(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138100
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】粒子検出装置および画像生成装置
(51)【国際特許分類】
G01T 1/16 20060101AFI20240927BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01T1/16 B
H01L29/06 601N
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024120361
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2021060979の分割
【原出願日】2021-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】山根 武
(57)【要約】
【課題】熱流入を抑制することが可能でかつ超伝導ナノストリップの多線配置が可能な粒子検出装置を提供する。
【解決手段】本実施形態による粒子検出装置は、複数の超伝導ナノストリップを含み粒子発生源からの粒子を検出する検出器と、前記複数の超伝導ナノストリップに対応して設けられたチャネルを有し、対応する超伝導ナノストリップからのアナログ信号をデジタル信号に変換する変換機構と、前記変換機構からの出力を集約する集約機構と、超伝導転移温度以下の第1温度に維持する第1温度維持部と、前記第1温度維持部を格納する第1低温容器と、前記変換機構、前記第1低温容器を格納し、前記粒子発生源からの前記粒子が通過する開口部を有する真空容器と、を備え、前記検出器は前記第1低温容器内に格納されて前記第1温度維持部に接続され、前記変換機構は前記第1温度以上に維持され、前記集約機構は前記第1低温容器の外に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超伝導ナノストリップを含み粒子発生源からの粒子を検出する検出器と、
前記複数の超伝導ナノストリップに対応して設けられたチャネルを有し、対応する超伝導ナノストリップからのアナログ信号をデジタル信号に変換する変換機構と、
前記変換機構からの出力を集約する集約機構と、
前記検出器と前記変換機構とを接続するケーブルと、
超伝導転移温度以下の第1温度に維持する第1温度維持部と、
前記第1温度維持部を格納する第1低温容器と、
前記第1温度以上の第2温度に維持する第2温度維持部と、
前記第2温度維持部を格納するとともに前記第1低温容器を格納する第2低温容器と、
前記第2低温容器を格納し、前記粒子発生源からの前記粒子が通過する開口部を有する真空容器と、
を備え、
前記検出器は前記第1低温容器内に格納されて前記第1温度維持部に接続され、
前記ケーブルは前記第2温度に維持される部分を含み、
前記変換機構は前記第2温度以上に維持され、
前記集約機構は前記第2低温容器の外に配置される粒子検出装置。
【請求項2】
前記検出器と前記変換機構を接続する前記ケーブルの中間点にコネクタを備え、前記コネクタは前記第2温度維持部に接続されて前記第2温度に維持され、
前記ケーブルは、前記検出器と前記コネクタとを接続する第1ケーブルと、前記コネクタと前記変換機構とを接続する第2ケーブルと、を含む、
請求項1記載の粒子検出装置。
【請求項3】
前記検出器と前記変換機構を接続する前記ケーブルの中間点にコネクタを備え、前記コネクタは第2温度維持部に接続されて前記第2温度に維持され、前記検出器と前記コネクタを接続するケーブルを伝播する熱量は、前記コネクタと前記変換機構を接続するケーブルを伝播する熱量より小さい、請求項1記載の粒子検出装置。
【請求項4】
前記集約機構は、動作温度が室温近傍となる、請求項1乃至3のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項5】
前記変換機構は前記第2低温容器の外に配置され、前記集約機構は前記真空容器内に格納される請求項1乃至4のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項6】
前記変換機構は前記第2低温容器の外に配置され、前記集約機構は前記真空容器の外に配置される請求項1乃至4のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項7】
前記変換機構は前記真空容器の外に配置される、請求項6記載の粒子検出装置。
【請求項8】
前記変換機構は前記第2低温容器内に格納され前記第2温度維持部に接続され、前記集約機構は前記真空容器外に配置される、請求項1乃至4のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項9】
前記変換機構は前記第2低温容器内に格納され前記第2温度維持部に接続され、前記集約機構は前記真空容器内に格納される、請求項1乃至4のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項10】
複数の超伝導ナノストリップを含み粒子発生源からの粒子を検出する検出器と、
前記複数の超伝導ナノストリップに対応して設けられたチャネルを有し、対応する超伝導ナノストリップからのアナログ信号をデジタル信号に変換する変換機構と、
前記変換機構からの出力を集約する集約機構と、
前記検出器と前記変換機構とを接続するケーブルと、
超伝導転移温度以下の第1温度に維持する第1温度維持部と、
前記第1温度維持部を格納する第1低温容器と、
前記第1温度以上の第2温度に維持する第2温度維持部と、
前記第1低温容器および第2温度維持部を格納し、前記粒子発生源からの前記粒子が通過する開口部を有する真空容器と、
を備え、
前記検出器は前記第1低温容器内に格納されて前記第1温度維持部に接続され、
前記ケーブルは前記第2温度に維持される部分を含み、
前記変換機構は前記第2温度以上に維持され、
前記集約機構は前記第1低温容器の外に配置され、動作温度が室温近傍となる、粒子検出装置。
【請求項11】
前記検出器に接続するケーブルは、前記ケーブルの導電部の断面積と、前記ケーブル両端における温度差と、前記導電部の熱伝導率との積を、前記ケーブルの長さで除した値が、前記第1温度維持部における冷却能力の1/10以下である請求項1乃至10のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項12】
前記変換機構から出力されるデジタル信号は、パルス幅が50nsec以上である請求項1乃至11のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項13】
前記複数の超伝導ナノストリップは複数のグループに分割され、前記変換機構は前記グループに対応して分割されて並列配置され、
各グループに属する超伝導ナノストリップから発生するアナログ信号は、各グループに対応する変換機構に入力される請求項1乃至12のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項14】
前記検出器と前記変換機構を接続するケーブルはフレキシブル基板である請求項1乃至13のいずれか1項記載の粒子検出装置。
【請求項15】
前記変換機構は、前記複数の超伝導ナノストリップに対応して設けられ、対応する超伝導ナノストリップからの信号を出力し、前記対応する超伝導ナノストリップに直流を印加するバイアスティと、前記バイアスティの出力を増幅するアンプと、前記アンプの出力が閾値以上であるか否かを比較し、前記閾値以上であるときにデジタル信号を出力するコンパレータと、前記コンパレータからの出力をカウントするカウンタと、を備えている請求項1乃至14のいずか1項記載の粒子検出装置。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか1項記載の粒子検出装置と、前記粒子発生源と、前記粒子検出装置の前記検出器と試料を相対的に移動させるコントローラと、前記集約機構の出力に基づいて前記試料の画像を生成する画像生成部と、備えた画像生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粒子検出装置および画像生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導単一光子検出器(SSPD(Superconducting Single Photon Detector))を用いた粒子検出装置が知られている。この粒子検出装置は、SSPDを構成する複数の超伝導ナノストリップの一つにX線フォトンが衝突した際にパルス信号が発生し、この発生したパルス信号のパルス数をカウントすることによってフォトン数(粒子数)を検出する。
【0003】
しかし、SSPDは超伝導転移温度以下の極低温の容器に維持される。このため、パルス信号をカウントする機構(カウンタ)を室温側に設置した場合は、室温からの容器への熱流入が大きくなる。特にSSPDを画像生成装置に用いる場合には、超伝導ナノストリップの本数を100本以上にすることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-16543号公報
【特許文献2】特許第541922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、熱流入を抑制することが可能な粒子検出装置およびその粒子検出装置を用いた画像生成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態による粒子検出装置は、複数の超伝導ナノストリップを含み粒子発生源からの粒子を検出する検出器と、前記複数の超伝導ナノストリップに対応して設けられたチャネルを有し、対応する超伝導ナノストリップからのアナログ信号をデジタル信号に変換する変換機構と、前記変換機構からの出力を集約する集約機構と、超伝導転移温度以下の第1温度に維持する第1温度維持部と、前記第1温度維持部を格納する第1低温容器と、前記変換機構、前記第1低温容器を格納し、前記粒子発生源からの前記粒子が通過する開口部を有する真空容器と、を備え、前記検出器は前記第1低温容器内に格納されて前記第1温度維持部に接続され、前記変換機構は前記第1温度以上に維持され、前記集約機構は前記第1低温容器の外に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態による粒子検出装置を示す断面図。
【
図6】第1実施形態の第1変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図7】第1実施形態の第2変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図8】第1実施形態の第3変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図9】第1実施形態の第4変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図10】第1実施形態の第5変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図11】第1実施形態の第6変形例による粒子検出装置を示す回路図。
【
図12】第2実施形態による粒子検出装置を示す断面図。
【
図13】第3実施形態による粒子検出装置を示す回路図。
【
図14】第4実施形態による粒子検出装置を示す回路図。
【
図15】第5実施形態による粒子検出装置を示す断面図。
【
図16】第5実施形態の一変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図17】第5実施形態の他の変形例による粒子検出装置を示す断面図。
【
図18】第6実施形態による画像生成装置を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0009】
(第1実施形態)
第1実施形態による粒子検出装置の構成を
図1に示す。第1実施形態の粒子検出装置100は、超伝導単一光子検出器(SSPD)110と、定電流電源120と、変換機構130と、集約機構140と、冷却機構150と、コンピュータ160と、を備えている。
【0010】
冷却機構150は、第1低温容器152と、この第1低温容器152を内部に収納した第2低温容器154と、この第2抵抗容器154を内部に収納した真空容器156と、冷凍機170と、を備えている。
【0011】
冷凍機170は、第1温度維持部172と、第2温度維持部174と、を備え、二段で冷凍する。第1温度維持部172は、第1低温容器152に格納される。第2温度維持部174は第2低温容器154に格納される。SSPD110は、第1温度維持部172に接続され、SSPD110を構成する超伝導材料の超伝導転移温度以下である温度T1に維持される。
【0012】
変換機構130は第2温度維持部174に接続され、温度T1以上の温度T2に維持される。例えば超伝導材料がニオブの場合、温度T1は超伝導転移温度の20%~超伝導転移温度の範囲(1.84~9.2K)であり、例えば4K程度が考えられる。温度T2は100K以下であり、例えば65K程度が考えられる。
第1低温容器152、第2低温容器154には検出される粒子が透過し、熱を遮断する窓152a、154aがそれぞれ設けられている。検出される粒子が硬X線フォトンの場合、窓にはアルミニウム箔などが用いられる。同様に真空容器156には開口部156aが設けられている。また、真空容器156には粒子発生源180が格納される真空容器190に接続される。真空容器156の真空度は1.0×10-6mbar以下が望ましい。
【0013】
図2に示すように、SSPD110は、シリコンウェハなどの基板201上に、N(N≧2)本のライン状の超伝導ナノストリップ202がお互いに平行でかつ等間隔に形成されている。ここでNは自然数である。超伝導ナノストリップ202を構成する超伝導材料として例えばニオブなどが用いられる。
【0014】
変換機構130は、
図2に示すように、N本の超伝導ナノストリップ202のそれぞれに対応して設けられたバイアスティ204、アンプ205、およびコンパレータ206を備えている。これらのバイアスティ204、アンプ205、およびコンパレータ206は、例えばプリント基板203上に配置される。また、変換機構130は、プリント基板203上に配置され、N本の超伝導ナノストリップ202に対応して設けられたN個のチャネルを有し、N個のコンパレータ206に接続されるカウンタ207を備えている。
【0015】
超伝導ナノストリップ202のそれぞれは、一端が接地され、他端が対応するバイアスティ204のRF・DC端子に接続される。バイアスティ204のDC端子は定電流電源120に接続される。バイアスティ204のRF端子は対応するアンプ205の入力端子に接続される。アンプ205の出力端子は、対応するコンパレータ206の入力端子に接続される。コンパレータ206の出力端子は、カウンタ207の入力端子に接続される。
【0016】
集約機構140は、例えばプリント基板208上に配置された集配信回路209を備えている。集配信回路209は、入力端子にカウンタ207の出力信号を受ける。集配信回路209の出力端子はコンピュータ160に接続される。なおカウンタ207および集配信回路209は半導体回路であり、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuits)などにより作製される。また集約機構140は第2低温容器154の外でかつ真空容器156の内である領域に格納される。このとき、集配信回路209は例えばペルチェ素子210によって冷却される。
【0017】
(粒子検出装置の動作原理)
次に、粒子検出装置100の動作原理について、
図3および
図4を参照して説明する。
図3に示すように、粒子発生源180から発生したX線フォトンなどの粒子301が1本の超伝導ナノストリップ202に衝突する。超伝導ナノストリップ202には定電流電源120からバイアスティ204を介して予め超伝導の臨界電流を超えない程度の電流が矢印302のように流れている。バイアスティ204は高周波信号に影響を与えることなく直流を印加するためのデバイスとして機能する。超伝導ナノストリップ202の粒子301が衝突した位置近傍では超伝導から常伝導に転移した領域303が形成される。領域303は常伝導状態であるため抵抗値を持ち、領域303を迂回するように電流304が流れる。すると、この迂回によって電流が密になった領域305は超伝導の臨界電流を超える。このため、領域305が常伝導に転移し超伝導ナノストリップ202が分断されて電気抵抗が発生し一時的に電圧が上昇する。その後、冷却により領域305が再び超伝導状態に戻る。この電圧変化によってパルス信号が発生する。パルス信号はアンプ205にて増幅され、増幅されたパルス信号401の高さがしきい値402以上である場合、パルス幅403が例えば100ナノ秒程度の矩形波404がコンパレータ206から出力される。
【0018】
カウンタ207には、それぞれのチャネルのカウント値を記録する部位が設けられている。一つの矩形波404がカウンタ207に到達すると、対応するチャネルのカウント値が1個増加される。このようにカウンタ207には、N本の超伝導ナノストリップそれぞれのカウント値が記録される。
【0019】
集配信回路209は、コンピュータ160から開始の指令を受けると、カウンタ207に記録されている全チャネルのカウント値をゼロにリセットする。予め定められた一定の時間を経過するとカウンタ207からカウント値を読み出してコンピュータ160に全チャネルのカウント値を転送し、全チャネルのカウント値を再びゼロにリセットするという動作を繰り返す。
【0020】
コンピュータ160から終了の指令を受けると、動作を終了する。各チャネルに対応する超伝導ナノストリップの位置に対するカウント値をプロットすることにより、
図5に示すようなSSPD110に到達した粒子数の1次元位置分布が取得される。
【0021】
SSPD110を粒子発生源180に対して移動させながら1次元位置分布を取得することにより、SSPD110に到達した粒子数の2次元位置分布を取得することも可能である。この2次元位置分布は粒子がX線フォトンの場合はX線像に相当する。
【0022】
SSPD110から発生するパルス信号は、
図4に示す半値幅405が例えば2ナノ秒程度(500MHzの周波数に相当)のアナログ信号である。このため、SSPD110と変換機構130を接続するケーブル211として、高周波信号の損失が少なく省スペースで多線を配置できる高速伝送フレキシブル基板を用いる。なお高速伝送フレキシブル基板は、同軸ケーブルのようにグラウンド線が信号線を囲うように配置する構造になっている。導電部(信号線とグランウンド線)の断面積の合計をS、高速伝送フレキシブル基板の長さをL、導電部を構成する材質の熱伝導率をkとすると、信号線とグランウンド線を伝播する熱量Wは以下の式(1)で表される。
【数1】
ケーブル211の導電部以外(絶縁部)を伝播する熱量はほぼ無視できるため、熱量Wが冷凍機170の第1温度維持部172の冷却能力より十分小さく(例えば1/10以下)になるように、ケーブル211の導電部の材質や断面積S、長さLを決定する。
【0023】
一方、集約機構140と変換機構130の通信に使われる信号はパルス幅が5マイクロ秒(200kHz)程度のデジタル信号である。一般的に、信号のエネルギー損失は、信号の周波数が高く、信号線1本あたりの導電部の断面積が小さく、距離が長い程大きい。またデジタル信号はアナログ信号に比べて、ある程度の損失があってもその値が「0」または「1」のため、影響が少ない。したがって変換機構130と集約機構140を接続するケーブル212には、高速伝送フレキシブル基板より導電部の断面積が小さいフレキシブル基板やフラットケーブル、またはツイストペアケーブルなどを用い、熱流入を極力抑える。
【0024】
次に、第1実施形態の効果について説明する。冷凍機170の第2温度維持部174の冷却能力は数十W程度であり、第1温度維持部172の冷却能力の1W以下に比べて極めて大きい。本実施形態では、変換機構130を第2温度維持部174に接続させることにより、変換機構130の発熱量が大きくても十分に冷却することが可能になる。また変換機構130を真空容器156の外に配置する場合に比べてSSPD110と変換機構130を接続するケーブル211の長さが短くなり、信号線1本あたりの断面積が小さくても損失が十分に抑えられる。
【0025】
導電部の断面積の合計は上述のように第1温度維持部172の冷却能力によって決められるため、信号線1本あたりの断面積が小さくなると信号線の数を増やすことが可能になり、結果として超伝導ナノストリップ202の本数の多いSSPD110を搭載することが可能になる。
【0026】
また集約機構140を第2低温容器154の外に配置することにより、第2温度維持部174の冷却能力に対する負担を低減できる。集約機構140を真空容器156内に格納することによってペルチェ素子210により結露することなく冷却することが可能になる。
【0027】
以上説明したように、第1実施形態によれば、発熱量の大きい半導体回路による変換機構130や集約機構140を用いて、超伝導ナノストリップ202の本数が多いSSPD110のパルス数をカウントすることが可能になり、一度に、より広い範囲における粒子数の1次元位置分布を取得できる。すなわち、熱流入を抑制することが可能でかつ超伝導ナノストリップの多線配置が可能な粒子検出装置を提供することができる。
【0028】
なお、カウンタとして超伝導単一磁束量子回路を用い、SSPDと同じく極低温環境下に設置して熱流入を抑える方法が考えられる。しかし、本実施形態と異なり、超伝導単一磁束量子回路は大規模な素子を作成した実績がないという問題がある。
【0029】
次に、第1実施形態の変形例による粒子検出装置について説明する。
(第1変形例)
第1変形例による粒子検出装置を
図6に示す。この第1変形例の粒子検出装置100Aは、
図1に示す第1実施形態の粒子検出装置100において、変換機構130を第1温度維持部172に接続し、集約機構140は第2温度維持部174に接続した構成を備えている。
【0030】
(第2変形例)
第2変形例による粒子検出装置を
図7に示す。この第2変形例の粒子検出装置100Bは、
図6に示す第1変形例の粒子検出装置100Aにおいて、集約機構140を第2低温容器154の外でかつ真空容器156内に配置した構成を有している。
【0031】
(第3変形例)
第3変形例による粒子検出装置を
図8に示す。この第3変形例の粒子検出装置100Cは、
図7に示す第2変形例の粒子検出装置100Bにおいて、集約機構140を真空容器156の外に配置した構成を有している。
【0032】
(第4変形例)
第4変形例による粒子検出装置を
図9に示す。この第4変形例の粒子検出装置100Dは、
図6に示す第1変形例の粒子検出装置100Aにおいて、変換機構130を第2温度維持部174に接続した構成を有している。
【0033】
(第5変形例)
第5変形例による粒子検出装置を
図10に示す。この第5変形例の粒子検出装置100Eは、
図9に示す第4変形例の粒子検出装置100Dにおいて、集約機構140を真空容器156の外に配置した構成を有している。
【0034】
第1乃至第5変形例において、変換機構130や集約機構140の動作温度範囲や発熱量、第1温度維持部172や第2温度維持部174の冷却能力によって最適な配置を実現できる効果がある。
【0035】
図8または
図10に示す第3変形例および第5変形例のように、集約機構140を真空容器156の外に配置する場合は、集配信回路209の冷却用としてペルチェ素子210の代わりに冷却ファン、冷却水を用いる。この場合は冷却温度が高くなる一方、集配信回路209の状態を目視で確認でき、設定変更などを容易に行うことができる効果がある。
【0036】
図7に示す第2変形例のように、変換機構130を第1温度維持部172に接続し、集約機構140を第2低温容器154の外でかつ真空容器156内に設置する場合、もしくは第3変形例のように、真空容器156の外に設置する場合は、第2温度維持部174と第2低温容器154は必ずしも必要ない。
【0037】
(第6変形例)
図9に示す第4変形例のように、変換機構130と集約機構140の両方とも第2温度維持部174に接続する場合は、
図11に示す第6変形例のように変換機構130と集約機構140を1枚の基板上に作成し、カウンタと集配信回路を1個のFPGAもしくはASIC601で作製することも可能である。この場合、省スペースの効果がある。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態による粒子検出装置について
図12を参照して説明する。この第2実施形態の粒子検出装置100Fは、
図1に示す二段式の冷凍機110の代わりに第1冷凍機702および第2冷凍機705を用いている。第1冷凍機702は、温度をT
1に維持する第1温度維持部701を有し、第1温度維持部701は第1低温容器703に格納される。第2冷凍機705は、温度をT
2に維持する第2温度維持部704を有する。第2温度維持部704は第2低温容器706に格納され、第1低温容器703と第2低温容器706は、真空容器内で並べて配置される。この場合、第2温度維持部704の冷却能力を拡大でき、変換機構130の発熱量に対する制限を緩和できる。
【0039】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態による粒子検出装置について
図13を参照して説明する。
図1および
図2に示す第1実施形態の粒子検出装置100においては、変換機構130は、1枚の基板203上にN個のバイアスティ204、アンプ205、コンパレータ206、1個のカウンタ207が配置されている。
【0040】
これに対して、この第3実施形態の粒子検出装置は、変換機構130をm枚の基板に分割する。
図13に示すように、m枚のプリント基板801のそれぞれに、バイアスティ204、アンプ205、コンパレータ206をn
1、n
2、・・・、n
m個ずつと、n
1、n
2、・・・、n
m個のチャネルを持つカウンタ802を1個ずつ配置する。ここでN=n
1+n
2+・・・+n
mである。超伝導ナノストリップ202の1本につき1個のバイアスティ204、アンプ205、コンパレータ206に接続し、カウンタ802の1つのチャネルに接続する。m個のカウンタ802のそれぞれから集約機構140上の集配信回路803に接続する。それぞれの機能やその他の構成は第1実施形態で説明した場合と同様である。
【0041】
第3実施形態の粒子検出装置は、超伝導ナノストリップ202の本数Nがカウンタ802のチャネル数を超える場合においても適用することができ、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能になる。一度に取得できる粒子数の1次元位置分布の範囲をより拡大できる効果がある。
【0042】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態による粒子検出装置について
図14を参照して説明する。
図1および
図2に示す第1実施形態においては、変換機構130はバイアスティ204、アンプ205、コンパレータ206、カウンタ207から構成されている。
【0043】
第4実施形態では、
図14に示すように変換機構901がそれぞれN個のバイアスティ204、アンプ205、コンパレータ206を含む。集約機構902はカウンタ903および集配信回路904を含む。このとき、カウンタ903はm個に分割してもよいし、
図12に示す第7変形例のように、カウンタ903と集配信回路904は1つのFPGAもしくはASICで作製してもよい。
【0044】
コンパレータ206から発生する信号は、パルス幅が100ナノ秒程度の矩形波であり、SSPD110からパルス信号が発生されたか否かを示す2値データ、つまりデジタル信号である。多少損失があっても情報が失われないため、変換機構901と集約機構904を接続するケーブル905には断面積の小さいケーブルを使用できる。また上記のアンプ205において、変換機構901と集約機構904を接続するケーブルにおいて損失される分を十分に補う程度にパルス信号を増幅することが可能であれば、コンパレータ206を省略することや、コンパレータ206を変換機構ではなく集約機構に配置してもよい。その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0045】
第4実施形態により、第1実施形態と異なる形態で同様の効果を得ることが可能になる。この場合、コンパレータ、カウンタ、集配信回路として動作温度範囲が室温近傍のものを使用できる効果がある。
【0046】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態による粒子検出装置について
図15を参照して説明する。
図1に示す第1実施形態においては、変換機構130は第2温度維持部174に接続されている。
【0047】
第5実施形態の粒子検出装置100Gでは、SSPD110と変換機構130の中間点にコネクタ1000を設け、コネクタ1000を第2温度維持部174に接続し、コネクタの温度をT
2に維持する。このときコネクタ1000を省略してもよいが、第2温度維持部174に接続した部分におけるケーブル(導電部)の温度をT
2に維持するため、ケーブルと第2温度維持部174の接続する面を十分に大きくする。変換機構130は第2低温容器154外であり真空容器156内に配置され、ペルチェ素子1001により冷却される(
図15参照)。
【0048】
なお、
図16または
図17に示す第5実施形態の変形例のように、変換機構130や集約機構140は、真空容器156外に配置してもよく、この場合は冷却ファンや冷却水によって冷却される。SSPD110とコネクタ1000を接続するケーブルを伝播する熱量をW
s、コネクタ1000と変換機構130を接続するケーブル1002を伝播する熱量をW
cとする。W
cがW
sより大きく、かつ第2温度維持部174の冷却能力より小さくなるようにケーブル1002の導電部の長さ、断面積や材質、コネクタ1000の取り付け位置を決定する。第2の温度維持部の冷却能力は十分に大きいため、ケーブル1002の導電部断面積などを十分に大きくすることが可能になり、ケーブル1002を伝わる信号の損失を十分に抑えることが可能になる。
【0049】
第5実施形態およびその変形例により、変換機構を低温容器外に配置することが可能になり、変換機構の動作温度に対する制限を緩和できる効果がある。
【0050】
(第6実施形態)
第6実施形態による画像生成装置について、
図18を参照して説明する。この第6実施形態の画像生成装置は、例えばX線を発生する粒子発生源180と、第1乃至第5実施形態の粒子検出装置およびそれらの変形例の粒子検出装置のいずれか(例えば第1実施形態の粒子検出装置100)と、試料10と上記粒子検出装置100のSSPD110とを相対移動させるコントローラ1100と、備えている。試料10を粒子発生源180とSSPD110との間に配置し、粒子発生源180からX線を試料10に照射し、試料10を透過したX線をSSPD110で検出する。このとき、コントローラ1100を用いて、試料10とSSPD110とを相対移動させることにより、試料10のX線画像を得ることができる。例えば、超伝導ナノストリップの長さと幅が同じ程度であり、相対移動が超伝導ナノストリップの延びている方向に沿った移動であれば、試料10の2次元画像を得ることができる。相対移動がSSPD110の中心と粒子発生源180の中心を結ぶ中心線に対して回転移動する場合は、試料10の2次元画像を得ることができる。この画像はコンピュータ160によって生成される。なお、画像生成は、粒子検出装置100の外に配置され図示しないコンピュータを用いて行ってもよい。
【0051】
この第6実施形態の画像生成装置は、第1乃至第5実施形態の粒子検出装置およびそれらの変形例の粒子検出装置のいずれかを用いているので、熱流入を抑制することが可能でかつ超伝導ナノストリップの多線配置が可能な画像生成装置を得ることができる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
110:超伝導単一光子検出器、120:定電流電源、130:変換機構、140:集約機構、150:冷却機構、152:第1低温容器、154:第2低温容器、156:真空容器、160:コンピュータ、170:冷凍機、172:第1温度維持部、174:第2温度維持部、152a:窓、154a:窓、156a:開口部、201:基板、202:超伝導ナノストリップ、203:基板、204:バイアスティ、205:アンプ、206:コンパレータ、207:カウンタ、208:基板、209:集配信器、210:ペルチェ素子、211:ケーブル、212:ケーブル、301:粒子、302:矢印、303:常伝導転移領域、304:電流、305:常伝導転移領域、401:パルス信号、402:しきい値、403:パルス幅、404:矩形波、405:パルス幅、601:カウンタ・集配信器、701:第1温度維持部、702:第1冷凍機、703:第1低温容器、704:第2温度維持部、705:第2冷凍機、706:第2低温容器、801:基板、802:カウンタ、803:集配信器、901:変換機構、902:集約機構、903:カウンタ、904:集配信器、905:ケーブル、1000:コネクタ、1001:ペルチェ素子、1002:ケーブル、1100:コントローラ