(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138145
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネル
(51)【国際特許分類】
C08J 9/14 20060101AFI20240927BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240927BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C08J9/14 CET
B32B27/30 B
B32B5/18
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024122446
(22)【出願日】2024-07-29
(62)【分割の表示】P 2021069537の分割
【原出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】細川 哲
(57)【要約】
【課題】曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネル。
【解決手段】板状又はシート状であり、ポリスチレン系樹脂を含む押出発泡体である発泡層を有し、前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万である、ポリスチレン系樹脂発泡体1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む押出発泡体である発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万である、ポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記ポリスチレン系樹脂がリサイクル品由来のポリスチレン系樹脂である、請求項1に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリスチレン系樹脂発泡体の双方又はいずれか一方の面に表皮材が設けられている、展示用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、写真、ポスター、広告等の印刷物を貼付する展示用パネルとして、板状のポリスチレン系樹脂発泡体が知られている。展示用パネルには、印刷物がポリスチレン系樹脂発泡体と充分に接着され、剥がれたり、浮いたりしないことが求められる。
【0003】
このような展示用パネルとして、例えば、特許文献1には、表皮層を備え、表皮層の表面に特定の大きさの凹部を特定の密度で有するポリスチレン系樹脂発泡体が提案されている。特許文献1の発明によれば、糊による紙の接着性(合紙性)が良く、接着した紙を剥がれにくくすることが図られている。特許文献2には、シート表面の算術平均粗さが特定の範囲内であり、表面から特定の深さの範囲に存在する気泡の形状が特定の関係式を満たすシート状のポリスチレン系樹脂発泡体が提案されている。特許文献2の発明によれば、表面平滑性を良好にし、紫外線硬化型インクだけでなく水性インクも表面に直接印刷できるようにすることが図られている。
【0004】
また、ポリスチレン系樹脂発泡体には、成形時に金型に付着せず、熱安定性に優れることが求められる。このようなポリスチレン系樹脂発泡体として、例えば、特許文献3には、スチレン系樹脂100質量部に対し、共役ジエン系重合体を特定量含有し、スチレン2量体及びスチレン3量体の含有量の合計が特定の濃度以下である発泡成形用スチレン系樹脂組成物が提案されている。特許文献3の発明によれば、成形加工時の熱安定性に優れ、分子量低下が極めて低く、かつ強度に優れるようにすることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-220639号公報
【特許文献2】特開2011-98509号公報
【特許文献3】特開2004-315692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ポリスチレン系樹脂発泡体の表面には、「さざなみ」と呼ばれる表面のうねりが生じる場合がある。さざなみが生じたポリスチレン系樹脂発泡体を用いると、印刷物を貼付した展示用パネルの表面のうねりが目立ち、表面の美麗性(表面性)が損なわれる。
特許文献1~3の技術では、さざなみを低減することについては、何ら考慮がなされていない。
【0007】
そこで、本発明は、曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れるポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネルを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む押出発泡体である発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万である、ポリスチレン系樹脂発泡体。
また、本発明は以下の態様を有する。
[1]板状又はシート状であり、
ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有し、
前記ポリスチレン系樹脂は、ブタジエン成分を含み、
前記ブタジエン成分の含有量が、前記発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、
前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)が、30~65万である、ポリスチレン系樹脂発泡体。
[2]前記ポリスチレン系樹脂が、スチレン-ブタジエン共重合体を含み、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、10~65質量%である、[1]に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
[3]前記ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)を前記ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)で除した分子量分布(Mz/Mw)が、1.6~2.2である、[1]又は[2]に記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
[4]前記ポリスチレン系樹脂がリサイクル品由来のポリスチレン系樹脂である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体。
【0009】
[5][1]~[4]のいずれかに記載のポリスチレン系樹脂発泡体の双方又はいずれか一方の面に表皮材が設けられている、展示用パネル。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡体及び展示用パネルによれば、曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るポリスチレン系樹脂発泡体の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るポリスチレン系樹脂発泡体の製造装置の一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るポリスチレン系樹脂発泡体の製造装置の他の例を示す模式図である。
【
図4】ポリスチレン系樹脂発泡体の表面に形成されたさざなみの一例を説明する斜視図である。
【
図5】実施例5のポリスチレン系樹脂発泡体の表面の写真である。
【
図6】比較例3のポリスチレン系樹脂発泡体の表面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」は、その両端の値を下限値及び上限値として含む範囲を表す。
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、板状のポリスチレン系樹脂発泡体を例にして説明する。ポリスチレン系樹脂発泡体は、単層の発泡層で構成されていてもよく、2層以上の発泡層を有していてもよい。ポリスチレン系樹脂発泡体は、ポリスチレン系樹脂発泡体の片面に非発泡樹脂層が設けられていてもよく、ポリスチレン系樹脂発泡体の両面に非発泡樹脂層が設けられていてもよい。非発泡樹脂層は、単層の非発泡層で構成されていてもよく、2層以上の非発泡層を有していてもよい。
【0013】
[ポリスチレン系樹脂発泡体]
本発明のポリスチレン系樹脂発泡体(以下、単に「発泡体」ともいう。)は、ポリスチレン系樹脂を含む発泡層を有する板状又はシート状の発泡体である。
発泡体の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1の発泡体1は、第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとからなる発泡板である。第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとは、接合部3で接合されている。
【0015】
発泡体1の厚さT1は、用途を勘案して決定できる。例えば、厚さT1は、3.0~15.0mmが好ましく、4.0~12.0mmがより好ましく、5.0~10.0mmがさらに好ましい。厚さT1が上記下限値以上であると、曲げ強度をより高められ、反りを抑制できる。厚さT1が上記上限値以下であると、発泡体1を軽量にでき、製造しやすい。
厚さT1は、例えば、マイクロゲージを用いて測定できる。
【0016】
第一の発泡層2aの厚さT2aは、用途を勘案して決定できる。例えば、厚さT2aは、1.5~7.5mmが好ましく、2.0~6.0mmがより好ましく、2.5~5.0mmがさらに好ましい。厚さT2aが上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められ、反りを抑制できる。厚さT2aが上記上限値以下であると、発泡体1を軽量にでき、製造しやすい。
厚さT2aは、厚さT1と同様の方法で求められる。
【0017】
第二の発泡層2bの厚さT2bは、厚さT2aと同様である。厚さT2bは、厚さT2aと同じでもよく、異なっていてもよい。
厚さT2bは、厚さT2aと同様の方法で求められる。
【0018】
≪発泡層≫
発泡体1は、第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとを有する。第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとは、接合部3で、融着により接合されている。第一の発泡層2aは、ポリスチレン系樹脂を含む発泡性樹脂組成物を発泡してなる層(発泡樹脂層)であり、樹脂中に気泡が形成されている。発泡性樹脂組成物に含まれる樹脂は、ポリスチレン系樹脂である。
第二の発泡層2bは、第一の発泡層2aと同様である。
以下、発泡体1の発泡層として、第一の発泡層2aの物性について説明する。第二の発泡層2bの物性は、第一の発泡層2aと同様であるため、その説明を省略する。
【0019】
第一の発泡層2aの見掛け密度は、例えば、0.04~0.15g/cm3が好ましく、0.05~0.12g/cm3がより好ましく、0.06~0.10g/cm3がさらに好ましい。第一の発泡層2aの見掛け密度が上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。第一の発泡層2aの見掛け密度が上記上限値以下であると、発泡体1を軽量にでき、製造しやすい。
第一の発泡層2aの見掛け密度は、JIS K7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」に準拠して測定することによって求められる。
具体的には、元のセル構造を変えないように切断した第一の発泡層2aの試験片について、その質量と見掛け体積とを測定し、下記式(1)により算出する。
第一の発泡層2aの見掛け密度(g/cm3)=試験片の質量(g)/試験片の見掛け体積(cm3)・・・(1)
【0020】
第一の発泡層2aの坪量は、例えば、50~600g/m2が好ましく、90~500g/m2がより好ましく、150~400g/m2がさらに好ましい。第一の発泡層2aの坪量が上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。第一の発泡層2aの坪量が上記上限値以下であると、発泡体1を軽量にでき、製造しやすい。
第一の発泡層2aの坪量は、以下の方法で測定できる。
【0021】
第一の発泡層2aの幅方向(TD方向)の両端20mmを除き、幅方向に等間隔に10cm×10cmの切片10個を切り出し、各切片の質量(g)を0.001g単位まで測定する。各切片の質量(g)の平均値を1m2当たりの質量に換算した値を、第一の発泡層2aの坪量(g/m2)とする。
【0022】
第一の発泡層2aの発泡倍率は、例えば、1.5~20倍が好ましく、2~15倍がより好ましく、3~10倍がさらに好ましい。第一の発泡層2aの発泡倍率が上記下限値以上であると、発泡体1の耐衝撃性をより高められる。第一の発泡層2aの発泡倍率が上記上限値以下であると、発泡体1の表面性をより高められる。
第一の発泡層2aの発泡倍率は、1を「第一の発泡層2aの見掛け密度(g/cm3)」で除した値である。
【0023】
第一の発泡層2aの平均気泡径は、例えば、80~450μmが好ましく、150~400μmがより好ましく、200~350μmがさらに好ましい。第一の発泡層2aの平均気泡径が上記下限値以上であると、発泡体1の耐衝撃性をより高められる。第一の発泡層2aの平均気泡径が上記上限値以下であると、発泡体1の表面性をより高められる。
第一の発泡層2aの平均気泡径は、ASTM D2842-69に記載の方法に準拠して測定できる。
【0024】
第一の発泡層2aの独立気泡率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、100%でもよい。第一の発泡層2aの独立気泡率は、JIS K7138:2006「硬質発泡プラスチック-連続気泡率及び独立気泡率の求め方」に記載の方法に準拠して測定できる。
【0025】
≪ポリスチレン系樹脂≫
第一の発泡層2aは、ポリスチレン系樹脂を含む。
ポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体;スチレン系モノマーを主成分とし、スチレン系モノマーとこれに重合可能なビニルモノマーとの共重合体;スチレン系モノマーとブタジエン等のゴム分との共重合体、スチレン系モノマーの単独重合体もしくはこれらの共重合体もしくはスチレン系モノマーとビニルモノマーとの共重合体とジエン系のゴム状重合体との混合物又は重合体である、いわゆるハイインパクトポリスチレン;等が挙げられる。
【0026】
スチレン系モノマーと重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の二官能性モノマー等が挙げられる。これらのビニルモノマーは、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
ここで、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」と「メタクリレート」の一方又は双方を表し、「(メタ)アクリロニトリル」は、「アクリロニトリル」と「メタクリロニトリル」の一方又は双方を表す。
【0027】
ジエン系のゴム状重合体としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-非共役ジエン三次元共重合体等が挙げられる。
これらのポリスチレン系樹脂は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
本明細書において、ポリスチレン系樹脂とは、スチレン系モノマーから誘導される単位を50モル%以上含有する樹脂をいう。
【0028】
ポリスチレン系樹脂がスチレン-ブタジエン共重合体を含む場合、スチレン-ブタジエン共重合体の含有量は、ポリスチレン系樹脂の総質量に対して、10~65質量%が好ましく、15~55質量%がより好ましく、20~45質量%がさらに好ましい。スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が上記下限値以上であると、発泡体1の表面性をより高められる。スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が上記上限値以下であると、発泡体1の曲げ強度をより高められ、反りを抑制できる。
【0029】
ポリスチレン系樹脂は、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)、市販されているポリスチレン系樹脂、懸濁重合法等の方法で新たに調製されたポリスチレン系樹脂等、リサイクル品由来でないポリスチレン系樹脂でもよい。環境負荷をより低減できる観点から、ポリスチレン系樹脂は、リサイクル品由来のポリスチレン系樹脂であることが好ましい。
リサイクル品由来のポリスチレン系樹脂としては、使用済みのポリスチレン系樹脂発泡成形体、例えば、魚箱、家電緩衝材、食品包装用トレー等を回収し、リモネン溶解方式や加熱減容方式によって再生したものが挙げられる。また、例えば、リサイクル品由来のポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン系樹脂発泡シートから食品包装用トレー等を打ち抜いた後に生じる端材を粉砕し、溶融混練してリペレット化したものが挙げられる。
使用できるリサイクル品由来のポリスチレン系樹脂としては、使用済みの発泡容器等の成形体を再生処理して得られたもの以外に、家電製品(例えば、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン等)、事務用機器(例えば、複写機、ファクシミリ、プリンター等)等から分別回収された非発泡のポリスチレン系樹脂が挙げられる。
【0030】
ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量(Mz)は、30~65万であり、30~55万が好ましく、35~45万がより好ましい。ポリスチレン系樹脂のMzが上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。ポリスチレン系樹脂のMzが上記上限値以下であると、発泡体1の表面性をより高められる。
ポリスチレン系樹脂のMzは、実施例に記載の測定方法で求められる。
【0031】
ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、19~26万が好ましく、20~25万がより好ましく、21~25万がさらに好ましい。ポリスチレン系樹脂のMwが上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。ポリスチレン系樹脂のMwが上記上限値以下であると、発泡体1の表面性をより高められる。
ポリスチレン系樹脂のMwは、ポリスチレン系樹脂のMzと同様の測定方法で求められる。
【0032】
ポリスチレン系樹脂の数平均分子量(Mn)は、75,000~110,000が好ましく、85,000~110,000がより好ましく、95,000~105,000がさらに好ましい。ポリスチレン系樹脂のMnが上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。ポリスチレン系樹脂のMnが上記上限値以下であると、発泡体1の表面性をより高められる。
ポリスチレン系樹脂のMnは、ポリスチレン系樹脂のMzと同様の測定方法で求められる。
【0033】
ポリスチレン系樹脂のMzをポリスチレン系樹脂のMwで除した分子量分布(Mz/Mw)は、1.6~2.2が好ましく、1.7~2.1がより好ましく、1.8~2.0がさらに好ましい。ポリスチレン系樹脂のMz/Mwが上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。ポリスチレン系樹脂のMz/Mwが上記上限値以下であると、ダイスウェル(押出成形の際に樹脂組成物が膨張し、押出物の断面積がダイノズルの断面積よりも大きくなる現象)の発生を抑制でき、表面性をより高められる。
【0034】
ポリスチレン系樹脂のMwをポリスチレン系樹脂のMnで除した値(Mw/Mn)は、2.2~3.0が好ましく、2.3~2.8がより好ましく、2.4~2.6がさらに好ましい。ポリスチレン系樹脂のMw/Mnが上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められる。ポリスチレン系樹脂のMw/Mnが上記上限値以下であると、表面性をより高められる。
【0035】
ポリスチレン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、1.0~10.0g/10minが好ましく、2.5~9.0g/10minがより好ましく、3.5~8.5g/10minがさらに好ましく、4.0~7.9g/10minが特に好ましい。ポリスチレン系樹脂のMFRが上記下限値以上であると、発泡体1の表面性をより高められる。ポリスチレン系樹脂のMFRが上記上限値以下であると、曲げ強度をより高められる。
本明細書において、ポリスチレン系樹脂のMFRは、以下の方法で測定される値をいう。
【0036】
<メルトフローレイト(MFR)の測定方法>
(前処理)
発泡体1を180℃で5分間、熱プレスし、脱泡する。脱泡した発泡体を細かくカットし、MFR測定用の試料とする。
(測定条件)
MFRは、(株)安田精機製作所製「メルトフローインデックステスター 120-SAS」を用い、JIS K7210:1999「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に記載のB法の「b)ピストンが所定の距離を移動する時間を測定する方法」に準じて測定する。測定条件は、試料約3~8g、予熱時間5分、試験温度200℃、試験荷重49.03N、ピストン移動距離(インターバル):25mmとする。試料の試験回数は3回とし、その平均をMFR(g/10分)の値とする。
【0037】
本明細書において、スチレン成分は、発泡層を加熱して分解した際に得られるスチレンモノマーを意味する。
本明細書において、ブタジエン成分は、発泡層を加熱して分解した際に得られるブタジエンモノマー及び4-ビニル-1-シクロヘキセンモノマーを意味する。ブタジエン成分は、ポリスチレン系樹脂に含まれるスチレン-ブタジエン共重合体に由来する。
【0038】
ポリスチレン系樹脂におけるブタジエン成分の含有量は、発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、0.6~3.5質量%が好ましく、1.0~3.0質量%がより好ましく、1.5~2.5質量%がさらに好ましい。ブタジエン成分の含有量が上記下限値以上であると、発泡体1の表面性をより高められる。ブタジエン成分の含有量が上記上限値以下であると、発泡体1の曲げ強度をより高められ、反りを抑制できる。
ポリスチレン系樹脂におけるブタジエン成分の含有量は、以下の方法で求められる。
【0039】
<ブタジエン成分の含有量の測定方法>
発泡体1から、第一の発泡層2aをスライサー又は剃刀で採取した切片を切削し、試料を約0.1~0.5mg精秤する。キューリー点が590℃の日本分析工業(株)製「パイロホイル」強磁性金属体で上記試料を包んで試験体を作製する。試験体は強磁性金属体が試料に圧着するように作製し、日本分析工業(株)製「JPS-700型」キューリーポイントパイロライザー装置にて試験体を加熱して試料を分解させる。
【0040】
分解によって生成したブタジエンモノマーと4-ビニル-1-シクロヘキセンモノマーを、アジレント・テクノロジー(株)製「GC7820A」ガスクロマトグラフ(検出器=FID)を用いて測定し、ブタジエンモノマーと4-ビニル-1-シクロヘキセンモノマーとの合計のピーク面積を求める。ブタジエンモノマーと4-ビニル-1-シクロヘキセンモノマーとの合計をブタジエン成分とする。試料に含まれるブタジエン成分の割合は、予め作成しておいた検量線より算出する。検量線作成用標準試料は、POLYSCIENCES.INC製、St/BD=85/15(CAT#07073)樹脂を使用する。
ガスクロマトグラフ(GC)の測定条件等は以下の通りとする。
【0041】
(熱分解条件)
・加熱:590℃、5秒間。
・オーブン温度:300℃。
・ニードル温度:300℃。
(GC測定条件)
・装置:アジレント・テクノロジー(株)製「GC7820A」ガスクロマトグラフ。
・カラム:Agilent Technologies社製「DB-5」(膜厚0.25μm×内径0.25mm×長さ30m)。
【0042】
(GCオーブン昇温条件)
・初期温度:50℃(0.5分間保持)。
・第1段階昇温速度:10℃/min(200℃まで、保持時間0分)。
・第2段階昇温速度:20℃/min(320℃まで)。
・最終温度:320℃(0.5分間保持)。
・キャリアガス:Heガス。
・He流量:63.736mL/min。
・注入口圧力:100kPa。
・カラム入口圧力:100kPa。
・注入口温度:300℃。
・検出器温度:300℃。
・スプリット比:1/50。
【0043】
ポリスチレン系樹脂におけるスチレン成分の含有量は、発泡層の総質量に対して、95~99.6質量%が好ましく、94~99.6質量%がより好ましく、95~99質量%がさらに好ましい。スチレン成分の含有量が上記下限値以上であると、発泡体1の曲げ強度をより高められ、反りを抑制できる。スチレン成分の含有量が上記上限値以下であると、発泡体1の表面性をより高められる。
ポリスチレン系樹脂におけるスチレン成分の含有量は、以下の方法で求められる。
【0044】
<スチレン成分の含有量の測定方法>
ブタジエン成分の含有量の測定方法と同様に、試料を精秤し、試験体を作製する。ブタジエン成分の含有量の測定方法と同様に、試験体を加熱して試料を分解させる。
分解によって生成したスチレンモノマーを、アジレント・テクノロジー(株)製「GC7820A」ガスクロマトグラフ(検出器=FID)を用いて測定し、スチレンモノマーのピーク面積を求める。スチレンモノマーのピーク面積について、予め作成しておいた検量線より試料に含まれるスチレン成分の割合を算出する。検量線作成標準試料は、積水化成品工業(株)製の懸濁重合PS微粒子を使用する。
ガスクロマトグラフ(GC)の測定条件等は、ブタジエン成分の含有量の測定方法における測定条件等と同様である。
【0045】
発泡性樹脂組成物は、発泡剤を含有する。
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン等の炭化水素;テトラフルオロエタン、クロロジフルオロエタン、ジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素;等が挙げられ、中でも、炭化水素が好ましく、ブタンが好ましい。ブタンとしては、ノルマルブタン又はイソブタンがそれぞれ単独で使用されてもよいし、ノルマルブタンとイソブタンとが任意の割合で併用されてもよい。これらの発泡剤は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0046】
発泡性樹脂組成物中の発泡剤の含有量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、例えば、0.1~10質量部が好ましく、1~7質量部がより好ましく、1~5質量部がさらに好ましい。
【0047】
発泡性樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂、発泡剤以外の他の成分(以下、「任意成分」ともいう)を含有してもよい。任意成分としては、例えば、気泡調整剤、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、消臭剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤等が挙げられる。
任意成分の種類は、発泡体1に求められる物性等を勘案して決定される。
任意成分は、1種単独でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。
【0048】
気泡調整剤としては、例えば、タルク、シリカ等の無機粉末等の混合物等が挙げられる。これらの気泡調整剤は、発泡体1の独立気泡率を高め、発泡層5を形成しやすい。
安定剤としては、例えば、カルシウム亜鉛系熱安定剤、スズ系熱安定剤、鉛系熱安定剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セシウム系紫外線吸収剤、酸化チタン系紫外線吸収剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化セリウム/ジルコニア固溶体、水酸化セリウム、カーボン、カーボンナノチューブ、酸化チタン、及びフラーレン等が挙げられる。
着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄、群青、コバルトブルー、焼成顔料、メタリック顔料、マイカ、パール顔料、亜鉛華、沈降性シリカ、カドミウム赤等が挙げられる。
消臭剤としては、例えば、シリカ、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、ハイドロタルサイト焼成物等が挙げられる。
【0049】
発泡性樹脂組成物中の任意成分の含有量は、ポリスチレン系樹脂100質量部に対して、例えば、0.05~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.3~5.0質量部がさらに好ましい。任意成分の含有量が上記下限値以上であると、任意成分に由来する効果を発揮できる。任意成分の含有量が上記上限値以下であると、ダイ等への目詰まりをより良好に防止し、発泡体1の外観をより良好にできる。
【0050】
本発明のポリスチレン系樹脂発泡体は、
図1に示した本実施形態のみに限定されるものではなく、種々の変更や修正が可能である。
例えば、発泡体1は、第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとを融着接合して構成したが、ポリスチレン系樹脂発泡体は、単層の発泡層で構成されていてもよく、3層以上の発泡層で構成されていてもよい。
発泡層を2層以上とすることでポリスチレン系樹脂発泡体の厚さが厚くなり発泡板としての強度が増すので、ポスターを貼り合わせたりする展示用パネルの用途として好適となる。
【0051】
発泡体1は、発泡層のみで構成され、非発泡樹脂層が設けられていないが、発泡層の片面又は両面に非発泡樹脂層が設けられていてもよい。発泡体が非発泡樹脂層を有することで、曲げ強度をより高められる。
非発泡樹脂層を構成する樹脂は、特に限定されず、第一の発泡層2aを構成する樹脂と同様の樹脂が挙げられる。
非発泡樹脂層を構成する樹脂は、第一の発泡層2aを構成する樹脂と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0052】
非発泡樹脂層の厚さは、例えば、10~300μmが好ましく、20~200μmがより好ましい。非発泡樹脂層の厚さが上記下限値以上であると、発泡体の曲げ強度をより高められる。非発泡樹脂層の厚さが上記上限値以下であると、発泡体の軽量化を図れる。
【0053】
発泡体が非発泡樹脂層を有する場合、非発泡樹脂層は、発泡体の表面に熱融着等によって直接積層してもよいし、接着剤を介して積層してもよい。
接着剤としては、主溶剤として有機溶媒を用いた油性接着剤であってもよいし、主溶剤として水を用いた水性接着剤であってもよいし、熱溶融性樹脂を用いた熱融着性接着剤(ホットメルト接着剤)であってもよい。水性接着剤としては、例えば、澱粉、変性澱粉、ガゼイン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシセルロース、大豆タンパク、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル-アクリル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリル変性酢酸ビニル共重合体等のエマルジョン系の水性接着剤が適用可能である。ホットメルト接着剤としては、例えば、合成ゴム系ホットメルト接着剤、ポリオレフィン系ホットメルト接着剤、ポリエステル系ホットメルト接着剤等が挙げられる。
【0054】
本実施形態の発泡体1は、ブタジエン成分の含有量が、発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、かつ、ポリスチレン系樹脂のMzが、30~65万であるため、曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れる。
【0055】
[ポリスチレン系樹発泡体の製造方法]
発泡体1の製造方法は、ポリスチレン系樹脂を溶融し、溶融したポリスチレン系樹脂と発泡剤とを混練して溶融混練物とし、この溶融混練物を押出し、発泡して発泡層を得る工程を有する。
発泡体1の好適な製造方法としては、公知の発泡体の製造方法を採用でき、例えば、以下に示す製造方法が挙げられる。
以下、発泡体1の製造方法の一例について、
図2の発泡体の製造装置100を用いた方法を説明する。
【0056】
図2の発泡体の製造装置100は、押出成形により発泡体を得る装置である。製造装置100は、押出機10と、発泡剤供給源18と、押出機10の先端に装着されたサーキュラーダイ20と、サーキュラーダイ20の吐出口から押出発泡された筒状の発泡体2をピンチロール30に送るガイドローラ24と、筒状の発泡体2を狭圧して板状とするピンチロール30とを備える。
【0057】
押出機10は、いわゆるシングル型押出機である。押出機10は、ホッパー14を備える。押出機10には、発泡剤供給源18が接続されている。
【0058】
なお、製造装置100の押出機10はシングル型押出機以外の押出機でもよい。例えば、押出機10は、いわゆるタンデム型押出機(
図3)でもよい。タンデム型押出機は、第一の押出部11と、第一の押出部11に配管16で接続された第二の押出部12とを備える。第一の押出部11は、ホッパー14を備える。第一の押出部11には、発泡剤供給源18が接続されている。
第二の押出部12には、サーキュラーダイ20が接続されている。サーキュラーダイ20の下流には、サーキュラーダイ20の吐出口から押出発泡された筒状の発泡体2をピンチロール30に送るガイドローラ24と、筒状の発泡体2を狭圧して板状とするピンチロール30とが設けられている。
また、製造装置100の押出機10は、単軸押出機であってもよいし、二軸押出機等の多軸押出機であってもよい。
【0059】
発泡層を構成する原料をホッパー14から押出機10に投入する。ホッパー14から投入される原料は、発泡層を構成する樹脂、及び必要に応じて配合される任意成分である。
押出機10では、原料を任意の温度に加熱しながら混合して樹脂溶融物とし、発泡剤供給源18から発泡剤を押出機10に供給し、樹脂溶融物に発泡剤を混合して発泡性樹脂組成物とする。
加熱温度は、樹脂の種類等を勘案して、樹脂が溶融しかつ任意成分が変性しない範囲で適宜決定される。
【0060】
加熱温度は、スチレンが軟化する温度であればよく、例えば、100~180℃が好ましく、110~170℃がより好ましく、120~160℃がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、筒状の発泡体2が充分に軟化し、第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとを綺麗に融着接合できる。加熱温度が上記上限値以下であると、筒状の発泡体2の外側の表面が軟化し過ぎることを抑制でき、表面性をより高められる。
【0061】
発泡性樹脂組成物は、加熱され、押出機10の先端に装着されたサーキュラーダイ20の吐出口から押し出されると同時に発泡される。この際、サーキュラーダイ20の吐出口は円環状とされており筒状の発泡体2が形成される。筒状の発泡体2は、サーキュラーダイ20の下流に設けられたエアリング装置(不図示)から送出されたエアー26により風冷され、ガイドローラ24によりピンチロール30に送られる。
【0062】
筒状の発泡体2の内部が冷え切らないうちに、筒状の発泡体2を一対のピンチロール30で上下方向から狭圧して熱融着することで、2層の発泡層が融着された発泡体1が形成される。
【0063】
ピンチロール30で筒状の発泡体2を狭圧する際の圧力は、0.1~1.1MPaが好ましく、0.2~1.0MPaがより好ましく、0.3~0.9MPaがさらに好ましい。ピンチロール30で筒状の発泡体2を狭圧する際の圧力が上記下限値以上であると、第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとを充分に接合できる。ピンチロール30で筒状の発泡体2を狭圧する際の圧力が上記上限値以下であると、第一の発泡層2aと第二の発泡層2bとが潰され過ぎず、表面性をより高められる。
【0064】
発泡体1は、その後、所望の寸法に裁断されてもよいし、その表面に印刷が施されてもよい。また、発泡体1には、非発泡樹脂層が設けられてもよい。
【0065】
発泡体に非発泡樹脂層を設ける方法としては、例えば、以下の(1)~(4)の方法が挙げられる。
(1)非発泡樹脂層となる樹脂を押出機に投入し、溶融した非発泡樹脂層形成用の樹脂を押出機先端に取り付けたTダイから発泡体上に押出す方法。
(2)2つの押出機を備えた共押出装置を用い、一方の押出機で発泡体の発泡押出しを行うと共に、他方の押出機から非発泡樹脂層形成用の樹脂を共押出しする方法。
(3)非発泡樹脂層となる樹脂フィルムを、発泡体の表面に加熱圧着して積層する方法。
(4)非発泡樹脂層となる樹脂フィルムを、発泡体の表面に接着剤を用いて接着する方法。
非発泡樹脂層としてポリスチレン系樹脂を用いる場合には、接着剤を用いずに発泡体の表面に非発泡樹脂層を形成する上記(1)~(3)の方法が好ましい。
【0066】
本実施形態の発泡体の製造方法は、発泡層の両面を加熱して複数枚重ねて狭圧することにより、発泡層の残留応力をより小さくできる。このため、発泡体の反りが少なく、かつ、表面性をより高められる。加えて、発泡体の反りが少ないため、合紙後の紙浮きを抑制できる。
特に、夏場の運搬や保管時等、高温環境下において、反りや寸法変化を抑制でき、本発明の効果が顕著である。
【0067】
なお、ポリスチレン系樹脂発泡体の表面に形成されるさざなみの一例について、
図4を参照して説明する。
図4に示すように、発泡体4の表面には、Aで示す全体の領域にさざなみが形成されている。
図4のXは、樹脂の幅方向(TD方向)を示し、Yは、樹脂の押出方向(MD方向)を示す。TD方向は、MD方向と直交する方向である。
【0068】
Aで示す領域には、TD方向に沿ってさざなみが形成されている。さざなみは、表面の凹凸とは異なり、押出成形の際に発泡性樹脂組成物が膨張し、押出物の断面積がダイノズルの断面積よりも大きくなるダイスウェルと呼ばれる現象が発生することに起因していると考えられる。ダイスウェルが発生すると、発泡性樹脂組成物が冷却する際の収縮のばらつきが大きくなる。この収縮のばらつきによって、さざなみが形成されると考えられる。
図4に示すように、さざなみは、TD方向に沿って形成される傾向がある。しかし、さざなみは、MD方向に沿って形成される場合もある。また、さざなみは、TD方向及びMD方向以外の方向に沿って形成される場合もあり、発泡体の表面の一部に形成される場合もある。
【0069】
さざなみの形成を抑制するためには、ダイスウェルの発生を抑制することが効果的であると考えらえる。
本発明の発泡体は、ブタジエン成分の含有量が、発泡層の総質量に対して、0.4~4.0質量%であり、かつ、ポリスチレン系樹脂のMzが、30~65万であるため、ダイスウェルの発生を抑制できる。このため、本発明の発泡体は、表面性に優れる。
【0070】
[展示用パネル]
本発明の展示用パネルは、上述した製造方法により製造された本発明に係る発泡体1を必要に応じて所望の寸法に裁断し、パネル本体とし、該パネル本体の双方又は一方の面に表皮材を設けてなるものである。
発泡体1の表面に表皮材が設けられていると、曲げ強度をより高められ、表面性をより高められる。
表皮材としては、上質紙、グラシン紙、パーチメント紙、クラフト紙、合成紙、離型紙、タック紙等が挙げられる。表皮材は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
発泡体1の表面に表皮材を設ける方法は、特に限定されず、例えば、上述した接着剤を用いて表皮材を設けてもよく、画鋲や粘着テープを用いて表皮材を設けてもよい。
展示用パネルの外観を美麗にできる観点から、表皮材は、上述した接着剤を用いて設けることが好ましい。
【0072】
展示用パネルは、表皮材の表面にさらに印刷層を設けてもよい。
印刷層を設ける方法としては、特に限定されないが、インクジェット印刷を用いることが好ましい。
インクジェット印刷に用いるインクとしては、UVインク、水性インクの両方を用いることができる。これらのインクは、市販されている各種インクジェット印刷用インクの中から適宜選択して使用することができる。また、インクジェット印刷機は、使用するインクの硬化特性に応じて、印刷直後に紫外線を照射するためのUV光源や乾燥のためのヒーターやドライヤー等の機能を付設してあることが好ましい。
【0073】
本発明の展示用パネルは、上述したように、反りが少なく、表面性により優れる発泡体1をパネル本体として用いたものなので、極めて鮮明で美麗な印刷が可能な展示用パネルとなる。
【実施例0074】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0075】
まず、発泡体のポリスチレン系樹脂として、表1に示すポリスチレン系樹脂を用意した。
【0076】
【0077】
表1に示す原料は、以下の通りである。
・HIPS:商品名「E-641N」、ハイインパクトポリスチレン、東洋スチレン(株)製。
・GPPS:商品名「G0002」、汎用ポリスチレン、PSジャパン(株)製。
・GPPS:商品名「HRM48N」、汎用ポリスチレン、東洋スチレン(株)製。
・GPPS:商品名「HRM10N」、汎用ポリスチレン、東洋スチレン(株)製。
・HIPS、GPPS混合物:PS1、ハイインパクトポリスチレンと汎用ポリスチレンとの混合物、実施例4で得られた発泡体の端材のリペレット品。
・HIPS、GPPS混合物:PS2、ハイインパクトポリスチレンと汎用ポリスチレンとの混合物、実施例5で得られた発泡体の端材のリペレット品。
【0078】
[実施例1]
≪ポリスチレン系樹脂発泡体の製造≫
押出機として内径115mmの押出機と、内径150mmの押出機とが連結された押出機を用意した。ポリスチレン系樹脂(PSジャパン(株)製、商品名「G0002」90質量部と東洋スチレン(株)製、商品名「E-641N」10質量部)100質量部に対し、タルク(キハラ化成(株)製)0.5質量部、タルクマスターバッチ(東洋スチレン(株)製、商品名「DSM1401A」)1.2質量部を添加した配合原料を押出機に投入した。この配合原料を上記押出機内にて最高温度230℃で溶融し、混練した後、発泡剤としてブタン(イソブタン/ノルマルブタン質量比:68%/32%)4.0質量部を添加し、樹脂と混合し、発泡性樹脂組成物(溶融樹脂)とした。溶融樹脂を発泡に適した樹脂温度(148℃)まで冷却した。さらに、押出機の先端部に設けられた、口径160φでスリットクリアランス1.0mmに設定されたサーキュラーダイより溶融樹脂を大気下へ押出して発泡させた。押出された円筒状の発泡体の外面に冷却エアー(40℃)を吹き付け、ワニ口ロールで上下より圧着して2層を融着させながら冷却し、冷却後に裁断して、厚さ5mm、長さ935mm、幅630mm、坪量320g/m2の板状のポリスチレン系樹脂発泡体(発泡板)を得た。
【0079】
[実施例2~16、比較例1~3]
ポリスチレン系樹脂の配合を表2~3に示す配合とした以外は、実施例1と同様に発泡板を得た。表中「-」は、その成分を配合していないことを意味する。
【0080】
各例の発泡板のブタジエン成分の含有量及びスチレン成分の含有量は、前記<ブタジエン成分の含有量の測定方法>及び<スチレン成分の含有量の測定方法>に従って測定した。
また、各例の発泡板の厚さ、見掛け密度、分子量及びMFRについては、下記の測定方法によって行った。結果を表2~3に示す。
【0081】
<厚さの測定>
得られた発泡板の厚さを、厚み測定器SM-114(TECLOCK社製)を用いて測定した。
【0082】
<見掛け密度の測定>
得られた発泡板の見掛け密度(g/cm3)は、その質量と見掛け体積とを測定して、質量(g)÷見掛け体積(cm3)により求めた。
【0083】
<分子量の測定>
以下に、各例で得られた発泡板におけるポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mzの測定方法を示す。なお、ポリスチレン系樹脂の質量平均分子量Mw及びポリスチレン系樹脂の数平均分子量Mnは、ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mzと同様の方法で測定した。
【0084】
各例で得られた発泡板をスライサー又は剃刀で切り取り、試料として採取した。この試料について、下記測定条件のもと、前処理によって濾液を得て、ポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mzを測定した。
【0085】
<測定条件>
(前処理)
採取した試料6mgをテトラヒドロフラン(THF)6mLに溶解させ(浸漬時間:6±1hr(完全溶解))、試料溶液を得た。(株)島津ジーエルシー製、非水系0.45μmシリンジフィルターにて試料溶液を濾過して濾液を得た。
【0086】
上記前処理で得られた濾液を用いて、下記測定条件のもと、下記測定装置でポリスチレン系樹脂のZ平均分子量Mzを測定した。
(測定装置)
GPC装置:東ソー(株)製、HLC-8320GPC(RI検出器・UV検出器内蔵)。
ガードカラム:TOSOH TSK guardcolumn SuperMP(HZ)-H(4.6mmI.D.×2cm)×1本。
カラム(リファレンス):TOSOH TSKgel Super HZ1000(6.0mmI.D.×15cm)×1本。
カラム(サンプル):TSKgel SuperMultiporeHZ-H(4.6mmI.D.×15cm)×2本直列。
(測定条件)
カラム温度:40℃。
検出器温度:40℃。
ポンプ注入部温度:40℃。
溶媒:THF。
流量(リファレンス):0.2mL/min。
流量(サンプル):0.2mL/min。
実行時間:21min。
データ集積時間:6~25min。
データ間隔:200msec。
注入容積:20μL。
検出器:RI。
【0087】
(検量線用標準ポリスチレン試料)
検量線用標準ポリスチレン試料は、昭和電工(株)製の製品名「STANDARD SM-105」及び「STANDARD SH-75」から、質量平均分子量Mwが5,620,000、3,120,000、1,250,000、442,000、151,000、53,500、17,000、7,660、2,900、1,320のものを用いた。
上記検量線用標準ポリスチレンをA(5,620,000、1,250,000、151,000、17,000、2,900)及びB(3,120,000、442,000、53,500、7,660、1,320)にグループ分けした。Aを秤量(2mg、3mg、4mg、4mg、4mg)した後、THF30mLに溶解した。Bを秤量(3mg、4mg、4mg、4mg、4mg)した後、THF30mLに溶解した。
標準ポリスチレン検量線は、作成した各A及びB溶解液を20μL注入して測定後に得られた保持時間から較正曲線(一次式)を作成することにより得た。その検量線を用いてZ平均分子量Mzを算出した。
【0088】
<MFRの測定>
(前処理)
各例で得られた発泡板を180℃で5分間、熱プレスし、脱泡した。脱泡した発泡板を細かくカットし、MFR測定用の試料とした。
(測定条件)
MFRは、(株)安田精機製作所製「メルトフローインデックステスター 120-SAS」を用い、JIS K7210:1999「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」に記載のB法の「b)ピストンが所定の距離を移動する時間を測定する方法」に準じて測定した。測定条件は、試料約3~8g、予熱時間5分、試験温度200℃、試験荷重49.03N、ピストン移動距離(インターバル):25mmとした。試料の試験回数は3回とし、その平均をMFR(g/10分)の値とした。
【0089】
各例で得られた発泡板について、以下の評価方法に示す、曲げ強度、反り量、表面性を評価し、総合評価を行った。結果を表2~3に示す。
【0090】
<曲げ強度の評価>
曲げ強度は、(株)オリエンテック製、テンシロン万能試験機「RTC-1310A」を用いて測定を行った。試験片は、押出方向(MD方向)及び押出方向に直交する方向(TD方向)に対して幅50mm×長さ150mm×厚さ(各例の厚さ)の大きさに切り出した。それぞれの方向に対して試験片の数を3個とした。測定条件は、試験速度を50mm/minとし、加圧くさび及び支点の先端部の半径は3.2Rとし、支点間距離は100mmとし、各試験片の3点曲げ測定を行い、最大点荷重を発泡板の曲げ強度(N)とした。次に、MD方向の曲げ強度(N)とTD方向の曲げ強度(N)の平均値(N)から、下記評価基準に基づいて判定を行った。
《評価基準》
A:曲げ強度の平均値が13N以上・・・曲げ強度が極めて高く、優れている。
B:曲げ強度の平均値が12N以上13N未満・・・曲げ強度が充分に高く、良好である。
C:曲げ強度の平均値が10N以上12N未満・・・曲げ強度が低いが、許容できる。
D:曲げ強度の平均値が10N未満・・・曲げ強度が極めて低く、不良である。
【0091】
<反り量の評価>
発泡板を23℃、相対湿度50%RHの環境下に24時間静置し、下記の測定方法で反り量を測定した。
縦(MD方向、長辺)935mm、横(TD方向、短辺)630mmの平面視矩形の発泡板の縦方向の向かい合う2辺(長辺)を水平な面にあてて、水平な面からの最も大きい浮き上がり距離(水平面から発泡板の下面までの距離(mm))を測定し、この測定値をTD方向(短辺)の反り量(mm)とした。次に、発泡板の横方向の向かい合う2辺(短辺)を水平な面にあてて、水平な面からの最も大きい浮き上がり距離(水平面から発泡板の下面までの距離(mm))を測定し、この測定値をMD方向(長辺)の反り量(mm)とした。
次に、TD方向(短辺)の反り量(mm)と、MD方向(長辺)の反り量(mm)の平均値(mm)から、下記評価基準に基づいて判定を行った。
《評価基準》
A:反り量の平均値が5mm未満・・・反り量が極めて小さく、優れている。
B:反り量の平均値が5mm以上7mm未満・・・反り量が充分に小さく、良好である。
C:反り量の平均値が7mm以上10mm未満・・・反り量が小さく、許容できる。
D:反り量の平均値が10mm以上・・・反り量が大きく、不良である。
【0092】
<表面性の評価>
得られた発泡板の表面を目視で観察し、下記評価基準に基づいて表面性を評価した。
《評価基準》
A:さざなみの発生が見られない。
B:目立たない程度のさざなみが発生している。
C:さざなみが若干外観を損ねているが、許容できる。
D:さざなみが明らかに外観を損ねており、不良である。
【0093】
<総合評価>
上記<曲げ強度の評価>、<反り量の評価>及び<表面性の評価>の結果から、下記評価基準に基づいて総合評価をした。
《評価基準》
S:全ての評価が「A」評価である。
A:全ての評価が「A」評価又は「B」評価であり、「B」評価が1つである。
B:「C」評価及び「D」評価がなく、「B」評価が2つ以上ある、又は、「D」評価がなく、「C」評価が1つある。
C:「D」評価がなく、「C」評価が2つ以上ある。
D:「D」評価が1つ以上ある。
【0094】
【0095】
【0096】
表2~3に示すように、本発明を適用した実施例1~16は、総合評価が「S」~「C」であった。
これに対して、ブタジエン成分の含有量が本発明の範囲外である比較例1は、表面性の評価が「D」で、総合評価が「D」だった。ブタジエン成分の含有量が本発明の範囲外である比較例2は、反り量の評価が「D」で、総合評価が「D」だった。ブタジエン成分を含有せず、ブタジエン成分の含有量が本発明の範囲外である比較例3は、表面性の評価が「D」で、総合評価が「D」だった。
【0097】
図5に実施例5の発泡板の表面の写真を示す。
図5に示すように、実施例5の発泡板の表面にはさざなみの発生が見られず、表面性に優れていることが分かった。
【0098】
図6に比較例3の発泡板の表面の写真を示す。
図6に示すように、比較例3の発泡板の表面にはさざなみの発生がはっきりと見られ、外観を損ねていることが分かった。
【0099】
これらの結果から、本発明のポリスチレン系樹脂発泡体によれば、曲げ強度に優れ、反りが少なく、かつ、表面性に優れることが分かった。