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特開2024-138446酸素吸収性樹脂組成物及びそれを含む酸素吸収性フィルム
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  • 特開-酸素吸収性樹脂組成物及びそれを含む酸素吸収性フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024138446
(43)【公開日】2024-10-08
(54)【発明の名称】酸素吸収性樹脂組成物及びそれを含む酸素吸収性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20241001BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20241001BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20241001BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20241001BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20241001BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20241001BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K5/092
C08K5/29
C08K5/098
C09J11/06
C09J175/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024111638
(22)【出願日】2024-07-11
(62)【分割の表示】P 2022180731の分割
【原出願日】2018-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】宮井 智弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】川合 佳史子
(72)【発明者】
【氏名】駒形 大樹
(57)【要約】
【課題】本発明は、ハンドリング時の失活を抑制して大気下でも安定して使用可能で、かつ簡便に酸素吸収反応を制御することが可能な酸素吸収性樹脂組成物、及びそれを含む酸素吸収性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、酸素吸収性樹脂と、遷移金属触媒と、同一分子内にカルボキシル基及びヒドロキシル基から選択される官能基を2つ以上有する酸化合物とを含む、酸素吸収性樹脂組成物に関し、好ましくは、前記酸化合物の25℃の希釈水溶液の酸解離定数(pKa)の少なくとも1つが3.7より低い、酸素吸収性樹脂組成物に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素吸収性樹脂と、遷移金属触媒と酸化合物とを含み
前記酸化合物が、シュウ酸、クエン酸及びグリコール酸からなる群から選択される1つ以上である、酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸素吸収性樹脂が炭素―炭素二重結合を有する、請求項1に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項3】
イソシアネート系硬化剤と請求項1又は2に記載の酸素吸収性樹脂組成物とを含む、酸素吸収性接着剤。
【請求項4】
フィルム基材と酸素吸収層とを含む積層構造の酸素吸収性フィルムであって、
酸素吸収層が、請求項1又は2に記載の酸素吸収性樹脂組成物又は請求項に記載の酸素吸収性接着剤を含む、酸素吸収性フィルム。
【請求項5】
酸素吸収性樹脂に、
遷移金属触媒及び酸化合物を添加することによって、前記酸素吸収性樹脂の酸素吸収反応を制御する方法であって、
前記酸化合物が、シュウ酸、クエン酸及びグリコール酸からなる群から選択される1つ以上である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度や湿度等を制御することにより酸素吸収反応をコントロール可能な酸素吸収性樹脂組成物及びそれを含む酸素吸収性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
飲料、食品及び医薬品の包装材料用途として様々な酸素吸収性樹脂材料が提案されている(例えば、特許文献1)。さらには、このような酸素吸収材性樹脂材料を用いた酸素吸収性接着剤樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。
しかしながら、このような酸素吸収性樹脂を用いた酸素吸収性包材は、大気下に曝露されると、直ちに酸化反応を開始するため、フィルム製造や製袋の工程においてハンドリングが難しく、曝露時間によってはフィルムが失活するという問題があった。例えば、酸素吸収性樹脂を用いた酸素吸収性包材の保存期間が長くなった場合においては、使用する段階で所望の酸素吸収能を発揮しえないことがあった。
例えば特許文献3においては、ハンドリング時の失活を抑制して酸素吸収能を向上させることを目的として、酸素吸収性樹脂層への酸化防止剤の配合が検討され、適量の酸化防止剤により、包材の酸素吸収量が増加し包材の変色も抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4978884号
【特許文献2】特許第5671802号
【特許文献3】特許第5862988号
【特許文献4】特許第4863042号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のように、酸素吸収性樹脂の酸素吸収能に着目し、酸素吸収反応自体をコントロールする方法も検討されている。
例えば特許文献4では、酸素吸収性樹脂を含む積層体に特定波長領域の紫外線を照射し、酸素吸収反応を発現させる方法が検討されているが、この方法は照射設備など特別な工程を必要とするため、製造コストがかかり生産性に劣るなどの課題がある。
本発明は、ハンドリング時の失活を抑制して大気下でも安定して使用可能で、かつ簡便に酸素吸収反応を制御することが可能な酸素吸収性樹脂組成物、及びそれを含む酸素吸収性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、酸素吸収能を発揮すべき場面まで酸素吸収反応が開始せず、任意のタイミングで簡便に酸素吸収反応を開始させることができる、酸素吸収トリガーを有する酸素吸収性樹脂及びそれを含む酸素吸収性フィルムの開発に焦点を当てた。本発明者らは鋭意研究の結果、酸素吸収性樹脂に遷移金属触媒、及び、特定の有機酸又は無機酸などの酸化合物を添加することによって、湿度等の外部環境条件の制御に連動して、当該酸素吸収性樹脂の酸素吸収能を制御できることを発見し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔7〕のように構成される。
〔1〕酸素吸収性樹脂と、遷移金属触媒と、同一分子内にカルボキシル基及びヒドロキシル基から選択される官能基を2つ以上有する酸化合物とを含む、酸素吸収性樹脂組成物。
〔2〕前記酸化合物の25℃の希釈水溶液の酸解離定数(pKa)の少なくとも1つが3.7より低い、前記〔1〕に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
〔3〕前記酸化合物が、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸及びリン酸からなる群から選択される1つ以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
〔4〕
前記酸素吸収性樹脂が、4-メチル-△3-テトラヒドロフタル酸、4-メチル-△3-テトラヒドロ無水フタル酸、cis-3-メチル-△4-テトラヒドロフタル酸、cis-3-メチル-△4-テトラヒドロ無水フタル酸、又はこれらの誘導体に由来する構造単位を有する酸素吸収性ポリエステル樹脂を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
〔5〕遷移金属触媒が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅から選択される遷移金属と有機酸とからなる遷移金属塩である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物。
〔6〕イソシアネート系硬化剤と前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物とを含む、酸素吸収性接着剤。
〔7〕フィルム基材と酸素吸収層とを含む積層構造の酸素吸収性フィルムであって、
酸素吸収層が、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物又は前記〔6〕に記載の酸素吸収性接着剤を含む、酸素吸収性フィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、製造コストに優れ、かつ簡便な方法で酸素吸収反応を制御できる酸素吸収トリガー機能を付与した酸素吸収性樹脂及びこれを含む酸素吸収性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の酸素吸収性樹脂組成物により得られる酸素吸収トリガーを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<酸素吸収性樹脂組成物>
本発明に係る酸素吸収性樹脂組成物は、少なくとも、酸素吸収性樹脂と、遷移金属触媒と、同一分子内にカルボキシル基及びヒドロキシル基から選択される官能基を2つ以上有する酸化合物とを含む。本発明の酸素吸収性フィルムにおいては、遷移金属触媒と特定の酸化合物の双方を導入することにより、遷移金属触媒活性や酸素吸収性樹脂自体の酸素吸収能を制御することができ、結果として、湿度依存性の酸素吸収反応を付与することができる。酸素吸収性樹脂組成物が固有で有する酸素吸収能を100%とした場合において、当該酸素吸収能を100%有する時点を0日とすると、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、周囲温度(22℃)で相対湿度(RH)が75%RH以下、より好ましくは60%RH以下、さらに好ましくは50%RH以下の環境下に置かれた場合、少なくとも1日程度、より好ましくは3日間、さらに好ましくは7日間、酸素吸収能を75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上残したまま酸素吸収を行なわないで保持できることを特徴とする。そして、本明細書における酸素吸収トリガー機能とは、当該酸素吸収性樹脂組成物を、周囲温度(22℃)で相対湿度(RH)が80%RH以上、より好ましくは85%RH以上、さらに好ましくは90%RH以上の環境下に置いたときに限って、酸素吸収反応速度が高まり、3日以内、より好ましくは1日以内に、酸素吸収能の40%以上、より好ましくは、50%以上、さらに好ましくは60%以上を発揮して酸素吸収を行う機能を意味する。ここで、本明細書においては、対応する酸素吸収性樹脂と遷移金属触媒のみを含む樹脂組成物(標準組成物とする)を、周囲温度(22℃)で湿度90%RHの環境下に7日間置いた場合の酸素吸収量を、酸素吸収性樹脂組成物が固有で有する100%の酸素吸収能と定義する。当該酸素吸収量は、例えば後述する本実施例において記載された方法によって測定することができる。
【0009】
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、上記特定の酸化合物を含有することによって40℃以下、かつ、相対湿度75%RH以下の環境下においては、遷移金属触媒の触媒活性を抑え、かつ/又は、酸素吸収性樹脂組成物の自動酸化反応を抑えることができると考えられる。したがって、例えば、当該酸化合物を含有しない場合には、周囲の温度や湿度に関係なく、酸素吸収は直ちに開始される。また、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、周囲環境の湿度が高まるにしたがって、遷移金属触媒の活性の抑制が行われなくなり、かつ、酸素吸収性樹脂組成物の自動酸化反応も活発になると考えられ、そして、周囲環境の湿度の上昇に伴い、酸素吸収速度は高くなり、かつ、周囲環境の温度の上昇に伴い、酸素吸収速度は高くなる。
前述の酸素吸収反応を組み合わせることにより、自動酸化反応を制御することができる。図1に例示するとおり、はじめ低湿度下で管理していたのち、任意のタイミングで高湿度環境に移行することで、速やかに酸素吸収反応を開始することができる。
【0010】
また、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、上記酸化合物を含有している場合において、波長200~400nmの紫外線波長領域を有する紫外線を少なくとも紫外線照射量300mJ/cm2以上の条件で照射した場合、酸素吸収反応速度が高まり、周囲温度(22℃)で相対湿度が75%RH以下の環境下でも3日以内、より好ましくは1日以内に、酸素吸収能の40%以上、より好ましくは、50%以上、さらに好ましくは60%以上を発揮して酸素吸収を行うことができる。すなわち、本明細書における酸素吸収トリガー機能とは、上記で定義したもののほかに、当該酸素吸収性樹脂組成物を、周囲温度(22℃)で相対湿度(RH)が75%RH以下の環境下に置いた場合であっても、波長200~400nmの紫外線波長領域を有する紫外線を少なくとも紫外線照射量300mJ/cm2以上の条件で照射したときに、酸素吸収反応速度が高まり、3日以内、より好ましくは1日以内に、酸素吸収能の40%以上、より好ましくは、50%以上、さらに好ましくは60%以上を発揮して酸素吸収を行う機能をも意味する。
そして、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、後述するように硬化剤をさらに含むことによって接着剤として使用することができるが、接着剤用途に限らず、塗料用途にも使用することができ、各種フィルム等のコーティング膜として塗工することができる。
以下、各成分について詳しく説明する。
【0011】
≪遷移金属触媒≫
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収反応を促進させることを主目的とする遷移金属触媒を含む。このような遷移金属触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、錫、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン等の遷移金属の、特に好ましくは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅の遷移金属の無機塩、有機塩或いは錯塩が挙げられる。より具体的には、遷移金属触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅から選択される遷移金属と有機酸とからなる遷移金属塩が挙げられる。特に酸素吸収性樹脂の酸素吸収反応を促進させ、酸素吸収性を高めるという観点から、遷移金属触媒は、マンガン、鉄、コバルトの有機酸塩が好ましく、特にコバルトの有機酸塩が好ましい。
酸素吸収性樹脂組成物中における遷移金属触媒の含有量は、金属換算量で、1ppm~1000ppmであり、好ましくは10ppm~500ppmであり、より好ましくは20ppm~300ppmである。酸素吸収性樹脂組成物中に遷移金属触媒が配合されない場合には、酸素吸収トリガー機能を付与できない。したがって、遷移金属触媒は、少なくとも金属換算量で1ppm含有することが必要である。また、酸素吸収性樹脂組成物中の遷移金属触媒の含有量が1000ppmよりも多いと、それに応じて酸化合物も多く添加する必要があり、場合によっては十分な酸素吸収トリガーの効果が得られないなどの恐れがある。
【0012】
≪酸化合物≫
本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収反応を低湿度環境下で抑制することを主目的とする、同一分子内にカルボキシル基及びヒドロキシル基から選択される官能基を2つ以上有する酸化合物を含有する。好ましくは、前記酸化合物の25℃の希釈水溶液の酸解離定数(pKa)の少なくとも1つが3.7より低く、より好ましくは3.0より低く、さらに好ましくは2.0より低い。当該酸解離定数が3.7以上である場合には、遷移金属触媒の触媒活性の抑制効果が弱くなることから、所望の酸素吸収反応の抑制作用が得られない恐れがある。また、本発明の酸化合物は、有機酸ではシュウ酸、クエン酸、フタル酸などの多価カルボン酸やグリコール酸、無機酸ではリン酸などが挙げられるが、酸解離定数が低く、遷移金属触媒と強い相互作用を示すことから、シュウ酸であることが特に好ましい。酸解離定数を比較する例として、例えば有機酸であれば、25℃環境下で、イオン強度が0.10mol/dm-3の希釈水溶液中において測定した酸解離定数を用いることができる。またリン酸など無機酸の場合は、25℃環境下で、支持電解質として塩化カリウムを用いた0.20mol/dm-3の希釈水溶液中において、測定した酸解離定数を用いて比較することができる。
【0013】
酸素吸収性樹脂組成物の酸化合物の含有量は、体積濃度として、10ppm~20000ppmであり、より好ましくは20ppm~1000ppmであり、さらに好ましくは50ppm~1000ppmである。遷移金属触媒量に対して酸化合物の添加量が十分でない場合、酸素吸収トリガーとして十分に機能しない恐れがあり、過剰に添加すると酸素吸収反応が阻害されるだけでトリガー効果が得られない恐れがある。
【0014】
≪酸素吸収性樹脂≫
本発明の酸素吸収性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂を主成分とする酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)を含むことが好ましい。また前記酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)は、酸素吸収反応を阻害しない範囲で、飽和ポリエステル樹脂(B)を含んでいてもよい。
【0015】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)は、酸素との反応性を有する官能基又は結合基を構造中に含むポリエステル樹脂である。酸素との反応性を有する官能基又は結合基として、例えば炭素-炭素二重結合基、アルデヒド基、フェノール性水酸基等が挙げられる。特に、炭素-炭素二重結合基を有するポリエステル樹脂が好ましく、不飽和脂環構造を有するポリエステル樹脂がより好ましい。不飽和脂環構造と酸素との反応においては、樹脂の自動酸化反応における副生成物である低分子量の分解成分の発生量が抑制されるため好ましい。不飽和脂環構造を有するポリエステル樹脂として、例えばテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を原料として用いたポリエステルが挙げられる。
テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体として特に好ましくは、4-メチル-△3-テトラヒドロフタル酸若しくは4-メチル-△3-テトラヒドロ無水フタル酸、cis-3-メチル-△4-テトラヒドロフタル酸若しくはcis-3-メチル-△4-テトラヒドロ無水フタル酸である。これらのテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、酸素との反応性が非常に高いため、酸素吸収性樹脂の原料として好適に使用できる。また、これらのテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は、イソプレンおよびトランス-ピペリレンを主成分とするナフサのC5留分を無水マレイン酸と反応させた4-メチル-△4-テトラヒドロ無水フタル酸を含む異性体混合物を、構造異性化することにより得ることができ、工業的に製造されている。
テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体を原料として酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)を重合する際、ジカルボン酸およびジカルボン酸無水物はメチルエステル等にエステル化されていてもよい。
【0016】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)は、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体とジオール成分との反応により製造することができる。ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2-フェニルプロパンジオール、2-(4―ヒドロキシフェニル)エチルアルコール、α,α―ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン、o-キシレングリコール、m-キシレングリコール、p-キシレングリコール、α,α―ジヒドロキシ-1,4-ジイソプロピルベンゼン、ヒドロキノン、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ナフタレンジオール、又はこれらの誘導体等が挙げられる。好ましくは、脂肪族ジオール、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオールであり、さらに好ましくは、1,4-ブタンジオールである。1,4-ブタンジオールを用いた場合は、樹脂の酸素吸収性能が高く、更に酸化の過程で生じる分解物の量も少ない。
これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)には、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体の他に、芳香族ジカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸など、他の酸成分及びその誘導体を原料として含んでもよい。
芳香族ジカルボン酸及びその誘導体としては、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのベンゼンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、スルホイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でもフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
脂肪族ジカルボン酸及びその誘導体としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3-ジメチルペンタン二酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらの中でも、アジピン酸、コハク酸が好ましく、特にコハク酸が好ましい。
また、脂環構造を有するヘキサヒドロフタル酸やダイマー酸およびその誘導体も挙げられる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘキサン酸、又はこれらの誘導体が挙げられる。
これらの酸成分は、例えばテレフタル酸ジメチルやビス-2-ヒドロキシジエチルテレフタレートのようにエステル化されていてもよい。また、無水フタル酸や無水コハク酸のように酸無水物であってもよい。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。前記他の酸成分を共重合させることによって、得られるポリエステルのガラス転移温度を容易に制御することができ、酸素吸収性能を向上させることができる。さらにはポリエステル樹脂の結晶性を制御することにより有機溶剤への溶解性を向上させることもできる。
また、テトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体は重合中の熱によりラジカル架橋反応を起こしやすいため、前記他の酸成分によってポリエステル中に含まれるテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体の組成比が減少すると、重合中のゲル化が抑制され高分子量の樹脂を安定的に得ることができる。
【0018】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)は、さらに多価アルコール、多価カルボン酸、又はそれらの誘導体等に由来する構造単位を含んでもよい。多価アルコール及び多価カルボン酸を導入し分岐構造を制御することにより、溶融粘度特性や溶媒に溶解したポリエステルの溶液粘度特性を調整できる。
多価アルコール及びその誘導体としては、1,2,3-プロパントリオール、ソルビトール、1,3,5-ペンタントリオール、1,5,8-ヘプタントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、3,5-ジヒドロキシベンジルアルコール、グリセリン又はこれらの誘導体が挙げられる。
多価カルボン酸及びその誘導体としては、1,2,3-プロパントリカルボン酸、メソ-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、又はこれらの誘導体が挙げられる。
また、多価アルコールや多価カルボン酸等の3官能以上の官能基を有する成分を共重合させる場合は全酸成分に対し5モル%以内にすることが好ましい。
【0019】
テトラヒドロフタル酸誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸誘導体と、1,4-ブタンジオールと、任意成分としてのコハク酸又は無水コハク酸とを共重合することにより得ることができるポリエステルは、酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)として好ましい。
この場合、酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)中に含まれるテトラヒドロフタル酸若しくはその誘導体又はテトラヒドロ無水フタル酸若しくはその誘導体に由来する構造単位は、全酸成分に対する割合の70~95モル%であり、好ましくは75~95モル%、より好ましくは80~95モル%である。また、コハク酸又は無水コハク酸に由来する構造単位は、全酸成分に対する割合の0~15モル%であり、好ましくは0~12.5モル%、より好ましくは0~10モル%である。このような組成比にすることにより、酸素吸収性能および接着性に優れ、かつ有機溶剤への溶解性に優れた酸素吸収性樹脂を得ることができる。
【0020】
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度は-20℃~10℃であり、好ましくは-15℃~6℃であり、より好ましくは-12℃~2℃である。ガラス転移温度をこのような範囲とすることで、十分な酸素吸収性能を得ることができる。
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)の酸価は、十分な酸素吸収性能を得るために、好ましくは5mgKOH/g以下であり、より好ましくは1mgKOH/g以下である。ポリエステルの酸価が5mgKOH/gを超える場合には、速やかな自動酸化反応が妨げられ、安定した酸素吸収性能が得られない場合がある。なお、酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)の酸価の測定方法はJIS K 0070に準ずる。
酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)は、単独で用いてもよく、また2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
飽和ポリエステル樹脂(B)は、実質的に炭素-炭素二重結合基を含まないポリエステル樹脂であって、例えば、ジカルボン酸成分とジオール成分、ヒドロキシカルボン酸成分の重縮合によって得ることができる。飽和ポリエステル樹脂(B)は、好ましくはヨウ素価が3g/100g以下のポリエステル、特に1g/100g以下のポリエステルである。なお、ヨウ素価の測定方法はJIS K 0070に準ずる。飽和ポリエステル樹脂(B)のヨウ素価が3g/100gを超える場合には、酸素吸収性樹脂組成物の酸素吸収反応に伴い低分子量の分解成分が生じ易くなるため好ましくない。
ジカルボン酸成分としては、上述の酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)の成分として記載した脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ダイマー酸、又はこれらの誘導体等が挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
ジオール成分としては、上述の酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)の成分として記載したジオールが挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。
ヒドロキシカルボン酸成分としては、酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)の成分として記載した脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
飽和ポリエステル樹脂(B)の末端官能基が水酸基である場合には、イソシアネート系硬化剤等の硬化剤により酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)とともに硬化が進行し、後述するような接着剤として用いる場合の凝集力が高くなるため好ましい。また、n-ブタノールや2-エチルヘキサノール等のモノアルコール、脂肪酸等により飽和ポリエステル樹脂(B)をアルキル基末端変性することも好ましい。
飽和ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度は-10℃以下であり、好ましくは-70℃~-15℃であり、より好ましくは-60℃~-20℃である。ガラス転移温度をこのような範囲とすることで、酸素吸収に伴う酸化硬化反応によって生ずる内部応力を効果的に緩和することができる。
【0022】
酸素吸収性樹脂組成物として好適な態様は、ガラス転移温度が-20℃~10℃の酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)とガラス転移温度が-10℃以下の飽和ポリエステル樹脂(B)を含む組成物である。
本発明で使用する酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)及び飽和ポリエステル樹脂(B)は当業者に公知の任意のポリエステルの重縮合方法により得ることができる。例えば、界面重縮合、溶液重縮合、溶融重縮合及び固相重縮合である。
本発明で使用する酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)及び飽和ポリエステル樹脂(B)を合成する場合に、重合触媒は必ずしも必要としないが、例えばチタン系、ゲルマニウム系、アンチモン系、スズ系、アルミニウム系等の通常のポリエステル重合触媒が使用可能である。また、含窒素塩基性化合物、ホウ酸及びホウ酸エステル、有機スルホン酸系化合物等の公知の重合触媒を使用することもできる。
さらに、重合の際には、リン化合物等の着色防止剤や酸化防止剤等の各種添加剤を添加することもできる。酸化防止剤を添加することにより、重合中やその後の加工中の酸素吸収を抑制できるため、酸素吸収性樹脂の性能低下やゲル化を抑えることができる。
本発明で使用する酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)の数平均分子量は、好ましくは500~100000であり、より好ましくは2000~10000である。また、好ましい重量平均分子量は5000~200000、より好ましくは10000~100000であり、さらに好ましくは20000~70000である。分子量が上記の範囲より低い場合は樹脂の凝集力すなわち耐クリープ性が低下し、高い場合は有機溶剤への溶解性の低下や溶液粘度の上昇による塗工性の低下が生じるため好ましくない。
飽和ポリエステル樹脂(B)の数平均分子量は、好ましくは500~100000であり、より好ましくは500~10000である。また、好ましい重量平均分子量は1000~100000、より好ましくは1000~70000であり、さらに好ましくは1000~50000である。分子量が上記の範囲より低い場合は凝集力が著しく低下し、高い場合は酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)との相溶性低下や溶液粘度上昇による塗工性の低下が生じるため好ましくない。酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)及び飽和ポリエステル樹脂(B)がそれぞれ上記範囲内の分子量の場合には、凝集力、接着性及び有機溶剤への溶解性に優れ、後述するような接着剤溶液として好適な粘度特性を有する酸素吸収性接着剤を得ることができる。
【0023】
<酸素吸収性接着剤>
本発明の酸素吸収性樹脂は、さらに硬化剤を含むことで酸素吸収性接着剤として用いることができる。接着剤としては、例えば、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、エチレン-酢酸ビニル系接着剤、塩化ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤、ゴム系接着剤等に酸素吸収機能を付与したものが挙げられる。特に、ドライラミネート用接着剤として用いる場合にはウレタン系接着剤が好ましく、酸素吸収性ポリエステル系主剤とイソシアネート系硬化剤を組み合わせた2液硬化型ウレタン系接着剤がより好ましい。
【0024】
酸素吸収性接着剤又は後述する酸素吸収性フィルムの酸素吸収性接着剤層中の、酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)と飽和ポリエステル樹脂(B)の比率A/Bは、好ましくは0.6~9であり、より好ましくは1~9であり、さらに好ましくは2~9である。比率A/Bをこのような範囲とすることにより、優れた酸素吸収性能を発現しつつ、酸素吸収前後にわたって強いラミネート強度を維持することができる。
【0025】
酸素吸収性接着剤は、脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート系硬化剤などのイソシアネート系硬化剤を配合し、硬化していることが好ましく、後述する本発明の酸素吸収性フィルムの酸素吸収性接着剤層は、好ましくは酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)と飽和ポリエステル樹脂(B)からなる主剤に脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート系硬化剤などのイソシアネート系硬化剤を配合して、硬化した酸素吸収性接着剤を含む。イソシアネート系硬化剤を配合した場合、接着強度及び凝集力が高くなり、また、室温付近の低温でキュアが可能となる。脂肪族イソシアネート系硬化剤としては、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート等が挙げられる。脂環族イソシアネート系硬化剤としては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート等が挙げられる。これらの中でも、脂肪族イソシアネート系硬化剤としては、XDI及びHDIが好ましく、脂環族イソシアネート系硬化剤としては、IPDIが好ましい。特に好ましくはXDIである。XDIを使用することにより、本発明の酸素吸収性接着剤又は後述する酸素吸収性フィルムの酸素吸収性接着剤層は最も優れた酸素吸収性能を発揮する。また、IPDIとXDI、IPDIとHDI等を組み合わせて使用することも好ましい。芳香族イソシアネート系硬化剤を使用することもできるが、芳香族イソシアネート系硬化剤は樹脂の接着性及び凝集力を向上させるものの、酸素吸収性能を低下させることがあるため好ましくない。この理由として、芳香族イソシアネート系硬化剤が、主剤であるポリエステル末端の水酸基と反応して形成された芳香族ウレタン部位が、酸化防止剤である芳香族アミンと同様の働きで、ラジカルを失活/安定化させるためであることが考えられる。
【0026】
これらのイソシアネート系硬化剤は、アダクトやイソシアヌレート、ビュレット体等、分子量を増大させたポリイソシアネート化合物として使用されることが好ましい。
また、これらのイソシアネート系硬化剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
イソシアネート系硬化剤成分は、主剤である酸素吸収性樹脂に対して、固形分重量部で3phr~30phr添加することが好ましく、より好ましくは3phr~20phr、さらに好ましくは3phr~15phrである。添加量が少なすぎると、接着性及び凝集力が不十分となり、多すぎると、樹脂組成物単位重量中に含まれる酸素吸収成分の配合量が少なくなり、酸素吸収性能が不十分となる。また、硬化により樹脂の運動性が著しく低下した場合、酸素吸収反応が進行しにくくなり、酸素吸収性能は低下する。
【0027】
本発明の酸素吸収性接着剤の一態様は、ガラス転移温度が単一であり、かつ、-2℃以下となるものである。この場合、酸素吸収に伴う酸化硬化反応によって生ずる内部応力を効果的に緩和すると共に、十分な透明性を確保することができる。単一のガラス転移温度は、より好ましくは-50℃~-2℃であり、さらに好ましくは-20℃~-2℃である。
【0028】
酸素吸収性接着剤は、有機溶剤等の溶媒を含有することが好ましい。溶媒としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、イソプロパノールなどが挙げられる。特に、酢酸エチルは残留溶剤を原因とする異臭トラブルが比較的少ないことから、軟包装のドライラミネート用接着剤の溶媒として一般的であり、産業応用を考慮するとトルエンやキシレン等を含有しない酢酸エチル単一溶剤を本発明の溶媒として用いることが好ましい。
本発明の酸素吸収性接着剤又は後述する酸素吸収性フィルムの酸素吸収性接着剤層には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じてシランカップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤、防カビ剤、硬化触媒、増粘剤、可塑剤、顔料、充填剤、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の各種添加剤を添加することができる。
【0029】
<酸素吸収性フィルム>
本発明の酸素吸収性フィルムは、フィルム基材と酸素吸収層とを含む積層構造の酸素吸収性フィルムであって、酸素吸収層が、上述した酸素吸収性樹脂組成物、又は酸素吸収性接着剤を含む。
本発明の酸素吸収性接着剤は、例えば、酸素吸収性フィルムの酸素吸収層を構成する酸素吸収性接着剤層として、通常のドライラミネート用接着剤と同様に複数のフィルム基材を積層する目的で使用することができる。特に、酸素バリア性を有するフィルム基材と、ヒートシール性及び酸素ガス透過性を有するシーラントフィルムの積層に好適に使用できる。この場合、外層側から酸素バリア基材層/酸素吸収性接着剤層/シーラント層の積層構成となり、外部から透過進入する酸素を酸素バリア基材により遮断することにより、容器外酸素による酸素吸収性能の低下を抑えると共に、酸素吸収性接着剤が酸素透過性シーラントフィルムを介して容器内部の酸素を速やかに吸収できるため好ましい。
酸素バリア性を有するフィルム基材及びシーラントフィルムはそれぞれ単層でも積層体でもよい。酸素バリア性を有するフィルム基材としては、バリア層としてシリカ、アルミナ等の金属酸化物或いは金属の蒸着薄膜や、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸系樹脂或いは塩化ビニリデン系樹脂等のガスバリア性有機材料を主剤とするバリアコーティング層を有する二軸延伸PETフィルム、二軸延伸ポリアミドフィルム或いは二軸延伸ポリプロピレンフィルム等を好適に使用できる。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリメタキシリレンアジパミドフィルム、ポリ塩化ビニリデン系フィルムやアルミ箔等の金属箔も好ましい。これらの酸素バリア性を有するフィルム基材は、同種基材や2種以上の異種基材を積層して使用することもでき、また、二軸延伸PETフィルム、二軸延伸ポリアミドフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、セロファン、紙等を積層して使用することも好ましい。
【0030】
シーラントフィルムの材料としては低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、環状オレフィン重合体、環状オレフィン共重合体、或いはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン同士のランダム又はブロック共重合体等のポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やそのイオン架橋物(アイオノマー)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体等のエチレン-ビニル化合物共重合体、ヒートシール性を有するPET、A-PET、PETG、PBT等のポリエステルやアモルファスナイロン等を好適に使用できる。これらは二種以上の材料をブレンドして使用することもでき、同種材料や異種材料を積層して用いることもできる。
【0031】
本発明の酸素吸収性接着剤を用いて複数のフィルム基材をラミネートする際、公知のドライラミネーターを使用することができる。ドライラミネーターにより、酸素吸収性接着剤のバリアフィルム基材への塗布、乾燥オーブンによる溶剤揮散、50~120℃に加温したニップロールでのシーラントフィルムとの貼り合わせの一連のラミネート工程を実施することができる。酸素吸収性接着剤の塗布量は、固形分で0.1~30g/m2、好ましくは1~15g/m2であり、さらに好ましくは2~10g/m2である。酸素吸収性接着剤を用いてラミネートされた酸素吸収性積層フィルムは、室温付近の温度、例えば10~60℃で硬化反応を進めるためにエージング(キュア)することも好ましい。硬化は主にイソシアネート系硬化剤による架橋反応によるものであり、硬化により接着強度や凝集力が向上するため好ましい。なお、エージングは、酸素吸収性積層フィルムを、例えば酸素不透過性の袋等で密封することにより、酸素不在下若しくは酸素遮断下で行うのが好ましい。このようにすることにより、エージング中における空気中の酸素による酸素吸収性能の低下を抑制することができる。
また、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、溶剤に溶解させることなく、無溶剤型接着剤として使用することもできる。この場合、公知のノンソルラミネーターを用いて酸素吸収性積層フィルムを得ることができる。
【0032】
本発明の酸素吸収性フィルム及び酸素吸収性樹脂組成物には、必要に応じて光線の照射処理を施すことができる。光線としては、一般的に使用される紫外線照射装置や、電子線照射装置を利用することができる。光線を照射する形態として、ラミネートフィルム、袋状容器、蓋材、内容物を充填した後の包装袋などが挙げられる。
【0033】
本発明の酸素吸収性フィルムは、種々の形態の袋状容器や、カップ・トレイ容器の蓋材に好適に使用できる。袋状容器としては、三方又は四方シールの平パウチ類、ガセット付パウチ類、スタンディングパウチ類、ピロー包装袋等が挙げられる。
酸素吸収性フィルムを少なくとも一部に用いた酸素吸収性容器は、容器外部から透過する酸素を有効に遮断し、容器内に残存した酸素を吸収する。そのため、容器内の酸素濃度を長期間低いレベルに保ち、内容物の酸素が係わる品質低下を防止し、シェルフライフを向上させる容器として有用である。
特に、酸素存在下で劣化しやすい内容品として、例えば、食品ではコーヒー豆、茶葉、スナック類、米菓、生・半生菓子、果物、ナッツ、野菜、魚・肉製品、練り製品、干物、薫製、佃煮、生米、米飯類、幼児食品、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、乳製品等、飲料ではビール、ワイン、フルーツジュース、緑茶、コーヒー等、その他では医薬品、化粧品、電子部品等が挙げられるが、これらの例に限定されない。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。各値は以下の方法により、測定した。
(1)数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布指数(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー社製;HLC-8320型GPC)により、ポリスチレン換算で測定した。溶媒にはクロロホルムを使用した。
(2)酸素吸収量
2cm×15cmに切り出した積層フィルム試験片を、内容積85cm3の酸素不透過性のスチール箔積層カップに仕込んで、アルミ箔積層フィルム蓋でヒートシール密封し、22℃雰囲気下にて保存した。その後、表1記載の経時日数保存後、カップ内の酸素濃度をマイクロガスクロマトグラフ装置(島津製作所製;GC-2014AT)にて測定し、フィルム1cm2当たりの酸素吸収量を算出した。
酸素吸収反応の湿度依存性については、比較例1の22℃-90%RH(relative humidity:相対湿度)、7日間保管後の酸素吸収量(0.038cc/cm2)を対照として使用した。本実施例1~6については、表1に記載の経時日数保管後のサンプルの酸素吸収量が、22℃-90%RHの場合に、対照の50%以上であり、22℃-50%RHの場合に、対照の50%以下であるものを良好な湿度依存性を有している(○)として評価した。比較例1~3においては、それぞれの比較例における22℃-90%RH、7日間保管後の酸素吸収量に対して、22℃-50%RH、7日間保管後の酸素吸収量が50%を超えているか場合に湿度依存性を有さない(×)として評価した。
酸素吸収反応のトリガー機能については、湿度の変更から3日経過後の酸素吸収量が、比較例1における22℃-90%RH下7日保管時の酸素吸収量(0.038cc/cm2)に対し、50%以上であるものを、良好なトリガー機能を有している(○)として判断し、50%未満のものはトリガー機能を有さない(×)として判断した。
【0035】
(実施例1)
酸成分としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸異性体混合物(日立化成;HN-2200)をモル比0.9、その他酸成分として無水コハク酸をモル比0.1、ジオール成分として1,4-ブタンジオールをモル比1.3、重合触媒としてイソプロピルチタナートを300ppm仕込み、窒素雰囲気中150℃~200℃で生成する水を除きながら約6時間反応させた。引き続いて0.1kPaの減圧下、200~220℃で約3時間重合を行い、酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)を得た。このときMnは4800で、Mwは57200、Tgは-5.0℃であった。
得られた酸素吸収性ポリエステル系樹脂(A)に、Tg-26℃の飽和ポリエステル樹脂(B1)(ポリサイザーW4010 DIC社製 Mn:3600 Mw:9500)を固形分重量比A/B1が2.3となるように混合し、その混合物の固形分に対してイソシアネート系硬化剤として、固形分換算で7phr(parts per hundred resin)となるようにHDI/IPDI系硬化剤(KL-75 DICグラフィックス社製)を混合し、さらに触媒として、ネオデカン酸コバルトを固形分に対する金属換算量で80ppmになるように添加し、酸化合物としてシュウ酸を240ppmを添加し、酢酸エチルに溶解して、固形分濃度20wt%の酸素吸収性接着剤(a)溶液を、透明蒸着PETフィルム(GL-AE 凸版印刷社製;膜厚13μm)、のバリアコーティング面に#15のバーコーターで塗布した。ヘアドライヤーの温風にて溶剤を揮発させた後、積層フィルムの接着剤塗布面と、40μmLDPEフィルムのコロナ処理(放電量25W・min/m2)面を対向させて50℃の熱ロールに通し、透明蒸着PETフィルム(膜厚13μm)/酸素吸収性接着剤(a)(膜厚4μm)/LDPE(膜厚40μm)からなる酸素吸収性積層フィルムを得た。
得られた酸素吸収性積層フィルムを、35℃窒素雰囲気下で5日間キュアした後、酸素吸収量の評価をした。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、酸化合物をクエン酸とする以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0037】
(実施例3)
実施例1において、酸化合物をクエン酸とし、濃度を960ppmとし、経時日数を9日にする以外は、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例4)
実施例1において、酸化合物をグリコール酸とし、経時日数を1日にする以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例5)
実施例1において、酸化合物をリン酸とし、経時日数を8日にする以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例6)
実施例1において、触媒をヘプタン酸鉄とし、経時日数を14日にする以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
実施例1において、酸化合物を配合しないこと以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
実施例1において、酸化合物を酢酸とすること以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0043】
(比較例3)
実施例1において、酸化合物をドデシルベンゼンスルホン酸とする以外は、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の結果から、本発明において酸化合物を含むことによって、湿度に依存して酸素吸収量が変化することが示された。
【0046】
(実施例7)
実施例1で得られた酸素吸収性積層フィルムを、22℃-50%RH下(大気下)で1日放置した後、実施例1と同様の方法で、22℃-90%RH条件下で3日間保管した後の酸素吸収量を評価した。結果を表2に示す。
【0047】
(実施例8)
実施例1で得られた酸素吸収性積層フィルムを、22℃-50%RH下(大気下)で4日放置した後、実施例1と同様の方法で、22℃-90%RH条件下で3日間保管した後の酸素吸収量を評価した。結果を表2に示す。
【0048】
(実施例9)
実施例1で得られた酸素吸収性積層フィルムを、22℃-50%RH下(大気下)で7日放置した後、実施例1と同様の方法で、22℃-90%RH条件下で3日間保管した後の酸素吸収量を評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表1の結果から、実施例1の酸素吸収性接着剤における22℃-50%RH下(大気下)で7日放置した場合の酸素吸収能は、0.004cc/cm2であることに照らすと、表2の結果から、本発明の酸素吸収性接着剤は、湿度の変化に応じて酸素吸収量を変化させることができることが示された。
【0051】
(実施例10)
実施例1で得られた酸素吸収性積層フィルムのLDPE面側に、紫外線(メタルハライド光源の紫外線照射装置(ピーク波長370nm))を照射量300mJ/cm2で照射した後、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表3に示す。
【0052】
(実施例11)
実施例1で得られた酸素吸収性積層フィルムのLDPE面側に、紫外線を照射量600mJ/cm2で照射した後、実施例1と同様にして評価をおこなった。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
表3の結果から、本発明の酸素吸収性積層フィルムは、22℃-50%RH下の環境下で放置し続ける場合であっても、紫外線照射によって酸素吸収能を制御(向上)できることが分かった(表1の結果から、本発明の酸素吸収性積層フィルムは、紫外線照射がなければ22℃-50%RH下の環境下に7日間放置した場合であっても、酸素吸収量は0.004cc/cm2程度であったことから、紫外線照射による効果は明らかである)。
【0054】
(実施例12)
表1の実施例1で用いたサンプルと同様のフィルムを用い、低湿度条件(22℃-0%RH)から、高湿度条件(22℃-90%RH)に移行した場合の継時的な酸素吸収能の変化を測定した。結果、図1の通り湿度に依存した酸素吸収反応を示した。図1の結果から、本発明の酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収トリガーを示すことが明確に示された。
図1