(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137784
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】等速自在継手用ブーツの取付構造
(51)【国際特許分類】
F16J 3/04 20060101AFI20240927BHJP
F16D 3/84 20060101ALI20240927BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16J3/04 C
F16D3/84 L
F16J15/52 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024036819
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2023048061
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】近藤 里奈
(72)【発明者】
【氏名】此本 武美
(72)【発明者】
【氏名】五十公野 純一
【テーマコード(参考)】
3J043
3J045
【Fターム(参考)】
3J043AA03
3J043FA04
3J043FA07
3J043FB04
3J045CB16
3J045CB17
3J045CB23
(57)【要約】
【課題】等速自在継手用ブーツの固定部をブーツバンドで締め付けることにより、上記固定部をブーツ被固定部に対して取付固定してなるブーツ取付構造において、ブーツバンドの締付力が多少弱くても高いシール性を確保可能とする。
【解決手段】ブーツ20の大径円筒部21の内周面に設けた環状凸部26を外側継手部材2のカップ部6の外周面6aに設けた第1環状溝8に嵌合すると共に、ブーツ被固定部Bの外周面6aのうち第1環状溝8の軸方向両側に設けた環状突起10を固定部Aの内周面21aに圧接させた状態で大径円筒部21の外周面をブーツバンド24で締め付けることにより、大径円筒部21をカップ部6に取付固定してなるブーツの取付構造である。ブーツ被固定部Bの外周面に、ブーツバンド24のバンド幅の範囲外で固定部Aの内周面21aを接触支持する支持部11が設けられ、この支持部11はブーツバンド24の軸方向両側に配置される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材料で筒状に形成された等速自在継手用ブーツの固定部の内周面に設けた環状凸部をブーツ取付対象部材のブーツ被固定部の外周面に設けた第1環状溝に嵌合すると共に、前記ブーツ被固定部の外周面のうち前記第1環状溝の軸方向両側に設けた環状突起を前記固定部の内周面に圧接させた状態で前記固定部の外周面に設けたバンド溝をブーツバンドで締め付けることにより、前記固定部を前記ブーツ被固定部に取付固定してなる等速自在継手用ブーツの取付構造であって、
前記ブーツ被固定部の外周面に、前記ブーツバンドのバンド幅の範囲外で前記固定部の内周面を接触支持した支持部が設けられ、該支持部が前記ブーツバンドの軸方向両側に配置されていることを特徴とする等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項2】
前記ブーツ被固定部の外周面に、前記環状突起と前記支持部の間に配置された第2環状溝が設けられ、該第2環状溝の溝幅方向の一端及び他端が、前記ブーツバンドのバンド幅の範囲外及び範囲内にそれぞれ配置されている請求項1に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項3】
前記ブーツ被固定部の外周面に、前記環状突起と前記支持部の間に配置された第2環状溝が設けられ、該第2環状溝の溝幅方向の一端及び他端が、前記バンド溝の溝幅の範囲外及び範囲内にそれぞれ配置されている請求項1に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項4】
前記固定部の外周面を前記ブーツバンドで締め付けていない状態における前記環状凸部の軸方向幅をW、前記第1環状溝の溝幅をW1、前記第2環状溝の溝幅をW2としたとき、W2<W<W1の関係式を満たす請求項2又は3に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項5】
前記固定部の外周面を前記ブーツバンドで締め付けていない状態における前記環状凸部の軸方向幅をW、前記第1環状溝の溝幅をW1、前記第2環状溝の溝幅をW2としたとき、W2<W1<Wの関係式を満たす請求項2又は3に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項6】
前記環状凸部を前記第1環状溝の溝底に対して非接触とし、前記固定部の内周面を前記第2環状溝の溝底に対して非接触とした請求項2又は3に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項7】
前記支持部の外径を前記環状突起の外径よりも大きくした請求項1~3の何れか一項に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項8】
前記ブーツ被固定部の外周面に、前記環状突起と前記支持部の間に配置された第2環状溝が設けられ、前記第1環状溝及び前記第2環状溝の少なくとも一方は、その断面形状が溝幅方向の中央部を通る軸直交平面で面対称のV字状である請求項1~3に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項9】
前記ブーツ被固定部に対して前記固定部が軸方向で正しく位置決めされていることを目視判定可能とする目印部が前記ブーツ取付対象部材に設けられている請求項1~3の何れか一項に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項10】
前記ブーツ被固定部が、等速自在継手の外側継手部材に設けられている請求項1~3の何れか一項に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項11】
前記外側継手部材は、内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成されたカップ部を有し、該カップ部のうち、継手中心よりも開口側にシフトした位置に前記ブーツ被固定部が設けられている請求項10に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【請求項12】
前記ブーツ被固定部が、等速自在継手の内側継手部材とトルク伝達可能に連結された軸部材に設けられている請求項1~3の何れか一項に記載の等速自在継手用ブーツの取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムや樹脂等の弾性材料で形成され、等速自在継手のシール部材として用いられる筒状のブーツ(等速自在継手用ブーツ)の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、車台上にエンジンや電動モータなどの駆動源を搭載した自動車は、駆動源の出力を駆動車輪に伝達するための動力伝達装置を備える。この種の動力伝達装置としては、例えば、自動車の車幅方向に離間して配置される固定式等速自在継手及び摺動式等速自在継手と、上記2つの等速自在継手の内側継手部材同士をトルク伝達可能に連結する軸部材とを備えたドライブシャフトがある。
【0003】
上記のドライブシャフトにおいて、軸部材と固定式等速自在継手の外側継手部材との間、及び軸部材と摺動式等速自在継手の外側継手部材との間には、ゴムや樹脂等の弾性材料で形成され、シール部材として機能する筒状のブーツ(等速自在継手用ブーツ)がそれぞれ設けられる。ブーツの軸方向一方側及び他方側の端部には円筒状の固定部がそれぞれ設けられており、これら固定部は、例えば、ブーツバンドと称される金属製の帯状部材で締め付けられることにより、ブーツの取付対象部材である外側継手部材及び軸部材のそれぞれに設けられたブーツ被固定部に取付固定される。これにより、継手内部に充填された潤滑剤の外部漏洩や継手内部への異物侵入が防止される。
【0004】
下記の特許文献1には、
図15(a)~(c)に示すように、ブーツ110の固定部111の内周面112に設けた環状の凸部113を外側継手部材100のブーツ被固定部101の外周面に設けた環状溝102に嵌合させた状態で、上記固定部111をブーツバンド115で締め付けてなるブーツの取付構造が開示されている。ブーツ被固定部101のうち環状溝102の軸方向両側(軸方向一方側及び他方側)には環状突起103が設けられており、ブーツ110の固定部111を外側継手部材100のブーツ被固定部101の外周に配置してから[
図15(b)参照]、ブーツ110の固定部111の外周面に設けたバンド溝114の溝底面をブーツバンド115で締め付けると、ブーツ110の固定部111が弾性的に縮径変形して環状突起103がブーツ110の固定部111の内周面112に食い込む[
図15(c)参照]。これにより、ブーツ110の固定部111の抜け強度及びシール性を高めることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のブーツ取付構造において、環状突起103の高さは、ブーツバンド115の締め付け時に、環状突起103が固定部111の内周面112に確実に食い込み、かつ、固定部111の内周面112が外側継手部材100のブーツ被固定部101の外周面104に密着するように設定するのが好ましい、とされている。係る取付構造を実現するには、ブーツ110の固定部111をブーツバンド115で強く締め付けることが必要であるところ、等速自在継手の構造上、ブーツ110の固定部111を強く締め付けることが難しい(締付力が弱いブーツバンド115を用いざるを得ない)場合も有る。そのような場合、
図15(c)に示す取付状態を実現できず、以下のような問題が生じ易くなる。
【0007】
まず、ブーツ被固定部101に設ける環状突起103の外径は、ブーツ110の固定部111をブーツ被固定部101の外周に配置したときに環状突起103が固定部111の内周面112に圧入(圧接)されるように、固定部111の内径よりも大きく設定されるのが一般的である。仮に、環状突起103の外径が固定部111の内径以下であると、ブーツ110の固定部111をブーツバンド115で締め付けた時にブーツ110の固定部111にシワができてブーツ被固定部101に対する固定部111の接触面圧が局所的に低くなり、所望のシール性を確保するのが難しくなるからである。
【0008】
環状突起103の外径がブーツ110の固定部111の内径よりも大きく設定された寸法関係のもとでブーツ110の固定部111をブーツ被固定部101の外周に配置すると、ブーツ110の固定部111は、
図16(a)中に実線で示すように、その軸方向中央部が軸方向両端部よりも径方向外側に位置した「太鼓状」形態に弾性変形する。この状態でブーツ110の固定部111(の外周面に設けたバンド溝114の溝底面)をブーツバンド115で締め付けても、ブーツバンド115の締付力が弱いと、
図16(b)及び
図16(c)に示すように、ブーツバンド115は、そのバンド幅の略全域をバンド溝114の溝底面に対して接触させることが困難である。
【0009】
そして、等速自在継手が作動角をとった状態で回転するときには、ブーツ110の軸方向中央領域(に設けられる蛇腹部)が繰り返し屈曲及び伸縮変形するのに伴って、固定部111を締め付けたブーツバンド115に対して
図16(c)中に黒塗り矢印で示すような力が作用する。そのため、ブーツバンド115の締付力が不十分であると、ブーツバンド115が軸方向に対して傾き、その結果、ブーツ110の固定部111に対する環状突起103の接触力の低下や、軸方向でのブーツバンド115の位置ズレなどに起因したシール性の低下を招く。
【0010】
そこで、本発明は、ブーツバンドを締め付けることでブーツの固定部をその取付対象部材のブーツ被固定部に対して取付固定してなるブーツの取付構造において、ブーツバンドの締付力が多少弱くても高いシール性を確保可能とすることを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、弾性材料で筒状に形成された等速自在継手用ブーツの固定部の内周面に設けた環状凸部をブーツ取付対象部材のブーツ被固定部の外周面に設けた第1環状溝に嵌合すると共に、上記ブーツ被固定部の外周面のうち上記第1環状溝の軸方向両側に設けた環状突起を上記固定部の内周面に圧接させた状態で上記固定部の外周面に設けたバンド溝をブーツバンドで締め付けることにより、上記固定部を上記ブーツ被固定部に取付固定してなる等速自在継手用ブーツの取付構造であって、上記ブーツ被固定部の外周面に、上記ブーツバンドのバンド幅の範囲外で上記固定部の内周面を接触支持した支持部が設けられ、この支持部がブーツバンドの軸方向両側に配置されていることを特徴とする。なお、「ブーツバンドのバンド幅の範囲外」とは、
図3中に符号Waで示す「ブーツバンドのバンド幅(の範囲)」の外側である。
【0012】
上記のような支持部をブーツ被固定部の外周面のうち、ブーツバンドの軸方向両側(ブーツバンドの軸方向一方側及び他方側のそれぞれ)に設けておけば、等速自在継手用ブーツ(以下、単に「ブーツ」とも言う。)の固定部の内周面の軸方向一方側及び他方側の端部をそれぞれ接触支持することができるので、ブーツの固定部をブーツ取付対象部材のブーツ被固定部の外周に配置したとき、あるいはブーツバンドの締め付けに伴ってブーツの固定部が弾性的に縮径変形したとき、ブーツの固定部の外周面が
図16(a)等に示したような「太鼓状」の形態になるのを可及的に防止し、固定部の外周面を径一定の円筒面状に保持することが可能となる。この場合、ブーツバンドの締付力が多少弱くても、ブーツバンドの締め付け後には、ブーツバンドのバンド幅方向の両端部も含め、ブーツバンドの内周面全域をブーツの固定部の外周面に設けたバンド溝の溝底面に接触させることが可能となるので、ブーツバンドにこれを軸方向に対して傾斜させるような力が作用しても、ブーツバンドが軸方向に対して傾いたり、ブーツバンドが軸方向に位置ズレしたりし難くなる。従って、ブーツの固定部の内周面とブーツ取付対象部材のブーツ被固定部の外周面の密着(接触)状態が解除されるのを防止し、高いシール性を確保することができる。
【0013】
上記支持部をブーツ被固定部の外周面に設けた場合、ブーツ被固定部の外周面のうち、環状突起と上記支持部の間には第2環状溝を設けることができる。この場合、ブーツの固定部の外周面をブーツバンドで締め付けると、固定部の肉(詳細には、固定部のうち第2環状溝に面する部分の肉)の一部を第2環状溝に入り込ませることができる。特に、第2環状溝の溝幅方向の一端及び他端を、ブーツバンドのバンド幅の範囲外及び範囲内にそれぞれ配置しておけば、ブーツバンドの締め付けに伴って流動する固定部の肉の一部をブーツバンドのバンド幅方向の外側に逃がすことができる。これにより、ブーツバンドの締め付けに伴って固定部に生じる反力(弾性復元力)を減じることができるので、ブーツバンドの締付性を高めることができる。
【0014】
また、ブーツ被固定部の外周面に上記の第2環状溝を設けた場合、この環状溝の溝幅方向の一端及び他端は、バンド溝の溝幅の範囲外及び範囲内にそれぞれ配置するのが好ましい。このようにすれば、ブーツの固定部の内周面とブーツ被固定部の外周面の接触態様を適正化することができるので、シール性の低下を防止することができる。
【0015】
上記の構成において、ブーツの固定部の外周面をブーツバンドで締め付けていない状態における環状凸部の軸方向幅をW、第1環状溝の溝幅をW1、第2環状溝の溝幅をW2としたとき、W2<W<W1の関係式を満たすようにしても良い。このようにすれば、ブーツの固定部をブーツ取付対象部材のブーツ被固定部の外周に装着する際に、固定部内周に設けた環状凸部が第2環状溝に誤嵌合されるのを防止し、環状凸部を第1環状溝に正しく嵌合することができる。環状凸部が第1環状溝に嵌合されれば、ブーツとその取付対象部材との軸方向における相対的な位置決めを完了することができるので、ブーツバンドを精度良く締め付け易くなる。
【0016】
上記の構成において、ブーツの固定部の外周面をブーツバンドで締め付けていない状態における環状凸部の軸方向幅をW、第1環状溝の溝幅をW1、第2環状溝の溝幅をW2としたとき、W2<W1<Wの関係式を満たすようにしても良い。このようにすれば、ブーツとその取付対象部材との密着性を高め、シール性の向上効果を期待できる。
【0017】
ブーツバンドの締め付けに伴ってブーツの固定部に生じる反力を抑制し、ブーツバンドの締付性を高めるため、環状凸部を第1環状溝の溝底に対して非接触にすると共に、ブーツの固定部の内周面を第2環状溝の溝底に対して非接触にするのが好ましい。
【0018】
上記の構成において、支持部の外径を環状突起の外径よりも(僅かに)大きく設定しても良い。このようにすれば、環状突起等が設けられた外側継手部材(ブーツ未装着の外側継手部材)を複数本まとめて運搬等する際に、隣り合う2本の外側継手部材の環状突起同士が接触し、環状突起にキズ等の欠陥が生じる可能性を減じることができる。
【0019】
ブーツ被固定部の外周面には、ブーツの固定部に設けた環状凸部が嵌合される第1環状溝に加え、環状突起と支持部の間に配置された第2環状溝を設けることができる。この場合、第1環状溝及び第2環状溝の少なくとも一方は、その断面形状が当該環状溝の溝幅方向の中央部を通る軸直交平面で面対称のV字状となるように形成することができる。
【0020】
本発明に係るブーツ取付構造においては、ブーツ被固定部に対してブーツの固定部が軸方向で正しく位置決めされていることを目視判定可能とする目印部をブーツ取付対象部材に設けることもできる。これにより、ブーツをその取付対象部材に対して容易にかつ正確に取り付けることが可能となる。
【0021】
ブーツ被固定部は、等速自在継手の外側継手部材、あるいは等速自在継手の内側継手部材とトルク伝達可能に連結された軸部材に設けることができる。すなわち、本発明は外側継手部材に対するブーツの取付構造に適用することができる他、軸部材に対するブーツの取付構造に適用することもできる。なお、外側継手部材は、内周面に軸方向に延びる複数のトラック溝が形成された有底椀状のカップ部を有し、このカップ部のうち、継手中心よりも開口側にシフトした位置にブーツ被固定部が設けられたものとすることができる。
【0022】
また、本発明は、ブーツを形成する弾性材料がゴム材料であるか、あるいは樹脂材料であるか、すなわちブーツがいわゆるゴムブーツであるか、あるいは樹脂ブーツであるかを問わず適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上に示すように、本発明によれば、ブーツバンドを締め付けることでブーツの固定部をその取付対象部材のブーツ被固定部に対して取付固定してなる等速自在継手用ブーツの取付構造において、ブーツバンドの締付力が多少弱くても高いシール性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係るブーツ取付構造を採用した等速自在継手の縦断面図である。
【
図2】
図1に示す等速自在継手の外側継手部材及びブーツの一部を抜き出して示す拡大図である。
【
図4】
図1に示す等速自在継手を構成する外側継手部材とブーツの部分拡大断面図であって、(a)図は、外側継手部材に対してブーツを取り付ける前の状態を示す図、(b)図は、外側継手部材のブーツ被固定部の外周にブーツの固定部を配置した状態を示す図、(c)図は、ブーツ被固定部の外周にブーツの固定部を配置した後で、かつブーツバンド締付前の状態を示す図、(d)図は、ブーツバンドを締め付けている最中の状態を示す図である。
【
図5】本発明を採用していないブーツ取付構造の拡大断面図である。
【
図6】(a)図は、本発明の他の実施形態に係るブーツ取付構造における外側継手部材のブーツ被固定部を示す図、(b)図は、(a)図に示すブーツ被固定部の外周に配置したブーツの固定部をブーツバンドで締め付けた状態を示す図である。
【
図7】(a)図は、本発明の他の実施形態に係るブーツ取付構造における外側継手部材のブーツ被固定部を示す図、(b)図は、(a)図に示すブーツ被固定部の外周に配置したブーツの固定部をブーツバンドで締め付けた状態を示す図である。
【
図8】(a)図は、締付前のワンタッチバンドの平面図、(b)図は、締付後のワンタッチバンドの平面図である。
【
図9】(a)図は、締付前のオメガバンドの平面図、(b)図は、締付後のオメガバンドの平面図である。
【
図10】(a)図は、締付前のロープロファイルバンドの平面図、(b)図は、締付後のロープロファイルバンドの平面図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係るブーツ取付構造における外側継手部材のブーツ被固定部に段差が設けられている部分の拡大断面図である。
【
図12】ブーツ被固定部に対してブーツの固定部が誤った軸方向位置で位置決めされた状態を示す断面図である。
【
図13】(a)図~(d)図は、何れも、本発明の実施形態に係るブーツ取付構造において、目印部が設けられた外側継手部材を概念的に示す断面図である。
【
図14】(a)図は、本発明の他の実施形態に係るブーツ取付構造を実現するために採用されるブーツの固定部及び外側継手部材のブーツ被固定部を示す図、(b)図は、(a)図に示す固定部をブーツバンドで締め付ける直前の状態を概念的に示す図である。
【
図15】従来のブーツ取付構造を説明するための概略断面図であって、(a)図は、ブーツの固定部をブーツ被固定部の外周に配置する前の状態を示す図、(b)図は、ブーツ被固定部の外周にブーツの固定部を配置した後で、かつブーツバンド締付前の状態を示す図、(c)図は、ブーツの固定部をブーツバンドで締め付けた状態を示す図、である。
【
図16】従来のブーツ取付構造の問題点を説明するための概略断面図であって、(a)図は、ブーツ被固定部の外周にブーツの固定部を配置した状態を示す図、(b)図は、ブーツバンド締付前の状態を示す図、(c)図は、ブーツの固定部をブーツバンドで締め付けた状態を示す図、である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るブーツ取付構造を採用した等速自在継手(ブーツ付等速自在継手)の縦断面図であり、より具体的には、同等速自在継手の作動角0°の状態における縦断面図である。同図に示す等速自在継手1は、連結すべき二軸(駆動軸及び従動軸)の相対的な角度変位のみを許容する固定式等速自在継手であり、外側継手部材2、内側継手部材3、複数のボール4及び保持器5を備える。この固定式等速自在継手1は、例えば、図示しない摺動式等速自在継手などとともに自動車のドライブシャフトを構成するものであり、ドライブシャフトが自動車に組み込まれた状態では駆動車輪側(アウトボード側)に配置される。なお、
図1では、紙面左側がアウトボード側であり、紙面右側がインボード側である。以下の説明では、アウトボード側を「軸方向一方側」と、また、インボード側を「軸方向他方側」ともいう。
【0027】
外側継手部材2は、有底椀状のカップ部6と、カップ部6の底部から軸方向一方側に延びた軸部7とを一体に有する。カップ部6の内周面(球状内周面)には、円弧状をなした複数の外側トラック溝2aが周方向等間隔で形成されている。図示は省略しているが、カップ部6の内部空間にはグリース等の潤滑剤が充填されている。
【0028】
内側継手部材3は球状外周面を有し、この球状外周面には、外側継手部材2の外側トラック溝2aと対をなす円弧状をなした複数の内側トラック溝3aが周方向等間隔で形成されている。内側継手部材3は、その両端面に開口した軸孔を有し、この軸孔に軸部材15の軸方向一方側の端部がスプライン嵌合されている。軸部材15の外周面には環状溝が形成され、この環状溝に止め輪が取り付けられている。軸部材15は、上記止め輪を内側継手部材3と軸方向で係合させることにより、内側継手部材3に対して抜け止めされている。
【0029】
ボール4は、対をなす外側トラック溝2aと内側トラック溝3aの間に介在して両継手部材2,3の間でトルクを伝達する。外側継手部材2の球状内周面と内側継手部材3の球状外周面との間に配置された円環状の保持器5は、複数のボール4を周方向に間隔を空けて保持している。
【0030】
外側継手部材2と軸部材15の間には、熱可塑性エラストマーを主原料とする樹脂材料で筒状に形成され、シール部材として機能するブーツ(等速自在継手用ブーツ)20が設けられている。このブーツ20は、例えばプレスブロー等のブロー成形によって所定形状に形成されており、軸方向一方側の端部に設けられ、外側継手部材2のカップ部6に対して取付固定された大径円筒部21と、軸方向他方側の端部に設けられ、軸部材15の大径部16に対して取付固定された小径円筒部22と、大径円筒部21と小径円筒部22の間に設けられた蛇腹部23とを一体に有する。蛇腹部23は、外側継手部材2と内側継手部材3(に連結された軸部材15)とが相対的に角度変位するのに伴って弾性的に屈曲及び伸縮変形する。
【0031】
ブーツ20の大径円筒部21は、その外周面(に設けられた環状のバンド溝21bの溝底面)をブーツバンド24で締め付けることにより、外側継手部材2のカップ部6に対して取付固定されている。また、ブーツ20の小径円筒部22は、その外周面(に設けられた環状のバンド溝の溝底面)をブーツバンド25で締め付けることにより、軸部材10の大径部11に対して取付固定されている。上記態様でブーツ20が外側継手部材2及び軸部材11に対して取り付けられることにより、カップ部6の内部空間(継手内部)に充填された潤滑剤の外部漏洩、および継手内部への異物侵入が可及的に防止される。
【0032】
ブーツバンド24,25には、例えば、
図8(a)(b)に示すワンタッチバンド、
図9(a)(b)に示すオメガバンド、又は
図10(a)(b)に示すロープロファイルバンドなどといった公知のバンドを使用することができる。ブーツバンド24,25は、同種のブーツバンドを使用しても良いし、互いに異なる種類のブーツバンドを使用しても良い。
【0033】
ワンタッチバンドとは、レバー部材32をバンド本体31に沿って倒す(折り曲げる)ことにより環状のバンド本体31を縮径させた後、重ね合わせたレバー部材32とバンド本体31とを止め具33にて固定することにより締付力が発生するバンドである。このバンドの締付力は、バンド本体31の内径により決定付けられるため、基本的に調整できない。オメガバンドとは、円環状に丸められた状態のバンド本体34のクランプ部35をオメガ(Ω)形状に加締めることにより締付力が発生するバンドであり、このバンドの締付力はクランプ部35の加締め量に応じて調整可能である。ロープロファイルバンドとは、バンド本体36の一端37をバンド本体36の外周に設けたフック部38に引っ掛けて係止することにより締付力が発生するバンドである。このバンドの締付力は、ワンタッチバンドと同様、バンド本体36の内径により決定付けられるため、基本的に調整できない。
【0034】
この等速自在継手1において、外側継手部材2のカップ部6に対するブーツ20の大径円筒部21の取付には、本発明の実施形態に係るブーツの取付構造が適用されている。そのため、ブーツ20の大径円筒部21は本発明で言う「固定部(A)」に相当し、カップ部6のうち大径円筒部21が取付固定される部分は本発明で言う「ブーツ被固定部(B)」に相当する。以下、
図2~
図4を参照して、本発明の一実施形態に係るブーツの取付構造を詳細に説明する。
【0035】
まず、
図3及び
図4(a)に示すように、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aには、内径側に突出した環状凸部26が設けられている。大径円筒部21の内周面には環状凸部26以外の凸部や凹部が設けられておらず、大径円筒部21の内周面は、環状凸部26が設けられた部位を除いて径一定の円筒面に形成されている。また、大径円筒部21の外周面には、ブーツバンド24を収容する環状のバンド溝21bが設けられている。バンド溝21bを形成する内壁面21c,21d間の離間距離(バンド溝21bの溝幅)Wbは、ブーツバンド24のバンド幅Waよりも所定量大きく設定されている(Wb>Wa)。
【0036】
図4(a)に示すように、カップ部6に設けられたブーツ被固定部Bの外周面6aには、第1環状溝8と、第1環状溝8の軸方向両側に配置された2つの第2環状溝9とが軸方向に間隔を空けて形成されている。第1環状溝8は、その溝幅W1が第2環状溝9の溝幅W2よりも大きく形成されると共に(W1>W2)、その溝深さが第2環状溝9の溝深さよりも大きく形成されている。第1環状溝8と2つの第2環状溝9の間の軸方向領域は、両環状溝8,9よりも外径側に突出した環状突起10となっている。本実施形態においては、環状突起10の外径端がカップ部6の外周面6aで構成されるため、環状突起10の外径端はカップ部6の外周面6aと同一の径方向位置に位置している。環状突起10の外径Dbは、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aの内径Daよりも所定量大きく設定されている(Db>Da)。
【0037】
図3及び
図4(c)等に示すように、2つの環状突起10は、全体が大径円筒部21を締め付けるブーツバンド24のバンド幅Wa(及びブーツバンド24を収容するバンド溝21bの溝幅Wb)の範囲内に配置されるように設けられる。一方、各第2環状溝9は、溝幅方向の一端9aがブーツバンド24のバンド幅Wa(及びバンド溝21bの溝幅Wb)の範囲外に配置されると共に溝幅方向の他端9bがブーツバンド24のバンド幅Wa(及びバンド溝21bの溝幅Wb)の範囲内に配置されるように設けられている。
【0038】
ブーツ被固定部Bの外周面6aには、ブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外でブーツ20の大径円筒部21の内周面21aを接触支持する支持部11が設けられ、この支持部11は、ブーツバンド24の軸方向両側に配置されている。本実施形態では、軸方向一方側の第2環状溝9に連続するカップ部6の外周面6aで一方側の支持部11が構成されると共に、軸方向他方側の第2環状溝9に連続するカップ部6の外周面6aで他方側の支持部11が構成される。従って、本実施形態では、カップ部6の外周面6aの軸方向所定位置に、所定の溝幅及び溝深さを有する第1環状溝8及び2つの第2環状溝9を形成すると、それと同時に2つの環状突起10及び2つの支持部11が得られる。第1環状溝8及び第2環状溝9は、例えば、機械加工の一種である旋削加工によって形成される。
【0039】
そして、
図4(a)に示すように、以上の構成を有するブーツ20の大径円筒部21及び外側継手部材2のカップ部6を同軸に配置してから両者を相対的に接近移動させ、
図4(b)に示すようにカップ部6のブーツ被固定部Bの外周に固定部Aとしてのブーツ20の大径円筒部21を配置する。このとき、大径円筒部21の内周面21aに設けた環状凸部26(の全体)をブーツ被固定部Bに設けた第1環状溝8に嵌合させる。そのため、環状凸部26の軸方向幅W(ブーツバンド24の締付前における環状凸部26の軸方向幅W)は、第1環状溝8の溝幅W1よりも小さく設定される(W<W1)が、第2環状溝9の溝幅W2よりも大きく設定される(W>W2)。つまり、W2<W<W1の関係式(不等式)が成立するように各幅が設定される。この場合、ブーツ20の大径円筒部21(固定部A)をカップ部6のブーツ被固定部Bの外周に配置する際に、環状凸部26の全体が第2環状溝9に嵌まり込むのを防止することができる。そのため、ブーツ被固定部Bに対する固定部Aの軸方向の相対的な位置決めを精度良く行うことができる。
【0040】
また、カップ部6のブーツ被固定部Bに設けた環状突起10の外径Dbは、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aの内径Daよりも大きい(Db>Da)ことから、ブーツ被固定部Bの外周にブーツ20の大径円筒部21を配置すると、環状突起10は、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aに対して圧接される。
【0041】
以上のようにして、カップ部6のブーツ被固定部Bの外周にブーツ20の大径円筒部21を配置した後、
図4(c)に示すように大径円筒部21の外周にブーツバンド24を配置し、このブーツバンド24で大径円筒部21の外周面(に設けたバンド溝21bの溝底面)を締め付ける。
【0042】
本実施形態では、
図3に示すように、外側継手部材2のカップ部6に設けたブーツ被固定部Bの外周面に、ブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外でブーツ20の大径円筒部21の内周面21aを接触支持する支持部11が設けられ、この支持部11はブーツバンド24の軸方向両側に配置されて大径円筒部21の内周面21aの軸方向一方側及び他方側の端部を支持している。係る構成によれば、ブーツ20の大径円筒部21をカップ部6のブーツ被固定部Bの外周に配置したとき[
図4(b)参照]、ブーツ20の大径円筒部21の外周面(バンド溝21bの溝底面)が
図16(a)等に示したような「太鼓状」の形態になるのを可及的に防止し、大径円筒部21の外周面を径一定の円筒面状に保持することが可能となる。
【0043】
この場合、ブーツバンド24の締付力が多少弱くても、ブーツバンド24の締付後には、ブーツバンド24のバンド幅方向の両端部も含め、ブーツバンド24の内周面全域を大径円筒部21の外周面に接触させることが可能となる。そのため、ブーツバンド24にこれを軸方向に対して傾斜させるような力が作用しても、ブーツバンド24が軸方向に対して傾いたり、軸方向に位置ズレしたりし難くなる。従って、ブーツバンド24として、
図9(a)(b)に示すオメガバンドを使用する場合はもちろんのこと、オメガバンドに比べて高い締付力を得ることが難しい、
図8(a)(b)に示すワンタッチバンド又は
図10(a)(b)に示すロープロファイルバンドを用いた場合でも、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aとカップ部6のブーツ被固定部Bの外周面とを適正に密着させ、必要とされる高いシール性を確保することができる。
【0044】
また、
図3等に示すように、カップ部6のブーツ被固定部Bの外周面6aには、第1環状溝8の軸方向両側に配置されるように2つの第2環状溝9を設けており、しかも各第2環状溝9の溝幅方向の一端9a及び他端9bは、ブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外及び範囲内にそれぞれ配置されているので、ブーツバンド24の締め付けに伴って流動する大径円筒部21の肉の一部をブーツバンド24のバンド幅方向の外側に逃がすことができる[
図4(d)の黒塗り矢印を参照]。これにより、ブーツバンド24の締め付けに伴ってブーツ20の大径円筒部21に生じる反力(弾性復元力)を減じることができるので、ブーツバンド24の締付性を一層高めることができる。
【0045】
ブーツバンド24の締め付けに伴い、
図4(d)に示すように、ブーツ20の大径円筒部21にこれを縮径変形させる締付力Fが付与されると、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aがカップ部6のブーツ被固定部Bの外周面6aに強く押し付けられるので、大径円筒部21の内周面21aに圧接した環状突起10が大径円筒部21にめり込む他、大径円筒部21の肉の一部(第2環状溝9に面する部分)の肉が第2環状溝9に入り込み、大径円筒部21に、
図3及び
図4(d)に示すような、第2環状溝9と軸方向で係合可能な肉の盛り上がり(隆起部)が形成される。以上から、ブーツバンド24を締め付けると、ブーツ20の大径円筒部21(固定部A)とカップ部6のブーツ被固定部Bとの間に両者を軸方向で係合させる凹凸嵌合部が形成されるので、ブーツ20の大径円筒部21の抜け強度を高めることができる。
【0046】
なお、ブーツバンド24の締付時に第1環状溝8及び第2環状溝9の溝底にブーツ20の大径円筒部21の肉が接触すると、ブーツバンド24の締め付けに伴って大径円筒部21に生じる反力が大きくなり、ブーツバンド24の締付性が悪くなる。そのため、第1環状溝8及び第2環状溝9の溝深さ(容積)は、ブーツバンド24の締付時及び締付後に、大径円筒部21の肉が第1環状溝8及び第2環状溝9の溝底に接触しないように設定される。従って、ブーツバンド24の締付後には、
図3に示すように、第1環状溝8及び第2環状溝9の溝底とブーツ20の大径円筒部21との間にすきまが存在する。
【0047】
カップ部6に、第1環状溝8及びその軸方向両側に配置された2つの第2環状溝9を設けた場合、これら環状溝8,9を設けない場合に比べると、カップ部6の肉厚(体積)が減じられる分、カップ部6の強度低下が懸念される。この点については、
図2に示すように、カップ部6のうち、その最薄肉部である継手中心Oを通る軸直交平面P上の部分よりも軸方向他方側(カップ部6の開口側)にシフトした、最薄肉部よりも厚肉の部分をブーツ被固定部Bとし、このブーツ被固定部Bに第1環状溝8及び第2環状溝9を設けているので、カップ部6の体積減少によるカップ部6の強度への悪影響は抑制される。
【0048】
ところで、以上で説明した実施形態においては、
図3及び
図4(c)等に示すように、各第2環状溝9の溝幅方向の一端9a及び他端9bを、ブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外及び範囲内にそれぞれ配置すると共に、ブーツバンド24を収容したバンド溝21bのバンド幅Wbの範囲外及び範囲内にそれぞれ配置している。係る構成とは異なり、仮に
図5に示すように、2つの第2環状溝9の一方(
図5においては紙面左側の第2環状溝9)の一端9a及び他端9bが双方共にバンド溝21bの溝幅Wbの範囲内(さらにはブーツバンド24のバンド幅Waの範囲内)に位置していると、ブーツバンド24の締付力は、紙面左側の支持部11と2つの環状突起10とに直接的に作用する一方で、紙面右側の支持部11に作用しない。この場合、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aとカップ部6の外周面6aの接触面圧が軸方向で不均一となるので所望のシール性を確保することができなくなるおそれがある。
【0049】
このため、
図3に示すように、カップ部6のブーツ被固定部Bの外周面6aのうち、環状突起10と支持部11の軸方向間に第2環状溝9を設けた場合には、(各)第2環状溝9の溝幅方向の一端9a及び他端9bを、ブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外及び範囲内にそれぞれ配置すると共に、ブーツバンド24を収容したバンド溝21bのバンド幅Wbの範囲外及び範囲内にそれぞれ配置するのが好ましい。これにより、ブーツ20の大径円筒部21の内周面21aとカップ部6の外周面6aとを適正に接触させて、所望のシール性を確保することができる。
【0050】
図6(a)は、本発明の他の実施形態に係るブーツ取付構造における外側継手部材のブーツ被固定部の部分拡大断面図、
図6(b)は、
図6(a)に示すブーツ被固定部の外周に配置したブーツの固定部をブーツバンドで締め付けた状態を示す図である。この実施形態では、外側継手部材2のカップ部6のブーツ被固定部Bに設ける第1環状溝8及び第2環状溝9の断面形状が、以上で説明した実施形態とは異なる。
【0051】
具体的に説明すると、第1環状溝8は、軸方向(カップ部6の外周面6a)に対して角度θ傾斜した傾斜面8aと、この傾斜面8aの軸方向他方側に隣接配置され、傾斜面8aの小径側端部とカップ部6の外周面6aとを接続する曲率半径Rの円弧面8bとで形成される。また、第2環状溝9は、第1環状溝8を形成する傾斜面8aと同じく軸方向に対して角度θ傾斜した傾斜面9aと、傾斜面9aの小径側端部とカップ部6の外周面6aとを接続するように配置され、曲率半径を上記円弧面8bの曲率半径Rと同じくした円弧面9bとで形成される。上記の傾斜面8a,9aの傾斜角θは、25°以上30°以下に設定される。
【0052】
第1環状溝8及び第2環状溝9は、カップ部6のブーツ被取付部Bの外周面6aを旋削することによって形成され、両環状溝8,9の断面形状は、旋削チップの断面形状に対応した形状となっている。詳細には、円弧面8b,9bは、旋削チップのノーズのアール形状に対応した円弧面とされ、傾斜面8a,9aは、旋削チップの傾きに対応した傾斜面とされる。
【0053】
そして、第1環状溝8を構成する傾斜面8a及び円弧面8bの配置と、第2環状溝9を構成する傾斜面9a及び円弧面9bの配置とは同じであることから、環状溝8,9を形成するための旋削加工は、例えば、カップ部6の外周面6aに対して所定角度傾斜した傾斜姿勢の旋削チップをカップ部6の底部側(軸方向一方側)からカップ部6の開口側(軸方向他方側)に段階的に移動させ、軸方向一方側の第2環状溝9→第1環状溝8→軸方向他方側の第2環状溝9の順に環状溝8,9を形成するように行われる。従って、本実施形態の環状溝8,9の形状は、旋削加工の加工性に優れ、等速自在継手1のコスト上昇を抑制する上で有利である。
【0054】
図7(a)は、本発明の他の実施形態に係るブーツ取付構造における外側継手部材のブーツ被固定部の部分拡大断面図、(b)図は、
図7(a)に示すブーツ被固定部の外周に配置したブーツの固定部をブーツバンドで締め付けた状態を示す図である。この実施形態では、カップ部6のブーツ被固定部Bに設ける第1環状溝8及び第2環状溝9の断面形状を、
図6に示したものから変更している。
【0055】
具体的には、第1環状溝8及び第2環状溝9が、何れも、軸方向に対して互いに反対方向に角度θだけ傾斜した一対の傾斜面と、両傾斜面の小径側端部同士を滑らかに接続する曲率半径Rの円弧面とで形成されたV字形状(環状溝の溝幅方向の中央部を通る軸直交平面で面対称のV字形状)に形成されている。上記傾斜面の傾斜角θは、
図6等に示す実施形態と同様に25°以上30°以下に設定される。
【0056】
両環状溝8,9は、カップ部6のブーツ被取付部Bの外周面6aを旋削することによって形成され、両環状溝8,9の断面形状は、旋削チップの断面形状に対応している。すなわち、円弧面は、旋削チップのノーズのアール形状に対応した円弧面とされ、傾斜面は、旋削チップの傾きに対応した傾斜面とされる。この場合、環状溝8,9を形成するための旋削加工は、例えば、旋削チップをカップ部6の底部側から開口側に、もしくはカップ部6の開口側から底部側に段階的に移動させ、軸方向における環状溝8,9の配置順、すなわち一方の第2環状溝9→第1環状溝8→他方の第2環状溝9の順に環状溝8,9を形成するように行う。
【0057】
従って、本実施形態の環状溝8,9は、旋削加工の加工性に一層優れる。そのため、外側継手部材2の製造過程で実施される旋削工程の設計自由度を高めることができ、旋削工程のサイクルタイムの短縮化、ひいては旋削加工コストの低減に寄与することができる。
【0058】
図6及び
図7に示す実施形態においても、
図3に示す実施形態と同様の構成を採用している。すなわち、
図6及び
図7に示す実施形態においても
・カップ部6のブーツ被固定部Bの外周面6aには、ブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外でブーツ20の大径円筒部21(固定部A)の内周面21aを接触支持する支持部11が設けられ、この支持部11がブーツバンド24の両側に設けられ、
・カップ部6のブーツ被固定部Bの外周面6aには、第1環状溝8と、第1環状溝8の軸方向両側に配置された2つの第2環状溝9とが軸方向に間隔を空けて設けられ、各第2環状溝9は、その溝幅方向の一端9aがブーツバンド24のバンド幅Waの範囲外に配置されると共にその溝幅方向の他端9bがブーツバンド24のバンド幅Waの範囲内に配置されるように設けられている。そのため、この実施形態に係るブーツ取付構造においても、前述した第1実施形態のブーツ取付構造と同様の作用効果(メリット)を享受することができる。
【0059】
以上で説明した本発明の実施形態に係るブーツ取付構造(を採用した等速自在継手1)には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことができる。
【0060】
例えば、以上で説明した実施形態では、
図4(a)に示すように、カップ部6のブーツ被固定部Bに設ける支持部11を環状突起10の外径端と同じ径方向位置に配置した(支持部11の外径を環状突起10の外径Dbと同径とした)が、支持部11は、環状突起10の外径端よりも僅かに径方向外側又は径方向内側に配置されるように設けることもできる。すなわち、支持部11は、ブーツバンド24の締付後にブーツ20の大径円筒部21の内周面21a(の軸方向一方側及び他方側の端部)を接触支持するように設けられていれば良く、ブーツ被固定部Bの外周にブーツ20の大径円筒部21を配置した段階[例えば、
図4(b)に示す段階]や、大径円筒部21をブーツバンド24で締め付けている最中には、大径円筒部21の内周面21aに接触していなくても構わない。
【0061】
支持部11の外径Dcを環状突起10の外径Dbと異ならせる場合の具体的な一例を
図11に拡大して示す。
図11においては、支持部11の外径Dcを環状突起10の外径Dbよりも僅かに大きく設定しており、具体的には、支持部11の外径Dcを環状突起10の外径Dbよりも0.01mm以上0.3mm以下の範囲内で大きく設定している。つまり、この実施形態では、0.01mm≦(Dc-Db)≦0.3mm、という関係式が成立するようにしている。このように、支持部11の外径Dcを環状突起10の外径Dbよりも僅かに大きくしておけば、環状突起10等が設けられた外側継手部材2(ブーツ20未装着の外側継手部材2)を複数本まとめて運搬等する際に、隣り合う2本の外側継手部材2の環状突起10同士が接触し、環状突起10にキズ等の欠陥が生じる可能性を減じることができる。
【0062】
以上で説明した実施形態では、
図4(a)に示すように、固定部Aとしてのブーツ20の大径円筒部21に設けた環状凸部26の軸方向幅Wと、カップ部6のブーツ被固定部Bに設けた第1環状溝8の溝幅W1及び第2環状溝9の溝幅W2との間に、W2<W<W1の関係式が成立するようにした。そのため、ブーツ20の大径円筒部21をカップ部6のブーツ被固定部Bの外周に配置した際に、環状凸部26の全体が第2環状溝9に嵌まり込むことは防止できるものの、
図12に示すように、環状凸部26の先端側の一部が第2環状溝9に嵌まり込んでしまい、ブーツ被固定部Bに対してブーツ20の大径円筒部21が誤った軸方向位置で位置決めされる可能性があることは否定できない。
【0063】
そのため、ブーツ被固定部Bには、
図13(a)~(d)のそれぞれに示すような目印部Qを設けても良い。この目印部Qは、ブーツ被固定部Bに対してブーツ20の固定部Aが軸方向で正しく位置決めされていることを目視判定可能とする部位であり、ブーツ被固定部Bのうち固定部Aの正規の取付位置の軸方向外側(ここでは、カップ部6の底部側)に設けるのが肝要である。
【0064】
なお、
図13(a)は、カップ部6の外周面6aに設けた環状溝41で上記の目印部Qを構成した場合の一例であり、
図13(b)は、カップ部6に設けた段差面42で目印部Qを構成した場合の一例であり、
図13(c)は、カップ部6の外周面6aに設けた粗面部(他の部位よりも粗面に形成された部位)43で目印部Qを構成した場合の一例であり、
図13(d)は、カップ部6の外周面6aに形成した着色部(他の部位とは異なる色を付した部位)44で目印部Qを構成した場合の一例である。目印部Qとしては、上記の環状溝41、段差面42、粗面部43及び着色部44以外のものを採用することも可能である。
【0065】
以上で説明した実施形態では、
図4(a)に示すように、外側継手部材2のカップ部6(ブーツ被固定部B)に対するブーツ20の大径円筒部21(固定部A)の軸方向の相対的な位置決めを精度良く行うべく、大径円筒部21の内周面21aに設けた環状凸部26の軸方向幅W(ブーツバンド24の締付前における環状凸部26の軸方向幅W)と、ブーツ被固定部Bに設けた第1環状溝8の溝幅W1及び第2環状溝9の溝幅W2との間に、W2<W<W1の関係式が成立するようにしたが、この関係式におけるWとW1の大小関係を逆にしても良い。すなわち、本発明に係るブーツ取付構造においては、
図14(a)に示すように、W2<W1<Wの関係式を満たすように上記の各幅W,W1,W2を設定しても良い。
【0066】
係る構成を採用した場合、
図14(b)に示すように、カップ部6のブーツ被固定部Bに対してブーツ20の大径円筒部21(固定部A)を軸方向で位置決めした後、ブーツ20の大径円筒部21をブーツバンド24で締め付けると、ブーツバンド24の締め付け初期の段階で、ブーツ20の環状凸部26が第1環状溝8の開口縁部(環状突起10の第1環状溝8側の端部)に対して線接触するので、ブーツ20の大径円筒部21(環状凸部26)に対してカップ部6の環状突起10を強く食い込ませることができる。そのため、ブーツ20の大径円筒部21(固定部A)と外側継手部材2のカップ部6(被固定部B)との密着力を高め、ブーツ20によるシール性を高めることができる。図示は省略するが、ブーツバンド24による大径円筒部21の締め付けが進展すると、ブーツ被固定部Bに対するブーツ20の大径円筒部21(固定部A)の接触態様は、
図6(b)に示すものと略同様となる。
【0067】
以上で説明した実施形態では、第2環状溝9を第1環状溝8の軸方向両側に設けたが、第2環状溝9は、第1環状溝8の軸方向一方側又は他方側の何れかのみに設けるようにしても良い。つまり、第2環状溝9は、第1環状溝8の軸方向一方側及び他方側の少なくとも一方に設けていれば良く、また設置個数も任意である。但し、第2環状溝9は、ブーツ20の固定部Aをブーツバンドで締め付けるのに伴って流動する固定部A(ブーツ20)の肉を効率良く入り込ませることを可能にしつつ、ブーツ取付対象部材の体積減少に伴う強度低下が問題とならない程度に留めるのが肝要である。
【0068】
また、第1環状溝8及び第2環状溝9の断面形状は、
図4(a)、
図6(a)及び
図7(a)を参照して詳細に説明した形状に限定されず、任意に設定することができる。例えば、傾斜面が
図6(a)とは軸方向の反対側に配置された形状、台形形状、矩形形状、R形状など様々な溝形状が適用可能である。また、第2環状溝9を複数設ける場合、その断面形状は、必ずしも全て同じにする必要はなく、互いに異ならせても構わない。但し、加工性を考慮すると、第1環状溝8及び第2環状溝9の断面形状は同じにするのが好ましい。
【0069】
本発明に係るブーツ取付構造は、固定部Aとしてのブーツ20の小径円筒部22をブーツバンド25で締め付けることにより、小径円筒部22をブーツ被固定部Bとしての軸部材15の大径部16(
図1参照)に取付固定する際に適用することもできる。また、本発明に係るブーツ取付構造は、ブーツ20として、前述したいわゆる樹脂ブーツに替えて、いわゆるゴムブーツを使用する場合にも適用することができる。ゴムブーツは、例えば、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、又は水素化ニトリルゴム(HNBR)を主原料とするゴム材料を用いて成形される。
【0070】
また、本発明に係るブーツの取付構造は、
図1に示した等速自在継手(固定式等速自在継手)以外の固定式等速自在継手や、連結すべき二軸の軸方向変位及び角度変位の双方を許容する摺動式等速自在継手に適用することもできる。摺動式等速自在継手としては、例えば、ダブルオフセット型(DOJ)、トリポード型(TJ)、クロスグルーブ型(LJ)などがある。摺動式等速自在継手では、外側継手部材のカップ部が有底筒状に形成され、カップ部の内周面に軸方向に延びる直線状の外側トラック溝が形成される。
【符号の説明】
【0071】
1 等速自在継手
2 外側継手部材
3 内側継手部材
4 ボール
5 保持器
6 カップ部
8 第1環状溝
9 第2環状溝
10 環状突起
11 支持部
15 軸部材
20 ブーツ(等速自在継手用ブーツ)
21 大径円筒部
21a 内周面
21b バンド溝
22 小径円筒部
24,25 ブーツバンド
26 環状凸部
A 固定部
B ブーツ被固定部
Q 目印部
W 環状凸部の軸方向幅
W1 第1環状溝の溝幅
W2 第2環状溝の溝幅