(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024137983
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】賦形繊維シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20240927BHJP
A41D 31/02 20190101ALI20240927BHJP
A47C 27/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B5/26
A41D31/02
A47C27/12 F
A47C27/12 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024113703
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2024539912の分割
【原出願日】2024-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2023033585
(32)【優先日】2023-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000214043
【氏名又は名称】蝶理株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】有川 洋文
(57)【要約】
【課題】使い勝手の良い賦形繊維シートを提供する。
【解決手段】長尺状の繊維シート20を搬送しつつ、長手方向山部20aを含むように、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる工程と、幅方向で皺めるように撓ませた繊維シート20を、搬送方向に沿って駆動する一対の無限軌道13a,16aの間に搬送することによって、一対の無限軌道13a,16aのそれぞれに搬送方向に沿って列設された賦形部材14,17の噛み合わせにより、長手方向山部20aを部分的に押圧する工程と、長手方向山部20aを部分的に押圧することによって凹凸形状を呈するように撓ませた繊維シート20を加熱する工程と、を含む。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則性を有する複数の凹凸形状を賦形した領域を有する賦形繊維シートであって、
前記領域における伸び率が20%以上であり、前記凹凸形状を賦形する前の繊維シートの表面積に対する前記賦形繊維シートの投影面積の比率が80%以下であり、
前記賦形繊維シートを複数の層に積層して中綿として用いたことを特徴とすることを特徴とする賦形繊維シート。
【請求項2】
前記凹凸形状が面方向に沿って繰り返し連続し、面方向に沿って張力を加えると、前記凹凸形状の嵩高が部分的に又は全体的に軽減するように伸長し、張力を緩めると前記凹凸形状が復元されるように収縮する伸縮性を有することを特徴とする請求項1に記載の賦形繊維シート。
【請求項3】
少なくとも一層の素材が異なるように複数の層に積層したことを特徴とする請求項1に記載の賦形繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、賦形繊維シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維シートに凹凸形状を賦形した賦形繊維シートや、この賦形繊維シートの製造方法が知られている。例えば、平面状の長繊維不織布(繊維シート)を、その不織布の厚みを実質的に維持しつつ、かつ厚み方向に立体的に嵩高くなるように加工することで、極端な落差を有する不規則な凹凸形状の皺が形成された長繊維不織布(賦形繊維シート)を得る賦形繊維シートの製造方法が知られている。(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の製造方法では、シワが形成されていない長繊維不織布を袋体に詰めて湿熱(60℃以上の熱水、水蒸気など)を与えることで、長繊維不織布にシワを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の製造方法で製造される賦形繊維シートは、不規則な凹凸形状の皺を形成するため、凹凸形状の形、数、嵩高が成り行きで形成されてしまい、外形が規定できない、広げにくい、外周の直線が失われる、裁断時にロスが大きい、縫製時に作業がしにくいなど、使い勝手が良くないという問題があった。また、特許文献1の製造方法は連続生産に不向きであり、製造効率が良くないという問題あった。
【0006】
すなわち、本発明は、使い勝手の良い賦形繊維シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る賦形繊維シートは、規則性を有する複数の凹凸形状を賦形した領域を有する賦形繊維シートであって、前記領域における伸び率が20%以上であり、前記凹凸形状を賦形する前の繊維シートの表面積に対する前記賦形繊維シートの投影面積の比率が80%以下であり、前記賦形繊維シートを複数の層に積層して中綿として用いた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の賦形繊維シートによれば、使い勝手の良い賦形繊維シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る賦形繊維シートの製造装置の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る賦形繊維シートの製造装置の構成の一例を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る繊維シートを幅方向で撓ませる工程の一例を示す説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る繊維シートを幅方向で撓ませる工程の一例を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る繊維シートを幅方向で撓ませる工程の一例を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る繊維シートを幅方向で撓ませる工程の一例を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る繊維シートに凹凸形状を賦形するときの一例を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る繊維シートに凹凸形状を賦形するときの一例を示す説明図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る繊維シートに凹凸形状を賦形するときの一例を示す説明図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る賦形繊維シートの一例を示す正面斜視図である。
【
図11】本発明の実施形態の変形例に係る賦形繊維シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図12】本発明の実施形態の変形例に係る賦形繊維シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図13】本発明の実施形態の変形例に係る賦形繊維シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図14】本発明の実施形態の変形例に係る賦形繊維シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図15】本発明の実施形態の変形例に係る賦形繊維シートの製造方法の一例を示す説明図である。
【
図16】本発明の実施形態の変形例に係る賦形部材の一例を示す説明図である。
【
図17】本発明の実施形態の変形例に係る賦形部材の一例を示す説明図である。
【
図18】本発明の実施形態の変形例に係る賦形部材の一例を示す説明図である。
【
図19】本発明の実施形態の変形例に係る賦形部材の一例を示す説明図である。
【
図20】本発明の実施形態の変形例に係る賦形部材の一例を示す説明図である。
【
図21】本発明の実施形態に係る賦形繊維シートを掛布団の中綿として用いた場合と従来の保温材を掛布団の中綿として用いた場合との隙間の比較例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1及び
図2は、本実施形態に係る賦形繊維シートの製造装置の一例を模式的に示す説明図であり、
図3~
図9は、賦形繊維シートの製造方法を模式的に示す説明図である。
【0011】
図1及び
図2に示すように、賦形繊維シートの製造装置1は、長尺状の繊維シートを搬送する搬送路2と、繊維シートを幅方向で皺めるように撓ませる撓み形成部3と、撓み形成部3において幅方向で皺めるように撓ませた繊維シートの撓みを保持する撓み保持部材4と、繊維シートを凹凸形状に撓ませるとともに凹凸形状に撓ませた繊維シートを加熱して賦形する賦形部5と、を備えている。撓み形成部3では、例えば、繊維シートをつづら折り状に撓ませる。
【0012】
なお、本実施形態に係る繊維シートとして、例えば、紙のシート、不織布シート、炭素繊維シート、ガラス繊維シート、天然繊維シート、機能性繊維シート、金属繊維、布帛などを挙げることができる。
【0013】
不織布シートに用いる不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブローン不織布、サーマルボンド不織布、エアスルー不織布、エアレイド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布を挙げることができる。
【0014】
繊維シートの材質として、例えば、 アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維などの合成繊維や、パルプ、ケナフ、羊毛、棉、竹、麻などの天然繊維や、金属繊維などを挙げることができる。また、これらは単体、混合、複合、混用などいずれの態様で用いてもよい。
【0015】
撓み形成部3は、繊維シートの搬送方向と交差(例えば、直交)する幅方向に延びる軸6に軸支された複数のローラ7を備える。複数のローラ7は上下に配置されており、上側に配置される上段ローラ群8(
図1中実線)と、下側に配置される下段ローラ群9(
図1中点線)とに区別されている。各ローラ7は、円錐台の底面同士を接合した双円錐形である。
【0016】
また、上段ローラ群8及び下段ローラ群9は、搬送路2の上流側から下流側にかけて軸支されているローラ7の数が多くなる。具体的には、上段ローラ群8では最上流にローラ7を1つ配置している。下段ローラ群9では最上流に2つのローラ7を配置している。そして、上段ローラ群8及び下段ローラ群9ともに、上流側から下流側にかけて1つずつローラ7の数が増加する。また、上段ローラ群8のローラ7と、下段ローラ群9のローラ7とは、幅方向に沿って交互に配列されている。そして、上段ローラ群8のローラ7は下段ローラ群9のローラ7の隙間に入り込んでいる。
【0017】
賦形部5は、撓み形成部3において幅方向で皺めるように撓ませた繊維シートの長手方向山部を部分的に押し下げる上側賦形装置10と、撓み形成部3において幅方向で皺めるように撓ませた繊維シートの長手方向山部の嵩高を保持する下側賦形装置11とを備える。
【0018】
上側賦形装置10は、繊維シートの搬送方向と直交する幅方向に延びる軸12に軸支されるとともに搬送方向に沿って並べた一対のローラ13と、各ローラ13の両端に巻回された一対の無限軌道13aを備える。無限軌道13aとして、例えば、ベルト、チェーン、ネット、ワイヤ、ロープ、糸、ひもを挙げることができる。ローラ13は図示しないモータの駆動により
図1において側面視すると反時計回りに回転する。なお、ローラ13に代えて、ギヤ、スプロケットギヤ、カム、リムなど、他の部材を用いてもよい。
【0019】
無限軌道13aには複数の賦形部材14が取り付けられている。賦形部材14は、繊維シート20の搬送方向と交差するように、搬送方向に沿って列設されている。
【0020】
なお、本実施形態では、繊維シートの搬送方向と直角に交差するように賦形部材14を列設しているが、繊維シートの搬送方向と交差すれば、交差する相対的な角度は、直角に限らなくてもよい。
【0021】
賦形部材14は、繊維シートの搬送方向と直交する幅方向に長い矩形板状である。そして、賦形部材14の一方の長辺部の両端は無限軌道13aに取り付けられている。
【0022】
また、賦形部材14の他方の長辺部には、繊維シートの搬送方向と直交する幅方向に沿って交互に配置された複数の突片14aと凹部14bとが形成されている。また、各賦形部材14の突片14aと凹部14bとは繊維シートの搬送方向において同一列となるように並べられている。後述するように、ローラ13が回転すると無限軌道13aが駆動し、無限軌道13aの駆動に伴って賦形部材14が搬送方向に沿って駆動する。そして、賦形部材14の突片14aが繊維シートの長手方向山部を部分的に押し下げる。また、各凹部14bには後述するように賦形部材14が撓み保持部材4と干渉しないように撓み保持部材4が挿入される。
【0023】
下側賦形装置11は、繊維シートの搬送方向と直交する幅方向に延びる軸15に軸支されるとともに搬送方向に沿って並べた一対のローラ16と、一対のローラ16の両端に巻回された一対の無限軌道16aを備える。無限軌道16aとして、例えば、ベルト、チェーン、ネット、ワイヤ、ロープ、糸、ひもを挙げることができる。ローラ16は図示しないモータの駆動により
図1において側面視すると時計回りに回転する。なお、ローラ13に代えて、ギヤ、スプロケットギヤ、カム、リムなど、他の部材を用いてもよい。
【0024】
無限軌道16aには複数の賦形部材17が取り付けられている。賦形部材17は2つを一組として搬送方向に沿って並べられている。賦形部材17は幅方向に長い矩形板状である。そして、賦形部材17の一方の長辺部の両端は無限軌道16aに取り付けられている。
【0025】
また、賦形部材17の他方の長辺部には、繊維シートの搬送方向と直交する幅方向に沿って交互に並べた複数の突片17aと凹部17bとが形成されている。また、各賦形部材17の突片17aと凹部17bとは繊維シートの搬送方向において同一列となるように並べられている。ローラ16が回転すると無限軌道16aが駆動し、無限軌道16aの駆動に伴って賦形部材17が搬送方向に沿って駆動する。そして、賦形部材17の突片17aが繊維シートの長手方向山部の嵩高を保持する。また、各凹部17bには後述するように賦形部材17が撓み保持部材4と干渉しないように撓み保持部材4が挿入される。
【0026】
撓み保持部材4は棒状であり、搬送方向に沿って延びている。撓み保持部材4は、繊維シートの搬送方向と直交する幅方向に沿って一定間隔ごとに並べられている。撓み保持部材4は上流側から下流側にかけて下り傾斜となるように設置されている。なお、賦形する凹凸形状に応じて撓み保持部材4は用いなくてもよい。
【0027】
また、無限軌道13aと無限軌道16aとを一対で用いる例を挙げているが、例えば、繊維シート20の厚み方向両側において二対以上の無限軌道を用いてもよいし、一方側と他方側とで無限軌道の数を異ならせてもよい。
【0028】
次に、上記のように構成された賦形繊維シートの製造装置1による賦形繊維シートの製造方法について、
図3~
図6を用いて説明する。
【0029】
図3~
図6に示すように、本実施形態の賦形繊維シートの製造方法では、先ず、長尺状の繊維シート20を搬送しつつ、搬送方向に沿って長手方向に延在する長手方向山部20a及び/又は長手方向谷部20bを含むように、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる工程に進む。
【0030】
例えば、この工程は、長尺状の繊維シート20を搬送しつつ、搬送方向に沿って長手方向に延在する長手方向山部20aと長手方向谷部20bとが、搬送方向に直交する幅方向に沿って交互に配列するように、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる工程であることが好ましい。
【0031】
そして、この工程では、撓み形成部3において、上段ローラ群8のローラ7と、下段ローラ群9のローラ7との隙間を繊維シート20が通過することが好ましい。上段ローラ群8のローラ7と、下段ローラ群9のローラ7との隙間を繊維シート20が通過すると、繊維シート20がローラ7の形状に沿った状態になる。このため、繊維シート20は幅方向中央に引き寄せられる。そして、複数のローラ7が搬送方向及び幅方向に配列されているため、搬送方向に沿って長手方向に延在する長手方向山部20aと長手方向谷部20bとが、幅方向に沿って交互に配列するように、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませることができる。
【0032】
なお、本工程において、長手方向山部20a及び長手方向谷部20bを含むように、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる例を挙げているが、長手方向山部20a又は長手方向谷部20bのいずれか一方を含むように、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませてもよい。
【0033】
次いで、繊維シート20は、幅方向で皺めるように撓ませた繊維シート20の撓みを保持する工程に進むことが好ましい。この工程では、長手方向谷部に撓み保持部材4が挿入される。これにより、長手方向谷部20bがさらに深くなり、また、長手方向谷部の撓みが保持されるとともに長手方向山部20aの撓みも保持される。
【0034】
なお、この際に、特に図示しないが、長手方向山部20aと長手方向谷部20bとの幅方向に沿った撓み形状が
図5に示すような正弦波状から矩形波状などの非正弦波状に整えられるようにしてもよい。
【0035】
次いで、幅方向で皺めるように撓ませた繊維シート20を、搬送方向に沿って駆動する一対の無限軌道13a,16aの間に搬送することによって、一対の無限軌道13a,16aのそれぞれに搬送方向に沿って列設された賦形部材14,17の噛み合わせにより、長手方向山部20a及び/又は長手方向谷部20bを部分的に押圧する工程に進む。
【0036】
この工程では、繊維シート20は賦形部5に搬送される。賦形部5では、上側賦形装置10のモータの駆動によりローラ13が
図1において側面視すると反時計回りに回転する。これにより、無限軌道13aが搬送方向に沿って駆動し、無限軌道13aの駆動に伴って賦形部材14が搬送方向に沿って移動する。
【0037】
一方、賦形部5では、下側賦形装置11のモータの駆動によりローラ16が
図1において側面視すると時計回りに回転する。これにより、無限軌道16aが搬送方向に沿って駆動し、無限軌道16aの駆動に伴って賦形部材17が搬送方向に沿って移動する。
【0038】
賦形部材14及び賦形部材17は、繊維シート20の搬送に同期するように移動する。また、賦形部材14の移動の過程で賦形部材14が下側賦形装置11に向けて突出する位置に移動とともに、賦形部材17の移動の過程で賦形部材17が上側賦形装置10側に突出する位置に移動したときに、搬送方向に沿って賦形部材14と賦形部材17とが交互になるように賦形部材14と賦形部材17とが移動する。
【0039】
そして、繊維シート20が上側賦形装置10と下側賦形装置11との間に進入すると、繊維シート20の長手方向山部20aの内側に賦形部材17の一対の突片17aが入り込む。これにより、長手方向山部20aの嵩高が保持される。
【0040】
また、賦形部材17の突片17aにより長手方向山部20aの嵩高を保持する部分の前後では、賦形部材14の突片14aにより長手方向山部20aを第1の方向(例えば、下方向)に押圧する。このように、賦形部材14,17の噛み合いによって、繊維シート20は、幅方向谷部20c(
図9参照)と長手方向山部20aの残部20d(
図9参照)を含む凹凸形状20e(
図9参照)を呈するように撓む。
【0041】
このとき、賦形部材17の凹部17bと賦形部材14の凹部14bとに撓み保持部材4が入り込むため、撓み保持部材4が賦形部材14や賦形部材17に干渉することがない。
【0042】
次いで、長手方向山部20a及び/又は長手方向谷部20bを部分的に押圧することによって凹凸形状20eを呈するように撓ませた繊維シート20を加熱する工程に進む。
【0043】
この工程は、長手方向山部20aを部分的に押圧することによって形成された幅方向谷部20cと長手方向山部20aの残部20dを含む凹凸形状20eを呈するように撓ませた繊維シート20を加熱する工程であることが好ましい。
【0044】
この工程では、本実施形態では、繊維シート20に熱風を吹き付ける。これにより、繊維シート20に凹凸形状20eが賦形される。熱風の温度は好ましくは50度~350度の範囲であり、より好ましくは70度~330度であり、より好ましくは80度~300度である。なお、繊維シート20は、撓み形成部3を通過した後から凹凸形状20eが賦形されるまでの幅は略同一である。
【0045】
なお、繊維シート20を加熱する手段としては、熱風に限らず、近赤外線、中赤外線、遠赤外線、伝導熱、スチーム、超音波、過熱水蒸気、高周波、低周波、電磁波、雰囲気加熱など、他の加熱手段を用いてもよい。
【0046】
また、繊維シート20を加熱する工程は、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる工程から繊維シート20に凹凸形状20eを呈するように撓ませる工程のいずれかに設けてもよいし、これらの工程全てに設けてもよい。そして、加熱の方向は、繊維シート20に対して上下左右を問わず、いずれの方向でもよい。さらに、工程ごとに違う温度にしてもよいし、徐々に加熱してもよい。また、凹凸形状を賦形している最中、又は、凹凸形状を賦形した後に、加温した温度より低い温度で冷却してもよい。
【0047】
また、本実施形態では、賦形繊維シート30に賦形する凹凸形状30cの嵩高を均一にしているが、嵩高はそれぞれ異なる高さとしてもよい。また、形状、ピッチ、配置に関しても必ずしも均一にしなくてもよく、異なる形状、ピッチ、配置にしてもよい。
【0048】
なお、本実施形態では、賦形部材14によって、長手方向山部20aを部分的に第1の方向に押圧する工程を例に挙げて説明したが、賦形部材によって、長手方向谷部20bを部分的に第2の方向に押圧する工程を設けてもよい。第2の方向とは、例えば、第1の方向と反対方向であり、本実施形態では、下方から上方に向かう方向である。この場合は、この工程の後に、長手方向谷部20bを部分的に押圧することによって形成された幅方向山部と長手方向谷部20bの残部を含む凹凸形状を呈するように撓ませた繊維シートを加熱する工程を設ければよい。
【0049】
なお、本実施形態のように、無限軌道13a,16aを用いることにより、賦形部材14,17が繊維シート20に嵌る時間(距離)が長くなるので、加熱時間を長くできる利点がある。これにより、繊維シート20に対する賦形を高速化できる。また、賦形部材14,17を徐々に噛み合わせていくことができるので、賦形部材同士が干渉することなく、嵩高の高い凸部を賦形することができる。さらに、賦形加工中に凸部の嵩高を可変させることができる。また、例えば、エンボスロールを使用して賦形する場合に比べて装置を軽量にすることができる。仮にエンボスロールを使用すると、例えば10mmを超えるような、嵩高の高い凸部を形成しようとすると、エンボスロールが巨大化してしまうので、凸部の嵩高をさらに高く(あるいは、凹部を深く)することは困難である。
【0050】
なお、幅を撓ませた繊維シートを搬送する速度は、無限軌道13a,16aの駆動速度以上であることが好ましい。繊維シートに凹凸形状を賦形するときに、繊維シートに過度な引っ張り力が掛からないので繊維シートが延伸しにくくなり、繊維シートがやぶれにくくなるからである。また、幅方向で繊維シートを撓ませるとともに、搬送方向での繊維シートの搬送速度と無限軌道の駆動速度との速度差により繊維シートを撓ませ、山部と谷部の道のりを確保することができる。
【0051】
図10は、本実施形態の賦形繊維シートの製造方法で得られる賦形繊維シートを示す図である。
【0052】
図10に示すように、上記の製造方法で賦形された賦形繊維シート30は、賦形された凹凸形状(図中、幅方向谷部30aと長手方向山部の残部30bとからなる凹凸形状30c)が面方向に沿って繰り返し連続する。また、幅方向谷部30aと長手方向山部の残部30bとの間には皺が生じる。すなわち、残部30bの側面部に皺が生じる。そして、面方向に沿って張力を加えると、凹凸形状の嵩高が部分的に又は全体的に軽減するように伸長し、張力を緩めると凹凸形状が復元されるように収縮する伸縮性を有する。凹凸形状の嵩高が部分的に又は全体的に軽減すると、例えば、凹凸形状が消失する。
【0053】
なお、本実施形態では、面方向に沿った方向であれば、凹凸形状30cの配列方向に限らず、いずれの方向に張力を加えても賦形繊維シート30は伸縮性を有する。例えば、衣類や寝具などの中綿の場合、生地が破壊されない範囲で伸ばしても復元する伸び率を有することが好ましい。具体的には、5%~300%の伸び率であることが好ましく、20%~300%の伸び率であることがより好ましく、20%~200%の伸び率であることがより好ましい。
【0054】
伸び率の測定について一例を挙げると、例えば、測定対象の賦形繊維シートを10cm×10cmに切り出して、縦、横それぞれの対向する辺を、シートの端縁から内側に1cmの距離まで挟持して破壊されない範囲で伸長させる方法がある。また、例えば、測定対象の賦形繊維シートを10cm×10cmに切り出して、対角を、シートの角から内側に1cmの幅で挟持して破壊されない範囲で伸長させる方法がある。なお、これらは伸び率の測定の一例であり、測定方法は適宜の方法を採用可能である。
【0055】
また、繊維シート20は、スパンボンド、サーマルボンド、エアスルー、スパンレースが好ましい。また、目付は5gsm~200gsmが好ましく、5gsm~150gsmがより好ましく、8gsm~100gsmがより好ましい。また、面積比(投影面積(加工後投影面積)÷表面積(加工前の原反面積))は、9%~90%が好ましく、25%~85%がより好ましく、35%~80%がより好ましい。
【0056】
そして、賦形繊維シート30は、特許文献1で示されるような皺加工に比べて、外形、嵩高、伸縮性など規定しやすく、連続生産が可能となるなどの効果を奏する。また、エンボス加工に比べて、薄肉部分(脆弱部)が生じにくいので、復元性に優れる、原反の機能や風合いを損ないにくい、機能性素材が使用できるなどの効果を奏する。
【0057】
具体的には、エンボス加工では、繊維シートを圧縮及び延伸するので、圧縮部分は素材がつぶれる、固くなる、密度が上がるなどの問題を生じる。一方で、延伸部分は素材が延ばされるため、弱くなる(復元性の低下)、密度下がるなどの問題を生じる。また、中空繊維などは、潰れ、あるいは延伸により破壊される部分が生じ、その機能を損失する問題が生じる。分割繊維なども同様である。よって、エンボス加工は機能性繊維に向かない。しかし、本実施形態では、事前に繊維シートを幅方向で皺めるように撓ませるのでこの問題が生じにくくなっている。
【0058】
また、本実施形態では、繊維シートを圧縮及び延伸しない(しにくい)ので、凸部周囲(主に側面部分)に皺が生じる。そして、皺が生じた部分が凸部の支持の補強の効果を有するので、凸部に潰れが生じても復元性が良好である。また、エンボスは圧縮及び延伸するので、加工前の繊維シート(原反)に微細な穴や切れ目、ほつれなどがあるとこれらが拡張し不良品になる一方で、本実施形態では、繊維シートを圧縮及び延伸しない(しにくい)ので、加工前の繊維シート(原反)に微細な穴や切れ目、ほつれなどがあっても、これが拡張することが少なく、生産時の歩留まりも向上する。
【0059】
このような特性を有することにより、本実施形態の賦形繊維シート30は以下の用途に好適である。
【0060】
例えば、詰め物(中綿)に好適である。具体的には、衣服、寝具、アウトドア用品、座布団、ぬいぐるみの詰め物に好適である。なお、詰め物として用いた場合は、例えば、空間部に綿球、ダウン、フェザー、トウ、ビーズ、ストロー、発砲ビーズ、ペレット、粒綿、SAP、フレーク、活性炭、ゼオライトを用いることができる。
【0061】
また、保温材に好適である。例えば、ペットボトルカバー、包装材に好適である。
【0062】
また、吸音材に好適である。例えば、防音シート(自動車、住宅、音響など)に好適である。
【0063】
また、清掃具に好適である。例えば、フローリングシート、掃除シート、ウェットティッシュに好適である。
【0064】
また、吸収体に好適である。例えば、オムツ表面材、生理用品表面材、給水シート表面材、ドリップシートに好適である。
【0065】
また、放散材(拡散材)に好適である。例えば、芳香剤、消臭剤、消毒剤、抗菌剤、防カビ剤、加湿器、放熱材に好適である。
【0066】
また、フィルター(気体、液体)に好適である。例えば、袋体、筒体、積層体、巻き体、複合体に好適である。
【0067】
また、カバー類に好適である。例えば、防汚カバー、防塵カバー、防雨カバー、防水カバー、防油カバー、日焼け防止カバー、日よけカバー、防虫カバー、防鳥カバー、防獣カバー、防霜カバーに好適である。
【0068】
また、農林業の資材に好適である。例えば、種苗床、コモ巻に好適である。
【0069】
また、建築材に好適である。例えば、養生シート、セメントやコンクリートやモルタルやパテ剤や接着剤の補強又は芯材に好適である。
【0070】
また、容器に好適である。例えば、セル部に入れる袋体や箱体に好適である。
【0071】
なお、賦形繊維シート30は、一枚で使用してもよいし、重ねて複数枚使用してもよいし、折り重ねて使用してもよいし、巻いて使用してもよい。また、異なる繊維シートと複合又は複数の層に積層して使用してもよい。例えば、異なる材質の布帛、皮革、紙、繊維シート、フィルム(透湿性フイルム、透気性フイルムなど)、シート、ポリオレフィン製の繊維直交積層不織布、網、メッシュ等と複合又は積層して使用してもよい。材質としては、例えば、棉、麻、竹、ケナフ、天然皮革、合成皮革、シルク、ウール、パルプ、レーヨン、ビスコース、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチロール、ABS、アクリル、ナイロン、ポリカーボネイト、塩化ビニル、ウレタン、合成樹脂等、アルミ、銀、金、プラチナ、銅、鉄、ステンレス、金属類等、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー、シリコン等を挙げることができ、天然、合成、半合成素材は問わない。また、これらは単体、複合、混用、混合素材でもよい。また、賦形繊維シート30同士を接合する、又は賦形繊維シート30を異なる繊維シートと接合する、又は賦形繊維シート30をフイルムなどと接合するなど、賦形繊維シート30を接合して使用してもよい。この場合、接合方法とそして、接着・熱溶着・超音波溶着・高周波溶着・低周波溶着・圧着・縫製などが挙げられるが、接合方法はこれに限定されない。
【0072】
なお、賦形繊維シートを例えば、衣服、寝具、寝袋などの中綿に使用する場合、賦形繊維シートの凸部の幅は凹部の幅よりも大きいことが好ましい。これにより、賦形繊維シートを対向するように重ねたときに嵌め合いとならないので嵩高を保持できる。
【0073】
上記実施形態では、賦形部材17によって嵩高を保持しつつ、賦形部材14によって繊維シート20の長手方向山部20aを幅方向に沿って部分的に押圧する構成としたが、他の方法により長手方向山部20aを幅方向に沿って部分的に押圧してもよい。
図11は賦形繊維シートの製造方法の変形例を示す説明図である。
【0074】
例えば、
図11(a)に示すように、上記製造方法と同様に幅方向で皺めるように撓ませた繊維シート20を、幅方向に延びる長孔40aを有する板40の上方を通過させる。そして、
図11(b)に示すように、繊維シート20が長孔40aの上方を通過するときに、突片状の賦形部材41を長孔40aに挿入する。これにより、
図11(c)に示すように、繊維シート20の長手方向山部20aを幅方向に沿って部分的に押圧することができる。
【0075】
上記実施形態では、無限軌道13a,16aを直線状にする例を挙げて説明したが、
図12に示すように、上側の無限軌道50と下側の無限軌道51との間に繊維シート20を搬送する場合に、繊維シート20が搬送される入り口部分52や出口部分53において、無限軌道50,51に緩やかな傾斜をつけてもよい。
【0076】
これにより、無限軌道50に設けた賦形部材50aと、無限軌道51に設けた賦形部材51aとを徐々に噛み合わせることが可能になるので、撓み保持部材4を設けなくても、繊維シート20の撓みを深くしつつ繊維シート20に凹凸形状を賦形することができる。また、繊維シート20をスムーズに搬送することができる。
【0077】
上記実施形態では、上段ローラ群8のローラ7と、下段ローラ群9のローラ7との隙間を繊維シート20が通過することにより、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる例を挙げて説明したが、繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませる方法は上記実施形態で示した方法に限らなくてもよい。
【0078】
例えば、
図13(a)に示すように、上下に配置した波形のローラ90によって繊維シート20を挟み込むことにより繊維シート20を撓ませることができる。具体的には、ローラ90として、先端が繊維シート20に向けて凸形状のローラ90aと、先端が繊維シート20に向けて凹形状のローラ90bを設ける。また、ローラ90aとローラ90bとを幅方向に沿って交互に配置するとともに、繊維シート20を介して互いに対向するように配置する。そして、幅方向に延びるとともに上下に配置された一対の軸15のそれぞれでローラ90a,90bを軸支し、繊維シート20の上下からでローラ90a,90bによって繊維シート20を挟み込む構成とする。
【0079】
また、例えば、
図13(b)に示すように、上下に配置した径の異なるローラ91で繊維シート20を挟み込むことにより繊維シート20を撓ませることができる。具体的には、ローラ91として、径が短いローラ91aと、径が長いローラ91bを設ける。また、ローラ91aとローラ91bとを幅方向に沿って交互に配置するとともに、繊維シート20を介して互いに対向するように配置する。そして、幅方向に延びるとともに上下に配置された一対の軸15のそれぞれでローラ91a,91bを軸支し、繊維シート20の上下からローラ91a,91bによって繊維シート20を挟み込む構成とする。
【0080】
また、例えば、
図13(c)に示すように、段違いローラ92で繊維シート20を挟み込むことにより繊維シート20を撓ませることができる。具体的には、繊維シート20の上側に上下方向での高さが異なる一対の軸15a,15bを設ける。軸15bは軸15aよりも上側に配置されている。また、繊維シート20の下側にも上下方向での高さが異なる一対の軸15c,15dを設ける。軸15cは軸15dよりも上側に配置されている。また、ローラ92として同一形状及び同一の大きさのローラ92a,92b,92c,92dを設ける。
【0081】
そして、軸15aでローラ92aを軸支させるとともに軸15bでローラ92bを軸支させることにより、ローラ92a,92bを上下方向で段違いにする。また、軸15cでローラ92cを軸支させるとともに軸15dでローラ92dを軸支させることにより、ローラ92c,92dを上下方向で段違いにする。また、ローラ92aとローラ92dが繊維シート20を介して対向するとともに、ローラ92bとローラ92cが繊維シート20を介して対向するように各ローラを配置することにより、繊維シート20から離れた軸に軸支されたローラ同士が対向することのないようにして、各ローラ間の隙間を小さくする。そして、繊維シート20の上下から、ローラ92a,92bとローラ92c,92dとによって繊維シート20を挟み込む構成とする。
【0082】
また、例えば、
図13(d)に示すように、上下に配置した波形の線材93によって、繊維シート20を挟み込むことにより繊維シート20を撓ませることができる。具体的には、複数の線材93を搬送方向に沿って並べて配置し、繊維シート20の上下から線材93によって繊維シート20を挟み込む構成とする。
【0083】
また、例えば、
図14(a)に示すように、上下に配置された折り板60,61を賦形部5の上流に配置する。そして、
図14(b)に示すように、上下に配置された折り板60,61の隙間を通過するように繊維シート20を搬送することにより、上側の折り板60で長手方向谷部20bを形成するとともに下側の折り板61で長手方向山部20aを形成して繊維シート20を幅方向で皺めるように撓ませてもよい。
【0084】
この他、繊維シート20に突起を押し当てる、波形のサクションボックスにより撓ませる、部分的バキュームにより撓ませる、強弱バキュームにより撓ませるなど、繊維シート20.を撓ませることが可能であれば、その方法は上記実施形態に限らない。
【0085】
上記実施形態では、幅方向で皺めるように撓ませた繊維シート20の長手方向山部20a及び長手方向谷部20bを部分的に押圧する工程において、繊維シート20の嵩高を変化させない例を挙げて説明したが、繊維シート20の嵩高を調節してもよい。
【0086】
例えば、
図15に示すように、無限軌道13a,16aの軌道を変化させるローラ13b,16bを配置することにより、繊維シート20の嵩高が高くなるように嵩高を調節することが可能である。なお、繊維シート20の嵩高が低くなるように嵩高を調節してもよい。
【0087】
このように、賦形繊維シートの凹凸形状の嵩高が低い部分と高い部分とを設けることにより、賦形繊維シートを折り曲げ、あるいは、賦形繊維シートを重ねて、表面や裏面が対向して重なるように使用したときに凸部同士の干渉を低減できる。また、例えば、衣服の中綿として使用したときに、表面から凸部が目立つことを防止できる。
【0088】
上記実施形態では、賦形繊維シートの凹凸形状を搬送方向に沿って同一列に配置する例を挙げて説明したが、賦形繊維シートの凹凸形状の幅方向における位置を互い違いとなるようにずらしてもよい。
【0089】
例えば、各賦形部材14同士の幅方向の相対的な位置をずらすことによって幅方向における突片14aの位置をずらすとともに、各組同士の賦形部材17の幅方向の相対的な位置をずらすことによって幅方向における突片17aの位置をずらす。このような、配置として賦形部材14と賦形部材17との噛み合わせにより、幅方向における賦形繊維シートの凹凸形状の位置をずらすことができる。
【0090】
上記実施形態では、賦形部材14の突片14aと賦形部材17の突片17aとによって繊維シート20が凹凸形状を呈するように撓ませたが、賦形部材の形状は上記実施形態と異なる形状でもよい。
【0091】
例えば、
図16(a)に示すように、先端部を繊維シート20の搬送方向と逆方向に折り曲げた賦形部材70によって繊維シート20が凹凸形状を呈するように撓ませてもよい。なお、賦形部材70は、繊維シート20が引っ掛かることを防止するために先端部を円弧状に形成しているが、賦形部材70の変形例として、
図16(b)に示す賦形部材71のように、先端部のみならず、折り曲げ先を略円形状に形成してもよい。
【0092】
また、例えば、
図17(a)に示すように、円柱状の賦形部材72によって繊維シート20が凹凸形状を呈するように撓ませてもよい。
図17(a)の例では、賦形部材72を繊維シート20の搬送方向と直交する幅方向に沿って直線状に配列しているが、
図17(b)に示すように、賦形部材72を搬送方向に沿った位置が互い違いになるように幅方向に沿って配列してもよい。さらに、図示は省略するが、異形の賦形部材を配列してもよい。
【0093】
なお、賦形部材72の変形例として、
図18(a)に示すように、先端部がなべ頭状の賦形部材73を用いてもよい。また、
図18(b)に示すように、先端部を面取りした賦形部材74を用いてもよい。また、
図18(c)に示すように、円管状の賦形部材75を用いてもよい。また、
図18(d)に示すように、角筒状の賦形部材76を用いてもよい。
図18(c)や
図18(d)の例では、天面に、押圧されない部分があるので、よりその部分は原反の風合いや機能を損なわないようにすることができる。また、
図18(e)に示すように、多角柱状の賦形部材77を用いてもよい。また、
図18(f)に示すように、十字柱状の賦形部材78を用いてもよい。また、
図18(g)に示すように、搬送方向に長い突片状の賦形部材79を用いてもよい。この他、例えば、星形のような反角柱状の賦形部材を用いてもよく、賦形部材の形状は本実施形態に例示する形状に限らない。
【0094】
また、例えば、
図19(a)に示すように、先端を面取りして曲面形状とした賦形部材80によって繊維シート20が凹凸形状を呈するように撓ませてもよい。このように、先端部を曲面形状とすることにより、繊維シート20の搬送をスムーズにすることができる。なお、賦形部材80の変形例として、
図19(b)に示すように、先端部をトラス頭状にした賦形部材81を用いてもよい。また、
図19(c)に示すように、先端部を球状にした賦形部材82を用いてもよい。
【0095】
また、例えば、
図20(a)に示すように、幅方向に連続する曲面状の壁面を有する波板状の賦形部材83によって繊維シート20が凹凸形状を呈するように撓ませてもよい。なお、賦形部材83の変形例として、
図20(b)に示すように、幅方向に連続する半円弧状の壁面を有する波板状の賦形部材84を用いてもよい。また、
図20(c)に示すように、幅方向に連続する半円以上に撓ませた円弧状の壁面を有する波板状の賦形部材85を用いてもよい。また、
図20(d)に示すように、幅方向に連続するV字状の壁面を有する波板状の賦形部材86を用いてもよい。その他、断続した波板状、矩形波状などを挙げることができる。
【0096】
次に、本発明の製造方法により製造した賦形繊維シート30を衣類や布団などの繊維製品の中綿として用いる場合について具体的に説明する。
【0097】
従来、布団や衣類などの製品の中綿にダウンや短繊維の粒綿を用いると、表地からの吹き出しによる繊維の脱落や偏りが発生していた。このため、繊維の脱落を防止するために、表地の生地に高密度の織物を使用する、あるいは、カレンダー加工を施す必要が生じるなど、表地の生地に制限が生じていた。また、繊維の偏りを防止するために、表地に対してキルトやステッチなどの加工が必要であった。しかし、賦形繊維シート30は長繊維の繊維シート20の積層により製造しているので、吹き出しによる繊維の脱落や偏りがほとんどない。このため、吹き出しによるほこりの発生を防止でき、洗濯も容易になる。
【0098】
そして、賦形繊維シート30は吹き出しによる繊維の脱落がほとんどないので、表地として用いる生地の自由度が高めることができる。例えば、従来では使用できなかった目の開いた生地を表地として使用できる。具体的には、ガーゼやワッフルなどの低密度生地、ニットやストレッチ織物などを表地として使用できる。また、表地を構成する積層体の一部としてポリオレフィン製の繊維直交積層不織布を使用できる。
【0099】
また、賦形繊維シート30は偏りがほとんどないので、表地に対してキルトやステッチなどの加工が必要ない。このため、キルトやステッチなどの加工部分から熱が外部に逃げることを防止できる。また、表地による中綿の押さえつけが少なくなり、空気層をより大きく保つことができる。その結果、従来の中綿を用いた場合よりも製品を軽くすることができ、製品の保温性を高めることができる。また、表地に対するキルトやステッチなどの加工部分を省くことができる。
【0100】
また、高密度で身体への追従性が低い表地を表地に用いる必要がなく、さらに、表地に対してキルトやステッチなどの加工が必要ないので、低密度で身体への追従性が高い表地を用いることができる。すなわち、従来のように厚みのある硬い表地を用いることなく、従来と比較して厚みのない柔らかい表地を用いることできる。これにより、製品の身体への追従性を高めることができる。このため、衣類の中綿として賦形繊維シート30を用いた場合は着心地を向上させることができる。また、デザイン性を高めることもできる。
【0101】
また、賦形繊維シート30は密度が低いのでムレを逃がすことができる。さらに、レーヨン不織布を積層することで容易に吸湿発熱を行うことができる。
【0102】
ここで、例えば、賦形繊維シート30を10層にして掛布団の中綿として用いることができる。一例として、賦形繊維シート30を中綿として用いた掛布団は、シングルサイズ(幅1500×長さ2100mm、厚さ約50mm)では約1.9kg(26g/m2×10層)となった。これに対し、従来の中綿を用いた同サイズ掛布団では、羽毛掛布団は2.5kg前後、真綿掛布団は2.3kg前後、羽根掛布団は3kg前後、羊毛掛布団は3.5kg前後、ポリエステル掛布団は2kg前後、木綿掛布団は4.5前後となった。このように、賦形繊維シート30を中綿として用いた掛布団は従来の中綿を用いた掛布団と比べて軽くなる。
【0103】
また、JIS(Japanese Industrial Standards)で規定される試験方法(JIS L 1096)のA法(恒温法)によって、本発明の製造方法により製造した賦形繊維シート30の保温性について試験を行った。なお、試験は、試料(40cm×40cm)の座布団を恒温熱板の上にかぶせ、恒温熱板の表面温度を一定値(36℃±0.5℃)に保持させたときの放熱量(消費電力に比例)から保温率(%)を求める。括弧内はCLO値を示す。なお、一枚の試験片を2回測定した結果である。
【0104】
その結果、賦形繊維シート30(14g)は保温率が80.1%(3.07)、粒綿3D(14g)は保温率が73.0%(2.06)、粒綿7D(14g)は保温率が73.7%(2.13)、ダウン(14g)は保温率が84.0%(4.01)、ファインポリゴン(登録商標)(14g)は保温率が78.0%(2.69)、賦形繊維シート30(21g)は保温率が84.1%(4.02)となった。
【0105】
このように、賦形繊維シート30では、凹凸形状20eにより形成される空間に空気を取り込んで空気層を形成できるので、賦形繊維シート30を中綿として用いた掛布団は従来の中綿を用いた掛布団と比べて優れた保温性を得ることができる。
【0106】
そして、
図22に示すように、例えば、本発明の賦形繊維シート30を繊維製品の一例として掛布団の中綿として用いた場合は、従来の保温材を使用した中綿に比べて隙間が少なくなり、保温性を高めることができる。
【0107】
なお、繊維製品として、布団や寝袋などの寝具、一般衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテン、クッションなどのインテリア製品、カーシートなどの車輌内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途やフィルター、有害物質除去製品などの環境・産業資材用途を挙げることができる。
【0108】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0109】
例えば、繊維シートを幅方向で皺めるように撓ませる工程では、繊維シートを幅方向で中央に寄せる、繊維シートを厚み方向に撓ませるなど、上記実施形態と異なる方法により繊維シートを撓ませてもよい。また、撓みの形状は本実施形態の限定されるものではなく、上記実施形態と異なる形状にしてもよい。
【0110】
また、繊維シートを幅方向で皺めるように撓ませる工程では、つづら折り状に撓ませる態様に限らなくてもよく、例えば、繊維シートが搬送方向に沿って延びる1条の長手方向山部や長手方向谷部が形成されるように繊維シートを撓ませるなど、上記実施形態と異なる態様で撓ませてもよい。
【0111】
また、長手方向山部20a及び/又は長手方向谷部20bを部分的に押圧することによって凹凸形状20eを呈するように撓ませた繊維シート20を加熱する工程において、繊維シート20に両側から熱風を吹き付けることにより、繊維シート20を賦形する例を挙げて説明したが、繊維シート20を加熱する工程において、繊維シート20の一方側から繊維シート20に熱風を吹き付けることによって繊維シート20を加熱し、繊維シート20に吹き付けた熱風を繊維シート20の他方側で吸引し、吸引した熱風を再度一方側から繊維シート20に吹き付けてもよい。このように、吸引した熱風を再度繊維シート20に吹き付けることにより、熱ロスを抑制することができる。また、吸引により繊維シート20が賦形部材14,17に押し付けられるので、繊維シート20に凹凸形状20eを賦形しやすくなる。
【符号の説明】
【0112】
1 賦形繊維シートの製造装置
2 搬送路
3 撓み形成部
4 撓み保持部材
5 賦形部
10 上側賦形装置
11 下側賦形装置
20 繊維シート
20a 長手方向山部
20b 長手方向谷部
30 賦形繊維シート