(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138200
(43)【公開日】2024-10-07
(54)【発明の名称】純水製造装置及び純水製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20240927BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20240927BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C02F1/42 A
C02F1/42 B
B01D61/14 500
B01D61/02 500
B01D61/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024124934
(22)【出願日】2024-07-31
(62)【分割の表示】P 2020133258の分割
【原出願日】2020-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西村 究
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大場 将純
(57)【要約】
【課題】イオン交換樹脂の内部状態を把握でき、高品質の純水又は超純水を安定して供給することが可能な純水製造装置及び純水製造方法を提供する。
【解決手段】純水又は超純水を製造するための混床塔17又はポリッシャー装置24、25内に収容されるイオン交換樹脂と接触するように配置され、イオン交換樹脂の導電率を測定する樹脂導電率計3を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水又は超純水を製造するための混床塔又はポリッシャー装置内に収容されるイオン交換樹脂と接触するように配置され、前記イオン交換樹脂の導電率を測定する樹脂導電率計を備えたことを特徴とする純水製造装置。
【請求項2】
前記樹脂導電率計の数値に応じてアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合割合を算出するための演算機を備えたことを特徴とする請求項1記載の純水製造装置。
【請求項3】
前記樹脂導電率計の数値に応じて前記イオン交換樹脂のホウ素の吸着状態を算出するための演算機を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の純水製造装置。
【請求項4】
前記樹脂導電率計が、前記混床塔又は前記ポリッシャー装置の出口から60cm以上となる高さに少なくとも1か所配置されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の純水製造装置。
【請求項5】
前記ポリッシャー装置が、一次純水から超純水を精製するサブシステム内のポリッシャー装置である請求項1~4のいずれか1項に記載の純水製造方法。
【請求項6】
純水又は超純水を製造する純水製造方法において、
前記純水又は前記超純水を製造するための混床塔又はポリッシャー装置内に収容されるイオン交換樹脂と接触するように樹脂導電率計を配置し、
前記イオン交換樹脂の導電率の変化に基づいて、前記混床塔又はポリッシャー装置内のアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合割合、及び/又は、前記イオン交換樹脂のホウ素の吸着状態を推定すること
を含む純水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水製造装置及び純水製造方法に関し、特に、超純水の製造に好適な純水製造装置及び純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の製造、半導体の製造、発電用ボイラー水、食品などに使用される純水もしくは超純水を製造するためのイオン交換方式純水製造装置が知られている。イオン交換方式純水製造装置は、原水をイオン交換樹脂等に接触させ、原水に含まれるアニオンおよびカチオン成分をイオン交換反応により除去し、純水を製造する装置である。イオン交換樹脂は、定期的に酸およびアルカリにより再生することで、繰り返し使用することができる。
【0003】
近年、半導体の高集積化などにより、純水製造装置に求められる純水の純度が高くなるとともに、再生に用いられる薬品の使用量を抑え、ランニングコストを極限まで低減することが求められている。しかしながら、再生頻度および再生薬品量の調整を適切に行わないと、イオン交換樹脂の再生不良が起こり、純水の水質低下のリスクが高まる。
【0004】
再生頻度の決定方法として従来から行われる最もオーソドックスな方法は、原水のイオン濃度を一定とみなし、一定量の原水の通水量を超えた場合に、イオン交換樹脂の再生をする方式である。
【0005】
しかしながら、原水のイオン濃度が季節変動などにより上昇した場合、再生頻度が足りなくなるため、処理水の水質が低下する。季節変動を見越して薬品量や再生頻度を多く設定すると、無駄に薬品を消費するため、ランニングコストが上昇する。
【0006】
イオン交換樹脂は、原水に含まれる有機物等の汚れにより経年劣化するため、季節変動がなくても純水製造装置のイオン交換能力が低下し、処理水水質が低下していく。純水製造装置のイオン交換能力の低下を考慮した薬品量及び再生頻度を設定すると、ランニングコストが更に上昇する問題もある。
【0007】
これらの問題を解決する手段の一つとして、例えば特開平3-181384号公報(特許文献1)に記載されるように、原水の導電率を測定してイオン負荷を演算し、原水のイオン負荷を考慮したうえでイオン負荷を求め、再生頻度を決定する方式がある。
【0008】
更に別の従来技術としては、イオン交換樹脂塔の再生廃液のpHを測定し、測定値に基づいて再生剤の通薬量の監視を行うことにより再生に用いる薬品の使用量を抑える方法(特開平9-117679号公報(特許文献2))や、処理水中のシリカを分析計により測定する方法等がある。
【0009】
更に、特開2014-188456号公報(特許文献3)には、被処理水をアニオン交換樹脂層に通水してアニオン交換処理し、得られた処理水の比抵抗又は電気導電率を測定し、測定結果に基づいて、アニオン交換樹脂の再生又は交換を行うイオン交換樹脂装置の運転方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3-181384号公報
【特許文献2】特開平9-117679号公報
【特許文献3】特開2014-188456号公報
【特許文献4】特許第6315721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1~3に記載された発明のいずれも、イオン交換樹脂が充填された塔の外部に測定計を配置してイオン交換塔内の内部状態を間接的に予測することが行われているだけで、イオン交換塔内の内部状態を直接測定してはいない。そのため、イオン交換樹脂塔の内部状態を適切に把握できているとはいえない場合がある。
【0012】
一般的な半導体製造工程で要求される超純水の水質は、抵抗率18MΩ・cm以上とされている。しかしながら、近年の半導体素子の一層の高集積化及び高密度化に伴い、超純水の要求水質レベルも高まっており、超純水中の不純物イオン濃度はppbからpptレベルへと向かってきている。超純水の製造に際しては、イオン交換樹脂からの不純物イオンの溶出に加えて超純水と接する超純水製造装置内の材料構成成分の溶出等の影響も無視できなくなってきており、要求される高品質の超純水を常時安定して供給することが困難となる場合もある。
【0013】
例えば超純水を製造する純水製造装置においては、原水の通水量が一定量を超えた場合に、ポリッシャー装置を丸ごと定期的に交換する措置が一般的に取られている。通常、ポリッシャー装置には、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂が混合された状態で投入されている。アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂は所定の比率で均一な混合状態で投入されていることが好ましいが、投入時の状態、或いは再生後の状態に応じては、それぞれの樹脂が偏在することがあり、塔内部の状態を検出することが困難である。また、例えば、ホウ素、シリカ等の成分は弱電解質でありイオン交換樹脂への吸着力が低く、超純水中に溶出するおそれがある。そのため、現在は、ポリッシャー装置内のイオン交換樹脂のイオン交換能力を使い切ることなく、まだ交換容量があるにもかかわらず安全のためにポリッシャー装置を交換し、及び交換後のイオン交換樹脂を再生する作業が行われているのが現状である。
【0014】
上記課題を鑑み、本発明は、イオン交換樹脂の内部状態を把握でき、高品質の純水又は超純水を安定して供給することが可能な純水製造装置及び純水製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、混床塔或いはポリッシャー装置内に配置されるイオン交換樹脂の導電率を測定することで、例えば、導電率の値に応じてアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が混床塔或いはポリッシャー装置内部でどのような状態で混合されているのか、或いは、ホウ素やシリカ等の弱電解質の交換状態を検出することが有効であることを見出した。
【0016】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態に係る純水製造装置は一側面において、純水又は超純水を製造するための混床塔又はポリッシャー装置内に収容されるイオン交換樹脂と接触するように配置され、イオン交換樹脂の導電率を測定する樹脂導電率計を備えた純水製造装置である。
【0017】
本発明の実施の形態に係る純水製造装置は一実施態様において、樹脂導電率計の数値に応じてアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合割合を算出するための演算機を備える。
【0018】
本発明の実施の形態に係る純水製造装置は別の一実施態様において、樹脂導電率計の数値に応じてイオン交換樹脂のホウ素の吸着状態を算出するための演算機を備える。
【0019】
本発明の実施の形態に係る純水製造装置は更に別の一実施態様において、樹脂導電率計が、混床塔又はポリッシャー装置の出口から少なくとも60cm以上となる高さに少なくとも1か所配置される。
【0020】
本発明の実施の形態に係る純水製造装置は更に別の一実施態様において、ポリッシャー装置が、一次純水から超純水を精製するサブシステム内のポリッシャー装置である。
【0021】
本発明は別の一側面において、純水又は超純水を製造する純水製造方法において、純水又は超純水を製造するための混床塔又はポリッシャー装置内に収容されるイオン交換樹脂と接触するように樹脂導電率計を配置し、イオン交換樹脂の導電率の変化に基づいて、混床塔又はポリッシャー装置内のアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合割合、及び/又は、イオン交換樹脂のホウ素の吸着状態を推定することを含む純水製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、イオン交換樹脂の内部状態を把握でき、高品質の純水又は超純水を安定して供給することが可能な純水製造装置及び純水製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態に係る純水製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合を変化させた条件における樹脂導電率の測定結果の例を示すグラフである。
【
図3】新品の混床塔内のイオン交換樹脂に純水を通水してイオン交換樹脂の導電率の変化を測定した結果の例を示すグラフである。
【
図4】アニオン交換樹脂にホウ素含有水を通水した時の、通水時間と処理水のホウ素イオン濃度を示した例を示すグラフである。
【
図5】ホウ素交換樹脂(B形)とアニオン交換樹脂(OH形)の樹脂導電率の測定結果を示すグラフである。
【
図6】第1変形例に係る純水製造装置の一例を示す概略図である。
【
図7】第2変形例に係る純水製造装置の一例を示す概略図である。
【
図8】第3変形例に係る純水製造装置の一例を示す概略図である。
【
図9】第4変形例に係る純水製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0025】
(純水製造装置)
本発明の実施の形態に係る純水製造装置は、
図1に示すように、被処理水を処理する一次純水システム1と二次純水システム(サブシステム)2とを備える。一次純水システム1は、例えば、砂ろ過装置11、活性炭装置12、カチオン交換塔13、アニオン交換塔14、紫外線照射(UV)装置15、逆浸透膜(RO)装置16、及び混床塔17及び脱気膜を備える脱気装置18を備えることができる。
【0026】
二次純水システム2は、例えば、一次純水システム1で得られた純水を貯蔵する超純水槽21、TOC-UV装置22、脱気装置23、ポリッシャー装置24、25、限外ろ過膜(UF)装置26を備えることができる。
【0027】
以下に限定されるものではないが、典型的には、一次純水システム1における処理によって、比抵抗が例えば25℃で約10MΩ・cm程度、典型的には0.01~15MΩ・cm、導電率が0.1~100μS/cm程度の純水が得られる。二次純水システム2における処理によって、導電率が18MΩ・cm程度、典型的には更には18.248MΩ・cm、導電率が0.05482μm/cmもの超純水が得られる。二次純水システム2で得られる超純水は、超純水槽21に循環される。例えば、半導体製造装置等で超純水を使用する場合には循環水の一部を引き抜いて使用する。
【0028】
図1に示す純水製造装置においては、被処理水に対して、砂ろ過処理、活性炭処理、イオン交換処理、膜処理、脱気処理を行うことによって、被処理水中に含まれる例えば塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ホウ素イオン、シリカ等を除去する。一方、特に、ホウ素イオン及びシリカは弱電解質であり、ホウ素イオン及びシリカ以外のイオンに比べてイオン交換樹脂へ吸着しにくく、容易に溶出しやすい。一方で、ホウ素イオン及びシリカは微量に含まれており、各装置から流出する流出水の導電率やpHを測定するだけでは検出が困難である。
【0029】
そこで、本実施形態では、純水又は超純水を製造するための一次純水システム1又は二次純水システム2内に設置される混床塔17内又はポリッシャー装置24、25内にイオン交換樹脂の導電率を測定するための導電率計(以下「樹脂導電率計」という)3を配置する。
【0030】
混床塔17内又はポリッシャー装置24、25内に収容されるイオン交換樹脂の導電率を樹脂導電率計3で直接測定することにより、混床塔17内又はポリッシャー装置24、25内に収容されるイオン交換樹脂の内部状態をオンタイムで把握でき、その内部状態から、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合状態が把握できると共に、イオン交換樹脂の最適な再生時期の推定することができる。
【0031】
樹脂導電率計3としては、イオン交換樹脂の導電率を測定することが可能な構成であれば特に限定されない。なお、樹脂導電率計3を構成する部材の純水及び超純水への成分流出を抑制するために、混床塔17内又はポリッシャー装置24、25内に挿入される部分を被覆材で被覆した樹脂導電率計3が利用されることが好ましい。
【0032】
イオン交換樹脂としては、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを含む。アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂は任意の比率で投入することができるが、例えば、交換容量比で1:1、体積容量比で1:2となるように調整されることが好ましい。或いは、イオン交換樹脂としては、純水又は超純水中のホウ素を吸着して取り除くホウ素交換樹脂もまた好ましい。
【0033】
樹脂導電率計3は、イオン交換樹脂のホウ素イオンの交換帯の長さを考慮して挿入されることが好ましく、例えば、混床塔17又はポリッシャー装置24、25の出口の高さ(樹脂充填部の最下端の高さ)よりも、少なくとも60cm以上、更には70cm以上の高い位置に配置されることが好ましい。更に、樹脂導電率計3を、混床塔17又はポリッシャー装置24、25の高さ方向に沿って、少なくとも1点、好ましくは任意の複数点、典型的には3点配置することで、樹脂導電率計3が設置された断面でのアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合、即ち、樹脂導電率計3が挿入された位置近傍のアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の単位面積当たりの重量比やホウ素イオンのリークをより詳しく把握することができるため、イオン交換樹脂の内部状態を外部から容易に把握することができる。
【0034】
図2は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合を変化させた条件における樹脂導電率の測定結果の例を示す。アニオン交換樹脂(
図2の「OH形存在比率」)が50-70%の場合が最も樹脂導電率が低くなる。この場合は両者がほぼ均等に配分されていることを示している。アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂がほぼ当量で混合された状態で樹脂導電率がゼロ付近になる理由は定かでないが、カチオン交換樹脂のプラスチャージとアニオン交換樹脂マイナスチャージが打ち消しあった状態と推測される。
【0035】
一方で、アニオン交換樹脂の割合が30%(OH割合、この時カチオン交換樹脂の割合は70%)、或いはアニオン交換樹脂の割合が80%(OH割合、この時カチオン交換樹脂の割合は20%)の時は、樹脂導電率が0.5mS/m程度まで上昇することが分かる。よって、樹脂導電率の数値を測定することで、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合割合を推測及び可視化することが可能となる。両チャージのバランスが崩れると樹脂導電率が上昇すると推測される。
【0036】
以下に限定されるものではないが、このような特性を利用して、例えば、混床塔17又はポリッシャー装置24、25内のイオン交換樹脂と接触するように配置した樹脂導電率計の数値に応じて、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混合割合を演算する演算機を備える。これにより、イオン交換樹脂の内部状態、特にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の混合状態とホウ素の吸着状態を把握することができる。
【0037】
演算機としては、当業者間に周知の汎用の計算機等が利用でき、具体的構成は特に限定されない。演算器による演算結果を、例えば、操作者のモニタ等の出力装置に出力できるように構成すれば、混床塔17又はポリッシャー装置24、25内のイオン交換樹脂の混合状態を、出力装置を介して、操作者が視覚的に認識することができる。これにより、イオン交換樹脂の混合状態の操作者への可視化が可能となる。
【0038】
演算機の代わりに、操作者が、
図2に示すようなグラフ等を用いて、樹脂導電率計3の樹脂導電率の測定値の変化を手動で評価することにより、イオン交換樹脂の内部状態を評価してもよいことは勿論である。また、例えば、樹脂導電率が所定の閾値を超えた場合に、操作者に警告を促す警告手段等を更に備えることで、高品質の純水又は超純水を安定して供給することが可能となる。
【0039】
図3は、新品の混床塔内のイオン交換樹脂に純水を通水してイオン交換樹脂の導電率の変化を測定した結果の例を示す。
図3の「樹脂部導電率」はイオン交換樹脂の導電率値を示し、「純水部導電率」は樹脂を除いた液相(純水)の導電率値を示す。
図3の「Run1」は、初期状態の樹脂導電率であって、両イオン交換樹脂が良好に混合された状態を示す。この場合は、樹脂導電率の値が極めて低く0.5mS/m未満である。純水部導電率の値は更にもっと低い値を示す。
【0040】
一方、
図3の「Run2」は新品のカチオン交換樹脂とホウ素とが飽和交換されたアニオン交換樹脂をRun1と同様な比率で混合した状態の導電率を表す。この場合は樹脂導電率が2mS/mまで上昇する。純水部導電率の値も若干上昇するが上昇率は非常に低い。
図3に示す例によれば、アニオン交換樹脂のOH部位にホウ素がイオン交換されることで、樹脂導電率が上昇することが分かる。よって、本実施形態によれば、樹脂導電率の導電率の変化を測定することにより、樹脂導電率計3が挿入された高さ断面におけるイオン交換樹脂へのホウ素の吸着量を把握することができ、交換容量の可視化とリークタイミングを演算することが可能となる。
【0041】
更に、本実施形態に係る樹脂導電率計3を用いて、その樹脂導電率の値の変化を観察することによって、ホウ素イオンのイオン交換バンドの入口側から出口側への推移を把握することもできる。
【0042】
図4は、アニオン交換樹脂にホウ素含有水を通水した時の、通水時間と処理水のホウ素イオン濃度を示した例を示す。ホウ素濃度は7500mg/L程度で、通水LVは1.6m/hとした。結果から、ホウ素は通水20~25分の間でリークが確認された。また、処理水のホウ素濃度が原水のホウ素濃度がほぼ同様となったのは通水60分頃であった。
【0043】
イオン交換樹脂の交換帯の長さは次式で表される。
流入濃度(eq/L)×LV(m/h)×ΔT(h)/(入口濃度と平衡になるイオン交換容量(eq/L-R)+空隙率×流入濃度(eq/L))
【0044】
今回の場合、流入濃度は0.68(eq/L)、入口濃度と平衡になるイオン交換容量は0.88(eq/L-R)、空隙率は0.74とした。この時、ホウ素イオンの交換帯の長さは52cmとなった。
【0045】
純水製造装置において最もリークしやすい物質はシリカやホウ素である。特にホウ素の吸着量は、他のイオンの1/1000程度と言われており、他のイオンよりも選択性が低く、リークのリスクは高い。通常、混床塔17ではアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを均一に混合させて処理するが、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が均一に混合されない場合がある。そのような、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂が塔内で偏在化している場合は、ホウ素が急激にリークするという問題がある。
【0046】
図5は、ホウ素交換樹脂(B形)とアニオン交換樹脂(OH形)の樹脂導電率の測定結果を示す。測定方法は、300mLビーカーに150mLのホウ素交換樹脂と純水を入れ、樹脂部と純水部の25℃における導電率を測定したものである。導電率は卓上導電率計で測定した結果を示す。
図5から、ホウ素交換樹脂(R-B)の導電率が2.42mS/mで、アニオン交換樹脂(R-OH)の樹脂導電率が5.66mS/mであり、樹脂導電率は、R-OH>R-Bであることが分かる。更に、
図3および
図5の結果から、所定のアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂を当量混合し、純水を通水して導電率の変化を測定した結果、樹脂部導電率は純水中のホウ素の吸着により上昇したが、純水部導電率は大きな変化が見られなかったことから、樹脂部導電率を直接測定することで、イオン交換樹脂のホウ素交換を検知できることが分かる。
【0047】
(変形例)
本発明の実施の形態に係る純水製造装置は、
図1に示す構成の他にも種々の装置態様を含むことができる。例えば、
図6に示すように、第1変形例に係る純水製造装置は、
図1の一次純水システム1のカチオン交換塔13及びアニオン交換塔14の代わりにRO装置19を備え、UV装置15の代わりに脱気装置18を備える点が、
図1に示す純水製造装置と異なる。第1変形例に係る純水製造装置によれば、RO装置16のイオン負荷が高くなる一方で、操作が簡便で、装置を小型化に貢献できる。
【0048】
図7に示すように、第2変形例に係る純水製造装置は、
図6の一次純水システム1のRO装置16及び混床塔17の代わりにカチオン交換塔13及びアニオン交換塔14を備える点が、
図6に示す純水製造装置と異なる。第2変形例に係る純水製造装置によれば、第1変形例に比べるとイオン交換樹脂のみで済み、より効率的な運転を行うことができる。
【0049】
図8に示すように、第3変形例に係る純水製造装置は、一次純水システム1が、砂ろ過装置11及び活性炭装置12に続き、カチオン交換塔13、脱気装置18及びアニオン交換塔14による2床3塔で構成され、その後RO装置16によるRO処理を行うように構成されていてもよい。第3変形例に係る純水製造装置によれば、
図1に比べるとポリッシャーを設置しない分、操作が簡便になる。但し、超純水槽21にかかるイオン負荷も高くなる。
【0050】
図9に示すように、第4変形例に係る純水製造装置は、一次純水システム1が、砂ろ過装置11及び活性炭装置12に続き、RO装置19、脱気装置18を備え、その後電気再生式イオン交換装置111により電気再生式イオン交換処理を行うように構成されていてもよい。
【0051】
このように、本発明は上記の実施の形態及び変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。本発明は上記の開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得るものである。
【符号の説明】
【0052】
1…一次純水システム
2…二次純水システム
3…樹脂導電率計
11…砂ろ過装置
12…活性炭装置
13…カチオン交換塔
14…アニオン交換塔
15…UV装置
16…RO装置
17…混床塔
18…脱気装置
19…RO装置
21…超純水槽
22…TOC-UV装置
23…脱気装置
24、25…ポリッシャー装置
26…UF装置
111…電気再生式イオン交換装置