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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001379
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】シミュレータ装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/17 20060101AFI20231227BHJP
   B22D 17/32 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B29C45/17
B22D17/32 Z
B22D17/32 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099960
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小江 則禎
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM23
4F206AM32
4F206AP02
4F206AR02
4F206AR06
4F206JA07
4F206JF01
4F206JF23
4F206JL09
4F206JN14
4F206JP13
4F206JP14
4F206JP15
4F206JP30
4F206JQ88
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】射出駆動部の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲において、発生する負荷量の増減を正確に制御して試運転調整できるシミュレータ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】射出駆動部と連結するピストンシリンダ部と、ピストンシリンダ部と連結しピストンシリンダ部の動作を制限する負荷量を発生させる負荷量発生部と、負荷量発生部を操作するシミュレータ制御部と、を備え、シミュレータ制御部は、予め設定した負荷発生パターンに基づいて負荷量を制御し、ピストンシリンダ部を経由して射出駆動部に負荷量を作用させて試運転調整を行う。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型を型締して形成された金型キャビティに向けて、溶融状態の成形材料を射出充填する射出駆動部の試運転調整を行うシミュレータ装置において、
前記射出駆動部と連結するピストンシリンダ部と、前記ピストンシリンダ部と連結し前記ピストンシリンダ部の動作を制限する負荷量を発生させる負荷量発生部と、前記負荷量発生部を操作するシミュレータ制御部と、を備え、
前記シミュレータ制御部は、予め設定した負荷発生パターンに基づいて前記負荷量を制御し、前記ピストンシリンダ部を経由して前記射出駆動部に前記負荷量を作用させて試運転調整を行う、ことを特徴とするシミュレータ装置。
【請求項2】
前記負荷発生パターンは、前記射出充填で発生する充填抵抗とする、請求項1に記載のシミュレータ装置。
【請求項3】
前記負荷発生パターンは、前記射出駆動部の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲内で設定する、請求項1に記載のシミュレータ装置。
【請求項4】
前記ピストンシリンダ部は、作動油を貯蔵するピストン油圧室と、前記ピストン油圧室内の作動油を押圧するピストンと、前記ピストンと前記射出駆動部とを連結する連結部と、前記ピストン油圧室および前記ピストンを収納するシリンダハウジングと、を備え、
前記射出駆動部と連動して前記ピストンが前後方向に摺動し、前記ピストンの摺動に基づいて前記ピストン油圧室の作動油の圧力が変化する、請求項1に記載のシミュレータ装置。
【請求項5】
前記負荷量発生部は、作動油を貯蔵する油圧回路部と、前記油圧回路部から排出された作動油を貯蔵する油圧タンク部と、前記油圧回路部と前記油圧タンク部との間に配置される油圧サーボバルブと、サーボバルブ制御部と、を備え、
前記シミュレータ制御部は、前記負荷発生パターンに基づいて前記サーボバルブ制御部に操作指令を発信し、
前記サーボバルブ制御部は、前記操作指令に基づいて前記油圧サーボバルブを操作して作動油の排出量の調整を行い、作動油の排出量に基づいて前記油圧回路部内の作動油の圧力が変化する、請求項1に記載のシミュレータ装置。
【請求項6】
前記ピストン油圧室と前記油圧回路部の作動油が連通しており、前記ピストン油圧室および前記油圧回路部の作動油の圧力変化が連動する、請求項4または5に記載のシミュレータ装置。
【請求項7】
前記ピストン油圧室および前記油圧回路部の作動油の圧力変化を前記負荷量として、前記ピストンおよび前記連結部を経由して前記射出駆動部に作用させる、請求項6に記載のシミュレータ装置。
【請求項8】
前記ピストンの摺動位置を計測する位置センサと、前記油圧回路部内の作動油の圧力を計測する圧力センサと、をさらに備える、請求項4または5に記載のシミュレータ装置。
【請求項9】
前記シミュレータ制御部は、前記射出駆動部から発信される射出動作信号に基づいて、前記サーボバルブ制御部を操作する、請求項5に記載のシミュレータ装置。
【請求項10】
前記シミュレータ制御部は、前記位置センサおよび前記圧力センサからの計測信号に基づいて、前記サーボバルブ制御部を操作する、請求項5に記載のシミュレータ装置。
【請求項11】
前記シミュレータ制御部は、前記射出動作信号と前記計測信号を比較して前記射出駆動部および前記シミュレータ装置の異常の有無を判定する機能を備える、請求項9または10に記載のシミュレータ装置。
【請求項12】
前記ピストンの摺動と前記油圧サーボバルブの操作により、前記油圧タンク部内の作動油を前記油圧回路部および前記ピストン油圧室に供給する、請求項4または5に記載のシミュレータ装置。
【請求項13】
前記油圧タンク部に作動油を補給する作動油補給部を備える、請求項12に記載のシミュレータ装置。
【請求項14】
前記油圧タンク部の作動油を所定の温度に調整する温度調整部を備える、請求項12に記載のシミュレータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定金型と可動金型を型締して形成された金型キャビティに向けて、溶融状態の成形材料を射出充填する射出部の試運転調整を行うシミュレータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融状態の成形材料(溶融材料という)とは、樹脂材料を溶融した溶融樹脂と、金属材料を溶解した溶湯とに大別され、溶融樹脂を用いた成形を射出成形といい、溶湯を用いた成形を鋳造成形という。射出成形は、加熱調整されたシリンダバレル内にペレット状の樹脂材料を供給し、螺旋状の連続した突起がついたスクリュを回転させて、樹脂材料を可塑化溶融させながらスクリュの先端側に回転輸送し、シリンダバレル内に溶融樹脂を貯蔵する。その後、スクリュを前進させて溶融樹脂を金型キャビティ内に射出充填して、樹脂成形品(射出成形品ともいう)を製造する。射出成形品を製造する装置を射出成形機という。また、鋳造成形は、溶解炉で溶解調整した溶湯を射出スリーブ内に供給し、プランジャチップを前進させて溶湯を金型キャビティ内に射出充填して、金属成形品(鋳造品ともいう)を製造する。鋳造品を製造する装置を鋳造装置という。射出成形機と鋳造装置を合わせて成形装置という。また、溶融材料を射出充填する駆動装置を射出駆動部という。
【0003】
ここで、高品質な射出成形品および鋳造品の安定製造において、射出成形および鋳造成形を行う前に成形装置の試運転調整が行われることが好ましい。試運転調整としては、例えば、成形装置の動作確認、制御手段のゲイン調整、計測手段の校正、設備能力との誤差確認、成形装置の異常の有無確認、等の成形装置の性能検証に加えて、実際の射出成形および鋳造成形を想定した成形装置の運転条件調整、射出成形品および鋳造品の品質管理幅の調整、最適成形条件の構築、等の成形検証も含まれる。その中で、金型キャビティ内の溶融材料の充填流動は、射出成形品および鋳造品の品質に大きく関係するとして、射出駆動部の試運転調整について、多くの提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1に示すような、試運転シミュレーション装置と射出駆動部を接続し、疑似信号の送受信により射出駆動部の試運転調整を行うことが提案されている。これによると、実際の射出成形や鋳造成形を行わなくても試運転調整できるとされている。また、特許文献2に示すような、実際の射出成形を行い、射出成形機からの射出成形情報を受けて、例えば制御ゲインや制御アルゴニズムの最適化をシミュレーションする試運転調整が提案されている。また、成形装置ではないが、特許文献3に示すような、油圧駆動の油圧シリンダへの作動油の供給量を変えることで、油圧シリンダが発生する負荷量を変更して、実際の動作時の負荷量を再現させて試運転調整を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-314627号公報
【特許文献2】特開2004-175120号公報
【特許文献3】特開2006-17992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献1において、実際の射出成形や鋳造成形を行わない試運転調整(無負荷試運転調整という)であるため、実際に射出成形や鋳造成形を行った時に発生する負荷量は全く分からない。例えば、限界以上の負荷量が射出駆動部に作用すると、射出駆動部の性能は大きく低下することがある。この負荷量に応じて変動する射出駆動部の性能を正確に検証することができないので、試運転調整の結果も正確とは断定できない。その結果、高品質な射出成形品や鋳造品の安定供給を確保することは困難である。
【0007】
これに対して、特許文献2において、実際に射出成形を行う試運転調整(実成形試運転調整という)であるので、実際の射出成形における負荷量を正確に評価することができ、無負荷試運転調整よりは精度は高いと考えられる。しかしながら、使用する射出成形金型の保護の観点から、過大あるいは過小な負荷量を作用させた試運転調整はできない。例えば、過大な負荷量で射出成形を行うと、金型キャビティから溶融樹脂が噴き出す樹脂バリによって、射出成形金型を破損させるかもしれない。その結果、実成形試運転調整では、射出駆動部の設備能力の極限られた領域でしか試運転調整ができていない。試運転調整が実施されていない設備能力においては、全くの未知数である。
【0008】
また、特許文献3において、油圧シリンダへの作動油の供給量を調整することで、油圧シリンダが発生する負荷量が調整できる形態である(メータイン制御という)。一般的に、メータイン制御では、作動油の供給量の増加に応じて発生する負荷量も増加し、供給量の増加速度に応じて発生する負荷量の増加速度が増大する。そのために、負荷量の大きさや増加速度は、作動油を供給する油圧装置等の性能に依存され、瞬間的な負荷量の増加等の異常事態を想定した試運転調整は困難とされる。また、作動油の供給量を減少させても、負荷量の増加速度が小さくなるだけで、発生する負荷量を減らすことはできない。そのために、作動油の供給ラインに、ブリードボードやリターン圧力ラインと称する作動油の排出ラインを設け、この排出ラインから作動油を排出することで負荷量を減らすことができる形態となっている。つまり、負荷量の減少速度は、この排気ラインからの作動油の排出速度に依存され、制御されたものではなく、精度の高い負荷量の増減を必要とする試運転調整には好適とは言えない。
【0009】
そこで本発明は、射出駆動部の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲において、発生する負荷量の増減を正確に制御して試運転調整できるシミュレータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシミュレータ装置は、
固定金型と可動金型を型締して形成された金型キャビティに向けて、溶融状態の成形材料を射出充填する射出駆動部の試運転調整を行うシミュレータ装置において、
前記射出駆動部と連結するピストンシリンダ部と、前記ピストンシリンダ部と連結し前記ピストンシリンダ部の動作を制限する負荷量を発生させる負荷量発生部と、前記負荷量発生部を操作するシミュレータ制御部と、を備え、
前記シミュレータ制御部は、予め設定した負荷発生パターンに基づいて前記負荷量を制御し、前記ピストンシリンダ部を経由して前記射出駆動部に前記負荷量を作用させて試運転調整を行う、ことを特徴とする。
【0011】
本発明のシミュレータ装置において、
前記負荷発生パターンは、前記射出充填で発生する充填抵抗とする、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明のシミュレータ装置において
前記負荷発生パターンは、前記射出駆動部の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲内で設定する、ことが好ましい。
【0013】
本発明のシミュレータ装置において、
前記ピストンシリンダ部は、作動油を貯蔵するピストン油圧室と、前記ピストン油圧室内の作動油を押圧するピストンと、前記ピストンと前記射出部を連結する連結部と、前記ピストン油圧室および前記ピストンを収納するシリンダハウジングと、を備え、
前記射出駆動部と連動して前記ピストンが前後方向に摺動し、前記ピストンの摺動に基づいて前記ピストン油圧室の作動油の圧力が変化する、ことが好ましい。
【0014】
本発明のシミュレータ装置において、
前記負荷量発生部は、作動油を貯蔵する油圧回路部と、前記油圧回路部から排出された作動油を貯蔵する油圧タンク部と、前記油圧回路部と前記油圧タンク部との間に配置される油圧サーボバルブと、サーボバルブ制御部と、を備え、
前記シミュレータ制御部は、前記負荷発生パターンに基づいて前記サーボバルブ制御部に操作指令を発信し、
前記サーボバルブ制御部は、前記操作指令に基づいて前記油圧サーボバルブを操作して作動油の排出量の調整を行い、作動油の排出量に基づいて前記油圧回路部内の作動油の圧力が変化する、ことが好ましい。
【0015】
また、本発明のシミュレータ装置において、
前記ピストン油圧室と前記油圧回路部の作動油が連通しており、前記ピストン油圧室および前記油圧回路部の作動油の圧力変化が連動する、ことが好ましい。
【0016】
本発明のシミュレータ装置において、
前記ピストン油圧室および油圧回路部の作動油の圧力変化を前記負荷量として、前記ピストンおよび前記連結部を経由して前記射出駆動部に作用させる、ことが好ましい。
【0017】
さらに、本発明のシミュレータ装置において、
前記ピストンの摺動位置を計測する位置センサと、前記油圧回路内の作動油の圧力を計測する圧力センサと、をさらに備える、ことが好ましい。
【0018】
本発明のシミュレータ装置において、
前記シミュレータ制御部は、前記射出駆動部から発信される射出動作信号に基づいて、前記サーボバルブ制御部を操作する、ことが好ましい。
【0019】
本発明のシミュレータ装置において、
前記シミュレータ制御部は、前記位置センサおよび前記圧力センサからの計測信号に基づいて、前記サーボバルブ制御部を操作する、ことが好ましい。
【0020】
本発明のシミュレータ装置において、
前記シミュレータ制御部は、前記射出動作信号と前記計測信号を比較して前記射出駆動部および前記シミュレータ装置の異常の有無を判定する機能を備える、ことが好ましい。
【0021】
本発明のシミュレータ装置において、
前記ピストンの摺動と前記油圧サーボバルブの操作により、前記油圧タンク部内の作動油を前記油圧回路部および前記ピストン油圧室に供給する、ことが好ましい。
【0022】
また、本発明のシミュレータ装置において、
前記油圧タンク部に作動油を補給する作動油補給部を備える、ことが好ましい。
【0023】
さらに、本発明のシミュレータ装置において、
前記油圧タンク部の作動油を所定の温度に調整する温度調整部を備える、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、射出駆動部の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲において、発生する負荷量の増減を正確に制御して試運転調整できるシミュレータ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る鋳造装置を示す概念図である。
図2】本発明の実施形態に係る射出成形機を示す概念図である。
図3】本発明の実施形態に係るシミュレータ装置を示す概念図である。
図4図3に示すシミュレータ装置を用いた負荷発生パターンを示す図である。
図5】本発明に係る第1実施形態の試運転調整を示す図である。
図6】本発明に係る第2実施形態の試運転調整を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0027】
(鋳造装置)
先ず、本発明の実施形態に係る鋳造装置について、図1を用いて説明する。図1に示す鋳造装置100は、金型10と、射出部20と、射出駆動部30と、を備える。
【0028】
金型10は、図示しない型締手段に支持される固定金型11と可動金型12を備える。固定金型11と可動金型12を型締して金型キャビティ13と金型ゲート14を形成する。ここで、金型キャビティ13の表面温度および鋳造品の温度の安定化と、鋳造成形のサイクル短縮を得るために、固定金型11および可動金型12には図示しない冷却回路を含む冷却手段を設けることが好ましい。また、固定金型11あるいは可動金型12に配置される図示しない押出手段を用いて、金型キャビティ13から鋳造品を押し出す際の離型性を高めるために、離型剤等を金型キャビティ13に塗布することが好ましい。また、金型10に図示しない真空吸引手段を設けて、鋳造成形と同期させて金型キャビティ13内を真空吸引する形態としても良い。
【0029】
射出部20は、水平方向に配置された円筒状の射出スリーブ21と、射出スリーブ21内にアルミニウム合金等の溶湯Mを供給する注湯口22と、射出スリーブ21内で前後方向に摺動するプランジャチップ23と、射出駆動部30とプランジャチップ23とを連結するプランジャロッド24と、を備える。ここで、射出スリーブ21およびプランジャチップ23には、必要に応じて、冷却媒体が流れる図示しない冷却手段が設けられている。また、プランジャチップ23の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化、および溶湯Mの残渣物の付着防止等のために、射出スリーブ21とプランジャチップ23との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。また、射出スリーブ21に図示しない真空吸引手段を設けて、鋳造成形と同期させて射出スリーブ21内を真空吸引する形態としても良い。
【0030】
射出スリーブ21の先端は、金型10の金型ゲート14に接続し、金型ゲート14を介して射出スリーブ21と金型キャビティ13が連通状態となる。ここで、プランジャチップ23の摺動に関して、金型ゲート14に近づく方向を前方F、前方Fに向かう摺動を前進動作、金型ゲート14から離れる方向を後方R、後方Rに向かう摺動を後退動作、と定義する。プランジャチップ23の前進動作により、射出スリーブ21内に供給された溶湯Mは、金型ゲート14を通過して金型キャビティ13内に充満される。
【0031】
射出駆動部30は、動力部31と、制御部32と、前後進動作するロッド33と、連結部34と、を備える。連結部34によってロッド33とプランジャロッド24を連結して、射出駆動部30と射出部20を一体化させる。これによって、制御部32は、動力部31を操作してプランジャチップ23の前進動作および後退動作を制御する。ここで、動力部31は、油圧シリンダ等の油圧駆動手段、あるいは、電動モータの回転動作を直線動作に変換するボールネジ機構等を利用した電動駆動手段とする。なお、油圧駆動手段には、必要に応じてアキュムレータ等の油圧補助手段を用いても良い。また、油圧駆動手段と電動駆動手段を組合せたハイブリット式の駆動手段であっても良い。
【0032】
次に、図1に示す鋳造装置100を用いた鋳造成形について簡単に説明する。先ず、プランジャチップ23が後退動作して所定の位置に待機している間に、図示しない給湯手段を用いて、注湯口22から射出スリーブ21内に溶湯Mを供給する。その後、制御部32で動力部31を操作して、プランジャチップ23を前進動作させる。プランジャチップ23の前進動作により、射出スリーブ21内の溶湯Mは、金型ゲート14を通って金型キャビティ13内に射出充填される(射出充填工程)。この時、プランジャチップ23は、例えば、射出スリーブ21内を溶湯Mで充満させる低速射出工程と、金型キャビティ13に溶湯を充填させる高速射出工程の多段の射出速度が設定される。また、射出充填工程に続いて、金型キャビティ13に充満された溶湯Mの密度を高める増圧工程と、溶湯Mの冷却に伴う凝固収縮を補う保圧工程に続く。この増圧工程および保圧工程は、プランジャチップ23の前進圧力(鋳造圧力という)の増減で制御する。また、射出充填工程においても、金型キャビティ13内への溶湯Mの充満に伴う充填抵抗の増加に対して、鋳造圧力も同時に制御される。この保圧工程の状態で冷却保持させる(冷却工程)。なお、増圧工程と保圧工程を合わせて増圧工程ということもある。
【0033】
また、射出充填工程から保圧工程において、射出スリーブ21の熱変形や溶湯残渣物の付着、射出スリーブ21内および金型キャビティ13内での溶湯Mの充填流動の乱れ、高速射出による過大な鋳造圧力の発生(サージ圧という)、時間経過に伴う溶湯Mの冷却、金型10および射出スリーブ21の温度変化等の多くの外乱因子により、射出速度および鋳造圧力は緻密な制御が求められる。冷却工程後は、金型10を型開して金型キャビティ13から鋳造品を取り出す(取出し工程)。この取出し工程においても、プランジャチップ23の前後進動作の微調整を行って鋳造品の取出しを補助することがある。
【0034】
ここで、高品質な鋳造品の安定供給を実現するためには、実際の鋳造成形で発生する溶湯Mの充填抵抗や密度アップに必要な鋳造圧力等の負荷量、および、射出速度や外乱因子等によって負荷量の変動を正確に再現させて、射出駆動部30の性能評価を行う試運転調整を行うことが好ましい。なお、実際の鋳造成形で行う試運転調整(実成形試運転調整)では、射出駆動部30の設備能力の極限られた領域でしか試運転調整ができていない。射出駆動部30の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲を実成形試運転調整するには、膨大な数の金型10を用いて鋳造成形を行わなければならず好ましくない。また、金型10の能力を超えた負荷量を無理矢理に発生させて行う実成形試運転調整では、金型10の致命的な破損が生じる危険性が高く、これも好ましくない。そのために、本発明において、使用する金型10の能力に関係なく、射出駆動部30の設備能力最大値および最小値を含む全ての範囲において、発生する負荷量の増減や変動を正確に制御して試運転調整できるシミュレータ装置を提供することを目的とする。詳しくは、図3から図6を用いて説明する。
【0035】
(射出成形機)
次に、本発明の実施形態に係る射出成形機について、図2を用いて説明する。図2に示す射出成形機200は、金型40と、射出部50と、射出駆動部60と、を備える。
【0036】
金型40は、図示しない型締手段に支持される固定金型41と可動金型42を備える。固定金型41と可動金型42を型締して金型キャビティ43と金型ゲート44を形成する。ここで、金型キャビティ43の表面温度および射出成形品の温度の安定化と、射出成形のサイクル短縮を得るために、固定金型41および可動金型42には図示しない冷却回路を含む冷却手段を設けることが好ましい。また、固定金型41あるいは可動金型42に配置される図示しない押出手段を用いて、金型キャビティ43から射出成形品を押し出す際の離型性を高めるために、離型剤等を金型キャビティ43に塗布することもある。また、金型40に図示しない真空吸引手段を設けて、射出成形と同期させて金型キャビティ43内を真空吸引する形態としても良い。
【0037】
射出部50は、水平方向に配置された円筒状のシリンダバレル51と、シリンダバレル51内に熱可塑性樹脂等の樹脂ペレットを供給する材料ホッパ52と、シリンダバレル51内で回転動作と前後方向に摺動するスクリュ53と、を備える。ここで、シリンダバレル51には、ヒータ等の加熱手段が配置され、所定の温度に加熱保持される。また、射出成形と同期させて、例えば、図示しない真空吸引手段を用いて、材料ホッパ52からシリンダバレル51内を真空吸引する、あるいは、図示しない不活性ガス供給手段を用いて、材料ホッパ52からシリンダバレル51内に不活性ガスを供給するとしても良い。
【0038】
シリンダバレル51の先端は、金型40の金型ゲート44に連通するホットランナ回路45に接続し、ホットランナ回路45および金型ゲート44を介して、シリンダバレル51と金型キャビティ43が連通状態となる。ここで、スクリュ53の摺動に関して、ホットランナ回路45に近づく方向を前方F、前方Fに向かう摺動を前進動作、ホットランナ回路45から離れる方向を後方R、後方Rに向かう摺動を後退動作、と定義する。
【0039】
スクリュ53は、後方Rから前方Fに向かって連続した螺旋状の突起(スクリュフライトという)を有し、スクリュ53の回転動作によりスクリュフライトが回転し、材料ホッパ52から供給された樹脂ペレットをスクリュ53の前方Fに回転輸送する。加熱保持されたシリンダバレル51からの熱量と、スクリュ53の回転運動によるせん断発熱量によって、樹脂ペレットは次第に溶融し溶融樹脂Pが生成される(可塑化溶融という)。溶融樹脂Pは、さらにスクリュ53の前方F側に回転輸送され、スクリュ先端部品54を通過してシリンダバレル51の前方Fの先端部に貯蔵される。溶融樹脂Pの貯蔵に伴い、スクリュ53は回転動作を継続して後方R側に後退動作する。このスクリュ53の後退動作に抵抗力を負荷して溶融樹脂Pの密度を調整する(背圧制御という)。スクリュ53が所定の位置まで後退動作すると、回転動作を停止し、その位置でスクリュ53を位置保持する(計量完了位置という)。このスクリュ53の回転動作の開始から停止までを計量工程という。
【0040】
シリンダバレル51の前方F側の先端部に貯蔵された溶融樹脂Pは、スクリュ53の前進動作により、ホットランナ回路45および金型ゲート44を通って、金型キャビティ43内に充満される。なお、スクリュ先端部54は、計量工程において溶融樹脂Pが後方Rから前方Fに向かって通過する流路が開放され、スクリュ53の前進動作において流路が閉鎖される構成である。
【0041】
射出駆動部60は、動力部61と、制御部62と、前後進動作するロッド63と、連結部64と、を備える。連結部64によってロッド63とスクリュ53を連結して、射出駆動部60と射出部50を一体化させる。これによって、制御部62は、動力部61を操作してスクリュ53の前進動作と後退動作および回転動作を制御する。ここで、動力部61は、油圧シリンダ等の油圧駆動手段、あるいは、電動モータの回転動作を直線動作に変換するボールネジ機構等を利用した電動駆動手段とする。なお、油圧駆動手段には、必要に応じてアキュムレータ等の油圧補助手段を用いても良い。また、油圧駆動手段と電動駆動手段を組合せたハイブリット駆動手段であっても良い。
【0042】
次に、図2に示す射出成形機200を用いた射出成形について簡単に説明する。先ず、材料ホッパ52から供給された樹脂ペレットは、計量工程によりシリンダバレル51内に溶融樹脂Pとして貯蔵される(計量樹脂という)。計量工程は、制御部62で動力部61を操作して、スクリュ53の回転動作の回転速度制御と背圧制御を行う。次いで、制御部62で動力部61を操作して、スクリュ53を前進動作させ、計量樹脂を金型キャビティ43に向けて射出充填する(射出充填工程)。この射出充填工程は、スクリュ53の前進動作の前進速度を多段の射出速度に制御して、金型キャビティ43内の溶融樹脂Pの流動を適正に調整する。また、金型キャビティ43内の溶融樹脂Pの流動の増加に伴い、充填抵抗も増加するために、スクリュ53の前進圧力(射出圧力という)を適正に制御する。
【0043】
射出充填工程に続いて、金型キャビティ43に射出充填した溶融樹脂Pの密度調整と、冷却に伴う固化収縮量を補う保圧工程(スクリュ53の前進圧力の調整)と、保圧工程を維持した状態で所定時間を保持する冷却工程が行われる。冷却工程後は、金型40を型開して金型キャビティ43から射出成形品を取り出す(取出し工程)。また、冷却工程の間に計量工程を行い、次ショットの射出成形の準備を行う。
【0044】
ここで、可塑化溶融した溶融樹脂Pは、時間の経過と共に酸化劣化や熱分解劣化が進んで、例えば、射出充填工程の流動状態や保圧工程の冷却固化収縮挙動が変化する。また、過度な射出速度の設定により、サージ圧が発生したり、せん断発熱により充填抵抗が大きく変化したりする。また、金型40およびシリンダバレル51の温度変化、計量樹脂の温度変動、樹脂ペレットの組成変動等により、溶融樹脂Pの流動状態は細かく変化する。
【0045】
そのために、高品質な射出成形品の安定供給を実現するためには、実際の射出成形で発生する溶融樹脂Pの充填抵抗や密度アップに必要な射出圧力の負荷量、および、射出速度や外乱因子等によって変動する負荷量を正確に再現させて、射出駆動部60の試運転調整を行うことが好ましい。なお、実際の射出成形で行う試運転調整(実成形試運転調整)では、射出駆動部60の設備能力の極限られた領域でしか試運転調整ができていない。射出駆動部60の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲を実成形試運転調整するには、膨大な数の金型40を用いて射出成形を行わなければならず好ましくない。また、金型40の能力を超えた負荷量を無理矢理に発生させて行う実成形試運転調整では、金型40の致命的な破損が生じる危険性が高く、これも好ましくない。さらに、過度の負荷量を発生させた場合、溶融樹脂Pは物性を大きく変化させ予想のつかない結果を示すことがある。こういった現象を含めて範囲を広げて試運転調整を行うことで、想定外の事態に対する処置方法の確認を行うことができる。そのために、本発明において、使用する金型40の能力に関係なく、また使用する樹脂材料の物性に関係なく、射出駆動部60の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲において、発生する負荷量の増減や変動を正確に制御して試運転調整できるシミュレータ装置を提供することを目的とする。詳しくは、図3から図6を用いて説明する。
【0046】
(シミュレータ装置)
次に、本発明の実施形態に係るシミュレータ装置について、図3を用いて説明する。図3に示すシミュレータ装置700は、鋳造装置100あるいは射出成形機200の射出駆動部(30、60)と連結するピストンシリンダ部70と、ピストンシリンダ部70と連結しピストンシリンダ部70の動作を制限する負荷量を発生させる負荷量発生部80と、負荷量発生部80を操作するシミュレータ制御部90と、を備える。
【0047】
ピストンシリンダ部70は、作動油Lを貯蔵するピストン油圧室75と、ピストン油圧室75内の作動油Lを押圧するピストン72と、射出駆動部(30、60)のロッド(33、63)とピストン72を連結する連結部74と、ピストン油圧室75とピストン72を収納するシリンダハウジング71と、を備える。連結部74を用いてシミュレータ装置700と射出駆動部(30、60)を連結することにより、射出駆動部(30、60)の制御部(32、62)で操作する動力部(31、61)の動作に応じて、シミュレータ装置700のピストン72が摺動し、ピストン油圧室75内の作動油Lの押圧が変化する。その結果、ピストン油圧室75内の作動油Lが圧力変化する。例えば、油圧シリンダ等の油圧駆動手段の作動油の供給量を制御するメータイン制御と同じ原理である。
【0048】
連結部74は、鋳造装置100あるいは射出成形機200の連結部(34、64)を兼用しても良い。また、ピストン72の摺動に関して、鋳造装置100あるいは射出成形機200で定義した、前方F、前進動作、後方R、後退動作、と同じとする。連結部74は、ピストン72の後方Rの端部に配置される。
【0049】
負荷量発生部80は、作動油Lを貯蔵する油圧回路部81と、油圧回路部81から排出された作動油Lを貯蔵する油圧タンク部84と、油圧回路部81と油圧タンク部84の間に配置され作動油Lの排出タイミングと排出量および排出速度を調整する油圧サーボバルブ82と、油圧サーボバルブ82の操作を行うサーボバルブ制御部83と、を備える。油圧回路部81の作動油Lとピストン油圧室75の作動油Lは連通して密閉状態であるので、ピストン72の摺動によるピストン油圧室75内の作動油Lの圧力変化と連動して、油圧回路部81内の作動油Lが圧力変化する。
【0050】
例えば、ピストン72が前進動作すると、ピストン油圧室75および油圧回路部81内の作動油Lが押圧されて圧力が上昇する。逆に、ピストン72が後退動作すると、ピストン油圧室75および油圧回路部81内の作動油Lは、押圧から開放されて圧力が低下する。このように、ピストン72の前進動作または後退動作によって、ピストン油圧室75および油圧回路部81内の作動油Lの圧力が上昇または低下する。また、ピストン72の前進速度または後退速度によって、作動油Lの圧力の上昇速度または低下速度が変化する。この作動油Lの圧力変化を負荷量として、ピストン72および連結部74を経由して射出駆動部(30、60)に作用させる。ピストン72の前進動作および後退動作は、射出駆動部(30、60)によって行われるので、射出駆動部(30、60)の動作に応じて負荷量が発生し、負荷量が変化することになる。
【0051】
また、サーボバルブ制御部83で油圧サーボバルブ82を操作して、油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lを油圧タンク部84に向けて排出する排出調整によって、油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lを圧力変化させて、負荷量の変化を制御することができる。例えば、油圧シリンダ等の油圧駆動手段の作動油の排出量を制御するメータアウト制御と同じ原理である。油圧サーボバルブ82を最大に開放して、作動油Lの排出量を最大とすることで、作動油Lの圧力を大きく低下させることができる(負荷量の低下)。また、油圧サーボバルブ82を完全に閉鎖して、作動油Lの排出量をゼロとすることで、作動油Lの圧力を大きく上昇させることができる(負荷量の上昇)。また、油圧サーボバルブ82を全開および全閉の範囲内で調整することで、作動油Lの圧力を微調整できる(負荷量の微調整)。また、油圧サーボバルブ82の開放および閉鎖の速度を可変することで、作動油Lの圧力変化の速度を調整することができる(負荷量の変化速度の調整)。
【0052】
さらに、ピストン72の摺動による作動油Lの圧力変化(メータイン制御)と、油圧サーボバルブ82の操作による作動油Lの圧力変化(メータアウト制御)を組合せることによって、負荷量の調整範囲をさらに広く設定することができる。いずれの調整手段においても、ピストンシリンダ部70のピストン72および連結部74を経由して、射出駆動部(30、60)に負荷量を作用させて試運転調整を行う。
【0053】
シミュレータ制御部90は、予め設定した負荷発生パターンに基づいて、サーボバルブ制御部83に操作指令を発信する。サーボバルブ制御部83は、操作指令に基づいて油圧サーボバルブ82を操作して、油圧タンク部84への作動油Lの排出量を調整して、油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lの圧力変化(負荷量の変化)を制御する。この負荷発生パターンは、シミュレータ制御部90および射出駆動部(30、60)の制御部(32、62)のいずれかに設定される。シミュレータ制御部90に設定された場合は、射出駆動部(30、60)の動作とは連動せずに負荷量の変化が調整される。また、制御部(32、62)に設定された場合は、制御部(32、62)からシミュレータ制御部90に向けて操作指定を送信し、シミュレータ制御部90を中継して油圧サーボバルブ82が操作され、射出駆動部(30、60)の動作と連動して負荷量の変化が調整される。また、例えば、シミュレータ制御部90と制御部(32、62)に異なる負荷発生パターンを設定して、射出駆動部(30、60)とシミュレータ装置700の両方で負荷量の変化を調整するとしても良い。
【0054】
さらに、シミュレータ制御部90は、ピストン72の前進動作および後退動作の位置を計測する位置センサSSと、油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lの圧力を計測する油圧センサPSと、を備えるとしても良い。この2つのセンサ(SS、PS)からの計測信号とシミュレータ制御部90に設定された負荷発生パターンに基づいて、油圧サーボバルブ82を操作して負荷量の変化を調整する形態であっても良い。この場合は、シミュレータ装置700での単独動作を可能とする。これによって、例えば、金型(10、40)の代わりに、シミュレータ装置700を用いて試運転調整を行う場合に好適である。金型(10、40)に許容される負荷量の範囲を超えて試運転調整を行ったとしても、金型(10、40)を破損させることがないので、射出駆動部(30、60)の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲において試運転調整を可能とする。
【0055】
また、シミュレータ制御部90は、位置センサSSおよび圧力センサPSからの計測信号と射出駆動部(30、60)からの動作信号を比較して、射出駆動部(30、60)またはシミュレータ装置700の異常の有無の判定を行う機能を備える形態であっても良い。例えば、射出駆動部(30、60)に異常が潜んでいることを知らずに、鋳造成形あるいは射出成形の量産運転を開始して、品質が低下した鋳造品あるいは射出成形品を無駄に生産することを未然に防止することができる。または、シミュレータ装置700に異常があることを知らずに試運転調整を行った結果、射出駆動部(30、60)は適切でない試運転調整となり、これによって不良品を多発することを未然に防止することができる。
【0056】
また、ピストン72の後退動作と連動させて、油圧サーボバルブ82を開放することによって、油圧タンク部84に貯蔵された作動油Lを油圧回路部81およびピストン油圧室75内に供給する形態としても良い。この場合、作動油Lは、シミュレータ装置700内で循環再利用できるので、省エネ性に優れた試運転調整として環境保護に好適である。
【0057】
また、油圧タンク部84に作動油補給部85を設ける。この作動油補給部85から、例えば、図示しない給油手段を用いて、油圧タンク部84内に作動油Lを補給する。または、鋳造装置100あるいは射出成形機200と作動油補給部85を接続して、鋳造装置100あるいは射出成形機200から油圧タンク部84内に作動油Lを補給するとしても良い。油圧タンク部84に補給された作動油Lは、ピストン72の後退動作と油圧サーボバルブ82の操作により、油圧回路部81およびピストン油圧室75内へ作動油Lの補給を容易とする。
【0058】
また、油圧タンク部84に貯蔵される作動油Lを所定の温度に調整する温度調整部86を、油圧タンク部84に設ける。油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lは、ピストン72の押圧等により圧力が変動し、その結果、作動油Lの温度も変動する。温度が変動した作動油Lが、油圧サーボバルブ82を通過して油圧タンク部84に流入することで、油圧タンク部84内の作動油Lの温度も変動する。作動油Lの温度が極端に変動すれば、負荷量が変動することがある。そのために、作動油Lの温度を安定させる必要があり、油圧タンク部84に温度調整部86を設けて、油圧タンク部84内の作動油Lの温度の安定化を図る。温度が安定した作動油Lを、油圧タンク部84から油圧回路部81に向けて戻せば、油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lの温度が安定する。なお、給油手段や鋳造装置100あるいは射出成形機200から作動油Lを補給する場合は、給油手段や鋳造装置100あるいは射出成形機200に温度調整手段を設ける形態としても良い。
【0059】
ここで、油圧サーボバルブ82は、例えば、電動サーボモータの回転運動をボールネジ機構等で直線運動に変換し、前後進移動するスプール部品の移動位置を調整して、作動油Lの排出量を制御する電動駆動のサーボバルブとする。この場合、油圧サーボバルブ82の開放や閉鎖の応答性や精度が高く、負荷量の調整範囲を広く設定する手段として好適である。また、応答性や制御が満足できる場合には、油圧の差圧を利用してスプール部品の前後進動作を調整する油圧駆動のサーボバルブ、あるいは、電磁駆動式の流量調整バルブ等の代替え手段を用いても良い。
【0060】
(負荷発生パターン)
次に、図3に示すシミュレータ装置700を用いた負荷発生パターンについて、図4を用いて説明する。横軸は経過時間とし、縦軸は油圧サーボバルブ82の開度および作動油Lの圧力変化(発生負荷量)とした。横軸および縦軸ともに、矢印の方向に大きくなる。なお、鋳造装置100の射出駆動部30の試運転調整とした場合では、横軸をプランジャチップ23の前進動作の位置としても良い。また、射出成形機200の射出駆動部60の試運転調整とした場合では、横軸をスクリュ53の前進動作の位置としても良い。鋳造装置100および射出成形機200を合わせて、横軸を射出ストロークと表現しても良い。また、説明を簡素化するために、射出駆動部(30、60)と連動したピストン72の前進速度が一定の条件とした。なお、ここでは負荷発生パターンの一例について示しており、これに限定されるものではない。
【0061】
先ず、図4(a)に示すように、例えば、金型キャビティ(13、43)内に溶湯Mまたは溶融樹脂Pの射出充填に伴い、増大する充填抵抗の挙動をイメージした基本的な負荷発生パターンについて説明する。油圧サーボバルブ82を開度V1に大きく設定すると、ピストン72の前進動作による作動油Lの押圧に対して、油圧タンク部84側に排出される作動油Lの排出量が多くなる。その結果、油圧回路部81およびピストン油圧室75の作動油Lの圧力は低下し、小さい負荷量K1を示す。続いて、経過時間T1からT2に向かって、油圧サーボバルブ82を開度V1からV2に小さく設定する(V1>V2)。この操作によって、作動油Lの排出量に対してピストン72による作動油Lの押圧が大きくなって、作動油Lの圧力は上昇し、負荷量K1からK2に上昇する(K1<K2)。また、経過時間(T1、T2)の間隔を広げると、負荷量(K1、K2)の変化速度は遅くなり、経過時間(T1、T2)の間隔を小さくすると、負荷量(K1、K2)の変化速度を速くすることができる。
【0062】
このように、ピストン72の前進速度が一定の条件において、油圧サーボバルブ82を操作することで、負荷量(K1、K2)の変化を自在に制御することができる。これにより、実際に鋳造成形や射出成形を行わなくても、射出駆動部(30、60)の試運転調整の精度を高めることができる。なお、油圧サーボバルブ82の開度を一定としてピストン72の前進速度を可変することでも、負荷量(K1、K2)を調整することができる。
【0063】
次に、図4(b)に示すように、例えば、実際の鋳造成形や射出成形では再現することができない異常な運転状態をイメージした負荷発生パターンについて説明する。油圧サーボバルブ82を開度V3で保持させて、安定した運転状態の負荷量K3を示した状態から、異常な運転状態を開始する。例えば、射出充填中に金型キャビティ(13、43)内で溶湯Mあるいは溶融樹脂Pが詰まって流動が急停止した異常状態、または、金型キャビティ(13、43)内に溶湯Mあるいは溶融樹脂Pが過充填された異常状態を再現させる。金型(10、40)を用いた試運転調整では、金型(10、40)の破損が心配されるので、意図的には設定されない。金型(10、40)の代わりにシミュレータ装置700を用いることで、異常状態を安心して再現することができる。経過時間T3からT4に向かって、油圧サーボバルブ82を開度V4(全閉状態)に変更する。その結果、安定した負荷量K3から限界の負荷量K4に上昇する。経過時間(T3、T4)の間隔を小さくすると、負荷量(K3、K4)の急激な上昇となる。高速射出の運転状態では、射出圧力が急上昇し危険な状態となる(サージ圧という)。負荷量K4は、このサージ圧に相当する。
【0064】
また、経過時間T5から油圧サーボバルブ82を開度V5に大きくして、負荷量K5に低下させる。経過時間(T4、T5)の間隔を調整することで、負荷量(K4、K5)の変化速度が制御される。この操作によって、例えば、詰まっていた溶湯Mあるいは溶融樹脂Pが動いて流動が再開した異常状態、または、型締力が負けて金型(10、40)が開いて溶湯Mあるいは溶融樹脂Pが金型キャビティ(13、43)から噴出した異常状態を再現させることができる。これによって、負荷量が急激に増加および減少することによる射出駆動部(30、60)の挙動を試運転検証することができる。
【0065】
さらに、経過時間T6からは、油圧サーボバルブ82を開度V6のように小刻みに増減させる(振動現象またはハンチング現象という)。その結果、負荷量K6も小刻みに振動しハンチング現象を正確に再現することができる。この操作は、例えば、鋳造装置100の射出スリーブ21内に溶湯Mの残渣物等が蓄積して、この溶湯残渣物とプランジャチップ23とが擦れて、プランジャチップ23の前進動作が振動する不安定な状態をイメージする。または、溶湯Mの熱量によって射出スリーブ21が大きく湾曲状に熱変形することで(バナナ変形という)、プランジャチップ23の前進動作が抵抗を受けて振動する不安定な状態をイメージする。あるいは、射出成形機200のスクリュ先端部品54とシリンダバレル51とが強く擦れながらスクリュ53が前進動作することで生じる振動する異常な状態をイメージする。開度V6の微調整により負荷量K6のハンチング現象の振幅や大きさを自在に制御することができ、このような異常状態における射出駆動部(30、60)の試運転検証を正確に行うことができる。
【0066】
(第1実施形態の試運転調整)
次に、本発明に係る第1実施形態の試運転調整について、図5を用いて説明する。実際の鋳造成形や射出成形において、金型キャビティ(13、43)に向けて溶湯Mまたは溶融樹脂Pを射出充填する際に発生する充填抵抗の変化を負荷発生パターンとして、射出駆動部(30、60)またはシミュレータ制御部90に設定して試運転調整を行う。この充填抵抗の変化は、例えば、解析モデルを用いた流動解析ソフト等の公知の解析手段を用いて求めるとしても良く、あるいは、過去の鋳造成形や射出成形の実績等から求めるとしても良い。図5は、説明を簡素化するために、鋳造装置100の射出駆動部30とシミュレータ装置700を連結して試運転調整を行う形態を示す。射出成形機200の場合も同様と考えてよい。横軸は射出ストロークとし、図5(a)の縦軸は射出速度の設定値を示し、図5(b)の縦軸は射出速度および鋳造圧力の実測値を示す。
【0067】
先ず、図5(a)に示すように、金型キャビティ13内に溶湯Mを射出充填する鋳造成形の射出充填工程について、プランジャチップ23の前進動作を射出速度パターンとして設定する。この射出速度パターンは、例えば、流動解析ソフト等の解析手段を用いて求める。最初に、低速の射出速度V1を設定してピストン72を前進動作させる(低速射出工程を想定)。ピストン72の前進動作は、射出駆動部30の動力部31の操作により行われる。次に、射出ストロークS1からS2に向けて、高速の射出速度V2を設定してピストン72の前進動作を継続させる(高速射出工程を想定)。この射出ストロークS1とS2の間隔は、ピストン72の加速度を示す。射出ストロークS4まで高速の射出速度V2でピストン72の前進動作を継続させる(射出充填工程の完了を想定)。
【0068】
次に、図5(b)に示すように、シミュレータ装置700の位置センサSSおよび圧力センサPSで計測した射出速度および鋳造圧力の実測値を波形表示する。なお、射出駆動部30で計測した実測値を用いても良い。設定値の射出速度(V1、V2)に対して実測値の射出速度(Z1、Z2)である。ここで、低速射出工程および高速射出工程の射出充填工程において、油圧サーボバルブ82の開度を一定とする。その結果、射出速度(Z1、Z2)に応じて、油圧回路部81およびピストン油圧室75内の作動油Lの圧力が変化する。計測された作動油Lの圧力を実測値の鋳造圧力として、低速の射出速度Z1では鋳造圧力P1も低い数値を示し、高速の射出速度Z2では高い数値の鋳造圧力P2を示す。なお、鋳造圧力(P1、P2)は充填抵抗をイメージする。
【0069】
ここで、例えば、金型キャビティ13が複雑な形状であって、溶湯Mが流動する流路が狭くなっている箇所があると、その個所を溶湯Mが通過する際の充填抵抗が増加し、増加した充填抵抗(鋳造圧力P3)に負けて射出ストロークS3以降に射出速度Z2からZ3に低下する。その結果、金型キャビティ13内に溶湯Mの充填不良が生じ、製品ショートや湯ジワおよび鋳巣等の鋳造不良となる。鋳造不良を回避するためには、充填抵抗の増加に応じて射出駆動部30を調整して、射出速度Z2を維持する試運転調整を必要とする。金型10を用いた実際の鋳造成形を行って試運転調整する場合では(実成形試運転調整)、鋳造条件を細かく調整して繰返しの鋳造成形を行うことになり、大量の溶湯を消費し、長時間の試運転調整を必要とし、多くの無駄が生じて効率が著しく低下する。
【0070】
そこで、シミュレータ装置700を用いて、充填抵抗の増加による射出速度の低下を再現させて、射出速度Z2を維持できる射出駆動部30の調整を行うものとする。充填抵抗が増加するタイミングや増加量および射出速度の低下等は、解析手段を用いて求めることができる。具体的には、射出ストロークS3で油圧サーボバルブ82の開度を小さく設定する。その結果、鋳造圧力P2からP3に増加し、射出速度Z2からZ3に低下することが精度良く再現できる。次に、射出速度Z2を維持できるように、射出ストロークS3以降の射出速度の設定値を調整する。その結果、図5(a)の破線で示す射出速度V3に設定して、図5(b)の破線で示す射出速度Z4(Z2≒Z4)を得る。
【0071】
このように、実際の鋳造成形あるいは射出成形で生じる可能性のある成形動作をシミュレータ装置700で正確に再現させて、射出駆動部(30、60)の試運転調整を行うことができる。これにより、試運転調整の精度を高めるとともに、無駄を省き効率の良い試運転調整を提供することができる。
【0072】
(第2実施形態の試運転調整)
次に、本発明に係る第2実施形態の試運転調整について、図6を用いて説明する。実成形試運転調整では、例えば、金型(10、40)の保護の観点から、限定された条件範囲となり、その結果、射出駆動部(30、60)の設備能力の限られた範囲での試運転検証となる。設備能力最大値および最小値を含む全ての範囲を用いた試運転調整を行うとすれば、溶湯Mおよび溶融樹脂Pの成形材料や金型(10、40)を数多く用いて、実成形試運転調整を繰り返し行うことになり、多くの無駄が生じ好ましくない。そこで、シミュレータ装置700を用いて、射出駆動部(30、60)の設備能力の最大値および最小値を含む全ての範囲を用いて負荷発生パターンを設定する試運転調整について説明する。なお、説明を簡素化するために、図6は鋳造装置100の射出駆動部30とシミュレータ装置700を連結して試運転調整を行う形態を示す。射出成形機200の試運転調整の場合も同様であると考えてよい。横軸は射出ストロークとし、図6(a)の縦軸は射出速度を示し、図6(b)の縦軸は鋳造圧力を示す。
【0073】
先ず、図6(a)に示すように、射出駆動部30の設備能力(射出速度)の最大値VHおよび最小値VLに対して、実成形試運転調整で使用する範囲は、斜線で囲まれた領域Aのイメージである。つまり、領域Aから外れる範囲は試運転調整が行われていないために、仮に、外れた範囲の金型10を用いて鋳造成形を行うとした場合、高品質な鋳造品の安定生産を保証することができない。そのために、例えば、最小値VLよりも小さい射出速度V4を設定し、また最大値VHよりも大きい射出速度V5を設定し、さらに射出ストロークS5とS6を限界まで小さくして加速度を極限まで高めた負荷発生パターンを設定して試運転調整を行う。射出速度および加速度の設定値と実測値の誤差に基づいて、射出駆動部30の制御パラメータ等の微調整を行う。また、低速から高速への射出速度の切り替え応答性、実際の加速度、射出速度のオーバシュート、射出速度の静定時間等の限界数値を把握することができる。
【0074】
次に、図6(b)に示すように、射出駆動部30の設備能力(鋳造圧力)の最大値PHおよび最小値PLに対して、実成形試運転調整で使用する範囲は、斜線で囲まれた領域Bのイメージであり、領域Bから外れる範囲は試運転調整が行われていない。そこで、図6(a)と同様に、最小値PLよりも小さい鋳造圧力P4を設定し、また最大値PHよりも大きい鋳造圧力P5を設定し、さらに射出ストロークS7とS8で表現される加速度を限界まで高めた負荷発生パターンを設定して試運転調整を行う。鋳造圧力および加速度の設定値と実測値の誤差に基づいて、射出駆動部30の制御パラメータ等の微調整を行う。また、低圧から高圧への射出圧力の切替え応答性、実際の加速度、鋳造圧力のオーバシュートまたは低下、鋳造圧力の静定時間等の限界数値を把握することができる。
【0075】
図6(a)および(b)により、射出駆動部(30、60)の設備能力の最大値および最小値を含む全ての全範囲において、精度の高い試運転調整を行うことができる。また、設備能力と実測値がほぼ同等となる設定値を求め、これを調整後の最大値および最小値とすることで、射出駆動部(30、60)の真の実力値を把握することができ、高精度な鋳造成形を可能とする保証範囲を明確にすることができる。
【0076】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
100 鋳造装置
10、40 金型
11、41 固定金型
12、42 可動金型
13、43 金型キャビティ
14、44 金型ゲート
20、50 射出部
21 射出スリーブ
22 注湯口
23 プランジャチップ
24 プランジャロッド
30、60 射出駆動部
31、61 動力部
32、62 制御部
33、63 ロッド
34、64、74 連結部
45 ホットランナ回路
51 シリンダバレル
52 材料ホッパ
53 スクリュ
54 スクリュ先端部品
200 射出成形機
700 シミュレータ装置
70 ピストンシリンダ部
71 シリンダハウジング
72 ピストン
74 連結部
75 ピストン油圧室
80 負荷量発生部
81 油圧回路部
82 油圧サーボバルブ
83 サーボバルブ制御部
84 油圧タンク部
85 作動油補給部
86 温度調整部
90 シミュレータ制御部
M 溶湯
P 溶融樹脂
F 前方
R 後方
L 作動油
SS 位置センサ
PS 圧力センサ
T1~T6 経過時間
V1~V6 開度
K1~K6 負荷量
S1~S8 射出ストローク
V1~V5 射出速度(設定値)
Z1~Z4 射出速度(実測値)
P1~P5 鋳造圧力
VH、PH 最大値
VL、PL 最小値
A、B 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6