(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137885
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】細胞外小胞分離装置、細胞外小胞含有溶液の分離方法及び細胞外小胞含有溶液
(51)【国際特許分類】
B01D 61/14 20060101AFI20240927BHJP
A61M 1/36 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240927BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20240927BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20240927BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20240927BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B01D61/14 500
A61M1/36 119
B01D69/02
B01D69/00
B01D71/68
B01D63/02
B01D69/08
B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045811
(22)【出願日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2023047834
(32)【優先日】2023-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内藤 孝二郎
(72)【発明者】
【氏名】林 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
(72)【発明者】
【氏名】戒能 美枝
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077BB02
4C077CC06
4C077EE01
4C077KK13
4C077LL05
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4D006PA01
4D006PB09
4D006PB70
4D006PC41
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】本発明は、検体、原料又は体液等から細胞外小胞を選択的に分離、精製又は除去することが可能な細胞外小胞分離装置を提供することを目的とする。
【解決手段】第1の中空糸膜を含有する、第1のモジュールと、第2の中空糸膜を含有する、第2のモジュールと、上記第1のモジュールの内部と、上記第2のモジュールの内部とを連通させる流路Bと、を備え、上記第1の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下であり、上記第2の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP2と、上記P1とが、P2<P1の関係を満たす、細胞外小胞分離装置を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の中空糸膜を含有する、第1のモジュールと、
第2の中空糸膜を含有する、第2のモジュールと、
前記第1のモジュールの内部と、前記第2のモジュールの内部とを連通させる流路Bと、を備え、
前記第1の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下であり、
前記第2の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP2と、前記P1とが、P2<P1の関係を満たす、細胞外小胞分離装置。
【請求項2】
前記P2が、15%以下である、請求項1記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項3】
前記第2の中空糸膜の0.02μm粒子透過率が、5%以下である、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項4】
前記第2の中空糸膜の透水性が、250mL/h/mmHg/m2以上2000mL/h/mmHg/m2以下である、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項5】
前記第1の中空糸膜又は前記第2の中空糸膜が、親水性高分子を含有する、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項6】
前記親水性高分子が繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有し、かつ、前記第1の中空糸膜又は前記第2の中空糸膜の少なくとも一方の表面に存在する、請求項5記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項7】
前記第1の中空糸膜又は前記第2の中空糸膜の主成分が、ポリスルホン系高分子である、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項8】
前記第1の中空糸膜の断面における緻密層の厚みが、1.0μm以上10.0μm以下である、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項9】
前記第1の中空糸膜の透水性が、16000mL/h/mmHg/m2以上30000mL/h/mmHg/m2以下である、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項10】
前記流路B内の空間が、前記第1の中空糸膜の外表面に連通する、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項11】
生体の体液中の細胞外小胞除去用に用いる、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項12】
前記体液が血液である、請求項11記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項13】
前記流路B内の空間が、前記第2の中空糸膜の内表面に連通しており、
液溜まりから導出した被処理液を、前記第1のモジュールの内部に導入する流路Aと、
前記第2のモジュールから導出した透過液と、前記第1のモジュールから導出した非透過液とを混合して、前記液溜まりに導入する流路Dと、を備える、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項14】
敗血症、自己免疫疾患又は慢性肝疾患の治療に用いる、請求項1又は2記載の細胞外小胞分離装置。
【請求項15】
0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下である第1の中空糸膜を用いて細胞外小胞を含有する被処理液を濾過し、前記第1の中空糸膜を透過できる細胞外小胞よりも大きな溶質が濃縮された第1非透過液と、前記第1の中空糸膜を透過できる細胞外小胞よりも大きな溶質が除去された第1透過液とに分離する第1の分離工程と、
0.15μm粒子透過率P2と、前記P1とが、P2<P1の関係にある第2の中空糸膜を用いて前記第1透過液を濾過し、前記第1透過液に含まれる細胞外小胞の全部又は一部が濃縮された第2非透過液と、細胞外小胞よりも小さい溶質を含む第2透過液とに分離する第2の分離工程とを有する、細胞外小胞含有溶液の分離方法。
【請求項16】
ホスファチジルセリン、CD9、CD63、CD81、TyA及びClqからなる群から選ばれる少なくとも1種の表面マーカーを有し、
細胞外小胞の個数濃度が6.0×109個/mL以上、1.4×1012個/mL以下である、細胞外小胞含有溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞分離装置、細胞外小胞含有溶液の分離方法及び細胞外小胞含有溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞が、細胞外小胞と呼ばれる脂質膜に包まれた小胞を放出していることが発見され、細胞外小胞の生物学的な作用が近年注目されている。細胞外小胞には核酸といった情報をもつ物質が内包されており、細胞間の情報のやり取りに使用されている(非特許文献1)。このことは、細胞外小胞が種々の目的で標的物質となりうることを意味する。例えば、基礎医学や基礎生物学の分野での細胞の形質変化に関する研究目的、ヒトから採取した血液等の検体から体内の情報を得る検査もしくは診断目的、ヒトの体内から細胞外小胞を除去し、あるいはヒトの体内に細胞外小胞を投与して体の状態を改善する目的又は治療や老化予防等の目的が挙げられる。
【0003】
細胞外小胞を検体液から選択的に取り出し、患者の体液、特に血液から選択的に除去し、又は原料溶液から精製する効率的な技術が求められている。細胞外小胞の分離又は精製は遠心分離法によって行われるのが一般的であるが、遠心分離法は効率的な方法ではない。その理由としては、バッチ処理になるため連続的な処理ができないこと、1バッチで処理可能な量に限界があること又は遠心力によって細胞外小胞が凝集し、回収率が低くなることが挙げられる。
【0004】
遠心分離法を用いずに細胞外小胞を分離する技術も知られている。例えば、特許文献1では、ヒトから得た体液を、ナノ膜限外濾過濃縮器を用いて濃縮する技術が開示されている。特許文献2では、患者血液を濾過した上で、血液中の細胞外小胞を吸着して除去する技術が開示されている。
【0005】
細胞や細胞断片を含む被処理液中の細胞外小胞を限外濾過膜によって濃縮する場合は、そのまま濾過すると細胞や細胞断片によって限外濾過膜がすぐに目詰まりしてしまう。これを避けるために平膜形状のメンブレンフィルター(精密濾過膜)によって被処理液を濾過し、細胞や細胞断片を除く前処理工程が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-91251号公報
【特許文献2】特表2022-542517号公報
【特許文献3】特開2022-182360号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Genomics,Proteomics&Bioinformatics,(蘭国),2018,Vol.16,p.50-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のナノ膜限外濾過濃縮器を用いた濃縮では、体液中に含まれている、細胞外小胞よりも大きい物質は全て濃縮されてしまう、すなわち細胞外小胞画分を選択的に濃縮することができないという課題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の細胞外小胞を吸着除去するシステムでは、吸着担体の吸着容量が限られるため、細胞外小胞を完全に除去することが難しい上に、吸着担体への非特異的な吸着が避けられず、血液中に含まれる生理機能上必要な物質まで吸着除去されるという課題があった。
【0010】
特許文献3に記載の、メンブレンフィルターによって被処理液を前処理し、分画分子量10万~100万の中空糸膜によって濃縮する方法では、細胞や細胞断片といった数μmスケールの物体と中空糸膜の分画分子量よりも小さい物質を取り除くことができるが、細胞外小胞の分画を選択的に分離できるものではなかった。また、平膜形状のメンブレンフィルターによる前処理では、結局のところメンブレンフィルターがすぐに目詰まりしてしまい、被処理液を多量に処理したり、数時間以上の長時間連続的に処理したりすることができないという課題があった。
【0011】
本発明は上記課題を解決するため、検体、原料又は体液等から細胞外小胞を選択的に分離、精製又は除去することが可能な細胞外小胞分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、粒子透過性の異なる2種類の膜を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、以下の[1]~[16]の通りである。
[1] 第1の中空糸膜を含有する、第1のモジュールと、第2の中空糸膜を含有する、第2のモジュールと、上記第1のモジュールの内部と、上記第2のモジュールの内部とを連通させる流路Bと、を備え、上記第1の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下であり、上記第2の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP2と、上記P1とが、P2<P1の関係を満たす、細胞外小胞分離装置。
[2] 上記P2が、15%以下である、[1]記載の細胞外小胞分離装置。
[3] 上記第2の中空糸膜の0.02μm粒子透過率が、5%以下である、[1]又は[2]記載の細胞外小胞分離装置。
[4] 上記第2の中空糸膜の透水性が、250mL/h/mmHg/m2以上2000mL/h/mmHg/m2以下である、[1]~[3]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[5] 上記第1の中空糸膜又は上記第2の中空糸膜が、親水性高分子を含有する、[1]~[4]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[6] 上記親水性高分子が繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有し、かつ、上記第1の中空糸膜又は上記第2の中空糸膜の少なくとも一方の表面に存在する、[5]記載の細胞外小胞分離装置。
[7] 上記第1の中空糸膜又は上記第2の中空糸膜の主成分が、ポリスルホン系高分子である、[1]~[6]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[8] 上記第1の中空糸膜の断面における緻密層の厚みが、1.0μm以上10.0μm以下である、[1]~[7]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[9] 上記第1の中空糸膜の透水性が、16000mL/h/mmHg/m2以上30000mL/h/mmHg/m2以下である、[1]~[8]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[10] 上記流路B内の空間が、上記第1の中空糸膜の外表面に連通する、[1]~[9]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[11] 生体の体液中の細胞外小胞除去用に用いる、[1]~[10]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[12] 上記体液が血液である、[11]記載の細胞外小胞分離装置。
[13] 上記流路B内の空間が、上記第2の中空糸膜の内表面に連通しており、液溜まりから導出した被処理液を、上記第1のモジュールの内部に導入する流路Aと、上記第2のモジュールから導出した透過液と、上記第1のモジュールから導出した非透過液とを混合して、上記液溜まりに導入する流路Dと、を備える、[1]~[12]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[14] 敗血症、自己免疫疾患又は慢性肝疾患の治療に用いる、[1]~[13]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[15] 0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下である第1の中空糸膜を用いて細胞外小胞を含有する被処理液を濾過し、上記第1の中空糸膜を透過できる細胞外小胞よりも大きな溶質が濃縮された第1非透過液と、上記第1の中空糸膜を透過できる細胞外小胞よりも大きな溶質が除去された第1透過液とに分離する第1の分離工程と、0.15μm粒子透過率P2と、上記P1とが、P2<P1の関係にある第2の中空糸膜を用いて上記第1透過液を濾過し、上記第1透過液に含まれる細胞外小胞の全部又は一部が濃縮された第2非透過液と、細胞外小胞よりも小さい溶質を含む第2透過液とに分離する第2の分離工程とを有する、細胞外小胞含有溶液の分離方法。
[16] ホスファチジルセリン、CD9、CD63、CD81、TyA及びClqからなる群から選ばれる少なくとも1種の表面マーカーを有し、細胞外小胞の個数濃度が6.0×109個/mL以上、1.4×1012個/mL以下である、細胞外小胞含有溶液。
【0013】
また、本発明は、以下の[17]~[30]の通りである。
[17]第1の中空糸膜を含有する、第1のモジュールと、第2の中空糸膜を含有する、第2のモジュールと、上記第1のモジュールの内部と、上記第2のモジュールの内部とを連通させる流路Bと、を備え、上記第1の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下であり、上記第2の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP2と、上記P1とが、P2<P1の関係を満たす、細胞外小胞分離装置。
[18]上記P2が、15%以下である、上記[17]記載の細胞外小胞分離装置。
[19]上記第2の中空糸膜の0.02μm粒子透過率が、5%以下である、上記[17]又は[18]記載の細胞外小胞分離装置。
[20]上記第2の中空糸膜の透水性が、250mL/h/mmHg/m2以上2000mL/h/mmHg/m2以下である、上記[17]~[19]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[21]上記第1の中空糸膜又は上記第2の中空糸膜が、親水性高分子を含有する、上記[17]~[20]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[22]上記親水性高分子が繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有し、かつ、上記第1の中空糸膜及び/又は上記第2の中空糸膜の少なくとも一方の表面に存在する、上記[21]記載の細胞外小胞分離装置。
[23]上記第1の中空糸膜又は上記第2の中空糸膜の主成分が、ポリスルホン系高分子である、上記[17]~[22]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[24]上記第1の中空糸膜の断面における緻密層の厚みが、1.0μm以上10.0μm以下である、上記[17]~[23]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[25]上記第1の中空糸膜の透水性が、16000mL/h/mmHg/m2以上30000mL/h/mmHg/m2以下である、上記[17]~[24]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[26]上記流路B内の空間が、上記第1の中空糸膜の外表面に連通する、上記[17]~[25]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[27]生体の体液中の細胞外小胞除去用に用いる、上記[17]~[26]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[28]上記体液が血液である、上記[27]記載の細胞外小胞分離装置。
[29]上記流路B内の空間が、上記第2の中空糸膜の内表面に連通しており、生体から導出した体液を、上記第1のモジュールの内部に導入する流路Aと、上記第2のモジュールから導出した透過液と、上記第1のモジュールから導出した非透過液とを混合して、上記生体に導入する流路Dと、を備える、上記[17]~[28]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
[30]敗血症、自己免疫疾患又は慢性肝疾患の治療に用いる、上記[17]~[29]のいずれか記載の細胞外小胞分離装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の細胞外小胞分離装置によれば、検体、原料又は体液等から細胞外小胞を選択的に分離、精製又は除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の細胞外小胞分離装置の概略図である。
【
図2】本発明の細胞外小胞分離装置が備える中空糸膜を含有するモジュールの概略図である。
【
図3】本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1のモジュールと第2のモジュールの構成例を示す概略図である。
【
図4】本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1のモジュールと第2のモジュールの構成例を示す概略図である。
【
図5】本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1のモジュールと第2のモジュールの構成例を示す概略図である。
【
図6】本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1のモジュールと第2のモジュールの構成例を示す概略図である。
【
図8】走査型電子顕微鏡を用いて2000倍で観察した実施例1における第1の中空糸膜の断面画像である。
【
図10】
図9を画像解析し、孔径0.5μm以下の孔を削除した画像である。
【
図11】走査型電子顕微鏡を用いて1500倍で観察した実施例1における第1の中空糸膜の内表面画像である。
【
図12】走査型電子顕微鏡を用いて3000倍で観察した実施例1における第1の中空糸膜の外表面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の細胞外小胞分離装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0017】
<細胞外小胞分離装置>
本発明の細胞外小胞分離装置は、第1の中空糸膜を含有する第1のモジュールと、第2の中空糸膜を含有する第2のモジュールと、上記第1のモジュールの内部と、上記第2のモジュールの内部とを連通させる流路Bと、を備える。
【0018】
図1-Aに示す概略図に沿って、本発明の細胞外小胞分離装置の構成を以下説明する。検体、原料又は体液等の被処理液は、第1のモジュール101が含有する第1の中空糸膜により濾過される。第1のモジュールが含有する第1の中空糸膜は、0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上であるため、濾過によって得られる第1のモジュールの透過液(以下「第1透過液」という)は、細胞外小胞を含んでいる。次に、第1透過液は、流路B(103b)を通じて第2のモジュール102へ導かれる。そして、第2のモジュール102が含有する第2の中空糸膜により第1透過液は再度濾過されることで、第2のモジュールの透過液(以下「第2透過液」という)を得る。第2のモジュールが含有する第2の中空糸膜の0.15μm粒子透過率であるP2はP1よりも低いため、第1透過液に含まれている細胞外小胞の全部又は一部は、第2のモジュールにより濾別又は濃縮され、第2透過液には含まれない。
【0019】
すなわち、第1のモジュールによる濾過により、被処理液に含まれ、第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質が濃縮された非透過液(以下「第1非透過液」という)と第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質が除去された第1透過液に分離する第1の分離工程を行うことができる。また、第2のモジュールによる濾過により、第1透過液に含まれる特定の大きさの細胞外小胞の全部又は一部が濃縮された非透過液(以下「第2非透過液」という)と、細胞外小胞よりも小さい溶質又は特定の大きさ以下の細胞外小胞と細胞外小胞よりも小さい溶質を含む第2透過液に分離する第2の分離工程を行うことができる。ここでいう「特定の大きさ」については、後述する細胞外小胞含有溶液の分離方法の記載において述べる。
【0020】
なお、本発明の細胞外小胞分離装置は、細胞外小胞を分離するために、第1のモジュール、第2のモジュール及び流路Bを取り付けたものである。すなわち、本発明の細胞外小胞分離装置は、第1のモジュール、第2のモジュール及び流路Bを備えていればよく、必ずしも一体の機械である必要は無い。例えば、第1のモジュールと第2のモジュールが別個のラックに吊るされた状態でそれらの間を流路Bで連通させる形態でもよい。また、送液方法に限定はなく、重力による送液方法又はポンプ等の送液駆動力を使用した送液方法のいずれでもよい。中でも、装置の操作性向上の目的で送液ポンプを備えていることが好ましい。
【0021】
本発明の細胞外小胞分離装置は、
図1-Bのように、ある液溜まり(例えば生体や細胞培養タンク)から導出した被処理液を、第1のモジュールの内部に導入する流路A(103a)と、第2のモジュールで得られた第2透過液を導出する流路C(103c)を備えていることが好ましい。
【0022】
すなわち、本発明の分離方法は、流路Aによって被処理液を第1のモジュールの内部へ導入する導入工程A、流路Bによって第1透過液を第1のモジュールから第2のモジュールの内部へ移液する移液工程B、流路Cによって第2透過液を第2のモジュールから導出する導出工程Cを含むことが好ましい。
【0023】
「液溜まり」とは、本発明の細胞外小胞分離装置で処理する被処理液が溶液の形態で取り出し可能な状態で貯留されているものを指す。例えば、本発明の細胞外小胞分離装置を、動物体内を循環している体液に対して用いる場合は、液溜まりは生体(特に、ヒトに対して用いる場合は人体)となる。また、本発明の細胞外小胞分離装置を、培養細胞から放出される細胞外小胞に対して用いる場合は、細胞培養上清を採取しそれを貯留しているタンクでもよいし、細胞を培養しているタンクでもよい。
【0024】
さらに、
図1-Cに示すように、上述の流路に加え、第2のモジュールで得られた第2透過液と、第1のモジュールから導出した第1非透過液とを混合して、液溜まりに導入する流路D(103d)とを備えていることがより好ましい。流路Dを備えることで、被処理液から細胞外小胞の全部又は特定の大きさの細胞外小胞を選択的に分離した処理液を得ることができる。
【0025】
すなわち、本発明の分離方法は、流路Cによって第2透過液を第2のモジュールから導出する導出工程Cの後、流路Dによって第1のモジュールから導出した第1非透過液と、第2のモジュールから導出した第2透過液とを混合する混合工程Dをさらに含むことが好ましい。
【0026】
各流路の材質は、取扱いやすさから柔軟性を有する材質であることが好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル、シリコーン又はポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0027】
本発明の細胞外小胞分離装置がポンプを備える場合は、流路A、流路B及び流路Cにそれぞれ1つずつポンプを備えていることが好ましい。
【0028】
モジュールにおける被処理液の濾過方向は、モジュールが含有する中空糸膜の内側から外側又は外側から内側に濾過するいずれの方向でもよい。本発明の細胞外小胞分離装置を、細胞を含む被処理液に対して用いる場合、内表面を被処理液の接触面とし、膜表面に対し平行な流れを形成させつつ、濾過するクロスフロー濾過を行うことで、被処理液の流れにより膜表面の細胞が流されやすくなり、第1の中空糸膜表面への細胞接着を抑制できる。そのため、本発明の細胞外小胞分離装置は、流路B内の空間が、第1の中空糸膜の外表面に連通していることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の細胞外小胞分離装置は、流路B内の空間が、第2の中空糸膜の内表面に連通しており、液溜まりから導出した被処理液を、第1のモジュールの内部に導入する流路Aと、第2のモジュールから導出した透過液と、第1のモジュールから導出した非透過液とを混合して、生体のような液溜まりに導入する流路Dと、を備えることがより好ましい。上述のような構成とすることで、液溜まりから導出した被処理液中から、細胞外小胞の全部又は特定の大きさの細胞外小胞を選択的に分離することができ、かつ、生体に必要な細胞成分又はタンパク質を生体のような液溜まりに戻すことができる。
【0030】
本発明の細胞外小胞分離装置は、細胞を含む被処理液に対して好適に用いることができ、ヒトの体液中、特に血液中に含まれる細胞外小胞除去用に好適に用いることができる。このとき、細胞外小胞の除去率は40%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。これは、血液中からの細胞外小胞除去率が40%以上であると、生体反応に有意な差を認めやすいからである。
【0031】
また、被処理液中の細胞外小胞を、それ以外の物質から選択的に分離するという観点から、タンパク質の回収率は60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく。70%以上がさらに好ましく、75%以上がさらにより好ましく、80%以上が特に好ましい。タンパク質の回収率が60%以上であると、細胞外小胞を含む原料の精製においては、製造コストの低減に繋がる。また、ヒトの体液から細胞外小胞を分離する場合は、生体に有用なタンパク質を回収することで、血漿製剤等により生体に有用なタンパク質を補う量を低減することができる。
【0032】
さらに、上述のようにタンパク質を回収して生体に戻す場合、回収するタンパク質としては、例えば、栄養・代謝物質の運搬及び浸透圧の維持等の働きをするアルブミン又は抗体として働く免疫グロブリン(IgG等)が挙げられる。回収するタンパク質の種類は、疾患に応じて適宜選択すればよいが、アルブミンが好ましい。
【0033】
アルブミンを回収対象とする場合、アルブミンは上述のように生体にとって重要な役割を担っているため、その回収率は、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましく。80%以上がさらに好ましく、85%以上がさらにより好ましく、90%以上が特に好ましい。
【0034】
逆に、検査のために検体液から細胞外小胞を分離したり、細胞外小胞を医薬品成分や化粧品添加物として分離したりする場合には、アルブミンのようなタンパク質は混入していない方が好ましい。この場合、上記アルブミンの回収率に当たるアルブミンの残存率は、20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がさらにより好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0035】
<細胞外小胞含有溶液の分離方法>
本発明の細胞外小胞含有溶液の分離方法として、0.15μm粒子透過率であるP1が50%以上100%以下である第1の中空糸膜を用いて細胞外小胞を含有する被処理液を濾過し、第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質が濃縮された非透過液と、第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質が除去された第1透過液とに分離する第1の分離工程と、0.15μm粒子透過率であるP2と、上記P1とが、P2<P1の関係にある第2の中空糸膜を用いて第1透過液を濾過し、第1透過液に含まれる細胞外小胞の全部又は一部が濃縮された第2非透過液と、細胞外小胞よりも小さい溶質を含む第2透過液とに分離する第2の分離工程を有する分離方法が挙げられる。
【0036】
なお、上記第1のモジュール及び上記第2のモジュールを用い細胞外小胞を分離すればよく、流路構造は前項に記載のものに限定されない。
【0037】
また、本発明の分離方法によって、被処理液に含まれる細胞外小胞のうち、特定の大きさの細胞外小胞を分離することも可能である。被処理液中に存在する細胞外小胞としては、エクソソーム(40~150nm)、マイクロベシクル(50~1000nm)、アポトーシス小胞(500~2000nm)等が挙げられる。中でも、エクソソームとマイクロベシクルは細胞間のコミュニケーションにおいて重要な役割を担っていると言われている。そのため、特定の疾患においてエクソソーム又はマイクロベシクルが除去対象となりうる。
【0038】
上記の通り、細胞外小胞は、少なくとも3種類以上に分類される集団であり、細胞外小胞の大きさは40nm~2μmの範囲に及ぶ。本発明の細胞外小胞含有溶液の分離方法においては、第1の中空糸膜の透過性と第2の中空糸膜の透過性を変更することによって、特定の大きさの細胞外小胞を選択的に分離することができる。
【0039】
より具体的には、以下のように分離する。
【0040】
大きさ40nm~150nmの細胞外小胞(エクソソーム)を選択的に分離したい場合は、まず第1の分離工程において、第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質と150nmより大きな細胞外小胞が濃縮された第1非透過液と、150nm以下の大きさの細胞外小胞を含む第1非透過液とに分離する。次に、第2の分離工程において、第1透過液に含まれる細胞外小胞の全部を濃縮すればよい。
【0041】
別の実施形態として、細胞外小胞のうち、150nm~300nmのもの(マイクロベシクルの一部)を選択的に分離したい場合は、まず第1の分離工程において、第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質と300nmより大きな細胞外小胞が濃縮された第1非透過液と、300nm以下の大きさの細胞外小胞を含む第1非透過液とに分離する。次に、第2の分離工程において、第1透過液に含まれる細胞外小胞の一部、すなわち150nm以上の大きさの細胞外小胞を濃縮すればよい。
【0042】
なお、実際には中空糸膜濾過における溶質の大きさ選択性は完全ではないが、透過液において、透過させることが目的の溶質の膜透過率と、透過させないことが目的の溶質の膜透過率との比が2倍以上であれば、選択的に分離できていると言える。ただし、透過率とは、濾過後の溶質濃度を濾過前の溶質濃度で除して得られた数値である。
【0043】
被処理液から細胞外小胞を除去した溶液は、例えば、細胞外小胞不含培養液として使用できるほか、患者血液から細胞外小胞を除去し、患者へ戻す治療を施す製剤として使用できる。被処理液から分離された細胞外小胞を含む溶液は、細胞外小胞に基づく検査・診断のための検体や、医薬品成分や化粧品添加物等として使用できる。
【0044】
<中空糸膜>
本発明の細胞外小胞分離装置は、少なくとも0.15μm粒子透過率が異なる2種類の中空糸膜が必要である。
【0045】
「粒子透過率」とは、特定の粒子径の粒子が透過する割合を意味する。本明細書における粒子透過率の測定は、後述する「粒子透過率の測定」に記載のとおりポリスチレンラテックス粒子を用いる。
【0046】
細胞外小胞は直径40nm~1μmの分布を有するが、脂質膜構造を有するために柔軟である。そのため、例えば、直径1μmの細胞外小胞でも、1μmよりも小さな孔を透過することができる。本発明者らは、一定以上の0.15μm粒子透過率を有する中空糸膜が所望の細胞外小胞透過性を有することを見出した。
【0047】
すなわち、所望の細胞外小胞透過性を得るために、第1の中空糸膜の0.15μm粒子透過率(以下「P1」という)は50%以上100%以下である必要がある。P1を上述の範囲とした第1の中空糸膜は細胞外小胞の透過性が高く、被処理液(検体液、原料液、体液等)から細胞外小胞を選択的に分離できる。被処理液中に存在する細胞外小胞としては、上述するエクソソーム(40~150nm)、マイクロベシクル(50~1000nm)、アポトーシス小胞(500~2000nm)等が挙げられる。中でも、エクソソームとマイクロベシクルは細胞間のコミュニケーションにおいて重要な役割を担っていると言われている。そのため、特定の疾患においてエクソソーム又はマイクロベシクルが除去対象となりうる。このような観点から、第1の中空糸膜のP1は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、さらには85%以上が好ましい。なお、0.15μm粒子透過率の測定上限は100%であるため、P1は100%以下である。
【0048】
また、マイクロベシクルを分離する目的では、第1の中空糸膜の0.20μm粒子透過率は50%以上が好ましく、55%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。
【0049】
細胞外小胞を含有する被処理液は通常、細胞外小胞を産生する細胞又は血球成分を同時に含有している。血球成分の大きさは、それぞれ、白血球(10μm以上)、赤血球(約7μm)、血小板(約3μm)である。培養細胞は一般的に血小板よりも大きい。血球成分は柔らかく、変形するため、血小板が透過しないように、第1の中空糸膜が阻止可能な粒子の大きさは、2μmよりも小さいことが好ましい。また、第1の中空糸膜の1.00μm粒子透過率は、5%以下がより好ましい。
【0050】
本発明の第2の中空糸膜は、第1の中空糸膜を透過した細胞外小胞と当該細胞外小胞未満の大きさの物質を分離するため、第2の中空糸膜の0.15μm粒子透過率(以下「P2」という)は、P2<P1の関係を満たす必要がある。
【0051】
P1及びP2の好ましい具体的な範囲は分離対象とする細胞外小胞の画分によって異なる。例えば、100nm~1μmのマイクロベシクルを選択的に分離することを意図した場合、P1は90%以上が好ましく、100%がより好ましい。一方で、P2は15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0052】
本発明の細胞外小胞分離装置は、被処理液中の細胞外小胞のほぼ全てを分離する場合、P2は5%以下が好ましい。さらにこの場合、細胞外小胞の漏洩を最小限とするため、第2の中空糸膜の0.02μm粒子透過率は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0053】
粒子透過率を上記範囲とする方法としては、第1の中空糸膜、第2の中空糸膜ともに同様の設計指針に従うことができる。例えば、中空糸膜の紡糸原液組成又は紡糸条件を変更し中空糸膜の表面孔径、膜厚又は緻密層の厚みを調整するといった方法等が挙げられる。
【0054】
本発明の細胞外小胞分離装置に用いる第1の中空糸膜及び第2の中空糸膜は非対称構造であることが好ましい。
【0055】
「非対称構造」とは、一方の表面側の孔径と、他方の表面側の孔径とが異なる構造を意味し、中空糸膜においては、内側表面と外側表面とで孔径が異なることを意味する。非対称構造を有することで、急峻な分画曲線と高い透水性を併せ持つ膜とすることができる。急峻な分画曲線を有するということは、目的物質とそれ以外の物質を高効率で分離できることを意味する。
【0056】
本発明の第1の中空糸膜における内表面の孔径は0.50μm以上、3.00μm以下であることが好ましい。内表面の孔径を上記範囲とすることにより、培養細胞や血小板のような細胞成分の中空糸膜内部への侵入を抑制できる。血球成分の中空糸膜内部への侵入を抑制することによって、細胞、特に血球への刺激が少なくなり、血液適合性が向上するとともに、細胞成分等による目詰まりも抑制され、被処理液中から細胞外小胞を効率良く分離することが可能となる。細胞外小胞透過性及び透水性を向上させる観点から、内表面の孔径は、0.80μm以上がより好ましく、0.90μm以上がさらに好ましく、1.00μm以上が特に好ましく、1.10μm以上が最も好ましい。一方で、血球等細胞成分の侵入をより抑制することができ、中空糸膜の強度をより高める観点から、中空糸膜内表面の孔径は2.50μm以下がより好ましく、2.00μm以下がさらに好ましい。
【0057】
本発明の第2の中空糸膜における内表面の孔径は0.001μm以上0.050μm以下が好ましい。細胞外小胞の漏洩を抑制でき、かつ、好ましいタンパク質回収率を得る観点から、内表面の孔径は、0.005μm以上がより好ましく、0.010μm以上がさらに好ましく、0.020μm以上が特に好ましい。また、0.040μm以下がより好ましく、0.030μm以下がさらに好ましい。
【0058】
中空糸膜内表面の孔径を上記範囲とする方法としては、例えば、紡糸原液中の中空糸膜を構成する主成分の濃度を調整する方法又は中空部を形成するための注入液体(以下「芯液」という)の凝固価を調整する方法等が挙げられる。
【0059】
「主成分」とは、中空糸膜を構成する成分において、質量基準で最も多い成分を意味する。
【0060】
「凝固価」とは、中空糸膜を構成する主成分の濃度が1質量%の溶液50gに対し、芯液を少量ずつ添加し、系内が白濁した時点の芯液の添加質量を表す。
【0061】
本発明の第1の中空糸膜において、外表面の孔径は0.50μm以上10.00μm以下が好ましい。分離性能と透水性を向上する観点から外表面の孔径は0.60μm以上がより好ましい。また、中空糸膜の強度を維持する観点から、外表面の孔径は5.00μm以下がより好ましく、2.00μm以下がさらに好ましく、1.00μm以下が特に好ましく、0.90μm以下が最も好ましい。
【0062】
本発明の第2の中空糸膜において、外表面の孔径は0.01μm以上1.50μm以下が好ましい。分離性能と透水性を向上する観点から外表面の孔径は0.02μm以上がより好ましく、0.03μm以上がさらに好ましい。また、中空糸膜の強度を維持する観点から、外表面の孔径は1.00μm以下がより好ましく、0.80μm以下がさらに好ましい。
【0063】
中空糸膜外表面の孔径を上記範囲とする方法としては、例えば、後述する紡糸時の乾式部において、中空糸膜を構成する主成分に対する貧溶媒蒸気の濃度を調整する方法又は紡糸時の口金温度を調整するといった方法等が挙げられる。
【0064】
本発明の第1中空糸膜において、中空糸膜の製造のしやすさの観点から、中空糸膜外表面の孔径は、中空糸膜内表面の孔径よりも小さいことがより好ましい。
【0065】
一方、本発明の第2の中空糸膜においては、内表面付近の孔によって急峻な分画曲線を得ることが好ましいため、中空糸膜外表面の孔径は、中空糸膜内表面の孔径よりも大きいことがより好ましい。
【0066】
本発明において、中空糸膜表面の孔径は、表面を走査型電子顕微鏡(以下「SEM」という)で観察した像から測定できる。なお、観察倍率は孔を明瞭に観察できれば、適宜変更してもよい。
【0067】
第1の中空糸膜については、例えば、孔径が小さい方の表面は倍率3000倍で確認できる孔について、任意の20μm×20μmの範囲における全ての孔の面積を計測する。計測した孔の総数が50個未満の場合は、計測した孔の総数が50個以上になるまで20μm×20μmの範囲の計測を繰り返して、データを追加する。第1の中空糸膜の孔径が大きい方の表面は、倍率1500倍で確認できる孔について、任意の40μm×40μmの範囲における全ての孔の面積を計測する。計測した孔の総数が50個未満の場合は、計測した孔の総数が50個以上になるまで40μm×40μmの範囲の計測を繰り返して、データを追加する。
【0068】
第2の中空糸膜については、例えば、孔径の小さい方の表面は50000倍で観察できる孔について、任意の1.2μm×1.2μmにおける範囲の全ての孔面積を計算する。孔径の大きい方の表面は倍率3000倍で確認できる孔について、任意の20μm×20μmの範囲における全ての孔面積を計算する。計測した孔の総数が50個以上になるまで計測する。
【0069】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える中空糸膜は、中空糸膜内における緻密層の位置は任意であり、内表面又は外表面のいずれに近い側にあってもよい。
【0070】
「緻密層」とは、第1の中空糸膜においては、中空糸膜の断面を後述する「第1の中空糸膜における緻密層の厚み測定」に記載の方法で観察した際に、孔径0.50μm以上の孔が存在しない領域を意味し、第2の中空糸膜においては、中空糸膜の断面を後述する「第2の中空糸膜における緻密層の厚み測定」に記載の方法で観察した際に、孔面積が0.10μm2以上の孔が存在しない領域を意味する。なお、中空糸膜の分離性能を左右する因子の1つとして緻密層の厚みがある。
【0071】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1及び第2の中空糸膜は、緻密層を有することが好ましい。緻密層を有することにより、分離対象物質の分離に寄与する緻密な領域(緻密層)と、水の透過抵抗が低い孔径の大きい粗大な領域(粗大層)とが存在するため、分離性能と透水性能を両立しやすい。緻密層は中空糸膜の断面のどの位置に存在していても構わない。例えば、中空糸膜の内表面に近い位置に緻密層が存在してもよく、外表面に近い位置、あるいは断面の中央部分に存在してもよい。また、内表面や外表面から連続して緻密層が存在していてもよいし、上述の通り複数存在していてもよい。
【0072】
特に限定はしないが、第1の中空糸膜の素材としてポリスルホン系高分子を用いる場合は、膜構造制御のしやすさ及び製造のしやすさから、第1の中空糸膜の外表面側に緻密層があることが好ましい。また、第2の中空糸膜の素材としてポリスルホン系高分子を用いる場合は、中空糸膜外表面の微細な傷による細胞外小胞の漏洩を防止する観点から、第2の中空糸膜の内表面側に緻密層があることが好ましい。
【0073】
本発明の第1の中空糸膜における緻密層の厚みは、1.0μm以上10.0μm以下が好ましい。緻密層の厚みが上記範囲にあることで、高い透過性と高い分離機能を両立させることが可能であり、被処理液の処理量を増加した場合の濾過圧上昇を抑えることができる。物質の透過抵抗を低減する観点から、緻密層の厚みは7.0μm以下が好ましく、6.5μm以下がさらに好ましく、6.0μm以下がさらにより好ましく、5.5μm以下が特に好ましい。一方で、緻密層は中空糸膜の分離機能を向上させる効果を有するため、一定以上の厚みを有することが好ましい。そのため、緻密層の厚みは1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましく、2.5μm以上が特に好ましい。
【0074】
本発明の第2の中空糸膜は、第1の中空糸膜よりも分離対象が小さいため、緻密層は第1の中空糸膜よりも薄くすることが透水性の観点から好ましい。一方で、緻密層は中空糸膜の分離機能を向上させる効果を有する層であるため、一定以上の厚みを有することが好ましい。そのため、第2の中空糸膜における緻密層の厚みは0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。また、5.0μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.0μm以下がさらに好ましく、1.0μm以下が特に好ましい。
【0075】
本発明における緻密層の厚みは、中空糸膜の長手方向に対して垂直な断面を、SEMを用いて観察し、撮影した画像に対して画像処理ソフトを用いて解析することにより算出できる。観察倍率は、第1の中空糸膜は2000倍、第2の中空糸膜は5000倍で観察する。
【0076】
画像処理ソフトによる解析手順は、以下のようにする。まず、撮影した画像を、構造体部分を明輝度に、それ以外の部分が暗輝度となるように閾値を決めて二値化処理する。次に、中空糸膜内表面又は外表面の接線に対する垂線を引く。そして、第1の中空糸膜においては面積0.2μm2以上、第2の中空糸膜においては面積0.10μm2以上の暗輝度部分が観察されない領域を、それぞれ緻密層とする。面積0.2μm2以上の暗輝度部分が観察されない領域は孔径が0.5μm以上となる孔が観察されない領域を、面積0.10μm2以上の暗輝度部分が観察されない領域は、孔径が0.36μm以上となる孔が観察されない領域を、それぞれ意味する。最後に、観察した断面における緻密層の厚みの平均値を算出する。
【0077】
より具体的には、後述する実施例の「第1の中空糸膜における緻密層の厚み測定」又は「第2の中空糸膜における緻密層の厚み測定」に記載の方法により測定するものとする。
【0078】
緻密層の厚みを上記範囲とする方法としては、例えば、紡糸原液組成又は紡糸時の口金温度で制御する方法等が挙げられる。より具体的には、紡糸原液中の、中空糸膜を構成する主成分の含有量を増やす方法又は高分子量の高分子の添加量を増やすことにより粘度を上昇させる方法が挙げられる。
【0079】
第1の中空糸膜における表面の開孔率が高いほど、透過抵抗が低減し、透水性が向上する観点から、孔径が小さい方の表面の開孔率は、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、孔径が大きい方の表面の開孔率は、20%以上が好ましい。一方で、中空糸膜の強度を維持する観点から、孔径が小さい方の表面の開孔率は、50%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、孔径が大きい方の表面の開孔率は、40%以下が好ましく、35%以下がより好ましい。
【0080】
第2の中空糸膜の孔径が小さい方の表面の開孔率は、細胞外小胞の透過を妨げる観点から、0.5%以上10%以下が好ましい。また、透過性と透水性を両立する観点から、1%以上9%以下がより好ましく、2%以上8%以下がさらに好ましい。また、孔径が大きい方の表面の開孔率は、透水性を向上する観点から、1%以上25%以下が好ましく、2%以上22%以下がより好ましく、3%以上20%以下がさらに好ましい。
【0081】
中空糸膜表面の開孔率は、後述する「第1の中空糸膜表面の開孔率測定」及び「第2の中空糸膜表面の開孔率測定」に記載の方法で算出できる。
【0082】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜及び第2の中空糸膜の内径は150μm以上500μm以下であることが好ましい。被処理液は粘稠であることが多く、中空糸膜内側に被処理液を導入する場合は圧力損失が大きくなるため、第1の中空糸膜の内径は第2の中空糸膜の内径よりも大きい方が好ましい。より具体的には、中空糸膜本数を増やすことなく一定の有効中空糸膜面積を大きくする観点と使用時の圧力損失を低減する観点から、第1の中空糸膜の内径は200μm以上がより好ましく、240μm以上がさらに好ましく、280μm以上が特に好ましい。一方で、中空糸内容積を低減し、モジュールサイズを小さくする観点から、第1の中空糸膜の内径は450μm以下がより好ましく、410μm以下がさらに好ましく、370μm以下が特に好ましい。
【0083】
第2の中空糸膜は、第1の中空糸膜よりも圧力損失の影響が小さいことから、内径は150μm以上がより好ましく、170μm以上がさらに好ましく、180μm以上が特に好ましい。また、装置全体をよりコンパクトにする観点から、内径は400μm以下がより好ましく、350μm以下がさらに好ましく、300μm以下が特に好ましい。
【0084】
中空糸膜の内径を上記範囲とする方法としては、例えば、紡糸時の芯液の吐出量を調整する方法等が挙げられる。
【0085】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜及び第2の中空糸膜の膜厚は20μm以上100μm以下であることが好ましい。膜厚は後述する「内径及び膜厚測定」に記載の方法で算出できる。中空糸膜の強度を向上する観点から、中空糸膜の膜厚は30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、50μm以上が特に好ましい。一方で、物質の透過抵抗を低減する観点から、中空糸膜の膜厚は90μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、70μm以下が特に好ましい。
【0086】
中空糸膜の膜厚を上記範囲とする方法としては、例えば、紡糸時の紡糸原液の吐出量を調整する方法が挙げられる。
【0087】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜及び第2の中空糸膜は、三次元網目構造を有することが好ましい。
【0088】
「三次元網目構造」とは、固形成分が三次元的に網目状に広がっている構造を意味する。三次元網目構造には、網を形成する固形成分に仕切られた孔を有する。
【0089】
本発明の細胞外小胞分離装置を用いて細胞を含有する被処理液、特に血液を処理する場合、第1の中空糸膜は、血球成分への負荷による溶血や血小板等の活性化を抑制する観点から、高い透水性を有することが好ましい。透水性が高い中空糸膜を用いることで、被処理液を濾過する際に必要な圧力を低くすることができ、血液成分への負荷が低減し、短時間での処理も可能となる。透水性は後述する「透水性測定」に記載の方法で算出できる。
【0090】
上記の観点から、第1の中空糸膜の透水性は、16000mL/h/mmHg/m2以上が好ましく、17000mL/h/mmHg/m2以上がより好ましい。一方で、血球への刺激を抑制する観点から、透水性は30000mL/h/mmHg/m2以下が好ましく、25000mL/h/mmHg/m2以下がより好ましい。
【0091】
また、第2の中空糸膜の透水性は、250mL/h/mmHg/m2以上2000mL/h/mmHg/m2以下が好ましい。第1透過液に含まれる細胞外小胞を効率良く分離する観点及び細胞外小胞への物理的刺激を小さくする観点から、第2の中空糸膜の透水性は、270mL/h/mmHg/m2以上がより好ましく、290mL/h/mmHg/m2以上がさらに好ましい。1700mL/h/mmHg/m2以下がより好ましく、1500mL/h/mmHg/m2以下がさらに好ましく、1200mL/h/mmHg/m2以下がさらにより好ましく、1000mL/h/mmHg/m2以下が特に好ましい。
【0092】
本発明の細胞外小胞分離装置は分離膜として中空糸膜を備える。中空糸膜は平膜と比較して、小さな容積のモジュールでも濾過に有効な膜面積を大きくすることが可能で、すなわち、モジュールの小型化が可能である。有効膜面積を大きくすることができる観点から、中空糸膜の断面形状は、円形、十字型又は星型等でもよく、中でも製造のしやすさから円形が好ましい。
【0093】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える中空糸膜は強度の観点から、中空糸膜断面において、楕円状又は雫型状に膜の実部分が欠落した空孔領域であるマクロボイドが観察されないことが好ましい。
【0094】
本発明の細胞外小胞分離装置を、例えば、血液浄化に用いる場合は、血小板の活性化を防ぐ観点から、第1の中空糸膜における内表面の孔の平均深さは、0.15μm以上7.00μm以下であることが好ましい。一般に中空糸膜の内表面の孔径を大きくすると、内表面の孔の深さが深くなり、表面が粗くなる傾向があるため、血球への刺激が大きくなり、血小板が活性化されやすくなる。そのため、血小板活性化抑制の観点から、内表面の孔の平均深さは6.00μm以下がより好ましく、5.00μm以下がさらに好ましく、4.00μm以下が特に好ましい。一方で、細胞外小胞透過性を向上させる観点から、内表面の孔の平均深さは、0.50μm以上がより好ましく、1.00μm以上がさらに好ましく、1.50μm以上が特に好ましい。内表面の孔の平均深さを制御する方法としては、例えば、芯液の凝固価と粘度を調整する方法等が挙げられる。
【0095】
<親水性高分子>
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜又は第2の中空糸膜は、親水性高分子を含有することが好ましい。中空糸膜が親水性高分子を含有する様式としては、例えば、中空糸膜の主成分と混錬した状態、閉じた小胞構造への内包、付着(物理吸着)又は化学固定化等が挙げられる。中でも、付着や化学固定化されていることが好ましい。親水性高分子を中空糸膜に含有させることにより、細胞含有溶液、特に血液中のタンパク質の吸着及び吸着による目詰まりが抑制され、細胞外小胞又はタンパク質透過性を向上させること又は血液の凝固を抑制することができる。
【0096】
「親水性」とは、静電相互作用や水素結合により水分子と相互作用する性質を意味し、水溶性又は非水溶性であっても上記のように水分子と相互作用する高分子を親水性高分子という。
【0097】
「水溶性」とは、25℃の純水中に1000ppm(0.1g/L)以上の割合で溶解する性質を意味し、上記の性質を有する親水性高分子を水溶性の親水性高分子という。水溶性の親水性高分子の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールもしくはポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(以下「PVP」という)、デキストラン硫酸、ポリアクリル酸又はポリエチレンイミンもしくはポリアリルアミン等のイオン性親水性高分子等が挙げられる。
【0098】
非水溶性であっても静電相互作用や水素結合により水分子と相互作用する親水性高分子としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリプロパン酸ビニル、ポリビニルカプロラクタム、ヒドロキシエチルメタクリレート又はメチルメタクリレート等の非イオン性親水性高分子等が挙げられる。上述の親水性高分子は他のモノマーと共重合されていてもよい。
【0099】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜の親水性高分子含有量は、5.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましい。中空糸膜中に親水性高分子が存在することで、中空糸膜の濡れ性が向上し、透水性及び透過性が向上する観点から、第1の中空糸膜の親水性高分子含有量は、6.0質量%以上がより好ましく、7.0質量%以上がさらに好ましく、8.0質量%以上がさらにより好ましく、9.0質量%以上が特に好ましい。一方で、中空糸膜中の親水性高分子含有量が少ないほど使用中の溶出を抑え、中空糸膜の性能変化を抑えることができるため、親水性高分子含有量は、14.5質量%以下がより好ましく、14.0質量%以下が特に好ましい。
【0100】
第2の中空糸膜は、第1の中空糸膜により濾過された第1透過液を第2の中空糸膜で濾過するため、親水性高分子含有量は第1の中空糸膜よりも少なくてもよい。むしろ濾過時の透過抵抗を下げる観点から、親水性高分子含有量は第1の中空糸膜よりも少ないことが好ましい。これらの観点から、第2の中空糸膜の親水性高分子含有量は、0.5質量%以上、6.5質量%以下が好ましい。1.0質量%以上がより好ましく、1.5質量%以上がさらに好ましい。6.0質量%以下がより好ましく、5.5質量%以下がさらに好ましい。
【0101】
中空糸膜中の親水性高分子含有量は、高分子の種類によって測定方法を選定する必要があるが、本明細書中においては元素分析により求めた値を用いる。
【0102】
第1の中空糸膜において、親水性高分子の一部は中空糸膜中において不溶化されていることが好ましい。親水性高分子を不溶化する方法としては、例えば、熱や放射線により架橋する方法が挙げられる。
【0103】
「不溶成分」とは、中空糸膜の主成分に対する良溶媒に溶解しない成分を意味する。例えば、ポリスルホン系高分子を主成分とし、親水性高分子を含有する第1の中空糸膜における不溶成分は、良溶媒であるN,N-ジメチルアセトアミド(以下「DMAc」という)に溶解した際に、溶解せず残存する成分である。また、当該不溶成分は当該親水性高分子を構成する親水性ユニットを含有する。
【0104】
「ユニット」とは、モノマーを重合して得られる単独重合体又は共重合体中の繰り返し単位を意味する。また、静電相互作用や水素結合により水分子と相互作用する性質を有するユニットを親水性ユニットという。例えば、親水性高分子がPVPである場合、親水性ユニットはその繰り返し単位であるビニルピロリドン部分を指す。
【0105】
中空糸膜の乾燥質量に対する不溶成分の質量の割合は、1質量%以上45質量%以下であることが好ましい。親水性高分子の溶出を抑制する観点から、第1の中空糸膜中における不溶成分の割合は、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、6質量%以上が特に好ましく、7質量%以上が最も好ましい。一方で、親水性高分子の架橋度は低い方が、タンパク質や細胞成分の付着抑制効果が高いことから、35質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、15質量以下%が最も好ましい。
【0106】
中空糸膜の素材や溶媒との親和性によって、親水性高分子は適宜選択して構わない。特に限定はしないが、ポリスルホン系高分子の場合、相溶性が高いことからPVPが好適に用いられる。
【0107】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜又は第2の中空糸膜の少なくとも一方の表面に親水性高分子が存在することが好ましい。特に、上述したとおり、中空糸膜の内表面を処理液の接触面として濾過することが好ましいため、少なくとも中空糸膜の内表面に親水性高分子が存在することがより好ましい。
【0108】
中空糸膜表面に親水性高分子が存在することで、より高いタンパク質及び細胞成分付着抑制効果を発揮し、膜の目詰まりや血小板の凝集等の血液凝固が発生しにくくなる。そのため、第1の中空糸膜表面における親水性高分子の割合は40質量%以上が好ましく、45質量%であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。一方で、親水性高分子の割合が多過ぎない方が、使用中に膜表面で高分子の配置が変化し、使用中の中空糸膜の性能変化が抑えられるため好ましい。このような理由から、中空糸膜表面における親水性高分子の割合は70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0109】
中空糸膜表面の親水性高分子の割合はX線光電子分光法(以下「XPS」という)を用いて測定することができる。測定角としては45°で測定する。測定角45°は表面からの深さが数nmまでの領域が検出される。また、値は3箇所の平均値を用いる。例えば、中空糸膜の主成分がポリスルホンであり、親水性高分子がPVPである場合、窒素量(d(原子数%))と硫黄量の測定値(e(原子数%))から、下記式(1)により中空糸膜表面のPVPの割合を算出できる。
PVPの割合(%)=100×(d×111)/(d×111+e×442) ・・・式(1)
【0110】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜又は第2の中空糸膜が含有する親水性高分子は、血液、血漿又は尿等に含まれる生体由来成分、特にタンパク質の付着を抑制する効果(以下「生体適合性」という)を有することが好ましい。また、第1の中空糸膜又は第2の中空糸膜は、複数種の親水性高分子を含有していてもよい。
【0111】
生体適合性を有する高分子とは、血小板付着試験において、その表面への血小板付着数が50個/103μm2以下である高分子を指す。血小板付着試験は、高分子からなる樹脂又は高分子を表面に修飾した高分子フィルム等を用い、後述する実施例の「血小板付着試験」に記載の方法により測定できる。
【0112】
生体適合性を有する親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、PVP等の親水性高分子もしくはそれらの誘導体、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)もしくはその誘導体、2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)もしくはその誘導体又は後述するエステル基を含有する高分子が挙げられる。これらの中でも、化学的に安定であり、pHへの影響も少ないことから、特にエステル基を含有する親水性高分子であることが好ましい。さらにエステル基を含有する親水性高分子の中でも、特に、モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が好ましい。すなわち、本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1の中空糸膜又は第2の中空糸膜は、少なくとも一方の表面に、繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が存在することが特に好ましい。
【0113】
「モノカルボン酸」とは、1つのカルボキシ基と、当該カルボキシ基の炭素原子に結合した炭化水素基からなる化合物、すなわち「R-COOH」(Rは炭化水素基)で表される化合物を意味する。炭化水素基Rは、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでもよいが、合成のしやすさ等の観点から、脂肪族炭化水素基が好ましく、飽和脂肪族炭化水素基がより好ましい。飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基又はn-ヘキシル基等の直鎖構造を有するもの、イソプロピル基やターシャリーブチル基等の分岐構造を有するもの、若しくは、シクロプロピル基又はシクロブチル基等の環状構造を有するもの等が挙げられる。また、脂肪族鎖内にエーテル結合やエステル結合等を含んでいてもよい。これらの中でも、カルボン酸の製造コストの観点から、飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖構造又は分岐構造を有することが好ましく、直鎖構造を有することがより好ましい。
【0114】
炭化水素基Rが芳香族炭化水素基であるモノカルボン酸としては、例えば、安息香酸やその誘導体等が挙げられる。また、炭化水素基Rが飽和脂肪族炭化水素基であるモノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロパン酸又は酪酸等が挙げられる。
【0115】
なお、炭化水素基Rは、水素原子の少なくとも一部が任意に置換されていてもよい。この場合の置換基は、接触によるタンパク質の変性やそれに伴う中空糸膜表面へのタンパク質吸着が起こりにくいことから、無極性基かカチオン性官能基であることが好ましい。
【0116】
炭化水素基Rの炭素数が少ないことは、モノカルボン酸の疎水性を低くし、タンパク質との疎水性相互作用を小さくし、付着を防止する上で好ましい。そのため、Rが脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基の場合の炭素数は、20以下が好ましく、9以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。一方、Rが脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基の場合の炭素数は、1以上であるが、モノカルボン酸の運動性を向上させ、タンパク質の付着をより抑制する観点から、2以上が好ましい。なお、Rが飽和脂肪族炭化水素基の場合、炭素数1の化合物は酢酸、炭素数2の化合物はプロパン酸である。
【0117】
「カルボン酸ビニルエステルユニット」とは、カルボン酸ビニルエステルモノマーを重合して得られる繰り返し単位、すなわち「-CH(OCO-R)-CH2-」(Rは炭化水素基)で表される繰り返し単位を意味する。Rは上記モノカルボン酸についての記載と同様であり、好ましい例等も上記に準じる。
【0118】
さらに、親水性と疎水性のバランスの観点から、「カルボン酸ビニルエステルユニット」は、モノカルボン酸ビニルエステルモノマーを重合して得られる「モノカルボン酸ビニルエステルユニット」であることが好ましい。
【0119】
炭化水素基Rが飽和脂肪族であるモノカルボン酸ビニルエステルユニットの具体例としては、酢酸ビニルユニット、プロパン酸ビニルユニット、ピバル酸ビニルユニット、デカン酸ビニルユニット又はメトキシ酢酸ビニルユニット等が挙げられる。疎水性が強すぎないことが好ましいことから、酢酸ビニルユニット(R:CH3)、プロパン酸ビニルユニット(R:CH2CH3)、酪酸ビニルユニット(R:CH2CH2CH3)、ペンタン酸ビニルユニット(R:CH2CH2CH2CH3)、ピバル酸ビニルユニット(R:C(CH3)3)又はヘキサン酸ビニルユニット(R:CH2CH2CH2CH2CH3)が好ましい例として挙げられる。Rが芳香族であるモノカルボン酸ビニルエステルユニットの具体例としては、安息香酸ビニルユニットやその置換体が挙げられる。
【0120】
中空糸膜表面に存在する親水性高分子の構造を確認する方法として、親水性高分子がモノカルボン酸ビニルエステルユニットである場合を例に示す。それ以外の高分子を親水性高分子として用いた場合は、用いた親水性性高分子特有の分子構造に由来するイオンシグナル等を飛行時間型二次イオン質量分析法(以下「TOF-SIMS」という)及びその他の測定方法を適宜組み合わせて測定する。
【0121】
中空糸膜表面にモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が存在することは、TOF-SIMS測定により確認できる。具体的には、まず、TOF-SIMS測定によって、上記飽和脂肪族モノカルボン酸エステルのカルボン酸イオン由来のピークが検出されるため、その質量(m/z)を分析することによって、モノカルボン酸の構造が明らかとなる。
【0122】
TOF-SIMSによる測定では、例えば、1次イオン種としてBi3++を用い、2次正イオンを検出する場合、m/z=43.01のピークは、C2H3O+、すなわち、酢酸(脂肪族鎖炭素数:1)に相当する。また、m/z=57.03のピークは、C3H5O+、すなわち、プロパン酸(脂肪族鎖炭素数:2)に相当する。具体的には、後述する「TOF-SIMS測定」に記載の方法で測定できる。
【0123】
さらに、XPS測定により中空糸膜表面に存在するモノカルボン酸ビニルエステルの割合を算出できる。XPS測定を行うと、エステル基(COO)由来の炭素のピークがCHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるため、上記カルボン酸がエステル結合を形成していることがわかる。XPSの測定角としては45°で測定した値を用いる。測定角45°で測定した場合、表面からの深さが数nmまでの領域が検出される。
【0124】
エステル基(COO)由来の炭素のピークは、C1sのCHやC-C由来のメインピークから+4.0~4.2eVに現れるピークをピーク分割することによって求めることができる。より具体的には、C1sのピークは、主にCHx,C-C,C=C,C-S由来の成分、主にC-O,C-N由来の成分、π-π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。以上の5つの成分にピーク分割を行い、炭素由来の全ピーク面積に対するエステル基由来のピーク面積の割合を算出することにより、エステル基由来の炭素量(原子数%)を求めることができる。この際、炭素由来の全ピーク面積に対するエステル基由来のピーク面積の割合が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、エステル基は存在しないとする。
【0125】
本発明の細胞外小胞分離装置を、細胞を含有する被処理液、特に血液に用いる場合、血液中のタンパク質は第1の中空糸膜の内部を通過し、血球成分と分離される。また、第2の中空糸膜においても、流路Bを通じて送られてきたタンパク質を含む第1透過液が第2の中空糸膜の内部を通過し、細胞外小胞と分離される。このことから、中空糸膜全体へのタンパク質付着を抑制することが好ましい。
【0126】
そのため、第1の中空糸膜又は第2の中空糸膜全体に親水性高分子が存在することが好ましく、当該親水性高分子が生体適合性を有する親水性高分子であることがより好ましい。上記の観点から、エステル基由来の炭素量(原子数%)は、血液接触表面及び反対側の表面のいずれの表面においても1%以上10%以下が好ましい。また、中空糸膜全体に親水性高分子が存在することは、中空糸膜の断面において、上述したTOF-SIMS測定を実施することで確認できる。
【0127】
生体適合性を有する親水性高分子の重量平均分子量は、タンパク質付着を十分に抑制し、タンパク質透過性をより向上させる観点から、1000以上が好ましく、5000以上がより好ましく、10000以上がさらに好ましく、15000以上がさらにより好ましい。一方、生体適合性を有する親水性高分子の中空糸膜への導入効率の観点から、重量平均分子量は1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましい。なお、生体適合性を有する親水性高分子の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(以下「GPC」という)により測定できる。
【0128】
本発明におけるGPCの測定条件は以下とする。
展開溶媒:0.1M LiNO3 H2O/MeOH=1/1
カラム:東ソー社製「TSK-GEL GMPWXL」
流量:0.5mL/mL
カラム温度:40℃
検出:RI-8010
なお、検量線はAgilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1~1258kDa)を用いて作成したものを用いることとする。
【0129】
特に、製膜後の中空糸膜全体に生体適合性を有する親水性高分子を付与する場合は、中空糸膜の孔径よりも小さく、容易に透過する分子量とすることが好ましい。
【0130】
生体適合性を有する親水性高分子、特にモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、水溶性の親水性ユニットと非水溶性の親水性ユニットからなる共重合体であることが好ましく、非水溶性の親水性ユニットがモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含むことがより好ましい。ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような水溶性の親水性ユニットのみからなる親水性高分子により中空糸膜表面を被覆した場合、タンパク質等の付着抑制効果が不十分な場合がある。これは、中空糸膜表面の親水性が高すぎると、タンパク質の構造が不安定化するために、タンパク質の付着を充分に抑制できないと考えられる。
【0131】
特に、近年では、高分子の周囲の水が注目されている。親水性が高い高分子は、水との相互作用が強く、高分子の周囲の水の運動性が低下する。一方、タンパク質は、吸着水と呼ばれる水によって構造が安定化されていると考えられている。吸着水は、「不凍水」、「中間水」とも呼ばれる状態の水(例えば、高分子学会誌2014年63巻8月号542頁参照)の総称である。そのため、タンパク質の吸着水と高分子の周囲の吸着水の状態が似ている場合、タンパク質の構造は不安定化されず、中空糸膜表面へのタンパク質の付着は抑制できると考えられる。水溶性の親水性ユニットと非水溶性の親水性ユニットからなる共重合体は、使用する親水性基、非水溶性の親水性基及び共重合比率を選択することにより高分子の周囲の吸着水の状態を制御することが可能であり、タンパク質の付着抑制効果をより向上できると考えられる。
【0132】
「水溶性の親水性ユニット」とは、当該ユニットを構成するモノマー単独の、重量平均分子量10000~1000000の重合体が25℃の純水中に1000ppm(0.1g/L)以上の割合で溶解する親水性ユニットを意味する。
【0133】
水溶性の親水性ユニットを構成するモノマーとしては、当該溶解度が10gを超えるモノマーがより好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、ビニルアルコールモノマー、アクリロイルモルホリンモノマー、ビニルピリジン系モノマー、ビニルイミダゾール系モノマー又はビニルピロリドンモノマー等が挙げられる。
【0134】
上記の水溶性の親水性ユニットを構成するモノマーは、これらを2種以上用いてもよい。中でも、カルボキシ基、スルホン酸基を有するモノマーに比べて、親水性が高すぎず、より疎水性の高いモノマーとのバランスが取りやすいことから、アミド結合、エーテル結合、エステル結合を有するモノマーが好ましい。特に、アミド結合を有するビニルアセトアミドモノマー、ビニルピロリドンモノマー又はビニルカプロラクタムモノマーがより好ましい。中でも、重合体の毒性が低いことから、ビニルピロリドンモノマーがさらに好ましい。従って、本発明の中空糸膜の表面に存在する、生体適合性を有する親水性高分子は、親水性ユニットとしてビニルピロリドンユニットをさらに含有することが好ましい。
【0135】
非水溶性の親水性ユニットを構成するモノマーとしては、少なくともモノカルボン酸ビニルエステルが含まれるが、それ以外にはアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はビニル-ε-カプロラクタム等が挙げられる。
【0136】
タンパク質付着をより抑制する観点から、上記水溶性の親水性ユニットと非水溶性の親水性ユニットからなる共重合体の全体における非水溶性の親水性ユニットのモル分率は、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましく、30%以上70%以下がさらに好ましい。このとき、非水溶性の親水性ユニットは、モノカルボン酸ビニルエステルユニットのみでもよく、その他の非水溶性の親水性ユニットを含んでいてもよい。
【0137】
非水溶性の親水性ユニットのモル分率を90%以下とすることにより、共重合体全体における疎水性の上昇を抑制し、タンパク質の付着をより抑制することができる。一方、非水溶性の親水性ユニットのモル分率を10%以上とすることにより、共重合体全体における親水性の上昇を抑制し、タンパク質の構造不安定化・変性を回避し、ひいては付着をより抑制することができる。
【0138】
なお、上記モル分率は、例えば、核磁気共鳴(以下「NMR」という)測定を行い、ピーク面積から算出することができる。ピーク同士が重なる等の理由でNMR測定による上記モル分率の算出ができない場合は、元素分析により上記モル分率を算出してもよい。
【0139】
生体適合性を有する親水性高分子としては、モノカルボン酸ビニルエステルユニットとビニルピロリドンユニットからなる共重合体が特に好ましい。この場合、ビニルピロリドンユニットとモノカルボン酸ビニルエステルユニットとのモル比率は、30:70~90:10が好ましく、40:60~80:20がより好ましく、50:50~70:30がさらに好ましい。
【0140】
上記共重合体におけるユニットの配列としては、例えば、ブロック共重合体、交互共重合体又はランダム共重合体等が挙げられる。これらのうち、共重合体全体で親水性・疎水性の分布が小さいという点から、交互共重合体又はランダム共重合体が好ましい。中でも、合成が容易である点で、ランダム共重合体がより好ましい。
【0141】
なお、必須ではないが、濾過に使用中に中空糸膜から親水性高分子が溶出することを回避する観点から、親水性高分子は化学的な結合によって中空糸膜に固定化されていることが好ましい。固定化する方法については後述する。
【0142】
本発明の細胞外小胞分離装置においては、第1透過液と接触する第2の中空糸膜表面に存在する親水性高分子も中空糸膜の目詰まり防止や細胞外小胞の回収率向上に寄与する。第1透過液を第2の中空糸膜により濾過する際、第1透過液に含まれる細胞外小胞が第2の中空糸膜表面で変性又は表面に付着することを抑制するために親水性高分子が第2の中空糸膜表面に存在していることが好ましい。
【0143】
このような親水性高分子として、上述の生体適合性を有する親水性高分子、特に繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が好ましい。すなわち、繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が、第2の中空糸膜表面に存在する、細胞外小胞分離装置であることが好ましい。これは、繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子は細胞外小胞との物理化学的相互作用が弱く、細胞外小胞の変性を抑制できるからであると考えられる。
【0144】
第1の中空糸膜と第2の中空糸膜では分離対象が異なるため、それぞれの中空糸膜表面に異なる生体適合性を有する親水性高分子が存在していてもよい。本発明の細胞外小胞分離装置は細胞成分(細胞破砕物を含む)、細胞外小胞及びタンパク質等が含まれる被処理液に対して好適に用いられることから、第1の中空糸膜及び第2の中空糸膜表面に存在する生体適合性を有する親水性高分子は、プロパン酸ビニルユニット又は酢酸ビニルユニットをモノカルボン酸ビニルエステルユニットとして含有することがさらに好ましい。
【0145】
中空糸膜を構成する主成分の素材としては、非結晶性高分子が好適に用いられる。
【0146】
「非結晶性高分子」とは、結晶化しない高分子であり、示差走査熱量計の測定で結晶化による発熱ピークがない高分子である。非結晶性高分子は、構造変形を起こしやすいため、膜厚方向の構造制御が容易になる。非結晶性高分子を素材とした中空糸膜は、非結晶性高分子を溶媒に溶解して調製した製膜原液を、熱や貧溶媒によって相分離を誘起し、溶媒成分を除去することで得られる。溶媒に溶解している非結晶性高分子は運動性が高く、相分離時に凝集して、濃度が高まり緻密な構造を形成する。膜厚方向で相分離の速度を変化させることで、膜厚方向に対して孔径が異なる非対称構造の膜を得ることができる。
【0147】
中空糸膜の素材となる高分子としては、例えば、ポリアクリル系高分子、ポリ酢酸ビニル系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエチレン系高分子、セルロース系高分子又はアセチルセルロース系高分子等が挙げられる。これらの中でも、膜の成形性等の観点から非晶性高分子であるポリアクリル系高分子、ポリ酢酸ビニル系高分子又はポリスルホン系高分子が好ましい。中でも、強度が高く、かつ、孔径を制御しやすいことからポリスルホン系高分子がより好ましい。
【0148】
「ポリスルホン系高分子」とは、主鎖に芳香環、スルフォニル基及びエーテル基を有するもので、例えば、下記一般式(I)又は(II)の化学式で示されるポリスルホン系高分子が好適に使用されるが、本発明ではこれらに限定されない。例えば、芳香環の一部にスルホン酸基を導入する等、分子又は高分子等がグラフトされていても構わない。一般式中のnは,例えば50~80の如き整数である。
【0149】
【0150】
ポリスルホンの具体例としては、“ユーデル”(登録商標)ポリスルホンP-1700、P-3500(Solvay社製)、“ウルトラゾーン”(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。また、本発明で用いられるポリスルホンとしては上記一般式(I)又は(II)で表される繰り返し単位のみからなる高分子が好適であるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していても構わない。特に限定するものではないが、他の共重合モノマーは10質量%以下であることが好ましい。
【0151】
また、製膜原液に親水性高分子を添加することで、中空糸膜に親水性高分子が含有され、水濡れ性が向上し、透水性能が高くなる。さらに、製膜原液の粘度調整、すなわち孔径の調整も可能となる。
【0152】
中空糸膜に生体適合性を有する親水性高分子を含有させる方法としては、例えば、生体適合性を有する親水性高分子を製膜時の原液や芯液に添加する方法又は製膜後に表面に生体適合性を有する親水性高分子溶液を接触させる方法等が挙げられる。
【0153】
中でも、製膜条件に影響を与えない点で、製膜後に生体適合性を有する親水性高分子溶液を接触させる方法が好ましい。このような方法としては、例えば、生体適合性を有する親水性高分子溶液に中空糸膜を浸漬する方法、その溶液を通液させる方法又はスプレー等で吹きつける方法等が挙げられる。中でも、中空糸膜の内部にまで生体適合性を有する親水性高分子を付与できることから、中空糸膜に生体適合性を有する親水性高分子溶液を通液させる方法が好ましい。
【0154】
生体適合性を有する親水性高分子溶液を中空糸膜に通液させる場合には、生体適合性を有する親水性高分子をより効率良く導入する観点から、溶液中の生体適合性を有する親水性高分子の濃度は10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましい。一方、モジュールからの溶出を抑制する観点から、上記溶液中の生体適合性を有する親水性高分子の濃度は100000ppm以下が好ましく、10000ppm以下がより好ましい。
【0155】
生体適合性を有する親水性高分子溶液の調製に使用する溶媒としては、水が好ましい。ただし、水に所定の濃度が溶解しない場合は、中空糸膜を溶解しない有機溶媒又は中空糸膜を溶解しない有機溶媒と水との混合溶媒に生体適合性を有する親水性高分子を溶解させてもよい。上記有機溶媒又は混合溶媒に用いる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0156】
生体適合性を有する親水性高分子溶液を中空糸膜に通液させる方向は、中空糸膜の緻密層側から粗大層側、粗大層側から緻密層側のいずれでもよい。中でも中空糸膜内部に効率よく生体適合性を有する親水性高分子を付与する観点から粗大層側から緻密層側に通液させることが好ましい。使用する生体適合性を有する親水性高分子の流体力学的半径が緻密層の孔径よりも大きい場合、特に粗大層側から緻密層側への通液が好ましい。
【0157】
また、上述のように、生体適合性を有する親水性高分子は化学的な結合によって中空糸膜に固定化されることが好ましい。化学的な結合によって固定化する方法としては、例えば、生体適合性を有する親水性高分子を接触させた後に放射線を照射する方法、生体適合性を有する親水性高分子及び固定化する中空糸膜表面にアミノ基やカルボキシ基等の反応性基を導入し、縮合させる方法等が挙げられる。
【0158】
<中空糸膜の製造方法>
本発明の細胞外小胞分離装置が備える中空糸膜の製造方法としては、例えば、二重管口金に内側の円管から芯液又は注入気体を流し、外側のスリットから製膜原液を吐出する方法が挙げられる。この際に、芯液の貧溶媒濃度、温度の変更や添加剤を加えることで中空糸膜の内表面の構造を制御することができる。一方で、外表面側は、口金から吐出され、凝固浴に入るまでの乾式部の雰囲気条件や凝固浴の温度や組成により構造を制御することができる。外表面に比べ、中空糸膜内表面における構造制御が容易であるため、内表面側の孔径が大きい非対称構造の中空糸膜とすることが好ましい。
【0159】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える中空糸膜として、ポリスルホン系高分子を主成分とする中空糸膜の製造方法についての一例を示す。中空糸膜の製膜方法としては、貧溶媒で相分離を誘起する非溶媒誘起分離法(以下「NIPS」という)や、比較的溶解性の低い溶媒を用いた高温の製膜原液の冷却により相分離を誘起する熱誘起相分離法(TIPS)等を用いることができる。中でも、NIPSによる製膜が特に好ましい。
【0160】
NIPSによる製膜プロセスとしては、例えば、オリフィス型二重円筒型口金を用いて、外側の筒からポリスルホン系高分子を含む製膜原液を、内側の筒から芯液を、それぞれ同時に吐出し、乾式部を通過させた後、凝固溶液を入れた凝固浴に浸漬して凝固させ、さらに温水洗浄をするプロセスが挙げられる。
【0161】
製膜原液に含まれるポリスルホン系高分子の濃度は、10質量%以上25質量%以下が好ましく、10質量%以上20質量%以下がより好ましい。ポリスルホン系高分子濃度が25質量%以下であるとポリスルホン系高分子同士の凝集力が弱くなり、製膜プロセスにおける圧力が上昇しにくくなり、分離膜表面の開孔率が向上しやすくなる。一方で、ポリスルホン系高分子の濃度が10質量%以上であると、中空糸膜の強度が向上し、糸切れが発生しにくくなる。
【0162】
比較的低分子量(重量平均分子量1000~200000)の親水性高分子を製膜原液に添加することにより、造孔作用が強まり、開孔率が向上し、中空糸膜の透水性を向上させることができる。一方で、孔径は比較的小さくなる。
【0163】
また、比較的高分子量(重量平均分子量200000~1200000)の親水性高分子を添加する場合、分子鎖が長く、ポリスルホン系高分子との相互作用が大きくなるため、中空糸膜に残存しやすく、中空糸膜の親水性向上に寄与する。さらに、孔径も比較的大きくなる。
【0164】
製膜原液に添加する親水性高分子は、1種類でもよく、2種類以上を混合しても構わないし、異なる分子量の親水性高分子をブレンドしても構わない。
【0165】
製膜原液を調製は、溶解性向上の観点及び熱による高分子の変性や溶媒の蒸発による組成変化を抑制する観点から、溶解温度は30℃以上120℃以下が好ましい。ただし、使用する高分子及び添加剤の種類によってこれらの最適範囲は異なることがある。
【0166】
上記の製膜プロセスにおける芯液は、製造過程の中空糸膜が形成する中空部分に存在する液体で、ポリスルホン系高分子に対する良溶媒を含む溶液であり、例えば、DMAc、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、グリセリン又はこれらの混合溶媒が挙げられる。成膜安定性を増すために、芯液にPVP、ビニルピロリドンを含む共重合体、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はポリエチレンイミン等を添加してもよい。
【0167】
芯液の組成は、中空糸膜表面における開孔率、孔径、孔の形状及び親水性高分子含有量に大きく影響する。芯液に含まれる良溶媒の濃度を高めればポリスルホン系高分子同士の凝集を緩和でき、中空糸膜表面における開孔率が高く、孔径が大きい中空糸膜が得られる。芯液に親水性高分子を添加すれば親水性高分子を中空糸膜の内表面に局在化することができるばかりでなく、親水性高分子が核となって相分離を誘発することから、中空糸膜の内表面における親水性高分子量が高く、かつ、開孔率が高い中空糸膜が得られる。
【0168】
製膜プロセスにおける芯液温度は、被処理液が接触する表面が内表面である場合には、製膜原液温度と同じ、もしくは5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましい。
【0169】
製膜プロセスにおける乾式部の露点温度は、露点温度の管理によって製膜原液の相分離反応の制御が可能であり、特に中空糸膜の外表面に大きく影響する。例えば、中空糸膜の外表面に水分を供給して緻密層を形成することができる。本発明の装置のような細胞外小胞の分離を目的とする場合には、露点温度は20℃以上40℃以下に調湿されていることが好ましい。
【0170】
製膜プロセスにおける乾式部の長さは、中空糸膜表面の孔の形成から凝固までの時間を決定するものであり、10mm以上400mm以下が好ましい。乾式部の長さが10mm以上であると、中空糸膜表面における孔径が大きくなる。一方で、乾式部の長さが400mm以下であると、製膜プロセスにおいて糸揺れが生じにくくなり、糸切れの発生を抑制できる。
【0171】
製膜プロセスにおける凝固溶液とは、ポリスルホン系高分子に対する貧溶媒をいい、例えば、アルコール、水又はグリセリンが挙げられ、中でも水が好ましい。
【0172】
製膜プロセスにおける凝固浴温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、60℃以上90℃以下がより好ましい。凝固浴温度は、中空糸膜表面における孔径や中空糸膜の透水性に大きく影響する。凝固浴温度が30℃以上であると中空糸膜の外表面の孔径が大きくなり、透過可能な粒子径が大きくなり、透水性が向上する。一方で、凝固浴温度が100℃以下であると、中空糸膜表面における開孔率が低くなり、中空糸膜の強度が向上しやすくなる。
【0173】
製膜プロセスにおける凝固浴には、水等の凝固溶液の他に、ポリスルホン系高分子に対する良溶媒を1質量%以上10質量%以下の割合で添加してもよい。良溶媒を添加することで、脱溶媒における凝固溶液拡散速度を緩和でき、中空糸膜の外表面側の構造を好適なものにすることが可能となる。良溶媒の濃度が1質量%以上であると、中空糸膜の外表面の孔径や緻密層厚みの制御が容易になる。一方で、良溶媒の濃度が10質量%以下であると、親水性高分子の脱溶媒が適度に促進され、中空糸膜の強度が向上しやすくなる。
【0174】
製膜プロセスにおける温水洗浄とは、凝固浴に浸漬した後の中空糸膜を60℃以上の温水に1分以上曝す状態にすることを意味する。中空糸膜を温水に曝す方法としては、例えば、浸漬する方法又はシャワーで吹き付ける方法等が挙げられる。温水洗浄により、中空糸膜に残存する余分な溶媒及び親水性高分子を除去できる。芯液に親水性高分子を添加した場合には、余分な親水性高分子の効果的な除去及び中空糸膜の透水性の向上のために、一定の長さに切断して小分けしてから追加の温水洗浄をすることが好ましい。
【0175】
具体的な例としては、温水洗浄後の中空糸膜を巻き取り、これを400mmに切断して小分けした中空糸膜束をガーゼで巻き、70℃以上の温水で1時間以上5時間以下、追加の温水洗浄をすることが好ましい。90℃以上の温水で温水洗浄を行えば、中空糸膜に担持又は化学固定化していない余分な親水性高分子や、中空糸表面膜の孔を埋めていた親水性高分子が温水に溶出するため、これらを除去できる。
【0176】
上記の温水洗浄後の中空糸膜は湿潤状態であるが、中空糸膜の透水性をより安定させる観点から、乾燥工程を実施することが好ましい。乾燥工程の温度は、水分を蒸発させることから100℃以上であることが好ましい。ポリスルホン系高分子を主成分とする中空糸膜を乾燥する場合は、乾燥工程の温度がポリスルホン系高分子のガラス転移点を超えないよう、180℃以下であることが好ましい。
【0177】
本発明の細胞外小胞分離装置においては、中空糸膜から透過液及び非透過液への親水性高分子の溶出を抑制することが好ましい。親水性高分子の溶出を抑制するためには、得られた中空糸膜を加熱又は放射線照射により架橋することが好ましい。
【0178】
中空糸膜を加熱する加熱架橋では、中空糸膜中に存在する親水性高分子同士が架橋される。親水性高分子同士を架橋させ、かつ、分解反応を生じにくくする観点から、加熱架橋の温度は、120℃以上250℃以下が好ましく、130℃以上200℃以下がより好ましい。また、加熱架橋の時間は、1時間以上10時間以下が好ましく、3時間以上8時間以下がより好ましい。
【0179】
中空糸膜に放射線を照射する放射線架橋では、親水性高分子又は上述した生体適合性を有する親水性高分子と、ポリスルホン系高分子とが架橋される。架橋反応を進行させ、かつ、分解反応を生じにくくする観点から、放射線の照射線量は、5kGy以上75kGy以下が好ましく、10kGy以上50kGy以下がより好ましい。照射する放射線としては、例えば、α線、β線、γ線、X線、紫外線又は電子線等を用いることができる。
【0180】
中空糸膜に生体適合性を有する親水性高分子を放射線架橋させる場合、モジュール内の中空糸膜に生体適合性を有する親水性高分子を溶解した溶液を接触させた状態、又は表面に生体適合性を有する親水性高分子を導入したのちに中空糸膜モジュール内の溶液を除去した状態若しくは中空糸膜を乾燥させた状態で放射線を照射する。放射線架橋では、生体適合性を有する親水性高分子の固定化と同時に中空糸膜モジュールの滅菌も達成できるため好ましい。滅菌には放射線の物質透過性がある程度高い方が好ましいため、上記放射線の中でもβ線、γ線、X線又は電子線がより好ましい。
【0181】
また、放射線の照射による生体適合性を有する親水性高分子の架橋反応を抑制するため、抗酸化剤を用いてもよい。抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ物質のことを意味する。
【0182】
抗酸化剤としては、例えば、ビタミンC等の水溶性ビタミン類、ポリフェノール類又はメタノール、エタノールもしくはプロパノール等のアルコール系溶媒等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。安全性を考慮する必要がある場合は、エタノール又はプロパノール等毒性の低い抗酸化剤が好適に用いられる。
【0183】
<中空糸膜モジュール>
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1のモジュールは第1の中空糸膜を含有し、第2のモジュールは第2の中空糸膜を含有する。
【0184】
中空糸膜モジュールを製造する方法としては、例えば、遠心しながら中空糸膜をケースに固定化する方法又は中空糸膜をU字形状とし、中空糸膜の開口部側のみをケースに固定化する方法等が挙げられる。
【0185】
一例として、
図2に示す中空糸膜モジュール201の製造方法について説明する。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、ノズル205を備える筒状のケース202に入れる。その後、両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング材203を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング材を入れる方法は、ポッティング材が均一に充填できるため好ましい方法である。ポッティング材が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断する。ケースの両端に被処理液流出入ポートを備えるヘッダー204を取り付けることで中空糸膜モジュールを得る。
【0186】
中空糸膜束内部まで均一にポッティング材を充填しやすくなることから、中空糸膜はクリンプ又はスペーサー糸を付与したものでもよい。また、外表面側に被処理液を接触させる場合、中空糸膜にクリンプ又はスペーサー糸を付与することで、被処理液を中空糸膜束全体に接触させることができる。
【0187】
モジュールが含有する中空糸膜の膜面積は、0.1m2以上3.0m2以下が好ましい。また、処理能力の観点から膜面積は0.15m2以上がより好ましく、0.2m2以上がさらに好ましく、0.25m2以上が特に好ましい。一方で、モジュールサイズを小さくすることができ、取扱いも容易であることから、膜面積は3.0m2以下がより好ましく、2.5m2以下がさらに好ましく、2.0m2以下が特に好ましい。また、細胞外小胞を分離する第2のモジュールは目詰まりが発生しやすいことから、第2のモジュールの膜面積は、第1のモジュールの膜面積より大きいことが好ましい。
【0188】
モジュール内径の寸法に特に制限は無いが、上記の好ましい膜面積範囲としやすく、モジュールの取り扱い性もよいことから、内径は1.0cm以上9.0cm以下が好ましく、1.5cm以上7.0cm以下がより好ましく、2.0cm以上5.5cm以下がさらに好ましい。
【0189】
また、モジュールの長さはモジュールの取り扱いやすさの観点から、10.0cm以上40.0cm以下が好ましく、15.0cm以上35.0cm以下がより好ましく、20.0cm以上30.0cm以下がさらに好ましい。
【0190】
また、モジュール内部の容積に対する中空糸膜の体積の割合、すなわち充填率は、モジュール内の被処理液の流れやすさとモジュール容積の有効活用の観点から、30%以上70%以下が好ましく、35%以上65%以下がより好ましく、40%以上60%以下がさらに好ましく、45%以上55%以下が特に好ましい。
【0191】
上記の充填率は下記式(2)~(4)によって求めることができる。
充填率(%)=(中空糸膜の断面積)×(中空糸膜数)/(モジュール横断面面積)×100 ・・・式(2)
中空糸膜の断面積(cm2)={(中空糸膜外径)/2}2×円周率 ・・・式(3)
モジュール横断面面積(cm2)={(モジュール内径)/2}2×円周率 ・・・式(4)
【0192】
本発明の細胞外小胞分離装置が備える第1のモジュールと第2のモジュールは一体であってもよい。この場合、第1のモジュールの内部と第2のモジュールの内部を連通する開口部が流路Bとなる。また、第1の中空糸膜と第2の中空糸膜が仕切りで区切られた同一のケースに収められている状態も、第1のモジュールと第2のモジュールが一体となった形状に含まれる。
【0193】
本発明の細胞外小胞分離装置における第1のモジュールや第2のモジュールは、上述の通り、U字型モジュールであってもよい。U字型モジュールとは、中空糸膜をU字に折り返し、中空糸膜束の両端を樹脂でケースに接着し、中空糸膜の両端が開口する構造のモジュールである。U字型モジュールは取扱いが容易であり、研究、試験、検査用途に好適に用いられる。U字型モジュールを用いて被処理液から細胞外小胞を分離する場合は、全量濾過となる。
【0194】
例えば、U字型の第1のモジュールにて全量濾過を行い、流路Bを通じて第1透過液をU字型ではない第2のモジュールへ導出する。そして、第2のモジュールにてクロスフロー濾過を行うことで、特定のサイズの細胞外小胞を含む第2非透過液と特定のサイズの細胞外小胞を含まない第2透過液に分離することができる。
【0195】
また、U字型でない第1のモジュールにてクロスフロー濾過を行い、流路Bを通じて第1透過液をU字型の第2のモジュールに導出し、第2のモジュールにて全量濾過を行い、得られた第1非透過液と第2透過液を混合することで、処理液中から特定のサイズの細胞外小胞のみを分離することができる。
【0196】
図2に示す構造のモジュールを用いることで、第1のモジュールと第2のモジュールは種々の接続形式が可能となる。以下に本発明の細胞外小胞分離装置の構成例について、
図3~
図6を用いて説明する。
【0197】
図3の構成例は、第1のモジュール101の流路A(103a)との接続から近い側ノズルから第1透過液を流路B(103b)に導出し、第2のモジュール102に接続する。第2のモジュール102では、流路B(103b)から遠い側のノズルから第2透過液を流路C(103c)に導出し、そして流路D(103d)へと導き、第1非透過液と混合する。
【0198】
図4の構成例は、第1のモジュール101の流路A(103a)との接続から遠い側ノズルから第1透過液を流路B(103b)に導出し、第2のモジュール102に接続する。第2のモジュール102では、流路B(103b)から遠い側のノズルから第2透過液を流路C(103c)に導出し、そして流路D(103d)へと導き、第1非透過液と混合する。
【0199】
図5の構成例は、第1のモジュール101が有する2つのノズルから第1透過液を流路B(103b)に導出し、第2のモジュール102に接続する。第2のモジュール102では、流路B(103b)から遠い側のノズルから第2透過液を流路C(103c)に導出し、そして流路Dへと導き、第1非透過液と混合する。
【0200】
図6の構成例は、第1のモジュール101が有する2つのノズルから第1透過液を流路B(103b)に導出し、第2のモジュール102に接続する。第2のモジュール102では、流路B(103b)から近い側のノズルから第2透過液を流路C(103c)に導出し、そして流路Dへと導き、第1非透過液と混合する。
【0201】
<細胞外小胞及び細胞外小胞含有溶液>
本発明における細胞外小胞の種類に特に制限は無いが、表面マーカーとして、ホスファチジルセリン、CD9、CD63、CD81、TyA及びClqからなる群から選ばれる少なくとも1種を表面マーカーとして有する細胞外小胞であることが好ましい。上記マーカーのうち、ホスファチジルセリンとCD9は好適に用いられる細胞外小胞の表面マーカーである。ホスファチジルセリンは、リン脂質の一種であり、細胞膜においては内側にのみ存在しているが、細胞外小胞においては外側にも存在している。CD9はテトラスパニン(Tetraspanin)と呼ばれる4回膜貫通タンパク質の1種である。
【0202】
ホスファチジルセリンとCD9をマーカーとしたELISA(Enzyme-Linked Immuno-Sorbent Assay)法によって測定試料液中の細胞外小胞を検出及び定量することができる。この場合、プレート側の捕捉抗体としてホスファチジルセリンと結合する抗体を、標識した検出抗体としてCD9と結合する抗体を、それぞれ用いることが好ましい。
【0203】
本発明の細胞外小胞分離装置は、疾患の治療に好適に用いることができる。対象となる疾患は特に限定されないが、敗血症、自己免疫疾患又は慢性肝疾患等の患者の血液から細胞外小胞を除去する治療法に好適に用いることできる。
【0204】
患者血液から除去する細胞外小胞の大きさや種類(表面マーカー)は疾患によって異なる。敗血症の場合は、血液中に炎症亢進作用のある細胞外小胞が多量に存在することから、表面マーカー、大きさともに限定せず除去することが好ましい。自己免疫疾患の場合は、血液中の細胞外小胞を全て除去してしまうと、人体の恒常性に影響を与える可能性があるため、50nm以上150nm以下の大きさの細胞外小胞を除去することが好ましい。慢性肝疾患の場合は、病態の悪化に主に寄与している、150nm以上300nm以下の大きさの細胞外小胞を除去することが好ましい。
【0205】
細胞外小胞の大きさはナノ粒子トラッキング法によって測定できる。ナノ粒子トラッキング法による測定が可能な装置としては、例えば、Quantum Design社製「NanoSight」が挙げられる。
【0206】
本発明の細胞外小胞分離装置及び細胞外小胞の分離方法は、細胞外小胞を含有する被処理液の精製にも好適に用いられ、より高純度かつ高濃度の細胞外小胞含有溶液を得ることができる。上記第2非透過液を廃棄せずに回収すれば、細胞外小胞を回収することができる。すなわち、本発明の細胞外小胞含有溶液は、本発明の細胞外小胞分離装置又は細胞外小胞の分離方法によって得られた細胞外小胞含有溶液であることが好ましい。
【0207】
細胞外小胞含有溶液の溶媒は、特に限定されるものではないが、水、エタノール又はジメチルスルホキシド等が挙げられる。また、これらの溶媒を組み合わせて用いてもよい。また、細胞外小胞は生体由来試料であるため、水が主成分の緩衝液を用いることがより好ましい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水、酢酸緩衝液、トリス緩衝液又はクエン酸緩衝液等が挙げられる。
【0208】
本発明の細胞外小胞分離装置によって得られた第2非透過液は特定の大きさの細胞外小胞のみを含有する。すなわち細胞外小胞の精製溶液である。当該精製溶液は、例えば、検査、治療、美容又は老化予防等に好適に用いることができる。細胞外小胞はタンパク質や核酸等の情報伝達物質を含むため、体内の状態について多くの情報が得られ、有効な検査対象となりうる。検査対象としては、例えば、癌細胞が、自身を攻撃しようとする免疫細胞に対して、攻撃を弱めるよう作用する細胞外小胞を放出することが知られており、被験者から採取した体液を精製して得た細胞外小胞含有溶液によって癌の有無を検査することができる。
【0209】
また、細胞外小胞内の情報伝達物質によって細胞の活動を変えることが可能であることから、細胞外小胞を治療に用いることもできる。例えば、先ほどの例とは逆に、免疫細胞に対して、癌細胞を攻撃するよう指示する細胞外小胞を作用させる方法が考えられる。さらに、細胞に老廃物の分解や、新陳代謝を促したりすることによって、美容や老化予防の効果も期待できる。細胞外小胞含有溶液の投与方法としては、治療や老化予防用途では注射や点滴が、美容用途では化粧品としての塗布が、それぞれ好適である。
【0210】
上述の通り、細胞外小胞含有溶液にはさまざまな用途分野があり、医薬品原料や化粧品原料として細胞外小胞含有溶液を調製する場合、効果を得やすくする観点や、製造スケールを抑えることで製造コストを抑える観点から、溶液中の細胞外小胞濃度は高い方が好ましい。本発明の細胞外小胞分離方法を用いれば、高濃度の細胞外小胞含有溶液を得ることができる。一方で、細胞外小胞濃度が高すぎると、細胞外小胞が凝集しやすくなる。
【0211】
これらのような観点から、本発明の細胞外小胞分離方法によって得る細胞外小胞含有溶液中の細胞外小胞の個数濃度は、6.0×109個/mL以上、1.4×1012個/mL以下であることが好ましく、1.5×1010個/mL以上、1.2×1012個/mL以下であることがより好ましく、3.0×1010個/mL以上、1.0×1012個/mL以下であることが特に好ましい。
【0212】
また、本発明の細胞外小胞含有溶液は、劣化防止の観点から、重量平均分子量が10000以上、1000000以下の細胞外小胞安定化剤を含有していることが好ましい。この場合の細胞外小胞安定化剤としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、メトキシアルキレングリコールモノメタクリレート及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種を繰返し単位として含む重合体であることが好ましい。これらの中でも、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの重合体が特に好ましい。
【0213】
回収した細胞外小胞の保管形態は上記のような溶液状態に限定されない。例えば、凍結乾燥によって水分を除去した状態であってもよい。水分を除去した状態の細胞外小胞の形態は、粉末の形態をとっていてもよいし、他の物質と併せて錠剤の形態をとっていてもよい。
【実施例0214】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0215】
<中空糸膜モジュールの作製>
中空糸膜10本を、直径約5mm、長さ約17cmのケースに充填した。両端をコニシ株式会社製エポキシ樹脂系化学反応形接着剤“クイックメンダー”(登録商標)でポッティングした後、端面をカットして開口することによって、有効長12cmの中空糸膜モジュールを作製した。
【0216】
<粒子透過率測定>
中空糸膜の粒子透過率は、市販の平均粒径0.02μm、0.15μm、0.20μm、1.00μmのポリスチレンラテックスビーズ(以下「LB」という)を用いて行った。平均粒径0.15μmのLBは国立研究開発法人産業技術総合研究所標準物質センターより購入したLBを、0.02μm、0.20μm、1.00μmのLBはThermo Fisher社製「Sulfate Latex Beads」を、それぞれ用いた。予めLBの懸濁液の濃度と濁度との関係を紫外可視分光測定により測定される波長260nmの吸光度から算出した。
【0217】
中空糸膜を介して濾過した濾液の濁度を測定し、下記式(5)より粒子透過率を求めた。この際の被処理液は、純水によってLB濃度0.02質量%(200ppm)に希釈したものを用いた。なお、測定は、13.3kPaの圧力で中空糸膜の内側から外側に処理液を流し、異なる中空糸膜モジュール2本について測定した値の平均値を算出し、小数点第1位を四捨五入した値を用いた。
粒子透過率(%)={(濾液の濁度)/(処理前の濁度)}×100 ・・・式(5)
【0218】
<透水性測定>
「中空糸膜モジュールの作製」に記載の方法で作製した中空糸膜モジュールの内部を蒸留水にて30分間洗浄した。中空糸膜の内側に水圧150mmHgをかけ、中空糸膜外側に流出してくる単位時間当たりの濾過量を測定した。透水性(UFR)は下記式(6)で算出し、小数点第1位を四捨五入した値を用いた。
透水性(mL/h/mmHg/m2)=Qw/(P×T×A) ・・・式(6)
ここで、Qw:濾過量(mL)、T:流出時間(h)、P:圧力(mmHg)、A:中空糸膜の内表面積(m2)、である。
【0219】
なお、中空糸膜の内表面積Aは、中空糸内径に円周率と透水性測定に用いた中空糸のうち測定に有効な部分の長さを乗ずることにより求めた。
【0220】
<親水性高分子含有量測定>
元素分析によって中空糸膜の窒素原子含有量を測定することで、中空糸膜中の親水性高分子含有量を算出した。中空糸膜を凍結粉砕した後、常温(25℃)で2時間減圧乾燥することで、測定サンプルとした。測定装置及び測定条件は以下の通りである。なお、測定は3回行い、その平均値を測定値とした。
【0221】
測定装置:微量窒素分析装置ND-100型(三菱化学株式会社製)
電気炉温度(横型反応炉)
熱分解部分: 800℃
触媒部分: 900℃
メインO2流量: 300mL/分
サブO2流量: 300mL/分
Ar流量: 400mL/分
Sens.: Low
【0222】
窒素原子のモル質量は14g/mol、PVPの繰り返し単位のモル質量は111g/molである。よって、親水性高分子含有量(質量%)は、元素分析により求めた単位質量当たりの中空糸膜に含まれる窒素原子量(μg/g)を用い、下記式(7)により算出し、小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
親水性高分子含有量(質量%)=中空糸膜に含まれる窒素原子量×111/14×100 ・・・式(7)
【0223】
なお、本実施例では中空糸膜の主成分がポリスルホンであり、親水性高分子がPVPのみ、PVP及び酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体、又は、PVP及びプロパン酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体である場合を記載したが、使用する高分子の種類に応じて、元素分析で定量する元素及び計算式を適宜変更することで、同様に親水性高分子含有量を求めることができる。
【0224】
<不溶成分の割合測定>
三角フラスコに、乾燥した中空糸膜を約1g量り取り、そこへ中空糸膜に対する良溶媒としてDMAc40mLを添加し、常温(25℃)にてスターラーで2時間攪拌した。次に、2500rpmで遠心分離を行い、不溶成分を沈殿させ、上清を取り除いた。得られた不溶成分にDMAcを10mL加え、再度スターラーで攪拌することで洗浄し、遠心分離後、上清を取り除く一連の操作を3回繰り返した。最後に上清を取り除いたのち、得られた不溶成分の凍結乾燥を行った。
【0225】
不溶成分の質量を測定し、下記式(8)により、中空糸膜全体質量に対する不溶成分の割合を算出した。不溶成分の割合は、小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
不溶成分の割合(質量%)=不溶成分の質量/中空糸膜の質量×100 ・・・式(8)
【0226】
なお、本実施例では、中空糸膜の主成分がポリスルホンであり、親水性高分子がPVPのみ、PVP及び酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体、又はPVP及びプロパン酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体である場合を記載したが、使用する高分子の種類に応じて、中空糸膜を溶解する良溶媒を適宜変更することで、同様に不溶成分の割合を求めることができる。
【0227】
<TOF-SIMS測定>
中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜内表面又は外表面の異なる箇所を3点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置及び条件は、以下の通りである。
【0228】
測定装置:TOF.SIMS 5(ION-TOF社製)
1次イオン: Bi3++
1次イオン加速電圧: 30kV
パルス幅: 5.9ns
2次イオン極性:負
スキャン数: 64 scan/cycle
Cycle Time: 140μs
測定範囲: 200μm×200μm
質量範囲(m/z): 0~1500。
【0229】
得られた質量m/zのスペクトルから、中空糸膜表面におけるカルボン酸イオンの存在の有無を確かめた。ただし、総2次イオン強度に対するカルボン酸イオン強度が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、カルボン酸は存在しないとした。
【0230】
<中空糸膜表面における親水性高分子の割合測定>
中空糸膜の内表面を測定する場合は、両面テープ上に中空糸膜を固定し、貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切りし、内表面を露出させ、測定した。中空糸膜の外表面を測定する場合は、両面テープ上に固定した中空糸膜の外表面をそのまま測定した。中空糸膜の表面に対し、以下の条件でXPS測定を行い、ピーク強度の積分値を求めた。
【0231】
装置: PHI Quantera SXM(アルバック・ファイ株式会社製)
励起X線: 単色Al Kα1.2線(1486.6eV)
X線径: 100μm
光電子検出角度: 45°
横軸補正: C1sメインピーク(CHx、C-C)を284.6eVと補正
スムージング: 9-point smoothing
【0232】
中空糸膜の主成分がポリスルホンであり、親水性高分子がPVPである場合、下記式(9)を用いて中空糸膜表面のビニルピロリドンユニットの割合を算出した。このとき、中空糸膜表面に存在している親水性高分子がPVPのみである場合は、上記ビニルピロリドンユニットの割合が、PVPの割合となる。
ビニルピロリドンユニットの割合(%)=100×(d×111)/(d×111+e×442+c×86) ・・・式(9)
ここで、d:窒素原子数%、e:硫黄原子数%、c:エステル基由来の炭素原子数%である。
【0233】
一方、中空糸膜表面にモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子として、例えば、酢酸ビニルユニットを含有する親水性高分子が存在する場合は、下記式(10)を用いて、中空糸膜表面の酢酸ビニルユニットの割合を算出した。
酢酸ビニルユニットの割合(%)=100×(c×86)/(d×111+e×442+c×86) ・・・式(10)
【0234】
従って、親水性高分子がビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体である場合、中空糸膜表面に存在する親水性高分子の割合は、上記式(9)と上記式(10)の和で表すことができる。
【0235】
<内径及び膜厚測定>
ランダムに選択した16本の中空糸膜の膜厚をマイクロウォッチャー(デジタルマイクロスコープRH-2000、株式会社ハイロックス製)を用いて1000倍でそれぞれ測定し、その平均値を膜厚とした。
【0236】
中空糸膜の内径は、下記式(11)により算出した。中空糸膜外径は、ランダムに選択した16本の中空糸膜の外径をレーザー変位計(例えば、LS5040T;株式会社KEYENCE)でそれぞれ測定し、その平均値を用いた。
中空糸膜内径(μm)=中空糸膜外径-(2×膜厚) ・・・式(11)
【0237】
<第1の中空糸膜における表面孔径測定>
第1の中空糸膜を水に5分間浸漬し濡らした後に液体窒素で凍結し、凍結乾燥させた中空糸膜を測定試料として使用した。中空糸膜を半筒状に切断し、内表面が露出している状態とした。中空糸膜内表面をSEM(S-5500、株式会社日立ハイテクノロジー社製)を用いて倍率1500倍、外表面は3000倍でそれぞれ観察し、画像をコンピュータに取り込んだ。取り込んだ画像のサイズは640ピクセル×480ピクセルだった。
【0238】
中空糸膜内表面は40μm×40μmの範囲の孔について、外表面は20μm×20μmの範囲の孔について画像処理ソフト(ImageJ(バージョン1.52)、開発元 アメリカ国立衛生研究所)を用いて、孔数と各孔の面積を測定した。計測した孔の総数が50個以上になるまで、40μm×40μm又は20μm×20μmの範囲の計測を繰り返して、データを追加した。孔が深さ方向に二重に観察された場合は、深い方の孔の露出部を測定した。孔の一部が計測範囲(SEM画像の視野)から外れる場合は、その孔を除外した。SEM画像を二値化処理し、空孔部が黒、構造部分が白となった画像を得た。解析画像内のコントラストの差によって、空孔部と構造部分を明確に二値化できない場合は、空孔部を黒く塗りつぶしてから画像処理を行い、孔数と孔の面積の和を算出した。この際、ノイズをカットするために連続したピクセル数が5ピクセル以下の面積の孔をデータから除外した。
【0239】
孔径は、算出した各孔の面積の和から、下記式(12)を用いて計算し、小数点以下第3位を四捨五入することで算出した。
孔径(μm)={(S/a)/円周率}1/2×2 ・・・式(12)
ここで、a:計測した孔の数、S:計測した孔の面積の和(μm2)、である。
【0240】
<第2の中空糸膜における表面孔径測定>
第1の中空糸膜と同様に、水浸漬後、液体窒素で凍結乾燥した中空糸膜を測定試料として使用した。中空糸膜を半筒状に切断した後、中空糸膜内表面に対してSEMを用いて50000倍、外表面は3000倍でそれぞれ観察し、画像をコンピュータに取り込んだ。取り込んだ画像のサイズは640ピクセル×480ピクセルだった。中空糸膜内表面は1.2μm×1.2μmの範囲の孔について、外表面は20μm×20μmの範囲の孔について、第1の中空糸膜と同様に画像処理ソフトを用いて、孔数と各孔の面積を測定し、上記式(12)を用いて算出した。
【0241】
<第1の中空糸膜における孔の平均深さ測定>
上述した「第1の中空糸膜における表面孔径測定」と同様に半筒状に切断し、内表面を露出させた状態の中空糸膜の内表面を、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-9710)を用いて倍率150倍で観察した。
【0242】
得られた結果を、レーザー顕微鏡搭載の形状解析ソフト「VK ANALYZER」によって解析することで内表面の孔の平均深さを算出した。解析は、「線粗さ計測」モードにて、観察画面中央部を左右に横切るように計測ラインを指定し、計測方法の規格として「JIS B0601:2001(ISO 4287:1997)」に従い、平均高さ(深さ)を算出することによって行った。10枚の画像について解析を行い、得られた値の平均値を平均孔深さとした。
【0243】
<第1の中空糸膜表面における開孔率測定>
上述した「第1の中空糸膜における表面孔径測定」と同様に第1の中空糸膜の内表面をSEM(S-5500、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて倍率1500倍で、外表面を3000倍でそれぞれ観察し、画像をコンピュータに取り込んだ。取り込んだ画像のサイズは640ピクセル×480ピクセルだった。
【0244】
SEM画像を内表面は40μm×40μm、外表面は20μm×20μmの範囲に切り取り、画像処理ソフトを用いて画像解析を行った。二値化処理によって構造体部分を明輝度に、それ以外の部分が暗輝度となるように閾値を決め、明輝度部分を白、暗輝度部分を黒とした画像を得た。画像内のコントラストの差によって、構造体部分とそれ以外の部分を分けられない場合、コントラストが同じ部分で画像を切り分けてそれぞれ二値化処理をした後に、元のとおりに繋ぎ合わせて一枚の画像に戻した。他の二値化処理の方法としては、構造体部分以外を黒で塗りつぶして画像解析をしてもよい。画像にはノイズが含まれ、連続したピクセル数が5個以下の暗輝度部分については、ノイズと孔の区別がつかないため、構造体として明輝度部分として扱った。ノイズを消す方法としては、連続したピクセル数が5以下の暗輝度部分をピクセル数の計測時に除外した。他のノイズを消す方法としては、ノイズ部分を白く塗りつぶしてもよい。
【0245】
暗輝度部分のピクセル数を計測し、解析画像形成する総ピクセル数に対する暗輝度部分のピクセル数の百分率を下記式(13)により算出して開孔率とした。5枚の画像について同じ測定を行って、平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
開孔率(%)=S/A×100 ・・・式(13)
ここで、A:計測範囲の面積(μm2)、S:計測した孔の面積の和(μm2)、である。
【0246】
<第2の中空糸膜表面における開孔率測定>
上述した「第2の中空糸膜における表面孔径測定」と同様に第2の中空糸膜の内表面に対してSEMを用いて倍率50000倍で、外表面を3000倍でそれぞれ観察した。画像をコンピュータに取り込み、画像処理ソフトを用いて画像解析を行った。5枚の画像について「第1の中空糸膜の開孔率測定」と同様の方法で開孔率を算出した。
【0247】
<第1の中空糸膜における緻密層の厚み測定>
第1の中空糸膜を水に5分間浸漬して濡らした後に液体窒素で凍結して速やかに折り、凍結乾燥を実施した中空糸膜を観察試料とした。当該中空糸膜の断面をSEM(S-5500、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて倍率2000倍で観察し、画像をコンピュータに取り込んだ。取り込んだ画像のサイズは640ピクセル×480ピクセルだった。SEMで観察して断面の孔が閉塞している場合は試料作製をやりなおした。孔の閉塞は、切断処理時に応力方向に中空糸膜が変形しておこる場合がある。
【0248】
得られたSEM画像について画像処理ソフトを用いて画像解析を行った。解析範囲は、膜厚全体がおさまる長さであればよい。測定倍率の観察視野で膜厚全体がおさまらない場合は、2枚以上のSEM画像を合成した。二値化処理によって構造体部分を明輝度に、それ以外の部分が暗輝度となるように閾値を決め、明輝度部分を白、暗輝度部分を黒とした画像を得た。画像内のコントラストの差によって、構造体部分とそれ以外の部分を分けられない場合、コントラストが同じ部分で画像を切り分けてそれぞれ二値化処理をした後に、元のとおりに繋ぎ合わせて一枚の画像に戻した。他の構造体部分とそれ以外の部分を分けられない場合の方法として、構造体部分以外を黒で塗りつぶして画像解析をしてもよい。孔が深さ方向に二重に観察された場合は、浅い方の孔を測定した。孔の一部が計測範囲から外れる場合は、その孔を除外した。画像にはノイズが含まれ、連続したピクセル数が5個以下の暗輝度部分については、ノイズと孔の区別がつかないため、構造体として明輝度部分として扱った。
【0249】
ノイズを消す方法としては、連続したピクセル数が5以下の暗輝度部分をピクセル数の計測時に除外した。他のノイズを消す方法としては、ノイズ部分を白く塗りつぶしてもよい。画像内で既知の長さを示しているスケールバーのピクセル数を計測し、1ピクセル数あたりの長さを算出した。
【0250】
検出された孔のピクセル数を計測し、孔のピクセル数に1ピクセル数あたりの長さの2乗を乗ずることで、孔面積を求めた。また、下記式(14)で、孔面積に相当する円の直径を算出し、孔径とした。孔径0.5μmとなる孔面積は、0.2μm2である。
孔径(μm)=2×(孔面積/円周率)1/2 ・・・式(14)
【0251】
二値化した画像において、孔径が0.5μm以上となる孔、すなわち孔面積が0.2μm2以上となる孔を特定し、中空糸膜の外表面から内表面に向かって垂線を引き、そのうち、孔面積0.2μm2以上となる孔が観察されない層の内、最も厚みが厚い領域を緻密層として、緻密層の厚みを測定した。同じ画像の中で10箇所測定を行った。さらに3枚の画像で同じ測定を行い、計30の測定データの平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入した値を緻密層厚みとした。
【0252】
<第2の中空糸膜における緻密層の厚み測定>
上述した「第1の中空糸膜における緻密層の厚み測定」と同様に、第2の中空糸膜を水に浸漬し、液体窒素で凍結、割断の後、凍結乾燥することで観察試料とした。当該中空糸膜の断面に対してSEMを用いて倍率5000倍で観察した。画像をコンピュータに取り込み、画像処理ソフトを用いて画像解析を行った。面積0.10μm2以上の暗輝度部分が観察されない領域を緻密層とし、「第1の中空糸膜における緻密層の厚み測定」と同様の手順で緻密層厚みを算出した。
【0253】
<細胞外小胞分離性能評価>
試験には、上述した「中空糸膜モジュールの作製」に記載した方法で作製した中空糸膜モジュールを用いた。細胞外小胞分離性能評価系の概略を
図7に示す。
【0254】
市販ヒト血清(コスモ・バイオ株式会社製、商品コード:12181450)20mLを容器に入れ、ヒト血清プール301とし、恒温槽302を用いて37℃に保温した。ヒト血清プール301が液溜まりである。循環用ポンプ303aを用いて0.5mL/分の速度で、第1のモジュール101の中空糸膜内側に通液し、循環状態とした(導入工程A)。ヒト血清プールから導出した被処理液を、第1のモジュールの内部に導入しているのが流路A(103a)である。
【0255】
同時に第1の濾過ポンプ303bを用いて0.15mL/分の速度で中空糸膜の外側から濾過を行い、第1透過液を得た。当該濾過によって、第1透過液では第1の中空糸膜を透過できない細胞外小胞より大きな溶質が除去されており、当該濾過は第1の分離工程である。
【0256】
第1のモジュール101から導出した第1透過液を、流路B(103b)を経由して第2のモジュール102の中空糸膜内側へ導き(移液工程B)、第2の濾過ポンプ303cを用いて0.135mL/分の速度で第2の中空糸膜の外側から濾過を行い、第2透過液と第2非透過液を得た。当該濾過によって、第2非透過液では細胞外小胞が濃縮されており、第2透過液では細胞外小胞よりも小さい溶質が含まれており、当該濾過は第2の分離工程である。第2透過液は流路C(103c)によって第2のモジュールから導出した(導出工程C)。
【0257】
本細胞外小胞分離性能評価においては、
図7に示した通り、第1の中空糸膜の内側へ被処理液を導入し、第1の中空糸膜の外側方向へ濾過し、流路Bへ導入しており、流路B内の空間は、第1の中空糸膜の外表面に連通している。また、第2の中空糸膜の内側へ第1の透過液を導入し、第2の中空糸膜の外側方向へ濾過しており、流路B内の空間は第2の中空糸膜の内表面に連通している。
【0258】
第1のモジュール101から導出した第1非透過液と第2のモジュール102から流路C(103c)に導出した第2透過液はヒト血清プール301に戻し、混合した(混合工程D)。第1非透過液と第2透過液を混合している当該部分が流路Dである。濾過されずに中空糸膜内部を通過した第2非透過液は流路E(103e)から廃棄又は採取した。
【0259】
循環時間は180分とし、適宜、容器内のヒト血清と透過液をサンプリングし、下記で述べるサンドイッチELISA法によって、細胞外小胞濃度を測定した。下記式(15)により計算し、小数点第1を四捨五入した値を細胞外小胞除去率とした。
細胞外小胞除去率(%)=100×(C1-C2)/C1 ・・・式(15)
ここで、C1:実験開始前の容器内のヒト血清における細胞外小胞濃度、C2:実験終了後の容器内のヒト血清における細胞外小胞濃度、である。
【0260】
溶液中のヒト血清における細胞外小胞濃度の測定は、表面マーカーとしてCD9とCD63を有する細胞外小胞を測定する場合は、「CD9/CD63 Exosome ELISAキット」(コスモ・バイオ株式会社製)を用いた。まず、本キットの抗CD9抗体が固相化されたプレートに試料液を入れ、2時間静置反応させることで、CD9陽性細胞外小胞をプレートに固定化した。
【0261】
各ウェルを洗浄後、HRP標識抗CD63抗体(検出抗体)を各ウェルに加え、2時間静置反応させることで、CD63陽性細胞外小胞に検出抗体を結合させた。再度各ウェルを洗浄後、基質液を各ウェルに加え、20分間反応させることで発色させた。反応停止液を加え、発色反応を停止させた後、プレートリーダーによって各ウェルの波長450nmの吸光度を測定することで細胞外小胞濃度を求めた。
【0262】
この際、検量線の作成には、キット付属のCD9/CD63融合タンパク質を標準物質として用いた。表面マーカーがPSとCD9を有する細胞外小胞を測定する場合は、類似のサンドイッチELISAによって定量した。
【0263】
抗ホスファチジルセリン抗体が固定化されたプレート(“PS Capture”(登録商標) Exosome ELISA Kit(Streptavidin HRP)、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、2時間、500rpmで振とう反応させた。洗浄後、検出抗体としてビオチン結合抗CD9抗体(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用い、1時間振とう反応させた。洗浄後、HRP標識ストレプトアビジンを2時間振とう反応させた。洗浄後、基質液を加え、20分静置反応させた後、主波長450nmと副波長620nmの吸光度を測定し、450nmにおける吸光度から620nmにおける吸光度を差し引いた値を用いて濃度を計算した。
【0264】
この際、検量線の作成には、ボランティアヒト新鮮血漿から磁気ビーズ(“MagCapture”(登録商標) Exosome Isolation Kit PS、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて精製した細胞外小胞含有溶液を用いた。
【0265】
細胞外小胞分離装置を用いた処理によって得られた精製液のアルブミン回収率は下記式(16)により算出した。アルブミン濃度は、BCG法を用いたキット(A/G B-テストワコー、富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて測定した。
アルブミン回収率(%)=100×(C3/C4) ・・・式(16)
ここで、C3:実験終了後の容器内のヒト血清におけるアルブミン濃度、C4:実験開始前の容器内のヒト血清におけるアルブミン濃度、である。
【0266】
図7中103eより採取した細胞外小胞含有溶液の細胞外小胞個数濃度は、Quantum Design社製「NanoSight」を用いたナノ粒子トラッキング法(解析ソフト:「NanoSight NTA3.2」)によって決定した。
【0267】
<血小板付着試験>
直径18mmのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、両面テープ上に中空糸膜を固定した。貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。中空糸膜内表面に汚れや傷、折り目が存在する場合は、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるため、測定対象から除外した。
【0268】
当該円形板を、筒状に切った直径18mmのポリプロピレン製チューブに、中空糸膜を貼り付けた面が、円筒の内側となるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。
【0269】
健常ヒトから採取した静脈血(赤血球数450万~500万個/mm3、白血球数5000~8000個/mm3、血小板20万~50万個/mm3)に、ヘパリンナトリウムを50U/mLとなるように添加した試験液を調製した。上記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、上記試験液を採血後30分以内に円筒管内に1.0mL加え、37℃にて1時間、回転数700rpmで振とうさせた。その後、中空糸膜を10mLの生理食塩水で洗浄し、2.5体積%グルタルアルデヒド/生理食塩水を加え、付着した血小板を中空糸膜に固定化した。
【0270】
1時間以上経過後、20mLの蒸留水にて洗浄した。洗浄した中空糸膜を常温(25℃)、0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この中空糸膜をSEMの試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt-Pdの薄膜を中空糸膜内表面に形成させて、血小板付着サンプルとした。
【0271】
得られた血小板付着サンプルの内表面の画像をSEM(株式会社日立サイエンス製S-3000TypeH)にて、倍率1500倍で観察し、1視野中(5.2×103μm2)の血小板数を計数した。観察視野数は1サンプルにつき20視野とし、その平均値を求めた。1視野で50個/5.2×103μm2を超えた場合は、計測不能とした。
【0272】
また、中空糸の長手方向における端の部分は、血液が滞留し、血小板付着数が安定しないため、血小板付着数の計測対象から除外した。この手順の試験を、異なる3人のヒト由来の試験液を用いて行い、その結果を平均化し、小数点第2位を四捨五入した値を、血小板付着数とした。
【0273】
[実施例1]
(第1のモジュール)
ポリスルホン(SOLVAY社製“ユーデル”(登録商標)P-3500)13質量%、PVP(ASHLAND LCC社製 ポビドン(PLASDONE) K90)7.4質量%を、DMAc76.6質量%及び水3質量%からなる溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。
【0274】
この製膜原液を37℃に調整した外径1.0mm/内径0.7mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出した。同時に芯液としてDMAc92質量%及び水8質量%からなる液を内側の管より吐出した。露点28℃に設定した長さ70mmの乾式部を通過させた後、水の入った80℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。さらに80℃の水洗浴で温水洗浄してから巻き取り枠に30m/分の速度で巻き取り、湿潤状態の中空糸膜を得た。
【0275】
得られた中空糸膜の内径は317μm、膜厚は50μmであった。得られた湿潤状態の中空糸膜を0.4mの長さに切断して小分けし、90℃の温水浴に3時間浸漬して温水洗浄した後、100℃で10時間の乾燥処理を行い、さらに乾熱乾燥機により170℃で5時間の加熱架橋処理を行って、中空糸膜1を得た。得られた中空糸膜1の内表面の平均孔深さは1.63μmであった。
【0276】
第1の中空糸膜の断面SEM画像を
図8に、内表面SEM画像を
図11に、そして外表面SEM画像を
図12にそれぞれ示す。
図8に示す通り、外表面の近傍に緻密層を有する非対称な三次元網目構造であった。
【0277】
上述の「第1の中空糸膜における緻密層の厚み測定」に記載の方法の一例を
図8~
図10を例に詳細を説明する。
図8に示す断面SEM画像の解析時の断面二値化画像を
図9に、孔径0.5μm以下の孔を削除した画像を
図10に示す。
図10において、左側の縦線は、中空糸膜外表面に引いた接線404である。
図10の点線は、外表面に引いた接線に対する垂線405である。この垂線405上において、認識された孔と孔の間の距離が長い部分を緻密層厚み403とした。
【0278】
なお、
図8~
図10において、画像の左側が中空糸膜の外表面側401であり、右側が内表面側402である。上記の方法で求めた第1の中空糸膜断面のSEM画像から求めた緻密層厚みは4.5μmであった。さらに、「中空糸膜モジュールの作製」に記載の方法で中空糸膜モジュール1を作製した。中空糸膜1の各測定の結果を表1に示す。
【0279】
第1の中空糸膜の内表面に対して血小板付着試験を行ったところ、血小板付着数は50個/5.2×103μm2以上であり、計数不能に近かったが、82個/5.2×103μm2であった。
【0280】
(第2のモジュール)
ポリスルホン(“ユーデル”(登録商標)P-3500、SOLVAY社製)19質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K90、ASHLAND LCC社製)3質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K30、ASHLAND LCC社製)6質量%を、DMAc67質量%及び水1質量%からなる溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。
【0281】
この製膜原液を50℃に調整した外径0.35mm/内径0.25mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出した。同時に芯液としてDMAc72質量%及び水28質量%からなる液を内側の管より吐出した。露点28℃に設定した長さ350mmの乾式部を通過させた後、水の入った40℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。さらに80℃の水洗浴で温水洗浄してから巻き取り枠に30m/分の速度で巻き取り、湿潤状態の中空糸膜2を得た。
【0282】
中空糸膜2を150本用いたこと以外は、「中空糸膜モジュールの作製」に記載の方法で、中空糸膜モジュール2を得た。中空糸膜モジュール2に用いた第2の中空糸膜についての測定結果を表1に示した。
【0283】
P2は0%であり、P2<P1であった。「中空糸膜表面の親水性高分子の割合測定」に記載した方法で中空糸膜2の内表面を測定した結果、内表面の親水性高分子の割合は32質量%であった。
【0284】
(細胞外小胞分離装置)
第1のモジュールとして中空糸膜モジュール1を、第2のモジュールとして中空糸膜モジュール2を、それぞれ用い細胞外小胞分離性能評価を行った。その結果、細胞外小胞の除去率は82%であり、高い分離性能を示した。また、アルブミン回収率は75%であり、大部分のアルブミンが失われずに残っていることが確認できた。
【0285】
[実施例2]
実施例1で得られた中空糸膜モジュール2に酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体(“Kollidon”(登録商標)、BASF社製、重量平均分子量45000~70000)を濃度100ppm、エタノールを濃度1000ppmとなるように溶解した水溶液を中空糸膜内側から外側に通液し、膜全体にコーティングを行った。続いて、25kGyのγ線を照射して中空糸膜モジュール3を得た。
【0286】
中空糸膜モジュール2を用いる代わりに、中空糸膜モジュール3を用いたこと以外は実施例1と同様に測定及び細胞外小胞分離性能評価を行った。測定結果を表1に示す。第2の中空糸膜表面に繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が存在しているため、アルブミン回収率に優れることが分かる。これは、第2の中空糸膜表面へのアルブミンの付着が抑制されたからであると考えられる。
【0287】
[実施例3]
実施例1で得られた中空糸膜モジュール1にビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(プロパン酸ビニルユニットのモル分率40%、重量平均分子量16500)を濃度100ppm、エタノールを濃度1000ppmとなるように溶解した水溶液を中空糸膜内側から外側に通液し、膜全体にコーティングを行った。続いて、25kGyのγ線を照射して中空糸膜モジュール4を得た。
【0288】
中空糸膜モジュール1を用いる代わりに、中空糸膜モジュール4を用いたこと以外は実施例2と同様に測定及び細胞外小胞分離性能評価を行った。測定結果を表1に示す。
【0289】
第1の中空糸膜表面及び第2の中空糸膜表面に繰り返し単位としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する親水性高分子が存在しているため、実施例1及び実施例2に比べてアルブミン回収率に優れることが分かる。これは、第1の中空糸膜及び第2の中空糸膜表面へのアルブミンの付着が抑制されたからであると考えられる。第1の中空糸膜表面に対し血小板付着試験を行った結果、血小板付着数は7個/5.2×103μm2であった。
【0290】
第2のモジュール102で濾過されずに中空糸膜内部を通過した第2非透過液を流路E(103e)から採取した。得られた第2非透過液は細胞外小胞含有溶液Aであり、細胞外小胞含有溶液A中の細胞外小胞量を、上述の、ホスファチジルセリン/CD9のサンドイッチELISA法によって定量したところ、濃度は340μg/mLであった。また、NanoSightによって細胞外小胞の個数濃度を測定したところ、6.0×109個/mLであった。
【0291】
[比較例1]
第1の中空糸膜として、旭化成メディカル社製の血漿分離器“プラズマフロー”(登録商標)から取り出した中空糸膜を用い、実施例1と同様の操作にて、中空糸膜モジュール5を得た。得られた中空糸膜モジュール5を第1のモジュールとして用いた以外は実施例2と同様の方法で細胞外小胞分離実験を行った。測定結果を表2に示す。この場合、P1は30%、細胞外小胞の除去率は23%であり、分離性能が実施例1~3よりはるかに劣るものであった。
【0292】
[比較例2]
第2のモジュールとして、中空糸膜モジュール2の代わりに中空糸膜モジュール1を用いたこと以外は実施例1と同様に細胞外小胞分離実験を行った。測定結果を表2に示す。この場合、P1=P2であり、細胞外小胞が第2の中空糸膜を透過し、細胞外小胞がヒト血清プールへ還流されたため、細胞外小胞はほとんど除去されていないことが分かる。
【0293】
[実施例4]
(第1のモジュール)
実施例3と同様の方法で得た中空糸膜モジュール4を第1のモジュールとして用いた。
【0294】
(第2のモジュール)
ポリスルホン15.5質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K90)4.5質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K30)2質量%を、DMAc77質量%及び水1質量%からなる溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。
【0295】
この製膜原液を35℃に調整した外径0.58mm/内径0.33mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出した。同時に芯液としてDMAc70質量%及び水30%からなる液を内側の管より吐出した。露点28℃に設定した長さ350mmの乾式部を通過させた後、水の入った50℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。さらに60℃の水洗浴で温水洗浄してから巻き取り枠に30m/分の速度で巻き取り、湿潤状態の中空糸膜3を得た。
【0296】
得られた中空糸膜の内径は247μm、膜厚は62μmであった。中空糸膜3を150本用いたこと以外は、「中空糸膜モジュールの作製」に記載の方法で、中空糸膜モジュール6を得た。各評価結果を表3に示す。
【0297】
[実施例5]
(第1のモジュール)
ポリスルホン15質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K90)7質量%を、DMAc75.3質量%及び水2.7質量%からなる溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。
【0298】
この製膜原液を37℃に調整した外径0.7mm/内径0.5mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出した。同時に芯液としてDMAc55質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K30)30質量%及びグリセリン15質量%からなる液を内側の管より吐出した。露点30℃に設定した長さ75mmの乾式部を通過させた後、水の入った80℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。さらに80℃の水洗浴で温水洗浄してから巻き取り枠に40m/分の速度で巻き取り、湿潤状態の中空糸膜を得た。
【0299】
得られた中空糸膜の内径は178μm、膜厚は64μmであった。得られた湿潤状態の中空糸膜を0.4mの長さに切断して小分けし、90℃の温水浴に3時間浸漬して温水洗浄した後、100℃で10時間の乾燥処理を行い、さらに乾熱乾燥機により170℃で5時間の加熱架橋処理を行って、中空糸膜4を得た。中空糸膜4を用いたこと以外は、「中空糸膜モジュールの作製」に記載の方法で、中空糸膜モジュール7を得た。
【0300】
(第2のモジュール)
実施例2と同様の方法で得た中空糸膜モジュール3を第2のモジュールとして用いた。各評価結果を表3に示す。
【0301】
[実施例6]
(第1のモジュール)
実施例3と同様の方法で得た中空糸膜モジュール4を第1のモジュールとして用いた。
【0302】
(第2のモジュール)
ポリスルホン20質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K90)6質量%、PVP(ポビドン(PLASDONE) K30)5質量%を、DMAc68質量%及び水1質量%からなる溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。
【0303】
この製膜原液を35℃に調整した外径0.58mm/内径0.33mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出した。同時に芯液としてDMAc72質量%及び水28%からなる液を内側の管より吐出した。露点28℃に設定した長さ350mmの乾式部を通過させた後、水の入った40℃の凝固浴に浸漬して凝固させた。さらに60℃の水洗浴で温水洗浄してから巻き取り枠に30m/分の速度で巻き取り、湿潤状態の中空糸膜5を得た。
【0304】
得られた中空糸膜の内径は276μm、膜厚は52μmであった。中空糸膜5を150本用いたこと以外は、「中空糸膜モジュールの作製」に記載の方法で、中空糸膜モジュール8を得た。
【0305】
各評価結果を表3に示す。試験は問題無く実施可能で、良好な細胞外小胞除去率を示したが、評価試験中に第2のモジュールの濾過側(
図7中の103c)における圧力を測定したところ、第2のモジュールの目詰まりによって負圧の-10kPaとなっていた。このことから、本発明の装置における第2の中空糸膜の透水性は、250mL/h/mmHg/m
2以上であることが好ましいことが分かる。
【0306】
[実施例7]
細胞外小胞分離性能評価に用いるヒト血清量として、20mLの替わりに60mLとし、循環時間を540分とした以外は、実施例3と同様にして細胞外小胞分離性能評価試験を行い、第2のモジュール102で濾過されずに中空糸膜内部を通過した第2非透過液を流路E(103e)から採取した。
【0307】
得られた第2非透過液は細胞外小胞含有溶液Bであり、細胞外小胞含有溶液B中の細胞外小胞量を、上述の、ホスファチジルセリン/CD9のサンドイッチELISA法によって定量したところ、濃度は910μg/mLであった。また、NanoSightによって細胞外小胞の個数濃度を測定したところ、1.6×1010個/mLであった。
【0308】
【0309】
【0310】
101・・・第1のモジュール、102・・・第2のモジュール、103a・・・流路A、103b・・・流路B、103c・・・流路C、103d・・・流路D、103e・・・流路E、201・・・中空糸膜モジュール、202・・・ケース、203・・・ポッティング材、204・・・ヘッダー、205・・・ノズル、206・・・モジュール内径、301・・・ヒト血清プール、302・・・恒温槽、303a・・・循環用ポンプ、303b・・・第1の濾過ポンプ、303c・・・第2の濾過ポンプ、401・・・外表面側、402・・・内表面側、403・・・緻密層厚みの一例、404・・・外表面に引いた接線、405・・・外表面に引いた接線に対する垂線