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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137873
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
C23C14/34 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044726
(22)【出願日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2023045751
(32)【優先日】2023-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024006287
(32)【優先日】2024-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002428
【氏名又は名称】芝浦メカトロニクス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松中 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン ペトロフ ガナシェフ
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洋次
(72)【発明者】
【氏名】大塚 博司
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA04
4K029AA06
4K029AA07
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA58
4K029BB02
4K029CA06
4K029DA02
4K029DC05
4K029DC16
4K029DC34
4K029JA02
4K029KA09
(57)【要約】      (修正有)
【課題】処理部間での反応ガスの混入を抑制する成膜装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る成膜装置1は、チャンバ20内に設けられた回転テーブル31、回転テーブル31により搬送されるワーク10にプラズマ処理を行う処理部PU、プラズマ処理が行われる処理空間を画成し、回転テーブル31に非接触で対向する開口を有する内壁部511、内壁部511の周囲を間隔を空けて覆い、回転テーブル31に非接触で対向する開口を有する排気空間60を形成する外壁部61、処理空間からチャンバ20外に排気する排気装置63に接続された排気口62を有し、処理部PUがスパッタリングにより膜を形成する成膜部40であり、外壁部61の両側端がチャンバ20の側面に接し、内壁部511の外周の一部とチャンバ20の側面との間が仕切られて、排気空間60に反応ガスが循環しない両端が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空とすることが可能なチャンバと、
前記チャンバ内に設けられ、回転することにより円周の搬送経路に沿ってワークを循環搬送する回転テーブルと、
前記回転テーブルにより搬送される前記ワークに対して、導入された反応ガスをプラズマ化することによりプラズマ処理を行う複数の処理部と、
少なくとも1つの前記処理部に設けられ、前記反応ガスが導入されてプラズマ処理が行われる処理空間を画成し、前記回転テーブルに非接触で対向する開口を有する内壁部と、
前記内壁部の周囲を間隔を空けて覆い、前記回転テーブルに非接触で対向する開口を有し、前記開口と反対側が塞がれた排気空間を形成する外壁部と、
前記排気空間に連通し、前記内壁部の前記開口と前記回転テーブルとの隙間から漏れ出す前記反応ガスを吸引して、前記チャンバ外に排気する排気装置に接続された排気口と、
を有し、
少なくとも1つの前記処理部は、前記ワークに、スパッタリングにより成膜材料を堆積
させて膜を形成する成膜部であり、
前記外壁部の両側端が前記チャンバの側面に接し、前記内壁部の外周の一部と前記チャンバの側面との間が仕切られることにより、前記排気空間には、前記反応ガスが循環しない両端が形成されている、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記外壁部の前記回転テーブルに向かう端部は、前記内壁部の前記回転テーブルに向かう端部よりも、前記回転テーブルに近いことを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記排気口は、複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項4】
前記排気口は、前記チャンバの側面に設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項5】
前記外壁部には、複数の通気口が設けられ、
前記外壁部の周囲には、前記通気口を覆うバッファ流路が設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項6】
前記排気口は、前記排気空間の両端の少なくとも一方に設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項7】
前記排気口は、前記排気空間の両端の双方に設けられていることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項8】
前記排気装置と前記排気口との間に前記反応ガスの排気量を調節するバルブが設けられていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記成膜部の少なくとも1つは、GaNを含む成膜材料から成るターゲットを有し、
前記処理部の少なくとも1つは、前記処理空間に導入される窒素を含むプロセスガスをプラズマ化することにより、前記成膜部によって堆積された前記成膜材料の粒子を窒化させる窒化処理部であることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体やディスプレイあるいは光ディスクなど各種の製品の製造工程において、例えばウェーハやガラス基板等のワーク上に、保護膜や導電膜、機能膜、光学膜等の薄膜を成膜することがある。薄膜は、ワークに対して金属等の膜を形成する成膜や、形成した膜に対してエッチング、酸化又は窒化等の膜処理を繰り返すことによって、作成することができる。
【0003】
成膜及び膜処理は様々な方法で行うことができるが、その一つとして、プラズマ処理による方法がある。成膜では、例えば、膜となる材料からなるターゲットを配置した真空容器であるチャンバ内にスパッタガスを導入し、ターゲットに電圧を印加する。スパッタガスが電離してプラズマ化することで生じるスパッタガスのイオンをターゲットに衝突させ、ターゲットから叩き出された材料をワークに堆積させて成膜を行う。膜処理では、電極を配置したチャンバ内にプロセスガスを導入し、電極に電圧を印加する。プラズマ化したプロセスガスのイオンをワーク上の膜に衝突させることによって膜処理を行う。
【0004】
このような成膜と膜処理(以下、両者を含めてプラズマ処理とする)を連続して行えるように、一つのチャンバの内部に回転テーブルを取り付け、チャンバの天井、つまり回転テーブルの上方の周方向に、成膜部と膜処理部を複数配置した成膜装置がある(例えば、特許文献1参照)。これにより、ワークを回転テーブル上に保持して搬送し、成膜部と膜処理部の直下を通過させることによって、さまざまな膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-3152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような成膜装置は、チャンバ内に、プラズマ処理を行う空間である処理室を有する。この処理室の一部は、例えば、チャンバの天井から回転テーブルに向かって延びるシールド部材(内壁部)によって筒状に処理領域を囲うようにして構成される。シールド部材は、ターゲットからの成膜材料が飛散してチャンバ内壁へ付着したり、導入されるスパッタガスやプロセスガス(以下、両者を含めて反応ガスとする)が各処理室から流出する等を防ぐために設けられる。
【0007】
シールド部材のチャンバの天井とは反対側は開口しており、その縁部は、ワークの通過を許容するために、回転テーブル上に保持されるワークに、隙間を空けて近接している。例えば、シールド部材の縁部と、ワークとの間に、数mm程度の隙間が形成されるように設定される。
【0008】
しかしながら、この隙間と、回転する回転テーブルや搬送されるワークの移動により発生するシールド部材の内部と外部との間での反応ガスの流れなどから、反応ガスの漏れを完全に防ぐことはできない。
【0009】
また、単位時間当たりの成膜量である成膜レートを向上させたり、複数種の材料によるプラズマ処理を行うために、複数の処理室を設ける場合もある。このように、処理室が複数存在すると、複数の処理室の間での圧力差が存在する。このため、隣接する処理室のうち、一方の処理室の反応ガスが他方の処理室に流入したり、他方の処理室の反応ガスが一方の処理室に流入したりすることにより、反応ガスの混入が生じる。このような混入が生じると、成膜される膜の材質の面内での均一性が損なわれる場合が生じる。
【0010】
処理室からチャンバ内に漏れ出た反応ガスは、処理室から離れるほど拡散してしまい、他の処理室に混入しやすいが、これを排気しようとしても、処理室以外のチャンバ内の空間は、スムーズな排気が難しい形状であったり、広範囲に亘っていたりして、排気箇所の数を多くしたり、排気領域を拡大しなければならず、効率の良い排気は難しい。
【0011】
本発明の実施形態は、上述のような課題を解決するために提案されたものであり、処理部間での反応ガスの混入を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本実施形態の成膜装置は、内部を真空とすることが可能なチャンバと、前記チャンバ内に設けられ、回転することにより円周の搬送経路に沿ってワークを循環搬送する回転テーブルと、前記回転テーブルにより搬送される前記ワークに対して、導入された反応ガスをプラズマ化することによりプラズマ処理を行う複数の処理部と、前記処理部に設けられ、前記反応ガスが導入されてプラズマ処理が行われる処理空間を画成し、前記回転テーブルに非接触で対向する開口を有する内壁部と、前記内壁部の周囲を間隔を空けて覆い、前記回転テーブルに非接触で対向する開口を有し、前記開口と反対側が塞がれた排気空間を形成する外壁部と、前記排気空間に連通し、前記内壁部の前記開口と前記回転テーブルとの隙間から漏れ出す反応ガスを吸引して、前記チャンバ外に排気する排気装置に接続された排気口と、を有し、少なくとも1つの前記処理部は、前記ワークに、スパッタリングにより成膜材料を堆積させて膜を形成する成膜部であり、前記外壁部の両側端が前記チャンバの側面に接し、前記内壁部の外周の一部と前記チャンバの側面との間が仕切られることにより、前記排気空間には、前記反応ガスが循環しない両端が形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、処理部間での反応ガスの混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る成膜装置の構成を模式的に示す透視平面図である。
図2図1中のA-B線断面図であり、成膜装置の側面から見た内部構成図である。
図3図1中のA-C線断面図であり、成膜装置の側面から見た内部構成図である。
図4】窒化処理部を示す透視平面図(A)、(A)のD-D線断面図(B)である。
図5】実施形態に係る成膜装置による処理のフローチャートである。
図6】実施形態の変形例を模式的に示す透視平面図(A)、(A)のE-E線断面図(B)である。
図7】排気口を一つとした変形例であって、図4(A)の態様を示す透視平面図(A)、図6(A)の態様を示す透視平面図(B)である。
図8】排気空間内において、排気口に近い領域と排気口と遠い領域における内壁部から漏れ出したプロセスガスの流れを示す窒化処理部の透視平面図である。
図9】外壁部を第2の外壁部で覆うことで形成されるバッファ空間を設けた変形例を示す断面図である。
図10】成膜部に第2の外壁部およびバッファ空間を設けた変形例であって、変形例に係る成膜装置の構成を模式的に示す透視平面図(A)、(A)のF-F線断面図(B)である。
図11】排気空間の開口にマスクを設けた変形例であって、窒化処理部を示す透視平面図(A)、(A)のH-H線断面図(B)である。
図12】外壁部の形状を内壁部の形状と同じ形状とした変形例であって、図4(A)の態様を示す透視平面図である。
図13】内壁部の形状を外壁部の形状と同じ形状とした変形例であって、図4(A)の態様を示す透視平面図(A)、内壁部、外壁部および仕切板の斜視図(B)である。
図14】窒化処理部に隣接する2つの成膜部に排気空間を設けた変形例に係る成膜装置の構成を模式的に示す透視平面図である。
図15】排気空間内に仕切板を設けた変形例であって、仕切板が一つの場合の図4(A)の態様を示す透視平面図(A)、仕切板が複数の場合の図4(A)の態様を示す透視平面図(B)である。
図16】外壁部の高さを低くした変形例であって、図4(B)の態様を示す透視平面図である。
図17】排気空間の開口が搬送経路の上流側と下流側で開口の大きさが異なっている変形例であって、図4(A)の態様を示す透視平面図である。
図18】排気口と排気装置との間にコンダクタンスバルブを設けた変形例であって、図4(A)の態様を示す透視平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本開示の様々な実施形態について詳記する。下記の詳細な説明において、本開示を十分に理解できるように多くの具体的な詳細が与えられる。しかしながら、このような詳細な説明なしに当業者が本開示を成し得ることは自明な事項である。他の例では、様々な実施形態を分かりにくくすることを避けるために、公知の方法、手順、システムや構成要素については詳しく示していない。なお、図面は模式図であって、各部のサイズ、比率等は、理解を容易にするために誇張している部分を含んでいる。なお、図面は模式図であって、各部のサイズ、比率等は、理解を容易にするために誇張している部分を含んでいる。
[概要]
図1図3に示す成膜装置1は、回転テーブル31により搬送されるワーク10に対して、導入された反応ガスをプラズマ化することによりプラズマ処理を行う複数の処理部PUを備える。そして、少なくとも1つの処理部PUが、ワーク10に、スパッタリングにより成膜材料を堆積させて膜を形成する成膜部40である。本実施形態では、成膜装置1によって、ワーク10上にGaN(窒化ガリウム:Gallium Nitride)膜を形成する例を示す。したがって、成膜部40は、スパッタリングにより、成膜対象であるワーク10上にGaN膜を形成する。また、処理部PUとして、ワーク10に形成された膜をプラズマ処理により窒化する窒化処理部50を有する。本実施形態では、この窒化処理部50に、処理空間59を構成する内壁部511を外壁部61で覆うことにより、2重壁の排気空間60が形成されている。もちろん、成膜部40の処理空間41を内壁部511と外壁部61で覆うことにより、成膜部40に2重壁の排気空間60を構成しても良い。以下の説明では、成膜部40で用いられる反応ガスをスパッタガスG1、窒化処理部50で用いられる反応ガスをプロセスガスG2とする。
【0016】
成膜対象となるワーク10は、例えば、シリコン(Si)ウェーハ、シリコンカーバイド(SiC)ウェーハ、サファイヤ基板、ガラス基板等である。ワーク10は、トレイ11に載置されて搬送される。トレイ11は、回転テーブル31に保持される板体である。
【0017】
成膜装置1は、チャンバ20、搬送部30、成膜部40、窒化処理部50、排気空間60、表面処理部70、移送室80、冷却室90、制御装置100を有する。チャンバ20は内部を真空とすることが可能な容器である。チャンバ20は円柱形状であり、その内部は複数区画に分けられている。成膜部40は、区切部22によって仕切られ、扇状に分割された3つの区画に配置されている。成膜部40が配置される区画以外の区画に、窒化処理部50、表面処理部70が配置されている。
【0018】
成膜部40は、GaNを含む成膜材料から成るターゲット42と、回転テーブル31との間に導入されるスパッタガスG1をプラズマ化するプラズマ発生器P1とを有し、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10に、スパッタリングにより成膜材料の粒子を堆積させて成膜する。
【0019】
窒化処理部50は、回転テーブル31と非接触に配置された内壁部511によって周囲が覆われた処理空間59と、処理空間59に導入される窒素(N)を含むプロセスガスG2をプラズマ化するプラズマ発生器P2とを有し、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10に、成膜部40によって堆積された成膜材料の粒子を窒化させる。
【0020】
ワーク10は、チャンバ20内を周方向に沿って何周も周回することで、成膜部40と窒化処理部50を交互に巡回して通過することになり、ワーク10上でGaN膜の形成と、GaN膜中の不窒化状態のGaの窒化が交互に繰り返されて、所望の厚みのGaN膜が成長していく。
【0021】
なお、ターゲット42としてGaNを含む材料を使用しつつ、さらに窒化処理部50を設け、成膜して形成したGaN膜のGaの窒化をするのは、以下の理由による。すなわち、Gaは融点が低く、常温常圧では液体状態のため、固体のターゲット42とするためには、窒素を含有させる必要がある。
【0022】
ここで、成膜レートを向上させるためには、RF放電よりもDC放電スパッタが好ましい。しかし、ターゲット42に含まれる窒素が多いと、表面が絶縁物となってしまい、このように表面が絶縁物となったターゲット42では、DC放電が生じない場合が生じる。
【0023】
つまり、成膜レートを考慮して、DC放電スパッタを採用しようとすると、GaNのターゲット42に含めることができる窒素量には限界が生じる。したがって、ターゲット42中のGaの窒化は不十分な状態に留まり、GaNを含むターゲット42には、N(窒素)原子との結合が欠損しているGa原子が含まれていることになる。
【0024】
このようなターゲット42を使用して成膜すると、成膜されたGaN膜において窒素含有量が少なく窒素欠陥(不窒化状態)が存在し、膜の結晶性が悪くなり、平坦性が損なわれる。このため、足りない窒素を補填することが必要である。そこで、成膜部40に導入されるスパッタガスに窒素ガスを添加してスパッタリングすることも考えられるが、ターゲット42の表面が窒化され、表面が絶縁物となってしまう。したがって、足りない窒素を補うために、成膜部40はスパッタガスに窒素ガスを添加することはできない。
【0025】
そこで、本実施形態では、成膜部40で成膜されたGaN膜において、足りない窒素を補填するために、成膜部40による成膜後、さらに、窒化処理部50で窒化を行う。このような成膜時の窒化処理の結果、ワーク10上の膜の窒素含有量を増やすことができ、窒素欠陥のないGaN膜を形成することができる。
【0026】
[チャンバ]
図2に示すように、チャンバ20は内部を真空とすることが可能な容器である。チャンバ20は円柱形状であり、その内部は複数区画に分けられている。チャンバ20は、円盤状の天面20a、円盤状の底面20b、及び環状の側面20cにより囲まれて形成されている。区切部22は、円柱形状の中心から放射状に配設された方形の壁板であり、天面20aから底面20bに向けて延び、底面20bには未達である。即ち、底面20b側には円柱状の空間が確保されている。
【0027】
この円柱状の空間には、ワーク10を搬送する回転テーブル31が配置されている。区切部22の下端は、回転テーブル31に載せられたワーク10が通過する隙間を空けて、回転テーブル31におけるワーク10の載置面と対向している。区切部22によって、成膜部40によりワーク10の処理が行われる処理空間41が仕切られる。つまり、成膜部40は、チャンバ20よりも小さい処理空間41を有している。区切部22は、成膜部40のスパッタガスG1がチャンバ20内に拡散することを抑制する。成膜部40においては、チャンバ20よりも小さく仕切られた処理空間41における圧力を調整すれば良いため、圧力調整を容易に行うことができ、プラズマの放電を安定化させることができる。
【0028】
なお、チャンバ20には排気口21が設けられている。排気口21には排気部23が接続されている。排気部23は配管及び図示しないポンプ、バルブ等を有する。排気口21を通じた排気部23による排気により、チャンバ20内を減圧し、真空とすることができる。排気部23は、酸素濃度を低く抑えるため、例えば、真空度が10-4Paになるまで排気する。
【0029】
[搬送部]
搬送部30は、回転テーブル31、モータ32を有する。回転テーブル31は、チャンバ20内に設けられ、回転することにより円周の搬送経路Lに沿ってワーク10を循環搬送する。本実施形態の回転テーブル31は、複数のワーク10を保持して搬送する。回転テーブル31は、チャンバ20内に配置された円盤形状の部材であり、側面20cの内側と接触しない程度に大きく拡がっている。
【0030】
回転テーブル31は、その円中心と同軸の回転軸33に締結部材を介して支持されている。回転軸33は、チャンバ20の底面20bを気密に貫通して、外部に突出している。モータ32は、チャンバ20外に配置され、カップリング部材を介して回転軸33を回転させることにより、回転テーブル31を連続的に所定の回転速度で回転させる。回転テーブル31は、例えば、1~150rpmの速度で回転する。
【0031】
回転テーブル31には、図1に示すように、複数のワーク10が成膜される成膜領域FAが設けられている。成膜領域FAは、図1の2点鎖線で示すように、平面方向から見て、回転テーブル31の回転軸33以外の領域であって、成膜部40及び窒化処理部50に対向する円環状の領域である。成膜領域FAには、個々のワーク10が保持される保持領域HAが、円周方向に等間隔で設けられている。
【0032】
保持領域HAには、溝、穴、突起、治具、ホルダ等の保持部が設けられ、ワーク10を載せたトレイ11をメカチャック、粘着チャックによって保持する。ワーク10は、例えば、トレイ11上に複数配置され、保持領域HAは、回転テーブル31上に60°間隔で6つ配設される。つまり、成膜装置1は、複数の保持領域HAに保持された複数のワーク10に対して一括して成膜することができるため、非常に生産性が高い。なお、トレイ11を省略し、ワーク10を回転テーブル31の保持領域HAに直接保持しても良い。また、図示はしないが、保持領域HAには、ワーク10を加熱する加熱部が設けられている。加熱部は、通電により発熱するヒータ等を用いることができる。さらに、保持領域HAにおけるトレイ11及びワーク10は、それらの上面が、回転テーブル31の上面と、面一となるように配置される。
【0033】
[成膜部]
成膜部40は、プラズマを生成し、成膜材料から構成されるターゲット42を該プラズマに曝す。これにより、成膜部40は、プラズマに含まれるイオンをターゲット42に衝突させることで叩き出されたターゲット42を構成する粒子(以下、スパッタ粒子とする)をワーク10上に堆積させて成膜を行う。成膜部40は、成膜材料から成るターゲット42と回転テーブル31との間に導入されるスパッタガスG1をプラズマ化するプラズマ発生器P1とを有する。
【0034】
プラズマ発生器P1は、図2に示すように、ターゲット42、バッキングプレート43及び電極44で構成されるスパッタ源と、電源部46とスパッタガス導入部49で構成される。
【0035】
ターゲット42は、ワーク10上に堆積されて膜となる成膜材料で構成された板状部材である。ターゲット42は、回転テーブル31に載置されたワーク10の搬送経路Lに離隔して設けられている。ターゲット42の表面は、回転テーブル31に載置されたワーク10に対向するように、チャンバ20の天面20aに保持されている。ターゲット42は、ひとつの成膜部40に対して、一つまたは複数設けられる、本実施形態では、3つ設置され、3つのターゲット42は、平面視で三角形の頂点上に並ぶ位置に設けられている。
【0036】
バッキングプレート43はターゲット42を保持する支持部材である。ターゲット42は、バッキングプレート43を介してチャンバ20の天面20aに保持されている。このバッキングプレート43は各ターゲット42を個別に保持する。電極44は、チャンバ20の外部から各ターゲット42に個別に電力を印加するための導電性の部材であり、ターゲット42と電気的に接続されている。各ターゲット42に印加する電力は、個別に変えることができる。その他、スパッタ源には、必要に応じてマグネット、冷却機構などが適宜具備されている。
【0037】
電源部46は、例えば、高電圧を発生するDC電源であり、電極44と電気的に接続されている。電源部46は、電極44を通じてターゲット42に発生した電力を印加する。尚、回転テーブル31は、接地されたチャンバ20と同電位であり、ターゲット42側に高電圧を印加することにより、ターゲット42と回転テーブル31との間に電位差が発生する。
【0038】
スパッタガス導入部49は、図2に示すように、チャンバ20にスパッタガスG1を導入する。スパッタガス導入部49は、図示しないボンベ等のスパッタガスG1の供給源と、配管48と、ガス導入口47を有する。配管48は、スパッタガスG1の供給源に接続されてチャンバ20を気密に貫通してチャンバ20の内部に延び、その端部がガス導入口47として開口している。本実施形態のスパッタガス導入部49は、処理空間41の圧力が例えば0.3Pa以上、1.0Pa以下となるように、処理空間41にスパッタガスG1を導入する。
【0039】
ガス導入口47は、回転テーブル31とターゲット42との間に開口し、回転テーブル31とターゲット42との間に形成された処理空間41に成膜用のスパッタガスG1を導入する。スパッタガスG1としては希ガスが採用でき、アルゴン(Ar)ガス等が好適である。スパッタガスG1は、窒素(N2)が含まれないガスであり、アルゴン(Ar)単ガスとすることができる。なお、希ガスは、成膜材料の粒子とは反応しない。例えば、スパッタガスG1がAr単ガスであった場合でも、スパッタガスG1は、反応ガスに含まれる。つまり、反応ガスには、自らが他の物質と反応しなくても、他の物質の反応に間接的に寄与するようなガス、例えば希ガスも含まれる。
【0040】
このような成膜部40では、スパッタガス導入部49からスパッタガスG1を導入し、電源部46が電極44を通じてターゲット42に高電圧を印加すると、回転テーブル31とターゲット42との間に形成された処理空間41に導入されたスパッタガスG1がプラズマ化し、イオン等の活性種が発生する。プラズマ中のイオンは、ターゲット42と衝突してスパッタ粒子を叩き出す。
【0041】
また、この処理空間41を回転テーブル31によって循環搬送されるワーク10が通過する。叩き出されたスパッタ粒子は、ワーク10が処理空間41を通過するときにワーク10上に堆積して、スパッタ粒子からなる膜がワーク10上に形成される。ワーク10は、回転テーブル31によって循環搬送され、この処理空間41を繰り返し通過することで成膜処理が行われていく。成膜部40を1回通過する度に堆積する膜の膜厚は、窒化処理部50の処理レートにも依るが、例えば1~2原子レベル(5nm以下)程度の薄膜であると良い。ワーク10が複数回循環搬送されることで、膜の厚みが増し、ワーク10上に所定の膜厚の膜が形成される。
【0042】
本実施形態では、成膜装置1は、複数(ここでは3つ)の成膜部40を備え、成膜部40は、区切部22によって区切られた3つの区画に、それぞれ一つずつ設けられている。複数の成膜部40は、成膜材料を選択的に堆積させることにより、複数の成膜材料の層からなる膜を形成する。特に、本実施形態では、異なる種類の成膜材料に対応するスパッタ源を含み、成膜材料を選択的に堆積させることにより、複数種類の成膜材料の層からなる膜を形成する。異なる種類の成膜材料に対応するスパッタ源を含むとは、すべての成膜部40の成膜材料が異なる場合も、複数の成膜部40で共通の成膜材料であるが、他がこれと異なる場合も含む。成膜材料を1種ずつ選択的に堆積させるとは、いずれか1種の成膜材料の成膜部40が成膜を行う間、他の成膜材料の成膜部40は成膜を行わないことをいう。
【0043】
本実施形態では、2つの成膜部40のターゲット42を構成する成膜材料は、GaとGaNを含む材料であり、ターゲット42はワーク10に堆積させるGa原子を含むスパッタ粒子の供給源となる。ターゲット42は、GaNと、窒素が欠乏した不完全なGaN、すなわちN(窒素)との結合が欠損しているGa原子が含まれている。
【0044】
一つの成膜部40のターゲット42を構成する成膜材料は、Alを含む材料であり、ターゲット42はワーク10に堆積させるAl原子を含むスパッタ粒子の供給源となる。なお、Ga原子を含むスパッタ粒子、Al原子を含むスパッタ粒子を供給可能なスパッタリング用のターゲット42であれば、Ga、Al、N(窒素)以外を含んでいても許容される。
【0045】
図1に示すように、2種の成膜部40を区別するため、GaとGaNを含む材料で構成されるターゲット42を有する2つの成膜部40を、成膜部40A(GaN成膜部)とし、Alを含む材料で構成されるターゲット42を有する成膜部40を、成膜部40B(Al成膜部)とする。
【0046】
[窒化処理部]
窒化処理部50は、窒素ガスを含むプロセスガスG2が導入された処理空間59内で誘導結合プラズマを生成する。即ち、窒化処理部50は、窒素ガスをプラズマ化して化学種を発生させる。発生した化学種に含まれる窒素原子は、成膜部40によってワーク10上に成膜されたGa原子を含む膜、Al原子を含む膜に衝突して、Ga原子を含む膜中の窒素との結合が欠損しているGa原子、Al原子を含む膜中のAl原子と結合する。これにより、窒素欠陥のないGaN膜やAlN膜を得ることができる。
【0047】
窒化処理部50は、図2に示すように、内壁部511、カバー部512、窓部材52、アンテナ53、RF電源54、マッチングボックス55及びプロセスガス導入部58により構成されるプラズマ発生器P2を有する。
【0048】
内壁部511は、処理空間59の周囲を覆う部材である。つまり、内壁部511は、処理部PUに設けられ、プロセスガスG2が導入されてプラズマ処理が行われる処理空間59を画成し、回転テーブル31に非接触で対向する開口511aを有する。内壁部511は、図1図2に示すように円筒形状である。内壁部511は、一端がチャンバ20の天面20aに設けられた開口21bに嵌め込まれている。内壁部511は、その他端の開口511aが回転テーブル31側に向かうように、チャンバ20の内部空間に突き出ている。但し、内壁部511は、回転テーブル31と非接触である。さらに、内壁部511は、チャンバ20の側面20cに接している。これにより、内壁部511の外周の空間が、チャンバ20の側面20cによって仕切られる。なお、必ずしも内壁部511と側面20cが直接接触する必要はなく、内壁部511の外周とチャンバ20の側面20cとの間に仕切り部材が介在することにより内壁部511の外周の空間が仕切られていても良い。
【0049】
カバー部512は、円筒形状の部材である。カバー部512は、チャンバ20の天面20aの外方、上方に突出するように、一端がチャンバ20の開口21bに合わせて取り付けられている。窓部材52は、カバー部512の水平断面と略相似形の石英等の誘電体の平板である。この窓部材52は、開口21bを塞ぐようにカバー部512の内側に設けられ、チャンバ20内の窒素ガスを含むプロセスガスG2が導入される処理空間59とカバー部512の内部とを仕切る。このとき、処理空間59に酸素が流入することによる酸化を抑制する必要がある。例えば、要求される酸素濃度は、1019(atom/cm)以下と非常に低い。これに対処するため、窓部材52の表面には、コーティングが施されている。例えば、窓部材52の表面にY(酸化イットリウム)によるコーティングを行うことにより、プラズマによる窓部材52の消耗を抑えつつ窓部材52の表面からの酸素放出を抑制して、酸素濃度を低く維持することができる。
【0050】
処理空間59は、窒化処理部50において、回転テーブル31と内壁部511とで囲われて形成される。この処理空間59を回転テーブル31によって循環搬送されるワーク10が繰り返し通過することで窒化処理が行われる。
【0051】
アンテナ53は、コイル状に巻回された導電体であり、窓部材52によってチャンバ20内の処理空間59とは隔離されたカバー部512の内部空間に配置され、交流電流が流されることで電界を発生させる。アンテナ53から発生させた電界が窓部材52を介して処理空間59に効率的に導入されるように、アンテナ53は窓部材52の近傍に配置されることが望ましい。アンテナ53には、高周波電圧を印加するRF電源54が接続されている。RF電源54の出力側には整合回路であるマッチングボックス55が直列に接続されている。マッチングボックス55は、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。
【0052】
プロセスガス導入部58は、図2に示すように、処理空間59に窒素ガスを含むプロセスガスG2を導入する。プロセスガス導入部58は、図示しないボンベ等のプロセスガスG2の供給源と、配管57、ガス導入口56を有する。配管57は、プロセスガスG2の供給源に接続されて、チャンバ20を気密に封止しつつ貫通してチャンバ20の内部に延び、その端部がガス導入口56として開口している。
【0053】
ガス導入口56は、窓部材52と回転テーブル31との間の処理空間59に開口し、プロセスガスG2を導入する。プロセスガスG2としては、希ガスが採用でき、アルゴンガス、窒素ガス等が好適である。また、例えば、プロセスガスG2は、処理空間59内の圧力が、5Paに維持される供給量で供給されることが好ましい。
【0054】
内壁部511によって、窒化処理部50により窒化処理が行われる処理空間59が仕切られる。つまり、窒化処理部50は、チャンバ20よりも小さく、処理空間41と離隔した処理空間59を有している。チャンバ20よりも小さい空間に仕切られた処理空間59における圧力を調整すれば良いため、圧力調整を容易に行うことができ、プラズマの放電を安定化させることができる。
【0055】
このような窒化処理部50では、RF電源54からアンテナ53に高周波電圧が印加される。これにより、アンテナ53に高周波電流が流れ、電磁誘導による電界が発生する。電界は、窓部材52を介して、処理空間59に発生し、プロセスガスG2に誘導結合プラズマが発生する。このとき、窒素原子を含む窒素の化学種が発生し、ワーク10上の膜に衝突することにより、膜を構成する原子と結合する。その結果、ワーク上の膜は窒化され、化合物膜として窒化膜が形成される。
【0056】
このように、窒化処理部50は、窒素ガスをプラズマ化して窒素原子を含む化学種を生成し、ワーク10上に形成された膜と化学反応させることで、化合物膜を生成する機能を有する。窒化処理部50では、プラズマ密度の高い誘導結合プラズマを利用することで、当該プラズマ中の化学種と成膜部40によってワーク10上に形成された膜とを効率的に化学反応させることで化合物膜を生成することが可能である。
【0057】
[排気空間]
少なくとも1つの処理部PUに内壁部511は設けられており、排気空間60は、その内壁部511の周囲を、間隔を空けて覆い、回転テーブル31に非接触で対向する開口61aを有する外壁部61と、内壁部511との2重壁によって形成され、開口61aと反対側が塞がれた空間である。このように、内壁部511の外周に設けられる排気空間60に、処理空間59から内壁部511の開口511aと回転テーブル31との隙間を介して漏れ出たプロセスガスG2が流入する。
【0058】
外壁部61は、平面視で、内壁部511を覆うU字形の板状体である(図1参照)。外壁部61は、内壁部511の回転軸33側の面(側面20cと反対側)に沿うように曲がっていて、外壁部61の両側端が、チャンバ20の側面20cに接している。外壁部61の両側端とは、U字形の両端、つまりU字における開いた側の二つの端部である。その端部の鉛直方向、つまり回転テーブル31の回転平面に直交する方向(回転軸33と平行な方向)の端面である。
【0059】
また、外壁部61は、側面視で、内壁部511を覆う(図2参照)。外壁部61は、その開口61a側の端部が、内壁部511の開口511a側の端部と同じ高さ位置か、または覆う高さ位置となっている。外壁部61の開口61aと反対側は、回転テーブル31の回転平面と平行な板によって塞がれている。但し、外壁部61の上部がチャンバ20の天面20aによって塞がれていても良い。
【0060】
上記のように、内壁部511の周囲の空間を、外壁部61で間隔を空けて覆うことで区画して、排気空間60を形成している。また、内壁部511の一部を、チャンバ20の側面20cに接するようにしている。この接触部分により、排気空間60は、平面視で内壁部511の全周に対して仕切られる。このことにより、排気空間60には、平面視で内壁部511の全周に対してプロセスガスG2が循環しない両端が形成される。より具体的には、内壁部511の周囲に、水平断面がU字形の排気空間60が形成され、チャンバ20の側面20cが排気空間60の両端となる。
【0061】
この図2に示す内壁部511の開口511aと回転テーブル31との間隔d1、外壁部61の開口61aと回転テーブル31との間隔d2は、回転テーブル31の回転を阻害しない間隔である。また、外壁部61の回転テーブル31に向かう端部は、内壁部511の回転テーブル31に向かう端部よりも、回転テーブル31に近い。つまり、外壁部61の下端(開口61a)の方が、内壁部511の下端(開口511a)よりも回転テーブル31に近い位置に設けられている。なお、これには限定されず、間隔d1と間隔d2を等しくしても良い。
【0062】
図4(A)に示すように、排気空間60には、排気口62が設けられている。排気口62は、排気空間60に連通し、内壁部511の開口511aと回転テーブル31との隙間から漏れ出すプロセスガスG2を吸引して、チャンバ20外に排気する排気装置63に接続されている。排気装置63としては、例えば、タービン型の翼をもつ動翼と固定翼とを備え、動翼を高速回転させることにより気流を生じさせるターボポンプを用いることができる。排気口62は複数設けられている。本実施形態の排気口62は、排気空間60の両端に対応するチャンバ20の側面20cの双方に形成されている。排気量は、例えば、300L/min以上であることが好ましい。2つの排気装置63を用いる場合には、それぞれが150L/min以上であれば良い。
【0063】
[表面処理部]
表面処理部70は、回転テーブル31により循環搬送中のワーク10の表面及び成膜部40により堆積された膜の表面を処理する。表面処理部70が行う処理は、成膜部40により膜を堆積する前のワーク10の表面に対する酸化膜除去、又は、ワーク上の形成途中の膜の表面の平坦化である。ワーク10上の形成途中の膜とは、ワーク10上に形成する所望の膜厚の膜に至るまでの膜である。
【0064】
具体的には、窒化処理部50による処理が行われたワーク10上の化合物膜、又は、成膜部40により形成されたワーク10上の膜である。換言すれば、搬送部30は、ワーク10が成膜部40と窒化処理部50と表面処理部70を通過するようにワーク10を循環搬送することにより、表面処理部70が、窒化処理部50による処理が行われたワーク10上の化合物膜にイオンを照射する。あるいは、各部40、50、70の搬送部30による搬送方向において、成膜部40、表面処理部70、窒化処理部50の順で配置されている場合には、搬送部30は、ワーク10が成膜部40と表面処理部70と窒化処理部50を通過するようにワーク10を循環搬送することにより、表面処理部70が、成膜部40により形成されたワーク10上の膜にイオンを照射する。
【0065】
表面処理部70は、成膜部40及び窒化処理部50が配置される区画以外の区画に配置されている。この表面処理部70は、筒形電極71、シールド72、プロセスガス導入部75及びRF電源76とで構成されるプラズマ発生器P3を備える。
【0066】
表面処理部70は、図1及び図3に示すように、チャンバ20の上部から内部にかけて設けられた箱型の筒形電極71を備えている。筒形電極71の形状は特に限定されないが、本実施形態では、平面視で略扇形となっている。筒形電極71は底部に開口部71aを有している。開口部71aの外縁、すなわち筒形電極71の下端は、回転テーブル31上のワーク10の上面に対して、わずかな隙間を介して対向している。
【0067】
筒形電極71は、角筒状であり、一端に開口部71aを有し、他端は閉塞されている。筒形電極71は、開口部71aを有する一端が回転テーブル31に向かうように、チャンバ20の天面20aに設けられた開口21aに絶縁部材71cを介して取り付けられている。筒形電極71の側壁はチャンバ20の内部に延在している。
【0068】
筒形電極71の、開口部71aと反対端には、外方へ張り出すフランジ71bが設けられている。絶縁部材71cが、フランジ71bとチャンバ20の開口21aの周縁との間に固定されることで、チャンバ20の内部を気密に保っている。絶縁部材71cは絶縁性があればよく、特定の材料に限定されないが、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の材料から構成することができる。
【0069】
筒形電極71の開口部71aは、回転テーブル31の搬送経路Lと向かい合う位置に配置される。回転テーブル31は、搬送部30として、ワーク10を搭載したトレイ11を搬送して開口部71aに対向する位置を通過させる。なお、筒形電極71の開口部71aは、平面視で、トレイ11に搭載されたワーク10が収まる大きさである。
【0070】
上述したように、筒形電極71はチャンバ20の開口21aを貫通し、一部がチャンバ20の外部に露出している。この筒形電極71におけるチャンバ20の外部に露出した部分は、図3に示すように、ハウジング71dに覆われている。ハウジング71dによってチャンバ20の内部の空間が気密に保たれる。筒形電極71のチャンバ20の内部に位置する部分、すなわち筒形電極71の側壁の周囲は、シールド72によって覆われている。
【0071】
シールド72は、筒形電極71と同軸の扇形の角筒であり、筒形電極71よりも大きい。シールド72はチャンバ20に接続されている。具体的には、シールド72はチャンバ20の開口21aの縁から立設し、チャンバ20の内部に向かって延びた端部は、筒形電極71の開口部71aと同じ高さに位置する。シールド72は、チャンバ20と同様にカソードとして作用するので、電気抵抗の少ない導電性の金属部材で構成すると良い。シールド72はチャンバ20と一体的に成型しても良く、あるいはチャンバ20に固定金具等を用いて取り付けても良い。
【0072】
シールド72は筒形電極71内でプラズマを安定して発生させるために設けられている。シールド72の各側壁は、筒形電極71の各側壁と所定の隙間を介して略平行に延びるように設けられる。隙間が大きくなりすぎると静電容量が小さくなったり、筒形電極71内で発生したプラズマが隙間に入り込んだりしてしまうため、隙間はできるだけ小さいことが望ましい。ただし、隙間が小さくなり過ぎても、筒形電極71とシールド72との間の静電容量が大きくなってしまうため好ましくない。隙間の大きさは、プラズマの発生に必要とされる静電容量に応じて適宜設定すると良い。なお、図3は、シールド72及び筒形電極71の半径方向に延びる2つの側壁面しか図示していないが、シールド72及び筒形電極71の周方向に延びる2つの側壁面の間も、半径方向の側壁面と同じ大きさの隙間が設けられている。
【0073】
また、筒形電極71にはプロセスガス導入部75が接続されている。プロセスガス導入部75は、配管の他、図示しないプロセスガスG3のガス供給源、ポンプ、バルブ等を有する。このプロセスガス導入部75によって、筒形電極71内にプロセスガスG3が導入される。プロセスガスG3は、処理の目的によって適宜変更可能である。例えば、プロセスガスG3は、アルゴンガスなどの不活性ガス、酸素ガス若しくは窒素ガス、又は、アルゴンガスに加えて酸素ガス若しくは窒素ガスを含んでいても良い。
【0074】
筒形電極71には、高周波電圧を印加するためのRF電源76が接続されている。RF電源76の出力側には整合回路であるマッチングボックス77が直列に接続されている。RF電源76はチャンバ20にも接続されている。RF電源76から電圧を印加すると、筒形電極71がアノードとして作用し、チャンバ20、シールド72、回転テーブル31、及びトレイ11がカソードとして作用する。つまり、逆スパッタのための電極として機能する。このため、上記のように、回転テーブル31、及びトレイ11は導電性を有し、電気的に接続されるように接触している。
【0075】
マッチングボックス77は、入力側及び出力側のインピーダンスを整合させることで、プラズマの放電を安定化させる。なお、チャンバ20や回転テーブル31は接地されている。チャンバ20に接続されるシールド72も接地される。RF電源76及びプロセスガス導入部75はともに、ハウジング71dに設けられた貫通孔を介して筒形電極71に接続する。
【0076】
プロセスガス導入部75から筒形電極71内にプロセスガスG3であるアルゴンガスを導入し、RF電源76から筒形電極71に高周波電圧を印加すると、容量結合プラズマが発生し、アルゴンガスがプラズマ化され、電子、イオン及びラジカル等が発生する。この発生させたプラズマ中のイオンをワーク10上の形成途中の膜に照射する。
【0077】
すなわち、表面処理部70は、一端に開口部71aが設けられ、内部にプロセスガスG3が導入される筒形電極71と、筒形電極71に対して高周波電圧を印加するRF電源76と、を有し、搬送部30が開口部71aの直下にワーク10を搬送して通過させることで、ワーク10上に形成された膜に対してイオンを引き込み、イオン照射が行われる。表面処理部70では、ワーク10上に形成された膜にイオンを引き込むために、ワーク10が載置されるトレイ11と回転テーブル31に負のバイアス電圧が印加される。
【0078】
表面処理部70のような筒形電極71を用いることで、トレイ11や回転テーブル31には高周波電圧を印加しなくとも、これらの部材はアース電位のまま、ワーク10が載置されるトレイ11と回転テーブル31に所望の負のバイアス電圧を印加して、成膜された薄膜にイオンを引き込むことが可能となる。これにより、トレイ11や回転テーブル31に高周波電圧を印加する構造を追加したり、所望のバイアス電圧を得るために、アノードとなる電極の面積とカソードとなる電極を取り囲む他の部材の面積比を考慮したりする必要がなくなり、装置設計が容易となる。
【0079】
このため、ワーク10上の形成途中の膜を平坦化するために、ワーク10を移動させながら成膜とイオン照射を繰り返し行う場合であっても、簡易な構造で、ワーク10上に形成された膜にイオンを引き込むことができる。
【0080】
筒形電極71によって、表面処理部70により表面処理が行われる処理空間74が仕切られる。筒形電極71によって、プロセスガスG3がチャンバ20内に拡散することを抑制できる。つまり、表面処理部70は、チャンバ20よりも小さく、処理空間41、59と離隔した処理空間74を有している。また、筒形電極71を表面処理部70における内壁部511とみなすことができる。表面処理部70に外壁部61を設ける場合、外壁部61がシールド72に接触しないように筒形電極71の周囲を間隔を空けて覆うようにすればよい。この場合、シールド72は、外壁部61と筒形電極71との間に配置される。チャンバ20よりも小さい空間に仕切られた処理空間74における圧力を調整すれば良いため、圧力調整を容易に行うことができ、プラズマの放電を安定化させることができる。なお、上記の成膜部40、窒化処理部50、表面処理部70の並び順及び数は特定のものには限定されない。
【0081】
表面処理部70は、ワーク10が載置されるトレイ11と回転テーブル31に負のバイアス電圧を印加して、ワーク10上に形成された膜にイオンを引き込み、薄膜を平坦化する機能を有する。表面処理部70では、筒形電極71を利用することで、簡易にワーク10上に形成された膜にイオンを引き込み、平坦化を行うことが可能である。
【0082】
[移送室]
移送室80は、ゲートバルブGV1、GV2を介して、ワーク10をチャンバ20に搬入及び搬出するための容器である。移送室80は、図1に示すように、チャンバ20に搬入される前のワーク10が収容される内部空間を有する。移送室80は、ゲートバルブGV1を介してチャンバ20に接続されている。移送室80の内部空間には、図示はしないが、ワーク10を搭載したトレイ11をチャンバ20との間で搬入、搬出するための搬送手段が設けられている。移送室80は、図示しない真空ポンプ等の排気手段によって減圧されており、搬送手段によってチャンバ20の真空を維持した状態で、未処理のワーク10を搭載したトレイ11をチャンバ20内に搬入し、処理済みのワーク10を搭載したトレイ11を、チャンバ20から搬出する。
【0083】
移送室80には、ゲートバルブGV2を介して、ロードロック部81が接続されている。ロードロック部81は、移送室80の真空を維持した状態で、図示しない搬送手段によって、外部から未処理のワーク10を搭載したトレイ11を、移送室80内に搬入し、処理済みのワーク10を搭載したトレイ11を、移送室80から搬出する装置である。なお、ロードロック部81は、図示しない真空ポンプ等の排気手段によって減圧される真空状態と、真空破壊される大気開放状態とが切り替わる。
【0084】
[冷却室]
冷却室90は、チャンバ20内から搬出されたワーク10を冷却する。冷却室90は、移送室80に接続された容器を備え、移送室80から搬出されたトレイ11に搭載されたワーク10を冷却する冷却手段を有する。冷却手段としては、例えば、冷却ガスを吹き付ける吹付部を適用できる。冷却ガスは、例えば、スパッタガスG1の供給源からのArガスを用いることができる。冷却する温度としては、大気中で搬送可能な温度、例えば、30℃とすることが好ましい。なお、移送室80の処理済みワーク10を搭載したトレイ11は、図示しない搬送手段によって、冷却室90に搬入される。
【0085】
[制御装置]
制御装置100は、排気部23、スパッタガス導入部49、プロセスガス導入部58、排気装置63、73、電源部46、RF電源54、76、モータ32、排気装置63、移送室80、ロードロック部81、冷却室90など、成膜装置1を構成する各種要素を制御する。この制御装置100は、PLC(Programmable Logic Controller)や、CPU(Central Processing Unit)を含む処理装置であり、制御内容を記述したプログラムが記憶されている。
【0086】
具体的に制御される内容としては、成膜装置1の初期排気圧力、ターゲット42、アンテナ53及び筒形電極71への印加電力、スパッタガスG1、プロセスガスG2、G3の流量、導入時間、排気流量及び排気時間、成膜時間、表面処理時間、モータ32の回転速度、冷却温度、冷却時間などが挙げられる。これにより、制御装置100は、多種多様な成膜仕様に対応可能である。
【0087】
[動作]
次に、制御装置100により制御される成膜装置1の動作を説明する。なお、以下のように、成膜装置1により成膜を行う成膜方法も、本発明の一態様である。図5は、本実施形態の成膜装置1による成膜処理のフローチャートである。この成膜処理は、ワーク10の上に、AlN膜、GaN膜を交互に積層し、さらにGaN層を形成する処理である。シリコンウェーハやサファイヤ基板は、GaNとの結晶格子が異なるため、直接GaNの膜を形成した場合、GaNの結晶性が低下するという問題がある。このような結晶格子の不整合を解消するため、AlN膜、GaN膜を交互に積層することにより、バッファ層を形成し、このバッファ層の上にGaN層を形成する。これは、例えば、横型のMOSFETやLEDの製造において、シリコンウェーハの上にバッファ層を介して、GaN層を形成する場合に用いることができる。
【0088】
まず、チャンバ20内は、排気部23によって排気口21から排気されて、常に所定の圧力まで減圧されている。また、排気とともに、加熱部が加熱を開始し、回転テーブル31が加熱される(ステップS01)。そして、回転テーブル31が回転を開始することによって、加熱された回転テーブル31からの輻射によってチャンバ20内全体が加熱される。排気とともに加熱することにより、チャンバ20内の水分子や酸素分子などの残留気体の脱離が促進される。これにより、成膜時に残留気体が不純物として混入しにくくなり、膜の結晶性が向上する。Q-Massなどのガス分析装置によってチャンバ20内の酸素濃度が所定値以下になったことを検出した後、回転テーブル31の回転を停止する。
【0089】
ワーク10を搭載したトレイ11が、搬送手段によって、ロードロック部81、ゲートバルブGV2を介して移送室80に搬入され、ゲートバルブGV1を介してチャンバ20内に順次搬入される(ステップS02)。このステップS02においては、回転テーブル31は、空の保持領域HAを、順次、移送室80からの搬入箇所に移動させる。保持領域HAは、搬送手段により搬入されたトレイ11を、それぞれ個別に保持する。このようにして、ワーク10を搭載したトレイ11が、回転テーブル31上の全ての保持領域HAに載置される。
【0090】
再び回転テーブル31が回転を開始するとともに、ワーク10が加熱部によって加熱され、表面処理部70によってワーク10の表面の酸化膜が除去される(ステップS03)。つまり、回転テーブル31の回転によってワーク10は、表面処理部70の下を繰り返し通過する。表面処理部70では、プロセスガス導入部75から筒形電極71内にプロセスガスG3を導入し、RF電源76から筒形電極71に高周波電圧を印加する。高周波電圧の印加によってプロセスガスG3がプラズマ化され、プラズマ中のイオンが開口部71aの下を通過するワーク10の表面に衝突することで、酸化膜が除去される。
【0091】
そして、成膜部40Bと窒化処理部50によるAlN膜の成膜と、成膜部40Aと窒化処理部50によるGaN膜の成膜とを交互に繰り返し行うことによるバッファ層の形成を行う。
【0092】
まず、成膜部40Bと窒化処理部50でワーク10上にAlN膜を成膜する(ステップS04)。即ち、成膜部40Bにおいて、スパッタガス導入部49が、ガス導入口47を通じてスパッタガスG1を供給する。スパッタガスG1は、Alから構成されたターゲット42の周囲に供給される。電源部46はターゲット42に電圧を印加する。これにより、スパッタガスG1をプラズマ化させる。プラズマにより発生したイオンは、ターゲット42に衝突してAl原子を含むスパッタ粒子を叩き出す。
【0093】
未処理のワーク10には、成膜部40Bを通過する際に、表面にAl原子を含むスパッタ粒子が堆積した薄膜が形成される。本実施形態では、成膜部40Bを一回通過する毎に、Al原子1~2個レベルの薄い膜厚で堆積させる。
【0094】
回転テーブル31の回転により成膜部40Bを通過したワーク10は、窒化処理部50を通過し、その過程で薄膜のAl原子が窒化される。即ち、窒化処理部50において、プロセスガス導入部58が、ガス導入口56を通じて窒素ガスを含むプロセスガスG2を窓部材52と回転テーブル31に挟まれた処理空間59に供給する。同時に、排気装置63が排気空間60の排気を開始する。処理空間59内は、プロセスガスG2の供給によって、所定の圧力(例えば、5Pa)の窒素雰囲気が形成される。処理空間59から、内壁部511の開口511aと回転テーブル31との隙間を介して漏れ出たプロセスガスG2は、排気装置63によって排気空間60に吸引されて流入し、排気口62から排気される。これにより、チャンバ20内にプロセスガスG2が流出して成膜部40、表面処理部70に流入することが防止される。
【0095】
RF電源54はアンテナ53に高周波電圧を印加する。高周波電圧の印加により高周波電流が流れたアンテナ53が発生させた電界は、窓部材52を介して、処理空間59に及ぶ。そして、この電界により、この空間に供給された窒素ガスを含むプロセスガスG2を励起させてプラズマを発生させる。プラズマによって発生した窒素の化学種は、ワーク10上のAlの薄膜に衝突することにより、Al原子と結合し、窒化されたAlN膜が形成される。
【0096】
回転テーブル31の回転により窒化処理部50を通過し、AlN膜が成膜されたワーク10は、表面処理部70に向かい、表面処理部70にてAlN膜にイオンが照射される(ステップS05)。すなわち、表面処理部70において、プロセスガス導入部75が、配管を通じてアルゴンガスを含むプロセスガスG3を、筒形電極71と回転テーブル31に囲まれた筒形電極71内の処理空間74に供給する。RF電源76により筒形電極71に電圧を印加すると、筒形電極71がアノードとして作用し、チャンバ20、シールド72、回転テーブル31、及びトレイ11がカソードとして作用し、筒形電極71内の空間に供給されたプロセスガスG3を励起させてプラズマを発生させる。更にプラズマによって発生したアルゴンイオンは、ワーク10上に成膜されたAlN膜に衝突することにより、当該膜における疎の部分に粒子を移動させて、膜表面を平らにする。
【0097】
このように、ステップS04~S05では、稼働している成膜部40Bの処理空間41をワーク10が通過することで成膜処理が行われ、稼働している窒化処理部50の処理空間59をワーク10が通過することで窒化処理が行われる。そして、稼働している表面処理部70の筒形電極71内の空間をワーク10が通過することで、ワーク10上に形成されたAlN膜が平坦化される。なお、「稼働している」とは、各部40、50、70の処理空間においてプラズマを発生させるプラズマ生成動作が行われていることと同義とする。
【0098】
回転テーブル31は、所定の厚みのAlN膜がワーク10上に成膜されるまで、即ちシミュレーションや実験などで予め得られた所定の時間が経過するまで、回転を継続する(ステップS06 Nо)。換言すると、所定の厚みのAlN膜が成膜されるまでの間、ワーク10は成膜部40と窒化処理部50とを循環し続ける。なお、Alを原子レベルの膜厚で堆積させる毎に窒化を行うことが好ましいので、成膜と窒化のバランスをとるため、回転テーブル31の回転速度は、50~60rpmの比較的遅い速度とする。
【0099】
所定の時間が経過したら(ステップS06 Yes)、GaN膜の成膜と窒化処理に移る。具体的には、まず、電源部46によるターゲット42への電圧印加を停止して、成膜部40Bの稼働を停止させる。
【0100】
次に、成膜部40Aと窒化処理部50でワーク10上にGaN膜を成膜する(ステップS07)。そして、GaN膜の平坦化を行う(ステップS08)。即ち、成膜部40Aにおいて、スパッタガス導入部49によるGaとGaNから構成されたターゲット42の周囲へのスパッタガスG1の供給、電源部46によるターゲット42への電圧の印加により、スパッタガスG1をプラズマ化させる。プラズマにより発生したイオンは、ターゲット42に衝突してGa原子を含むスパッタ粒子を叩き出す。
【0101】
これによりAlN膜の表面に、Ga原子を含むスパッタ粒子が堆積した薄膜が形成される。本実施形態では、成膜部40Aを一回通過する毎に、Ga原子1~2個レベルの薄い膜厚で堆積させる。
【0102】
回転テーブル31の回転により成膜部40Aを通過したワーク10は、窒化処理部50を通過し、その過程で薄膜のGa原子が窒化される。即ち、窒化処理部50において、プロセスガス導入部58が、ガス導入口56を通じて窒素ガスを含むプロセスガスG2を窓部材52と回転テーブル31に挟まれた処理空間59に供給して、処理空間59内を所定の圧力の窒素雰囲気とする。同時に、排気装置63が排気空間60の排気を開始する。内壁部511と回転テーブル31との隙間を介して、処理空間59から流出したプロセスガスG2は、排気空間60に吸引されて流入し、排気装置63によって排気口62から排気される。これにより、チャンバ20内にプロセスガスG2が流出して、成膜部40、表面処理部70に流入することが防止される。
【0103】
高周波電圧の印加により高周波電流が流れたアンテナ53が発生させた電界は、窓部材52を介して、処理空間59に発生する。そして、この電界により、この空間に供給された窒素ガスを含むプロセスガスG2を励起させてプラズマを発生させる。プラズマによって発生した窒素の化学種は、ワーク10上のスパッタ成膜された窒素が欠乏しているGaN(不窒化状態)の薄膜に衝突することにより、Ga原子と結合し、十分に窒化されたGaN膜が形成される。
【0104】
回転テーブル31の回転により窒化処理部50を通過し、GaN膜が成膜されたワーク10は、表面処理部70に向かい、表面処理部70にてGaN膜にイオンが照射される(ステップS08)。ワーク10上に成膜されたGaN膜にイオンが衝突することにより、当該膜における疎の部分に粒子を移動させて、膜表面を平らにする。
【0105】
このように、ステップS07~S08では、稼働している成膜部40Aの処理空間41をワーク10が通過することでGaを含む膜の成膜処理が行われ、稼働している窒化処理部50の処理空間59をワーク10が通過することで窒化処理が行われてGaN膜が形成される。そして、稼働している表面処理部70の筒形電極71内の空間をワーク10が通過することで、ワーク10上に形成されたGaN膜が平坦化される。
【0106】
回転テーブル31は、所定の厚みのGaN膜がワーク10上に成膜される時間として、シミュレーションや実験により得られた時間が経過したら、Al膜とGaN膜を積層するため、再びAl膜の成膜に移る。すなわち、所定の時間が経過したら(ステップS09 Yes)、電源部46によるターゲット42への電圧印加を停止して、成膜部40Aの稼働を停止させる。
【0107】
以上のようなAlN膜とGaN膜の形成を、所定の積層数に達するまで繰り返す(ステップS10 Nо)。所定の積層数に達した場合には(ステップS10 Yes)バッファ層の形成を終了する。
【0108】
さらに、バッファ層に重ねて、GaN層を形成する(ステップS11)。このGaN層の形成は、上記のバッファ層におけるGaN膜の形成と同様に行われる。但し、GaN層として設定された所定の厚みとなる時間で成膜を行う。
【0109】
以上のようなバッファ層、GaN層の形成後、成膜されたワーク10が載せられたトレイ11を、搬送手段によって、移送室80を介して冷却室90に搬入し、ワーク10を所定の温度まで冷却した後、ロードロック部81から排出する(ステップS12)。
【0110】
なお、上記の説明では、窒化処理部50や表面処理部70は、バッファ層の成膜中(ステップS04~S11)の間は継続して稼働させるようにしているが、ステップS04~S11の各ステップが終わるごとに、窒化処理部50や表面処理部70の稼働を停止させても良い。この場合は、成膜部40B、成膜部40Aの稼働停止後に、窒化処理部50の稼働を停止させる。これにより、ワーク10に成膜された膜表面も十分な窒化を行うことができ、窒素欠陥のないAlN膜、GaN膜を得ることができる。
【0111】
[効果]
(1)実施形態の成膜装置1は、内部を真空とすることが可能なチャンバ20と、チャンバ20内に設けられ、回転することにより円周の搬送経路Lに沿ってワーク10を循環搬送する回転テーブル31と、回転テーブル31により搬送されるワーク10に対して、導入された反応ガスをプラズマ化することによりプラズマ処理を行う複数の処理部PUと、少なくとも1つの処理部PUに設けられ、反応ガスが導入されてプラズマ処理が行われる処理空間41を画成し、回転テーブル31に非接触で対向する開口511aを有する内壁部511と、内壁部511の周囲を間隔を空けて覆い、回転テーブル31に非接触で対向する開口61aを有し、開口61aと反対側が塞がれた排気空間60を形成する外壁部61と、排気空間60に連通し、内壁部511の開口511aと回転テーブル31との隙間から漏れ出す反応ガスを吸引して、チャンバ20外に排気する排気装置63に接続された排気口62とを有する。
【0112】
また、少なくとも1つの処理部PUは、ワーク10に、スパッタリングにより成膜材料を堆積させて膜を形成する成膜部40であり、外壁部61の両側端がチャンバ20の側面20cに接し、内壁部511の外周の一部とチャンバ20の側面20cとの間が仕切られることにより、排気空間60には、反応ガスが循環しない両端が形成されている。
【0113】
このように、内壁部511と、これを覆う外壁部61との二重の壁の間に、内壁部511に沿う排気空間60が形成されるため、内壁部511と回転テーブル31との間から漏れ出た反応ガスを、排気装置63によって外壁部61の開口61aと回転テーブル31との間を介して排気空間60に即座に吸引して流入させて、排気口62から排気することができる。つまり、内壁部511の開口511aから漏れ出す反応ガスを、内壁部511のほぼ全周から吸引して排気することで、反応ガスがチャンバ20内に流出することを抑制できる。従って、チャンバ20内における他の処理部PUへの反応ガスの混入を防止できる。特に、排気空間60に、反応ガスが循環しない両端を構成することで、排気装置63により排気する領域を狭い範囲に抑えることができ、両端が連通している場合に比べて、排気効率が良い。
【0114】
また、図2に示す内壁部511の開口511aと回転テーブル31との間隔d1、外壁部61の開口61aと回転テーブル31との間隔d2を開け過ぎると、処理空間59内に必要とされる量(圧力)のプロセスガスG2を、処理空間59内に留めておくことができない。反対に、間隔d1、d2を狭めすぎると、外壁部61の回転テーブル31に向かう端部と回転テーブル31が接触し、回転テーブル31の循環搬送を妨げることになる。このため、間隔d1、d2は、処理空間59に供給されたプロセスガスG2を、処理空間59内で、所定の圧力(例えば、5Pa)に維持しつつ、回転テーブル31の回転を阻害しない間隔である。内壁部511から漏れ出たプロセスガスG2は、隣接する排気空間60に吸引されるので、外壁部61の外側には漏れない。つまり、内圧を所定の圧力に維持するようにプロセスガスG2を供給することと、プロセスガスG2を吸引することとをバランスして設定すればよく、間隔d1、d2は、接触しない余裕を持った間隔とすることができる。
【0115】
なお、この間隔d1、d2は、内壁部511、外壁部61の全周に亘る回転テーブル31との間隔である。また、本実施形態では、回転テーブル31とワーク10とが面一であるため、内壁部511及び外壁部61と回転テーブル31との距離は、内壁部511及び外壁部61とワーク10との距離と同義である。ワーク10が回転テーブル31よりも突出している場合には、上記の距離は、ワーク10との距離となる。
【0116】
(2)外壁部61の回転テーブル31に向かう端部は、内壁部511の回転テーブル31に向かう端部よりも、回転テーブル31に近い。このため、内壁部511と回転テーブル31との間から漏れた反応ガスが排気空間60に流入し易くなるとともに、外壁部61によって遮られて、外部への漏れが防止される。また、回転テーブル31が熱により変形しても、外壁部61の外への反応ガスの漏れが防止される。
【0117】
より具体的には、図2に示すように、間隔d1よりも、間隔d2が狭い。例えば、間隔d1は10mm以下、間隔d2は5mm以下として、両者の差を5mm~1mmとすることが好ましい。間隔d2が、間隔d1よりも狭い場合、間隔d2を反応ガスが通過する際のコンダクタンスが間隔d1を反応ガスが通過する際のコンダクタンスより小さい。このため、d1>d2であれば、反応ガスが外壁部より漏れにくくなる。したがって、反応ガスの吸引を弱くすることができる。これは、内圧を所定の圧力に維持するための供給ガス量を少なくすることにつながる。すなわち消費ガス量を少なくすることができる。
【0118】
(3)排気口62は、複数設けられている。このため、複数個所からの排気により高速に排気できる。
【0119】
(4)排気口62は、チャンバ20の側面20cに設けられている。このため、処理部PU内の部材や回転テーブル31に邪魔されることなく、短い経路で排気できる。
【0120】
(5)排気口62は、水平断面形状がU字型に形成される排気空間60の両端の双方に設けられている。このため、排気空間60の全体を両端から高速に排気できる。
【0121】
(6)成膜部40の少なくとも1つは、GaNを含む成膜材料から成るターゲット42を有し、処理部PUの少なくとも1つは、処理空間に導入される窒素を含む反応ガスをプラズマ化することにより、成膜部40によって堆積された前記成膜材料の粒子を窒化させる窒化処理部50である。
【0122】
このため、窒化処理部50において窒化処理を行うために、窒素を含むプロセスガスG2を供給することにより、窒化処理部50内のプロセスガスG2の圧力が高くなっても、処理空間59から内壁部511と回転テーブル31との間を介して漏れたプロセスガスG2は、排気空間60に吸引されて、排気口62から排気される。これにより、プロセスガスG2が成膜部40に流入してターゲット42の表面が窒化して絶縁物となり、放電によるプラズマの生成が阻害されることが防止される。また、処理空間59から直接排気するのではなく、処理空間59の外周の排気空間60から排気させるので、処理空間59の圧力を維持し易い。
【0123】
[変形例]
本発明は、上記の実施形態には限定されない。上記の実施形態と基本的な構成は同様として、以下のような変形例も適用可能である。
【0124】
(1)図6に示すように、外壁部61に、複数の通気口61bが設けられ、外壁部61の周囲に、通気口61bを覆うバッファ流路64が設けられていても良い。排気口62は、バッファ流路64に設けられている。バッファ流路64は、図6(A)に示すように、封止部64aを介して排気口62と気密に接続される。排気口62がバッファ流路64に設けられていることにより、排気口62から排気装置63が、バッファ流路64を排気するとともに、バッファ流路64と通気口61bを介して連通している排気空間60を排気できる。そのため、外壁部61の外周から均一にプロセスガスG2を排出させることができる。
【0125】
ここで、バッファ流路64が無い場合の排気空間60内の排気口62に近い領域A1と、排気空間60内の排気口62と遠い領域A2について比較する。図8に示すように、内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出したプロセスガスG2は、すぐに排気装置63によってチャンバ20外に排気される。それに対して、内壁部511から排気口62と遠い領域A2へ漏れ出したプロセスガスG2は、排気空間60内を流れて排気口62に近い領域A1に辿り着く。そのため、内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出したプロセスガスG2の方が、遠い領域A2へ漏れ出したプロセスガスG2よりも、排気装置63によって排気されやすい。すると、処理空間59内のプロセスガスG2分布が不均一になるおそれがある。処理空間59内のプロセスガスG2分布が不均一になるとワーク10に形成された膜の膜質も不均一になるため好ましくない。
【0126】
図6に示すように、排気口62がバッファ流路64に設けられていれば、排気空間60内のプロセスガスG2は通気口61bを介して排気される。そのため、内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出したプロセスガスG2が、排気装置63によって排気されにくくなる。つまり、バッファ流路64が内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出したプロセスガスG2の排気量を少なくする(和らげる)役割を果たす。その結果、排気口62に近い領域A1と排気口62と遠い領域A2に置いて排気されるプロセスガスG2量が等しくなり、処理空間59内のプロセスガスG2分布を均一にすることができる。そのため、ワーク10に形成された膜の膜質も均一にすることが可能となる。
【0127】
なお、通気口61bは、貫通孔であれば良い。この場合、貫通孔の直径の大きさは、排気口62に近い領域A1近くでは小さく、排気口62と遠い領域A2近くでは大きくなるようにすることが好ましい。あるいは、排気口62と遠い領域A2近くでは、排気口62に近い領域A1近くに設けられた貫通孔よりも大きな長孔にしても良い。また、貫通孔の形状はスリット状であっても良い。この場合も排気口62に近い領域A1近くの貫通孔よりも排気口62と遠い領域A2近くの貫通孔の方が大きくなるように構成されていることが好ましい。また、通気口61bは、1つの貫通孔あるいはスリット状の孔であっても良い。この場合、貫通孔あるいはスリット状の孔は、排気口62に近い領域A1から排気口62と遠い領域A2へ向かうにつれて孔径が大きくなるように構成されていることが好ましい。なお、この態様に示すように、排気口62は、排気空間60に直接連通している必要はなく、間接的に連通していても良い。
【0128】
例えば、図9に示すように、外壁部61を覆う第2の外壁部65が設けられ、外壁部61を第2の外壁部65で覆うことで形成されるバッファ空間66に排気口62が設けられていても良い。この場合も、内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出したプロセスガスG2の排気量を少なくすることができる。特に、成膜部40に第2の外壁部65および排気口62が設けられたバッファ空間66を設けることが好ましい。窒化処理部50から漏れ出たプロセスガスG2をバッファ空間66にて排気することができるので、窒化処理部50から漏れ出たプロセスガスG2が成膜部40内に入り込んでしまうことを抑制できる。
【0129】
なお、成膜部40に外壁部61および第2の外壁部65並びに排気口62が設けられたバッファ空間66を設ける場合、図10(A)に示すように、区切部22は、平面視で台形状とする。つまり、成膜部40において区切部22を内壁部511とみなすことができる。図10(B)に示すように、窒化処理部50から漏れ出たプロセスガスG2をバッファ空間66にて排気することができるので、窒化処理部50から漏れ出たプロセスガスG2が成膜部40内に入り込んでしまうことを抑制できる。なお、区切部22が図1に示すような方形の壁板で有った場合、外壁部61を内壁部511とみなし、第2の外壁部65を外壁部61とみなすことで、排気空間60を形成することができる。
【0130】
また、図11(B)に示すように、内壁部511の開口511aと外壁部61の開口61aとによって形成される排気空間60の開口60aに、マスク68が設けられても良い。マスク68は、図11(A)に示すように、複数の貫通孔68aを有する。貫通孔68aの直径は、排気口62に近い領域A1から、排気口62と遠い領域A2に向かって大きくすることが好ましい。このようにすることで、内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出したプロセスガスG2が、排気装置63によって排気されにくくなる。その結果、排気口62に近い領域A1と排気口62と遠い領域A2において排気されるプロセスガスG2量が等しくなり、処理空間59内のプロセスガスG2分布を均一にすることができる。
【0131】
また、図12に示すように、外壁部61は、平面視においてC字形状としても良い。上記の実施形態では、図8に示すように、内壁部511から排気口62に近い領域A1と排気口62と遠い領域A2との間に、内壁部511と外壁部61との間隔が狭まった領域A3が存在する。間隔が狭まった領域A3が存在すると、領域A3におけるコンダクタンスが小さくなり、排気空間60内のプロセスガスG2が流れにくくなる。図12に示すように、外壁部61を平面視においてC字形状とすることで、内壁部511と外壁部61との間隔が一定となる。その結果、排気空間60内にコンダクタンスが小さくなる部分が存在しなくなり、排気空間60内のプロセスガスG2を排気装置63によってチャンバ20外に排気しやすくなる。つまり、外壁部61は、内壁部511の形状と同じ形状とすれば良い。
【0132】
なお、図12で黒く塗りつぶした部分のように、排気口62の近くに内壁部511と外壁部61との間隔が一定とならない部分が生じる。この場合、排気空間60の開口60aの黒く塗りつぶした部分に対応する部分にマスク68を設けるようにすれば良い。このようにすることで、排気口62に近い領域A1と排気口62と遠い領域A2において排気されるプロセスガスG2量が等しくなり、処理空間59内のプロセスガスG2分布を均一にすることができる。
【0133】
また、内壁部511の外形を外壁部61の外形と同じ形状として内壁部511と外壁部61との間隔が一定となるようにしても良い。例えば、図13(B)に示すように、内壁部511に内壁部511と外壁部61との間隔が一定となるための仕切板67aを設けるようにすれば良い。なお、図13(B)では、煩雑になることを避けるため、チャンバ20、排気口62、排気装置63の図示を省略している。内壁部511に仕切板67aを設けることで、図13(A)に示すように、内壁部511、仕切板67aおよびチャンバ20に囲まれた排気空間69が形成される。排気空間69が形成されることで、内壁部511から排気口62に近い領域A1へ漏れ出すプロセスガスG2の一部が、排気空間69に流入する。排気空間69に流入したプロセスガスG2は、その一部が排気空間60へと流入した後、排気装置63にてチャンバ20外へ排気される。したがって、排気口62に近い領域A1と排気口62と遠い領域A2において排気されるプロセスガスG2量が等しくなり、処理空間59内のプロセスガスG2分布を均一にすることができる。
【0134】
(2)排気口62は、排気空間60の両端の少なくとも一方に設けられていれば良い。例えば、図7(A)に示すように、排気空間60の一端に、排気口62を設けても良いし、図7(B)に示すように、バッファ流路64の一端に、排気口62を設けても良い。
【0135】
また、図14に示すように、窒化処理部50に隣接する成膜部40に排気空間60を設ける場合、区切部22を内壁部511とみなし、区切部22の周囲を間隔を空けて外壁部61が覆うようにすればよい。この場合、排気口62は、窒化処理部50に近い排気空間60の一端に設けるようにすれば良い。このようにすることで、プロセスガスG2が成膜部40に混入することをより抑制することができる。もちろん、排気空間60の両端に排気口62(排気装置63)が設けられていても良い。
【0136】
(3)排気空間60内に仕切板67が設けられていて複数の区画に分けられ、各区画に排気口62が設けられていても良い。つまり、図15(A)に示すように、排気空間60に少なくとも1つの仕切板67が設けられ、排気空間60の連続した領域に、排気口62が設けられていれば良い。この場合、排気空間60を2つに分けることができるので、1つの排気口62に対する排気する空間の体積が小さくなる。その結果、排気空間60内のプロセスガスG2をより排気しやすくなる。なお、仕切板67は、外壁部61および/または内壁部511に接続されていれば良い。
【0137】
また、図15(B)に示すように、排気空間60内が複数の区画に分けられた場合、排気口62の位置は、排気空間60の上部又はチャンバ20内の外壁部61の側面であっても良い。このようにすることで、1つの排気口62(排気装置63)が排気する空間の体積を小さくすることができるので、排気空間60内のプロセスガスG2をより排気しやすくなる。また、排気口62と遠い領域A2の近くにも排気口62が設けられるので、排気口62に近い領域A1と排気口62と遠い領域A2において排気されるプロセスガスG2量が等しくなり、処理空間59内のプロセスガスG2分布を均一にすることができる。なお、排気装置63は、排気口62に直接接続されていなくても良い。排気口62に接続された配管を介して排気装置63に接続されていても良い。
【0138】
また、図16に示すように、排気空間60の高さが低くても良い。例えば、排気空間60の天井の高さを排気口62の開口上部と同じ高さとする。このようにすることで、排気空間60の体積を小さくすることができるので、排気空間60内のプロセスガスG2を排気口62(排気装置63)がより排気しやすくなる。なお、排気空間60の高さが低い場合、外壁部61は、内壁部511に接続されていれば良い。あるいは、外壁部61の開口61aを下から支持する不図示の部材によって支えるようにしても良い。
【0139】
(4)図17に示すように、排気空間60は、搬送経路Lの上流側と下流側で開口60aの大きさが異なっていても良い。例えば、窒化処理部50においては、内壁部511から漏れ出たプロセスガスG2は、回転テーブル31の回転の影響を受けるため、搬送経路Lの上流側よりも下流側の方が排気空間60から漏れ出るプロセスガスG2が多い。そのため、搬送経路Lの下流側における排気空間60の開口(下流側の開口)60a2の大きさを上流側における排気空間60の開口(上流側の開口)60a1よりも大きくする。下流側の開口60a2を大きくすることで、内壁部511から漏れ出たプロセスガスG2に対して上昇する方向のコンダクタンスを大きくすることができる。その結果、内壁部511から漏れ出たプロセスガスG2は、上昇する量が増加し、排気空間60から漏れにくくなる。したがって、プロセスガスG2が成膜部40に混入することをより抑制することができる。
【0140】
なお、成膜部40に外壁部61を設ける場合、窒化処理部50に隣接する側の排気空間60の開口61aを大きくすることが好ましい。特に、窒化処理部50よりも搬送経路Lの下流側に配置される成膜部40は、上流側の開口61aを大きくすることが好ましい。
【0141】
(5)排気口62と排気装置63との間に、反応ガスの排気量を調節するバルブが設けられていても良い。例えば、図18に示すように、排気口62と排気装置63との間にコンダクタンスバルブ62aを設けても良い。コンダクタンスバルブ62aによって排気空間60内を排気する量を調節することができる。その結果、内壁部511から漏れ出すプロセスガスG2の量も調整することができるので、内壁部511内の処理空間59の圧力を調節することができる。特に、コンダクタンスバルブ62aによって排気空間60内を排気する量を減らすことが好ましい。このようにすることで、少ないプロセスガスG2流量でも処理空間59の圧力を維持することができる。
【0142】
また、搬送経路Lの上流側のコンダクタンスバルブ62aよりも搬送経路Lの下流側のコンダクタンスバルブ62aの開度を大きくしても良い。このようにすることで、下流側の開口60a2の排気量を増やすことができる。したがって、下流側の開口60a2からプロセスガスG2が漏れにくくなる。したがって、プロセスガスG2が成膜部40に混入することをより抑制することができる。
【0143】
この場合、貫通孔68aを有するマスク68あるいは仕切板67aを用いて、内壁部511から排気口62に近い領域A1に漏れ出すプロセスガスG2の量を少なくすることが好ましい。また、図6に示したバッファ流路あるいはバッファ空間を設けることも好ましい。また、内壁部511と外壁部61との間隔が一定となる構造としても良いし、排気空間60の高さを低くしても良い。また、排気空間60の開口60aは、搬送経路Lの上流側と下流側で大きさが異なっていても良い。
【0144】
(6)上記の態様では、表面処理部70をチャンバ20内に設けていたが、チャンバ20の外に、さらに表面処理部を配置しても良い。この表面処理部は、表面処理部70と同様に筒形電極71、RF電源76、プロセスガス導入部75が設けられ、搬入されたワーク10に対して、静止した状態で酸化膜除去処理を行うことができる。この態様では、チャンバ20内でのワーク10への成膜処理中に、チャンバ外で待機中のワーク10の酸化膜除去処理を行うことができるので、チャンバ20内での処理時間を短縮化できる。なお、ワーク10上の形成途中の膜の表面の平坦化を行わない場合、表面処理部70がチャンバ20内にない成膜装置1であっても良い。この場合、表面処理部70がない分、成膜部40および窒化処理部50に外壁部61あるいは外壁部61にバッファ流路64ないし第2の外壁部65を設ける際の設計の自由度が向上する。例えば、装置のフットプリントを増やすこと無く、成膜部40および窒化処理部50に外壁部61あるいは外壁部61にバッファ流路64ないし第2の外壁部65を設けることができる。
【0145】
(7)チャンバ20内に設ける処理部PUの種類や数は、上記の態様には限定されない。例えば、成膜部40の種類や数、窒化処理部50、表面処理部70の種類や数は、上記の態様には限定されない。成膜部40を1つ、2つとしても、4つ以上としても良い。窒化処理部50、表面処理部70を複数としても良い。また、例えば、成膜部40を、成膜部40Aのみとして、GaN膜を形成する成膜装置1として構成しても良い。また、上記の成膜部40に加えて、これと異種のターゲット材による成膜部40を追加しても、同種のターゲット材料による成膜部40を追加しても、窒化処理部50を追加しても良い。窒化処理部50に代えて、ワーク10上に成膜された材料を酸化させる酸化処理部を設けても良い。また、成膜室において、使われる成膜材料(ターゲット)は、GaNやAlに限らず、例えば、Cu、Si等の所望の成膜材料を採用しても良い。
【0146】
(8)成膜や窒化、表面処理などの各処理を行う処理部PUを、ワーク10の循環搬送の経路に対してどのような順序で配置するか、つまり処理部PUの並び順も、適用する処理プロセスに応じて適宜決定することができる。
【0147】
(9)上記の態様に加えて、成膜されたGaN膜に対してn型またはp型不純物(ドーパント)を添加する不純物添加処理部を設けても良い。この場合、循環搬送の経路上に、成膜部、窒化処理部、不純物添加処理部の順に並ぶように配置される。不純物添加処理部は、成膜部40と同様の構成を備える。
【0148】
このような態様では、GaN膜の成膜時に、成膜部40A、窒化処理部50とともに、GaN層にMgイオンを添加したpチャネル(p型半導体)を含む層を成膜することができる。また、GaN膜の成膜時に、成膜部40A、窒化処理部50とともに、GaN層にSiイオンを添加したnチャネル(n型半導体)を含む層を成膜することができる。
【0149】
不純物添加処理部で添加されるn型不純物またはp型不純物は、上記で例示したものには限定されない。例えば、n型不純物としては、GeまたはSnも挙げられる。この場合、不純物添加処理部に設けられるターゲットを構成する成膜材料はSiの代わりにGeやSnを含む成膜材料を適用することができる。
【0150】
[他の実施形態]
本発明の実施形態及び各部の変形例を説明したが、この実施形態や各部の変形例は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述したこれら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明に含まれる。
【符号の説明】
【0151】
1 成膜装置
10 ワーク
11 トレイ
20 チャンバ
20a 天面
20b 底面
20c 側面
21 排気口
21a、21b 開口
22 区切部
23 排気部
30 搬送部
31 回転テーブル
32 モータ
33 回転軸
40、40A、40B 成膜部
41 処理空間
42 ターゲット
43 バッキングプレート
44 電極
46 電源部
47 ガス導入口
48 配管
49 スパッタガス導入部
50 窒化処理部
511 内壁部
511a 開口
512 カバー部
52 窓部材
53 アンテナ
54 RF電源
55 マッチングボックス
56 ガス導入口
57 配管
58 プロセスガス導入部
59 処理空間
60 排気空間
61 外壁部
61a開口
61b 通気口
62 排気口
63 排気装置
64 バッファ流路
70 表面処理部
71 筒形電極
71a 開口部
71b フランジ
71c 絶縁部材
71d ハウジング
72 シールド
74 処理空間
75 プロセスガス導入部
76 RF電源
77 マッチングボックス
80 移送室
81 ロードロック部
80 冷却室
100 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図14
図15
図16
図17
図18