(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137823
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C08J9/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041847
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023045205
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 俊二
(72)【発明者】
【氏名】立山 あい
(72)【発明者】
【氏名】長野 将樹
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA13B
4F074AA32
4F074AA98
4F074AC32
4F074AD10
4F074AD16
4F074AG03
4F074AG10
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4F074BA34
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4F074BA38
4F074BA75
4F074BA95
4F074BC01
4F074BC12
4F074CA22
4F074CC02Z
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA32
4F074DA58
(57)【要約】
【課題】平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できるスチレン系樹脂押出発泡成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂押出発泡成形体100の製造方法は、工程Saと工程Sbとを備える。工程Saでは、スチレン系樹脂と発泡剤とを含むスチレン系樹脂組成物を、高圧域からダイリップ11を通じて低圧域に押出すことにより押出発泡体20を得る。工程Sbでは、工程Saで得られた押出発泡体20を、加熱しながら工程Saの押出方向に延伸する。工程Sbにおける押出発泡体20の加熱温度は、95℃以上145℃以下である。工程Sbにおける押出発泡体20の延伸倍率は、1.01倍以上1.35倍以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂と発泡剤とを含むスチレン系樹脂組成物を、高圧域からダイリップを通じて低圧域に押出すことにより押出発泡体を得る工程Saと、
前記押出発泡体を、加熱しながら前記工程Saの押出方向に延伸する工程Sbと
を備えるスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法であって、
前記工程Sbにおける前記押出発泡体の加熱温度が、95℃以上145℃以下であり、
前記工程Sbにおける前記押出発泡体の延伸倍率が、1.01倍以上1.35倍以下である、スチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法。
【請求項2】
前記工程Sbにおける前記押出発泡体の加熱温度が、115℃以上145℃以下である、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
前記工程Sbにおける前記押出発泡体の延伸倍率が、1.01倍以上1.20倍以下である、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂押出発泡成形体であって、
温度85℃の条件下で24時間保管した際の長手方向の変形量が10mm以下であり、かつ平面圧縮強度が25N/cm2以上である、スチレン系樹脂押出発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂押出発泡成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡成形体は、良好な断熱性を有することから、住宅及び建築物等の断熱材(より具体的には、畳床の断熱材等)として用いられている。スチレン系樹脂押出発泡成形体は、例えば、スチレン系樹脂及び発泡剤を押出機において溶融混練し、得られた組成物を任意で冷却し、ダイリップ(例えば、ダイのスリット)を通じて低圧域に押出すことにより、連続的に製造される。
【0003】
例えば、特許文献1には、スチレン系樹脂及び発泡剤を含む組成物を低圧域に押出す際の圧力開放速度を制御することにより、表面が美麗なスチレン系樹脂押出発泡成形体を得ることを可能とする製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術には、得られるスチレン系樹脂押出発泡成形体の平面圧縮強度を確保しつつ、畳床等に使用するためにスチレン系樹脂押出発泡成形体を切削する際の端部の欠けを抑制することについて、改善の余地が残されている。
【0006】
上記に鑑みて、本発明は、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できるスチレン系樹脂押出発泡成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<本発明の態様>
本発明には、以下の態様が含まれる。
【0008】
[1]スチレン系樹脂と発泡剤とを含むスチレン系樹脂組成物を、高圧域からダイリップを通じて低圧域に押出すことにより押出発泡体を得る工程Saと、
前記押出発泡体を、加熱しながら前記工程Saの押出方向に延伸する工程Sbと
を備えるスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法であって、
前記工程Sbにおける前記押出発泡体の加熱温度が、95℃以上145℃以下であり、
前記工程Sbにおける前記押出発泡体の延伸倍率が、1.01倍以上1.35倍以下である、スチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法。
【0009】
[2]前記工程Sbにおける前記押出発泡体の加熱温度が、115℃以上145℃以下である、前記[1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法。
【0010】
[3]前記工程Sbにおける前記押出発泡体の延伸倍率が、1.01倍以上1.20倍以下である、前記[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法。
【0011】
[4]スチレン系樹脂を含むスチレン系樹脂押出発泡成形体であって、
温度85℃の条件下で24時間保管した際の長手方向の変形量が10mm以下であり、かつ平面圧縮強度が25N/cm2以上である、スチレン系樹脂押出発泡成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できるスチレン系樹脂押出発泡成形体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【
図2】スチレン系樹脂押出発泡成形体の変形量の測定方法を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0015】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、何ら規定していなければ、重合体の繰り返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。また、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルを包括的に「(メタ)アクリロニトリル」と総称する場合がある。
【0016】
本明細書に例示の成分や官能基等は、特記しない限り、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
以下の説明において参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。また、説明の都合上、後に説明する図面において、先に説明した図面と同一構成部分については、同一符号を付して、その説明を省略する場合がある。
【0018】
<第1実施形態:スチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法>
本発明の第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法は、工程Saと工程Sbとを備える。工程Saでは、スチレン系樹脂と発泡剤とを含むスチレン系樹脂組成物を、高圧域からダイリップを通じて低圧域に押出すことにより押出発泡体を得る。工程Sbでは、工程Saで得られた押出発泡体を、加熱しながら工程Saの押出方向に延伸する。第1実施形態では、工程Sbにおける押出発泡体の加熱温度が、95℃以上145℃以下である。また、第1実施形態では、工程Sbにおける押出発泡体の延伸倍率が、1.01倍以上1.35倍以下である。
【0019】
以下、「スチレン系樹脂押出発泡成形体」を、単に「押出発泡成形体」と記載することがある。また、「工程Saの押出方向」を、単に「押出方向」と記載することがある。また、「工程Sa」を「押出工程」と記載することがある。また、「工程Sb」を「延伸工程」と記載することがある。
【0020】
第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法によれば、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できるスチレン系樹脂押出発泡成形体を製造できる。その理由は、以下のように推測される。
【0021】
第1実施形態では、押出工程で得られた押出発泡体を95℃以上の温度で加熱しながら1.01倍以上の延伸倍率で延伸する。これにより、得られた押出発泡成形体の幅方向(延伸方向と直交する方向)において、気泡の配向方向が適度に揃うため、得られた押出発泡成形体を幅方向に沿って切削する際に、押出発泡成形体の端部の切削加工性が向上する。よって、第1実施形態によれば、切削する際の端部の欠けを抑制できる押出発泡成形体を製造できる。
【0022】
また、延伸工程において、温度や延伸倍率を過度に高めると、気泡が扁平しすぎて、得られた押出発泡成形体の平面圧縮強度が小さくなる傾向がある。これに対し、第1実施形態では、延伸工程における加熱温度の上限を145℃とし、かつ延伸工程における延伸倍率の上限を1.35倍としているため、気泡の過度な扁平が抑制される。よって、第1実施形態によれば、得られる押出発泡成形体の平面圧縮強度を十分に確保できる。
【0023】
第1実施形態において、切削する際の端部の欠けをより抑制するためには、延伸工程における押出発泡体の加熱温度が、100℃以上であることが好ましく、105℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが更に好ましく、115℃以上であることが更により好ましく、120℃以上、125℃以上又は130℃以上であってもよい。
【0024】
第1実施形態において、平面圧縮強度をより容易に確保するためには、延伸工程における押出発泡体の加熱温度が、140℃以下であることが好ましく、135℃以下であることがより好ましい。
【0025】
第1実施形態において、切削する際の端部の欠けをより抑制するためには、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が、1.05倍以上であることが好ましく、1.10倍以上であることがより好ましい。
【0026】
第1実施形態において、平面圧縮強度をより容易に確保するためには、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が、1.30倍以下であることが好ましく、1.25倍以下であることがより好ましく、1.20倍以下であることが更に好ましい。
【0027】
第1実施形態において、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けをより抑制するためには、延伸工程における押出発泡体の加熱温度が、115℃以上145℃以下であることが好ましく、115℃以上140℃以下であることがより好ましく、120℃以上140℃以下であることが更に好ましく、125℃以上140℃以下であることが更により好ましく、125℃以上135℃以下であることが特に好ましい。
【0028】
第1実施形態において、切削する際の端部の欠けを抑制しつつ、平面圧縮強度をより容易に確保するためには、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が、1.01倍以上1.20倍以下であることが好ましく、1.05倍以上1.20倍以下であることがより好ましく、1.10倍以上1.20倍以下であることが更に好ましい。
【0029】
第1実施形態において、平面圧縮強度をより容易に確保しつつ、切削する際の端部の欠けをより抑制するためには、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましく、下記条件3を満たすことが更に好ましく、下記条件4を満たすことが更により好ましく、下記条件5を満たすことが特に好ましい。
条件1:延伸工程における押出発泡体の加熱温度が115℃以上145℃以下であり、かつ延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.01倍以上1.20倍以下である。
条件2:延伸工程における押出発泡体の加熱温度が115℃以上140℃以下であり、かつ延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.05倍以上1.20倍以下である。
条件3:延伸工程における押出発泡体の加熱温度が120℃以上140℃以下であり、かつ延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.10倍以上1.20倍以下である。
条件4:延伸工程における押出発泡体の加熱温度が125℃以上140℃以下であり、かつ延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.10倍以上1.20倍以下である。
条件5:延伸工程における押出発泡体の加熱温度が125℃以上135℃以下であり、かつ延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.10倍以上1.20倍以下である。
【0030】
以下、第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法の一例について、適宜図面を参照しながら説明する。
図1は、第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【0031】
図1に示すように、第1実施形態では、押出装置10のダイリップ11を通じて、スチレン系樹脂と発泡剤とを含むスチレン系樹脂組成物を押出すことにより押出発泡体20を得る(押出工程)。この際、押出装置10の内部の圧力を、スチレン系樹脂組成物が押出される領域の圧力(例えば大気圧)よりも高圧にし、高圧域の押出装置10内から低圧域へスチレン系樹脂組成物を押出すことで、スチレン系樹脂組成物が発泡し、押出発泡体20となる。
【0032】
図1に示す例では、押出発泡体20を得た後、ダイリップ11に密着又は近接して設置した成形金型30及びその下流側に設置したロール成形機40により、押出発泡体20の厚み及び幅を調整する。成形金型30は、所定の間隔をあけて設置された2枚の成形板(不図示)を備える。また、ロール成形機40は、成形ロール41及び42を少なくとも一対備える。押出発泡体20が、成形金型30の2枚の成形板の間を通り、その後、成形ロール41及び42の間を通ることで、押出発泡体20の厚み及び幅が調整される。なお、
図1に示す例では、成形金型及びロール成形機を使用したが、本発明では、成形金型及びロール成形機を使用しなくてもよい。
【0033】
次いで、厚み及び幅が調整された押出発泡体20を、ロール成形機40の下流側に設置した加熱炉50において加熱しながら、加熱炉50の下流側に設置したロール式引取機60で引き取ることにより押出方向(
図1では、方向X)に延伸し(延伸工程)、押出発泡成形体100を得る。ロール式引取機60は、一対の引取ロール61及び62を有する。
図1に示す例では、押出発泡体20の押出方向における延伸倍率は、式「延伸倍率=ロール式引取機60の引取ロール61及び62の回転速度(線速度)/ロール成形機40の成形ロール41及び42の回転速度(線速度)」で算出される。なお、ロール成形機40が成形ロールを二対以上備える場合、延伸倍率を計算する際の上記式中の成形ロールの回転速度は、最下流に設置された成形ロールの回転速度である。以下、特に断りがない限り、「成形ロールの回転速度」は、最下流に設置された成形ロールの回転速度である。第1実施形態では、延伸工程における押出発泡体20の加熱温度が95℃以上145℃以下である。また、第1実施形態では、延伸工程における押出発泡体20の延伸倍率が1.01倍以上1.35倍以下である。
【0034】
次に、第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法が備える各工程について説明する。第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法は、押出工程及び延伸工程を備える。また、第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法は、押出工程及び延伸工程以外の工程を備えてもよい。押出工程及び延伸工程以外の工程としては、以下で説明する樹脂組成物調製工程及び溶融混練工程が挙げられる。
【0035】
[樹脂組成物調製工程]
樹脂組成物調製工程では、押出発泡成形体の各材料をブレンドし、スチレン系樹脂組成物を調製する。スチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂及び発泡剤を少なくとも含む。なお、発泡剤については、後工程の溶融混練工程において、発泡剤以外の材料を含むスチレン系樹脂組成物に圧入してもよい。以下、スチレン系樹脂組成物を構成する材料の一例について説明する。
【0036】
(スチレン系樹脂)
スチレン系樹脂としては、スチレン系単量体の単独重合体;2種以上のスチレン系単量体の共重合体;スチレン系単量体と他の単量体との共重合体等が挙げられる。スチレン系樹脂中のスチレン系単量体由来の構成単位の含有率は、70重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることが更に好ましい。共重合体としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体が挙げられる。
【0037】
スチレン系単量体としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が挙げられる。他の単量体としては、ジビニルベンゼン等の多官能性ビニル化合物;(メタ)アクリル酸;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;ブタジエン等のジエン系化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;N-メチルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のN-アルキル置換マレイミド化合物等が挙げられる。これらを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
また、スチレン系樹脂は、上記スチレン系単量体の単独重合体又は共重合体と、上記他の単量体の単独重合体又は共重合体とのブレンド物であってもよい。例えば、スチレン系樹脂には、ゴム強化ポリスチレン(例えば、ジエン系ゴム強化ポリスチレン、アクリル系ゴム強化ポリスチレン等)、及びポリフェニレンエーテル系樹脂等をブレンドしてもよい。
【0039】
スチレン系樹脂としては、比較的安価であり、押出発泡成形に適している等の観点から、ポリスチレン(スチレンの単独重合体)、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、及びスチレン-ジエン系化合物共重合体(例えば、スチレン-ブタジエン共重合体)が好ましい。スチレン系樹脂中の共重合体(例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体等)の含有率は、コスト面から、25重量%未満であることが好ましく、10重量%未満であることがより好ましい。コスト面から、特に好ましいスチレン系樹脂は、ポリスチレンである。
【0040】
また、スチレン系樹脂は、メルトフローレート、成形加工時の溶融粘度、溶融張力等を調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。以下、メルトフローレートをMFRと記載する。スチレン系樹脂のMFRは、40g/10分以下であることが好ましく、1g/10分以上30g/10分以下であることがより好ましい。スチレン系樹脂のMFRが40g/10分以下であれば、押出装置中でスチレン系樹脂中に発泡剤を均一に分散させやすいため、安定して押出及び発泡成形を行うことができ、その結果、生産安定性が向上する。なお、本明細書において、スチレン系樹脂のMFRは、温度200℃及び荷重5kgの条件にて、JIS K7210で規定される測定方法に準じて測定した値である。
【0041】
(発泡剤)
発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、水、ジメチルエーテル、炭素原子数3~5の飽和炭化水素、炭素原子数1~4のアルコール、無機ガス(より具体的には、窒素等)、及び地球温暖化係数の小さい有機フッ素化合物(より具体的には、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン等)が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
炭素原子数3~5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン等が挙げられる。発泡性の観点から、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、及びこれらの混合物が好ましい。また、押出発泡成形体の断熱性能の観点から、ノルマルブタン、イソブタン、及びこれらの混合物が好ましい。
【0043】
炭素原子数1~4のアルコールとしては、例えば、エタノール、メタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0044】
発泡剤の使用量(複数種の発泡剤を使用する場合は、それらの合計使用量)は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1重量部以上20重量部以下であることが好ましく、5重量部以上10重量部以下であることがより好ましい。発泡剤の使用量が1重量部以上20重量部以下である場合、スチレン系樹脂組成物の発泡力が確保され、所望の厚みを有する押出発泡成形体を安定的に得られやすくなる。
【0045】
(難燃剤)
難燃剤としては、臭素系難燃剤が好ましく用いられる。臭素系難燃剤の具体的な例としては、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA-ビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル等の臭素化ビスフェノール系化合物;臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体、臭素化スチレン-ブタジエンランダム共重合体、臭素化スチレン-ブタジエングラフト共重合体等の臭素含有ポリマー;テトラブロモシクロオクタン;ヘキサブロモシクロドデカン;トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
難燃剤の使用量は、経済性及び他の要求諸物性への影響の観点からは、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.5重量部以上10重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上7重量部以下であることがより好ましい。
【0047】
スチレン系樹脂組成物は、その他の添加剤として、吸水性物質(ベントナイト、シリカ等)、気泡径調整剤(タルク等)、滑剤(ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム等)、ラジカル発生剤(2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン等)、難燃助剤(トリフェニルホスフィンオキシド等)、安定剤(エポキシ化合物、多価アルコールエステル化合物、フェノール系安定剤、ホスファイト系安定剤等)、界面活性剤、難燃調整剤(酸化鉄、鉄錯体、ジフェニルアルカン、ジケトン等)、加工助剤(脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックス等)、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、充填剤等を含んでもよい。上記界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩が好ましい。上記界面活性剤の具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のラウリル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸ナトリウム、ラウレス硫酸アンモニウム等のポリオキシエチレンラウリルエーテル酸塩が挙げられる。
【0048】
[溶融混練工程]
溶融混練工程では、押出装置にスチレン系樹脂組成物を供給し、押出装置内でスチレン系樹脂組成物を溶融混練する。押出装置としては、例えばスクリューを用いた押出機を備える押出装置が挙げられる。スクリューを用いた押出機としては、例えば、単軸押出機や二軸押出機が挙げられる。二軸押出機を採用する場合のスクリューの回転方向は、同方向であっても異方向であっても構わない。
【0049】
また、押出装置は、発泡剤と発泡剤以外の材料とを溶融混練する第1押出機、及び、第1押出機で得られた溶融混練物を更に溶融混練し、冷却する第2押出機を備えていてもよい。また、押出装置が第2押出機を備えている場合、第2押出機に発泡剤を供給してもよい。第1押出機の種類及び第2押出機の種類は、同じであっても異なっていてもよい。更に、押出装置は、スチレン系樹脂組成物の発泡に適した温度に調整する目的で、押出機の下流側に冷却機を備えていてもよい。押出装置の最下流には、スチレン系樹脂組成物を押出す開口部として、ダイリップが設けられている。ダイリップは、例えば、開口の長手方向の長さが100mm以上500mm以下であり、開口の短手方向の長さが1mm以上7mm以下である。
【0050】
スチレン系樹脂組成物を溶融混練する際の温度は、例えば150℃以上250℃以下である。また、冷却機を使用する場合、冷却機内で溶融混練物を、例えば100℃以上140℃以下の温度まで冷却することが好ましい。
【0051】
[押出工程]
押出工程では、スチレン系樹脂組成物(例えば、溶融混練工程で得られた溶融混練物)を、高圧域からダイリップを通じて低圧域(例えば、大気中)に押出すことにより、スチレン系樹脂組成物を発泡させて、押出発泡体を得る。ダイリップから押出される直前のスチレン系樹脂組成物に加えられる圧力(高圧域の圧力)は、例えば、1.5MPa以上15MPa以下である。上述したように、成形金型及びロール成形機を用いて、押出工程で得られた押出発泡体の厚み及び幅を調整してもよい。
【0052】
[延伸工程]
延伸工程では、押出工程で得られた押出発泡体を、加熱しながら押出方向に延伸する。延伸工程における押出発泡体の加熱温度は、95℃以上145℃以下である。また、延伸工程における押出発泡体の加熱時間は、10秒以上240秒以下であることが好ましく、20秒以上90秒以下であることがより好ましい。また、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率は、1.01倍以上1.35倍以下である。例えば、上述したように、ロール成形機、加熱炉及びロール式引取機がこの順に設置されている場合は、ロールの回転速度比(ロール式引取機の引取ロールの回転速度/ロール成形機の成形ロールの回転速度)が、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率となる。ロール成形機の成形ロールの回転速度(線速度)は、押出発泡成形体の生産速度に応じて適宜調整可能であり、例えば、2m/分以上18m/分以下である。
【0053】
第1実施形態では、延伸工程後、得られた押出発泡成形体を、用途に応じてカットする工程を備えてもよい。
【0054】
[第1実施形態に係る製造方法で得られたスチレン系樹脂押出発泡成形体]
次に、第1実施形態に係る製造方法で得られたスチレン系樹脂押出発泡成形体(以下、「押出発泡成形体FM」と記載することがある)について説明する。
【0055】
押出発泡成形体FMは、第1実施形態に係る製造方法で製造されるため、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できる。押出発泡成形体FMは、後述する実施例と同じ方法で測定された平面圧縮強度が、例えば25N/cm2以上であり、好ましくは28N/cm2以上である。また、押出発泡成形体FMは、後述する実施例と同じ方法で測定された端部欠け面積が、例えば500mm2以下であり、好ましくは460mm2以下である。
【0056】
切削する際の端部の欠けをより抑制するためには、押出発泡成形体FMを温度85℃の条件下で24時間保管した際、押出発泡成形体FMの長手方向の変形量が、10mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましい。以下、押出発泡成形体を温度85℃の条件下で24時間保管した際の長手方向の変形量を、単に「変形量」と記載することがある。変形量の下限は、特に限定されず、0mmであってもよい。
【0057】
変形量の測定方法について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、押出発泡成形体の変形量の測定方法を説明するための平面図である。まず、温度85℃の条件下で24時間保管した後の押出発泡成形体100の長手方向(
図2では、方向Y)の一方の端部において、幅方向の両端を通る直線L1を引く。次いで、直線L1から50mmの間隔をあけて押出発泡成形体100の幅方向に沿って直線L2を引く。次いで、直線L2から押出発泡成形体100の長手方向の端部までの最短距離D1(単位:mm)を測定する。そして、変形量D2(単位:mm)を、式「D2=50-D1」に従い、算出する。
【0058】
押出発泡成形体FMの変形量は、例えば、延伸工程における押出発泡体の加熱温度、及び延伸工程における押出発泡体の延伸倍率のうちの少なくとも一方を変更することにより、調整できる。
【0059】
押出発泡成形体FMの厚みは、特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。例えば、建材等の用途に使用される断熱材(より具体的には、畳床の断熱材等)の場合、好ましい断熱性、曲げ強度及び平面圧縮強度を付与するためには、押出発泡成形体FMの厚みは、10mm以上であることが好ましく、15mm以上であることがより好ましく、20mm以上であることが更に好ましい。また、押出発泡成形体FMの加工性の観点から、押出発泡成形体FMの厚みは、150mm以下であることが好ましく、100mm以下であることがより好ましく、50mm以下であることが更に好ましい。
【0060】
なお、スチレン系樹脂押出発泡成形体では、発泡成形して形状を付与した後に、金型と接触していた表層(スキン層)を、厚み方向に5mm程度除去して製品とする場合があるが、上記押出発泡成形体FMの厚みは、スキン層を除去する前の押出発泡成形体の厚みである。
【0061】
断熱性、曲げ強度及び平面圧縮強度に優れつつ、軽量な押出発泡成形体FMを得るためには、押出発泡成形体FMの密度は、15kg/m3以上60kg/m3以下であることが好ましく、20kg/m3以上40kg/m3以下であることがより好ましい。
【0062】
断熱性、曲げ強度及び平面圧縮強度に優れる押出発泡成形体FMを得るためには、押出発泡成形体FMの平均気泡径は、0.05mm以上1.00mm以下であることが好ましく、0.10mm以上0.80mm以下であることがより好ましく、0.15mm以上0.60mm以下であることが更に好ましく、0.20mm以上0.50mm以下であることが特に好ましい。断熱性の高い押出発泡成形体FMを得るためには、押出発泡成形体FMの独立気泡率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。押出発泡成形体FMは、良好な断熱性を有することから、住宅及び建築物等の断熱材(より具体的には、畳床の断熱材等)として用いることができる。
【0063】
<第2実施形態:スチレン系樹脂押出発泡成形体>
次に、本発明の第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体について説明する。以下の説明において、第1実施形態と重複する内容については、その説明を省略する場合がある。
【0064】
第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体は、スチレン系樹脂を含む。また、第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体は、変形量(
図2のD2)が10mm以下であり、かつ平面圧縮強度が25N/cm
2以上である。第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体は、変形量が10mm以下であり、かつ平面圧縮強度が25N/cm
2以上であるため、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できる。
【0065】
第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法は、変形量を10mm以下に調整しつつ、平面圧縮強度を25N/cm2以上に調整できる方法である限り、特に限定されない。ただし、変形量を10mm以下に容易に調整しつつ、平面圧縮強度を25N/cm2以上に容易に調整するためには、第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法としては、上述した第1実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体の製造方法が好ましい。第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体を、第1実施形態に係る製造方法で製造する場合、上記変形量及び平面圧縮強度は、例えば、延伸工程における押出発泡体の加熱温度、及び延伸工程における押出発泡体の延伸倍率のうちの少なくとも一方を変更することにより、調整できる。
【0066】
切削する際の端部の欠けをより抑制するためには、第2実施形態に係るスチレン系樹脂押出発泡成形体は、メタクリル酸変性ポリスチレンを含有しないか、又は、メタクリル酸変性ポリスチレンの含有率が、スチレン系樹脂の全量に対して25重量%未満であることが好ましい。
【0067】
第2実施形態のその他の点については、上述した[第1実施形態に係る製造方法で得られたスチレン系樹脂押出発泡成形体]の項で説明した内容と同じである。
【実施例0068】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
<材料の準備>
実施例及び比較例の押出発泡成形体を作製するための材料として、以下の材料を準備した。
【0070】
[スチレン系樹脂]
・スチレン系樹脂(PSジャパン社製「G9401」、MFR:2.2g/10分)
【0071】
[難燃剤]
・臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体(ランクセス社製「EMERALD INNOVATION 3000」、臭素含有率:65重量%)
【0072】
[吸水性物質]
・ベントナイト(BYK社製「ベントライトL」)
・シリカ(エボニック デグサ ジャパン社製「カープレックスBS-304F」)
【0073】
[ラジカル発生剤]
・ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン(United Initiators社製「CUROX CC-P3」)
【0074】
[安定剤]
・ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ADEKA社製「EP-13」)
・ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナマート)](Rianlon社製「RIANOX 1010FF」)
・3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(SONGWON社製「SONGNOX 6260FF」)
・オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製「EPICLON N-680」)
・ジペンタエリスリトールとアジピン酸の反応混合物(味の素ファインテクノ社製「プレンライザーST210」)
【0075】
[滑剤]
・ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製「SC-P」)
【0076】
[気泡径調整剤]
・タルク(林化成社製「KHP-400」)
【0077】
[界面活性剤]
・ラウリル硫酸ナトリウム(花王社製「エマール10PT」)
【0078】
[発泡剤]
・無臭ブタン(岩谷産業社製、イソブタンとノルマルブタンとの混合物、重量比:イソブタン/ノルマルブタン=30/70)
・ジメチルエーテル(岩谷産業社製)
・水(水道水)
【0079】
<押出発泡成形体の作製>
以下、実施例1~6及び比較例1~5の押出発泡成形体の作製方法について説明する。
【0080】
[実施例1]
(樹脂組成物調製工程)
スチレン系樹脂100重量部と、臭素化スチレン-ブタジエンブロック共重合体2.6重量部と、ポリ-1,4-ジイソプロピルベンゼン0.1重量部と、ジペンタエリスリトールとアジピン酸の反応混合物0.2重量部と、ビスフェノールAジグリシジルエーテル0.2重量部と、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナマート)]0.26重量部と、3,9-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン0.013重量部と、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂0.13重量部と、タルク1.0重量部と、ステアリン酸カルシウム0.2重量部と、ベントナイト0.5重量部と、シリカ0.3重量部と、ラウリル硫酸ナトリウム0.06重量部とをドライブレンドし、樹脂組成物を調製した。
【0081】
(溶融混練工程)
口径150mmの単軸押出機(第1押出機)、口径200mmの単軸押出機(第2押出機)及び冷却機をこの順に直列に連結した押出装置の第1押出機内へ、得られた樹脂組成物を、800kg/時の供給速度で供給した。そして、第1押出機内で樹脂組成物を、温度230℃の条件で加熱しながら溶融混練し、溶融混練物を得た。次に、スチレン系樹脂100重量部に対して、無臭ブタン3.5重量部、ジメチルエーテル3.0重量部及び水0.7重量部を、第1押出機の出口付近で溶融混練物中に圧入した。その後、第1押出機に連結された第2押出機で混練し、引き続き、第2押出機に連結された冷却機で、溶融混練物の温度(樹脂温度)を123℃まで冷却した。
【0082】
(押出工程)
次いで、冷却機の先端に設けた長方形状の開口を有するダイリップ(開口の長手方向の長さ:400mm、開口の短手方向の長さ:2mm)から大気中へ溶融混練物(スチレン系樹脂組成物)を押出し、発泡させた。ダイリップから押出される直前のスチレン系樹脂組成物に加えられる圧力は、7MPaであった。次いで、押出されたスチレン系樹脂組成物を、ダイリップに密着させて設置した成形金型(2枚の成形板の間隔:22mm)及びその下流側に設置したロール成形機(上下の成形ロールの間隔:25mm、成形ロールの回転速度:13m/分)に通過させて、厚み35mm×幅1000mmの長方形の断面形状を有する押出発泡体(板状押出発泡体)を得た。続いて、この押出工程から連続して下記に示す延伸工程を行った。
【0083】
(延伸工程)
上記押出工程で得られた押出発泡体を、内部雰囲気温度130℃に設定した加熱炉にて40秒間加熱しながら、その下流側に設置したロール式引取機で引き取ることにより押出方向に延伸し、実施例1の押出発泡成形体を得た。押出発泡体を引き取る際、押出発泡体の押出方向における延伸倍率(=ロール式引取機の引取ロールの回転速度/ロール成形機の成形ロールの回転速度)が1.17倍となるように調整した。
【0084】
得られた押出発泡成形体を、カッターにて厚み25mm×幅910mm×長さ1820mmにカットし、測定用サンプルを得た。なお、押出発泡成形体の厚みを調整する際は、金型と接触していた両面のスキン層を除去した。
【0085】
[実施例2~6及び比較例1~5]
延伸工程における押出発泡体の加熱温度及び延伸倍率を、後述する表1に記載のとおりとしたこと以外は、実施例1と同じ方法で、実施例2~6及び比較例1~5の押出発泡成形体(測定用サンプル)をそれぞれ得た。
【0086】
<測定方法>
[変形量]
作製後、室温下で14日経過した時点の押出発泡成形体(測定用サンプル)を裁断し、厚み25mm×幅910mm×長さ(押出方向の長さ)300mmの成形体を得た。得られた成形体を、内部雰囲気温度85℃に設定した恒温槽(ドライオーブン)にて24時間加熱した後、加熱後の成形体を恒温槽から取り出して、温度25℃の雰囲気下に24時間静置した。次いで、上述した測定方法により、成形体の変形量(
図2のD2)を測定した。
【0087】
[平面圧縮強度]
作製後、室温下で14日経過した時点の押出発泡成形体(測定用サンプル)について、JIS K7220:2006に準拠して平面圧縮強度を測定した。平面圧縮強度が25N/cm2以上の場合、「押出発泡成形体の平面圧縮強度を確保できている」と評価した。一方、平面圧縮強度が25N/cm2未満の場合、「押出発泡成形体の平面圧縮強度を確保できていない」と評価した。
【0088】
[端部欠け面積]
作製後、室温下で14日経過した時点の押出発泡成形体(測定用サンプル)を裁断し、厚み25mm×幅300mm×長さ(押出方向の長さ)350mmの成形体を得た。得られた成形体の一方の短辺側端面(側面)から60mmまでの領域を、切削スピード500mm/分かつ切削刃の挿入角度45°の条件で包丁刃にて切削した。切削した領域(切削領域)の寸法は、厚み25mm×幅300mm×長さ(押出方向の長さ)60mmであった。そして、切削領域が除去された成形体の切削側の端部(角部)における欠けた領域の面積(端部欠け面積)を算出した。端部欠け面積が500mm2以下の場合、「切削する際の端部の欠けを抑制できている」と評価した。一方、端部欠け面積が500mm2を超える場合、「切削する際の端部の欠けを抑制できていない」と評価した。なお、上記「端部欠け面積」とは、欠けた領域の厚み方向と直交する2つの面(主面)のうち、より大きい方の面の面積を意味する。
【0089】
[密度]
作製後、室温下で14日経過した時点の押出発泡成形体(測定用サンプル)を裁断し、厚み25mm×幅100mm×長さ(押出方向の長さ)100mmの成形体を得た。得られた成形体について、JIS A9521:2020に準拠して密度を測定した。
【0090】
<結果>
実施例1~6及び比較例1~5について、延伸工程における押出発泡体の加熱温度、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率、変形量、平面圧縮強度、及び端部欠け面積を、表1にそれぞれ示す。なお、表1において、「加熱温度」及び「延伸倍率」は、それぞれ「延伸工程における押出発泡体の加熱温度」及び「延伸工程における押出発泡体の延伸倍率」を意味する。
【0091】
【0092】
表1に示すように、実施例1~6では、延伸工程における押出発泡体の加熱温度が95℃以上145℃以下であった。実施例1~6では、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.01倍以上1.35倍以下であった。
【0093】
表1に示すように、実施例1~6では、平面圧縮強度が25N/cm2以上であった。よって、実施例1~6では、得られた押出発泡成形体の平面圧縮強度を確保できていた。実施例1~6では、端部欠け面積が500mm2以下であった。よって、実施例1~6では、得られた押出発泡成形体を切削する際の端部の欠けを抑制できていた。
【0094】
表1に示すように、比較例1及び2では、延伸工程における押出発泡体の加熱温度が95℃未満であった。比較例3では、延伸工程における押出発泡体の加熱温度が145℃を超えていた。比較例1及び5では、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.01倍未満であった。比較例4では、延伸工程における押出発泡体の延伸倍率が1.35倍を超えていた。
【0095】
表1に示すように、比較例3及び4では、平面圧縮強度が25N/cm2未満であった。よって、比較例3及び4では、得られた押出発泡成形体の平面圧縮強度を確保できていなかった。比較例1、2及び5では、端部欠け面積が500mm2を超えていた。よって、比較例1、2及び5では、得られた押出発泡成形体を切削する際の端部の欠けを抑制できていなかった。
【0096】
以上の結果から、本発明によれば、平面圧縮強度を確保しつつ、切削する際の端部の欠けを抑制できるスチレン系樹脂押出発泡成形体を提供できることが示された。