(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138211
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】樹脂部材の抗ウイルス処理方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20241001BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241001BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C08J7/00 Z CER
C08J5/18 CEZ
B29C33/38
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023040766
(22)【出願日】2023-03-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 真依
(72)【発明者】
【氏名】松本 啓佑
【テーマコード(参考)】
4F071
4F073
4F202
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AF52
4F071AG25
4F071AH03
4F071AH04
4F071AH11
4F071AH12
4F071AH19
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC08
4F073AA06
4F073AA32
4F073BA08
4F073BB01
4F073GA05
4F073HA02
4F073HA05
4F202AD28
4F202AF01
4F202AF16
4F202AG05
4F202CA09
4F202CA19
4F202CB01
4F202CD24
(57)【要約】
【課題】樹脂部材に優れた抗ウイルス性を付与し得る樹脂部材の抗ウイルス処理方法を提供すること。
【解決手段】金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、金属部材の表面に粗化形状を形成する粗化処理工程と、金属部材の表面に形成した粗化形状を樹脂部材の表面に転写することにより、樹脂部材の表面に抗ウイルス性を付与する転写工程とを備える樹脂部材の抗ウイルス処理方法。粗化処理工程は、前処理ステップと、本処理ステップと、後処理ステップとの3ステップを有するものであることが好ましい。マイクロエッチング剤は、有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤および過酸化水素系マイクロエッチング剤からなる群より選択される少なくとも1種のマイクロエッチング剤であることが好ましい。樹脂部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂であることが好ましい。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、前記金属部材の表面に粗化形状を形成する粗化処理工程と、
前記金属部材の表面に形成した粗化形状を樹脂部材の表面に転写することにより、前記樹脂部材の表面に抗ウイルス性を付与する転写工程とを備えることを特徴とする樹脂部材の抗ウイルス処理方法。
【請求項2】
前記粗化処理工程が、前処理ステップと、本処理ステップと、後処理ステップとの3ステップを有するものである請求項1に記載の樹脂部材の抗ウイルス処理方法。
【請求項3】
前記マイクロエッチング剤が、有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤および過酸化水素系マイクロエッチング剤からなる群より選択される少なくとも1種のマイクロエッチング剤である請求項1に記載の樹脂部材の抗ウイルス処理方法。
【請求項4】
前記樹脂部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂である請求項1に記載の樹脂部材の抗ウイルス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材の抗ウイルス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は特に、COVID-19、いわゆる新型コロナウイルス感染症の感染予防のために、人が手で触れる部材などの表面に抗ウイルス性を付与することが要求されている。
【0003】
下記特許文献1には、部材の表面にショット材を投射する投射処理(以下、「ブラスト処理」ともいう)を施すことにより、特定の凹凸ピッチ幅および凹部の深さの幅を有する微小凹凸を無数にランダムに形成することで、部材の当該表面に抗ウイルス作用を持たせる抗ウイルス表面処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
抗ウイルス性の評価基準として、「抗ウイルス活性値」があり、特許文献1に記載の技術では、比較対象(ステンレス板材)は抗ウイルス性を示さないが、抗ウイルス表面処理方法を施すと抗ウイルス活性値が25℃で24時間経過後に0.4~0.7を示す。しかしながら、本発明者らが検討した結果、ブラスト処理では部材の表面にショット材を投射する投射処理を施す関係上、部材の裏面に向かって凸な形状しか付与することができないため、特許文献1に記載の技術で得られる抗ウイルス性では不十分で、さらなる抗ウイルス性の向上を図る必要があることが判明した。
【0006】
上記に鑑み、本発明は、樹脂部材に優れた抗ウイルス性を付与し得る樹脂部材の抗ウイルス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は下記構成により解決し得る。本発明は、金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、前記金属部材の表面に粗化形状を形成する粗化処理工程と、前記金属部材の表面に形成した粗化形状を樹脂部材の表面に転写することにより、前記樹脂部材の表面に抗ウイルス性を付与する転写工程とを備えることを特徴とする樹脂部材の抗ウイルス処理方法(1)に関する。
【0008】
上記樹脂部材の抗ウイルス処理方法(1)において、前記粗化処理工程が、前処理ステップと、本処理ステップと、後処理ステップとの3ステップを有するものである樹脂部材の抗ウイルス処理方法(2)が好ましい。
【0009】
上記樹脂部材の抗ウイルス処理方法(1)または(2)において、前記マイクロエッチング剤が、有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤および過酸化水素系マイクロエッチング剤からなる群より選択される少なくとも1種のマイクロエッチング剤である樹脂部材の抗ウイルス処理方法(3)が好ましい。
【0010】
上記樹脂部材の抗ウイルス処理方法(1)~(3)のいずれかにおいて、前記樹脂部材が熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂である樹脂部材の抗ウイルス処理方法(4)が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法によれば、優れた抗ウイルス性、具体的には高い抗ウイルス活性値を示す樹脂部材を提供し得る。ブラスト処理に比して、より優れた抗ウイルス性を樹脂部材に付与できる理由は明らかではないが、以下の理由が推定可能である。
【0012】
部材の表面にショット材を投射する投射処理を施す関係上、基本的にブラスト処理では部材の裏面に向かって凸な形状しか形成できない。一方、本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法では、粗化処理工程において、金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、金属部材の表面を粗化することにより、金属部材の表面に粗化形状を形成する。したがって、後述の実験結果が示すとおり、ブラスト処理により形成される粗化面に比して、遥かに複雑な形状を金属部材の表面に形成し得る。そして、転写工程において、金属部材の表面に形成される複雑な形状(粗化形状)を樹脂部材の表面に正確に転写することにより、樹脂部材の表面に金属部材の表面と同等に複雑な形状を形成することができる。なお、本発明の粗化処理工程および転写工程によって樹脂部材の表面に形成される複雑な形状(粗化形状)により得られる抗ウイルス性が、他の処理方法、特にはブラスト処理により金属表面に付与し得る抗ウイルス性に比して著しく優れる点は、本発明者らにより初めて見出されたものである。
【0013】
なお、金属部材の表面に形成される複雑な形状(粗化形状)は、抗ウイルス性だけでなく抗菌性も示す。本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法は、金属部材の表面に形成される複雑な形状(粗化形状)を樹脂部材の表面に正確に転写することにより、樹脂部材の表面に金属部材の表面と同等に複雑な形状を形成することができるため、樹脂部材に対し、抗ウイルス性だけでなく抗菌性も付与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(未処理)銅板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図2】(未処理)銅板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図3】実施例1で使用する(粗化処理1)銅板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図4】実施例1で使用する(粗化処理1)銅板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図5】実施例2で使用する(粗化処理2)銅板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図6】実施例2で使用する(粗化処理2)銅板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図7】比較例1の(未処理)PP板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図8】比較例1の(未処理)PP板表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図9】実施例1で製造した樹脂部材((転写処理1)PP板)表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図10】実施例1で製造した樹脂部材((転写処理1)PP板)表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図11】実施例2で製造した樹脂部材((転写処理2)PP板)表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図12】実施例2で製造した樹脂部材((転写処理2)PP板)表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図13】粗化処理を実施していない未処理のステンレス部材の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図14】粗化処理を実施していない未処理のステンレス部材の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【
図15】未処理のステンレス部材の表面をブラスト処理した後の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)。
【
図16】未処理のステンレス部材の表面をブラスト処理した後の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法は、金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、金属部材の表面に粗化形状を形成する粗化処理工程と、金属部材の表面に形成した粗化形状を樹脂部材の表面に転写することにより、樹脂部材の表面に抗ウイルス性を付与する転写工程とを備える。まず、粗化処理工程について以下に説明する。
【0016】
<粗化処理工程>
粗化処理工程では、金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、金属部材の表面に粗化形状を形成する。本発明において使用可能な金属部材としては、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス、チタン、チタン合金、鉄または鉄合金などが挙げられる。これらの中でも、本発明においては金属部材としてアルミニウム、アルミニウム合金、銅または銅合金を使用することが好ましく、銅を使用することがより好ましい。金属部材の形状や大きさは適宜設計可能である。なお、ブラスト処理では、部材の表面にショット材を投射する関係上、抗ウイルス性を付与する金属部材の処理面(表面)は平坦面であることが好ましい。一方、本発明においては、金属部材の表面にマイクロエッチング剤を接触させて、金属部材の表面を粗化する関係上、金属部材の処理面は平坦面に限られず、任意の形状の表面に抗ウイルス性を付与し得る点も特徴である。
【0017】
粗化処理工程で使用するマイクロエッチング剤としては、例えば有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤、または過酸化水素系マイクロエッチング剤などが使用可能である。
【0018】
有機酸系マイクロエッチング剤としては、例えば、有機酸、金属イオン源、ハロゲン化物イオン源などを含有する水溶液からなるマイクロエッチング剤などが挙げられる。
【0019】
無機酸系マイクロエッチング剤としては、例えば、無機酸、金属イオン源、ハロゲン化物イオン源などを含有する酸性水溶液からなるマイクロエッチング剤などが挙げられる。
【0020】
アルカリ系マイクロエッチング剤としては、例えば、アルカリ源、両性金属イオン源、硝酸イオン、チオ化合物などを含有する水溶液からなるマイクロエッチング剤などが挙げられる。
【0021】
過酸化水素系マイクロエッチング剤としては、例えば、過酸化水素および硫酸を主剤とする水溶液からなるマイクロエッチング剤などが挙げられる。
【0022】
本発明の金属部材の粗化処理工程を1ステップで行ってもよいが、製造する金属部材の表面により複雑な形状(粗化形状)を形成するために、2ステップで行うことが好ましく、前処理ステップと、本処理ステップと、後処理ステップとの3ステップで行うことが特に好ましい。以下において、3ステップで粗化処理工程を行う実施態様を説明する。
【0023】
前処理ステップでは、例えば希硝酸や過酸化水素および硫酸を主剤とする水溶液からなる過酸化水素系ソフトエッチング剤、上記アルカリ源、両性金属イオン源、硝酸イオン、チオ化合物などを含有する水溶液などのアルカリ系ソフトエッチング剤などに、少なくとも金属部材の処理面を浸漬させるステップが例示可能である。処理温度としては、例えば15~40℃、処理時間としては3秒~10分程度が例示可能である。
【0024】
本処理ステップでは、上記の有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤、または過酸化水素系マイクロエッチング剤などに、少なくとも金属部材の処理面を浸漬させるステップが例示可能である。処理温度としては、例えば10~40℃、処理時間としては5秒~10分程度が例示可能である。
【0025】
後処理ステップでは、例えば希硝酸などに、少なくとも金属部材の処理面を浸漬させるステップが例示可能である。処理温度としては、例えば15~40℃、処理時間としては3~40秒程度が例示可能である。
【0026】
粗化処理工程後には、金属部材の表面に複雑な粗化形状が形成される。粗化処理工程後に金属部材の表面に形成される複雑な粗化形状の具体例については後述する。
【0027】
<転写工程>
次に、転写工程について説明する。転写工程では、金属部材の表面に形成した粗化形状を樹脂部材の表面に転写することにより、樹脂部材の表面に抗ウイルス性を付与する。本発明において抗ウイルス処理可能な樹脂部材としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては例えば、ポリプロピレン、ポリアクリル樹脂、ABS樹脂などの汎用プラスチック;6ナイロン、66ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテルなどのエンジニアリングプラスチック;ポリフェニレネーテル、液晶ポリマー、ポリエーテルイミドなどのスーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。熱硬化性樹脂としては例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。UV硬化性樹脂としては例えば、アクリル系樹脂およびエポキシ系樹脂などが挙げられる。
【0028】
金属部材の表面に形成した粗化形状を熱可塑性樹脂の表面に転写する方法としては、例えば金属部材の粗化形状面と樹脂部材の抗ウイルス処理を施す面とを重ね合わせ、プレス機を用いて熱プレスする方法が挙げられる。一方、金属部材の表面に形成した粗化形状を熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂の表面に転写する方法としては、例えば粗化形状を形成した金属部材の粗化形状面を少なくとも含むモールドを形成し、これに熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂の原料成分を流し込み、硬化させた後、樹脂部材を脱型することにより、金属部材の表面に形成した粗化形状を熱硬化性樹脂またはUV硬化性樹脂の表面に転写する方法が挙げられる。
【0029】
転写工程後には、樹脂部材の表面に複雑な粗化形状が形成される。転写工程後に樹脂部材の表面に形成される複雑な粗化形状の具体例については後述する。
【0030】
本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法により、抗ウイルス性に優れた樹脂部材を製造することができるが、抗ウイルス性の程度を示す抗ウイルス活性値は、JIS R1756:2020(可視光応答型光触媒、抗ウイルス、フィルム密着法)を参考として、以下の計算式より算出可能である。
VD=Log(BD)-Log(CD) (1)
上記式(1)において、VDは抗ウイルス活性値、Dは暗所、Bは無加工品感染価、Cは加工品感染価を示す。
【0031】
上記のとおり、本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法により、抗ウイルス性に優れた樹脂部材を製造することができる。したがって、本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法は、家電製品、住宅建材/設備、トイレ関係施設/用品、キッチン関係施設/用品、浴室関係施設/用品、事務用機器・事務用品、印刷(印刷物、ラミネート加工品や紙)、輸送機器、産業用機器・産業用品(フィルム、食品などの包装資材/フィルム、梱包資材など)、医療・介護・ヘルス、通信関係・アクセサリ、ペット用品、日用品(靴、清掃用品、コスメなど)などに使用される樹脂部材に抗ウイルス性を付与する処理方法として特に有用である。
【0032】
本発明に係る樹脂部材の抗ウイルス処理方法は、金属部材の表面に形成される複雑な形状(粗化形状)を樹脂部材の表面に正確に転写することにより、樹脂部材の表面に金属部材の表面と同等に複雑な形状を形成することができるため、樹脂部材に対し、抗ウイルス性だけでなく抗菌性も付与し得る。このため、前記で例示した用途に使用される樹脂部材に抗菌性を付与する処理方法としても有用である。
【実施例0033】
以下に、本発明に係る実施形態の一例を説明するが、かかる説明に本発明は何ら限定されるものではない。
【0034】
「無加工品」として、Ref.(-)(ガラス板)を準備した。つぎに、未使用の銅板(100mm×100mm×t1.3mm)を、粗化処理を実施していない未処理の銅部材として準備した。この(未処理)銅部材の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図1、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図2に示す。
図1および
図2、特に
図2の写真を参照しても、(未処理)銅部材の表面に凹凸は全くなく、鏡面に近いことがわかる。
【0035】
粗化形状を表面に転写していない(未処理および未使用の)ポリプロピレン(PP)板(50mm×50mm×t≦1mm)を準備した。この(未処理)PP板の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図7、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図8に示す。
図7および
図8、特に
図8の写真を参照しても、(未処理)PP板の表面に凹凸は全くなく、鏡面に近いことがわかる。(未処理)PP板を比較例1とする。
【0036】
実施例1
未使用の銅板(100mm×100mm×t1.3mm)に対し、以下の条件で粗化処理工程(前処理ステップ、本処理ステップ、後処理ステップの3ステップ)を実施した(以下では、実施例1での粗化処理工程を「粗化処理1」という)。各ステップの条件を以下に示す。
(前処理ステップ)
硫酸過水系ソフトエッチング剤を用いて、処理対象である銅板の表面をスプレー処理。処理温度:25℃。処理時間:20秒。
(本処理ステップ)
前処理に続いて、有機酸系マイクロエッチング剤(有機酸、金属イオン源、ハロゲン化物イオン源などを含有する水溶液からなるマイクロエッチング剤)を用いて、処理対象である銅板の表面をスプレー処理。処理温度:30℃。処理時間:50秒。
(後処理ステップ)
本処理に続いて、希塩酸を用いて、処理対象である銅板の表面をスプレー処理。処理温度:25℃。処理時間:15秒。
【0037】
実施例1の粗化処理工程(粗化処理1)後に得られた銅板(「(粗化処理1)銅板」とする)の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図3、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図4に示す。
図3の写真から、粗化処理工程1により、銅板の表面全体に複雑な粗化形状が形成されていることがわかる。特に
図4の写真を参照すると、銅板の表面には任意の方向に凸形状が形成されていることがわかる
【0038】
参考として、粗化処理を実施していない未処理のステンレス部材の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図13、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図14、次に未処理のステンレス部材の表面をブラスト処理した後の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図15、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図16に示す。
図13と
図15、
図14と
図16を対比しても明らかなとおり、ブラスト処理では単に部材の裏面に向かって凸な形状しか形成できないため、ステンレス表面に複雑な粗化形状は形成できないことがわかる。一方、
図3および
図4、特に
図4の写真を参照すると、(粗化処理1)銅板の表面には、ブラスト処理を行ったステンレス表面に比して、遥かに複雑な粗化形状が形成されていることがわかる。
【0039】
つぎに、(粗化処理1)銅板の粗化形状面と(未処理)PP板の抗ウイルス処理を施す面とを重ね合わせ、プレス機を用いて熱プレスすることにより、(粗化処理1)銅板の表面に形成された粗化形状を、(未処理)PP板の表面に転写した(転写工程)。以下では、実施例1での転写工程を「転写処理1」という。表1に熱プレス条件を示す。
【0040】
【0041】
実施例1の転写工程(転写処理1)後に得られたPP板(「(転写処理1)PP板」とする)の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図9、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図10に示す。
図9の写真から、転写処理1により、PP板の表面全体に複雑な粗化形状が形成されていることがわかる。特に
図10の写真を参照すると、PP板の表面には任意の方向に凸形状が形成されていることがわかる。つまり、単に部材の裏面に向かって凸な形状しか形成できないブラスト処理に比して、遥かに複雑な粗化形状がPP板の表面に形成されていることがわかる。
【0042】
実施例2
未使用の銅板(100mm×100mm×t1.3mm)に対し、以下の条件で粗化処理工程(前処理ステップ、本処理ステップ、後処理ステップの3ステップ)を実施した(以下では、実施例2での粗化処理工程を「粗化処理2」という)。各ステップの条件を以下に示す。
(前処理ステップ)
硫酸過水系ソフトエッチング剤を用いて、処理対象である銅板の表面をスプレー処理。処理温度:25℃。処理時間:20秒。
(本処理ステップ)
前処理に続いて、有機酸系マイクロエッチング剤(有機酸、金属イオン源、ハロゲン化物イオン源などを含有する水溶液からなるマイクロエッチング剤)を用いて、処理対象である銅板の表面をスプレー処理。処理温度:30℃。処理時間:150秒。
(後処理ステップ)
本処理に続いて、希塩酸を用いて、処理対象である銅板の表面をスプレー処理。処理温度:25℃。処理時間:15秒。
【0043】
実施例2の粗化処理工程(粗化処理2)後に得られた銅板(「(粗化処理2)銅板」とする)の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図5、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図6に示す。
図5の写真から、粗化処理工程2により、銅板の表面全体に複雑な粗化形状が形成されていることがわかる。特に
図6の写真を参照すると、銅板の表面には任意の方向に凸形状が形成されていることがわかる。つまり、単に部材の裏面に向かって凸な形状しか形成できないブラスト処理に比して、遥かに複雑な粗化形状が銅板の表面に形成されていることがわかる。
【0044】
つぎに、(粗化処理2)銅板の粗化形状面と(未処理)PP板の抗ウイルス処理を施す面とを重ね合わせ、プレス機を用いて熱プレスすることにより、(粗化処理2)銅板の表面に形成された粗化形状を、(未処理)PP板の表面に転写した(転写工程)。なお、(粗化処理1)銅板に代えて(粗化処理2)銅板を使用したこと以外は同じ熱プレス条件で転写工程を実施した。実施例2での転写工程を「転写処理2」という)。
【0045】
実施例2の転写工程(転写処理2)後に得られたPP板(「(転写処理2)PP板」とする)の表面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1500倍)を
図11、走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を
図12に示す。
図11の写真から、転写処理2により、PP板の表面全体に複雑な粗化形状が形成されていることがわかる。特に
図12の写真を参照すると、PP板の表面には任意の方向に凸形状が形成されていることがわかる。つまり、単に部材の裏面に向かって凸な形状しか形成できないブラスト処理に比して、遥かに複雑な粗化形状がPP板の表面に形成されていることがわかる。
【0046】
[抗ウイルス性評価]
Ref.(-)(ガラス板)を無加工品として、比較例1の(未処理)PP板、および実施例1~2の樹脂部材の抗ウイルス処理方法を実施したPP板((転写処理1)PP板および(転写処理2)PP板)の抗ウイルス性を以下の条件により評価した。
[試験規格]
JIS R1756:2020(可視光応答型光触媒、抗ウイルス、フィルム密着法)を参考
[無加工品名]
Ref.(-)(ガラス板)
[試験品名]
(未処理)PP板(比較例1)、(転写処理1)PP板(実施例1)、(転写処理2)PP板(実施例2)
[試験品(PP板)大きさ]
50mm×50mm×t≦1mm
[n数]
n=1
[試験ファージ]
・バクテリオファージQβ(NBRC 20012)[宿主大腸菌(NBRC 106373)];結果を表2に示す。
・バクテリオファージφ6(NBRC 105899、JIS規格外)[宿主Pseudomonas syringae(NBRC 14084)];結果を表3に示す。
[試験ファージの希釈液]
1/500NB
[試験品の無菌化]
UV254nmでの殺菌(表裏各15分)
[作用条件]
温度25℃、暗所、作用時間0時間、8時間
[密着フィルム]
ポリプロピレンフィルム(VF-10,KOKUYO)、40mm×40mm
【0047】
【0048】
表2に記載のとおり、実施例1および実施例2で得られた(転写処理1)PP板および(転写処理2)PP板は、暗所25℃で8時間経過後に感染価が著しく低下した。また、それに伴い抗ウイルス活性値も同様に暗所25℃で8時間経過後に4.9または5.3まで上昇した。これらの結果から、実施例1および実施例2の樹脂部材の抗ウイルス処理方法により製造された樹脂部材は、非常に複雑な粗化形状が樹脂部材の表面に形成されていることに起因して、抗ウイルス性に関し、顕著な効果を奏することが理解できる。
【0049】
【0050】
表3に記載のとおり、実施例1および実施例2で得られた(転写処理1)PP板および(転写処理2)PP板は、暗所25℃で8時間経過後に感染価が著しく低下した。また、それに伴い抗ウイルス活性値も同様に暗所25℃で8時間経過後に3.4または4.9まで上昇した。これらの結果から、実施例1および実施例2の樹脂部材の抗ウイルス処理方法により製造された樹脂部材は、非常に複雑な粗化形状が樹脂部材の表面に形成されていることに起因して、試験ファージ如何を問わず、つまりノロウイルスやインフルエンザウイルス、さらにはコロナウイルスを問わず、抗ウイルス性に関し、顕著な効果を奏することが理解できる。
前記マイクロエッチング剤が、有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤および過酸化水素系マイクロエッチング剤からなる群より選択される少なくとも1種のマイクロエッチング剤である請求項1に記載の樹脂部材の抗ウイルス処理方法。
前記マイクロエッチング剤が、有機酸系マイクロエッチング剤、無機酸系マイクロエッチング剤、アルカリ系マイクロエッチング剤および過酸化水素系マイクロエッチング剤からなる群より選択される少なくとも1種のマイクロエッチング剤である請求項1に記載の樹脂部材の抗ウイルス処理方法。