(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138217
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】アイドラプーリ
(51)【国際特許分類】
F16H 55/36 20060101AFI20241001BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20241001BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241001BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
F16H55/36 Z
F16C33/76 Z
F16C19/06
F16J15/16 B
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028130
(22)【出願日】2024-02-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2023039660
(32)【優先日】2023-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】塩井 佑也
【テーマコード(参考)】
3J031
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J031AC10
3J031BA08
3J031CA02
3J043AA16
3J043BA06
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA11
3J043DA20
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB05
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB06
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC33
3J216CC70
3J216DA11
3J216FA03
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701DA09
3J701EA02
3J701EA49
3J701FA13
3J701GA01
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における異物の軸受の内部への侵入を防止できるアイドラプーリを提供する。
【解決手段】ベルト6に接触する外筒部111と、外筒部111の内側に同心状に位置するボス部112と、外筒部111の幅方向中央部とボス部112の幅方向中央部とを連結する連結部113とを有するプーリ11、プーリ11の回転軸となるベース12、プーリ11とベース12との間に位置する転がり軸受13、及び、転がり軸受13の両側面に設けられた一対のダストカバー14及び15とを有するアイドラプーリ1であって、ダストカバー14及び15は、転がり軸受13の両側面、及び、ボス部112のフランジ112D及び112Eの外周部を覆っており、ボス部112は、外周面に凹状の環状溝112B及び112Cを有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトと接触する外筒部と、前記外筒部の内側に同心状に位置するボス部と、前記外筒部の幅方向中央部と前記ボス部の幅方向中央部とを連結する連結部と、を有するプーリと、
前記プーリの回転軸となるベースと、
前記プーリと前記ベースとの間に位置する軸受と、
前記軸受の両側面に設けられた一対のダストカバーと、
を有するアイドラプーリであって、
前記一対のダストカバーは、前記軸受の両側面、及び、前記ボス部の外側且つ幅方向端部を覆っており、
前記ボス部は、外周面に凹状の環状溝を有する、アイドラプーリ。
【請求項2】
前記ボス部の幅方向端部は、前記環状溝の底面よりも外側に形成されている、請求項1に記載のアイドラプーリ。
【請求項3】
前記軸受は、
外輪と、
内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に分離保持された複数の転動体と、
前記外輪又は前記内輪の一方に支持され、前記外輪又は前記内輪の他方に弾性接触し、前記外輪と前記内輪との間の空間の両側の開口部を覆う一対の接触シールと、
を有する転がり軸受である、請求項1又は2に記載のアイドラプーリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張り具合やベルトのレイアウトの調整用に使用されるアイドラプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
補機駆動ユニット(ベルトシステム)においては、自動車エンジンの動力によってオルタネータ、ウォータポンプ、エアコンディショナー用コンプレッサー(AC)等の補機が駆動される。補機駆動ユニット(ベルトシステム)は、例えば、
図1のように、補機の駆動軸(回転軸)に連結され、ベルトが巻き掛けられる補機プーリ(オルタネータプーリ等)と、単に基軸部(回転しない軸体)に回転自在に連結されるアイドラプーリとを備えている。
アイドラプーリには、ベルトの張り具合やベルトのレイアウトの調整用に単独でエンジンブロックに取り付けられてベルトに接触するアイドラプーリ1(
図1の(A))や、ベルトの張力を自動的に適度に保つオートテンショナの揺動アームに取り付けられてベルトに押し付けられるアイドラプーリ1´(
図1の(B))などがある。
【0003】
一般に、アイドラプーリは、外筒部(ベルト案内輪)とボス部とを連結部で連結した構成のプーリが、ボス部の内周面に接触する転がり軸受を介して、ベース(基軸部)に回転自在に連結される構造をしている(
図2参照)。
【0004】
このようなアイドラプーリは、自動車エンジンの補機駆動ユニットに組み込まれている状態においては、外部に露出する。そのため、転がり軸受の外部から飛来してくる泥水等の異物(水、泥、粉塵など)が転がり軸受の内部に入り込み易く、その異物の侵入によって転がり軸受に不具合が生じる場合がある。
【0005】
通常、泥水等の異物の転がり軸受の内部への侵入を防止するため、アイドラプーリの転がり軸受に対して、シール構造が設けられる(
図2参照)。シール構造は、(A)転がり軸受のシール及び(B)転がり軸受のカバーを含む。
【0006】
(A)転がり軸受のシール
補機駆動ユニットに設けられるアイドラプーリに備わる転がり軸受は、通常、グリースが封入された、接触シール式の密閉形玉軸受が用いられる。接触シール式の密閉形玉軸受は、外輪と、外輪の内周に配置された内輪と、内輪と外輪との間に転動自在に配置された複数の玉と、複数の玉の両側に配置された環状の接触シールとを有する。接触シールはゴム状弾性体と板金で形成されている。接触シールの外周縁が外輪に固定され、接触シールの内周縁に形成されたリップ部が内輪のシール面に弾性接触することで、その接触面圧の程度により外部からの異物の侵入を防止する。
【0007】
しかし、上記接触面圧を大きくし過ぎると、転がり軸受の回転抵抗を増加させてしまうことから、充分に接触面圧を大きくすることができない。結果的に、上記通常の転がり軸受のシール構造では、異物の転がり軸受内部への侵入を完全に防止することができない。
【0008】
(B)転がり軸受のカバー(ダストカバー)
外部から飛来してくる泥水等の異物が転がり軸受周辺に直接付着することによって、転がり軸受の接触シールが損傷するのを防止するために、転がり軸受の側面及びボス部の端部外周を覆うダストカバーが、転がり軸受の内輪の側面際に取り付けられる。
【0009】
しかし、昨今では、車種や使用地域の拡大に伴い、自動車の使用環境が過酷になっており、そのような過酷な使用環境下でも、泥水等の異物が転がり軸受の内部へ侵入するのを防止する必要がある。そのためには、上記通常のシール構造だけでは不十分である。
【0010】
この点、特許文献1~5には、シール構造に対して様々に改良したアイドラプーリが開示されている(表1参照)。
例えば、転がり軸受のシールに関して、特許文献1、4では接触シールに加えてスリンガを設け、2重のシールを設ける態様が開示されている。また、転がり軸受のカバーに関して、特許文献2ではカバーの内周面に撥水加工(コーティング)を付加する態様、特許文献3、5ではボス部の端部外周をも覆うカバーにシールを付加する態様、特許文献4ではプーリの一方の開口部全体を覆うカバーを設ける態様が開示されている。
【0011】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2015-194175号公報
【特許文献2】特開2017-026034号公報
【特許文献3】特開2015-052363号公報
【特許文献4】特開2018-035835号公報
【特許文献5】特開平5-322005号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1~5では、転がり軸受のシールや転がり軸受のカバーに関して、新たな部材を付加するなどしており、部品点数が増加してしまい、汎用性の観点から望ましくない場合がある。
即ち、アイドラプーリは、比較的構造が簡素なプーリ構造体として汎用的に使用されるものであることから、新たな部材を付加するなどの特別な設計は避け、汎用性(比較的簡素な構造)を有するのが望ましい(課題1)。
【0014】
また、アイドラプーリにおいて、異物が転がり軸受の内部に侵入する経路について分析をした。
具体的には、自動車等が湿潤路面を走行した場合、エンジンルーム内へ泥水等が巻き上げられて、エンジンブロック側面に位置する補機駆動ユニットに泥水等が付着する。特に、冠水路面を走行した場合には、巻き上げられた泥水は、補機駆動ユニットに容易に到達し得る。そして、巻き上げられた泥水は、(a)直接プーリ(連結部等)に付着し、プーリの連結部から、プーリのボス部を経由して、転がり軸受に到達するだけでなく、(b)ベルトに付着し、プーリの外筒部(ベルト案内輪)から、プーリの連結部及びプーリのボス部を経由して、転がり軸受に到達する場合もある(
図3参照)(課題2)。
上記(b)の場合は、アイドリングストップ等で停車中もしばらくはベルトを伝って泥水がプーリに付着すると考えられる。
【0015】
そこで、上記観点から、本発明では、比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における異物の軸受の内部への侵入を防止できるアイドラプーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ベルトと接触する外筒部と、前記外筒部の内側に同心状に位置するボス部と、前記外筒部の幅方向中央部と前記ボス部の幅方向中央部とを連結する連結部と、を有するプーリと、
前記プーリの回転軸となるベースと、
前記プーリと前記ベースとの間に位置する軸受と、
前記軸受の両側面に設けられた一対のダストカバーと、
を有するアイドラプーリであって、
前記一対のダストカバーは、前記軸受の両側面、及び、前記ボス部の外側且つ幅方向端部を覆っており、
前記ボス部は、外周面に凹状の環状溝を有する、アイドラプーリに関する。
【0017】
上記構成によれば、自動車等が湿潤路面(特に冠水路面)を走行中、エンジンルーム内へ巻き上げられた泥水等の異物が、ベルトに付着して、アイドラプーリのプーリの外筒部、連結部、ボス部の各表面を伝わってきたとしても、伝ってきた泥水等の異物を、ボス部の外周面に形成された凹状の環状溝内に回収しつつ、環状溝の底面を周方向に伝わらせて下方から外部へ排出することができる。
これにより、泥水等の異物が、直接プーリ(連結部等)に付着する場合だけでなく、ベルトを伝ってプーリに付着する場合でも、泥水等の異物が軸受の内部へ侵入するのを防止することができる。
また、上記構成では、部品の増加や組付け性の悪化につながるような特別な設計(新たなシール構造の付加など)は必要なく、汎用性(比較的簡素な構造)を確保することができる。即ち、比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における泥水等の異物の軸受の内部への侵入を防止することができる。
【0018】
また、本発明では、上記アイドラプーリにおいて、前記ボス部の幅方向端部が、前記環状溝の底面よりも外側に形成されていてもよい。
【0019】
上記構成によれば、環状溝内に一旦回収した泥水等の異物を、環状溝の底面を周方向に伝わらせて下方から外部へ排出する際に、泥水等の異物が、環状溝の底面から、直接ダストカバーとボス部の幅方向端部との間を伝わって軸受の内部へ侵入するのを防止することができる。
【0020】
また、本発明では、上記アイドラプーリにおいて、前記軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に分離保持された複数の転動体と、前記外輪又は前記内輪の一方に支持され、前記外輪又は前記内輪の他方に弾性接触し、前記外輪と前記内輪との間の空間の両側の開口部を覆う一対の接触シールとを有する転がり軸受であってもよい。
【0021】
軸受に、接触シール付きの転がり軸受を使用した場合、外輪と内輪との間への泥水等の異物の混入防止のために、接触シールの外輪又は内輪への接触面圧を大きくすると、転がり軸受の回転抵抗を増加させてしまう場合がある。
上記アイドラプーリでは、軸受に接触シール付きの転がり軸受を使用した場合であっても、一対のダストカバー及びボス部の外周面に設けた、凹状の環状溝がある。そのため、接触シールの外輪又は内輪への接触面圧を大きくせずとも、外輪と内輪との間に泥水等の異物が混入することを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における異物の軸受の内部への侵入を防止できるアイドラプーリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、補機駆動ユニットのレイアウトの説明図である。
【
図2】
図2は、従来(比較例)のアイドラプーリの縦断面図である。
【
図3】
図3は、従来(比較例)のアイドラプーリにおける泥水等の異物の侵入経路の説明図である。
【
図4】
図4は、本実施形態(実施例)のアイドラプーリの縦断面図である。
【
図5】
図5は、本実施形態(実施例)のアイドラプーリにおける泥水等の異物の侵入経路の説明図である。
【
図6】
図6は、アイドル耐久試験機の説明図である。
【
図7】
図7は、本実施形態のアイドラプーリをオートテンショナに使用した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、本発明のアイドラプーリ1(アイドラプーリ1´)を、自動車エンジンの動力によってオルタネータ、ウォータポンプ(WP)、エアコンディショナー用コンプレッサー(AC)等の補機を駆動する補機駆動ユニット10(ベルトシステム)に適用した一例として説明する。
【0025】
(補機駆動ユニット10)
補機駆動ユニット10では、
図1に示すように、エンジン動力の駆動軸に連結されたクランクプーリ2と、オルタネータの回転軸に連結されたオルタネータプーリ3、ウォータポンプの回転軸に連結されたウォータポンププーリ4と、エアコンディショナー用コンプレッサーの回転軸に連結されたエアコンディショナー用コンプレッサープーリ5とに、ベルト6が巻き掛けられている。そして、ウォータポンププーリ4とエアコンディショナー用コンプレッサープーリ5との間には、アイドラプーリ1が、エンジンブロックに取り付けられている。アイドラプーリ1は、ベルト6の張り具合やベルト6のレイアウトの調整用にベルト6の外周面に接触する。また、クランクプーリ2とオルタネータプーリ3との間には、オートテンショナ7がエンジンブロックに取り付けられている。オートテンショナ7は、ベルト6の張力を自動的に適度に保つ。オートテンショナ7の揺動アーム71に、ベルト6の外周面に接触するアイドラプーリ1´が取り付けられている。なお、本実施形態では、アイドラプーリ1について説明する。
【0026】
(アイドラプーリ1)
アイドラプーリ1は、例えば、
図4に示すように、ベルト6の外周面に接触するプーリ11と、プーリ11の回転軸となるベース12と、プーリ11とベース12との間に圧入された転がり軸受13と、転がり軸受13の両側面に設けられた一対の環状のダストカバー14及び15とを備えることができる。
【0027】
(プーリ11)
プーリ11は、
図4に示すように、ベルト6の外周面に接触する外筒部111、外筒部111の内側に同心状に位置するボス部112、及び、外筒部111の幅方向中央部とボス部112の幅方向中央部とを連結する連結部113を有する。
【0028】
ボス部112は、幅方向一端側の内周面に環状のフランジ112Aを有する。また、ボス部112の外周面には、連結部113を挟んで、凹状の環状溝112B及び112Cが形成されている。詳細には、環状溝112Bは、ボス部112の幅方向他端側の外周面に形成された環状のフランジ112D(ボス部112の幅方向他端側の端部に相当)と、連結部113の他端側側面と、ボス部112の外周面によって形成されている。環状溝112Cは、ボス部112の幅方向一端側の外周面に形成された環状のフランジ112E(ボス部112の幅方向一端側の端部に相当)と、連結部113の一端側側面と、ボス部112の外周面によって形成されている。
【0029】
環状溝112B及び112Cの溝深さ(フランジ112D及び112Eの高さ)は、溝幅(ひいては溝の断面積)にも依るが、例えば2~4mm程度である。当該溝深さが2mmを下回ると、伝ってきた泥水を完全に排出できない場合がある。一方、当該溝深さが4mmを上回ると、切削加工(溝入れ加工)により環状溝112B及び112Cを形成できない場合がある。
【0030】
(ベース12)
ベース12は、筒形状をしており、ボルト16によってエンジンブロック(不図示)に取り付けられている。ベース12は、幅方向一端側の外周面に環状のフランジ12Aを有する。
なお、ベース12としては、フランジを一端に有する筒状のベースを2つ用いてもよい。この場合、アイドラプーリの幅方向中心線に対して、各々のベースが対称かつ隔離した位置関係に配される。こうすることで、同一形状及び寸法のベースを2つ有する1組のベースを、幅が異なる複数のアイドラプーリに対して兼用することができる。
【0031】
(転がり軸受13)
転がり軸受13は、ボス部112の内周面に当接する外輪131、ベース12の外周面に当接する内輪132、外輪131の内周面に形成された幅方向断面が弧状の溝と内輪132の外周面に形成された幅方向断面が弧状の溝との間に分離保持された複数の転動体133、及び、外輪131と内輪132との間の空間の両側の開口部を覆う一対の接触シール134を備えている。転がり軸受13は、ボス部112の内周面とベース12の外周面との間に圧入されている。
【0032】
接触シール134では、その外周部が、外輪131の内周面の両端部に形成された接触シール保持溝で支持されている。接触シール134では、その内周部が、内輪132の外周面の両端部に形成された当接面に弾性接触している。接触シール134は、外輪131と内輪132との間の空間を密閉している。
なお、接触シール134では、その内周部が、内輪132の外周面の両端部に形成された接触シール保持溝で支持されていてもよい。接触シール134では、その外周部が、外輪131の内周面の両端部に形成された当接面に弾性接触していてもよい。
【0033】
(ダストカバー14及び15)
ダストカバー14では、その内周部が、内輪132の他端側側面とボルト16のフランジ161との間に挟持されている。ダストカバー14は、転がり軸受13の他端側側面及びボス部112の他端側側面に沿って他端側に張り出した形状をしている。ダストカバー14の外周部は、フランジ112Dの外周部を覆っている。即ち、ダストカバー14は、転がり軸受13の他端側側面、及び、ボス部112の外側且つ幅方向他端側に設けられたフランジ112Dの外周部を覆っている。
【0034】
同様に、ダストカバー15では、その内周部が、内輪132の一端側側面とベース12のフランジ12Aとの間に挟持されている。ダストカバー15は、転がり軸受13の一端側側面及びボス部112の一端側側面に沿って一端側に張り出した形状をしている。ダストカバー15の外周部は、フランジ112Eの外周部を覆っている。即ち、ダストカバー15は、転がり軸受13の一端側側面、及び、ボス部112の外側且つ幅方向一端側に設けられたフランジ112Eの外周部を覆っている。
【0035】
また、ダストカバー14及び15は、環状溝112B及び112Cに混入した異物を外部へ排出するため(異物の排出を妨げないため)、環状溝112B及び112Cを覆わない形状をしている。
【0036】
また、ダストカバー14及び15の外周部とボス部112のフランジ112D及び112Eの外周部との間の隙間の大きさは、異物の転がり軸受13への侵入防止の観点から、微小であることが好ましい。ただし、プーリ11の回転抵抗を考慮すると、ダストカバー14及び15をボス部112のフランジ112D及び112Eに接触させることは好ましくない。このため、当該隙間は、転がり軸受13が単列配置で使用される場合(
図4参照)や転がり軸受13に遊びが生じた場合を考慮し、プーリ11に角度振れが生じてもダストカバー14及び15の外周部がボス部112のフランジ112D及び112Eの外周部に接触しない大きさ(例えば0.5mm程度)が好ましい。
【0037】
上記構成によれば、自動車等が湿潤路面(特に冠水路面)を走行中、エンジンルーム内へ巻き上げられた泥水等の異物が、
図5に示すように、補機駆動ユニット10のベルト6に付着して、アイドラプーリ1のプーリ11の外筒部111の側面及び内周面から、連結部113の側面を経由して、ボス部112に伝わってきたとしても、伝ってきた泥水等の異物を、ボス部112の外周面に形成された凹状の環状溝112B及び112C内に回収しつつ、環状溝112B及び112Cの底面(ボス部112の外周面)を周方向に伝わらせて下方から外部へ排出することができる。
これにより、泥水等の異物が、直接プーリ11の連結部113等に付着する場合だけでなく、ベルト6を伝ってプーリ11に付着する場合でも、泥水等の異物が転がり軸受13の内部へ侵入するのを防止することができる。
また、上記構成では、部品の増加や組付け性の悪化につながるような特別な設計(新たなシール構造の付加など)は必要なく、汎用性(比較的簡素な構造)を確保することができる。即ち、比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における泥水等の異物の転がり軸受13の内部への侵入を防止することができる。
【0038】
また、上記構成では、ダストカバー14及び15の外周部が覆う、ボス部112の幅方向両端部に設けられたフランジ112D及び112Eの外周部は、環状溝112B及び112Cの底面(ボス部112の外周面)よりも外周側に形成されている。
これにより、環状溝112B及び112Cの内部に回収した泥水等の異物を、環状溝112B及び112Cの底面を周方向に伝わらせて下方から外部へ排出する際に、泥水等の異物が、環状溝112B及び112Cの底面から、直接、ダストカバー14及び15の外周部とフランジ112D及び112Eの外周部との間を伝わって転がり軸受13の内部へ侵入するのを防止することができる。
【0039】
なお、仮に、泥水等の異物が、ダストカバー14及び15の外周部とボス部112のフランジ112D及び112Eの外周部との間の隙間から転がり軸受13際(転がり軸受13とダストカバー14及び15とに挟まれた空間)に入り込んだとしても、転がり軸受13のシール構造を通常使用される接触シール134にしておけば、特別な構造(例えば特許文献1、4に記載のスリンガを更に付加)としなくても実用に耐えることができる。
【0040】
また、上記のように軸受に、接触シール134付きの転がり軸受13を使用した場合、外輪131と内輪132との間への泥水等の異物の混入防止のために、接触シール134の内輪への接触面圧を大きくすると、転がり軸受13の回転抵抗を増加させてしまう場合がある。
上記アイドラプーリ1では、軸受に接触シール134付きの転がり軸受13を使用した場合であっても、一対のダストカバー14及び15、並びに、ボス部112の外周面に設けた、凹状の環状溝112B及び112Cがある。そのため、接触シール134の内輪132への接触面圧を大きくせずとも、外輪131と内輪132との間に泥水等の異物が混入することを防止することができる。
【0041】
(アイドラプーリの製造)
プーリ11は、金属で形成されても樹脂で形成されてもよいが、プーリ11のボス部112に形成する凹状の環状溝112B及び112Cがアンダーカット部(そのままの状態では金型からの脱型ができない凹部)を生じさせる。このため、少なくとも環状溝112B及び112Cは、切削加工法(溝入れ加工)により形成するのが好ましい。
この場合、例えば、金型成型加工法で前加工してプーリ11の前駆体を得た後、環状溝112B及び112Cを含む全面を切削加工して仕上げてもよい。また、プーリ11を全て切削加工にて形成する場合は、例えば、切削加工性に優れる快削鋼鋼材を素材とすることが好ましい。
【0042】
ダストカバー14及び15は、通常、例えば、一般構造用炭素鋼鋼管(例えば、JISG3444:2016準拠品であるSTK400)などの金属材料を用いて、プレス成形することで所定の環状形状(リング形状)に仕上げることができる。
【0043】
ベース12は、通常、金属材料を用いて、切削加工法等で所定形状に仕上げる。
【0044】
アイドラプーリ1の組立に関しては、プーリ11のボス部112の内周面に転がり軸受13の外周面(外輪131の外周面)が接触するように、ボス部112に転がり軸受13を圧入して、プーリ11と転がり軸受13とを一体化した、プーリ・転がり軸受組立体を得る。
次に、上記プーリ・転がり軸受組立体を、1対のダストカバー14及び15、並びにベース12とともに、ボルト16を介して、取付対象部位(例えばエンジンブロックの台座)に組み付ける。そうすることで、プーリ11が転がり軸受13によってベース12に対して回転自在に連結されたアイドラプーリ1が完成する。
【0045】
(その他の実施形態)
上記構成のアイドラプーリは、
図1に示すように、ベルト6の張力を自動的に適度に保つオートテンショナ7のアイドラプーリ1´として使用されてもよい。具体的には、アイドラプーリ1´は、
図7に示すように、ベースに所定方向に回動付勢される揺動アーム71に取り付けられて使用されてもよい(
図1の(B)アイドラプーリ1´も参照)。
【実施例0046】
本発明のアイドラプーリでは、比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における泥水等の異物の軸受内への侵入を防止する必要がある。
そこで、本実施例では、実施例および比較例に係るアイドラプーリ(以下、各供試体)を作製し、分解試験、および泥水滴下試験を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0047】
[使用材料]
プーリ:快削鋼鋼材(SUM22)(JISG4804:2008準拠品)
転がり軸受:日本精工(株)製NSK6203(シール:接触シール)(市販品)
なお、シール構造に、特許文献1、4に記載のスリンガ(断面L形の板金)は付加されていなかった。
ダストカバー:一般構造用炭素鋼鋼管(STK400)(JISG3444:2016準拠品)
ベース:快削鋼鋼材(SUM22)(JISG4804:2008準拠品)
【0048】
[アイドラプーリの製造]
プーリおよびベースは、上記使用材料を用いて、切削加工にて作製した。
ダストカバーは、上記使用材料を用いて、プレス成形加工にて作製した。
アイドラプーリの組立は、上記実施形態に記載の方法に準じて行い、後述のアイドル耐久試験機の所定位置にボルトを介して作製したアイドラプーリを組付けた。
【0049】
(作製したアイドラプーリ(供試体)の外観寸法及び形状)
実施例のアイドラプーリは
図4に示し、比較例のアイドラプーリは
図2に示すものである。供試体間の各部構造の違いは、ボス部における環状溝の有無のみで、その他の部分に差異はなかった。
寸法:外径80mm、幅30mm
ボス部の外周面:
実施例では、凹状の環状溝が形成された(周上一律に、深さ4mm×幅4.5mm、溝数2、溝の総断面積36mm
2)。
比較例では、外周面が平坦状に形成された(凹状の環状溝は無し)。
ダストカバーの外径:実施例は57mm、比較例は49mm
ダストカバーの外周部とボス部のフランジの外周部(ボス部の端部外周)との間の隙間の大きさ:実施例、比較例とも0.5mm
【0050】
[アイドラプーリの評価:項目、方法、基準]
各供試体(実施例、比較例)について、本願課題を解決し得るアイドラプーリが得られたかどうかを見極めるために、汎用性(簡素な構造かどうか)、および耐久性(泥水等の異物の転がり軸受内部への侵入の有無)を検証した。
【0051】
[分解試験]
(試験方法)
汎用性(簡素な構造かどうか)を見極めるため、アイドラプーリ(供試体)を分解し、各部の構造(シール構造など)を確認した。
【0052】
(判定基準)
通常のシール構造(接触シール付き転がり軸受、転がり軸受の側面からボス部の端部外周までを覆うダストカバー)に加え、部品の増加や組付け性の悪化につながる特別な設計(新たなシール構造の付加など)が施されていない場合は、アイドラプーリの汎用性(比較的簡素な構造)を確保できると評価し、a判定とした。
上記通常のシール構造に加え、上記特別な設計が施されている場合は、アイドラプーリの汎用性(比較的簡素な構造)を確保できないと評価し、b判定とした。
本用途での実使用に対する適正(アイドラプーリの汎用性)の観点から、a判定のアイドラプーリを合格レベルとした。
【0053】
[泥水滴下試験]
(試験方法)
図6に示すアイドル耐久試験機を用いた。
アイドル耐久試験機は、
図1に示す補機駆動ユニットと同じプーリレイアウト上にVリブドベルトが掛け渡されており、クランクプーリと同軸に固定されたタイミングプーリと、モータの回転軸に連結されたタイミングプーリにタイミングベルトが掛け渡された構成とした。
【0054】
アイドラプーリ(供試体)は、プーリ(外筒部)の外周面がVリブドベルトの背面に接触する態様で、クランクプーリと補機プーリ(オルタネータプーリ)との間に配置した。
アイドラプーリ(供試体)の上方には、泥水滴下装置(図示せず)を配置した。泥水滴下装置は、アイドラプーリの上方に張架されたVリブドベルトの背面に泥水を滴下した。使用した泥水の組成は、水道水が70重量%、JIS-Z8901:2006試験用粉体の8種(関東ローム)が30重量%であった。
【0055】
泥水滴下試験では、実車の徐行運転(アイドリング状態)と停止(アイドリングストップ状態)とを繰り返す走行を想定して、以下の条件でアイドル耐久試験機を作動させた。
クランクプーリの回転数:500~800rpm
アイドラプーリ(供試体)の回転数:3000rpm
アイドラプーリ(供試体)の表面温度:40~50℃
上記の条件でアイドル耐久試験機を作動させつつ、泥水滴下装置での泥水滴下を、表2に示す合計70.5分間を1サイクルとして400サイクル実施した。ベルトに付着した泥水は、Vリブドベルトの移動に伴って飛散あるいはVリブドベルトを伝ってアイドラプーリの表面全体に付着した。さらに、当該泥水は、泥水の摘下が無い運転停止後もしばらくの間Vリブドベルトを伝ってアイドラプーリに付着した。
【0056】
【0057】
(判定基準)
泥水滴下試験終了後、泥水の転がり軸受内部への侵入の有無を調べた。
泥水の転がり軸受内部への侵入の有無の判定は、転がり軸受のシール部材を外して、内部のグリースのにごり状態を目視することで行った。
転がり軸受内部に泥水が侵入した痕跡がない場合(グリースのにごり無し)は、アイドラプーリ(転がり軸受)の耐久性を確保できると評価し、a判定とした。
転がり軸受内部に泥水が侵入した痕跡がある場合(グリースのにごり有り)は、アイドラプーリ(転がり軸受)の耐久性を確保できないと評価し、b判定とした。
本用途での実使用に対する適正(アイドラプーリ(転がり軸受)の耐久性)の観点から、a判定のアイドラプーリを合格レベルとした。
【0058】
(総合判定)
本課題を解決し得るアイドラプーリとしての総合的な判定(ランク付け)の基準は、上記2つの試験項目(汎用性、耐久性)における判定の結果から、以下の通りとした。
ランクA:上記の試験項目で、すべてa判定であった場合は、実用上全く問題ないものと判断し、最良のランクとした。
ランクB:上記の試験項目で、1つでもb判定があった場合は、本課題の解決策として不充分と判断し、不合格のランクとした。
【0059】
(検証結果および考察)
検証結果を表3に示す。
【表3】
【0060】
(実施例、比較例)
転がり軸受のシール(接触シール)、転がり軸受のカバー(ボス部の端部外周までを覆うダストカバー)を同一にしたアイドラプーリにおいて、ボス部の形状を変更し、お互いを比較した。
ボス部の外周面に凹状の環状溝が形成されている場合(実施例)は、凹状の環状溝の付加が部品の増加や組付け性の悪化につながる特別な設計(新たなシール構造の付加など)とは認められず、汎用性がa判定で、かつ、泥水が転がり軸受内部へ侵入した痕跡が無く、耐久性もa判定で、総合評価でもランクAであった。
ボス部の外周面が平坦状で、凹状の環状溝が形成されていない場合(比較例)は、汎用性はa判定であったものの、泥水が転がり軸受内部へ侵入した痕跡があり、耐久性がb判定で、総合評価でもランクBであった。
【0061】
(得られた効果)
表3から、実施例のアイドラプーリは、上記課題1、2に対応し、ボス部の外周面に凹状の環状溝が形成されていることで、比較的簡素な構造で、自動車の過酷な使用環境における異物の転がり軸受の内部への侵入を防止し易くできることが伺えた。
ベルトと接触する外筒部と、前記外筒部の内側に同心状に位置するボス部と、前記外筒部の幅方向中央部と前記ボス部の幅方向中央部とを連結する連結部と、を有するプーリと、
前記プーリの回転軸となるベースと、
前記プーリと前記ベースとの間に位置する軸受と、
前記軸受の両側面に設けられた一対のダストカバーと、
を有するアイドラプーリであって、
前記ボス部は、外周面に凹状の環状溝を有し、
前記ボス部の幅方向端部には、前記環状溝の一部を形成するフランジが、前記環状溝の底面よりも外側に形成されており、
前記一対のダストカバーは、前記軸受の両側面、及び、前記フランジの外周部を覆っている、アイドラプーリ。