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特開2024-138113臭素系難燃化合物の定量装置用データ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138113
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】臭素系難燃化合物の定量装置用データ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240927BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/62 C
H01J49/00 360
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024121425
(22)【出願日】2024-07-26
(62)【分割の表示】P 2021085153の分割
【原出願日】2021-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
(57)【要約】
【課題】同種の分析装置を複数使用して試料を分析する際に臭素系難燃化合物を簡便に定量することができる技術を提供する。
【解決手段】クロマトグラフ質量分析によりポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群である対象化合物を定量する装置において用いられるデータ。対象化合物の少なくとも1つである基準化合物を所定の条件で分析したときの単位量当たりの強度に対する参照化合物を同条件で測定したときの単位量当たりの強度の情報である相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有し、標準試料の分析で得られた基準化合物の強度の情報と、分析対象試料の分析で得られた基準化合物の強度及び参照化合物の強度の情報と、相対応答係数とに基づいて、分析対象試料に含まれる基準化合物の定量値及び参照化合物の定量値を求める処理を行うために用いられるデータ。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ質量分析によりポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群である対象化合物を定量する装置において用いられるデータであって、
前記対象化合物のうちの少なくとも1つである基準化合物を所定の条件でクロマトグラフ質量分析したときの単位量当たりの強度に対して、該基準化合物以外の対象化合物である参照化合物を前記所定の条件でクロマトグラフ質量分析したときの単位量当たりの強度の情報である相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有し、
前記装置において、
前記基準化合物を既知量含む標準試料を前記所定の条件でクロマトグラフ質量分析することにより得られた該基準化合物の強度の情報と、
分析対象試料を前記所定の条件でクロマトグラフ質量分析することにより得られた該分析対象試料に含まれる前記基準化合物の強度及び前記参照化合物の強度の情報と、
前記相対応答係数と
に基づいて、前記分析対象試料に含まれる前記基準化合物の定量値及び前記参照化合物の定量値を求める処理を行うために用いられるデータ。
【請求項2】
前記基準化合物が、Tetra-BDE、Penta-BDE、Deca-BDE、及びDeca-BBである、請求項1に記載のデータ。
【請求項3】
Tetra-BDEを基準化合物としてMono-BDE、Di-BDE、Tri-BDE、Mono-BB、Di-BB、Tri-BB、及びTetra-BBの相対応答係数が対応付けられており、
Penta-BDEを基準化合物としてHexa-BDE、Hepta-BDE、Penta-BB、Hexa-BB、及びHepta-BBの相対応答係数が対応付けられており、
Deca-BDEを基準化合物としてOcta-BDE及びNona-BDEの相対応答係数が対応付けられており、
Deca-BBを基準化合物としてOcta-BB及びNona-BBの相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有する、請求項2に記載のデータ。
【請求項4】
複数の異なる前記所定の条件のそれぞれに前記相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有する、請求項1に記載のデータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭素系難燃化合物を定量する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
臭素系難燃化合物であるポリ臭化ビフェニル群(polybrominated biphenyls, PBBs, 分子式C12H(10-n)Brn(1≦n≦10))やポリ臭化ジフェニルエーテル群(polybrominated diphenyl ethers, PBDEs, 分子式C12H(10-m)BrmO(1≦m≦10))はRoHS指令における規制化合物に指定されており、欧州に輸出される電機電子機器製品の各部品に許容される10種類のPBBs及びPBDEsの総含有量がそれぞれ1000 mg/kg以下に定められている。
【0003】
従来、PBBsやPBDEsの含有量の測定は次のようにして行われている。予め、上記nが1(Mono)~10(Deca)である10種類のPBBsや上記mが1(Mono)~10(Deca)である10種類のPBDEsをそれぞれ既知の濃度で含む標準試料をガスクロマトグラフィ/質量分析法(GC/MS)で測定して各化合物の保持時間とピーク強度を取得し、化合物毎に検量線を作成しておく。その後、実試料については、溶媒抽出や熱抽出などの前処理により試料から抽出したPBBとPBDEをGC/MSで測定してクロマトグラムを作成して保持時間に基づいて各化合物のピークを特定し、各化合物のピーク強度を当該化合物の検量線に照らして含有量を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/129129公報
【特許文献2】国際公開第2020/152800公報
【特許文献3】国際公開第2020/161849公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yukihiko Kudo, et al., "Development of a screening method for phthalate esters in polymers using a quantitative database in combination with pyrolyzer/thermal desorption gas chromatography mass spectrometry", Journal of Chromatography A, Volume 1602, 27 September 2019, Pages 441-449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、上記の測定では分析日毎に10種類のPBBsと10種類のPBDEsのそれぞれの検量線を作成しなおす必要があり、手間がかかる。また、これらをすべて含む混合標準溶液は高額で入手が難しい場合がある。さらに、分析対象試料が多い場合には質量分析装置を複数使用することがある。その場合、上記測定により10種類のPBBsと10種類のPBDEsのそれぞれの検量線を作成する作業を質量分析装置毎に行わなければならず、手間と時間がかかる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、10種のPBBs及び10種のPBDEsを含む混合溶液を用いた検量線の作成が難しい場合や、同種の分析装置を複数使用して試料を分析する場合に、臭素系難燃化合物を簡便に定量することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る臭素系難燃化合物の定量装置は、
ポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群のうちの一部又は全部である複数の対象化合物のうちの1つである基準化合物を所定の分析手法及び所定の条件で測定したときの単位量当たりの強度に対する、該基準化合物以外の対象化合物である参照化合物を前記所定の条件で測定したときの単位量当たりの強度の関係を表す相対応答係数が保存された記憶部と、
前記所定の分析手法で試料を測定する分析装置と、
前記基準化合物を既知量含む標準試料を、前記分析装置を用いて前記所定の条件で測定することにより該基準化合物の強度を取得する標準試料測定部と、
分析対象試料を、前記分析装置を用いて前記所定の条件で測定することにより該分析対象試料に含まれる前記基準化合物及び前記参照化合物の強度を取得する分析対象試料測定部と、
前記標準試料に含まれる前記基準化合物の量、前記標準試料測定部により取得された該基準化合物の強度、及び前記分析対象試料測定部により取得された該基準化合物の強度に基づいて、前記分析対象試料に含まれる前記基準化合物の定量値を求める基準化合物定量部と、
前記標準試料に含まれる前記基準化合物の量、前記標準試料測定部により取得された該基準化合物の強度、前記分析対象試料測定部により取得された前記参照化合物の強度、及び該参照化合物の相対応答係数に基づいて、該参照化合物の定量値を求める参照化合物定量部と
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ポリ臭化ビフェニル群及びポリ臭化ジフェニルエーテル群のうちの一部又は全部である複数の対象化合物の中から基準化合物を決め、その基準化合物の単位量当たりの測定強度に対する参照化合物(基準化合物以外の対象化合物)の単位量当たりの測定強度の関係を表す相対応答係数を求めて記憶部に保存しておく。分析対象試料を測定する際には、基準化合物についてのみ標準試料を用いた測定により作成した検量線を用いて定量値を求め、参照化合物の測定強度と相対応答係数、及び標準試料を測定して得られた基準化合物の測定強度と標準試料に含まれる基準化合物の量から参照化合物の定量値を求める。本発明では、基準化合物に対する対象化合物の相対応答係数を予め求めておき、それ以降は基準化合物についてのみ分析装置毎に検量線を作成するため、全てのPBBs、PBDEsの混合溶液を用いた検量線の作成が難しい場合や同種の分析装置を複数使用する場合に臭素系難燃化合物を簡便に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明において相対応答係数データベースを作成するために用いられるガスクロマトグラフ質量分析装置の一実施例の要部構成図。
図2】本実施例において用いられる測定条件の例。
図3】本実施例において相対応答係数データベースを作成する手順を示すフローチャート。
図4】本実施例における相対応答係数マトリクスの一例。
図5】本実施例における相対応答係数テーブルの一例。
図6】本実施例における基準化合物と参照化合物の対応関係と相対応答係数の変動係数を示す一例。
図7】本発明に係る臭素系難燃化合物の定量装置の一実施例の要部構成図。
図8】本実施例において相対応答係数データベースを用いて分析対象試料に含まれる化合物を定量する手順を示すフローチャート。
図9】本実施例において取得されるトータルイオンカレントクロマトグラム及びマスクロマトグラムの一例。
図10】本実施例における各化合物の定量結果及び回収率。
図11】本実施例において用いられる測定条件の別の例。
図12】本実施例における相対応答係数テーブルの別の一例。
図13】本実施例における基準化合物と参照化合物の対応関係と相対応答係数の変動係数を示す別の一例。
図14】本実施例の測定対象化合物にTBBPAとHBCDDを含めたときの基準化合物との対応関係及び相対応答係数を示す一例。
図15】本実施例の測定対象化合物にTBBPAとHBCDDを含めたときの基準化合物との対応関係及び相対応答係数を示す別の一例。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る臭素系難燃化合物の定量装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。本実施例はパイロライザー-ガスクロマトグラフ質量分析装置(Py-GC-MS)を用いてポリ臭化ビフェニル群(polybrominated biphenyls, PBBs, 分子式C12H(10-n)Brn(1≦n≦10))とポリ臭化ジフェニルエーテル群(polybrominated diphenyl ethers, PBDEs, 分子式C12H(10-m)BrmO(1≦m≦10))を定量することにより分析対象試料をスクリーニングするものである。本実施例における分析対象試料は、RoHS指令の対象となっている樹脂製品などである。
【0012】
1.相対応答係数データベースを作成するPy-GC-MSの構成
図1に、本実施例においてPBBs及びPBDEsを定量する際に使用する、相対応答係数データベースを作成するために用いるPy-GC-MS1(第1分析装置)の要部構成を示す。
【0013】
Py-GC-MS1は、大別して、ガスクロマトグラフ部10、質量分析部20、及び制御・処理部30で構成される。ガスクロマトグラフ部10は、試料気化室11と該試料気化室11内に設けられたパイロライザー12と、試料気化室に接続されたキャリアガス流路13と、試料気化室11の出口に接続されたカラム14を備えている。カラム14はカラムオーブン15の内部に収容されている。パイロライザー12とカラムオーブン15内のカラム14はそれぞれ、図示しない加熱機構により所定の温度に加熱される。
【0014】
本実施例では、カラム14として、PBBs及びPBDEsを一斉分析することが可能なものを用いる。例えば、PBBs及びPBDEsが極性の大きい化合物であることを考慮し、液相が無極性の物質であり、液相の膜厚が1.0μm以下であるカラムを用いることが望ましいが、これのみに限らない。カラムの長さについては、選択した液相の種類や膜厚に応じて適宜に決めればよい。本実施例のカラム14としては、例えばUA-PBDE(液相:100% Dimethyl polysiloxane、長さ:15m、内径:0.25mm、膜厚:0.05μm、フロンティア・ラボ社製)や、SH-1MSガードカラム付き(液相:100% Dimethyl polysiloxane、長さ:17m、内径:0.25mm、膜厚:1.0μm、島津製作所製)を好適に用いることができる。
【0015】
質量分析部20は、真空チャンバ21内に、電子イオン化源22、イオンレンズ23、四重極マスフィルタ24、及びイオン検出器25を備えている。電子イオン化源22にはカラム14の内部で時間的に分離された試料成分が順次導入され、図示しないフィラメントから放出される熱電子の照射によってイオン化される。
【0016】
制御・処理部30は、記憶部31を有している。記憶部31には、PBBs及びPBDEsを測定する際に用いるメソッドファイルが保存されている。メソッドファイルは、PBBs及びPBDEsの測定条件を記載したファイルである。PBBs及びPBDEsの測定条件には、パイロライザー12の温度、カラム14の温度、キャリアガスの種類と流量、PBBs及びPBDEsのそれぞれを特徴づける2種類のイオン(定量イオンと確認イオン)などの情報が含まれている。図2に測定条件の一例を示す。図2では各化合物に対して2種類のイオンのみを示しているが、定量イオンと確認イオンのいずれかの質量電荷比が、分析対象試料に含まれる夾雑物から生成されるイオンの質量電荷比に近く、当該質量電荷比のイオンを使用することができない場合に備え、各化合物について1乃至複数の予備イオンの質量電荷比の情報も保存されている。
【0017】
制御・処理部30は、機能ブロックとして、標準試料測定部32、保持指標算出部33、相対応答係数算出部34、及びデータベース作成部35を備えている。制御・処理部30の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされているデータベース作成装置用プログラムをプロセッサで実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。また、制御・処理部30には、使用者が入力操作を行うための入力部36と、種々の情報を表示するための表示部37が接続されている。
【0018】
2.相対応答係数データベースの作成手順
次に、図3のフローチャートを参照して相対応答係数データベースを作成する手順を説明する。
【0019】
まず、対象化合物であるPBBs及びPBDEsをそれぞれ既知量、樹脂溶液に混合して標準試料(第1標準試料)を作製する。後記する相対応答係数の算出を容易にするためにはPBBsとPBDEsの含有量が同一であることが好ましいが、必ずしも同一でなくてもよい。本実施例では樹脂溶液を基にした標準試料を作成しているが、これは、上述のとおり本実施例がRoHS指令の対象である樹脂製品をスクリーニングすることを目的としているためであり、標準試料の形態は、分析対象試料の形状や特性に応じて適宜に決めればよい。
【0020】
使用者が標準試料をパイロライザー12に導入して測定開始を指示すると、標準試料測定部32は、記憶部31に保存されているメソッドファイルを読み出し、メソッドファイルに記載された測定条件に基づいて標準試料(第1標準試料)を測定する(ステップ1)。まず、パイロライザー12を加熱して標準試料に含まれるPBBs及びPBDEsを気化させ、キャリアガス流に乗せてカラム14に導入する。PBBs及びPBDEsはカラム14の内部で液相との相互作用の大きさに応じて時間的に分離されて流出する。カラム14から流出した各化合物は順に電子イオン化源22に導入される。
【0021】
電子イオン化源22で生成されたイオンは、イオンレンズ23で飛行方向の中心軸(イオン光軸C)の近傍に収束されたあと、四重極マスフィルタ24に入射し、質量電荷比に応じて分離されイオン検出器25で検出される。イオン検出器25からの出力信号は順次、記憶部31に送信され保存される。
【0022】
標準試料の測定中、質量分析部20ではスキャン測定と選択イオンモニタリング(SIM)測定が繰り返し実行される。具体的には、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を所定の範囲(例えばm/zが50~1000の範囲)で走査するスキャン測定と、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を、各化合物の定量イオン又は確認イオンの質量電荷比に所定時間固定する、40種類のSIM測定とを1セットとし、これを繰り返し行う。なお、スキャン測定は必須ではなく、SIM測定のみを繰り返し行ってもよい。
【0023】
また、標準試料の測定とは別に、n-アルカン試料も測定する。n-アルカン試料とは、炭化水素鎖の長さが互いに異なる複数の化合物を含む標準試料であり、各化合物の保持時間を基準とする保持指標を得るために用いられる。非特許文献1に記載されているように、化合物xの保持指標Ixは次式(1)で表される。
Ix=100(Cn+i-Cn){(tx-tn)/(tn+i-tn)}+100Cn …(1)
ここで、Cn, Cn+iはそれぞれ当該化合物の保持時間を挟んで保持時間が前後に位置するn-アルカンの炭素数、txは化合物xの保持時間、tn, tn+iは当該化合物の保持時間を挟んで保持時間が前後に位置するn-アルカンの保持時間である。
【0024】
標準試料の測定後、標準試料測定部32は、スキャン測定データに基づいてトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)を作成し、またSIM測定データに基づいてマスクロマトグラムを作成する。これらのクロマトグラムが作成されると、保持指標算出部33は、化合物毎に保持時間と測定強度を求める(ステップ2)。化合物の保持時間は、当該化合物について設定されている定量イオンのマスクロマトグラムと確認イオンのマスクロマトグラムの同じ保持時間に現れるピークのピークトップの位置に基づいて決定する。各化合物の保持時間が決まると、n-アルカン試料に含まれる各化合物の保持時間を基準として各化合物の保持指標を求める(ステップ3)。
【0025】
続いて、相対応答係数算出部34は、PBBsとPBDEs(合計20種類の化合物)間の測定強度の関係を表す相対応答係数(Relative Response Factor: RRF)を求める(ステップ4)。特許文献1~3及び非特許文献1に記載されているとおり、基準化合物xに対する参照化合物aの相対応答係数RRFa/xは次式(2)で表される。
RRFa/x=RFa/RFx …(2)
ここで、RFaとRFxはそれぞれ、参照化合物aと基準化合物xの応答係数である。
【0026】
参照化合物aの応答係数RFaは、次式(3)で表される。なお、以降の数式は参照化合物aだけでなく基準化合物xについても同様である。
RFa=Aa/ma …(3)
ここで、Aaとmaはそれぞれ、マスクロマトグラムにおける参照化合物aのピーク面積と重量(mg)である。また、参照化合物aの重量maは次式(4)で表される。
ma=M×Ca …(4)
ここで、MとCaはそれぞれ、標準試料の重量(kg)と、標準試料に含まれる参照化合物aの濃度(mg/kg)である。上式(3)から分かるように、PBBsとPBDEsの含有量が同一である標準試料を用いると、各化合物のピーク面積の比そのものをRRFa/xとすることができ、相対応答係数の算出が容易になる。
【0027】
相対応答係数算出部34は、20種類の化合物のそれぞれを基準化合物xとし、それ以外の化合物を参照化合物aとしたときの相対応答係数を求める。これにより、図4に示すように、20種類の化合物の全ての組み合わせに対応する相対応答係数(相対応答係数マトリクス)が作成される。
【0028】
保持指標算出部33及び相対応答係数算出部34による上記の処理が完了すると、データベース作成部35は、各化合物の保持指標と上記の相対応答係数を、測定に使用したメソッドファイルと対応付け、相対応答係数データベースとして記憶部31に保存する(ステップ5)。
【0029】
また、上記Py-GC-MS1とは別の同種の分析装置(Py-GC-MS)においても上記同様の測定及び処理を行って20種類の化合物の全ての組み合わせに対応する相対応答係数を求め、各装置で得られた相対応答係数データベースを作成し、それを制御・処理部30で読み込む。データベース作成部35は、他の分析装置で得られた相対応答係数のデータベースが読み込まれると、分析装置間での相対応答係数のばらつきが小さくなるような基準化合物と参照化合物の組み合わせを抽出して表示部37の画面に表示する。相対応答係数のばらつきは、例えば各分析装置を用いた測定から得られた相対応答係数の%RSD値により評価することができる。%RSDは変動係数と呼ばれるものであり、標準偏差を算術平均で割った値を百分率で表したものである。変動係数により相対応答係数の値のばらつきを評価する場合には、各相対応答係数に関する変動係数が20以下である基準化合物と参照化合物の組み合わせを選択することが好ましい。これは、変動係数が20を超えると装置間でのばらつきが大きく、定量値の誤差が大きくなりスクリーニングの精度が悪くなる可能性があるためである。
【0030】
使用者は、表示部37に表示された組み合わせを参照し、基準化合物と、当該基準化合物に対応付ける参照化合物を選択する。全ての化合物が基準化合物又は参照化合物として選択されると、データベース作成部35はその結果を記憶部31に保存する。図5に、記憶部31に保存される相対応答係数の例を示す。本実施例では、Tetra-BDE, Penta-BDE, Deca-BDE, Deca-BBを基準化合物として選定している。図5等における絶対検量という記載は、当該化合物が基準化合物であり、後記する分析対象試料の測定において当該化合物の量が検量線を用いて算出されることを意味する。また、図6に、4台のPy-GC-MS1のそれぞれを用いて3回ずつ上記処理を行って相対応答係数を取得し、それぞれの相対応答係数の%RSDを算出した結果を示す。こうして作成された相対応答係数のデータは、後記のPy-GC-MS100において使用するために、適宜の記録媒体(CD-ROM、USBメモリ等)に保存される。
【0031】
本実施例では、装置間での相対応答係数のばらつきが小さいことに加え、後記する分析対象試料の測定時に使用する、当該化合物を既知量含む標準試料の入手の容易さも考慮して基準化合物を決めている。PBBs及びPBDEsを含む標準試料として、例えば認証標準物質ERM-EC591が広く用いられている。認証標準物質ERM-EC591には、Tri-BDE, Tetra-BDE, Penta-BDE, Hexa-BDE, Hepta-BDE, Octa-BDE, Deca-BDE, Deca-BBが含まれている。これらの中でも、Tetra-BDE、Penta-BDE、Deca-BDE, Deca-BBが多く含まれている(245~780mg/kg)。RoHS指令では、PBBsやPBDEsの総含有量が1000ppm(1000mg/kg)を超えないことが基準とされていることから、それに近い濃度で標準物質に含まれている化合物を基準化合物とすることが好ましい。これにより、濃度差による測定感度の相違等に起因する相対応答係数の誤差をより小さく抑えることができる。
【0032】
3.分析対象試料を測定するPy-GC-MSの構成
図7は、本実施例において分析対象試料をスクリーニングする際に使用するPy-GC-MS100(第2分析装置)の要部構成図である。ガスクロマトグラフ部10及び質量分析部20の構成は図1と同じであるため、以下、制御・処理部40の構成のみを説明する。なお、ガスクロマトグラフ部10及び質量分析部20については、相対応答係数データベースの作成に使用する分析装置と同種のもの(ここではガスクロマトグラフ質量分析装置)であればよく、必ずしも完全に同じ構成を有する必要はない。例えば質量分析部20におけるマスフィルタは別の種類のもの(例えば、イオントラップや飛行時間型質量分離部)であってもよい。
【0033】
制御・処理部40は、記憶部41を備えている。記憶部41には、図1及び図3を参照して説明した上記の装置で作成され記録媒体に保存された、相対応答係数データベース411(図4の相対応答係数マトリクス及び図5の相対応答係数テーブル)が読み込まれ、測定条件(図2)と対応付けられて保存されている。制御・処理部40は、また、機能ブロックとして、基準化合物決定部42、標準試料測定部43、相対応答係数評価部44、分析対象試料測定部45、基準化合物定量部46、参照化合物定量部47、スクリーニング部48、及びデータベース更新部49を備えている。制御・処理部40の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされた分析試料測定用プログラムをプロセッサで実行することにより上記の各機能ブロックが具現化される。また、制御・処理部40には、使用者が入力操作を行うための入力部50と、種々の情報を表示するための表示部51が接続されている。
【0034】
4.分析対象試料のスクリーニング手順
次に、図8を参照して、分析対象試料をスクリーニングする手順を説明する。
【0035】
使用者が分析対象試料のスクリーニングを指示すると、基準化合物決定部42は、記憶部41から相対応答係数データベース411を読み出し、そこに記載されている相対応答係数テーブル(図5)を表示部51に表示する。使用者はこれを確認し、必要に応じて基準化合物と参照化合物の対応関係を変更する。例えば、相対応答係数テーブルにおいて選定されている基準化合物を含む標準試料を入手することが困難な場合には、当該化合物を基準化合物から削除したり、別の化合物を基準化合物として設定したりすることができる。使用者により基準化合物と参照化合物の対応関係が変更されると、基準化合物決定部42は、相対応答係数マトリクス(図4)を参照して変更後の基準化合物に対応した相対応答係数テーブルに変更する。使用者が基準化合物の選定を終えると、基準化合物が決定される(ステップ11)。本実施例では基準化合物を変更せず、Tetra-BDE, Penta-BDE, Deca-BDE, Deca-BBをそのまま基準化合物として決定する。
【0036】
次に、相対応答係数データベースに対応付けられているメソッドファイルに記載された測定条件(基準化合物の測定に関連するもの)を用いて、基準化合物(Tetra-BDE, Penta-BDE, Deca-BDE, Deca-BB)をそれぞれ既知量含む標準試料(第2標準試料)を測定する(ステップ12)。標準試料としては、上記認証標準物質ERM-EC591を好適に用いることができる。
【0037】
基準化合物の測定を完了すると、基準化合物のそれぞれに対応する検量線を作成する(ステップ13)。ここでは、1つの標準試料のみを測定して1点検量線を作成する。基準化合物の量と測定強度が非線形な関係にある場合には、基準化合物の含有量が異なる複数の標準試料を測定し、2点以上の測定点に基づく検量線を作成してもよい。
【0038】
また、相対応答係数評価部44は、上記4つの基準化合物のうちの1つを基準化合物(例えばTetra-BDE)、それ以外の1つ(例えばPenta-BDE)を参照化合物として相対応答係数テーブルから相対応答係数を求める。また、標準試料の測定により得られたクロマトグラムのマスピークの面積を算出し、これと相対応答係数を用いて定量値を算出する。そして、算出された定量値と、実際に標準試料に含まれている基準化合物の量を比較し、両者の一致度が所定の範囲内であるかを確認する。所定の範囲内とは、例えば実際の含有量±30%であり、算出した定量値がその範囲内であれば、相対応答係数が妥当であると判定する(ステップ14)。一方、算出した定量値がその範囲外である場合には、処理を中断し、基準化合物の再選定、相対応答係数データベースの再作成あるいは別の相対応答係数データベースが記憶部41に保存されている場合にはその使用を使用者に促す。
【0039】
基準化合物の検量線を作成後、使用者が分析対象試料をセットし、測定開始を指示すると、分析対象試料測定部45は、相対応答係数データベース411に対応付けられているメソッドファイルに記載された測定条件を用いて分析対象試料を測定する(ステップ15)。また、標準試料の測定とは別に、n-アルカン試料も測定する。分析対象試料の測定においてもスキャン測定は必須でなく、SIM測定のみを行ってもよい。しかし、スキャン測定を行っておくことにより、トータルイオンカレントクロマトグラムの作成後に測定対象化合物以外に大きなピークが見つかった場合に、当該ピークの保持時間に得られたマススペクトルを解析することで、当該ピークに対応する化合物を同定することができる。
【0040】
分析対象試料の測定を完了すると、基準化合物定量部46は、基準化合物のそれぞれの保持指標、または保持指標とn-アルカンの測定データを基に算出した予測保持時間に基づいて定量イオンと確認イオンのマスクロマトグラムのピークを決定する。そして、定量イオンのピーク面積を当該基準化合物の検量線に照らして定量値を求める(ステップ16)。
【0041】
基準化合物の定量値が得られると、参照化合物定量部47は、参照化合物のそれぞれの保持指標、または保持指標とn-アルカンの測定データを基に算出した予測保持時間に基づいて定量イオンと確認イオンのマスクロマトグラムのピークを決定する。そして、標準試料に含まれる基準化合物の量、標準試料を測定して検出された基準化合物の定量イオンのピーク面積、参照化合物の定量イオンのピーク面積及び相対応答係数に基づいて各参照化合物の定量値を求める(ステップ17)。
【0042】
基準化合物と参照化合物について定量値が得られると、スクリーニング部48は、それらの定量値を予め決められた閾値と比較して分析対象試料をスクリーニングする。本実施例では、RoHS指令における基準(PBBs及びPBDEsの総量が1000ppm以下である)に基づき、分析対象試料に含まれるPBBs及びPBDEsの定量値の合計が基準値の±70%の範囲内であるか否かをスクリーニング判定する(ステップ18)。具体的には、分析対象試料に含まれるPBBs及びPBDEsの定量値の合計が300ppm以下である場合には、分析対象試料がRoHS指令の基準を満たしていると判定する。また、PBBs及びPBDEsの総量が1700ppnを超える場合には、分析対象試料がRoHS指令の基準を満たさないと判定する。そして、PBBs及びPBDEsの総量が300ppmから1700ppmの範囲内である場合には判定保留とし、当該分析対象試料を別の手法で詳細に分析してより厳密に定量値を算出する。
【0043】
上記実施例により実際の試料を測定した結果を図9及び図10に示す。この測定では、樹脂量0.5mgとなるように試料カップにポリスチレン溶液を添加し、さらに樹脂中の各化合物の濃度が500mg/kg(但し、Deca-BDEのみ1000mg/kg)となるようにPBBs及びPBDEsの混合溶液を試料カップに添加して分析対象試料を作成した。
【0044】
図9は、上記分析対象試料について得られたトータルイオンカレントクロマトグラム及び各化合物のマスクロマトグラムである。図10は、上記実施例で説明した手順で各化合物の定量値を求め、それぞれの回収率を算出した結果である。
【0045】
図10の表における濃度値は、上記分析対象試料に含まれるPBBs及びPBDEsの実際の含有量であり、その下に示す各値は上記実施例の方法で求めた定量値である。また、同表に記載の回収率は、実際の含有量に対する定量値の割合を示す値であり、測定誤差に相当する。この測定結果では、各化合物の回収率は92~124%の範囲内であり、またPBBsの総量、PBDEsの総量に関する回収率はそれぞれ105%、109%であった。これらの数値、特にPBBsの総量やPBDEsの総量に関する回収率は、RoHS指令に関する分析対象試料のスクリーニングに十分な精度を有している。
【0046】
本実施例のPy-GC-MS100では、他の分析装置を用いて作成され記憶部41に保存された相対応答係数データベース411を用いてスクリーニング判定するだけでなく、Py-GC-MS100自体を用いて相対応答係数データベース411を作成することができる。新たに相対応答係数データベース411を作成する場合には、Py-GC-MS1について説明したデータベース作成用プログラムを実行して各機能ブロックを具現化すればよい。また、別の分析装置で作成された相対応答係数データベースのデータファイルを読み込むと、データベース更新部49により、記憶部41に新たな相対応答係数データベースが保存される。
【0047】
また、分析対象試料によっては、相対応答係数データベースの作成時には想定されない夾雑化合物が含まれている場合がある。夾雑化合物の中に、各化合物について設定された定量イオンや確認イオンに近い質量電荷比のイオンを生じるものが含まれていると、その夾雑化合物が同時に測定されてしまうため、各化合物の正しい測定強度が得られない。こうした場合には、夾雑化合物由来のイオンと異なる質量電荷比を有するイオンを定量イオン又は確認イオンとして設定しなおす必要がある。
【0048】
使用者が定量イオンや確認イオンの設定の変更を指示すると、データベース更新部49は、記憶部41に保存されている相対応答係数データベース411を読み出し、測定条件を表示部51の画面に表示する。使用者が表示された測定条件の中から変更すべき化合物の定量イオン又は確認イオンを選択すると、データベース更新部49は、新たに定量イオン又は確認イオンとして設定するイオンの質量電荷比と、変更前の定量イオン又は確認イオンの測定強度に対する、変更後のイオンの測定強度の比を入力する欄を表示する。使用者がこれらを入力すると、定量イオン又は確認イオンの質量電荷比が更新される。また、当該化合物の相対応答係数が、元の値に上記の比を乗じた値に更新される。さらに、変更後のイオンを定量イオン又は確認イオンとして測定するようにメソッドファイルが更新される。
【0049】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記実施例ではPy-GC-MS1を用いて相対応答係数データベースを作成する際の測定条件とPy-GC-MS100を用いて分析対象試料をスクリーニング判定する際の測定条件を同一としたが、必ずしも完全に同じである必要はない。ただし、化合物間の測定強度の相対的な関係に影響を及ぼすような測定パラメータは共通である必要がある。そのようなパラメータとして、例えば、パイロライザー12による試料の加熱に係る測定パラメータ、カラム14の極性、カラムオーブン15によるカラム14の加熱温度、イオン化方法及びイオン化条件(電子イオンのエネルギー等)が挙げられる。つまり、本発明における所定の条件には、これらの測定パラメータに関するものが含まれる。
【0050】
図11~13に、上記実施例のPy-GC-MS1を用い、測定条件を変えて相対応答係数データベースを作成した例を示す。この例は、パイロライザーによる化合物の抽出時間を短縮するよう最適化したものである(図11)。図2図11に示す測定条件では、パイロライザー12による試料の加熱に係る測定パラメータが異なる。図2では、パイロライザー12の温度を徐々に上昇させ340℃で1分間保持したが、図11では、測定開始時からパイロライザーを340℃に加熱して3分間保持する。図12に、この測定条件で求められた各化合物の相対応答係数を示す。また、図13には、各相対応答係数の%RSD値を示す。このように、化合物間の測定強度の相対的な関係に影響を及ぼすような測定パラメータが異なる複数の測定条件に対応した相対応答係数データベースを複数、記憶部41に保存しておくことにより、分析対象試料に適した測定条件でスクリーニング判定を行うことができる。
【0051】
上記実施例ではPBBs及びPBDEsを測定の対象化合物としたが、これら以外の化合物の測定にも上記同様の構成を用いることができる。例えば、上記実施例において基準化合物として選定したTetra-BDE, Penta-BDE, Deca-BDE, Deca-BBのいずれかと構造や特性が類似した化合物についても上記同様に相対応答係数を予め求めておくことで、分析対象試料に含まれる当該化合物を定量したりスクリーニングしたりすることができる。上記実施例のようにPy-GC-MSを用いた測定を行う場合、そのような化合物として、例えば、フタル酸エステル類、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDD)を挙げることができる。これらの化合物も各種化学物質規制の対象となっており、これらを含んだ相対応答係数データベースを用意しておくことで、各種化学物質規制に対応した分析対象試料のスクリーニング判定を効率よく行うことができる。図14に、図2に示した測定条件を用いたときのHBCDD及びTBBPAの、基準化合物との対応関係、相対応答係数を示す。また、図15に、図11に示した測定条件を用いたときの基準化合物との対応関係、相対応答係数を示す。
【0052】
また、測定手法は上記のGC/MSに限定されず、測定の対象化合物を個別に測定可能なものである限りにおいて種々の測定手法を用いることができる。例えばクロマトグラフ装置のみを用いたクロマトグラフィ(ガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ等であって、分光測定等により各化合物を検出するものなど)を行い、カラム内で分離した各化合物をそれぞれ測定する構成を採ることができる。また、質量分析装置のみを用い、各化合物に特徴的な質量電荷比のイオンを個別に測定する構成を採ることもできる。
【0053】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0054】
(第1項)
本発明の一態様に係る臭素系難燃化合物の定量装置は、
ポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群のうちの一部又は全部である複数の対象化合物のうちの1つである基準化合物を所定の分析手法及び所定の条件で測定したときの単位量当たりの強度に対する、該基準化合物以外の対象化合物である参照化合物を前記所定の条件で測定したときの単位量当たりの強度の関係を表す相対応答係数が保存された記憶部と、
前記所定の分析手法で試料を測定する分析装置と、
前記基準化合物を既知量含む標準試料を、前記分析装置を用いて前記所定の条件で測定することにより該基準化合物の強度を取得する標準試料測定部と、
分析対象試料を、前記分析装置を用いて前記所定の条件で測定することにより該分析対象試料に含まれる前記基準化合物及び前記参照化合物の強度を取得する分析対象試料測定部と、
前記標準試料に含まれる前記基準化合物の量、前記標準試料測定部により取得された該基準化合物の強度、及び前記分析対象試料測定部により取得された該基準化合物の強度に基づいて、前記分析対象試料に含まれる前記基準化合物の定量値を求める基準化合物定量部と、
前記標準試料に含まれる前記基準化合物の量、前記標準試料測定部により取得された該基準化合物の強度、前記分析対象試料測定部により取得された前記参照化合物の強度、及び該参照化合物の相対応答係数に基づいて、該参照化合物の定量値を求める参照化合物定量部と
を備える。
【0055】
第1項の臭素系難燃化合物の定量装置は、分析対象試料に含まれるポリ臭化ビフェニル群(PBBs)及びポリ臭化ジフェニルエーテル群(PBDEs)のうちの一部又は全部である複数の対象化合物を定量するために用いられる。分析対象試料の測定に先立ち、PBBs及びPBDEsの中から1乃至複数の基準化合物を決め、該基準化合物及び各参照化合物を既知の濃度で含む第1標準試料を分析装置(第1分析装置)で測定する。そして、基準化合物の単位量当たりの測定強度(第1強度)に対する、各参照化合物の単位量当たりの測定強度(第1強度)の関係を表す相対応答係数を求めておく。
【0056】
分析対象試料を測定する際には、まず、分析対象試料を測定しようとする分析装置(第2分析装置)を用いて、基準化合物を既知の濃度で含む標準試料(第2標準試料)を測定し、検量線を作成する。この標準試料としては、例えば臭素系難燃化合物の定量に広く用いられている、市販の認証標準物質であるERM-EC591を用いることができる。標準試料としてERM-EC591を用いる場合には、これに含有されているPBBsやPBDEsの中から基準化合物を選定する。分析対象試料の測定後は、検量線を用いて基準化合物の定量値を求め、続いて標準試料に含まれる基準化合物の量、標準試料を測定して得られた基準化合物の測定強度(第2強度)、分析対象試料を測定して得られた参照化合物の測定強度(第3強度)と相対応答係数に基づいて各参照化合物の定量値を求める。このように、第1項の臭素系難燃化合物の定量装置では、基準化合物に対する参照化合物の相対応答係数を予め求めておき、それ以降は基準化合物についてのみ分析装置(第2分析装置)毎に検量線を作成するため、全種類のPBBs、PBDEsの混合溶液を入手して検量線を作成することが難しい場合や同種の分析装置を複数使用する場合に臭素系難燃化合物を簡便に定量することができる。
【0057】
(第2項)
第1項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記基準化合物が、Tetra-BDE、Penta-BDE、Deca-BDE、Deca-BBである。
【0058】
(第3項)
第1項又は第2項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
Tetra-BDEを基準化合物としてMono-BDE、Di-BDE、Tri-BDE、Mono-BB、Di-BB、Tri-BB、及びTetra-BBの相対応答係数が保存されており、
Penta-BDEを基準化合物としてHexa-BDE、Hepta-BDE、Penta-BB、Hexa-BB、及びHepta-BBの相対応答係数が保存されており、
Deca-BDEを基準化合物としてOcta-BDE及びNona-BDEの相対応答係数が保存されており、
Deca-BBを基準化合物としてOcta-BB及びNona-BBの相対応答係数が保存されている。
【0059】
(第12項)
本発明の別の一態様は、クロマトグラフ質量分析によりポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群である対象化合物を定量するために用いられるデータが記録された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体であって、
基準化合物であるTetra-BDE、Penta-BDE、Deca-BDE、Deca-BBを所定の条件でクロマトグラフ質量分析したときの単位量当たりの強度に対して、該基準化合物以外の対象化合物である参照化合物を前記所定の条件で測定したときの単位量当たりの強度の情報である相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有するデータが記録されたものである。
【0060】
(第13項)
第12項に記載のコンピュータで読み取り可能な記録媒体において、
Tetra-BDEに対してMono-BDE、Di-BDE、Tri-BDE、Mono-BB、Di-BB、Tri-BB、及びTetra-BBの相対応答係数が対応付けられており、
Penta-BDEに対してHexa-BDE、Hepta-BDE、Penta-BB、Hexa-BB、及びHepta-BBの相対応答係数が対応付けられており、
Deca-BDEに対してOcta-BDE及びNona-BDEの相対応答係数が対応付けられており、
Deca-BBに対してOcta-BB及びNona-BBの相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有するデータが記録されている。
【0061】
市販されている認証標準物質ERM-EC591には、Tetra-BDE、Penta-BDE、Deca-BDE, Deca-BBが多く含まれている(245~780mg/kg)。RoHS指令では、PBBsやPBDEsの総含有量が1000ppm(1000mg/kg)を超えないことが基準とされており、第2項及び第3項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置並びに第11項及び第12項に記載のコンピュータで読み取り可能な記録媒体では、1000ppm(1000mg/kg)に近い濃度で標準物質に含まれている化合物を基準化合物とするため、濃度差による測定感度の相違等に起因する相対応答係数の誤差をより小さく抑えることができる。
【0062】
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
複数の異なる前記所定の条件のそれぞれについて、
前記基準化合物の単位量当たりの強度に対する、前記参照化合物の単位量当たりの強度の関係を表す相対応答係数が保存されている。
【0063】
(第14項)
第12項又は第13項に記載のコンピュータで読み取り可能な記録媒体において、
複数の異なる前記所定の条件のそれぞれについて、
前記基準化合物に対して、前記参照化合物の単位量当たりの強度の関係を表す相対応答係数が対応付けられたデータ構造を有するデータが記録されている。
【0064】
第4項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置及び第14項に記載のコンピュータで読み取り可能な記録媒体では、化合物間の測定強度の相対的な関係に影響を及ぼすような測定パラメータが異なる複数の測定条件の中から分析対象試料に適したものを選択し、それに対応する相対応答係数を用いることができる。
【0065】
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記所定の条件が、クロマトグラフ分析及び/又は質量分析を行うことである。
【0066】
第5項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、クロマトグラフ分析の場合、カラムの内部で分離することにより基準化合物及び参照化合物の測定強度を個別に取得することができる。また、質量分析の場合、それぞれに特徴的である異なる質量電荷比のイオンを検出することにより、基準化合物及び参照化合物の測定強度を個別に取得することができる。
【0067】
(第6項)
第1項から第5項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記所定の条件に、無極性カラムを用いてクロマトグラフ分析を行うことを含む。
【0068】
第6項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、無極性カラムを用いることにより、ポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群を一斉分析することができる。
【0069】
(第7項)
第1項から第6項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記所定の条件に、質量分析を行うことを含み、
前記相対応答係数が、基準化合物の質量電荷比と参照化合物の質量電荷比の複数の組み合わせのそれぞれに対応付けられており、
前記分析対象試料測定部は、前記複数の組み合わせのいずれかを選択する入力を受け付けて該入力された組み合わせを用いた質量分析を行う。
【0070】
第7項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、基準化合物と参照化合物のそれぞれに特徴的な質量電荷比のイオンを測定することによりこれらの化合物の測定強度を取得することができる。
【0071】
(第8項)
第1項から第7項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記対象化合物に、さらに、ポリ臭化ビフェニル化合物群及びポリ臭化ジフェニルエーテル化合物群以外の1乃至複数の化合物が含まれる。
【0072】
第8項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、PBBs及びPBDEs以外の化合物を定量することができる。
【0073】
(第9項)
第8項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記1乃至複数の化合物が、フタル酸エステル類化合物群、テトラブロモビスフェノールA、及びヘキサブロモシクロドデカンのいずれかを含む。
【0074】
第9項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、RoHS指令およびその他の化学物質規制に対応した分析対象試料のスクリーニングを効率よく行うことができる。
【0075】
(第10項)
第1項から第9項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
さらに、
前記基準化合物の定量値及び/又は前記参照化合物の定量値が予め決められた範囲内であるか否かを判定するスクリーニング部
を備える。
【0076】
第10項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、使用者による判断を必要とすることなく簡便に分析対象試料のスクリーニングを行うことができる。
【0077】
(第11項)
第1項から第10項のいずれかに記載の臭素系難燃化合物の定量装置において、
前記記憶部に、複数の基準化合物のうちの1つの基準化合物に対するそれ以外の基準化合物の相対応答係数が保存されており、
さらに、
前記標準試料に含まれている前記1つの基準化合物の量、前記標準試料測定部により取得された該1つの基準化合物の測定強度と前記それ以外の基準化合物の測定強度、及び該それ以外の基準化合物の相対応答係数に基づいて算出した該それ以外の基準化合物の定量値を、該標準試料に含まれている該それ以外の基準化合物の量と比較することにより該相対応答係数の妥当性を評価する相対応答係数評価部と
を備える。
【0078】
第11項に記載の臭素系難燃化合物の定量装置では、相対応答係数の適否を確認した上で、対象化合物を精度良く定量することができる。
【符号の説明】
【0079】
1、100…パイロライザーガスクロマトグラフ質量分析装置(Py-GC-MS)
10…ガスクロマトグラフ部
11…試料気化室
12…パイロライザー
13…キャリアガス流路
14…カラム
15…カラムオーブン
20…質量分析部
21…真空チャンバ
22…電子イオン化源
23…イオンレンズ
24…四重極マスフィルタ
25…イオン検出器
30…制御・処理部
31…記憶部
32…標準試料測定部
33…保持指標算出部
34…相対応答係数算出部
35…データベース作成部
40…制御・処理部
41…記憶部
411…相対応答係数データベース
42…基準化合物決定部
43…標準試料測定部
44…相対応答係数評価部
45…分析対象試料測定部
46…基準化合物定量部
47…参照化合物定量部
48…スクリーニング部
49…データベース更新部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15