(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138011
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】貝殻廃材の活用方法、貝殻廃材の活用システム、及び貝殻廃材由来製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20240927BHJP
B09B 3/35 20220101ALI20240927BHJP
C03B 1/00 20060101ALI20240927BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20240927BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B3/35
C03B1/00
B09B3/40
B09B101:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114201
(22)【出願日】2024-07-17
(62)【分割の表示】P 2022058571の分割
【原出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】山本 柱
(72)【発明者】
【氏名】堀 詩織
(57)【要約】
【課題】ガラス以外の材料から再生された再生材料を活用したガラス、及び当該ガラスの製造方法の提供を目的とした貝殻廃材を資源として有効活用可能な活用方法、貝殻廃材の活用システム、及び貝殻廃材由来製品の製造方法の提供を目的とした。
【解決手段】貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を活用するための活用方法であって、貝殻廃材を回収する回収工程と、回収工程において回収された貝殻廃材を用いてカルシウム成分を主成分とする貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備工程と、ガラス原料を構成するカルシウム成分の一部又は全部として貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備するガラス原料準備工程と、原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解工程と、溶解物を成形してガラス製品とするガラス成形工程と、を含む工程を経てガラス製品を形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を活用するための活用方法であって、
前記貝殻廃材を回収する回収工程と、
前記回収工程において回収された前記貝殻廃材を用いてカルシウム成分を主成分とする貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備工程と、
ガラス原料を構成するカルシウム成分の一部又は全部として前記貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備するガラス原料準備工程と、
前記原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解工程と、
前記溶解物を成形してガラス製品とするガラス成形工程と、
を含む工程を経てガラス製品を形成すること、を特徴とする貝殻廃材の活用方法。
【請求項2】
前記ガラス原料準備工程において、前記貝殻廃材に由来して前記貝殻由来再生材料に含まれている前記カルシウム成分の量に応じて、珪砂、ソーダ灰、石灰の少なくともいずれかを前記ガラス原料として加えること、を特徴とする請求項1に記載の貝殻廃材の活用方法。
【請求項3】
前記再生材料準備工程において、前記貝殻由来再生材料が、貝殻又は貝殻由来の成形品を所定温度未満の温度雰囲気下において準備されること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の貝殻廃材の活用方法。
【請求項4】
前記再生材料準備工程において、前記貝殻由来再生材料が、クロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を所定温度未満の温度雰囲気下において準備されること、を特徴とする請求項1又は2に記載の貝殻廃材の活用方法。
【請求項5】
前記再生材料準備工程が、
貝殻又は貝殻由来の成形品を破砕する破砕工程と、
貝殻又は貝殻由来の成形品、あるいは前記破砕工程において得られた破砕物を所定温度以上の温度雰囲気下において熱処理する熱処理工程と、
を有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の貝殻廃材の活用方法。
【請求項6】
前記回収工程において、衣服に取り付けられた貝ボタンが前記貝殻廃材として回収されること、
を特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の貝殻廃材の活用方法。
【請求項7】
貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を活用するための活用システムであって、
前記貝殻廃材を用いて貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備部と、
前記貝殻由来再生材料を含むガラス原料を準備するガラス原料準備部と、
前記原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解部と、
前記溶解物を成形する成形部と、
を備えていること、を特徴とする貝殻廃材の活用システム。
【請求項8】
貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を用いた貝殻廃材由来製品の製造方法であって、
前記貝殻廃材を回収する回収工程と、
前記回収工程において回収された前記貝殻廃材を用いて貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備工程と、
前記貝殻由来再生材料を含むガラス原料を準備するガラス原料準備工程と、
前記原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解工程と、
前記溶解物を成形してガラス製品とするガラス成形工程と、
前記ガラス製品に機械的加工を施すこと、及び前記ガラス製品を他物品に組み込むことの少なくともいずれかを行うことにより貝殻廃材由来製品とする加工工程と、
を含む工程を経て前記ガラス製品を一部又は全部として含む貝殻廃材由来製品を形成すること、を特徴とする貝殻廃材由来製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻廃材の活用方法、貝殻廃材の活用システム、及び貝殻廃材由来製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているような貝殻製ボタンのように、貝殻を用いて製造された製品が提供されている。特許文献1等に係る従来技術においては、大半が廃棄処分されているアコヤガイ等の貝殻を再利用すべく、衣服に用いるためのボタンとして貝殻を活用する際に、その自然の形状や風合を残したまま、メッキや蒸着膜の表面処理をする方法について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述したように、従来技術においては、貝殻廃材を資源として活用するための方策として、貝殻廃材に機械的加工を施してボタンなどの製品とする方法が提供されている。しかしながら、従来技術のように貝殻廃材に対して機械的加工を施して活用するだけでは用途が限定的である。そのため、従来技術においては、大量に発生する貝殻廃材を資源として有効に活用しきれていないという問題があった。また、貝殻に機械的加工を施して貝殻製ボタンとして活用できたとしても、貝殻製ボタンをさらに活用する方策が限定的であるという問題がある。具体的には、貝殻製ボタンを用いた衣服を廃棄することになった場合、衣類から貝殻製ボタンを取り外して別の衣類において再利用する以外に、貝殻製ボタンを活用する有効な手だてが存在しない。このように、従来技術においては、貝殻廃材を資源として活用できる用途が限定的であり、貝殻廃材の活用が十分に促進されていないという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、貝殻廃材を資源として有効活用可能な活用方法、貝殻廃材の活用システム、及び貝殻廃材由来製品の製造方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した知見に基づいて本発明者らが鋭意検討したところ、貝殻そのものや、貝殻を用いて作られたボタン等の物品については、ガラス原料を構成するカルシウム成分の一部又は全部として好適に利用できるとの知見に至った。
【0007】
(1)かかる知見に基づいて提供される本発明は、貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を活用するための貝殻廃材の活用方法であって、前記貝殻廃材を回収する回収工程と、前記回収工程において回収された前記貝殻廃材を用いてカルシウム成分を主成分とする貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備工程と、ガラス原料を構成するカルシウム成分の一部又は全部として前記貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備するガラス原料準備工程と、前記原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解工程と、前記溶解物を成形してガラス製品とするガラス成形工程と、を含む工程を経てガラス製品を形成すること、を特徴とするものである。
【0008】
本発明に係る貝殻廃材の活用方法では、回収工程において回収された貝殻廃材を、再生材料準備工程においてカルシウム成分として含んだ貝殻由来再生材料として準備することができる。また、本発明に係る貝殻廃材の活用方法では、ガラス原料準備工程において、カルシウム成分の一部又は全部として貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備した後、このガラス原料を加熱溶解工程において加熱溶解し、これにより得られた溶解物をガラス成形工程において成形する。本発明に係る貝殻廃材の活用方法では、このような工程を経て、貝殻廃材をガラス製品の原料として有効活用できる。従って、本発明は、貝殻そのものや、貝殻製ボタンのような貝殻由来の成形品をガラスを製造するための資源として有効利用可能な貝殻廃材の活用方法を提供できる。
【0009】
(2)上述した本発明の貝殻廃材の活用方法は、前記ガラス原料準備工程において、前記貝殻廃材に由来して前記貝殻由来再生材料に含まれている前記カルシウム成分の量に応じて、珪砂、ソーダ灰、石灰の少なくともいずれかを前記ガラス原料として加えること、を特徴とするものであると良い。
【0010】
かかる方法によれば、貝殻由来再生材料に含まれている貝殻由来のカルシウム成分の量に応じて珪砂や、ソーダ灰、石灰の量を調整し、ガラス製品の製造に最適な組成比を有するガラス原料を準備できる。従って、本発明の貝殻廃材の活用方法は、ガラスを製造するための資源として有効利用可能な貝殻廃材の活用方法を提供できる。
【0011】
ここで、ウランを用いて製造されたウランガラスと称されるガラスは、蛍光を発するものとして知られている。しかしながら、ウランは放射性物質であるため、製造時、製造後のいずれの段階においても被爆の懸念を払拭できず、製造や利用に際して安全を確保するために細心の注意が必要であり、取り扱いが極めて困難であるという問題がある。
【0012】
そこで、本発明者らは、上述したウランガラスのように放射性物質を用いることなく、蛍光による意匠効果が得られるガラスの製造方法について検討を行った。その結果、貝殻又は貝殻を用いた成形品を所定温度未満の雰囲気下において準備した貝殻由来再生材料を用いると、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを製造できるとの知見に至った。
【0013】
(3)かかる知見に基づけば、上述した本発明の貝殻廃材の活用方法は、前記再生材料準備工程において、前記貝殻由来再生材料が、貝殻又は貝殻由来の成形品を所定温度未満の温度雰囲気下において準備されること、を特徴とするものであると良い。
【0014】
本発明に係る貝殻廃材の活用方法は、上述した本発明者らの知見に基づいて提供されるものである。本発明に係る貝殻廃材の活用方法は、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを、安全かつ取り扱いやすいものとして製造するために有効利用できる。そのため、本発明に係る貝殻廃材の活用方法により製造されたガラス製品は、広く一般的に使用されているガラス製品と同様の安全性で使用可能でありつつ、例えばアクセサリー等の装飾品のように意匠性が求められる製品の一部又は全部を構成するものとして好適に利用可能である。
【0015】
ここで、本発明者らがさらに鋭意検討したところ、蛍光を発する意匠効果の高いガラス製品を製造するためには、クロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を用いて所定温度未満の温度雰囲気下において準備されたものとすることが好適であるとの知見が得られた。
【0016】
(4)かかる知見に基づけば、上述した本発明の貝殻廃材の活用方法は、前記再生材料準備工程において、前記貝殻由来再生材料が、クロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を所定温度未満の温度雰囲気下において準備されること、を特徴とするものであると良い。
【0017】
本発明に係る貝殻廃材の活用方法によれば、蛍光を発する意匠効果の高いガラス製品をより一層好適な条件下で製造できる。
【0018】
ここで、本発明者らは、貝殻又は貝殻を用いた成形品に由来する貝殻由来再生材料を用いた貝殻廃材の活用方法において、蛍光を発しないガラス製品を製造するために最適な方法を見いだすべく、さらに鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、貝殻由来再生材料を用いた場合において、熱処理の条件を最適化することにより、蛍光を発しないガラスを製造できるとの知見を得た。
【0019】
(5)かかる知見に基づいて提供される本発明の貝殻廃材の活用方法は、前記再生材料準備工程が、貝殻又は貝殻由来の成形品を破砕する破砕工程と、貝殻又は貝殻由来の成形品、あるいは前記破砕工程において得られた破砕物を所定温度以上の温度雰囲気下において熱処理する熱処理工程と、を有すること、を特徴とするものであると良い。
【0020】
本発明に係る貝殻廃材の活用方法によれば、貝殻由来再生材料を用いつつ、広く一般的に使用されているガラス製品と同様に、蛍光を発しないガラス製品を製造するために貝殻廃材を活用できる。これにより、本発明に係る貝殻廃材の活用方法は、広く一般的に使用されているガラス製品の代替品となりうるガラス製品の製造において好適に利用できる。
【0021】
(6)上述した本発明の貝殻廃材の活用方法は、前記回収工程において、衣服に取り付けられた貝ボタンが前記貝殻廃材として回収されること、を特徴とするものであると良い。
【0022】
本発明の貝殻廃材の活用方法は、衣類などに用いられる貝ボタンを活用した貝殻由来再生材料を、ガラス製品の製造において活用可能なものとすることができる。そのため、本発明によれば、衣類などの貝ボタンを用いた物品のリサイクルに貢献可能な殻廃材の活用方法を提供できる。
【0023】
(7)本発明の貝殻廃材の活用システムは、貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を活用するためのものであって、前記貝殻廃材を用いて貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備部と、前記貝殻由来再生材料を含むガラス原料を準備するガラス原料準備部と、前記原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解部と、前記溶解物を成形する成形部と、を備えていること、を特徴とするものである。
【0024】
本発明に係る貝殻廃材の活用システムは、再生材料準備部において貝殻廃材を用いて作成された貝殻由来再生材料を用いることにより、ガラス原料準備部において貝殻由来再生材料を活用したガラス原料を準備できる。また、本発明に係る貝殻廃材の活用システムは、原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解部において加熱溶解して溶解物とした後、成形部において溶解物を成形することによりガラス製品を製造できる。このように、本発明に係る貝殻廃材の活用システムは、ガラス製品の製造のために貝殻廃材を活用できる。従って、本発明によれば、貝殻そのものや、貝殻製ボタンのような貝殻由来の成形品をガラスを製造するための資源として有効利用可能な貝殻廃材の活用システムを提供できる。
【0025】
(8)本発明の貝殻廃材由来製品の製造方法は、貝殻又は貝殻由来の成形品からなる貝殻廃材を用いたものであって、前記貝殻廃材を回収する回収工程と、前記回収工程において回収された前記貝殻廃材を用いて貝殻由来再生材料を作成する再生材料準備工程と、前記貝殻由来再生材料を含むガラス原料を準備するガラス原料準備工程と、前記原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解した溶解物とする加熱溶解工程と、前記溶解物を成形してガラス製品とするガラス成形工程と、前記ガラス製品に機械的加工を施すこと、及び前記ガラス製品を他物品に組み込むことの少なくともいずれかを行うことにより貝殻廃材由来製品とする加工工程と、を含む工程を経て前記ガラス製品を一部又は全部として含む貝殻廃材由来製品を形成すること、を特徴とするものである。
【0026】
本発明に係る貝殻廃材由来製品の製造方法では、回収工程において回収された貝殻廃材を、再生材料準備工程においてカルシウム成分として含んだ貝殻由来再生材料として準備することができる。また、本発明に係る貝殻廃材由来製品の製造方法では、ガラス原料準備工程において、カルシウム成分の一部又は全部として貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備した後、このガラス原料を加熱溶解工程において加熱溶解し、これにより得られた溶解物をガラス成形工程において成形することにより、ガラス製品を製造できる。本発明に係る貝殻廃材由来製品の製造方法では、このような工程を経て得られたガラス製品に対して機械的加工を施したり、ガラス製品を他物品に組み込んだりして加工工程を行うことにより、ガラス製品を一部又は全部として含む貝殻廃材由来製品を形成できる。本発明に係る貝殻廃材由来製品の製造方法は、このようにして貝殻廃材を貝殻廃材由来製品の原料として有効活用できる。従って、本発明の貝殻廃材由来製品の製造方法は、貝殻そのものや、貝殻製ボタンのような貝殻由来の成形品を貝殻廃材由来製品を製造するための資源として有効利用可するために活用できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、貝殻廃材を資源として有効活用可能な活用方法、貝殻廃材の活用システム、及び貝殻廃材由来製品の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る貝殻廃材の活用システムの構成を示すシステム構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法に係るフローチャートである。
【
図3】再生材料準備工程の流れを示したフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法を、衣料品のリサイクルフローと連携させた例を示したフローチャートである。
【
図5】実施例1に係るサンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料を用いて作成したガラスのサンプルA~サンプルHに係る特性を説明するための図である。
【
図6】実施例1に係るサンプルGについて、熱膨張率測定装置を用いて行ったTMA(熱機械分析)結果を示す図である。
【
図7】実施例1に係るサンプルHについて、熱膨張率測定装置を用いて行ったTMA(熱機械分析)結果を示す図である。
【
図8】実施例1に係るサンプルG及びサンプルHについて、明度Y[%]、主波長λd[nm]、及び純度Pe[%]を調べた結果を示す図である。
【
図9】実施例2に係る励起発光マトリクス測定の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の一実施形態に係る貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法と、これらの方法を実現するために利用される貝殻廃材の活用システム10(以下、単に「活用システム10」とも称す)について説明する。以下の説明においては、先ず活用システム10について説明し、その後貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法について説明する。
【0030】
≪活用システム10について≫
続いて、
図1を参照しつつ、活用システム10の構成について説明する。
図1に示すように、活用システム10は、再生材料準備部20、ガラス原料準備部30、加熱溶解部40、成形部50、及び加工部60を備えている。
【0031】
再生材料準備部20は、回収された貝殻廃材を用いて再生材料を準備するための処理を行うものである。
図3に示すように、再生材料の準備は、洗浄工程、分別工程、破砕工程、熱処理工程を含む工程から選ばれる一又は複数の工程を経て行われる。そのため、再生材料準備部20は、洗浄部22、分別部24、破砕部26、及び熱処理部28等を備えたものとされている。
【0032】
洗浄部22は、貝殻又は貝殻を用いた成形品からなる貝殻廃材を洗浄するための工程(洗浄工程)を行う部分である。洗浄部22は、貝殻や成形品を水洗したり、界面活性剤等の薬剤を用いて洗浄したりして、貝殻や成形品に付着している異物を除去するための洗浄設備を備えている。洗浄部22は、再生材料準備部20において必須の工程ではなく、処理対象となる貝殻廃材が洗浄を必要としないものである場合や、貝殻廃材の洗浄がガラス製品や貝殻廃材由来製品の品質等に影響を及ぼさない場合等においては、省略することができる。
【0033】
分別部24は、貝殻廃材について、貝殻と、例えば繊維や樹脂、木材等の貝殻以外のものとに分別する工程(分別工程)を行う部分である。分別部24は、上述した洗浄部22と同様に、貝殻廃材の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。
【0034】
破砕部26は、貝殻廃材を破砕する工程(破砕工程)を行うためのものである。破砕部26は、従来公知の破砕機等の破砕設備を備えており、破砕設備を用いてガラスの成形に用いるのに適した大きさになるように貝殻廃材を物理的に破砕するためのものである。破砕部26は、上述した洗浄部22や分別部24と同様に、貝殻廃材の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。
【0035】
熱処理部28は、貝殻廃材を熱処理する工程(熱処理工程)を行うためのものである。熱処理部28は、貝殻廃材を直接加熱、あるいは間接加熱することにより、ガラスの製造において不要であったり、ガラスの製造に悪影響を与えたりする物質を熱分解して除去する等の目的で使用されるものである。貝殻廃材を直接加熱する場合は、例えば熱処理部28として燃焼炉内において貝殻等を直接燃焼するものを採用できる。また、貝殻廃材を間接加熱する場合には、例えば、ロータリーキルン等の熱処理装置や熱処理設備を熱処理部28として用い、炉内温度が所定温度になるように条件設定して熱処理を行えるようにすると良い。熱処理部28は、上述した洗浄部22や分別部24、破砕部26と同様に、貝殻廃材の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。
【0036】
ガラス原料準備部30は、ガラス製品を形成するためのガラス原料を準備するための工程(ガラス原料準備工程)を行うためのものである。ガラス原料準備部30は、再生材料準備部20において準備された貝殻由来の再生材料(貝殻由来再生材料)を用い、ガラス製品の製造に必要な原料を調合するものである。ガラス原料準備部30は、貝殻由来再生材料に含まれているカルシウム成分の量に応じて、珪砂、ソーダ灰、石灰等、ガラス製品を形成するために必要な原料を適正な配合比になるように調合して準備するものである。
【0037】
加熱溶解部40は、ガラス原料準備部30において準備されたガラス原料を加熱溶解して溶解物とする工程(加熱溶解工程)を行うものである。加熱溶解部40は、例えばシーメンス型の連続炉などの大規模なガラス溶解炉や、光学炉や手吹き炉などの小規模な溶解炉などによって構成すると良い。
【0038】
成形部50は、加熱溶解部40においてガラス原料を溶解して得られた溶解物を溶解炉から取り出して、成形して徐冷する工程(ガラス成形工程)を行うためのものである。成形部50は、例えばガラスびんなどの形態のガラス製品Gや、ガラス製品Gの原料として用いることが可能なカレットの形態とすることができる。
【0039】
加工部60は、成形部50において得られたガラス製品に機械的加工を施したり、ガラス製品を、例えば指輪やネックレス、ピアス等の装飾品、置物、日用品等からなる他物品に組み込んだりする加工を行うことにより貝殻廃材由来製品とする工程(加工工程)を行うためのものである。
【0040】
≪貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法について≫
本実施形態の貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法について説明する。本実施形態の貝殻廃材由来製品の製造方法は、貝殻廃材の活用方法により製造されたガラス製品を用いることにより、貝殻廃材由来製品を製造するものである。そのため、
図2のフローに示すように、本実施形態の貝殻廃材の活用方法は、貝殻廃材由来製品の製造方法の一部を構成するものとされている。従って、以下の説明においては、本実施形態の貝殻廃材由来製品の製造方法についての説明を行うことにより、貝殻廃材の活用方法についても併せて説明することとする。
【0041】
図2に示すように、本実施形態の貝殻廃材由来製品の製造方法は、回収工程(ステップ1)、再生材料準備工程(ステップ2)、ガラス原料準備工程(ステップ3)、加熱溶解工程(ステップ4)、ガラス形成工程(ステップ5)、及び加工工程(ステップ6)を含む、複数の工程を経て貝殻廃材由来製品を製造するものである。これらの工程のうち、ステップ1の回収工程から、ステップ5のガラス形成工程までの工程は、本実施形態の貝殻廃材の活用方法に相当するステップである。また、ステップ2の再生材料準備工程においては、
図3に示すように原料準備工程(ステップ2-1)、洗浄工程(ステップ2-2)、分別工程(ステップ2-3)、破砕工程(ステップ2-4)、及び熱処理工程(ステップ2-5)を含む工程から選ばれる一又は複数の工程を経て製造される。以下、各工程について、先ず
図2のフローチャートを参照しつつ順を追って説明する。また、
図2に示したフローにおいて行われる再生材料準備工程(ステップ2)については、
図2に係るフローの説明を行った後、
図3のフローチャートを参照しつつ詳細に説明する。
【0042】
(ステップ1:回収工程)
本実施形態の貝殻廃材由来製品の製造方法(貝殻廃材の活用方法)は、先ずステップ1の回収工程において、貝殻廃材を回収することにより開始される。回収工程においては、身を取り外した貝殻や、貝殻を用いた成形品(例えば貝ボタン等)が回収される。回収工程は、例えば、食料品製造業、装飾具製造業、医薬品製造業、香料製造業等の各種製造業における製造工程から発生した廃棄物や、漁業、小売業、飲食店業等において発生した廃棄物、これらの業種に当てはまらない他の法人や個人が廃棄物として廃棄したもの、リサイクル用として回収された衣類やアクセサリー等の物品から分別されたもの等を回収することにより行える。
【0043】
ここで、貝殻由来再生材料の材料となる貝殻廃材は、各種の貝類の貝殻やこれを用いた成形品とすることができる。具体的には、貝殻廃材は、例えばクロチョウガイ、アコヤガイ、カタセガイ、シロチョウガイ、アワビ、ホタテガイ、カキ、シジミ、ウニ、サザエ、アサリ、ハマグリ、ウバガイ、サルボウガイ等の貝類の貝殻や、当該貝殻を用いた成形品とすることができる。
【0044】
上述したようにして貝殻廃材が回収されると、貝殻廃材由来製品の製造方法(貝殻廃材の活用方法)の工程がステップ2に係る再生材料準備工程に進められる。
【0045】
(ステップ2:再生材料準備工程)
再生材料準備工程は、ステップ1において回収された貝殻廃材を用いて再生材料(貝殻由来再生材料)を準備するため工程である。再生材料準備工程は、上述した活用システム10の再生材料準備部20において行われる。再生材料準備工程における貝殻由来再生材料の準備は、後に詳述する
図3のフローに則って準備される。
【0046】
貝殻由来再生材料は、ガラス製品の成形に用いられるガラス原料において、カルシウム成分の全部をなすものとすることができる。また、貝殻由来再生材料は、他のカルシウム成分と共にガラス原料におけるカルシウム成分の一部をなすものとすることができる。具体的には、貝殻由来再生材料は、石灰石や炭酸カルシウム試薬、酸化カルシウム試薬などと共に、ガラス原料のカルシウム成分をなすものとしたり、貝殻以外の材料を用いて作成されたカルシウム成分を含む再生材料と共にガラス原料のカルシウム成分をなすものとしたりすることができる。
【0047】
また、上述した貝殻由来再生材料を用いたガラス原料は、ガラスの成形に用いられるカルシウム成分だけでなく、ケイ素成分等の他の成分も含んだものとすることが可能である。例えば、ガラス原料は、貝殻由来再生材料をカルシウム成分の一部又は全部として含むと共に、ガラスの製造に必要とされるケイ素成分等の他の成分をなす再生材料を含む混合物からなるものとすることも可能である。さらに具体的には、本発明者らが鋭意検討したところ、もみ殻などの穀物を材料とすることにより穀物由来ケイ素成分を含む穀物由来再生材料をガラスの製造において必要とされるケイ素成分として用いることができるとの知見に至った。そのため、ガラス原料は、上述した貝殻由来再生材料に対して、穀物由来再生材料を混合した混合材料(混合再生材料)とすることも可能である。
【0048】
ここで、ガラス原料を上述した混合再生材料とする場合は、ガラスの製造原料に含まれるケイ素成分及びカルシウム成分の調合比、製造するガラスの色等の条件を考慮して、混合再生材料におけるカルシウム成分及びケイ素成分の調合比を調整すると良い。さらに具体的には、例えばガラスびん等の成形品を構成するソーダ石灰ガラスを製造するための製造原料として珪砂、及び石灰石を使用する場合において、珪砂や石灰石の一部又は全部として混合再生材料を用いる場合には、ケイ素成分として二酸化ケイ素を重量比で73%以下の範囲で含み、カルシウム成分として重量比で13%以下の範囲で炭酸カルシウムを含むものであると良い。また、透明(フリント)のガラスを製造する場合には、酸化鉄の調合比が重量比で0.09%以下の範囲で含むものであると良い。
【0049】
上述したようにして再生材料準備工程における貝殻由来再生材料の準備が完了すると、工程がステップ3のガラス原料準備工程に進められる。
【0050】
(ステップ3:ガラス原料準備工程)
ガラス原料準備工程は、ガラス製品を形成するためのガラス原料を準備するための工程である。ガラス原料準備工程は、上述した活用システム10のガラス原料準備部30において行われる。ガラス原料準備工程は、ステップ2の再生材料準備工程において準備された貝殻由来再生材料を用い、ガラス製品の製造に必要な原料を調合する工程である。ガラス原料準備工程においては、貝殻由来再生材料に含まれているカルシウム成分の量に応じて、珪砂、ソーダ灰、石灰等、ガラス製品を形成するために必要な原料を適正な配合比になるように調合しすることにより、ガラス原料が準備される。
【0051】
具体的には、ガラス成形用再生材料を用いてガラス製品を製造する場合には、先ず酸化ケイ素の重量を100としたときに、炭酸カルシウムが重量比で27、炭酸ナトリウムが重量比で28、硫酸ナトリウムが重量比で1.5、炭素(カーボン)が重量比で0.1となる調合比を標準的な調合比とし、製造するガラスの特性(例えば粘性等)に応じて各成分の調合比率を変動させることにより、原料の調合を行う。このようにして原料の調合を行う際に、炭酸カルシウムについて、その一部又は全部として、上述した貝殻由来再生材料(ガラス成形用再生材料)を配合する。このようにしてガラス原料準備工程が完了すると、工程がステップ4の加熱溶解工程に進められる。
【0052】
(ステップ4:加熱溶解工程)
加熱溶解工程は、ステップ3のガラス原料準備工程において準備されたガラス原料を加熱溶解して溶解物とする工程である。加熱溶解工程は、上述した活用システム10の加熱溶解部40において行われる。加熱溶解工程は、加熱溶解部40が備える溶解炉に対してガラス原料を投入して溶解させることにより行われる。加熱溶解工程においてガラス原料の溶解が行われると、工程がステップ5のガラス形成工程に進められる。
【0053】
(ステップ5:ガラス形成工程)
ガラス形成工程は、ステップ4の加熱溶解工程において貝殻由来再生材料を含む原料を溶解して得られた溶解物を溶解炉から取り出し、これを例えばガラスびんなどの形状に成形した後、徐冷することにより、ガラス製品とする工程である。ガラス形成工程は、上述した活用システム10の成形部50において行われる。ガラス形成工程においてガラス製品が形成されると、工程がステップ6の加工工程に進められる。
【0054】
(ステップ6:加工工程)
加工工程は、ガラス形成工程において得られたガラス製品に機械的加工を施したり、ガラス製品を他物品に組み込んだりする加工を行うことにより貝殻廃材由来製品とする工程である。加工工程は、上述した活用システム10の加工部60において行われる。加工工程においてガラス製品に加工を施すことにより、ガラス製品を用いた指輪やネックレス、ピアス等の装飾品、置物、日用品等の貝殻廃材由来製品が形成される。
【0055】
ここで上述したように、貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法においては、ステップ2の再生材料準備工程において、ガラス以外の材料からガラス成形用再生材料の一部又は全部となる貝殻由来再生材料を製造する工程が含まれており、この点において大きな特徴を有する。以下、ガラス以外の材料から貝殻由来再生材料(ガラス成形用再生材料)を製造するための再生材料準備工程において行われる貝殻由来再生材料の製造方法について、さらに詳細に説明する。
【0056】
≪貝殻由来再生材料の製造方法≫
図3に示すように、貝殻由来再生材料は、原料準備工程(ステップ2-1)、洗浄工程(ステップ2-2)、分別工程(ステップ2-3)、破砕工程(ステップ2-4)、及び熱処理工程(ステップ2-5)を含む工程から選ばれる一又は複数の工程を経て製造される。貝殻由来再生材料の製造に際し、工程の選定、及び選定された工程を行う順番については、原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態に応じて適宜変更可能である。以下、貝殻由来再生材料の製造工程について工程毎に説明する。また、原料として衣類等に取り付けられた貝ボタンを用いる場合と、例えば食料品製造業や装飾具製造業等において廃棄物として発生した貝殻を用いる場合とを例に挙げ、貝殻由来再生材料の製造に際して選定される工程、及び選定された工程を行う順番等について説明する。
【0057】
(ステップ2-1:原料準備工程)
原料準備工程は、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品を準備する工程である。例えば、原料準備工程は、食料品製造業や装飾具製造業等において廃棄物として発生した貝殻を回収することにより行える。また、原料準備工程は、リサイクルの対象とされた衣類から貝ボタンを取り外したり、貝殻を用いたアクセサリーを回収する等して、貝殻を用いた成形品の形で回収することができる。
【0058】
(ステップ2-2:洗浄工程)
洗浄工程は、原料準備工程において回収された貝殻又は貝殻を用いた成形品を洗浄する工程である。洗浄工程においては、貝殻や成形品を水洗したり、界面活性剤等の薬剤を用いて洗浄したりして、貝殻や成形品に付着している異物が除去される。洗浄工程は、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば貝ボタンのように、洗浄しなくてもガラスの成形品質に与える影響が低いものを貝殻由来再生材料の原料とする場合や、洗浄工程に代わって他の処理を行う別の工程を行うことにより最終的に貝殻由来再生材料として得られるものの品質を十分に確保できる場合などにおいては、洗浄工程を省略して貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図ると良い。
【0059】
(ステップ2-3:分別工程)
分別工程は、貝殻又は貝殻を用いた成形品について、貝殻と、例えば繊維や樹脂、木材等の貝殻以外のものとに分別する工程である。分別工程は、洗浄工程と同様に、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば貝ボタンの製造工程において発生した不良品や、貝ボタンの製造に伴って発生した端材のように、繊維等の異物が付着していないものを貝殻由来再生材料の原料とする場合や、分別工程に代わって他の処理を行う別の工程を行うことにより最終的に貝殻由来再生材料として得られるものの品質を十分に確保できる場合などにおいては、分別工程を省略して貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図ると良い。
【0060】
(ステップ2-4:破砕工程)
破砕工程は、貝殻又は貝殻を用いた成形品を破砕する工程である。破砕工程は、従来公知の破砕機等を用いて貝殻がガラスの成形に用いるのに適した大きさになるように物理的に破砕する工程である。破砕工程は、上述した洗浄工程や分別工程と同様に、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば貝ボタンを貝殻由来再生材料の原料とする場合には、直径が5mmから3cm前後の範囲であり、形状や大きさが所定の範囲内のものであると想定される。そのため、このような場合には破砕工程を省略することが可能である。また、破砕工程は、他の処理を行う別の工程を行うことにより、最終的に貝殻由来再生材料として得られるものの品質を十分に確保できる場合などにおいては、破砕工程を省略できる。このように、貝殻由来再生材料の原料の状態に応じて、破砕工程を適宜省略することにより、貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図れる。
【0061】
(ステップ2-5:熱処理工程)
熱処理工程は、貝殻又は貝殻を用いた成形品を熱処理する工程である。熱処理工程は、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品を直接加熱、あるいは間接加熱することにより、ガラスの製造において不要であったり、ガラスの製造に悪影響を与える物質を熱分解して除去することができる。貝殻由来再生材料の原料となる貝殻等を直接加熱する場合は、例えば燃焼炉内において貝殻等を直接燃焼する等の方法で行うと良い。また、貝殻等を間接加熱する場合には、例えば、ロータリーキルン等の熱処理装置を用い、炉内温度が所定温度になるように条件設定して加熱を行うと良い。
【0062】
貝殻又は貝殻を用いた成形品に含まれているカルシウム成分が炭酸カルシウムである場合には、炭酸カルシウムの熱分解温度よりも低温の温度域において貝殻等を加熱すると良い。これにより、炭酸カルシウムが熱分解されて酸化カルシウムになるのを抑制できる。その結果、貝殻由来再生材料を、ガラスの製造工程に用いられる石灰石と同様にガラスの原料として取り扱い可能なものとすることができる。
【0063】
ここで、本発明者らが鋭意検討したところ、例えばクロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を原料としつつ、所定温度未満(700℃未満)の温度雰囲気下において貝殻由来再生材料を準備することにより、蛍光を発するガラスを製造するのに適した貝殻由来再生材料を作成できるとの知見が得られた。一方、前述した貝類の貝殻あるいは当該貝殻を用いた成形品を原料としつつ、所定温度以上(700℃以上)の温度雰囲気下において貝殻由来再生材料を準備した場合には、この貝殻由来再生材料を用いてガラスを製造しても蛍光を発するものとはならないとの知見を得た。そのため、クロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻等を原料としつつ、蛍光を発するガラスを製造するための貝殻由来再生材料を作成する場合には、熱処理工程を省略、あるいは所定温度未満(700℃未満)の温度条件下で熱処理工程を行うと良い。一方、これらの貝殻等を原料としつつ、蛍光を発しないガラスを製造するための貝殻由来再生材料を準備する場合には、所定温度以上(700℃以上)の温度雰囲気下において熱処理工程を行うようにすると良い。
【0064】
熱処理工程は、上述した洗浄工程等と同様に、貝殻由来再生材料の原料となる貝殻又は貝殻を用いた成形品の種類や状態、他に行われる工程等に応じて適宜省略できる。具体的には、例えば上述したようにクロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻等を用いつつ、蛍光を発するガラスに用いる貝殻由来再生材料を製造したい場合や、熱処理を行わなくても不純物の除去等が可能である場合、貝殻由来再生材料を酸化カルシウムとしてガラスの製造に用いるものとしたい場合などにおいては、熱処理工程を省略して貝殻由来再生材料の製造方法(製造工程)の簡素化を図ると良い。
【0065】
(その他の工程)
貝殻由来再生材料の製造に際しては、上述した各工程以外の他の工程を適宜追加したり、上述した各工程に代えて別の工程を採用したりしても良い。例えば、洗浄工程や分別工程に代えて、あるいは加えて、異物を除去するための異物除去工程を設けても良い。異物除去工程は、例えば、薬液等を用いて化学的に異物を除去するものとしたり、物理的に外力を加えて異物を除去するものとしたりすると良い。
【0066】
上述した貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法は、例えば衣料品のリサイクルフローなどの他のリサイクルフローと連携させることも可能である。例えば、
図4に示すように、上述した貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法に係るリサイクル系統Xに対し、衣類等のリサイクル系統Yを連携させることが可能である。さらに詳細には、衣類等のリサイクル系統Yにおいて衣料品に付属している貝ボタンを回収する工程をリサイクル系統Xの回収工程(ステップ1)と共用することにより、衣類等のリサイクル系統Yにおいて回収された貝ボタンを、ガラス製品を作成するための原料として活用できるようになる。また、本実施形態の貝殻廃材の活用方法、及び貝殻廃材由来製品の製造方法においてステップ6の加工工程で作成される貝殻廃材由来製品を、ガラス製の装飾品やボタン等などの衣料品に使用する物品とし、リサイクル系統Yにおいて貝殻廃材由来製品を用いた衣料品を作る工程(ステップY-1:貝殻廃材由来製品使用工程)を設けることができる。このような構成とすることにより、貝殻廃材の利用をより一層促進することができる。
【実施例0067】
続いて、上記実施形態において説明した方法によって作られた貝殻由来再生材料、及びこれを用いて製造したガラス製品の実施例について説明する。本実施例においては、上述した貝殻由来再生材料の製造方法における原料準備工程、破砕工程を経て、表1に示したように、アコヤガイ、タカセガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイを原料とした貝殻由来再生材料としてサンプル1~サンプル4として準備した。また、
図5に示したように、サンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料を用い、上述したガラスの製造方法に則ってサンプルA~サンプルHに係るガラスを作成した。なお、サンプルA及びサンプルHにおいて使用した貝殻由来再生材料については、サンプル1及びサンプル4に係る貝殻由来再生材料についてさらに所定温度以上(700℃以上)の温度雰囲気下における熱処理工程を施したものを利用した。
【0068】
【0069】
表1に示すように、アコヤガイ、タカセガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイを原料としたサンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料は、いずれも組成の95%以上がカルシウム成分によって構成されたものであった。表1に係る試験結果に照らせば、これらの貝殻由来再生材料は、いずれもガラスの製造において好適に利用できるものであると考えられる。なお、本実施例においては、走査型蛍光X線分析装置(XRF:リガク株式会社製 ZSX Primus II)を用いて測定を行ったため、表1においては、酸化物の形態により組成物の構成が示されていることに注意されたい。
【0070】
また、上述したサンプル1~サンプル4に係る貝殻由来再生材料を用い、上述したガラスの製造方法によってガラスの製造試験を行った。その結果、サンプルA~サンプルHに係るガラスの組成は、
図5に示すような結果となり、ガラスとして適正な範囲にあることが見いだされた。また、目視により確認したところ、サンプル1~サンプル4に係るいずれの貝殻由来再生材料を用いた場合についても、
図5における添付写真のように、ガラスとして適正に製造できることが見いだされた。
【0071】
また、クロチョウガイを原料として用いつつ焼成(熱処理)を行わなかったサンプルG、及びクロチョウガイを原料として用いつつ焼成(熱処理)を行ったサンプルHについて、熱膨張率測定装置を用いて行ったTMA(熱機械分析)結果を
図6及び
図7に示す。サンプルGについては、熱変形温度(軟化温度)が616[℃]、ガラス転移温度が582[℃]、線形熱膨張係数が93.2[1/K]であった。また、サンプルHについては、熱変形温度(軟化温度)が643[℃]、ガラス転移温度が579[℃]、線形熱膨張係数が96.2[1/K]であった。これらの結果により、原料とされた貝殻廃材に対して焼成(熱処理)を行うか否かが、当該貝殻廃材から作られた貝殻由来再生材料を用いて形成したガラスの特性に与える影響は小さく、略同等の特性を有するガラスが得られることが判明した。
【0072】
また、アコヤガイやクロチョウガイを用いたサンプル1及びサンプル4に係る貝殻由来再生材料を用いて作成したガラスのサンプルのうち、貝殻由来再生材料を焼成せずに使用したサンプルB、サンプルF、及びサンプルFは、それぞれアンバーの色彩を呈するガラスであった。アコヤガイやクロチョウガイの貝殻が黒色あるいは暗色の色彩を呈する部分を有するものであることから、当該貝殻に含まれる微少成分の影響がガラスを製造した際に発現したものと考えられる。
【0073】
また、クロチョウガイを原料として用いつつ焼成(熱処理)を行わなかったサンプルG、及びクロチョウガイを原料として用いつつ焼成(熱処理)を行ったサンプルHについて、明度Y[%]、主波長λd[nm]、及び純度Pe[%]を調べた結果を
図8に示す(
図8のグラフにおいては、サンプルGを「NHTクロチョウガイ」、サンプルHを「HTクロチョウガイ」と表示する。)。色調についての試験の結果、クロチョウガイの焼成(熱処理)を行わなかったサンプルGについては、主波長λdが573.91[nm]であり、茶色(アンバー)のガラスびんが通常示す主波長λd=580~590nmの範囲に近似した波長を示すものであった。そのため、サンプルGについては、目視にて確認したとおり、茶色様の色調を呈するものであることであることが裏付けられた。また、クロチョウガイの焼成(熱処理)を行ったサンプルHについては、主波長λdが513.84[nm]であり、茶色の場合より短波長側であって、無色(フリント)のガラスびんが通常示す主波長λd=550~585nmの範囲に近似した波長を示すものであった。そのため、サンプルHについては、目視にて確認したとおり、無色の色調を呈するものであることであることが裏付けられた。また、サンプルG及びサンプルHについての色調測定の結果を比較すると、波長380[nm]~525[nm]にかけて、透過率(%)に明確な差が見られた。なお、無色のガラスびんの透過率が通常80[%]台の数値を示すのに対し、サンプルHについての透過率は75[%]台であり、無色のガラスびんのものよりも若干低かったのは、本試験のために準備したサンプルHに係るガラスに気泡が多く含まれていたことが要因であると考えられる。しかしながら、
図8に係るグラフを参照して分かるように、サンプルHについては、サンプルGとは異なり、波長の増減によらず全体的になだらかに変化する特性が見られ、無色のガラスと同様の特性を有するものであった。そのため、熱処理を施したクロチョウガイを原料としたサンプルHは、熱処理を施さなかったクロチョウガイを原料として用いたサンプルGと明らかに異なる色調を示すことが裏付けられた。
【0074】
アコヤガイやクロチョウガイを用いたサンプル1及びサンプル4に係る貝殻由来再生材料を用いて作成したガラスのサンプルのうち、貝殻由来再生材料を焼成して使用したサンプルA、及びサンプルHは、それぞれフリントの色彩を呈するガラスであった。そのため、アコヤガイやクロチョウガイのように焼成せずに準備した貝殻由来再生材料を用いるとアンバーの色彩を呈するガラスが得られる場合であっても、ガラスの製造に用いる前に焼成を施すことにより、貝殻由来再生材料をフリントの色彩を呈するガラスを得るための原料として有効利用できることが見いだされた。
【0075】
また、全体として白色系の色彩を呈するタカセガイやシロチョウガイを原料としたサンプル2及びサンプル3に係る貝殻由来再生材料を用い、上述した製造方法で作成したガラスのサンプルC、サンプルD、及びサンプルEは、いずれもフリントの色彩を呈するガラスであった。
【0076】
さらに、上述したサンプルA~サンプルHに係るガラスの特性について検討したところ、クロチョウガイを使用したサンプルのうち、貝殻由来再生材料を焼成せずに使用したサンプルF及びサンプルGについて、紫外線を照射することにより蛍光を呈する特徴を有することが見いだされた。
続いて、上記実施例1に例示したサンプル4の原料であるクロチョウガイを粉末状にしたもの、及びサンプル4に係るクロチョウガイに由来する貝殻由来再生材料を用いて作成したガラス製品について、励起発光マトリクス測定(Excitation Emission Matrix:EEM)を行った結果について説明する。
実施例2に係る励起発光マトリクス測定は、上述した各試料の励起発光特性の取得、及びガラス製品とする前後での発光特性変化の比較を行うことを目的として行った。本測定は、モジュール型蛍光分光測定置(堀場製作所製Fluorolog3)を用い、蛍光分光法により行った。具体的な測定条件は、以下の(条件1)~(条件3)の通りとした。
(条件1)クロチョウガイを粉末状にしたもの、及びクロチョウガイに由来する貝殻由来再生材料を用いて作成したガラス製品を、固体サンプルホルダにセットした状態で測定を行う。
(条件2)発光が発光側分光器に取り込まれるように、固体サンプルホルダの取り付け角度を調整する(表面測光)。
(条件3)その他の測定条件は、以下の表2の通りとする。
(1)上述した貝殻廃材の活用方法では、回収工程(ステップ1)において回収された貝殻廃材を、再生材料準備工程(ステップ2)においてカルシウム成分として含んだ貝殻由来再生材料として準備することができる。また、上述した貝殻廃材の活用方法では、ガラス原料準備工程(ステップ3)において、カルシウム成分の一部又は全部として貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備した後、このガラス原料を加熱溶解工程(ステップ4)において加熱溶解し、これにより得られた溶解物をガラス成形工程(ステップ5)において成形することができる。本実施形態の貝殻廃材の活用方法によれば、このような工程を経ることにより、貝殻廃材をガラス製品の原料として有効活用できる。従って、本実施形態の貝殻廃材の活用方法は、貝殻そのものや、貝殻製ボタンのような貝殻由来の成形品をガラスを製造するための資源として有効利用可能な方法といえる。
(2)上述したように、本実施形態の貝殻廃材の活用方法は、ガラス原料準備工程において、貝殻廃材に由来して貝殻由来再生材料に含まれているカルシウム成分の量に応じて、珪砂、ソーダ灰、石灰の少なくともいずれかをガラス原料として加えることとされている。そのため、本実施形態において例示した方法によれば、貝殻由来再生材料に含まれている貝殻由来のカルシウム成分の量に応じて珪砂や、ソーダ灰、石灰の量を調整し、ガラス製品の製造に最適な組成比を有するガラス原料を準備できる。従って、本実施形態の貝殻廃材の活用方法は、ガラスを製造するための資源として有効利用可能な方法といえる。
(3)上述したように、本実施形態や実施例において例示したように、再生材料準備工程において、貝殻由来再生材料を、貝殻又は貝殻由来の成形品を所定温度未満の温度雰囲気下において準備することとすれば、蛍光を発する意匠効果の高いガラスを、安全かつ取り扱いやすいものとして製造するために有効利用できる。これにより、上記実施形態に係る貝殻廃材の活用方法により製造されたガラス製品は、広く一般的に使用されているガラス製品と同様の安全性で使用可能でありつつ、例えばアクセサリー等の装飾品のように意匠性が求められる製品の一部又は全部を構成するものとして好適に利用可能である。
(4)本実施形態や実施例において例示したように、上述した貝殻廃材の活用方法は、貝殻由来再生材料としてクロチョウガイ、又はアコヤガイの貝殻、あるいは当該貝殻由来の成形品を用い、所定温度未満の温度雰囲気下において加熱することにより貝殻由来再生材料を準備することとすれば、蛍光を発する意匠効果の高いガラス製品をより一層好適な条件下で製造できる。
(5)本実施形態や実施例において例示したように、上述した貝殻廃材の活用方法は、貝殻又は貝殻由来の成形品を破砕する破砕工程と、貝殻又は貝殻由来の成形品、あるいは破砕工程において得られた破砕物を所定温度以上の温度雰囲気下において熱処理する熱処理工程と、を有するものとすると良い。これにより、貝殻由来再生材料を用いつつ、広く一般的に使用されているガラス製品と同様に、蛍光を発しないガラス製品を製造するために貝殻廃材を活用できる。
(6)本実施形態の貝殻廃材の活用方法は、回収工程において衣服に取り付けられた貝ボタンが貝殻廃材として回収されるものとすることにより、衣類などの貝ボタンを用いた物品のリサイクルに貢献可能となる。
(7)本実施形態の貝殻廃材の活用システム10は、再生材料準備部20において貝殻廃材を用いて作成された貝殻由来再生材料を用いることにより、ガラス原料準備部30において貝殻由来再生材料を活用したガラス原料を準備できる。また、本実施形態の貝殻廃材の活用システム10は、ガラス原料準備部30において準備されたガラス原料を加熱溶解部40において加熱溶解して溶解物とした後、成形部50において溶解物を成形することによりガラス製品を製造できる。このように、本実施形態の貝殻廃材の活用システム10は、ガラス製品の製造のために貝殻廃材を活用できる。従って、本実施形態の貝殻廃材の活用システム10は、貝殻そのものや、貝殻製ボタンのような貝殻由来の成形品をガラスを製造するための資源として有効利用することに貢献できる。
(8)本実施形態の貝殻廃材由来製品の製造方法では、回収工程(ステップ1)において回収された貝殻廃材を、再生材料準備工程(ステップ2)においてカルシウム成分として含んだ貝殻由来再生材料として準備することができる。また、本実施形態の貝殻廃材由来製品の製造方法では、ガラス原料準備工程(ステップ3)において、カルシウム成分の一部又は全部として貝殻由来再生材料を用いたガラス原料を準備した後、このガラス原料を加熱溶解工程(ステップ4)において加熱溶解し、これにより得られた溶解物をガラス成形工程(ステップ5)において成形することにより、ガラス製品を製造できる。本実施形態で例示した貝殻廃材由来製品の製造方法では、このような工程を経て得られたガラス製品に対して機械的加工を施したり、ガラス製品を他物品に組み込んだりして加工工程を行うことにより、ガラス製品を一部又は全部として含む貝殻廃材由来製品を形成できる。上述した貝殻廃材由来製品の製造方法は、このようにして貝殻廃材を貝殻廃材由来製品の原料として有効活用できる。従って、上述した貝殻廃材由来製品の製造方法は、貝殻そのものや、貝殻製ボタンのような貝殻由来の成形品を貝殻廃材由来製品を製造するための資源として有効利用できる。