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特開2024-137948生体適合性が改善され、かつ親水性ポリマーの溶出が低減された中空繊維膜
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  • 特開-生体適合性が改善され、かつ親水性ポリマーの溶出が低減された中空繊維膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137948
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】生体適合性が改善され、かつ親水性ポリマーの溶出が低減された中空繊維膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20240927BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240927BHJP
   B01D 61/28 20060101ALI20240927BHJP
   A61M 1/18 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D71/68
B01D71/44
B01D69/02
B01D61/28
A61M1/18 500
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024095806
(22)【出願日】2024-06-13
(62)【分割の表示】P 2022166088の分割
【原出願日】2018-01-31
(31)【優先権主張番号】102017201630.2
(32)【優先日】2017-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】パウル ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】フィスラーゲ ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ハンゼル ディートマー
(57)【要約】
【課題】改善された生体適合性を有する中空繊維膜の提供。
【解決手段】本発明は、水不溶性抗酸化剤を含有する疎水性及び親水性ポリマーベースの中空繊維膜を提供することに関連し、特に、本発明は、血液の体外処置のための中空繊維膜を提供することに関連し、中空繊維膜は、処置血液に関して改善された生体適合性を有し、特に、処置血液に対して改善された補体活性化及びより低い血小板損失を有する。同時に、中空繊維膜のルーメンからの親水性ポリマーの溶出が低減される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマー及び親水性ポリマーと、少なくとも1つの非プロトン極性溶媒と、1つの水不溶性抗酸化剤とを含む少なくとも1つの紡糸塊を調製する段階と、
少なくとも1つの非プロトン極性溶媒及び/又は少なくとも1つの非溶媒、特に水を含む少なくとも1つの凝固剤を調製する段階と、
前記紡糸塊を紡糸口金の少なくとも1つの環状間隙に通して搬送して中空ストランドにする段階と、
前記凝固剤を前記紡糸口金の中心穴に通して前記ストランドの前記ルーメン内に搬送する段階と、
前記ストランドを沈殿浴の中に導入する段階と、
を含む中空繊維膜を製造する方法であって、
前記紡糸塊は、0.001から0.05質量%の前記水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを含有し、前記凝固剤は、少なくとも1つの親水性ポリマーを更に含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記疎水性ポリマーは、ポリスルホンを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紡糸塊の前記疎水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記凝固剤中の前記疎水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記凝固剤は、凝固剤1kg当たり0.5gから4gのPVPを含有することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記紡糸塊は、該紡糸塊の全体質量に対して2から7質量%、特に3から5質量%のポリビニルピロリドンを含有することを特徴とする請求項3から請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記凝固剤中に含有された前記少なくとも1つの親水性ポリマー、特に前記ポリビニルピロリドンは、200,000g/molから2,000,000g/molの範囲の分子量分布、特に900,000g/molの質量平均分子量を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記紡糸塊の前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、
前記凝固剤中の前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)を含み、該凝固剤中のPVPの質量平均分子量(Mw)は、前記紡糸塊中のPVPの質量平均分子量よりも高い、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記紡糸塊中のPVPの質量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/molよりも低く、前記凝固剤中のPVPの質量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/molよりも高いことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
疎水性ポリマー及び親水性ポリマー、並びに少なくとも1つの水不溶性抗酸化剤を含む膜材料を有する中空繊維膜であって、
前記水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールが、中空繊維膜の全質量に対して0.005から0.25質量%の比で存在する、
ことを特徴とする中空繊維膜。
【請求項11】
前記親水性ポリマーは、ポリスルホンを含むことを特徴とする請求項10に記載の中空繊維膜。
【請求項12】
前記親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の期間にわたって保存された後に個々の繊維当たり4000*10-7mg未満に相当し、特に、80℃及び<5%の相対湿度で60日後に個々の繊維当たり5000*10-7mg未満に相当することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の中空繊維膜。
【請求項13】
前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンを含むことを特徴とする請求項10から請求項12のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項14】
追加のポリビニルピロリドンが、中空繊維膜の少なくとも1つの面に適用されることを特徴とする請求項10から請求項13のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項15】
ルーメン側の表面上に-1mVから-7mV未満まで、特に-1mVから-5mVm、更に特に-1mVから-4mVのゼータ電位を有することを特徴とする請求項10から請求項14のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項16】
XPS測定方法により測定される、中空繊維膜の内側ルーメンの近表面層内のポリビニルピロリドン含有量が、22質量%以上であることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項17】
TOF-SIMSによって測定される、中空繊維膜の内側ルーメンの表面層上におけるCNO-及びSO2 -のピーク高さ比が、4.5以上であることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項18】
3から5%(w/w)のポリビニルピロリドン含有量を有することを特徴とする請求項13から請求項17のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項19】
請求項1から請求項9のうちの1以上に記載の方法で得られる中空繊維膜。
【請求項20】
中空繊維膜のルーメンの表面のPVPの質量平均分子量(Mw)が、中空繊維膜の容積のPVPの質量平均分子量よりも高いことを特徴とする請求項13から請求項18のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項21】
中空繊維膜のルーメンの表面のPVPの質量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/molよりも高く、好ましくは、2,000,000g/molよりも高く、より好ましくは、1,000,000g/molよりも高く3,000,000g/molまで、より好ましくは、2,000,000g/molよりも高く3,000,000g/molまでであり、中空繊維膜の容積のPVPの質量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/mol未満であり、好ましくは、500,000g/molから1,000,000g/mol未満までであることを特徴とする請求項20に記載の中空繊維膜。
【請求項22】
紡糸塊中のPVPの質量平均分子量に対する凝固剤中のPVPの質量平均分子量の比が、少なくとも1.2、好ましくは、少なくとも2、より好ましくは、1.2から3、より好ましくは、2から3であることを特徴とする請求項20又は請求項21に記載の中空繊維膜。
【請求項23】
本明細書に記載の測定方法により30分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定された該ふるい係数の比が、7未満、特に5未満であることを特徴とする請求項10から請求項22のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項24】
本明細書に記載の測定方法により10分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定された該ふるい係数の比が、3未満、特に2未満であることを特徴とする請求項10から請求項23のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項25】
「接触角θの決定」方法により測定された、内側ルーメンの表面における水との接触角が、57°未満、特に55°未満、更に特に47°未満であることを特徴とする請求項10から請求項24のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項26】
疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含み、
前記親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mg未満、特に80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mg未満であり、
ルーメン側の表面上の中空繊維膜が、-1mVから-7mV未満まで、特に-1mVから-5mV、更に特に-1から-4mVのゼータ電位を有する、
ことを特徴とする請求項10から請求項25のいずれかに記載の中空繊維膜。
【請求項27】
疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含み、
前記親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mg未満、特に80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mg未満であり、「接触角θの決定」方法に従って測定された、内側ルーメンの表面における水との接触角が、57°未満、特に55°未満、更に特に47°未満である、
ことを特徴とする請求項10から請求項26のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項28】
疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含み、
前記親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mg未満、特に80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mg未満であり、本明細書に記載の測定方法により30分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定された該ふるい係数の比が、7未満、特に5未満である、
ことを特徴とする請求項10から請求項27のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項29】
疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含み、
「血小板損失の決定」方法に従って測定された血小板損失が、50%未満、好ましくは、30%未満、特に好ましくは、20%未満である、
ことを特徴とする請求項10から請求項28のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項30】
ポリスルホンと、ポリビニルピロリドンと、少なくとも1つの水不溶性ビタミン、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールとを含有する膜材料を有する中空繊維膜を製造する方法により生成される中空繊維膜を親水化及び生体適合化するための、凝固剤のkg当たり0.5gから4gのポリビニルピロリドンを含有する凝固剤の前記方法における使用。
【請求項31】
請求項10から請求項29のいずれかに記載の中空繊維膜を製造する際の請求項30に記載の凝固剤の使用。
【請求項32】
請求項10から請求項29のいずれかに記載の中空繊維膜又は請求項1から請求項9のいずれかに従って製造された中空繊維膜を複数含む、中空繊維膜フィルタ。
【請求項33】
請求項10から請求項29のいずれかに記載の中空繊維膜又は請求項1から請求項9のいずれかに従って製造された中空繊維膜を複数含む、血液透析用透析器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空繊維膜を製造する方法、並びに疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料と、改善された生体適合性特質、特にC5a活性化及び「血小板損失」に関して改善された特質とを有するようなタイプの加工中空繊維膜に関する。
【背景技術】
【0002】
中空繊維膜は、液体の濾過において広く使用されている。特に、中空繊維膜は、腎臓疾患を有する患者の透析処置中に血液を浄化するための医療用途に使用されている。中空繊維膜は、血液の体外処置に使用されるフィルタモジュール内の中空繊維膜バンドルに形成される。血液浄化のためのこのタイプのフィルタモジュール、いわゆる透析器は、大量生産されている。
【0003】
血液浄化に使用される中空繊維膜は、多くの場合に、特にポリスルホン及びポリビニル-ピロリドンの疎水性ポリマー及び親水性ポリマーで構成され、なぜならば、これらの材料は、特に血液適合性であることが実証されており、従って、血液の処置、特に血液透析において医学的見地から好適であるからである。本出願の関連での「ポリサルフォン」によって理解されるのは、ポリマー主鎖又は側鎖にスルホン基を有するポリマーである。ポリスルホンの典型的な代表例は、ビスフェノールA(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン、及びスルホン基を含有するコポリマーに基づくポリスルホンである。ポリスルホンポリマーの更に別の代表例は、従来技術で公知であり、かつ本発明によって定める血液処置膜を生成するのに適している。「ポリビニルピロリドン」によって理解されるのは、ビニルピロリドンモノマー又はその誘導体を用いて生成されるポリマーである。更に別の適切な疎水性ポリマーは、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、及び再生セルロース及びセルロース誘導体である。ポリエチレングリコールは、更に別の適切な親水性ポリマーである。
【0004】
中空繊維膜を生成する基本原理、並びにそれらの製造品は、以下の従来技術に記載されている。
・Marcel Mulder著「膜技術の原理(Principles of Membrane Technology)」、Kluwer Academic Publisher、1996年、第III章、合成膜の調製(Preparation of synthetic membranes)
・EP 0 168 783
【0005】
中空繊維膜を生成するための従来技術に記載のこれらの方法により、ポリスルホンベースの疎水性ポリマー及びビニルピロリドンベースの親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドン、及び1又は2以上の溶媒、及び必要である場合があるいずれかの添加剤を含む紡糸液が調製される。極性非プロトン溶媒、特にジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシド(DMSO)は、溶媒として通常は使用される。用語溶媒は、それにより、利用されるポリマー、特にポリスルホン及びポリビニルピロリドンに対する溶媒の可溶性を意味する。紡糸液も、同じく少量の添加剤、例えば水のような極性プロトン溶媒を低い百分率で含有することができる。溶媒の混合物も従来技術で公知である。
【0006】
紡糸塊は、紡糸口金の円形同心環状間隙を通して紡糸される。紡糸口金は、凝固剤がそれを通して誘導される中心穴(bore)を更に有する。凝固剤は、通常は、例えばDMAcのような非プロトン極性溶媒と例えば水のようなプロトン液との混合物で構成される。紡糸塊及び凝固剤は、凝固剤をそのルーメン(lumen)が含有するストランドに紡糸口金の環状間隙及び中心穴を通して加工される。ストランドは、その後に、通常は、ストランドの紡糸塊が凝固してゲル相とゾル相の2相系を形成し始める空隙を通して案内される。次に、ストランドは、沈殿剤を含有する沈殿浴内に導入される。ストランドが沈殿浴内に導入された時に、中空繊維膜構造が形成される。水又はプロトン及び非プロトン溶媒の混合物、特に、水と、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、又はジメチルスルホキシドとは、通常は沈殿剤として機能する。得られる中空繊維膜は、その後に、濯ぎ浴に通され、乾燥させて巻取機の上に巻き付けられる。中空繊維膜は、中空繊維バンドルの形態で巻取機から取り出すことができる。中空繊維膜フィルタを構成するために、そのような中空繊維膜バンドルは、ハウジング、好ましくは円筒ハウジング内に入れられる。中空繊維膜バンドルの端部は、流延化合物の中に埋め込まれ、中空繊維の開放端は露出される。流延化合物は、中空繊維膜の内部、ハウジング、及び中空繊維膜を取り囲む区域間に密封領域を形成する。それにより、中空繊維膜バンドルの端部の入口領域及び出口領域、並びに中空繊維膜の内部を取り囲む仕上がった中空繊維膜フィルタ内の第1のチャンバが形成される。第2のチャンバが、中空繊維膜間及びハウジング壁と中空繊維膜間の空間内の区域から相応に形成される。中空繊維膜フィルタのハウジング上の流体ポートは、液体及び流体が中空繊維膜フィルタの第1及び/又は第2のチャンバの内外に誘導されることを可能にする。
【0007】
個々の製造段階は、予め決められた性能及び分離特質を有する中空繊維膜を生成することができるために非常に重要である。体外血液処置濾過用途での中空繊維膜の分離機能及び選択性は、それぞれの治療的使用に対して実質的に非常に重要である。従って、それぞれの治療的処置によって必要とされる中空繊維膜に対する望ましい性能特質を達成するように製造段階を適応させることが製造方法にとって重要である。しかし、製造方法は、中空繊維膜の生体適合性にも更に影響を及ぼす。生体適合性は、これにより、患者の血液を体外処置する時の透析器の生理学的耐性を意味する。特に、中空繊維膜又は対応する中空繊維膜フィルタ(以下では透析器とも呼ぶ)は、体外血液処置中の血液接触時にいずれの有害反応も誘起しないか又は単に最小の有害反応を誘起する時の生体適合性であると理解されものとする。そのような反応は、血液成分と接触する中空繊維膜面の相互作用によって引き起こされる可能性がある。これらは、特に細胞レベルでの血液との相互作用であるが、血漿中の蛋白質との相互作用でもある。
【0008】
Vienken他(A.Erlenkotter、P.Endres、B.Nederlof、C.Hornig、J.Vienken著「人工臓器(Artificial Organs)」、32(12)、962、(2008年))による市販透析器の生体適合性を評価する方法は、透析器を通して検査血清を予め定められた期間にわたって再循環させ、発生する副反応をいわゆる血液適合性マーカの選択を用いて識別することを提案している。この方法は、補体因子5a(C5a)、トロンビン/抗トロンビンIII複合体(TAT)、栓球数(「血小板計数」-PLT)、血小板因子4=PF4、及び多形核顆粒球からのエラスターゼ(PMNエラスターゼ)の放出を血液適合性マーカとして使用する。
【0009】
透析器の生体適合性を評価するために、この方法は、「採点」システムに従って個々の血液適合性マーカを格付けすることを提案している。更に提案されているのは、個々の血液適合性マーカの採点から透析器に対する「全体血液適合性スコア」(THS)を計算し、それによって異なる透析器をそれらの生体適合性に関して比較可能にすることである。
【0010】
この方法は、膜材料、並びに市販透析器を滅菌するのに使用される異なる滅菌方法の両方が中空繊維膜の生体適合性に対して明らかに影響を有する可能性があることを明らかにした。特に、検査された透析器間の生体適合性の差は、異なるポリスルホン、ポリエーテルスルホン/ポリアリレート、再生セルロース、エステル化セルロース膜材料と、蒸気滅菌、放射線滅菌(γ線又は電子ビーム)、及び真空蒸気滅菌のような異なる滅菌方法とに基づいて決定された。
【0011】
中空繊維膜及び透析器は、治療的血液処置での使い捨て医療製品として使用され、かつ大量生産患者ケア物品として相応に市販されている。中空繊維膜及び透析器を製造する方法は、従って、多くの場合に経済的関心及び生産性の態様を反映する。これは、中空繊維膜及び透析器の製造が、必要な性能特質の達成に向けられる一方で、それは同時に最も費用効果的なベンチマークにも向けられることを意味する。Vienken他の試験は、それにより、中空繊維膜及び透析器を製造する確立された従来技術の方法が有利な生体適合性を追求することに関して多くの場合に最適ではないことを明らかにしている。
【0012】
予め決められた分離機能での高い生体適合性を経済的な生産と同時に持ち合わせる中空繊維膜を提供する目的を有する中空繊維膜を製造する方法が、従来技術に説明されている。特にこれに関して、中空繊維膜が脂溶性ビタミン、例えばビタミンEで修飾される中空繊維膜製造方法が説明されている。そのような修飾は、例えば製造方法に使用される凝固剤にビタミンEを添加することによって行うことができることが説明されている。そうすることにより、生成された中空繊維膜の内面がビタミンEで被覆されることになり、すなわち、改善された生体適合性が達成される。それにより、ビタミンE修飾中空繊維膜は、処置血液との接触時に血液細胞に対して抗酸化効果を有するか又は免疫に関連する「化学的バースト」の効果を低減し、かつ慢性腎不全を有する患者の酸化促進性血液ステータスを一般的に補正することになると仮定される。
【0013】
EP 0 850 678 B1は、この関連において、界面活性剤及びビタミンEが凝固剤に添加されるポリスルホン及びポリビニルピロリドンベースの中空繊維膜を製造する方法を説明している。本方法は、生成中に中空繊維膜の内面の上にビタミンEを沈殿させることを目標としている。ビタミンEの疎水効果は、中空繊維膜の内面の血液適合性を高め、従って、血液細胞に対する抗酸化効果を達成することである。
【0014】
その一方で、ポリスルホン中空繊維膜の内面の親水性は、改善された血液湿潤性及びより良い生体適合性に関して議論されている。この関連で、EP 0 568 045は、ポリスルホンベースの中空繊維膜の製造を説明している。中空繊維膜は、0.5から4%のポリビニルピロリドンを含有する凝固剤を使用して製造される。凝固剤中へのポリビニルピロリドンの添加は、それにより、生成された中空繊維膜の内面上のポリビニルピロリドンの比率の増大を達成する。
【0015】
一般的な欠点は、高分子量のポリビニルピロリドンは、もしあるとしてもヒト有機体によって十分には代謝されず、腎臓は、それを人体から単に部分的にのみ排出することができることである。その結果、長期透析患者の体内では高分子量ポリビニルピロリドンの蓄積が見られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】EP 0 168 783
【特許文献2】EP 0 850 678 B1
【特許文献3】EP 0 568 045
【特許文献4】DE 102016224627.5
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Marcel Mulder著「膜技術の原理(Principles of Membrane Technology)」、Kluwer Academic Publisher、1996年、第III章、合成膜の調製(Preparation of synthetic membranes)
【非特許文献2】A.Erlenkotter、P.Endres、B.Nederlof、C.Hornig、J.Vienken著「人工臓器(Artificial Organs)」、32(12)、962、(2008年)
【非特許文献3】BASF AGパンフレット「製薬業界向けVolker Buhler-Kollidon(登録商標)ポリビニルピロリドン賦形剤」、第9版(2008年3月)、37ページ
【非特許文献4】Erlenkotter他著「透析膜の血液適合性の評価のための採点モデル(Score Model for the Evaluation of Dialysis Membrane Hemocompatibility)」、Artificial Organs32(12):962-998、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従来技術において蔓延している問題に関して、改善された生体適合性を有する中空繊維膜の提供に対する必要性が見られる。特に、無菌の中空繊維膜又は透析器の傑出した生体適合性を確実にする製造方法を見出す必要がある。しかし、特に、製造方法は、それにより、材料及びシステム出費を節約しながら経済的に達成されることになる。
【0019】
従って、本発明の第1の態様では、そのタスクは、処置血液に対して改善された生体適合性を有する中空繊維膜の製造を可能にし、特に、処置血液に関してより低い補体活性化及びより低い血小板損失のみを有する中空繊維膜の製造を可能にする中空繊維膜を製造する方法を提供するタスクである。本発明の第1の態様でのタスクは、更に、改善された生体適合性を有する中空繊維膜に向けて経済的であり、低いシステム及び材料出費で提供することができるそのような製造方法を提供することから構成される。
【0020】
本発明の更に別の態様では、そのタスクは、高い血液処置生体適合性を示す中空繊維膜を提供するタスクである。特に、本発明の第2の態様は、処置血液に関して低い補体活性化と血小板損失に向う弱い傾向とによって特徴付けられる中空繊維膜を提供するタスクに対処する。更に、このタスクは、そのような中空繊維膜を経済的に低い製造出費で提供することを可能にすることから構成される。
【課題を解決するための手段】
【0021】
基本的なタスクは、水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを紡糸塊中に与え、親水性ポリマーを凝固剤中に与える中空繊維膜を製造する本発明の方法によって解決される。
【0022】
本出願の第1の態様は、従って、中空繊維膜を製造する方法に関連し、これは、疎水性及び親水性ポリマーと、非プロトン極性溶媒と、水不溶性酸化防止剤とを含む紡糸塊を調製する段階と、少なくとも1つの非プロトン極性溶媒及び/又は少なくとも1つの非溶媒、特に水を含む凝固剤を調製する段階と、中空ストランドを形成するために紡糸塊を搬送するための少なくとも1つの同心環状間隙と凝固剤を共同搬送するための1つの中心穴とを有する紡糸口金の環状間隙に通して紡糸塊を搬送する段階と、凝固剤を紡糸口金の中心穴に通してストランドのルーメン内に搬送する段階と、形成されたストランドを空隙に通して誘導する段階と、中空繊維膜を形成するために沈殿剤、特に水性沈殿剤を含有する沈殿浴の中にストランドを導入する段階とを含み、それにより、紡糸塊は、0.001から0.05質量%の少なくとも1つの水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを含有し、凝固剤は、少なくとも1つの親水性ポリマーを更に含有する。
【0023】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、疎水性ポリマーがポリスルホンを含有することを特徴とする。
【0024】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、紡糸塊中の疎水性ポリマーがポリビニルピロリドンを含有することを特徴とする。
【0025】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、凝固剤中の疎水性ポリマーがポリビニルピロリドンを含有することを特徴とする。
【0026】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、凝固剤が、凝固剤1kg当たり0.5から4gのポリビニルピロリドンを含有することを特徴とする。
【0027】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、紡糸塊が、その全体質量に対して2から7質量%、特に3から5質量%のポリビニルピロリドンを含有することを特徴とする。
【0028】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、凝固剤が、25から60質量%の極性非プロトン溶媒、特にDMAcと、40から75質量%の極性プロトン非溶媒、特に水とを含有することを特徴とする。
【0029】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、凝固剤中に含有される親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンが、200,000から2,000,000g/molの範囲の分子量分布、特に900,000g/molの質量平均分子量を有することを特徴とする。
【0030】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、環状紡糸口金が、30から85℃、特に65から85℃の温度に温度制御されることを特徴とする。
【0031】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、沈殿浴が、50から85℃の温度に温度制御されることを特徴とする。
【0032】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、ストランドの引き抜き速度が、100から1500mm/sの範囲にわたることを特徴とする。
【0033】
第1の態様の更に別の実施形態では、本方法は、ストランドが、沈殿浴の中に導入される前に50から1500mmの紡糸口金後沈殿間隙に通されることを特徴とする。
【0034】
第1の態様の更に別の実施形態では、処理は、紡糸塊の親水性ポリマーがポリビニルピロリドン(PVP)を含み、凝固剤中の親水性ポリマーがポリビニルピロリドン(PVP)を含み、凝固剤中のPVPの質量平均分子量(Mw)が紡糸塊中のPVPのものよりも高いことを特徴とする。
【0035】
第1の態様の更に別の実施形態では、処理は、紡糸塊中のPVPの質量平均分子量(Mw)が1,000,000g/molよりも低く、凝固剤中のPVPの質量平均分子量(Mw)が1,000,000g/molよりも高いことを特徴とする。
【0036】
本出願において何度か言及するPVPに関する質量平均分子量は、光散乱による通常の方式(一般的に、GPC-LS測定のフレームワークの範囲にある)で決定される。この用途に関しては、BASF AGのパンフレット「製薬業界向けVolker Buhler-Kollidon(登録商標)ポリビニルピロリドン賦形剤」,第9版(2008年3月)の37ページ及びそこに引用されている文献を参照されたい。
【0037】
本出願の第2の態様は、疎水性及び親水性ポリマー、特にポリスルホン及びポリビニルピロリドン、並びに水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特に質量比で0.005から0.25%のα-トコフェロール又はトコトリエノールを含有する膜材料を有する中空繊維膜を特徴とする中空繊維膜を提供することに関連する。
【0038】
第2の態様の更に別の実施形態では、疎水性ポリマーはポリスルホンを含む。
【0039】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、溶出試験において、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に個々の繊維当たり4000*10-7mgよりも少なく、特に、80℃及び<5%の相対湿度で60日後に個々の繊維当たり5000*10-7mgよりも少ないことを特徴とする。
【0040】
第2の態様による更に別の形態では、親水性ポリマーはポリビニルピロリドンを含む。
【0041】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、その少なくとも1つの面、特にそのルーメン上の面がポリビニルピロリドンで追加的に被覆されることを特徴とする。
【0042】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、ルーメン側の面上に-1から-7mV未満、特に-1から-4mVのゼータ電位を有することを特徴とする。
【0043】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、その少なくとも1つの親水性面の面に近い層内のポリビニルピロリドンの濃度がXPS測定の後に22%又はそれよりも多く、特に24から34%、更に特に26から34%であることを特徴とする。
【0044】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、その内側ルーメンの表層においてTOF-SIMSによって決定されたCNO-とSO2 -のピーク高さ比が4.5又はそれよりも大きく、特に5.5又はそれよりも大きく、更に特に6.0又はそれよりも大きいことを特徴とする。
【0045】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、3から5質量%のポリビニルピロリドン含有量を有することを特徴とする。
【0046】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、そのルーメンの面のPVPの質量平均分子量(Mw)が膜の容積のPVPのものよりも高いことを特徴とする。
【0047】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、そのルーメンの面のPVPの質量平均分子量(Mw)が、1,000,000g/molよりも高く、好ましくは、2,000,000g/molよりも高く、より好ましくは、1,000,000g/molよりも高く3.000,000g/molまで、より好ましくは、2,000,000g/molよりも高く3,000,000g/molまでであり、膜の容積のPVPの質量平均分子量(Mw)が、1,000,000g/molよりも低く、好ましくは、500,000g/molから1,000,000g/mol未満までであることを特徴とする。
【0048】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、紡糸塊中のPVPの質量平均分子量に対する凝固剤中のPVPの質量平均分子量の比が、少なくとも1.2、好ましくは、少なくとも2、より好ましくは、1.2から3、より好ましくは、2から3であることを特徴とする。
【0049】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、本説明の測定方法に従って30分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定されたふるい係数の比が7よりも小さく、特に5よりも小さいことを特徴とする。
【0050】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、本説明の測定方法に従って10分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定されたふるい係数の比が3よりも小さく、特に2よりも小さいことを特徴とする。
【0051】
上述のふるい係数比に対する下限は、それぞれ1である。
【0052】
第2の態様の更に別の実施形態では、中空繊維膜は、水が、中空繊維膜の少なくとも1つの親水性面を湿潤する時に57°よりも小さく、特に55°よりも小さく、更に特に47°よりも小さい接触角を形成し、接触角に対する下限が、一般的に、30°よりも小さく、好ましくは、25°よりも小さく、より好ましくは、20°よりも小さいことを特徴とする。接触角は、本出願に説明する「接触角θの決定」方法に従って決定される。親水性面は、高い親水性を有するか、又は水と小さい接触角を形成するかのそれぞれである中空繊維膜の面として理解されるものとする。好ましくは、親水性面は、中空繊維膜のルーメン内に形成される。
【0053】
本出願の第3の態様は、生成される中空繊維膜の親水化及び生体適合化に向けて疎水性及び親水性ポリマー、特にポリスルホン及びポリビニルピロリドンと、少なくとも1つの水不溶性酸化防止剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールとを含有する膜材料を有する中空繊維膜を製造する方法における凝固剤1kg当たり0.5から4gの親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを含有する凝固剤の使用に関連する。
【0054】
第4の態様では、本出願は、本発明の第2の態様による実施形態による中空繊維膜、又は本出願の第1の態様の実施形態による方法に従って生成された中空繊維膜を複数含む中空繊維膜フィルタに関連する。
【0055】
第5の態様では、本出願は、本発明の第2、第6、第7、第8、又は第9の態様によるか、又は本発明の第1の態様の処理によって製造された複数の中空繊維膜を含む血液透析用透析器に関連する。
【0056】
第6の態様では、本出願は、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mgよりも少なく、特に、80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mgよりも少ない親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出しか発生しないこと、及び中空繊維膜が、ルーメン側の面上に-1から-7mV未満、特に-1から-5mV、更に特に-1から-4mVのゼータ電位を有することを特徴とする疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含む中空繊維膜に関連する。
【0057】
第7の態様では、本出願は、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mgよりも少なく、特に、80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mgよりも少ないこと、及び内側ルーメンの面が、「接触角θの決定」方法に従って測定された57°よりも小さく、特に55°よりも小さく、更に特に47°よりも小さい水との接触角を有し、接触角に対する下限が、一般的に30°よりも小さく、好ましくは25°よりも小さく、より好ましくは20°よりも小さいことを特徴とする疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含む中空繊維膜に関連する。
【0058】
第8の態様では、本出願は、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mgよりも少なく、特に、80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mgよりも少なく、本説明の測定方法に従って30分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定されたふるい係数の比が7よりも小さく、特に5よりも小さいことを特徴とする疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含む中空繊維膜に関連する。
【0059】
第9の態様では、本出願は、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日の保存期間の後に単繊維当たり4000*10-7mgよりも少なく、特に、80℃及び<5%の相対湿度で60日後に単繊維当たり5000*10-7mgよりも少なく、本説明の測定方法に従って30分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定されたふるい係数の比が3よりも小さく、特に2よりも小さいことを特徴とする疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含む中空繊維膜に関連する。
【0060】
上述のふるい係数比に対する下限は、それぞれ1である。
【0061】
第10の態様では、本発明は、「血小板損失(絶対方法)」方法によって測定された血小板損失が50%未満であり、好ましくは、30%未満であり、特に好ましくは、20%未満であることを特徴とする疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含む中空繊維膜に関連する。本発明による中空繊維膜を使用すると、ゼロ又はそれを若干超える、例えば、10%又はそれ未満、例えば、5%、3%、又は1%の範囲の血小板損失を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】透析器試験装置の概略図を示す。
図2】中空繊維膜のゼータ電位を測定するための試験設定を示す。
図2a】中空繊維膜のゼータ電位を測定するための試験設定を示す。
図3】実施例2のTOF-SIMSスペクトル(アニオン)を示す。
図3b】比較例2のTOF-SIMSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明の第1の態様は、中空繊維膜を製造する方法に関連し、これは、疎水性及び親水性ポリマー、特にポリスルホン及びポリビニルピロリドンと、少なくとも1つの非プロトン極性溶媒と、1つの水不溶性抗酸化剤とを含む少なくとも1つの紡糸塊を調製する段階と、少なくとも1つの非プロトン極性溶媒と、少なくとも1つの非溶媒、特に水とを含む少なくとも1つの凝固剤を調製する段階と、紡糸塊を特に紡糸口金の少なくとも1つの環状間隙に通して搬送して中空ストランドにする段階と、凝固剤を特に紡糸口金の中心穴に通してストランドのルーメン内に搬送する段階と、ストランドを沈殿浴の中に導入する段階とを含み、紡糸塊は、0.001から0.05質量%の水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを含有し、凝固剤は、少なくとも1つの親水性ポリマーを更に含むことを特徴とする。
【0064】
本発明の方法の一実施形態では、凝固剤は、0.5から4g/kg、特に1g/kgまで、特に1.5g/kgまで、特に2g/kgまで、特に2.5g/kgまで、特に3g/kgまで、更に特に4g/kg未満の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを含有する。
【0065】
本発明の方法は、凝固剤中に溶解される親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを中空繊維膜の製造中に中空繊維膜の内面上に堆積させることができるという利点を有する。特に、中空繊維膜の内面上への親水性ポリマーの堆積が、高い親水性、従って、中空繊維膜の高い血液適合性をもたらすことが示されている。中空繊維膜の内面上に堆積した親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの高い比率は、中空繊維膜の内面上に堆積したポリビニルピロリドンを持たない比較中空繊維膜の値と比較して、C5aとして測定される補体活性化の低下及び「血小板損失」の低減をもたらす。
【0066】
本発明による方法は、それに従って中空繊維膜の面上に堆積した親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールの比率によって中空繊維膜内の面に固定することができるという更に別の利点を有する。
【0067】
本発明の関連では、「固定」という用語は、液体との接触状態で、中空繊維膜の面上の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンがある一定限度までしか溶出されないことが可能であることを意味する。特に、紡糸塊中に0.001質量%の水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミンを与えるだけで、凝固剤から中空繊維膜の面上に沈殿させた水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンに対する固定効果を生成するのに十分である。血液適合性の有意な改善を決定することができるためには、紡糸塊中の脂溶性ビタミンの0.001質量%よりも小さい百分率は、凝固剤からの水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンに対して固定効果が過度に微弱である。水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミンの紡糸塊百分率が0.05%を上回っても、凝固剤からもたらされる水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの固定において判別可能な更に別の強化はない。更に、紡糸塊中の更に高い百分率の水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミンは、水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの堆積によって起こされる中空繊維膜面の親水性特質を低減する場合がある。更に、親水性特質の低下は、血液適合性に悪影響を及ぼし、特に「血小板損失」に関して悪影響を与える。
【0068】
本発明の第1の態様による方法に従って生成された中空繊維膜は、特に改善された血液適合性によって特徴付けられる。特に、C5aとして測定される補体活性化に関して、それが、ポリスルホン材料とポリビニルピロリドン材料とで構成される比較中空繊維膜と比較して大きく低下することが見出されている。補体活性化は、それにより、中空繊維膜の生体適合性を評価するのに使用される血液適合性マーカと見なされる。特に、ポリスルホンとポリビニルピロリドンとで構成される標準の中空繊維膜と比較して、C5a活性化値の少なくとも50%の低下が見られた。すなわち、本発明に従って製造された中空繊維膜の補体活性化は、市販の比較中空繊維膜のものの50%しかない。本発明の第1の態様による本発明の製造方法の代替実施形態では、比較中空繊維膜の場合に決定することができる補体活性化の40%まで、好ましくは、30%まで、好ましくは、20%まで、好ましくは、10%まで、より好ましくは、8%までのC5補体活性化しか引き起こさない中空繊維膜を製造することが可能である。特に、本発明の方法は、紡糸塊への0.001から0.05質量%の容積の水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールの添加、及び凝固剤への凝固剤1kg当たり0.5gから4gの比での水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの添加によって中空繊維膜の補体活性化の特質を調整することを可能にする。その際、本発明の方法の使用は、当然ながら、補体活性化を最適に低減することだけに主眼を置くのではなく、更に別の血液適合性マーカ、特に「血小板損失」値、並びに中空繊維膜の性能パラメータが可能な限り有利な値を取ることができるように管理されることになる。
【0069】
本発明によって定める場合に、「比較中空繊維膜」という用語は、同じ紡糸条件の下で製造され、疎水性ポリマーと親水性ポリマー、特にポリスルホンとポリビニルピロリドンとの同じ比率を有するが、中空繊維膜内にいずれの水不溶性抗酸化剤も含有せず、特に脂溶性ビタミンを全く含有せず、又は更に中空繊維膜の少なくとも1つの面上に水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンのいずれのコーティングも含まない中空繊維膜を意味する。本事例では、このタイプの中空繊維膜は、市販の「Fresenius FX60」透析器によって提供される。
【0070】
本発明によって定める場合に、「凝固剤」という用語は、ストランドが沈殿間隙を通して中空繊維膜の孔隙構造を共同決定する時にストランド内で相反転をもたらす薬剤を意味する。凝固剤は、少なくとも1つの極性非プロトン溶媒及び1つの非溶媒、並びに本発明に関する水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを含む。
【0071】
凝固剤は、凝固剤の全体質量に対して好ましくは25から60質量%まで、特に35から55質量%の極性非プロトン溶媒、特にジメチルアセトアミドと、40から75質量%まで、特に45から65%の極性プロトン非溶媒、特に水とを含有する。更に、凝固剤は、凝固剤1kg当たり0.5gから4gまで、特に1gよりも多く、特に1.5gよりも多く、特に2gよりも多く、特に2.5gよりも多く、特に凝固剤1kg当たり4gよりも少なく、特に3gよりも少ない量の水溶性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを含有する。
【0072】
本出願の状況では、「溶媒」及び「非溶媒」という用語は、本発明の方法によって生成される中空繊維膜の主成分である膜形成疎水性ポリマーに関する可溶性を意味する。従って、膜形成ポリマーは、DMAc(ジメチルアセトアミド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、NMP(N-メチルピロリドン)のような極性非プロトン液中に溶解することができるので、これらの液が適用可能な溶媒である。それに対して、例えば、水、エタノール、又は酢酸のような極性プロトン液は、膜形成ポリマーを溶解することができず、従って、中空繊維膜の製造中に紡糸塊の沈殿に対して使用することができるので、これらの液は、本出願の関連において適用可能な非溶媒である。
【0073】
一実施形態では、本発明の方法は、凝固剤中に含有される200,000g/molから2,000,000g/molの範囲の分子量分布、特に900,000g/molの質量平均分子量を有する親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによって特徴付けられる。
【0074】
利用される親水性ポリマーの分子量は、本発明の製造方法による凝固剤から中空繊維膜の少なくとも1つの面、特に内面上への親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの堆積に影響を及ぼす。低分子量の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンは、ストランド又は中空繊維膜それぞれの面に固定される可能性が低い。それとは対照的に、高分子量の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンは、より強い吸着特質を示し、従って、ストランド又は中空繊維膜の内面により確実に固定される。従って、200,000g/molから2,000,000g/molの範囲に分子量分布を有する親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを使用することが有利であることが明らかにされている。親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの通常はガウスタイプの分子量分布では、低分子ポリマーの比率は、中間分子量範囲のポリマーよりも低い濃度にある。本明細書では、K80からK90までの名称を有する市販のポリビニルピロリドンを適切な親水性ポリマーの例として含む。
【0075】
本発明の製造方法によるストランド又は中空繊維膜の内面上への親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの堆積に特に好ましくは適用可能であるのは、700,000g/molから1,200,000g/mol、特に900,000g/molの質量平均分子量及び/又は200,000g/molから2,000,000g/molの範囲の分子量分布を有する親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンである。
【0076】
更に別の形態では、本発明による処理は、紡糸塊の親水性ポリマーがポリビニルピロリドン(PVP)を含み、凝固剤中の親水性ポリマーがポリビニルピロリドン(PVP)を含み、凝固剤中のPVPの質量平均分子量(Mw)が紡糸塊中のPVPのものよりも高いことによって特徴付けられる。そのようなPVPタイプの使用は、PVPによるルーメン面の非常に高いカバレージをもたらすので、凝固剤中に導入されるPVPが可能な限り高い質量平均分子量を有することが非常に有利であることが示されている。しかし、欠点は、この分子量と同じ濃度にポリマーの分子量を高めることによって溶液の粘性が増大する点である。本発明に従って最適に調節された分子量を有するそのような適切なPVPタイプを使用することにより、特に、ドイツHaake製のVT550粘度計を用いてステージr.3において40℃で測定された15,000mPasよりも低く、特に5000mPasよりも低い最適に低い範囲の紡糸塊の粘性を高めることができる。Haake製の回転体「MV1(MV-DIN)」(ずり速度38.7/s)を用いて(30rpm)、凝固剤中の高い質量平均分子量によって膜のルーメンの網羅が改善される。それによって最適な血液適合性値及び劣化試験の後の低い溶出値がもたらされる。加工の観点からは、上述した方法に従って測定された少なくとも800mPasの最小紡糸塊粘性を維持することが必要である。
【0077】
実施される別の処理では、紡糸塊中のPVPの質量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/molよりも低く、例えば、995,000g/mol又は900,000g/mol、好ましくは、500,000g/molから1,000.000g/mol未満までであり、凝固剤中のPVPの質量平均分子量(Mw)は、1,000,000g/molよりも高くなく、例えば、1,005,000g/mol又は1,100,000g/mol、特に2,000,000g/molよりも高くなく、好ましくは、1,000,000よりも高く3,000,000g/molまで、より好ましくは、2,000,000g/molよりも高く3,000,000g/molまでである。紡糸塊中のPVPの質量平均分子量に対する凝固剤中のPVPの質量平均分子量の比は、好ましくは、少なくとも1.2、好ましくは、少なくとも2、より好ましくは、1.2から3、より好ましくは、2から3であり、少なくとも1.2、好ましくは、少なくとも2、好ましくは、1.2から3の比は、例えば、紡糸塊への添加のためのPVPとしてAshland製のPVP K81/86を用い、凝固剤への添加のためのPVPとしてPVP K90又は特に好ましくはK120を使用することによって達成することができる。そのような処理形態は、最適な紡糸塊粘性を使用する特に良好で容易に実行可能な処理をもたらし、従って、良好なふるい曲線を有する最適な非対称膜構造をもたらし、同時に劣化後のPVPに関する低い溶出値及び良好な血液適合性である特に血液適合性の高い膜をもたらす。
【0078】
「分子量分布」という用語は公知であり、ポリマー物理学において定められている。本出願の意味の範囲では、ポリマーサンプルの分子量分布は、特定の分子量のポリマー分子がポリマーサンプル中に存在することになる確率密度分布を意味する。ポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールの分子量分布は、例えば、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)を適切な光散乱検出器、例えば、多角度レーザ光散乱(MALLS)検出器を組み合わせたもののような公知の測定方法を用いて決定することができる。
【0079】
「質量平均分子量(Mw)」という用語は、ポリマーサンプル中に最も頻繁に存在する分子量の質量含有量を示している。既知の分子量分布により、質量平均分子量は、ポリマーサンプルに関する、本事例ではポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールに関する特徴的な平均値を反映し、当業者は、そこからポリマーサンプル中に存在するポリマー分子のサイズを推量することができると考えられる。
【0080】
本発明の製造方法の一実施形態では、環状紡糸口金は、30℃から85℃、特に65℃から85℃の温度に温度制御される。
【0081】
環状紡糸口金の温度を制御することにより、ストランド内の紡糸塊及び凝固剤は、搬送される時に同じ温度又は実質的に同じ温度にされる。押し出される紡糸塊及び凝固剤の温度を調整することにより、ストランドが沈殿間隙を通過する時に凝固処理に影響を及ぼすことができる。しかし、特に、環状紡糸口金の温度は、中空繊維膜形態に対して望ましい孔隙構造を更に有するように事前設定されることになる。
【0082】
本発明の製造方法でのストランドの引き抜き速度は100mm/sから1500mm/sである。定められた沈殿間隙高さにおいて、ストランドの引き抜き速度は、ストランド処理時間での決定因子のうちの1つである。
【0083】
この場合「沈殿間隙」という用語は、紡糸口金と沈殿浴の液位の間の距離を示している。
【0084】
「処理時間」という用語は、紡糸塊が紡糸口金から沈殿浴の液位まで沈殿間隙を通過するのに要する時間の長さを示している。処理時間は、特に外側孔隙構造に影響を及ぼすために使用することができる。
【0085】
第2の態様では、本発明は、疎水性及び親水性ポリマー、特にポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含有し、更に、膜材料の全質量に対して0.005から0.25質量%の比で水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミンを含有する膜材料を有する改善された生体適合性の中空繊維膜に関連する。脂溶性ビタミンは、好ましくは、α-トコフェロール又はトコトリエノールである。ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート)(BASF社製のIrganox1010)は、水不溶性抗酸化剤の更に別の例である。
【0086】
そのような中空繊維膜は、従って、患者の血液が中空繊維膜の膜材料と接触する体外処置に特に適している。これらの中空繊維膜は、腎傷害を有する患者を処置するのに主として使用されるので、本発明の中空繊維膜は、体外血液処置に向けて中空繊維膜フィルタを構成するのに特に適している。溶出可能な親水性ポリマーは体外血液循環を通して患者の体内に進入することができるので、それにより、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの少ない溶出は、患者の健康に対して有利であることを見ることができる。
【0087】
更に、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの少ない溶出は、体外血液処置期間にわたって安定して良好な中空繊維膜の親水性を確実にすることができる。改善された親水性は、中空繊維膜の良好な血液湿潤性を誘起し、従って、低い補体活性化(C5a)によって認識することができる改善された血液適合性である。更に、この親水性は、親水性面への栓球の付着が少なく、それによって凝固カスケードの開始が阻止されるので、「血小板損失」の低減を促進する。
【0088】
「水不溶性抗酸化剤」という用語は、酸化抑制効果を有し、25℃の温度で2mg/lよりも低い水溶性のみを有する物質を表している。本出願によって定める場合に、「脂溶性ビタミン」という用語は、人体の脂肪組織中に蓄積するビタミンを表している。この用語は、人体生理学に関して公知であり、このように特殊な分類のビタミンを示している。本出願に関する場合に、「脂溶性」という用語は、ビタミンが、水中への弱い可溶性のみを有するか又は不溶性を有する非極性物質であることに関連する。脂溶性ビタミンに関して、ビタミンE物質部類は、そのようないわゆる脂溶性ビタミンの最も身近なセグメントである。ビタミンEは、それにより、抗酸化作用を有する脂溶性物質に対する全称である。α-トコフェロール及びトコトリエノールは、ビタミンEの最も一般的な代表例のうちの1つである。
【0089】
本発明による中空繊維膜は、少なくとも1つの疎水性ポリマー及び1つの親水性ポリマーを含み、特に本発明の中空繊維膜は、疎水性ポリマーとしてポリスルホンを含有する。本出願の意味の範囲では、「ポリスルホン」は、ポリマーの主鎖又は側鎖の中にスルホン基を有するポリマーとして理解されるものとする。本出願の状況では、ポリスルホンという用語は、スルホン基を含有する全てのポリマーに対する汎称として理解されるものとする。ポリスルホンの典型的な代表例は、ビスフェノールA(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン、及びスルホン基を含有するコポリマーに基づくポリスルホンである。ポリスルホンポリマーの更に別の代表例は、従来技術で公知であり、かつ本出願によって定める血液処置膜の製造に適している。ポリスルホンは、蒸気滅菌可能であり、血液適合性に関して良好な特質を示すので、血液処置膜の製造において他のポリマーよりも優れていることが明らかにされている。中空繊維膜内の疎水性ポリマーの質量百分率は、94から97.5%である。
【0090】
本発明の中空膜は、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンを更に含む。「ポリビニルピロリドン」は、ビニルピロリドンモノマー又はその誘導体を用いて生成されたポリマーであると理解されるものとする。特に、「ポリビニルピロリドン」(PVPとも呼ぶ)は、本発明の意味の範囲で本発明の中空繊維膜の製造に適している。ポリビニルピロリドンは、ポリスルホンベースの中空繊維膜の製造に使用される水溶性親水性ポリマーである。更に、ポリビニルピロリドンは、疎水性中空繊維膜が親水化し、それによって血液に対する湿潤性がより高くなるので、疎水性ポリマーを含有する中空繊維膜の血液適合性の改善をもたらす。中空繊維膜内の親水性ポリマーの質量百分率は、3から5%である。
【0091】
本出願によって定める場合に、「血液適合性」は、特に、中空繊維膜の材料と接触する血液が、血液処置中に患者の健康に対して有害な可能性があるいずれの有害反応も受けないことに関するヒト血液との適合性として理解されるものとする。そのような反応は、補体系、血液凝固系、接触相系、並びに血液細胞要素の活性化処理を指すとすることができる。ポリスルホン/ポリビニルピロリドンポリマーの使用は、血液適合性に関して中空繊維膜内の他の血液接触材料よりも優れていることが明らかにされている。
【0092】
本発明の第2の態様による代替的実施では、本発明の中空繊維膜は、更に少なくとも1つの面上で親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによって少なくとも部分的に被覆されることによって特徴付けられる。
【0093】
親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによる被覆は、中空繊維膜の少なくとも1つの被覆面上で中空繊維膜の更に別の親水化を誘起する。本発明の第2の態様による中空繊維膜は、水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、特にα-トコフェロール又はトコトリエノールの低い含有量に起因して、流入する水性液、例えば、血液又は水に対する親水性ポリマーの保持をもたらすことが示されている。更に、被覆処理において中空繊維膜の少なくとも1つの面に適用された親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの大部分を中空繊維膜内に含有される水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミンによって固定することができることが認識されている。これに関する溶出試験は、いずれの水不溶性酸化防止剤も含有しない相応に被覆された中空繊維膜と比較して、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの少ない溶出を明らかにした。特に、ポリビニルピロリドンは、それにより、化学的に疎水性を有する高分子膜面をポリビニルピロリドンによって親水化するのにちょうど十分なポリビニルピロリドン量しか中空繊維膜の少なくとも1つの面上に沈殿することができないように被覆することができる。
【0094】
中空繊維膜の少なくとも1つの面上への親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの被覆は、中空繊維膜の面に適用される親水性ポリマーを含有する被覆溶液を用いて実現することができる。親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンで構成される中空繊維膜コーティングを疎水性及び親水性ポリマーで構成される中空繊維膜を製造する時に紡糸処理中に適用することが有利であることが明らかにされている。親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンは、それにより、凝固剤に添加され、疎水性及び親水性ポリマー、特にポリスルホン及びポリビニルピロリドン、並びに少なくとも1つの水不溶性酸化防止剤、特に脂溶性ビタミンを含む紡糸塊と共に同心環状紡糸口金に通して搬送される。それによってストランドは、凝固剤中に溶解された親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによって内側が湿潤される。膜構造が凝固剤との接触下で形成され、更にストランドが沈殿浴内に導入され、それによって親水性ポリマー、特にそれに伴ってポリビニルピロリドンは凝固剤から膜面上に固定される。
【0095】
本発明の第2の態様による更に別の実施では、本発明の中空繊維膜は、少なくとも1つの親水性面、特にルーメン側の面上に-1mVから-7mV、特に-1mVから-5.5mV、特に-1mVから-4mVのゼータ電位を有する中空繊維膜によって特徴付けられる。
【0096】
上述した方式で少なくとも1つの中空繊維膜面が親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンで被覆された中空繊維膜は、同じ膜材料で構成されるが追加的に親水性ポリマーで被覆されていない比較膜よりも中性のゼータ電位を有する。
【0097】
本発明の中空繊維膜は、湿潤中に水に対する最小接触角を有する。本発明の中空繊維膜の面が水で湿潤される時には、水の毛細管増大を測定する方法によって測定される接触角は57°よりも小さく、特に55°よりも小さく、より好ましくは、47°よりも小さい。好ましくは、内側ルーメン面は、そのような小さい接触角を示している。
【0098】
水が膜面に対して取る接触角は、膜面の親水性の尺度である。上述のように、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによる被覆は、中空繊維膜の全親水性ポリマー含有量を実質的に増大させることなく膜面を親水化する。従って、被覆は、中空繊維膜を少なくとも1つの膜面、特に血液側面上で親水化するのに全体に経済的で手順的に有利な手法を構成する。特に、このポリビニルピロリドンコーティングは、PVP厚が最小であるので、中空繊維膜の全PVP含有量を殆ど変化させない。小さい接触角は、それにより、高い膜内面親水性を表している。それとは対照的に、市販の中空繊維膜、例えば、Fresenius社製のFX60透析器では、64°の接触角を確認した。ポリスルホン及びポリビニルピロリドンを含むFX60中空繊維膜は、それにより、膜面被覆によって塗布される追加的なポリビニルピロリドンを含有しない。更に、これらの中空繊維膜は、膜材料中にいずれのα-トコフェロール含有量も持たない。それとは対照的に、1500ppmのポリビニルピロリドン濃度を有し、かつ凝固剤中に0.05質量%のα-トコフェロール含有量を有する本発明の中空繊維膜では、52°の接触角を確認した。更に、接触角の減少は、C5aとして測定される補体活性化の低下に相関することが見出されている。更に、接触角の減少は、「血小板損失」の低減にも相関することが見出されている。
【0099】
本発明による中空繊維膜は、膜材料中に水不溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミンを含有せず、中空繊維膜の少なくとも1つの面上に親水性ポリマー、特にPVPの被覆を含有しない比較膜よりも低い、特に50%まで低い補体活性化を示す中空繊維膜によって特徴付けられる。
【0100】
中空繊維膜の製造中に凝固剤を通して中空繊維膜の面に適用される親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによって補体活性化を調整することができることが示されている。凝固剤1kg当たり特に0.5gから4gまで、特に3gまで、特に2gまで、特に1.5gまでの親水性ポリマー、特にPVPの凝固剤濃度が特に好適である。
【0101】
本発明の中空繊維膜は、更に、膜材料中に水不溶性酸化防止剤を含有せず、少なくとも1つの中空繊維膜面上にポリビニルピロリドンコーティングを含有しないポリスルホン及びポリビニルピロリドンで構成される比較中空繊維膜よりも低い、特に60%低い「血小板損失」を示している。
【0102】
塗布される親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの量と、中空繊維膜に存在する水不溶性ポリマー、特に脂溶性ビタミンの量とによって血小板計数の減少を制御することができることが示されている。特に、親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンと、水不溶性ポリマー、特に脂溶性ビタミン、更に特にα-トコフェロール又はトコトリエノールとの相互作用は、対応する比較中空繊維膜の場合よりも低い血小板損失しかもたらされない。
【0103】
本発明の更に別の実施形態により、中空繊維膜は、XPS測定によると22%又はそれよりも多く、特に24から34%、更に特に26から34%である中空繊維膜の近表層内のポリビニルピロリドン濃度をルーメン側の面上で示している。本出願に説明する「近表層内のポリビニルピロリドンの決定のための測定方法(XPS)」に従って分析が実施される。分析は、約10nmの深さまで下の近表層を網羅する。そのような膜は、ルーメン側に特に良好なPVPコーティングを有する。それによって良好な親水性、従って、高い生体適合性がもたらされる。
【0104】
少なくとも1つの面、特に親水性面、更に特にルーメン側の面上で、本発明の中空繊維膜は、4.5又はそれよりも大きく、特に5.5又はそれよりも大きく、更に特に6.0又はそれよりも大きい表層上で本出願に説明する「TOF-SIMSを用いた表層内のCNO-及びSO2 -のピーク高さ比の決定」によって決定された4.5又はそれよりも大きい表層CNO-及びSO2 -ピーク高さ比を示している。TOF-SIMS測定方法は、特に高い面感度を有する分析方法であり、すなわち、面の最も外側の単層のみが分析される。従って、親水性ポリマーによる膜のルーメンの面カバレージを特に良好かつ確実に決定することができる。高いカバレージの程度は、親水性及び生体適合性を高めるので目標としなければならない。
【0105】
処置血液と接触している面上での親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの高い濃度に起因して、疎水性ポリマー、特にポリスルホンの面が隠され、従って、もはや血液細胞又は血漿蛋白質と接触状態にはない。中空繊維膜の少なくとも1つの面のコーティングが血液と接触することは、少量の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンによる有効な被覆を可能にするという利点を有し、ポリビニルピロリドンを紡糸塊中の水不溶性酸化防止剤によって中空繊維膜の面上に固定することができる。これは、従って、特に、生体適合化の効果に向けて少量の水溶性抗酸化剤、特に脂溶性ビタミン、及び少量の親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンしか用いなくてもよいので、改善された生体適合性を有する中空繊維膜を経済的にもたらすことを確実にする。
【0106】
本発明の中空繊維膜は、更に、溶出試験法において「ポリビニルピロリドン溶出の決定のための測定方法」に従って決定されたポリビニルピロリドン溶出が、80℃及び<5%の相対湿度で30日間保存された後に個々の繊維当たり4000*10-7mgよりも少なく、同じ保存条件下で60日間の後に個々の繊維当たり5000*10-7mgよりも少ないことを示している。好ましくは、ポリビニルピロリドン溶出は、80℃及び<5%の相対湿度で30日間保存された後に個々の繊維当たり2000*10-7mgよりも少なく、同じ保存条件下で60日間の後に個々の繊維当たり3000*10-7mgよりも少ない溶出を示している。
【0107】
この関連において、「ポリビニルピロリドン溶出」は、中空繊維膜からポリビニルピロリドンを溶出させる接触流体の流れとして理解されるものとする。例えば、水性液、例えば、血液等に対するその親水性に起因して、ポリビニルピロリドンは、膜材料から又は中空繊維膜の面から溶解されて流し去られる場合がある。1つの溶出試験法では、抽出剤、特に水は、ポリビニルピロリドンで被覆された中空繊維膜の面上で中空繊維膜に接して流れる。中空繊維膜から溶出されたポリビニルピロリドンは、抽出剤中のポリビニルピロリドンの濃度から決定することができる。
【0108】
上述のように、本発明の中空繊維膜からのポリビニルピロリドンの溶出は、ポリスルホンとポリビニルピロリドンとで構成される膜材料を有するが、追加的な脂溶性ビタミン及び追加的なポリビニルピロリドンコーティングを持たない中空繊維膜上で測定された溶出よりも少ない。それにより、ポリビニルピロリドンコーティングは、中空繊維膜の面、特に中空繊維膜の内面の親水性を高めることができ、同時に比較中空繊維膜と比較して溶出を低減するという利点がもたらされる。それによって特に、中空繊維膜から少量のポリビニルピロリドンしか溶出せず、体外血液処置中に人体の中に進入しないことで医学的見地からの利点がもたらされる。人体内へのポリビニルピロリドンの浸潤は、特に、人体が予め決められた分子量のポリビニルピロリドンを代謝することができなくなり、腎臓がそれを部分的にしか排出することができないという理由から危険であると捉えるべきである。
【0109】
本発明の中空繊維膜の更に別の実施形態では、中空繊維膜に存在する親水性ポリマー、特にポリビニルピロリドンの全量は、3から5質量%、特に3質量%よりも多く、特に3.5質量%よりも多く、特に5質量%よりも少なく、更に特に4.5質量%よりも少ない。そのような組成は、均衡のとれた機械的安定性特質プロファイル、適切な多孔率、及び良好な親水性を調整することを可能にする。
【0110】
本発明による中空繊維膜は、膜の容積中のPVPのものよりも高いPVP質量平均分子量(Mw)をルーメンの面において有する。膜の容積中の低いPVP分子量は、そのような組成が膜容積中で高いPVP含有量を可能にし、従って、特に高い親水性を有することで望ましいことが示されている。同時に、膜のルーメンの面上での特に高いポリビニルピロリドン分子量は、高いカバレージ、従って、特に最適化された面親水性をもたらすことが示されている。そのような膜は、特に高い生体適合性を有し、劣化後に低いPVP溶出を示している。
【0111】
中空繊維膜の別の実施形態では、膜は、1,000,000g/molよりも高く、例えば、1.005,000g/mol又は1,100,000g/mol、特に2,000,000g/molよりも高く、好ましくは、1,000,000g/molよりも高く3,000,000g/molまで、より好ましくは、2,000,000g/molよりも高く3,000,000g/molまでのルーメン面の質量平均PVP分子量(Mw)を有する。膜の容積中では、1,000,000g/molよりも低く、例えば、995,000g/mol又は900,000g/mol、好ましくは、500,000g/molから1,000,000g/mol未満までの質量平均PVP分子量が有利であることが示されている。紡糸塊中のPVPの質量平均分子量に対する凝固剤中のPVPの質量平均分子量の比は、好ましくは、少なくとも1.2、好ましくは、少なくとも2、より好ましくは、1.2から3、より好ましくは、2から3であり、なぜならば、そのような組成は、容積中で高いPVP含有量を可能にし、従って、特に高い親水性を有するからである。同時に、膜のルーメンの面上の特に高い質量平均PVP分子量は、高い占有率、従って、特に最適化された面親水性をもたらすことが示されている。そのような膜は、特に高い生体適合性を有し、劣化後に低いPVP溶出を示している。
【0112】
本発明による別の中空繊維膜は、本明細書に説明する「血漿アルブミンふるい係数の決定」という測定方法に従って30分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定されたふるい係数の7よりも小さく、特に5よりも小さい比を有する。
【0113】
本発明による別の中空繊維膜は、本説明の「血漿アルブミンふるい係数の決定」という測定方法に従って10分後に測定されたアルブミンに関するふるい係数に対する5分後に測定されたふるい係数の3よりも小さく、特に2よりも小さい比を有する。
【0114】
透析に使用されることになる膜は、通常は、本明細書に説明する方法に従って30分後に測定される治療上望ましいふるい係数に対して製造パラメータを最適化することによって調節される。この時間の後に、ふるい係数の平衡がほぼ確立され、その後に、この平衡は、4時間又はそれよりも長い透析期間にわたって一定に留まる。しかし、実施される試験の開始時及び透析の開始時にも、膜は、血液成分、特に蛋白質によって被覆され、それによってふるい係数は最初に低下する。膜カバレージが大きい場合に、ふるい係数のより際立った降下が発生し、膜をより大きく「開く」必要がある。それにより、透析の最初の数分以内に大きいアルブミン減少がもたらされる。本発明による膜は、試験又は透析の開始時により低いふるい係数降下しか示さず、従って、治療上望ましいより低いアルブミン減少しかもたらされない。
【0115】
本発明による別の中空繊維膜は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む膜材料を含み、「血小板損失の決定」に従って測定された50%未満、好ましくは、30%未満、特に好ましくは、20%未満の血小板損失によって特徴付けられる。血小板損失は、膜のルーメンの面への吸着によって引き起こされ、患者の血液の劣化をもたらし、同時にルーメンの利用可能断面の低減をもたらし、それによって時に透析中に血液側で有意な圧力降下がもたらされる場合がある。血小板損失が発生すると、個々の繊維は完全に詰まり、フィルタの性能が低下する場合がある。治療では、この効果は、ヘパリンを追加することによって相殺しなければならず、本発明によるフィルタを使用する場合に、低い血小板損失に起因して、少なくとも一部の患者には少量のヘパリンしか追加しなくてもよい場合がある。
【0116】
実施例に基づく本発明の説明
以下では本発明をいずれの方式にも限定されることのない測定方法及び例示的実施形態に基づいて説明する。
【0117】
ポリビニルピロリドン溶出の決定のための測定方法
中空繊維膜は、ポリビニルピロリドンの溶出可能量に関して分析される。この処理では、中空繊維膜フィルタは、固定の温度で固定の期間にわたって抽出剤によって洗浄される。この抽出は、次に、ポリビニルピロリドン含有量に関して検査される。この目的に対して、中空繊維膜フィルタは、以下の仕様に従って構造化される。
【0118】
185μmの内径及び35μmの壁厚を有する10,752個の中空繊維膜を有する中空繊維膜フィルタ(透析器)が使用される。フィルタハウジングの内径は34mmである。溶出を測定することに有意な中空繊維膜長は258mmである。中空繊維膜の内部を取り囲む第1のチャンバ(「血液チャンバ」)と、中空繊維膜の間の空間を取り囲む第2のチャンバ(「透析液チャンバ」)とを生成するために、中空繊維膜は、中空繊維膜フィルタ内の端部において密封される。Elastogran社製のポリウレタン(ポリオールC6947及びイソシアネート136-20)が流延化合物として使用される。各バンドル端部での流延高さは22mmである。水は、抽出剤として機能し、37℃の調整された温度にある1000mlの脱イオン水が、中空繊維膜の内部を取り囲む中空繊維膜フィルタの第1のチャンバを通して2つの中空繊維膜フィルタポートを通して流される。中空繊維膜フィルタの2つの更に別のポートが閉じられる。洗浄処理は、再循環モードを確実にする。この目的に対して、37℃の温度に保たれた水浴が与えられる。ポンプは、温度制御された水を水浴から第1のポートを通して中空繊維膜フィルタに供給する。中空繊維膜フィルタの第1のチャンバが洗浄され、水は、中空繊維膜フィルタから第2のポートを通して排出されて水浴に戻される。この再循環モード洗浄は、200ml/minの流量を用いて実施される。
【0119】
本方法に従って溶出可能なポリビニルピロリドンは水浴内で濃縮する。水浴内のポリビニルピロリドンの濃度は、測光法で決定することができる。測光決定(Muller又はBreinlichによる分光決定)に向けて、弱酸溶液中のポリビニルピロリドンとヨウ素/ヨウ化カリウムとの橙褐色反応が使用される。
【0120】
本方法は、10mlの抽出剤を5.0mlのクエン酸溶液及び2.0mlのKl3溶液に加えて混合し、更に反応させるために10分間室温で放置する段階を含む。次に、サンプル溶液の吸光度が470nmにおいて決定される。測定された吸光度から含有量を決定するために予め決められた較正が使用される。この較正にはPVP K81-86が使用される。
【0121】
PVP溶出は、これに加えて、加速劣化に基づいて決定される。ここで、それぞれの透析器は、各場合に80℃及び<5%の相対湿度の乾燥キャビネット内に30日、60日、及び120日の期間にわたって保存される。この保存期間の後にPVP溶出が決定される。PVPの抽出量が個々の繊維に相関付けられ、それぞれの値は、上述の方法によって決定された個々の繊維当たりの10-7mgを単位とする量として示される。
【0122】
「血小板損失」及び補体活性化の決定のための測定方法(比較方法)
血小板損失及び補体活性化を決定するために、血液の凝固又は血小板特質に影響を及ぼす可能性があるいずれの薬剤も服用していない健康な供血者からヒト全血が17G(1.5mm)針を用いて採取される。血液/食塩水混合溶液に対して1.5IU毎mlのヘパリン濃度がもたらされるように50mlの生理食塩水溶液中に希釈された750IUのヘパリンが採血バッグ内に与えられる。血小板損失を決定する方法は、供血の30分以内に開始される。
【0123】
図1の概略図のように、中空繊維膜を試験するための血小板損失測定用装置(1)が構成される。装置は、上述のように製造され、分析される中空繊維膜が内部に含まれた透析器(2)を含む。更に、装置は、ホースシステム(3)と、ホースポンプ(4)と、血液サンプル収集点(5)と、血液のリザーバ(6)と、透析器(2)の血液入口(8)にある圧力センサ(7)と、透析器(2)の血液出口(10)にある圧力センサ(9)とを含む。この決定には、最初に上述のようにヘパリン処置された200mlの血液が使用される。血液は、ホースポンプ(4)(製造業者:ドイツ、Fresenius Medical Care)を用いて装置(1)の透析器(2)を通るホースシステム(3)(材料:PVC、製造業者:ドイツ、Fresenius Medical Care)によって搬送される。各測定に対して新しいホースシステムが使用される。測定の前に、0.9%(w/v)の食塩水溶液を用いて全体の装置(1)が30分間洗浄される。装置を血液で充満たすために、純粋な血液のみが装置を満たすまで、濯ぎ洗浄溶液が排出され、低ポンプ速度で装置内に導入される血液で置換される。血液充填容量は200mlである。置換された溶液は処分される。
【0124】
分析中の限外濾過を防止するために、最初に透析液側は、透析器上のポート(11、12)を通して0.9%の食塩水溶液で満たされ、次に、密封される。次に、血小板損失の決定が、例えば、恒温器(ドイツ、Memmert社製)内で37°で180分間にわたって行われ、それにより、測定の開始時に血液サンプル収集点(5)においてサンプルが採取され、更に30分、60分、120分、及び180分後に採取される。測定を行う最中に条件が一定に留まることを確実にするために、血液入口(8)及び血液出口(9)での圧力が測定される。有意な圧力変化があった場合に、読取値を除外しなければならない。血液は、200ml/minの容積速度で装置を通してポンピングされる。
【0125】
血液適合性は、補体活性化(C5a)パラメータと血小板損失とを用いて決定される。血小板損失は、自動ヘマトロジー分析器(K4500 Sysmex、ドイツ、Norderstedt)3回決定を用いた3回決定によって決定される。
【0126】
補体活性化は、ドイツ、マールブルクのDRG Instruments社製のELISA test kit(EIA-3327)を用いた2回決定によって決定される。蛋白質分解性のC5a因子活性化からもたらされるC5a因子は、測定パラメータとして機能する。C5a因子に加えて、C5b因子と呼ぶ更に別の断片が生成される。補体活性化パラメータ及び血小板損失パラメータの評価は、Erlenkotter他著の公開論文「透析膜の血液適合性の評価のための採点モデル(Score Model for the Evaluation of Dialysis Membrane Hemocompatibility)」、Artificial Organs32(12):962-998、2008年に説明されているように、公式(1、補体活性化)及び公式(2、血小板損失)に従って実施される。血小板損失の決定では、測定期間は、全体の実験の最初の60分である。従って、以下の条件が公式2に適用される。
【数1】
公式(2)
ここで、IPLT=平均血小板損失(%を単位とする)、t1=0分、t2=60分、ΔcPLT=血小板濃度、TII=60分である。
【0127】
測定中に、更に別のフィルタ(ドイツ、Fresenius Medical Care社製のFX60)が、同じく各々供血の残り半分を用いて基準として測定され、測定結果が、この基準フィルタとの比較で決定される(%を単位として)。そうすることで、異なる供血者からの血液反応での固有の幅広い変化を数学的に補償することが可能になる。同じ原材料バッチを用いて例及び比較例を生成した。
【0128】
血小板損失を決定するための測定方法(絶対方法)
測定は、血小板損失を決定するための比較方法と同じく実施されるが、得られた結果は、絶対的に使用され、FX60フィルタと比較されない。更に、異なる試験フィルタ構造が使用され、使用される膜は、210μmの内径と40μmの壁厚とを有し、10752個の繊維のバンドルに組み合わされ、38.4mmの内径を有するフィルタハウジング内に入れられる。フィルタは、同じ有効長の繊維が利用可能であるように上述したものと同じ方式で流延される。次に、それぞれのフィルタに、上述したものと同じ方式で血液が流され、血小板損失パラメータが決定されるが、基準フィルタと比較されない。
【0129】
ゼータ電位の決定のための測定方法
分析される中空繊維膜のゼータ電位を決定するために、185μmの内径と35μmの壁厚とを有する10,752個の中空繊維膜を有する中空繊維膜フィルタ(透析器)が使用される。フィルタハウジングの内径は34mmである。ゼータ電位を測定するのに有意な中空繊維膜長さは285mmである。中空繊維膜の内部を取り囲む第1のチャンバと、中空繊維膜の間の空間を取り囲む第2のチャンバとを生成するように、中空繊維膜は、中空繊維膜フィルタ内の端部で密封される。流延化合物としてElastogran社製のポリウレタン(ポリオールC6247及びイソシアネート136-20)が使用される。各バンドル端部での流延高さは22mmである。この測定には図2図2aによる装置が使用される。中空繊維膜フィルタ(1)は、その第1及び第2のチャンバへの流体ポート(2、2a、3、3a)を含む。図2aにより、中空繊維膜フィルタ(1)の第1のチャンバへのこれらの流体ポートへの各々は、Ag/AgCl電極(4、4a)と圧力ゲージ(5、5a)に対するポートとが設けられる。中空繊維膜フィルタ(1)の第2のチャンバへの流体ポート(3、3a)は、中空繊維膜フィルタの第2のチャンバが充填されないままに留まるように密封される。2つの電極の間の電位差ΔEz(mV)が、従って、電圧計(6)によって記録され、圧力ゲージ(5、5a)に対する連通路の間の圧力降下ΔP(N/m2)が圧力計(7)によって記録される。試験液は、pH値7.4の1モルKCI水溶液で構成され、フィルタの上方約1000mmの場所に配置されたタンク(8)内に供給される。このpH値は、以下の規則に従って設定される。50mgのK2CO3を100リットルのKCI溶液に添加する。この混合物をpH値7.4に達するまで開放容器内で撹拌する。次に、容器をきつく密封する。23℃±2℃の温度で測定を実施する。
【0130】
ゼータ電位を測定するために、中空繊維膜の内部空間を取り囲む中空繊維膜フィルタの第1のチャンバ内に試験液が第1の流体ポート(2)を通して注入され、中空繊維膜の内部空間に接続された中空繊維膜フィルタ上の第2の流体ポート(2a)を通して透析器から再度送出される。この構成では、中空繊維膜フィルタは、安定した値に達するまで最初に試験液で10分間、必要に応じて更に5分間洗浄される。同時に、圧力差及び電位差が圧力計/マルチメーターから読み出され、そこからゼータ電位が計算される。測定精度を高めるために、測定値の取得の後に中空繊維膜の内部空間を通る試験液の逆流をもたらすように2つの四方弁が切り換えられるものとする。次に、両方の流動方向での平均測定値からゼータ電位に関する測定値が形成される。ゼータ電位の計算は、次式から導出される。
【数2】
ここで、
ζ=ゼータ電位(mV)
η=溶液粘性(0.001Ns/m2
Λo=溶液導電率(A/(V*m))
εo=真空誘電率(8.85*10-12*s/(V*m))
εr=溶液の相対誘電率(80)
Z=流動電位(mV)
ΔP=圧力差(N/m2
【0131】
接触角θの決定のための測定方法
中空繊維膜の接触角は、中空繊維膜が毛細管として機能する毛細管方法によって決定される。中空繊維膜は、測定スタンド内に固定される。0.25mg/mlのメチレンブルーで着色された脱イオン水が測定スタンドのベースに配置された桶の中に満たされる。長手の延長に対して横断方向の新しい切断縁部が西洋剃刀によって予め与えられている中空繊維膜がこの溶液中に浸漬され、20分の待機期間の後に桶内の試験液の液位の上方の中空繊維膜内の着色溶液の高さを確認することによって毛細管高さhが決定される。各測定の後に新しい中空繊維膜が使用される。切断縁部において、各中空繊維膜の内半径rが光学顕微鏡によって決定される。
【0132】
接触角を計算するために、毛細管圧に関する以下のヤング-ラプラスの式を使用することができる。
【数3】
式(0129-1)
所与の内半径、毛細管高さ、及び既知の定数から接触角を決定するための式を次式として定めることができる。
【数4】
式(0129-2)
ここで、
p=25℃での水の密度:0.997kg/m3
g=重力加速度:9.8m/s2
h=毛細管高さ:m
γ=室温での水の表面張力:0.0728N/m
r=毛細管半径
θ=決定される接触角
接触角は、12回の測定の平均値から決定される。
【0133】
中空繊維膜ポリビニルピロリドン含有量の決定のための測定方法
中空繊維膜のPVP含有量は、IR分光法を用いて決定される。この処理では、最初に中空繊維膜のサンプルを乾燥キャビネット内で105℃で2時間乾燥させ、次に、1gの中空繊維膜がジクロロメタン中に溶解される。更に、同じくジクロロメタン中に溶解される乾燥PVPを用いた較正標準が確立される。中空繊維内の約1から10%のPVP濃度範囲が、それによって網羅される。溶液の各々は、流体キュベット内に0.2mmの層厚になるまで注入される。この評価には、C-Oカルボニル振動の吸収バンドが使用される。
【0134】
近表層内のポリビニルピロリドンの決定のための測定方法(XPS)
面の近くの層内のポリビニルピロリドンの含有量は、光電子分光法(XPS又はESCA)を用いて決定される。この方法は、約5~10nmの層内のポリビニルピロリドンの比率を決定するために使用することができる。以下では、XPS法を用いてサンプリングされるこの層を「近表層」と呼び、この層は、測定条件によって定められる。
【0135】
中空繊維膜の内面、従って、選択的な層が露出されるように、中空繊維膜がメス又は他の鋭い刃を用いて分割される。このサンプルは、サンプル板上に固定され、サンプルチャンバ内に入れられる。測定条件は、以下の通りに定められる。
-装置:Thermo VG ScientificのK-Alphaモデル
-励起放射線:単波長X線、AI Kα、75W
-サンプルスポット径:200μm
-パスエネルギ:30eV
-光源と分析器の間の角度:54°
-Ag3d信号に対するスペクトル分解能:0.48eV
-印加真空:10-8mbar
-フラッドガンによって施される電荷補償
近表層内のPVP含有量は、窒素(N)と硫黄(S)の原子百分率に関して見出された値を用いて次式によって決定される。
PVP含有量[単位:質量%]=100*(N*111)/(N*111+S*442)
この式は、ビスフェノールAベースのポリスルホンの使用に適用され、ポリエーテルスルホンに関しては次式が使用されることになる。
PVP含有量[単位:質量%]=100*(N*111)/(N*111+S*232)
他のポリスルホンに関しては、硫黄に割り当て可能なモノマー単位の分子量を決定する必要があり、コポリマーに関しては、コポリマーに対する含硫黄モノマーの比率を考慮しなければならない。
各決定は、3つの中空繊維膜に対して行われ、これらの測定の平均値が計算される。
【0136】
TOF-SIMSを用いた表層内のCNO-及びSO2 -ピーク高さ比の決定のための測定方法
表層の組成が、2次イオン質量分析によって決定される。イオン検出器として飛行時間タイプ質量分析計が使用される。サンプルは、近表層決定と同じ方式で調製され、サンプルチャンバ内に導入される。この測定にはION-TOF社(ドイツ、ミュンスター)製のTOF-SIMS IVモデルが使用される。測定は、nanoAnalytices(ドイツ、ミュンスター)によって実施されている。この測定方法は、面の第1の単層又は最初の1つ~3つの単層それぞれによって表されるサンプルの表層の相対的化学組成を決定する。必須測定パラメータは以下の通りである。
-質量分解能:m/dm>8000
-質量範囲<3000m/z
-サンプルと光源の間の距離:2mm
-1次イオン:Bi+、加速電圧30kV
-加速後:30kV
-2次イオン極性:負及び正
-1次イオン照射率:測定毎に2.65*108個のイオン
-サンプリング面サイズ:10,000μm2(100×100μm)
-印加真空:10-8mbar
-パルス幅:10ns(非バンチ化)、5ns(バンチ化)
-バンチ化:イエス(高分解測定)
-電荷中和:イエス
測定パラメータを選択する時には、CNO-イオンのピーク高さが、チャネル毎に0.1カウントと2*105カウントの間に確立されることを確実にするように注意しなければならない。
評価にはアニオンスペクトルを用い、それにより、分子量42のCNO-イオンと分子量64のSO2 -イオンとをそれぞれのサンプルに関して評価した。それにより、CNO-は、PVPの信号を表し、SO2 -は、ポリスルホンの信号を表している。アニオンスペクトルがプロットされ、それぞれの分子量を表すそれぞれのピーク高さHが測定される。次に、これらのピーク高さHは、互いに対して設定され、決定された値は、ポリスルホンに対するPVPの比に関する測定パラメータを表している。
【数5】

各場合に3つの膜が測定され、平均値が計算される。
【0137】
血漿アルブミンふるい係数の決定のための測定方法
DIN EN ISO 8637:2014に従って中空繊維膜のアルブミンふるい係数の測定が、仕上がった中空繊維膜フィルタに対して実施される。185μmの内径と35μmの壁厚とを有する10752個の中空繊維膜を有するフィルタが使用される。中空繊維膜の有効長は235mmである。中空繊維膜の有効長は、ふるい係数、クリアランス、及び限外濾過係数のような透過性を決定するのに利用可能であるポッティングのない中空繊維膜の長さである。中空繊維膜フィルタの内径は、中間部で34mmである。中空繊維膜フィルタは、「ゼータ電位測定方法」で説明されたものと同じ構造を有する。DIN EN ISO 8637:2014に基づいてふるい係数を決定するためにヒト血漿が使用される。すなわち、アルブミンの「血漿ふるい係数」が決定される。血漿溶液は、500ml/minの流量で流体入口を通り、更に中空繊維膜の内部を取り囲む中空繊維膜フィルタの第1のチャンバを通過する。中空繊維膜フィルタの第2のチャンバ内では、流体入口を通して純水の100ml/minの逆流が設定される。5分、10分、及び30分後に、中空繊維膜フィルタの第1のチャンバの第1及び第2の流体入口、及び濾過側でアルブミンの濃度が決定され、そこから標準に従ってふるい係数が決定される。分析機器としてRoche DiagnosticsgmbH製のCobas Integra400プラスモデルが使用される。測定は、尿用途でのALBT2試験を用いて実施される。
【実施例0138】
実施例1:本発明の中空繊維膜の製造
16質量部のポリスルホン(Solvay社製のP3500)、4.3質量部のポリビニルピロリドン(Ashland社製のK81/86)、及び79.7質量部のDMAcからなる紡糸溶液を撹拌し、60℃まで加熱して脱気し、それによってこの溶液を均一な紡糸塊に加工する。次に、この紡糸塊にα-トコフェロール(Sigma Aldrich社)を紡糸塊の全体質量に対するα-トコフェロールの百分率が0.01質量%になるように添加する。凝固剤を生成するために、35質量%のDMAcと65質量%の水とを混合し、ポリビニルピロリドン(Ashland社製のK81/86)をその百分率が凝固剤の1g毎kg(1000ppm)になるように添加する。紡糸塊を中心に誘導された凝固剤を有する環状紡糸口金に通して185μmのルーメン径と35μmの壁厚とを有するストランドに加工する。凝固剤を中空ストランドの中に通す。環状紡糸口金の温度は70℃である。ストランドを雰囲気が100%の相対湿度にある沈殿チャンバに通して誘導する。沈殿間隙の高さは200mmであり、0.4秒の沈殿間隙滞留時間を設定する。80℃に温度制御された水からなる沈殿浴内にストランドを導入し、中空繊維膜に沈殿させる。次に、中空繊維膜を75℃から90℃に温度制御された濯ぎ洗浄浴に通す。その後に、中空繊維膜に、100℃と150℃の間の乾燥処理を加える。得られた中空繊維膜は、次に、巻取機の上に巻き取られてトウに形成される。巻かれたトウから中空繊維膜バンドルを生成する。
【0139】
更に、中空繊維膜バンドルを公知の技術を用いて中空繊維膜フィルタに加工する。得られた中空繊維膜フィルタは、次に、特許出願DE 102016224627.5に説明されている蒸気滅菌方法に従って滅菌される。こうして滅菌した中空繊維膜フィルタに対して、ゼータ電位、補体活性化、及び血小板損失を決定するための測定方法を実施する。実施例1に従って製造した中空繊維膜に関する個々の試験結果を表1に示している。
【0140】
実施例2:本発明の中空繊維膜の製造
本発明の中空繊維膜及びフィルタを生成するために実施例1と同じ基本条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの百分率が凝固剤の1.5g毎kg(1500ppm)である点である。上述のように滅菌した中空繊維膜フィルタに対して、ゼータ電位、補体活性化、及び血小板損失を決定するための測定方法を実施する。更に、「ポリビニルピロリドン溶出の決定のための測定方法」において上述したように、滅菌した中空繊維膜フィルタに、80℃で30/60日間の加速劣化を加える。それぞれの劣化の後にPVP溶出を決定する。接触角を測定し、中空繊維膜内のPVP含有量を測定し、近表層内のポリビニルピロリドン含有量を測定し、更にTOF-SIMSによって表層内のCNO-及びSO2 -ピーク高さ比を測定するために、上記に即して製造した中空繊維膜フィルタを開き、中空繊維膜を取り出してそれぞれの値を確認する。実施例2に従って製造した中空繊維膜に関する個々の試験結果を表1に示している。更に、5分、10分、及び30分後にアルブミンふるい係数を決定した。データを表2に提示している。更に、上述の仕様に従うが、ルーメン径210μm及び壁厚40μmという寸法を有する膜を製造し、それを用いて絶対方法に従って血小板損失を決定した。
【0141】
実施例3:本発明の中空繊維膜の製造
本発明の中空繊維膜及び対応するフィルタを生成するために実施例1と同じ基本条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの百分率が2500ppm質量部である点である。上述のように滅菌した中空繊維膜フィルタに対して、ゼータ電位、補体活性化、及び血小板損失を決定するための測定方法を実施する。実施例3に従って製造した中空繊維膜に関する個々の試験結果を表1に示している。
【0142】
実施例4:本発明の中空繊維膜の製造
本発明の中空繊維膜及び対応するフィルタを生成するために実施例1と同じ基本条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの百分率が3000ppm質量部であり、更に紡糸塊中のα-トコフェロール(ビタミンE)の濃度が0.05%(w/w)である点である。上述のように滅菌した中空繊維膜フィルタに対して、ゼータ電位、補体活性化、及び血小板損失を決定するための測定方法を実施する。更に、「ポリビニルピロリドン溶出の決定のための測定方法」において上述したように、滅菌した中空繊維膜フィルタに、80℃で30/60日間の加速劣化を加える。それぞれの劣化の後にPVP溶出を決定する。実施例4に従って製造した中空繊維膜に関する個々の試験結果を表1に示している。
【0143】
実施例5:本発明による中空繊維膜の生成
本発明による中空繊維膜及びフィルタの生成に向けて実施例1と同じ初期条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの比率が凝固剤1kg当たり1.5g(1500ppm)であり、更に凝固剤中でK90タイプのPVPを用いた点である。更に、K81/86タイプのPVPを紡糸塊中に用いた。ゼータ電位を決定するための測定方法を上述の方式で滅菌した中空繊維膜フィルタに対して実施する。接触角を測定し、近表層内のポリビニルピロリドン含有量を測定し、更にTOF-SIMSによって表層内のCNO-及びSO2 -ピーク高さ比を測定するために、上記に即して製造した中空繊維膜フィルタを開き、中空繊維膜を取り出してそれぞれの値を確認する。実施例5に従って製造した中空繊維膜に関する個々の調査の結果を表1に示している。この実施例による膜は、内側ルーメンの面上で特に設計実施例2と比較して特に高いPVP比率を示している。更に、5分、10分、及び30分後にアルブミンふるい係数を決定した。データを表2に提示している。
【0144】
実施例6:本発明による中空繊維膜の生成
本発明による中空繊維膜及びフィルタの生成に向けて実施例1と同じ初期条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの比率が凝固剤1kg当たり1.5g(2000ppm)であり、それにより、凝固剤中でK90タイプのPVPを用いた点である。更に、K81/86タイプのPVPを紡糸塊中に用いた。ゼータ電位を決定するための測定方法を上述の方式で滅菌した中空繊維膜フィルタに対して実施する。接触角を測定し、近表層内のポリビニルピロリドン含有量を測定し、更にTOF-SIMSを用いて表層内のCNO-及びSO2 -ピーク高さ比を測定するために、適切に調製した中空繊維膜フィルタを開き、中空繊維膜を取り出してそれぞれの値を確認する。実施例6に従って製造した中空繊維膜に関する個々の調査の結果を表1に示している。この実施例による膜は、内側ルーメンの面上に特に高いPVP比率を有する。
【0145】
実施例7:本発明による中空繊維膜の生成
本発明による中空繊維膜及びフィルタの生成に向けて実施例1と同じ初期条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの比率が凝固剤1kg当たり1.5g(1000ppm)であり、それにより、凝固剤中でK90タイプのPVPを用いた点である。更に、K81/86タイプのPVPを紡糸塊中に用いた。ゼータ電位を決定するための測定方法を上述の方式で滅菌した中空繊維膜フィルタに対して実施する。接触角を測定し、近表層内のポリビニルピロリドン含有量を測定し、更にTOF-SIMSを用いて表層内のCNO-及びSO2 -ピーク高さ比を測定するために、適切に調製した中空繊維膜フィルタを開き、中空繊維膜を取り出してそれぞれの値を確認する。実施例7に従って製造した中空繊維膜に関する個々の調査の結果を表1に示している。
【0146】
比較例1:比較中空繊維膜の製造
比較中空繊維膜及び対応するフィルタを生成するために実施例1と同じ基本条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの百分率が1.5g/kg凝固剤(1500ppm)質量部であり、更に紡糸塊中のα-トコフェロールの百分率が0.00%である点である。補体活性化及び血小板損失を決定するための測定方法を上述のように滅菌した中空繊維膜フィルタに対して実施する。更に、「ポリビニルピロリドン溶出の決定のための測定方法」において上述したように、滅菌した中空繊維膜フィルタに、80℃で30/60日間の加速劣化を加える。それぞれの劣化の後にPVP溶出を決定する。比較例1に従って製造した中空繊維膜に関する個々の試験結果を表1に示している。
【0147】
比較例2:比較中空繊維膜の製造
比較中空繊維膜及び対応するフィルタを生成するために実施例1と同じ基本条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの百分率が0g/kg凝固剤であり、更に紡糸塊中のトコフェロールの百分率が0.00%である点である。上述のように滅菌した中空繊維膜フィルタに対してゼータ電位、補体活性化、血小板損失、及びポリビニルピロリドン溶出を決定するための測定方法を実施する。更に、「ポリビニルピロリドン溶出の決定のための測定方法」において上述したように、滅菌した中空繊維膜フィルタに80℃で30/60日間の加速劣化を加える。それぞれの劣化の後にPVP溶出を決定する。
【0148】
接触角を測定し、中空繊維膜内のPVP含有量を測定し、近表層内のポリビニルピロリドン含有量を測定し、更にTOF-SIMSによって表層内のCNO-及びSO2 -ピーク高さ比を測定するために、上記に即して生成した中空繊維膜フィルタを開き、中空繊維膜を取り出してそれぞれの値を確認する。比較例2に従って製造した中空繊維膜に関する個々の試験結果を表1に示している。これに加えて、5分、10分、及び30分後にアルブミンふるい係数を決定した。データを表2に与えている。更に、上述の仕様に従うが、210μmのルーメン径及び40μmの壁厚を有する膜を製造し、それを用いて絶対方法に従って血小板損失を決定した。
【0149】
比較例3:比較中空繊維膜の生成
比較中空繊維膜及び対応するフィルタの生成に向けて実施例1と同じ初期条件を選択するが、相違点は、凝固剤中のポリビニルピロリドンの比率が5g/kg凝固剤(5000ppm)質量部であり、紡糸塊中のα-トコフェロールの比率が0.01%である点である。紡糸処理中に繊維は潰れ、従って、測定方法に適するフィルタを構成することができなかった。1回の繊維測定(接触角)も行うことができなかった。
【0150】
(表1)
表1:実施例1から7及び比較例1及び2に関する試験結果
【0151】
80℃及び<5%の相対湿度での30/60日それぞれの劣化の後にPVP溶出を決定した。測定値の単位は、個々の繊維当たりの10-7mgである。非劣化サンプルを用いて他の測定値を決定した。更に、市販の「Fresenius FX60」透析器に対して接触角を決定した。この値は、64°であることが見出されている。表1は、比較方法による血小板損失を示している。
近表層内のPVP含有量
実施例2:24.1%
実施例5:28.7%
実施例6:29.8%
実施例7:27.7%
比較例2:21.3%
TOF-SIMSを通じた表層CNO-及びSO2 -ピーク高さ比
実施例2:5.15
実施例5:6,50
実施例6:6,20
実施例7:5,20
比較例2:4.04
【0152】
実施例2のTOF-SIMSスペクトル(アニオン)を図3に示し、比較例2のTOF-SIMSスペクトルを図3bに示している。
【0153】
(表2)
表2 実施例2及び5の及び比較例のアルブミンふるい係数
【0154】
時間経過に伴ってふるい係数の明らかな低下がある。30分を超えた後に、ほぼ一定の平衡に達する。そのような透析器は小さい初期アルブミン減少のみを有するので、アルブミンふるい係数の可能な最も小さい低下を目標とするのが好適である。従って、5分及び10分後又は5分及び30分後のふるい係数の比も与えて表3に示している。
【0155】
(表3)
表3 実施例2及び5及び比較例3に関するふるい係数の比
【0156】
比較例は、試験の開始時にふるい係数の有意に大きい低下を示している。これは、より長い試験期間の後に同じ平衡ふるい係数を有する透析器に関して、本発明による膜又は透析器が有意に小さい初期アルブミン減少しか示さないことを意味する。従って、本発明による膜又は透析器を用いて処置される患者の栄養状態が改善される。
【0157】
(表4)
絶対方法によって決定された血小板損失の決定からのデータ
【0158】
このデータを決定するために、実施例2に関して68回の試験を実施し、比較例2に関して22回の試験を実施し、これらの測定の各々から平均値を計算した。本発明による膜が「血小板損失の決定」(絶対方法)方法に従って測定した有意に低い血小板損失を有し、従って、より血液適合性であることが示されている。
【符号の説明】
【0159】
1 血小板損失を決定するための装置
2 透析器
6 血液のリザーバ
7 圧力センサ
8 血液入口
図1
図2
図2a
図3
図3b
【手続補正書】
【提出日】2024-07-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスルホン及びポリビニルピロリドン並びに少なくとも1種類の水不溶性酸化防止剤を含む膜材料を有する中空繊維膜であって、
XPS測定法により測定される、膜の内側ルーメンの表面近傍層におけるポリビニルピロリドン含有量が22質量%以上であり、
80℃及び相対湿度<5%で30日間保管した後のポリビニルピロリドンの溶出が、個々の繊維あたり4000*10-7mg未満であり、特に80℃及び相対湿度<5%で60日間保管した後の個々の繊維あたり5000*10-7mg未満であることを特徴とする、前記中空繊維膜。
【請求項2】
中空繊維膜は、少なくとも1種の水不溶性酸化防止剤、特に脂溶性ビタミン、さらに特にα-トコフェロール又はトコトリエノールを、中空繊維膜の全質量に対し、質量比で0.005~0.25%含むことを特徴とする、請求項1に記載の中空繊維膜。
【請求項3】
中空繊維膜の内側ルーメン側表面のゼータ電位が、-1mV以上-7mV未満、特に-1mV~-5mV、さらに特に-1mV~-4mVであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の中空繊維膜。
【請求項4】
TOF-SIMSにより測定される、膜の内側ルーメンの表面層におけるCNO-とSO2 -とのピーク高さ比が4.5以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項5】
中空繊維膜のポリビニルピロリドン含有量が3~5%(w/w)であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項6】
膜の内側ルーメン表面のPVPの質量平均分子量(Mw)が、膜の容積のPVPの質量平均分子量(Mw)よりも高いことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項7】
膜の内側ルーメンの表面のPVPの質量平均分子量(Mw)が1,000,000g/molより大きく、好ましくは2,000,000g/molより大きく、より好ましくは1,000,000g/molより大きく3,000,000g/mol以下、より好ましくは2,000,000g/molより大きく3,000,000g/mol以下であり、膜の容積のPVPの質量平均分子量(Mw)が1,000,000g/mol未満、好ましくは500,000g/mol以上1,000,000g/mol未満である、請求項6に記載の中空繊維膜。
【請求項8】
凝固剤中のPVPの質量平均分子量と紡糸塊中のPVPの質量平均分子量との比が、少なくとも1.2、好ましくは少なくとも2、より好ましくは1.2~3、さらに好ましくは2~3である、請求項6又は7に記載の中空繊維膜。
【請求項9】
本明細書の測定方法により5分後に測定されたアルブミンのふるい係数と、30分後に測定されたふるい係数との比が、7未満、特に5未満である、請求項1~8のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項10】
本明細書の測定方法により5分後に測定されたアルブミンのふるい係数と、10分後に測定されたふるい係数との比が、3未満、特に2未満である、請求項1~9のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項11】
「接触角θの測定」方法により測定される内側ルーメン表面の水との接触角が、57°未満、特に55°未満、さらに特に47°未満であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項12】
「血小板損失の測定」方法により測定される血小板損失が、50%未満、好ましくは30%未満、特に好ましくは20%未満であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の中空繊維膜。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の中空繊維膜を複数含む、中空繊維膜フィルター。
【請求項14】
中空繊維膜フィルターが血液透析用透析器である、請求項13に記載の中空繊維膜フィルター。
【外国語明細書】