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特開2024-137801魚特性判定システム、魚特性判定方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137801
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】魚特性判定システム、魚特性判定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/90 20170101AFI20240927BHJP
   A01K 61/10 20170101ALI20240927BHJP
   G06T 7/62 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
A01K61/90
A01K61/10
G06T7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039484
(22)【出願日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】23163855
(32)【優先日】2023-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】池上 温史
【テーマコード(参考)】
2B104
5L096
【Fターム(参考)】
2B104AA01
2B104CA01
2B104GA01
5L096BA08
5L096BA18
5L096CA02
5L096DA02
5L096FA64
(57)【要約】
【課題】魚の肥満度を精度良く算出することが可能な魚特性判定システム、魚特性判定方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】魚特性判定システムは、魚の画像を取得するためのカメラシステム20と、取得された魚の画像を処理して魚の長さを算出する魚長算出部101aと、算出された魚の長さから魚の肥満度を算出する肥満度算出部101bと、を備える。ここで、肥満度は、長さの指数関数から算出される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中を泳ぐ魚の特性を判定する魚特性判定システムであって、
前記魚の画像を取得するためのカメラシステムと、
前記魚の前記画像を処理して前記魚の長さを算出する魚長算出部と、
算出された前記魚の長さから前記魚の肥満度を算出する肥満度算出部と、を備え、
前記肥満度は、前記長さの指数関数から算出される、
魚特性判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の魚特性判定システムにおいて、
CFが前記肥満度、Lが前記長さ、aが前記指数関数の底、bが第1パラメータ、cが第2パラメータである場合、前記指数関数は、CF=ab×L+cの式である、
魚特性判定システム。
【請求項3】
請求項2に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記式の前記第2パラメータ(c)は、前記魚が泳ぐ時期または前記魚が泳ぐ前記水中の温度で変化する、
魚特性判定システム。
【請求項4】
請求項2に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記式の第1パラメータ(b)は、前記魚が泳ぐ時期または前記魚が泳ぐ前記水中の温度が異なっても同じである、
魚特性判定システム。
【請求項5】
請求項2に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記指数関数には、前記魚が泳ぐ時期または前記魚が泳ぐ前記水中の温度で変化する唯一つのパラメータ(c)が存在する、
魚特性判定システム。
【請求項6】
請求項2に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記第1パラメータ(b)および前記第2パラメータ(c)は、魚種ごとに予め決められている、
魚特性判定システム。
【請求項7】
請求項2に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記第1パラメータ(b)および前記第2パラメータ(c)は、種苗ごとに予め決められている、
魚特性判定システム。
【請求項8】
請求項2に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記指数関数の前記底(a)が1より大きい場合、前記第1パラメータ(b)は正であり、
前記指数関数の前記底(a)が1より小さい場合、前記第1パラメータ(b)は負である、
魚特性判定システム。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか一項に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記指数関数は、増加関数である、
魚特性判定システム。
【請求項10】
請求項1に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記魚が泳ぐ生簀をさらに備える、
魚特性判定システム。
【請求項11】
請求項10に記載の魚特性判定システムにおいて、
前記生簀を泳ぐ魚は、人工種苗から育てられる、
魚特性判定システム。
【請求項12】
水中を泳ぐ魚の特性を判定する魚特性判定方法であって、
水中を泳ぐ魚の画像を取得し、
前記魚の前記画像を処理して前記魚の長さを算出し、
算出した前記魚の長さから前記魚の肥満度を算出し、
前記肥満度は、前記長さの指数関数から算出される、
魚特性判定方法。
【請求項13】
水中を泳ぐ魚の特性を判定する装置のコンピュータに、
水中を泳ぐ魚の画像をカメラシステムに取得させる機能と、
前記魚の前記画像を処理して前記魚の長さを算出する機能と、
算出した前記魚の長さから前記魚の肥満度を算出する機能と、を実行させ、
前記肥満度は、前記長さの指数関数から算出される、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中を泳ぐ魚の特性を判定する魚特性判定システム、水中を泳ぐ魚の特性を判定する魚特性判定方法、および水中を泳ぐ魚の特性を判定する機能をコンピュータに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
養殖業では、生産性向上のために、生簀内の魚の特性を可視化することが求められている。生産性の向上には、生簀内の魚の長さ(たとえば尾叉長)や体重とともに、魚の肥満度が重要な要素となる。魚の長さ(尾叉長)は、魚の骨格の成長の主たる指標であり、体重は、魚の出荷計画に直結する指標である。肥満度は、魚の肉付きの主たる指標である。
【0003】
従来、このような特性の可視化は、生簀の使用者が、養殖内の魚の長さや体重を実際に計測することにより行われていた。具体的には、使用者は、生簀の網を引き揚げて魚を捕獲し、捕獲した魚に麻酔をかけて、1匹ずつ長さと体重を計測し、これらの計測結果から魚の肥満度を算出する。計測済みの魚は、生簀に戻される。このような作業が、生簀内の100匹程度の魚に対して行われる。この作業は、かなり煩雑で重労働となる。
【0004】
これに対し、最近では、カメラを用いて生簀内の魚の画像を取得し、取得した画像を処理して魚の長さ(尾叉長)や体高を取得する方法が用いられている。たとえば、カメラの画像から取得された魚の長さLが、以下の関係式に適用されて、魚の体重Wが算出される。以降の式において、長さLの単位は“cm”であり、体重Wの単位は“g”である。
【0005】
W=α1×Lα2 …(1)
【0006】
そして、算出された体重が以下の関係式に適用されて、魚の肥満度CFが算出される。
【0007】
W=CF×(L/100)…(2)
【0008】
このような算出手法が、たとえば、以下の非特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Froese R (2006) “Cube law, condition factor and weight-lengthrelationships: history, meta-analysis and recommendations”, JAppl Ichthyol 22 (2006), 241-253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記関係式(1)では、魚の厚み、すなわち魚の太り具合が加味されていないため、魚の体重を高い精度で算出することが困難である。このため、上記関係式(2)に基づく魚の肥満度の算出精度も低下する。他方、魚の肥満度を精度良く算出できれば、上記関係式(2)から、魚の体重を精度良く算出できる。
【0011】
かかる課題に鑑み、本発明は、魚の肥満度を精度良く算出することが可能な魚特性判定システム、魚特性判定方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、水中を泳ぐ魚の特性を判定する魚特性判定システムに関する。この態様に係る魚特性判定システムは、前記魚の画像を取得するためのカメラシステムと、前記魚の前記画像を処理して前記魚の長さを算出する魚長算出部と、算出された前記魚の長さから前記魚の肥満度を算出する肥満度算出部と、を備える。前記肥満度は、前記長さの指数関数から算出される。
【0013】
魚は、長さが大きくなるほど、太れるポテンシャルが高くなる。発明者は、この観点から種々の検討を行ったところ、魚の長さの指数関数によって魚の肥満度を精度良く算出できることを見出した。上記のように、本態様に係る魚特性判定システムによれば、魚の長さの指数関数から魚の肥満度が算出される。よって、魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0014】
本態様に係る魚特性判定システムにおいて、前記指数関数は、CF=ab×L+cの式とされ得る。ここで、CFは前記肥満度、Lは前記長さ、aは前記指数関数の底、bは第1パラメータ、cは第2パラメータである。
【0015】
指数関数としてこの式を用いると、第1パラメータおよび第2パラメータを調整することで、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0016】
ここで、前記式の前記第2パラメータ(c)は、前記魚が泳ぐ時期または前記魚が泳ぐ前記水中の温度で変化するよう設定され得る。
【0017】
魚は、魚が泳ぐ水中の温度に応じて、捕食の活性が変化する。また、魚が泳ぐ水中の温度は、時期に応じて変化する。このため、魚の肥満度も、魚が泳ぐ水中の温度や時期に応じて変化する。したがって、上記式の第2パラメータ(c)を、魚が泳ぐ時期または魚が泳ぐ水中の温度で変化させることにより、上記式から算出される魚の肥満度の精度を高めることができる。
【0018】
また、前記式の第1パラメータ(b)は、前記魚が泳ぐ時期または前記魚が泳ぐ前記水中の温度が異なっても同じであるよう設定される。
【0019】
上記のように、魚は、長さが大きくなるほど、太れるポテンシャルが高くなる。これは、魚の骨格に基づくものであって、時期や水中の温度等の捕食の活性度合いに基づくものではない。一方、第1パラメータ(b)は、魚の長さLに乗じられ、長さL(骨格)に基づく太り具合を調整するためのパラメータである。このため、第1パラメータ(b)は、魚の長さとの肥満度との関係を調整できればよく、魚が泳ぐ時期や魚が泳ぐ水中の温度との関係からは同じであってよい。よって、上記のように、上記式の第1パラメータ(b)を前記魚が泳ぐ時期または魚が泳ぐ水中の温度に拘わらず同じに設定することで、上記式から魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0020】
したがって、前記指数関数には、前記魚が泳ぐ時期または前記魚が泳ぐ前記水中の温度で変化する唯一つのパラメータ(c)が存在してもよい。これにより、上記のように、魚が泳ぐ時期または魚が泳ぐ水中の温度に応じて、魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0021】
ここで、前記第1パラメータ(b)および前記第2パラメータ(c)は、魚種ごとに予め決められ得る。
【0022】
魚の太り方は、魚種ごとに異なり得る。このため、このように第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が魚種ごとに予め決められることで、各魚種の魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0023】
また、前記第1パラメータ(b)および前記第2パラメータ(c)は、種苗ごとに予め決められ得る。
【0024】
魚の太り方は、種苗ごとに異なり得る。たとえば、天然種苗か人工種苗かにより魚の太り方は異なり、また、人工種苗の産地やロットによっても魚の太り方は異なる。したがって、上記のように第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が種苗ごとに予め決められることで、魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0025】
また、前記指数関数において、前記底(a)が1より大きい場合は、前記第1パラメータ(b)は正に設定され、前記指数関数の前記底(a)が1より小さい場合は、前記第1パラメータ(b)は負に設定される。
【0026】
すなわち、前記指数関数は、増加関数とされる。
【0027】
これにより、魚の長さに応じた魚の太り具合をこの指数関数で規定できる。よって、この指数関数から、魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0028】
本態様に係る魚特性判定システムは、前記魚が泳ぐ生簀をさらに備える。これにより、生簀で養殖される魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0029】
ここで、前記生簀を泳ぐ魚は、人工種苗から育てられ得る。この場合、生簀内の魚の特性が、天然種苗の場合に比べて揃いやすくなる。よって、生簀を泳ぐ魚に適するように指数関数のパラメータを設定でき、生簀内の魚の肥満度を精度良く算出できる。
【0030】
本発明の第2の態様は、水中を泳ぐ魚の特性を判定する魚特性判定方法に関する。この態様に係る魚特性判定方法は、水中を泳ぐ魚の画像を取得し、前記魚の前記画像を処理して前記魚の長さを算出し、算出した前記魚の長さから前記魚の肥満度を算出する。前記肥満度は、前記長さの指数関数から算出される。
【0031】
本態様に係る魚特性判定方法によれば、第1の態様に係る魚特性判定システムと同様の効果が奏され得る。
【0032】
本発明の第3の態様は、水中を泳ぐ魚の特性を判定する装置のコンピュータに所定の機能を実行させるプログラムに関する。この態様のプログラムは、このコンピュータに、水中を泳ぐ魚の画像をカメラシステムに取得させる機能と、前記魚の前記画像を処理して前記魚の長さを算出する機能と、算出した前記魚の長さから前記魚の肥満度を算出する機能と、を実行させる。前記肥満度は、前記長さの指数関数から算出される。
【0033】
本態様に係るプログラムによれば、第1の態様に係る魚特性判定システムと同様の効果が奏され得る。
【発明の効果】
【0034】
以上のとおり、本発明によれば、魚の肥満度を精度良く算出することが可能な魚特性判定システム、魚特性判定方法およびプログラムを提供することができる。
【0035】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、実施形態に係る、魚特性判定システムの構成を示す平面図である。
図2図2は、実施形態に係る、魚特性判定システムの構成を示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係る、カメラシステムの構成を示す図である。
図4図4は、実施形態に係る、処理装置の構成を示すブロック図である。
図5図5(a)および図5(b)は、実施形態に係る、パラメータ情報の構成を示す図である。
図6図6(a)は、実施形態に係る、第1パラメータおよび第2パラメータを最適化したときの、肥満度の算出のための指数関数の波形の一例を示すグラフである。図6(b)は、参考例に係る、肥満度の算出のための関数の波形の一例を示すグラフである。
図7図7(a)は、実施形態に係る、所定の魚種に対して、第1パラメータおよび第2パラメータを最適化した算出式により算出した肥満度(実施形態)と、肥満度の実測値(検量データ)との関係を示すグラフである。図7(b)および図7(c)は、比較例に係る、所定の魚種に対して、パラメータを最適化した算出式により算出した肥満度(比較例)と、肥満度の実測値(検量データ)との関係を示すグラフである。図7(d)は、実施形態に係る、図7(a)のグラフから天然種苗の魚のプロットを除いて、人工種苗のプロットのみを残したグラフである。
図8図8は、実施形態に係る、魚特性の判定処理を示すフローチャートである。
図9図9は、変更例に係る、パラメータ情報の構成を示す図である。
図10図10は、他の変更例に係る、パラメータ情報の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。便宜上、図面には、互いに直交するXYZ軸が適宜付記されている。X軸方向およびY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。
【0038】
以下の実施形態では、船を生簀に横付けして生簀内の魚を撮像する魚特性判定システムに本発明が適用されている。但し、本発明は、以下の実施形態に何ら制限されるものではない。
【0039】
<魚特性判定システム>
図1は、魚特性判定システム1の構成を示す平面図である。図2は、図1の魚特性判定システム1をA-A’の位置で切断した断面図である。
【0040】
図1および図2を参照して、魚特性判定システム1は、海上に設置された筏2を備える。筏2は、水平方向の移動が規制されるよう、図示しないロープ等によって、海底B1に留められている。
【0041】
筏2は、木材や金属パイプ等からなる筏枠2aと、筏枠2aを海上に浮かすための複数のフロート2bと、魚を収容するための網2cとを備える。筏枠2aは、平面視において略矩形の形状を有する。複数のフロート2bは、筏枠2aの外周に沿うように、筏枠2aの下面に設置されている。これらフロート2bの浮力により、筏枠2aが海面W1に浮かぶ。
【0042】
筏枠2aの内側の領域に、網2cが設置されている。図2に示すように、網2cは、所定の深さまで矩形に垂れ下がっている。網2cの上端は、筏枠2aの上面の高さまで延びている。網2cは、X軸方向に対向する2つの側面と、Y軸方向に対向する2つの側面と、底面とが互いに連結されて構成されている。網2cで囲まれた領域は、上面が開放されている。図2に示すように、網2cは、海底B1付近まで垂れ下がっている。網2cで囲まれた領域によって生簀10が構成される。
【0043】
養殖のための魚が生簀10に移される。図1および図2に示すように、船3が、筏2のX軸負側に横付けされる。船3の船内生簀(図示せず)に、養殖対象の魚が収容されている。船内生簀に収容されている魚が、網等を用いて、船内生簀から生簀10へと移される。
【0044】
魚特性判定システム1の使用者は、生簀10で養殖している魚の成長具合を確認するために、生簀10内の魚の長さや体重、肥満度を測定する。このため、使用者は、カメラシステム20を用いて、生簀10内の魚を撮像する。図2に示すように、カメラシステム20は、ケーブル41を介して中継器30に接続されている。中継器30は、海面W1に浮くフロート42に設置されている。中継器30は、船3上の処理装置50に接続されている。カメラシステム20で撮像された画像が、ケーブル41および中継器30を介して、処理装置50に送信される。
【0045】
魚の成長具合を確認する際、使用者は、船3から生簀10内にカメラシステム20を沈めた後、処理装置50にインストールされている魚特性判定用のプログラムを起動する。これにより、カメラシステム20により撮像された画像が処理装置50に送信され、処理装置50によって処理される。この処理により、生簀10内の魚の長さ、体重および肥満度が判定される。処理装置50による魚特性の判定処理については、追って、図4ないし図6を参照して説明する。
【0046】
なお、カメラシステム20は、予め生簀10に設置されていてもよい。たとえば、図1および図2の構成において、フロート42が筏枠2aに固定され、カメラシステム20が生簀10内に予め設置されていてもよい。この場合、使用者は、図2のように船3を生簀10に横付けした後、洋上の中継器30を船3内の処理装置50にケーブルで接続すればよい。
【0047】
また、このようにカメラシステム20が生簀10に固定される場合は、中継器30がアクセスポイントを介して陸上のネットワークと通信可能な無線送信機能を有していてもよい。これにより、使用者は、船3で生簀10に行かずとも、陸上において処理装置50から中継器30に接続することで、カメラシステム20により撮像された画像を処理装置50で受信できる。したがって、陸上において、生簀10内の魚の成長具合を確認できる。
【0048】
図3は、カメラシステム20の構成を示す図である。
【0049】
カメラシステム20は、2つのカメラ21、22を備える。2つのカメラ21、22は、所定の間隔でY軸方向に並んで配置されている。すなわち、2つのカメラ21、22は、ステレオカメラを構成する。2つのカメラ21、22は、Y軸方向の位置ずれに応じた視差をもっている。この視差によって、2つのカメラ21、22の各撮像画像中に含まれる同一対象物までの距離が算出され得る。
【0050】
カメラ21、22は、それぞれ、所定視野角のレンズ21a、22aと、これらレンズ21a、22aによって撮像領域の像が結像されるイメージセンサ21b、22bを備える。図3には、レンズ21a、22aの撮像領域(視野角の範囲)の最も外側の光線が実線で模式的に示されている。
【0051】
レンズ21a、22aは、各々、必ずしも1つのレンズにより構成されなくてもよく、複数のレンズが組み合わされて構成されてもよい。イメージセンサ21b、22bは、CMOSイメージセンサやCCD等のカラーの撮像素子である。レンズ21a、22aは、ほぼ同じ方向を向いている。より詳細には、レンズ21a、22aが向く方向は、水平方向である。但し、これに限らず、レンズ21a、22aが向く方向が多少ずれていてもよい。
【0052】
<処理装置>
図4は、処理装置50の構成を示すブロック図である。便宜上、図4には、処理装置50との間で通信を行うカメラシステム20が含まれている。
【0053】
処理装置50は、制御部101と、記憶部102と、通信回路103と、表示部104と、表示処理回路105と、操作部106と、操作処理回路107と、を備える。処理装置50は、パーソナルコンピュータにより構成され得る。あるいは、処理装置50が、専用機として構成されてもよい。
【0054】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理回路を備え、記憶部102に記憶されたプログラムによって、魚特性判定のための制御処理を実行する。記憶部102は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等の記憶媒体を備える。記憶部102には、魚特性判定の処理を実現するためのプログラムが記憶されている。
【0055】
通信回路103は、制御部101からの制御に応じて、カメラシステム20と通信を行う。上述にように、通信回路103は、制御部101からの制御に応じて、カメラシステム20のカメラ21、22から撮像画像を取得する。通信回路103は、取得した画像を、制御部101に出力する。
【0056】
表示部104は、液晶ディスプレイ等の表示器を備える。表示処理回路105は、制御部101からの制御に応じて、表示部104に所定の画像を表示させる。操作部106は、操作キーやマウス等の入力手段を備える。操作処理回路107は、制御部101からの制御に応じて、操作部106に対する操作に応じた信号を制御部101に出力する。表示部104と操作部106が、液晶表示器にタッチパネルが重ねられた液晶パネルにより構成されてもよい。
【0057】
本実施形態では、記憶部102に記憶されたプログラムにより、魚長算出部101a、肥満度算出部101bおよび魚体重算出部101cの機能が、制御部101に付与される。
【0058】
魚長算出部101aは、カメラシステム20により取得された画像を解析処理して、当該画像内の魚の領域を検出し、さらに、カメラ21、22間の視差に基づき当該領域の魚の長さLを算出する。本実施形態では、魚の長さLとして、尾叉長が算出される。但し、算出される魚の長さLはこれに限られるものではなく、魚の長さを規定することが可能な他の長さであってもよい。
【0059】
肥満度算出部101bは、魚長算出部101aで算出された魚の長Lから魚の肥満度CFを算出する。肥満度CFの算出方法については、追って説明する。
【0060】
魚体重算出部101cは、肥満度算出部101bにより算出された肥満度CFと、魚長算出部101aにより算出された魚の長さLとを、上記式(2)に適用して、魚の体重Wを算出する。すなわち、魚体重算出部101cは、肥満度算出部101bにより算出された肥満度CFと、魚長算出部101aにより算出された魚の長さLとの掛け算から、魚の体重を算出する。
【0061】
制御部101は、魚長算出部101a、肥満度算出部101bおよび魚体重算出部101cの算出結果を、表示部104に表示させる。たとえば、制御部101は、撮像期間の画像が得られた複数の魚の長さL、肥満度CFおよび体重Wから平均値、中央値または最頻値を算出し、算出した値を表示部104に表示させる。あるいは、制御部101は、撮像期間に取得した複数の魚の長さL、肥満度CFおよび体重Wからヒストグラムをそれぞれ生成し、生成したヒストグラムを表示部104に表示させてもよい。これらの表示により、使用者は、生簀10内の魚の成長具合(魚の長さL、肥満度CFおよび体重W)を把握できる。
【0062】
ところで、従来の算出方法では、カメラシステム20の撮像画像から算出された魚の長さLが、まず、上記関係式(1)に適用されて魚の体重Wが算出される。次に、算出された体重Wが上記関係式(2)に適用されて魚の肥満度CFが算出される。
【0063】
しかしながら、上記関係式(1)では、魚の厚み、すなわち魚の太り具合が加味されないため、魚の体重Wを高い精度で算出することが困難である。このため、この体重Wを上記関係式(2)に適用して算出した魚の肥満度CFも、精度の低いものとなってしまう。
【0064】
そこで、本実施形態では、魚の肥満度CFの新たな算出方法が、肥満度算出部101bにおいて実行される。すなわち、魚は、長さLが大きくなるほど、太れるポテンシャルが高くなる。発明者は、この観点から種々の検討を行ったところ、魚の長さの指数関数によって魚の肥満度を精度良く算出できることを見出した。
【0065】
また、魚が泳ぐ水中の温度に応じて、魚の捕食の活性が変化し、これに伴い魚の太り具合も変化する。水中の温度は、月や季節等、1年間の時期に応じて異なる。このため、魚が泳ぐ水中の温度や時期により、魚の太り具合も変化する。よって、上述の指数関数を魚が泳ぐ水中の温度や時期により調整することで、魚の肥満度CFの算出精度をより高めることができる。
【0066】
さらには、魚の太り方は、種苗ごとにも異なり得る。たとえば、天然種苗か人工種苗かにより魚の太り方は異なり、あるいは、人工種苗の産地(親の産地)やロット(たとえば、1回の産卵により産み落とされた卵のグループ)によっても、魚の太り方は異なり得る。よって、上述の指数関数を魚の種苗ごとに調整することで、魚の肥満度CFの算出精度をさらに高めることができる。
【0067】
以上の観点から、本実施形態では、魚の肥満度CFの算出に、魚の長さL(尾叉長)の指数関数が用いられ、さらに、この指数関数に、第1パラメータと第2パラメータとが含められる。第1パラメータは、魚の長さLに乗じられるパラメータであり、第2パラメータは、水中の温度や時期により肥満度CFを調整するためのパラメータである。そして、これらのパラメータの値が、生簀10に収容されている魚の種苗に応じて変更される。
【0068】
具体的には、肥満度算出部101bは、以下の式(3)から魚の肥満度CFを算出する。
【0069】
CF=eb×L+c … (3)
【0070】
この式において、bが上述の第1パラメータであり、cが上述の第2パラメータである。これらのパラメータは、上述のプログラムの一部として、記憶部102に予め記憶されている。また、これらのパラメータは、魚種ごとに区分されて、記憶部102に記憶されている。
【0071】
図5(a)、(b)は、記憶部102に記憶されているパラメータ情報(第1パラメータ(b)、第2パラメータ(c))の構成を示す図である。
【0072】
図5(a)、(b)には、サバとアジのパラメータ情報がそれぞれ示されている。ここでは、1年間の月ごとに、第2パラメータ(b)が設定されている。また、種苗が人工種苗であるか天然種苗であるかによって、第1パラメータ(b)と第2パラメータ(c)の値が変更されている。人工種苗とは、使用者が種苗センター等から購入して生簀10で養殖する卵や稚魚のことである。天然種苗とは、使用者が漁場から捕獲して養殖する稚魚や魚のことである。ここでは、主として同一種苗の魚が同一の生簀10で養殖されることが想定されている。サバおよびアジ以外の魚種についても、同様の構成のパラメータ情報が、記憶部102に記憶されている。
【0073】
パラメータ情報に含まれる第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)は、魚種ごとに最適の値となるように調整されている。パラメータ情報の作成者は、上記式(3)により算出される肥満度CFが、実際の魚の肥満度の実測値に最もフィッティングするように、第1パラメータ(b)と各月の第2パラメータ(c)とを魚種および種苗ごとに調整し、調整後の第1パラメータ(b)および各月の第2パラメータ(c)を、上記プログラムとともに使用者に提供する。
【0074】
図6(a)は、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)を最適化したときの、上記式(3)の波形の一例を示すグラフである。
【0075】
図6(a)には、1、3、5、7、9、11月にそれぞれ対応する6つのグラフが示されている。図6(a)に示すように、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が最適化されることにより、式(3)の指数関数は増加関数となる。ここでは、式(3)の底(e)が1より大きいため、第1パラメータ(b)は正の値に設定される。同じ長さLに対する肥満度CFは、図6(a)中の6つの月では、3月が最も高く、9月が最も低い。7月や9月は水中の温度が高すぎるため、捕食の活性が停滞する。このため、9月の肥満度CFは最も低くなっている。また、厳寒期も捕食の活性が停滞するが、厳寒期を超えると捕食の活性が最も高くなる。このため、3月の肥満度CFは最も高くなっている。
【0076】
参考例として、次の先行文献に記載されている肥満度CFの算出式のグラフを、図6(b)に示す。
【0077】
Froese R (2006) “Cube law,condition factor and weight-length relationships: history, meta-analysis and recommendations”, JAppl Ichthyol 22 (2006), 241-253
この参考例では、肥満度CFが以下の算出式により算出される。
【0078】
CF=m×L … (4)
【0079】
式(4)のパラメータ(m)、(n)は、季節(時期)に応じて最適化される。図6(b)に示すように、式(4)は、減少関数である。式(4)は、季節に応じて自由に移動可能な天然の魚を対象に規定されている。したがって、式(4)は、生簀10内に拘束された養殖魚の肥満度CFの算出には適さない。このため、式(4)は、図6(b)に示すように減少関数となっており、式(3)の指数関数(増加関数)の波形とは大きく相違している。
【0080】
図7(a)は、所定の魚種に対し、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)を最適化したときの上記式(3)による肥満度CF(実施形態)と、肥満度CFの実測値(検量データ)との関係を示すグラフである。
【0081】
ここでは、1匹の魚ごとにカメラシステム20で撮像を行って魚の長さL(尾叉長)を算出し、算出した長さLを上記式(3)に適用して、当該魚の肥満度CF(実施形態:縦軸)を算出した。また、この魚を実際に検量して長さLと体重Wを取得し、取得した長さLと体重Wを上記式(2)に適用して肥満度CF(検量データ:横軸)を算出した。この作業を、図7(a)中のプロットの数だけ行った。各プロットは、1匹の魚に対応する。各々の魚について式(3)から得られた肥満度CF(実施形態:縦軸)と、その魚について実測から得られた肥満度CF(検量データ:横軸)とが交わる位置に、この魚に対するプロットが付されている。
【0082】
各プロットは、種々の時期に、種々の種苗の魚について取得した。ここでは、種苗を、人工種苗と天然種苗の2種類に区分した。種苗および時期ごとに、上記式(3)の第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)を最適化し、各々のプロットに対応する魚の肥満度CFを式(3)から求めた。
【0083】
図7(a)には、3つの近似直線が、破線で示されている。中央の近似直線は、肥満度CF(実施形態)と肥満度CF(検量データ)とが略整合する場合の近似直線である。上側の近似直線は、肥満度CF(実施形態)が肥満度CF(検量データ)よりやや高い場合の近似直線であり、下側近似直線は、肥満度CF(実施形態)が肥満度CF(検量データ)よりやや低い場合の近似直線である。
【0084】
比較のため、魚の体重Wを以下の式で求めた場合の肥満度CF(比較例)と肥満度CFの実測値(検量データ)と関係を求めた。
【0085】
W=β1×Lβ2×Hβ3 … (5)
【0086】
式(5)において、Hは、魚の体高である。式(5)では、上記式(1)に比べ、魚の体高Hがさらに加味されて魚の体重Wが算出される。しかし、この式(5)においても、上記式(1)と同様、魚の厚み、すなわち魚の太り具合は、体重Wの算出に加味されていない。
【0087】
式(5)と上記式(2)とから、以下の関係式が導かれる。
【0088】
CF=α0×(Lβ2×Hβ3)/L … (6)
【0089】
比較例では、カメラシステム20の撮像画像から取得される魚の長さLを式(6)に適用して、魚の肥満度CFを算出した。
【0090】
図7(b)、(c)は、所定の魚種に対し、式(6)の各パラメータを最適化したときの、肥満度CFの実測値(検量データ)と上記式(6)による肥満度CF(比較例)の算出結果との関係を示すグラフである。図7(b)、(c)にも、図7(a)と同様の3つの近似直線が、破線で示されている。
【0091】
比較例では、1匹の魚ごとにカメラシステム20で撮像を行って魚の長さL(尾叉長)および体高Hを算出し、算出した長さLおよび体高Hを上記式(6)に適用して、当該魚の肥満度CF(比較例:縦軸)を算出した。また、この魚を実際に検量して長さLと体重Wを取得し、取得した長さLと体重Wを上記式(2)に適用して肥満度CF(検量データ:横軸)を算出した。この作業を、図7(b)、(c)中のプロットの数だけ行った。各プロットは、1匹の魚に対応する。各々の魚について式(6)からから得られた肥満度CF(比較例:縦軸)と、その魚について実測から得られた肥満度CF(検量データ:横軸)とが交わる位置に、この魚に対するプロットが付されている。
【0092】
図7(a)の場合と同様、各プロットは、種々の時期に、種々の種苗の魚について取得した。ここでは、種苗を、人工種苗と天然種苗の2種類に区分した。種苗および時期ごとに、上記式(6)の各パラメータを最適化し、各々のプロットに対応する魚の肥満度CFを式(6)から求めた。
【0093】
加えて、比較例では、上記式(6)の各パラメータを、肥満度CFが20未満であると仮定した場合と、肥満度CFが20以上であると仮定した場合とについて、それぞれ最適化して2種類の式(6)を設定した。そして、カメラシステム20の撮像画像から取得した各魚の長さLおよび体高Hをこれら2種類の式(6)にそれぞれ適用して、各魚の肥満度CF(比較例)を算出した。
【0094】
図7(b)は、肥満度CFが20未満であると仮定して調整された式(6)を用いた場合の測定結果であり、図7(c)は、肥満度CFが20以上であると仮定して調整された式(6)を用いた場合の測定結果である。
【0095】
図7(b)、(c)に示すように、比較例では、何れの算出式を用いた場合も、多くのプロットが、中央の近似直線から大きく乖離した。これに対し、実施形態では、図7(a)に示すように、大半のプロットが、中央の近似直線の付近に集まり、上下の近似直線の範囲内に収まった。このことから、上記式(3)が、肥満度CFの算出に極めて有効であることが確認できた。
【0096】
なお、図7(a)の測定結果から天然種苗の魚のプロットを除いて、人工種苗の魚のプロットのみを残すと、図7(d)のように、これらのプロットの殆どが、中央の近似直線に近接した。これは、人工種苗の魚は、天然種苗の魚よりも、成長の特性が揃いやすいためであると考えられる。このことから、上記式(3)は、生簀10において人工種苗の魚が育てられる場合に用いられると、より好ましいと言える。
【0097】
図8は、魚特性の判定処理を示すフローチャートである。
【0098】
図8の処理は、図4の制御部101において実行される。ステップS103、S104、S105の処理は、魚長算出部101a、肥満度算出部101bおよび魚体重算出部101cの機能によりそれぞれ実行される。
【0099】
魚特性の判定処理が開始されると、制御部101は、カメラシステム20(カメラ21、22)から画像を取得し(S101)、取得した画像から魚の画像を抽出する(S102)。制御部101は、抽出した魚の画像から、カメラ21、22間の視差に基づき魚の長さL(尾叉長)を算出し(S103)、算出した長さLを上記式(3)に適用して、当該魚の肥満度CFを算出する(S104)。
【0100】
ここで、式(3)は、測定対象の生簀10に収容されている魚の魚種、種苗および現在の時期によって、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が最適化されている。
【0101】
より詳細には、使用者は、図8の処理の開始前に、図4の操作部106を介して、生簀10に収容されている魚の魚種および種苗を入力する。現在の時期は、図4の制御部101内の日時計測機能により取得される。制御部101は、記憶部102に記憶されているパラメータ情報(図5(a)、(b)参照)のうち、入力された魚種に対応するパラメータ情報を参照し、さらに、入力された種苗および現在の時期に対応する第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)の値をこのパラメータ情報から抽出する。そして、制御部101は、抽出した第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)の値を式(3)に設定する。ステップS104では、こうして最適化された式(3)を用いて、肥満度CFの算出が行われる。
【0102】
制御部101は、算出した肥満度CFと、ステップS103で算出した当該魚の長さLとを上記式(2)に適用して、当該魚の体重Wを算出する(S105)。制御部101は、算出した長さL、肥満度CFおよび体重Wを、魚ごとに記憶部102に記憶させる(S106)。
【0103】
制御部101は、長さL、肥満度CFおよび体重Wを所定数(たとえば、100匹)の魚について取得するまで(S107:NO)、ステップS101~S106の処理を繰り返し実行する。このとき、制御部101は、カメラシステム20の撮像視野に含まれる魚を追跡処理することで、同一の魚について長さL、肥満度CFおよび重さWを重複して取得することを回避する。
【0104】
こうして、所定数の魚について長さL、肥満度CFおよび体重Wを取得すると(S107:YES)、制御部101は、これら魚に対する算出結果を、表示部104に表示させる(S108)。これにより、たとえば、これら所定数の魚の長さL、肥満度CFおよび体重Wの平均値、中央値または最頻値が表示される。あるいは、魚の長さL、肥満度CFおよび体重Wごとのヒストグラムが表示部104に表示されてもよい。これにより、使用者は、生簀10内の魚の成長具合(魚の長さL、肥満度CFおよび体重W)を正確に把握できる。
【0105】
<実施形態の効果>
上記実施形態によれば、以下の効果が奏され得る。
【0106】
図4に示したように、魚特性判定システム1は、魚の画像を取得するためのカメラシステム20と、魚の画像を処理して魚の長さLを算出する魚長算出部101aと、算出された魚の長さLから魚の肥満度CFを算出する肥満度算出部101bと、を備える。上記式(3)に示したように、肥満度CFは、長さLの指数関数から算出される。これにより、図7(a)に示したように、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0107】
ここで、指数関数は、上記式(3)の式が用いられる。指数関数としてこの式(3)を用いると、図7(a)に示したように、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)を調整することで、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0108】
図5(a)、(b)に示したように、式(3)の第2パラメータ(c)は、魚が泳ぐ時期で変化するよう設定される。上記のように、魚は、魚が泳ぐ水中の温度に応じて、捕食の活性が変化する。また、魚が泳ぐ水中の温度は、時期に応じて変化する。したがって、上記式(3)の第2パラメータ(c)を、魚が泳ぐ時期で変化させることにより、上記式(3)から算出される魚の肥満度CFの精度を高めることができる。
【0109】
図5(a)、(b)に示したように、式(3)の第1パラメータ(b)は、魚が泳ぐ時期が異なっても同じであるよう設定される。上記のように、魚は、長さLが大きくなるほど、太れるポテンシャルが高くなる。これは、魚の骨格に基づくものであって、時期や水中の温度等の捕食の活性度合いに基づくものではない。一方、式(3)の第1パラメータ(b)は、魚の長さLに乗じられ、長さL(骨格)に基づく太り具合を調整するためのパラメータである。このため、第1パラメータ(b)は、魚の長さとの肥満度CFとの関係を調整すればよく、魚が泳ぐ時期や魚が泳ぐ水中の温度との関係からは同じであってよい。よって、上記のように、上記式(3)の第1パラメータ(b)を魚が泳ぐ時期に拘わらず同じに設定することで、上記式(3)から魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0110】
式(3)に示したように、式(3)の指数関数には、魚が泳ぐ時期により変化する唯一つの第2パラメータ(c)が存在する。これにより、上記のように、魚が泳ぐ時期に応じて、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0111】
図5(a)、(b)に示したように、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)は、魚種ごとに予め決められている。魚の太り方は、魚種ごとに異なり得る。このため、このように第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が魚種ごとに予め決められることで、各魚種の魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0112】
図5(a)、(b)に示したように、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)は、種苗ごとに予め決められている。魚の太り方は、種苗ごとに異なり得る。たとえば、天然種苗か人工種苗かにより魚の太り方は異なる。したがって、図5(a)、(b)のように第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が種苗ごとに予め決められることで、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0113】
式(3)の指数関数において、底(e)が1より大きい場合、前記第1パラメータ(b)は正に設定される。すなわち、式(3)の指数関数は、増加関数である。これにより、魚の長さLに応じた魚の太り具合をこの指数関数で規定できる。よって、この指数関数から、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0114】
図1および図2に示したように、魚特性判定システム1は、魚が泳ぐ生簀10を備える。これにより、生簀10で養殖される魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0115】
ここで、生簀10を泳ぐ魚は、人工種苗から育てられることが好ましい。これにより、上述のように、生簀10内の魚の成長特性が、天然種苗の場合に比べて揃いやすくなる。よって、生簀10を泳ぐ魚に適するように指数関数のパラメータを設定でき、生簀10内の魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0116】
<変更例>
本発明は、上記実施形態に制限されるものではない。また、本発明の実施形態は、上記構成の他に種々の変更が可能である。
【0117】
たとえば、上記実施形態では、図5(a)、(b)に示したように、時期(月)ごとに式(3)の第2パラメータ(c)が設定(最適化)されたが、図9に示すように、魚が泳ぐ水中の温度ごとに、式(3)の第2パラメータ(c)が設定(最適化)されてもよい。図9において、T1-T2は、温度T1以上T2未満の温度範囲を示し、T2-T3は、温度T2以上T3未満の温度範囲を示している。T3-T4以降も、同様に、温度範囲を示している。
【0118】
上記のように、水中の温度によって魚の捕食の活性が変化する。したがって、このように、魚が泳ぐ水中の温度ごとに式(3)の第2パラメータ(c)を設定(最適化)することによっても、上記式(3)から、魚の肥満度CFを精度良く算出できる。
【0119】
但し、この場合は、魚の肥満度CFを算出する際に、生簀10内の水の温度をさらに計測して処理装置50に入力する必要がある。制御部101は、入力された温度に対応する第2パラメータ(c)の値を図9のパラメータ情報(対応する魚種のパラメータ情報)から抽出して、式(3)に設定する。
【0120】
また、上記実施形態では、図5(a)、(b)に示したように、パラメータ情報における種苗の種類が、人工種苗と天然種苗の2種類に区分されたが、パラメータ情報における種苗の種類は、これに限られるものではない。たとえば、図10に示すように、パラメータ情報の人工種苗が、さらに、親魚の産地ごとに区分されてもよい。また、パラメータ情報の人工種苗が、ロットや生産業者等の他の項目によって区分されてもよい。
【0121】
また、上記実施形態では、式(3)の底として、ネイピア数eが用いられたが、式(3)の底は、他の数であってもよい。ネイピア数e以外の数が式(3)の底に用いられる場合も、式(3)は、図6(a)のような増加関数となればよく、時期(水温)や種苗に応じて第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)が最適化されればよい。この場合、式(3)の底が1より大きければ、上記と同様、第1パラメータ(b)は正の値に設定されればよく、式(3)の底が1より小さければ、第1パラメータ(b)は負の値に設定されればよい。これにより、式(3)を、図6(a)と同様の増加関数にできる。
【0122】
また、上記実施形態では、図8のステップS105において、式(3)により算出した肥満度CFと魚の長さLとを式(2)に適用して魚の体重Wを算出したが、魚の体重Wの算出が省略されてもよい。
【0123】
また、上記実施形態では、魚の肥満度CFを算出するための指数関数の式として、上記式(3)が用いられたが、肥満度CFの算出するための指数関数の式は、これに限られるものではない。たとえば、肥満度CFの算出するための式として、以下の式が用いられてもよい。
【0124】
CF=eb×L+d×H+c … (7)
【0125】
この式(7)では、上記式(3)に比べて、体高Hが変数に含まれ、この変数に乗じられる第3パラメータ(d)が追加されている。この場合、第1パラメータ(b)および第2パラメータ(c)とともに第3パラメータ(d)が、魚種、種苗および時期(または水温)ごとに最適化される。これにより、上記実施形態と同様、高い精度で肥満度CFを算出できる。
【0126】
また、上記実施形態では、カメラシステム20が2つのカメラ21、22を含むステレオカメラの構成であったが、カメラシステム20がカメラを1つだけ含む構成であってもよい。この場合、カメラで取得された画像上の魚までの距離を算出するための手段が、さらにカメラシステム20に配置されればよい。たとえば、この手段として、カメラの撮像領域に対して超音波を送受波する超音波送受波装置が用いられ得る。この装置のエコーデータから、カメラの撮像画像上の魚までの距離が算出される。この距離と、カメラの撮像画像上における魚の大きさから、魚の長さL(尾叉長、等)が算出される。
【0127】
あるいは、カメラシステム20が、TOF(Time Of Flight)カメラであってもよい。この場合、TOFカメラの撮像視野に含まれる物体までの距離を、TOFカメラの撮像素子の画素単位でマッピングした距離画像が取得される。この距離画像から、略同じ距離で且つ魚の形状に対応する領域が、魚の領域として抽出される。そして、距離画像上におけるこの領域の距離(たとえばこの領域の距離の平均値)と、この領域の長さ(魚の長さ方向の幅)とから、魚の長さLが算出される。
【0128】
また、上記実施形態では、記憶部102に記憶されたプログラムにより付与される制御部101の機能として、魚長算出部101a、肥満度算出部101bおよび魚体重算出部101cが実現されたが、これらは、必ずしも、記憶部102に記憶されたプログラムにより付与される機能として実現されなくてもよい。たとえば、これら機能の1つまたは複数が、FPGA(field-programmable gate array)や、ロジック回路を集積したハードウェアにより構成されてもよい。
【0129】
また、魚特性判定システム1は、図1に示した構成に限られるものではない。生簀10のX軸方向およびY軸方向の幅およびZ軸方向の深さは、適宜変更され得る。また、網2cは、必ずしも矩形に垂れ下がらなくてもよく、円弧状に垂れ下がってもよい。
【0130】
この他、本発明の実施形態は、特許請求の範囲に記載の範囲で適宜種々の変更可能である。
【符号の説明】
【0131】
1 魚特性判定システム
10 生簀
20 カメラシステム
101a 魚長算出部
101b 肥満度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10