している。
【0198】
図16BのステップS411~ステップS418は、それぞれ、
図16AのステップS42で実行される処理を例示している。つまり、制御プロセスがステップS42に進むと、コントローラ4は、
図16BのステップS411から順番に各ステップを実行する。
【0199】
まず、ステップS411において、コントローラ4は、上式(5)と、前記第1回転数rr及び第2回転数rlに基づいて現在の縦回転数rxを算出する。上式(5)から明らかなように、縦回転数rxは、左右の回転数(第1回転数rr及び第2回転数rl)の平均値とみなすこともできる。
【0200】
なお、
図15のステップS35から始まる以下の処理は、基本的には、ベッド10の移動方向が前後方向である場合に取り分け有効なものとなるが、
図15のステップS31、ステップS37等に関して説明したように、移動方向が左右方向である場合にも適用可能である。その場合、前述したステップS411では、縦回転数r
xの代わりに横回転数r
yが算出されることになり、それ以降のステップでは、縦回転数r
xの代わりに横回転数r
yが参照されることになる。また、後述するステップS414では、移動方向が右方向であるか、或いは、左方向であるかが判定されることになり、それ以降のステップでも、前方及び後方の代わりに、右方向及び左方向が用いられることになる。
【0201】
続くステップS412において、コントローラ4は、ステップS411で算出した縦回転数r
xの時間変化Δrを推定する。詳しくは、本実施形態に係るコントローラ4は、縦回転数r
xの時間変化Δrとして、縦回転数r
xの時間微分を算出する。コンプライアンス制御で参照される加速度(例えば、
図15のステップS31で参照される加速度)が、誘導電流由来の加速度であるのに対し、以下の具体例で参照される時間微分は、回転数由来の加速度となる。
【0202】
なお、縦回転数rxの時間微分を算出する代わりに、縦速度vxの時間微分、つまり縦加速度axを算出してもよい。その場合、ステップS42で参照される時間変化Δr、ひいては、以下に説明されるステップS415及びステップS416等で参照される時間変化Δrは、縦速度vxの時間微分となる。この場合に用いられる時間微分は、コンプライアンス制御で参照される加速度と同様に、誘導電流由来の加速度となる。
【0203】
続くステップS413からステップS416にかけて、コントローラ4は、時間変化Δrの絶対値が所定の制動基準値TA以上であって、かつステップS411で算出した回転数(縦回転数rx)が、ゼロに向かって変化しているか否かを判定する。この判定がYESの場合、コントローラ4は、ベッド10が惰性走行していると判定し、制動条件が成立していると判定する(ステップS417)。一方、この判定がNOの場合、コントローラ4は、ベッド10が惰性走行していないと判定し、制動条件は不成立と判定する(ステップS418)。
【0204】
そうした判定の一例として、コントローラ4は、両メカナムホイール21R,21Lが前進しかつ、その前進を減退させるように回転数(縦回転数rx)が変化しているか、あるいは、両メカナムホイール21R,21Lが後退しかつ、その後退を減退させるように回転数(縦回転数rx)が変化している場合に、回転数(縦回転数rx)がゼロに向かって変化していると判定する。
【0205】
具体的に、コントローラ4は、ステップS413においてベッド10の移動方向を判定する。この判定は、例えば、回転数(縦回転数rx)の正負に基づいて行うことができる。上式(3)及び(4)に関する説明と同様に、コントローラ4は、回転数(縦回転数rx)が正の場合は「移動方向=前」と判定し、負の場合は「移動方向=後」と判定する。なお、縦回転数rxの代わりに、縦速度vxの符号に基づいた判定を行ってもよい。
【0206】
続くステップS414において、コントローラ4は、ベッド10が前進しているか否か(移動方向=前?)を判定する。ステップS414の判定がYESの場合(移動方向=前)、コントローラ4は制御プロセスをステップS415に進める一方、ステップS414の判定がNOの場合(移動方向=後)、コントローラ4は制御プロセスをステップS416に進める。
【0207】
ステップS415において、コントローラ4は、ステップS412及びステップS413で推定した時間変化Δr及び移動方向に基づいて、前進を減退させるように回転数(縦回転数rx)が変化していて、かつ、時間変化Δrの絶対値が、所定の制動基準値TA以上であるか否かを判定する。ここで、制動基準値TAの大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0208】
なお、ステップS415及び後述のステップS416の処理は、時間変化Δrの絶対値を直に用いずとも、結果的に、時間変化Δrの絶対値を用いた判定と等価な処理であればよい。
【0209】
例えば、本実施形態のステップS415の場合、コントローラ4は、以下の関係式(17)が満足されているか否かを判定する。なお、ステップS415に進んだ段階で、「両メカナムホイール21R,21Lが前進している」なる条件は、既に満足されていることになる。
【0210】
Δr≦-TA<0 …(17)
ここで、前進時には回転数(縦回転数rx)が正であることを考慮すると、時間変化Δrの符号が負の場合、回転数(縦回転数rx)は、「前進を減退させるように変化している」ことになる。そして、時間変化Δrの値が「-TA」以下であるということは、時間変化Δrの絶対値が制動基準値TA以上であることに等しい。
【0211】
一方、本実施形態のステップS416の場合、コントローラ4は、以下の関係式(18)が満足されているか否かを判定する。なお、ステップS416に進んだ段階で、「両メカナムホイール21R,21Lが後退している」なる条件は、既に満足されていることになる。
【0212】
Δr≧TA>0 …(18)
ここで、後退時には回転数(縦回転数rx)が負であることを考慮すると、時間変化Δrの符号が正の場合、回転数(縦回転数rx)は、「後退を減退させるように変化している」ことになる。そして、時間変化Δrの値が「TA」以上であるということは、時間変化Δrの絶対値が制動基準値TA以上であることに等しい。
【0213】
コントローラ4は、ステップS415又はステップS416の判定がYESの場合には、制御プロセスをステップS417に進める。この場合、コントローラ4は、ベッド10が惰性走行していると判断し、制動条件が成立していると判定する。
【0214】
一方、コントローラ4は、ステップS415又はステップS416の判定がNOの場合には、制御プロセスをステップS418に進める。この場合、コントローラ4は、ベッド10が惰性走行していないと判断し、制動条件が不成立と判定する。
【0215】
例えば、ステップS415の判定がYESになる場合のように、縦回転数rxが正かつ時間変化Δrが負のとき、ベッド10は、減速しながら前進しているものと考えられる。これは、前進中のベッド10から操作者100が手を離した後、そのベッド10が惰性で前進を続けているような状況に相当する。操作者100が完全に手を離した場合、両メカナムホイール21R,21Lには、動摩擦に起因したブレーキ力が作用し、そのブレーキ力によって、時間変化Δrが負の方向に傾くと考えられる。そうして時間変化Δrが負の方向に傾いた結果、ステップS415の判定がYESになるものと考えられる。
【0216】
同様に、ステップS416の判定がYESになる場合のように、縦回転数rxが負かつ時間変化Δrが正のとき、ベッド10は、減速しながら後退しているものと考えられる。これは、後退中のベッド10から操作者100が手を離した後、そのベッド10が惰性で後退を続けているような状況に相当する。操作者100が完全に手を離した場合、両メカナムホイール21R,21Lには、動摩擦に起因したブレーキ力が作用し、そのブレーキ力によって、時間変化Δrが正の方向に傾くと考えられる。そうして時間変化Δrが正の方向に傾いた結果、ステップS416の判定がYESになるものと考えられる。
【0217】
なお、ステップS412で算出される時間変化Δrは、前述のように符号を考慮した値でなく、その絶対値|Δr|であってもよい。その場合、ステップS415及びステップS416の判定に際し、移動方向に対応した正負の符号が、時間変化の絶対値|Δr|に加味されることになる。ステップS415及びステップS416の判定は、それぞれ以下のように置き換えられることになる。
【0218】
-|Δr|≦-T
A<0 …(17’)
+|Δr|≧+T
A>0 …(18’)
図16Bに関する処理が終了すると、制御プロセスは、
図16AのステップS42から、同図のステップS43に進む。このステップS43において、コントローラ4は、制動条件が成立しているか否か、言い換えると、ベッド10が惰性走行しているか否かを判定する。
【0219】
ステップS43の判定がNOの場合(ベッド10が惰性走行していない場合)、コントローラ4は、制御プロセスをステップS45に進める。ステップS45において、コントローラ4は、速度変化値Δv2としてのベース値を読み込む。このベース値は事前に設定されており、必要に応じてメモリ等から読み出されるようになっている。
【0220】
一方、ステップS43の判定がYESの場合(ベッド10が惰性走行している場合)、コントローラ4は、制御プロセスをステップS46に進める。このステップS46において、コントローラ4は、「制動フラグをOFFからONにする」、又は、「制動フラグをONのまま維持する」とともに、制御プロセスをステップS47に進める。
【0221】
ステップS47において、コントローラ4は、前記ベース値よりも高めの値(=ベース値+α)を、速度変化値Δv2として読み込む。ここで、αはゼロよりも大きい。速度変化値Δv2にベース値よりも高めの値を用いることは、ベッド10の惰性走行を制動するように、速度増加量voff、ひいては第1及び第2モータ22R,22Lの指令回転数を設定することに等しい。
【0222】
また、制御プロセスがステップS47に進んだ場合(つまり、ベッド10が惰性走行していると判定した場合)に、速度変化値Δv2としてベース値よりも高めの値を用いることは、惰性走行していない場合よりも、第1及び第2モータ22R,22Lの指令回転数(特に、指令回転数の絶対値)を急峻に低下させることに等しい。これにより、コントローラ4は、その惰性走行を制動することになる。
【0223】
ここで、
図17は、速度増加制御(第2制御)及び第3制御によって調整される速度増加量v
offの推移を例示した図である。この図において、時刻Taと、時刻Tb(>Ta)にてベッド10が押された(ステップS33:YES)と判定され、それ以外の時刻ではベッド10が押されていない(ステップS33:NO)と判定されたものとする。また、
図17の時刻Tc(>Tb)以降、ベッド10が押されていないのに加えて、該ベッド10が惰性走行している(ステップS43:YES)と判定されたものとする。なお、時刻Td以降の振る舞いについては、後述する。
【0224】
この場合、速度増加量voffは、時刻Taにおいて一時的に増加した後、ステップS35とステップS36とが繰り返し実行されたことで、継続的に減少していくことになる。本実施形態では速度変化値Δv2に用いられるベース値は一定であるから、速度増加量voffも一定のペースで減少していくことになる。速度増加量voffが減少することで、ステップS34で得られるアシスト速度も減少することになる。
【0225】
その後、速度増加量voffは、時刻Tbにおいて一時的に増加した後、ステップS35とステップS36とが再び繰り返されたことで、再度、継続的に減少していくことになる。
【0226】
そして、時刻Tcにおいてベッド10の惰性走行が判定されると、速度変化値Δv2は、前記ベース値よりも高めに設定される。これにより、速度増加量voffは、破線に示した非惰性走行時と比べて、より急峻に減少していくことになる。速度増加量voffが急峻に減少することで、ステップS34で得られるアシスト速度も急峻に減少することになる。
【0227】
アシスト速度の急峻な減少は、第1及び第2モータ22R,22L、ひいては第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転数(特に、各回転数の絶対値)を減少させるブレーキ力となる。このブレーキ力によって、第1及び第2モータ22R,22Lが制動されることになる。
【0228】
ところが、そうしたブレーキ力は、ベッド10の前進又は後退を抑制するように作用するため、時間変化Δrの絶対値は、非制動時と比べて大きくなる。つまり、第1及び第2モータ22R,22Lを制動した場合、
図16Bを用いて説明した制動条件は、非制動時よりも成立し易くなる。
【0229】
一方、制動条件の成立によるブレーキ力が作用した状態では、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの回転に抵抗が存在することになる。そのため、ベッド10から手を離した状態から、再び搬送者100がベッド10を把持して外力(押し力)を付与したとしても、
図15のステップS33の判定をYESにし、速度増加量v
offの付与によるアシスト感を得るまでに遅れが生じる可能性がある。またそもそも、ブレーキ力が作用した状態で、ベッド10に外力を付与することは、搬送者100に抵抗を感じさせることになるため不都合である。
【0230】
こうした課題に対応すべく、本実施形態に係るコントローラ4は、惰性走行の制動を開始した後、状態センサとしての第1及び第2回転センサSW3,SW4、並びに、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、外力によるベッド10の移動が再開されたか否かを判定する。そして、コントローラ4は、外力によるベッド10の移動が再開されたと判定した場合、惰性走行の制動を終了するように、速度増加量voff、ひいては第1及び第2モータ22R,22Lの指令回転数を設定する。
【0231】
そうした設定に関する処理は、本実施形態では、
図16AのステップS41、ステップS48及びステップS49に例示されている。
【0232】
具体的に、
図17の時刻Tc以降のように、惰性走行の制動を開始すると、ステップS41に関して説明した制動フラグは「ON」に設定されることになる。そのため、惰性走行の制動を一旦開始すると、制御プロセスは、ステップS41からステップS48に進むようになる。
【0233】
ステップS48において、コントローラ4は、状態センサとしての第1及び第2回転センサSW3,SW4、並びに、第1及び第2電流センサSW1,SW2の検出信号に基づいて、外力によるベッド10の移動(≠惰性走行)が再開されたか否かを判定する。
【0234】
図16CのステップS421~ステップS428は、それぞれ、
図16AのステップS48で実行される処理を例示している。つまり、制御プロセスがステップS48に進むと、コントローラ4は、
図16CのステップS421から順番に各ステップを実行する。
【0235】
まず、ステップS421において、コントローラ4は、ステップS411と同様に、現在の縦回転数r
xを算出する。それと同時に、コントローラ4は、
図15のステップS31で参照された縦加速度a
xを取得する。
【0236】
なお、以下の処理は、移動方向が左右方向である場合にも適用可能である。その場合、前述したステップS421では、縦回転数rxの代わりに横回転数ryが算出されるとともに、縦加速度axの代わりに横加速度ayが取得されることになる。そして、これ以降のステップでは、縦回転数rx及び縦加速度axの代わりに横回転数ry及び横加速度ayが参照されることになる。また、後述するステップS424では、移動方向が右方向であるか、或いは、左方向であるかが判定されることになり、それ以降のステップでも、前方及び後方の代わりに、右方向及び左方向が用いられることになる。
【0237】
続くステップS422において、コントローラ4は、ステップS421で算出した縦回転数rxの時間変化Δrを推定する。詳しくは、本実施形態に係るコントローラ4は、縦回転数rxの時間変化Δrとして、縦回転数rxの時間微分を算出する。この時間微分は、回転数由来の加速度となる。
【0238】
なお、縦回転数rxの時間微分を算出する代わりに、縦速度vxの時間微分、つまり縦加速度axを算出してもよい。その場合、ステップS48で参照される時間変化Δr、ひいては、以下に説明されるステップS425及びステップS426等で参照される時間変化Δrは、縦速度vxの時間微分となる。その場合に用いられる時間微分は、コンプライアンス制御で参照される加速度と同様に、誘導電流由来の加速度となる。
【0239】
続くステップS423からステップS426にかけて、コントローラ4は、時間変化Δrの絶対値が第1の解除基準値TB未満であって、かつステップS421で算出した回転数(縦回転数rx)が、ゼロに向かって変化しているか否かを判定する(第1の判定)。
【0240】
第1の判定の代わりに、又は、第1の判定に加えて、コントローラ4は、縦加速度axの絶対値が第2の解除基準値TCを超えていて、かつ、その縦加速度axの符号が、制動に逆らう方向であるか否かを判定してもよい(第2の判定)。本実施形態に係るコントローラ4は、第1の判定と、第2の判定との両方を実行する。
【0241】
第1及び第2の判定の少なくとも一方がYESの場合、コントローラ4は、ベッド10に外力(特に、制動に逆らう外力)が付与されたと判定し、解除条件が成立していると判定する(ステップS427)。一方、第1及び第2の判定の双方がNOの場合、コントローラ4は、ベッド10に外力が付与されていないと判定し、解除条件は不成立と判定する(ステップS428)。
【0242】
第1の判定の一例として、コントローラ4は、両メカナムホイール21R,21Lが前進しかつ、その前進を減退させるように回転数(縦回転数rx)が変化しているか、あるいは、両メカナムホイール21R,21Lが後退しかつ、その後退を減退させるように回転数(縦回転数rx)が変化している場合に、回転数(縦回転数rx)がゼロに向かって変化していると判定する。
【0243】
具体的に、コントローラ4は、ステップS423においてベッド10の移動方向を判定する。この判定は、例えば、回転数(縦回転数rx)の正負に基づいて行うことができる。本実施形態に係るコントローラ4は、回転数(縦回転数rx)が正の場合は「移動方向=前」と判定し、負の場合は「移動方向=後」と判定する。なお、縦回転数rxの代わりに、縦速度vxの符号に基づいた判定を行ってもよい。
【0244】
続くステップS424において、コントローラ4は、ベッド10が前進しているか否か(移動方向=前?)を判定する。ステップS424の判定がYESの場合(移動方向=前)、コントローラ4は制御プロセスをステップS425に進める一方、ステップS424の判定がNOの場合(移動方向=後)、コントローラ4は制御プロセスをステップS426に進める。
【0245】
ステップS425において、コントローラ4は、ステップS422及びステップS423で推定した時間変化Δr及び移動方向に基づいて、前進を減退させるように回転数(縦回転数rx)が変化していて、かつ、時間変化Δrの絶対値が第1の解除基準値TB未満であるか否かを判定する(第1の判定)。ここで、第1の解除基準値TBの大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0246】
コントローラ4は、前記第1の判定に加えて、縦加速度axの絶対値が第2の解除基準値TCを超えていて、かつ、その縦加速度axの符号が、ベッド10の前進を促す方向であるか否かを判定する(第2の判定)。
【0247】
なお、ステップS425及び後述のステップS426の処理は、時間変化Δr及び縦加速度axの絶対値を直に用いずとも、結果的に、時間変化Δr及び縦加速度axそれぞれの絶対値を用いた判定と等価な処理であればよい。
【0248】
例えば、本実施形態のステップS425の場合、コントローラ4は、以下の関係式(19)及び(20)の少なくとも一方が満足されているか否かを判定する。なお、ステップS425に進んだ段階で、「両メカナムホイール21R,21Lが前進している」なる条件は、既に満足されていることになる。
【0249】
0>Δr>-TB …(19)
ax>TC>0 …(20)
ここで、時間変化Δrの符号が負の場合、前進時には回転数(縦回転数rx)が正であることを考慮すると、回転数(縦回転数rx)は、「前進を減退させるように変化している」ことになる。そして、時間変化Δrの値が「-TB」を上回るということは、時間変化Δrの絶対値が、第1の解除基準値TB未満であることに等しい。
【0250】
また、縦加速度axの符号が正の場合、前進時には回転数(縦回転数rx)が正であること、及びその回転数の大きさを減少させるように制動が作用していることを考慮すると、縦加速度axは、制動に逆らう方向、つまりベッド10の前進を促す方向に作用していることになる。そして、縦加速度axの値が「TC」を上回るということは、縦加速度axの絶対値が、第2の解除基準値TCを超えていることに等しい。
【0251】
一方、本実施形態のステップS426の場合、コントローラ4は、以下の関係式(21)及び(22)の少なくとも一方が満足されているか否かを判定する。なお、ステップS426に進んだ段階で、「両メカナムホイール21R,21Lが後退している」なる条件は、既に満足されていることになる。
【0252】
0<Δr<TB …(21)
ax<-TC<0 …(22)
ここで、時間変化Δrの符号が正の場合、後退時には回転数(縦回転数rx)が負であることを考慮すると、回転数(縦回転数rx)は、「後退を減退させるように変化している」ことになる。そして、時間変化Δrの値が「TB」未満であるということは、時間変化Δrの絶対値が第1の解除基準値TB未満であることに等しい。
【0253】
また、縦加速度axの符号が負の場合、後退時には回転数(縦回転数rx)が負であること、及びその回転数の大きさを減少させるように制動が作用していることを考慮すると、縦加速度axは、制動に逆らう方向、つまりベッド10の後退を促す方向に作用していることになる。そして、縦加速度axの値が「-TC」を下回るということは、縦加速度axの絶対値が、第2の解除基準値TCを超えていることに等しい。
【0254】
コントローラ4は、ステップS425又はステップS426の判定がYESの場合には、制御プロセスをステップS427に進める。この場合、コントローラ4は、ベッド10に対して、その制動(ブレーキ力)に逆らう方向に外力が付与された結果、その外力によるベッド10の移動が再開されたと判断し、解除条件が成立していると判定する。
【0255】
一方、コントローラ4は、ステップS425又はステップS426の判定がNOの場合には、制御プロセスをステップS428に進める。この場合、コントローラ4は、外力によるベッド10の移動が再開されていないと判断し、解除条件は不成立と判定する。
【0256】
なお、第1の解除基準値TBは、制動基準値TAよりも小さい。言い換えると、制動基準値TAは、第1の解除基準値TBよりも大きい。つまり、上式(19)及び(21)は、それぞれ、下式(19’)及び(21’)のように書き換えることができる。
【0257】
0>Δr>-T
B>-T
A …(19’)
0<Δr<T
B<T
A …(21’)
また、第2の解除基準値T
Cは、
図15のステップS33の第4閾値T4よりも大きい。つまり、上式(20)及び(22)は、それぞれ、下式(20’)及び(22’)のように書き換えることができる。
【0258】
ax>TC>T4>0 …(20’)
ax<-TC<-T4<0 …(22’)
例えば、ステップS425における第1の判定がYESの場合、ベッド10は、制動によって減速しつつ前進しているものと考えられる。このとき、仮に、操作者100がベッド10を把持すると、ベッド10は、惰性走行を維持しつつも、操作者100が外力を付与したことで、制動による減速が弱まると考えられる。
【0259】
この場合、時間変化Δrは、負の値を維持しつつも、制動条件が成立する(ステップS415の判定がYESになる)ほどの値には至らないと考えられる。第1の解除基準値TBを制動基準値TAよりも小さくすることで、そうした状況下にあることを、より適切に判定することができる。
【0260】
同様に、例えば、ステップS425における第2の判定がYESの場合、ベッド10には、制動による減速から、ベッド10を増速に転じさせるような強い外力が付与されていると考えられる。
【0261】
ステップS425の判定は、そもそも、制動フラグがONの場合に行われる処理である。この場合、ステップS34で出力されるアシスト速度は、実際のベッド10の速度よりもかなり小さくなる。縦加速度axは、減速方向に大きくなる。縦加速度axの絶対値は、結果的に、ステップS33の第4閾値T4よりも大きくなる傾向にある。言い換えると、第4閾値T4よりも大きくかつ減速方向に作用する縦加速度axとなるような、ブレーキが作用することになる。
【0262】
しかしながら、前述した場合、「制動フラグがONの場合には、ステップS33の判定が常にYESになる」ことになり、矛盾が生じることになる。そのため、制動フラグがONの場合には、前述したようにステップS33の判定をスキップし、ステップS35の処理に強制的に進むようになっている。
【0263】
ここで、第2の解除基準値について「TC<T4」と仮定する。この場合、前述した第4閾値T4との大小関係を考慮すると、制動フラグがONの場合には、|ax|>T4>TCが常に成立することになる。これでは、ステップS425が常に成立することになり、解除条件の成否に関する判定が、良好に機能しないことになる。
【0264】
そのため、第2の解除基準値については、前述したように、「TC>T4」の関係が求められることになる。例えば、惰性走行の制動中(解除条件が成立せず、制動フラグがONに維持されている最中)は、「TC>|ax|>T4」が成立することになる。一方、その制動中にベッド10が強く押されたとき(解除条件が成立するとき)には、「|ax|>TC>T4」が成立することになる。
【0265】
特に、ステップS425の第2の判定がYESの場合、「ax>0」となる。この場合、ベッド10は減速から増速(加速)に転じていることになる。すなわち、減速方向(負)の加速度を打ち消すだけの、大きな正の加速度が加えられたことになる。その結果、縦加速度axは、「|ax|>TC>T4」の関係が成立するような大きな値となる。
【0266】
なお、ステップS422で算出される時間変化Δrは、ステップS412と同様に、その絶対値|Δr|であってもよい。その場合、ステップS425及びステップS426の判定に際し、移動方向に対応した正負の符号が、時間変化の絶対値|Δr|に加味されることになる。縦加速度axについても同様である。
【0267】
制動条件及び解除条件に関連した処理について、
図17に戻って説明する。前述のように、時刻Tcにおいてベッド10の惰性走行が判定された(制動条件が満足された)ものとする。つまり、時刻Taから時刻Tcにかけての制動フラグはOFFであり、時刻Tcで制動条件が成立した結果、制動フラグがOFFからONに切り替わったものとみなすことができる。この場合、時刻Tc以降の速度増加量v
offは、破線に示した非惰性走行時と比べて、より急峻に減少していくことになる。
【0268】
その後、時刻Tcから時刻Tdにかけて、制動条件が満足されたまま、解除条件は不成立のまま推移したものとする。この場合、速度増加量voffは、前述のように急峻な減少を持続することになる。
【0269】
その後、時刻Tdにおいて、解除条件が成立したものとする。つまり、時刻Tdにおいて解除条件が成立した結果、制動フラグがONからOFFに切り替わったとものとする。この場合、時刻Td以降の速度増加量voffは、破線に示した非惰性走行時と同程度の割合で、比較的緩慢に減少していくことになる。制動フラグがOFFに戻った結果、惰性走行を制動するためのブレーキ力は、もはや第1及び第2メカナムホイール21R,21Lに作用していない。そのため、ブレーキ力に妨げられることなく、ベッド10を押し込んだり、これを引き込んだりすることが可能になる。
【0270】
その後、時刻Teにおいて、ベッド10への押し力が十分に高まった結果、
図15のステップS33が再び満足されたものとする。この場合、速度増加量v
offは、時刻Teにおいて一時的に増加した後、ステップS35とステップS36とが再び繰り返されたことで、再度、継続的に減少していくことになる。
【0271】
図16Cに関する処理が終了すると、制御プロセスは、
図16AのステップS48から、同図のステップS49に進む。このステップS49において、コントローラ4は、解除条件が成立しているか否か、言い換えると、ベッド10に対し、その移動を再開させるような外力が付与されたか否かを判定する。
【0272】
ステップS49の判定がNOの場合(ベッド10に外力が付与されていない場合)、コントローラ4は、制御プロセスをステップS47に進める。すなわち、コントローラ4は、一旦、制動条件が成立して制動フラグがONになると、解除条件が成立して制動フラグがOFFに戻るまで、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの制動を継続するようになっている。
【0273】
一方、ステップS49の判定がYESの場合(ベッド10に外力が付与されている場合)、コントローラ4は、制御プロセスをステップS44に進める。ステップS44において、コントローラ4は、「制動フラグをONからOFFにする」、又は、「制動フラグをOFFのまま維持する」とともに、制御プロセスをステップS45に進める。
【0274】
ステップS45又はステップS47に係る処理が完了すると、制御プロセスは、
図15のステップS36に進む。コントローラ4は、
図15のステップS36以降の処理を実行し、
図10のステップS13に関する処理を終了する。
【0275】
なお、
図15、
図16A~
図16C及び
図17に関する説明は、ステップS12から
図15のフローに進んだ場合についても同様である。その場合、前述の説明において、「縦」なる語を「横」なる語に置き換えるとともに、「前後」なる語を「左右」なる語に置き換えればよい。各種数式においても同様である。その際、制動基準値T
A、第1の解除基準値T
B、第2の解除基準値T
C等の所定値は、前後方向と左右方向で同一としてもよいし、異ならせてもよい。
【0276】
図10のステップS12又はステップS13に係るフローが完了すると、制御プロセスは、
図9のステップS7に進む。このステップS7において、コントローラ4は、アシスト回転数として設定された縦指令回転数R
x又は横指令回転数R
yを、それぞれ、上式(5)及び(6)と同様に定めた下式(23)及び(24)を通じて第1指令回転数R
rと第2指令回転数R
lとに変換する。
【0277】
Rr=60*(Vx+Vy)/(2π・R) …(23)
Rl=60*(Vx-Vy)/(2π・R) …(24)
上式(23)及び(24)における“R”は、前述のタイヤ半径である。本実施形態の場合、前後方向へのアシストに際してはVx≠0かつVy=0となり、左右方向へのアシストに際してはVx=0かつVy≠0となる。
【0278】
例えば、コントローラ4は、ベッド10の移動方向が前後方向であると判定した場合(ステップS13を経由した場合)、
図7の左上及び右上に例示したように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを双方とも前転又は後転させるように、第1及び第2指令回転数R
r,R
lを設定するとともに、当該設定に際し、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lとで指令回転数の絶対値を等しくする(R
r=R
l)。
【0279】
第1及び第2指令回転数Rr,Rlの絶対値を等しくすることで、各キャスタ14の向きに関わらず、前後方向に沿った移動を安定させることができる。
【0280】
また、コントローラ4は、ベッド10の移動方向が左右方向であると判定した場合(ステップS12を経由した場合)には、
図7の左下に例示したように、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lのうちの一方を前転させるとともに、他方を後転させるように第1及び第2指令回転数R
r,R
lを設定するとともに、当該設定に際しても、第1メカナムホイール21Rと第2メカナムホイール21Lとで指令回転数の絶対値を等しくする(R
r=-R
l)。
【0281】
第1及び第2指令回転数Rr,Rlの絶対値を等しくすることで、各キャスタ14の向きに関わらず、左右方向に沿った移動を安定させることができる。
【0282】
その後、ステップS7から続くステップS8において、コントローラ4は安全制御処理を実行する。この処理の詳細は、
図18のステップS51及びステップS52に示す通りである。
【0283】
まず、ステップS51において、コントローラ4は、
図9のフローを通じて設定された各指令回転数R
r,R
lの絶対値が、所定の第5閾値T5以上か否かを判定する。ここで、第5閾値T5の大きさは、コントローラ4のメモリ等に事前に記憶されており、必要に応じて適宜読み出されるようになっている。
【0284】
ステップS51の判定がYESの場合、コントローラ4は、制御プロセスをステップS52に進める。このステップS52において、コントローラ4は、各指令回転数Rr,Rlを第5閾値T5に変更する。
【0285】
一方、ステップS51の判定がNOの場合、コントローラ4は、ステップS52をスキップしてリターンする。この場合、各指令回転数Rr,Rlの大きさは、第5閾値T5未満のまま維持される。
【0286】
このように、本実施形態に係るコントローラ4は、第2制御としての速度増加制御後に、第1及び第2指令回転数Rr,Rlが所定の閾値(第5閾値T5)未満の場合(ステップS51:NO)には、該第1及び第2指令回転数Rr,Rlの値を維持し、第1及び第2指令回転数Rr,Rlが第5閾値T5以上の場合(ステップS51:YES)には、第1及び第2指令回転数Rr,Rlを第5閾値T5に変更するように構成されている。
【0287】
そして、
図9のステップS8から続くステップS9において、コントローラ4は、移動方向に沿ったベッド10の移動をアシストするように、第1及び第2モータ22R,22Lを介して第1及び第2メカナムホイール21R,21Lをそれぞれ駆動する。その際、前述のステップS5、ステップS6及びステップS7を通じて決定された指令回転数R
r,R
lを実現するように、第1及び第2モータ22R,22Lがそれぞれ駆動される。これにより移動方向に沿ったアシストが実現される。
【0288】
一般に、搬送補助装置1は、メカナムホイール等の駆動を制御するために、モータ用のエンコーダ、6軸センサ等の状態センサを用いるのが通例である。
【0289】
そこで、本実施形態に係るコントローラ4は、
図16BのステップS411~S418に例示したように、デッドマンレバーのような専用部品を用いる代わりに、状態センサとしての第1及び第2回転センサSW3,SW4の検出信号に基づいて惰性走行の有無(制動条件の成立状況)を判定する。そして、惰性走行していると判定された場合は、
図16AのステップS47に例示したように、第1及び第2モータ22R、22Lの指令回転数の設定を通じて、その惰性走行を制動する。
【0290】
このように、惰性走行の判定、及び、惰性走行の制動の双方に際し、専用部品は不要となる。これにより、機械的な専用部品を用いることなく、搬送を自動的に停止又は減速させることが可能になる。
【0291】
また、
図16BのステップS414~ステップS416に例示したように、縦回転数r
x又は横回転数r
yがゼロに向かって収束していて、かつ回転数の時間変化Δr(特に、時間変化Δrの絶対値)が所定の制動基準値T
A以上の場合、搬送者100が力を加えておらず、ベッド10が惰性で走行しているものと考えられる。
【0292】
そうした知見に基づいて惰性走行の有無ひいては制動の要否を判定することで、より適切なタイミングで惰性走行を制動することが可能になる。
【0293】
また、
図16BのステップS414及びステップS415に例示したように、コントローラ4は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが前進している場合に、その回転数が、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの前進を減退させるように変化しているか否かを判定する。この判定は、回転数がゼロに向かって変化しているか否かの判定と等価である。
【0294】
また、
図16BのステップS414及びステップS416に例示したように、コントローラ4は、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが後退している場合に、その回転数が、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの後退を減退させるように変化しているか否かを判定する。前進時と同様に、この判定も、回転数がゼロに向かって変化しているか否かの判定と等価である。
【0295】
このように、
図16Bの例示によると、回転数と、そのゼロ点との関係を直に監視せずとも、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが前進又は後退しているか否かの判定と、そのときの回転数の変化の判定とを組み合わせることで、惰性走行の有無ひいては制動の要否を判定することができる。
【0296】
また、第1及び第2電流センサSW1,SW2によって誘導電流を検出することで、その誘導電流が生じる起因となったトルク(ホイールを回転させようとするトルク)を推定することができる。これにより、
図9のステップS3に例示したように、ベッド10の加速度a
x,a
yを推定することができる。各加速度a
x,a
yは、搬送者100が付与した外力に応じて増加する。したがって、
図15のステップS34に示したように、各加速度a
x,a
yが所定値以上であるか否かを判定することで、ベッド10が押されたか否かを判定することができる。
【0297】
また、
図15に示したように、第1制御としてのコンプライアンス制御に加えて、第2制御としての速度増加制御を行うことで、単にベッド10に追従させるばかりでなく、速度増加制御を通じて指令回転数を増加させた分だけ、搬送者100の負荷を軽減することができる。これにより、ベッド10の押し心地を軽くし、適度な“アシスト感”を搬送者100に与えることができる。
【0298】
さらに、
図15のステップS33に示したように、加速度a
x,a
yが第4閾値T4以上の場合、つまりベッド10が押された場合に速度増加制御を実行することで、搬送者100がベッド10を押したタイミングと、ベッド10の押し心地が軽くなるタイミングとを同期させることができる。これにより、過不足のないアシスト感を搬送者100に与えることができる。また、ベッド10が押されたことを条件に速度増加制御を実行するように構成することで、押されていないタイミングで速度増加制御が実行された結果、搬送補助装置1が意図せずして自走するような事態に陥るのを避けることができる。
【0299】
また、搬送者100がベッド10を強く押す程、第1及び第2回転センサSW3,SW4の検出値はより高くなると考えられる。本実施形態では、
図13及び
図15のステップS33~ステップS34に示したように、回転数の検出値が高くなる程、より強い推力でベッド10の移動がアシストされるようになっている。これにより、外力の大きさに応じたアシストを実現することができ、ベッド10の押し心地を軽くする上で有利になる。
【0300】
また、
図15のステップS37の処理を実装したことで、搬送者100がベッド10を弱く押したり、ベッド10から手を離したりした場合には、より弱い推力でベッド10の移動がアシストされることになる。これにより、外力の大きさに応じたアシストを実現することができ、過不足のないアシスト感を搬送者に与えるとともに、搬送補助装置1の意図せぬ自走を抑制することができる。
【0301】
そして、
図16AのステップS45及びステップS47に例示したように、惰性走行の制動に際しては、非惰性走行時と同様にコンプライアンス制御を実行しつつも、速度増加制御による指令回転数の増加分(速度増加量v
off)を、非惰性走行時よりも急峻に低下させる。これにより、ベッド10に追従させる程度のアシストと、惰性走行の制動と、を両立させることが可能になる。
【0302】
また、
図16AのステップS46及びステップS47に例示したように惰性走行を制動した後に、搬送者100がベッド10に再び外力を加えることで、そのベッド10の搬送再開が望まれるようなケースも考えられる。そのようなケースに際し、惰性走行の制動が継続されていては、搬送を再開させるべく外力を加えたときに抵抗となるため不都合である。
【0303】
これに対し、
図16AのステップS48及びステップS49、並びに、ステップS44及びステップS45に例示したように、コントローラ4は、外力によるベッド10の移動が再開され次第、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lに対する制動を終了する。これにより、ベッド10の搬送を、スムースに再開させることが可能になる。
【0304】
また、惰性走行の制動を開始すると、時間変化Δrの絶対値は、制動条件の成立時よりもさらに大きくなると考えられる。制動の開始条件を満たす方向に絶対値が変化するため、制動を解除して搬送を再開するには不都合となる。
【0305】
ここで、搬送を再開するために、ベッド10を弱く押した場合を考える。この場合、ベッド10自体の加速度はさほど変化しなくても、回転数(縦回転数rx)の減少は緩むと考えられる。すなわち、ベッド10が押されたことに伴って、回転数の時間変化Δrは小さくなると考えられる。
【0306】
そこで、
図16CのステップS425及びステップS426等に例示したように、コントローラ4は、回転数の時間変化Δrと第1の解除基準値T
Bとの大小関係を通じて、回転数の減少が緩んだか否かを判定する(第1の判定)。これにより、ベッド10に外力(特に、相対的に弱い外力)が加わったことを判定し、より適切なタイミングで制動を終了することが可能になる。
【0307】
また、
図16CのステップS425及びステップS426等に例示したように、回転数(縦回転数r
x)と、そのゼロ点との関係を直に監視せずとも、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lが前進又は後退しているか否かの判定と、そのときの回転数の変化の判定とを組み合わせることで、制動を終了(解除)するための判定を、より適切に行うことができる。例えば、
図16CのステップS425によると、第1及び第2メカナムホイール21R,21Lの前進を減退させるように回転数が変化している最中、すなわち、回転数が増加に転じるよりも早いタイミング(Δrの符号が変化するよりも早いタイミング)で、制動を解除することができる。これにより、制動をより早く終了することができる。
【0308】
仮に、制動基準値TAが第1の解除基準値TBよりも小さい場合、惰性走行の制動を開始させる条件(制動条件)と、制動を終了させる条件(解除条件)とが、同時に成立する可能性がある。例えば「0>-TA≧Δr>-TB」時には、そうした可能性が現実のものとなる。このことは、制動の開始及び終了を制御する上で不都合である。
【0309】
また、制動基準値TAと第1の解除基準値TBとが等しい場合、制動条件の成立時には解除条件は不成立となり、制動条件の不成立時には解除条件は成立することになる。しかしながら、このように設定してしまうと、回転数の変動等に起因して、解除条件が意図せずして満足される可能性がある。
【0310】
これに対し、本実施形態では、第1の解除基準値TBは、制動基準値TAよりも小さい。このように設定することで、制動条件と解除条件とが同時に成立したり、回転数の変動等に起因した、意図しない切り替えを抑制したりすることができる。これにより、制動の開始及び終了を、より適切に切り替えることができる。
【0311】
また、前述のように、惰性走行の制動を開始すると、回転数の時間変化Δrの絶対値は、さらに大きくなると考えられる。制動の開始条件を満たす方向に前記絶対値が変化するため、制動を解除して搬送を再開するには不都合となる。
【0312】
ここで、搬送を再開するために、ベッド10を強く押した場合を考える。この場合、ベッド10自体の加速度が、相対的に大きく変化するものと考えられる。
【0313】
そこで、
図16CのステップS425及びステップS426等に例示したように、コントローラ4は、ベッド10の加速度(縦加速度a
x)と第2の解除基準値T
Cとの大小関係を通じて、ベッド10が強く押されたか否かを判定する(第2の判定)。これにより、ベッド10に外力(特に、相対的に強い外力)が加わったことを判定し、より適切なタイミングで制動を終了することが可能になる。
【0314】
また、第1の判定と第2の判定を組み合わせることで、回転数の時間変化Δrと、ベッド10の加速度(縦加速度ax)の両面から、制動中に搬送が再開されたか否かを判定することが可能になる。これにより、ベッド10に加わる力が強いときと弱いときの双方で、より適切なタイミングで制動を終了することが可能になる。
【0315】
また、本実施形態に係る搬送補助装置1は、
図1及び
図2に例示したキャスタ付きベッド10のような重量物の惰性走行に際しても、メカニカルブレーキ等の専用部品を設けずに、その惰性走行を制動することができる。
【0316】
<他の実施形態>
前記実施形態では、ホイールに第1及び第2メカナムホイール21R,21Lを用いた構成が開示されていたが、そうした構成は必須ではない。本開示は、メカナムホイール以外のホイール、例えばオムニホイールに適用することもできる。ホイールの個数についても、2つには限定されない。例えば、本実施形態と同様にメカナムホイールを用いた場合は、その個数を4つにしてもよいし、オムニホイールを用いた場合は、その個数を3つ又は4つにしてもよい。また、ホイールの個数に応じて、モータの個数を変更してもよい。
【0317】
また、前記実施形態では、速度増加制御によって速度指令(並進速度の指令値)が増加されるように構成されていたが、そうした構成は必須ではない
例えば、ステップS32~S34において、速度指令に係る処理の代わりに指令回転数を増加させるような処理を実行してもよい。その場合、ステップS31とステップS32との間に、速度指令を指令回転数に変換するような処理が設けられることになる。
【0318】
また、
図16Bの処理は、一例に過ぎない。時間変化Δrの絶対値が制動基準値T
A以上であって、かつ回転数(縦回転数r
x)がゼロに向かって変化していることを判定できるような処理であれば、任意の処理を用いることができる。
【0319】
図19は、制動条件の成否判定に関する処理の別例を示すフローチャートである。
図19のステップS1411及びステップS1412の処理は、それぞれ、
図16BのステップS411及びステップS412の処理と実質的に同じである。
【0320】
ステップS1412から続くステップS1413において、コントローラ4は、時間変化Δrの絶対値が、制動基準値T
A以上であるか否かを判定する。続くステップS1414において、コントローラ4は、縦回転数r
x(
図10のステップS12に進んだ場合は横回転数r
y)と、時間変化Δrとが異符号であるか否かを判定する。
【0321】
コントローラ4は、ステップS1414の判定がYESの場合には、制御プロセスをステップS1415に進める。ステップS1415において、コントローラ4は、制動条件が成立したものと判定する。この場合、時間変化Δrの絶対値が制動基準値TA以上であって、かつ回転数(縦回転数rx)がゼロに向かって変化していると判断することができる。
【0322】
コントローラ4は、ステップS1414の判定がNOの場合には、制御プロセスをステップS1416に進める。ステップS1416において、コントローラ4は、制動条件が不成立と判定する。この場合、時間変化Δrの絶対値は制動基準値TA以上であるものの、回転数(縦回転数rx)がゼロに向かって変化していないと判断することができる。
【0323】
ステップS1414の判定がYESになる場合の一例として、縦回転数r
xが正かつ時間変化Δrが負の状況を考える。これは、縦回転数r
xが、正の値からゼロに向かって変化している状況に相当する。この状況は、
図16BのステップS415がYESになるような状況に他ならない。
【0324】
ステップS1414の判定がYESになる場合の別例として、縦回転数r
xが負かつ時間変化Δrが正の状況を考える。これは、縦回転数r
xが、負の値からゼロに向かって変化している状況に相当する。この状況は、
図16BのステップS416がYESになるような状況に他ならない。
【0325】
図16Bと
図19とで処理の詳細は違えども、制動条件が成立する状況、及び、制動条件が不成立となる状況は、互いに一致することになる。
【符号の説明】
【0326】
1 搬送補助装置
4 コントローラ
10 ベッド(対象物,キャスタ付きベッド)
14 キャスタ
14F 前輪
14B 後輪
21R 第1メカナムホイール(ホイール)
21L 第2メカナムホイール(ホイール)
22R 第1モータ(モータ)
22L 第2モータ(モータ)
SW1 第1電流センサ(電流センサ、状態センサ)
SW2 第2電流センサ(電流センサ、状態センサ)
SW3 第1回転センサ(状態センサ)
SW4 第2回転センサ(状態センサ)
T4 第4閾値(所定値)
T5 第5閾値(所定値)
TA 制動基準値
TB 第1の解除基準値
TC 第2の解除基準値