(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138291
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】オリゴマー性ホスホン酸シリルエステルを含む電解質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20241001BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241001BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20241001BHJP
H01G 11/64 20130101ALI20241001BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20241001BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/058
H01G11/64
H01G11/60
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024099408
(22)【出願日】2024-06-20
(62)【分割の表示】P 2023017442の分割
【原出願日】2018-12-11
(31)【優先権主張番号】17206915.5
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】メンデス アグデロ,マヌエル アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ヘッカー,ヨハネス ダフィット
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電解質組成物、該電解質組成物を含む電気化学電池、および該電気化学電池の製造方法を提供する。
【解決手段】電解質組成物であって、少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒;少なくとも1つのリチウム塩を含む、少なくとも1つの導電性塩;式(I)の構造を含む、少なくとも1つのホスホン酸シリルエステル;
を含有し、前記電解質組成物は、少なくとも1つのホスホン酸シリルエステルを、前記電解質組成物の総質量に基づいて、0.01~10質量%の量で含むことを特徴とする電解質組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒;
(ii)少なくとも1つの導電性塩;
(iii)式(I)の構造を含む、少なくとも1つのホスホン酸シリルエステル;
【化1】
式中、
Tは、
【化2】
及び
【化3】
から選択され、
pは0~6の整数であり、(CH
2)
pの1つ以上のCH
2基はOで置換されていてもよく、(CH
2)
pの1つ以上のHはC
1~C
4アルキルで置換されていてもよく;
R
1は、それぞれ、H、F、Cl、R
4、OR
4、OSi(R
5)
3、OSi(OR
4)
3、及びOP(O)(OR
4)R
5から独立に選択され;
R
4は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、ここで、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキル、アルケニル、及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよく;
R
3及びR
5は、それぞれ、H、Fそして、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよく;及び
(vi)任意に1種以上の添加剤、
を含有する電解質組成物。
【請求項2】
前記ホスホン酸シリルエステルは、式(II)の構造を含み、
【化4】
式中、
Q
1は化学結合又は式(II.1)の1つ以上のモノマー単位を含むモノマー又はオリゴマー基であり、Q
2は化学結合又は式(II.2)の1つ以上のモノマー単位を含むモノマー又はオリゴマー基であり、
【化5】
式中、
T
*は、それぞれ独立に、Si又はSi-(CH
2)
p-Siであり、pは0から6の整数であり、(CH
2)
pの1つ以上のCH
2基はOで置換されていてもよく、(CH
2)
pの1つ以上のHはC
1~C
4アルキルで置換されていてもよく、及び
T
*がSiの場合、q
1は0から2までの整数、q
2は0から2までの整数、q
1+q
2=2であり、
T
*がSi-(CH
2)
p-Siの場合、q
1は0から4までの整数、q
2は0から4までの整数、q
1+q
2=4であり;
-
*は、分岐による、前記ホスホン酸シリルエステル骨格の続きである、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記ホスホン酸シリルエステルは、式(III)で示され、
【化6】
式中、
R
6及びR
7は、R
8、Si(OR
8)
3及びSi(R
9)
3からそれぞれ独立して選択され;
R
8は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、O原子又はSi原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基がOで置換されていてもよく;及び
R
9は、それぞれ、H、F、Clそして、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから選択され、O原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよい、請求項2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記ホスホン酸シリルエステルは、式(IV)で示され
【化7】
式中、
r
1及びr
2は、それぞれ独立して0から300までの整数である、請求項2又は3に記載の電解質組成物。
【請求項5】
R6及びR7は、C1~C10アルキル、Si(OC1~C10アルキル)3及びSi(R9)3から独立して選択され、
R9は、それぞれ、H、F、Cl、C1~C10アルキルから独立に選択される、請求項3又は4に記載の電解質組成物。
【請求項6】
R1は、それぞれ、H、F、Cl、C1~C10アルキル、及びOC1~C10アルキルから独立に選択され、アルキルは、CN及びFから選択される1つ以上の置換基によって置換されてもよく、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキルの1つ以上のCH2基は、Oによって置換されていてもよい、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項7】
R3は、それぞれ、F及び/又はCNの1つ以上で置換されていてもよいH及びC1~C10アルキルから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキルの1つ以上のCH2基がOで置換されていてもよい、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項8】
前記式(I)の構造は、
【化8】
から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項9】
前記非プロトン性有機溶媒(i)は、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、フッ素化及び非フッ素化されたエーテル及びポリエーテル、フッ素化及び非フッ素化された環状エーテル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状アセタール及びケタール、フッ素化及び非フッ素化されたオルトカルボン酸エステル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状のカルボン酸のエステル及びジエステル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状スルホン、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状ニトリル及びジニトリル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状ホスフェート、およびそれらの混合物から選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒(i)は、フッ素化及び非フッ素化されたエーテル及びポリエーテル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、およびそれらの混合物から選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項11】
前記少なくとも1つの導電性塩(ii)は、リチウム塩から選択される、請求項1~10のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項12】
前記電解質組成物は、電解質組成物の総質量に基づいて、0.01質量%から10質量%の前記ホスホン酸シリルエステルを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の電解質組成物。
【請求項13】
式(1)の構造を含むホスホン酸シリルエステル、
【化9】
式中、
Tは、
【化10】
及び
【化11】
から選択され、
pは0~6の整数であり、(CH
2)
pの1つ以上のCH
2基はOで置換されていてもよく、(CH
2)
pの1つ以上のHはC
1~C
4アルキルで置換されていてもよく;
R
1は、それぞれ、H、F、Cl、R
4、OR
4、OSi(R
5)
3、OSi(OR
4)
3、及びOP(O)(OR
4)R
5から独立に選択され;
R
4は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキル、アルケニル、及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよく;
R
3及びR
5は、それぞれ、H、Fそして、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよい、
の電気化学電池用電解質組成物における使用法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の電解質組成物を含む電気化学電池。
【請求項15】
前記電気化学電池は、リチウム電池、二重層キャパシタ及びリチウムイオンキャパシタである、請求項14に記載の電気化学電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下に定義されるR
3及びTを有する式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルを含有する電解質組成物と、
【化1】
電気化学電池用の電解質組成物における式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルの使用、及び、前記電解質組成物を含む電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの貯蔵は、依然として関心が高まっている問題である。電気エネルギーを効率的に貯蔵することにより、電気エネルギーを、有利なときに生成し、必要なときに使用することを可能にする。電気化学二次電池は、化学エネルギーを電気エネルギーに可逆的に変換(充電可能)するため、この目的に適している。リチウム二次電池は、他のバッテリーシステムと比較して、リチウムイオンの原子量が小さく、得られる電池電圧(通常3~5V)が高いことにより、高いエネルギー密度と比エネルギーを提供するため、エネルギー貯蔵に特に関心を持たれる。そのため、これらのシステムは、携帯電話、ラップトップコンピュータ、ミニカメラ等の多くの携帯電子機器の電源として広く利用されるようになっている。
【0003】
リチウムイオン電池のようなリチウム二次電池では、導電性塩を溶解するための十分な極性溶媒として、有機炭酸塩、エーテル、エステル、イオン液体などが使用されている。一般的に、ほとんどの最新のリチウムイオン電池は、単一の溶媒ではなく、異なる有機非プロトン性溶媒の混合溶媒の溶媒混合物を含む。
【0004】
溶媒及び導電性塩の他に、電解質組成物は通常、電解質組成物及び前記電解質組成物を含む電気化学電池の特定の特性を改善するための添加剤をさらに含有する。一般的な添加剤は、例えば、難燃剤、過充電保護添加剤、及び電極表面での最初の充電/放電サイクル中に反応し、それによって電極上に膜を形成する膜形成添加剤である。電解質組成物に使用するための様々なSi及び/又はP含有添加剤が知られている。
【0005】
US 8,734,668 B2は、B、Al、P、S、F、Cl、Br及びIのようなヘテロ原子をさらに含有してもよいケイ素含有化合物を含む電解質組成物を記載している。
【0006】
EP 2 573 854 A1は、高温環境下での電池抵抗の増大及び電池性能の劣化を抑制するために、シリルエステル基含有ホスホン酸誘導体を含むリチウムイオン電池に使用するための電解質組成物を開示している。
【0007】
US 2013/0164604 A1は、リチウムイオン電池に使用するための電解質組成物における添加剤としての亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル及びビスホスホン酸エステルの使用に言及している。
【0008】
リチウム電池の性能を向上させるため、新規なカソード活性物質が使用されている。これらのカソード活性物質は、より高い比エネルギー及び/又はより高い作動電圧を有している。このようなカソード活性物質の例としては、高エネルギーNCM(Ni、Co及びMnのリチウム化混合酸化物、いわゆるHE-NCM)、付加的な遷移金属を含有する層状構造を有する高電圧マンガンスピネル、及びリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(NCAとも呼ばれる)が挙げられる。これらのカソード活性物質のいくつかは、所望の高い比エネルギーを得るために充電中に高カットオフ電圧を使用しなければならないものがある。これらのカソード活性物質は、例えば、高電圧に対する安定性、O2の放出、遷移金属陽イオンの溶解による金属溶解、貯蔵時のガスの発生などに関して、使用される電解質組成に新たな要求を課している。
【0009】
電気化学電池の性能、特に上述のカソード活性物質を含む電気化学電池の性能、例えば、高い容量維持率、良好な長期性能、高い安全性、ガス発生の減少、及びインピーダンスの蓄積の減少に関して改善する必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、例えば、高い容量維持率、良好な長期性能、高い安全性、ガス発生の減少、及びインピーダンスの蓄積の減少について、電気化学電池の性能を向上させる、電気化学電池で使用するための添加剤を提供することである。特に、高い比エネルギー及び/又は高い作動電圧を有するカソード活性物質を含む電気化学電池の性能を向上させるための添加剤が提供されるべきである。本発明の別の目的は、高い容量維持率、良好な長期性能、及び高い安全性を有する電気化学電池をもたらす電気化学電池用の電解質組成物を提供することである。特に、高い比エネルギー及び/又は高い作動電圧を有するカソード活性物質と共に使用するための電解質組成物が提供されるべきである。本発明の目的はまた、高い容量維持率、良好な長期性能、高い安全性、ガス発生量の減少、及びインピーダンスの蓄積の減少を示す電気化学電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、以下を含有する電解質組成物が提供される。
(i)少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒;
(ii)少なくとも1つの導電性塩;
(iii)式(I)の構造を含有する少なくとも1つのホスホン酸シリルエステル
【化2】
ここで、
Tは、
【化3】
及び
【化4】
から選択され、
pは0から6の整数であり、(CH
2)
pの1つ以上のCH
2基はOで置換されていてもよく、(CH
2)
pの1つ以上のHはC
1~C
4アルキルで置換されていてもよく、
R
1は、それぞれ、H、F、Cl、R
4、OR
4、OSi(R
5)
3、OSi(OR
4)
3、及びOP(O)(OR
4)R
5から独立に選択され、
R
4は、それぞれ、C
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキル、から独立に選択され、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよく、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキル、アルケニル、及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよく、
R
3及びR
5は、それぞれ独立に、H、F、C
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから選択され、CN及びFから選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよく、P原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oによって置換されていてもよい、及び
(iv)任意に1種以上の添加剤。
【0012】
さらに、電気化学電池における式(I)の単位を含有するホスホン酸シリルエステルの電気化学電池での使用、例えば、電気化学電池及び電気化学電池用の電解質組成物における添加剤としての使用が提供される。本発明による電気化学電池は、良好な容量保持、良好な長期性能、電池抵抗の減少、及び高温での貯蔵中のガス発生の減少を示す。式(I)の単位を含有するホスホン酸シリルエステルは、電気化学電池の調製中、貯蔵中及び使用中の条件下で不揮発性であり、これにより、電解質組成物の取り扱い及び貯蔵が容易となる。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
化学的に見ると、電解質組成物は、遊離イオンを含み、その結果として電気伝導性を有する任意の組成物である。電解質組成物は、電気化学電池内で行われる電気化学反応に関与するイオンを移動させる媒体として機能する。リチウム電池の場合、電気化学反応に関与するイオンは、通常、リチウムイオンである。最も一般的な電解質組成物はイオン水溶液であるが、溶融電解質組成物や固体電解質組成物も同様に可能である。したがって、本発明の電解質組成物は、主に溶解状態及び/又は溶融状態で存在する少なくとも1つの物質、すなわちイオン種の移動によって支持される電気伝導度の存在により、電気伝導性媒体である。液体又はゲル電解質組成物において、導電性塩は、通常、1つ以上の非プロトン性有機溶媒に溶解されている。
【0015】
電解質組成物は、少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒(i)を含有する。少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒は、任意にフッ素化非プロトン性有機溶媒、すなわちフッ素化非プロトン性有機溶媒及び非フッ素化非プロトン性有機溶媒から選択されてもよい。電解質組成物は、フッ素化非プロトン性有機溶媒と非フッ素化非プロトン性有機溶媒の混合物を含有してもよい。
【0016】
非プロトン性有機溶媒は、好ましくは、任意にフッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、任意にフッ素化された非環状エーテル及びポリエーテル、任意にフッ素化された環状エーテル、任意にフッ素化された環状及び非環状アセタール及びケタール、任意にフッ素化されたオルトカルボン酸エステル、任意にフッ素化された環状及び非環状カルボン酸のエステル及びジエステル、任意にフッ素化された環状及び非環状スルホン、任意にフッ素化された環状及び非環状ニトリル及びジニトリル、及び任意にフッ素化された環状及び非環状ホスフェート、ならびにそれらの混合物、から選択される。
【0017】
任意にフッ素化された環状カーボネートの例は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネート(BC)であり、ここで、1つ以上のHは、F及び/又はC1からC4アルキル基で置換されていてもよく、例えば、4-メチルエチレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、ならびにシス-及びトランス-ジフルオロエチレンカーボネートで置換されていてもよい。好ましい任意にフッ素化された環状カーボネートは、エチレンカーボネート、モノフルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、特にエチレンカーボネートである。
【0018】
任意にフッ素化された非環状カーボネートの例は、ジ-C1~C10-アルキルカーボネートであり、ここで、各アルキル基は互いに独立して選択され、1つ以上のHがFで置換されていてもよい。好ましくは、任意にフッ素化されたジ-C1~C4-アルキルカーボネートである。例として、例えば、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネート(TFEMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、トリフルオロメチルカーボネート(TFMMC)、及びメチルプロピルカーボネートが挙げられる。好ましい非環状カーボネートは、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジメチルカーボネート(DMC)である。
【0019】
本発明の一実施形態では、電解質組成物は、任意にフッ素化された非環状有機カーボネート及び環状有機カーボネートの混合物を、1:10から10:1、好ましくは3:1から1:1の質量比で含有する。
【0020】
任意にフッ素化された非環状エーテル及びポリエーテルの例は、任意にフッ素化されたジ-C1~C10-アルキルエーテル、任意にフッ素化されたジ-C1~C4-アルキル-C2~C6アルキレンエーテル、任意にフッ素化されたポリエーテル、及び式R’-(O-CFrH2-r)q-R”のフッ素化エーテルであり、式中、R’はC1~C10アルキル基又はC3~C10シクロアルキル基であり、アルキル及び/又はシクロアルキル基の1つ以上のHはFで置換されており、R”は、H、F、C1~C10アルキル基又はC3~C10シクロアルキル基であり、アルキル基及び/又はシクロアルキル基の1つ以上のHはFで置換されており、rは1又は2であり、qは1、2又は3である。
【0021】
本発明によると、任意にフッ素化されたジ-C1~C10-アルキルエーテルの各アルキル基は、他から独立して選択され、アルキル基の1つ以上のHは、Fで置換されていてもよい。任意にフッ素化されたジ-C1~C10-アルキルエーテルの例は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(CF2HCF2CH2OCF2CF2H)及び1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(CF2H(CF2)3CH2OCF2CF2H)である。
【0022】
任意にフッ素化されたジ-C1~C4-アルキル-C2~C6-アルキレンエーテルの例は、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグリム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)及びジエチレングリコールジエチルエーテルである。
【0023】
好適な任意にフッ素化されたポリエーテルの例は、アルキル又はアルキレン基の1つ以上のHがFで置換されていてもよい、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ-C1~C4-アルキレングリコール、特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、共重合形態で1種以上のC1~C4-アルキレングリコールを20mol%まで含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、ジメチル-又はジエチル-エンドキャップポリアルキレングリコールである。好適なポリアルキレングリコール、特に、好適なポリエチレングリコールの分子量Mwは、少なくとも400g/molであり得る。好適なポリアルキレングリコール、特に、好適なポリエチレングリコールの分子量Mwは、5000000g/molまで、好ましくは2000000g/molまでであり得る。
【0024】
式R’-(O-CFpH2-p)q-R”のフッ素化エーテルの例は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(CF2HCF2CH2OCF2CF2H)及び1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(CF2H(CF2)3CH2OCF2CF2H)である。
【0025】
任意にフッ素化された環状エーテルの例は、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、及び、例えば、アルキル基の1つ以上のHがFで置換されていてもよい、2-メチルテトラヒドロフランのようなそれらの誘導体である。
【0026】
任意にフッ素化された非環状アセタールの例は、1,1-ジメトキシメタン及び1,1-ジエトキシメタンである。環状アセタールの例は、1,3-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、及び、例えば1つ以上のHがFで置換されていてもよい、メチルジオキソランなどのそれらの誘導体である。
【0027】
任意にフッ素化された非環状オルトカルボン酸エステルの例は、トリ-C1~C4アルコキシメタン、特に、トリメトキシメタン及びトリエトキシメタンである。好適な環状オルトカルボン酸エステルの例は、1つ以上のHがFで置換されていてもよい、1,4-ジメチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン及び4-エチル-1-メチル-3,5,8-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0028】
カルボン酸の任意にフッ素化された非環状エステルの例は、ギ酸エチルギ酸及びメチル、酢酸エチル及び酢酸メチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸メチルならびにブタン酸エチル及びブタン酸メチル、ならびに1つ以上のHがFで置換されていてもよい、1,3-ジメチルプロパンジオエートのようなジカルボン酸のエステルである。カルボン酸の環状エステル(ラクトン)の例は、γ-ブチロラクトンである。
【0029】
任意にフッ素化された環状及び非環状スルホンの例は、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン及びテトラヒドロチオフェン-S,S-ジオキシド(スルホラン)である。
【0030】
任意にフッ素化された環状及び非環状ニトリル及びジニトリルの例は、1つ以上のHがFで置換されていてもよい、アジポジニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル及びブチロニトリルである。
【0031】
任意にフッ素化された環状及び非環状ホスフェートの例は、アルキル基の1つ以上のHがFで置換されていてもよい、トリアルキルホスフェート、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート及びトリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスフェートである。
【0032】
より好ましくは、非プロトン性有機溶媒は、任意にフッ素化されたエーテル及びポリエーテル、任意にフッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、任意にフッ素化された、カルボン酸の環状及び非環状エステル及びジエステル、ならびにそれらの混合物から選択される。さらにより好ましくは、非プロトン性溶媒は、任意にフッ素化されたエーテル及びポリエーテルならびに任意にフッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、ならびにこれらの混合物から選択される。
【0033】
一実施形態によると、電解質組成物は、フッ素化エーテル及びポリエーテル、例えば、CF2HCF2CH2OCF2CF2H又はCF2H(CF2)3CH2OCF2CF2Hのような上記で定義された式R’-(O-CFpH2-p)q-R”の式フッ素化エーテルの化合物から選択される少なくとも溶媒を含有する。
【0034】
別の実施形態によると、電解質組成物は、フッ素化環状カーボネート、例えば、1-フルオロエチルカーボネートから選択される少なくとも1種の溶媒を含有する。
【0035】
さらなる実施形態によると、電解質組成物は、フッ素化環状カーボネート、例えば、1-フルオロエチルカーボネートから選択される少なくとも1種の溶媒、ならびにフッ素化エーテル及びポリエーテル、例えば、CF2HCF2CH2OCF2CF2H又はCF2H(CF2)3CH2OCF2CF2Hのような上記で定義された式R’-(O-CFrH2-r)s-R”の式フッ素化エーテルの化合物から選択される少なくとも1種の溶媒を含有する。
【0036】
別の実施形態によると、電解質組成物は、少なくとも1種のフッ素化環状カーボネート、例えば、1-フルオロエチルカーボネート及び少なくとも1種の非フッ素化非環状有機カーボネート、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート又はエチルメチルカーボネートを含有する。
【0037】
電解質組成物は、少なくとも1つの導電性塩(ii)を含有する。電解質組成物は、電気化学電池中で生じる電気化学反応に関与するイオンを移動させる媒体として機能する。電解質組成物中に存在する導電性塩(ii)は、通常、非プロトン性有機溶媒(i)中で溶媒和されている。好ましくは、少なくとも1つの導電性塩(ii)は、リチウム塩から選択される。リチウムイオン含有導電性塩の例は、
・ Li[F6-xP(CyF2y+1)x]、式中、xは0~6の範囲の整数であり、yは1~20の範囲の整数であり、
Li[B(RI)4]、Li[B(RI)2(ORIIO)]及びLi[B(ORIIO)2]、式中、各RIは、互いに独立して、F、Cl、Br、I、C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、OC1~C4アルキル、OC2~C4アルケニル及びOC2~C4アルキニルから選択され、アルキル、アルケニル及びアルキニルは、1つ以上のORIIIで置換されていてもよく、ORIIIはC1~C6アルキル、C2~C6アルケニル及びC2~C6アルキニルから選択され、(ORIIO)は、1,2-もしくは1,3-ジオール、1,2-もしくは1,3-ジカルボン酸又は1,2-もしくは1,3-ヒドロキシカルボン酸に由来する二価基であり、二価基は、中心B原子と両方の酸素原子を介して5員環又は6員環を形成している;
・ LiClO4;LiAsF6;LiCF3SO3、;Li2SiF6;LiSbF6;LiAlCl4、Li(N(SO2F)2)、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート;シュウ酸リチウム;ならびに
・ 一般式Li[Z(CnF2n+1SO2)m]の塩、式中、m及びnは以下のように定義され:
Zが酸素及び硫黄から選択される場合、m=1であり、
Zが窒素及びリンから選択される場合、m=2であり、
Zが炭素及びケイ素から選択される場合、m=3であり、
nは、1から20の範囲の整数である。
【0038】
二価基(ORIIO)が由来する適切な1,2-及び1,3-ジオールは、脂肪族又は芳香族であってよく、例えば、任意に、1つ以上のF及び/又は少なくとも1つの直鎖状もしくは分枝状の非フッ素化された、部分的にフッ素化もしくは完全にフッ素化されたC1~C4アルキル基で置換された、1,2-ジヒドロキシベンゼン、プロパン-1,2-ジオール、ブタン-1,2-ジオール、プロパン-1,3-ジオール、ブタン-1,3-ジオール、シクロヘキシル-トランス-1,2-ジオール及びナフタレン-2,3-ジオールから選択され得る。そのような1,2-又は1,3-ジオールの例は、1,1,2,2-テトラ(トリフルオロメチル)-1,2-エタンジオールである。「完全にフッ素化されたC1~C4アルキル基」とは、アルキル基のすべてのH原子がFで置換されていることを意味する。
【0039】
二価基(ORIIO)が由来する適切な1,2-又は1,3-ジカルボン酸は、脂肪族又は芳香族であってよく、例えば、シュウ酸、マロン酸(プロパン-1,3-ジカルボン酸)、フタル酸又はイソフタル酸であってよく、好ましくはシュウ酸である。1,2-又は1,3-ジカルボン酸は、任意に、1つ以上のF、及び/又は少なくとも1つの直鎖状もしくは分枝状の非フッ素化された部分フッ素化もしくは完全にフッ素化されたC1~C4アルキル基によって、置換されている。
【0040】
二価基(ORIIO)が由来する適切な1,2-又は1,3-ヒドロキシカルボン酸は、脂肪族又は芳香族であってよく、例えば、任意に、1つ以上のF、及び/又は少なくとも1つの直鎖状もしくは分枝状の非フッ素化された部分的にフッ素化もしくは完全にフッ素化されたC1~C4アルキル基によって置換された、サリチル酸、テトラヒドロサリチル酸、リンゴ酸及び2-ヒドロキシ酢酸である。そのような1,2-又は1,3-ヒドロキシカルボン酸の例は、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-2-ヒドロキシ-酢酸である。
【0041】
Li[B(RI)4]、Li[B(RI)2(ORIIO)]及びLi[B(ORIIO)2]の例は、LiBF4、リチウムジフルオロオキサラトボレート及びリチウムジオキサラトボレートである。
【0042】
好ましくは、少なくとも1種のリチウムイオン含有導電性塩は、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiBF4、リチウムビス(オキサラト)ボレート、LiClO4、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2F)2及びLiPF3(CF2CF3)3から選択され、より好ましくは、導電性塩は、LiPF6、LiN(SO2F)2及びLiBF4から選択され、最も好ましい導電性塩は、LiPF6である。
【0043】
導電性塩は、通常、全電解質組成物に対して、少なくとも0.1mol/lの最小濃度で存在し、好ましくは、イオン含有導電性塩の濃度は、0.5~2mol/lである。
【0044】
電解質組成物は、式(I)の構造を含む少なくとも1種のホスホン酸シリルエステルを含有し、
【化5】
式中、
Tは、
【化6】
及び
【化7】
から選択され;
pは0~6の整数であり、(CH
2)
pの1つ以上のCH
2基はOで置換されていてもよく、(CH
2)
pの1つ以上のHはC
1~C
4アルキルで置換されていてもよく;
R
1は、それぞれ、H、F、Cl、R
4、OR
4、OSi(R
5)
3、OSi(OR
4)
3、及びOP(O)(OR
4)R
5から独立に選択され;
R
4は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、ここで、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキル、アルケニル、及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよく;
R
3及びR
5は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されてもよいH、F、C
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、ここで、P原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよい。
【0045】
式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルは、電解質組成物の成分(iii)とも呼ばれる。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「C1~C10アルキル」は、1つの自由原子価を有する1~10個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシルなどが挙げられる。好ましいのはC1~C6アルキルであり、より好ましいのはC1~C4アルキルであり、さらに好ましいのはメチル、エチル、及びn-及びイソプロピルであり、最も好ましいのはメチル及びエチルである。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「C3~C7(ヘテロ)シクロアルキル」は、1つの自由原子価を有する飽和3~7員炭化水素環を意味し、飽和環の1つ以上のC原子が、互いに独立して、N、S、O及びPから選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。C3~C7シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、及びシクロヘキシルを含み、好ましいのはシクロヘキシルである。C3~C7ヘテロシクロアルキルの例は、オキシラニル、テトラヒドロフリル、ピロリジル、ピペリジル、モルホリニルである。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「C2~C10アルケニル」は、1つの自由原子価を有する2~10個の炭素原子を有する不飽和直鎖状又は分岐状の炭化水素基を指す。不飽和とは、アルケニル基が少なくとも1つのC-C二重結合を含有することを意味する。C2~C10アルケニルは、例えば、エテニル、プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが含まれる。好ましいのはC2~C6アルケニル基であり、さらに好ましいのはC2~C4アルケニル基であり、さらに好ましいのはエテニル及びプロペニルであり、最も好ましいのはアリルとも呼ばれる1-プロペン-3-イルである。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「C2~C10アルキニル」は、1つの自由原子価を有する2~10個の炭素原子を有する不飽和の直鎖状又は分岐状の炭化水素基を意味し、炭化水素基は少なくとも1つのC-C三重結合を含有する。C2~C6アルキニルは、例えば、エチニル、プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニル、1-デシニルなどが挙げられる。好ましいのは、C2~C6アルキニルであり、さらにより好ましいのは、C2~C4アルキニルであり、さらに好ましいのは、エチニル及び1-プロピン-3-イル(プロパルギル)である。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「C5~C7(ヘテロ)アリール」は、1つの自由原子価を有する芳香族5~7員炭化水素環又は縮合環を示し、芳香族環のC原子のうちの1つ以上が、互いに独立して、N、S、O及びPから選択されるヘテロ原子によって置換されていてもよい。C5~C7(ヘテロ)アリールの例は、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニル、及びフェニルである。好ましいのはフェニルである。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「C6~C13(ヘテロ)アラルキル」は、1つ以上のC1~C6アルキルによって置換された芳香族5~7員炭化水素環を示し、芳香族環のC原子のうちの1つ以上が、N、S、O及びPから選択されるヘテロ原子によって互いに独立して置換されていてもよい。C6~C13(ヘテロ)アラルキル基は、合計で6~13個のC原子及びヘテロ原子を含有し、1つの自由原子価を有する。自由原子価は、芳香族環に位置していても、C1~C6アルキル基に位置していてもよく、すなわち、C6~C13(ヘテロ)アラルキル基は、(ヘテロ)芳香族部分を介して、又は基のアルキル部分を介して結合されていてもよい。C6~C13(ヘテロ)アラルキルの例は、メチルフェニル、2-メチルピリジル、1,2-ジメチルフェニル、1,3-ジメチルフェニル、1,4-ジメチルフェニル、エチルフェニル、2-プロピルフェニル、ベンジル、2-CH2-ピリジルなどがある。
【0052】
R1は、それぞれ、H、F、Cl、R4、OR4、OSi(R5)3、OSi(OR4)3、及びOP(O)(OR4)R5から独立に選択される。
【0053】
R4は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC1~C10アルキル、C3~C7(ヘテロ)シクロアルキル、C2~C10アルケニル、C2~C10アルキニル、C5~C7(ヘテロ)アリール、及びC6~C13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキル、アルケニル、及びアルキニルの1つ以上のCH2基は、Oで置換されていてもよい。好ましくは、R4は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC1~C10アルキルから独立に選択され、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH2基は、Oで置換されていてもよく、より好ましくは、R4は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC1~C4アルキルから独立に選択される。例えば、R4は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、フェニル、シクロヘキシル、CF3、CF2CF3又はCH2CNから選択されてもよい。
【0054】
R5は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいH、F、C1~C10アルキル、C3~C7(ヘテロ)シクロアルキル、C2~C10アルケニル、C2~C10アルキニル、C5~C7(ヘテロ)アリール、及びC6~C13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、P原子に直接結合されていないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH2基がOで置換されていてもよく、好ましくは、R5は、それぞれ、1つ以上のF及び/又はCNで置換されていてもよいH、F、及びC1~C10アルキルから独立に選択され、P原子に直接結合されていないアルキルの1つ以上のCH2基がOで置換されていてもよく、より好ましいR5は、それぞれ、1つ以上のF及び/又はCNで置換されていてもよいC1~C10アルキルから独立に選択され、よりさらに好ましいR5は、発生において、1つ以上のF及び/又はCNで置換されていてもよいH及びC1~C4アルキルから独立に選択される。例えば、R5は、H、F、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、フェニル、シクロヘキシル、CF3、CF2CF3又はCH2CNから選択されてもよい。
【0055】
好ましくは、R1は、それぞれ、H、F、Cl、C1~C10アルキル、及びOC1~C10アルキルから独立に選択され、アルキルは、CN及びFから選択される1つ以上の置換基によって置換されてもよく、Si原子又はO原子に直接結合していないアルキルの1つ以上のCH2基は、Oによって置換されていてもよく、さらにより好ましいR1は、CN及びFから選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよいC1~C10アルキルから独立して選択され、特に好ましいR1は、CN及びFから選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよいC1~C4アルキルから独立して選択される。R1は、それぞれ、例えば、H、F、Cl、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、n-プロピル、n-プロポキシ、i-プロポキシ、i-プロピル、フェニル、フェノキシ、CF3、OCF3、CF2CF3、OCF2CF3、及びCH2CNから独立に選択され、好ましくは、メチル、エチル、i-プロピル及びn-プロピルから選択される。
【0056】
R3は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいH、F、C1~C10アルキル、C3~C7(ヘテロ)シクロアルキル、C2~C10アルケニル、C2~C10アルキニル、C5~C7(ヘテロ)アリール、及びC6~C13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキル、アルケニル、及びアルキニルの1つ以上のCH2基は、Oによって再配置されていてもよく、好ましくは、R3は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいH、F、C1~C10アルキル、C3~C7(ヘテロ)シクロアルキル、C5~C7(ヘテロ)アリールから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH2基がOで置換されていてもよく、より好ましくは、R3は、それぞれ、1つ以上のF及び/又はCNで置換されていてもよいH、F、及びC1~C10アルキルから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキルの1つ以上のCH2基がOで置換されていてもよく、さらにより好ましいR3は、それぞれ、1つ以上のF及び/又はCNで置換されていてもよいH及びC1~C10アルキルから独立に選択され、P原子に直接結合していないアルキルの1つ以上のCH2基がOで置換されていてもよい。最も好ましいR3は、それぞれ、1つ以上のF及び/又はCNで置換されていてもよいH及びC1~C4アルキルから独立に選択される。R3は、例えば、H、F、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロヘキシル、フェニル、CF3、CF2CF3、CH2CH2OCH3、CH2CH2OCH3、及びCH2CNから選択されてもよい。R3がHであることが特に好ましい。
【0057】
Tは、
【化8】
及び
【化9】
から選択される。pは、0から6までの整数であり、1、2、3、4、5又は6であってもよい。(CH
2)
pの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよく、その結果、例えば、CH
2-O-CH
2又はCH
2-O-CH
2-O-CH
2が得られる。1つ以上のCH
2基がOで置換されている場合、Oで置換されたCH
2基は隣接していない。(CH
2)
pの1つ以上のHは、C
1~C
4アルキルで置換されていてもよい。1つ以上のHがC
1~C
4アルキルで置換される(CH
2)pの例は、C(CH
3)H、C(CH
3)
2、C(CH
3)HCH
2、C(CH
3)HC(CH
3)H、及びC(CH
3)HC(C
2H
4)Hである。
【0058】
式(I)の構造の例は、以下の構造(I.1)から(I.5)である。
【0059】
【0060】
好ましくは、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルは、-P(O)R3-OC1~C6アルキルから選択されるホスホン酸基によって、より好ましくは-P(O)R3-OC1~C4アルキルから選択されるホスホン酸基によって、特に好ましくは-P(O)R3-OCH3及び-P(O)R3-OCH2CH3から選択されるホスホン酸基によって末端化される。
【0061】
一実施形態によれば、ホスホン酸シリルエステルは、式(II)の構造を含有し、
【化11】
【0062】
式中、Q1は化学結合又は式(II.1)の1つ以上のモノマー単位を含有するモノマー又はオリゴマー基であり、Q2は化学結合又は式(II.2)の1つ以上のモノマー単位を含有するモノマー又はオリゴマー基である。
【0063】
【0064】
式中、T*は、それぞれ独立に、Si又はSi-(CH2)p-Siであり、pは0から6の整数であり、すなわち、pは0、1、2、3、4、5、及び6から選択され、(CH2)pの1つ以上のCH2基はOで置換され得、(CH2)pの1つ以上のHはC1~C4アルキルで置換され得、及びT*がSiの場合、q1は0から2までの整数、q2は0から2までの整数、q1+q2=2であり、すなわち、q1とq2は0、1、2から選択され、q1+q2=2である;T*がSi-(CH2)p-Siの場合、q1は0から4までの整数、q2は0から4までの整数、q1+q2=4、すなわちq1とq2は0、1、2、3、及び4から選択され、q1+q2=4である;
-*は、分岐によるホスホン酸シリルエステル骨格の続きであり;そして、
R1及びR3は、上記のように、及び好ましいものとして記載されるように定義される。
【0065】
【0066】
【0067】
Q1及びQ2のモノマー単位は、任意の方法で、例えばランダムに、又はブロックで、又は交互の順序で配置することができる。
【0068】
好ましくは、Q1及び/又はQ2は、それぞれ、分岐又は架橋単位ではない式(II.1)又は式(II.2)の少なくとも1つのモノマー単位を含み、すなわち、ここで、T*は、それぞれSi又はSi-(CH2)p-Siであり、及びpは0から6の整数であり、(CH2)pの1つ以上のCH2基はOで置換され得、(CH2)pの1つ以上のHはC1~C4アルキルで置換され得、及びT*がSiである場合、q1はゼロであり、q2は2であり、T*がSi-(CH2)p-Siである場合、q1はゼロであり、q2は4である。
【0069】
別の実施形態によれば、ホスホン酸シリルエステルは、式(III)を有し、
【化15】
式中、
Q
1,Q
2,T及びR
3は、上述のように定義され;
R
6及びR
7は、R
8及びSi(OR
8)
3及びSi(R
9)
3から独立して選択され;
R
8は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいC
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、O原子又はSi原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基がOで置換されていてもよく;及び
R
9は、それぞれ、CN及びFから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよいH、F、Cl、C
1~C
10アルキル、C
3~C
7(ヘテロ)シクロアルキル、C
2~C
10アルケニル、C
2~C
10アルキニル、C
5~C
7(ヘテロ)アリール、及びC
6~C
13(ヘテロ)アラルキルから独立に選択され、O原子に直接結合していないアルキル、アルケニル及びアルキニルの1つ以上のCH
2基は、Oで置換されていてもよい。
【0070】
R6及びR7が、独立して、C1~C10アルキル、Si(OC1~C10アルキル)3及びSi(R9)3から選択されることが好ましく、R9は、それぞれ、H、F、Cl、及びC1~C10アルキルから独立に選択され、より好ましいR9は、H、F、Cl、及びC1~C4アルキルから選択される。R6及びR7は、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、Si(CH3)3、Si(OCH3)3、Si(CH3)2Cl及びSi(CH3)Cl2から選択されてもよい。R6及びR7が独立してC1~C4アルキルから選択されること、すなわちホスホン酸シリルエステルがメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ及びn-ブトキシのようなアルコキシ基によって末端化されていることがさらに好ましく、特に好ましいのは、メトキシ及びエトキシで末端化されたホスホン酸シリルエステルである。
【0071】
特に、ホスホン酸シリルエステルは、式(IV)を有してもよく、
【化16】
式中、
R
1、R
3、R
6、R
7、T、T
*、q
1及びq
2は、上記のように、及び好ましいものとして定義され;及び
r
1及びr
2は、独立した0から300までの整数である。
【0072】
本発明の一実施形態によれば、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルは、異なる分子量を有する異なるホスホン酸シリルエステルの混合物、特に、繰り返し単量体単位を含まない式(I)の構造を含むモノマーのホスホン酸シリルエステルと式(I)の構造と1以上の繰り返し単量体単位を含む少なくとも1つのオリゴマー又は高分子ホスホン酸シリルエステルとの混合物として使用され、例えば、r1及びr2が共に0であり、式(IV)の化合物と、r1+r2>1である式(IV)の少なくとも1つのオリゴマー性又はポリマー性ホスホン酸シリルエステルとの混合物として使用される。
【0073】
式(I)の構造を含有する類似のホスホン酸シリルエステルの調製は、当業者に知られており、例えば、K.Kellner,L.Rodewaldによる,Monatshefte fuer Chemie,Vol.121(1990),1031頁~1038頁を参照されたい。本発明によって使用されるオリゴマー性ホスホン酸シリルエステルは、同様に調製され得る。出発物質に応じて、直鎖状化合物又は分岐又は架橋機能を有する化合物が得られる。例えば、(CH3)2SiCl2とジメチルホスファイトとを反応させると、直鎖状のホスホン酸シリルエステルが得られる。(CH3)2SiCl2の一部が(CH3)SiCl3又はSiCl4で置換されている場合には、モノマー単位が分岐又は架橋点として機能するホスホン酸シリルエステルに導入される。さらに、(CH3)2SiCl2は、アルキリデン間隔ジクロロジシラン、例えばCl(CH3)2Si(CH2)2Si(CH3)2Clによって置換することができる。出発化合物、モル比及び反応条件に応じて、異なるホスホン酸シリルエステル、及び、しばしば、モノマーのホスホン酸シリルエステルと、分子量の異なる1種以上のオリゴマー及びポリマーのホスホン酸シリルエステルとの混合物が得られる。
【0074】
本発明の別の態様は、電気化学電池用の電解質組成物、例えば、リチウムイオンキャパシタ、二重層キャパシタ及びリチウム電池、特に以下に記載される通りのリチウム二次電池における、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルの使用である。式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルは、カソード-電解質界面においてカソードと相互作用し、それによって、カソード活性物質と電解質組成物との望ましくない反応を減少させることができ、例えば、カソード上に被膜を形成することによって、又は電池の動作に有害な電解質分解生成物(例えば、HF)の形成を阻止することによって、電解質組成物の成分とカソード活性物質との直接接触を抑制することができるカソード活性物質として特に適している。電解質組成物とカソードとの直接接触は、しばしば分解反応を引き起こす。
【0075】
式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルはまた、電気化学電池、例えばリチウムイオンキャパシタ、二重層キャパシタ及びリチウム電池、特に以下に記載するようなリチウム二次電池用の電解質組成物におけるガス発生を減少するための添加剤として使用することができる。電気化学電池内でのガスの望ましくない発生は、内圧の上昇が電池の漏れや電解質組成物の喪失につながり得、発火及び有害化合物の排出の可能性が増加するため、安全性の問題である。
【0076】
式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルは、通常、電解質組成物に所望量の式(I)の化合物を添加することにより、電解質組成物に以下に与えられる濃度で電解質組成物に使用される。分子量及び分岐/架橋単位の存在に応じて、ホスホン酸シリルエステルは、非水溶媒(ii)に溶解してもよいし、膨潤してもよい。
【0077】
電解質組成物は、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルを1種含有してもよく、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルを2種以上、例えば2種、又は3種以上含有でもよい。
【0078】
通常、電解質組成物は、電解質組成物の総質量に基づいて、式(I)の構造を含有する少なくとも1つのホスホン酸シリルエステルを合計で少なくとも0.01質量%、好ましくは少なくとも0.02質量%、より好ましくは少なくとも0.1質量%含有する。電解質組成物中の式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルの総濃度の上限値は、電解質組成物の全質量に基づいて、通常、10質量%、好ましくは5質量%、より好ましくは、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルの総濃度の上限値は、電解質組成物の全質量に基づいて、3質量%である。通常、電解質組成物は、電解質組成物の総質量に基づいて、式(I)の構造を含有する少なくとも1種のホスホン酸シリルエステルの合計濃度を0.01~10質量%、好ましくは0.02~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、最も好ましくは0.1~3質量%含有する。
【0079】
さらに、電解質組成物は、式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルとは異なる少なくとも1種のさらなる添加剤を含有してもよい。式(I)の構造を含有するホスホン酸シリルエステルとは異なる少なくとも1種のさらなる添加剤は、ポリマー、被膜形成添加剤、難燃剤、過充電添加剤、湿潤剤、HF及び/又はH2O捕捉剤、LiPF6塩の安定剤、イオン性溶媒和促進剤、腐食抑制剤ならびにゲル化剤から選択され得る。
【0080】
少なくとも1種のさらなる添加剤の最小濃度は、通常、電解質組成物の全質量に基づいて、通常0.005質量%、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.1質量%である。少なくとも1種のさらなる添加剤の最大濃度は通常、25質量%である。
【0081】
さらなる添加剤の1つのクラスは、ポリマーである。ポリマーは、フッ化ポリビニリデン、ポリビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ナフィオン、ポリエチレンオキシド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアニリン、ポリピロール及び/又はポリチオフェンから選択され得る。ポリマーは、エージングの間に、液剤を半固体又は固体電解質に変換し、したがって、溶媒残留を改善するために、本発明による配合物に添加され得る。この場合、ポリマーは、ゲル化剤として機能する。
【0082】
難燃剤の例としては、有機リン化合物、たとえば、シクロホスファゼン、ホスホラミド、アルキル及び/又はアリール三置換ホスフェート、アルキル及び/又はアリール二置換又は三置換ホスフェート、アルキル及び/又はアリール二置換ホスホネート、アルキル及び/又はアリール三置換ホスフィン、ならびにそれらのフッ素化誘導体である。HF及び/又はH2O捕捉剤の例は、任意にハロゲン化された環状及び非環状のシリルアミンである。
【0083】
過充電保護添加剤の例は、シクロヘキシルベンゼン、o-テルフェニル、p-テルフェニル、及びビフェニルなどであり、好ましいのはシクロヘキシルベンゼン及びビフェニルである。
【0084】
添加剤の別のクラスは、SEI形成添加剤とも呼ばれる、膜形成添加剤である。本発明によるSEI形成添加剤は、電極上で分解して、電解質及び/又は電極の分解を防止する不パッシベーション層を電極上に形成する化合物である。このようにして、電池の寿命が著しく延長される。好ましくは、SEI形成添加剤は、アノード上にパッシベーション層を形成する。本発明の文脈におけるアノードは、電池の負電極として理解される。好ましくは、アノードは、リチウムインターカレートグラファイトアノードのようなリチウムに対して1ボルト以下の還元電位を有する。化合物がアノード被膜形成添加剤として適格であるかどうかを判断するために、グラファイト電極及び金属対電極、ならびに、少量、典型的には、電解質組成物の0.1~10質量%、好ましくは、電解質組成物の0.2~5質量%の前記化合物を含有する電解質を含む電気化学電池を調製することができる。アノードとリチウム金属との間に電圧を印加すると、電気化学電池の微分容量が0.5Vから2Vの間で記録される。最初のサイクルの間に大きな微分容量、例えば1Vで-150mAh/Vが観察されるが、前記電圧範囲で、続くサイクルのいずれの間も観察されないか、又は本質的に観察されない場合、化合物はSEI形成添加剤とみなすことができる。
【0085】
本発明によれば、電解質組成物は、好ましくは、少なくとも1種のSEI形成添加剤を含有する。SEI形成添加剤は、当業者に公知である。より好ましくは、電解質組成物は、ビニレンカーボネート及びメチルビニレンカーボネートなどのビニレンカーボネート及びその誘導体;モノフルオロエチレンカーボネート、シス-及びトランス-ジフルオロカーボネートなどのフッ素化エチレンカーボネート及びその誘導体;プロピレンスルトン、プロパンスルトン及びこれらの誘導体などの有機スルトン;エチレンサルファイト及びその誘導体;シュウ酸リチウム、シュウ酸ジメチル、リチウムビス(オキサレート)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート及びアンモニウムビス(オキサラト)ボレートを含むオキサラトボレート、ならびにリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェートを含むオキサラトホスフェートなどの化合物を含むシュウ酸塩;ならびにWO 2013/026854 A1に詳細に記載されている硫黄含有添加剤、特に12頁22行目~15頁10行目に記載されている硫黄含有添加剤から選択される少なくとも1種のSEI形成添加剤を含有する。
【0086】
添加される化合物は、電解質組成物及び電解質組成物を含む電気化学電池中で2つ以上の効果を有し得る。例えば、リチウムオキサラトボレートは、SEI形成を促進する添加剤として添加され得るが、導電性塩として機能し得る。
【0087】
本発明の一実施形態では、電解質組成物の含水率は、それぞれの本発明の配合物の質量に基づいて、好ましくは100ppm未満であり、より好ましくは50ppm未満であり、最も好ましくは30ppm未満である。水分含有量は、例えばDIN 51777又はISO760:1978に詳細に記載されているカールフィッシャー(Karl Fischer)に従って、滴定法により決定され得る。電解質組成物の最小含水率は、3ppmから選択され得、好ましくは5ppmから選択されてよい。
【0088】
本発明の一実施形態では、電解質組成物のHF含有率は、それぞれの本発明の配合物の質量に基づいて、好ましくは100ppm未満であり、より好ましくは50ppm未満であり、最も好ましくは30ppm未満である。HF含有率は、滴定により決定されてもよい。
【0089】
電解質組成物は、好ましくは、使用条件で液体であり、さらにより好ましくは、電解質組成物は1バール、25℃で液体であり、さらに好ましくは、電解質組成物は、1バール、-15℃で液体であり、特に、電解質組成物は、1バール、-30℃で液体であり、さらに好ましくは、電解質組成物は、1バール、-50℃で液体である。このような液体電解質組成物は、屋外用途、例えば自動車用電池での使用に特に適している。
【0090】
電解質組成物(A)は、電解質の製造の分野で当業者に公知である方法によって、一般に、上述したように、リチウム導電性塩(i)を対応する溶媒又は溶媒混合物(ii)に溶解し、式(I)の構造を含有する少なくとも1種のホスホン酸シリルエステル、及び任意にさらなる添加剤(iv)を添加することによって調製され得る。
【0091】
電解質組成物(A)を含む電気化学電池は、リチウム電池、二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタであってよい。このような電気化学装置の一般的な構造は周知であり、電池については当業者に公知である。
【0092】
好ましくは、本発明の電気化学電池はリチウム電池である。本明細書で使用される場合、用語「リチウム電池」は、電気化学電池を意味し、電池の充電/放電の間のある時点で、アノードがリチウム金属又はリチウムイオンを含む。アノードは、リチウム金属もしくはリチウム金属合金、リチウムイオンを吸蔵し放出する物質、又は他のリチウム含有化合物を含んでもよい。リチウム電池は、好ましくは、リチウム二次電池、すなわち再充電リチウム電池である。
【0093】
特に好ましい実施形態では、電気化学電池は、リチウムイオン電池、すなわち、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるカソード活性物質を含むカソード(A)、ならびにリチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるアノード活性物質を含むアノード(B)を含む二次リチウムイオン電気化学電池である。
【0094】
アノード(A)は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができるか、またはリチウムと合金を形成することができるアノード活性物質を含む。特に、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる炭素質物質は、アノード活性物質として使用され得る。
【0095】
適切な炭素質好適な炭素質物質は、グラファイト材料、より詳細には、天然グラファイト、グラファイト化コークス、グラファイト化MCMB及びグラファイト化MPCFなどの結晶性炭素;コークス、1500℃以下で焼成したメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、及びメソフェーズピッチ系炭素繊維(MPCF)等の非晶質炭素;ハードカーボン;炭素複合材、燃焼有機ポリマー、炭素繊維等の炭素アノード活性物質(熱分解炭素、コークス、グラファイト)である。好ましい炭素質物質は、グラファイトである。
【0096】
アノード活性物質のさらなる例としては、リチウム金属及びリチウム金属合金、すなわちリチウムとの合金を形成することができる元素を含有する物質である。リチウムとの合金を形成することができる元素を含有する物質の非限定的な例としては、金属、半金属、又はそれらの合金が挙げられる。本明細書で使用される場合、用語「合金」は、2種以上の金属の合金及び1種以上の金属と1種以上の半金属との合金の両方を指すことと理解されるべきである。合金が全体として金属的性質を有する場合、合金は非金属元素を含有していてもよい。合金の集合組織には、固溶体、共融(共融混合物)、金属間化合物、又はそれらの2種以上が共存している。このような金属又は半金属元素の例としては、限定されることなく、チタン(Ti)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アルミニウム、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、銀(Ag)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)が挙げられる。元素の長周期型期表の第4族又は第14族の金属元素及び半金属元素が好ましく、特に好ましいのはチタン、ケイ素及びスズであり、特にケイ素が好ましい。スズ合金の例としては、スズ以外の第2の構成元素として、ケイ素、マグネシウム(Mg)、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン(Ti)、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロム(Cr)からなる群から選択される1種以上の元素を有するものが挙げられる。ケイ素合金の例としては、ケイ素以外の第2の構成元素として、スズ、マグネシウム、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモン及びクロムからなる群から選択される1種又は2種以上の元素を含有するものが挙げられる。
【0097】
さらなる可能なアノード活性物質は、ケイ素含有物質である。ケイ素含有物質としては、ケイ素それ自体、例えば、アモルファス及び結晶性ケイ素、ケイ素含有化合物、例えば、0<x<1.5のSiOx、及びSi合金、ならびにケイ素及び/又はケイ素含有化合物を含有する組成物、例えば、ケイ素/グラファイト複合体及び炭素コーティングされたケイ素含有物質が挙げられる。ケイ素自体は、異なる形態、例えば、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノ粒子、フィルム、ナノ多孔性シリコン又はシリコンナノチューブの形態で使用され得る。ケイ素は、集電体上に堆積され得る。集電体は、被膜金属ワイヤ、被膜金属グリッド、被膜金属ウェブ、被膜金属シート、被膜金属箔又は被膜金属プレートから選択されてもよい。好ましくは、集電体は、被膜金属箔、例えば、被膜銅箔である。ケイ素の薄膜は、当業者に公知の任意の技術によって、例えば、スパッタリング技術によって、金属箔上に堆積させてもよい。ケイ素薄膜電極を製造する一方法は、R.Elazariらによる;Electrochem.Comm.2012,14,21~24頁に記載されている。
【0098】
他の可能なアノード活性物質は、Tiのリチウムイオンインターカレート酸化物である。
【0099】
好ましくは、アノード活性物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる炭素質物質を含み、特に好ましくは、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出
することができる炭素質物質は、結晶性炭素、硬質炭素及び非晶質炭素から選択され、
グラファイトが特に好ましい。また、アノード活性物質がケイ素含有物質を含むことも、好ましい。アノード活性物質がTiのリチウムイオンインターカレート酸化物を含むことが、さらに好ましい。
【0100】
本発明の電気化学電池は、少なくとも1種のカソード活性物質を含むカソード(B)を含む。少なくとも1種のカソード活性物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質を含み、Mn及び少なくとも1種の第2の遷移金属を含有する混合リチウム遷移金属酸化物;Ni、Al及び少なくとも1種の第2の遷移金属を含有するリチウムインターカレート混合酸化物;LiNiPO4;LiNiPO4;及びLiCoPO4から選択される。
【0101】
Mn及び少なくとも1つの第2の遷移金属を含有する混合リチウム遷移金属酸化物の例としては、式(II)
Li1+e(NiaCobMncMd)1-eO2
(II)
式中、
aは0.05から0.9の範囲内であり、好ましくは0.1から0.8の範囲内であり、
bは、0から0.35の範囲内であり、
cは0.1から0.9の範囲内であり、好ましくは0.2から0.8の範囲内であり、
dは0から0.2の範囲内であり、
eは0から0.3の範囲内であり、好ましくは、0より大きく0.3までの範囲であり、より好ましくは0.05から0.3の範囲内であり、
a+b+c+d=1であり、
Mは、Na、K、Al、Mg、Ca、Cr、V、Mo、Ti、Fe、W、Nb、Zr及びZnから選択される1種以上の金属である。
【0102】
式(II)のコバルト含有化合物は、NCMとも呼ばれる。
【0103】
eが0よりも大きい、式(II)の層状構造を有する混合リチウム遷移金属酸化物は、過リチウム化とも呼ばれる。
【0104】
式(II)の層状構造を有する好ましいリチウム遷移金属酸化物は、M’がNi、及び任意にCo及びMnから選択される1種以上の遷移金属であるLiM’O2相と、Li2MnO3相とが混合され、上記で定義した1種以上の金属Mが存在し得る、固溶体を形成する化合物である。1種以上の金属Mは、通常、微量、例えば、遷移金属酸化物中に存在するリチウムを除く金属の総量に基づいて、最大10mol%Mで、又は最大5mol%Mで、又は最大1mol%で存在することから、「ドーパント」又は「ドーピング金属」とも呼ばれる。1種以上の金属Mが存在する場合には、それらは通常、遷移金属酸化物中に存在するリチウムを除く金属の総量に基づいて、少なくとも0.01mol%又は少なくとも0.1mol%の量で存在する。また、これらの化合物は、式(IIa)
zLiM’O2・(1-z)Li2MnO3
(IIa)
式中、M’はNiであり、及び、Mn及びCoから選択される少なくとも1種の金属であり;
zは0.1から0.8であり、
Na、K、Al、Mg、Ca、Cr、V、Mo、Ti、Fe、W、Nb、Zr及びZnから選択される1種以上の金属が存在してもよい。
【0105】
電気化学的には、LiM’O2相のNi及び存在する場合はCo原子が、可逆的酸化及び還元反応に関与し、Li+/Liに対し4.5V未満の電圧で、それぞれLiイオンの脱インターカレーション及びインターカレーションをもたらすのに対して、Li2MnO3相は、Li2MnO3相のMnの酸化状態が+4である場合に、Li+/Liに対し4.5V以上の電圧で酸化反応及び還元反応に関与するだけである。したがって、電子は、この相のMn原子からではなく、酸素イオンの2p軌道から除去され、少なくとも最初の充電サイクルでは、O2ガスの形態の格子状構造からの酸素除去をもたらす。
【0106】
これらの化合物は、通常のNCMに比べてエネルギー密度が高いことから、HE-NCMとも呼ばれる。HE-NCMとNCMは両方ともLi/Li+に対して約3.0~3.8Vの動作電圧を有するが、実際にフル充電に達し、それらのより高いエネルギー密度の利益を得るためには、HE-NCMの活性化及びサイクル化の両方に高カットオフ電圧を使用する必要がある。通常、Li/Li+に対する充電の間のカソードの上限カットオフ電圧は、HE-NCMを活性化させるために少なくとも4.5Vであり、好ましくは、少なくとも4.6V、より好ましくは少なくとも4.7V、さらにより好ましくは少なくとも4.8Vである。電気化学電池の「Li/Li+に対する充電の間の上限カットオフ電圧」という用語は、電気化学電池が充電される電圧の上限を構成するLi/Li+基準アノードに対する電気化学電池のカソードの電圧を意味する。HE-NCMの例としては、0.33Li2MnO3・0.67Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2、0.42Li2MnO3・0.58Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2、0.50Li2MnO3・0.50Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2、0.40Li2MnO3・0.60Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2及び0.42Li2MnO3・0.58Li(Ni0.6Mn0.4)O2である。
【0107】
dが0である式(II)の層状構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物の例は、LiNi0.33Mn0.67O2、LiNi0.25Mn0.75O2、LiNi0.35Co0.15Mn0.5O2、LiNi0.21Co0.08Mn0.71O2、LiNi0.22Co0.12Mn0.66O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2及びLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2である。dが0である一般式(II)の遷移金属酸化物は、さらなるカチオン又はアニオンを有意な量で含有しないことが好ましい。
【0108】
dが0よりも大きい式(II)の層状構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物の例は、0.33Li2MnO3・0.67Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2、0.42Li2MnO3・0.58Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2、0.50Li2MnO3・0.50Li(Ni0.4Co0.2Mn0.4)O2、0.40Li2MnO3・0.60Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2及び0.42Li2MnO3・0.58Li(Ni0.6Mn0.4)O2であり、Na、K、Al、Mg、Ca、Cr、V、Mo、Ti、Fe、W、Nb、Zr及びZnから選択される1種以上の金属Mが存在してもよい。好ましくは、1種以上のドーピング金属が、遷移金属酸化物中に存在するリチウムを除く金属の総量に基づいて、1mol%まで存在する。
【0109】
式(II)の他の好ましい化合物は、Niに富む化合物であり、Niの含有量が、存在する遷移金属の総量に基づいて少なくとも50mol%である。これは、式(IIb)の化合物を含み、
Li1+e(NiaCobMncMd)1-eO2
(IIb)
式中、
aは、0.5から0.9の範囲内であり、好ましくは0.5から0.8の範囲内であり、
bは、0から0.35の範囲内であり、
cは、0から0の範囲内であり、0.2~0.5の範囲内であり、
dは、0から0.2の範囲内であり、
eは、0から0.3の範囲内であり、
a+b+c+d=1であり
Mは、Na、K、Al、Mg、Ca、Cr、V、Mo、Ti、Fe、W、Nb、Zr及びZnから選ばれる1種以上の金属である。
【0110】
式(I)のNiに富む化合物の例としては、Li[Ni0.8Co0.1Mn0.1]O2(NCM811)、Li[Ni0.6Co0.2Mn0.2]O2(NCM622)、及びLi[Ni0.5Co0.2Mn0.3]O2(NCM523)が挙げられる。
【0111】
Mn及び少なくとも1種の第2の遷移金属を含有する混合リチウム遷移金属酸化物のさらなる例としては、式(III)のマンガン含有スピネルであり、
Li1+tM2-tO4-s
(III)
式中、
sは0から0.4であり、
tは0から0.4であり、
Mは、Mn及びCo及びNiから選択される少なくとも1種のさらなる金属であり、好ましくは、Mは、Mn及びNi、及び任意にCoであり、すなわち、Mの一部はMnであり、Mの別の部分、および任意のMのさらなる部分は、Coから選択される。
【0112】
カソード活性物質はまた、Ni、Al及び少なくとも1つの第2の遷移金属を含有するリチウムインターカレート混合酸化物、例えばNi、Co及びAlのリチウムインターカレート混合酸化物から選択されてもよい。Ni、Co及びAlの混合酸化物の例は、式(IV)の化合物
Li[NihCoiAlj]O2
(IV)
式中、
hは0.7から0.9であり、好ましくは0.8から0.87、より好ましくは0.8から0.85であり;
iは0.15から0.20であり;及び
jは0.02から10であり、好ましくは0.02から1であり、より好ましくは0.2から0.1、であり、最も好ましいのは0.02から0.03である。
【0113】
カソード活性物質はまた、LiMnPO4、LiNiPO4及びLiCoPO4から選択されてもよい。これらのホスフェートは、通常オリビン構造を示し、通常は少なくとも4.5Vの上限カットオフ電圧を充電するために使用する必要がある。
【0114】
カソード(B)は、結合剤のようなさらなる成分及び、例えば導電性カーボンのような導電性材料をさらに含有してもよい。例えば、カソード(B)は、例えばグラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン又は前述の物質のうちの少なくとも2種の混合物から選択される伝導性多形の炭素を含み得る。カソード(B)で使用される結合剤の例は、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンのような有機ポリマー、及びエチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマー、特に、スチレン-ブタジエンコポリマー、及びポリビニリデンクロリド、ポリビニルクロリド、ポリビニルフルオリド、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレンのようなハロゲン化(コ)ポリマー、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー、テトラフルオロエチレンとビニリデンフルオリドとポリアクリルニトリルとのコポリマーを含み得る。
【0115】
アノード(A)及びカソード(B)は、電極活性物質、結合剤、任意で導電性材料と、所望により増粘剤を溶媒中に分散させることによって、電極スラリー組成物を調製し、スラリー組成物を集電体上にコーティングすることによって作製され得る。集電体は、金属ワイヤ、金属グリッド、金属ウェブ、金属シート、金属箔又は金属プレートであってもよい。好ましくは、集電体は、金属箔、例えば、銅箔又はアルミニウム箔である。
【0116】
本発明の電気化学電池は、それ自体が慣例的に、さらなる構成要素、例えばセパレータ、ハウジング、ケーブル接続部などをさら含有してよい。ハウジングは、任意の形状であってもよく、例えば、立方体又は円柱の形状、使用されるプリズム又はハウジングの形状は、パウチとして加工された金属-プラスチック複合フィルムである。好適なセパレータは、例えば、ガラス繊維セパレータ及びポリオレフィンセパレータ又はナフィオンセパレータのようなポリマーベースのセパレータである。
【0117】
いくつかの本発明の電気化学電池は、例えば直列接続又は並列接続で互いに結合されてもよい。直列接続が好ましい。本発明はさらに、装置、特に移動装置における上述したような本発明の電気化学電池の使用を提供する。移動装置の例としては、乗り物、例えば自動車、自転車、航空機、又はボートや船舶などの水上車両が挙げられる。移動装置の他の例は、携帯可能な装置であり、例えばコンピュータ、特にラップトップコンピュータ、電話機、又は、例えば建設分野のものである、電動工具、特にドリル、電池駆動のスクリュードライバ又は電池駆動のステープラーである。しかし、本発明の電気化学電池は、据置型エネルギー貯蔵にも使用することができる。
【0118】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、本発明を限定するものではない。
【実施例0119】
I. 添加剤:
I.1 採用された電解質添加剤の概要:
【化17】
【0120】
角括弧内の単位は繰り返しモノマー単位を示す。オリゴマーは通常、Si(CH3)3末端基を含有するオリゴマーを除き、-OP(O)H-OCH3又は-OP(O)H-OCH2CH3により末端化される。
【0121】
I.2 添加剤の調製
比較添加剤R1は市販のものを使用した。比較添加剤R2は、R.Rabinowitz,J.Org.Chem.Vol.28(1963)、2975頁~2978頁によって調製した。分子実体A1からA19を含有する添加剤混合物M1からM12は、K.Kellner,L.Rodewald,Monatshefte fuer Chemie,Vol.121(1990),1031頁~1038頁に従って合成した。
【0122】
すべての化合物を、調製後直接1H NMR分光法及び31P NMR分光法を用いて分析した。サンプルはCDCl3(7.26ppm)を基準として不活性雰囲気下で調製し、測定した;電解質を分析する場合は、C6D6(7.16ppm)を基準として充填した内管を備えたスクリューキャップNMR管を使用した。スペクトルは、CryoProbe Prodigyプローブヘッドを装備したBruker Avance III又は1H:500.36MHz、31P:202.56MHzの周波数で動作するVarian NMRシステム400で記録された。31P NMRデータを、明瞭性のためにプロトン:{1H}から分離して収集した。31P NMR測定のための緩和時間D1を60秒に増加させ、それに応じて各P種の量を決定した。スペクトルの解析にMNovaソフトウェアを使用した。
【0123】
粘度測定にはAnton Paar Physica MCR 51が使用された。測定は20℃で1から1000s-1のせん断応力プロファイルで実施し、その平均値を計算して所与の値を得た。調製したすべての添加剤混合物の概要を表1に示す。
【0124】
実験1-混合物M1:
上述の方法に従って、Me2SiCl2(1.0eq、800mmol、104.8g)をジメチルホスファイト(1.0eq、800mmol、88.0g)に室温(RT)で添加し、揮発性メチルクロライドの形成が停止するまで90℃で1時間撹拌した。形成された無色の残渣を有するフラスコに蒸留ブリッジを取り付け、加熱(1時間、100℃、0.2mbar)して、シリル-H-ホスホネートM1を無色のオイルとして得た(105g、収率95%;塩化物含有量55ppm)。
【0125】
M1は、[PHO(OSiMe2O)]の繰り返し単位とCH3OP(O)H末端を有するA1、二量体A2、及びオリゴマーA3の混合物として得られた。A1:A2:A3の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-14~-17.5ppm(A3について)、-2.5ppm(A2について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A2:A3の比は1:27:72であった。
【0126】
粘度:170mPas
Mn(M1)=957g/molは、
31P NMRにより以下のように決定された:オリゴマーA3は、理論的には異なる単位に分割されてもよい:2つのP含有末端基[2×CH
3OP(O)H-、計158.03g/mol]、n個のSi及びP含有繰り返し単位[n×(CH
3)
2SiO
2P(O)H単位、1単位あたり138.14g/mol]、及び構造
【化18】
による1つの追加の(CH
3)
2SiO
2単位(90.15g/mol)。
【0127】
数平均分子量を計算するために、31P-NMRスペクトル(緩和時間D1=60sで定量的に測定)の末端基の信号を2に設定した。その結果、繰り返し単位の信号から繰り返し単位の数nが得られる。数平均分子量は、末端基の分子量、n×繰り返し単位の分子量、及び追加の(CH3)2SiO2単位の分子量を加算して算出した。
【0128】
反応収率は、出発物質の量、塩化アルキルの放出量及び得られたオリゴマー混合物の質量の差に基づいて算出した。
【0129】
実験2-混合物M2:
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(0.9eq、765mmol、98.7g)、MeSiCl3(0.1eq、85mmol、12.7g)及びジメチルホスファイト(1.0eq、850mmol、93.5g)を変換して、M2を得た(95.0g、87%収率)。A1:A2:A4の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-14~-17.5ppm(A4について)、-2.5ppm(A2について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A2:A4の比率は2:35:63であった。
【0130】
粘度:180mPas
【0131】
実験3-混合物M3:
実験1に記載の条件に従って、Me2SiCl2(0.9eq、72mmol、9.47g)、SiCl4(0.1eq、8mmol、1.4g)、及びジメチルホスファイト(1.0eq、80mmol、8.8g)を変換してM3を得た。A1:A2:A5の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-14~-17.5ppm(A5について)、-2.5ppm(A2について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A2:A5の比率は=1:20:79であった。
【0132】
実験4-混合物M4:
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(0.9eq,99mmol,12.9g)、Me3SiCl(0.1eq,11mmol,1.21g)及びジメチルホスファイト(0.73eq,80mmol,8.80g)を変換してM4を得た(8.80g,80%収率)。A1:A2:A6の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-14~-17.5ppm(A6について)、-2.5ppm(A2について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A2:A6の比は1:34:65であった。
【0133】
実験5-混合物M5:
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0eq,850mmol,109.7g)とジメチルホスファイト(1.0eq,850mmol,93.5g)を-10℃の冷却媒体を備えた縦型強力コンデンサを使用して、長時間(4時間)反応させ、揮発性物質を蒸留した後、M5を得た(116.0g,98%収率)。A1:A2:A3の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-14~-17.5ppm(A3について)、-2.5ppm(A2について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A2:A3の比は1:11:88であった。
【0134】
Mn=2021g/molは実験1と同様に31P NMRにより決定した。
【0135】
粘度:750mPas
【0136】
実験6-混合物M6:
実験5に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0eq、83mmol、107.5g)及びジメチルホスファイト(0.90eq、75mmol、82.5g)を変換してM6を得た(103.0g、99%収率)に変換した。A1:A2:A3の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-14~-17.5ppm(A3について)、-2.5ppm(A2について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A2:A3の比率は0:3:97であった。
【0137】
実験7-混合物M7:
実験1に記載した条件に従って、Me2SiCl2(1.0eq、70mmol、9.12g)とジメチルメチルメチルホスホネート(1.0eq、70mmol、8.95g)を変換してM7を得た(9.80g、92%収率)。A7:A8:A9の比率は、31P NMRスペクトルにおいて、8~12ppm(A9について)、21~23ppm(A8について)、及び33ppm(A7について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A7:A8:A9=1:30:69の比が得られた。
【0138】
実験8-混合物M8:
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0eq,50mmol,6.45g)とジエチルホスファイト(1.0eq,50mmol,7.12g)を変換してM8を得た(3.80g,53%収率)。A10:A11:A12の比率は、31P NMRスペクトルの-14~-17.5ppm(A12について)、-4.2ppm(A11について)、及び7.2ppm(A10について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A10:A11:A12の比率は1:81:18であった。
【0139】
実験10-混合物M10:
実験1に記載された条件に従って、Me2SiCl2(1.0eq、70mmol、9,17g)及びジメチルフェニルホスホネート(1.0eq、70mmol、13,30g)を変換してM10 neuを得た(13,6g、88%収率)。A13 neu:A14 neu:A15 neuの比率は、31P NMRスペクトルにおいて、-0.2~-2.5ppm(A15 newについて)、10.4ppm(A14 newについて)、21.5ppm(A13 newについて)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A13 neu:A14 neu:A15 neuの比率は1:55:44であった。
【0140】
粘度:1519mPas
Mn=753g/molは、実験1について説明したように31P NMRにより;末端基[2×CH3OP(O)H-、計310.24g/mol]、n個のSi及びP含有繰り返し単位[n×(CH3)2SiO2P(O)H単位、1単位あたり214.25g/mol]、及び構造による1つの追加の(CH3)2SiO2単位(90.15g/mol)を除き、決定された。
【0141】
実験11-混合物M11:
実験1に記載された条件に従って、Et2SiCl2(1.0eq、70mmol、7,86g)及びジメチルホスファイト(1.0eq、70mmol、11,34g)を変換してM11を得た(15,3g、98%収率)。A17:A16:A12の比率は、31P NMRスペクトルの-14~-17.5ppm(A17について)、-4.2ppm(A16について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A16:A17の比率は2:90:8であった。
【0142】
実験12-混合物M12:
実験1に記載された条件に従って、ClMe2SiOSiMe2Cl(1.0eq、80mmol、6.45g)とジメチルホスファイト(1.0eq、80mmol、9.00g)を変換してM12を得た(15.40g、87%収率)。A1:A18:A19の比率は、31P NMRスペクトルの-15~-17.5ppm(A12について)、-2.7ppm(A11について)、及び10.4ppm(A1について)の範囲のすべての信号を積分することによって評価された。上記の条件では、A1:A18:A19の比率は1:9:80であった。
【0143】
実験9から12-混合物M9からM12:
混合物M9からM12は、表1に記載されている遊離体、遊離体の比率及び反応条件を用いて、実験1に記載されているように調製及び評価された。得られた混合物の組成も表1に示されている。
【0144】
【0145】
II. 電解質組成物
電解質組成物は、1.0M LiPF6を、エチルカーボネート(EC、BASF)、ジエチルカーボネート(DEC、BASF)、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC、BASF)、1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(CF2H(CF2)3CH2OCF2CF2H、FPEE、Foosung co.Ltd.)の種々の混合物に溶解させることにより、調製された。比較添加剤R1及びR2ならびに本発明の添加剤混合物M1、M2及びM7を、表2に示すように、これらの組成物に添加した。R2、M1、M2及びM7は、さらに精製することなく使用した。“体積%”は電解質組成物中の溶媒の体積を示し、“質量%”は電解質組成物の総質量を示す。全ての溶媒は乾燥していた(含水量<3ppm)。
【0146】
すべての電解質組成物を調製し、1.0ppm以下の酸素及び水レベルを有するAr充填グローブボックス内に保存した。使用した電解質組成物を表2にまとめた。
【0147】
【0148】
III. 電気化学電池
III.1) HE-NCM/グラファイト2032フルコイン電池
電気化学サイクル実験用の正電極は、N-エチル-2-ピロリジノン(NEP)に懸濁させた92.5質量%のカソード活性物質、2質量%のグラファイト、2質量%のスーパーC65カーボンブラック、3.5質量%のポリビニリデンフルオリド(PVdF)結合剤を含有するスラリーを、アルミニウム箔上にコーティングすることによって調製した。カソード活性物質は、HE-NCM 0.42Li2MnO3・0.56Li(Ni0.4Mn0.4Co0.2)O2,HE-NCM,BASF)を使用した。Elexcel Corporation Ltd.の市販のグラファイトコートテープを負電極として使用した。正、負の複合電極、ポリプロピレンセパレータ(Celgard)、及びそれぞれの電解液を使用して、2032コイン電池を製造した。全ての電池は、酸素と水のレベル1.0ppm以下のアルゴン充填グローブボックス内で組み立てられ、その電気化学的試験は、Maccor 4000電池試験装置で行われた。
【0149】
III.2)NCM622/グラファイト及びNCM811/グラファイトパウチ電池
パウチ電池における電気化学サイクル実験用の正電極は、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)に懸濁させたカソード活性物質、カーボンブラック、ポリビニリデンフルオリド(PVdF)結合剤を含有するスラリーを、ロールコーターを使用してアルミニウム箔(厚さ=17μm)上にコーティングすることによって調製した。電極テープを熱風チャンバ内で乾燥させ、さらに真空下130℃で8時間乾燥させた後、ロールプレス機を使用して電極をプレスした。使用したカソード活性物質は、Li(Ni0.8Co0.1Mn0.1)O2(NCM811)又はLi(Ni0.6Co0.2Mn0.2)O2(NCM622)のいずれかである。負電極には、グラファイトとカーボンブラックにCMC(カルボキシメチルセルロース)とSBR(スチレンブタジエンゴム)を混合してスラリー水溶液を調製した。得られたスラリーを、ロールコーターを使用して銅箔(厚さ=9μm)上に塗布し、熱風チャンバ(80℃から120℃)で乾燥させた。得られた電極の負荷は、約10mg/cm2であることが分かった。電極を、ロールプレスによって、72μmのおよその厚さにプレスした。NCM正電極及びグラファイト負電極とともにカソードとアノードとの間に重ねられたセパレータを含むパウチ電池(250mAH)を、Ar充填グローブボックスで組み立てた。その後、1.0ppm以下の酸素及び水レベルを有するアルゴン充填グローブボックス中で、すべての電池に、表2に記載される通りに電解質を充填し、それらの電気化学試験を、Maccor4000電池試験システム中で実施した。
【0150】
IV.電気化学電池の評価
IV.1) HE-NCM/グラファイト2032コインフル電池の25℃におけるサイクルと電池抵抗の評価
電池を0.067Cの定電流で4.7Vの電圧まで充電し、25℃で0.067Cの定電流で2.0Vの放電電圧(活性化サイクル1)まで放電した。直後に、電池を25℃で0.1Cの定電流で4.6Vの電圧まで充電した。電流が0.05Cの値に達するまで、電池を4.6Vでさらに充電し、その後、0.1Cの定電流で2.0Vの放電電圧まで放電した(サイクル2)。サイクル2と同様の手順を1回繰り返した(サイクル3)。その後、電池を0.1Cの定電流で4.6Vの電圧まで充電し、0.1Cの定電流で2.0Vの放電電圧まで放電した(サイクル4)。このサイクルの充電容量は、次のサイクル(サイクル5)の充電容量の40%(SOC40%)まで0.1Cの定電流で電池を充電する次のサイクル(サイクル5)の基準値として使用される。電池が40%SOCに達したら、0.2Cの電流遮断を10秒間適用してDC内部抵抗(DCIR)の測定を行った。
【0151】
サイクル6から7では、電池を25℃で0.2Cの定電流で4.6Vの電圧まで充電した。電池は、電流が0.05Cの値に達するまで4.6Vでさらに充電され、その後、0.5Cの定電流で2.0Vの放電電圧まで放電した。次に、電池を0.7の定電流で4.6Vの電圧まで充電し、電流が0.05Cの値に達するまで、電池を4.6Vで充電し、これらの充電条件を一定に保ちながら、電池を1C(2回、サイクル8から9)、2C(2回、サイクル10から11)、及び3C(2回、サイクル12から13)の定電流で2.0Vの放電電圧まで放電させた。サイクル13で記録された放電容量は、サイクル3で得られた放電容量に対する割合で表される(表3の放電容量比3C/0.1C(%)参照)。
【0152】
放電容量の変化に続いて、0.7Cの定電流で4.6Vの電圧まで充電し、電流が0.05Cの値に達するまで4.6Vで充電し、1Cの定電流で2.0Vの放電電圧まで放電することにより、長時間サイクルを実施した(サイクル14)。サイクル14で測定した放電容量を1Cでの最初の放電容量として記録した。この充放電手順は、少なくとも200回、又は測定された充電容量がサイクル14の充電容量の70%以下になるまで繰り返された。長時間サイクリング実験の間、100サイクルごとに、40%SOCでDC内部抵抗(DCIR)測定を行った。後者は、100回の1Cサイクルごとに、サイクル2から5について説明したサイクリングシーケンスを繰り返すことによって達成された。様々な実施例の結果を表3に示す。
【0153】
【0154】
オリゴマー性ホスホン酸シリルエステルを含有する電池の放電容量と電池抵抗は、モノマー性添加剤の値と同等かそれよりも明らかに優れており、オリゴマー性添加剤は揮発性が少ないという利点がある。これは、電解質組成物の準備と取り扱い、及び電解質組成物を電池に充填する間、添加剤の濃度を一定に保つことを容易にする。通常、電池に液体電解質を充填する前に、電池に真空を適用して、液体電解質組成物による電池の良好な充填と全ての部分の良好な湿潤を確保する。
【0155】
IV.2 NCM622及び811カソードとグラファイトアノードを含むパウチ電池のサイクルの評価
IV.2.1)形成
NCM622又はNCM811カソードとグラファイトアノードを含む、パウチフル電池を、0.1Cの定電流で、3.7Vの電圧にまで、又は最大2時間充電した。次いで、電池を、45℃で17時間保存し、続いて脱気し、周囲温度の水中でアルキメデス測定を介して初期体積測定を実施した。
【0156】
IV.2.2)60℃における、NCM622//グラファイトとNCM811//グラファイトを含むパウチフル電池の高温保存
形成手順の完了後、電池を周囲温度で4.2Vまで充電し、60℃で14日間保存した。保存の間に生成したガス量(mL)を、周囲温度の水中でのアルキメデス測定により決定し、その結果を表6にまとめる。最終充電(CCCV充電、0.2C、4.2V、0.015Cカットオフ)及び放電(CC放電、0.2C、3.0Vカットオフ)容量を、保存試験後に測定した。サイクリング後の容量維持率は、最終放電容量と初期放電容量の比率で表す。サイクリング後の電池抵抗は、SOC50%まで充電し、電流遮断を適用することによるDC内部抵抗(DCIR)を測定することにより決定した。様々な実施例から結果を表4及び5に示す。本発明の電気化学電池は、比較例の電池に比べて明らかに低いガス発生量を示す。
【0157】
【0158】
前記少なくとも1つの非プロトン性有機溶媒は、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状有機カーボネート、フッ素化及び非フッ素化されたエーテル及びポリエーテル、フッ素化及び非フッ素化された環状エーテル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状アセタール及びケタール、フッ素化及び非フッ素化されたオルトカルボン酸エステル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状のカルボン酸のエステル及びジエステル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状スルホン、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状ニトリル及びジニトリル、フッ素化及び非フッ素化された環状及び非環状ホスフェート、およびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の電解質組成物。