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特開2024-137827架橋された熱可塑性エラストマー組成物
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  • 特開-架橋された熱可塑性エラストマー組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137827
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】架橋された熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20240927BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20240927BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240927BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/10
C08K5/20
C08L83/04
C09K3/10 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024042071
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023048055
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】鳩山 直政
(72)【発明者】
【氏名】小座間 洋子
【テーマコード(参考)】
4H017
4J002
【Fターム(参考)】
4H017AA04
4H017AB07
4H017AC16
4H017AD03
4H017AE05
4J002AE05X
4J002BB123
4J002BB143
4J002BP01W
4J002CP034
4J002EP016
4J002EP026
4J002FD02X
4J002FD174
4J002FD176
4J002GJ02
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】より柔軟でかつ耐摩耗性に優れた熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンとイソプレンを含む少なくとも1個の共重合体ブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物であって、該ブロック共重合体の水素添加物の重量平均分子量が350,000未満である成分(A)、炭化水素系ゴム用軟化剤である成分(B)、及びポリプロピレン系樹脂である成分(C)を含み、成分(A)100質量部に対して、成分(B)を100~300質量部、成分(C)を10~100質量部含み、成分(A)の少なくとも一部に架橋部位を有する、架橋された熱可塑性エラストマー組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)及び(C)を含み、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(B)を100~300質量部、前記成分(C)を10~100質量部含み、前記成分(A)の少なくとも一部に架橋部位を有する、架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンとイソプレンを含む少なくとも1個の共重合体ブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物であって、該ブロック共重合体の水素添加物の重量平均分子量が350,000未満である。
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤。
成分(C):ポリプロピレン系樹脂。
【請求項2】
前記の成分(B)と成分(C)の含有量の重量比(成分(B)の含有量/成分(C)の含有量)が1.6以上である請求項1に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
デュロメーター硬度A(JIS K6253、15秒後)が60未満である請求項1又は2に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
さらに、成分(E)として、脂肪酸アミド及びシリコーンオイルから選ばれる1つ以上の滑剤を含有する、請求項1又は2に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(E)の含有量が、前記成分(A)、(B)、(C)の合計量100質量部に対して、1~20質量部である請求項4に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
自動車用成形体である、請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
自動車用接合部材である、請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
請求項8に記載の成形体が自動車用シール部材であり、この自動車用シール部材を有する自動車用複合部材。
【請求項10】
自動車ドア用シール部材である、請求項9に記載の自動車用複合部材。
【請求項11】
下記の成分(A)、成分(B)である炭化水素系ゴム用軟化剤、成分(C)であるポリプロピレン系樹脂、及び成分(D)である架橋剤を、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(B)を100~300質量部、前記成分(C)を10~100質量部、及び前記(A)、(B)、(C)の合計量100質量部に対して、前記成分(D)を0.1~10質量部の割合で含む混合物を、80~300℃で溶融混練する、架橋された熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンとイソプレンを含む少なくとも1個の共重合体ブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物であって、該ブロック共重合体の水素添加物の重量平均分子量が350,000未満である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋された熱可塑性エラストマー組成物に関する。より詳しくは、本発明は、柔軟性と耐摩耗性に優れた架橋された熱可塑性エラストマー組成物に関し、また該架橋された熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体、接合部材及び、接合部材を用いた自動車用複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂及びスチレン-ブタジエンブロック共重合体を動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム的な軟質材料としての特性を示しながらも加硫工程が不要であり、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有するものである。このため、このような熱可塑性エラストマー組成物は、加硫ゴムの代替による製造工程の合理化やリサイクル性等の観点から注目され、自動車部品、家電用品、医療用機器部品、電線、雑貨等の分野で広く使用されている。特に、熱可塑性エラストマー組成物は、自動車用シール材や建材用シール材としての用途において多用されてきている。
【0003】
このような中で、特に自動車用シール材として用いる熱可塑性エラストマーに関する各種発明がなされており、例えば特許文献1には、自動車用ウェザストリップ用途向けに柔軟性と耐摩耗性に優れた成形体を得るための技術として、スチレン系共重合体ゴムと、熱可塑性オレフィン系樹脂と、非芳香族系プロセスオイルとを含む、過酸化物架橋処理物が開示されている。
【0004】
また、自動車用シール材としての接合部材に用いる熱可塑性エラストマーの例としては、特許文献2には、特定の分子量のスチレン系共重合体ゴムと、炭化水素系ゴム用軟化剤と、ポリプロピレン系樹脂と、架橋材とを含む組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-20479号公報
【特許文献2】特開2020-125442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このように熱可塑性エラストマーが広く用いられるようになる中で、従来、広く用いられている熱可塑性エラストマー組成物を成形して得られる成形品は、自動車用シール材や建材用シール材としての用途において、近年特に加硫ゴム代替で用いられる際に、より柔軟で、かつ耐摩耗性に優れるという、相反する性能を両立するという点に関して問題があった。即ち、一般的に耐摩耗性は材料がより硬ければ良好になる性能であるが、近年において、より柔軟な材料で、かつ、耐摩耗性を有する材料が強く求められている。
【0007】
本発明者らの詳細な検討によれば、特許文献1~2に記載されている熱可塑性エラストマー組成物であっても、極めて良好な柔軟性、耐摩耗性が要求されるような厳しい用途においては加硫ゴムからの代替が進んでおらず、耐摩耗性や接合部材として用いられるための融着性・成形加工性は良好であるが、デュロA硬度(JIS K6253に準拠)が最も低いものでも60であり、柔軟性が十分とは言えない。
【0008】
本発明は、前記のような従来技術の諸問題点を解決することを目的とするものである。即ち、本発明の課題は、より柔軟でかつ耐摩耗性に優れた熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記問題を解決するために鋭意検討した結果、特定の重量平均分子量を有し、かつ、架橋部位を有するスチレン-イソプレン・ブタジエン系水添ブロック共重合体、炭化水素系ゴム用軟化剤及びポリプロピレン系樹脂を特定の割合で用いた架橋された熱可塑性エラストマー組成物が、より柔軟で耐摩耗性に優れることを見出し、本発明に至った。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1]下記成分(A)、(B)及び(C)を含み、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(B)を100~300質量部、前記成分(C)を10~100質量部含み、前記成分(A)の少なくとも一部に架橋部位を有する、架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンとイソプレンを含む少なくとも1個の共重合体ブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物であって、該ブロック共重合体の水素添加物の重量平均分子量が350,000未満である。
成分(B):炭化水素系ゴム用軟化剤。
成分(C):ポリプロピレン系樹脂。
【0011】
[2]前記の成分(B)と成分(C)の含有量の重量比(成分(B)の含有量/成分(C)の含有量)が1.6以上である[1]に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
[3]デュロメーター硬度A(JIS K6253、15秒後)が60未満である[1]又は[2]に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
[4]さらに、成分(E)として、脂肪酸アミド及びシリコーンオイルから選ばれる1つ以上の滑剤を含有する、[1]~[3]のいずれか1に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
[5]前記成分(E)の含有量が、前記成分(A)、(B)、(C)の合計量100質量部に対して、1~20質量部である[4]に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[6][1]~[5]のいずれか1に記載の架橋された熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体。
[7]自動車用成形体である、[6]に記載の成形体。
[8]自動車用接合部材である、[7]に記載の成形体。
[9][8]に記載の成形体が自動車用シール部材であり、この自動車用シール部材を有する自動車用複合部材。
[10]自動車ドア用シール部材である、[9]に記載の自動車用複合部材。
【0013】
[11]下記の成分(A)、成分(B)である炭化水素系ゴム用軟化剤、成分(C)であるポリプロピレン系樹脂、及び成分(D)である架橋剤を、前記成分(A)100質量部に対して、前記成分(B)を100~300質量部、前記成分(C)を10~100質量部、及び前記(A)、(B)、(C)の合計量100質量部に対して、前記成分(D)を0.1~10質量部の割合で含む混合物を、80~300℃で溶融混練する、架橋された熱可塑性エラストマー組成物の製造方法。
成分(A):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、ブタジエンとイソプレンを含む少なくとも1個の共重合体ブロックとを有するブロック共重合体の水素添加物であって、該ブロック共重合体の水素添加物の重量平均分子量が350,000未満である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は柔軟性に優れ、耐摩耗性も良好である。また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、柔軟性及び耐摩耗性に優れた複合成形体用接合部材等の成形体を、良好な成形加工性のもとに得ることができる。
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる接合部材は、その優れた柔軟性及び耐摩耗性と成形加工性から、自動車用シール材、建材用シール材等のシール材として有用である。特に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物からなる接合部材は、自動車ドア用シール部材等の自動車用複合成形体に用いられる接合部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明にかかる架橋された熱可塑性エラストマー組成物を用いた自動車ドア用シール部材の例の一部分を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。
【0017】
〔架橋された熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも下記成分(A)~(C)が所定の割合で配合されてなる、架橋された熱可塑性エラストマー組成物(以下、「架橋熱可塑性エラストマー組成物」と称する場合がある。)である。
【0018】
[成分(A)]
成分(A)は、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロック(以下、「ブロックP」と称す場合がある。)と、ブタジエンとイソプレンを含む少なくとも1個の共重合体ブロック(以下、「ブロックQ」と称す場合がある。)とを有するブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体」と称する場合がある。)である。
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したものを意味する。「ブタジエンを含む重合体」とは、ブタジエンを含む単量体を重合したものを意味する。「ビニル芳香族化合物を主体とする」とは、ビニル芳香族化合物を50モル%以上含むことを意味する。
【0019】
前記ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は、限定されないが、スチレン及び/又はα-メチルスチレン等のスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0020】
前記ブロックQを構成する単量体は、ブタジエン骨格を有する単量体であり、少なくともブタジエン及びイソプレンを含む単量体群である。この単量体群には、ブタジエン及びイソプレン以外の1種又は2種以上のブタジエン骨格を有する単量体を含有してもよいが、ブタジエン及びイソプレンを主体とする単量体群が好ましい。
なお、ここでいう「ブタジエンとイソプレンを主体とする」とは、ブタジエンとイソプレンを合計で50モル%以上含むことを意味する。
【0021】
前記ブロック共重合体の水添は、一般的な、水添反応で行うことができる。この時使用される水添触媒としては、一般的な水添触媒、例えば、アルキルリチウム触媒、Ni、Co系のチーグラー触媒、Ti系のメタロセン系触媒等を挙げることができる。
なお、これらの水添触媒を用いて前記ブロック共重合体の水添反応を行う場合、このブロック共重合体のうち、ブロックQは大半が水添されるが、ブロックPはそのほとんど水素添加されない。
【0022】
前記成分(A)の重量平均分子量は、350,000未満であり、340,000以下であることが好ましく、より好ましくは330,000以下であり、耐摩耗性の観点から更に好ましくは320,000以下である。一方、前記成分(A)の重量平均分子量の下限は、50,000以上がよく、好ましくは60,000以上であり、より好ましくは70,000以上である。成分(A)の重量平均分子量が前記範囲内であれば、十分な融着強度を有しつつ、良好な耐摩耗性を得ることができる
なお、前記成分(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略記する場合がある。)により測定したポリスチレン換算の値である。
【0023】
成分(A)の水添ブロック共重合体におけるブロックPの重量割合は限定されないが、5質量%上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることが更に好ましい。ブロックPの重量割合が前記範囲であることにより、架橋反応の割合が良好となる傾向にある。
【0024】
成分(A)のブロック共重合体の化学構造は直鎖状、分岐状又は放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表される構造が好ましく、機械的強度向上の観点から、より好ましくは下記式(1)の構造である。
・P-(Q-P)m (1)
・(P-Q)n (2)
式中PはブロックPを、QはブロックQをそれぞれ表す。mは1~5の整数を表す。nは2~5の整数を表す。
【0025】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方が好ましいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方が好ましい。m及びnは好ましくは2~4である。
【0026】
成分(A)のブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表されるブロック共重合体よりも式(1)で表されるブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される水添ブロック共重合体が更に好ましい。
【0027】
成分(A)の水添ブロック共重合体の具体例としては、スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレンの水添ブロック共重合体、スチレン(-イソプレン・ブタジエン-スチレン)の水添ブロック共重合体、(スチレン-イソプレン・ブタジエン-)の水添ブロック共重合体が挙げられる。これらは、接合部材としての用途において被着材となるオレフィン系ゴムとの融着性に必要な流動性を得やすい点において好適である。
【0028】
本発明における成分(A)の水添ブロック共重合体の製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。例えば、特開平7-97493号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いたブロック重合を行うことによってブロック共重合体を得ることができる。ブロック共重合体の水素添加(水添)は、例えば、特開昭59-133203号公報等に記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。
【0029】
この成分(A)の水添ブロック共重合体の市販品としては、台湾合成ゴム(TSRC)社製「TAIPOL-6151」、「TAIPOL-6159」、クレイトンポリマージャパン株式会社製「G1651」、「G1633」、クラレ社製「セプトン4055」「セプトン4033」等が挙げられる。
【0030】
前記の成分(A)の水添ブロック共重合体は、1種のみを用いてもよく、組成や重量平均分子量等の物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよいが、全体の特性バランスを制御しやすいことから、2種類以上を組み合わせて成分(A)の重量平均分子量が前述の好適範囲となるように組み合わせて用いることが挙げられる。
【0031】
[成分(B)]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物には、成形性を向上させる観点から、成分(B)である炭化水素系ゴム用軟化剤を含む。
【0032】
前記成分(B)の含有量は、成分(A)100質量部に対し、成形性・柔軟性の観点から、通常100質量部以上、好ましくは102量部以上、より好ましくは104質量部以上である。一方、前記成分(B)の含有量の上限は、成分(A)100質量部に対し、ブリード抑制の観点から、通常300質量部以下、好ましくは280質量部以下、より好ましくは250質量部以下である。
【0033】
前記成分(B)としては、鉱物油系ゴム用軟化剤、合成樹脂系ゴム用軟化剤等が挙げられる。これらの具体例としては、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるパラフィン系オイルからなるパラフィン系ゴム用軟化剤、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるナフテン系オイルからなるナフテン系ゴム用軟化剤、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素である芳香族系オイルからなる芳香族系ゴム用軟化剤、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物からなる鉱物油系ゴム用軟化剤等が挙げられる。これらの中で、パラフィン系ゴム用軟化剤を用いることが好ましい。
【0034】
前記成分(B)の40℃における動粘度は特に限定されないが、好ましくは20cSt以上、より好ましくは50cSt以上、好ましくは800cSt以下、より好ましくは600cSt以下である。炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(クリーブランド開放法(COC法)による)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
【0035】
前記成分(B)は、市販品として入手することができる。該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製「日石ポリブテン(登録商標)HV」シリーズ、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW」シリーズが挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
成分(B)は、1種のみを用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0036】
[成分(C)]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は成形性を向上させる観点から、成分(C)のポリプロピレン系樹脂を含む。
前記成分(C)の含有量の下限は、成分(A)100質量部に対し、成形性の観点から、通常10質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上である。一方、前記成分(C)の含有量の上限は、成分(A)100質量部に対し、成形品として十分な柔軟性のある硬度を得るという観点から通常100質量部以下、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。
【0037】
前記成分(C)のポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン系樹脂であっても、非結晶性ポリプロピレン系樹脂であっても特に限定されず、これらのうち1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0038】
前記結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されるものではないが、融解ピーク温度が、100℃以上、165℃未満の結晶性ポリプロピレン系樹脂(以下、「成分(C1)」と称する場合がある。)を用いることがより好ましい。融解ピーク温度が100℃以上であると耐熱性の観点で好ましく、165℃未満であると成分(A)との相溶性の観点で好ましい。
【0039】
前記非結晶性ポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されるものではないが、融解ピーク温度が45℃以上100℃未満の非結晶性プロピレン系重合体(以下、「成分(C2)」と称する場合がある。)を用いることがより好ましい。この融解ピーク温度は45℃以上、好ましくは55℃以上であると、耐熱性の観点で好ましく、100℃以下、好ましくは90℃以下であると、融着性が改善される観点で好ましい。
【0040】
この成分(C2)を用いる場合、成分(C)中の成分(C2)の含有率は50質量%以下、例えば5~50質量%であることが好ましい。成分(C)が成分(C2)を含むことで、融着性が改善されるが、その含有率が多過ぎると耐熱性が低下する可能性がある。
【0041】
前記の成分(C1)及び成分(C2)の融解ピーク温度は、JIS K7121に従い、以下の方法により測定することができる。
示差走査熱量計(エスエスアイ・ナノテクノロジー社製:DSC6220)を用いて、以下の工程(1)~(3)を順に実施してポリプロピレン系樹脂の融解挙動を測定する。
各工程において横軸に時間、縦軸に融解熱量をプロットして融解曲線を取得し、工程(3)において観測されるピークのピークトップを融解ピーク温度とする。
工程(1):試料5mgを室温から100℃/分の速度で40℃から200℃まで昇温し、昇温終了後、3分間保持する。
工程(2):200℃から10℃/分の速度で40℃まで降温し、降温終了後、3分間保持する。
工程(3):40℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温する。
【0042】
前記成分(C1)は、結晶性プロピレン単独重合体、結晶性プロピレン・エチレン共重合体、結晶性プロピレン系ランダム共重合体の中から、1種のみを用いても、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。成分(C1)として結晶性プロピレン系ランダム共重合体を用いる場合には、結晶性プロピレン系ランダム共重合体中のプロピレン単位の含有率は、成分(C1)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは60~99質量%、より好ましくは80~98質量%である。成分(C1)のプロピレン単位の含有率が前記範囲であると、前述の融解ピーク温度の範囲となり易いために好ましい。
成分(C1)の各構成単位の含有率は赤外分光法により求めることができる。これは、成分(C2)についても同様である。
【0043】
成分(C1)として用いることができる結晶性プロピレン系ランダム共重合体は、プロピレン単位とプロピレン単位以外の構成単位を有する共重合体である。プロピレン単位以外の構成単位として、具体的には、エチレン単位やプロピレン単位以外のα-オレフィン単位が挙げられる。成分(C1)が含んでいてもよいプロピレン単位以外の構成単位としては、例えば、エチレン単位、1-ブテン単位、1-ペンテン単位、1-ヘキセン単位、1-へプテン単位、1-オクテン単位、1-ノネン単位、1-デセン単位、1-ウンデセン単位、1-ドデセン単位、1-トリデセン単位、1-テトラデセン単位、1-ペンタデセン単位、1-ヘキサデセン単位、1-ヘプタデセン単位、1-オクタデセン単位、1-ノナデセン単位、1-エイコセン単位、3-メチル-1-ブテン単位、3-メチル-1-ペンテン単位、4-メチル-1-ペンテン単位、2-エチル-1-ヘキセン単位、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン単位が挙げられる。成分(C1)は、これらの1種のみを含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。成分(C1)に含まれるプロピレン単位以外の構成単位の好ましいものとしては、エチレン単位、1-ブテン単位等が挙げられる。
【0044】
前記成分(C2)として非結晶性プロピレン系重合体を用いる場合には、プロピレン単位の含有率は、成分(C2)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは50質量%~93重量%、より好ましくは80重量%~92重量%以下、さらに好ましくは85重量%~91質量%である。成分(C2)のプロピレン単位の含有率が前記範囲であると、前述の融解ピーク温度の範囲となり易いために好ましい。
【0045】
前記成分(C2)の非結晶性プロピレン系重合体は、非結晶性プロピレン・エチレン共重合体がその代表例であるが、プロピレン単位やエチレン単位以外の構成単位を有するものであってもよく、例えば、エチレン単位やプロピレン以外のα-オレフィン単位を含むものであってもよい。この場合、成分(C2)が含んでいてもよいα-オレフィン単位としては、例えば、1-ブテン単位、1-ペンテン単位、1-ヘキセン単位、1-へプテン単位、1-オクテン単位、1-ノネン単位、1-デセン単位、1-ウンデセン単位、1-ドデセン単位、1-トリデセン単位、1-テトラデセン単位、1-ペンタデセン単位、1-ヘキサデセン単位、1-ヘプタデセン単位、1-オクタデセン単位、1-ノナデセン単位、1-エイコセン単位、3-メチル-1-ブテン単位、3-メチル-1-ペンテン単位、4-メチル-1-ペンテン単位、2-エチル-1-ヘキセン単位、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン単位が挙げられる。成分(C2)はこれらのプロピレン以外の構成単位の1種のみを含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。成分(C2)に含まれるプロピレン単位やエチレン単位以外の構成単位の好ましいものとしては、1-ブテン単位等が挙げられる。
【0046】
前記の成分(C1)及び成分(C2)のプロピレン系重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた重合法を用いることができる。該重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせてもよい。
【0047】
前記の成分(C1)及び成分(C2)は市販品として入手することもできる。結晶性プロピレン系重合体(C1)に該当する市販品としては、プライムポリマー社のPrim Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobil PP、Formosa Plastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealis PP、LG Chemical社のSEETEC PP、A.Schulman社のASI POLYPROPYLENE、INEOS Olefins&Polymers社のINEOS PP、Braskem社のBraskem PP、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社のSumsung Total、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTAL PETROCHEMICALS社のTOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等があり、これらの中から適宜選択し、組み合わせて用いることができる。また、非結晶性プロピレン系重合体(C2)に該当する市販品としては、プライムポリマー社製「プライムTPO(登録商標)」、ダウ・ケミカル社製「VERSIFY(登録商標)」、エクソンモービルケミカル社製「Vistamaxx(登録商標)」があげられる。プロピレン-エチレン―1-ブテン共重合体としては、例えば、三井化学社製「TAFMER(登録商標)PN」が挙げられる。これらの中から適宜選択して用いることができる。
【0048】
成分(C1)及び成分(C2)はそれぞれ1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
[成分(B)と成分(C)との成分比]
前記の成分(B)と成分(C)の含有量の重量比、すなわち、[成分(B)の含有量]/[成分(C)の含有量]は、柔軟性の観点から、1.6以上がよく、2.0以上が好ましい。一方、成分(B)と成分(C)の含有量の重量比の上限は、ブリード抑制の観点から、5.0以下がよく、4.0以下が好ましい。
【0050】
[成分(D)]
この発明に係る架橋熱可塑性エラストマー組成物は、前記の成分(A)、成分(B)、成分(C)及びその他の成分等をそれぞれ所定量配合した組成物を、架橋剤(以下、「成分(D)」と称する場合がある。)の存在下で動的熱処理を行うこと、又は成分(A)に成分(D)を所定量配合して成分(D)の存在下で動的熱処理を行うことにより、前記成分(A)の少なくとも一部、具体的には、前記成分(A)の分子内の少なくとも一部、前記成分(A)の分子と他の成分(A)の分子との間の少なくとも一部、又は前記成分(A)と前記成分(C)との間の少なくとも一部に架橋部位が形成される。この架橋部位の形成により、この発明に係る架橋された熱可塑性エラストマー組成部を、ゴム弾性が良好な架橋体とすることができる。
【0051】
成分(D)としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、その他の架橋助剤等を用いることができる。これらの架橋剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
前記有機過酸化物としては、芳香族系有機過酸化物及び脂肪族系有機過酸化物のいずれも使用することが可能である。具体的には、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)-3-ヘキシン等のパーオキシエステル類;アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p-クロロベンゾイルパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類が挙げられる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。これらの有機過酸化物は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
前記フェノール樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド、臭化アルキルフェノールノールホルムアルデヒド等が挙げられる。これらのフェノール樹脂は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
前記の有機過酸化物及びフェノール樹脂以外の架橋助剤としては、例えば、硫黄、p-キノンジオキシム、p-ジニトロソベンゼン、1,3-ジフェニルグアニジン等の過酸化物用助剤;塩化第一錫・無水物、塩化第一錫・二水和物、塩化第二鉄等のフェノール樹脂用架橋助剤;ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
前記の成分(D)の使用量は、前記の成分(A)、(B)、(C)の合計量100質量部に対して、架橋反応を十分に進行させる観点から、0.1質量部以上がよく、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上である。また、成分(D)の使用量の上限は、前記の成分(A)、(B)、(C)の合計量100質量部に対して、架橋反応を制御する観点から、10質量部以下がよく、好ましくは9.0質量部以下、より好ましくは8.0質量部以下である。
【0056】
[成分(E)]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物の製造には、前記成分(A)~(D)以外に成分(E)として脂肪酸アミド及びシリコーンオイルから選ばれる少なくとも1種以上の滑剤を含有してもよい。
【0057】
前記成分(E)の滑剤として使用される脂肪酸アミドは、通常、炭素数12以上の脂肪酸アミドであり、具体的には、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどの飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ブラシジン酸アミド及びエライジン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、及びエチレンビスオレイン酸アミドなどの脂肪酸ビスアミド、イソベヘン酸アミド、イソステアリン酸アミドなどの分岐脂肪酸アミドなどが挙げられる。この内、1種のみを使用しても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。これら脂肪酸アミドの中でも、オレイン酸アミド及びエルカ酸アミドが摺動性の観点で特に好ましい。
【0058】
前記成分(E)の滑剤として使用されるシリコーンオイルに関しては、従来スリップ剤として使用されているオルガノシロキサンが挙げられ、具体的には、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンボリシロキサン等のポリシロキサン、及びこれらのポリシロキサンがエポキシ変性、アルキル変性、メタクリル変性、カルビノール変性、アミノ変性、メルカプト変性、カルボキシル変性、アルコール変性フェノール変性、フッ素変性、アラルキル変性、ジオール変性アルキルアラキルポリエーテル変性、エポキシポリエーテル変性又はポリエーテル変性された変性ポリシロキサンなどが挙げられる。この内、1種のみを使用しても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。これらオルガノシロキサンの中でも、ジメチルポリシロキサン及びそのアルキル変性、メタクリル変性ポリシロキサンが摺動性の観点で特に好ましい。
【0059】
前記ポリシロキサンの25℃における粘度は、通常0.5cSt以上100万cSt以下、好ましくは1cSt以上50万cSt以下、より好ましくは1.5cSt以上30万cSt以下、更に好ましくは2~10万cStである。前記ポリシロキサンの粘度がこの範囲にあると、ブリードを抑制しつつ耐摩耗性を向上することができる。この内、同じ粘度のもの1種のみを使用しても、粘度の異なる2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。
この時の併用比率は任意の比率とすることができるが、脂肪酸アミドの添加量よりシリコーンオイルの添加量が多いことが、耐摩耗性の観点からより好ましく、25℃での粘度が100cSt未満のシリコーンオイルの添加量より100cSt以上のシリコーンオイルの添加量が多いことが、ブリード抑制の観点からより好ましい。
【0060】
前記の成分(E)は、前記の脂肪酸アミド及びシリコーンオイルを含め、2種以上の複数種を併用することが好ましい。例えば、3種、4種等の成分(E)を併用してもよい。複数種の成分(E)を併用することにより、滑剤のブリード速度をコントロールすることができ、短期間での滑剤の効果(摺動性)と長期間での滑剤の効果(摺動性)の両方を確保しつつ、ブリードによる不具合を抑制することが可能となる。
【0061】
前記成分(E)を滑剤として用いる場合、成分(E)は、成分(A)、(B)(C)の合計量100質量部に対して、1~20質量部、好ましくは2~15質量部の範囲で用いられる。この範囲を満たすことにより、融着性の低下を抑えて、十分な耐摩耗性を得ることができる。
後述の通り、本発明では、成分(A)による摺動性の向上効果で滑剤の使用量を抑えることができ、前記の通り、成分(A)の合計100質量部に対して20質量部以下の少量添加で、融着性の低下を抑えて優れた耐摩耗性を得ることができる。
【0062】
[成分(G)]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物の製造には、前記成分(A)~(D)以外に成分(G)として、前記以外のビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックRと、ビニル芳香族化合物と、オレフィン及び共役ジエンの少なくともいずれかとの共重合体ブロックSとを有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有してもよい。なお、重合体ブロックRは、ハードセグメントを構成し、共重合体ブロックSは、ソフトセグメントを構成する。
【0063】
前記重合体ブロックRのビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン等のスチレン化合物、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等の多環芳香族化合物が挙げられ、これらのうちスチレン化合物が好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0064】
前記共重合体ブロックSに用いるビニル芳香族化合物は、前記重合体ブロックRに用いるビニル芳香族化合物と同じものを用いることができる。
共重合体ブロックSに用いる共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンが挙げられ、これらのうちブタジエン、イソプレン、又はブタジエンとイソプレンの混合物が好ましく、特にブタジエンが好ましい。
また、重合体ブロックRは、得られる熱可塑性エラストマー組成物に柔軟性を与えるため、ランダム共重合体ブロックであるのが好ましい。
【0065】
成分(G)は、上記ブロック共重合体の共役ジエンに由来する炭素-炭素二重結合を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であり、全て水素添加されたもの(完全水添)であっても、部分的に水素添加されたもの(選択水添)であってもよい。
成分(G)のブロック共重合体に占める重合体ブロックRの含有率は、通常3質量%以上70質量%以下である。重合体ブロックRの含有率が上記下限以上であれば、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度や耐熱性に優れる傾向がある。重合体ブロックRの含有率の下限としては、4質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。一方、重合体ブロックRの含有率の上限としては、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。重合体ブロックRの含有率が上記上限以下であれば、柔軟性を維持し得ると共に、炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードを抑制することができる。
【0066】
成分(G)の共重合体の水素添加物に占めるビニル芳香族化合物に由来する構成単位の割合は、通常50質量%以上90質量%以下である。熱可塑性エラストマー組成物の耐摩耗性を良好にする観点からビニル芳香族化合物に由来する構成単位の割合の下限としては、55質量%以上が好ましく、上限としては85質量%以下が好ましい。従って、共重合体ブロックSにおけるビニル芳香族化合物に由来する構成単位の割合は、重合体ブロックRにおけるビニル芳香族化合物に由来する構成単位との合計で、成分(G)中のビニル芳香族化合物に由来する構成単位の割合が上記範囲となる割合であることが好ましい。
【0067】
成分(G)のブロック共重合体のGPC法により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度が良好にする観点から、下限としては50,000以上が好ましく、75,000以上がより好ましい。また、その上限としては、成形加工性の観点から、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましい。
【0068】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いられる成分(G)は、ガラス転移温度が0℃以上であることが好ましい。成分(G)のガラス転移温度は耐摩耗性の観点から、10℃以上がより好ましく、またその上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。成分(G)のガラス転移温度を0℃以上とすることで、柔軟性を維持しながら耐摩耗性を良好なものとできる。また、成分(G)のガラス転移温度を40℃以下とすることで、耐寒性(低温での柔軟性)という特徴を発揮することができる。
【0069】
成分(G)のガラス転移温度はJIS K6394を参照して、以下の測定条件及び測定方法で測定できる。
I)測定条件:
・測定装置:TA Instruments社製 動的粘弾性計測装置「RSA-III」
・測定モード:引張
・雰囲気:窒素
・温度:-20~100℃
・昇温速度:2℃/分
・ソーク時間:30秒
・周波数:1Hz
II)測定方法:
成分(G)を温度200℃でプレス成形によって厚さ1mmの平板としたのち、幅4mmの短冊に切り出したものを上記測定装置に固定し、上記測定条件で測定を行う。
【0070】
成分(G)のブロック共重合体は、公知の任意の方法により製造することができる。例えば、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行う方法(特公昭40-23798号公報等参照)が挙げられる。また、ブロック共重合体の水素添加処理は、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下で行うことができる(特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特開昭59-133203号公報、特開昭60-79005号公報等参照)。また、成分(G)の水添共重合体は市販の該当品を用いることも可能である。市販の水添共重合体としては、例えば、「タフテック(登録商標)SOE-SS」(旭化成株式会社製)、「クレイトンAシリーズ」(クレイトンポリマー社製)などが挙げられる。
【0071】
成分(G)のビニル芳香族化合物と共役ジエンの水添共重合体は、1種種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0072】
[その他の成分]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物の製造には、前記成分(A)~(G)以外に更に本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を原料として用いることができる。
【0073】
前記その他の成分としては、例えば、成分(A)及び成分(C)、成分(G)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等の樹脂、酸化防止剤、充填材、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、成分(E)以外の滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物が挙げられる。これらは任意のものを単独又は併用して用いることができる。
【0074】
前記の成分(A)及び成分(C)、成分(G)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(だだし、成分(C)に該当するものを除く。)が挙げられる。
前記の成分(A)及び成分(C)、成分(G)以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー(ただし、成分(A)に該当するものを除く);ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエンが挙げられる。
【0075】
前記成分(E)以外の滑剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、金属石鹸、シリコーンマスターバッチ、シリコーンガム、液体シロキサンワックス、ポリオレフィンワックスなどが挙げられる。
【0076】
前記酸化防止剤(以下、「成分(F)」と称す場合がある。)としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤は、成分(A)の合計100質量部に対して、通常0.01~3.0質量部、好ましくは0.15~0.6質量部の範囲で用いられる。酸化防止剤の含有量が前記範囲内であると良好な熱安定性が得られる。
【0077】
前記充填材としては、例えば、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラックが挙げられる。充填材を用いる場合、充填材は、成分(A)の合計100質量部に対して、通常0.3~100質量部で用いられる。
【0078】
[架橋熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、好ましくは、成分(A)、成分(B)、成分(C)、必要に応じて成分(G)及びその他の成分等をそれぞれ所定量配合した組成物を、成分(D)の存在下で動的熱処理を行って架橋することにより得ることができる。
また、本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、予め成分(A)に成分(D)を所定量ずつ配合して動的熱処理を行って架橋したものに、成分(B)、成分(C)、必要に応じて成分(G)及びその他の成分等をそれぞれ所定量ずつ配合することによっても、得ることができる。
【0079】
本発明において「動的熱処理」とは、架橋剤の存在下で溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましい。溶融混練のための混合混練装置としては、例えば非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様は、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うものである。
動的熱処理を行う際の温度は、通常80~300℃、好ましくは100~250℃である。動的熱処理を行う時間は通常0.1~30分である。
【0080】
前記架橋対象の成分(A)~(D)を配合した組成物、又は成分(A)及び(D)を配合した組成物を、二軸押出機により動的熱処理を行うことにより、本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物製造する場合においては、二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(W(kg/時))の間に下記式(I)の関係を保ちながら押出することが好ましく、下記式(II)の関係を保ちながら押出することがより好ましい。
2.6<NW/R<22.6 (I)
3.0<NW/R<20.0 (II)
【0081】
二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(W(kg/時))との間の前記関係が、前記下限値より大きいことが架橋熱可塑性エラストマー組成物を効率的に製造するために好ましい。一方、前記関係が前記上限値より小さいことが、剪断による発熱を抑え、外観不良の原因となる異物が発生しにくくなるために好ましい。
【0082】
[架橋熱可塑性エラストマー組成物の物性]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が1g/10分以上であることが成形性の観点から好ましく、より好ましくは1.3g/10分以上、更に好ましくは1.5g/10分以上である。成形性の観点から、本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレート(MFR)は、80g/10分以下が好ましく、75g/10分以下がより好ましく、70g/10分以下が更に好ましい。
【0083】
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性の観点から、JIS K6253の測定法に準拠して15秒後に測定したデュロA硬度が、60未満が好ましく、55以下がより好ましい。また、耐摩耗性の観点から、30以上が好ましく、35以上が好ましい。
【0084】
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、耐摩耗性の観点から、JIS L849の測定法に準拠した学振試形摩擦試験機により、荷重500g、10,000往復後の重量減少量を測定した摩耗減量は、130mg以下が好ましく、100mg以下がより好ましい。また、摩耗減量の下限は、少ないほど好ましいため特に規定されない。
【0085】
[成形]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、通常、架橋熱可塑性エラストマー組成物に用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形の各種成形方法により、成形体とすることができる。本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物の成形方法は、これらの中でも射出成形が好適である。これらの成形を行った後に積層成形、熱成形等の二次加工を行った成形体とすることもできる。
前記の成形方法で得られる成形体としては、種々のものが挙げられるが、例えば、自動車部品として用いられる自動車用成形体、土木部品や建材部品として用いられる土木用成形体、建材用成形体等を挙げることができる。
【0086】
[接合部材]
この架橋熱可塑性エラストマー組成物の成形体は、接合部材として用いることができる。例えば、前記の自動車用成形体や土木用成形体、建材用成形体等は、接合部材として用いることができる。接合部材として用いられる自動車用成形体の例としては、自動車用シール材等をあげることができ、接合部材として用いられる土木用成形体、建材用成形体の例としては、建材用シール材等をあげることができる。
また、この自動車用シール材や建材用シール材は、他の部品と組み合わされて、複合部材を形成することができる。
この接合部材は、前記の成形方法、その中でも、射出成形、具体的には、本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物を溶融混練し、混練物を射出成形することにより製造することができる。
【0087】
前記の自動車用成形体を一構成部材として用いる複合部材としては、自動車用複合成形体を挙げることができ、その具体例としては、自動車用成形体として自動車用シール材を含むと共に、他の複数の部品・部材が組み合わされた自動車ドア用シール部材を挙げることができる。
この自動車ドア用シール部材の一例としては、図1に示す自動車ドア用シール部材3を挙げることができる。これは、架橋ゴム部材1A,1Bを、本発明にかかる自動車用シール材2よりなるコーナー部で融着一体化させたものである。
【0088】
このような自動車ドア用シール部材3は、例えば、予め製作された架橋ゴム部材1A,1Bの接合端側を射出成形用金型に挿入し、この金型内に本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してコーナー部の自動車用シール材2を成形すると共に、架橋ゴム部材1A,1Bの端面と融着一体化することにより製造することができる。
【0089】
被着材としての架橋ゴム部材1A,1Bとしては、オレフィン系ゴムが好ましい。オレフィン系ゴムとしては、具体的には、硫黄加硫ゴムおよびその発泡体、オレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。自動車ドア用シール部材として良好な柔軟性・ゴム弾性・圧縮永久歪み特性を得るという観点からは、硫黄加硫ゴムであることが好ましく、硫黄加硫ゴムの発泡体であることが特に好ましい。
【0090】
また、前記自動車ドア用シール材2の具体例としては、ウェザストリップ製品を挙げることができる。このウェザストリップ製品は、オープニングトリムウェザストリップ、ドアカラスラン、ドアウェザーストリップ、アウターウェザストリップ、ラゲージウェザストリップ等が挙げられる。
【0091】
〔用途〕
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は、前記自動車部品、土木部品や建材部品として用いることができる。前記自動車部品としては、前記シール材の他に、表皮、ウェザーストリップを構成する各構成物品、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース等を挙げることができる。また、前記自動車部品、土木部品や建材部品としては、前記シール材の他に、止水材、目地材、窓枠等を挙げることができる。前記自動車部品、土木部品や建材部品の用途としては、ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野の用途を挙げることができる。
【0092】
[メカニズム]
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性と耐摩耗性に優れ、成形加工性も良好であるという効果を奏する。
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、以下の通り推定される。
1)成分(A)中に、わずかに存在する炭素原子間の二重結合部分が、動的架橋を行う際に添加する成分(D)の架橋剤や架橋助剤との結びつき架橋点となって、周りの成分(A)や成分(C)の樹脂も巻き込みながら緩やかな分子鎖同士の結合を形成することにより、分子鎖同士が離れにくくなり、耐摩耗性が向上する。
2)成分(A)を成分(D)の架橋剤及び架橋助剤とともに混練することにより、混練時にゴム成分が非常に細かな分散径で均一に分散し、前記架橋反応が均一に進みやすくなることによって、より耐摩耗性が向上する。
3)成分(A)のゴム成分の均一な分散・架橋によって良好な耐摩耗性がもたらされる結果として、表面張力(被着材との融着性)の低下効果や、ブリードによる不良発生の可能性あるシリコーンオイル等の滑剤の添加量を現実的な添加量上限以内に保つことができるため、より柔軟性を発現する成分比率においても耐摩耗性が保持できる。
4)ゴム成分である成分(A)がビニル芳香族化合物単位を主体とする重合体ブロックを有しており、かつそれが架橋されているために、オレフィン系ゴムや非架橋のスチレン系ゴムと比較してより多くのゴム用軟化剤を含むことができ、より柔軟な配合比率を実現できる。
【実施例0093】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0094】
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例で使用した原材料は以下の通りである。
[成分(A)]
{水添ブロック共重合体(A)}
<A-1>
スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン水添ブロック共重合体(前記式(1)の構造を有する。)、スチレン(ブロックP)含有量:30質量%、重量平均分子量:288,000、クラレ社製「セプトン4055」
<A-2>
スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン水添ブロック共重合体(前記式(1)の構造を有する。)、スチレン(ブロックP)含有量:30質量%、重量平均分子量:83,800、クラレ社製「セプトン4033」
【0095】
<a-3>(比較例用)
スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン水添ブロック共重合体(前記式(1)の構造を有する。)、スチレン(ブロックP)含有量:30質量%、重量平均分子量:381,000、クラレ社製「セプトン4077」
<a-4>(比較例用)
スチレン-ブタジエン-スチレン水添ブロック共重合体(前記式(1)の構造を有する。但し、ブロックQはブタジエンホモポリマーである。)、スチレン(ブロックP)含有量:32質量%、重量平均分子量:260,000)、台湾合成ゴム(TSRC)社製「TAIPOL-6151」
【0096】
[成分(B)]
<B-1>
パラフィン系ゴム用軟化剤(40℃の動粘度:95.5cSt、流動点:-15℃、引火点:272℃)、出光興産社製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90」
【0097】
[成分(C)]
<C-1>
プロピレン・エチレンランダム共重合体(MFR(JIS K7210):30g/10分(230℃、21.2N)、融解ピーク温度:155℃、プロピレン単位含有量:98質量%)、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP MG03BD」
<C-2>
プロピレン単独重合体(MFR(JIS K7210):10g/10分(230℃、21.2N)、融解ピーク温度:160℃、プロピレン単位含有量:100質量%)、日本ポリプロ社製「ノバテック(登録商標)PP MA3」
<C-3>
プロピレン・エチレンランダム共重合体(MFR(JIS K7210):8g/10分(230℃、21.2N)、融解ピーク温度:75℃、プロピレン単位含有量;91重量%)、エクソンモービルケミカル社製「Vistamaxx(登録商標)3980FL」
【0098】
[成分(D)]
<D-1>
2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量部と炭酸カルシウム60質量部の混合物、化薬ヌーリオン社製「トリゴノックス101-40C」
<D-2>
ジビニルベンゼン55質量部とエチルビニルベンゼン45質量部の混合物、和光純薬工業社製「ジビニルベンゼン」
【0099】
[成分(E)]
<E-1>
オレイン酸アミド、日本化成社製「ダイヤミッドO-200」
<E-2>
シリコーンオイル、信越化学社製「KF96-10CS」
<E-3>
シリコーンオイル、信越化学社製「KF96-100CS」
<E-4>
シリコーンオイル、信越化学社製「KF96-1000CS」
【0100】
[成分(F)]
<F-1>
酸化防止剤、BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1076」
【0101】
[成分(G)]
{水添ブロック共重合体(G)}
<G-1>
ハードセグメントを構成するビニル芳香族化合物の重合体ブロックRとソフトセグメントを構成するビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体ブロックSとからなるブロック共重合体の水素添加物:旭化成(株)製「タフテック(登録商標)S.O.E.S1605」
・水素添加:完全水添
・ガラス転移温度:16℃
・重合体ブロックR:スチレン
・共重合体ブロックS:スチレンとブタジエン
・スチレン単位含有率:67質量%
・重量平均分子量:203,000
【0102】
<G-2>
ハードセグメントを構成するビニル芳香族化合物の重合体ブロックRとソフトセグメントを構成するビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体ブロックSとからなるブロック共重合体の水素添加物、旭化成(株)製「タフテック(登録商標)S.O.E.S1609」
・水素添加:選択水添
・ガラス転移温度:17℃
・重合体ブロックR:スチレン
・共重合体ブロックS:スチレンとブタジエン
・重量平均分子量;203,000
【0103】
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における架橋熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
なお、以下の(2)の測定には、インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)にて、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形して得られたシート(横120mm、縦80mm、肉厚2mm)を使用し、(3)~(4)の測定には、各架橋熱可塑性エラストマー組成物を用い、インラインスクリュウタイプ射出成形機(住友機械社製「SE-180」)にて、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形して得られたシート(横100mm、縦345mm、肉厚2mm)を成形した後に、それを横30mm、縦125mmのサイズにカットして使用した。
【0104】
(1)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定した。メルトフローレートの値が大きいものほど、射出成形性に優れるものと評価される。
【0105】
(2)デュロA硬度
JIS K6253に準拠(JIS-A)して、試験片に針を押し付けてから15秒後の値を測定した。デュロA硬度の値が低いものほど、架橋熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性が優れるものと評価され、特に自動車ドア用シール材の用途として、60未満であることが好ましい。
【0106】
(3)耐摩耗性/摩耗減量
JIS L849に準拠した学振試形摩擦試験機により、荷重500g、10,000往復後の重量減少量を測定した。測定値から下記基準で評価した。
◎:摩耗減量100mg以下
〇:摩耗減量100~130mg
×:摩耗減量130mg以上
××:指定条件(1万回)達成前に破れ発生により、測定不可
【0107】
(4)耐摩耗性/摩耗試験後外観
JIS L849に準拠した学振試形摩擦試験機により、荷重500g、10,000往復後の試験片の外観を目視で判断した。評価は次の5段階で行なった。
5:試験片表面に摩耗が見られるが、ほとんど目立たない。
4:試験片表面に摩耗が見られるが、あまり目立たない。
3:試験片表面に摩耗が見られ、目立つ。
2:試験片表面に摩耗が見られ、とても目立つ
1:試験片表面に著しい摩耗が見られ、とても目立つ
なお、判定基準は下記の通りとした。
◎:評価5
〇:評価4~3
×:評価2
××:評価1
【0108】
[実施例/比較例]
<実施例1>
(A-1)100質量部、(B-1)143質量部、(C-1)43質量部、(D-1)1.7質量部(うち、炭酸カルシウムを除いた量は0.7質量部)、(D-2)1.7質量部(うち、エチルビニルベンゼンを除いた量は0.9質量部)、(E-1)0.6質量部、(E-2)1.4質量部、(E-3)8.6質量部、(E-4)8.6質量部、(F-1)0.3質量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドして混合物を得た。
この混合物を、同方向二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30」、L/D=46、シリンダーブロック数:12)の供給部へ重量式フィーダーにて投入し、合計25kg/hの吐出量にて、上流部から下流部を110~220℃の範囲で昇温させ溶融混練を行い、ペレット化して架橋熱可塑性エラストマー組成物を製造した。得られた架橋熱可塑性エラストマー組成物について、前述の(1)~(4)の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0109】
<実施例2~8及び比較例1~3>
表1に示したように配合組成を変更した以外は、実施例1と同様にして実施し、架橋熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた架橋熱可塑性エラストマー組成物について、実施例1と同様の評価を実施した。結果を表1に示す。
なお、表1中、(D-1)については、実際の配合量ではなく、(D-1)のうちの2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンのみの配合量(実配合量の40%)で示し、(D-2)についても、実際の配合量ではなく、(D-2)のうちのジビニルベンゼンのみの配合量(実配合量55%)で示す。
【0110】
【表1】
【0111】
[評価結果]
表1に示す通り、本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物に該当する実施例1~8は、柔軟(デュロ硬度Aの評価)であるにもかかわらず「耐摩耗性」の評価において優れ、成形性についても射出成形に適した流動性1~100g/10分(230℃、21.2N)を満たしている。
一方比較例1は本発明の成分(D)を使用せず、動的熱処理による架橋をしなかった例であり、比較例2は本発明の(A-1)を使用せず、代わりに(a-4)を使用した例であり、比較例3は本発明の(A-1)の代わりに(a-3)を使用した例であり、そのいずれも耐摩耗性の評価が劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は前記の効果を奏するため、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野で用いることができる。本発明の架橋熱可塑性エラストマー組成物は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用シール材、特に自動車ドア用シール材として好適である。
【符号の説明】
【0113】
1A,1B 架橋ゴム部材
2 自動車用シール材
3 自動車ドア用シール部材
図1