(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137791
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】UV硬化型コート剤用プライマー
(51)【国際特許分類】
C09D 123/26 20060101AFI20240927BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240927BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C09D123/26
C09D5/00 D
C09D175/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037681
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023045040
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和史
(72)【発明者】
【氏名】吉野 剛正
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB141
4J038DG002
4J038DG042
4J038DG102
4J038DG262
4J038JA20
4J038KA06
4J038MA10
4J038NA09
4J038NA12
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂基材に塗布するプライマーであって、低温乾燥時でも基材とUV硬化型樹脂との密着性に優れるとともに、柔軟性を有する塗膜を形成することができるプライマーを提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部と、ウレタン樹脂(B)20~50質量部と、エチレングリコール(C)0.3~3質量部と、水性媒体とを含有することを特徴とするUV硬化型コート剤用プライマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部と、ウレタン樹脂(B)20~50質量部と、エチレングリコール(C)0.3~3質量部と、水性媒体とを含有することを特徴とするUV硬化型コート剤用プライマー。
【請求項2】
ウレタン樹脂(B)がポリエーテル型ポリウレタンであることを特徴とする請求項1に記載のUV硬化型コート剤用プライマー。
【請求項3】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の融点が60~110℃であることを特徴とする請求項1または2に記載のUV硬化型コート剤用プライマー。
【請求項4】
請求項1または2に記載のプライマーから形成されてなることを特徴とする塗膜。
【請求項5】
熱可塑性樹脂基材と、請求項4に記載の塗膜と、UV硬化型コート層とがこの順に積層されてなることを特徴とする積層体。
【請求項6】
熱可塑性樹脂基材がポリエステル基材またはポリオレフィン基材であることを特徴とする請求項5に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂と、エチレングリコールを特定の割合で含有したUV硬化型コート剤用プライマーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、床面や壁などを保護し美観を維持するために、樹脂を用いて被覆することが多く行われている。特に、長期にわたって外観を保つことのできるような耐久性に優れた樹脂が求められており、施工性が良好なことからUV硬化型コート剤が使用されることが多い。
近年、要求性能が多様化、高度化することによって、熱可塑性樹脂基材、特に、ポリエステル樹脂基材やポリオレフィン樹脂基材に、UV硬化型コート剤を塗布する検討が進められている。UV硬化型コート剤を基材に塗布する際には、プライマーが使用されることが多く、たとえば、引用文献1には、ポリオレフィン/ポリエステル混合プライマーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
引用文献1に記載されたプライマーは、ポリオレフィン樹脂などの基材との密着性は良好であるが、密着性を向上させるためには、高い温度で乾燥することが必要であり、作業性に課題があった。
また、プライマーから形成された塗膜は、柔軟性に乏しく、UV硬化した際の収縮に耐え切れないことがあった。
本発明の課題は、熱可塑性樹脂基材、特に、ポリエステル樹脂基材やポリオレフィン樹脂基材に塗布するプライマーであって、低温乾燥時でも基材とUV硬化型樹脂との密着性に優れるとともに、柔軟性を有する塗膜を形成することができるプライマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討した結果、酸変性ポリオレフィン樹脂と、ウレタン樹脂と、エチレングリコールを特定の割合で含有するプライマーは、UV硬化型コート層との密着性に優れるとともに、低温乾燥でも、ポリエステル樹脂基材やポリオレフィン樹脂基材との密着性や、UV硬化型コート層との密着性に優れ、また得られる塗膜が柔軟性を有することを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部と、ウレタン樹脂(B)20~50質量部と、エチレングリコール(C)0.3~3質量部と、水性媒体とを含有することを特徴とするUV硬化型コート剤用プライマー。
(2)ウレタン樹脂(B)がポリエーテル型ポリウレタンであることを特徴とする(1)に記載のUV硬化型コート剤用プライマー。
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の融点が60~110℃であることを特徴とする(1)または(2)に記載のUV硬化型コート剤用プライマー。
(4)上記(1)または(2)に記載のプライマーから形成されてなることを特徴とする塗膜。
(5)熱可塑性樹脂基材と、(4)に記載の塗膜と、UV硬化型コート層とがこの順に積層されてなることを特徴とする積層体。
(6)熱可塑性樹脂基材がポリエステル基材またはポリオレフィン基材であることを特徴とする(5)に記載の積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のUV硬化型コート剤用プライマーによれば、熱可塑性樹脂基材とUV硬化型コート層に良好な密着性を有するプライマー層が得られる。特に、従来は適用が困難であったポリエステル樹脂基材やポリオレフィン樹脂基材に低温乾燥しても、UV硬化型コート層との良好な密着性を有するとともに、柔軟性を有するプライマー層が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のUV硬化型コート剤用プライマーは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、ウレタン樹脂(B)と、エチレングリコール(C)と、水性媒体とを含有する。
【0009】
<酸変性ポリオレフィン樹脂(A)>
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を構成するオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のアルケンや、ノルボルネン等のシクロアルケンが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。中でもエチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の炭素数2~6のアルケンが好ましく、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1-ブテン等の炭素数2~4のアルケンが特に好ましい。また、2種類以上のオレフィン成分が共重合されていてもよい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるオレフィン成分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。オレフィン成分の含有量が50質量%未満では、基材密着性等のポリオレフィン樹脂由来の特性が失われてしまうことがある。
【0010】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、樹脂の水性化(液状化)の点から、また得られる塗膜と基材との密着性の点から、不飽和カルボン酸成分を含有して、酸変性されていることが必要である。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における不飽和カルボン酸成分の含有量は、0.1~25質量%であることが必要であり、0.5~15質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることがさらに好ましい。
不飽和カルボン酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、無水マレイン酸がより好ましい。
不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0011】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、熱可塑性樹脂基材、特にポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂基材との密着性を向上させる理由から、(メタ)アクリル酸エステル成分を含有することが好ましい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)における(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、様々な熱可塑性樹脂フィルム基材との良好な密着性を持たせるために、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが最も好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、(メタ)アクリル酸エステル成分の含有量が40質量%を超えると、オレフィン由来の樹脂の性質が失われ、得られる塗膜は、基材との密着性が低下することがある。
(メタ)アクリル酸エステル成分としては、(メタ)アクリル酸と炭素数1~30のアルコールとのエステル化物が挙げられ、中でも入手のし易さの点から、(メタ)アクリル酸と炭素数1~20のアルコールとのエステル化物が好ましい。そのような化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらの混合物を用いてもよい。この中で、基材フィルムとの密着性の点から、(メタ)アクリル酸メチル(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチルがより好ましく、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルがより好ましく、アクリル酸エチルが特に好ましい。(なお、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~またはメタクリル酸~」を意味する。)
【0012】
また、上記成分以外に他の成分を、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の10質量%以下程度、含有していてもよい。他の成分としては、ジエン類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のマレイン酸エステル類、(メタ)アクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類ならびにビニルエステル類を塩基性化合物等でケン化して得られるビニルアルコール、ハロゲン化ビニル類、ハロゲン化ビリニデン類、2-ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、スチレン、置換スチレン、一酸化炭素、二酸化硫黄などが挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0013】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の具体例としては、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、中でもエチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体が最も好ましい。
これらの酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、2種以上を組み合わせて用いてもよく、例えば、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体とプロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体の組み合わせや、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体とエチレン-プロピレン-ブテン-無水マレイン酸共重合体の組み合わせが挙げられる。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレン(a1)-アクリル酸エステル(a4)-無水マレイン酸(a5)共重合体である場合、質量比(a1/a4/a5)は、95/4/1~55/40/5であることが好ましく、94/5/1~60/36/4であることがより好ましく、92/7/1~62/35/3であることが特に好ましい。
また、プロピレン(a2)-ブテン(a3)-無水マレイン酸(a5)共重合体である場合、質量比(a2/a3/a5)は、95/4/1~53/40/7であることが好ましく、94/5/1~60/34/6であることがより好ましく、92/7/1~62/33/5であることが特に好ましい。
また、プロピレン(a2)-エチレン(a1)-ブテン(a3)-無水マレイン酸(a5)共重合体である場合、質量比(a2/a1/a3/a5)は、95/3/1/1~50/15/28/7であることが好ましい。
【0015】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが好ましく、0.1~400g/10分であることがより好ましく、1~300g/10分であることがさらに好ましく、5~200g/10分であることが特に好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、メルトフローレートが0.01g/10分未満では、樹脂の水性化が困難となることがある。一方、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のメルトフローレートが500g/10分を超えると、得られる塗膜は、硬くてもろくなる傾向にあり、塗膜の柔軟性が低下する場合がある。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の融点は、60~110℃であることが好ましく、62~105℃であることがより好ましく、65~100℃であることがさらに好ましい。融点が上記の範囲未満であると、凝集力が弱くなり、得られる塗膜は、密着性に劣る場合がある。また、上記の範囲を超えると、造膜性が低下するため、得られる塗膜は、密着性が低下する場合がある。
【0017】
<ウレタン樹脂(B)>
ウレタン樹脂(B)は、主鎖中にウレタン結合を含有する高分子であり、例えばポリオール化合物とポリイソシアネート化合物との反応で得られるものが挙げられる。本発明におけるウレタン樹脂(B)は特に限定されないが、UV樹脂に対する密着性が優れることからポリエーテル型ポリウレタン樹脂が好ましい。
ポリエーテル型ポリウレタン樹脂は、ポリウレタンを構成するポリオール成分としてポリエーテルポリオールを含むものである。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコールなどのポリオキシエチレンポリオール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリオキシエチレン/プロピレンポリオールなどが挙げられ、中でもポリエチレングリコールとポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルジオールが入手しやすいため好ましく、接着性が向上することからポリテトラメチレングリコールがより好ましい。ポリエーテルジオールの分子量は特に限定されないが、1000~10000の範囲のものが好ましく、1000~5000が特に好ましい。
ポリエーテルポリオール以外のポリオールとして、本発明の効果を損なわない範囲で、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等を用いてもよい。
【0018】
ウレタン樹脂(B)を構成するポリイソシアネート成分としては、芳香族、脂肪族および脂環族の公知ジイソシアネート類の1種または2種以上の混合物を用いることができる。ジイソシアネート類の具体例としては、トリレンジジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジメチルジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート、およびこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などが挙げられる。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対するウレタン樹脂(B)の含有量は、20~50質量部であることが必要であり、UV硬化型コート剤との密着性や塗膜柔軟性の点から、22~45質量部であることが好ましく、25~40質量部であることがさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対するウレタン樹脂(B)の含有量が20質量部未満であると、得られる塗膜は、UV硬化型コート剤との密着性が低下し、50質量部を超えると、得られる塗膜は、ポリオレフィン基材に対する密着性が低下することがある。
【0020】
<エチレングリコール>
本発明のプライマーは、エチレングリコール(C)を含有するものであり、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する含有量は0.3~3質量部であることが必要であり、UV硬化型コート剤との密着性の点から、0.4~2.5質量部であることが好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対するエチレングリコール(C)の含有量が0.3質量部未満であると、得られる塗膜は、UV硬化型コート剤との密着性が低下し、3質量部を超えると、得られる塗膜は、柔軟性が低下する傾向がある。
【0021】
<水性媒体>
本発明のUV硬化型コート剤用プライマーは、水性媒体を含有する。プライマーにおける水性媒体の含有量は、60~95質量%であることが好ましく、65~90質量%であることがより好ましい。プライマーは、水性媒体の含有量が60質量%未満であると、安定性が低下する場合があり、95質量%を超えると、乾燥性に劣る場合がある。
水性媒体は、作業者や作業環境への安全性の観点から、水であることが最も好ましいが、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)やウレタン樹脂(B)の水性化や、乾燥負荷低減などの目的のために、水性媒体としての特徴を逸脱しない範囲であれば、水以外に、親水性の有機溶剤を含有してもよい。
親水性有機溶剤として、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン等のケトン類、プロパノ-ル、ブタノ-ル、メタノール、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル類、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコール誘導体などが挙げられる。水性媒体におけるこれらの有機溶剤の含有量は、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、水性媒体は、後述のように酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を水性化する際に添加する塩基性化合物を含むこともある。
【0022】
本発明のプライマーには、乳化剤等の不揮発性の水性化助剤を含有してもよいが、得られる塗膜の耐水性、密着性の観点から、プライマーの5質量%以下であることが好ましく、含有しないことが最も好ましい。なお、後述する製造方法を用いれば、不揮発性の水性化助剤を添加することなしに、微細かつ安定な酸変性ポリオレフィン樹脂(A)粒子を含有する水性分散体が得られ、これを使用して本発明のプライマーを調製することができる。なお、不揮発性の水性化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。
【0023】
乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン-プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸-無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0024】
<UV硬化型コート剤用プライマー製造方法>
次に、本発明のUV硬化型コート剤用プライマーの製造方法を説明する。
本発明のプライマーの製造方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とエチレングリコール(C)とが水性媒体中に均一に混合されて、それらを分散または溶解可能な方法であれば、特に限定されるものではない。たとえば、次の方法が挙げられる。(ア)予め調製された酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体と、予め調製されたウレタン樹脂(B)の水性分散体と、エチレングリコール(C)とを混合する方法、(イ)酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とエチレングリコール(C)とを同時に水性分散化する方法。このうち、(ア)の方法が、より簡単に、多様な酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とエチレングリコール(C)との組み合わせからなる水性分散体を調製することができる。
【0025】
次に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体の製造方法を説明する。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体を得るための方法は特に限定されないが、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と水性媒体とを密閉可能な容器中で加熱、攪拌する方法を採用することができる。このとき、水性化に用いられる樹脂の形状は特に限定されないが、水性化速度を高めるという点から、粒子径1cm以下、好ましくは0.8cm以下の粒状ないしは粉末状のものを用いることが好ましい。
【0026】
容器としては、液体を投入できる槽を備え、槽内に投入された水性媒体と樹脂との混合物を適度に撹拌できるものであればよい。そのような装置としては、公知の固/液撹拌装置や乳化機を使用することができ、0.1MPa以上の加圧が可能な装置が好ましい。撹拌の方法、撹拌の回転速度は特に限定されない。
【0027】
この装置の槽内に各原料を投入した後、好ましくは40℃以下の温度で攪拌混合しておく。次いで、槽内の温度を50~200℃、好ましくは60~200℃の温度に保ちつつ、5~120分間攪拌を続けることにより樹脂を十分に水性化させ、その後、攪拌下で40℃以下に冷却することにより、水性分散体を得ることができる。槽内の温度が50℃未満の場合は、樹脂の水性化が困難になる。槽内の温度が200℃を超える場合には、樹脂の分子量が低下するおそれがある。
【0028】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、水性化の際に、塩基性化合物を添加することが好ましい。塩基性化合物により不飽和カルボン酸成分がアニオン化され、電気的反発によって微粒子間の凝集が防がれ、水性分散体に安定性が付与される。塩基性化合物の添加量は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中のカルボキシル基(酸無水物基1モルはカルボキシル基2モルとみなす)に対して0.5~3.0倍当量であることが好ましく、0.8~2.5倍当量であることがより好ましく、1.0~2.0倍当量であることがさらに好ましい。塩基性化合物の添加量が0.5倍当量未満では、塩基性化合物の添加効果が認められず、3.0倍当量を超えると、塗膜形成時の乾燥時間が長くなったり、水分散液が着色する場合がある。
【0029】
上記塩基性化合物は、得られる塗膜の耐水性の面から、塗膜形成時に揮発する化合物が好ましく、アンモニアまたは各種の有機アミン化合物が好ましい。
有機アミン化合物は、沸点が250℃以下であることが好ましい。有機アミン化合物は、沸点が250℃を超えると、樹脂塗膜から乾燥によって飛散させることが困難になり、塗膜の耐水性が低下する場合がある。
有機アミン化合物の具体例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等が挙げられる。
【0030】
また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性化の際には、水性化速度の向上および樹脂粒子の小粒径化の点から、有機溶剤を添加することが好ましい。
有機溶剤の添加量は酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体中1~40質量%であることが好ましく、2~30質量%であることがより好ましく、3~20質量%であることがさらに好ましい。なお、有機溶剤は、常圧または減圧下で水性分散体を攪拌しながら加熱することで、その一部を系外へ除去(ストリッピング)することができ、最終的には、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体中1質量%以下とすることもできる。
有機溶剤の具体例としては、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられ、より低温での乾燥を行える点から、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノールが特に好ましい。
【0031】
水性分散体中の酸変性ポリオレフィン樹脂(A)粒子の数平均粒子径は、水性分散体の安定性、塗布した際の表面平滑性、得られる塗膜の透明性や密着性の点から、0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましく、0.15μm以下であることが特に好ましい。重量平均粒子径についても0.5μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。
【0032】
ウレタン樹脂(B)の水性分散体または水溶液の製造方法としては、(1)ウレタン樹脂を有機溶剤に溶解させ、このウレタン樹脂溶液に水を添加して水性分散体を得る方法、(2)ウレタン樹脂を有機溶剤と水の混合溶媒に溶解させる方法が挙げられる。
【0033】
上記方法によって、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)やウレタン樹脂(B)の水性分散体や水溶液を製造することができるが、市販品を使用してもよい。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の水性分散体としては、例えば、住友精化社製「ザイクセン」シリーズ、三井化学社製「ケミパール」シリーズを挙げることができる。またウレタン樹脂(B)の水性分散体としては、例えば、楠本化成社製「ネオレッツ」シリーズ、三井化学社製「タケラック」シリーズなどが挙げられる。
【0034】
<塗膜>
本発明のプライマーは、熱可塑性樹脂基材に塗布後、水性媒体を除去することで、基材との密着性が良好なプライマー層を塗膜として形成させることができる。また、このプライマー層上にUV硬化型コート層を積層することができる。
本発明のプライマーから形成された塗膜は、耐ブロッキング性に優れ、塗膜同士を接触させてもブロッキングすることなく、容易に剥離することができる。
【0035】
本発明のプライマーを塗布する基材としては、ポリエステル樹脂やポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂基材や、アルミニウム等の金属基材などが挙げられる。
熱可塑性樹脂基材の形状としては、フィルム、シートや射出成形体などが挙げられ、特に限定されない。フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も限定されない。また、フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常、1~500μmであればよい。さらに、未延伸フィルムに本発明のプライマーを塗布し、その後コートフィルムを延伸する、いわゆるインラインコートを行ってプライマー層を形成してもよい。
【0036】
本発明のプライマーを基材に塗布する方法は特に限定されるものではないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が採用できる。
プライマーの塗布量については、基材によって適宜、決定すればよい。塗膜の厚さは、基材が熱可塑性樹脂フィルムの場合、密着性を十分高めるためには、0.1μm以上であることが好ましく、0.1~10μmであることがより好ましく、0.2~8μmであることがさらに好ましく、0.3~7μmであることが特に好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂基材に塗布後、プライマーの水性媒体を除去するための乾燥温度は、特に限定されず、基材の耐熱温度や作業性の観点等によって適宜、決定すればよいが、通常、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、65℃以下であることがさらに好ましく、50℃以下であることが特に好ましい。乾燥温度が100℃を超えると作業環境を選ぶ場合がある。
【0038】
<UV硬化型コート層>
UV硬化型コート層を構成する樹脂としては、塩化ビニル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、UV硬化型のものであれば特に限定はされない。塗膜として形成したプライマー層上に、各種のUV硬化型コート剤を塗布し、UV照射することによりUV硬化型コート層を形成することができる。また、UV硬化型コート剤は、水性媒体や有機溶剤に溶解したもの、もしくは分散したものも使用できる。
【0039】
本発明のプライマーの用途は、特に限定されるものではないが、例えば、レストラン、ホテル、病院、介護施設、保育園、その他公共施設といった建造物の床や壁を保護するフロアコーティング等に適用できる。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
なお、各種特性については以下の方法によって測定または評価した。
【0041】
1.酸変性ポリオレフィン樹脂の特性
(1)構成
1H-NMR分析(バリアン社製、300MHz)より求めた。オルトジクロロベンゼン(d4)を溶媒とし、120℃で測定した。
【0042】
(2)融点
樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線から融点を求めた。
【0043】
(3)メルトフローレート
JIS K6730記載(190℃、2160g荷重)の方法で測定した。
【0044】
2.酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の特性
(1)固形分濃度
水性分散体を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱し、固形分濃度を求めた。
【0045】
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径(mn)および重量平均粒子径(mw)を求めた。ここで、粒子径算出に用いる樹脂の屈折率は1.50とした。
【0046】
3.塗膜の特性
以下の特性の評価においては、基材として、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(ユニチカ社製、エンブレット、厚み25μm、以下、PETフィルム)、延伸ポリプロピレンフィルム(東セロ社製、厚み20μm、以下、OPPフィルム)を用いた。
【0047】
(1)基材との密着性(テープ剥離試験)
プライマーを、PETフィルム、OPPフィルムのそれぞれのコロナ処理面に、乾燥後の膜厚が1μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、80℃で1分間乾燥させた。得られた積層フィルムを室温で1日放置後、塗膜表面にセロハンテープ(ニチバン社製TF-12)を貼り付け、テープを一気に剥がした場合の剥がれの程度を目視して、次の基準で密着性を評価した。評価が△以上であるものを合格とした。
○:全く剥がれなし
△:一部、剥がれた
×:全て剥がれた
【0048】
(2)UV硬化型コート層との密着性
プライマーを、PETフィルムのコロナ処理面に、乾燥後の膜厚が1μmになるようにマイヤーバーを用いて塗布した後、60℃または25℃で3時間乾燥させた。
得られた積層フィルムの塗膜をプライマー層とし、その表面に、UV硬化型コート剤として、UVインキ(十条ケミカル社製、レイキュアCPO 6300)を3μm塗布し、UV照射機にて、積算照射量を300mJとして、UV照射して、UV硬化コート層を形成して、基材フィルム、プライマー層、UV硬化型コート層からなる積層体を得た。
JIS K5400 8.5.2の方法で、積層体の塗膜表面の密着性試験を行った。塗膜をカットして1mm×1mm×100個の碁盤目部分を作成し、これを粘着テープにより引き剥がし、100個の碁盤目中で剥離せず残っている個数を数えて、次の基準により塗膜の密着性を評価した。
◎:100
〇:97~99
△:90~96
×:89以下
【0049】
(3)耐ブロッキング性
上記(2)に記載の、25℃で3時間乾燥させて得られた積層フィルムについて、プライマー層面同士を接触させ、25℃雰囲気下、1MPa荷重で1日間静置した。
その後サンプルを剥離し、耐ブロッキング性を次の基準で評価した。
○:ブロッキングなし(剥離に力がいらない)
△:剥離に力が必要(接着はしていない)
×:接着している
【0050】
(4)柔軟性
上記(2)に記載の、25℃で3時間乾燥させて得られた積層フィルムについて、上記(2)に記載の方法でUV硬化コート層を形成した積層体に、JIS Z2247に基づいて、エリクセン試験機(安田精機製作所社製No.5755)を用い、鋼球ポンチを所定の押し込み深さで押し付け、エリクセン値を求めた(破断、クラック、剥離が生じない押し込み深さとした)。エリクセン値は0.5mmごとに測定し、以下の基準に従って、塗膜の柔軟性を評価した。
◎:エリクセン値が7mm以上
○:エリクセン値が5mm以上、7mm未満
△:エリクセン値が3mm以上、5mm未満
×:エリクセン値が3mm未満
【0051】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、ウレタン樹脂(B)およびそれらの水性分散体は、以下の方法によって製造した。
【0052】
1.酸変性ポリオレフィン樹脂(A)水性分散体(E)の製造
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)の水性分散体(E-1)
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)(アルケマ社製、ボンダインHX-8290、エチレン/アクリル酸エチル/無水マレイン酸=80/18/2質量%)、60.0gのイソプロパノール、4.5g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.8倍当量)のトリエチルアミンおよび175.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140~145℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)の水性分散体(E-1)を得た。
【0053】
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂(A-2)の水性分散体(E-2)
酸変性ポリオレフィン樹脂として、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-2)(アルケマ社製、ボンダインTX-8030)を用いた以外は、上記(E-1)と同様の操作で、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-2)の水性分散体(E-2)を得た。
【0054】
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)の水性分散体(E-3)
酸変性ポリオレフィン樹脂として、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)(アルケマ社製、ボンダインHX-8210)を用いた以外は、上記(E-1)と同様の操作で、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-3)の水性分散体(E-3)を得た。
【0055】
(4)酸変性ポリオレフィン樹脂(A-4)の水性分散体(E-4)
プロピレン-ブテン共重合体(プロピレン/1-ブテン=80/20質量%)280gを4つ口フラスコ中、窒素雰囲気下でキシレン470gに加熱溶解させた後、系内温度を140℃に保って攪拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸40.0gとラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド28.0gをそれぞれ2時間かけて加え、その後6時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。
この析出させた樹脂を、トリエチルアミンのアセトン溶液(質量比:トリエチルアミン/アセトン=1/4)で1回洗浄し、その後アセトンで洗浄することで未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、酸変性ポリプロピレン樹脂(A-4)を得た。
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gの酸変性ポリオレフィン樹脂A-4(プロピレン/ブテン/無水マレイン酸=80.0/20.0/4.5(質量比))、45.0gのエチレングリコール-n-ブチルエーテル、8.0gのN,N-ジメチルエタノールアミン(DMEA)および137.0gの蒸留水を、ガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を160℃に保ってさらに60分間撹拌した。
その後、空冷にて内温が80℃になるまで冷却し、開封して、45.0gのテトラヒドロフラン、5.0gのDMEAおよび30.0gの蒸留水を添加した。その後、密閉し、撹拌翼の回転速度を300rpmとして系内温度を140℃に保ってさらに60分間撹拌した。
そして、空冷にて回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、微白濁の酸変性ポリオレフィン樹脂(A-4)の水性分散体(E-4)を得た。この際、フィルター上に樹脂はほとんど残っていなかった。
【0056】
(5)酸変性ポリオレフィン樹脂(A-5)の水性分散体(E-5)
プロピレン-ブテン-エチレン共重合体(プロピレン/ブテン/エチレン=68/19/13質量%)を用いた以外は上記(A-4)と同様の方法にて、酸変性ポリプロピレン樹脂(A-5)を得た。
酸変性ポリオレフィン樹脂(A-4)を(A-5)に変えた以外は、上記(E-4)と同様の操作で、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-5)の水性分散体(E-5)を得た。
【0057】
得られた酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体の特性とその製造に用いた酸変性ポリオレフィン樹脂の特性を表1に示す。
【0058】
【0059】
2.ウレタン樹脂(B)水性分散体(U)
(1)ウレタン樹脂(B-1)水性分散体(U-1)
ポリエーテル型ポリウレタン(B-1)の水性分散体(楠本化成社製、NeoRez R-600、固形分濃度33%)
(2)ウレタン樹脂(B-2)水性分散体(U-2)
ポリカーボネート型ポリウレタン(B-2)の水性分散体(三井化学社製、タケラック W-6010、固形分濃度30%)
【0060】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)の水性分散体(E-1)と、ウレタン樹脂(B-1)の水性分散体(U-1)とを、酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)100質量部に対してウレタン樹脂(B-1)が30質量部となるように室温にてメカニカルスターラーで攪拌(100rpm)混合し、さらにエチレングリコール(C)を酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)100質量部に対して0.5質量部となるように混合し、UV硬化型コート剤用プライマーを調製した。
【0061】
実施例2~17、比較例1~9
表2に示すように、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とウレタン樹脂(B)の種類、ウレタン樹脂(B)とエチレングリコール(C)の質量部を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行ってUV硬化型コート剤用プライマーを得た。なお、実施例16と17では、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体として、2種類の酸変性ポリオレフィン樹脂がそれぞれ50質量部ずつとなるように混合したものを用いた。
【0062】
実施例1~17、比較例1~9で得られたUV硬化型コート剤用プライマーの組成と特性を表2に示す。
【0063】
【0064】
実施例1~17では、プライマーから得られる塗膜(プライマー層)は、ポリエステル樹脂基材やポリオレフィン樹脂基材との密着性が良好であり、また低温乾燥でも、基材とUVインキとの密着性が良好であり、塗膜の柔軟性にも優れていた。
【0065】
比較例1~9においては、エチレングリコール(C)を含まないもしくは配合量が少ない、または配合量が多い場合はUVインキに対する密着性が低下する傾向にあった。ウレタン樹脂(B)の配合量が少ない場合は、UVインキへの密着性の低下と塗膜の柔軟性が低く、ウレタン樹脂(B)の配合量が多い場合は、オレフィン基材に対する密着性が低下する傾向にあった。