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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138329
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】消化管粘膜からの検体採取法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/04 20060101AFI20241001BHJP
   A61B 10/02 20060101ALI20241001BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61B 1/018 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61B10/04
A61B10/02 130
A61B10/00 500
A61B1/018 515
G01N33/48 S
G01N33/569 F
G01N33/543 521
G01N33/53 S
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106648
(22)【出願日】2024-07-02
(62)【分割の表示】P 2020016181の分割
【原出願日】2020-02-03
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 隆久
(72)【発明者】
【氏名】山出 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】鏡 卓馬
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】樋口 友洋
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 恭
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粘膜表面の付着粘液を検体として用いることによる非侵襲的にかつ迅速な検査方法の提供。
【解決手段】内視鏡実施時に検体を採取する際に粘膜表面の付着粘液を拭いとることで検体を採取する方法であって、粘膜表面の付着粘液を綿棒、細胞診ブラシ、または内視鏡の処置具によって拭いとることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡実施時に検体を採取する際に粘膜表面の付着粘液を拭いとることで検体を採取する方法。
【請求項2】
粘膜表面の付着粘液を内視鏡の処置具である綿棒で拭いとることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
粘膜表面の付着粘液を内視鏡の処置具である細胞診ブラシで拭いとることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
胃の粘膜表面から内視鏡の処置具により付着粘液を拭いとることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
小腸の粘膜表面から内視鏡の処置具により付着粘液を拭いとることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
大腸の粘膜表面から内視鏡の処置具により付着粘液を拭いとることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
付着粘液からヘリコバクター・ピロリを検出することを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載した方法により採取した胃粘膜表面の付着粘液を検体として、胃粘膜に感染しているヘリコバクター・ピロリを検出する方法。
【請求項9】
検出にイムノアッセイを用いる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
イムノアッセイにヘリコバクター・ピロリ特異的抗体を用いる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
イムノアッセイがイムノクロマト法および/またはELISA法である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
ヘリコバクター・ピロリ特異的抗体がヘリコバクター・ピロリの構造因子および/または病原因子を認識するポリクローナル抗体および/またはモノクローナル抗体である、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡を用いて体腔内から粘膜表面の付着粘液を検体として採取する方法及び検体中の被検出物を検出するための検査方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、内視鏡を用いて、血管、尿管、胆管、膵管等の管状器官内や、小腸、大腸、その他の人体の体腔内を観察することにより、管状器官や体腔内の生体組織の状態を検査することが広く行われている。内視鏡を用いて病変を診断する際、内視鏡の挿入部を体腔内に挿入して、内視鏡観察により管腔の内表面を観察してその形態変化から病変部位を検出していた。病変部位の検出後、内視鏡の処置具チャンネルに細胞診ブラシ等の細胞採取手段を挿通し、当該病変部位を観察しつつ、細胞診ブラシにより当該病変部位の粘膜を擦過し、細胞を採取していた。その後、採取された細胞に対する顕微鏡観察の結果等から診断を行っていた。
【0003】
例えば、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の確定診断には、内視鏡診断の実施が必須であり、一般的に内視鏡診断実施後にヘリコバクター・ピロリ感染診断が実施される。これに伴い、内視鏡実施時に胃生検をおこない、侵襲的検査であるRUT(Rapid urease test)や検鏡法、培養法を実施することが多いが、胃生検は、組織の採取時にヘリコバクター・ピロリが感染していない箇所を採取した場合に偽陰性となることや、アスピリンやワルファリンなどの抗血栓薬を服用している患者に対してはリスクを伴う(非特許文献1)ため、侵襲性が低く、精度が良くかつ迅速判定が可能なヘリコバクター・ピロリ検査法が求められていた。
【0004】
侵襲性が低い検査方法である、尿素呼気試験(UBT)、血清中抗体測定法、便中抗原測定法以外の方法として、胃液からヘリコバクター・ピロリを直接検出する方法が挙げられる。内視鏡診断を実施する際に、胃液を採取することは比較的容易であり、かつ患者に対するリスクを伴わない、非侵襲的な検体採取方法である。しかしながら、採取した胃液中に存在するヘリコバクター・ピロリの菌量は多くなく、感度良く検出することは容易ではない(非特許文献2)。培養法での検出率は0~67%と高くなく、かつ検出に時間を要するという欠点がある。また、高感度な検出方法としてPCR法も試みられているが、判定結果が得られるまでに時間を要する点や、コンタミネーションに対するリスクコントロール、専用の機器を要する点、コスト面や手技の煩雑さ等から実際の医療現場にて使用することは容易ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン; 日本消化器内視鏡学会雑誌(2012)
【非特許文献2】Med Microbiol. 49巻(4):343-7、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粘膜表面の付着粘液を検体として用いることで、非侵襲的でありかつ迅速な検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、内視鏡検査実施の際に採取可能な胃粘液を検体として用いる際に綿棒で胃粘膜表面の付着粘液をぬぐいとることで簡便に検体を採取することができ、胃液のpHの影響を受けることなく、十分な感度が得られる測定系を確立することで、胃粘膜からの擦過採取物の臨床検体としての有用性を見出し、非侵襲的な検体採取によるヘリコバクター・ピロリの迅速検出が可能となる本発明を完成させた。
【0008】
本発明の態様は、以下のとおりである。
[1] 内視鏡実施時に検体を採取する際に粘膜表面の付着粘液を拭いとることで検体を採取する方法。
[2] 粘膜表面の付着粘液を綿棒で拭いとることを特徴とする[1]の方法。
[3] 粘膜表面の付着粘液を細胞診ブラシで拭いとることを特徴とする[1]の方法。
[4] 胃の粘膜表面から付着粘液を拭いとることを特徴とする[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 小腸の粘膜表面から付着粘液を拭いとることを特徴とする[1]~[3]のいずれかの方法。
[6] 大腸の粘膜表面から付着粘液を拭いとることを特徴とする[1]~[3]のいずれかの方法。
[7] 付着粘液からヘリコバクター・ピロリを検出することを特徴とする[4]の方法。[8] [1]~[7]のいずれかの方法により採取した胃粘膜表面の付着粘液を検体として、胃粘膜に感染しているヘリコバクター・ピロリを検出する方法。
[9] 検出にイムノアッセイを用いる、[8]の方法。
[10] イムノアッセイにヘリコバクター・ピロリ特異的抗体を用いる、[8]または[9]の方法。
[11] イムノアッセイがイムノクロマト法および/またはELISA法である、[9]または[10]の方法。
[12] ヘリコバクター・ピロリ特異的抗体がヘリコバクター・ピロリの構造因子および/または病原因子を認識するポリクローナル抗体および/またはモノクローナル抗体である、[9]~[11]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、粘膜表面からヘリコバクター・ピロリ感染の診断をおこなう方法を確立することができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明は内視鏡検査実施時に検体を採取する際に粘膜表面の付着粘液を拭いとることで検体を採取する方法である。
【0012】
内視鏡を用いて、血管、尿管、胆管、膵管等の管状器官内や、小腸、大腸、その他の人体の体腔内を観察することにより、管状器官や体腔内の生体組織の状態を検査することが広く行われている。内視鏡を用いて病変を診断する際、内視鏡の挿入部を体腔内に挿入して、内視鏡観察により管腔の内表面を観察して目的の粘液を拭いとるために粘膜表面領域を探索する。内視鏡の処置具チャンネルに綿棒、細胞診ブラシ等の内視鏡用検体採取具を挿通し、当該粘膜表面領域を観察しつつ、粘膜表面を擦過し、付着粘液を採取する。その後、この内視鏡用検体採取具を引き出せば、採取作業が終了する。その後、採取された付着粘液を検体として、各種検査を実施する。
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明に係る内視鏡用検体採取具は綿棒、ブラシ、先端が網目状のものや、スポンジ状のものや、布状等の吸収体で擦りとることで採取することもできる。したがって、出血のリスクの高い腫瘍の擦過細胞診に用いることができる。
【0014】
本発明を用いた測定方法について、ヘリコバクター・ピロリの測定方法を例に説明する。
【0015】
ヘリコバクター・ピロリの測定方法においては、抗ヘリコバクター・ピロリ特異的抗体又はその抗原結合性断片と検体中のヘリコバクター・ピロリとの抗原抗体反応を利用した免疫測定によりヘリコバクター・ピロリを測定する。
【0016】
抗ヘリコバクター・ピロリ抗体は、モノクローナル抗体もポリクローナル抗体も用いることができる。本発明の方法で用いる抗ヘリコバクター・ピロリ抗体は、ヘリコバクター・ピロリ菌体又はヘリコバクター・ピロリ由来のタンパク質を免疫原として用いて公知の方法で作製することができる。本発明の方法で用いる抗ヘリコバクター・ピロリ抗体は、ヘリコバクター・ピロリの抗原に対する特異的抗体である。ヘリコバクター・ピロリの抗原として、例えば、鞭毛、LPSのような構造因子や、ウレアーゼ、アドヘジン、カタラーゼ、SOD、VacA、CagA、cagPAI遺伝子群にコードされている蛋白質、OipA、NapA、DupA、熱ショック蛋白などの病原因子が挙げられる。ヘリコバクター・ピロリの抗原を検出することにより、ヘリコバクター・ピロリの存在を検出することができる。抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の抗原結合性断片としては、ヘリコバクター・ピロリに反応するFabやF(ab’)2のような免疫グロブリン断片、あるいは、組換え体として発現されたscFv、dsFv、diabody、minibody等の組換え抗体が挙げられる。本発明において、「抗体」という語は、ヘリコバクター・ピロリに特異的なこれらの断片をも包含する。これらの断片の調製方法はこの分野において周知である。
【0017】
免疫測定法としては、免疫染色法(蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法、放射性同位元素標識抗体法を含む)、電気泳動法による分離と蛍光、酵素、放射性同位元素などによる検出方法とを組み合わせた方法(ウエスタンブロット法、蛍光二次元電気泳動法を含む)、酵素免疫測定吸着法(ELISA)、ドット・ブロッティング法、ラテックス凝集法(LA:Latex Agglutination-Turbidimetric Immunoassay)、イムノクロマト法など、当業者にとって周知のいずれの方法も用いることができる。なお、本発明において、「測定」には、定量、半定量、検出のいずれもが包含される。
【0018】
上記の免疫測定法の中でも、サンドイッチ法が好ましい。サンドイッチ法自体は免疫測定の分野において周知であり、例えばラテラルフロー式に免疫測定を行うイムノクロマト法やELISA法により行うことができる。これらのサンドイッチ法自体はいずれも周知であり、本発明の方法は、上記した本発明のヘリコバクター・ピロリ特異的モノクローナル抗体および/またはポリクローナル抗体を用いること以外は、周知のサンドイッチ法により行うことができる。
【0019】
サンドイッチ法を検出原理とする免疫測定において、抗体が固定化される固相としては、抗体を公知技術により固定可能なものは全て用いることができる。例えば、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)、粒子状物質、試験管、樹脂平板など公知のものを任意に選択できる。また、抗体を標識する物質としては、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色粒子、コロイド粒子などを用いることができる。また、2種類以上の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を用いてもよい。2種類以上の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体は、サンドイッチ法に用いられ、互いに異なるエピトープを認識する抗体であることが好ましい。
【0020】
例えば、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を固相化したポリスチレン等でできたマイクロタイタープレートに胃内容物試料を添加し、抗原・抗体反応をさせ、さらに酵素標識した抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を添加し、抗原・抗体反応をさせ、洗浄後、酵素基質と反応・発色させ、吸光度を測定して胃液中のヘリコバクター・ピロリの存在を検出すると共に、その測定値から胃液中のヘリコバクター・ピロリの数を算出することもできる。また、蛍光標識した抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を用いて、抗原・抗体反応をさせた後に蛍光を測定してもよい。
【0021】
前述の種々の材料による免疫測定法の中でも、特に臨床検査の簡便性と迅速性の観点から、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法であるイムノクロマト法が好ましい。
【0022】
本発明の方法によるラテラルフロー式免疫測定法は、測定対象物(抗原)を捕捉する抗体(抗体1)が固定化された検出領域を有する支持体、着色ポリスチレン粒子や金コロイド等の適当な標識物質で標識した移動可能な標識抗体(抗体2)を有する標識体領域、検体を滴加するサンプルパッド、展開された検体液を吸収する吸収帯、これら部材を1つに貼り合わせるためのバッキングシートから成り、抗体1および抗体2の少なくとも一方が本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体である免疫測定器具を用いて行うことができる。該方法においては、抗体1を固定化した固相支持体に毛管現象を利用して、着色ポリスチレン粒子や金コロイド等の適当な標識物質で標識した被検出物質(標識試薬)と結合し得る抗体2と被検出物質の複合体を展開移動させる。この結果、固定化した物質-被検出物質-標識試薬の複合体が固相支持体上に形成され、該複合体から発する標識試薬のシグナル(金コロイドの場合は、被検出物質と結合し得る物質を固定化した固相支持体部分が赤くなる)を検出することにより、被検出物質を検出することができる。該免疫測定方法は、5~35℃、好ましくは室温で行うことができ、生体粘膜由来検体の検体処理液による処理もこの温度範囲内で行えばよい。
【0023】
本発明は、胃粘膜表面の付着粘液からヘリコバクター・ピロリを検出するための、上記の免疫測定器具も包含する。
【0024】
なお、検出領域の数および標識体領域に含まれる標識抗体の種類は1に限られるものではなく、複数の測定対象物に対応する抗体を用いることで、2以上の抗原を同一の免疫測定器具にて検出することができる。
【0025】
本発明においては、胃粘膜表面の付着粘液中のヘリコバクター・ピロリを直接検出することにより、胃に感染しているヘリコバクター・ピロリを検出する。胃粘膜表面の付着粘液としては、内視鏡検査の際に内視鏡用綿棒、細胞診ブラシ等の採取具で採取する。これらの採取具は、内視鏡の処置具チャンネル(鉗子口)を通して、内視鏡内に挿通し、内視鏡先端部から出すことにより、内視鏡で胃粘膜表面領域を観察しながら、所望の部位の胃粘膜を採取することができる。胃粘膜表面の付着粘液は内視鏡を胃に入れた際に採取しても良いが、予め胃内にある胃内容物を吸引等で除去してから、内視鏡等でヘリコバクター・ピロリが原因と疑われる粘膜の発赤や腫脹のある部位、その他感染が疑われる部位の粘膜を綿棒等の採取具でして採取してもよい。内視鏡を胃に入れる際、予め消泡薬を飲んだり、鼻腔または咽喉の麻酔液を注入することから、胃内容物がそれらの薬で希釈される。また、内視鏡等が胃壁を擦過、刺激するうちに胃液が分泌され、胃内容物が希釈される。その結果、その胃内容物を検体として用いると、ヘリコバクター・ピロリの検出感度が低くなることがある。本発明の方法によれば粘膜から直接検体を採取するので、検体が希釈されることが無く、ヘリコバクター・ピロリの検出感度が低下しない。本発明の抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を用いた方法によれば、検体を濃縮、培養操作等の処理をせずに直接試料として用いることができる。また、緩衝液と混合し試料としてもよい。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液を用いることができ、Tween20等の界面活性剤や血清アルブミンを含んでいてもよい。例えば、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法であるイムノクロマト法でアッセイを行う場合、綿棒で採取された検体を緩衝液に浮遊し検体試料として用いる。胃液には胃粘液が含まれており、イムノアッセイには適さないと考えられていたが、本発明の方法では胃粘液の影響を受けずにイムノアッセイを行うことができる。
【0026】
本発明においては、ヒト、イヌ、ネコ等の動物の胃液、胃粘液を対象とする。
【0027】
本発明の方法は、胃に感染しているヘリコバクター・ピロリを検出する方法であり、また、ヘリコバクター・ピロリの感染を検出する方法、あるいは、ヘリコバクター・ピロリの感染を検出するためのデータを採取する方法でもある。
【0028】
本発明の方法により、胃中にヘリコバクター・ピロリが検出され、ヘリコバクター・ピロリへの感染が判明した場合、ヘリコバクター・ピロリを除菌することにより、ヘリコバクター・ピロリ感染症を治療することができる。ヘリコバクター・ピロリの除菌は抗生物質を用いて行うことができる。この際、好ましくは複数の抗生物質を組合せて用い、例えば、抗生物質2剤(アモキシリン(AMPC)及びクラリスロマイシン(CAM))と胃酸分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウム競合型アシッドブロッカーを組合せて投与すればよい。
【実施例0029】
以下、実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例だけに限定されるものではない。
1.抗ヘリコバクター・ピロリモノクローナル抗体の作製
ヘリコバクター・ピロリから抽出した抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3X63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、ヘリコバクター・ピロリから抽出した抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
得られた腹水からプロティンAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー法により、それぞれIgGを精製し、2種類の精製抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を得た。
【0030】
2.標識抗ヘリコバクター・ピロリ抗体の作製
抗ヘリコバクター・ピロリ抗体のうち1種類を50mM MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate;同仁化学社)緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、O.D.280nm=0.5になるように同じ緩衝液で希釈した溶液を10mL調製した。次に10(w/v)%青色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.45μm、表面官能基はカルボキシル基、官能基密度65Å2/COOH基;Magsphere社)と液量比40:1になるように混合し、反応させた。次に、1(w/v)%のEDAC(N-(3-Dimethylaminopropyl)-N'-ethylcarbodiimide hydrochloride;Sigma社)を最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、最終浮遊液(5mM Tris,0.04(w/v)% BSA(ウシ血清アルブミン),0.4Mトレハロース,0.2(v/v)% TritonX-100)20mL中に浮遊し、超音波分散装置(オリンパス社)にかけ、ラテックス粒子を分散させた。次にラテックス粒子標識抗体を陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて8μL/cmの塗布量でリール状に巻いた幅15mmのセルロース不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を1分間吹きつけて乾燥させ、ラテックス粒子標識抗体乾燥パッドを作製した。
【0031】
3.メンブレン固相用抗体の調製
上記1.で作製した精製抗ヘリコバクター・ピロリ抗体のうち標識に用いなかった方を、固相液(10mM Tris-HCl(pH8.0))に透析し、透析後に0.22μmろ過を行い、O.D.280nm=3.0になるように固相液で希釈して固相用抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を調製した。
【0032】
4.ヘリコバクター・ピロリ検出用アッセイ装置の作製
メンブレンは、幅3cm×長さ10cmのニトロセルロースメンブレン(孔径12μm;ワットマン社製)シート(白色)を用いた。その長軸側の一端(この端を上流端、反対側を下流端とする)から6mm離れた位置に固相用抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を1μL/cmの塗布量で陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布し、長軸側の一端から22mm離れた位置に抗マウスIgG抗体をO.D.280nm=1.0に希釈し、1μL/cmの塗布量で陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布した。塗布後、45℃の温風を10分間吹き付けて乾燥した。
【0033】
次に、部材を固定し、かつ強度を増すため、メンブレンの抗体塗布面(この面を上面とする)の反対側(この面を下面とする)にプラスチック製バッキングシート(BioDot社製)を接着した。
【0034】
次に、上記2で作製したラテックス粒子標識抗体乾燥パッドを幅15mm×長さ10cmに切断し、メンブレンの上面に、メンブレンの上流端が2mm重なる様に配置して貼り付け、さらに幅23mm×長さ10cmのセルロースろ紙(ワットマン社)をラテックス粒子標識抗体乾燥パッドの上面に13mm重なる様に配置して貼り付け、サンプル滴下パッドとした。
【0035】
次に、幅30mm×長さ10cmのセルロースろ紙(ワットマン社)をメンブレンの上面に、メンブレンの下流端と5mm重なる様に配置して貼り付け、サンプル吸収パッドとした。
【0036】
次にサンプル滴下パッドの上流端の幅5mmを除いて、上面全面を透明プラスチックラミネート(Adhesive Research社)で被覆した。
最後に長軸方向に沿って、5mmずつ切断し、メンブレンアッセイ装置を作製した。
【0037】
5.ヘリコバクター・ピロリの検出
検体として迅速ウレアーゼ法(RUT)および/またはPCR法にてヘリコバクター・ピロリ感染診断を行い、総合所見にてヘリコバクター・ピロリ感染陽性(+)と診断された患者(10名)およびヘリコバクター・ピロリ感染陰性(-)と診断された患者(3名)から内視鏡検査の際に胃から吸引採取した採取した胃液及び胃壁を綿棒で拭った綿棒拭い液を用いた。
【0038】
胃液検体は、胃液500μLを検体浮遊用緩衝液(Tween20 0.05(w/v)%およびウシ血清アルブミン0.1(w/v)%を含むリン酸緩衝液(pH7.4))1mL中に直接添加し、撹拌したものを検体試料とした。
【0039】
綿棒拭い液検体は、検体を採取した綿棒の綿球を検体浮遊用緩衝液(Tween20 0.05(w/v)%およびウシ血清アルブミン0.1(w/v)%を含むリン酸緩衝液(pH7.4))1mL中に浸けて、先端付着物を揉みだして検体浮遊用緩衝液中に抽出してこれを検体試料とした。
【0040】
検体試料に上記4で作製したヘリコバクター・ピロリ検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置のサンプル滴下パッド側を液に浸した。10分後、アッセイ装置を観察し、抗マウスIgG抗体を塗布した位置(コントロールライン)に発色が認められた場合を有効とし、固相用抗ヘリコバクター・ピロリ抗体を塗布した位置に発色が認められた場合にはヘリコバクター・ピロリ陽性(+)、発色が認められない場合は陰性(-)と判定した。またコントロールラインの位置に発色が認められない場合を無効とした。
【0041】
6.比較検討
表1の結果より、胃液検体は検体番号No.3において偽陰性を示したが、綿棒拭い液検体では改善された。
【0042】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリの感染の検出に利用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡実施時に胃から検体を採取する際に、胃壁を綿棒で拭うことにより胃粘膜表面の付着粘液を採取した綿棒の綿棒拭い液を用い、検体を採取した綿棒の綿球を検体浮遊用緩衝液(Tween20 0.05(w/v)%およびウシ血清アルブミン0.1(w/v)%を含むリン酸緩衝液(pH7.4))1mL中に浸けて、先端付着物を揉みだして検体浮遊用緩衝液中に抽出してこれを検体試料とし、胃粘膜に感染しているヘリコバクター・ピロリを検出する方法。
【請求項2】
検出にイムノアッセイを用いる、請求項記載の方法。
【請求項3】
イムノアッセイにヘリコバクター・ピロリ特異的抗体を用いる、請求項またはに記載の方法。
【請求項4】
イムノアッセイがイムノクロマト法および/またはELISA法である、請求項またはに記載の方法。
【請求項5】
ヘリコバクター・ピロリ特異的抗体がヘリコバクター・ピロリの構造因子および/または病原因子を認識するポリクローナル抗体および/またはモノクローナル抗体である、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
内視鏡実施時に胃から検体を採取する際に、内視鏡でヘリコバクター・ピロリが原因と疑われる粘膜の発赤や腫脹のある部位、その他感染が疑われる部位の粘膜を綿棒で拭うことにより胃粘膜表面の付着粘液を採取した綿棒の綿棒拭い液を用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
胃から吸引採取した胃液を含む胃内液の検体試料と、前記綿棒拭い液検体とを組み合わせてヘリコバクター・ピロリの検出を判定する、請求項1に記載の方法。