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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137794
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240927BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20240927BHJP
   H01M 50/145 20210101ALI20240927BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240927BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M50/105
H01M50/145
H01B1/06 A
H01B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037915
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2023046486
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】向井 崇将
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 長
【テーマコード(参考)】
5G301
5H011
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA26
5G301CA28
5G301CD01
5H011AA02
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H011DD13
5H011KK01
5H029AJ13
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029BJ04
5H029BJ14
5H029DJ09
5H029EJ07
5H029HJ04
5H050AA18
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA02
5H050FA05
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】塩素含有固体電解質を用いる場合であっても、充放電サイクルの際に酸性ガスにより外装体が腐食されることを抑制可能な全固体電池を提供する。
【解決手段】この全固体電池は、正極活物質を含む正極と、固体電解質層と、負極活物質を含む負極と、がこの順に積層された発電素子と、前記発電素子を封止する外装体と、を備え、前記正極と、前記負極と、前記固体電解質層とのうちの一つ又は複数が塩素元素を含む固体電解質を有し、前記外装体内に塩素系ガストラップ剤が封止されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、固体電解質層と、負極活物質を含む負極と、がこの順に積層された発電素子と、前記発電素子を封止する外装体と、を備え、
前記正極と、前記負極と、前記固体電解質層とのうちの一つ又は複数が塩素元素を含む固体電解質を有し、
前記外装体内に塩素系ガストラップ剤が封止されている、全固体電池。
【請求項2】
前記塩素系ガストラップ剤は、式(1)で表されるハイドロタルサイトである、請求項1に記載の全固体電池
M12+ 8-xM23+ (OH) 16CO 2-・nHO・・・(1)
(式(1)中、
M12+は、Mg2+,Fe2+,Zn2+,Ca2+,Li2+,Ni2+,Co2+及びCu2+からなる群から選択される一種又は複数種である。
M23+は、Al3+及びFe3+及びMn3+からなる群から選択される一種又は複数種である。
2≦x≦5、0≦n)。
【請求項3】
前記塩素系ガストラップ剤は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記塩素系ガストラップ剤は、多孔質材料で構成された担持材に5wt%以上20wt%以下で担持されている、請求項3に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記塩素系ガストラップ剤は、炭酸カリウム又は炭酸カルシウムである、請求項3に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記固体電解質が、式(2)で表されるハライド系固体電解質である、請求項1に記載の全固体電池
・・・(2)
(式(2)中、
AはLi、K、Naからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、P及びOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。
XはCl元素又はCl元素と、F、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種元素と、を含む。
0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1である。)。
【請求項7】
前記外装体は、アルミラミネートであり、
前記塩素系ガストラップ剤は、平面視して前記発電素子よりも外側に位置するシール部分又は折り曲げ部分に配置されている、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体及び前記固体電解質層の間に設けられた正極合剤層と、を有し、
前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体及び前記固体電解質層の間に設けられた負極合剤層と、を有し、
平面視して前記正極集電体及び前記負極集電体は、前記正極合剤層及び前記負極合剤層よりも大きく、
前記正極合剤層及び前記負極合剤層の外側の領域であって、前記正極集電体及び前記負極集電体の間の領域に前記塩素系ガストラップ剤が形成されている、請求項1に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素系電解質を含む非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池について開示されている。フッ素系電解質を含む非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池では、非水電解液中に含まれる微量な水分がフッ素系電解質と反応すると、フッ化水素及び三フッ化燐が生成し、更に、有機フルオロ燐酸を発生させる反応が連鎖的に生じることが開示されている。上記反応により電池内圧が上昇すると考えられている。また、上記反応の副生成物として生じる五フッ化燐は、電池内の微量水分と速やかに反応することから、フッ化水素を主成分する気体を発生させる。このフッ化水素は、電池内圧をさらに上昇させると考えられている。
【0004】
電池内圧が上昇すると、電池の破裂や液漏れのリスクが向上する。特許文献1では、このようなリスクを抑制するために、フッ化物イオントラップ機能を有する高分子ゲルで負極表面を被覆する構成にすると開示されている。
【0005】
電池の破裂や液漏れを抑制する安全性の観点から電池の電解質として固体電解質を用いる全固体電池にも注目が集まっている。固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-54462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体電池においても、固体電解質として塩素元素を含む塩素含有固体電解質を用いる場合、充放電サイクルの際に酸性ガスが発生し、全固体電池の発電素子を封止する外装体の金属層及び樹脂膜が腐食する場合があった。特許文献1で生じるようなフッ化水素の発生は、初回のSEI形成の際に生じる問題であり、ガス抜きしてから実施すれば問題とならないが、上記のような酸性ガスの発生は充放電サイクルの際に生じる問題であり、電池セル封止後も継続する問題である。酸性ガスの発生により、外装体の腐食が進行すると、電池容量の減少や、電池の短寿命化につながる場合がある。外装体は、例えば、箔状の材料が折り返され、外周がシールされることにより形成されるものである。折り返される部分は、力が加わっており、またシールされている箇所は、他の箇所と比べて腐食しやすい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、塩素含有固体電解質を用いる場合であっても、充放電サイクルの際に酸性ガスにより外装体が腐食されることを抑制可能な全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
〔1〕本発明の一態様に係る全固体電池は、正極活物質を含む正極と、固体電解質層と、負極活物質を含む負極と、がこの順に積層された発電素子と、前記発電素子を封止する外装体と、を備え、前記正極と、前記負極と、前記固体電解質層とのうちの一つ又は複数が塩素元素を含む固体電解質を有し、前記外装体内に塩素系ガストラップ剤が封止されている。
【0011】
〔2〕上記〔1〕の全固体電池において、前記塩素系ガストラップ剤は、式(1)で表されるハイドロタルサイトを含んでいてよい。
M12+ 8-xM23+ (OH) 16CO 2-・nHO・・・(1)
〔式(1)中、M12+は、Mg2+,Fe2+,Zn2+,Ca2+,Li2+,Ni2+,Co2+及びCu2+からなる群から選択される一種又は複数種である。
M23+は、Al3+及びFe3+及びMn3+からなる群から選択される一種又は複数種である。
2≦x≦5、0≦n〕
【0012】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕の全固体電池において、前記塩素系ガストラップ剤は、アルカリ金属元素もしくはアルカリ土類金属元素の炭酸塩であってもよい。
【0013】
〔4〕上記〔1〕~〔3〕の全固体電池において、前記塩素系ガストラップ剤は、多孔質材料で構成された担持材に5wt%以上20wt%以下で担持されていてもよい。
【0014】
〔5〕上記〔3〕の全固体電池において、前記塩素系ガストラップ剤は、炭酸カリウム、又は炭酸カルシウムであってもよい。
【0015】
〔6〕上記〔1〕~〔5〕の全固体電池において、前記固体電解質は、式(2)で表されるハライド系固体電解質であってもよい。
・・・(2)
〔式(2)中、AはLi、K、Naからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、〔COO〕、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、P及びOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。XはCl元素又はCl元素と、F、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種元素と、を含む。0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1である。〕
【0016】
〔7〕上記〔1〕~〔6〕の全固体電池において、前記外装体は、アルミラミネートであり、前記塩素系ガストラップ剤は、平面視して前記発電素子よりも外側に位置するシール部分又は折り曲げ部分に配置されていてもよい。
【0017】
〔8〕上記〔1〕~〔7〕の全固体電池において、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体及び前記固体電解質層の間に設けられた正極合剤層と、を有し、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体及び前記固体電解質層の間に設けられた負極合剤層と、を有し、平面視して前記正極集電体及び前記負極集電体は、前記正極合剤層及び前記負極合剤層よりも大きく、前記正極合剤層及び前記負極合剤層の外側の領域であって、前記正極集電体及び前記負極集電体の間の領域に前記塩素系ガストラップ剤が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、塩素含有固体電解質を用いる場合であっても、充放電サイクルの際に酸性ガスにより外装体が腐食されることを抑制可能な全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体電池の構成の一例を示す斜視図である。
図2図1の全固体電池の断面図である。
図3図2の全固体電池の平面図である。
図4図3の全固体電池の変形例を示す平面図である。
図5図2の全固体電池の変形例を示す断面図である。
図6図5の全固体電池の平面図である。
図7図2の全固体電池の他の変形例を示す断面図である。
図8図7の全固体電池の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
[全固体電池]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の構成の一例を示す斜視図である。図2は、図1の全固体電池の断面図である。図3は、図2の全固体電池の平面図である。図1図3では、積層型の電池を示したが、巻回型の電池でもよい。
【0022】
図1図3に示される全固体電池100は、正極活物質を含む正極と、固体電解質層と、負極活物質を含む負極と、がこの順に積層された発電素子と、前記発電素子を封止する外装体と、を備え、前記正極と、前記負極と、前記固体電解質層とのうちの一つ又は複数が塩素元素を含む固体電解質を有し、前記外装体内に塩素系ガストラップ剤が封止されている。
【0023】
図1に示されるように、全固体電池100は、外装体50及び外装体50内の収容空間Kに収容された発電素子40を備える。図1では、理解を容易にするために、発電素子40が外装体50内に収容される直前の状態を図示している。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子62、64によって外部と接続される。全固体電池100は、例えば、ラミネート電池、角型電池、円筒型電池、コイン型電池、ボタン型電池等に用いられる。
【0024】
{発電素子}
発電素子40は、固体電解質層10と正極20と負極30とを備える。発電素子40は、正極20と負極30の間で固体電解質層10を介したイオンの授受及び外部回路を介した電子の授受により充電または放電する。発電素子40は、例えば、正極合剤層24、固体電解質層10及び負極合剤層34がこの順で積層された積層体45を有する。
【0025】
(固体電解質層)
固体電解質層10は、正極20と負極30とに挟まれる。固体電解質層10は、外部から印加された電圧によってイオンを移動させることができる固体電解質を含む。例えば、固体電解質は、リチウムイオンを伝導し、電子の移動を阻害する。
【0026】
固体電解質層10を構成する固体電解質は、例えば、リチウムを含む。固体電解質は、例えば、硫化物系固体電解質、ハライド系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質であり、硫化物系固体電解質及びハライド系固体電解質の一方又は双方で構成されていることが好ましい。
【0027】
硫化物系固体電解質としては、例えば、LiPSCl、LiPSBr、LiPSI、xLiS-(1-x)P、xLiS-(1-x)GeS、xLiS-yGeS-(1-x-y)P、xLiGeS-(1-x)LiPS、Li9.54Si1.741.4411.7l0.3、LiSnS、LiPS、xLiS-(1-x)P、xLiS-yP-(1-x-y)LiN、Li13、LiBS、Liなどが挙げられる。
【0028】
ハライド系固体電解質としては、例えば、下記式(2)で表される固体電解質を用いることができる。
・・・(2)
(式(2)において、Aは、Li、K、Cs、Naからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。
Eは、Al、Sc、Y、Zr、Sn、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1つの元素である。
Gは、O、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、HCOO、CN、SCN、NO、Pからなる群から選択される少なくとも1つの基である。
Xは、F、Cl、Br、Iからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1を満たす。)
上記(2)において、Aは、Li、K、Naからなる群から選択される少なくとも1つの元素であることが好ましく、Gは、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、P及びOからなる群から選択される少なくとも1つの基であることが好ましい。
【0029】
式(2)で表されるハライド系固体電解質としては、例えば、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrOCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBr(LZBr)、LiZrBOCl、LiZrBFCl、LiYSOCl、LiYCOCl、LiYBOCl、LiYBFCl、LiZrSO(P0.1Cl、LiZr0.5Al0.5Cl3.5Oなどが挙げられる。
【0030】
ここで、正極20及び負極30のいずれも塩素元素を含む固体電解質を有さない場合、固体電解質層10は、塩素元素を含む固体電解質を有する。また、正極20及び負極30の少なくとも一方が塩素元素を含む固体電解質を含む場合であっても、固体電解質層10が塩素元素を含む固体電解質を有していてもよい。このような場合、充放電サイクルの際に酸性ガスの発生量が多くなるため、それらを塩素系ガストラップ剤により吸着する本発明の効果をより大きくできる。
【0031】
塩素元素を含む固体電解質としては、例えば、LiPSCl(LPSC)等の硫黄系固体電解質、或いは、上記式(2)において下記条件を満たすハライド系固体電解質を用いることができる。下記条件は、上記の条件のうち、式(2)におけるXサイトの条件の未調整したものである。本実施形態においては、このような塩素元素を含む固体電解質を塩素含有固体電解質と称する場合がある。
(式(2)中、
AはLi、K、Cs、Naからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
EはAl、Sc、Y、Zr、Hf、ランタノイドからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
GはOH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、HCOO、CN、SCN、NO、PO及びOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。
XはCl元素のみからなるか、又は、Cl元素と、F、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種元素と、を含む。
0.5≦a<6、0<b<2、0≦c≦6、0<d≦6.1である。)
【0032】
すなわち、上記ハライド系固体電解質の例のうち、塩素含有固体電解質は、LiZrSOCl(LZSOC)、LiZrOCl(LZOC)、LiZrCl(LZC)、LiZrBOCl、LiZrBFCl、LiYSOCl、LiYCOCl、LiYBOCl、LiYBFCl、LiZrSO(P0.1Cl、LiZr0.5Al0.5Cl3.5Oである。
【0033】
〔正極〕
正極20は、例えば、板状(箔状)の正極集電体22及び正極合剤層24を有する。正極合剤層24は、例えば、正極集電体22の少なくとも一面に接するように形成されている。
【0034】
(正極集電体)
正極集電体22は、充電時の酸化に耐えられ、腐食しにくい電子伝導性の材料であれば良い。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、チタンなどの金属、または、電子伝導性樹脂等である。正極集電体22は、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。
【0035】
(正極合剤層)
正極合剤層24は、正極活物を含む。正極合剤層24は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤及びバインダーの一種又は複数種をさらに含んでいてもよい。正極合剤層24は、例えば、正極合剤層24は、正極活物質層、固体電解質及び導電助剤で構成されている。
【0036】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵・放出、挿入・脱離(インターカレーション・デインターカレーション)を可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知のリチウムイオン2次電池に用いられている正極活物質などを使用できる。正極活物質としては、例えば、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有金属リン酸化物などが挙げられる。
【0037】
リチウム含有金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiVOPO、Li(PO)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Feから選択される少なくとも1種を示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)等である。
【0038】
正極活物質は、リチウムを含有していなくてもよい。このような正極活物質としては、MnO、Vなどのリチウム非含有金属酸化物、MoSなどのリチウム非含有金属硫化物、FeF、VFなどのリチウム非含有フッ化物などが挙げられる。リチウムを含有していない正極活物質を用いる場合には、あらかじめ負極にリチウムイオンをドープしておく、またはリチウムイオンを含有する負極を用いる。
【0039】
正極合剤層24に含まれる固体電解質は、例えば、硫化物系固体電解質、ハライド系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質であり、硫化物系固体電解質及びハライド系固体電解質の一方又は双方で構成されていることが好ましい。このような固体電解質としては、上記固体電解質を用いることができる。ここで、固体電解質層10及び負極30のいずれも塩素含有固体電解質を有さない場合、正極20は、塩素含有固体電解質を有する。また、固体電解質層10及び負極30の少なくとも一方が塩素元素を含む固体電解質を含む場合であっても、正極20が塩素元素を含む固体電解質を有していてもよい。このような場合、充放電サイクルの際に酸性ガスの発生量が多くなるため、それらを塩素系ガストラップ剤により吸着する本発明の効果をより大きくできる。
【0040】
正極合剤層24における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダーの質量の総和を基準にして、1質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~30質量%であることがより好ましい。
【0041】
導電助剤は、正極合剤層24の電子伝導性を良好にする。導電助剤は、公知のものを用いることができる。導電助剤は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄、アモルファス金属などの金属、ITOなどの伝導性酸化物、またはこれらの混合物である。導電助剤は、粉体、繊維の各形態であっても良い。
【0042】
正極合剤層24における導電助剤の含有率は、特に限定されない。導電助剤を添加する場合には通常、正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダーの質量の総和を基準にして、導電助剤の質量比は、0.5質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%とすることがより好ましい。
【0043】
バインダーは、正極合剤層24内において正極活物質と固体電解質と導電助剤とを相互に結合するとともに、正極合剤層24と正極集電体22とを、強固に接着することができる。バインダーは、耐酸化性を有し、接着性が良いことが好ましい。
【0044】
正極合剤層24にバインダーが含まれる場合、バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはそのコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリル酸(PAA)及びその共重合体、ポリアクリル酸(PAA)及びその共重合体の金属イオン架橋体、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸をグラフト化したポリエチレン(PE)、または、これらの混合物などが挙げられる。
【0045】
正極合剤層24にバインダーが含まれる場合、バインダーの含有率は、特に限定されないが、正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダーの質量の総和を基準にして、~15質量%であってもよく、1質量%~5質量%であってもよい。
【0046】
〔負極〕
負極30は、負極集電体32と負極合剤層34とを有する。負極合剤層34は、負極集電体32に接する。
【0047】
負極集電体32は、電子伝導性を有すれば良い。負極集電体32は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、鉄などの金属、または、伝導性樹脂等である。負極集電体32は、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。
【0048】
負極合剤層34は、負極活物質を含む。負極合剤層34は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤およびバインダーの一種又は複数種をさらに含んでいてもよい。負極合剤層34は、例えば、負極合剤層34は、負極活物質層、固体電解質及び導電助剤で構成されている。
【0049】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの挿入及び脱離を可逆的に進行させることができればよく、特に限定されない。負極活物質は、正極活物質より卑な電位を示す化合物である。負極活物質としては、公知のリチウムイオン2次電池に用いられているものを用いることができ、正極活物質と同様の材料を用いてもよい。負極活物質の電位と正極活物質の電位とを考慮して、全固体電池100に用いる負極活物質及び正極活物質が決定される。
【0050】
負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、メソカーボンファイバー(MCF)、コークス類、ガラス状炭素、有機化合物焼成体などの炭素材料、Si、SiO、Sn、アルミニウムなどのリチウムと化合できる金属、これらの合金、これら金属と炭素材料との複合材料、チタン酸リチウム(LiTi12)、SnOなどの酸化物、金属リチウム等である。
【0051】
負極合剤層34に含まれる固体電解質は、例えば、硫化物系固体電解質、ハライド系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質であり、硫化物系固体電解質及びハライド系固体電解質の一方又は双方で構成されていることが好ましい。このような固体電解質としては、上記固体電解質を用いることができる。ここで、固体電解質層10及び正極20のいずれも塩素含有固体電解質を有さない場合、負極30は、塩素含有固体電解質を有する。また、固体電解質層10及び正極20の少なくとも一方が塩素元素を含む固体電解質を含む場合であっても、負極30が塩素元素を含む固体電解質を有していてもよい。このような場合、充放電サイクルの際に酸性ガスの発生量が多くなるため、それらを塩素系ガストラップ剤により吸着する本発明の効果をより大きくできる。
【0052】
負極30に含まれるバインダー及び導電助剤の種類や量は、正極20に含まれるバインダー及び導電助剤と同様であり、バインダー及び導電助剤の一方又は双方が含まれなくてもよい。
【0053】
<端子>
端子62、64は、図2に示されるように、正極20の正極集電体22と、負極30の負極集電体32とにそれぞれ接続されている。正極20に接続された端子62は、正極端子である。負極30に接続された端子64は、負極端子である。端子62、64は、外部との電気的接続を担う。端子62、64は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。端子62、64と、正極20の正極集電体22または負極30の負極集電体32と電気的に接続する方法は、溶接であってもよいし、ネジ止めでもよい。端子62、62は、短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0054】
{外装体}
外装体50は、例えば、金属箔52と、金属箔52の両面に積層された樹脂層54と、を有する(図2参照)。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。金属箔52は、例えばアルミニウム箔である。樹脂層54は、例えば、ポリプロピレン等の高分子膜である。樹脂層54は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の樹脂層として、融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の樹脂層として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等、耐熱性、耐酸化性、耐還元性の高いものを用いることができる。本実施形態では、金属箔52がアルミニウム箔であり、樹脂層54が形成されているものをアルミラミネートと称する。すなわち外装体50は、例えば、アルミラミネートで構成されている。
【0055】
外装体50は、例えば、ラミネートフィルムが半分に折り返され、発電素子40を封止するようにシールされる。図3に示されるように、平面視した際、外装体50は、第一辺S1、第二辺S2、第三辺S3及び第四辺S4で画定される。第一辺S1は、ラミネートフィルムが半分に折り返されることで生じる辺であり、シールされない。第一辺S1は、ラミネートフィルムを二等分する線に対応する位置に形成される。第二辺S2、第三辺S3及び第四辺S4は、ラミネートフィルムが半分に折り返され、重なり合う位置に形成される。第二辺S2及び第三辺S3は、対向する。第四辺S4は、端子62,64と重なる位置に形成される。第一辺S1は、端子62,64と重なる第四辺S4と対向する位置に形成される。
【0056】
発電素子40は、平面視して、第一辺S1、第二辺S2、第三辺S3及び第四辺S4で囲まれた領域の内側に形成されており、外装体50により封止されている。本実施形態においては、平面視して、外装体50の第一辺S1及び発電素子40の間の領域を折り曲げ部分と称する。また、第二辺S2及び発電素子40の間の領域、第三辺S3及び発電素子40の間の領域並びに第四辺S4及び発電素子40の間の領域をシール部分と称する。特に、第二辺S2及び発電素子40の間の領域を第1シール部分と称し、第三辺S3及び発電素子40の間の領域を第2シール部分、第四辺S4及び発電素子40の間の領域を第3シール部分と称する。折り曲げ部分及びシール部分は、ともに平面視して発電素子よりも外側に位置している。
【0057】
{塩素系ガストラップ剤}
全固体電池100は、さらに塩素系ガストラップ剤1を備える。塩素系ガストラップ剤1は、発電素子40とともに外装体50内に封止されている。塩素系ガストラップ剤1は、例えば、平面視して発電素子40よりも外側の領域に形成されている。塩素系ガストラップ剤1は、例えば、図3に示されるように、折り曲げ部分に配置されている。折り曲げ部分に近い第一辺S1は、外装体において最も腐食されやすい箇所である。そのため、折り曲げ部分に塩素系ガストラップ剤1が設けられていることで、腐食の原因である酸性ガスが塩素系ガストラップ剤1に吸着されやすくなる。
【0058】
塩素系ガストラップ剤1は、HClを吸着可能な吸着材である。塩素系ガストラップ剤1は、例えば、ハイドロタルサイトである。ハイドロタルサイトは、下記式(2)で表される複水酸化物である。
M12+ 1-YM23+ (OH) Y/m m-・nHO・・・(2)
【0059】
ハイドロタルサイトは、正に帯電した基本層と負に帯電した中間層が交互に積層された層状の無機化合物である。基本層は、例えば、M12+、M23+、OH及びAm-で構成されている。中間層は、例えば、Am-及びHOで構成されている。
【0060】
塩素系ガストラップ剤1が上記式(2)で表されるハイドロタルサイトである場合、塩素系ガストラップ剤1は、ハイドロタルサイトで構成されていてもよい。
【0061】
上記式(2)中、M12+は、Mg2+,Fe2+,Zn2+,Ca2+,Li2+,Ni2+,Co2+及びCu2+からなる2価の金属イオンの群から選択される一種又は複数種である。上記式(2)中、M12+は、Mg2+及びNi2+の一種又は複数種であることが好ましい。
【0062】
上記式(2)中、M23+は、Al3+、Fe3+、Mn3+及びCr3+からなる3価の金属イオン群から選択される一種又は複数種である。上記式(2)中、M23+は、Mn2+,Fe2+及びAl2+からなる群から選択される一種又は複数種であることが好ましい。
【0063】
上記式(2)中、Am-はCO 2-、F、Cl、Br、SO 2-及びNO からなるm価アニオン群から選択される一種又は複数種である。
【0064】
上記式(2)中、Yは、例えば0<Y≦0.33を満たす。
【0065】
このような上記式(2)で表されるハイドロタルサイトの具体的な例としては、下記式(1)で表されるハイドロタルサイトが挙げられる。下記式(1)中、M1及びM2は、上記式(2)中、M1及びM2と同様である。
M12+ 8-xM23+ (OH) 16CO 2-・nHO・・・(1)
【0066】
上記式(1)中、xは、例えば、1≦x≦5を満たし、2≦x≦5を満たすことが好ましい。式(1)においてxが大きすぎると、イオン交換能が低下する恐れがあり、xが小さすぎると、M12+が水酸化物として溶出する恐れがある。
上記式(1)中、nは、0≦nを満たし、1≦nを満たすことが好ましい。
【0067】
このようなハイドロタルサイトとしては、MgMn(CO)(OH)16・4HO、MgFe(OH)16Cl・4HO、MgAl(CO)(OH)16・4HO、MgFe(CO)(OH)16・4HO、MgFe(CO)(OH)16・4HO、NiAl(CO)(OH)16・4HO、MgCaAl(SO(OH)18・12HO、ZnAl(CO)(OH)12・3HO等が挙げられる。
【0068】
塩素系ガストラップ剤1は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、及び、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の酢酸塩の一方又は双方であってもよい。塩素系ガストラップ剤1は、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩であることが好ましい。これらの塩素系ガストラップ剤1は、酸性ガスが発生した際に、中和反応をする。
【0069】
塩素系ガストラップ剤1として用いるアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩は、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムからなる群から選択される一種又は複数種であることが好ましく、炭酸カリウム及び炭酸カルシウムの一方又は双方であることがより好ましい。
【0070】
塩素系ガストラップ剤1として用いるアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の酢酸塩は、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸リチウム及び酢酸ナトリウムからなる群から選択される一種又は複数種であることが好ましく、酢酸カリウム及び酢酸カルシウムの一方又は双方であることがより好ましい。
【0071】
塩素系ガストラップ剤1として、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩、及び、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の酢酸塩の一方又は双方を用いる場合、他の材料に担持して外装体ないに封止してもよい。本実施形態においては、塩素系ガストラップ剤1が担持される材料を担持材と称する。
【0072】
担持材としては、例えば、多孔質材料を用いることができる。担持材は、例えば、ミクロポーラス材料(細孔の直径(以下、細孔径)2nm未満)、メソポーラス材料(細孔径2nm以上50nm未満)、マクロポーラス材料(細孔径50nm以上)を用いることができ、ミクロポーラス材料又はメソポーラス材料を用いることが好ましい。このような多孔質材料としては、例えば、活性炭、アルミナ、ゼオライト、シリカ、チタニア、軽石などを用いることができ、このうち活性炭、アルミナ、ゼオライト、シリカ及びチタニアのうちの一種又は複数種を用いることが好ましく、活性炭を用いることが特に好ましい。また、担持材としては、細孔径が50nm以下のものを用いることが好ましく、5nm以上25nm以下のものを用いることがより好ましく、10nm以上20nm以下のものを用いることがより好ましい。担持材の細孔径が十分に小さいことで、塩素系ガストラップ剤が塊となりづらく、塩素系ガストラップ剤及び酸性ガスの接触面積を大きくすることができ、活性炭の細孔径が十分に大きいことで、担持材の孔の内部に塩素系ガストラップ剤が分散して配置されることにより、反応性を高められると考えられる。尚、上記細孔径は、JISZ8831-2:2010に準拠したBJH法、又は、JISZ8831-3:2010に準拠したDFT法により算出される。BJH法は、特に2~50nmの大きさの細孔径を正確に測ることができるため、当該範囲の細孔径の算出はBJH法により行い、当該範囲外の大きさの細孔径は、DFT法により算出する。すなわち、BJH法で2nm未満、或いは、50nmよりも大きいと算出した場合、DFT法により細孔径を算出する。
【0073】
塩素系ガストラップ剤1は、例えば、担持材に担持量0.1wt%以上50wt%以下で担持され、1wt%以上30wt%以下で担持されることが好ましく、5wt%以上20wt%以下で担持されることがより好ましい。塩素系ガストラップ剤1が多孔質材料で構成された担持材に担持されていることで、雰囲気中の塩素系ガストラップ剤の表面積を大きくすることができる。また、酸性ガスとアルカリ土類金属元素の炭酸塩又は酢酸塩の中和反応により生じた水が担持材内に留まるため、全固体電池の充放電サイクルへの影響は、最小限に抑えられると考えられる。
【0074】
[全固体電池の製造方法]
次に、本実施形態に係る全固体電池の製造方法について説明する。本実施形態に係る全固体電池の製造方法は、例えば、粉末成形法を用いて作製される。粉末成形法は、露点が-20℃以下-90℃以上の環境で行う。粉末形成法は、露点が-30℃以下-85℃以上の環境で行うことが好ましい。粉末形成法は、例えば、グローブボックス内の露点を調整して下記の方法により行う。
【0075】
先ず、固体電解質を準備する。固体電解質は、例えば、所定のモル比で所定の元素を含む原料粉末を混合し、メカノケミカル反応をさせる方法により製造できる。固体電解質を筒状のホルダー(ダイ)、この筒状のホルダーに挿入可能な上パンチ及び下パンチを備えるペレット作製治具を用いて加圧することによりペレット状の固体電解質層を形成する。
【0076】
粉末成形法では、固体電解質層の一方の表面に配置した正極合剤、及び、他方の表面に配置した負極合剤を筒状のホルダー(ダイ)と、この筒状のホルダーに挿入可能な上パンチおよび下パンチを有するペレット作製治具を用いて加圧することにより、ペレット状の正極合剤層24及び負極合剤層34を形成する方法である。具体的には、先ず筒状のホルダーに固体電解質層を挿入する。次いで、固体電解質の一方の表面に負極合剤を投入した後、負極合剤層の上に下パンチを挿入する。この際、負極合剤を仮プレスしてもよい。次いで、固体電解質の向きを反転させ、固体電解質の他方の表面に正極合剤を投入した後、正極合剤の上に上パンチを挿入する。この際、正極合剤を仮プレスしてもよい。そして、ペレット作製治具をプレス機に載置し、下パンチ及び上パンチを加圧することにより、ペレット状の正極合剤層24及び負極合剤層34を作製することができる。
【0077】
ここで、筒状のホルダーに挿入される正極合剤は、正極活物質が他の材料と所定の比率となるように乳鉢等を用いて混合されて得られる。同様に、筒状のホルダーに挿入される負極合剤も負極活物質が他の材料と所定の比率となるように乳鉢等を用いて混合されて得られる。
【0078】
こうして、正極合剤層24、固体電解質層10及び負極合剤層34がこの順に積層された積層体を得られる。得られた積層体の正極合剤層24の表面に正極集電体22を、負極合剤層34の表面に負極集電体32をそれぞれ圧着することによって、正極20、固体電解質層10及び負極30がこの順に積層された発電素子40を得られる。発電素子40は、上記のように粉末成形法を用いて作製できる。
【0079】
次に、積層体を形成している正極20の正極集電体22および負極30の負極集電体32に、それぞれ公知の方法により外部端子を溶接し、正極集電体22または負極集電体32と外部端子とを電気的に接続する。その後、外部端子と接続された発電素子40、及び、塩素系ガストラップ剤1を外装体50に収納し、外装体50の開口部をヒートシールすることにより密封する。塩素系ガストラップ剤1としては、担持材に所定量担持させたものを用いてもよい。以上の工程により、本実施形態の全固体電池100が得られる。
【0080】
塩素系ガストラップ剤を担持材に担持させたものを用いる場合、事前処理が必要である。事前処理としては、例えば、以下の方法を行う。先ず水に塩素系ガストラップ剤を混合及び撹拌して溶液を作製する。次いで、この溶液に担持材を混合する。次いで、担持材が混合された溶液を加熱することで水を蒸発させ、担持材に担持された塩素系ガストラップ剤を作製する。塩素系ガストラップ剤の担持量は、水に混合させる炭酸塩の量及び担持材の量を調整することにより調整することができる。
【0081】
また、所定のモル比で所定の元素を含む原料粉末を混合、成形し、真空中または不活性ガス雰囲気中で焼結することにより、焼結体からなる固体電解質を形成してもよい。
【0082】
本実施形態に係る全固体電池100は、発電素子40が塩素含有固体電解質を含むものであり、充放電サイクルの際に塩酸等の酸性ガスが発生するが、塩素系ガストラップ剤1が外装体50内に封止されていることで、外装体50内の酸性ガスを塩素系ガストラップ剤1で吸着することができる。そのため、セル封止後の充放電サイクルの際に継続して生じる酸性ガスによって外装体50が腐食されることを継続的に抑制できる。従って、本実施形態に係る全固体電池100は、高いサイクル特性を示す。尚、外装体50内は、閉空間であるため、外装体50内のいずれかの領域に塩素系ガストラップ剤1が設けられていることで外装体50内の雰囲気中の酸性ガスの量を少なくすることができる。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。例えば、本発明の一実施形態に係る全固体電池は、以下に示されるような変形例の構成を有していてもよい。変形例に係る全固体電池において、上記実施形態に係る全固体電池と同様の構成は、同様の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0084】
図4は、図3の全固体電池の変形例を示す平面図である。図4に示される全固体電池100Aは、塩素系ガストラップ剤1を複数箇所に有する。全固体電池100Aにおいて、塩素系ガストラップ剤1は、折り曲げ部分だけでなく、第1シール部分、第2シール部分及び第2シール部分に設けられている。
【0085】
ラミネートフィルムが折り返される箇所である第一辺S1だけでなく、ヒートシールされる第二辺S2、第三辺S3及び第四辺S4も他の領域と比べ腐食されやすい箇所であるため、これらの箇所に近い第1シール部分、第2シール部分及び第2シール部分の少なくとも一ヶ所に設けられていれば、これらの領域での外装体50の腐食は抑制される。尚、上記の通り外装体50内は閉空間であるため、いずれの箇所に塩素系ガストラップ剤1が設けられた場合であっても、外装体50内の雰囲気中の酸性ガスの量を抑えられる。外装体50内の雰囲気中の酸性ガス量をより少なくする観点から、折り曲げ部分及び三つのシール部分のうち、複数箇所に塩素系ガストラップ剤1が設けられていることが好ましい。
【0086】
また、本発明の一実施形態に係る全固体電池は、図5及び図6に示されるような構成であってもよい。図5は、図2の全固体電池の変形例を示す断面図であり、図6は、図5の全固体電池の平面図である。図5及び図6に示される全固体電池100Bは、平面視した際の積層体45Bの大きさが積層体45よりも小さく、積層体45Bの外側の領域であって、正極集電体22及び負極集電体32の間に塩素系ガストラップ剤1を有する。
【0087】
すなわち、全固体電池100Bにおいて、平面視して正極集電体22及び負極集電体32は、正極合剤層24及び負極合剤層34よりも大きく、正極合剤層24及び負極合剤層34の外側の領域であって、正極集電体22及び負極集電体32の間の領域に塩素系ガストラップ剤1が形成されている。このように、平面視して積層体45Bの外側であって、正極集電体22及び負極集電体32に塩素系ガストラップ剤1を有していてもよい。図5及び図6では、積層体45Bに対して第一辺S1に近い側に塩素系ガストラップ剤1が形成されている例を示したが、この例に限定されない。塩素系ガストラップ剤1は、積層体45Bに対して、第二辺S2に近い側に形成されていてもよく、第三辺S3に近い側に形成されていてもよく、第四辺S4に近い側に形成されていてもよく、複数箇所に形成されていてもよい。
【0088】
全固体電池100Bでは、酸性ガスの発生源である積層体45Bにより近い位置に塩素系ガストラップ剤1が形成されており、正極集電体22及び負極集電体32の間の領域で酸性ガスを吸着できる。そのため、平面視して正極集電体22及び負極集電体32の外側に酸性ガスが流出する量を減らすことができる。
【0089】
また、本発明の一実施形態に係る全固体電池は、図7及び図8に示されるような構成であってもよい。図7は、図2の全固体電池の他の変形例を示す断面図であり、図8は、図7の全固体電池の平面図である。図7及び図8に示される全固体電池100Cは、積層体45Bの外周を囲むように塩素系ガストラップ剤1が形成されている。すなわち、全固体電池100Cでは、積層体45Bの外周全周に亘って塩素系ガストラップ剤1が形成されている。塩素系ガストラップ剤1は、正極集電体22及び負極集電体32の間である限り、積層体45Bからの距離を任意にすることができる。
【0090】
全固体電池100Cでは、全固体電池100Bと同様の効果を得られる。尚、全固体電池100Cでは、塩素系ガストラップ剤1が積層体45Bの外周を囲むように形成されているため、平面視して積層体45B及び外装体50の経路の途中に必ず塩素系ガストラップ剤1が位置する構成となる。
【実施例0091】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0092】
[実施例1]
(正極合剤の作製)
正極合剤として、正極活物質の粉末であるLCO(LiCoO)、固体電解質であるLZSOC(LiZrSOCl)、及び導電助剤であるVGCFを用意し、それぞれ63質量%:35質量%:2質量%(正極活物質:固体電解質:導電助剤))となるように秤量し、混合した。
【0093】
(負極合剤の作製)
負極合剤として、負極活物質の粉末であるLTO(LiTi12)、固体電解質であるLZSOC(LiZrSOCl)、及び導電助剤であるVGCFを用意し、それぞれ60質量%:35質量%:5質量%(負極活物質:固体電解質:導電助剤))となるように秤量し、混合した。
【0094】
(成形体の作製)
中央に直径10mmの貫通穴を有する樹脂ホルダーと、SKD11材製の直径9.99mmの下パンチおよび上パンチを用意した。樹脂ホルダーの貫通穴の下から下パンチを挿入し、樹脂ホルダーの開口側から粉末状の材料である、正極合剤と、固体電解質であるLZSOCと、負極合剤とをこの順に投入した。
【0095】
次いで、投入した粉末状の材料の上に上パンチを挿入し、上パンチと粉末状の材料を収容する樹脂ホルダーと下パンチとを有するユニットを、プレス機に静置し、圧力20kNでプレスし、成形体を作製した。
【0096】
次いで、正極活物質の上に、アルミニウム箔からなる直径15mm、厚さ20μmの正極集電体を設置した。また、負極活物質層の下に、アルミニウム箔からなる直径15mm、厚さ20μmの負極集電体を設置した。上記手順を経て、正極集電体/正極合剤層/固体電解質層/負極合剤層/負極集電体が順に積層された積層構造体を得た。
【0097】
次に、積層構造体を構成している正極層の正極集電体および負極層の負極集電体に、それぞれ外部端子を溶接し、正極集電体及び負極集電体を外部端子と電気的に接続し、発電素子を形成した。
【0098】
その後、アルミニウムラミネート上に発電素子、及び、該発電素子の隣に塩素系ガストラップ剤としてMgMn(CO)(OH)16・4HOを5mg載置した。アルミニウムラミネートを塩素系ガストラップ剤が配置された側から半分に折り返し、発電素子及び塩素系ガストラップ剤をアルミニウムラミネート材からなる外装体に収納した。最後に、外装体の開口部をヒートシールすることにより密封した。このようにして、発電素子及び塩素系ガストラップ剤が外装体内に封止され、平面視して発電素子及び塩素系ガストラップ剤が第一辺、第二辺、第三辺及び第四辺により囲まれ、塩素系ガストラップ剤が折り曲げ部分に形成された全固体電池を作製した。
【0099】
[実施例2~実施例8]
塩素系ガストラップ剤を他のハイドロタルサイトに変更した点を除き、実施例1と同様の方法により全固体電池を作製した。
実施例2~実施例8では、それぞれ以下の塩素系ガストラップ剤を用いた。実施例2:MgAl(CO)(OH)16・4HO、実施例3:MgFe(OH)16Cl・4HO、実施例4:MgFe(CO)(OH)16・4HO、実施例5:MgFe(CO)(OH)16・4HO、実施例6:NiAl(CO)(OH)16・4HO、実施例7:Mg5CaAl(SO(OH)18・12HO、実施例8:ZnAl4(CO)(OH)12・3H
【0100】
[実施例9、実施例10]
発電素子作製に用いる固体電解質を全てLiZrSO(P0.1Clに変更した点を除き、実施例1、実施例2と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0101】
[実施例11~実施例12]
発電素子作製に用いる固体電解質を全てLiZr0.5Al0.5Cl3.5Oに変更した点を除き、実施例1、実施例2と同様の方法で全固体電池を作製した。LiZr0.5Al0.5Cl3.5Oは、製造時の原料としてはZrCl、AlCl及びLiOを用いるものであり、上記式(2)におけるAサイトにLi、EサイトにZr及びAl、GサイトにO、XサイトにClが入る組成物である。
【0102】
[実施例13~実施例19]
塩素系ガストラップ剤を、担持材としての活性炭(クラレケミカル製、クラレコールGG細孔径20nm)に担持された炭酸カリウム(KCO)に変更した点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
以下、塩素系ガストラップ剤を担持材に担持させている実施例では、塩素系ガストラップ剤及び担持材の重量の合計を5mgとした。また、塩素系ガストラップ剤及び担持材の重量の合計に対する塩素系ガストラップ剤の重量(担持量)を表2に記す。以下の実施例では、塩素系ガストラップ剤及び担持材の重量の合計を調整せず、これらの比率を調整することにより担持量を調整した。
【0103】
塩素系ガストラップ剤を担持材に担持させる場合、先ず水に炭酸塩を混合し、撹拌することで溶液を作製する。次いで、この溶液に担持材となる活性炭を混合する。次いで、担持材が混合された溶液を加熱することで水を蒸発させ、担持材に担持された塩素系ガストラップ剤を作製する。塩素系ガストラップ剤の担持量は、水に混合させる炭酸塩の量及び担持材の量を調整することにより調整した。以下、他の実施例においても炭酸塩又は酢酸塩を担持材に担持させている実施例は、同様の方法により調整したものを用いる。
【0104】
[実施例20]
発電素子作製に用いる固体電解質を全てLiZrSO(P0.1Clに変更した点を除き、実施例16と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0105】
[実施例21]
発電素子作製に用いる固体電解質を全てLiZr0.5Al0.5Cl3.5Oに変更した点を除き、実施例16と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0106】
[実施例22~実施例28]
担持材をアルミナ(住友化学製、品番:細孔径6.6nm)に変更した点を除き、実施例13~実施例19と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0107】
[実施例29]
塩素系ガストラップ剤としての炭酸カリウムを担持材に担持させずに用いた点を除き、実施例13と同様の方法で全固体電池を作製した。実施例29における塩素系ガストラップ剤の量は、5mgである。
【0108】
[実施例30~実施例36]
塩素系ガストラップ剤を炭酸カルシウム(CaCO)に変更した点を除き、実施例13~実施例19と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0109】
[実施例37]
発電素子作製に用いる固体電解質を全てLiZrSO(P0.1Clに変更した点を除き、実施例33と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0110】
[実施例38]
発電素子作製に用いる固体電解質を全てLiZr0.5Al0.5Cl3.5Oに変更した点を除き、実施例33と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0111】
[実施例39~実施例45]
塩素系ガストラップ剤を炭酸カルシウム(CaCO)に変更した点を除き、実施例22~実施例28と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0112】
[実施例46]
塩素系ガストラップ剤としての炭酸カルシウムを担持材に担持させずに用いた点を除き、実施例30と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0113】
[実施例47、実施例48]
実施例47では、塩素系ガストラップ剤を炭酸リチウム(LiCO)に変更した点を除き、実施例33と同様の方法により全固体電池を作製した。
実施例48では、塩素系ガストラップ剤を炭酸ナトリウム(NaCO)に変更した点を除き、実施例33と同様の方法により全固体電池を作製した。尚、実施例48における塩素系ガストラップ剤及び担持材に対する塩素系ガストラップ剤の担持量は、9.8wt%にした。
【0114】
[実施例49~実施例52]
実施例49では、発電素子作製に用いる固体電解質を全てLPSC(LiPSCl)に変更した点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
実施例50では、発電素子作製に用いる固体電解質を全てLPSCに変更した点を除き、実施例2と同様の方法で全固体電池を作製した。
実施例51では、発電素子作製に用いる固体電解質を全てLPSCに変更した点を除き、実施例16と同様の方法で全固体電池を作製した。
実施例52では、発電素子作製に用いる固体電解質を全てLPSCに変更した点を除き、実施例33と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0115】
[実施例53~実施例56]
塩素系ガストラップ剤を変更した点を除き、実施例16と同様の方法で全固体電池を作製した。
実施例54では、塩素系ガストラップ剤として酢酸カルシウムCa(CHCOO)を用い、塩素系ガストラップ剤及び担持材に対する塩素系ガストラップ剤の担持量は、10.2wt%にした。
実施例55では、塩素系ガストラップ剤として酢酸リチウムCHCOOLiを用い、塩素系ガストラップ剤及び担持材に対する塩素系ガストラップ剤の担持量は、10.2wt%にした。
実施例56では、塩素系ガストラップ剤として酢酸カリウムCHCOONaを用い、塩素系ガストラップ剤及び担持材に対する塩素系ガストラップ剤の担持量は、10.4wt%にした。
【0116】
[実施例57~実施例68]
実施例57~実施例68では、正極集電体及び負極集電体としてより大きいもの(20mm×30mm)を用い、正極合剤層、固体電解質層及び負極合剤層で構成された積層体の平面視外側の領域であって、正極集電体及び負極集電体の間の領域に塩素系ガストラップ剤を形成した(全固体電池レイアウトの変更)点を除き、それぞれ、順に、実施例1、実施例2、実施例9、実施例10、実施例11、実施例12、実施例51、実施例52、実施例53、実施例54、実施例55、実施例56と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0117】
[比較例1]
塩素系ガストラップ剤を用いなかった点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。すなわち、比較例1では、固体電解質としてLZSOCを含む発電素子を外装体に封止した。
【0118】
[比較例2,比較例3]
発電素子作製に用いる固体電解質を全て、それぞれLiZrSO(P0.1Cl,LiZr0.5Al0.5Cl3.5Oに変更した点を除き、比較例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0119】
[比較例4]
塩素系ガストラップ剤を用いなかった点を除き、実施例49と同様の方法で全固体電池を作製した。すなわち、比較例1では、固体電解質としてLPSCを含む発電素子を外装体に封止した。
【0120】
[比較例5]
塩素系ガストラップ剤を用いなかった点を除き、実施例13と同様の方法で全固体電池を作製した。すなわち、比較例5では、固体電解質としてLZSOCを含む発電素子を、塩素系ガストラップ剤を担持していない活性炭とともに外装体内に封止した。
【0121】
[比較例6,比較例7]
発電素子作製に用いる固体電解質を全て、それぞれLiZrSO(P0.1Cl,LiZr0.5Al0.5Cl3.5Oに変更した点を除き、比較例5と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0122】
[比較例8]
塩素系ガストラップ剤を用いなかった点を除き、実施例63と同様の方法で全固体電池を作製した。すなわち、比較例5では、固体電解質としてLPSCを含む発電素子を、塩素系ガストラップ剤を担持していない活性炭とともに外装体内に封止した。
【0123】
[比較例9]
塩素系ガストラップ剤を用いなかった点を除き、実施例22と同様の方法で全固体電池を作製した。すなわち、比較例9では、固体電解質としてLZSOCを含む発電素子を、塩素系ガストラップ剤を担持していないアルミナとともに外装体内に封止した。
【0124】
[比較例10,比較例11]
発電素子作製に用いる固体電解質を全て、それぞれLiZrSO(P0.1Cl,LiZr0.5Al0.5Cl3.5Oに変更した点を除き、比較例9と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0125】
[比較例12]
比較例12では、固体電解質としてLPSCを含む発電素子を、塩素系ガストラップ剤を担持していないアルミナとともに外装体内に封止した。
【0126】
{サイクル特性試験}
実施例1~実施例68及び比較例1~比較例12の全固体電池に対し、サイクル特性を測定した。サイクル特性は、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて以下の方法により行った。
【0127】
サイクル特性の測定は、CC-CV充電-CC放電形式により行った。具体的には、先ず、充電上限電圧2.7Vまで充電レート1Cの定電流充電を行い、さらに定電圧モード(2.7V)にて2.7Vまで定電圧充電を行った。その後、放電レート1Cの定電流放電で電池電圧が1.3Vとなるまで放電を行った。充放電終了後の放電容量を検出し、サイクル試験前の電池容量Qを求めた。
【0128】
次いで、充電上限電圧2.7Vまで充電レート1Cの定電流充電を行い、さらに定電圧モード(2.7V)にて2.7Vまで定電圧充電を行った。その後、放電レート1Cの定電流放電で電池電圧が1.3Vとなるまで放電を行い、電池容量を測定した。上記充放電を1サイクルとカウントし、電池容量がサイクル試験前の電池容量の半分(Q/2)となるまで最大500サイクルのサイクル試験を行った。
【0129】
実施例1~実施例8の全固体電池の構成の要旨及びサイクル特性試験の結果を表1に纏める。実施例13~実施例56の全固体電池の構成の要旨及びサイクル特性試験の結果を表2に纏める。実施例57~実施例68の全固体電池の構成の要旨及びサイクル特性試験の結果を表3に纏める。比較例1~比較例12の全固体電池の構成の要旨及びサイクル特性試験の結果を表4に纏める。
【0130】
以下の表1~表4において、固体電解質の欄に「LZSOC」と記載されているものは、固体電解質としてLiZrSOClを用いたものであり、「LPSC」と記載されているものは、固体電解質として、LiPSClを用いたものである。また、担持元及び担持量は、塩素系ガストラップ剤を担持材に担持させた場合に、示されるものであり、担持元には担持材の種類、担持量は、塩素系ガストラップ剤及び担持材に対する塩素系ガストラップ剤のwt%を表す。担持材を用いていないものについては、担持元及び担持量の欄に「-」が記されている。表中、容量50% cycleの列には、電池容量が(Q/2)となったときのサイクル数を示し、500サイクル後も電池容量が(Q/2)を超えるものについては、容量50% cycleの列に「500+」と記されている。
【0131】
【表1】

【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
【表4】
【0135】
表1~表4に示される通り、実施例1~実施例68の塩素系ガストラップ剤が発電素子とともに外装体に封止されている全固体電池では、塩素系ガストラップ剤が外装体に封止されていない比較例1~比較例12と比べ、優れたサイクル特性を示すことが確認された。このうち、塩素系ガストラップ剤として、上記式(1)で表されるハイドロタルサイトを備える全固体電池では、特にサイクル特性に優れていた。
【0136】
また、塩素系ガストラップ剤がアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の炭酸塩である実施例においては、活性炭及びアルミナのいずれかの担持材に担持されているものでは、担持材に担持されていないものと比べ、優れたサイクル特性を示すことが確認され、担持材が活性炭の場合に特に優れたサイクル特性を示すことが確認された。また、担持量に関しては、5wt%以上20wt%以下である場合に特に優れたサイクル特性を示すことが確認された。
【符号の説明】
【0137】
1…塩素系ガストラップ剤、10…固体電解質層、20…正極、22…正極集電体、24…正極合剤層、30…負極、32…負極集電体、34…負極合剤層、40…発電素子、45…積層体、50…外装体、52…金属箔、54…樹脂層、62,64……端子、100…全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8