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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138093
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】窒化物半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20240927BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240927BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240927BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L21/265 601A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652T
H01L29/78 658A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119562
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2020045614の分割
【原出願日】2020-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝典
(72)【発明者】
【氏名】高島 信也
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】稲本 拓朗
(57)【要約】
【課題】n型不純物の活性化率を向上できるようにした窒化物半導体装置の製造方法及び窒化物半導体装置を提供する。
【解決手段】窒化物半導体装置の製造方法は、第1面と、第1面の反対側に位置する第2面とを有する窒化ガリウム系半導体層を用意し、第1面側から窒化ガリウム系半導体層にn型不純物をイオン注入してn型領域のドナー濃度を調整する工程、を備える。n型領域におけるn型不純物の活性率が予め設定した値となるときの、窒化ガリウム系半導体層の転位密度と、n型領域におけるn型不純物の第1面から注入ピーク位置までの深さと、n型不純物の注入ピーク位置から第2面側へのテール長と、の関係を予め求めておく。n型不純物をイオン注入する工程では、この関係を満たすn型領域が形成されるようにイオン注入の処理条件を設定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、前記第1面の反対側に位置する第2面とを有する窒化ガリウム系半導体層と、
前記窒化ガリウム系半導体層の前記第1面側に設けられたn型領域と、を備え、
前記窒化ガリウム系半導体層の転位密度の常用対数をβとし、
前記n型領域におけるn型不純物の前記第1面から注入ピーク位置までの深さをTとし、
前記n型不純物の前記注入ピーク位置から前記第2面側へのテール長をΔTとすると、
下記の式(2)が成り立ち、
ΔT/T≧0.25β-0.73…(2)
前記窒化ガリウム系半導体層の前記第1面上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記窒化ガリウム系半導体層の前記第1面側に設けられ、前記ゲート絶縁膜の下方に位置するp型領域と、
前記窒化ガリウム系半導体層の前記第1面側に設けられ、前記p型領域に隣接するn型のソース領域と、をさらに有し、
前記n型領域は、前記p型領域を挟んで前記ソース領域と向かい合い、
前記注入ピーク位置は、前記ソース領域の下面よりも前記第1面から深い位置に存在する、窒化物半導体装置。
【請求項2】
前記注入ピーク位置から前記第2面側において、前記注入ピーク位置から前記n型不純物の濃度が前記注入ピーク位置における濃度の1/10となる位置は、前記p型領域の下面よりも前記第2面側に位置する、請求項1に記載の窒化物半導体装置。
【請求項3】
前記注入ピーク位置の、前記窒化ガリウム系半導体層の前記第1面側からの深さは、650nm以上1000nm以下である、請求項1又は2に記載の窒化物半導体装置。
【請求項4】
前記n型領域における前記n型不純物の活性率は20%以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【請求項5】
前記窒化ガリウム系半導体層は、GaN層である、請求項1から4のいずれか1項に記載の窒化物半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体装置の製造方法及び窒化物半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MOS(Metal Oxide Semiconductor)構造を有する窒化物半導体装置が知られている。例えば、特許文献1には、縦型のGaN半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-96744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
n型GaN層のドナー濃度を制御する方法として、イオン注入がある。例えば、縦型のGaN半導体装置は、n型のGaN層であって、互いに離れて配置された一対のソース領域間にJFET領域を有する。JFET領域のドナー濃度は、イオン注入で制御可能であり、例えば1E+17/cm台で制御することが望まれている。
しかしながら、GaN層におけるn型不純物のアニーリングによる活性化率は、低い傾向がある。このため、例えば活性化率が20%より小さい場合は、n型不純物のイオン注入を1E+18/cm台後半以上の高濃度で行う必要がある。n型不純物のイオン注入を高濃度で行うと、GaN層に注入欠陥が多く生じる可能性がある。注入欠陥による電荷トラップなどが生じるなど、半導体装置の特性が劣化する可能性がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、n型不純物の活性化率を向上できるようにした窒化物半導体装置の製造方法及び窒化物半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る窒化物半導体装置の製造方法は、第1面と、第1面の反対側に位置する第2面とを有する窒化ガリウム系半導体層を用意し、第1面側から窒化ガリウム系半導体層にn型不純物をイオン注入してn型領域のドナー濃度を調整する工程、を備える。n型領域におけるn型不純物の活性率が予め設定した値となるときの、窒化ガリウム系半導体層の転位密度と、n型領域におけるn型不純物の第1面から注入ピーク位置までの深さと、n型不純物の注入ピーク位置から第2面側へのテール長と、の関係を予め求めておく。n型不純物をイオン注入する工程では、この関係を満たすn型領域が形成されるようにイオン注入の処理条件を設定する。
【0006】
本発明の一態様に係る窒化物半導体装置は、第1面と、第1面の反対側に位置する第2面とを有する窒化ガリウム系半導体層と、窒化ガリウム系半導体層の第1面側に設けられたn型領域と、を備える。窒化ガリウム系半導体層の転位密度の常用対数をβとし、n型領域におけるn型不純物の第1面から注入ピーク位置までの深さをTとし、n型不純物の注入ピーク位置から第2面側へのテール長をΔTとすると、下記の式(1)が成り立つ。
ΔT/T≧0.25β-0.73…(1)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、n型不純物の活性化率を向上できるようにした窒化物半導体装置の製造方法及び窒化物半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタの構成例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタの製造工程であって、JFET領域を形成するためのイオン注入工程を示す断面図である。
図3図3は、図1に示したJFET領域におけるn型不純物の注入プロファイルの一例(第1の例)を示すグラフである。
図4図4は、図1に示したJFET領域におけるn型不純物の注入プロファイルの一例(第2の例)を示すグラフである。
図5図5は、式(2)を満たすα、βの好適な範囲の一例を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタ(テール長パラメータαが小さい場合)の構成例を示す断面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタ(テール長パラメータαが大きい場合)の構成例を示す断面図である。
図8図8は、テール長パラメータと活性化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
また、以下の説明では、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の文言を用いて、方向を説明する場合がある。例えば、X軸方向又はY軸方向は、GaN層12の表面12aに平行な方向である。X軸方向、Y軸方向、又は、X軸方向及びY軸方向の両方を水平方向ともいう。Z軸方向は、表面12aの法線方向である。Z軸方向は、GaN層12の厚さ方向でもある。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、互いに直交する。
【0011】
また、以下の説明では、Z軸の矢印方向を「上」と称し、Z軸の矢印の反対方向を「下」と称する場合がある。「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。「上」及び「下」は、領域、層、膜及び基板等における相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、紙面を180度回転すれば「上」が「下」に、「下」が「上」になることは勿論である。
【0012】
また、以下の説明で、n又はpは、それぞれ電子または正孔が多数であることを意味する。また、pやnに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。但し、同じpとpとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0013】
<MOSトランジスタの構成>
図1は、本発明の実施形態に係るMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ100の構成例を示す断面図である。本発明の実施形態に係る窒化物半導体装置は、例えばパワー半導体デバイスであり、図1に示す窒化ガリウム系半導体基板1と、窒化ガリウム系半導体基板1に設けられたMOSトランジスタ100と、を備える。図1は、MOSトランジスタ100の単位構造を示している。単位構造は、Y軸方向に延在し、かつ、X軸方向に繰り返し設けられている。複数の単位構造が設けられた領域を活性領域と称する。図示しないが、活性領域の周囲には、活性領域における電界集中を防ぐ機能を有するエッジ終端構造が設けられている。エッジ終端構造は、ガードリング構造、フィールドプレート構造及びJTE(Junction Termination ExtenSiOn)構造の1つ以上を含んでよい。
【0014】
図1に示すように、MOSトランジスタ100は、窒化ガリウム系半導体基板1上に設けられたゲート絶縁膜5と、ゲート絶縁膜5上に設けられたゲート電極6と、窒化ガリウム系半導体基板1に設けられたソース電極7及びドレイン電極8と、を有する。
窒化ガリウム系半導体基板1は、例えば、GaN基板11と、GaN基板11上に設けられたGaN層12(本発明の「窒化ガリウム系半導体層」の一例)とを有する。図1に示すように、GaN層12の表面12a(本発明の「第1面」の一例)は、窒化ガリウム系半導体基板1の表面1aでもある。GaN層12の表面12aの反対側に位置する裏面12b(本発明の「第2面」の一例)は、GaN基板11と接触している。GaN基板11の裏面11bは、窒化ガリウム系半導体基板1の裏面1bでもある。
【0015】
GaN基板11は、GaN単結晶基板である。GaN基板11の導電型は、例えばn+型である。GaN基板11に含まれるn型不純物(ドーパント)は、Si(シリコン)、O(酸素)及びGe(ゲルマニウム)のうちの1種類以上の元素であり、一例を挙げるとOである。GaN基板11におけるOの不純物濃度は2E+18/cm以上である。なお、E+は、指数表記である。例えば、2E+18は、2×1018を意味する。
GaN基板11は、転位密度が1E+7/cm未満の低転位自立基板であってもよい。GaN基板11が低転位自立基板であることにより、GaN基板11上に形成されるGaN層12の転位密度も低くなる。また、低転位自立基板をGaN基板11に用いることで、GaN基板11に大面積のパワーデバイスが形成される場合でも、パワーデバイスにおけるリーク電流を少なくすることができる。これにより、製造装置は、パワーデバイスを高い良品率で製造することができる。また、熱処理において、イオン注入された不純物が転位に沿って深く拡散することを防止することができる。
【0016】
GaN層12は、GaN基板11上に設けられている。GaN層12は、n型のGaN単結晶層であり、GaN基板11上にエピタキシャル成長法で形成された層である。GaN層12に含まれるn型不純物は、Si(シリコン)、O(酸素)及びGe(ゲルマニウム)のうちの1種類以上の元素であり、一例を挙げるとOである。
【0017】
GaN層12の表面12a側には、p型のウェル領域13(本発明の「p型領域」の一例)と、n+型のソース領域14と、n型のJFET領域15(本発明の「n型領域」の一例)とが設けられている。GaN層12において、ウェル領域13とソース領域14とが設けられていない領域は、ドリフト領域と呼んでもよい。ドリフト領域は、GaN基板11とウェル領域13との間の電流経路として機能する。なお、JFET領域15は、ドリフト領域の一部である。JFET領域15は、他のドリフト領域よりもn型不純物の濃度が高く、電気抵抗が低い。JFET領域15が設けられることによって、MOSトランジスタ100のオン抵抗の低減が図られている。
【0018】
ウェル領域13は、GaN層12の表面12a側からp型不純物がイオン注入され、熱処理によりp型不純物が活性化されて形成される。p型不純物は、例えばマグネシウムである。ウェル領域13は、GaN層12の表面12aに面している。また、ウェル領域13は、ソース領域14側に位置する第1端部と、JFET領域15側に位置する第2端部とを有する。ウェル領域13において、第1端部と第2端部との間に位置し、かつゲート絶縁膜5との接触界面とその近傍に、MOSトランジスタ100のチャネルが形成される。
【0019】
ソース領域14は、GaN層12の表面12a側からn型不純物がイオン注入され、熱処理によりn型不純物が活性化されて形成される。n型不純物は、例えばSi、O及びGeのうちの1種類以上の元素である。ソース領域14は、GaN層12の表面12aに面しており、ウェル領域13の内側に位置する。ソース領域14の側部と底部は、ウェル領域13に接している。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向において、ソース領域14とウェル領域13は互いに接している。
【0020】
JFET領域15は、n-型のGaN層12よりもn型不純物の濃度が高い。JFET領域15は、GaN層12の表面12a側からn型不純物がイオン注入され、熱処理によりn型不純物が活性化されて形成される。n型不純物は、例えばSi、O及びGeのうちの1種類以上の元素であり、一例を挙げるとOである。JFET領域15は、GaN層12の表面12aに面しており、ゲート絶縁膜5と接している。また、JFET領域15は、ウェル領域13によって、水平方向(例えば、X軸方向)の両側から挟まれている。JFET領域15は、ウェル領域13を挟んでソース領域14と向かい合っている。
【0021】
ゲート絶縁膜5は、ウェル領域13上に設けられている。ゲート絶縁膜5は、例えばシリコン酸化膜(SiO膜)又は酸化アルミニウム(Al)膜である。ゲート絶縁膜5の厚さは、例えば50nm以上100nm以下である。ゲート電極6は、ゲート絶縁膜5上に設けられている。ゲート電極6は、平坦なゲート絶縁膜5上に設けられたプレーナ型の電極である。ゲート電極6は、例えば不純物をドープしたポリシリコンで形成されている。
【0022】
ソース電極7は、ソース領域14上からウェル領域13上にかけて連続して設けられており、ソース領域14及びウェル領域13とそれぞれ電気的に接続している。図示しないが、ソース電極7は、層間絶縁膜を介してゲート電極6を覆うように設けられてもよい。ソース電極7は、例えばAl又はAl-Siの合金からなる。
ドレイン電極8は、GaN基板11の裏面11b側に設けられており、GaN基板11と電気的に接続している。ドレイン電極8は、例えばAl又はAl-Siの合金からなる。
【0023】
<n型不純物のイオン注入工程>
図2は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタ100の製造工程であって、JFET領域15を形成するためのイオン注入工程を示す断面図である。図2に示すように、イオン注入に際し、GaN層12の表面12aにはレジストパターンRPが形成される。レジストパターンRPは、JFET領域15が形成される予定領域(以下、JFET形成領域)15’の上方を開口し、それ以外の領域を覆う形状を有する。イオン注入装置は、レジストパターンRPをマスクに用いて、GaN層12の表面12a側から、GaN層12にn型不純物をイオン注入する。GaN層12の表面12aと垂直に交わる直線CL(仮想線)に対する、n型不純物の注入角度をチルト角θという。図2に示すイオン注入工程において、チルト角θは任意であるが、一例を挙げると7°である。また、チルト角θは7°に限定されず、例えば0°であってもよい。
【0024】
JFET形成領域15’にn型不純物がイオン注入された後、レジストパターンRPは除去される。その後、GaN層12に熱処理が施されることによって、JFET形成領域15’にイオン注入されたn型不純物が活性化されて、JFET領域15が形成される。本発明の実施形態では、この熱処理によるn型不純物の活性化率が20%以上となるように、n型不純物の注入プロファイルがGaN層12の転移密度と関連付けて規定されている。
【0025】
<n型不純物の注入プロファイル>
(1)第1の例
図3は、図1に示したJFET領域15におけるn型不純物の注入プロファイルの一例(第1の例)を示すグラフである。図3は、図1及び図2に示した直線CLと重なる位置の濃度プロファイルを示している。図3において、縦軸は、n型不純物の一例となる酸素の濃度(酸素濃度)[/cm]を示す。横軸は、GaN層12の表面12aから裏面12b側への深さ[μm]を示す。図3に示す第1の例において、イオン注入されるn型不純物(ドーパント)の種類は、酸素(O)である。イオン注入のチルト角θは0[°]であり、注入エネルギーは700[keV]であり、ドーズ量は2.28E+13[/cm]である。
【0026】
また、第1の例において、GaN層12の転位密度ρdは1E+6[/cm]である。JFET領域15におけるn型不純物について、GaN層12の表面12aからの注入ピーク位置P1までの深さ(以下、注入深さ)Tは、1000[nm]である。JFET領域15におけるn型不純物について、n型不純物の注入ピーク位置P1から裏面12b側へのテール長ΔTは、1100[nm]である。テール長とは、注入ピーク位置P1から、n型不純物の濃度が注入ピーク位置P1における濃度(すなわち、注入ピーク濃度)の1/10となる位置P2までの長さである。第1の例は、下記の式(2)を満たしている。
α≧0.25β-0.73…(2)
式(2)は、αとβとの関係を示す関係式である。式(2)において、αはテール長パラメータであり、α=ΔT/Tで示される。また、βはGaN層12の転位密度ρdの常用対数であり、β=log10ρdで示される。常用対数とは、10を底とする対数である。式(2)を満たすとき、GaN層12におけるn型不純物の活性化率は20%以上となる。
【0027】
第1の例は、式(2)を満たしているため、GaN層12におけるn型不純物の活性化率は20%以上である。なお、式(2)の導出方法は、後で図8を参照しながら説明する。
(2)第2の例
図4は、図1に示したJFET領域15におけるn型不純物の注入プロファイルの一例(第2の例)を示すグラフである。図4は、図1及び図2に示した直線CLと重なる位置の濃度プロファイルを示している。図4において、縦軸は、n型不純物の一例となる酸素の濃度(酸素濃度)[/cm]を示す。横軸は、GaN層12の表面12aから裏面12b側への深さ[μm]を示す。図4に示す第2の例において、イオン注入されるn型不純物(ドーパント)の種類は、酸素(O)である。イオン注入のチルト角θは7[°]であり、注入エネルギーは700[keV]であり、ドーズ量は6.03E+13[/cm]である。
【0028】
また、第2の例において、GaN層12の転位密度ρdは1E+4[/cm]である。JFET領域15におけるn型不純物の注入深さTは、650[nm]である。JFET領域15におけるn型不純物のテール長ΔTは、310[nm]である。第1の例と同様に、第2の例も、上記の式(2)を満たしているため、GaN層12におけるn型不純物の活性化率は20%以上である。
【0029】
(3)α、βの好適な範囲
図5は、式(2)を満たすα、βの好適な範囲の一例を示すグラフである。図5において、縦軸はテール長パラメータαを示す。横軸は、GaN層12の転位密度ρdの常用対数であるβを示す。図5において、α=0.25β-0.73を示す直線よりも上側の範囲)が上記の式(2)を満たす範囲であり、例えば、図5に示す範囲Aから範囲Hがそれ
ぞれ、α、βの好適な範囲である。
【0030】
例えば、範囲Aは、αが0.1以上0.2未満であり、βが3.32以上3.72未満の範囲である。範囲Bは、αが0.2以上0.3未満であり、βが3.72以上4.12未満の範囲である。範囲Cは、αが0.3以上0.4未満であり、βが4.12以上4.52未満の範囲である。範囲Dは、αが0.4以上0.5未満であり、βが4.52以上4.92未満の範囲である。範囲Eは、αが0.5以上0.6未満であり、βが4.92以上5.32未満の範囲である。範囲Fは、αが0.6以上0.7未満であり、βが5.32以上5.72未満の範囲である。範囲Gは、αが0.7以上0.8未満であり、βが5.72以上6.12未満の範囲である。範囲Hは、αが0.8以上0.9未満であり、βが6.12以上6.52未満の範囲である。
【0031】
また、テール長パラメータαは、その値が小さいほど好ましい。すなわち、注入深さTに対してテール長ΔTは小さいほど好ましい。図5では、テール長パラメータαが最も小さい範囲Aが最も好ましく、範囲Bが次に好ましく、範囲Cがその次に好ましい。同様に、範囲Cの次に範囲Dが好ましく、範囲Dの次に範囲Eが好ましく、範囲Eの次に範囲Fが好ましく、範囲Fの次に範囲Gが好ましく、範囲Gの次に範囲Hが好ましい。テール長パラメータαが小さいほど、p型のウェル領域13からGaN層12の裏面12b側への空乏層の延びを妨げずにすむ。これにより、MOSトランジスタ100のオフ耐圧の低下を抑制することができる。この効果について、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0032】
図6は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタ100A(テール長パラメータαが小さい場合)の構成例を示す断面図である。図7は、本発明の実施形態に係るMOSトランジスタ100B(テール長パラメータαが大きい場合)の構成例を示す断面図である。図6及び図7において、JFET領域15におけるn型不純物の注入深さTは、互いに同じである。図6及び図7では、JFET領域15のテール長ΔTの長さが互いに異なる。
【0033】
例えば、図6に示すMOSトランジスタ100Aのテール長をΔT1とし、図7に示すMOSトランジスタ100Bのテール長をΔT2とすると、ΔT1はΔT2よりも小さい(ΔT1<ΔT2)。これにより、図6に示すMOSトランジスタ100Aのテール長パラメータαは、図7に示すMOSトランジスタ100Bのテール長パラメータαよりも、値が小さくなっている。なお、図6及び図7では、JFET領域15の底部を、テール長端部の位置P2として例示している。
【0034】
また、図6及び図7では、p型のウェル領域13からn型のドリフト領域側への空乏層の延びをDL、DHで例示している。DLは、ドレイン電極8とソース電極7との間に電界が印加されていないときの空乏層の延びを例示している。DHは、ドレイン電極8とソース電極7との間に高電界が印加されているときの空乏層の延びを例示している。ドレイン電極8とソース電極7との間に高電界が印加されているとき、p型領域とドリフト領域との間には逆バイアス状態となるため、DHのように空乏層の延びが大きくなる。
【0035】
図6に示すように、テール長ΔT1が短いMOSトランジスタ100Aでは、高電界印加時に、空乏層はJFET領域15の底部下まで回り込むように延びる。一方、図7に示すように、テール長ΔT1が長いMOSトランジスタ100Bでは、高電界印加時に、空乏層はJFET領域15の底部下まで回り込みにくい。JFET領域15の底面角部15Eとその近傍は電界が集中し易い箇所であるが、空乏層の回り込みが小さいと、この箇所で絶縁破壊が生じ易くなる。
このように、MOSトランジスタ100Aは、MOSトランジスタ100Bと比べて、オフ耐圧を維持することが容易となり、オフ耐圧を維持しながらオン抵抗を低減することが容易となる。以上が、テール長ΔTが短く、テール長パラメータαが小さいことが好ましい理由である。
【0036】
<関係式の導出方法>
次に、αとβとの関係を示す上記の式(2)の導出方法を説明する。図8は、テール長パラメータαと活性化率との関係を示すグラフである。図8において、縦軸は活性化率[%]を示し、縦軸はテール長パラメータを示す。図8に示すように、本発明者は、n型領域におけるn型不純物の活性化率と、テール長パラメータαとの関係について、GaN層の転位密度ρdごとに調査して、活性化率とテール長パラメータαとの間に相関があることを見出した。
活性化率が20%以上となるときの、テール長パラメータαと転位密度ρdとの組み合わせを抽出する。そして、抽出したデータを、縦軸をテール長パラメータαとし、横軸を転位密度の常用対数βとするグラフにプロットする。得られたプロットを、例えば最小二乗法で近似することによって、式(2)を得た。式(2)を導出する過程で得られたデータの一部を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本発明の実施形態に係る窒化物半導体装置は、GaN層12と、GaN層12の表面12a側に設けられたJFET領域15と、を備える。GaN層12の転位密度ρdの常用対数をβとし、JFET領域15におけるn型不純物(例えば、酸素(O))の表面12aから注入ピーク位置P1までの深さ(注入ピーク深さ)をTとし、n型不純物の注入ピーク位置P1から裏面12b側へのテール長をΔTとすると、上記の式(2)が成り立つ。
【0039】
これによれば、JFET領域15において、n型不純物の活性化率を向上させることができ、活性化率を20%以上にすることができる。これにより、JFET領域15に含まれるn型不純物の濃度を低く抑えることができる。例えば、JFET領域15において、n型不純物の活性化率が20%未満の場合は、n型不純物の濃度を1E+18/cm台の後半以上にする必要があるが、活性化率が20%以上であればn型不純物の濃度を1E+17/cm台に抑えることができる。これにより、JFET領域15を形成する工程では、イオン注入するn型不純物のドーズ量を低く抑えることができ、イオン注入によりJFET領域15に結晶欠陥が生じることを抑制することができる。JFE領域15において、結晶欠陥を原因とする電荷トラップの発生を抑制することができるため、MOSトランジスタ100の特性の劣化を抑制することができる。
【0040】
本発明の実施形態に係る窒化物半導体装置の製造方法は、GaN層12の表面12a側からGaN層12にn型不純物をイオン注入してJFET領域15のドナー濃度を調整する工程、を備える。JFET領域15におけるn型不純物の活性率が予め設定した値(例えば、20%以上)となるときの、GaN層12の転位密度ρdと、JFET領域15におけるn型不純物の表面12aから注入ピーク位置P1までの深さ(注入ピーク深さ)Tと、n型不純物の注入ピーク位置P1から裏面12b側へのテール長ΔTと、の関係を予め求めておく。この関係は、例えば上記の式(2)で示される。n型不純物をイオン注入する工程では、上記の式(2)を満たすJFET領域15が形成されるように、イオン注入の処理条件を設定する。イオン注入の処理条件として、注入ピーク深さT及びテール長ΔTを制御するパラメータ(例えば、チルト角θ及び注入エネルギー)が挙げられる。また、イオン注入の処理条件には、イオン注入される基板(例えば、GaN層12)の転位密度ρdの選択を含めてもよい。
【0041】
これによれば、JFET領域15におけるn型不純物の活性化率を20%以上にすることができるので、イオン注入するn型不純物のドーズ量を低く抑えることができる。これにより、イオン注入によりJFET領域15に結晶欠陥が生じることを抑制することができる。JFET領域15において、結晶欠陥を原因とする電荷トラップの発生を抑制することができるため、MOSトランジスタ100の特性の劣化を抑制することができる。
なお、本発明の実施形態では、テール長ΔTを100nm以上に限定してもよい。JFET領域15へのn型不純物のドーピング方法として、イオン注入の他に、エピタキシャル成長時にin-situでドーピングする方法が考えられる。n型不純物をin-situでドーピングする場合、ドープ、アンドープの切り替えは、チャンバに接続する配管のバルブ操作により短時間で行われるため、テール長ΔTは短く、通常は100nm未満である。したがって、テール長ΔTを100nm以上に限定することによって、n型不純物のドーピング方法を、イオン注入に実質限定することができる。
【0042】
<その他の実施形態>
上記のように、本発明は実施形態及び変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、変形例が明らかとなろう。
例えば、上記の実施形態では、JFET領域15を形成する際にn型不純物として酸素(O)をイオン注入することを説明したが、n型不純物は酸素に限定されない。本発明の実施形態において、イオン注入するn型不純物は、酸素、ケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)のいずれか1種類以上の元素を含んでいてもよい。このような場合であっても、n型不純物の活性率が予め設定した値(例えば、20%)以上となるときの、GaN層12の転位密度ρdと、n型不純物の注入ピーク深さTと、n型不純物のテール長ΔTと、の関係を予め求めておき、この関係を満たすJFET領域15が形成されるように、イオン注入の処理条件を設定する。これにより、イオン注入のドーズ量を低く抑え、結晶欠陥の発生を抑制しつつ、活性化率20%以上を達成することが可能となる。
【0043】
また、上記の実施形態では、n型不純物の活性率を20%以上とすることを説明したが、活性化率の目標値は20%以上に限定されない。活性化率の目標値は、例えば25%以上であってもよい。このような場合であっても、図8に示したように、n型不純物の活性化率とテール長パラメータαとの関係について、GaN層12の転位密度ρdごとに調査し、活性化率が25%以上となるときの、テール長パラメータαと転位密度ρdとの組み合わせを抽出して、式(2)のような関係式を得る。そして、この関係式を満たすJFET領域15が形成されるようにイオン注入の処理条件を設定する。これにより、イオン注入のドーズ量を低く抑えつつ、結晶欠陥の発生を抑制しつつ、活性化率25%以上を達成することが可能となる。
【0044】
また、上記の実施形態では、本発明の「n型領域」としてJFET領域15を例示したが、「n型領域」はJFET領域15に限定されず、他の領域であってもよい。
また、上記の実施形態では、本発明の「窒化ガリウム系半導体層」としてGaN層12を例示したが、「窒化ガリウム系半導体層」はGaN層に限定されない。例えば、「窒化ガリウム系半導体層」は、バルクのGaN基板であってもよい。また、「窒化ガリウム系半導体層」はGaNを主成分とし、アルミニウム(Al)元素及びインジウム(In)元素の いずれか1種類以上の元素をさらに含んでもよい。
【0045】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上記した実施形態及び変形例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 窒化ガリウム系半導体基板
1a、12 a 表面
1b、11b、12b 裏面
5 ゲート絶縁膜
6 ゲート電極
7 ソース電極
8 ドレイン電極
11 GaN基板
12 GaN層
13 ウェル領域
14 ソース領域
15 JFET領域
15’ JFET形成領域
15E 底面角部
100、100A、100B MOSトランジスタ
A、B、C、D、E、F、G、H 範囲
P1 注入ピーク位置
P2 位置
RP レジストパターン
α テール長パラメータ
ΔT、ΔT1、ΔT2 テール長
θ チルト角
ρd 転位密度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8