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特開2024-137797物質をスクリーニングする方法、物質のスクリーニングシステム、幹細胞からクランプを製造する方法、及び分化細胞を製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137797
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】物質をスクリーニングする方法、物質のスクリーニングシステム、幹細胞からクランプを製造する方法、及び分化細胞を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240927BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】58
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038478
(22)【出願日】2024-03-12
(31)【優先権主張番号】63/491,876
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515238909
【氏名又は名称】田邊 剛士
(71)【出願人】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】玉置 さくら
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ20
4B063QR77
4B063QS40
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BB40
4B065BC09
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
【課題】幹細胞を用いて物質をスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】本開示によれば、対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することと、多能性幹細胞から分化細胞を誘導することと、分化細胞に物質を添加して培養することと、物質に対する分化細胞の応答に基づいて、対象に物質を投与又は塗布するか否かを決定することと、を含む、物質をスクリーニングする方法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することと、
前記多能性幹細胞から分化細胞を誘導することと、
前記分化細胞に物質を添加して前記分化細胞を培養することと、
前記物質に対する前記分化細胞の応答に基づいて、前記対象に前記物質を投与又は塗布するか否かを決定することと、
を含む、物質をスクリーニングする方法。
【請求項2】
前記体細胞を供給する前記対象と、前記物質を投与又は塗布される前記対象と、が、同一人である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物質が、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤の添加物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記物質が、医薬品の添加物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記物質がビタミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記物質が、アスコルビン酸及びレチノールの少なくともいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記物質が防腐剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記分化細胞が皮膚細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記分化細胞の応答が、前記分化細胞による産生物の産生である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記産生物が、コラーゲンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分化細胞の応答が、前記分化細胞の生存率である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することと、
前記多能性幹細胞から分化細胞を誘導することと、
前記分化細胞に物質を添加して前記分化細胞を培養することと、
前記物質に対する前記分化細胞の応答に基づいて、前記対象に前記物質を投与又は塗布するか否かを決定することと、
投与又は塗布すると決定された前記物質を前記対象に投与又は塗布することと、
を含む、物質の投与又は塗布方法。
【請求項13】
前記体細胞を供給する前記対象と、前記物質を投与又は塗布される前記対象と、が、同一人である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記物質が、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤の添加物である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記物質が、医薬品の添加物である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記物質がビタミンである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記物質が、アスコルビン酸及びレチノールの少なくともいずれかである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記物質が防腐剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記分化細胞が皮膚細胞である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記分化細胞の応答が、前記分化細胞による産生物の産生である、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記産生物が、コラーゲンである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記分化細胞の応答が、前記分化細胞の生存率である、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
対象の体細胞から誘導された多能性幹細胞から誘導された分化細胞に物質を添加して前記分化細胞を培養した際の前記分化細胞の応答のデータを取得するデータ取得部と、
前記分化細胞の応答のデータに基づいて、前記物質を評価する評価部と、
前記評価に基づいて、前記対象に前記物質を投与又は塗布するか否かを決定する決定部と、
を備える、物質のスクリーニングシステム。
【請求項24】
前記体細胞を供給する前記対象と、前記物質を投与又は塗布される前記対象と、が、同一人である、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記物質が、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤の添加物である、請求項23に記載のシステム。
【請求項26】
前記物質が、医薬品の添加物である、請求項23に記載のシステム。
【請求項27】
前記物質がビタミンである、請求項23に記載のシステム。
【請求項28】
前記物質が、アスコルビン酸及びレチノールの少なくともいずれかである、請求項23に記載のシステム。
【請求項29】
前記物質が防腐剤である、請求項23に記載のシステム。
【請求項30】
前記分化細胞が皮膚細胞である、請求項23に記載のシステム。
【請求項31】
前記分化細胞の応答が、前記分化細胞による産生物の産生である、請求項23に記載のシステム。
【請求項32】
前記産生物が、コラーゲンである、請求項31に記載のシステム。
【請求項33】
前記分化細胞の応答が、前記分化細胞の生存率である、請求項23に記載のシステム。
【請求項34】
表面が低接着性である培養器に、幹細胞をシングルセルで播種することと、
前記培養器内の細胞外基質を含む培地中で前記幹細胞を三次元培養し、前記幹細胞からクランプを形成することと、
を含む、幹細胞からクランプを製造する方法。
【請求項35】
前記幹細胞がiPS細胞である、請求項34に記載の幹細胞からクランプを製造する方法。
【請求項36】
前記細胞外基質がラミニンを含む、請求項34に記載の幹細胞からクランプを製造する方法。
【請求項37】
前記培養器の前記表面が低接着性である、請求項34に記載の幹細胞からクランプを製造する方法。
【請求項38】
表面が低接着性である第1の培養器に、幹細胞を播種することと、
前記第1の培養器内の培地中で前記幹細胞を三次元培養し、前記幹細胞からクランプを形成することと、
前記クランプを第2の培養器に播種し、前記クランプから分化細胞を誘導することと、
を含む、分化細胞を製造する方法。
【請求項39】
前記播種することにおいて、前記幹細胞をシングルセルで播種する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記幹細胞がiPS細胞である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記iPS細胞が皮膚細胞由来である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記培地が細胞外基質を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
前記第1の培養器の前記表面が低接着性である、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
前記第2の培養器の表面がゼラチンでコートされている、請求項38に記載の方法。
【請求項45】
前記分化細胞が皮膚細胞である、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
前記皮膚細胞が真皮細胞又は表皮細胞である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
幹細胞を攪拌培養器に播種することと、
前記攪拌培養器の底面に前記幹細胞が接着せず、かつ、前記幹細胞の少なくとも20%以上が前記攪拌培養器の前記底面に接触する速度で、前記攪拌培養器内の培地を攪拌することと、
前記攪拌培養器内で前記幹細胞からクランプを形成することと、
を含む、幹細胞からクランプを製造する方法。
【請求項48】
前記幹細胞がiPS細胞である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記幹細胞を前記攪拌培養器に播種することにおいて、前記幹細胞が凍結している、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
前記幹細胞を前記攪拌培養器に播種することにおいて、凍結液とともに前記幹細胞を前記攪拌培養器に播種する、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
前記クランプを内胚葉、中胚葉、及び外胚葉の少なくともいずれかに分化させることをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
幹細胞を攪拌培養器に播種することと、
前記攪拌培養器の底面に前記幹細胞が接着せず、かつ、前記幹細胞の少なくとも20%以上が前記攪拌培養器の前記底面に接触する速度で、前記攪拌培養器内の培地を攪拌することと、
前記攪拌培養器内で前記幹細胞からクランプを形成することと、
前記クランプを培養器に播種し、二次元培養により、前記クランプから分化細胞を誘導することと、
を含む、分化細胞を製造する方法。
【請求項53】
前記幹細胞がiPS細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記iPS細胞が皮膚細胞由来である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記分化細胞が皮膚細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記皮膚細胞が真皮細胞又は表皮細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記幹細胞を前記攪拌培養器に播種することにおいて、前記幹細胞が凍結している、請求項52に記載の方法。
【請求項58】
前記幹細胞を前記攪拌培養器に播種することにおいて、凍結液とともに前記幹細胞を前記攪拌培養器に播種する、請求項52に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞技術に関し、物質をスクリーニングする方法、物質のスクリーニングシステム、幹細胞からクランプを製造する方法、及び分化細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹(iPS)細胞とは、二つの特徴的な能力を有する細胞である。一つは、体を構成するあらゆる細胞へと変化することができる能力である。もう一つは、半永久的な増殖能を有することである。iPS細胞はこの二つの能力を有するため、自己の体細胞からiPS細胞を作製し、目的の体細胞へ変化させることで、拒絶反応のない移植治療へと応用することができる。そのためiPS細胞は、再生医療の有力な技術になると考えられている(例えば、特許文献1から4及び非特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2000/70070号
【特許文献2】国際公開第2010/008054号
【特許文献3】国際公開第2012/029770号
【特許文献4】国際公開第2015/046229号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature 448, 313-317
【非特許文献2】Nature Biotechnol 26(3): 313-315, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、幹細胞を用いて物質をスクリーニングする方法、物質のスクリーニングシステム、幹細胞からクランプを製造する方法、及び幹細胞から分化細胞を製造する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る物質をスクリーニングする方法は、対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することと、多能性幹細胞から分化細胞を誘導することと、分化細胞に物質を添加して分化細胞を培養することと、物質に対する分化細胞の応答に基づいて、対象に物質を投与又は塗布するか否かを決定することと、を含む。
【0007】
上記の物質をスクリーニングする方法において、体細胞を供給する対象と、物質を投与又は塗布される対象と、が、同一人であってもよい。
【0008】
上記の物質をスクリーニングする方法において、物質が、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤の添加物であってもよい。
【0009】
上記の物質をスクリーニングする方法において、物質が、医薬品の添加物であってもよい。
【0010】
上記の物質をスクリーニングする方法において、物質がビタミンであってもよい。
【0011】
上記の物質をスクリーニングする方法において、物質が、アスコルビン酸及びレチノールの少なくともいずれかであってもよい。
【0012】
上記の物質をスクリーニングする方法において、物質が防腐剤であってもよい。
【0013】
上記の物質をスクリーニングする方法において、分化細胞が皮膚細胞であってもよい。
【0014】
上記の物質をスクリーニングする方法において、分化細胞の応答が、分化細胞による産生物の産生であってもよい。
【0015】
上記の物質をスクリーニングする方法において、産生物が、コラーゲンであってもよい。
【0016】
上記の物質をスクリーニングする方法において、分化細胞の応答が、分化細胞の生存率であってもよい。
【0017】
本発明の実施形態に係る物質の投与又は塗布方法は、対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することと、多能性幹細胞から分化細胞を誘導することと、分化細胞に物質を添加して分化細胞を培養することと、物質に対する分化細胞の応答に基づいて、対象に物質を投与又は塗布するか否かを決定することと、投与又は塗布すると決定された物質を対象に投与又は塗布することと、を含む。
【0018】
上記の物質の投与又は塗布方法において、体細胞を供給する対象と、物質を投与又は塗布される対象と、が、同一人であってもよい。
【0019】
上記の物質の投与又は塗布方法において、物質が、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤の添加物であってもよい。
【0020】
上記の物質の投与又は塗布方法において、物質が、医薬品の添加物であってもよい。
【0021】
上記の物質の投与又は塗布方法において、物質がビタミンであってもよい。
【0022】
上記の物質の投与又は塗布方法において、物質が、アスコルビン酸及びレチノールの少なくともいずれかであってもよい。
【0023】
上記の物質の投与又は塗布方法において、物質が防腐剤であってもよい。
【0024】
上記の物質の投与又は塗布方法において、分化細胞が皮膚細胞であってもよい。
【0025】
上記の物質の投与又は塗布方法において、分化細胞の応答が、分化細胞による産生物の産生であってもよい。
【0026】
上記の物質の投与又は塗布方法において、産生物が、コラーゲンであってもよい。
【0027】
上記の物質の投与又は塗布方法において、分化細胞の応答が、分化細胞の生存率であってもよい。
【0028】
本発明の実施形態に係る物質のスクリーニングシステムは、対象の体細胞から誘導された多能性幹細胞から誘導された分化細胞に物質を添加して分化細胞を培養した際の分化細胞の応答のデータを取得するデータ取得部と、分化細胞の応答のデータに基づいて、物質を評価する評価部と、評価に基づいて、対象に物質を投与又は塗布するか否かを決定する決定部と、を備える。
【0029】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、体細胞を供給する対象と、物質を投与又は塗布される対象と、が、同一人であってもよい。
【0030】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、物質が、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤の添加物であってもよい。
【0031】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、物質が、医薬品の添加物であってもよい。
【0032】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、物質がビタミンであってもよい。
【0033】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、物質が、アスコルビン酸及びレチノールの少なくともいずれかであってもよい。
【0034】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、物質が防腐剤であってもよい。
【0035】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、分化細胞が皮膚細胞であってもよい。
【0036】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、分化細胞の応答が、分化細胞による産生物の産生であってもよい。
【0037】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、産生物が、コラーゲンであってもよい。
【0038】
上記の物質のスクリーニングシステムにおいて、分化細胞の応答が、分化細胞の生存率であってもよい。
【0039】
本発明の実施形態に係る幹細胞からクランプを製造する方法は、表面が低接着性である培養器に、幹細胞をシングルセルで播種することと、培養器内の細胞外基質を含む培地中で幹細胞を三次元培養し、幹細胞からクランプを形成することと、を含む。
【0040】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法において、幹細胞がiPS細胞であってもよい。
【0041】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法において、細胞外基質がラミニンを含んでいてもよい。
【0042】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法において、培養器の表面が低接着性であってもよい。
【0043】
本発明の実施形態に係る分化細胞を製造する方法は、表面が低接着性である第1の培養器に、幹細胞を播種することと、第1の培養器内の培地中で幹細胞を三次元培養し、幹細胞からクランプを形成することと、クランプを第2の培養器に播種し、クランプから分化細胞を誘導することと、を含む。
【0044】
上記の分化細胞を製造する方法において、播種することにおいて、幹細胞をシングルセルで播種してもよい。
【0045】
上記の分化細胞を製造する方法において、幹細胞がiPS細胞であってもよい。
【0046】
上記の分化細胞を製造する方法において、iPS細胞が皮膚細胞由来であってもよい。
【0047】
上記の分化細胞を製造する方法において、培地が細胞外基質を含んでいてもよい。細胞外基質がラミニンを含んでいてもよい。
【0048】
上記の分化細胞を製造する方法において、第1の培養器の表面が低接着性であってもよい。
【0049】
上記の分化細胞を製造する方法において、第2の培養器の表面がゼラチンでコートされていてもよい。
【0050】
上記の分化細胞を製造する方法において、分化細胞が皮膚細胞であってもよい。
【0051】
上記の分化細胞を製造する方法において、皮膚細胞が真皮細胞又は表皮細胞であってもよい。
【0052】
本発明の実施形態に係る幹細胞からクランプを製造する方法は、幹細胞を攪拌培養器に播種することと、攪拌培養器の底面に幹細胞が接着せず、かつ、幹細胞の少なくとも20%以上が攪拌培養器の底面に接触する速度で、攪拌培養器内の培地を攪拌することと、攪拌培養器内で幹細胞からクランプを形成することと、を含む。
【0053】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法において、幹細胞がiPS細胞であってもよい。
【0054】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法において、幹細胞を攪拌培養器に播種することにおいて、幹細胞が凍結していてもよい。
【0055】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法において、幹細胞を攪拌培養器に播種することにおいて、凍結液とともに幹細胞を攪拌培養器に播種してもよい。
【0056】
上記の幹細胞からクランプを製造する方法が、クランプを内胚葉、中胚葉、及び外胚葉の少なくともいずれかに分化させることをさらに含んでいてもよい。
【0057】
本発明の実施形態に係る分化細胞を製造する方法は、幹細胞を攪拌培養器に播種することと、攪拌培養器の底面に幹細胞が接着せず、かつ、幹細胞の少なくとも20%以上が攪拌培養器の底面に接触する速度で、攪拌培養器内の培地を攪拌することと、攪拌培養器内で幹細胞からクランプを形成することと、クランプを培養器に播種し、二次元培養により、クランプから分化細胞を誘導することと、を含む。
【0058】
上記の分化細胞を製造する方法において、幹細胞がiPS細胞であってもよい。
【0059】
上記の分化細胞を製造する方法において、iPS細胞が皮膚細胞由来であってもよい。
【0060】
上記の分化細胞を製造する方法において、分化細胞が皮膚細胞であってもよい。
【0061】
上記の分化細胞を製造する方法において、皮膚細胞が真皮細胞又は表皮細胞であってもよい。
【0062】
上記の分化細胞を製造する方法において、幹細胞を攪拌培養器に播種することにおいて、幹細胞が凍結していてもよい。
【0063】
上記の分化細胞を製造する方法において、幹細胞を攪拌培養器に播種することにおいて、凍結液とともに幹細胞を攪拌培養器に播種してもよい。
【発明の効果】
【0064】
本発明によれば、幹細胞を用いて物質をスクリーニングする方法、物質のスクリーニングシステム、幹細胞からクランプを製造する方法、及び幹細胞から分化細胞を製造する方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1図1は、物質のスクリーニングシステムを模式的に示す図である。
図2図2は、実施例に係るクランプの写真である。
図3図3は、実施例に係るクランプの写真である。
図4図4は、実施例に係る細胞の写真である。
図5図5は、実施例に係るフローサイトメトリーのドットプロットである。
図6図6は、比較例に係る細胞の写真である。
図7図7は、実施例に係るクランプの写真である。
図8図8は、実施例に係るフローサイトメトリーのドットプロットである。
図9図9は、実施例に係る内胚葉のマーカー、中胚葉のマーカー、及び外胚葉のマーカーの発現量のグラフである。
図10図10は、実施例に係る細胞の写真である。
図11図11は、実施例に係る細胞の写真である。
図12図12は、実施例に係るフローサイトメトリーのドットプロットである。
図13図13は、比較例に係る細胞の写真である。
図14図14は、実施例に係るコラーゲン産生量を示すグラフである。
図15図15は、実施例に係る細胞の生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0066】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお以下の示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0067】
(幹細胞からクランプを製造する方法の第1実施形態)
幹細胞からクランプを製造する方法の第1実施形態は、表面が低接着性である培養器に幹細胞を播種することと、表面が低接着性である培養器内の細胞外基質を含む培地中で幹細胞を三次元培養(浮遊培養)し、幹細胞からクランプを形成することと、を含む。クランプは、胚葉体(EB)ともいう。クランプは、例えば、内胚葉のマーカーが陽性である。クランプは、例えば、中胚葉のマーカーが陽性である。クランプは、例えば、外胚葉のマーカーが陽性である。内胚葉のマーカーの例としては、SOX17が挙げられる。中胚葉のマーカーの例としては、Brachyury(T)が挙げられる。外胚葉のマーカーの例としては、PAX6が挙げられる。
【0068】
幹細胞は、例えば、多能性幹細胞である。多能性幹細胞は、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)又は胚性幹細胞(ES細胞)である。幹細胞は、ヒト由来であってもよいし、非ヒト動物由来であってもよい。iPS細胞は、例えば、皮膚細胞、血液細胞、歯髄幹細胞、ケラチノサイト、毛乳頭細胞、口腔上皮細胞、体性幹前駆細胞、又は膀胱上皮細胞由来であってもよい。
【0069】
皮膚細胞は、線維芽細胞等の真皮細胞、及びケラチノサイト等の表皮細胞であってもよい。皮膚細胞は、線維芽細胞であってもよい。血液細胞は、例えば、単核球細胞(Monocyte)、好中球、マクロファージ、好酸球、好塩基球、及びリンパ球等の有核細胞であり、赤血球、顆粒球、及び血小板を含まない。血液細胞は、例えば血管内皮前駆細胞、血液幹・前駆細胞、T細胞、又はB細胞であってもよい。T細胞は、例えばαβT細胞である。
【0070】
表面が低接着性である培養器に幹細胞を播種することにおいて、培養器に幹細胞をシングルセルで播種してもよい。幹細胞は、例えば、細胞解離剤を含む溶液中で懸濁されることにより、シングルセルに解離される。幹細胞をシングルセルで培養器に播種することにより、幹細胞がクランプを形成するときに、クランプ同士が凝集することを抑制することが可能である。細胞解離剤は、例えば細胞解離酵素である。細胞解離剤の例としては、TrypLE(登録商標、ThermoFisher SCIENTIFIC)及びトリプシンが挙げられる。なお、幹細胞をシングルセルに解離する方法は、細胞解離酵素を使用する方法に限定されない。例えば、例えば、細胞解離剤として0.1から10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用して、幹細胞をシングルセルに解離してもよい。酵素ではない細胞解離剤を用いることにより、細胞の生存率と、クランプの形成能が向上し得る。幹細胞は、例えば、細胞外基質を含む培地中にシングルセルで懸濁され、培養器に播種される。ただし、培養器に幹細胞をシングルセルにしないで播種してもよい。
【0071】
表面が低接着性である培養器は、細胞、タンパク質、ペプチド、及び低分子化合物に対して低接着性である。表面が低接着性である培養器は、例えば、表面が親水性である培養器である。表面が親水性である培養器は、例えば、培養器の表面を、親水性ポリマーでコーティングすることにより製造される。親水性ポリマーは、架橋により培養器の表面に結合していてもよい。表面が親水性である培養器に幹細胞をシングルセルで播種することにより、幹細胞が培養液の表面に接着することなく、幹細胞を三次元培養することが可能である。表面が親水性である培養器の例としては、PrimeSurface(登録商標、住友ベークライト)が挙げられる。
【0072】
培地としては、例えば、Primate ES Cell Medium(ReproCELL)等のヒトES/iPS培地等の幹細胞培地を使用可能である。
【0073】
ただし、幹細胞培地は、これに限定されず、種々の幹細胞培地が使用可能である。例えばPrimate ES Cell Medium、Reprostem、ReproFF、ReproFF2、ReproXF(Reprocell)、mTeSR1、TeSR2、TeSRE8、ReproTeSR(STEMCELL Technologies)、PluriSTEM(登録商標)Human ES/iPS Medium(Merck)、NutriStem (登録商標)XF/FF Culture Medium for Human iPS and ES Cells、Pluriton reprogramming medium(Stemgent)、PluriSTEM(登録商標)、Stemfit AK02N、Stemfit AK03(Ajinomoto)、ESC-Sure(登録商標)serum and feeder free medium for hESC/iPS(Applied StemCell)、L7(登録商標)hPSC Culture System (LONZA)、及びPluriQ(MTI-GlobalStem)等を利用してもよい。
【0074】
細胞外基質の例としては、ラミニン、コラーゲン、カドヘリン、フィブロネクチン、及びビトロネクチン、PEG、PVAが挙げられる。細胞外基質は、マトリゲル(登録商標、Corning)に含まれていてもよい。培地に細胞外基質を添加することにより、幹細胞がクランプを効率的に形成する。
【0075】
(幹細胞からクランプを製造する方法の第2実施形態)
幹細胞からクランプを製造する方法の第2実施形態は、幹細胞を攪拌培養器に播種することと、攪拌培養器の底面に幹細胞が接着せず、かつ、幹細胞の少なくとも20%以上が攪拌培養器の底面に接触する速度で、攪拌培養器内の培地を攪拌することと、攪拌培養器内で幹細胞からクランプを形成することと、を含む。クランプは、例えば、内胚葉のマーカーが陽性である。クランプは、例えば、中胚葉のマーカーが陽性である。クランプは、例えば、外胚葉のマーカーが陽性である。
【0076】
幹細胞は、第1実施形態と同様である。また、第2実施形態においては、凍結している幹細胞を凍結液とともに攪拌培養器に播種してもよい。
【0077】
攪拌培養器は、内部に培地を格納する容器と、容器内の培地を攪拌する攪拌装置と、を備える。バイオリアクターを攪拌培養器として使用してもよい。バイオリアクターの例としては、ABLE(登録商標、REPROCELL)が挙げられる。第2実施形態において、攪拌培養器に入れられる培地は、第1実施形態と同様である。ただし、第2実施形態においては、培地が細胞外基質を含んでいてもよいし、培地が細胞外基質を含んでいなくてもよい。
【0078】
攪拌培養器は、攪拌装置で容器内の培地を攪拌することにより、容器内の幹細胞が、容器の内部の表面に接着しないようにしながら、幹細胞を培養する。ここで、培地の攪拌速度が速いと、容器内で幹細胞は浮遊し、培地の攪拌速度が遅いと、容器内で幹細胞を沈殿する。
【0079】
攪拌培養器は、容器内部の底面に幹細胞が接着せず、かつ、幹細胞の少なくとも20%以上100%未満、20%以上95%以下、20%以上90%以下、20%以上80%以下、30%以上100%未満、30%以上95%以下、30%以上90%以下、30%以上80%以下、50%以上100%未満、50%以上95%以下、50%以上90%以下、50%以上80%以下、80%以上100%未満、80%以上95%以下、80%以上90%以下、85%以上100%未満、85%以上95%以下、85%以上90%以下、90%以上100%未満、90%以上95%以下、又は95%以上100%未満が容器内部の底面に接触する速度で、容器内の培地を攪拌する。ここで、接触とは、幹細胞が培地の攪拌により移動可能に底面に接していることをいう。幹細胞は、容器内部の底面に接しながら、底面上を移動してもよい。幹細胞の少なくとも20%以上が容器の底面に接触する速度で培地を攪拌することにより、幹細胞がクランプを効率的に形成する。
【0080】
クランプが形成された後は、クランプの20%未満が容器内部の底面に接触する速度に、攪拌速度を上げてもよい。クランプが形成された後に攪拌速度を上げることにより、複数のクランプ間で大きさが均一になり、三胚葉への分化効率が向上する傾向にある。
【0081】
(分化細胞を製造する方法)
分化細胞を製造する方法の実施形態は、幹細胞からクランプを製造する方法の第1又は第2実施形態で製造されたクランプを培養器に播種し、クランプから分化細胞を誘導することを含む。1cm2あたり1個以上、2個以上、あるいは5個以上のクランプを培養器に播種してもよい。クランプから分化細胞を誘導する際、細胞は二次元培養されてもよいし、三次元培養されてもよい。分化細胞は、例えば皮膚細胞である。皮膚細胞を製造する場合、クランプを形成するiPS細胞は皮膚細胞由来であることが好ましい。皮膚細胞は、真皮細胞、及び表皮細胞であってもよい。皮膚細胞は、線維芽細胞であってもよい。クランプを播種される培養器の内部の表面は、ゼラチン、ラミニン、コラーゲン、カドヘリン、フィブロネクチン、又はビトロネクチンでコートされていてもよい。培養器はディッシュであってもよい。クランプから皮膚細胞を誘導する際の培地の例としては、ウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)が挙げられるが、特に限定されない。
【0082】
培養器内で細胞がコンフルエントになったところで、トリプシン等の剥離剤で細胞を培養器から剥がし、細胞をシングルセルにしてから継代培養してもよい。継代を繰り返してもよい。その後、CD13等の線維芽細胞マーカーを用いて、細胞が線維芽細胞に分化したことを確認してもよい。また、TRA1-60、SSEA-4、及びSSEA-5等の未分化マーカーを用いて、細胞に未分化のiPS細胞が残っていないかを確認してもよい。
【0083】
(物質をスクリーニングする方法)
物質をスクリーニングする方法は、対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することと、多能性幹細胞から分化細胞を誘導することと、分化細胞に物質を添加して分化細胞を培養することと、物質に対する分化細胞の応答に基づいて、対象に物質を投与又は塗布するか否かを決定することと、を含む。
【0084】
対象はヒトである。対象の体細胞は、予め対象から取得される。体細胞は、特に限定されないが、例えば、皮膚細胞、血液細胞、歯髄幹細胞、ケラチノサイト、毛乳頭細胞、口腔上皮細胞、体性幹前駆細胞、又は膀胱上皮細胞である。体細胞は、好ましくは、皮膚細胞である。対象の体細胞から多能性幹細胞を誘導することは、体外で実施される。
【0085】
体細胞から多能性幹細胞を誘導する方法は、特に限定されない。例えば、体細胞にリプログラミング因子を導入することにより、iPS細胞が体細胞から誘導される。
【0086】
体細胞に導入されるリプログラミング因子は、例えば、RNAである。RNAは、例えば、mRNAである。細胞に導入されるリプログラミング因子は、例えば、OCT3/4等のOCT、SOX2等のSOX、KLF4等のKLF、及びc-MYC等のMYCを含む。リプログラミング因子として、OCT3/4を改良したM3Oを使用してもよい。また、リプログラミング因子は、LIN28A、FOXH1、LIN28B、GLIS1、p53-dominant negative、p53-P275S、L-MYC、NANOG、DPPA2、DPPA4、DPPA5、ZIC3、BCL-2、E-RAS、TPT1、SALL2、NAC1、DAX1、TERT、ZNF206、FOXD3、REX1、UTF1、KLF2、KLF5、ESRRB、miR-291-3p、miR-294、miR-295、NR5A1、NR5A2、TBX3、MBD3sh、TH2A、TH2B、及びP53DDからなる群から選択される少なくとも一つの因子をさらに含んでいてもよい。
【0087】
多能性幹細胞から分化細胞を誘導する方法は、特に限定されない。例えば、上記の幹細胞からクランプを製造する方法の第1又は第2実施形態に従って、多能性幹細胞からクランプを製造し、上記の分化細胞を製造する方法の実施形態に従って、クランプから分化細胞を製造してもよい。分化細胞は、例えば皮膚細胞である。
【0088】
誘導された分化細胞は、物質を添加された培地中で培養される。物質は、自家の幹細胞培養上清、他家の幹細胞培養上清、美容商品、化粧品、養毛剤、又は育毛剤に添加可能な物質である。あるいは、物質は、医薬品に添加可能な物質である。物質の例としては、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、及び生理食塩水が挙げられる。賦形剤の例としては、乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、及び白糖が挙げられる。崩壊剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、及び炭酸カルシウムが挙げられる。緩衝剤の例としては、リン酸塩、クエン酸塩、及び酢酸塩が挙げられる。乳化剤の例としては、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、及びトラガントが挙げられる。
【0089】
懸濁剤の例としては、モノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。無痛化剤の例としては、ベンジルアルコール、クロロブタノール、及びソルビトールが挙げられる。安定剤の例としては、プロピレングリコール、及びアスコルビン酸が挙げられる。保存剤の例としては、フェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、及びメチルパラベンが挙げられる。防腐剤の例としては、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、及びクロロブタノールが挙げられる。
【0090】
また、物質の他の例としては、幹細胞を培養した培地、幹細胞を培養した培地の上清、水、アルコール、界面活性剤(カチオン、アニオン、ノニオン、及び両性界面活性剤等)、保湿剤(グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ポリクオタニウム、アミノ酸、尿素、ピロリドンカルボン酸塩、核酸類、単糖類、及び少糖等、並びにそれらの誘導体等)、増粘剤(多糖類、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、キチン、キトサン、アルギン酸、カラギーナン、キサンタンガム、及びメチルセルロース等、並びにそれらの誘導体等)、ワックス、ワセリン、炭化水素飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びシリコン油等、並びにそれらの誘導体、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、及びトリオクタン酸グリセリル等のトリグリセライド類、ステアリン酸イソプロピル等のエステル油類、天然油脂類(オリブ油、椿油、アボガド油、アーモンド油、カカオ脂、月見草油、ブドウ種子油、マカデミアンナッツ油、ユーカリ油、ローズヒップ油、スクワラン、オレンジラフィー油、ラノリン、及びセラミド等)、防腐剤(オキシ安息香酸誘導体、デヒドロ酢酸塩、感光素、ソルビン酸、及びフェノキシエタノール等、並びにそれらの誘導体等)、殺菌剤(イオウ、トリクロカルバアニリド、サリチル酸、ジンクピリチオン、及びヒノキチオール等、並びにそれらの誘導体等)、紫外線吸収剤(パラアミノ安息香酸、及びメトキシケイ皮酸等、並びにそれらの誘導体等)、抗炎症剤(アラントイン、ビサボロール、ε-アミノカプロン酸、アセチルファネシルシスティン、及びグリチルリチン酸等、並びにそれらの誘導体等)、抗酸化剤(トコフェロール、BHA、BHT、及びアスタキサンチン等、並びにそれらの誘導体等)、キレート剤(エデト酸、及びヒドロキシエタンジホスホン酸等、並びにそれらの誘導体等)、動植物エキス(アシタバ、アロエ、エイジツ、オウゴン、オウバク、海藻、カリン、カミツレ、甘草、キウイ、キュウリ、クワ、シラカバ、トウキ、ニンニク、ボタン、ホップ、マロニエ、ラベンダー、ローズマリー、ユーカリ、ミルク、各種ペプタイド、プラセンタ、ローヤルゼリー、ユーグレナエキス、加水分解ユーグレナエキス、及びユーグレナ油等、並びにこれらの含有成分精製物又は発酵物等)、pH調整剤(無機酸、無機酸塩、有機酸、及び有機酸塩等、並びにそれらの誘導体等)、ビタミン類(ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンD類、ユビキノン、及びニコチン酸アミド等、並びにそれらの誘導体等)、酵母、麹菌及び乳酸菌の発酵液、ガラクトミセス培養液、美白剤(トラネキサム酸、トラネキサム酸セチル塩酸塩、4-n-ブチルレゾルシノール、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、カンゾウフラボノイド、ナイアシンアミド、及びビタミンC誘導体等)、セラミド・セラミド誘導体、抗シワ剤(レチノール、及びレチナール、並びにそれらの誘導体、ニコチン酸アミド、及びオリゴぺプチド等、並びにそれらの誘導体等、好中球エラスターゼ阻害、並びにMMP-1及びMMP-2阻害作用のある天然及び合成成分等)、酸化チタン、タルク、マイカ、シリカ、酸化亜鉛、酸化鉄、シリコン、及びこれらを加工処理した粉体類等が挙げられる。
【0091】
物質の別の例としては、基剤(カオリン、及びベントナイト等)、ゲル化剤(ポリアクリル酸塩、及びポリビニルアルコール等)、硫酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩、及び色素が挙げられる。
【0092】
分化細胞を培養する際の培地は、特に限定されないが、分化細胞が皮膚細胞である場合、例えばFBSを添加したDMEMである。
【0093】
物質に対する分化細胞の応答に基づいて、対象に物質を投与又は塗布するか否かが決定される。例えば、物質に対して、分化細胞が好ましい応答をした場合、対象に物質を投与又は塗布すると決定される。物質に対して、分化細胞が好ましくない応答をした場合、対象に物質を投与又は塗布しないと決定される。
【0094】
分化細胞の応答は、例えば、分化細胞による産生物の産生であってもよい。分化細胞が皮膚細胞である場合、産生物の例としては、コラーゲン、ヒアルロン酸、線維芽細胞成長因子(FGF)ファミリー、及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が挙げられる。分化細胞に物質を添加することにより、産生物の産生量が増加した場合、分化細胞が好ましい応答をしたと判断され、対象に物質を塗布又は投与すると決定される。分化細胞に物質を添加することにより、産生物の産生量が減少した場合、分化細胞が好ましくない応答をしたと判断され、対象に物質を塗布又は投与しないと決定される。
【0095】
分化細胞の応答は、例えば、分化細胞の生存率であってもよい。分化細胞に物質を添加することにより、分化細胞の生存率が上昇した場合、分化細胞が好ましい応答をしたと判断され、対象に物質を塗布又は投与すると決定される。分化細胞に物質を添加することにより、分化細胞の生存率が下降した場合、分化細胞が好ましくない応答をしたと判断され、対象に物質を塗布又は投与しないと決定される。
【0096】
体細胞を供給する対象と、物質を塗布又は投与される対象と、は、同一人である。物質に対する分化細胞の応答は、人によって異なり得る。これに対し、対象の体細胞由来の分化細胞における物質の応答を観察し、分化細胞が好ましい応答を示す物質を同一の対象に提供することにより、対象に適した物質をオーダーメイドで提供することが可能となる。
【0097】
(物質のスクリーニングシステム)
図1に示すように、物質のスクリーニングシステムの実施形態は、対象の体細胞から誘導された多能性幹細胞から誘導された分化細胞に物質を添加して分化細胞を培養した際の分化細胞の応答のデータを取得するデータ取得部301と、分化細胞の応答のデータに基づいて、物質を評価する評価部302と、評価に基づいて、対象に物質を塗布又は投与するか否かを決定する決定部303と、を備える。データ取得部301、評価部302、及び決定部303は、例えば、中央演算処理装置(CPU)300に含まれる。
【0098】
データ取得部301は、例えば、上記の物質をスクリーニングする方法で説明した、物質に対する分化細胞の応答のデータを取得する。例えば、データ取得部301は、複数の物質のそれぞれに対する分化細胞の応答のデータを取得してもよい。また、データ取得部301は、コントロールとして、物質を添加しなかった場合の分化細胞の応答のデータを取得してもよい。
【0099】
評価部302は、物質に対して、分化細胞が好ましい応答をしたか否かを評価する。例えば、コントロールと比較して、物質を添加された分化細胞が、産生物の産生を増加させた場合、評価部302は、分化細胞が好ましい応答をしたと評価する。また、コントロールと比較して、物質を添加された分化細胞が、産生物の産生を減少させた場合、評価部302は、分化細胞が好ましくない応答をしたと評価する。
【0100】
また、例えば、コントロールと比較して、物質を添加された分化細胞の生存率が上昇した場合、評価部302は、分化細胞が好ましい応答をしたと評価する。また、コントロールと比較して、物質を添加された分化細胞の生存率が低下した場合、評価部302は、分化細胞が好ましくない応答をしたと評価する。
【0101】
あるいは、評価部302は、複数の物質を比較して、分化細胞が好ましい応答を示す物質を抽出する。例えば、複数の物質のうち、第1の物質と比較して、第2の物質を添加された分化細胞の生存率が上昇した場合、評価部302は、第2の物質に対して分化細胞が好ましい応答をしたと評価する。また、評価部302は、第1の物質に対して分化細胞が好ましくない応答をしたと評価する。
【0102】
また、例えば、複数の物質のうち、第1の物質と比較して、第2の物質を添加された分化細胞の生存率が上昇した場合、評価部302は、第2の物質に対して分化細胞が好ましい応答をしたと評価する。また、評価部302は、第1の物質に対して分化細胞が好ましくない応答をしたと評価する。
【0103】
決定部303は、評価部302によって、分化細胞が好ましい応答をしたと評価された物質を対象に物質を塗布又は投与することを決定し、分化細胞が好ましい応答をしなかったと評価された物質を対象に物質を塗布又は投与しないことを決定する。決定部303は、決定した事項を、出力装置に送信してもよい。
【0104】
(実施例1)
フィーダーフリーでiPS細胞を培養した。培地は、80ng/mLのbFGFと1%の抗生物質(Gibco Antibiotic-Antimycotic (100X)、登録商標、ThermoFisher)を含む培地(Puel、I Peace,Inc)(以下、「幹細胞培地」という。)を用いた。以下の培地において用いられる抗生物質は同じである。80%から90%コンフルエントになってから、培地にTrypLE Selectを添加し、37℃で5分から10分静置して、iPS細胞を培養器から剥がし、ピペットマンでiPS細胞を含む幹細胞培地を懸濁して、iPS細胞をシングルセルにした。培養器に幹細胞培地を追加してシングルセルのiPS細胞を回収し、iPS細胞を含む幹細胞培地を遠心して、iPS細胞を回収した。
【0105】
1%の抗生物質を含み、bFGFを含まないPuelをEB培地として用意した。iPS細胞を0.1%のROCK阻害剤を添加したEB培地に懸濁し、iPS細胞をシングルセルにした。1×106個のiPS細胞を0.1%のROCK阻害剤及び1%のマトリゲルを添加した4mLのEB培地に懸濁し、iPS細胞をシングルセルでPrimeSurface 3D culture 60mmディッシュ(以下、「第1のディッシュ」という。)に播種した。2日後、ディッシュに4mLのEB培地を追加した。iPS細胞を第1のディッシュに播種してから2日目のクランプの写真を図2Aに示す。その後、クランプが形成されるまで、第1のディッシュ内のEB培地の半量を2日おきに交換した。iPS細胞を第1のディッシュに播種してから6日目のクランプの写真を図2Bに示す。
【0106】
20%のFBS、64μg/mLのアスコルビン酸、及び1%の抗生物質を添加し、ROCK阻害剤を含まないDMEM(高グルコース)を第1線維芽細胞培地として用意した。また、内部表面がゼラチン等の細胞外基質でコートされたディッシュを第2のディッシュとして用意した。第1のディッシュ内のEB培地とクランプをチューブに移し、EB培地とクランプを遠心して、クランプを回収した。クランプを第1線維芽細胞培地に懸濁し、9cm2あたり10個以上のクランプを第2のディッシュに播種して、37℃で細胞を培養した。第2のディッシュ内の第1線維芽細胞培地を2日おきに交換した。第2のディッシュにクランプを播種してから8日目に、図3に示すように、クランプから細胞が外に張り出してくるのが観察された。
【0107】
10%のFBS、及び1%の抗生物質を添加し、ROCK阻害剤を含まないDMEM(高グルコース)を第2線維芽細胞培地として用意した。また、内部表面がゼラチン等の細胞外基質でコートされていないディッシュを第3のディッシュとして用意した。第2のディッシュにおいて、クランプから外に張り出した細胞が増殖してから、以下の手順で細胞を継代した。
【0108】
第2のディッシュから第1線維芽細胞培地を吸引し、PBSを第2のディッシュに入れて、PBSで細胞を洗浄した。第2のディッシュからPBSを吸引し、0.25%のトリプシン/EDTAを第2のディッシュに入れ、37℃で3分間静置した。細胞が第2のディッシュから剥がれたら、50%以上の細胞がシングルセルになるようにディソシエーションした後、第1線維芽細胞培地を第2のディッシュに入れ、細胞が懸濁している第1線維芽細胞培地を第2のディッシュから吸引した。細胞が懸濁している第1線維芽細胞培地を遠心し、細胞を回収した。回収した細胞を第2線維芽細胞培地に懸濁し、第3のディッシュに1X104個/cmから5X104個/cmで播種した。
【0109】
その後、細胞が80%から90%コンフルエントになるまで、第3のディッシュ内の第2線維芽細胞培地を2日おきに交換した。4から7日に1回、上記の手順と同じ手順で、細胞を継代した。1回目の継代後の細胞の写真を図4Aに、3回目の継代後の細胞の写真を図4Bに、4回目の継代後の細胞の写真を図4Cに示す。継代が進むにつれて、細胞の形態が線維芽細胞の形態を示すようになり、TRA-1-60陽性細胞及び上皮様細胞がなくなった。4回目の継代後の細胞を、フローサイトメトリーで分析したところ、図5に示すように、線維芽細胞のマーカーであるCD13が陽性であった。
【0110】
(比較例1)
EB培地にマトリゲルを添加しなかった以外は、実施例1と同様に、iPS細胞をシングルセルで第1のディッシュに播種し、iPS細胞を培養した。この場合、図6に示すように、クランプがほぼ形成されなかった。
【0111】
(実施例2)
実施例1と同じEB培地を用意した。また、30mLのバイオリアクター(ABLE、REPROCELL)を用意した。バイオリアクターに、0.1%のROCK阻害剤を添加した20mLのEB培地を入れた。凍結溶液(STEM-CELLBANKER)中で凍結している4×106個のiPS細胞を、遠心をして凍結液を洗浄することなく、凍結液に懸濁された状態でバイオリアクター内のEB培地に播種した。37℃で回転速度を16に設定して、細胞を培養した。回転速度を16に設定した場合、iPS細胞の一部は浮遊せず、iPS細胞の少なくとも20%以上がバイオリアクターの底面に接触していた。2日後、10mLのEB培地をバイオリアクター内に追加した。その後、クランプが形成されるまで、バイオリアクター内のEB培地の半量を2日おきに交換した。iPS細胞をバイオリアクターに播種してから3日目のクランプの写真を図7Aに、iPS細胞をバイオリアクターに播種してから4日目のクランプの写真を図7Bに、iPS細胞をバイオリアクターに播種してから8日目のクランプの写真を図7Cに示す。
【0112】
iPS細胞をバイオリアクターに播種してから3日目の細胞をフローサイトメトリーで分析したところ、図8に示すように、多能性幹細胞のマーカーであるTRA1-60が陽性であった。また、iPS細胞をバイオリアクターに播種してから11日目に、クランプからRNAを抽出し、定量PCRにより、PAX6、Brachyury、及びSOX17の発現量を分析した。コントロールとしては未分化のiPS細胞を行った。PAX6は、外胚葉(神経系)のマーカーである。Brachyuryは、中胚葉のマーカーである。SOX17は、内胚葉(肺、肝臓、膵臓、筋肉、及び胃や腸等の消化器官)のマーカーである。
【0113】
図9A図9B、及び図9Cに、未分化のiPS細胞におけるPAX6、Brachyury、及びSOX17の発現量を1に正規化した場合の、クランプにおけるPAX6、Brachyury、及びSOX17の発現量を示す。クランプにおいては、PAX6、Brachyury、及びSOX17は陽性であった。したがって、本実施例に係るバイオリアクターで、iPS細胞から三胚葉を誘導できることが示された。なお、クランプが形成された後は、クランプの20%未満がバイオリアクターの底面に接触しないようにバイオリアクターの回転速度を上げたほうが、バイオリアクターの回転速度を上げなかった場合と比較して、複数のクランプ間で大きさが均一となり、三胚葉への分化効率が上昇した。
【0114】
図7Cに示すようなクランプが形成された後、実施例1と同様の方法で、クランプを内部表面がゼラチンでコートされたディッシュに播種し、細胞を継代培養した。クランプを内部表面がゼラチンでコートされたディッシュに播種してから2日目の細胞の写真を図10Aに、8日目の細胞の写真を図10Bに示す。また、1回目の継代後の細胞の写真を図11Aに、2回目の継代後の細胞の写真を図11Bに、3回目の継代後の細胞の写真を図11Cに、4回目の継代後の細胞の写真を図11Dに示す。継代が進むにつれて、細胞の形態が線維芽細胞の形態を示すようになった。また、1から4回目の継代後の細胞のそれぞれを、フローサイトメトリーで分析したところ、図12に示すように、線維芽細胞のマーカーであるCD13の陽性率が上昇していた。
【0115】
(比較例2)
バイオリアクターの攪拌装置の回転速度を速くし、iPS細胞をEB培地中で浮遊させ、iPS細胞の少なくとも20%未満がバイオリアクターの底面に接触するようにした以外は、実施例2と同様に、iPS細胞を培養した。この場合、図13に示すように、クランプがほぼ形成されなかった。
【0116】
(実施例3)
ヒトの対象1とヒトの対象2から皮膚細胞を採取し、それぞれからiPS細胞を誘導した。さらに、実施例2と同様の方法により、ヒトの対象1由来のiPS細胞から線維芽細胞を誘導し、ヒトの対象2由来のiPS細胞から線維芽細胞を誘導した。ヒトの対象1由来の誘導線維芽細胞にビタミンC、レチノール、及びiPS細胞培地の上清をそれぞれ添加したところ、図14Aに示すように、添加しなかったコントロールと比較して、コラーゲンの産生量が増加した。また、ヒトの対象2由来の誘導線維芽細胞にビタミンC、レチノール、及びiPS細胞培地の上清をそれぞれ添加したところ、図14Bに示すように、添加しなかったコントロールと比較して、コラーゲンの産生量が増加した。しかし、図14A図14Bを比較すると、ヒトの対象1由来の誘導線維芽細胞では、ビタミンCが最もコラーゲンの産生量の増加に有効であったが、ヒトの対象2由来の誘導線維芽細胞では、iPS細胞培地が最もコラーゲンの産生量の増加に有効であった。この結果は、ヒトの対象1に提供される化粧品にはビタミンCを添加することが好ましく、ヒトの対象2に提供される化粧品にはiPS細胞培地を添加することが好ましいことを示している。
【0117】
また、それぞれ防腐剤であるフェノキシエタノール、パラベン、ベンザルコニウムクロリド、及びサリチル酸ナトリウムを用意した。ヒトの対象1由来の誘導線維芽細胞に、フェノキシエタノール、パラベン、ベンザルコニウムクロリド、及びサリチル酸ナトリウムをそれぞれ添加したところ、図15Aに示すように、フェノキシエタノールを添加された細胞の生存率が最も高かった。ヒトの対象2由来の誘導線維芽細胞に、フェノキシエタノール、パラベン、ベンザルコニウムクロリド、及びサリチル酸ナトリウムをそれぞれ添加したところ、図15Bに示すように、サリチル酸ナトリウムを添加された細胞の生存率が最も高かった。この結果は、ヒトの対象1に提供される化粧品にはフェノキシエタノールを添加することが好ましく、ヒトの対象2に提供される化粧品にはサリチル酸ナトリウムを添加することが好ましいことを示している。
【符号の説明】
【0118】
300・・・CPU、301・・・データ取得部、302・・・評価部、303・・・決定部
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B