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特開2024-138361線維化疾患の治療に関連する標的及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138361
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】線維化疾患の治療に関連する標的及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20241001BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20241001BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241001BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241001BHJP
   A01K 67/0278 20240101ALI20241001BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20241001BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P25/00 ZNA
A61P43/00 111
A61P11/00
A61P1/16
A61P9/00
A61P13/12
A61P7/00
A61P17/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K38/16
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01K67/0278
C12Q1/02
A61K38/17
A61K45/00
A61P25/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024108679
(22)【出願日】2024-07-05
(62)【分割の表示】P 2022545034の分割
【原出願日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】202010076729.2
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011212639.8
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522293490
【氏名又は名称】シャンハイ シンヴィダ バイオテクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】リウ,ジュンリン
(72)【発明者】
【氏名】ファン,シュエメイ
(72)【発明者】
【氏名】ゴン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】リ,リン
(57)【要約】
【課題】
本発明が解決した課題は、Pear1、及びヒトPear1に関連する疾患の治療薬における線維化疾患の標的としてのその使用である。
【解決手段】
本発明は、Pear1、及びヒトPear1に関連する疾患の治療薬における線維化疾患の標的としてのその使用である。Pear1を標的とする抗体又はその変異体、あるいはそれを含む組成物及びその使用も開示した。本発明は、ヒト化Pear1トランスジェニックマウスモデル及びその構築方法と使用を開示した。本発明の技術的方案は、線維芽細胞の活性化を調節することができ、線維化疾患及びそれに伴う拘束性疾患の治療において幅広い応用が期待される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)線維化疾患を治療する薬剤の調製、2)線維芽細胞活性化シグナル伝達経路をダウンレギュレート及び/又は阻害する薬剤の調製、及び/又は3)線維芽細胞活性化を阻害する薬剤の調製における、Pear1遺伝子、それによってコードされるタンパク質、又はそのアゴニストの使用。
【請求項2】
前記線維化疾患が、肺線維症、肝線維症、心線維症、腎線維症、骨髄線維症、皮膚瘢痕及び/又は軟部組織線維症を含むことを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含む;前記重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号26、配列番号27、配列番号28に示される;前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号45、GAT、配列番号46に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号47、GTS、配列番号48に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号49、DTS、配列番号50に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号51、GAT、配列番号52に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号53、LVS、配列番号54に示されることを特徴とする、Pear1を標的とする単離された抗体又はその変異体。
【請求項4】
請求項3に記載の抗体又はその変異体をコードする単離された核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の単離された核酸を含む組換え発現ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載の単離された核酸又は請求項5に記載の組換え発現ベクターを含む形質転換体。
【請求項7】
請求項3に記載の抗体又はその変異体を含む医薬品。
【請求項8】
1)線維化疾患を治療する薬剤の調製、2)線維芽細胞活性化シグナル伝達経路をダウンレギュレート及び/又は阻害する薬剤の調製、及び/又は3)線維芽細胞活性化を阻害する薬剤の調製における、請求項3に記載の抗体又はその変異体、請求項4に記載の核酸、請求項5に記載の組換え発現ベクター、請求項6に記載の形質転換体及び/又は請求項7に記載の医薬品の使用。
【請求項9】
ヒトPear1遺伝子で動物Pear1遺伝子を置き換えることを含むことを特徴とする、ヒト化Pear1トランスジェニック動物モデルを構築する方法。
【請求項10】
(1)試験群及び対照群の線維芽細胞の培養系に、候補分子をそれぞれ添加する、又は添加しない工程と;(2)試験群及び対照群の線維芽細胞の活性化状況を比較する工程と;(3)試験群の線維芽細胞の活性化が対照群よりも著しく低い場合、当該候補分子がPear1アゴニストであると判断する工程と、を含むことを特徴とする、Pear1アゴニストをスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、出願日が2020年1月23日の中国特許出願202010076729.2及び出願日が2020年11月3日の中国特許出願202011212639.8に基づく優先権を主張する。本出願は、上記中国特許出願の全文を引用する。
【背景技術】
【0002】
臓器や組織の損傷はいずれも、細胞や分子の複雑な反応を引き起こし、最終的に組織の線維化に至る。このような組織線維化反応は、短期的に適応的な組織修復特性を持つ場合もあるが、長期的に線維化が進行すると、臓器や組織の瘢痕が生じ、最終的に組織細胞の機能障害や臓器不全に至る。皮膚、肺、肝臓、心臓、腎臓、膵臓、脾臓、神経系、骨髄などの人体のほとんどの臓器や組織において、既知又は未知の理由により線維化は発生し、人間の健康に深刻な脅威を与える可能性があり、その主要な病理学的変化は、臓器や組織における線維性結合組織の増加と実質細胞の減少であり、引き続き進行すると、臓器の構造破壊や機能低下、ひいては不全に繋がり、人間の健康や生命に深刻な脅威を与える。世界的に見れば、組織線維化は多くの疾患において障害や死亡の要因となっており、様々な疾患による患者の死亡の45%近くは、組織線維増生疾患に起因すると言える。これらの臓器における線維化の主要なメカニズムは、線維芽細胞の増殖と大量の細胞外マトリックスの蓄積によるもので、炎症性損傷や組織構造の破壊を伴うことを主要な特徴としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、線維芽細胞とその細胞外マトリックスによる正常組織の構造的・機能的な破壊に臨み、現在でこれを予防・回復する有効な薬剤はまだなく、線維化疾患の発症・進行・悪化を改善して元の組織・臓器の正常な機能を回復させる薬剤の開発が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、線維化疾患の発症・進行・悪化を改善して元の組織・臓器の正常な機能を回復させることができる薬剤が欠けているという先行技術の欠陥に鑑み、線維化疾患の治療に関連する標的であるPear1及びその使用、特にPear1を標的とする線維化関連疾患治療用抗体を提供する。
【0005】
本発明の第一の様態は、1)線維化疾患を治療する薬剤の調製、2)線維芽細胞活性化シグナル伝達経路をダウンレギュレート及び/又は阻害する薬剤の調製、及び/又は3)線維芽細胞の活性化を阻害する薬剤の調製における、Pear1(Platelet Endothelial Aggregation Receptor 1、血小板内皮凝集受容体1)遺伝子、タンパク質又はそのアゴニストの使用を提供する。
【0006】
もう一つの実施形態において、前記線維化疾患は、肺線維症、肝線維症、心線維症、腎線維症、骨髄線維症、皮膚瘢痕及び/又は軟部組織線維症を含む。
もう一つの実施形態において、前記肺線維症は、特発性肺線維症(IPF)である。好ましくは、前記肺線維症は、肺線維症に伴う拘束性肺疾患をさらに含む。
もう一つの実施形態において、前記心線維症は、心筋線維症、特に心筋梗塞後の心筋線維症である。
もう一つの実施形態において、前記皮膚線維症は、外傷性要因により、皮膚や軟部組織において正常な組織細胞が線維芽細胞に置き換わる疾患を含む。
もう一つの実施形態において、前記外傷性要因は、外傷、火傷、手術や美容整形による瘢痕、若しくはケロイド症の人の皮膚に形成したケロイド、強皮症などを含む。
【0007】
もう一つの実施形態において、前記アゴニストは、Pear1タンパク質アゴニストである。
もう一つの実施形態において、前記アゴニストは、Pear1の発現及び/又は活性を強化させる。
もう一つの実施形態において、前記アゴニストは、Pear1を標的とする抗体又はその変異体、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン又はそれらの組み合わせを含む。
もう一つの実施形態において、前記アゴニストは、Pear1を標的とする抗体又はその変異体を含む。
もう一つの実施形態において、前記アゴニストは、本発明の第二の様態に記載の抗体又はその変異体である。
【0008】
もう一つの実施形態において、前記Pear1は、Pear1遺伝子及び/又はそれによってコードされるタンパク質を含む。
もう一つの実施形態において、前記Pear1遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質は、哺乳動物から由来する。
もう一つの実施形態において、前記Pear1遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質は、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌ、サル、ラクダ、アルパカ又はそれらの組み合わせから由来する。
【0009】
もう一つの実施形態において、前記Pear1遺伝子又はそれによってコードされるタンパク質は、ヒト又はマウスから由来する。
【0010】
もう一つの実施形態において、前記線維芽細胞活性化シグナル伝達経路は、PI3k/aktシグナル伝達経路、MAPKシグナル伝達経路及び/又はSmadシグナル伝達経路を含む。
【0011】
本発明の第二の様態は、Pear1を標的とする単離された抗体又はその変異体を提供し、前記抗体は、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含む;前記重鎖可変領域のHCDR1、HCDR2及びHCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号26、配列番号27、配列番号28に示される;前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号45、GAT、配列番号46に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号47、GTS、配列番号48に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号49、DTS、配列番号50に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号51、GAT、配列番号52に示され、あるいは、前記軽鎖可変領域のLCDR1、LCDR2及びLCDR3のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号53、LVS、配列番号54に示される。
【0012】
もう一つの実施形態において、前記変異体は、前記抗体のCDR、FR又は完全長配列において、一つないし複数の、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個以下のアミノ酸残基が付加、欠失又は置換された配列である。
【0013】
もう一つの実施形態において、前記変異体は、Pear1を標的として活性化する活性を有する又は実質的に有する。
【0014】
もう一つの実施形態において、前記変異体のHCDR1では、配列番号26に示されるアミノ酸配列の第三位におけるSがA又はTに突然変異され、第六位におけるGがDに突然変異され、及び/又は第八位におけるPがT又はYに突然変異された;及び/又は、前記変異体のHCDR2では、配列番号27に示されるアミノ酸配列の第三位におけるPがS又はGに突然変異され、第四位におけるYがNに突然変異され、及び/又は第八位におけるTがAに突然変異された;及び/又は、前記変異体のHCDR3では、配列番号28に示されるアミノ酸配列の第九位におけるAがDに突然変異され、及び/又は、第十位におけるYがFに突然変異された。
【0015】
もう一つの実施形態において、前記抗体又はその変異体のHCDR1は、配列番号26、31、33、36及び配列番号39に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;HCDR2は、配列番号27、30、34、37及び配列番号40-44に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び、HCDR3は、配列番号28、29、32、35及び配列番号38に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び/又は、
前記抗体又はその変異体のLCDR1は、配列番号45、47、49、51及び配列番号53に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;LCDR2は、GAT、SAS、DTS及びLVSに示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び、LCDR3は、配列番号46、48、50、52及び配列番号54に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む。
もう一つの実施形態において、前記抗体又はその変異体のHFR(重鎖可変領域フレームワーク領域)1は、配列番号114、115及び配列番号116に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;HFR2は、配列番号117、118、119、120、121、122、123、124及び配列番号125に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び、HFR3は、配列番号126、127、128、129、130、131、132、133、134及び配列番号135に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び、HFR4は、配列番号136及び配列番号137に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び/又は、
もう一つの実施形態において、前記抗体又はその変異体のLFR(軽鎖可変領域フレームワーク領域)1は、配列番号138、139、140、141、142及び配列番号143に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;LFR2は、配列番号144、145、146、147、148及び配列番号149に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び、LFR3は、配列番号150、151、152、153、154、155、156及び配列番号157に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び、LFR4は、配列番号158、159、160、161及び配列番号162に示されるアミノ酸配列からなる群れから選ばれるいずれか一つのアミノ酸配列を含む;及び/又は、
もう一つの実施形態において、前記抗体又はその変異体は、アミノ酸配列として、下記のものを含む:
配列番号26、配列番号27、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号27、配列番号29に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号30、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号47、GTS、配列番号48に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号27、配列番号29に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、DTS、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号40、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、GAT、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号41、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、SAS、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号42、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、LVS、配列番号52に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号26、配列番号43、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号31、配列番号27、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号51、GAT、配列番号52に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号31、配列番号37、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号53、LVS、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号31、配列番号34、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、SAS、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号31、配列番号30、配列番号35に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号47、GAT、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号31、配列番号42、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、DTS、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号33、配列番号34、配列番号35に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号33、配列番号37、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号53、LVS、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号33、配列番号30、配列番号35に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号47、GAT、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号33、配列番号42、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、DTS、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号36、配列番号37、配列番号38に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号53、LVS、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号36、配列番号34、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、SAS、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号36、配列番号30、配列番号35に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号47、GAT、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号36、配列番号42、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、DTS、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号27、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号32に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、SAS、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号30、配列番号35に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号47、GAT、配列番号50に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号42、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、DTS、配列番号54に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号37、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号49、GAT、配列番号48に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号40、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号41、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号42、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号43、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3;あるいは、
配列番号39、配列番号44、配列番号28に示されるHCDR1、HCDR2及びHCDR3、配列番号45、GAT、配列番号46に示されるLCDR1、LCDR2及びLCDR3。
【0016】
もう一つの実施形態において、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号16及び配列番号1に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号16及び配列番号2に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17及び配列番号3に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号18及び配列番号2に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19及び配列番号4に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号20及び配列番号5に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号21及び配列番号6に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号7に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号23及び配列番号7に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号24及び配列番号7に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25及び配列番号7に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号8に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号23及び配列番号8に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号24及び配列番号8に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25及び配列番号8に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号9に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号23及び配列番号9に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号24及び配列番号9に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25及び配列番号9に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号10に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号23及び配列番号10に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号24及び配列番号10に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25及び配列番号10に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号11に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号12に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号13に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号14に示される;あるいは、前記軽鎖可変領域、重鎖可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ配列番号22及び配列番号15に示される。
【0017】
もう一つの実施形態において、前記変異体は、前記抗体のアミノ酸配列と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
もう一つの実施形態において、前記抗体は、完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv(例えばscFv)、二重特異性抗体、多重特異性抗体、又は単一ドメイン抗体、あるいは前記抗体から調製されるモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体である。
もう一つの実施形態において、前記抗体又はその変異体は、完全長抗体であり、前記完全長抗体の重鎖定常領域は、hIgG1、hIgG2、hIgG3若しくはhIgG4の重鎖定常領域あるいはそれらから誘導される配列からなる群れから選ばれる。
【0018】
もう一つの実施形態において、前記抗体の軽鎖定常領域は、κ鎖又はλ鎖あるいはそれらから誘導される配列からなる群れから選ばれる。
【0019】
もう一つの実施形態において、前記重鎖定常領域から誘導される配列は、前記hIgG1、hIgG2、hIgG3若しくはhIgG4の重鎖定常領域において、一つないし複数の、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個以下のアミノ酸残基が付加、欠失又は置換された配列である。
もう一つの実施形態において、前記重鎖定常領域から誘導される配列は、hIgG1、hIgG2、hIgG3若しくはhIgG4の重鎖定常領域と80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
もう一つの実施形態において、前記完全長抗体の重鎖定常領域は、hIgG3若しくはhIgG4の重鎖定常領域あるいはそれらから誘導される配列である。
もう一つの実施形態において、前記の誘導される配列は、hIgG1、hIgG2、hIgG3若しくはhIgG4の重鎖定常領域において、1~2個のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列である。
もう一つの実施形態において、前記の誘導される配列は、hIgG4のS228P突然変異体である。
もう一つの実施形態において、前記軽鎖定常領域は、ヒトκ鎖である。
【0020】
本発明の第三の様態は、本発明の第二の様態のいずれか一項に記載の抗体又はその変異体をコードする単離された核酸を提供する。
【0021】
本発明の第四の様態は、本発明の第三の様態に記載の単離された核酸を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0022】
本発明の第五の様態は、本発明の第三の様態に記載の単離された核酸又は本発明の第四の様態に記載の組換え発現ベクターを含む形質転換体を提供する。
もう一つの実施形態において、前記形質転換体の宿主は、原核細胞又は真核細胞である。
もう一つの実施形態において、前記原核細胞は、大腸菌を含む。
もう一つの実施形態において、前記真核細胞は、酵母、例えば出芽酵母、ピキア酵母、アスペルギルスやトリコデルマ、又はそれらの組み合わせを含む。
【0023】
本発明の第六の様態は、本発明の第二の様態に記載の抗体又はその変異体を含む医薬品を提供する。
もう一つの実施形態において、前記医薬品は、医薬組成物である。
もう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
もう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、一又はそれ以上のPear1アゴニストを含む。
もう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、Pear1アゴニストとして、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー及び小分子化合物から選ばれる一又はそれ以上をさらに含む;より好ましくは、FcεR1α、デキストラン硫酸及びフコイダンを含む。
【0024】
もう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、前記のPear1を標的とする抗体を含み、抗体は、完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv(例えばscFv)、二重特異性抗体、多重特異性抗体、単一ドメイン抗体、あるいは前記抗体から調製されるモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体を含み、好ましくは、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー又は小分子化合物をさらに含む;あるいは、前記医薬組成物は、前記のPear1を標的とする抗体を含み、抗体は、完全長抗体、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv(例えばscFv)、二重特異性抗体、多重特異性抗体、単一ドメイン抗体、あるいは前記抗体から調製されるモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体を含み、好ましくは、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー及び/又は小分子化合物をさらに含む。より好ましくは、FcεR1α、デキストラン硫酸及びフコイダンを投与することを含む。
【0025】
本発明の第七の様態は、1)線維化疾患を治療する薬剤の調製、2)線維芽細胞活性化シグナル伝達経路をダウンレギュレート及び/又は阻害する薬剤の調製、及び/又は3)線維芽細胞活性化を阻害する薬剤の調製における、本発明の第二の様態のいずれか一項に記載の抗体又はその変異体、本発明の第五の様態に記載の形質転換体、又は本発明の第六の様態に記載の医薬品の使用を提供する。
【0026】
もう一つの実施形態において、前記線維化疾患は、肺線維症、肝線維症、心線維症、腎線維症、骨髄線維症、皮膚瘢痕及び/又は軟部組織線維症を含む。
もう一つの実施形態において、前記肺線維症は、肺線維症に伴う拘束性肺疾患をさらに含む。
もう一つの実施形態において、前記皮膚線維症は、外傷性要因により、皮膚や軟部組織において、線維芽細胞が活性化されて瘢痕が発生する疾患、及び/又は正常な組織細胞が線維芽細胞に置き換わる疾患を含む。
【0027】
もう一つの実施形態において、前記の要因は、感染、外傷、薬剤、放射線、異物、免疫亢進から選ばれる一又はそれ以上を含む。
【0028】
本発明の第八の様態は、Pear1遺伝子、その発現産物又はそのアゴニストを培養されている線維芽細胞に転化することで、線維芽細胞活性化を阻害する工程を含む、インビトロで線維芽細胞活性化を非治療的に阻害する方法を提供する。
もう一つの実施形態において、前記線維芽細胞活性化は、線維芽細胞が上皮間葉転換を起こし、正常な組織細胞を置き換えることを含む。
もう一つの実施形態において、前記Pear1遺伝子、その発現産物又はそのアゴニストの濃度は、0.001nM~1Mである。
【0029】
本発明の第九の様態は、その必要のある個体又は対象に、本発明の第二の様態に記載の抗体又はその変異体、本発明の第六の様態に記載の医薬品を投与することを含む、線維化疾患を治療する方法を提供する。
【0030】
もう一つの実施形態において、本発明は、1)線維化疾患を治療すること、2)線維芽細胞活性化シグナル伝達経路をダウンレギュレート及び/又は阻害すること、及び/又は3)線維芽細胞活性化を阻害することにおける、本発明の第二の様態のいずれか一項に記載の抗体又はその変異体、本発明の第五の様態に記載の形質転換体、又は本発明の第六の様態に記載の医薬品の使用を提供する。
もう一つの実施形態において、前記のその必要のある個体又は対象は、線維化疾患が既に発症した個体又は対象を含む。
もう一つの実施形態において、前記のその必要のある個体又は対象は、あらゆる原因によって引き起こされる肺炎、肝炎、腎炎、心筋梗塞、手術及び/又はの外傷を経験している又は経験した個体又は対象を含む。
【0031】
もう一つの実施形態において、前記投与される製剤は、吸入投与製剤、局所投与製剤、胃腸外投与製剤又はそれらの組み合わせを含む。
もう一つの実施形態において、前記吸入投与製剤は、エアゾル、スプレー、点鼻剤、粉末剤又はそれらの組み合わせを含む。
もう一つの実施形態において、前記胃腸外投与製剤は、点滴剤、ゲル、エマルジョン、クリーム、パッチ、フィルム、注射剤又はそれらの組み合わせを含む。
もう一つの実施形態において、前記胃腸外投与は、局所塗布、滴下、注射又はそれらの組み合わせ、例えば皮下注射を含む。
【0032】
本発明の第十の様態は、ヒトPear1遺伝子で動物Pear1遺伝子を置き換えることを含む、ヒト化Pear1トランスジェニック動物モデルを構築する方法を提供する。
【0033】
もう一つの実施形態において、前記方法は、(i)動物Pear1遺伝子のエクソンを選択する工程と;(ii)動物Pear1遺伝子のエクソンで、相同組換えにより、動物Pear1遺伝子をヒトPear1遺伝子に置き換える工程と、を含む。
もう一つの実施形態において、前記動物は、非ヒト哺乳動物である。
もう一つの実施形態において、前記動物は、マウス、ラット、ネコ、イヌ、サル、ラクダ、アルパカ又はそれらの組み合わせである。
もう一つの実施形態において、前記Pear1遺伝子のエクソンは、マウスPear1遺伝子のエクソン4~6である。
【0034】
もう一つの実施形態において、工程(i)は、マウスコーディング領域のエクソン1-ATG付近に標的部位を設計し、相同組換えテンプレートの存在下でマウスPear1遺伝子をヒトPear1 cDNAに置き換えることを含む。
【0035】
もう一つの実施形態において、ヒトPear1 cDNAの後ろにSV40 polyA転写終了シグナルを付加することで、マウスPear1の全転写物を完全にヒトPear1 cDNAに置き換える;ヒトPear1遺伝子をマウスPear1遺伝子のプロモーターの制御下に配置することで、ヒトPear1遺伝子をマウスの各組織や臓器で正常に発現させる。
【0036】
好ましくは、前記方法はさらに、(iii)ヒト化マウスが成功に構築されたか否かを判断する工程を含む:プライマーによりヒトPear1遺伝子を増幅し、ヒトPear1遺伝子が増幅できる場合、構築が成功したと判断する;より好ましくは、前記プライマーは、配列番号110~113に示される。
【0037】
本発明の第十一の様態は、前記方法によって構築されたヒト化Pear1トランスジェニックマウスモデルをさらに提供する。
本発明の第十二の様態は、ヒトPear1に関連する疾患を治療する薬剤のスクリーニング/評価における、本発明の第十一の様態に記載のヒト化Pear1トランスジェニックマウスモデルの使用を提供する。
本発明の第十三の様態は、ヒトPear1に対する薬剤の治療効果評価用の動物モデルとしての、本発明の第十一の様態に記載のヒト化Pear1トランスジェニックマウスモデルの使用をさらに提供する。
【0038】
本発明の第十四の様態は、(1)試験群及び対照群の線維芽細胞の培養系に、候補分子をそれぞれ添加する、又は添加しない工程と;(2)試験群及び対照群の線維芽細胞の活性化状況を比較する工程と;(3)試験群の線維芽細胞の活性化が対照群よりも著しく低い場合、当該候補分子がPear1アゴニストであると判断する工程と、を含む、Pear1アゴニストをスクリーニングする方法を提供する。
【0039】
もう一つの実施形態において、前記線維芽細胞の活性化とは、対照群における線維芽細胞の量(A0)に対する試験群における上皮間葉転換を起こした線維芽細胞の量(A1)の比率は、少なくとも1.2を超え、又は少なくとも1.5を超え、又は少なくとも2.0~10.0を超えることを意味する。
もう一つの実施形態において、前記線維芽細胞の活性化とは、対照群における線維芽細胞の細胞外マトリックスの量(E0)に対する試験群における線維芽細胞が産生した細胞外マトリックスの量(E1)の比率は、少なくとも1.2を超え、又は少なくとも1.5を超え、又は少なくとも2.0~10.0を超えることを意味する。
【0040】
本発明の第十五の様態は、(1)本発明の第十一の様態に記載のヒト化Pear1トランスジェニック動物モデル、又は本発明の第十の様態に記載の方法によって得られるヒト化Pear1トランスジェニック動物モデルを得る工程と;(2)工程(1)における前記動物において、線維化疾患の症状の発生を誘発する工程と;(3)工程(2)における前記動物に、候補分子を投与する工程と;(4)前記動物の線維化疾患の改善度を観察することで、前記分子がPear1を標的として線維化疾患を治療するための候補薬剤であるか否かを判断する工程と、を含む、Pear1を標的として線維化疾患を治療するための候補薬剤をスクリーニングする方法を提供する。
もう一つの実施形態において、前記動物は、非ヒト哺乳動物である。
もう一つの実施形態において、前記工程(2)と(3)は、互換しても良い。
もう一つの実施形態において、前記誘発は、薬剤による誘発、化学的な誘発、放射線による誘発から選ばれる一又はそれ以上を含む。
もう一つの実施形態において、前記誘発は、ブレオマイシンによる誘発である。本発明は、Pear1を標的とする抗体、抗体(Fab)及びFabフラグメント、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー又は小分子化合物を提供する。
【0041】
本発明は、Pear1を標的とする抗体、抗体(Fab)及びFabフラグメント、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー又は小分子化合物を含む医薬組成物を提供する。
本発明は、線維芽細胞活性化の阻害、肺線維症や肺線維症に伴う拘束性肺疾患など及びその他の線維化関連疾患の治療、損傷修復及び/又は創傷治癒の促進におけるPear1標的の使用を提供する。
本発明は、線維芽細胞活性化の阻害、肺線維症や肺線維症に伴う拘束性肺疾患など及びその他の線維化関連疾患の治療、損傷修復及び/又は創傷治癒の促進における、Pear1を標的とする抗体、抗体(Fab)及びFabフラグメント、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー又は小分子化合物の使用を提供する。
本発明は、Pear1を標的として線維芽細胞活性化を阻害し、肺線維症や肺線維症に伴う拘束性肺疾患など及びその他の線維化関連疾患を治療し、損傷修復及び/又は創傷治癒を促進する方法であって、その必要のある個体に、Pear1を標的とする抗体、抗体(Fab)及びFabフラグメント、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー又は小分子化合物を投与することを含む方法を提供する。
もう一つの実施形態において、前記投与は、吸入投与、肺部へのエアゾル投与、局所注射、経皮吸収、皮下注射、局所塗布を含む。
【0042】
本発明の範囲内であれば、本発明の上記各技術的特徴及び以下(例えば実施例)で具体的に開示される各技術的特徴は、互いに組み合わせて、新たな又は好ましい技術方案を構成してもよいことは理解されるべきである。ここでは便宜上、詳細な陳述を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】Pear1遺伝子欠損は、老齢マウスに肺機能低下を誘発する。a、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの構築策略。b、Pear1の発現レベルを検出するためのイムノブロッティングアッセイの結果から分かるように、Pear1遺伝子ノックアウトマウスではPear1タンパク質が完全に欠失している。c、Pear1遺伝子欠損は老齢マウスにおいて、努力性肺活量(FVC)と0.1秒間の努力性呼気量(FEV0.1)の減少を誘発する。d、Pear1遺伝子欠損は、マウスの肺部において、明らかにコラーゲン成分を蓄積させる。
図2】Pear1遺伝子欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウス肺線維症を悪化させる。a、Pear1遺伝子欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウスの死亡率を悪化させる。b、Pear1遺伝子欠損は、ブレオマイシン(Bleomycin、Bleo)によって誘発されるマウスの体重減少を悪化させる。c、Pear1遺伝子欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウスにおいて、明らかに努力性肺活量と0.1秒間の努力性呼気量の減少を悪化させる。d、Pear1遺伝子欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウスの肺部において、明らかにコラーゲン成分の蓄積を悪化させる。
図3】Pear1は、線維芽細胞の上皮間葉転換(EMT、Epithelial Mesenchymal Transition)の過程を介して、線維芽細胞の活性化と細胞外マトリックスの合成を制御する。a、Pear1遺伝子欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウスにおいて、明らかに肺線維芽細胞(CD140a+)の割合が増加し且つ上皮細胞(CD326+)の割合が低減するように影響するが、Cd45+細胞及び内皮細胞(CD31+)にはほとんど影響を与えない。b、Pear1は、インビトロで培養されるマウス肺線維芽細胞で顕著に発現している。c、イムノブロッティングにより、肺線維芽細胞におけるPear1の発現は実証される。d、ブレオマイシンによって誘発されるマウス肺線維芽細胞の遺伝子発現プロファイルのRNA-seq解析によれば、Pear1欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウス肺線維芽細胞の上皮間葉転換を顕著に促進する。e、QPCRにより、Pear1欠損は、ブレオマイシンによって誘発されるマウス肺線維芽細胞による細胞外マトリックスタンパク質の合成を顕著に促進することがさらに実証される。
図4】Pear1欠損は、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)受容体、血小板由来成長因子(PDGF)受容体、及び線維芽細胞成長因子(FGF)受容体に仲介される細胞内シグナル伝達を顕著に促進させる。Pear1欠損は顕著に、TGFβ受容体に仲介されるSmad2/3リン酸化とERK1/2、JNK、P38リン酸化を促進させる;PDGF受容体に仲介されるERK1/2、JNK、P38リン酸化とAktリン酸化を促進させる;FGF受容体に仲介されるERK1/2、JNK、P38リン酸化とAktリン酸化を促進させる。
図5】Pear1活性化は、線維芽細胞による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する。FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダンはいずれも、ヒト肺線維芽細胞の細胞外マトリックス遺伝子ペリオスチン(Postn)、Col5a3及びTimp1の発現を阻害できる。
図6】抗ヒトPear1抗体のヒトPear1に対する親和性の比較。ELISAプレートをヒトpear1 ECDタンパク質でコートし、異なる濃度(2000ng/ml、1000ng/ml、500ng/ml、250ng/ml、125ng/ml、62.5ng/ml、31.25ng/ml、15.625ng/ml、7.8125ng/ml、3.90625ng/ml、1.953125ng/ml、0.9765625ng/ml)で抗体をヒトpear1 ECDタンパク質と反応させ、OD値を測定し、抗原抗体結合のEC50値を得る。
図7】抗ヒトPear1抗体は、ブレオマイシンによって誘発されるヒトPear1トランスジェニックマウスにおける肺線維化の過程を顕著に改善する。a、Pear1ヒト化トランスジェニックマウスの構築策略。b、マウス肺線維芽細胞を調製して溶解し、イムノブロッティングによりマウスPear1及びヒトPear1の発現レベルを検出した実験結果により、Pear1ヒト化トランスジェニックマウスが成功に構築されたことは実証される。
図8】抗ヒトPear1モノクローナル抗体は、様々な組織から由来のヒト線維芽細胞による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する。a、LF2モノクローナル抗体は、ヒト腎線維芽細胞(human kidney fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する。b、LF2モノクローナル抗体は、ヒト心臓線維芽細胞(human cardiac fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する。c、LF2モノクローナル抗体は、ヒト肝線維芽細胞(human liver fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する。d、LF2モノクローナル抗体は、ヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明者らは、幅広く深く研究し、その結果としては、意外なことに、Pear1遺伝子及びそのタンパク質が線維芽細胞に発現し、線維化疾患において重要な役割を果たすことを初めて発見した。具体的には、本発明者らが構築したPear1遺伝子ノックアウトマウスは、野生型と比較して、ブレオマイシンによって誘導されると、肺線維化症状が明らかに悪化し、肺機能が顕著に低下する;さらに、本発明者らは、Pear1遺伝子欠損が線維芽細胞の上皮間葉転換及び線維芽細胞の細胞外マトリックス合成能を大きく促進し、正常な臓器や組織において過剰な結合組織状態(excessive connective tissue)及び臓器線維化を引き起こすことを病理的に実証した。より重要なことに、本発明者らは、Pear1を活性化することにより、線維芽細胞による細胞外マトリックス合成を阻害し、線維化の症状を軽減することができ、ひいては線維化を逆転できることを実証した。
【0045】
また、本発明者らは、線維化疾患関連シグナル伝達経路におけるPear1遺伝子の役割について検討し、Pear1遺伝子欠損は、PI3k/aktシグナル伝達経路、MAPKシグナル伝達経路、及びSmadシグナル伝達経路から選ばれる一又はそれ以上を含む既知の線維化関連シグナル伝達経路をアップレギュレートすることができることから、Pear1遺伝子欠損は、線維化関連シグナルのアップレギュレーションに繋がり、線維芽細胞の過剰活性化、細胞外マトリックスの放出、及び細胞マトリックスの生成/分解のバランスに重要な役割を果たすことを、実験により実証した。
【0046】
以上の研究により、本発明者らは、Pear1を標的とする抗体をPear1アゴニストとして構築した。本発明にかかる抗体又はその変異体は、細胞学レベル及び動物学レベルで、明確なPear1活性化作用を有し、線維化疾患関連経路を調節し(特にPI3k/aktシグナル伝達経路、MAPKシグナル伝達経路、及びSmadシグナル伝達経路から選ばれる一又はそれ以上をダウンレギュレートし)、優れた抗線維化作用を示すことを実証したと同時に、別の観点から線維化疾患におけるPear1の重要な役割を証明した。
それらに基づき、本発明を完成した。
【0047】
用語
本文に用いられるように、特に断らない限り、単数形の「一つ」、「一つの」及び「当該」は、複数の指示物を含む。
本文に用いられるように、用語の「実質的」は本文において、あらゆる定量的な比較、値、測定、若しくはその他の表現に起因する固有の不確実性を表す。用語の「実質的」は本文において、検討される主題の実質的な機能の変化を引き起こすことなく、定量的表現が記載された参照から変化し得る程度も表す。例えば、「Pear1を標的として活性化する活性を実質的に有する」とは、前記抗体がPear1と相互作用し、例えばPear1タンパク質に結合し、且つ程度の差こそあれ、Pear1を介して線維芽細胞活性化シグナル伝達経路を阻害できることを意味する。Pear1及びそれと線維芽細胞活性化との関連性の教示に従って、当業者であれば、従来の技術的手段により、本発明のスクリーニングモデルを用いてPear1アゴニストを得ることができる。
【0048】
本文に用いられるように、用語の「抗体又はその変異体」とは、抗原と特異的に結合する免疫グロブリン分子から由来のタンパク質、抗体フラグメント又はポリペプチド配列を意味する。抗体は、ポリクローナル又はモノクローナル、多本鎖又は一本鎖、あるいは完全の免疫グロブリンであってもよく、天然由来又は遺伝子組換え由来のものであってもよい。一つの具体的な実施形態において、本発明にかかる「抗体又はその変異体」は、単離されたもので、且つ遺伝子組換え由来のものである。
【0049】
本文に用いられるように、用語の「抗体フラグメント」とは、抗原と特異的に(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布により)相互作用する能力を保留した抗体の少なくとも一部を意味する。抗体フラグメントの実例は、Fab、Fab’、F(ab’)、Fvフラグメント、scFv抗体フラグメント、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VHとCH1ドメインからなるFdフラグメント、線形抗体、単一ドメイン抗体、抗体フラグメント(例えば、ヒンジ領域でジスルフィド結合を介して接続した二つのFabフラグメントの2価フラグメントを含む)から形成した多重特異性抗体、並びに抗体の単離されたCDR又はその他のエピトープ結合性フラグメントを含むが、それらに限定されない。抗原結合性フラグメントは、単一ドメイン抗体、最大抗体、マイクロ抗体、ナノ抗体、細胞内抗体、二重抗体、キメラ抗体に組み込むこともできる。
【0050】
本文に用いられるように、用語の「誘導配列」とは、元の抗体/タンパク質/ポリペプチド配列に対して、1つ又は複数(例えば10つ以内)のアミノ酸が付加、欠失又は保存的置換された新規配列;及び/又は元の抗体/タンパク質/ポリペプチドの活性が変化する若しくは実質的に変化することなく、元の抗体/タンパク質/ポリペプチド配列が修飾された新規配列を意味する。保存的置換は通常、当業者に広く知られるものであり、例えば下記のものがある:
【0051】
【表1】

本文に用いられるように、用語の「核酸」又は「ポリヌクレオチド」とは、一本鎖又は二本鎖の形態のデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びそれらのポリマーを意味する。特に断らない限り、特定の核酸配列には、その保存的修飾(例えば縮重コドン置換)された変異体、アレル、オーソログ、SNPと相補配列、及び明確的に指定された配列も非明示的に含まれる。
【0052】
本文に用いられるように、用語の「発現ベクター」又は「組換え発現ベクター」は、互換的に用いることができ、発現しようとするヌクレオチド配列と有効に連結する発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチド含有ベクターを意味する。発現ベクターは、発現のためのシスエレメントを十分に含んでいる;発現のための他のエレメントは、宿主細胞又はインビトロ発現系で提供されてもよい。発現ベクターは、組換えポリヌクレオチドが組み込まれたコスミド、プラスミド(例えば裸又はリポソームに内包されるもの)及びウイルス(例えばレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)を含む、本分野で既知のものを全て含む。
【0053】
本文に用いられるように、用語の「シグナル伝達経路」又は「シグナル経路」は、互換的に用いることができ、細胞のある部分から別の部分へのシグナル伝達において役割を果たす複数のシグナル伝達分子の間の生化学的な関係を意味する。「細胞表面受容体」という言葉は、細胞膜を越えてシグナルを受信・伝達できる分子及び分子複合体を含む。
【0054】
本文に用いられるように、用語の「特異的に結合する」とは、サンプル中に存在するパートナー(例えばPear1)タンパク質を認識して結合するが、サンプルにおける他の分子を実質的に認識・結合しない抗体又はリガンドを意味する。
【0055】
本文に用いられるように、用語の「被験者」又は「対象」は、互換的に用いることができ、免疫応答を引き出すことができる生体(例えばマウス、ラット、ネコ、イヌ、ヒツジ、ラクダ、サル、アルパカ又はヒトなどの哺乳動物)を含むように意味する。
【0056】
本文に用いられるように、用語の「有効量」、「安全有効量」又は「治療有効量」は、本文において互換的に用いることができ、本文に記載されるように、特定の生物学的結果を有効に実現し、且つ被験者に許容できる有害反応を有する物質、製剤、薬剤又は医薬組成物の量を意味する。例えば、当業者(例えば経験豊富な臨床医)であれば、被験者に応じて「安全有効量」を調整することができる。
【0057】
本文に用いられるように、用語の「標的として活性化する」とは、試験される分子が標的である遺伝子、タンパク質又はそれらの活性に活性化作用を有し、それによってそれらの発現又は活性をアップレギュレートできることを意味する。通常、「標的として活性化する」ことは、その遺伝子又はタンパク質の発現量、活性レベル、下流影響経路や分泌物質などの一又はそれ以上の手段によって測定することができる。
本文に用いられるように、用語の「治療」とは、一又はそれ以上の療法(例えばアゴニストや抗体又はその変異体などの一又はそれ以上の治療薬)の投与により、線維化疾患の進行、重篤度及び/又は継続期間が遅延又は改善されること、あるいは線維化疾患の一又はそれ以上の症状(好ましくは一又はそれ以上の識別可能な症状)が改善されることを意味する。
【0058】
範囲:
本開示を通じて、本発明の各様態はいずれ、範囲の形式を取ることができる。範囲の形式での記述は、便宜上及び簡潔上のためのものに過ぎず、本発明の範囲を変更不能に限定するものと見なすべきではないことを、理解すべきである。従って、範囲の記述は、全ての可能なサブ範囲及び当該範囲内の単独な数値を特別に開示したと見做すべきである。例えば、1~6のような範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのサブ範囲、及び1、2、2.7、3、4、5、5.3、6のような当該範囲内の単独な数値を具体的に開示したと見做すべきである。別の実例として、95~99%の同一性などの範囲は、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する範囲を含み、且つ96~99%、96~98%、96~97%、97~99%、97~98%及び98~99%の同一性のようなサブ範囲を含む。これは、範囲の幅を問わずに適用される。
【0059】
線維化疾患
本文に用いられるように、用語の「線維化疾患」とは、正常な組織細胞が損傷を受け、組織又は臓器中の線維芽細胞が組織修復を開始して過剰に又は異常に活性化し、それによって線維芽細胞の上皮間葉転換や細胞外マトリックス合成の増加が引き起こされることで、正常組織が瘢痕組織に置き換わって正常組織の機能が失われる疾患を意味する。
【0060】
通常、線維芽細胞は様々な正常組織に広く分布しているため、正常組織の細胞が損傷を受けると、線維芽細胞の活性化、ひいては過剰な又は異常な活性化が引き起こされ、例えば、肺、肝臓、腎臓の炎症に伴って発生する著しい肺線維症、肝線維症及び腎線維症、あるいは手術や外傷などによる皮膚、筋肉又は結合組織の増殖性瘢痕、並びに心筋梗塞後の心筋線維症状、骨髄増殖性疾患に関連する骨髄線維症などが挙げられる。よって、「線維化疾患」とは、正常組織の損傷を修復するために、線維芽細胞が過剰に又は異常に活性化して残した、全身の臓器や組織に広がって元の臓器や組織の正常な機能を直接的に制限する「瘢痕」である。
【0061】
メカニズムからみて、線維化疾患は、線維芽細胞(fibroblast、FB)が傷口に移動し、及び/又は炎症性損傷と組織構造の破壊を伴う増殖と大量の細胞外マトリックスの蓄積を引き起こすことを特徴とするため、FBは線維化疾患の過程で極めて重要な直接的役割を担っている。FBは結合組織中の最も主要な細胞成分であり、胎芽期の間葉系細胞(mesenchymal cell)から分化されたものであるが、線維芽細胞もまた、成熟した静止状態での線維細胞(fibrocyte)としても存在し、線維芽細胞と線維細胞は一定の条件下で互いに転換することができる。また、文献の報告によると、FBは線維化過程において、上皮細胞、マクロファージ、血液単球、内皮細胞などの他の正常細胞の上皮間葉転換(epithelial-mesenchy-mal transition、EMT)によって形成することができ、これらの分化転換過程は、線維化疾患過程におけるFB産生の重要な方法の一つであるかもしれない。
【0062】
FBは生理的条件下で、細胞外マトリックス(Extracellular matrix、ECM)成分を合成して放出し、組織の構成、臓器の形態や生理的機能の維持、損傷後の組織の修復に関与する。病理的条件下では、FBは活性化線維芽細胞への異常増殖・転換を通じて、ECMタンパク質を大量に合成して分泌し、過剰な結合組織化や臓器線維化を誘発することができる。さらに、ECMのレベルは、その分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)とマトリックスメタロプロテアーゼ組織阻害剤(TIMPS)の間のバランスによって制御されている。生理的状態下では、肺内部のECMの合成と分解はバランスの取れた状態にあるが、肺線維症の過程において、MMP/TIMPS系のバランスが崩れ、ECMが過剰に蓄積して瘢痕構造を形成し、それも線維化の発生・進行の肝心な要因である。よって、FB及びMMP/TIMPSバランスは、線維化疾患において重要な役割を担っている。
【0063】
肺線維症
肺線維症は、線維化疾患の中で最もよく見られ、且つ最も重篤な疾患であり、肺胞組織の損傷の異常修復により線維芽細胞が異常に活性化し、瘢痕を形成する肺疾患を指す。肺線維症は、乾性咳嗽や進行性の呼吸困難を主症状として、人体の呼吸機能に深刻な影響を与え、且つ病状の進行に伴い、肺の損傷が重篤化し、患者の呼吸機能が悪化していく。その主な死因は、呼吸機能の急性悪化及びそれに伴う合併症である。
【0064】
肺線維症の患者の大多数は原因不明であるため、特発性(idiopathic)間質性肺炎と呼ばれる。特発性間質性肺炎のうち、肺線維化病変を主症状とする疾患の種類は、特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis、IPF)と呼ばれ、IPFによる持続的なびまん性肺胞炎と肺胞構造障害の原因で、肺間質が線維化して永久な瘢痕を形成し、肺機能が不可逆的に低下し続き、最終的に呼吸不全で死に至る。IPFは中高年層に、特に50~70歳の男性に多く見られる。統計によると、全人口における発症率は、毎年に約(2~29)/10万で、且つ1年あたりに約11%の割合で年々増加している。IPFの病因は不明であるが、現在のところ、環境要因や放射線治療薬の使用などが関係していると考えられる;また、急性発作の誘因として、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫などによる繰返し感染が関連している可能性もある。さらに、エリテマトーデスなどの自己免疫疾患も当該疾患の発症の一因となる。IPFは予後不良であり、生存期間中央値は2~3年で、5年生存率は30%未満であるので、「腫瘍様疾患」と呼ばれる。
【0065】
IPFは進行が予測不可能であるため、治療が非常に困難である。IPFに対する療法は主に、禁煙、酸素療法、機械的換気、緩和ケア、肺リハビリテーションなどの非薬物療法と、ホルモン療法、制酸剤療法、N-アセチルシステイン療法などの薬物療法がある;グルココルチコイドは50年以上も前から肺線維症の治療に使用されてきたが、最近の研究によると、大量のグルココルチコイドの長期使用によって引き起こされる深刻な有害反応により、患者の20%にしか有効でないことは実証された。また、研究結果のメタアナリシスから分かるように、、N-アセチルシステイン単剤療法は患者の死亡率を低下させることもできないし、努力性肺活量(forced vital capacity、FVC)の変化値やQOLを改善することもできない。近年、米国FDAは、IPFの治療のために、抗腫瘍剤であるピルフェニドンとニンテダニブをオーファンドラッグとして承認したが、それらのうち、ピルフェニドンは、抗炎症、抗線維化、抗酸化の特性を持つ多面的なピリジン系小分子化合物である。ピルフェニドンは、努力性肺活量の低下速度を顕著に遅延させることができ、ピルフェニドンを52週間継続的に投与する療法により、患者の肺機能パラメータの低下を遅延させ、患者の無増悪生存期間(Progression-Free-Survival、PFS)を延長させると共に、患者の死亡リスクを低下できるが、副作用として光過敏症、疲労、発疹、胃部不快感、食欲不振などがある。ニンテダニブは、マルチターゲットチロシンキナーゼ小分子阻害剤であり、IPF患者におけるFVCの減少の絶対値を顕著に低減させ、疾患進行をある程度緩和することができる。ニンテダニブとピルフェニドンは共に肺機能の悪化速度を抑え、患者のQOLを改善することができるが、ニンテダニブとピルフェニドンは患者の肺機能低下速度を遅延させることにしか適応せず、どちらも呼吸器症状を改善できるものではなく、軽度から中等度の肺機能障害を有するIPF患者にのみ適応性があり、重度のIPF患者に適用できない。また、ピルフェニドンは腎機能障害のある患者に、ニンテダニブは肝機能障害のある患者に使用できないため、この2種類の薬剤の使用はさらに制限される。
【0066】
他の臓器の線維症
肝線維症は、肝損傷の異常修復・治癒に起因する病理学的プロセスであり、肝損傷による肝臓内の結合組織星状細胞(即ち肝線維芽細胞)の異常増殖と大量の細胞外マトリックスの分泌がその主な原因であり、肝線維症状が長持ちすると、肝硬変、門脈圧亢進症、肝がんなどに繋がる。
【0067】
心筋線維症は、虚血や低酸素により心筋細胞が壊死し、心筋間線維芽細胞の異常増殖と大量の細胞外マトリックスの分泌が誘発され、瘢痕が形成したことを指し、心筋線維症は、心臓を硬くし、徐々に肥大化させ、不整脈や心不全などを誘発する。
【0068】
腎線維症は、外傷、感染症、血液循環障害、免疫炎症反応などの原因により腎細胞が損傷を受け、腎臓の結合組織線維芽細胞の細胞外マトリックス(ECM)が異常に沈着して瘢痕を形成し、腎実質の硬化と機能喪失に繋がる。
【0069】
骨髄線維症は、骨髄の線維組織の細胞外マトリックス(ECM)が異常に沈着して起こる疾患で、造血機能に深刻な影響を与える骨髄増殖性疾患である。
【0070】
皮膚や軟部組織の瘢痕形成は、皮膚の結合組織中の線維芽細胞が皮膚や軟部組織の損傷部位に移動し、大量の細胞外マトリックスを産生して沈着させることによって起こるものであり、異常な瘢痕形成は、傷口の慢性癒合不全又は線維化を引き起こす。通常、皮膚や軟部組織に損傷を与える原因はいずれも、異常な瘢痕を形成させることができ、一般的には、手術、外傷、熱傷、局所又はびまん性炎症(例えば自己免疫疾患、強皮症など)などによる皮膚や軟部組織の過剰な結合組織化が挙げられる。
【0071】
Pear1遺伝子又はそのタンパク質
Pear1、即ち血小板内皮凝集受容体1(Platelet Endothelial Aggregation Receptor 1、GeneID: 375033)は、150 kDaのI型膜貫通タンパク質で、マルチ上皮成長因子様ドメイン受容体ファミリー(Multiple Epidermal Growth Factor-Like Domains Protein、MEGF)というタンパク質ファミリーの一員である。ヒトPear1は1037個のアミノ酸(aa)を含有し、20aaのシグナル配列、735aaの細胞外ドメイン(Extracellular domain、ECD)、21aaの膜貫通領域、261aaの細胞質領域を含む。Pear1はあらゆる哺乳動物に存在し、且つ高い類似性を持っており、例えばヒトPear1はマウスPear1(Gene ID: 73182)と84%の類似性を持っている。
【0072】
Pear1は最初から、血管内皮細胞及び血小板に発現されることが判明され、血小板同士が直接接触する過程において、血小板表面のPear1受容体がそのEMIドメインを介して、接触した別の血小板表面の潜在的リガンドと結合し、細胞内シグナル伝達を引き起こして血小板を活性化させる。しかし、近年、Pear1の一塩基多型がヒトの血小板活性に直接関係しない可能性も文献で報告された。現在、Pear1が主に血小板の活性化過程に関係している可能性のほか、Pear1が新生血管形成や死んだ神経細胞の除去を調節する能力を持つことも文献で報告されたため、上記の研究から、Pear1は組織や臓器によって全く異なる生物学的機能を果た可能性があると考えられる。
【0073】
一方、本発明者らは、現在で実証された血管内皮細胞における発現に加え、Pear1が線維芽細胞でも発現し、且つ線維芽細胞の活性化に対して負の調節作用を有することを初めて見出した。
【0074】
本発明では、マウスのPear1遺伝子をノックアウトし、ヒト化Pear1トランスジェニックマウスを構築するなどの手段により、Pear1遺伝子欠損は、既知の線維化関連シグナル伝達経路(PI3k/aktシグナル伝達経路、MAPKシグナル伝達経路、及びSmadシグナル伝達経路から選ばれる一又はそれ以上を含む)をアップレギュレートでき、線維芽細胞活性化シグナル伝達経路のアップレギュレーションに繋がることを実証し、これにより、Pear1遺伝子が線維芽細胞活性化、細胞マトリックス放出、及び細胞マトリックス生成/分解のバランスにおいて重要な役割を果たすことを示した。
【0075】
そこで、本発明では、Pear1を標的として利用し、Pear1活性を増強する抗体を構築し、線維芽細胞過剰活性化経路を阻害することで、線維化疾患の治療という目的を果たした。
【0076】
線維芽細胞活性化シグナル伝達経路
線維芽細胞の活性化は、様々なサイトカインがそれらの受容体を介した細胞内シグナルによって制御されることが知られており、このような線維芽細胞活性化シグナル伝達経路は主に、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)受容体に仲介されるSmadシグナル伝達経路とMAPKシグナル伝達経路(ERK1/2、JNK、P38シグナル伝達経路を含む);血小板由来成長因子(PDGF)受容体に仲介されるMAPKシグナル伝達経路(ERK1/2、JNK、P38シグナル伝達経路を含む)とPI3K/Aktシグナル伝達経路;線維芽細胞成長因子(FGF)受容体に仲介されるMAPKシグナル伝達経路(ERK1/2、JNK、P38シグナル伝達経路を含む)とPI3K/Aktシグナル伝達経路などを含む。
【0077】
以上の経路は生体内に広く存在する細胞シグナル伝達経路であり、細胞の増殖や分化に重要な役割を担っている。例えば、TGF-βシグナル伝達経路は、初期胚発生や組織・臓器の形成、免疫、組織修復、恒常性維持に重要な役割を担っている。もう一つの例として、MAPKシグナル伝達経路は主に、ERK1/2、JNKs、p38s、ERK5という4つの下流シグナル分子を含む。ERK1/2、JNKs、p38s及びERK5は、免疫炎症、細胞分化、アポトーシスや増殖などの過程と密接に関連している。もう一つの例として、PI3K/AKTシグナル伝達経路は、細胞の増殖、分化、アポトーシスを制御し、細胞の移動、接着、血管新生、細胞外マトリックスの合成と分泌の過程に肝心な役割を担っている。既存又は開発中の薬剤の殆どは、これらのシグナル伝達経路の活性化を阻害することで作用するものであり、例えば、肺線維症治療薬として承認されたニンテダニブは、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)に仲介される上記MAPKシグナル伝達経路とPI3K/AKTシグナル伝達経路の全てを阻害して作用するが、同時に重篤な全身性副作用を引き起こす。
【0078】
本発明者らは、Pear1遺伝子が上記シグナル伝達経路に直接関与していることを実験により証明し、これらの経路の活性化を直接的に阻害又はダウンレギュレートする従来の薬剤と異なり、Pear1遺伝子又はそのタンパク質が上記線維芽細胞活性化シグナル伝達経路において負の調節(阻害)作用を有することを実証した。即ち、Pear1遺伝子をノックアウトするとこれらのシグナル伝達経路の活性化を促進できるが、Pear1アゴニストを採用するとこれらのシグナル伝達経路の活性化を一部ダウンレギュレートでき、これにより線維芽細胞の異常な活性化を制御し、線維化疾患を治療又は改善できる。
【0079】
アゴニスト及び医薬品
本文に用いられるように、用語の「アゴニスト」、「Pear1アゴニスト」又は「Pear1遺伝子又はそのタンパク質のアゴニスト」は、互換的に用いることができ、いずれも、Pear1遺伝子又はそのタンパク質の活性を強化でき、及び/又はPear1タンパク質に結合でき、及び/又はPear1による線維芽細胞活性化シグナル伝達経路の阻害を促進でき、及び/又は線維芽細胞によるECMの放出を低減できる物質を意味する。本発明は、既知のPear1アゴニストに加え、Pear1と特異的に結合する新規抗体を提供する。
【0080】
好ましくは、本発明で提供されるアゴニストは、Pear1遺伝子又はそのタンパク質に結合してPear1の構造を変化させることにより、線維芽細胞の活性化を阻害できるアゴニストである。好ましくは、前記アゴニストは、線維芽細胞が発現するPear1タンパク質を標的として結合するアゴニストである。
【0081】
一つの好ましい実施例において、本発明にかかる抗体に加えて、本発明にかかるアゴニストはさらに、Pear1に対して活性化作用を有することが知られている物質、例えばFcεR1α(即ちIgE受容体IaのFcフラグメント)、デキストラン硫酸、フコイダン又はそれらの組み合わせを含んでも良く、Pear1の天然アプタマー及び/又は小分子化合物を含んでも良く、より好ましくは、肺線維芽細胞による細胞外マトリックスの合成を顕著に阻害して肺機能を改善し生存率を向上させるように、FcεR1α、デキストラン硫酸及びフコイダンを含む。
【0082】
本発明にかかるPear1標的を用いれば、当業者は、Pear1に対する様々なアゴニストを設計することが可能となり、小分子アゴニスト、抗体又はその活性フラグメント、miRNAなどを含むが、それらに限定されない。また、本発明において、前記小分子化合物とは、天然に存在する又は人工的に開発されるPear1受容体の小分子アゴニストを指すこともできる。
【0083】
本発明において、前記アプタマー(Aptamer)とは、インビトロスクリーニング技術である指数的濃縮によるリガンドの系統的進化技術(Systematic evolution of ligands by exponential enrichment、SELEX)によって得られる、対応する標的分子(タンパク質、ウイルス、最近、細胞、重金属イオンなど)に厳密な認識能と高い親和性を有する構造化オリゴヌクレオチド配列(RNA又はDNA)を意味する。
【0084】
本発明は、安全有効量の本発明にかかる抗体又はその変異体を含む医薬品をさらに提供する。本発明に記載の医薬品は、一又はそれ以上のPear1アゴニストを含む医薬組成物であってもよい。もう一つの実施形態において、前記医薬組成物は、本発明にかかるPear1を標的とする抗体又はその変異体、例えば抗体(Fab)及びFabフラグメント、FcεR1α、デキストラン硫酸、フコイダン、アプタマー又は小分子化合物を含む。
【0085】
もう一つの実施形態において、前記医薬品は医薬組成物であり、即ち薬学的に許容される担体又は賦形剤をさらに含む。本発明に記載の薬学的に許容される担体は、本発明にかかるアゴニストの構造的及び機能的安定性を維持し、投与を容易にするために用いることができ、当業者であれば、必要に応じて選択及び配合することができ、このような担体としては、食塩水、緩衝液、グルコース、水、グリセロール、エタノール及びそれらの組合せを含むが、それらに限定されない。
【0086】
本発明にかかるアゴニスト、抗体及びその変異体、並びにそれらを含む医薬品及び/又は医薬組成物は、種々の経路で所要の対象に投与(使用)することができ、前記投与は、吸入、局所投与、及び/又は胃腸外投与を含むが、それらに限定されない。
【0087】
一つの好ましい実施形態において、当業者は、投与経路に応じて投与される製剤の種類を決定することができ、例えば吸入投与製剤、局所投与製剤、胃腸外投与製剤又はそれらの組み合わせを含む。前記吸入投与製剤は、エアゾル、スプレー、点鼻剤、粉末剤又はそれらの組み合わせを含む。前記局所投与製剤及び/又は胃腸外投与製剤は、点滴剤、ゲル、エマルジョン、クリーム、パッチ、フィルム、注射剤又はそれらの組み合わせを含む。一つの好ましい実施形態において、局所塗布、滴下、血管内注射、局所注射などの種々の経路で投与することができる。
【0088】
抗体又はその変異体
本発明は、Pear1タンパク質を特異的に結合する/標的とする抗体又はその変異体を提供する。好ましくは、本発明にかかる抗体又はその変異体は、マウス由来のモノクローナル抗体であり、また、組換え、ポリクローナル、多本鎖又は一本鎖、あるいは完全の免疫グロブリンであってもよい。好ましくは、本発明にかかる抗体又はその変異体はヒト化のものである。好ましくは、本発明にかかる抗体は、キメラ抗体である。好ましくは、本発明にかかる抗体又はその変異体は、表3.2、3.3、4、5に示される。
【0089】
前記Pear1を標的とする抗体は、完全長抗体及び抗体フラグメント(Fab、Fab’、F(ab’)、Fv(例えばscFv))を含むが、それらを含む二重特異性抗体、多重特異性抗体、単一ドメイン抗体、あるいは前記抗体から調製されるモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体も含む。
【0090】
本発明において、前記抗体Fabフラグメント(Fragment of antigen binding fragment)は、抗原結合性フラグメントとも呼ばれ、抗体構造の中で抗原と結合できる領域である。Fabフラグメントは、完全な軽鎖と重鎖のVH及びCH1構造ドメインからなる。パパインの作用により、抗体は2つのFabフラグメントと1つのFcフラグメントに分解されるが、ペプシンの作用により、抗体は(Fab)フラグメントとFcフラグメントに分解される。
【0091】
本発明にかかる抗体又はその変異体に用いられるFabのFRフラグメントは特に限定されるものではなく、好ましくは、本発明では、ヒトIgG4のFR及び複数の変異したFR配列を用いた結果、FRの配列を変えても抗体に対する抗原結合力があまり変化しない。よって、本発明にかかる抗体のCDRフラグメントは、Pear1タンパク質に対して非常に特異的且つ安定な結合機能を有することが分かる。本発明のPear1標的及びそれと線維化疾患との関連性の教示に従って、当業者であれば、本発明にかかる抗体又はその変異体のCDRを利用し、現在で既知の様々なFRを用いて構成される抗体をスクリーニングすることができ、このように得られる本発明にかかる抗体又はその変異体と一致した若しくは実質的に一致した活性を有する抗体も、本発明の保護範囲に含まれる。
【0092】
本発明に用いることのできる抗体又はその変異体の定常領域には、特に制限がない。本発明のPear1標的及びそれと線維化疾患との関連性の教示に従って、当業者であれば、本発明にかかる抗体又はその変異体を含むのに適した定常領域フラグメントをスクリーニングすることにより、本発明の抗体又は変異体と一致した若しくは実質的に一致した活性を有する完全な抗体を得ることができる。
【0093】
治療方法
本発明は、線維化疾患を治療する方法を提供する。前記方法は、その必要のある個体又は対象に、本発明にかかる抗体又はその変異体あるいは本発明にかかる医薬品を投与することを含む。もう一つの実施形態において、前記の治療方法は、肺線維症、肺線維症に伴う拘束性肺疾患を治療する方法であり、肺部へのエアゾル投与により本発明にかかる抗体又はその変異体あるいは本発明にかかる医薬品を投与することを含むが、それらに限定されない。
【0094】
もう一つの実施形態において、前記治療方法は、皮膚又は軟部組織の線維化を治療する方法であり、局所注射、外用、塗布、浸潤、経皮吸収等により本発明にかかる抗体又はその変異体あるいは本発明にかかる医薬品を投与することを含むが、それらに限定されない。好ましくは、例えば外傷、火傷、手術や美容整形などによる皮膚瘢痕、又はケロイド症の人の皮膚に形成したケロイド、強皮症などを治療する方法である。また、上記の方法は、組織や臓器の損傷の修復及び/又は創傷治癒にも適する。
【0095】
もう一つの実施形態において、前記治療方法は、肝臓、心臓又は腎臓の線維化を治療する方法であり、局所注射、塗布、浸潤等により本発明にかかる抗体又はその変異体あるいは本発明にかかる医薬品を投与することを含むが、それらに限定されない。
【0096】
本発明にかかる抗体又はその変異体あるいは本発明にかかる医薬品の投与時期は特に限定されないが、好ましくは線維化の発症直後である。さらに、本発明にかかる抗体又はその変異体あるいは本発明にかかる医薬品は、他の全身用又は局所用の薬剤と組み合わせて投与することもでき、それらの投与順序は特に限定されない。
【0097】
ヒトPear1トランスジェニック動物モデル及び薬剤スクリーニング方法
本発明は、新規な線維化薬剤のスクリーニング・同定モデルをさらに提供する。本発明者らは、Pear1遺伝子及びそのタンパク質と線維化疾患との関連性の発見により、相同組換えによりマウスPear1遺伝子をヒトPear1遺伝子に置き換えることで、当該モデルを作製した。本発明の教示に従って、当業者であれば、他の異なる方法でヒトPear1遺伝子によって置換された他のトランスジェニック動物を構築し、線維化疾患の研究や線維化薬剤のスクリーニングのためのモデルとして使用することでできることを、理解すべきである。
【0098】
さらに、本発明は、薬剤スクリーニング方法、例えばPear1アゴニストのスクリーニング方法をさらに提供し、当該方法は、Pear1を標的として利用し、且つ線維芽細胞におけるPear1の役割を利用し、線維芽細胞培養系における候補Pear1アゴニストの作用を探究することができる。Pear1の活性化と、線維芽細胞の上皮間葉転換メカニズム及び線維芽細胞による細胞外マトリックスの分泌との間の関連性が本発明により判明された以上、このような薬剤スクリーニング方法によりPear1アゴニストをスクリーニングすることができる。勿論、本発明にかかるトランスジェニック動物モデルを用いた薬効の評価方法も含む。即ち、本発明にかかるヒトPear1トランスジェニック動物モデルに候補Pear1アゴニストを添加し、且つ対照を設定し、動物の線維化症状の改善を示すものは潜在的なPear1アゴニストと見做される。線維化の症状は、肺、心臓、腎臓、骨髄、皮膚、軟部組織などの部位や臓器の構造的・機能的な改善を含むが、それらに限定されない。このような構造的・機能的な改善は、熟練した当業者(例えば実験者又は臨床医)が様々な部位又は臓器の状況も考慮して判断することができる。
【0099】
以下、具体的な実施例及び図面に参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の保護の内容は、以下の実施例に限定されるものではない。発明構想の精神及び範囲から逸脱しない限り、当業者によって想到され得る変更及び利点は、いずれも本発明に含まれ、且つ添付の特許請求の範囲を保護の範囲とする。一般的には、例えばSambrookら、分子クローニング:実験マニュアル(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press,2002)に記載される通常の条件、あるいはメーカーの薦めの条件で行われる。
【0100】
実験の材料と方法
1、試薬、抗体の調製及び細胞株
抗マウスPear1モノクローナル抗体及び抗ヒトPear1モノクローナル抗体は、実験室でヒトPear1細胞外タンパクを用いてPear1ノックアウトマウス及びBALB/cマウスをそれぞれ免疫し、標準的なマウス脾臓細胞及びマウスミエローマ細胞融合技術によって高親和性のモノクローナルハイブリドーマ細胞を作成し、免疫不全マウスにハイブリドーマ細胞を注射することにより、腹水を得てProteinA/Gビーズを用いて抗体を精製し、関連実験に用いられた。Hisタグ付きFcεR1αタンパク質はR&D社から購入した。ポリペプチドはGL Biochem(上海)有限会社で合成された。ヒト肺線維芽細胞、ヒト皮膚線維芽細胞、心臓線維芽細胞、腎線維芽細胞、肝線維芽細胞はATCC細胞バンクから購入した。
【0101】
2、マウス肺機能の測定
ペントバルビタール(100mg/kg)の腹腔内注射によりマウスを麻酔した後,AniRes2005肺機能解析システム(Bestlab version 2.0、AniRes2005、中国)のメーカーの指示に従って,各マウスを気管カニューレを介してコンピュータに制御されている小動物ベンチレーターに接続した。体積トレーシングチャンバー内の圧力変化は、圧力センサー付き接続チューブのポートから測定し、努力性肺活量(FVC)と0.1秒間の努力性呼気量(FEV0.1)を肺機能の指標とした。
【0102】
3、初代マウス肺線維芽細胞の単離と培養
ブレオマイシンによって誘発された及び誘発されていないマウスの新鮮な肺組織を細かく切断した後、DMEM/F12培地(100U/mlのI型コラゲナーゼ、2.5mg/mlのIV型コラゲナーゼ、0.3mg/mlのヒアルロニダーゼ及び0.1mg/mlのDNaseを含有するもの)中で、37℃のインキュベーターで酵素消化を2時間行なった。その後、2%の牛血清アルブミンを添加し、800rpmの遠心により懸濁液を5分間消化し、10%牛胎児血清DMEM/F12培地を添加し、I型コラーゲンでコートされた細胞培養ディッシュ中で、37℃、5%COの条件下で2日間培養した。実験に使用したマウス初代肺線維芽細胞は、全て第2世代~第3世代の細胞であった。
【0103】
4、プラスミドの構築とタンパク質の発現
flagタグとHisタグ付きヒト又はマウスPear1-pcDNA3.1過剰発現プラスミドを構築し、293s細胞をPEIで一時的トランスフェクトし、細胞を無血清で懸濁培養し、上澄を抽出し、ニッケルカラムでタンパク質を精製した。
【0104】
5、フローサイトメトリー
新鮮な肺組織を採取し、フローサイトメトリーにより解析実験を行った。新鮮なマウス肺を細かく切断して消化し、マウス肺単一細胞を調製し、セルフィルターで遠心分離して収集した。CD45、CD31、CD326、CD140a、Pear1蛍光標識抗体とインキュベートし、フローサイトメトリーにより各細胞の割合を解析した。全てのフローサイトメトリー実験は、上海交通大学公共技術プラットフォームAria IIIで行い、フローサイトメトリーのデータはFlowjoソフトウェアで解析した。
【0105】
6、ヘマトキシリン・エオジン(HE)とマッソン染色
マウス肺と肝臓を4%パラホルムアルデヒドで48時間固定化し、パラフィンで埋め込んでから、半自動ロータリーミクロトーム(leica;rm2235とcm1950)でスライスし、室温で脱パラフィンし、勾配エタノールで再水和し、HEとマッソン染色を施した。
【0106】
7、RNA-seqとバイオインフォマティクス解析
TRIzol法(invitrogen、carlsbad、ca)を用いて、標準実験法に従ってマウス肺CD140線維芽細胞から全mRNAを抽出した。RNA-seqとバイオインフォマティクス解析、及び差次的発現遺伝子(deg)の同定、シグナル伝達経路の解析、遺伝子セット濃縮解析(GSEA)などを、上海交通大学医学部公共技術サービスプラットフォームで行った。
【0107】
8、定量的リアルタイムPCR
TRIzol法(invitrogen、carlsbad、ca)を用いて、標準プロトコールに従って線維芽細胞から全mRNAを抽出した。逆転写酵素(Takara)を利用して相補的DNAを合成した。ABI 7000リアルタイムPCR装置(life technologies)を用いて遺伝子発現を検出し、PCRプライマー配列を表1に示す。ヒトグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(Gapdh)又は18sRNA遺伝子を内部参照とした。
【0108】
【表2】

9、統計方法
全てのデータは、SPSS for Windowsソフトウェアバージョン13.0を用いて統計的に解析された。2つのデータセットの比較には、両側t検定を採用した。生存率解析には、カプラン・マイヤー(kaplan-meier)解析を採用した。全てのデータの比較において、p値が0.05未満の場合は、統計的に有意であるとみなされた。
【実施例0109】
Pear1遺伝子ノックアウトマウスの構築
Pear1遺伝子ノックアウトマウス(Pear1遺伝子欠損マウス)は、First-Knockout技術によって構築した。構築策略は図1aに示す。IRESフラグメント(レポーター遺伝子lacZとプロモーター駆動型neoを含むもの)を元の遺伝子のイントロンに挿入することで、Pear1遺伝子の機能を破壊した。マウスの遺伝子型は、本分野で公認のPCR法によって同定した。表2の配列に示すように、上流プライマー(Pear1-F)はPear1遺伝子のエクソン6領域に、下流プライマーは挿入されたフラグメントFrt領域(Pear1 KO-R)又はイントロン6領域(Pear1 WT-R)にそれぞれ設計し、それぞれKOバンド又はWTバンドの増幅に使用した。本発明では、8~10週齢のマウスは使用され、マウスは特定病原体不在(spf)条件下で飼育された。マウスの使用は、上海交通大学医学部動物倫理委員会によって承認した。構築の概念図は図1aに示す。イムノブロッティングの結果により、Pear1遺伝子ノックアウトマウスでは、Pear1タンパク質が完全に欠損したことが実証された(図1b)。
【0110】
【表3】

ただし、Pear1-F、Pear1-KO-R及びPear1-WT-Rは、Pear1ノックアウトマウスの遺伝子型の同定に使用した。HPear1-WT-F、HPear1-KI-LD-R、HPear1-KI-RD-F、HPear1-WT-Rは、ヒト化Pear1マウスの遺伝子型の同定に使用した。
【実施例0111】
マウス肺機能に対するPear1欠損の影響
実施例1のPear1遺伝子ノックアウトマウスの肺機能への影響を測定した。まず、本発明では、野生型(WT)マウスとPear1遺伝子ノックアウト老齢マウスの肺機能及びコラーゲン沈着を比較した。
【0112】
その結果、Pear1欠損は12ヶ月齢のマウスにおいて、努力性肺活量(FVC)と0.1秒間の努力性呼気量(FEV0.1)を著しく低下させた(図1c参照);努力性肺活量と努力性呼気量は肺機能評価のための重要な指標である;12ヶ月齢の野生型(WT)対照マウスのFVCとFEV0.1の平均値はそれぞれ0.56と0.78であったのに対し、12ヶ月齢のPear1遺伝子ノックアウトマウスのFVCとFEV0.1の平均値はそれぞれ0.79と0.69であった(p<0.1)ことから、老齢Pear1遺伝子ノックアウトマウスの呼吸機能は、野生型対照マウスよりも有意に劣った。
【0113】
免疫組織化学アッセイにより実証されたように、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの肺にはより多くのコラーゲンが蓄積していた(図1d参照);マッソン染色はコラーゲン染色の古典的な方法で、コラーゲンは緑色に染色できるため、コラーゲン沈着状況は緑色の領域の面積百分率(コラーゲン沈着百分率、Collagen deposition percentage)で反映することができる;統計によると、12ヶ月齢の野生型マウスのコラーゲン沈着の割合は3%であったのに対し、Pear1遺伝子ノックアウトマウスのコラーゲン沈着の割合は7%であり、野生型(WT)対照マウスを著しく上回った。
【0114】
以上の結果から、Pear1欠損老齢マウスでは、肺組織の線維化が自発的に発生し、マウスの呼吸機能を損なうことが分かった。
【実施例0115】
マウス肺線維症モデルの構築及びマウス線維化に対するPear1欠損の影響
3.1 マウス肺線維症モデルの構築
ブレオマイシン(Bleomycin、Bleo)は、抗腫瘍効果を有する多成分複合抗生物質であり、その毒性・副作用の一つは肺線維症を引き起こすことである。ブレオマイシンは、マウスに気管内投与することで肺線維症を誘発できるが、病理組織学的変化がヒト肺線維症に最も似ていることから、肺線維症モデルを誘発するためのものとして広く認められる。
本実験では、WT雄マウス(8~12週齢)及び実施例1のPear1ノックアウトマウスを用いて、それぞれ2μg/gのブレオマイシンを気管内スプレー投与して肺損傷を誘発させることにより、マウス肺線維症モデルを構築した。
【0116】
3.2 マウス線維症に対するPear1欠損の影響の測定
21日間の観察期間中の測定によると、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの死亡率(Fraction surviving)は野生型(WT)対照マウスより遥かに高く(図2a参照)、ただし、ブレオマイシンによる誘発の15日後、野生型(WT)対照マウスの生存率は0.6であったのに対し、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの生存率はわずか0.2しかなかった。
【0117】
Pear1欠損は、ブレオマイシンによって誘発されたマウスの体重(Body Weight)減少を促進した(図2b参照);ブレオマイシンによる誘導後の7、14、21日目に電子秤でマウスの体重を秤量した;ただし、野生型マウスの体重は元々の26g(0日目)からそれぞれ23.5g(7日目)、22.5g(14日目)、21.5g(21日目)に減少したのに対し、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの体重は元々の26g(0日目)からそれぞれ22g(7日目)、20.5g(14日目)、17.5g(21日目)に減少した。
【0118】
Pear1欠損はブレオマイシンによって誘発されたマウスにおいて、努力性肺活量と0.1秒間の努力性呼気量の低下を著しく悪化させた(図2c参照);努力性肺活量FVCと努力性呼気量FEVは肺機能評価のための重要な指標である;ブレオマイシンによる誘導後の21日目に測定された野生型(WT)対照マウスのFVCとFEV0.1の平均値はそれぞれ0.56と0.49であったのに対し、Pear1遺伝子ノックアウトマウスのFVCとFEV0.1の平均値はそれぞれ0.47と0.41であった(p<0.1)ことから、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの呼吸機能は、野生型対照マウスよりも有意に劣った。
【0119】
免疫組織化学アッセイにより実証されたように、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの肺にはより多くのコラーゲンが蓄積していた(図2d参照);マッソン染色はコラーゲン染色の古典的な方法で、コラーゲンは緑色に染色できるため、コラーゲン沈着状況は緑色の領域の面積で反映することができる;統計によると、ブレオマイシンによる誘導後の21日目に、野生型マウスのコラーゲン沈着の割合は25%であったのに対し、Pear1遺伝子ノックアウトマウスのコラーゲン沈着の割合は48%であり、野生型(WT)対照マウスを遥かに上回った。
【0120】
当該実施例の実験結果に示されたように、Pear1欠損は、ブレオマイシンによって誘発されたマウスの肺線維症を大幅に促進し、肺機能を大幅に低下させ、コラーゲン沈着を大いに増加させ、死亡率を顕著に上昇させることができる。
【実施例0121】
Pear1は、線維芽細胞の上皮間葉転換の過程を介して、線維芽細胞の活性化と細胞外マトリックスの合成を制御する
ブレオマイシンによる誘導後の21日目に、野生型(WT)対照マウスとPear1遺伝子ノックアウトマウスの肺をPBS灌流により洗浄してから、肺を取り出し、コラゲナーゼで分解・消化して単一細胞懸濁液にし、白血球マーカーCD45、血管内皮マーカーCD31、上皮マーカーCD326及び繊維芽細胞マーカーCD140aの発現をフローサイトメトリーにより検出したところ、ブレオマイシンによる誘導後の21日目に、野生型(WT)対照マウスの線維芽細胞の割合は16%であったのに対し、Pear1遺伝子ノックアウトマウスの線維芽細胞の割合は22%であり、Pear1欠損はブレオマイシンによって誘発される生体内の線維芽細胞数の増加を著しく促進できることが分かった(図3a参照)。
【0122】
次に、本発明は、肺単一細胞懸濁液を接着培養することにより、初代肺線維芽細胞を得た。フローサイトメトリー解析の結果によると、野生型(WT)対照マウスの肺の線維芽細胞はPear1を高発現していた(図3b参照);この結果は、ウェスタンブロッティングアッセイでも検証された(図3c参照)。
【0123】
本発明は、さらに、ブレオマイシンによって誘発された及び誘発されていない野生型(WT)対照マウスとPear1遺伝子ノックアウトマウスの肺線維芽細胞における遺伝子発現プロファイルをRNA-seq技術により研究し、その後、差次的な遺伝子をGSEA濃縮解析したところ、実験結果に示されたように、ブレオマイシンによる誘発において、Pear1欠損は線維芽細胞の上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition、EMT)を大きく促進できる(図3d参照)。
【0124】
次に、本発明では、線維芽細胞のコラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン(Postn)などの細胞外マトリックスタンパク質合成遺伝子をリアルタイム定量PCR技術により検出したところ、実験結果に示されたように、ブレオマイシンによる誘発において、Pear1欠損は線維芽細胞の細胞外マトリックス合成能を大きく促進した。
【0125】
よって、本実施例の実験結果から分かるように、Pear1が線維芽細胞のEMT転換と細胞外マトリックスタンパク質の合成を自然に阻害する重要な負の調節受容体であり、Pear1欠損は線維芽細胞のEMT転換と細胞外マトリックス合成能を大きく促進する。
【実施例0126】
Pear1による肺組織由来線維芽細胞活性化シグナル伝達経路の制御に関する研究
Pear1欠損マウス及びPear1非欠損マウス肺線維芽細胞を単離して調製し、線維芽細胞をそれぞれTGFb、PDGF及びFGFで処理し、線維芽細胞活性化シグナル伝達経路(線維芽細胞を活性化する既知のシグナル伝達経路は主に、TGFβ受容体に仲介されるSmadシグナル伝達経路、MAPKシグナル伝達経路(ERK1/2、JNK、P38シグナル伝達経路を含む);PDGF受容体に仲介されるMAPKシグナル伝達経路(ERK1/2、JNK、P38シグナル伝達経路を含む)及びPI3K/Aktシグナル伝達経路;FGF受容体に仲介されたMAPKシグナル伝達経路(ERK1/2、JNK、P38シグナル経路を含む)及びPI3K/Aktシグナル伝達経路など)における主要なシグナル分子のリン酸化(活性化)状況を観察したところ、Pear1欠損は、上記のシグナル分子のリン酸化レベル、即ちTGFβ受容体、PDGF受容体及びFGF受容体に仲介される細胞内シグナルを顕著に促進できることが見出された(図4)。図4に示されたように、これらのシグナル伝達経路において、Pear1をノックアウト(KO)したマウスのバンドは、Pear1を正常に発現する野生型マウス(WT)のバンドよりも濃く、Pear1をノックアウトすると、シグナル伝達経路が過剰に活性化される。
本実施例の実験結果から分かるように、Pear1が細胞内シグナルを介して複数のサイトカイン受容体に仲介される線維芽細胞の活性化を阻害できる。
【実施例0127】
Pear1活性化は、線維芽細胞による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する
以上の研究結果から分かるように、Pear1受容体は線維芽細胞の増殖と細胞外マトリックス合成能を阻害する能力を有するため、本発明者らは、Pear1に作用するPear1リガンドは肺線維症治療に利用できる可能性があると考えている。
【0128】
FcεR1α、デキストラン硫酸(Dextran sulfate)、フコイダン(natural fucoidans)を含む文献に報告されたPear1リガンドが線維芽細胞の細胞外マトリックス合成能を阻害できるかどうかを研究するために、本発明は文献に報告された濃度:FcεR1α 1g/ml又は5g/ml、デキストラン硫酸5nM又は20nM、フコイダン30g/ml又は300g/mlを用いて、ヒト肺線維芽細胞を処理した。
【0129】
結果によると、FcεR1α、デキストラン硫酸(Dextran sulfate)、フコイダン(natural fucoidans)はいずれも、ヒト肺線維芽細胞の細胞外マトリックス遺伝子ペリオスチン(Postn)、Col5a3及びTimp1の発現を阻害できる(図5参照)。よって、本実施例の実験結果から分かるように、Pear1の活性化により、線維芽細胞の細胞外マトリックス合成能を低下させることができる。
【実施例0130】
Pear1ヒト化トランスジェニックマウスの構築
ヒトPear1遺伝子ノックインマウスは、CRISPR/Cas9技術により、マウスコーディング領域のエクソン1-ATG付近に標的部位を設計し、相同組換えテンプレートの存在下で、外来ヒトPear1遺伝子を標的部位に組み込み、マウスPear1遺伝子配列を置き換えることで構築された。マウスPear1には複数の転写物があるため、本発明ではマウスPear1遺伝子のエクソン4~6を選択してヒトPear1 cDNAに置き換え、且つヒトPear1 cDNAの後ろにSV40 polyA転写終了シグナルを付加することで、マウスPear1が完全にヒトPear1に置き換わったことを保証した(概念図は図7a参照)。
【0131】
構築されたPear1ヒト化トランスジェニックマウスの遺伝子型は、本分野で公認のPCR法によって同定した。肺線維芽細胞を採取し、Pear1ヒト化トランスジェニックマウスがマウスPear1とヒトPear1を発現するレベルをイムノブロッティングで検出した結果、Pear1ヒト化トランスジェニックマウスでは、マウスPear1が完全にヒトPear1に置き換わった(図7b参照)。
【0132】
本発明では、8~10週齢のマウスは使用され、マウスは特定病原体不在(SPF)条件下で飼育された。当該マウスの使用は、上海交通大学医学部動物倫理委員会によって承認した。
【実施例0133】
抗ヒトPear1抗体の調製及び機能の同定
8.1 抗ヒトPear1抗体の調製
モノクローナル抗体は、タンパク質や化合物と比較して、標的性が高く、毒性・副作用が低く、安定性が良く、生体内での半減期が長いなどの利点を有し、医薬品開発において注目されている分野になっている。本発明は、モノクローナル抗体で線維芽細胞Pear1を活性化させることにより、抗線維化効果を発揮することを提案した。
【0134】
本発明は、まずプラスミドを構築し、懸濁培養の293細胞にトランスフェクトして6×hisタグ付きヒトPear1細胞外セグメント(Leu21-Ser754)プラスミドを発現させ、ニッケルカラムで精製した後、免疫アジュバントと混合し、Balb/cマウスを免疫し、免疫の標準手順を経ってから、マウスの脾臓を分離し、次にモノクローン抗体の標準調製技術によりモノクローンハイブリドーマ細胞を作成した。
【0135】
本発明は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)を用いて、ヒトPear1と結合可能なモノクローナル抗体ハイブリドーマ細胞をスクリーニングした。このうちの53株は、ヒトPear1と結合する高親和性抗体を分泌できるモノクローナルハイブリドーマ細胞株であった。
細胞外マトリックスに対する上記抗体の影響を同定した。qPCR方法により、抗体がインビトロでヒト肺線維芽細胞(Human Lung Fibroblasts、NHLF)に作用して細胞外マトリックスタンパク質であるペリオスチン(Postn)、コラーゲン(Col4a1)、Col8a1、Col3a1、Col1a1、Col5a2、Col5a3、Col7a1及びデスミン(Des)、アクチンα2(Acta2)の発現レベルに与える影響を測定した(プライマーは表1に示す)。
【0136】
このうち、LF2、LF3、LF7、LF11、LF15、LF16の6つは、ヒト肺線維芽細胞による細胞外マトリックスタンパク質の発現を顕著に阻害できる(表3.1参照)。
【0137】
細胞外マトリックスに対する抗体の阻害効果は表3.1に示す(「+」から「+++」は弱い阻害活性から強い阻害活性を表し、ただし、「+」は20%以下の阻害強度、「++」は20%~50%以内の阻害強度、「+++」は50%以上の阻害強度、CtrlはIgG対照である)
【0138】
【表4】

結果から分かるように、ヒトPear1を標的とするマウスモノクローナル抗体である上記抗体はいずれも、線維芽細胞による細胞外マトリックスの合成を阻害することができるが、Pear1遺伝子を欠損させると本発明の抗体の作用もなくなる。
【0139】
LF2、LF3、LF7、LF11、LF15、LF16抗体の軽鎖可変領域と重鎖可変領域の配列は表3.2に示し、そのCDR部分の配列は表3.3に示す。
【0140】
【表5】
【0141】
【表6】

8.2 抗ヒトPear1抗体の機能の同定
8.2.1 ます、これらの抗体を抗原結合能について比較した。ELISAプレートをヒトpear1 ECDタンパク質でコートし、異なる濃度(2000ng/ml、1000ng/ml、500ng/ml、250ng/ml、125ng/ml、62.5ng/ml、31.25ng/ml、15.625ng/ml、7.8125ng/ml、3.90625ng/ml、1.953125ng/ml、0.9765625ng/ml)で抗体をpear1 ECDタンパク質と反応させ、抗原抗体結合のEC50値を得た(図6に参照し、且つ下表3.4に示す)。
【0142】
【表7】

結果から分かるように、本発明の抗ヒトPear1抗体は、いずれもPear1に対する結合力のEC50が100ng/mL以下であり、いずれも良好な標的結合効果を有し、さらにいくつかの抗体はEC50が15ng/mL以下であることから、本発明の抗体の標的特異性がいずれも非常に強い。
【0143】
8.2.2 抗ヒトPear1抗体は肺線維化に対抗し、肺機能を改善する
本発明は、抗ヒトPear1抗体の肺線維症治療効果を測定するために、さらにマウスPear1遺伝子をヒトPear1 cDNAに置き換えたトランスジェニックマウス、即ちPear1ヒト化トランスジェニックマウスを構築し、その構築過程を実施例7(図7a)に参考する。本発明は、モノクローナル抗体LF2、LF3、LF7、LF11、LF15、LF16を生理食塩水に懸濁し、ブレオマイシンによって誘発されたPear1ヒト化トランスジェニックマウスの肺に、ネブライザーで1μg/gの抗体を7日毎にスプレーして投与した(実施例3参照)。その後、21日目にマウスの肺機能及び病理学的変化を解析した。研究結果から分かるように、LF2、LF3、LF7、LF11、LF15、LF16はいずれもマウスの肺機能(努力性肺活量FVC)を有効に改善することができ、上記抗体による処理が努力性肺活量を改善したデータは表3.5に示す。ただし、抗体LF2処理群における努力性肺活量と肺組織のコラーゲン沈着百分率のデータは図7c及び図7dに示す。
【0144】
【表8】

本実施例の実験結果から分かるように、ヒトPear1を標的とするモノクローナル抗体は、特異性が強く、ブレオマイシンによって誘発されたマウス肺線維症を改善し、肺機能を改善することができる。
【実施例0145】
抗ヒトPear1抗体のヒト化改変及び機能の同定
9.1 ヒト化抗体の構築
本発明はさらに、CDR移植法により、上記抗体をヒト化改変し、且つフレームワーク領域の部位に異なる復帰変異を施した(ヒト化抗体hLF101~116、hLF-N55S、hLF-N55D、hLF-N55Q、hLF-G56A及びhLF-G56Vの配列も表4参照)。
【0146】
【表9】

本発明の抗体のCDR配列は、下表5の配列番号26~55に示され、これらの抗体のCDR配列はIMGT番号付け規則を用いている。
【0147】
【表10】

9.2 ヒト化抗Pear1抗体のPear1細胞外セグメントに対する結合親和性の測定(結果は表6に示す)
【0148】
【表11】

結果から分かるように、各ヒト化抗体はいずれも、Pear1の細胞外セグメントに対して結合活性を持ち、且つ抗体のFR領域を置き換えて復帰変異を施しても、CDRに対する親和性にほとんど影響がない。
【0149】
9.3 ブレオマイシンによって誘発されたマウス肺線維症に対するヒト化抗Pear1抗体の作用
本発明は、上記ヒト化改変抗体を生理食塩水に懸濁し、ブレオマイシンによって誘発されたPear1ヒト化トランスジェニックマウスの肺に、ネブライザーで1μg/gの抗体を7日毎にスプレーして投与した(実施例3参照)。その後、21日目にマウスの肺機能を解析した。研究結果から分かるように、上記の抗体はいずれもマウスの肺機能(努力性肺活量FVC)を有効に改善することができ、データは表7に示す。
【0150】
【表12】

結果から分かるように、各ヒト化抗体はいずれも、ブレオマイシンによって誘発されたPear1ヒト化トランスジェニックマウスの努力性肺活量を有効に改善できる。
【実施例0151】
抗ヒトPear1モノクローナル抗体は、様々な組織から由来の線維芽細胞による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する
他の由来の線維芽細胞におけるPear1の役割をさらに研究した。本発明は、リアルタイム定量PCR技術により、ヒト皮膚線維芽細胞、心臓線維芽細胞、腎線維芽細胞、肝線維芽細胞の細胞外マトリックス合成能に対するPear1モノクローナル抗体の影響を研究した。
【0152】
研究結果から分かるように、本発明の抗ヒトPear1抗体はいずれも、有効な抗体であり、培養されているヒト皮膚線維芽細胞、心臓線維芽細胞、腎線維芽細胞、肝線維芽細胞による細胞外マトリックスの発現を阻害できる。ただし、LF3モノクローナル抗体は、ヒト腎線維芽細胞(human kidney fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する(図8a参照)。LF3モノクローナル抗体は、ヒト心臓線維芽細胞(human cardiac fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する(図8b参照)。LF3モノクローナル抗体は、ヒト肝線維芽細胞(human liver fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する(図8c参照)。LF3モノクローナル抗体は、ヒト皮膚線維芽細胞(human dermal fibroblasts)による細胞外マトリックスタンパク質の発現を阻害する(図8d参照)。
【0153】
以上の結果はさらに、線維芽細胞Pear1に対する抗体の作用は、外傷、火傷、手術や美容整形による皮膚瘢痕の形成の治療;老化や様々な原因の心臓障害による心筋線維化や拡張機能障害による心不全、若しくは左室駆出率低下型不整脈の治療;様々な原因の腎障害による腎線維化の治療;各種感染症や化学物質による肝線維症の治療、肝線維症による門脈圧亢進症、肝性腹水、肝硬変、門脈肺高血圧症の治療;移植や化学療法による骨髄線維化の治療;膵線維化などの治療;及び脾臓や神経系線維化の治療などにも利用できることを示唆する。
【0154】
以上は本発明の具体的な実施形態を説明したが、これらは単なる例示であり、本発明の原理及び実質から逸脱しない限り、これらの実施形態に対する様々な変更又は修正が可能であることは、当業者ならば理解すべきである。したがって、本発明の保護の範囲は添付されるクレームによって限定される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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