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特開2024-138408塵埃堆積検出装置、塵埃堆積検出方法及び結露リスク検出装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138408
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】塵埃堆積検出装置、塵埃堆積検出方法及び結露リスク検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/59 20060101AFI20241001BHJP
   G01N 21/47 20060101ALI20241001BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
G01N21/59 D
G01N21/47 Z
G01N17/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024110870
(22)【出願日】2024-07-10
(62)【分割の表示】P 2020137734の分割
【原出願日】2020-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501009665
【氏名又は名称】日本ファシリティ・ソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100124028
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 公雄
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】千林 暁
(72)【発明者】
【氏名】福永 哲也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅靖
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 陽人
(57)【要約】
【課題】外部環境による一時的な影響を除去でき、精確な塵埃堆積の有無の検出が可能な塵埃堆積量推定方法及び塵埃堆積検出装置を提供する。
【解決手段】塵埃堆積検出装置は、電気機器の所定部分に光を照射する発光部と、所定部分を透過した光又は所定部分により反射された光を検知する光検知部と、発光部から所定部分に光を照射した状態で、光検知部に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子と、測定端子の電圧を測定する測定部と、電気機器の所定部分への塵埃堆積を検出する検出部とを含み、測定部は、所定期間にわたって電圧の測定を繰返して時系列データを生成し、検出部は、時系列データから算出した移動中央値を用いて、塵埃堆積の有無を検出する。これにより、塵埃堆積検出装置の外部環境による一時的な影響を除去でき、精確に塵埃堆積の有無を検出できる。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器の所定部分に光を照射する発光手段と、
前記所定部分を透過した光又は前記所定部分により反射された光を検知する光検知手段と、
前記発光手段から前記所定部分に光を照射した状態で、前記光検知手段に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子と、
前記測定端子の電圧を測定する測定手段と、
前記電気機器の前記所定部分への塵埃堆積を検出する検出手段とを含み、
前記測定手段は、所定期間にわたって前記電圧の測定を繰返して時系列データを生成し、
前記検出手段は、前記時系列データから算出した移動中央値を用いて、前記塵埃堆積の有無を検出することを特徴とする、塵埃堆積検出装置。
【請求項2】
前記検出手段は、前記時系列データのうち、ウィンドウにより定められる期間に測定されたデータを、前記移動中央値を算出する対象データとして選択し、
前記ウィンドウは、2日間である、請求項1に記載の塵埃堆積検出装置。
【請求項3】
前記電気機器の所定部分の周囲の湿度を検知する湿度検知手段をさらに含み、
前記検出手段は、前記移動中央値の算出に代えて、前記所定期間にわたって前記電圧の測定が繰返されることにより生成された前記時系列データから、前記湿度検知手段により検知された前記湿度が所定値以上の状態において前記測定手段により測定された電圧値と、所定のしきい値以上の電圧値とを除外して生成した新たな時系列データを用いて、前記塵埃堆積の有無を検出する、請求項1に記載の塵埃堆積検出装置。
【請求項4】
電気機器の所定部分に光を照射する発光手段と、
前記所定部分を透過した光又は前記所定部分により反射された光を検知する光検知手段と、
前記発光手段から前記所定部分に光を照射した状態で、前記光検知手段に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子と、
前記測定端子の電圧を測定する測定手段と、
前記測定手段により所定期間にわたって前記電圧の測定が繰返されることにより取得された第1の時系列データから、移動中央値の第2の時系列データを生成する第1算出手段と、
前記第1の時系列データを前記第2の時系列データで除して第3の時系列データを生成する第2算出手段と、
前記電気機器の前記所定部分への結露リスクを評価する評価手段とを含み、
前記評価手段は、
前記第3の時系列データを、所定のしきい値と比較することにより、前記測定手段により測定された前記電圧が低下している頻度を算出し、
前記頻度に応じて前記結露リスクを評価することを特徴とする、結露リスク検出装置。
【請求項5】
電気機器の所定部分に光を照射する発光部と、前記所定部分を透過した光又は前記所定部分により反射された光を検知する光検知部と、前記光検知部に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子とを含む装置を用いて、前記所定部分への塵埃堆積を検出する方法であって、
前記発光部から前記所定部分に光を照射した状態で、前記測定端子の電圧を測定する測定ステップと、
所定期間にわたって前記測定ステップを繰返して時系列データを生成するステップと、
前記時系列データから算出した移動中央値を用いて、前記塵埃堆積の有無を検出するステップとを含むことを特徴とする、塵埃堆積検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器、電気設備等に付着又は堆積している塵埃を検出するための塵埃堆積検出装置、塵埃堆積検出方法及び結露リスク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器又は電気設備において、外部から塵埃が飛来して堆積すると、電気機器又は電気設備の動作不良、絶縁劣化のリスクが高まる。これら機器、設備の正常動作を担保するためには、定期的に清掃を行う等の処置を実施する必要がある。
【0003】
塵埃の付着程度を評価する技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、2つの電極の上に、湿度が高くなると電流が流れ易くなる感湿膜を形成したものを2組用意し、一方は塩分が付着する環境に設置し、他方は塩分が付着し難い環境に設置する。各組の電極間に流れる電流値を測定し比較することにより、汚損(塩分付着)の程度を判定する。また、下記特許文献2には、空調ダクト内に光透過性を有する板(粉塵堆積板)を設け、それを挟んで光源及び光センサを配置し、粉塵堆積板の透過光の減少量として、粉塵の堆積を検知する。
【0004】
特許文献1においては、塩分、又は塩分を含む塵埃しか検知できない問題があり、一般的な塵埃の付着による接触不良、又は機器の動作不良のリスクを検知するには不十分である。特許文献2においては、光源及び光検知器の温度依存性が考慮されておらず、常時通風があり暗所でなければ有効な検知が行えず、光源と光検知器とを対向して配置することが必要であり、部品点数の低減が容易ではないという問題もある。
【0005】
上記の問題を解決するために、下記特許文献3には、塵埃の種類によらず、温度依存性及び経時劣化の影響を除去して、精度よく塵埃を検知できる塵埃堆積検知装置が開示されている。この塵埃堆積検知装置は、電気機器の所定部分に光を照射する発光部と、所定部分を透過した光又は所定部分により反射された光を検知する光検知部と、発光部の点灯及び消灯を制御する制御部と、制御部が発光部を点灯させた状態で光検知部により検知された光の強度と、発光部の照射光の強度とに応じて、所定部分における塵埃堆積の程度を評価する評価部と、発光部から光を出力しない状態で光検知部により検知された光の強度が所定のしきい値以下であるか否かを判定する判定部とを含む。判定部により所定のしきい値以下であると判定されたことを受けて、評価部は、塵埃堆積の程度を評価する。これにより、塵埃の種類によらず、温度依存性及び経時劣化の影響を除去して、精度よく塵埃を検知できる。また、所定部分は、断面L字型の反射面を含む複数の反射面を有し、発光部及び光検知部は、発光部から出力された光が、複数の反射面により反射された後、光検知部により検知されるように配置されている構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5488755号公報
【特許文献2】特開平10-170438号公報
【特許文献3】特開2019-124531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フィールド試験によって、塵埃堆積を示す測定値の長期的な変化傾向に加えて、測定値の急峻な一時的な変動が観測された。このような変動は誤判定の原因となり得る。また、電気設備の絶縁劣化の原因には結露現象もあり、結露リスクを評価できれば好ましい。
【0008】
したがって、本発明は、外部環境による一時的な影響を除去でき、精確な塵埃堆積の有無の検出が可能な塵埃堆積検出装置及び塵埃堆積検出方法を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、結露リスクを評価できる結露リスク検出装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の局面に係る塵埃堆積検出装置は、電気機器の所定部分に光を照射する発光部と、所定部分を透過した光又は所定部分により反射された光を検知する光検知部と、発光部から所定部分に光を照射した状態で、光検知部に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子と、測定端子の電圧を測定する測定部と、電気機器の所定部分への塵埃堆積を検出する検出部とを含み、測定部は、所定期間にわたって電圧の測定を繰返して時系列データを生成し、検出部は、時系列データから算出した移動中央値を用いて、塵埃堆積の有無を検出する。これにより、塵埃堆積検出装置の外部環境による一時的な影響を除去でき、精確に塵埃堆積の有無を検出できる。
【0010】
好ましくは、検出部は、時系列データのうち、ウィンドウにより定められる期間に測定されたデータを、移動中央値を算出する対象データとして選択し、ウィンドウは2日間である。これにより、適切な移動中央値を決定でき、より精確に塵埃堆積の有無を検出できる。
【0011】
より好ましくは、塵埃堆積検出装置は、電気機器の所定部分の周囲の湿度を検知する湿度検知部をさらに含み、検出部は、移動中央値の算出に代えて、所定期間にわたって電圧の測定が繰返されることにより生成された時系列データから、湿度検知部により検知された湿度が所定値以上の状態で測定部により測定された電圧値と、所定のしきい値以上の電圧値とを除外して生成した新たな時系列データを用いて、塵埃堆積の有無を検出する。これにより、塵埃堆積検出装置の外部環境による一時的な影響を除去でき、精確に塵埃堆積の有無を検出できる。
【0012】
本発明の第2の局面に係る結露リスク検出装置は、電気機器の所定部分に光を照射する発光部と、所定部分を透過した光又は所定部分により反射された光を検知する光検知部と、発光部から所定部分に光を照射した状態で、光検知部に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子と、測定端子の電圧を測定する測定部と、測定部により所定期間にわたって電圧の測定が繰返されることにより取得された第1の時系列データから、移動中央値の第2の時系列データを生成する第1算出部と、第1の時系列データを第2の時系列データで除して第3の時系列データを生成する第2算出部と、電気機器の所定部分への結露リスクを評価する評価部とを含み、評価部は、第3の時系列データを、所定のしきい値と比較することにより、測定部により測定された電圧が低下している頻度を算出し、頻度に応じて結露リスクを評価する。これにより、塵埃堆積の進行に伴う長期的な電圧低下の影響を受けることなく、精確に結露リスクを評価できる。
【0013】
本発明の第3の局面に係る塵埃堆積検出方法は、電気機器の所定部分に光を照射する発光部と、所定部分を透過した光又は所定部分により反射された光を検知する光検知部と、光検知部に流れる電流に応じた電圧を発生する測定端子とを含む装置を用いて、所定部分への塵埃堆積を検出する方法であって、発光部から所定部分に光を照射した状態で、測定端子の電圧を測定する測定ステップと、所定期間にわたって測定ステップを繰返して時系列データを生成するステップと、時系列データから算出した移動中央値を用いて、塵埃堆積の有無を検出するステップとを含む。これにより、装置の外部環境による一時的な影響を除去でき、精確に塵埃堆積の有無を検出できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外部環境による一時的な影響を除去でき、精確に塵埃堆積の有無を検出できる。また、塵埃堆積の進行に伴う長期的な電圧低下の影響を受けることなく、精確に結露リスクを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明に関連する発明の実施の形態に係る塵埃堆積検出装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、塵埃堆積を検知するための光検知系の配置を示す断面図である。
図3図3は、塵埃堆積を検知するための光検知系を示す回路図である。
図4図4は、図1の塵埃堆積検出装置による塵埃堆積量推定処理を示すフローチャートである。
図5図5は、第3変形例に係る光検知系の配置を示す断面図である。
図6図6は、図5とは異なる光検知系の配置を示す断面図である。
図7図7は、第4変形例に係る塵埃堆積検出装置の概略構成を示すブロック図である。
図8図8は、図7に示した塵埃堆積検出装置の光検知系の配置を示す断面図である。
図9図9は、図8とは異なる光検知系の配置を示す断面図である。
図10図10は、第5変形例に係る光検知系の配置を示す断面図である。
図11図11は、第6変形例に係る光検知系を示す回路図である。
図12図12は、関東ローム層を用いた第1実施例の結果を示すグラフである。
図13図13は、性状の異なる模擬塵埃(高反射率)に関する第2実施例の結果を示すグラフである。
図14図14は、性状の異なる模擬塵埃(低反射率)に関する第2実施例の結果を示すグラフである。
図15図15は、本発明の第1の実施の形態に係る塵埃堆積検出装置の概略構成を示すブロック図である。
図16図16は、図15に示した塵埃堆積検出装置による塵埃堆積検出処理を示すフローチャートである。
図17図17は、塵埃堆積程度及び相対湿度の長期的な傾向を表すデータ(トレンドデータ)を示すグラフである。
図18図18は、図17に示した塵埃堆積のトレンドデータから、相対湿度70%RH以上における測定値を除外したトレンドデータを示すグラフである。
図19図19は、図17に示した塵埃堆積のトレンドデータから、外部光の影響下における測定値を除外したトレンドデータを示すグラフである。
図20図20は、図17に示した塵埃堆積のトレンドデータから、相対湿度70%RH以上における測定値を除外したトレンドデータに関して、1日の移動最高値の変化を示すグラフである。
図21図21は、図17に示した塵埃堆積のトレンドデータから、相対湿度70%RH以上における測定値を除外したトレンドデータに関して、2日間の移動中央値の変化を示すグラフである。
図22図22は、本発明の第2の実施の形態に係る結露リスク検出装置の概略構成を示すブロック図である。
図23図23は、強制換気の有無による塵埃堆積程度の長期的な変化(トレンドデータ)の違いを示すグラフである。
図24図24は、図23に示したトレンドデータから、相対湿度70%RH以上における測定値を除外したトレンドデータに関して、2日間の移動中央値の変化を示すグラフである。
図25図25は、強制換気の有無による短期的な電圧変動(トレンドデータ)の違いを示すグラフである。
図26図26は、強制換気の有無による電圧低下の発生時間及び頻度の違いを示すグラフである。
図27図27は、加湿模擬実験における相対湿度、発生電圧及び沿面シート抵抗の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0017】
(関連する発明の実施の形態)
(塵埃堆積検出装置の構成)
図1を参照して、本発明に関連する発明の実施の形態に係る塵埃堆積検出装置100は、光を放射する発光部102、発光部102に電力を供給する電源部104、光を検知する光検知部106、制御部108、記憶部110、タイマ112、温度検知部114及び光反射部材120を含む。塵埃堆積検出装置100は、各部を作動させるための電源(図示せず)、並びに、制御部108に対する指示を入力するためのコンピュータ用キーボード及びマウス等の操作装置(図示せず)をも含む。発光部102、光検知部106、温度検知部114及び光反射部材120は、塵埃発生の監視対象である機器内に配置される。電源部104、制御部108、記憶部110及びタイマ112の配置場所は任意であり、監視対象である機器内に配置されても、機器外に配置されてもよい。
【0018】
図2を参照して、発光部102は、例えば発光ダイオード(以下、LEDという)である。発光部102は、LEDに限らず、所定時間(例えば1~数秒程度)、所定方向に、所定強度の光を安定して出力できる発光素子であればよい。発光部102の放射光の波長は、光検知部106により検知され得る波長であればよく、任意である。発光部102の放射光は、例えば、赤外線、可視光線又は紫外線等である。電源部104は、制御部108による制御を受けて、発光部102に、発光部102を点灯させるための電力を供給する。
【0019】
光検知部106は、例えばフォトトランジスタである。光検知部106は、フォトトランジスタに限らず、光を検知し、その強度(光量)に応じた大きさの電気信号(例えば電圧、電流)を出力できる素子であればよい。光検知部106は、発光部102の放射光の中心波長を、検出感度の中心付近に有することが好ましい。
【0020】
光反射部材120は、保持部材122により保持され、発光部102から照射される光を反射して光検知部106に入射させる。光反射部材120は断面L字型に形成されており、発光部102から光検知部106への光路を比較的狭い空間に収めることができる。発光部102側の直交する2つの表面は、発光部102からの光を反射する鏡面になっている。光反射部材120は、2つの反射面が約90°を成すように配置されていればよく、例えば、金属板の折り曲げ加工により形成できる。光反射部材120は、反射面を有する平面部材を2つ、略直交するように接合したものであってもよい。発光部102、光検知部106及び光反射部材120は、光検知系を構成する。
【0021】
発光部102及び光検知部106は、例えば、LED及びフォトトランジスタを1つのパッケージに収容した素子であるフォトリフレクタにより実現できる。これにより、部品点数を低減でき、光検知系をコンパクトに形成できる。
【0022】
制御部108は、CPU(Central Processing Unit)であり、電源部104の出力を制御して、発光部102を点灯又は消灯させる。例えば、制御部108が電源部104に対してハイレベル(例えば5V)の信号を出力すると、電源部104は発光部102に電力を供給する。これにより、発光部102が点灯する。制御部108が電源部104に対してローレベル(例えば0V)の信号を出力すると、電源部104は発光部102への電力供給を停止する。これにより、点灯していた発光部102は消灯する。
【0023】
また、制御部108は、所定のタイミングで、光検知部106の出力信号を取得する。例えば、光検知部106がA/D変換機能を有していれば、制御部108は、光検知部106から出力されるデジタルデータを取得する。光検知部106がアナログ信号を出力すれば、制御部108は、入力されるアナログ信号を所定の時間間隔でサンプリングして、デジタルデータを生成する。
【0024】
記憶部110は、制御部108から入力されるデータを記憶する揮発性又は不揮発性のメモリである。タイマ112は、制御部108からの要求を受けて、現在時刻を出力する。
【0025】
温度検知部114は、例えば、温度センサ(サーミスタ、測温抵抗体、熱電対等)であり、発光部102及び光検知部106の周囲に配置される。温度検知部114の検出値(温度)は制御部108に入力される。
【0026】
図1には、光反射部材120及び保持部材122の水平面に堆積した塵埃190を示す。発光部102から放射される光は、塵埃190を通過した後、光反射部材120の水平面により反射され、再度塵埃190を通過した後、光反射部材120の鉛直面により反射され、発光部102の光軸と平行に戻り、光検知部106により検知される。光検知部106により測定される光量は、光反射部材120の上に堆積している塵埃190の量に応じて変化し、塵埃190の堆積量が多くなれば、測定値はより小さくなる。機器内の塵埃の堆積は、機器が設置されてからの時間経過に応じて増大する。したがって、定期的に、制御部108により電源部104を制御して発光部102を点灯させた状態で、光検知部106により検出される光量を測定すれば、塵埃の堆積の程度の変化を観測できる。このとき、制御部108は、温度検知部114の検出値を用いて、後述するように光検知部106の検出値の温度補正を行うことが好ましい。
【0027】
発光部102にLEDを用い、光検知部106にフォトトランジスタを用いた光検知系の回路の例を図3に示す。図3を参照して、発光部102は、端子140及び142の間に直列接続されたLED130及び抵抗R1を含む。図3において、光反射部材120を便宜上平板で示す。光検知部106は、端子144及び146の間に直列接続されたフォトトランジスタ132、抵抗R2及びR3を含む。端子142及び146を接地した状態で、発光部102の端子140及び142間に電源部104から直流電圧を印加することにより、LED130が光を放射する。光検知部106は、端子144及び146の間に所定の直流電圧が印加された状態で、フォトトランジスタ132に光(光反射部材120で反射された発光部102の放射光)が入射すると、フォトトランジスタ132はオンして電流が流れる(端子144及び146の間に電流が流れる)。制御部108は、それに伴う電圧降下により測定端子134に生じる電圧を測定する。フォトトランジスタ132を流れる電流値はフォトトランジスタ132に入射する光量に依存するので、測定端子134で測定される電圧はフォトトランジスタ132に入射する光量を表す。なお、抵抗R1、R2及びR3は、LED130及びフォトトランジスタ132に応じた適切な抵抗値を有していればよい。
【0028】
(塵埃堆積量の推定方法)
図3に示した回路を用いて測定した電圧値を用いて、次式により塵埃の堆積量Dを算出する。
D=-(L・K)-1・log{V/(A・Vcc)} ・・・(式1)
【0029】
式1において、Vccは電源電圧(端子144及び146間の電圧)であり、Vは、Vccが印加された状態において測定端子134で測定される電圧値である。Kは、塵埃の性状を考慮した補正係数であり、L及びAはそれぞれ、使用する発光部(LED130)の発光量、及び、使用する光検知部(フォトトランジスタ132)の検出感度に依存する定数である。実験結果として後述するように、補正係数Kを塵埃の性状(例えば色)に応じて調整することにより、推定値のばらつきを抑制できる。
【0030】
(塵埃堆積量の推定動作)
以下に、図4を参照して、図1の塵埃堆積検出装置100により、電気機器における塵埃堆積量を推定する処理に関して説明する。図4に示した処理は、制御部108が、予め記憶部110に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。発光部102及び光検知部106は、図3に示した回路を構成しており、塵埃堆積検出装置100は、電気機器(配電盤等)の内部(外部の光が入らない暗所)に配置されているとする。
【0031】
記憶部110には、測定を実行する時刻を特定するための情報(以下、測定時刻情報という)、所定のしきい値Th1及びTh2、式1のパラメータ(L、A、Vcc)、並びに、メッセージが記憶されているとする。測定時刻情報は、どのようなタイミングで測定を行うかに応じて指定されていればよく、任意である。例えば、予め指定された時刻に測定を行う場合、測定時刻情報は、時刻を直接表す情報であればよい。一定の時間間隔で測定を行う場合、測定時刻情報は、開始時刻及び時間間隔Δtであればよい。測定時刻情報は、塵埃の堆積速度、塵埃が電気機器に及ぼす影響の程度等に応じて決定されることが好ましい。例えば、時間間隔Δtは、数分~24時間の範囲の値である。僅かの塵埃の堆積でも、機器の性能、安全性等に重大な影響を与える場合には、比較的短い時間が設定されることが好ましい。
【0032】
しきい値Th1は、塵埃量を推定するための測定を行うか否かを判定するために利用される。しきい値Th2は、塵埃量の推定結果により、塵埃を除去するクリーニング(清掃等)を行う必要があるか否かを判定するために利用される。メッセージは、クリーニングが必要であることを提示するために利用される。
【0033】
ステップ400において、制御部108は、塵埃性状の入力を受付ける。具体的には、制御部108は、式1において塵埃性状を反映する補正係数Kの入力を受付ける。例えば、人(管理者等)は、塵埃堆積検出装置100が設置されている機器において堆積する塵埃の色に応じた補正係数Kの値を、操作装置を介して制御部108に指示する。通常は、補正係数K=1であればよく、例えば初期値としてK=1が設定される。主たる塵埃の反射率が低い(黒っぽい)環境であれば、人は補正係数Kを例えば1.3に変更する。補正係数Kは細かく変更される必要はなく、2又は3種類程度定められていればよい。例えば、予め色と補正係数との対応関係を記憶部110に記憶しておけば、制御部108は、塵埃の色の候補を複数提示し、人が選択した色に対応する補正係数Kを特定できる。補正係数Kが決定された後、制御はステップ402に移行する。
【0034】
ステップ402において、制御部108は、タイマ112から現在時刻を取得し、記憶部110に記憶されている測定時刻情報を参照して、測定時刻になったか否かを判定する。測定時刻になったと判定された場合、制御はステップ404に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。
【0035】
ステップ404において、制御部108は、発光部102を消灯させた状態のまま、測定端子134の電圧Vを測定する。測定された電圧Vは、適宜、記憶部110に記憶される。ステップ404は繰返し実行されるが、少なくとも最後に測定された電圧Vのみが記憶部110に記憶されていればよい。その後、制御はステップ406に移行する。
【0036】
ステップ406において、制御部108は、ステップ404において測定された電圧Vが、しきい値Th1以下(V≦Th1)であるか否かを判定する。ステップ404及びステップ406は、塵埃堆積検出装置100による塵埃堆積量の推定処理が正しく実行できる状態であることを確認するためのものである。塵埃堆積検出装置100が設置されている機器(配電盤等)の点検等により、機器の扉が開放されると、塵埃堆積検出装置100の光検知系(光検知部106等)が外部の光にさらされる。そのような状態で測定を行っても、正しい塵埃堆積量を推定できない。端子146が接地されているので、外部の光が入力しておらず、発光部102が点灯していない状態では、フォトトランジスタ132はオフであり、測定端子134で測定される電圧は接地レベル(0V)である。しかし、外部の光が入力すると、フォトトランジスタ132がオンすることにより測定端子134で測定される電圧は上昇する。Th1は、例えば、塵埃がないときに、発光部102を点灯させて測定した測定端子134の電圧の約3%に設定できる。V≦Th1であれば、制御はステップ408に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。
【0037】
ステップ408において、制御部108は、発光部102を点灯させて測定端子134の電圧Vを測定する。発光部102を点灯させるには、制御部108は電源部104にハイレベルの信号を出力し、電源部104に、発光部102に電力を供給させる。測定された電圧Vは、適宜、記憶部110に記憶される。ステップ408は繰返し実行されるが、少なくとも最後に測定された電圧Vのみが記憶部110に記憶されていればよい。その後、制御はステップ410に移行する。
【0038】
ステップ410において、制御部108は、発光部102を消灯させる。発光部102を消灯させるには、制御部108は電源部104にローレベルの信号を出力し、電源部104に、発光部102への電力供給を停止させる。その後、制御はステップ412に移行する。
【0039】
ステップ412において、制御部108は、温度検知部114により温度Tを測定する。測定された温度Tは、適宜、記憶部110に記憶される。なお、ステップ412は繰返し実行されるが、少なくとも最後に測定された温度のみが記憶部110に記憶されていればよい。
【0040】
ステップ414において、制御部108は、ステップ408で測定された電圧の温度補正を行う。温度補正を行わない場合、発光部102及び光検知部106の周囲温度が上昇すれば、光検知部106の検出値(電圧)も上昇する傾向がある。塵埃堆積により光検知部106の検出値の低下状態の違いによって、測定端子134の電圧の、周囲温度による上昇量が異なる。したがって、発光部102及び光検知部106の設置場所、設置環境が異なると、相対的な評価が困難になる。
【0041】
温度変化による検出値の変動量(グラフの傾き)は、塵埃の堆積状態によらず、ほぼ一定である。したがって、制御部108は、ステップ412で測定された温度を用いて、次式により、ステップ408で測定された電圧Vを補正する。
V(25)=V(T)×(1-(T-25)/C) ・・・(式2)
【0042】
ここで、Tは、ステップ412で測定された温度であり、V(T)は、温度Tにおける測定端子134の電圧、即ちステップ408で測定された電圧であり、V(25)は、T=25(℃)における測定端子134の電圧である。Cは定数であり、使用する素子(LED、フォトトランジスタ等)の温度特定により異なるが、通常50~500の範囲の値を、予め決定できる。式2により、ステップ408で測定された電圧V(T)を、T=25(℃)における検出値V(25)に換算できる。換算値は周囲温度の影響(使用される素子の温度依存性)が抑制された値となる。その後、制御はステップ416に移行する。
【0043】
ステップ416において、制御部108は、上記の式1を用いて塵埃の堆積量を推定する。具体的には、制御部108は、式1中の電圧Vとして、ステップ414により補正された後の測定端子134の電圧V(25)を用い、式1中の補正係数Kとして、ステップ400において決定された値を用い、式1により塵埃の堆積量Dを算出する。
【0044】
ステップ418において、制御部108は、機器のクリーニングが必要な程度に、塵埃の堆積量が多くなっているか否かを判定する。具体的には、制御部108は、ステップ416により算出された塵埃の堆積量Dが、しきい値Th2以上(D≧Th2)であるか否かを判定する。D≧Th2であると判定された場合、制御はステップ420に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。しきい値Th2は、機器及びその設置環境に応じて適切な値に設定されていればよい。
【0045】
ステップ420において、制御部108は、記憶部110から所定のメッセージを読出して、提示する。例えば、クリーニングを行う必要がある旨のメッセージを提示する。塵埃堆積検出装置100が音響出力装置又は画像表示装置を備えていれば、メッセージを音響又は画像として提示することができる。塵埃堆積検出装置100から外部の音響出力装置又は画像表示装置に、提示するメッセージを表すデータを出力してもよい。
【0046】
ステップ422において、制御部108は、終了の指示を受けたか否かを判定する。終了の指示を受けた場合、本プログラムは終了する。そうでなければ、制御はステップ402に戻り、上記の処理を繰返す。終了の指示は、例えば、塵埃堆積検出装置100の電源をオフする操作により行われる。
【0047】
以上により、光反射部材120の上に堆積した塵埃190を通過した光量が光検知部106により検出される程度に応じて測定端子134に発生する電圧が変化するので、塵埃堆積検出装置100は、予め定められたタイミングで、発光部102を点灯させて測定端子134に発生する電圧を測定することにより、式1を用いて、塵埃の堆積量Dを算出できる。塵埃の性状(色等)によって、同等の堆積量であっても反射率の低下量が異なることがあるが、塵埃の性状(色)に応じて補正係数Kを適切に設定し、測定端子134の測定電圧を温度補正することにより、精度よく塵埃の堆積量Dを算出できる。機器内の光反射部材120の周囲には、同程度の塵埃が堆積していると考えられるので、塵埃の堆積量Dがしきい値Th2以上になれば、塵埃堆積検出装置100は、クリーニングを推奨するメッセージ等を提示する。しきい値Th2を適切に設定しておけば、塵埃の堆積により、機器の性能及び安全性の低下等が生じる前に、クリーニングにより塵埃を除去するように促すことができ、機器を適切に管理できる。
【0048】
式2は、基準温度を25℃としたが、これに限定されない。基準温度をT1とすると、式2は、V(T1)=V(T)×(1-(T-T1)/C)となる。なお、ここで使用する定数Cは、式2の定数Cとは異なる値になる。
【0049】
ステップ404及びステップ406を設けることにより、塵埃堆積検出装置100が外部の光にさらされた状態で、塵埃の堆積量を算出するための測定が実行されることを回避できる。配電盤等に塵埃堆積検出装置100を設置する場合には、無駄な測定を回避する上で有効である。塵埃堆積検出装置100が外部の光により影響を受けることがない環境であれば、ステップ404及びステップ406はなくてもよい。
【0050】
(第1変形例)
上記では、測定端子134の電圧を測定する度に、即ち電圧の瞬時値を用いて、式1により塵埃の堆積量Dを算出する場合を説明したが、これに限定されない。ステップ414は繰返し実行されるので、温度補正された電圧値を記憶部110に記憶しておき、記憶された一連のデータ(電圧値)を用いて、所定期間における移動平均を算出し、算出した移動平均を、式1のVとして用いて、塵埃の堆積量Dを算出してもよい。式1のVとして、移動平均の代わりに、所定期間における最大値(移動最高値)を用いてもよい。移動最高値は、移動平均と同様に、順序付けられた一連のデータ(時系列データ等)に関して、対象データを選択するウィンドウをスライドしながら決定された最大値を意味する。例えば、光検知系に汚損物が一時的に付着し、光路が遮蔽された場合、一時的に発生電圧(測定端子134の電圧)が低下し、汚損物がなくなれば発生電圧は正常な値に戻る。式1のVとして、移動平均又は移動最高値を用いれば、一時的な発生電圧の低下が発生しても、精度よく塵埃の堆積量Dを算出できる。
【0051】
(第2変形例)
上記した塵埃堆積量の推定と並行して、沿面抵抗値及び湿度を測定して、塵埃堆積による絶縁リスクを評価してもよい。絶縁劣化は、絶縁物に堆積した塵埃が吸湿し、電気導電路を形成することで発生する。塵埃が付着することは絶縁劣化の一要因であるが、実際に絶縁劣化に至るかどうかは、塵埃の吸湿特性及び導電性、並びに環境の湿度の影響を受ける。そのため、塵埃の堆積量の推定と並行して、沿面抵抗値及び湿度を測定することにより、塵埃の堆積量の推定値、沿面抵抗値及び湿度を用いて、実際に絶縁劣化の傾向があるか否か、及び、絶縁劣化の要因となる湿度の程度を含めて、総合的なリスク判断が可能になる。
【0052】
(第3変形例)
上記では、断面L字型の光反射部材120を用い、図2に示したように、発光部102、光検知部106及び光反射部材120を配置する場合を説明したが、光検知系の構成及び配置は、これに限定されない。例えば、光検知系は、図5に示すように構成されてもよい。図5においては、発光部102が光検知部106の上方に配置されている。また、光検知系は、図6に示すように構成されてもよい。図6においては、断面L字型の光反射部材120の代わりに平板の光反射部材124が使用されている。発光部102及び光検知部106は、光反射部材124の両側に配置されている。
【0053】
(第4変形例)
上記では、塵埃を光反射部材の上に堆積させ、塵埃190を通過して反射板により反射された光を光検知部106により検出する構成を説明したが、これに限定されない。塵埃を光透過部材の上に堆積させてもよい。例えば、図7に示すように発光部102からの光が塵埃190を通過した後、その光を光検知部106により検出する構成であってもよい。図7を参照して、塵埃堆積検出装置150は、塵埃堆積検出装置100と同様に構成されており、光検知系が異なるだけである。即ち、発光部102と光検知部106との間には、平板の光透過部材200が配置されている。具体的には、図8を参照して、光透過部材200は、その周囲を平板状の保持部材212により保持され、保持部材212は、例えば複数の柱状の支持部材214により電気機器等の平坦部216の上に支持されている。また、発光部102及び光検知部106の配置は、図8と逆であってもよい。図9は、発光部102及び光検知部106に関して、光透過部材200に対する上下の位置関係を、図8から変更したものである。
【0054】
(第5変形例)
光検知系は、図10に示すような構成であってもよい。発光部102の放射光は、光透過部材230及び塵埃190を通過した後、光反射部材232により反射され、光検知部106により検出される。さらに、図10において、発光部102及び光検知部106の位置を入替えた配置であってもよい。
【0055】
(第6変形例)
発光部102に同種類の素子(例えばLED)を使用しても、その特性は素子毎にばらつく。光検知部106に関しても、同種類の素子(例えばフォトトランジスタ)を使用しても、その特性は素子毎にばらつく。そのため、塵埃堆積量が同じであっても、検出値にはばらつきが生じる。使用される素子のばらつき(特性のばらつき)による影響を抑制できれば好ましい。そのために、第6変形例においては、図11を参照して、光検知系の回路は発光部118及び光検知部106により構成される。図11に示した構成は、図3に示した構成に可変抵抗300が追加されたものである。
【0056】
可変抵抗300は、例えば、3端子型のポテンショメータ、ボリューム等と呼ばれる抵抗値を調整可能な素子である。可変抵抗300は、一端が抵抗R1に接続され、他端が端子142に接続されている。これにより、端子140及び端子142に一定の電圧を印加した状態で、可変抵抗300の抵抗値が変化すれば、LED130に流れる電流値が変化し、LED130の発光強度が変化する。
【0057】
したがって、塵埃堆積検出装置毎に、例えば光反射部材120に塵埃が堆積していない状態で、発光部118を発光させて測定端子134から検出した電圧が所定値になるように、予め可変抵抗300を調整する。これにより、発光部118及び光検知部106として使用する素子のばらつき(特性のばらつき)による影響を抑制できる。
【0058】
なお、素子のばらつき(特性のばらつき)による影響を抑制するには、発光部及び光検知部の少なくとも一方に調整素子を備えていればよく、図11に示した回路に限定されない。例えば、図3に示した回路において、抵抗R3を可変抵抗で置換えたものであってもよい。その場、可変抵抗には、例えば3端子型のポテンショメータを使用し、その調整用端子(抵抗部材への接触位置が変化する端子)を測定端子134とすればよい。これにより、フォトトランジスタ132に照射される光量が同じであっても、測定端子134により検出される電圧を変更できる。したがって、可変抵抗の抵抗値を調整することにより、LED130及びフォトトランジスタ132に関して、素子毎のばらつきによる、光検知部の検出値(測定端子134の電圧)への影響を抑制できる。
【0059】
また、図11に類似する回路として、図11に示した回路において、上記のように抵抗R3を、可変抵抗で置換えたものであってもよい。2つの可変抵抗を調整することにより、LED130及びフォトトランジスタ132に関して、素子毎のばらつきによる、光検知部の検出値(測定端子134の電圧)への影響を抑制できる。
【0060】
さらに、光検知系の回路は、図3及び図11に示した回路、並びに、それらに類似する回路に限定されない。即ち、光検知部は、フォトトランジスタ132と2つの抵抗が直接接続された構成(図3においては抵抗R2及びR3であり、図11においては抵抗R2及び可変抵抗300)には限定されない。フォトトランジスタ132と少なくとも1つの抵抗とを含み、フォトトランジスタ132を流れる電流値の変化を、抵抗による電圧降下の変化として検出できる構成であればよい。塵埃190の堆積量に応じて、フォトトランジスタ132が受光する光量が変化し、光量の変化に応じてフォトトランジスタ132を流れる電流値の変化を、電圧降下の変化として検出できる。
【0061】
(第1の実施の形態)
上記の塵埃堆積検出装置100を用いてフィールド試験を実施した結果、長期的な塵埃堆積を示す電圧低下に加えて、一時的な電圧低下及び一時的な電圧上昇が観測された。したがって、上記したように、測定電圧を所定のしきい値と比較することにより塵埃堆積の程度を判定し、堆積量を推定すると、誤判定になり得る。第1の実施の形態はこれに対処するためのものである。
【0062】
図15を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る塵埃堆積検出装置170は、図1に示した塵埃堆積検出装置100と同様に構成されている。塵埃堆積検出装置170が塵埃堆積検出装置100と異なる点は、湿度検知部116を有する点だけである。塵埃堆積検出装置170の光検知系の構造的構成は図2と同じであり、その回路的構成は図3と同じである。したがって、以下においては、適宜図2及び図3の符号をも参照する。
【0063】
湿度検知部116は、塵埃堆積検出装置170の光検知系(発光部102、光検知部106及び光反射部材120)が配置された環境の湿度を検出する。湿度検知部116は、例えば、湿度センサである。湿度検知部116の検出値(湿度)は、制御部108に入力される。制御部108は、入力された検出値を記憶部110に記憶させる。
【0064】
塵埃堆積検出装置170は、塵埃堆積検出装置100と同様に、所定のタイミングで、測定端子134の電圧を測定し、その値を温度補正した後、所定のしきい値Th3と比較し、塵埃堆積の程度を判定する。塵埃堆積検出装置170は、塵埃堆積検出装置100と同様に、塵埃の堆積量を推定して、その結果をしきい値Th2と比較して、クリーニングの要否を判定してもよい。塵埃堆積検出装置170は、塵埃堆積検出装置100とは異なり、測定端子134の電圧を測定するとき、湿度検知部116により湿度を測定する。塵埃堆積検出装置170(制御部108)は、測定された湿度及び測定端子134の電圧値は、時系列に記憶部110に記憶する。
【0065】
塵埃堆積検出装置170は、1回の測定値を用いて塵埃の堆積を判定するのではなく、所定の期間にわたって測定値(電圧及び湿度)を時系列のデータとして記憶部110に記憶し、一時的な測定値の変動を排除した後のデータを用いて、塵埃の堆積の程度を判定する。具体的には、次の(1)~(3)により、一時的に変化した測定値を排除する。以下において、湿度は相対湿度(%RH)を意味する。
【0066】
(1)後述するように、高湿度の状態において測定端子134の電圧を測定すると、一時的に電圧が低下する現象が観測された。この一時的な電圧低下に対応するために、同じタイミングで測定された電圧及び湿度の時系列データ中、高湿度(例えば70%RH以上)のときに測定された電圧の測定値を除外したデータを用いて塵埃堆積を判定する。電圧低下(例えば、測定電圧がしきい値Th3以下の状態)が一定期間(例えば1日)継続した場合に、塵埃堆積と判定する。塵埃堆積と判定された場合、例えば、クリーニングが必要である旨のメッセージを提示する。なお、同じタイミングとは、同時刻に限定されず、測定対象(電圧及び湿度)が一定であると考えられる範囲で時間差があってもよい。
【0067】
(2)一時的な電圧上昇に対応するために、発光部102の点灯状態及び消灯状態における測定端子134の電圧測定をほぼ同時に行い、発光部102の消灯状態の電圧が一定値以上であれば、対応する測定電圧(発光部102の点灯状態での電圧)を除外する。例えば、記憶部110に記憶しないことにより、塵埃堆積の判定に利用する時系列データ(電圧)に含まれないようにする。得られた時系列データ(電圧)を用いて、例えば(1)と同様に、電圧低下が一定期間継続した場合に、塵埃堆積と判定する。
【0068】
(3)一時的な電圧低下及び電圧上昇の両方に対応するために、過去一定期間(例えば2日間)の時系列データ(電圧)の移動中央値を用いて、塵埃堆積を判定する。中央値は、所定期間の時系列データを大きさの昇順に並べたときの中央に位置する値であり、移動中央値は、順序付けられた一連のデータ(時系列データ等)に関して、対象データを選択するウィンドウをスライドしながら決定された中央値を意味する。対象データの総数が奇数であれば中央値が1つに定まる。対象データの総数が偶数であれば、中央の2つの値の算術平均を中央値とする。
【0069】
(1)~(3)のいずれか、又は、それらを組合せて実施することにより、電圧の測定値から、一時的な電圧低下及び電圧上昇時の測定値(異常値)を排除することができる。異常値を排除して得られたデータを用いることにより、塵埃堆積の有無をより精確に判定できる。異常値を排除して得られたデータを用いて塵埃堆積量を推定すれば、より精確な推定値を得ることができる。
【0070】
上記の(1)~(3)の処理は、例えば、図16に示す処理により実現できる。図16に示したフローチャートは、図4のフローチャートにおいて、ステップ500~508を追加し、ステップ416及び418をステップ510で代替したものである。図16において、図4と同じ符号を付したステップは、図4と同じであるので、説明を繰返さない。図16に示した処理は、図15に示した制御部108が、予め記憶部110に記憶されている所定のプログラムを読出して実行することにより行われる。
【0071】
ステップ500において、制御部108は、発光部102が消灯した状態のまま、湿度検知部116により湿度を測定する。ステップ502において、制御部108は、現在の環境が高湿度であるか否か判定する。具体的には、制御部108は、ステップ500において測定された湿度が所定の値(例えば、70%RH)以上であるか否かを判定する。高湿度(湿度≧70%RH)でないと判定された場合、制御はステップ504に移行する。そうでなければ(高湿度であれば)、制御はステップ422に移行する。これにより、上記の(1)に示したように、高湿度の状態で測定された電圧値(ステップ408における測定電圧値)は、記憶部110に記憶されずに破棄される。
【0072】
ステップ504において、制御部108は、ステップ404(発光部102は消灯状態)で測定した電圧がしきい値Th3以上であるか否かを判定する。電圧≧Th3であると判定された場合、制御はステップ422に移行する。そうでなければ(電圧<Th3)、制御はステップ412に移行する。これにより、上記の(2)に示したように、ステップ408における測定電圧値は、一時的に上昇した異常値であるとして、記憶部110に記憶されずに破棄される。
【0073】
ステップ412~414により、ステップ408において測定された電圧値は、温度補正される。それに続き、ステップ506において、制御部108は、温度補正された電圧値を、時系列データとして記憶部110に記憶する。
【0074】
ステップ508において、制御部108は、塵埃堆積の有無を判定するか否かを判定する。予め所定の時刻を設定しておく、又は、所定の時間間隔を設定しておけば、ステップ402と同様に、制御部108は、タイマ112から現在時刻を取得して、塵埃堆積の有無を判定する時刻になっているか否かを判定できる。塵埃堆積の有無を判定する時刻になっていると判定された場合、制御はステップ510に移行する。そうでなければ、制御はステップ422に移行する。これにより、発光部102が点灯されて測定された測定端子134の電圧のうち、高湿度での測定値及び異常に高い測定値のいずれも含まない時系列データが記憶部110に記憶される。
【0075】
ステップ510において、制御部108は、記憶部110に記憶されている時系列データ(高湿度での測定値及び異常に高い測定値のいずれも含まない)を読出し、塵埃体積の有無を判定する。具体的には、制御部108は、直近の測定値が所定のしきい値Th4以下であるか否かを判定する。Th4以下である場合、塵埃が堆積していると判定する。塵埃が堆積していると判定された場合、ステップ420において、クリーニングが必要である旨のメッセージが提示される。塵埃が堆積していると判定されなかった場合、制御はステップ422に移行する。
【0076】
なお、ステップ510において、上記の(3)に示したように、過去一定期間(例えば2日間)の中央値を特定し、その値が所定のしきい値Th4以下であるか否かを判定してもよい。その場合、一時的な電圧低下及び電圧上昇時の測定値(異常値)を排除できるので、ステップ500~504はなくてもよい。
【0077】
また、ステップ510の代わりに、又は、ステップ510に加えて、関連する発明の実施の形態と同様に塵埃堆積量を推定し、その推定値を用いてクリーニングの要否を判定してもよい。その場合、一時的な電圧低下及び電圧上昇時の測定値(異常値)が排除されたデータを用いて、より精確に塵埃堆積量を推定できる。
【0078】
(第2の実施の形態)
電気設備の絶縁劣化の原因となる現象として、結露現象が知られている。第2の実施の形態はこれに対処するためのものである。図22を参照して、第2の実施の形態に係る結露リスク検出装置180は、関連する発明の実施の形態に係る塵埃堆積検出装置100(図1参照)と同じものである。結露リスク検出装置180の光検知系の構造的構成は図2と同じであり、その回路的構成は図3と同じである。したがって、以下においては、適宜図2及び図3の符号をも参照する。
【0079】
結露リスク検出装置180は、所定のタイミングで、測定端子134の電圧を測定し、その値を温度補正した後、塵埃の堆積量を推定して、その結果をしきい値Th2と比較して、クリーニングの要否を判定する。結露リスク検出装置180は、測定端子134の電圧を測定し、その値を温度補正した後、所定のしきい値Th3と比較し、塵埃堆積の有無を判定してもよい。
【0080】
通常、結露現象に対応するためには、相対湿度の監視によるリスク回避と、対策機器(除湿器及びスペースヒータ等)による環境改善とが実施される。結露リスク検出装置180を用いてフィールド試験を行った結果、ほぼ同様の相対湿度であっても、電気設備への空気循環量の差異により、結露し易い場合と、結露し難い場合とがあることが分かった。即ち、測定端子134の電圧測定において、長期的な塵埃堆積を示す電圧低下に加えて、相対湿度上昇時に反射板への結露による一時的な電圧低下が確認された。結露現象は絶縁物の絶縁低下につながる可能性があるため、本電圧低下も絶縁リスクとして評価できれば好ましい。
【0081】
フィールド試験においては、ほぼ同じ設置場所(ほぼ同じ環境)において、2種類の配電盤に、同じ構成の結露リスク検出装置を設置して試験を行った。一方の配電盤においては、強制的に配電盤内の換気を行い、他方の配電盤においては、強制的な換気は行わなかった。それぞれの配電盤を、強制換気の配電盤及び非強制換気の配電盤という。その結果、強制換気の配電盤の方が、電圧低下の頻度が高いことが観測された。即ち、一般的に結露リスクは相対湿度により評価されるが、同様の相対湿度の環境においても配電盤内への外気導入の度合いによって結露し易さが変動することが確認された。さらに、電圧低下は、絶縁物沿面の絶縁低下が顕著になる前に発生することが確認された。
【0082】
上記の知見に基づき、結露リスク検出装置180により測定された測定端子134の電圧値を用いて結露リスクを評価する方法を説明する。結露リスク検出装置180は、1回の測定値を用いて結露リスクを評価するのではなく、所定の期間にわたって測定値(電圧及び湿度)を時系列のデータとして記憶部110に記憶し、下記の第1~第3処理を順に実行することにより、結露リスクを評価する。測定された時系列データは、塵埃堆積程度(塵埃堆積量)の傾向(トレンド)を表すデータ(以下、トレンドデータともいう)である。
【0083】
第1処理: 測定されたトレンドデータ(以下、トレンドデータAという)から、塵埃堆積の進行状況の長期的な傾向を表すトレンドデータ(以下、トレンドデータBという)を生成する。具体的には、過去一定期間(例えば、2日間)の時系列データ(電圧)の移動中央値を求める。トレンドデータBにおいては、電圧の測定値から、一時的な電圧低下及び電圧上昇時の測定値(異常値)が排除されている。
【0084】
第2処理: トレンドデータAのうち測定時刻t(iは測定順に付した番号)の測定値をA(t)、トレンドデータBのうち測定時刻tの測定値をB(t)として、値A(t)及びB(t)の比R(A(t)/B(t))を、全ての測定時刻tについて算出する。なお、トレンドデータBは一連の移動中央値であるので、そのデータ数は、トレンドデータAのデータ数よりも小さい。したがって、全ての測定時刻tとは、B(t)が得られた全ての測定時刻tを意味する。比Rは、一時的な電圧低下及び電圧上昇時の測定値(異常値)を含むトレンドデータAの、一時的な電圧低下及び電圧上昇時の測定値(異常値)を排除したトレンドデータBに対する割合を表すので、一時的な電圧低下及び電圧上昇時には、それ以外のときの値とは大きく異なる値となる。そのうち、一時的な電圧低下時には、比Rは小さい値になる。
【0085】
第3処理: 比Rが、しきい値Th5以下(R≦Th5)である頻度を求め、得られた頻度に応じて結露リスクを評価する。しきい値Th5は、例えば0.9である。結露と乾燥を繰返す頻度が高ければ、汚損による絶縁低下及び微小放電発生のリスクが高く、トラッキング劣化に至り易い。したがって、結露リスクの指標(汚損によるトラッキング劣化に至る指標)として、電圧測定の総時間に対する電圧低下が発生した時間の割合(頻度)H(%)を用いる。頻度H≦0.01(%)であれば、1年間において結露する回数は2~3回以下であると考えられ、結露リスクは低いと判断する。なお、結露する回数は、上記のR≦Th5である回数ではなく、結露が継続された回数を意味する。通常、結露による電圧低下は数時間継続する。したがって、結露が継続された状態で複数回R≦Th5となるが、それらを1回と数える。頻度H≧0.1(%)であれば、1年間において結露する回数は10回以上であると考えられ、結露リスクは高いと判断する。
【0086】
0.01<H<0.1の範囲をも考慮して、例えば、下記の表1のように評価基準を設定できる。
【0087】
【表1】
【0088】
結露リスクの評価結果により、除湿器の導入の必要性を判断できる。結露リスクが低いと判定された場合、結露によるトラッキング劣化が発生する可能性は低く、除湿器等を導入する必要はないと判断できる。一方、結露リスクが高いと判定された場合、除湿器等を導入することが必要であると判断できる。除湿器等を導入した後、上記のように電圧の測定を行い、測定データに対して第1~第3処理を実行することにより、導入した除湿器等が有効に作用しているか否かを判定できる。
【0089】
なお、しきい値Th5は、0.9に限定されない。例えば、しきい値Th5を0.8以上0.95以下の値に設定してもよい。
【実施例0090】
以下に、関連する発明の実施の形態に関する実験結果を示す。図11に示した回路構成の光検知系を採用した光検知器3台を用い、模擬的な塵埃を用いて測定を行った。反射板(光反射部材)には、ステンレスSUS304のBA材(表面が鏡面に近い光沢をもつ仕上げ)を用い、発光部には、赤色発光(中心周波数630nm)のLEDを使用した。周囲温度約20℃の室内において、光検知器3台の各々を用いて、同じ試験を3回実施(合計9回実施)した。模擬的に堆積させる塵埃として、標準粉体である関東ローム層No.8を用いた。
【0091】
測定を実施する前に、第6変形例として示したように、光検知器3台において使用されている発光部102及び光検知部106のばらつき(特性のばらつき)による影響を抑制するための調整を行った。具体的には、光検知器3台に関して、塵埃未堆積状態(新品状態)における光検知部の測定端子134の電圧値が相互に同じになるように、光検知器3台の各々の可変抵抗300(図11参照)を調整した。
【0092】
実験結果を図12に示す。図12において、横軸は、塵埃(関東ローム層No.8)の堆積量(mg/cm)を表し、縦軸は測定端子134で測定された電圧(発生電圧)の相対値を表す。光検知器及び測定回数の組合せ毎の測定値を、異なる図形で表している。図12の上方に、プロットされた図形(測定値)に関する情報を示す。標記「光検知器Ni_j」のうち、Ni(i=1~3)は3台の光検知器の各々を表し、j(j=1~3)は測定回数を表す。
【0093】
図12にプロットされた測定結果から、反射板への塵埃堆積量の増加に伴い光検知部に到達する光量が減少することから、多少測定値にばらつきはあるが、塵埃堆積量と、光検知部に達する光によって測定端子134に生じる電圧(発生電圧)との間には相関があることが確認された。図12に示した曲線は、図12にプロットされた測定結果全体に関して、塵埃堆積量を発生電圧Vの対数関数の曲線(∝logV)に当てはめ、この曲線上の値と各々の測定値との差が最小となるようにパラメータを決定したものである。具体的には、次式を用いて、パラメータL、A及びVccを決定した。
D=-(L)-1・log{V/(A・Vcc)} ・・・(式3)
式3は、上記の式1において補正係数K=1としたものである。図12に示した曲線により塵埃堆積量と発生電圧との相関性が再現されており、式3を用いて塵埃堆積量を推定できることが分かる。
【実施例0094】
上記の実験と同じ3台の光検知器を用い、模擬的な塵埃として、性状の異なる粉体を用いて実験を行った。上記の実験と同じ試験環境において、上記の実験と同様に光量を調整し、発生電圧を測定した。模擬的な塵埃として、食用色素(赤、緑、こげ茶)を用いた。3台の光検知器の各々を用いて、3種類の粉体毎に試験を1回実施(合計9回実施)した。
【0095】
実験結果を図13及び図14に示す。図13及び図14において、横軸は、塵埃の堆積量(mg/cm)を表し、縦軸は測定端子134で測定された電圧(発生電圧)の相対値を表す。各図の上方に、プロットされた図形(測定値)に関する情報を示す。標記「光検知器Ni_j」のうち、Ni(i=1~3)は3台の光検知器の各々を表し、j(j=赤、緑、こげ茶)は模擬塵埃を表す。参考に、図12に示した測定結果に関して各堆積量における平均値を算出し、「関東ローム層No8」としてプロットしている。
【0096】
図13から、赤色色素を堆積させた場合、関東ローム層No.8と同等の反射率であることが確認された。このことから、赤色の塵埃に関しては、上記の実験結果により、パラメータが決定された上記の式3を用いて、堆積量を推定可能である。図13に示した曲線は、図12の曲線と同じものであり、塵埃堆積量と発生電圧との相関性が再現されていることが分かる。
【0097】
図14に示した緑色色素及びこげ茶色色素に関する測定値(発生電圧)は、同量の堆積量の条件で測定された図13に示した赤色色素の測定値よりも小さい。即ち、赤色色素は、反射率が比較的高く(以下、高反射率という)、緑色色素及びこげ茶色色素は、反射率が比較的低い(以下、低反射率という)。図14から、緑色色素を堆積させた場合の反射率と、こげ茶色色素を堆積させた場合の反射率とは、相互に同等であることが分かる。また、緑色色素及びこげ茶色色素の堆積量と発生電圧との相関性は、赤色色素及び関東ローム層No.8の堆積量と発生電圧との相関性と、同様であることが期待できる。しかし、関東ローム層No.8に比べて反射率が全体に低い。そのため、上記の実験結果により、パラメータが決定された上記の式3を用いて、低反射率の緑色又はこげ茶色の塵埃の堆積量を推定しても、精度は十分ではない(誤差が大きい)。
【0098】
このように、塵埃を、光源に対して反射率の高いグループ(赤色色素、関東ローム層No.8)と、反射率の低いグループ(緑色色素、こげ茶色色素)とに分類でき、グループ毎の反射率は同等であるといえる。高反射率のグループに関しては、式3を用いて塵埃の堆積量を推定できる。一方、低反射率の塵埃に関しては、式3を補正して、塵埃の堆積量を推定すればよい。したがって、例えば、補正係数Kを導入して、上記した式1を用いることにより、高反射率のグループの塵埃及び低反射率のグループの塵埃のいずれに関しても、塵埃の堆積量を推定可能である。例えば、図12図14に示した測定結果から、高反射率のグループの塵埃に関して、K=1として式1のパラメータを決定した場合、その同じパラメータとK=1.3とを用いた式1により、低反射率のグループの塵埃の堆積量を推定できることが確認できた。なお、補正係数Kは、塵埃の性状によって変化し、概ね0.5≦K≦3の範囲内の値とすればよい。
【0099】
実施例1及び実施例2に示した実験においては、反射板はステンレスSUS304を使用した。ステンレスを使用することにより、反射板の光沢(即ち反射率)を、良好な状態に長期間維持できる。また、表面仕上げは、BAに限らず、電解研磨されたものであってもよい。これにより、良好な反射率を安価に確保できる。また、上記したように発光部(LED)として、発光色が赤色のものを使用することにより、ステンレス反射板による反射率が良好であり、塵埃堆積に対する反射率低下のレスポンスも良好であり、塵埃堆積による反射率低下を速やかに検出できる。これらの光反射部材及び発光部は、容易に入手できる。
【実施例0100】
以下に、第1の実施の形態に関する実験結果を示し、本発明の有効性を示す。図15に示した塵埃堆積検出装置170を配電盤に設置して、2018年11月7日から2019年8月7日までの期間、実験を行った。
【0101】
10分毎に、発光部102を点灯させて測定端子134の電圧を測定した。その結果を図17に示す。図17の(a)の縦軸は測定電圧であり、(a)のグラフは測定電圧の長期的な傾向(トレンド)を示している。図17の(b)の縦軸は湿度であり、(b)のグラフは湿度のトレンドを示す。図17の(a)及び(b)の横軸は時間(月日)である。
【0102】
図17の(a)のグラフから、測定電圧は、長期的には低下トレンドであることが分かる。実験対象機器における塵埃堆積の状況を観察することにより、この長期的な低下トレンドは、塵埃堆積によるものであることが確認された。
【0103】
図17の(a)のグラフには、長期的なトレンドの外に、急峻な電圧変化(一時的な電圧低下及び電圧上昇)が見られる。同じタイミングで測定された(a)及び(b)の測定値を観察することにより、一時的な電圧低下のタイミングと、高湿度(80%RH以上)のタイミングはほぼ一致していることが確認された。一時的な電圧低下の原因は、光反射部材120が結露により曇り、反射率が低下したためと考えられる。一時的な電圧低下の持続時間は、概ね5時間以内であり、高湿度が維持された時間と概ね一致していることが確認された。
【0104】
一時的な電圧低下を排除するために、図17の(a)に示した時系列の電圧の測定データから、湿度が70%RH以上の状態で測定されたデータを除外した。以下、この処理を演算1という。演算1の結果を図18に示す。図18から分かるように、時系列の電圧の測定データから、一時的な電圧低下のデータが概ね除去されていることが分かる。但し、図18において、一部に一時的な電圧低下が見られる。これは、高湿度以外の原因によるものであり、例えば、浮遊塵埃が光路に一時的に入ったこと等が原因であると考えられる。
【0105】
一時的な電圧上昇を排除するために、塵埃堆積がない状態で、発光部102の消灯時に測定端子134の電圧を測定し、その測定電圧値よりも3%以上大きいデータを、図17の(a)に示した時系列の電圧の測定データから除去した。以下、この処理を演算2という。演算2の結果を図19に示す。図19から、時系列の電圧の測定データから、一時的な電圧上昇のデータが除去されていることが分かる。
【0106】
上記した演算1及び演算2により、一時的な電圧低下及び電圧上昇を排除できることが確認された。しかし、演算1及び演算2を実行するには、湿度の測定、及び、発光部102を消灯した状態での測定端子134の電圧測定が必要になり、測定項目が増え、処理が複雑になる。
【0107】
トレンドデータの詳細な観察から、高湿度に伴う一時的な電圧低下の継続時間は数時間程度であるという知見を得た。この知見に基づき、図17の(a)に示した時系列の電圧の測定データに対して演算2を実施した後のデータを用いて、1日間のデータの移動最高値を算出した。以下、この処理を演算3という。演算3の結果を図20に示す。図20から、演算3により、時系列の電圧の測定データから、一時的な電圧低下及び電圧上昇の影響を排除し、塵埃堆積の進行を示す長期的な電圧低下のトレンドを表すグラフが得られることが分かる。また、演算3により、湿度を測定する必要がなくなる。
【0108】
図17の(a)に示した時系列の電圧の測定データに対して、2日間のデータの移動中央値を算出した。以下、この処理を演算4という。演算4の結果を図21に示す。図21から、演算4により、時系列の電圧の測定データから、一時的な電圧低下及び電圧上昇の影響を排除し、塵埃堆積の進行を示す長期的な電圧低下のトレンドを表すグラフが得られることが分かる。演算4により、湿度の測定、及び、発光部102を消灯した状態での測定端子134の電圧測定のいずれも行う必要がない。
【0109】
移動最高値又は移動中央値を算出することにより、最初に測定してから最初に塵埃堆積を評価するまでに、1~2日程度の遅れが生じるが、塵埃堆積は長期間かかって進行するので支障はない。なお、最初に塵埃堆積を評価した後は、次の測定が行われる度に、塵埃堆積を評価可能になる。
【0110】
上記では、演算3において、1日間のデータの移動最高値を求め、演算4において、2日間のデータの移動中央値を算出する場合を説明したが、これに限定されない。時系列データから移動最高値を得るための対象データを選択するためのウィンドウは、0.5日以上5日以下であればよい。時系列データから移動中央値を得るための対象データを選択するためのウィンドウは、1日以上10日以下であればよい。
【0111】
上記では、塵埃堆積の検出に、移動最高値又は移動中央値を使用する場合を説明したが、これに限定されない。時系列の電圧の測定値から、一時的な電圧の変動を除去できる移動的に求められる値であればよい。例えば、移動最高値に代えて、対象データを大きい順に並べた場合にn番目(nは2~10のいずれかの整数値)の大きさの測定値を用いて、塵埃堆積の有無を検出してもよい。また、移動最高値に代えて、対象データを大きい順に並べた場合にn番目~m番目(nは2~10のいずれかの整数値であり、mは3~15のいずれかの整数値であり、且つn<m)の大きさの測定値の平均値を用いて、塵埃堆積の有無を検出してもよい。
【0112】
同様に、移動中央値に代えて、中央値付近の測定値を用いて、塵埃堆積の有無を検出してもよい。中央値付近の測定値とは、例えば、所定期間の時系列データを大きさの昇順に並べたとき、中央値よりもn番目(0番目を中央値として、nは1~10のいずれかの整数値)に大きい又は小さい測定値である。また、移動中央値に代えて、中央値付近の複数の測定値の平均値を用いて、塵埃堆積の有無を検出してもよい。中央値付近の複数の測定値とは、例えば、所定期間の時系列データを大きさの昇順に並べたとき、中央値と中央値付近の測定値とを含むn個(nは2~10のいずれかの整数値)の測定値である。
【実施例0113】
以下に、第2の実施の形態に関する実験結果を示し、本発明の有効性を示す。図22に示した結露リスク検出装置180を、強制換気の配電盤と非強制換気の配電盤とに設置して、2018年11月7日から2019年8月7日までの期間、実験を行った。
【0114】
10分毎に、発光部102を点灯させて測定端子134の電圧を測定した。その結果を図23に示す。図23の(a)及び(b)のいずれも、縦軸は測定電圧であり、横軸は時間(月日)である。図23の(a)のグラフは、強制換気の配電盤における測定電圧の長期的なトレンドを示している。図23の(b)のグラフは、非強制換気の配電盤における測定電圧の長期的なトレンドを示している。図23の(a)及び(b)のグラフにおいて、長期的な電圧低下のトレンド、一時的な電圧低下及び電圧上昇が見られる。長期的な電圧低下のトレンドは、塵埃堆積の進行が原因である。一時的な電圧低下は、光反射部材120の結露が原因である。一時的な電圧上昇は、配電盤のメンテナンス時等に扉を開けたことにより、外部の光が入射したことが原因である。
【0115】
図23の(a)及び(b)に示した時系列の電圧の測定データのそれぞれに対して、第1処理として上記したように、2日間のデータの移動中央値を算出した。その結果を図24に示す。図24の(a)及び(b)のグラフはそれぞれ、図23の(a)及び(b)を処理した結果である。図24から分かるように、時系列の電圧の測定データから、一時的な電圧低下及び電圧上昇の影響を排除し、塵埃堆積の進行を示す長期的な電圧低下のトレンドを表すグラフが得られた。
【0116】
図23の(a)及び(b)に示した時系列データと、図24の(a)及び(b)に示した時系列データとを用いて、第2処理として上記したように、比Rを算出した。その結果を図25に示す。図25の縦軸は、比Rを表す。図25の(a)のグラフは、図23の(a)及び図24の(a)を用いた結果であり、図25の(b)のグラフは、図23の(b)及び図24の(b)を用いた結果である。図25のグラフには、図23に見られた一時的な電圧上昇及び電圧低下(短期的な電圧変動)は見られるが、塵埃堆積に伴う長期的な電圧低下は見られない。したがって、第2処理により、測定端子134の電圧測定により得られた時系列の電圧の測定データから、長期的な電圧低下のトレンドを除去し、短期的な電圧変動のトレンドを導出できることが分かる。
【0117】
図25の(a)及び(b)に示した時系列データのそれぞれに対して、第3処理として上記したように、一時的な電圧低下の頻度を求めた。具体的には、電圧が一時的に90%以下に低下したことを検出するために、しきい値Th5=0.9とし、R<0.9であればF=1とし、R≧0.9であればF=0とした。その結果を図26に示す。図26の縦軸はFを表す。図26の(a)は、図25の(a)を用いた結果であり、図26の(b)は、図25の(b)を用いた結果である。
【0118】
図26の(a)から、強制換気の配電盤に関しては、20回程度電圧低下が発生していることが確認できる。一方、図26の(b)から、非強制換気の配電盤に関しては、1回だけ(2月4日)しか電圧低下が発生していない。1回当たりの電圧低下の継続時間を考慮して、電圧低下が発生した総時間を算出した結果、強制換気の配電盤に関しては1950分であり、上記の第3処理にしたがって算出した頻度Hは約0.5%であった。一方、非強制換気の配電盤に関しては、電圧低下が発生した総時間は20分であり、頻度Hは約0.005%であった。このことから、強制換気の配電盤の方が、結露リスクが高く、絶縁表面の結露と乾燥とを繰返す頻度が高いため、汚損による絶縁低下及び微小放電発生のリスクが高く、トラッキング劣化に至り易いことが分かる。
【実施例0119】
汚損による絶縁低下、微小放電発生及びトラッキング劣化に関する知見を得るための実験を行った。具体的には、結露リスク検出装置180を設置した環境(配電盤)に対して超音波加湿器により湿度を上昇させ、結露条件を満たすようにして、湿度、結露リスク検出装置180の測定端子134の電圧及び沿面シート抵抗を測定した。湿度検知部116には、最大測定湿度が95%RHである湿度センサを用いた。その結果を図27に示す。図27の(a)は、相対湿度の変化を表し、(b)は発生電圧(測定端子134の電圧)の変化を表し、(c)は、沿面シート抵抗の変化を表す。横軸の時間軸は、全て同じである。沿面シート抵抗は、配電盤内部に設置した模擬電極に電圧を印加して測定した。
【0120】
図27の(a)において、測定開始時刻t1において加湿器を作動させ、加湿を開始した。時刻t4において、明確な結露条件を満たしている。時刻t5において、加湿器を停止させた。図27の(a)及び(c)から、沿面シート抵抗は、相対湿度が明確な結露条件を満たす時刻t4から低下を開始している。したがって、沿面シート抵抗の測定によっては、結露が発生する前に、結露リスクを予測できない。
【0121】
一方、図27の(a)及び(b)から、相対湿度が明確な結露条件を満たす時刻t4よりも前に、時刻t2から電圧低下が開始していることが確認できる。また、相対湿度が明確な結露条件を満たす時刻t4よりも少し前(時刻t3)において、発生電圧が0.9に低下している。したがって、結露リスク検出装置180(図15参照)により、明確に結露が発生する前に結露リスクを検知できるので、フェールセーフの方向で状態を把握し、対策を実施できる。
【0122】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0123】
100、150、170 塵埃堆積検出装置
102、118 発光部
104 電源部
106 光検知部
108 制御部
110 記憶部
112 タイマ
114 温度検知部
116 湿度検知部
120、124、232 光反射部材
122、212 保持部材
130 LED
132 フォトトランジスタ
134 測定端子
140、142、144、146 端子
180 結露リスク検出装置
190 塵埃
200、230 光透過部材
214 支持部材
216 平坦部
300 可変抵抗
R1、R2、R3 抵抗
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図15
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