IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの特許一覧

特開2024-137785ポリマー系熱伝導性混合物の沈降防止剤としてのヒュームド酸化アルミニウム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137785
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ポリマー系熱伝導性混合物の沈降防止剤としてのヒュームド酸化アルミニウム
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240927BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240927BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20240927BHJP
   C01F 7/02 20220101ALN20240927BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
C09K5/14 E
C01F7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024036942
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】23163355.3
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウオジェク ピスラ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルド ウィスラー
(72)【発明者】
【氏名】アジズ モウッサウィ
(72)【発明者】
【氏名】マレイケ ギィッセラー
(72)【発明者】
【氏名】フランツ シュミッド
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル フス
(72)【発明者】
【氏名】パトリック ベッカー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ トントラップ
【テーマコード(参考)】
4G076
4J002
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076BF06
4G076CA02
4G076CA26
4G076CA28
4G076DA02
4G076DA20
4J002AA001
4J002CP031
4J002DE146
4J002DE147
4J002FA086
4J002FB097
4J002FD206
4J002FD207
4J002GJ01
4J002GJ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】効率的かつ特異的に作用し、特に熱伝導性粒子の割合が低い場合から中程度である場合に、当該粒子の沈降を低減または完全に防止する熱伝導性組成物用沈降防止物質を提供する。
【解決手段】本発明は、少なくとも1つのプレポリマーと、熱伝導性粒子と、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウム粒子と、を含む組成物を提供する。本発明はさらに、上記のBET表面積を有するヒュームド酸化アルミニウムを上記の組成物に添加する工程を含む、熱伝導性組成物の製造方法を提供する。本発明はまた、ポリマー組成物中の熱伝導性粒子の沈降を低減するための、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムの使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプレポリマーと、少なくとも1つの熱伝導性粒子の画分と、を含み、BET表面積が15m/g~200m/g(DIN ISO 9277)であるヒュームド酸化アルミニウムをさらに含む組成物であり、
前記ヒュームド酸化アルミニウムが、前記組成物を基準として、5重量%未満の割合で含まれる、組成物。
【請求項2】
前記ヒュームド酸化アルミニウムの凝集体サイズが50nm~1μm(ISO 22412:2017によるレーザー回折)、好ましくは100nm~800nmである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒュームド酸化アルミニウムの効率指数が3mm/kg~100mm/kgであり、前記効率指数は、凝集体サイズとBET表面積の積である、請求項1または請求項2記載の組成物。
【請求項4】
‐1重量%~75重量%、好ましくは5重量%~50重量%の少なくとも1つのプレポリマー、
‐30重量%~95重量%、好ましくは50重量%~95重量%の熱伝導性粒子、および/または
‐0.05重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4重量%のヒュームド酸化アルミニウム。
を含む、請求項1~請求項3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
前記プレポリマーがシリコーン、ポリエーテル、ポリエポキシド、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、シラン修飾ポリマー、およびそれらの組み合わせから選択され、好ましくはシリコーンから選択される、請求項1~請求項4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
前記熱伝導性粒子がグラフェン、石英、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、BET表面積が0.01m/g~20m/gの酸化アルミニウム、およびそれらの組み合わせから選択される、請求項1~請求項5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性粒子が、BET表面積が0.01m/g~20m/g、好ましくは0.05m/g~15m/gの酸化アルミニウムから選択される、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記熱伝導性粒子が球状粒子の形態である、請求項1~請求項7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
前記球状粒子のサイズが0.1μm~200μm、好ましくは0.5μm~150μmである、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒュームド酸化アルミニウムが疎水的に修飾されている、請求項1~請求項9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
前記ヒュームド酸化アルミニウムがシリコーン油、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジクロロシラン、またはそれらの組み合わせで修飾されている、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記熱伝導性粒子が、少なくとも1つの第1および第2熱伝導性粒子画分を含み、前記第1画分の粒径D50が、前記第2画分の粒径D50よりも少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも15倍小さい、請求項1~請求項11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの架橋剤、少なくとも1つの触媒、加熱および/または照射により硬化される、請求項1~請求項12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
熱伝導性ポリマー組成物の製造方法であり、
BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムを、前記組成物を基準として5重量%未満、前記組成物に添加する工程を含む方法。
【請求項15】
ポリマー組成物中の熱伝導性粒子の沈降を低減するための、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
少なくとも1つのプレポリマーと、熱伝導性粒子と、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウム粒子と、を含む組成物に関する。本発明はまた、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムを組成物に添加する工程を含む、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法にも関する。本発明はさらに、ポリマー組成物中の熱伝導性粒子の沈降を低減するための、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性プラスチックは、効率的な熱伝導が求められる多くの技術分野で使用されている。これらには、具体的には、最小のスペースで大量の熱を発生する電子部品や電気絶縁体の被覆が含まれる。これらの部品の機能的信頼性と十分な耐用年数を確保するには、発生した熱を効率的に放散する必要がある。最適な熱放散のためには、上記の被覆や部品の製造に使用される複合材および接着剤または充填剤も熱伝導性でなければならない。したがって、このような部品は、1つまたは複数のプレポリマーを含むプラスチックから製造されることが多く、プレポリマーは、種々の添加剤および充填剤とともに、液体または粘性状態で互いに混合され、その後硬化され、完成ポリマー材料となる。
【0003】
従来技術から、熱伝導率は、組成物中の熱伝導性充填剤の割合とともに増加することが知られている。低~中程度の充填量で容易に自由流動する配合物の場合、沈降は特に顕著である。これは、一方では充填剤の密度が、他方ではプレポリマーの密度が著しく異なるためである。例えば、従来技術からその熱伝導性で知られている酸化アルミニウムの密度は、3.5~4g/cmであるのに対し、熱伝導性プラスチックの製造に使用されるプレポリマーの密度は、約0.8g/cm~2g/cmに過ぎない。
【0004】
しかしながら、沈降により完成品の熱伝導が不均一になり、動作中に完成品が損傷したり、熱伝導の全体的な効率が低下したりする可能性があるため、沈降は望ましくない。その結果、部品が取り付けられている技術系全体の機能的信頼性と耐用年数が損なわれる可能性がある。
【0005】
熱伝導性組成物にヒュームドシリカを使用して、沈降挙動を低減することは、従来技術から知られている。しかし、この添加剤には、完成品の熱伝導性に悪影響を与えるという欠点がある。その他の沈降防止物質は、例えば中国特許出願公開第104693806号明細書から知られている。この文献には、一連の沈降防止物質が開示されているが、個々の沈降防止物質の特に有利な特性や、意図された用途に特に関連するであろうこれらの沈降防止物質の特定の特徴については示されていない。
【0006】
従来技術で知られている沈降防止物質のさらなる欠点は、硬化前の組成物のレオロジーに悪影響を及ぼすことである。既知の沈降防止物質を添加すると、高せん断速度での粘度が、計量性が損なわれる程度まで上昇し得る。計量性が悪いと、所望の最終製品の製造がより複雑になり、各製品の製造の資源効率とコスト効率が低下する。さらに、高粘度は、組成物を表面に適用する際、または組成物を型や隙間に注入する際の流動挙動を損なわせ、その結果、硬化前の組成物の均一な分布が確保されない。組成物の分布が不均一であると、熱放散が不十分であるか、また全く行われないことにつながる。
国際公開番号第2009/032212号パンフレットは、ヒュームド酸化アルミニウムの割合が高い(少なくとも5重量%~80重量%)組成物を開示している。この引用文献は特に、高い充填剤充填量を達成することに関し、この開示は、沈降に関する組成物の特性に関するものではない。
【0007】
したがって、効率的で特異的な沈降防止物質が必要である。このような物質は、少量の添加剤を加えることで強力な効果が得られる場合、効率的であり、したがってより費用対効果が高く、資源を節約できる。このような物質は、例えばフュームドシリカなどの従来技術で知られている沈降防止物質の使用と比較して、配合物の加工性、計量性および熱伝導性を損なうことなく、沈降を特異的に低減したり、または完全に防止したりする場合、特異的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開番号第2009/032212号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、効率的かつ特異的に作用し、特に熱伝導性粒子の割合が低い場合から中程度である場合に、当該粒子の沈降を低減または完全に防止する熱伝導性組成物用沈降防止物質を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
驚くべきことに、この目的は、BET表面積が15m/g~200m/gであり、組成物に対し5重量%未満の割合であるヒュームド酸化アルミニウムを、組成物に組み込むことにより、達成できることがわかった。
【0011】
したがって、本発明は、熱伝導性粒子を含む組成物に関するものであり、この組成物は、BET表面積が15m/g~200m/gであり、かつ組成物に対し5重量%未満の割合のヒュームド酸化アルミニウムをさらに含むことを特徴とする。
【0012】
本発明はさらに、熱伝導性ポリマー組成物の製造方法に関するものであり、この方法は、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムを、組成物に対し5重量%未満、当該組成物に添加する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明はまた、ポリマー組成物中の熱伝導性粒子の沈降を低減するための、BET表面積が15m/g~200m/gであるであるヒュームド酸化アルミニウムの使用にも関する。
【0014】
詳細な説明
特に明記しない限り、以下の説明および添付の特許請求の範囲に記載されている数値パラメータおよび範囲は、概算値である。したがって、特に明記しない限り、値、範囲、量、またはパーセンテージを表す全ての数値は、その用語に明示的に接頭辞が付されていない場合でも、「およそ」という語が接頭辞として付されているものとして読み取られ得る。本発明の広範な範囲を説明する数値範囲およびパラメータは概算値であるという事実にもかかわらず、具体的な実験例の数値は、可能な限り、正確に記載されている。ただし、全ての数値には、その測定の標準偏差から必然的に生じる誤差が含まれる。
【0015】
本明細書中で列挙されている各数値範囲には、そこに含まれる全ての部分範囲が含まれる。例えば、「1~10」の範囲は、規定された最小値1と規定された最大値10の間およびそれらの値を含む全ての部分範囲、つまり、1以上の最小値で始まり、10以下の最大値で終わる全ての部分範囲、例えば、1~6.3、または5.5~10、または2.7~6.1を含むことが意図されている。本開示の文脈では、範囲の全ての端点および/またはこれらの範囲内の数値が組み合わされ得る。
【0016】
本明細書における用語「含む(comprising)」は、制限がなく、記載または言及されていない付加的な成分、材料、構成要素、またはプロセス工程などの存在を排除しないものと理解される。用語「含む(including)」、「含む(containing)」、「から形成される(formed from)」及び類似の用語は、「含む(comprising)」と同義であると理解される。本明細書中で使用される用語「のみを含む(consisting of)」は、規定されていない要素、成分、プロセス工程などの存在を排除する。本開示は、「含む(comprising)」という用語で説明されているが、「のみを含む(consisting of)」または「のみを必須的に含む(consisting essentially of)」も本開示の範囲内である。
【0017】
本開示の文脈において、ある材料「のみを必須的に含む(consisting essentially of)」およびある材料「から必須的に形成される(essentially formed from)」という語句は、対応する成分が主に規定された材料から形成され、他の材料はせいぜい少量しか存在しないことを意味する。他の材料は通常、意図的に添加されるものではなく、例えば、存在する場合は不純物、または不完全な分離から生じるものである。他の材料は通常、対象成分の特性に顕著な影響を与えない程度の少ない量で存在する。例えば、本明細書における「のみを必須的に含む(consisting essentially of)」および「から必須的に形成される(essentially formed from)」は、各成分、例えば各凝集体、粒子、またはプレポリマーが、95重量%以上、好ましくは99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、特に好ましくは99.9重量%以上の程度で、対象材料から形成されるか、または対象材料のみを含むことを意味し得る。
【0018】
文脈が明確に別段の定めをしない限り、「1つの(one)」および「その(the)」の単数形は、複数形を含む。
【0019】
本明細書で開示される量は、本発明の組成物の成分に対する重量%で規定されており、特に明記しない限り、組成物の全重量を指している。
【0020】
本明細書で使用される用語「ポリマー」は、ホモポリマー、すなわち1種類のモノマーに由来するポリマーと、コポリマー、すなわち2種類以上の異なるモノマーに由来するポリマーと、の両方を含むものと理解される。この文脈において、用語「プレポリマー」は、例えば化学的に、熱的に、または照射により、必要に応じて触媒および/または架橋剤を使用して、架橋され、したがって硬化され得るポリマーを指す。本明細書の文脈において、プレポリマーは液体または自由流動性であることが好ましい。これは、自由流動性プレポリマーが、10mPa・s~100000mPa・s(25℃、せん断速度10秒-1で測定)の粘度を有する中~高粘性ポリマーも含み得ることを意味する。
【0021】
本明細書に列挙される比表面積またはBET表面積の寸法は、質量ベースの比表面積を指し、特に明記しない限りg/mで規定される。本明細書で開示される全ての比表面積は、BET分析法によって測定された。この分析法の技術的詳細は、とりわけDIN ISO 9277から当業者に知られている。
【0022】
本明細書で言及されるチキソトロピー指数は、式TI=η(γlow)/η(γhigh)で得られ、η(γlow)は低せん断速度での粘度であり、η(γhigh)は高せん断速度での粘度である。本明細書の全てのチキソトロピーデータは、1秒-1の低せん断速度と100秒-1の高せん断速度に基づいている。各粘度は、少なくとも1つのプレポリマーと、熱伝導性粒子と、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムとを含む各組成物の粘度である。粘度は、実験例に記載のとおり測定される。
【0023】
本明細書の文脈では、熱伝導性物質または材料、特に熱伝導性粒子は、少なくとも1.0W/mK、好ましくは少なくとも1.5W/mK、より好ましくは少なくとも1.8W/mKの熱伝導率を有する物質または材料であってよい。物質の熱伝導率を測定する方法は、当業者に既知である。熱伝導率は、とりわけ、熱流熱量測定法により測定することができる。
【0024】
本明細書に記載の粒子および凝集体は、D50、D10および/またはD90の粒径によっても記載され得る。D50粒径は、中央値とも呼ばれ、体積基準の粒度分布の粒径を示し、その下または上には、全粒子の50%が存在する。D10粒径は、それに応じて、体積基準の粒度分布の粒径を示し、その下には、全粒子の10% が存在する。D90粒径は、それに応じて、体積基準の粒度分布の粒径を示し、その下には、全粒子の90%が存在する。本明細書で述べる粒径および凝集体サイズは、特に明記しない限り、それぞれ、粒度分布および凝集体サイズ分布のD50値を指し、それは、ISO22412:2017 に準拠してレーザー回折により測定された。
【0025】
本発明による本組成物は、少なくとも1つのプレポリマーを含む。これは、シリコーン、ポリエーテル、ポリエポキシド、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、シラン修飾ポリマー、およびそれらの組み合わせから選択されるプレポリマーであってよい。少なくとも1つのプレポリマーは、好ましくはシリコーンから選択される。少なくとも1つのプレポリマーは、修飾されていてもよく、具体的には末端修飾されていてもよい。すなわち、少なくとも1つのプレポリマーは、少なくとも1つの位置、好ましくは少なくとも2つの位置に、反応性官能基を有する。この官能基は、架橋剤、またはプレポリマーの別の官能基のいずれかと反応することができる。架橋の化学的性質に応じて、これには、触媒または外部からのエネルギー供給が必要となり得る。
【0026】
したがって、組成物は、少なくとも1つの架橋剤、少なくとも1つの触媒、加熱、および/または照射によって硬化させることができる。各場合に使用される硬化剤または方法は、選択されるプレポリマーに左右され、上記の硬化剤または方法の2つ以上が同時に使用され得る。例えば、シリコーンプレポリマーは、ビニル基で末端修飾されていてもよく、ビニル基は、白金触媒の存在下、高温でSiH架橋剤と反応し、組成物を硬化させる。
【0027】
したがって、少なくとも1つのプレポリマーの総量は、使用されるプレポリマーまたは使用される硬化方法に応じて、1つまたは複数の成分を含む。例えば、架橋剤および触媒によって硬化されるべきプレポリマーは、2つの成分を含む。第1成分は、プレポリマーの一部と、その中に溶解または分散された架橋剤とを含み、第2成分は、プレポリマーの別の部分と、その中に溶解または分散された触媒とを含み得る。
【0028】
少なくとも1つのプレポリマーは、本発明の組成物中に、1重量%~75重量%、好ましくは5重量%~50重量%の総量で存在し得る。
【0029】
本発明による組成物の第2成分は、熱伝導性粒子である。これらの熱伝導性粒子は、グラフェン、石英、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、BET表面積が0.01m/g~20m/gである酸化アルミニウム、およびそれらの組み合わせから選択され得る。特に好ましくは、BET表面積が0.01m/g~20m/gの酸化アルミニウムであり、特に好ましくは、BET表面積が0.05m/g~15m/gの酸化アルミニウムから選択される熱伝導性粒子である。この酸化アルミニウム画分が存在する場合、この酸化アルミニウム画分は、沈降防止剤として機能する本発明によるヒュームド酸化アルミニウムの画分とは区別される。熱伝導性粒子が酸化アルミニウム粒子である場合、組成物中に2つの異なる酸化アルミニウム画分が存在する。具体的には、ヒュームド酸化アルミニウムと酸化アルミニウムが組成物中に熱伝導性材料として存在する場合、それらは、そのBET表面積の点で異なる。さらに、2つの酸化アルミニウム画分は、平均粒径または粒子形状の点で異なり得る。
【0030】
熱伝導性粒子は、好ましくは球状粒子の形態で存在し得る。球状粒子は、その高密度球状充填のため、熱伝導性プラスチックの用途に特に適している。これらの粒子は、0.1μm~200μm、好ましくは0.5μm~150μmのサイズを有し得る。熱伝導性粒子は、特に有利には、少なくとも熱伝導性粒子の第1および第2画分を含む。第1画分は、第2熱伝導性粒子画分の粒子の D50サイズよりも、少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも15倍小さいD50サイズの熱伝導性粒子を含む。これにより、熱伝導性粒子の特に密な充填が確保され、硬化組成物の熱伝導性が向上する。特に高密度の充填を実現するために、熱伝導性粒子の第1および第2画分が、7:3~3:7、好ましくは6:4~4:6の比で存在することが好ましい。
【0031】
熱伝導性粒子は、組成物中に、30重量%~95重量%、好ましくは50重量%~95重量%の総量で存在し得る。
【0032】
既に述べたように、前述の目的は、本発明に従って、BET表面積が15m/g~200m/gであり、組成物に対し5重量%未満の割合のヒュームド酸化アルミニウムを、組成物に添加することによって達成することができる。
【0033】
ヒュームド酸化アルミニウムは、好ましくは、凝集体の形で存在する。このような凝集体は、焼結によって一緒に保持され、保存された一次粒子であることが当業者には知られている。これらの一次粒子は、好ましくは、凝集体に対して小さくなければならない。したがって、凝集体を形成する一次粒子のサイズは、凝集体のサイズよりも、少なくとも10倍、特に好ましくは25倍小さいことが好ましい。さらに、凝集体の平均サイズは、50nm~1μm、好ましくは100~800nmであることが好ましい。凝集体が小さすぎると、低せん断速度での粘度に悪影響が出る。ただし、凝集体が1μmより大きいと、凝集体自体が沈降する傾向がある。ヒュームド酸化アルミニウムのBET表面積は、15m/g~200m/g、好ましくは25m/g~200m/gである。
【0034】
ヒュームド酸化アルミニウムのBET表面積と凝集体サイズの比は、効率指数によっても表すことができる。この値は、凝集体サイズと凝集体のBET表面積の積(dAgg×BET)であり、mm/kgで規定される。組成物中の熱伝導性粒子の沈降を特に効率的に抑制するために、ヒュームド酸化アルミニウムの効率指数は、好ましくは3mm/kg~100mm/kgであり得る。
【0035】
本発明によるヒュームド酸化アルミニウムは、疎水的に修飾されていてもよい。疎水性修飾によって、沈降防止剤とプレポリマーマトリックスとの相溶性が向上し、したがって、未修飾のヒュームド酸化アルミニウムと比較して、組み込み性および分散性が向上する。ヒュームド酸化アルミニウムは、例えば、シリコーン油、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジクロロシラン、またはそれらの組み合わせで修飾されていてもよい。
【0036】
ヒュームド酸化アルミニウムは、本発明による組成物中に、組成物を基準として、0.05重量%~5重量%、好ましくは0.1重量%~4重量%、特に好ましくは0.3重量%~3重量%の総量で存在し得る。
【0037】
本発明による組成物は、有利には、6~80、好ましくは10~50のチキソトロピー指数TIを特徴とし得る。このようなチキソトロピー指数は、本発明によるヒュームド酸化アルミニウムを少量添加しただけでも、低せん断速度での組成物の粘度を大幅に上昇させることができ、組成物の保管中の熱伝導性粒子の沈降を大幅に低減するか、または理想的には完全に防止することができる点で好ましい。さらに、粘度は、高せん断速度でもわずかにしか上昇しないため、組成物の計量性および加工性が良好になる。
【0038】
上記のものに加えて、本発明による組成物は、添加剤として、さらなる成分も含み得る。使用される添加剤は、例えば、有機および無機顔料、染料、pH調整剤、難燃剤、サセプター、安定剤、加工助剤、またはそれらの混合物および組み合わせであり得る。顔料の例には、二酸化チタン、フェライト、二酸化ジルコニウム、およびカーボンブラックがある。適切な安定剤は、フェノール、特に立体障害フェノールである。本発明による粉末には、1つの添加剤、または2つ以上の添加剤の混合物が存在し得る。適切な添加剤は、いずれの場合も、所望の目的に適した量で使用される。一般的な使用量は、当業者に既知である。組成物の全重量に対する添加剤の総量は、例えば、最大で10重量%、最大で6重量%、最大で3重量%、最大で2重量%、最大で1重量%、最大で0.5重量%、最大で0.25重量%、最大で0.2重量%、最大で0.1重量%、または最大で0.05重量%であり得る。本発明の好ましい実施形態では、本発明による組成物は、必須的に添加剤を含まない。すなわち、添加剤が組成物中に存在するとしても、不純物としてのみ存在する。本発明のさらに好ましい実施形態では、本発明による組成物は、添加剤を一切含まない。
【0039】
本発明はさらに、熱伝導性組成物の製造方法に関するものであり、その方法は、BET表面積が15m/g~200m/gであるヒュームド酸化アルミニウムを、組成物に対し5重量%未満、組成物に添加する工程を含むことを特徴とする。
【0040】
ヒュームド酸化アルミニウムは、熱伝導性粒子の前、後、または並行して、組成物に組み込まれ得る。したがって、本発明による方法は、ヒュームド酸化アルミニウムを熱伝導性粒子に最初に投入するか、または添加する工程を含み得る。ヒュームド酸化アルミニウムは、熱伝導性粒子と均一に混合されることが好ましい。この目的のために、当業者に知られている乾式混合プロセスが使用され得る。ヒュームド酸化アルミニウムおよび/または熱伝導性粒子は、(自由流動性)固体および液体または粘性ポリマー材料用の標準的な混合技術、例えば複合によって組み込まれ得る。
【0041】
使用されるプレポリマーに応じて、本発明による組成物は、多様な技術的用途に使用することができる。これらには、とりわけ、接着剤、充填剤、シーラント、ならびに熱伝導性物品および部品が含まれる。
【0042】
この目的のために、本発明による組成物は、プレス、(射出)鋳造または成形などの従来技術により、必要に応じて高温および/または高圧で、物品または部品に成形され、同時に硬化され得る。別の方法では、未硬化状態の本発明による組成物を、物品または部品の表面の少なくとも一部に適用し、その後、上記のように硬化プロセスを施し得る。
【0043】
以下の実験例は、本発明による組成物と、本発明によるその使用とを説明することを意図しており、本発明を実験例に限定するものではない。
【実施例0044】
実施例
配合物の調製
組成物1(基本配合物)(発明性なし)
‐8.12重量%のシリコーンポリマーVS200(Evonik社製)
‐86重量%の球状酸化アルミニウム粒子BAK-40(40μm)/BAK-2(2μm)60/40(Bestry社製)
‐3.52重量%の阻害剤混合物1-エチニル-1-シクロヘキサノール(Aldrich社製)(シリコーンポリマーVS200中の2%混合物として)
‐0.6重量%のKAT511プラチナ触媒(Evonik社製)(シリコーンポリマーVS200中の10%混合物として)
‐1.76重量%のSiH架橋剤Crosslinker100(Momentive社製)
【0045】
組成物2(発明性あり)
‐6.12重量%のシリコーンポリマーVS200(Evonik社製)
‐86重量%の球状酸化アルミニウム粒子BAK-40(40μm)/BAK-2(2μm)60/40(Bestry社製)
‐2重量%の酸化アルミニウム粒子(AEROXIDE(登録商標)Alu C 805またはAlu 45、Evonik Industries社製)。AEROXIDE(登録商標)Alu C 805は、上記の表面修飾ヒュームド酸化アルミニウムに相当し、AEROXIDE(登録商標)Alu 45は未修飾である。
‐3.52重量%の阻害剤混合物1-エチニル-1-シクロヘキサノール(Aldrich社製)(シリコーンポリマーVS200中の2%混合物として)
‐0.6重量%のKAT511プラチナ触媒(Evonik社製)(シリコーンポリマーVS200中の10%混合物として)
‐1.76重量%のSiH架橋剤Crosslinker100(Momentive社製)
【0046】
充填剤の乾式混合
充填剤(BAK-40/BAK-2 60/40またはBAK-40/BAK-2 60/40+酸化アルミニウム粒子)を、Hauschild Speedmixerの乾式混合プロセスを使用し、事前に混合する。充填剤をSpeedmixerビーカーに計量し、2000分-1で4分間均質化する。加熱のために、必要に応じて最大5段階で均質化する。
【0047】
化合物の調製
まず、6.12重量%のシリコーンポリマーVS200と、3.52重量%の阻害剤混合物1-エチニル-1-シクロヘキサノールと、0.6重量%のKAT511プラチナ触媒とを、Hauschild Speedmixer内で2000分-1で15秒間混合する。次に、乾式混合プロセスからの充填剤混合物(BAK-40/BAK-2 60/40またはBAK-40/BAK-2 60/40+酸化アルミニウム粒子)を、2000分-1で60秒間ずつ4回分散させる。続いて、1.76重量%のSiH架橋剤Crosslinker100を、2000分-1で30秒間ずつ2回混合する。
【0048】
試験片の準備
厚さ6mm、直径55mmの化合物の試験片の架橋を、ホットプレスで、圧力100バール、温度120℃で10分間行う。その後、試験片をオーブンで 200℃で4時間、後架橋する。
【0049】
チキソトロピー指数の測定
充填剤として酸化アルミニウムを使用した、液体シリコーンのレオロジー特性の測定。粘度[Pa・s]は、物質が応力の影響下で流動し、不可逆的に変形する特性を表す。せん断速度は、測定コーンの速度[m/秒]と、測定コーンとプレートの間隔[m]と、の関数から得られる。
【0050】
充填した液体シリコーンの試料を、粘度測定の前に、周囲温度に達するように、少なくとも4時間測定室で保管する必要がある。Thermo Scientific社製のHaake RheoStress1レオメーターを、RheoWin制御プログラムとともに使用する。測定は、速度、つまり1秒-1~100秒-1のせん断速度によって制御する。測定ジオメトリC20/2°Tiのコーンと測定プレートアタッチメントMPC35を、0.105mのコーンプレート間隔距離で使用する。
【0051】
熱伝導率測定
架橋試験片の熱伝導率を、熱伝導率を測定するための非定常平面熱源法に基づく測定技術を使用して、ASTM D7984に準拠して測定した。
【0052】
凝集体サイズの測定
例えばAEROXIDE(登録商標)Alu 45の親水性凝集体を測定するために、1重量%水分散液を調製する。最初に、0.2gの親水性材料を、20mL超音波処理容器に入れ、そこに19.8gの脱塩水を加える。市販の超音波フィンガーを使用して分散させる。分散フィンガーを分散液に1.5cm浸す。試料を装置の半分のパワーで5分間超音波処理する。
【0053】
例えばAEROXIDE(登録商標)Alu C 805の疎水性凝集体を測定するために、1重量%のエタノール分散液を調製する。最初に、0.2gの疎水性材料を20mL超音波処理容器に入れる。これに、20gのエタノールと40gの高分子量湿潤添加剤とを加える。市販の超音波フィンガーを使用して分散させる。分散フィンガーを分散液に1.5cm浸す。試料を装置の半分のパワーで5分間超音波処理する。
【0054】
光学密度に応じて、500~2500mgの分散液をキュベットに入れ、分散媒で2500mgまで満たす。次いで、このキュベットを使用して、サイズ分布を測定する。測定には、ISO22412:2017に準拠した動的光散乱装置を使用する。
【0055】
【表1-1】
【0056】
【表1-2】
【0057】
結果
表から、本発明の範囲内のBET表面積を有するヒュームド酸化アルミニウムを含む製品は、使用量が少ないにもかかわらず、完成品の熱伝導率を低下させることなく、特に高い効率を有することが分かる。これは、製品がさらに疎水化されている場合に特に当てはまる。
【外国語明細書】